サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

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声明:東京五輪「持続可能性大会後報告書」公表、持続可能な木材調達、期待されたレガシーにはほど遠く(2021/12/24)

〜従来通りの木材調達、業界に十分な行動変容を促せず〜

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日24日、東京2020組織委員会が「持続可能性大会後報告書」(注1)を22日に公表したことを受けて、以下の声明を発表しました。RANは日本の持続可能な調達のサプライチェーン管理強化・実践を目的に、東京2020大会組織委員会が策定した「持続可能性調達コード」とその運用について、とりわけ森林破壊のリスクの高い木材、パーム油、紙の調達基準について提言を続けてきました(注2)。

RAN日本代表部 川上豊幸

「持続可能性大会後報告書」に記載された「持続可能性調達コード」に関する内容は、本来、五輪を契機に期待されたレガシーには程遠い報告となった。また、木材調達の失敗から得られたはずの教訓を大会後報告書に残さなかったことは、東京五輪の持続可能性のレガシーを残す上で最後の好機を逃してしまったことになる。以下を指摘したい。

第一に、五輪を契機に、サプライチェーンのリスク評価を業界に根付かせることができたはずだった。調達基準の取り組みをしっかりと運用すれば、森林破壊のリスクが高い産品についての適切な対応が実施され、調達企業となる日本企業が業界として取り組むことができたはずだった。そうした経験がレガシーとなったはずである。本来であれば東京2020大会主催者が持続可能性を推進するリーダーシップを取り、持続可能性実現に必要な変革をもたらすことができたはずだった。しかしそのような反省は、大会後報告書に見られなかった。

第二に、コンクリート型枠合板については、国産材を主軸として使うことを建設業界に強く促す契機にできたはずだった。型枠に限らず、調達基準に国産材の使用は「優先的に選択すべき」と推奨項目として書かれた。組織委員会「街づくり・持続可能性委員会」小宮山宏委員長は「大会前報告書」(注3)で、「それ(持続可能な社会)に向けた我々自身の行動変容こそがレガシー」であると述べていた。しかし実際には、従来のビジネス通りに大量の熱帯材(21万枚以上ものインドネシアとマレーシアからの型枠合板)が使われ、型枠合板での国産材の利用は限定的に止まった。

第三に、森林減少を起こした熱帯材を調達してしまった理由と、その反省が十分になされず、そこで得られるはずの教訓が大会後報告書に記載されていなかったRANが考える教訓としては大きく3点ある。

・基準遵守の担保方法の厳格化:トレーサビリティの確保、信頼性の高い認証や検証方法の利用、リスクに応じたデューデリジェンスの実施

・サプライヤーの評価実施:調達物品の評価だけでなく、企業グループ全体としての環境・社会リスク評価の実施

・通報体制の適正な運用:通報窓口の独立性、公平な事実確認と判断(注4)

RANと国内外のNGOは、施設建設前の2016年から、熱帯木材は東南アジアの森林および生態系破壊の恐れがあり、五輪の調達から排除するよう組織委員会に指摘してきた。インドネシア産の非認証材が有明アリーナと新国立競技場建設に使用されたことが判明した2018年からは木材調達の失敗と教訓を大会報告書に記録するよう繰り返し要請してきた。しかし組織委員会は大会後報告書で、木材調達基準改定が「教訓」であると取れる回答をした。また改定の理由として、深刻化する気候変動により森林保護の重要性が高まり、森林減少抑制への配慮をあげただけで、熱帯林破壊への関与への問題認識と、その反省への記述は見あたらなかった。五輪の公式記録である大会後報告書に、木材調達の失敗とその原因、失敗から得られる教訓の詳細が残らないということは、東京五輪の持続可能性のレガシーを残す上で最後の好機を逃してしまったことに他ならない。

第四に、情報公開の取り組みも進まなかった点も課題である。NGOの要請によって、施設ごとの産地や枚数など型枠合板の調達状況は情報公開されたが、型枠以外の調達状況は大会後報告書でようやく公開された。すでに通報窓口の受付は終了していることからも、基準の不遵守があった場合の苦情メカニズムである通報制度の活用が阻害されてしまったと言える。一方で、型枠合板について組織委員会のウェブサイトで公表されてきた情報については記載が確認できない。型枠での大量の熱帯材利用・限定的な国産材利用の状況が開示されていなく、なぜ記載しないのか疑問が残る。

唯一、レガシーとしていえることは、2019年に木材調達基準を改定し、森林の農地などへの転換に由来する木材(転換材)の使用禁止を大会後報告書に明記したことだ。NGOの調査で施設建設にインドネシア産熱帯材を調達したことが明らかになった住友林業も、転換材の使用を認め、自社の調達方針にも転換材の使用停止(2021年度までに)を加えた。今後この基準が公共調達(東京都、国)や木材企業の調達方針に採用されていけば、五輪のレガシーとなるといえよう。ただ両者ともに農地転換は排除される一方で、植林地への転換時に伐採された木材は使用禁止の対象に含まれないという課題が残っている。今後の企業および公共調達では、転換材全般を広く使用禁止にする必要がある。

なお、大会主催者の一つである東京都のグリーン購入ガイド(水準2、注5)で、「いずれかの認証制度において、認証対象から排除する措置を受けている者がサプライチェーンに関わる場合を除く」とし、FSC(森林管理協議会)絶縁措置を受けた企業からの調達を推奨しないことが示された点は大きな進展と言える。

