サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

ブログ:インドネシアとブラジルの森林火災をあおる銀行〜新型コロナによる複合リスクの脅威〜(2020/11/6)

責任ある金融 シニア・キャンペーナー ハナ・ハイネケン
(本ブログはRIEF環境研究機構に9月19日に寄稿したものです。11月6日更新)

写真:ヘリコプターによる消火活動と伝統的な高床式住居に迫る火の手、インドネシア オガン・コメリング・イリル地区ペダマラン小地区 画像提供:Nopri Ismi/モンガベイ・インドネシア

今年もまた、壊滅的な森林火災の季節がやってきた。すでにインドネシア、ブラジル、中央アフリカ地域の熱帯林、ロシア・シベリアの北方林、北米西海岸の温帯雨林を含む森林などでは火災が猛威を振るっている。火災は森林生態系の荒廃や気候変動を加速させている。こうした中、幸いなことに、ますます多くの銀行や機関投資家が火災に関与している企業や国家政府に対して影響力を持ち、森林火災への対処を迫ることができると自覚している。しかし、こうした銀行や投資家の取り組みは十分なのだろうか?

ブラジルでは、火災は土地投機や森林地帯への農地拡大と大きく関係している。牧草地や大豆農園の造成のために、土地を更地にする目的で火が放たれる場合が多いのである。そして、こうした火災の多くは未登録の土地で土地収奪の一環として発生しているため、犯人の特定が難しい。しかし森林リスク産品のESG(環境、社会、ガバナンス)リスク分析を専門とする研究イニシアチブであるチェーン・リアクション・リサーチの調査によると、2019年のブラジルの火災は、全体の50%近くが食肉加工会社のJBS、ミネルバ、マルフリグの買い付け候補地域で発生していることが判明している。サンタンデールとHSBCは、この食肉加工会社3社の上位金融機関に含まれる。昨今、火災は激しさを増している

写真:ハミルトン・モウラン副大統領とサンタンデール・ブラジル銀行の取締役会のメンバーとの会談(2020年7月23日、ブラジリアにて)、画像提供:Romério Cunha/VPR (ブラジル共和国副大統領府)

2019年にブラジルのアマゾン全域で火災が急増したことを受けて、16兆ドルの資産を有する国際投資家グループ(PRI及びCERESに署名している230機関)が声明を発表し、ボルソナロ大統領政権に問題への対応を迫った。森林火災への対応として声明だけでは不十分だが、金融部門に自らの役割を自覚してESG課題に対応することが求められていることを示している。

インドネシアではアブラヤシ農園やパルプ材植林地の拡大が原因で発生した火災に対し、ブラジルの場合のような投資家の介入は残念ながらなかった。農園企業は植え付け前の残渣除去、施肥、除草、害虫駆除の費用を節約し、違法で安価な整地方法として火を利用している。この持続不可能な農園開発が炭素を豊富に含む泥炭地で行われ、その相乗効果で火は往々にして手に負えないほど燃え広がり、何週間も鎮火できないこともある。気候への影響面でも、火災で生じる温室効果ガスの排出量はインドネシアがアマゾンを大幅に上回った

森林火災と新型コロナ:致命的な組み合わせ

こうした火災に由来する有毒な煙害(ヘイズ)は国境を越えて広がり、公衆衛生と経済に深刻な影響をもたらしている。今年は新型コロナウイルス感染症による副次的な影響が深刻化しそうだ。(火災によって発生するような)微粒子大気汚染がわずかに増加しただけでも、新型コロナによる死亡率が大幅に増加することはすでに複数の研究で示唆されている。インドネシアと近隣諸国では、毎年生じる煙害がすでに公衆衛生に深刻な影響を与えている。2016年に行われ広く引用されている研究では、2015年の煙害でインドネシア、マレーシア、シンガポール全体で早期死亡者が10万人に上ったと推定されている。2019年の煙害では100万人以上が呼吸器感染症を患っている。

近年、国境を超える煙害で通常の生活ができなくなる可能性は実証されており、すでに今年は新型コロナの世界的流行の影響のもと、弱体化した経済と国家財政が大打撃を受ける可能性がある。2019年のインドネシアの火災による経済的損失・被害額は52億米ドルと推定されている。ちなみに2015年は160億ドルであった。

