サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

ブログ:バイデン政権、気候変動対策強化〜「キーストーンXL」パイプライン認可取り消しで高まるメガバンクの政治リスク〜(2021/1/29)

責任ある金融 シニア・キャンペーナー ハナ・ハイネケン

写 真 : Kayana Szymczak; Bonnie Chan / RAN

1月20日、ジョー・バイデン氏が米大統領に就任した。就任直後にパリ協定に復帰し、「キーストーンXL」パイプライン建設認可の取り消し、そして北極圏国立野生生物保護区における石油・ガス鉱区のリース権発行を停止した。アメリカの気候危機対策強化の始まりだ。就任から1週間がたった27日には、気候変動を「国家安全保障と外交政策の中心」とする考えのもと、複数の大統領令に署名した。

実は、このような動きは日本のメガバンクに大きな影響を及ぼす。なぜならば、3メガは「キーストーンXL」パイプラインをはじめとするアメリカの化石燃料産業に膨大な資金を提供しているからだ。

メガバンクが支える化石燃料産業

レインフォレスト・アクション・ネットワーク他が行った調査によれば、3メガは世界の化石燃料産業、そしてアメリカでの石油・ガス開発や輸送等のインフラ建設を大きく支えている。

●2015年12月に採択されたパリ協定以降、3メガは化石燃料産業に計約2,814億ドルの融資・引受を2016年から2019年の間に提供した。そして、この資金の約3分の1は化石燃料事業を拡大している上位100社の企業に提供された。邦銀では三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の資金提供額が最も大きく、世界では6位だった。みずほフィナンシャルグループは9位、SMBCグループは20位だ。

●バイデン政権が就任初日にブレーキをかけたオイルサンドと北極圏の石油・ガス産業では、3メガはトップ30の事業社、そして関連するパイプライン企業に合計でそれぞれ約13億ドル、約18億ドルの融資・引受を同期間に提供した。邦銀ではMUFGが最大の資金提供者だった。

●3メガは、アメリカのシェールガス産業の上位40社に計384億ドルの融資・引受を同期間に提供した。ここでも邦銀ではMUFGが最大の資金提供者である。シェールガス産業は気候危機を悪化させているメタン排出の要因の一つで、パイプラインなどの設備から漏れ出すメタンが問題視されている。

写 真 : Jiri Rezac / G R E E N P E A C E

「キーストーンXL」パイプライン建設の取り消し、高まる政治リスクとESGリスク

赤:「キーストーンXL」パイプライン(TCエナジー社:停止)、オレンジ:「ライン3」パイプライン(エンブリッジ 社)、青:トランス・マウンテン(当初はキンダー・モルガンが計画、2019年にカナダ連邦政府へ売却)、黒:アルバータ油田、フロンティア採掘事業(テック・リソーシズ:停止) 出典www.ran.org/funding_tar_sands/

「キーストーンXL」パイプライン(赤線)はTCエナジー社(旧トランス・カナダ社)が計画する、カナダ・アルバータ州のオイルサンド油田から米国ネブラスカ州を通り、メキシコ湾岸の製油所を結ぶ長さ1,179マイルのパイプラインだ。

日量83万バレルの石油を輸送し、年間二酸化炭素排出量は新規石炭火力発電所50基分に相当する影響を及ぼすといわれている。先住民族の権利や水環境、気候に深刻な影響を及ぼす事業で、10年以上もの間、先住民族、牧場主や農家、環境保護活動家、若者など様々な人々が建設に抗議してきた。ESG(環境、社会、企業統治)リスク、特に気候リスク、先住民族の権利侵害リスク、原油流出事故リスク、評判リスクなどが高いことが指摘されてきた。

また、この事業は政権の気候変動対策によって対応が変わり、事業の先行きが不透明になることから政治リスクも高い。2015年11月、 オバマ大統領は気候変動問題を理由にこの事業を却下したが、2017年にトランプ前大統領の元で復活。今回の取り消しの主な理由も気候変動問題だった。

MUFGをはじめ日本の3メガバンクは、このパイプライン事業の建設企業であるTCエナジー社を融資と引受で支えてきた。MUFGの同社への石燃料関連融資・引受額は6億2500万ドル(2016年〜2020年9月末)で、世界9位、邦銀では最多である。MUFGは2020年12月時点で3件の融資に参加し、社債発行1件の引受銀行であった。

今回の認可取り消しによってTCエナジー社は建設を中止したため、メガバンクの資金は座礁資産になったのではないだろうか?