近年、木材市場では熱帯材を調達から排除する動きがある。報道(注6)によると環境NGOの指摘を機に、大手不動産会社などが熱帯材を避け始め、国産材や認証材への注目などが高まっているという。東京五輪では環境NGOが懸念していた熱帯材が型枠合板として使われ、その理由が明らかにされないままオリンピックイヤーを終えようとしている。上記の他にも指摘すべき点は多くあるが、大会主催者が記録に残さないのであれば、NGOを含めた市民社会が課題や教訓を記録していくことが重要だ。今回の指摘が、今後の企業調達や公共調達の改善に生かされていくことを願う。

注1)東京2020組織委員会「持続可能性大会後報告書」、2021年12月(閲覧日:2021年12月24日)https://www.tokyo2020.jp/ja/games/sustainability/report/index.html

注2)RANは熱帯林保護に取り組む環境NGOとして、「持続可能性に配慮した調達コード」の策定・運用について、特に森林減少を引き起こすリスクのある木材、パーム油の調達基準について提言をしてきた。具体的には調査活動、ワーキンググループへの参加も含めた組織委員会や関係機関への情報提供、基準不遵守の通報などを通して、東京2020大会の持続可能な取り組みの改善を目的に取り組んできた。

注3)東京2020組織委員会「持続可能性大会前報告書」、2020年4月(閲覧日:2021年12月24日)https://www.tokyo2020.jp/image/upload/production/g3luun9rmscgrxmlnadr.pdf

注4)参照:RAN「声明:歓声なき東京五輪、破壊された熱帯林〜不十分な持続可能性と調達の失敗、問われる責任〜」、2021年7月23日
http://japan.ran.org/?p=1907

注5)東京都「グリーン購入ガイド (本庁組織版)」、2021年4月1日施行(閲覧日:2021年12月24日)https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/policy_others/tokyo_green/tokyo_green.files/2021honcyohonbun.pdf

注6)朝日新聞「ウッドショック:3 高いし足りない、悩む工務店」、2021年12月1日 (閲覧日:2021年12月24日)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15129657.html?iref=pc_rensai_article_long_401_article_next

参考

RAN「プレスリリース:五輪調達基準違反を東京都に再通報、大会主催者は「持続可能性大会後報告書」で熱帯林破壊の事実を認めよ」、2021年11月25日
http://japan.ran.org/?p=1950

RAN「プレスリリース:新報告書『守られなかった約束』発表 〜東京五輪木材供給企業コリンドの熱帯林破壊、 違法伐採、人権侵害が明るみに〜」2018年11月12日
http://japan.ran.org/?p=1295

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。
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本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

 

プレスリリース:新報告書「森林フットプリント評価 2021」発表〜インドネシア・ボルネオ島の森林と地域コミュニティへの影響について、大手消費財企業10社の開示状況を評価〜(2021/10/22)

日清食品、花王、プロクター&ギャンブルら、森林と人権に及ぼす影響を十分に開示せず

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、21日(米国現地時間)、新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林フットプリント評価2021」(注1)を発表しました。

写真:アブラヤシ農園開発のために伐採された森林、インドネシア東カリマンタン州ベラウ、2018年4月

本報告書は、大手グローバル消費財企業10社を対象に、インドネシア・ボルネオ島の北カリマンタン州と東カリマンタン州における、各社サプライチェーンの「森林フットプリント」(※)を独自に評価したものです。分析の結果、対象企業10社はサプライヤー企業からの原料調達を通じて、同地域で70万ヘクタール(サッカー場175万個分)以上の熱帯林破壊に加担し、さらに825万ヘクタールの森林が危機にあることを明らかにしました。よって10社はいずれも、インドネシアに残る森林と地域コミュニティに及ぼす影響を十分に開示していないと結論づけました。

本報告書は、 英国グラスゴーで31日から始まる国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)を前に発表されました。森林と泥炭地は炭素吸収源として気候の安定のために機能することから、森林保護はこれまで以上に重要になっています。

※「森林フットプリント」とは、パーム油や紙パルプ、木材など森林を破壊する恐れのある産品が影響を及ぼす森林と泥炭地の総面積をいいます。別紙参照。

『森林フットプリント評価2021』概要

  • 対象地域:インドネシア・ボルネオ島の北カリマンタン州、東カリマンタン州。この地域に残る森林の約3分の2が危機的状況にあることから、両州に焦点をあてた。
  • 対象企業(多国籍消費財企業10社):日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース。
  • ●10社は、北カリマンタン州と東カリマンタン州のパーム油や紙パルプ、林業企業からの原料調達を通じて、同地域にある70万ヘクタール(サッカー場175万面分)以上の熱帯林の破壊に加担していることが明らかになった(図1)。
  • ●10社が「森林破壊禁止」の方針をサプライヤー企業に徹底しなかったために過去10年間で失われた森林と泥炭地について詳しく説明し、両州だけで825万ヘクタール以上の重要な熱帯林が危機にあることを示した(図2)。
図1:北カリマンタン州・東カリマンタン州での森林破壊(70万ヘクタール、2009年〜2019年)
凡例:赤(泥炭地)、茶(2009〜2011年)、薄茶(2012〜2014年)、水色(2015〜2017年)、緑(2018〜2019年)
図2:北カリマンタン州・東カリマンタン州で危機にある森林(825万ヘクタール)
凡例:ピンク(泥炭地)、危機にある森林〜青(事業管理地内の劣化していない森林)、水色(事業管理地内の劣化した森林)、赤(開発可能地域の劣化していない森林)、黄(開発可能地域の劣化した森林)、保護されている森林〜緑(劣化していない森林)、黄緑(劣化した森林)
  • 両州で200万ヘクタール以上の森林が、先住民族コミュニティが何世代にもわたって生活し、保護してきた集落や慣習地において残されていることが明らかになった。しかしコミュニティの土地が林業企業や農園企業に割り当てられたことから、多くのコミュニティの森林を保護し管理する権利は尊重されていない(図3)。
図3:北カリマンタン州・東カリマンタン州の慣習地と、住民参加型「社会林業」のために政府が割り当てた地域(出典:Ancestral Domain Registration Agency: BRWA(インドネシアの団体))
凡例:赤(泥炭地)、「社会林業」〜緑(村落林)、オレンジ(住民造林)、水色(コミュニティ林)、BRWAからの慣習地〜青(慣習地)