インドネシアで森林火災をあおる銀行

2015年の火災を受けて、ジョコウィ大統領は火災危機を「組織的環境犯罪」と形容し、責任のある企業に対して厳しい措置を講じることを約束した。2019年、環境林業省(KLHK)は、火災を根拠にパーム油、パルプ材、ゴムなどの企業90社の関連事業を凍結した。それに伴い、24社が民事または刑事制裁を受けていると報告されている(社名はまだ公表されていない)。凍結された企業のリストは一部が公開・流出しており、うち37社が企業グループの親会社であることが特定されている。

政府が火災を起こした企業に対する対抗措置を強化しているにもかかわらず、調査が行われても意味のある制裁が行われた例はほとんどない。また、制裁が課されても実際に裁判所が執行した例はさらに少なく、数億ドルの罰金が未納のままとなっている。

リスク管理規制や金融部門のデューデリジェンス(相当の注意による適正評価)が存在しないことから、銀行はこれまでこの問題をほとんど無視し、燃えやすい泥炭地を開発している企業や、事業許可地で火災が発生したことのある企業に巨額の融資枠を提供し続けている。RANなどによる共同プロジェクトの「森林と金融」データベースは、特定された37社の企業グループのうち19社への資金提供を明らかにし、2015年から2020年4月までの間に、少なくとも374億ドルの融資と引受が行われたことを示している。この数値は、パーム油、紙パルプ、および天然ゴム部門への融資・引受のみを対象とするよう調整している。森林火災に関連する企業グループには、インドネシア最大手のパーム油と紙パルプ企業が多く含まれている。

2019年の火災に関与した企業グループへの融資・引受:上位20銀行

2019年の火災に関与した企業グループへの融資・引受:上位20銀行 (2015年~2020年第1四半期)単位:十億米ドル

インドネシアの場合、森林火災が経済・国家財政に莫大な負担をもたらすにもかかわらず、火災に関連する企業の債権者上位5行のうち、バンク・ラヤット・インドネシア(BRI)、バンク・ネガラ・インドネシア(BNI)、マンディリ銀行の3行はいずれも国有銀行で、3行合わせて82億米ドルの融資と引受を行っている。3行のいずれも、火災予防や、引火性の高い泥炭地での開墾拡大を顧客企業に禁止する方針を公開していない。

また、マレーシアやシンガポールの銀行も、国や国家経済が国境を越える煙害の影響を大きく受けているにもかかわらず、火災に関連する企業グループの主要金融機関となっていることが明らかである。また、シンガポールには租税優遇目的で、インドネシアの多くの財閥系企業(ロイヤル・ゴールデン・イーグルやシナルマス・グループなど)が上場したり、本社を構えたりしている。

こうした銀行の多くは、国連責任銀行原則(PRB)に署名し、事業戦略をパリ協定や持続可能な開発目標(SDGs)と整合させることを約束している。火災に関与した企業グループへの銀行融資がPRBの目標と整合しないのは明らかである。みずほフィナンシャルグループ(みずほ)、CIMBグループ、中国工商銀行(ICBC)、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、ラボバンク、三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)、ABNアムロ銀行などはそうした銀行の例である。また、ラボバンク、SMBC、ABNアムロ銀行には、顧客企業が火を使って土地を更地にすることを禁止する明確な方針もある。

法令を上回る基準

しかし、インドネシア政府が凍結した農園企業のリストは一部であって、2019年に発生した火災および煙害に関する責任の全容を明らかにするものではない。衛星画像と火災発生地点のデータは、事業許可地で大規模な火災が発生したものの、農園の凍結が報告されていない企業が他にも多数あることを裏付けている。ジャーディン・マセソン・グループのアストラ・アグロ・レスタリ(IDX:AALI)とシナルマス・グループのゴールデン・アグリ・リソーシズ(SGX:E5H)がその例である。

アストラ・アグロ・レスタリのパーム油の4つの開発事業許可地で、2019年8~9月に火災が発生。そのうち3つの許可地ではそれ以前の2016年から2018年にも火災が発生していた。4カ所とも開発が進められているのは泥炭地である。執行措置に一貫性が見られず、このこと自体、銀行が法執行機関からの開示を上回る、強力なデューデリジェンスを実施する必要があることを如実に示すものである。