写 真 : Joe P. Dick/ Shooting Stars Inc.

次の課題:「ライン3」パイプライン

気候変動及び先住民族権利問題の観点でキーストーンXLと同じく深刻であることから、「ライン3」オイルサンド・パイプライン(オレンジの線)の取り消しが次の重要課題である。

 写 真 : March on Enbridge

エンブリッジ社が建設している「ライン3」パイプラインは、既存のパイプラインを直径の大きいパイプに交換し、カナダのアルバータ州からミネソタ州経由でウィスコンシン州まで、日量76万バレルのオイルサンド原油輸送を計画している。

既存のライン3を安全に廃止することなく現場に放置し、昨年12月からミネソタ州での建設が始まったが、原油流出事故のリスクや先住民族の権利侵害リスク、法的リスクや評判リスクが非常に高い。特に先住民族の反対は激しく、ホワイトアース族とレッドレイク族居留地の部族が主導して3部族が訴訟を起こした。建設現場で逮捕されるなど、今も激しい抵抗が続いている。

また、建設労働者の大半を男性が占めるため、「男のキャンプ(man camps)」と呼ばれる労働者向け仮設住宅が建てられ、先住民族の女性への暴力や人身売買にもつながっていることが問題視されている。加えて、労働者による新型コロナウイルスの感染拡大リスクも指摘されている。

「ライン3」パイプライン事業にも3メガは関与し、このプロジェクトでもMUFGの資金提供額は邦銀で最も多い。エンブリッジ社へのMUFGの化石燃料関連融資・引受額(2016年~2020年9月30日)は26.8億ドル。そのうち、2021年に満期を迎える総額18億ドルの融資1件の主幹事銀行、融資他5件の参加銀行、そして社債発行1件の主幹事会社の役割を担っている。

動画:The Years Porject 「エンブリッジ 社『ライン3』パイプライン事業が全ての人に悪い理由(Why Enbridge’s Line 3 Pipeline Project Is Bad for Everyone)」(2021年1月29日公開)

メガバンクに求められること

3メガは、北米パイプライン事業で上記のような重大リスクを抱えていることは一切開示していない。また残念ながら、日本ではほとんど知られていない。

3メガは気候変動対策に真剣に取り組むのであれば、このような問題に目を向け、エンブリッジ社とTCエナジー社との関係を断ち切り、先住民族の権利を尊重していない事業や企業、そしてオイルサンド生産拡大事業とそれを進める企業への資金提供を直ちに停止することが必要だ。

化石燃料全体への支援の段階的廃止に向けた第一歩として、インフラ事業も含めオイルサンド部門全体との取引の段階的廃止を約束することが求められる。

写 真 : Kayana Szymczak; Bonnie Chan / RAN

参考:RANブリーフィングペーパー『北米パイプライン「ライン3」と「キーストーンXL」の黒幕〜オイルサンド・パイプライン建設を支援する世界の銀行』、2020年12月16日発行

声明:米バイデン大統領就任、パリ協定復帰と「キーストーンXL」パイプライン建設認可取り消しについて(2021/1/22)

〜日本のメガバンクの高まる政治リスク〜

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、以下RAN)は、20日(現地時間)、ジョー・バイデン氏が米大統領就任直後にパリ協定に復帰し、「キーストーンXL」パイプライン建設認可を取り消したことについて、以下の声明を発表しました。

パリ協定復帰について

RAN 気候・エネルギープログラムディレクター パトリック・マカリー

「新政権が発足直後にパリ協定に復帰し、トランプ氏による気候政策の混乱を一掃し始めたことは確かに希望を与えてくれます。

しかし、世界の気候危機を起こした米国の大きな役割に対してバイデン政権が説明責任を果たすのであれば、米国の金融機関から世界の化石燃料産業への年間数千億ドルもの資金の流れを止める連邦政府の行動が必要です。米国の政策立案者は、ウォール街の銀行の気候フットプリントをこれ以上無視することはできません」

「キーストーンXL」パイプライン建設認可取り消しについて

RAN事務局長 ジンジャー・キャサディ

「今日、化石燃料産業に反対してきた人々の力によって勝ち取られた、遅れに遅れた勝利を祝います。『キーストーンXL』パイプライン建設の取り消しは、気候科学の論理と先住民の土地権利尊重の必要性を明確にしました。