RAN森林政策ディレクター ジェマ・ティラックは「世界の主な科学者たちは、現在の気候危機を『人類へのコードレッド(非常事態発生を告げる警報)』と呼んでいます。プロクター&ギャンブルのような多国籍消費企業と、倫理的とはいえない取引先のサプライヤー企業は、企業方針の抜け穴や口約束の陰で、森林破壊の悪循環を続けています。地球で最後の手付かずの森林が伐採されている一方、何世代にもわたって森林を維持してきた地域コミュニティからは土地の権利が奪われ、人権が侵害されています」と訴えました。

RAN日本代表 川上豊幸は「今月末からCOP26が始まります。今まさに、森林と泥炭地の破壊を防ぎ、森に住む人々の土地の権利を守るための行動を起こすときです。日清食品や花王などの大手消費財企業は、森林破壊を引き起こす開発事業の拡大という脅威の最前線に立たされている人々の人権や土地権を守るために、今すぐ積極的な役割を果たさなければなりません」と強調しました。

RANは2020年4月から「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」キャンペーンを展開し(注2)、上記10社に対して、自社のグローバルサプライチェーンにおける「森林フットプリント」の開示を求めてきました。「森林フットプリント」という言葉はこれまでも使われてきましたが、RANで用いる場合、消費財企業が商業的な森林伐採や農業の拡大によって、これまでに影響を与えたり、今後与える可能性がある森林と泥炭地の総面積を意味します。また、森林および泥炭地が、先住民族や地域コミュニティに管理されてきた土地にある場合、先住民族と地域コミュニティの権利への影響も含みます。森林フットプリントの開示にあたっては、企業は森林フットプリント全体を説明するために行なった一連の行動を記述し、これ以上の森林破壊と権利侵害を防ぐためにサプライヤー企業に介入する方策を立てるとともに、過去の被害の是正措置を取る必要があります。

これまでユニリーバ、ネスレ(注3)コルゲート・パルモリーブの3社が、インドネシア・スマトラ島北部に限定した森林フットプリントを公表しています。日本企業では、花王は森林フットプリント導入について協議している点を「2021年活動方針」(注4)で開示しています。一方、日清食品からは正式な返答を得られませんでした。

*報告書全文はこちら(英語)。概要および評価への各社回答も掲載されています。 www.ran.org/borneo_forest_footprint

注1)新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:ボルネオ森林フットプリント評価2021」

注2)「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」は、RANが2020年4月から展開しているキャンペーンです。熱帯林破壊と人権侵害を助長している最も影響力のある上記の消費財企業・銀行17社に実際の行動を起こすよう要求しています。

注3)参考:RAN声明「世界初、ネスレ『森林フットプリント』開示を歓迎〜インドネシア・パーム油サプライチェーンで影響を受ける森林面積を公表〜」(2020/12/11)

注4)花王「2021年の進捗」

※更新:以下の内容を追加しました(2022年1月11日)。
・「キープ・フォレスト・スタンディング:ボルネオ森林フットプリント評価2021」日本語要約版

別紙「森林フットプリントについて

「森林フットプリント」とは?

森林フットプリントとは、消費財企業の森林リスク産品(※)利用や銀行による森林リスク産品への資金提供によって、これまでに影響を与えたり、今後与える可能性がある森林と泥炭地の総面積をいう。消費財企業と銀行の森林フットプリントには、サプライヤー企業や投融資先企業が取引期間中に関与した森林および泥炭地の破壊地域、さらにサプライヤー企業や投融資先企業全ての森林リスク産品のグローバルサプライチェーンと原料調達地でリスクが残る地域も含まれる。上記の森林および泥炭地が、先住民族と地域コミュニティに管理されてきた土地にある場合は、その先住民族と地域コミュニティの権利への影響も含む。

※森林リスク産品:森林破壊の原因の多くはパーム油、紙パルプ、木材製品などの産品生産で、これらの産品は森林を破壊するリスクがあることから「森林リスク産品」と呼ばれている。

リスクにさらされている地域には、供給業者、投融資先企業、またはそれらに原料を供給する独立系企業の管理下にあるプランテーション(大規模農園や植林地)開発区域内の森林と泥炭地、そして上記企業のグローバルサプライチェーンの原料調達(工場、精製所、加工処理施設など の周辺地域)における伐採予定地や農業開発用に割り当てられた地域が含まれる。これらの全てが把握され、公開されている必要がある。

RANは、消費財企業および銀行が森林フットプリントを把握し開示するためには以下のようなステップを提案している。

1.情報開示
・自社サプライチェーンで森林リスク産品を調達している国、金融機関の場合は顧客企業の事業が森林リスク産品関連事業で活動している国を特定し、自社の年次報告書やサステナビリティレポートなどで情報開示する。
・優先すべき森林リスク産品の調達を行っている国・地域を選択する。当該地域で森林リスク産品を生産、加工、取引しているサプライヤー企業を特定し開示する。

2.森林・泥炭地減少へのリスクを調べる
・特定されたサプライヤー企業・企業グループからの調達や、当該企業への投融資によって、これまで影響を与えたり、今後与える可能性のある森林や泥炭地の総面積と位置を把握するために空間分析を行い、地図を作成する。
・作成した地図を自社の年次報告書、サステナビリティレポート、企業ウェブサイトなどで開示する。

