サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

プレスリリース:新報告書『生物多様性崩壊をもたらす金融業務』発表〜メガバンクら銀行、森林リスク産品に3070億ドルの資金提供〜(2023/12/7)

森林破壊・生物多様性損失・気候カオス・権利侵害を加速

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部サンフランシスコ、以下、RAN)を含む8団体で構成する「森林と金融」連合は、第28回国連気候変動会議(COP28)で「金融」がテーマである4日、新報告書「生物多様性崩壊をもたらす金融業務:熱帯林破壊を助長する銀行と投資家の追跡」を発表しました。本報告書は、大手金融機関が熱帯林地域における森林破壊、生物多様性の損失、気候変動、人権侵害をいかに助長しているかについて包括的に考察するもので、分析の結果、銀行がパリ協定締結以降の2016年から2023年9月、熱帯林破壊に関係している高リスク林業・農業企業に3070億ドル以上の資金を提供していることを明らかにしました。この結果は、世界の大手銀行と投資家の掲げる森林関連ESG方針が、森林と生物多様性の広範かつ継続的な損失を防止できていないことを示しています(注1)

 

表「森林リスク産品への融資・引受額 上位20銀行」
(2016-2023年9月、単位:百万米ドル)

*森林リスクセクター約300社(東南アジア、ラテンアメリカ、中央・西アフリカ)への融資・引受額、傾向。
日本のメガバンクはみずほ(8位)、MUFG(12位)、SMBC(17位)。

本報告書「生物多様性崩壊をもたらす金融業務:熱帯林破壊を助長する銀行と投資家の追跡」は、世界の熱帯林破壊の大部分を引き起こしている「森林リスク産品」セクターの6品目(牛肉、パーム油、紙パルプ、ゴム、大豆、木材)に携わる約300社の森林部門事業に対する商業資金の流れを概説・分析しています。報告書では、森林リスク産品セクターへの融資・引受と債券・株式保有において、どの銀行と投資家が最も大きな役割を果たしているかを明らかにしています。森林破壊を引き起こすリスクの高い銀行、つまり資金提供額上位30行のなかには、ブラジルやインドネシアなどの熱帯林諸国の大手銀行や、米国、欧州連合(EU)、日本、中国といった輸入および財政的に重要な管轄区域の大手銀行が含まれます。

報告書では同時に、影響の大きいセクターへの投資に適用される方針の内容についても評価しています。100を超える銀行と投資家の投融資方針を、環境・社会・ガバナンス(ESG)関連基準の38項目に基づき採点しています。残念ながら平均評価は100点満点中わずか17点と低く、30点以上の評価を受けた銀行と投資家は20社のみで、50点を超えた銀行はわずか2行でした。森林リスク産品セクターに提供される資金の量と、甚大な森林破壊と権利侵害の防止措置である投融資方針との間に大きな隔たりがあることが明白になりました。

報告書で明らかになったのは、森林リスク産品への資金提供者のトップはブラジル銀行とブラデスコ銀行です。両行は主にブラジルの牛肉セクターと大豆セクターに融資していますが、森林伐採と権利侵害を防止するための最低限の方針しかありません。米ウォール街の巨大金融機関であるJPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ、シティグループは紙パルプやパーム油セクターに多額の資金を提供していますが、各行の森林ESG方針は弱く、森林や生物多様性、人権を保護できていません。バンク・オブ・アメリカは100点満点中22点、シティグループは37点、JPモルガンはわずか15点と評価され、3社とも極めて低い評価となりました。

日本の金融機関は紙パルプとパーム油に多くの資金を提供しています。メガバンクではみずほフィナンシャルグループが約74億ドルと最も多く、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG、約58億ドル)、SMBCグループ(約46億ドル)と続き、3行ともトップ20銀行に入りました(表を参照)。方針評価については、日本の金融機関の平均得点は21点で、インドネシアやマレーシアの金融機関よりも低い評価となりました。日本の金融機関の方針は総じて環境・社会面よりもガバナンスに関して強い傾向にあります。みずほが38点で最も高く、SMBCが36点、野村グループが27点、MUFGが24点、三井住友トラスト・グループ(22点)、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は2点、公立学校教職員共済組合は0点でした(注2)。

また今回の調査結果は、主要な管轄区域において金融機関に強固な規制が適用されることが緊急に必要であることも浮き彫りにしています。報告書は、各国政府と金融機関が、パリ協定第2条1(c)と「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」のターゲット14と15の下で、気候変動と生物多様性に関する公的目標を達成すべく資金の流れを調整する責任を負っていると強調しています。しかし調査データによると、パリ協定締結後の2016年から2023年9月までの間、年間の融資・引受総額と投資総額は多少変動しているものの、森林リスク産品の継続的な生産拡大を促進している資本には減少傾向が見られないことを示しています。

「森林と金融」コーディネーターのメレル・ヴァン・ダー・マークは、「多くの人は、環境犯罪に関与している企業に金融機関が融資することが、ほとんどではないにせよ、多くの地域で法的に問題がないことを知ればショックを受けるでしょう。今回の調査結果は、国連のPRI(責任投資原則)やPRB(責任銀行原則)のような持続可能性イニシアティブに加盟している金融機関や、ネットゼロ(注3)を誓約している金融機関が、これらの目標の達成を不可能にしてしまうような企業に融資を続けているという、明らかな偽善を示しています。金融機関に独自のESG基準を設定するよう任せるだけでは、資金の流れを持続可能なビジネス慣行へ転換させるには不十分です。最終的には各国政府が、社会と私たちみんなが依存している生態系を守るために必要な政策と罰則措置を講じる必要があります」と強調しました。

本報告書は資金の流れを記録し、森林セクター方針を分析することに加え、こうした資金がブラジルのアマゾンやインドネシアの森林とコミュニティに与えている負の影響を示す事例もいくつか紹介しています。今回の調査によって、森林破壊企業4社(JBS、カーギル、ロイヤル・ゴールデン・イーグル(RGE)、シナルマス・グループ)が、社会・環境面での負の影響に広く関係し、長期にわたり常習的に悪質行為を行ってきたにもかかわらず、何十億ドルもの資金を集め続けていることが明らかになっています。4社が関係する社会・環境被害は、何年にもわたって続いているものが多く、多くの記録が残っています。

報告書は結論として、金融規制当局と金融機関が社会と私たち人類が依存している生態系を守るために必要な公正な移行を促進するよう、国際的な公共政策の目標に沿って、資金の流れを調整する緊急措置を講じる必要があると述べています。そのために「森林と金融」連合は金融セクターに、以下の5つの基本原則を採用するよう求めています:1)生物多様性の損失の停止と回復、2)先住民族と地域コミュニティの権利尊重と優先、3)公正な移行の促進、4)生態系の完全性(インテグリティ)確保、5)セクターや課題、金融サービス全般にわたって、気候変動・生物多様性・権利尊重の様々な機関目標と整合させること。