気候危機対策をしっかりとるには、同様に破壊的な影響をもたらすエンブリッジ社の『ライン3』パイプラインの取り消しと、今後も経済を化石燃料に依存させる『ダコタ・アクセスパイプライン』(DAPL)と他の石油・ガス輸出事業の認可を取り消すことも必要です」

*日本語版追記

「キーストーンXL」パイプラインはTCエナジー社(旧トランス・カナダ社)が計画するオイルサンド・パイプラインで、カナダ・アルバー タ州のオイルサンド油田から米国ネブラスカ州を通り、メキシコ湾岸の製油所に向けて石油を輸送する。10年以上もの間、先住民族、牧場主や農家、環境保護活動家、若者など様々な人々が建設に抗議してきた。

日本の3メガバンクは、上記3つのパイプライン事業の建設に融資等している。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)とみずほフィナンシャルグループは、DAPLへのプロジェクトローンに主幹事銀行として関わった。キーストーンXL及びライン3には3メガバンク全てが参加し、その中でMUFGが最も大きな資金提供者である。今回のバイデン政権による認可取り消しによって、パイプラインを含む化石燃料事業への融資等に対する政治リスクが高まる。

参考:RANブリーフィングペーパー『北米パイプライン「ライン3」と「キーストーンXL」の黒幕〜オイルサンド・パイプライン建設を支援する世界の銀行』、2020年12月16日発行

英文:“RAN Response on Biden Rejoining Paris Agreement”

英文:“RAN Responds to President Biden’s Cancellation of the Keystone XL Pipeline”

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

発行物:北米パイプライン「ライン3」と「キーストーンXL」の黒幕〜メガバンクの関与

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、12月16日、ブリーフィングペーパー「北米パイプライン『ライン3』と『キーストーンXL』の黒幕:オイルサンド・パイプライン建設を支援する世界の銀行」(和訳版)を発表しました。

12月12日、「パリ協定」が採択されてから5年を迎えました。

新型コロナウイルスの感染拡大が厳しい局面を迎え、米国トランプ大統領の任期も残りわずかとなった今、エンブリッジ社の「ライン3」TCエナジー社の「キーストーンXL」という2つの大規模オイルサンド・パイプライン事業が北米で強引に進められようとしています。各パイプラインによって排出される温室効果ガスは、50基の石炭火力発電所に相当すると計算されています。

日本の3メガバンクは、オイルサンド部門の拡大に必要なパイプライン建設に多額の融資・引受を行っています。3メガバンクは今年初めて、オイルサンドに適用する方針を発表しました。キーストーンXLの建設資金をまかなう42億ドルのプロジェクトローンを確保するプロセスが進められる中、どのように方針を実施していくかが問われます。

TCエナジー社の「キーストーンXL」パイプラインはオバマ政権時代に計画が中止されましたが、トランプ大統領が建設を再承認し、政権交代前に建設が押し進められようとしています。バイデン次期政権が気候変動対策強化を打ち出す中、「ライン3」パイプライン建設も先住民族の抵抗が強まり、注目されています。両パイプラインは「ダコタ・アクセス・パイプライン」と多くの類似点があり、先住民族主導の激しい反対運動に直面しています。

3メガバンクを含む大手グローバル銀行は、両パイプライン建設への資金提供について、今後数カ月の内に明確な選択を迫られることになります。

ブリーフィングペーパーを読む>>
「北米パイプライン『ライン3』と『キーストーンXL』の黒幕:オイルサンド・パイプライン建設を支援する世界の銀行」(PDF)

ブログ:三菱UFJが抱える重大なESGリスク

RANはMUFGアメリカズのニューヨーク本社前でアピール行動を行い、森林火災への資金提供停止を訴えた。2020年9月1日、写真:Erik McGregor

菅首相が日本の「温室効果ガスを2050年までに実質ゼロ」にすると10月26日に発表しました。この数カ月、HSBC、モルガン・スタンレー、JPモルガン・チェース、バークレイズなど世界の銀行でも気候変動対策に関する公約を発表する動きが続いています。

一方、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は「持続可能な社会の実現に貢献する」と約束しているにも関わらず、実際は、森林破壊と気候変動を加速し、人々の生活を脅かしています。