Persada Dinamika Lestari (AAL)社の事業許可地内に確認できる火災の焼け跡

アストラ・アグロ・レスタリ(AAL)の上位金融機関には日本のメガバンクであるSMBCとみずほが含まれている。また、ジャーディン・マセソン・ホールディングス(AALの親会社)元取締役のジェームス・サスーン卿はMUFGのグローバル・アドバイザリー・ボードの委員で、利益相反の可能性が伺えることは特筆すべきであろう。またMUFGもゴールデン・アグリ・リソーシズ(GAR)の主要金融機関である。

ジャーディン・マセソンとシナルマス・グループへの資金の流れ (2015年~2020 4月の融資・引受額、単位:百万米ドル)

出典:「森林と金融」データベース

銀行がすべきこと

有効な制裁措置がない上に、膨大な与信枠があるため、企業は業務改革に向き合わず、自社が起こす火災によって生じる数十億ドルの費用を負担していない。

銀行は、火災を止めるために効果的なインセンティブと抑止策を直ちに採用し、気候危機、生物多様性の危機、そして新型コロナウイルスによってもたらされた健康危機への対処で、自らの役割を果たさなければならない。その対策には、顧客企業に対して火を使った開墾を明確に禁止すること、そして森林伐採、泥炭地開発、地域社会や労働者の搾取に一切関与しないことを義務付ける、包括的な「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止方針」(NDPE:No Deforestation, No Peat and No Exploitation)の導入を盛り込まなければならない。

*参考資料「シナルマス・グループ:インドネシア森林火災 最大の責任者」(和訳版 2020年10月発行)

ブログ:シナルマス〜インドネシア森林火災 最大の責任者〜(2020/10/30)

みずほ、三菱UFJ、アスクル等とのつながり

「シナルマス・グループ」という企業の名前を聞いたことはあるだろうか? インドネシア最大の複合企業の一つで、創業者の故エカ・ウィジャヤ一家によって管理されている。

シナルマス・グループの最大のビジネスは紙パルプ事業(アジア・パルプ・アンド・ペーパー:APP)とパーム油事業(ゴールデン・アグリ・リソーシズ:GAR)で、両社はインドネシア最大の紙パルプ企業、パーム油生産企業である。APPとGARは5年以上前に持続可能性に関する方針を発表したが、同グループの事業にはESG(環境・社会・ガバナンス)に関するリスクが深く根付いている。

伐採され焼き払われて、植栽の準備が行われたシナルマス小会社の事業許可地
撮影:インドネシアNGO ジカラハリ、2020年7月3日

最新の分析で明らかになったのは、世界の大手消費財企業と銀行がシナルマス・グループと取引および多額の資金提供を継続し、インドネシアで毎年起こる森林火災と煙害(ヘイズ)を助長する役割を果たしていることだ。森林火災の原因を作り出している企業に資金提供し、森林が伐採された土地で生産された紙製品やパーム油などを購入することにより、銀行と消費財企業は火災に拍車をかけているのだ。

RANは、今年9月に英文ブリーフィングペーパー「シナルマス・グループ:インドネシア森林火災 最大の責任者」を発表し、グループへの資金提供と、グループからの調達におけるESGリスク事例、そしてグループおよびサプライヤーの事業許可地で意図的に森林が燃やされていることに対して懸念を表明した。

この度、和訳版発行にあたり、資料の要点と日本市場とのつながりを紹介する。

メガバンクを含む金融機関とのつながり

RANらが運営する「森林と金融」データベース(世界三大熱帯林地域に影響を及ぼす事業を行う企業への資金を明らかにするオンラインツール)を基にした分析によると、シナルマス・グループは、2015年から2020年第1四半期にかけて、200億米ドルの融資・引受を銀行から受けていた。143億ドルは紙パルプ事業、45億ドルはパーム油事業に提供され、インドネシアの森林破壊リスクのある産品に関わる企業への融資・引受額としては最大だった。

グループへの最大の資金提供者はインドネシアのバンク・ラヤット・インドネシア(BRI)バンクネガラインドネシア(BNI)である。両行は顧客企業に、炭素を多く含む泥炭地の開発や、農園開発における火の使用を禁止する方針を公表していない。

日本のメガバンクでは、みずほフィナンシャルグループ三菱UFJフィナンシャル・グループが森林セクターへの資金提供における環境・社会方針を2018年から採用しているが、下図の通り、近年でも同グループへの重要な資金提供者となっている。