「森林と金融」は、キャンペーン活動や草の根活動、調査活動を行う団体の連合体であり、レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)、TuK インドネシア、プロフンド(Profundo)、アマゾン・ウォッチ、レポーターブラジル、バンクトラック、サハバット・アラム・マレーシア(国際環境NGO FoE Malaysia)、FoE USによって構成されています。

 

注1)報告書全文「生物多様性崩壊をもたらす金融業務(Baking on Biodiversity Collapse)」(英語)https://forestsandfinance.org/banking-on-biodiversity-collapse/

要約版(日本語)

「森林と金融」金融調査方法論(日本語)

『森林と金融』は、東南アジア、ラテンアメリカ、中央・西アフリカにおける紙パルプやパーム油など森林リスク産品への資金流入を包括的に分析したオンラインデータベース。金融商品、銀行・投資機関、国・地域、企業グループ、年、部門別に検索が可能。

  • 対象事業地域:世界三大熱帯林地域である東南アジア、ラテンアメリカ(アマゾン)、中央・西アフリカ(コンゴ盆地)
  • 対象産品:牛肉、パーム油、紙パルプ、天然ゴム、大豆、木材(森林リスク産品)
  • 対象期間:融資・引受は2016年から2023年9月、債券・株式保有は2023年9月時点

注2)方針評価の方法論(日本語英語

熱帯林生物群系における森林リスク産品セクターに関係する大手金融機関100社以上を対象に、環境・社会・ガバナンス(ESG)関連基準38項目を自社の投融資方針に盛り込んでいるかについて評価した。この基準項目は、国際的な合意やベストプラクティス(最良の手法や事例)から導き出したもので、金融機関は取引先や投資先がこれらの基準を満たすよう確保することで、ESG問題への加担を回避することが可能になる。日本からはメガバンク3行、三井住友トラスト・グループ、野村グループ、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)、公立学校共済組合が含まれる。

評価基準38項目の概要: 

  • 環境分野(12項目)森林破壊禁止の誓約、天然林や自然生態系の転換禁止の誓約。泥炭地、湿地、高保護価値(HC)林、保全地域、高炭素貯留(HCS)地域に関する具体的な項目。管理、汚染、農薬、温室効果ガス排出に関する項目など。
  • 社会分野(11項目):土地権の尊重、「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC)に関する権利の尊重、先住民族や地域コミュニティの広範な経済的・文化的権利の尊重。人権デュー・ディリジェンス・プロセス、モニタリング・システム、苦情処理メカニズムの確立。強制労働、児童労働、生活賃金、労働基本権に関する項目など。
  • ガバナンス分野(15項目):融資先企業のガバナンスに関する項目(汚職、租税回避、土地権の合法性の証明、環境・社会影響評価、サプライチェーンの透明性とトレーサビリティ(追跡可能性)、事業管理地の地図など)。金融機関自身のガバナンスに関する項目(取締役会による監督と報酬体系、方針の実施、苦情処理メカニズム、投融資の透明性など)。

評価は森林リスク産品の6品目別、および投融資に関して行われた。これらの詳細な評価は、金融機関の投融資ポートフォリオにおける各産品の相対的な重要性に基づいて加重平均の上、総合評価としてまとめた。

注3)温室効果ガスの排出量を、吸収量や除去量と合わせて、全体で正味ゼロにすること。

 

団体紹介
レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
東京都渋谷区千駄ヶ谷1-13-11-2F
関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

※更新
『生物多様性崩壊をもたらす金融業務:熱帯林破壊を助長する銀行と投資家の追跡』日本語要約版を追加しました(2023年12月15日)

『「森林と金融」金融調査方法論』(日本語)および『「森林と金融」方針評価方法論』(日本語)を追加しました(2024年2月、3月)

ブログ:ボルネオとパプアで森林破壊の新たな動き〜背後にひしめく悪しきプレイヤーたち〜(2023/5/22)

インドネシア北カリマンタンに新巨大パルプ工場 60万ヘクタールの熱帯林が危機に

投稿者:RAN, EPN, Auriga, Greenpeace and Woods and Wayside

インドネシアで新たな森林破壊の脅威が浮上

地球の未来を賭けたギャンブルをしてはならない。リスクが高すぎて、私たちの手に負えないからである。インドネシアでは最近、森林保護に一定の進展が見られるようになったが、無謀な企業行動によって利益を得ようとする人々に対する警戒を怠ってはならない。

インドネシアでは、数十年にわたって大規模なアブラヤシ農園やパルプ材用植林地、伐採による森林破壊が容赦なく拡大され続けていたが、森林破壊を減らすための努力が実を結び始めた。この変化は、原生林地域における新規事業許可の一部停止、森林法のより良い実施、国際的なサプライチェーンから要求された一層高い基準により、もたらされている。

しかし、新しい調査報告書『パルピング・ボルネオ(Pulping Borneo)』(パルプ材に変わるボルネオの森)は、この傾向を脅かす不穏な出来事を暴露している。そのひとつは、インドネシア東部の小さな島、タラカン島に建設中の巨大パルプ工場である。この工場がフル稼働すれば、年間330万トンの木材が破砕されることが予測されている。これは年間でトラック10万台分以上の丸太に相当し、ボルネオとパプアの太古の熱帯林60万ヘクタールが危機に瀕することになる。

熱帯林や周辺に住む先住民族コミュニティ、熱帯林が今も支える驚異的な生物多様性、そして気候の安定やインドネシア自身の気候変動への公約に対する熱帯林の重要な貢献にもかかわらず、企業が減少しつつあるインドネシアの熱帯林から利益を得ようとし続けることに驚くことではない。

しかし注目すべきは、この破滅的なゲームに参加している悪しきプレイヤーたちである。それは、ロイヤル・ゴールデン・イーグル・グループ(RGEグループ)、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、そしてプロクター&ギャンブル(P&G)だ。

写真:Ulet Ifansasti/Greenpeace

「森林破壊のエース」 RGEグループ

トランプの1枚目、つまり最初のプレイヤーは、ケイマン諸島で登記された会社で、タラカン新工場の代表者、フェニックス・リソーシズ・インターナショナル(PT Phoenix Resources International)である。調査の結果、同社はインドネシアで最も裕福かつ最も物議を醸している大物実業家の一人、スカント・タノト氏の支配下にある可能性が高いことが明らかになった。タノト氏はRGEグループの実質的所有者である。