このような問題に対応すべきESG(環境・社会・ガバナンス)与信方針について、今年4月にみずほフィナンシャル・グループと三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)が方針を改定し、その後5月にMUFGも改定しましたが、気候変動対策においては遅れを取ってしまいました。これではMUFGは「サステナビリティ・リーダー」にはなれません。

MUFGの投融資には、以下の3つの部門において様々なESGリスクを抱えています。

1. パーム油:熱帯林を破壊しているパーム油企業等に投融資

MUFGは、熱帯林や熱帯泥炭地の破壊を加速させているパーム油部門に、世界で最も融資している金融機関の一つです。熱帯林は二酸化炭素の吸収源として、そして大半の陸上生物多様性の生息地としても重要な役割を果たしています。また、泥炭地は「炭素の貯蔵庫」とも呼ばれ、気候へのインパクトは測り知れません。しかし熱帯林は、パーム油や紙パルプ等の生産のために急速に失われています。森を長年守ってきた地域住民の生活と権利も脅かされているのです。

MUFGは、熱帯林の重要性を認識しつつも、保護に必要な対策を十分に取らず、熱帯林や泥炭地の破壊に加担している企業に融資を続けています。世界クラスの生物多様性ホットスポットと知られるルーセル・エコシステムの熱帯林まで影響を受けています。これでは、2020年までに森林減少を阻止しようという国連「持続可能な目標」(SDGs)の目標15を実現することはできません。

インドネシア、スマトラ島・アチェ半島上空。Duta Rendra Mulyaによる森林破壊の光景

2.石炭:気候危機を悪化させている

MUFGは、石炭火力発電への投融資を段階的に廃止し、石炭火力向けプロジェクトファイナンスを2040年までに残高ゼロにすることを公約しました。しかし、MUFGは、国内外で批判の的になっているベトナム・ブンアン2石炭火力発電事業(1,200メガワット規模)に融資しようとしています。このプロジェクトは今後数十年にわたって二酸化炭素を大気中に排出することになります。ブンアン 2 は座礁資産になるリスクが高く、建設されるべきではない理由が複数指摘されています。

3.オイルサンド・パイプライン:世の中の流れに逆行

MUFGは、オイルサンド部門でアジア最大の資金提供者です。カナダのアルバータ州から米国ミネソタ州の先住民の土地を通って五大湖につづく、問題の多い「ライン3」パイプラインの事業者であるエンブリッジに多額の資金を提供しています。このパイプラインがもしも建設された場合、平均的な石炭火力発電所の約50倍(!)もの二酸化炭素を排出することが予測されます。MUFGは、バイデン大統領が中止を約束した「キーストーンXL」パイプラインにも資金を提供しています。両方のプロジェクトは、先住民の権利と生活を脅かすため、先住民族の人々は強く反対しています。

***

パリ協定が採択された2015年以降の4年間、MUFGは化石燃料部門に1,188億ドル(約12.7兆円)の融資・引受を提供し、その金額は世界6位、国内ではトップの金融機関でした。科学的知見によれば、パリ協定の目標を満たすためには「パリ協定と整合性のある金融機関原則」に沿って化石燃料の拡大と森林破壊を直ちに止める必要がありますが、MUFGはこのような約束を一切していません。

MUFGが真の「サステナビリティ・リーダー」になるには、社会的責任を果たしている他の大手金融機関のベストプラクティスを見習い、ESGに関する投融資方針とその実施を次のように強化する必要があります:

1.森林、特に熱帯林に影響を及ぼす林業・農業関連企業には、ベストプラクティスである「森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止(NDPE)」基準遵守を要求すること

2.パリ協定の1.5度目標に沿って、化石燃料への投融資を段階的に停止し、化石燃料を拡大させる投融資は直ちに止めること

3.人権、特に先住民族と地域コミュニティの権利を尊重し、人権侵害を起こすプロジェクトには投融資をしないこと

4.高リスク部門をはじめ、ESGリスクの管理・監督の実効性を向上すること

もっと知りたい方はこちらへ:

熱帯林破壊・森林火災への投融資について

化石燃料への投融資について

NGO共同声明:三菱UFJ、石炭火力向けプロジェクトファイナンス残高ゼロ目標 (2020/10/16)

依然パリ協定と整合せず、邦銀の遅れ目立つ

(English follows Japanese)