表:シナルマス・グループの事業に資金を提供する上位10社(2015〜2020年4月)
単位:百万米ドル(「森林と金融」データベースより)

紙パルプ・パーム油:消費財企業、商社とのつながり

シナルマス・グループは、多くの世界大手消費財企業に紙製品を提供する主要サプライヤーである。日本市場とのかかわりも大きい。

紙パルプ

日本では、1997年に日本法人のエーピーピー・ジャパン株式会社を伊藤忠商事との合弁企業として設立。2016年4月に経済団体連合会(経団連)に入会し、2020年1月にAPP社の100%完全子会社に移行した。

APPがインドネシアで生産した紙は、伊藤忠や丸紅などの商社を介して日本に輸入され、アスクルやカウネット(コクヨ)、ジョインテックス(プラス)や量販店などでコピー用紙が販売されている。コピー用紙市場では約25%のシェアをもつ(2016年時点)。

2013年、APPはNGOのキャンペーンに押される形で、森林保護方針( FCP:Forest Conservation Policy)を採択した。方針で森林減少ゼロを約束し、火入れゼロ方針も打ち立て、土地紛争の解決も約束した。しかし、その約束はいまだ果たされず、泥炭地の未開発地域で未だに開発を拡大している。泥炭地は炭素を多く含むため燃えやすく、森林火災のリスクが非常に大きくなる。

国際環境NGOグリーンピースによる火災跡のデータ分析によると、APPの子会社、パートナー企業、サプライヤー企業による火災の総面積は25万ヘクタールを超えると推定されている(2015-2018年)。2020年6月28日、シナルマス・グループのパルプ材の子会社(アララ・アバディ社)の植林地で違法行為とつながりのある火災跡も見つかった(冒頭の写真を参照)。

パーム油

グループのパーム油部門のGARはグループの中核企業で、ユニリーバやネスレ、ペプシコといったグローバル食品大手企業にパーム油を供給している。一方で、自社農園での火災の事例も発覚している。2019年8月から9月、西カリマンタンとスマトラ島・ジャンビのアブラヤシ農園で火災が起こったことも衛星画像と分析で明らかになっている。

日本企業にもGARのパーム油は流れている。現地の搾油工場リストを公表している不二製油などの情報によると、GARのパーム油は日本企業に供給されていることは明らかだ。

2019年9月、RANの調査で、インドネシア政府が保護する泥炭地地域の「ラワ・シンキル野生生物保護区」(「ルーセル・エコシステム」内)で違法に生産されたパーム油をGARが調達していることがわかった。保護区内で違法栽培された実が、ある搾油工場に運び込まれ、その搾油工場からGARが調達していたのだ。同保護区内での違法栽培については今年3月に朝日新聞でも報道された

また、京都・舞鶴のパーム油発電事業にGARが事業主体として関わり、パーム油の調達が見込まれていた。しかしGARに代わって事業主体となった太陽光発電企業は同事業から撤退を決め、出資を得ることができず、事業は頓挫している

銀行と消費財企業ができること

シナルマス・グループは、森林火災と煙害だけでなく、土地の権利に関連する紛争、森林破壊ゼロに関しても公約を果たしていない状況が続いてる。様々な違反に対して、政府による効果的な制裁がない中、金融機関と消費財企業は同グループに対して働きかけ、影響力を及ぼす必要がある。

ブリーフィングペーパーでは、以下4点を銀行と消費財企業に提言している。

1)銀行と消費財企業は、シナルマス・グループへの新たな資金提供および取引を停止すること。また透明性を要求し、同グループの企業所有および管理の開示を要求すること

2)銀行と消費財企業は、シナルマス・グループを含むあらゆる顧客企業に、グループ全体で法令および方針の遵守を要求する明確な「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止(NDPE)方針」を採択と実施を要求すること

3)銀行は、シナルマス・グループ、そして同グループのパートナーおよびサプライヤーを含む顧客企業が事業許可地の泥炭地を保護し、復元するように要求すること。

4)銀行と消費財企業は、火災を一切許容しない立場を表明すること。顧客企業やサプライヤーが意図的に森林に火をつけたり、火災の防止を怠たったりした場合、新たな信用枠の提供や取引を停止し、取引関係や調達を段階的に廃止すること。

「シナルマス・グループ:インドネシア森林火災 最大の責任者」
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