オフショアを通じて、所有権が複数の層から成る複雑な企業構造を構築する企業は珍しくない。この仕組みは、実際に事業を行っている国での税収を大抵の場合は犠牲にして減らし、大企業が税負担を軽減または回避する方法を提供する。それに加えて、企業グループは「シャドーカンパニー(影の会社)」を運営する能力も得られる。「シャドーカンパニー」とは、親会社である企業グループの慎重に管理された対外的イメージに反するような、物議を醸す活動を水面下で行う企業のことである。

RGEグループは、長年にわたりインドネシアの熱帯林を皆伐し、先住民族や地域コミュニティの権利を侵害してきた破壊的な歴史を持つ。しかし2015年以降、RGEグループとその主要構成会社であるAPRIL(紙パルプ会社)、アジアン・アグリ(パーム油生産・精製会社)、アピカル(パーム油加工・販売会社)はいずれも「森林伐採ゼロ」の誓約を含む持続可能性へのコミットメントを強調して宣伝している。RGEグループは、自社の方針は「金銭的関与を問わず、RGEグループが所有、管理、あるいは投資する」すべての企業に対し「例外なく」適用され、「すべての繊維、木材、パルプの第三者供給業者」を含むと主張している。しかし、このコミットメントの信憑性には大いに疑問がある。

「キャッシュの王様」 MUFG 

RGEグループの継続的な拡大の要は、タラカン島の新工場のような資本集約的な事業の資金を銀行に依存していることである。「森林と金融」連合がまとめたデータによると、2016年以降、RGEグループの取引銀行のうち上位15行が、RGEグループの森林セクター事業に合計で50億米ドル以上の融資を行っている。なかでもRGEグループにとって極めて重要な取引銀行のひとつが、日本最大の銀行である三菱UFJフィナンシャル・グループ(東証:MUFG)である。

最近のMUFGの融資に関連して、RGEグループの社長は次のように述べている。 「持続可能性は当社のビジネスモデルの中核であり、サステナブルファイナンス(持続可能な社会を実現するための金融)はRGEにとって進むべき道です。私たちはパートナー銀行からの支援と関心を得ており、2022年に総額16億米ドルの持続可能性に関連した融資を確保しました」。 この声明は、むしろグリーンウォッシュ(訳註:上辺だけの環境配慮アピール)の協定に読める。

MUFGによるRGEグループ企業への多額の資金援助は、「保護価値の高い地域における森林破壊(deforestation)が行われていないこと」を顧客に求めるというMUFG自身の森林セクター方針と矛盾しているように見える。 『パルピング・ボルネオ』報告書は、2015年から2022年にかけて、オランウータンの生息地を含む3万7000ヘクタール以上の自然林を皆伐して得た木材を、RGEグループが関連する別の工場である バリクパパン・チップ・レスタリ(PT Balikpapan Chip Lestari)が加工していたことを明らかにしている。そして2021年には、RGEのパーム油が、スマトラ島の熱帯低地林である「ルーセル・エコシステム」内の原生林を皆伐して栽培されたアブラヤシから生産されたことが暴露されスキャンダルとなっている。他にも問題事例が後を経たないが、残念なことにMUFGからの資金提供は続いている。 

有害な活動につながりのある銀行は総じて、自社のサステナビリティ方針は、幅広い企業グループの中の特定の子会社にのみ適用されると言い訳をする。しかしこのようなあからさまな抜け穴は、森林保護へのコミットメントを事実上無意味なものにしてしまう。また、OECD多国籍企業ガイドラインのような国際基準や、汚職などの問題に関して国際機関が発行したその他の金融基準にも抵触している。

近年、ますます多くの銀行がRGEから手を引いていることは、多くを物語っている。MUFGが掲げる持続可能性へのコミットメントが信じるに値するものなのであれば、MUFGも毅然とした態度でRGEとの関係を断ち切らなければならない。しかし、資金の流れを止めることは解決策の一部に過ぎない。RGEグループや類似するグループの拡大に手を貸した銀行には、被害を受けた地域コミュニティや生態系を救済する責任があるはずである。

写真:北カリマンタン州のタラカン島にあるフェニックス・リソーシズ・インターナショナル社の建設現場、2022年12月 ©️Environmental Paper Network(3°22’57.55 “N-117°31’15.94 “E)

「化粧品の女王」 P&G

次のプレイヤーは消費財企業である。消費財企業は、搾取された土地や人々から調達された安価な原料の需要を牽引する主要な役割を果たしている。例えばプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は、RGEグループのパーム油部門から原料を調達し、最終的に衛生用品や化粧品などの様々なパーソナルケア製品に使用している。P&Gは「森林破壊ゼロ、泥炭地ゼロ、搾取ゼロ」(NDPE)方針を掲げているが、MUFGと同様に不十分で、すべての森林リスク産品に関して取引先企業が関連する企業グループ全体に方針を適用していない。

P&Gは利益を上げ続ける一方で、RGEのような企業グループとのビジネスの代償を、インドネシア全土で森林破壊に立ち向かう地域コミュニティに支払わせている。その事例の一つが、北スマトラ州のコミュニティ「パルガマナン・ビンタン・マリア」に対する、RGEグループの関連企業であるトバ・パルプ・レスタリ(TPL)による土地収奪である。

パルガマナン・ビンタン・マリア」集落は、TPL(紙パルプ生産企業)の操業による影響を受けている数十のバタク先住民族コミュニティの一つである。TPLが収奪した土地は同コミュニティの先祖代々の土地の40%と重なり、その3分の1はすでに同社工場に供給するために産業用パルプ材に転換されている。このプロセスは、コミュニティの十分完全な同意なしに行われた。干ばつの増加や洪水、森林に依存した生活の衰退など、悲惨な影響がすでに生じている。地域コミュニティは組織化して、P&Gのような世界的な消費財企業に対して、TPL社が彼らの慣習林を返還し、先住民族コミュニティを犯罪者扱いする不当行為や脅迫を止めるまで、RGEグループ全体との取引を停止するよう求めている。

破滅的なゲームに終止符を打つ

今、P&GやMUFGのような消費財企業や銀行が、方針の抜け穴を悪用するのを止めるべき時が来ている。国際企業や金融機関のサステナビリティ方針は、森林や泥炭地の破壊、あるいは地域コミュニティや労働者の搾取に関与する企業グループとの取引を禁止しなければならない。そしてその方針は、1)森林リスクがあるセクターにおける全ての産品を対象とし、2)取引先企業が関連する企業グループ全体に適用されなければならない。この二つの要件を持たない方針は全て、消費財企業や銀行が引き起こしている真の被害から意図的に目をそらすための巧妙なごまかしにすぎない。