本日、三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)がサステナビリティレポートを公表し(注1)、「2019年度末時点で3,580百万米ドルの石炭火力発電向けプロジェクトファイナンスの貸出金残高を2030 年度に2019 年度比 50% 削減、2040年度を目途にゼロにする(但し、MUFG 環境・社会ポリシーフレームワークに基づき、脱炭素社会への移行に向けた取り組みに資する案件は除外)」との目標を掲げました。これは、本年4月および7月にそれぞれ同様の目標を掲げた、みずほフィナンシャルグループ(注2)、三井住友フィナンシャルグループに続いての発表であり、邦銀大手3行の足並みが揃った形となります。

 これは一定の前進ではあるものの、気候危機の緊急性を鑑みれば、不十分な目標設定としか言わざるを得ません。早急にさらなる厳格な目標設定と方針改訂が求められます。MUFGも署名している国連責任銀行原則(PRB)では、パリ協定と持続可能な開発目標(SDGs)にビジネス戦略を整合させることが謳われていますが、この度MUFGが掲げた目標は、時間軸の長さ、並びにスコープの狭さの両面で大きな問題があります。また、邦銀の石炭方針は、海外の金融機関と比べても依然低い評価に留まっています(注3)。

 最新の科学によれば、パリ協定の1.5度目標を達成するためには、先進国では2030年までに、途上国であっても2040年までに石炭火力発電所の運転を完全に停止する必要があります。償還期間を過ぎても何十年も石炭火力発電所が稼働し続けることを鑑みれば、与信残高ゼロはより早期に達成される必要があります。また、今回の目標では依然として、新規の融資契約の余地が残されています。新規の石炭火力発電所は、世界中で1基たりとも建設の余地のないことが科学的にも明らかとなっていますが、邦銀によるブンアン2(ベトナム)などの新規融資検討が懸念されています。同事業はパリ協定の目標と整合しないだけでなく、経済合理性の欠如、現地の環境汚染や住民への人権侵害など、様々な問題が指摘されています。新規石炭火力発電事業への融資を例外なく停止する方針を早急に掲げるべきです。

 また、スコープをプロジェクトファイナンスに限定し、コーポレートファイナンスを対象外としていることも問題です。石炭採掘を含む石炭火力のバリューチェーン全体を網羅したコーポレートファイナンス(注4)も対象に含めるべきであり、パリ協定に整合的な時間軸でのフェーズアウト戦略を掲げるべきです。海外では、顧客にパリ協定に整合的な時間軸での移行計画の提出を求めるエンゲージメントを行い、計画が不適格であればダイベストメントするという流れが加速しています。これは一例ですが、エンゲージメントを効果的に行うためにも、まず金融機関がパリ協定に整合的な戦略・目標のロードマップを示す必要があります。注5

 さらに、石炭火力だけでなく、炭素排出量の多い他の化石燃料関連事業や土地利用に関わる(注6)事業および企業に対する資金提供の停止や残高削減の方針も掲げるべきです。

注1) https://www.mufg.jp/dam/csr/report/2020/ja_all.pdf

注2) 4月公表の同グループの方針では、2050年までの目標設定だったが、6月に開催された年次株主総会で2040年を目処に達成できるという趣旨の発言がなされた。

注3) 欧州やアメリカ、シンガポールの銀行と比べても邦銀の石炭方針は低い評価となっている。https://coalpolicytool.org/ 
(参考:https://world.350.org/ja/press-release/200908/

注4) 石炭火力発電への依存度が高い企業・新規発電所および関連インフラ建設を計画中の企業向けの融資、株式や債券の引受・投資など。

注5) パリ協定と整合的な目標設定とロードマップを示そうとしている例として、仏BNPパリバの取り組みが挙げられる。https://350jp.org/tcfd/

注6) IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の2019年「土地関係特別報告書」(https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/kankyo/190809.html)では、農業、林業、その他土地利用による排出量が、人間活動による排出量の約23%を占めており、このうち、熱帯林減少による排出量が最も問題であるとされた。http://japan.ran.org/?p=1517

国際環境NGO 350.org Japan
気候ネットワーク
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
国際環境NGO FoE Japan
メコン・ウォッチ
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
国際環境NGOグリーンピース・ジャパン

<本件に関するお問い合わせ>
国際環境NGO 350.org Japan 渡辺瑛莉 japan@350.org

‘Inadequately aligned with Paris Agreement, Mitsubishi UFJ Financial Group lags far behind its international peers’