3.地域域コミュニティの権利・土地紛争
・選択した調達国・地域でサプライヤー企業や投融資先企業の事業によって影響を受ける森林や泥炭地に居住する、先住民族や地域コミュニティの権利に及ぼす影響に関する情報を調査する。
・情報には先住民族や地域住民が伝統的に所有する森林や泥炭地に関する土地への権利、アクセス、利用および保全への影響を含む。
・これまで影響を与えたり、今後与える可能性のある森林や泥炭地の総面積と位置を把握するために空間分析を行い、地図を作成する。

4.2と3の統合
・森林減少のリスクに関して得た情報と、地域コミュニティへの影響と土地紛争に関するリスクをまとめた、国や地域ごとの「森林フットプリント地図」を完成し、開示する。

 

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

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ブログ:新動画「日清食品と熱帯林『ルーセル・エコシステム』との関係は?」即席ラーメン記念日に公開(2021/9/8)

RAN日本代表 川上豊幸

9月に入って、あたたかい食べ物が美味しくなってきましたね。

RANは「即席ラーメン記念日」だった8月25日、新動画「日清食品と熱帯林『ルーセル・エコシステム』との関係は?」を公開しました。もうご覧いただけましたか?

動画の中で紹介している「ルーセル・エコシステム」は、インドネシア・スマトラ島に残る低地熱帯林です。森の奥深くは「オランウータンの都」として知られ、緑豊かな熱帯林にはスマトラ固有のゾウ、トラ、サイも生息しています。そして地域住民にとっては必要不可欠な水の供給源です。

しかし、この貴重な熱帯林と動物たちの生息地が危機にひんしています。

日本の大手食品会社が批判され、その1社が即席ラーメンを発明した日清食品です。

その理由は? 日清食品が日本、米州、欧州、アジアなど世界中で生産している商品が、ルーセル・エコシステムや、インドネシアの保護区である「ラワ・シンキル野生生物保護区」の熱帯林を犠牲にして生産された可能性があるからです。

日清食品は東京2020オリンピック・パラリンピック大会のスポンサーでもあることから、ルーセル・エコシステムの森林破壊に果たすべき責任は大きいとして、消費者やNGOから対応を求められてきました。

写真:伐採され排水作業が進むシンキル泥炭林、ルーセル・エコシステム 2016年8月14日、インドネシア、アチェ州 (2°44’38.59″N, 97°39’51.39”E)©︎Paul Hilton / RAN

「森林破壊フリーの東京五輪に!」3万人が賛同

ルーセル・エコシステムの熱帯林を犠牲にして生産されたパーム油は、日清食品にパーム油を供給しているサプライヤー企業と関連があります。

RANは消費者とともに、日清食品に、問題あるパーム油の調達を通して森林破壊と人権侵害に加担してきた責任を認識して対策を取るよう、2015年から求めてきました。

今年6月に大阪で行われた日清食品の株主総会では、経営陣に対してパーム油調達方針の強化を求める声が株主から上がりました。また五輪開催前には、日清食品が東京五輪のスポンサーであることから、東京2020大会を「森林破壊のない東京五輪」にするよう日清食品に求める署名をRANは展開し、約3万人の賛同署名が集まりました。

写真:「持続可能なパーム油100%達成目標が2030年では遅すぎる」、日清食品株主総会会場前でアピール行動をするRANと「ウータン・森と生活を考える会」メンバー、2021年6月25日、大阪

森林や人権の方針でも課題

日清食品はまた、森林や人権に関する方針でも課題があります。

日清食品は、RANがグローバルで展開する「キープ・フォレスト・スタンディング」キャンペーンの対象企業です。RANが今年4月に発表した「森林&人権方針ランキング2021」では、対象企業17社のうち最低ランクの評価を受けた1社でした。

低評価の理由は、公表されている方針が不十分であること、そしてパーム油、紙パルプなど森林を破壊するリスクのある産品のサプライチェーンで、人権侵害と森林破壊を防ぐために必要な方針の実施も検証システムも不十分なためでした。

日清食品はまた、パーム油の搾油工場リストといった供給業者の情報開示もしていないため、他社に遅れをとっています。

日清食品が動いた

このような批判や要求が高まる中、日清食品は即席麺大手企業として、2030年度までに「持続可能に生産された」パーム油の調達を100%にすると約束しました。

今年6月の株主総会では一歩踏み込んで、日本で販売される即席麺製品の目標を2025年にすると発表しましたが、グループ全体の目標は据え置きです。

熱帯林の破壊が続く今、どちらの目標年も遅すぎます。

写真:ルーセル・エコシステムにあるクルット泥炭地、インドネシア・スマトラ島 Suaq Balimbing ©︎RAN / Paul Hilton

「ルーセル・エコシステム」を守ろう

この動画を撮影した写真家のポール・ヒルトン氏が、メッセージを寄せてくれました。

「ルーセル・エコシステムの広大な熱帯低地林は危険にさらされている。日清食品は、スマトラ島のオランウータン、ゾウ、サイ、トラの重要な生息地にパーム油生産が拡大しないよう、行動を取ることができる」

ぜひ動画を見て、森の中の音を聞き、「ルーセル・エコシステム」の自然の素晴らしさを体感してください。

そしてこの動画をシェアし、これ以上、インスタントラーメンによって森林が破壊されないよう、オンライン署名に賛同をお願いします!

以下のキャンペーンに賛同をお願いします

日清さん、2030年まで

問題あるパーム油を使い続けないで!