朗報は、消費財企業や銀行が、顧客や供給業者の企業グループの全容を評価するために、特別に考案された詳細な方法論が存在することである(訳註:『Shining Light on the Shadows(影に光を当てる)』で説明)。この方法論は、アカウンタビリティ・フレームワーク・イニシアティブ(AFI)による「企業グループ」の定義ーー「当事者のいずれかが他方の行動や業績を監督するという関係によって企業が提携する法人の総体」ーーを用いている。 このアプローチは、消費財企業や銀行の方針範囲の基礎となるべきである。

森林破壊に関する課題と解決策は、熱帯林が広大であるのと同じくらい複雑であるが、ひとつ確かなことがある。「森林と森の民の人権を守る(キープ・フォレスト・スタンディンク)」ためには、消費財企業や銀行は「環境に配慮しているふり」をやめ、しっかりとした方針を打ち出し、真剣に取り組む必要がある。陰で森林を切り倒し、地域コミュニティを破壊する企業グループに現金を提供し、契約書を交わすことは「持続可能」とは言えない。 私たちはその行為を実態に即して呼ぶ必要がある。それは「単純明快な不正行為」であると。

*本記事は、英文 ”The Players Behind a New Wave of Deforestation in Borneo and Papua”(2023年5月22日)の和訳版です(2024年2月15日投稿)。

 

プレスリリース:新報告書「森林&人権方針ランキング2022」発表〜日清食品、三菱UFJは低評価 〜 (2022/6/15)

「森林破壊禁止」を約束するも、森林破壊と人権侵害を阻止できず
〜グローバル消費財企業・銀行17社の森林及び人権方針を評価〜

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日15日、新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング2022」(注1)を発表しました。

熱帯林地域で森林破壊のリスクが高い産品に関与している消費財企業と銀行の17社を対象に(注2)、各社の方針と実施計画を森林と人権の二分野で評価・分析した結果、自社サプライチェーンおよび投融資がもたらす森林破壊と土地収奪、地域住民及び先住民族への暴力について適切な措置を講じている企業と銀行は一社もなく、森林破壊と人権侵害を阻止できていないと結論づけました。ランキングではユニリーバが「C」評価で最も高く、日清食品ホールディングス三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は5段階評価で最低ランクの「不可」でした。

RAN「森林と人権方針ランキング2022」〜森林破壊と人権侵害をもたらす企業と銀行〜

本ランキングは、原材料調達と資金提供を通じて森林破壊のリスクが高いサプライチェーンに関与している消費財企業と銀行で、影響力の大きい消費財企業10社と銀行7社を対象に、各社の方針について森林と人権分野の10項目を20点満点で評価しています。通称「森林リスク産品」と呼ばれる熱帯林産品はパーム油、紙パルプ、牛肉、大豆、カカオ、木材製品などです。17社には日清食品、花王、MUFGの日本企業3社が含まれます。合計得点に合わせてA(18〜20点)、B(15〜17点)、C(12〜14点)、D(5〜11点)、不可(0〜4点)で評価しました。

最も取り組みが遅れている「不可」と評価された銀行と消費財企業は以下の8社です。 

●消費財企業: 日清食品(日本)、モンデリーズ、プロクター&ギャンブル(P&G)(ともに米国)

●銀行: BNI(インドネシア)、CIMB(マレーシア)、ICBC(中国)、JPモルガン・チェース(米国)、MUFG(日本)

【森林&人権方針ランキング2022】概要

■調査期間:2022年4月~6月
■調査対象者:大手消費財企業(10社):日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース)、大手銀行(7社):MUFG、JPモルガン・チェース、中国工商銀行(ICBC)、DBS、バンクネガラインドネシア(BNI)、CIMB、ABNアムロ
■調査方法:各社の環境及び人権に関する方針を調査・分析(ウェブサイトなどで公開されている最新版)

■主な森林・人権方針の評価項目(全10項目、各2点)
*2点:方針あり/ 全体に採用、1点:一部に採用、0点:方針・計画なし
●「森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE)採用状況:パーム油や紙パルプなど森林破壊を引き起こす産品事業の生産・投融資に欠かせない国際基準(注3)
●NDPE方針遵守の証明・独立検証
●「森林フットプリント」開示:サプライチェーンや投融資先の事業が影響を与える森林の総面積(注4)
●「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)原則」の実施:先住民族および地域コミュニティの権利尊重(注5)
●暴力や脅迫への「ゼロトレランス」(不容認)方針の有無、など

■全体の評価・傾向

●消費財企業
「合格点」といえる「C」と評価されたのはユニリーバのみでした。この一年、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、花王の各社方針では改善が見られましたが、依然として遅れを取っています。ユニリーバは森林リスク産品のサプライチェーン全体がもたらす影響に対処するために、信頼できる方針を採用している唯一の消費財企業で、森林フットプリント(インドネシア・スマトラ島北部に限定)も公表しています。しかし、グローバルサプライチェーン全体の森林フットプリントの開示を約束している企業は、キャンペーン対象外のネスレのみです。

●銀行
7行全てが「D」または「不可」でした。「不可」と評価されたMUFGJPモルガン・チェースはこの一年でNDPEを採用しましたが、両社とも適用範囲が限定的なことから方針に抜け穴が残っています。同じく「不可」だったマレーシアのCIMBは、NDPE方針の採用を発表したものの、適用範囲や実施時期について言及していないことからこの項目で得点を得られませんでした。RANは、消費財企業と銀行が森林破壊や人権侵害を撲滅すると主張しても、NDPE方針の遵守を保証するために信頼でき、かつ独立した検証メカニズムがなければ信用に値しないと警告しています。

■日本企業の評価

 ●総合点は日清食品MUFGが不可(ともに4点)で、花王はD(6点)でした。
 ●3社ともNDPE方針を採用するも、適用の範囲については評価が分かれました。花王は全分野の供給業者について企業グループ全体で適用対象としたことから1点の評価を得ました。しかし日清食品MUFGは取引先および融資先のグループ全体を対象とせず、パーム油事業のみに適用するなど限定的であることから得点はゼロ点でした。
 ●「森林フットプリントの開示」については、日清食品花王が実施を表明したのみで、開示そのものは遅れていることから得点は1点でした。
 ●昨年に続き「FPIC原則の実施」、「NDPE方針遵守の証明」については各社とも得点がありませんでした。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表の川上豊幸は「花王は方針を強化し、昨年の『不可』から『D』評価にランクを上げました。改善の要素として、取引先に企業グループ全体での『森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止』(NDPE)の方針採用を義務付けることとなった点があげられます。これは重要な進展です。一方、日清食品とMUFGは『不可』評価のままでした。大きな理由の一つとして、両社ともNDPEの適用範囲が限定的なことがあげられます。 例えばMUFGは、融資先の企業グループ全体にNDPE方針を適用していなく、かつ、パーム油の農園事業に限定しています。MUFGは、融資の使途が『農園事業ではない』として、持続可能なパーム油の認証機関であるRSPOから除名されたインドネシアのインドフード社への融資を継続しています。MUFGは企業グループとしての評価と方針遵守の確認、パルプ産業を含めた他セクターへのNDPE方針の拡大が課題です」と指摘しました。