No Coal Japan coalition responds to banking giant’s new climate goals

Joint Press Statement
October 16, 2020

350.org
Kiko Network
Japan Center for a Sustainable Environment and Society (JACSES)
Friends of the Earth Japan
Mekong Watch
Rainforest Action Network
Greenpeace Japan

Japan — Today, Mitsubishi UFJ Financial Group (MUFG), the largest banking institution in Japan, released its Sustainability Report (Japanese version only), stating its goal of erasing US$3.58 billion loan balances for coal-fired power projects by 2040. This announcement follows those of its Japanese peers, Mizuho Financial Group and Sumitomo Mitsui Financial Group, which set the same goal in April (1) and July this year respectively.

In response to the announcement, the No Coal Japan coalition, formed by several civil society groups, including 350.org, Kiko Network, JACSES, FoE Japan, Mekong Watch, Rainforest Action Network and Greenpeace Japan, said:

“While this is a step forward for MUFG, this goal is inadequate given the urgency of the climate crisis, and the impact of coal-fired power plants and other fossil fuels on health amidst the COVID-19 pandemic. There is an urgent need for stricter goal setting and fundamental policy revisions in Japan’s financial sector.

The standard of Japanese banks’ coal policies including MUFG remains low as compared to overseas financial institutions. MUFG is also one of the signatories of the UN Principles for Responsible Banking (PRB), which stipulates that the signatory banks should align their business strategies with the Paris Agreement and the Sustainable Development Goals (SDGs).

The goal set by MUFG is problematic in both a lengthy timeline and narrow scope. According to the best available science, coal-fired power plants need to be completely shut down by 2030 in developed countries and by 2040 in the rest of the world to limit the warming of the Earth to1.5 degrees, aligning with the Paris Agreement. Given that coal-fired power plants will continue to operate for decades beyond the redemption period, a zero-loan balance needs to be achieved much sooner.

In addition, the goal still leaves room for financing new coal fired power projects. It is scientifically clear that there is no room for the construction of any new coal-fired power plant in the world. However, there are concerns that Japanese banks are considering new loans such as the coal-fired power station Vung Ang 2 in Vietnam.

“Not only is the project inconsistent with the goal of the Paris Agreement, it lacks economic profitability, and will pollute the local environment and violate the basic human rights of the local communities. To align with Paris goals, MUFG should urgently put in place a policy to suspend financing for all the new coal-fired power projects without exception.

The scope of the goal set by MUFG is limited to project financing and not applied to corporate financing. Corporate financing (2), which covers the entire value chain of coal-fired power including coal mining, should be included along with a phase-out strategy with a timeline consistent with the Paris Agreement. Internationally, there is an accelerating trend where banks ask their customers to submit a transition plan on a timeline consistent with the Paris Agreement, and divest from clients with inadequate transition plans. To effectively facilitate this process, financial institutions must first set a roadmap of strategies and goals that are consistent with the Paris Agreement.

Furthermore, in addition to coal-fired power, policies to stop funding other high carbon emitting sectors such as other fossil fuel sectors and land-use-related sectors (3), and targets to phase-out from those sectors should be put forward.

Notes to editors:

(1) In April, Mizuho Financial Group announced its goal of erasing its outstanding credit balance for coal-fired power projects by 2050. However, during its Annual Shareholders’ Meeting in June 2020, the group commented that this goal could be achieved by 2040.

(2) Loans, underwritings, equity and bond investments for companies heavily reliant on coal mining/coal-fired power and companies who have expansion plans for new coal mining/coal-fired power plants and related infrastructures.

(3) According to the IPCC Special Report on Climate Change and Land (2019), emissions from agriculture, forestry and other forms of land use make up 23% of total emissions from human activities, with deforestation in tropical regions being singled out as the biggest carbon emitter from the land-use.