#日清2030年では遅すぎる

http://chng.it/fPL9gLxkV6

声明:三井住友FG、2050年排出量ネットゼロを約束 (2021/9/3)

「森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ」もパーム油など農園開発に要求
〜「TCFDレポート2021」発表に伴い方針強化、待たれる人権尊重〜

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日3日、三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)が「SMBCグループ TCFDレポート 2021」を8月31日に公表(注1)したことを受けて以下の声明を発表し、パリ協定の目標に向けての方針強化であると歓迎しつつも、中期目標の設定を先送りしていると批判しました。

RAN日本代表 川上豊幸

まず、SMBCが2050 年までに投融資ポートフォリオで温室効果ガス(GHG)排出量をネットゼロにすると約束したことは、パリ協定の目標達成に向けた方針強化と受け止めて歓迎します。「2050年ネットゼロ」は気温上昇を1.5度に抑えるために必要な長期目標で、日本政府も同様の目標を掲げています。気候危機を加速させている化石燃料への資金提供額がアジア5位のSMBCが、アジア首位の三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)(注2)に次いでコミットしたことは重要です。

しかし、投融資ポートフォリオのGHG排出量把握と中長期削減目標の開示は行われず、中期目標の開示は2023年に先送りされたことから、パリ協定への整合性を確認することができません。そして2030年までの限られた数年を目標策定に費やすことになり、緊急性に欠けます。また、投融資ポートフォリオGHG排出量の算定には、石油・ガス、電力セクターに加え、GHG排出に大きな影響を与えている石炭採掘を含めた化石燃料セクター全般、およびパーム油を含む森林関連セクターを早期に追加することが求められます。

第二に、今回のレポートでは、森林破壊の要因となるパーム油などの農園開発事業に対し、「森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ方針」(※NDPE方針)を遵守する旨の公表を求めました。しかし、取引先には遵守の公表を求めるだけではなく、グループ全体およびサプライチェーンを含めた遵守状況をモニタリングし、不遵守状況への対応等を通じて、方針の実施と強化を進めることが必要です。また同基準は農園開発事業に限定され、各産品の購入企業には適用されていないことも課題です。MUFGも今年4月にパーム油セクターにNDPEを適用しましたが、同様の問題があります(注3)
※No Deforestation, No Peat and No Exploitationの略

一方、森林伐採事業セクターでは違法労働への支援を行わないことを明記したものの、労働者の権利尊重や地域住民や先住民族の土地権尊重といった人権尊重が明記されていません。特に「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC:Free, Prior and Informed Consent)(注4)の要件は追加されませんでした。NDPEと同様、FPIC 基準は国連「持続可能な開発目標」(SDGs)の達成や「国連ビジネスと人権に関する指導原則」(UNGP)への遵守に不可欠です。

SMBCは前述の通り、パリ協定締結以降の化石燃料への資金提供額がアジア5位、世界18位であることが明らかになっています。また、3メガバンクは東南アジアの森林減少に加担している企業への最大の資金提供者に含まれます(注5)。 SMBCの融資先には、問題案件となっているベトナムおよびインドネシアの新規石炭火力発電所建設、インドネシアで人権侵害を伴うパーム油の農園(注6)、米国で先住民族らによる抵抗が続くオイルサンド・パイプライン(注7)等が含まれています。

 

注1 ) 三井住友フィナンシャルグループ、「SMBCグループ TCFDレポート 2021」の発行について」、2021年8月31日

「SMBCグループ TCFDレポート 2021」

注2)RAN他プレスリリース「『化石燃料ファイナンス成績表2021』発表〜世界60銀行、パリ協定後も化石燃料に3.8兆ドルを資金提供〜」、2021年3月24日

注3)NGO共同声明「MUFGが石炭火力・森林セクター方針を改定、なおパリ協定と整合せず」、2021年4月26日

注4)FPIC(エフピック)とは、先住民族と地域コミュニティが所有・利用してきた慣習地に影響を与える開発に対して、自由意志による、事前の、十分な情報を得た上で同意する、または同意しない権利のことをいう。

注5)RAN他「森林と金融データベース」より
参照:​​RAN他プレスリリース「『森林と金融』メガバンク等の森林方針の評価を発表」、2021年6月22日

注6)RAN、インドフードまたは同社グループ企業への投融資に関する銀行・投資家向けレター、2020年11月13日

注7)RAN声明「メガバンクが支援する北米パイプライン『ライン3』、活動家らの封鎖で工事中断」、2021年7月7日

 

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広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

プレスリリース:明治を東京五輪パーム油調達コード違反で通報〜ライセンス菓子商品について〜(2021/7/9)

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)と熱帯林行動ネットワーク(東京都渋谷区、以下JATAN)は、7月8日、明治の東京五輪ライセンス商品におけるパーム油調達が東京五輪「持続可能性に配慮した調達コード」に違反した疑いがあるとして、緊急事態宣言下での五輪開催に批判が高まる中、パーム油の利用が本格化する開幕直前に東京2020組織委員会へ通報を行いました。

写真:インドネシア「ルーセル・エコシステム」内のシンキル・ベンクン熱帯低地林地域。
パーム油生産の農園開発のために排水され、火入れで皆伐された泥炭林 ©Nanang Sujana / RAN

通報の対象(注1)は、東京2020大会スポンサー企業である株式会社明治が2019年7月に販売開始した、東京2020公式ライセンス商品「チョコレートスナック」です(注2)。東京五輪「持続可能性に配慮した調達コード」(注3) と「持続可能性に配慮したパーム油を推進するための調達基準」(注4)では、法令遵守、環境保全、先住民族等の権利尊重の基準を満たした形での生産を求めています。しかし、RANが2019年に発表したインドネシアの熱帯林「ルーセル・エコシステム」での調査事例を元に分析した結果、明治のパーム油サプライチェーンには現地での違法農園開発や、泥炭地および熱帯林破壊、地域住民の土地権侵害などに関与する企業が含まれている疑いがあることが明らかになりました。2021年6月にも、森林破壊に関与して問題となっているインドネシア現地企業からのパーム油が日本を含むサプライチェーンから排除できていないことが見つかっています。