「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」キャンペーンは2020年4月の開始以来、評価分析を毎年実施し、今年で3回目の発表となります。RANはさらなる森林破壊と人権侵害を防ぐために、森林破壊と人権侵害を行う大手アグリビジネス企業と林業企業に対して大きな影響力をもつ消費財企業と銀行に実質的な行動を早急に取るよう要求を続けます。

 

「森林&人権方針ランキング2022」説明資料

【日本企業各社の点数と評価概要、改善点】

日清食品(不可:4点、昨年2点):グループ全体の調達方針に「NDPEを支持する」と記載しているが、消費財企業10社ではP&G、モンデリーズと並んで「不可」評価だった。改善のためには、グループ調達方針に供給業者が遵守すべきNDPE項目を明記し、供給業者にNDPE採用を義務付ける必要がある。今年5月、パーム油の搾油工場リストを公開したことは一歩前進といえるが、花王や欧米の大手消費財企業はすでに公開している。森林破壊のモニタリングやデューデリジェンスが開示された。また森林フットプリントの開示についても「順次導入」すると公表したが、実施時期の言及はなかった。こういった情報開示を通して、供給業者および生産地の現状把握と問題対応のための体制強化を進める必要がある。なお、持続可能なパーム油100%調達を2030年までに達成するという目標は大幅な前倒しが必要。

 

花王(D:6点、昨年3点):今年5月、「2022年の活動 花王の持続可能な調達への考え方」で、全ての森林リスクコモディティのサプライヤーとそのグループ企業に対して、NDPE方針採用の義務化を明記した。また、サプライチェーンにおける人権擁護者に対する暴力や不当告発、脅迫などを容認しないことを明記した。また、森林フットプリントの2023年実施に向けて準備を進めていることも公表した。今後はさらなる方針強化とともに、これら方針遵守のためにモニタリング、FPIC確認を含めた遵守の検証、問題事例への対処が求められる。

 

MUFG(不可:4点、昨年4点)今年4月の環境・社会方針の改定では、パーム油事業へのファイナンスをRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証取得企業に限定した。前年まではインドネシア政府とマレーシア政府の認証も認めていたことから、より厳格化された。投融資先への「NDPE遵守の公表」の要求は2021年4月の方針改定で追加されたがパーム油の農園企業に限定され、パーム油購入企業や、紙パルプや大豆など他の森林リスク産品セクターには適用されなかった。この点は、今年の方針改定で見直されることはなかった。MUFGはパーム油セクターへの融資・引受額が東南アジア以外の地域に本社を置く銀行では最大で、紙パルプ産業にも多額の融資を提供している。今後、NDPE方針の適用拡大と、投融資先にNDPE方針遵守のための独立検証を求めていくことが課題になる。

 

【17社の消費財企業・銀行の影響力について】

評価対象となった消費財企業と銀行の多くは「森林破壊禁止」と先住民族の権利及び人権尊重の達成のために、特に国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)をきっかけに、様々なコミットメントと方針を取り入れてきた。

しかし「森林と金融データ」によると、パリ協定採択以降、評価対象銀行は合計で、インドネシア、コンゴ盆地、アマゾンの三大熱帯林地域で操業する森林リスク産品企業に少なくとも225億米ドルを提供した。最も多額の資金提供をしたのはJPモルガン・チェースで69億米ドル、次いでMUFGが40億米ドルだった。同様に消費財企業各社は、地域コミュニティの慣習上の権利を侵害して森林破壊を起こしている生産者から調達を続けている供給業者との取引を停止していない

評価対象企業・銀行で、顧客や供給業者、投融資先企業に「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)原則」の実施証明を要求している企業はない。現時点では、先住民族と地域コミュニティが自らの慣習地での開発を拒否する権利が尊重されていることを確認するための手続きを公表している銀行と消費財企業はない。

【レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表の川上豊幸コメント】

「森林保護は気候と生物多様性の危機を回避する、最善かつ自然の解決策です。今、かけがえのない熱帯林を守るために抵抗している地域住民や先住民族が激しい報復に直面しています。一握りの消費財企業と銀行は熱帯林破壊、土地収奪、人権擁護者の殺害に大きな影響力があるにもかかわらず、それを止めるための取り組みは遅れています。企業の活動が森林や地域コミュニティに与える影響について責任を転嫁し続ける時間は、世界にはもう残されていません。やるべき課題はたくさん残されています」

注1)新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング2022」(日本語版)
方法論
さらなる詳細は英語版を参照ください。

注2)消費財企業(10社):日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース

銀行(7社):MUFG、JPモルガン・チェース、中国工商銀行(ICBC)、DBS、バンクネガラインドネシア(BNI)、CIMB、ABNアムロ

「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」は、RANが2020年4月から展開しているキャンペーンです。熱帯林破壊と人権侵害を助長している最も影響力のある上記の消費財企業・銀行17社に実際の行動を起こすよう要求しています。注3)〜注5)の参考資料としてもご参照ください。

注3)NDPEはNo Deforestation、No Peat、No Exploitationの略。森林減少や劣化に対しての保護(炭素貯留力の高い<High Carbon Stock:HSC>森林の保護、保護価値の高い<HCV: High Conservation Value>地域の保護)、泥炭地の保護(深さを問わず)、人権尊重、火入れの禁止といった要素を含む方針を公表している企業は「あり」の評価を得る。

注4)「森林フットプリント」とは、森林を犠牲にして生産される「森林リスク産品」の消費財企業の利用や、銀行による資金提供によって影響を与えた森林と泥炭地の総面積をいう(影響を与える可能性がある面積も含む)。消費財企業と銀行の森林フットプリントには、供給業者や投融資先企業が取引期間中に関与した森林および泥炭地の破壊地域、さらに供給業者や投融資先企業全ての森林リスク産品のグローバルサプライチェーンと原料調達地でリスクが残る地域も含まれる。森林および泥炭地が先住民族や地域コミュニティに管理されてきた土地にある場合は、その先住民族と地域コミュニティの権利への影響も含む。