Contacts:
Asia Pacific: Nicole Han, +65 9828 1538, nicole.han@350.org
Global: Nathalia Clark, +55 61 991371229, nathalia@350.org

ブログ:森林火災をあおる金融機関〜背後で動く資金〜(2020/9/15)

ニューヨークでアピール行動、三菱UFJとブラックロックに熱帯林破壊への資金提供停止を求め

責任ある金融 シニア・キャンペーナー ハナ・ハイネケン
(FoE米国 ガウラブ・マダン氏との共同執筆

伐採直後の森林に隣接する、森林火災の発生地点、ブラジルマットグロッソ州アウタ・フロレスタ 写真:Christian Braga / Greenpeace

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)と国際的な市民団体は、8月31日から9月4日、インドネシアアマゾンで起きている森林火災について「ストップ!森林火災アクション週間」の呼びかけを行った。火災によって先住民族の土地が破壊され、気候変動と生物絶滅の危機が加速しているからだ。

さらに今年は、森林火災が、新型コロナウイルスによる公衆衛生と経済の「二重の危機」を悪化させる可能性がある。火災が、世界的流行の影響で動揺が広がる医療システムと経済にさらなる負担となっているのだ。新型コロナはすでに、先住民族や森林破壊の最前線にあるコミュニティに不均等な影響を及ぼしているが、火災によってその悲惨な状況が深刻化している。

熱帯林が自然発火することはなく、ブラジルとインドネシアで発生しているのは「自然火災」ではない。巨大アグリビジネス向けの土地開墾のために、意図的に火が放たれたのである。ブラジルでは牛肉と大豆、インドネシアではパーム油と紙パルプ事業がその原因である。違法にもかかわらず、企業が火入れをするのは、土地を切り拓く手段として最も安価だからだ。そして直接または間接的に森林火災につながりのあるこうした企業は、銀行や投資機関から莫大な額の投融資を受けている。その中には持続可能性への取り組みを主張している金融機関もある。

今回のアクション週間で、重要な4金融機関ーブラックロック、サンタンデール、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、バンクネガラインドネシア(BNI)ーの果たす役割に注目した理由はここにある。RANと協力団体が9月に更新した「森林と金融」データベースで検索すれば、どの銀行と投資機関が熱帯林の破壊と火災に拍車をかけ、どれだけの資金を提供しているのかを正確に突き止めることができる。分析の結果、上記の投資機関と銀行4社は、火入れを行なって森林を破壊するパーム油、紙パルプ、牛肉、大豆産業に大きく加担していることがわかった。

MUFG — 2016年以降、森林破壊リスク事業に32億ドルを提供

日本のメガバンクであるMUFGは世界5位の資産総額を保有する銀行で、実はパーム油部門では、東南アジア以外に本社を置く金融機関の中で最大の資金提供者でもある。MUFGは、シナルマス・グループのような、気候の安定化に極めて重要なインドネシアの熱帯林と泥炭地を破壊している世界最大のパーム油・紙パルプ企業複数社に資金を提供している。泥炭地破壊はインドネシアで起きている火災の最大の原因であり、アマゾンでの火災よりもはるかに多い二酸化炭素を放出した主因となっている。

残念ながら、MUFGが公表している与信方針に森林火災と煙害(ヘイズ)に関する記載はなく、インドネシアの子会社であるダナモン銀行に同行の方針の順守を義務付けてもいない。ただ私たち活動家にとって幸いなことに、米国におけるMUFGの存在感は大きい。MUFGは西海岸を拠点とするユニオンバンクを小会社に持ち、モルガン・スタンレーの筆頭株主でもある。なので、私たちの本拠地である米国で圧力をかけられるのは利点だ。

RANはボランティアとともにMUFGアメリカズのニューヨーク本社前でアピール行動を行い、森林火災への資金提供停止を訴えた。2020年9月1日
写真:Erik McGregor

ブラックロック — 2020年に森林破壊リスク事業に13億ドルを投資

世界最大の資産運用会社で、気候危機に責任を負うべき企業への最大の機関投資家でもあるブラックロックには、大きな問題がある。ブラックロックは今年1月、気候問題を投資戦略の中心に据えると約束したばかりだが、森林破壊、人権、そして先住民族および気候危機の最前線にある地域コミュニティの権利に対処する包括的で一貫性のある投資方針を持たず、森林破壊リスク企業への膨大な投資を続けている。さらに悪いことに、ブラックロックは2010年以降、森林破壊に対処する行動を求める株主提案の全てに、臆面もなく反対票を投じている以下、ブラックロックの森林破壊問題について簡単にまとめてみた。