このような違反事例が起こる背景には、五輪パーム油の調達がRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)などの認証制度に依存している現状があります。明治をはじめ日本企業は、非認証油が混合されているRSPO「マスバランス」方式のパーム油を調達していることから、サプライチェーンで起こる問題を防ぐことができていません。パーム油の利用が本格化する開幕を前に、東京五輪の調達基準の不足点を顕在化させることも今回の通報の目的です。

【通報の概要】

通報者:
●熱帯林行動ネットワーク(JATAN)
●レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)
●インドネシア「ルーセル・エコシステム」熱帯林(通報者に生じる負の影響を説明する必要があるため追加)

被通報者:
●株式会社明治(五輪スポンサー企業「東京2020ゴールドパートナー」)
●明治ホールディングス(HD)株式会社(明治グループ全体のパーム油調達方針を策定)
●東京2020組織委員会(「持続可能性に配慮したパーム油を推進するための調達基準」の制定主体)

通報先:東京2020組織委員会

内容:明治が調達しているパーム油における調達コードおよび基準違反の可能性について、同社のサプライヤー企業(不二製油)のパーム油調達先(搾油工場や農園)で起きている環境・社会問題を指摘。

通報の目的:
東京2020大会で調達するパーム油の持続可能性(注5)の担保方法としてISPO(インドネシア政府主導のパーム油認証)、MSPO(同マレーシア)、RSPOの認証制度が認められている。特にRSPOでは非認証油の混入が可能な「マスバランス方式」も活用可能で、東京五輪の調達コードや調達基準を満たしていないパーム油が利用されるリスクを排除できていない。今回の通報で、森林破壊や違法な農園開発、土地紛争を引き起こした企業から調達したパーム油が日本市場で流通してきたことを示すとともに、パーム油調達基準の不足点を顕在化させる。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)日本代表の川上豊幸は「今回の通報によって、明治のサプライチェーン管理を改善するとともに、五輪調達の持続可能性に配慮した基準の担保方法が不適切な認証システム(RSPOマスバランス方式)に依存している現状を示すことができます。東京2020組織委員会および関連企業は、こうした問題を認識して調査を行い、『持続可能性大会後報告書』で報告する必要があります。調達基準の不足点および改善点を『東京五輪のレガシー』として残し、問題のあるパーム油を市場から排除する仕組みを促進していきたいです」と訴えました

熱帯林行動ネットワーク(JATAN) 事務局長の原田公は「今回の通報は、東京五輪の持続可能性の調達基準が、パーム油の持続可能性への配慮を必ずしも担保するものでないことを示しています。調達基準の名称が、他の品目では「持続可能性に配慮した◯◯の調達基準」となっているところ、「持続可能性に配慮したパーム油を推進するための調達基準」とされたことも、持続可能性の確認方法の不十分さを最初から認めていることを表しています。
オリンピックとパラリンピックで、どのような物品やサービスにパーム油が利用されているかは不明です。このライセンス商品以外でも同様の問題が発生している可能性があることから、会場や選手村で使用されるパーム油全体の利用状況についても情報を公開するとともに、今回の通報を受けて、組織委員会には、指摘した基準違反が疑われるような調達先からの利用がないかの実態調査を行い、基準の遵守状況を確認することが求められます」と指摘しました。

【通報の詳細】

明治のサプライヤー企業である不二製油が公開している搾油工場リスト(注6)および苦情処理リスト(注7)には、環境・社会面での諸問題が判明している搾油工場・農園企業が含まれている。東京五輪のパーム油調達コードでは、法令遵守、環境保全、先住民族等の権利尊重の基準を満たした形での生産を求めているため、調達コードに違反するパーム油が明治の東京五輪のライセンス製品に含まれていた可能性がある。

インドネシアの搾油工場・農園企業の主な事例:

スマトラ島北部にある「ルーセル・エコシステム」内のシンキル・ベンクン地帯では、以下の調査事例がRANの報告で明らかになっている。保護区の近隣にある搾油工場では、農園企業の生産状況について十分な確認が行われていなく、下記のような問題を抱えるパーム油が調達されていた。

1) 「ラワ・シンキル野生生物保護区」内での違法農園開発(注8)、2019年10月発表

2) 生態系を保全せず、また泥炭地や天然林を含む環境上重要な地域の適切な保全をせずに熱帯林破壊を行なっている農園企業からの調達(注9)、2019年10月発表。継続調査により調達の継続を確認(注10)、2021年6月

3) 農園企業による地域住民の土地権侵害(注11)、2019年11月発表など。

通報の背景・明治とのやりとり:

明治HDは、2019年9月にパーム油の調達ガイドラインを策定し、2020年2月に森林破壊ゼロを支持を加える形で改定が行われた。しかし、これは東京五輪の「持続可能性に配慮したパーム油を推進するための調達基準」の確認方法に従った、持続可能性の担保が不十分なものだった。

RANとJATANは2020年に、明治HDに対して、上記の問題事例を示した文書を送付し、同社調達方針の改善を含めて対応を求めた。明治HDは2021年1月、グループ全体のパーム油調達ガイドライン(注12)でNDPE方針(No Deforestation, No Peat and No Exploitation:森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止)に基づく調達方針へと一定の改善が行われた。上記の事例が示すような個別事例については、引き続き、明治にサプライヤーへの対応状況を確認するよう求めている。 