参考:RANプレスリリース「新報告書『森林フットプリント評価 2021』発表〜インドネシア・ボルネオ島の森林と地域コミュニティへの影響について、大手消費財企業10社の開示状況を評価〜」2021年10月22日

注5)「FPIC」(エフピック)とは Free, Prior and Informed Consentの略。先住民族と地域コミュニティが所有・利用してきた慣習地に影響を与える開発に対して、事前に十分な情報を得た上で、自由意志によって同意する、または拒否する権利のことをいう。

注6)「ゼロトレランス・イニシアティブ」ウェブサイト

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RANは、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

※更新
・調査概要として調査期間、調査対象者、調査方法を追記しました(2022年6月17日)

NGO共同プレスリリース:MUFG株主提案、23%の支持を獲得(速報値)(2021/6/29)

~株主のプレッシャーがMUFGの気候対策を動かす~

MUFG株主総会に気候変動株主提案を提出した気候ネットワークと個人株主 ©︎RAN

気候ネットワークおよび3人の個人株主が三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)に対して提出した株主提案は、可決に必要な3分の2の株主の支持を得ることはできませんでしたが、株主らがMUFGに対し、気候変動に対する明確な警告を示し、投資家による圧力の影響を今一度指し示す結果となりました。速報値では23%の株主の賛成が得られました。

本日のMUFGの株主総会の議案の一つとして採決された株主提案は、気候ネットワークおよびマーケット・フォース、レインフォレスト・アクション・ネットワーク、350.org Japanの3人の個人株主による共同提案であり、パリ協定の目標に整合させるために必要な指標と目標を備えた計画を決定し、開示することを求めたものです。

本株主提案は、Federated Hermes EOSを含む、資産運用総額で数兆ドルに及ぶ機関投資家からの支持を得たことに留まらず、MUFGが2050年までの投融資ポートフォリオの温室効果ガス排出量のネットゼロを約束する「MUFGカーボンニュートラル宣言」の発表につながる動きを後押ししました。

国際的な大手議決権行使助言会社であるインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は、株主総会に向けた助言の中で、「銀行の動きは外部からのプレッシャーと無関係ではないように見えることは指摘しておきたい。MUFGは、気候ネットワークが今年3月に株主提案を提出した後に、カーボンニュートラル宣言を発表しており、グループからのプレッシャーがこの動きを後押ししたと考えられる。このことは、気候ネットワークのMUFGに対する働きかけ(エンゲージメント)が既に実を結んでいることを示していると言えるだろう」と述べています。

 気候ネットワークの国際ディレクター平田仁子は、「大手議決権行使助言会社が会社提案を支持したにもかかわらず、4分の1に迫る23%の株主が私たちの提案を支持したことは大変心強い結果です。投資家が、今のMUFGの方針ではまだ不十分であることを突きつける結果になったたと考えます。今日の議決権行使は、経営者をさらに追及するものであり、MUFGに対するプレッシャーは今後一層高まると考えています。」

 「また、気候危機の物理的・経済的影響は明らかであり、投資家は、MUFGに対し、さらに迅速に大胆に行動することの必要性を求めていくことになるでしょう」と述べています。

MUFG株主総会会場前で株主提案について説明する気候ネットワーク国際ディレクター 平田仁子氏 ©︎Taishi Takahashi

アジアの主要銀行で化石燃料に最多の額を提供しているMUFGの現状を踏まえると、提案者は5月17日に発表されたネットゼロ宣言を歓迎しながらも、MUFGが以下のような欠陥を残していると考えます。

  • ●パリ協定と整合するために必要な短期・中期の目標が定められておらず、「2030年の中間目標は2022年度に設定・公表する」と表明するに留まっている。すべての投融資に伴う排出量の測定および開示を行うとの明確なコミットがなされていない(スコープ3)。
  • ●第26回 国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)議長の最近の要求に反して、石炭に対するファイナンスのフェーズアウト(段階的廃止)目標を定めていない。
  • ●石油・ガスの事業の拡大、または森林と泥炭地の破壊といった非常に炭素集約度の高い事業に対するファイナンスを止めるという包括的なコミットメントは出されていない。

350.org Japan 代表の横山隆美は、「MUFGが新しい方針を公表したことにより、一部の株主にとっては、銀行が正しい方向に進んでいることが一時的には保障されたわけですが、本日の投票は大きな不満と懸念を残すものとなりました。私たちの議案が否決されたとはいえ、相当数の賛成票があった訳であり、コーポレート・ガバナンス・コードが示す通り、MUFGは株主の賛成の理由や多くの票が集まったことの分析を行い、株主との対話をさらに深めることが必要です」と述べています。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)日本代表の川上豊幸は「MUFGは化石燃料への資金提供で世界6位の銀行であり、森林破壊をもたらす産品への資金提供でもトップ銀行の一つです。そのことを考えれば、現在の約束では自社の投融資による膨大な炭素排出への影響力に対して適切に対処ができていません。この株主の賛同への動きをMUFGは真摯に受け止めて、迅速に対処することが必要です」 と指摘しています。

マーケット・フォースのエネルギーキャンペーン担当である福澤恵は、「世界は急速にクリーンエネルギーへと移行していますが、MUFGは過去にこだわり続けています」「投資家にはプレッシャーをかけ続ける責任があり、MUFGが言葉だけでなく真の行動へと確実に移行するために、今後も引き続き厳しい目を向けていくことが重要です」と述べました 。

MUFG株主総会後の記者会見 ©︎350 Japan
MUFG株主総会会場前でのアピール行動 ©︎ Taishi Takahashi
MUFG株主総会会場前でのアピール行動に参加した若者たち ©︎ Taishi Takahashi
MUFG株主総会会場前でのアピール行動に参加した若者たち ©︎ Taishi Takahashi

株主総会前アクション・記者会見の写真はこちら

参考:NGO共同プレスリリース「三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)へ気候変動に関する株主提案を提出〜昨年のみずほFGに続く日本での株主アクション〜」(2021/3/29)

英語のプレスリリース:“Shareholders send MUFG a stark climate warning”

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

気候ネットワーク 平田仁子 E-mail: khirata@kikonet.org
マーケット・フォース 福澤恵 E-mail: megu.fukuzawa@marketforces.org.au
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN) 関本幸 E-mail: yuki.sekimoto@ran.org
350.org Japan 渡辺瑛莉 E-mail: eri.watanabe@350.org