●ブラックロックは、上場している世界最大の森林破壊リスク企業25社の三大株主の1社である
●ブラックロックは世界最大の食肉加工会社JBSの大口投資家であるが、同社がブラジルのアマゾンでの火災に関与しているという度重なる証拠や、さらに最近、同社のサプライチェーンにアマゾン熱帯林の保護地域で違法に放牧された畜牛が含まれているという証拠があるにもかかわらず、総額およそ1億4,000万米ドルを提供している
●ブラックロックは、2020年までに自社サプライチェーンで森林破壊に終止符を打つと約束しながら達成できなかった複数の消費財企業に、2,500億米ドルを投資している

RANとアマゾン・ウォッチ、FoEなどの協力団体は、ブラックロックに森林破壊と森林火災への資金提供を止めるよう訴えた。2020年9月1日 写真:Brooke Anderson

サンタンデール — 2016年以降、森林破壊リスク事業に50億ドルを提供

米国各地に支店を持ち、スペインに本社を置くサンタンデールは、ブラジルの企業に多額の資金を提供している。森林破壊の禁止をいろいろと宣言しているが、実際は、特にアマゾンの熱帯林破壊のリスクにさらされている。

サンタンデールは、2012年から「銀行環境イニシアティブ(Banking Environment Initiative)」のメンバーで、ソフト・コモディティ・コンパクト(SCC)に署名している。同コンパクトへの署名を通じて、サンタンデールは「ザ・コンシューマー・グッズ・フォーラム」の会員企業と協力して、2020年までに大豆、パーム油、牛肉、紙パルプおよび木材のサプライチェーンにおける「森林破壊実質ゼロ」を達成することを約束した。また同社は、自社の顧客企業と投資先が「熱帯林破壊のリスクが高い市場においてパーム油や木材製品、大豆を大量に生産または加工する業務を行っている場合も、それらの業務が2020年までに森林破壊実質ゼロを達成するという目標に沿うものであることを確認できる」ようにするとも約束している。お気づきのとおり、この中には牛肉に関する資金提供が含まれていない。

上記のようなグリーンウォッシュはさておき、サンタンデールがブラジルの牛肉セクターに対する最大の資金提供者の1社であることは事実である。このセクターがアマゾンの森林破壊や火入れによる森林開墾に関係していることは明らかだが、融資先にはマルフリグやJBSといった物議を醸している企業も含まれる。

サンタンデールの森林破壊リスク事業への融資・引受額(単位:100万米ドル)(2016年1月〜2020年4月)出典:https://forestsandfinance.org/?lang=ja

バンクネガラインドネシア(BNI) — 2016年以降、森林破壊リスク事業に24億ドルを提供

BNIはインドネシア最大手銀行の一つで、持続可能性に関して同国をリードするイメージを打ち出している。しかし、インドネシア各地で火災が発生する要因となっている泥炭地での火の使用や農園および植林地の開発を禁止する方針は公表していない。BNIの顧客として名を連ねる企業には、2019年に農園および植林地のある地域で起きた火災を理由に、インドネシア政府に農園の操業を凍結された数社が含まれる。BNIの顧客で最も有名な企業が前述のシナルマス・グループだ。世界有数の紙パルプおよびパーム油企業で、火災が影響した森林と泥炭地の面積はインドネシアの企業グループで最大である。BNIは2016年以降、同グループの紙パルプとパーム油の両部門に総額12億米ドル以上の資金を提供してきた。環境NGOのグリーンピースによれば、同グループの紙パルプ部門であるAPP(アジア・パルプ・アンド・ペーパー)とその子会社、事業パートナー、およびサプライヤーは、2015年から2018年の間にインドネシアにおいて総面積25万ヘクタール以上を焼き払った。また、同社はインドネシア各地での土地紛争の渦中にありながら、パルプ材植林地向けにさらに多くの土地の開墾を続けている。これは、気候にも甚大な影響を及ぼす。植林地の多くは、層の厚い泥炭(何千年にもわたり有機物が堆積した結果、大量の炭素を貯留する土壌)を排水し、劣化させて開発しているからだ。

今後、RANは上記の銀行と機関投資家への働きかけを強め、その見境のない資金提供によって私たちと地球の未来がどれほど脅かされているかを明るみに出していく。このオンライン署名「STOP! 企業があおる森林火災」(英語)に賛同して、上記4社を含む企業への働きかけを継続できるよう、協力をお願いしたい。

■署名の参加方法(英語)

以下の内容を記入して「Take Action」(賛同する)ボタンをクリックしてください。アルファベットと数字での記入をお願いします。

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英語のブログはこちら “The Money Behind the Big Business of Burning” (2020年9月3日)