*報道関係の皆様:通報文書の閲覧をご希望の場合はご連絡ください。

注1)東京2020組織委員会「『持続可能性に配慮した調達コード』に係る 通報受付窓口 業務運用基準」

※対象案件は「本通報受付窓口は、東京 2020 組織委員会の調達する物品・サービス及びライセンス商品(以下「調達物品等」といいます。)に関する案件であって、調達コードの不遵守に関する通報(調達コードの不遵守又はその疑いを生じ得る事実をその内容とするもの) について取り扱うことができるものとします」と定義されています。(太字はRANで強調)

注2)株式会社明治は「東京2020ゴールドパートナー」。

「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会開催まであと1年!『チョコレートスナック』<東京2020オリンピックマスコット/東京2020パラリンピックマスコット>7月23日 新発売」、2019年7月10日

注3)東京2020組織委員会「持続可能性に配慮した調達コード」

注4)東京2020組織委員会「持続可能性に配慮したパーム油を推進するための調達基準」
①生産された国または地域における農園の開発・管理に関する法令等に照らして手続きが適切になされていること。
②農園の開発・管理において、生態系が保全され、また、泥炭地や天然林を含む環境上重要な地域が適切に保全されていること。
③農園の開発・管理において、先住民族等の土地に関する権利が尊重され、事前の 情報提供に基づく、自由意思による合意形成が図られていること。
④農園の開発・管理や搾油工場の運営において、児童労働や強制労働がなく、農園 労働者の適切な労働環境が確保されていること。

注5)「持続可能性に配慮したパーム油を推進するための調達基準」では、法令等の遵守、泥炭地や天然林を含む生態系の保全、先住民族等の権利尊重、適切な労働環境を確認することが規定されている。また、調達全般を規定している「持続可能性に配慮した調達コード」においても、(1)全般の1で「法令遵守」、(2)環境の7で「資源保全」、(3)人権の1で「国際的人権基準の遵守・尊重」が規定されている。

注6)不二製油の搾油工場リスト(2020年7月15日、英語)

注7)不二製油の苦情処理リスト(2020年3月25日更新、英語)

参考:不二製油「責任あるパーム油調達に関する取組み状況について」2020年6月30日

注8)RANプレスリリース「三菱UFJ、高リスクのパーム油企業へ資金提供 〜違法パーム油およびインドネシア泥炭林破壊とのつながりが明らかに〜炭素を豊富に含む『ルーセル・エコシステム』のシンキル保護区で違法栽培」 (2019年10月18日)

注9)RAN, “Major Brands Again Caught Sourcing Deforestation-Linked Palm Oil” (2019年10月29日、英語)

注10)RAN, “Indonesian Forestry Titan Royal Golden Eagle Remains a Major Roadblock to Progress in Saving Leuser Ecosystem“(2021年6月23日、英語)。
注9の森林破壊を継続して問題となっている農園企業からのパーム油が、注8で指摘された違法なパーム油購入で問題となった搾油工場のPT.Global Sawit Semestaを通じて、ロイヤル・ゴールデン・イーグルグループ(RGE)に調達されていることが確認された。RGEグループはインドネシアの財閥企業グループで、日本にも大量のパーム油を供給している。

注11)RAN, “Community Struggles for Land Rights and Livelihoods in Singkil-Bengkung region” (2019年11月25日)

他の事例とRAN報告(英語)へのリンクは以下の通り

●調達している搾油工場は不明だが、残された天然林の皆伐を継続している企業がパーム油原料のアブラヤシの実の出荷を開始した。日本にも供給される可能性がある。
https://www.ran.org/leuser-watch/chainsaws-enter-indonesias-orangutan-capital/

2020年12月に、ようやく森林破壊を停止することを発表し、NDPE方針の採用に至った。
https://www.ran.org/leuser-watch/conservation-breakthrough-for-the-leuser-ecosystem/

●絶滅危惧種(スマトラゾウ)の生息地の皆伐と違法な火入れや森林破壊を続けている農園企業の事例。
https://www.ran.org/leuser-watch/elephant-habitat-under-fresh-attack/

2021年3月にも、スマトラゾウの移動経路の森林破壊を継続していることが確認された。
https://www.ran.org/leuser-watch/procter-gamble-other-brands-implicated-as-critical-rainforests-continue-to-fall-in-leuser-ecosystem/

●泥炭地での絶滅危惧種(オランウータン)の生息地への違法な火入れを行ったことで罰金支払い判決がでている農園企業の事例。
https://www.ran.org/leuser-watch/will-nestle-and-mars-intervene-to-protect-indonesias-peatlands/

注12)明治ホールディングス「明治グループ調達ポリシー:パーム油調達ガイドライン」
https://www.meiji.com/sustainability/policy/pdf/palm_oil_procurement_guideline.pdf
https://www.meiji.com/sustainability/policy/

 

団体紹介

レインフォレスト・アクションネットワーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境・森林保護で最前線に立つ人々とのパートナーシップと戦略的キャンペーンを通じて、環境保護と先住民族や地域住民の権利擁護活動をさまざまな角度から行っています。

熱帯林行動ネットワーク(JATAN)は、マレーシア・サラワクでの熱帯林破壊の問題に取り組むため1987年に設立された団体。近年はインドネシアにおける紙・パルプやパーム油、サラワク産の合板製品を中心にキャンペーンを展開しており、サプライチェーンに連なる日本企業などへの働きかけを行っている。http://www.jatan.org

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

プレスリリース:日清食品株主総会でアピール「2030年まで問題あるパーム油を使い続けないで! 」(2021/6/25)