NGO共同プレスリリース:三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)へ気候変動に関する株主提案を提出(2021/3/29)

〜昨年のみずほFGに続く日本での株主アクション〜

2021年3月29日

特定非営利活動法人 気候ネットワーク
マーケット・フォース
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)
国際環境NGO 350.org Japan

本日、気候ネットワークおよび個人株主3名は、三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)の株主として、同社に対してパリ協定の目標に沿った投融資を行うための計画を決定し、開示することを求めた株主提案を提出しました(注1・注2) 。これにより、投資家がMUFGの投融資にかかる気候変動リスクを適切に評価し、投資判断できることを確保すること、またMUFGが気候変動リスクを削減し、企業価値を維持向上することを目的としています。
 
MUFGはこれまでに、環境方針やサステナビリティに関する方針を定め、石炭火力事業へのプロジェクト・ファイナンスをゼロにする方針等を掲げています。しかし、今なお国内外の化石燃料や森林破壊に関連する事業に多額の資金提供を続けており、石炭産業への過去2年の融資総額は世界3位、化石燃料部門への過去5年の融資・引受額は世界6位、パーム油産業への過去4年の融資・引受額は世界7位と、気候変動を加速する事業に世界最大規模の融資・引受を行っています。現行の方針では、1.5℃目標の達成に不可欠な2050年ネットゼロを実現できず、パリ協定の目標とは全く整合していません。MUFGが真にネットゼロを達成しようとするならば、例外なく化石燃料や森林破壊への投融資をやめなければなりません。

近年、海外の金融機関らによる石炭火力発電事業への支援中止や投融資からの撤退が進んでいます。最近では、英HSBCが、2040年までに石炭火力発電や発電用石炭開発への融資を段階的に廃止する方針を決定し、全セクターの中短期戦略を含む戦略の策定・公表とその進捗報告について5月の株主総会で提案すると報じられています。また、米シティグループは、石炭火力の拡大を計画する新規顧客への融資を2021年以降引き受けず、今後20年間でほぼすべての石炭火力企業への融資を段階的に廃止する計画を記した方針を、米国大手銀行として初めて発表しています。

気候ネットワークの国際ディレクターの平田仁子は、「MUFGのポリシーは幾分かの強化が図られていますが、現状ではパリ協定と全く整合していません。特にコーポレートファイナンスを含む全ての投融資をパリ協定に整合させるには、会社として、短期及び中期の目標を含む経営戦略を決定し、早々に実質的な行動を起こし、気候変動に伴う投資リスク・評判リスクを招かない対応が必要です。」と述べています。

マーケット・フォース(Market Forces)エネルギーキャンペーン担当である福澤恵は、「MUFGが化石燃料へのファイナンスから軸足を移しきれていないことは、世界的な競争相手行の方針や行動の転換が急速に進む中、株主にとって大きな不安材料です。2040年までに全世界の石炭火力発電所の稼働を停止させなければならない中、プロジェクト・ファイナンスに限定した残高ゼロ目標は不十分です。MUFGは投融資先企業が2040年までに脱石炭を達成するために、どのように支援するか計画を示すべきです。」と指摘しています。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)日本代表である川上豊幸は、「MUFGは、森林破壊や土地紛争といった問題を抱える『紛争パーム油』に最も多額の資金を提供している銀行の一つです。MUFGは膨大な量の炭素を貯留する熱帯林と泥炭地の破壊に資金提供という形で加担しています。しかし、気候変動への影響については一切開示していません。 MUFGは森林破壊の阻止を含む1.5℃目標に整合する方針を示す必要があります。」と強調しました。

また、350.org Japan代表である横山隆美は、「気候危機解決には、パンデミックへの対応と同様に、科学者の知見を取り入れることや、全てのセクターを取り込んだ迅速かつ大胆な対策が必要です。気温上昇を1.5度に抑えるのは時間との勝負であり、ネガティブ・エミッションなど今はない技術に頼ることは若い世代や将来世代に対する責任放棄と同じことです。経済に対し非常に大きな影響力を持つMUFGは、気候危機問題に対し国連責任銀行原則に基づき、責任を持って解決に取り組む必要があります。」と訴えています。 

気候ネットワークおよび共同提案者3名は、MUFGに対する本提案に、多数の投資家の方々からの賛同を求めていく予定です。

株主提案

三菱UFJフィナンシャル・グループへの株主提案(日本語PDF)
The Proposal for MUFG(英語PDF)
投資家向け説明資料:三菱UFJフィナンシャル・グループへの株主提案(日本語PDF)
Investor Briefing:Shareholder resolution filed with MUFG(英語PDF)

注1)本提案は、昨年の気候ネットワークによるみずほフィナンシャルグループに対する株主提案に続く、日本の金融機関に対する気候変動株主提案になります。

注2)豪NGOマーケット・フォース、米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク、国際環境NGO 350.orgは本提案を支持し、それぞれ、エネルギーキャンペーン担当の福澤恵、日本代表の川上豊幸、日本支部代表の横山隆美が個人株主として共同提案に参加します。

連絡先

気候ネットワーク www.kikonet.org
東京事務所:TEL:+81-3-3263-9210
担当者:平田仁子 E-mail: khirata[@]kikonet.org TEL: 090-8430-7453
担当者:鈴木康子 E-mail: suzuki[@]kikonet.org

マーケット・フォース(Market Forces) www.marketforces.org.au
担当者:福澤恵 E-mail: megu.fukuzawa[@]marketforces.org.au
担当者:鈴木幸子 E-mail: sachiko.suzuki[@]marketforces.org.au

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)japan.ran.org
担当者:関本幸 E-mail: yuki.sekimoto[@]ran.org

350.org Japan world.350.org/ja/
担当者:横山隆美 E-mail: taka.yokoyama[@]350.org TEL: 090-4668-6653
担当者:渡辺瑛莉 E-mail: eri.watanabe[@]350.org

ブログ:バイデン政権、気候変動対策強化〜「キーストーンXL」パイプライン認可取り消しで高まるメガバンクの政治リスク〜(2021/1/29)

責任ある金融 シニア・キャンペーナー ハナ・ハイネケン

写 真 : Kayana Szymczak; Bonnie Chan / RAN

1月20日、ジョー・バイデン氏が米大統領に就任した。就任直後にパリ協定に復帰し、「キーストーンXL」パイプライン建設認可の取り消し、そして北極圏国立野生生物保護区における石油・ガス鉱区のリース権発行を停止した。アメリカの気候危機対策強化の始まりだ。就任から1週間がたった27日には、気候変動を「国家安全保障と外交政策の中心」とする考えのもと、複数の大統領令に署名した。