〜日清 持続可能なパーム油100%、国内即席めんは「2025年」と約束 
ただしグローバル目標は2030年度で据え置き〜

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日25日、日清食品ホールディングスの第73期定時株主総会に参加し、株主に向けて、同社にパーム油調達目標「2030年度に持続可能パーム油100%達成」(注1)の前倒しを求めるよう、会場前でアピールしました。また、総会で経営陣に目標の大幅な前倒しを求めたところ、国内即席めんについては「2025年に100%を達成」するとの回答がありました。しかし、グループ全体のグローバル目標が据え置きになっているとして批判しました。

RANと「ウータン・森と生活を考える会」のスタッフとボランティアは、会場のホテルニューオータニ大阪前で「日清さん、2030年まで問題あるパーム油を使い続けないで! 」と書かれたバナーを掲げ、熱帯林保護、生態系保護、人権尊重における問題を先送りしないよう訴えました。RANは2019年にインドネシアで現地調査を行い、日清食品を含む大手消費財企業が、スマトラ島の貴重な熱帯低地林「ルーセル・エコシステム」で熱帯林および泥炭地破壊や土地紛争を引き起こしていた現地企業からのパーム油を利用していた複数の搾油工場が日清食品のサプライチェーンに含まれていたことが明らかになっています(注2)

レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表の川上豊幸は、総会で株主として発言し、「日清食品は2030年度までに持続可能なパーム油のみを調達するという目標を掲げていますが、他のグローバル企業は2020年を森林減少阻止の目標にしていました。達成できなかったものの、目標年を2022年や2023年に変えて取り組んでいる企業もあり、日清食品の取り組み状況は大きく見劣りします」と、目標の前倒しを求めました。

それに対して日清食品は「持続可能なパーム油100%については、国内即席めんの目標を2025年度とし、 国内即席めん以外のグループ全体のグローバル調達についての目標年は2030年のままです」と回答しました。

RAN川上は「日清食品は株主総会の場で、国内即席めんのパーム油調達2025年までに100%持続可能にすると約束しました。これは改善といえます。ただ、即席めん以外の国内調達や、米州および欧州、アジアで展開するグループ全体の目標は2030年度のままで、問題が先送りになる懸念は払拭されていません。また、これらの目標をどのように達成するかといった見通しや実施計画の内容、そして目標達成の確認方法も不明確です。グローバルカンパニーの対応としては不十分です」と批判しました。

日清食品は昨年8月、同社ウェブサイト「持続可能なパーム油調達コミットメント」でパーム油方針強化を公表しました。方針には責任あるパーム油生産に欠かせない国際基準である「森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ」(NDPE:No Deforestation、No Peat、No Exploitation)に沿った項目が含まれ、森林破壊や森林火災、そして炭素を豊富に含む泥炭地開発の禁止、また先住民族および地域住民の権利尊重と土地権侵害の禁止が明記されています(注3)

一方、日清食品が調達している「持続可能なパーム油のための円卓会議」(RSPO)認証パーム油は「マスバランス方式」で、生産地の追跡ができない問題のあるパーム油も混合されています。同社は「持続可能なパーム油100%」について、「RSPO認証パーム油の調達に加え、独自アセスメントにより持続可能であると判断できるパーム油のみを調達する」と説明しています。しかし「独自アセスメント」の説明は少なく、RANとしては、同社は供給業者の方針遵守状況を監視し、独立した第三者機関による検証を行う必要があると考えます。

RANはオンライン署名「日清食品さん、2030年まで、問題あるパーム油を使い続けないで!」を昨年11月から実施し、日清食品に目標年の前倒しを求めています(注4)。これからも引き続き消費者の方々とともに声を高めていきます。

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注1)日清食品ホールディングス「地球のために、未来のために。環境戦略『EARTH FOOD CHALLENGE 2030』始動!」、2020年6月9日

注2)RANプレスリリース「日清食品を東京五輪調達コード違反で通報 〜ライセンス商品のパーム油について〜」(2020/7/1)

※「ルーセル・エコシステム」内シンキル・ベンクン地帯では、以下の環境・社会面での事例がRANの調査で明らかになっています。
1) 「ラワ・シンキル野生生物保護区」内での違法農園開発
2) 生態系を保全せず、また泥炭地や天然林を含む環境上重要な地域の適切な保全をせずに熱帯林破壊を行なっている農園企業からの調達
3) 農園企業による地域住民の土地権侵害、など

日清食品ホールディングス株式会社「2020年7月 当社商品の原材料(パーム油)調達に関する指摘について」、2020年8月

RANの通報した日清食品製品は東京五輪ライセンス商品ではありませんでしたが、日清食品のパーム油サプライチェーンに、環境・社会面での問題が指摘されている複数の搾油工場が含まれていたことが確認されました。

注3) RANプレスリリース「日清食品、パーム油調達で森林破壊・泥炭地開発・搾取ゼロを約束」(2020/8/20)

NDPEについては、以下、日清食品ホールディングス「持続可能な調達:持続可能なパーム油調達コミットメント」より抜粋

日清食品グループは、NDPE (No Deforestation、No Peat、No Exploitation=森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ) を支持し、取引先等のステークホルダーの協力を得て、パーム原産地の環境と労働者の人権に配慮して生産されたことが確認できるパーム油を調達します。

●保全価値の高い (HCV: High Conservation Value) 地域および炭素貯蔵力の高い (HCS: High Carbon Stock) 森林の保護、森林破壊ゼロ
●深さに関わらない泥炭地の新たな開発禁止
●植栽や土地造成、その他開発のための火入れ禁止
●先住民族・地域住民の権利尊重・土地権侵害の禁止
●RSPO (持続可能なパーム油のための円卓会議) が定める「原則と基準」の遵守
●農園まで含めたトレーサビリティの確認

注4)RANプレスリリース「日清食品に新署名開始『2030年まで、問題あるパーム油を使い続けないで!』」(2020/11/13)

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org