実は、このような動きは日本のメガバンクに大きな影響を及ぼす。なぜならば、3メガは「キーストーンXL」パイプラインをはじめとするアメリカの化石燃料産業に膨大な資金を提供しているからだ。

メガバンクが支える化石燃料産業

レインフォレスト・アクション・ネットワーク他が行った調査によれば、3メガは世界の化石燃料産業、そしてアメリカでの石油・ガス開発や輸送等のインフラ建設を大きく支えている。

●2015年12月に採択されたパリ協定以降、3メガは化石燃料産業に計約2,814億ドルの融資・引受を2016年から2019年の間に提供した。そして、この資金の約3分の1は化石燃料事業を拡大している上位100社の企業に提供された。邦銀では三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の資金提供額が最も大きく、世界では6位だった。みずほフィナンシャルグループは9位、SMBCグループは20位だ。

●バイデン政権が就任初日にブレーキをかけたオイルサンドと北極圏の石油・ガス産業では、3メガはトップ30の事業社、そして関連するパイプライン企業に合計でそれぞれ約13億ドル、約18億ドルの融資・引受を同期間に提供した。邦銀ではMUFGが最大の資金提供者だった。

●3メガは、アメリカのシェールガス産業の上位40社に計384億ドルの融資・引受を同期間に提供した。ここでも邦銀ではMUFGが最大の資金提供者である。シェールガス産業は気候危機を悪化させているメタン排出の要因の一つで、パイプラインなどの設備から漏れ出すメタンが問題視されている。

写 真 : Jiri Rezac / G R E E N P E A C E

「キーストーンXL」パイプライン建設の取り消し、高まる政治リスクとESGリスク

赤:「キーストーンXL」パイプライン(TCエナジー社:停止)、オレンジ:「ライン3」パイプライン(エンブリッジ 社)、青:トランス・マウンテン(当初はキンダー・モルガンが計画、2019年にカナダ連邦政府へ売却)、黒:アルバータ油田、フロンティア採掘事業(テック・リソーシズ:停止)
出典www.ran.org/funding_tar_sands/

「キーストーンXL」パイプライン(赤線)はTCエナジー社(旧トランス・カナダ社)が計画する、カナダ・アルバータ州のオイルサンド油田から米国ネブラスカ州を通り、メキシコ湾岸の製油所を結ぶ長さ1,179マイルのパイプラインだ。

日量83万バレルの石油を輸送し、年間二酸化炭素排出量は新規石炭火力発電所50基分に相当する影響を及ぼすといわれている。先住民族の権利や水環境、気候に深刻な影響を及ぼす事業で、10年以上もの間、先住民族、牧場主や農家、環境保護活動家、若者など様々な人々が建設に抗議してきた。ESG(環境、社会、企業統治)リスク、特に気候リスク、先住民族の権利侵害リスク、原油流出事故リスク、評判リスクなどが高いことが指摘されてきた。

また、この事業は政権の気候変動対策によって対応が変わり、事業の先行きが不透明になることから政治リスクも高い。2015年11月、 オバマ大統領は気候変動問題を理由にこの事業を却下したが、2017年にトランプ前大統領の元で復活。今回の取り消しの主な理由も気候変動問題だった。

MUFGをはじめ日本の3メガバンクは、このパイプライン事業の建設企業であるTCエナジー社を融資と引受で支えてきた。MUFGの同社への石燃料関連融資・引受額は6億2500万ドル(2016年〜2020年9月末)で、世界9位、邦銀では最多である。MUFGは2020年12月時点で3件の融資に参加し、社債発行1件の引受銀行であった。

今回の認可取り消しによってTCエナジー社は建設を中止したため、メガバンクの資金は座礁資産になったのではないだろうか?

写 真 : Joe P. Dick/ Shooting Stars Inc.

次の課題:「ライン3」パイプライン

気候変動及び先住民族権利問題の観点でキーストーンXLと同じく深刻であることから、「ライン3」オイルサンド・パイプライン(オレンジの線)の取り消しが次の重要課題である。

写 真 : March on Enbridge

エンブリッジ社が建設している「ライン3」パイプラインは、既存のパイプラインを直径の大きいパイプに交換し、カナダのアルバータ州からミネソタ州経由でウィスコンシン州まで、日量76万バレルのオイルサンド原油輸送を計画している。

既存のライン3を安全に廃止することなく現場に放置し、昨年12月からミネソタ州での建設が始まったが、原油流出事故のリスクや先住民族の権利侵害リスク、法的リスクや評判リスクが非常に高い。特に先住民族の反対は激しく、ホワイトアース族とレッドレイク族居留地の部族が主導して3部族が訴訟を起こした。建設現場で逮捕されるなど、今も激しい抵抗が続いている。

また、建設労働者の大半を男性が占めるため、「男のキャンプ(man camps)」と呼ばれる労働者向け仮設住宅が建てられ、先住民族の女性への暴力や人身売買にもつながっていることが問題視されている。加えて、労働者による新型コロナウイルスの感染拡大リスクも指摘されている。

「ライン3」パイプライン事業にも3メガは関与し、このプロジェクトでもMUFGの資金提供額は邦銀で最も多い。エンブリッジ社へのMUFGの化石燃料関連融資・引受額(2016年~2020年9月30日)は26.8億ドル。そのうち、2021年に満期を迎える総額18億ドルの融資1件の主幹事銀行、融資他5件の参加銀行、そして社債発行1件の主幹事会社の役割を担っている。

動画:The Years Project「『ストップ! ライン3』石油パイプラインがもたらす弊害」

メガバンクに求められること

3メガは、北米パイプライン事業で上記のような重大リスクを抱えていることは一切開示していない。また残念ながら、日本ではほとんど知られていない。

3メガは気候変動対策に真剣に取り組むのであれば、このような問題に目を向け、エンブリッジ社とTCエナジー社との関係を断ち切り、先住民族の権利を尊重していない事業や企業、そしてオイルサンド生産拡大事業とそれを進める企業への資金提供を直ちに停止することが必要だ。

化石燃料全体への支援の段階的廃止に向けた第一歩として、インフラ事業も含めオイルサンド部門全体との取引の段階的廃止を約束することが求められる。

写 真 : Kayana Szymczak; Bonnie Chan / RAN

【更新】動画:The Years Project, “Why Enbridge’s Line 3 Pipeline Project Is Bad for Everyone” を日本語字幕版に差し替えました(2021年4月13日)

参考:RANブリーフィングペーパー『北米パイプライン「ライン3」と「キーストーンXL」の黒幕〜オイルサンド・パイプライン建設を支援する世界の銀行』、2020年12月16日発行