サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

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ブログ:2025年MUFG株主総会、世界各地でMUFGの問題ある資金提供に抗議(8月26日)

〜RAN、他NGOと共に株主総会会場周辺にてアピール活動を実施〜

6月27日、都内で三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の年次株主総会が行われました。

RANは他の環境NGOと共に、気候変動をはじめ先住民族の権利侵害や熱帯林の破壊を行う事業者に対し、MUFGが資金提供を行なっている件について会場入りする株主にスピーチやチラシの配布を行い、問題提起を行いました。

MUFG株主総会会場前におけるアピール活動 2025年6月27日 ©︎ RAN / Masaya Noda

今回は超小型EV(電気自動車)の移動広告を利用したことで、より多くの方の注目を得ることができました。配布したチラシも多くの個人株主の方々に手に取っていただきました!ありがとうございました。

MUFG株主総会周辺にてチラシを配布し問題提起を行った 2025年6月27日 ©︎ RAN / Masaya Noda

MUFGは、現地の先住民族が反対している米国テキサス州のリオ・グランデLNG事業の世界最大の資金提供者であり、また南太平洋のパプアニューギニアにおいても先住民族の同意を得ずに計画が進められ問題となっているパプアLNG財務アドバイザーを務めています。

MUFG株主総会会場前におけるスピーチ 2025年6月27日 ©︎ RAN / Masaya Noda

またRANでは今年も、環境NGOマーケット・フォース、気候ネットワークと共同で、MUFGを含めた3メガバンクに対して株主提案を行いました。残念ながら否決されてしまいましたが、以前からの提案である「顧客の移行計画の評価に関する情報開示」に加えて、今年は「監査委員会の財務リスク監査に係る情報開示」を提案し、総会にて提案の説明を行いました。

株主からの質問受付の時間でRANは、リオ・グランデLNGやパプアLNGなどの気候変動や先住民族の権利侵害のリスクが高い事業への関与によって発生した負の影響について、MUFGではどのような是正措置や救済措置が可能かという質問をしました。MUFGがホームページ上に公開した回答によると、「融資実行時には…先住民族の人権への配慮等も確認しており…お客さまが斯かる配慮に十分対応できていないことを認識した場合は、融資を行わない方針です」と回答がありました。株主総会の場でこの方針を再確認できた点は良かったですが、投融資の結果発生した負の影響を取り除くための是正措置や救済措置について、MUFGで何かできるかという点について具体的な回答はありませんでした

MUFGの回答には、融資後も顧客と問題対処について対話を行っている点や、苦情処理システムのプラットフォームであるJaCER(ビジネスと人権対話救済機構)を使用している点などが共有されました。しかし、これらは苦情処理プロセスにおける入り口の段階の取り組みであり、負の影響を受けている現地コミュニティの求める是正・救済には至っていません。

昨年9月、RANはテキサス州リオ・グランデ・バレー地域の先住民族カリゾ・コメクルド族を含むコミュニティ代表団とJaCERに苦情を提出しました。苦情には、『求める救済』は「カリゾ・コメクルド族とMUFGとの間で、一連の協議を実施することを期待する」と記入しましたが、MUFGとコミュニティとの間での協議は昨年10月の代表団の訪日以降、行われていません(是正と救済に関するより詳しい情報は国連『ビジネスと人権に関する指導原則』の原則2225をご参照ください;英語版日本語版

同日、現地でも抗議活動が

MUFGの株主総会と同じ日に、テキサス州リオ・グランデLNG施設に天然ガスを供給する予定のリオ・ブラボー・パイプラインの建設現場前でも、カリゾ・コメクルド族を含む現地コミュニティによる抗議活動が行われました。

リオ・ブラボー・パイプライン敷設地周辺における現地コミュニティによる抗議活動(写真©︎SOTXEJN)

パイプライン事業者はここ数カ月にわたり、パイプライン建設予定地の一部を所有するカリゾ・コメクルド族に対し、「(事業者の)収用権を行使し、一族の土地を取得する考えである」といった内容の文章を送り続けているというのです(南テキサス正義ネットワークのInstagram投稿)。

カリゾ・コメクルド族チェアマンのフアン・マンスィアス氏は以前から、この地域周辺の地下に一族の文化財や遺骨が眠っている可能性が高いと指摘しています。文化遺跡の保護は、『先住民族権利に関する国際連合宣言』に基づく人権問題です地元コミュニティ代表は、リオ・グランデLNGの世界最大の資金提供者であるMUFGに対し、今後のリオ・グランデLNGの拡張事業やリオ・ブラボー・パイプラインなどの事業に資金提供しないよう求めています。

リオ・ブラボー・パイプライン事業に抗議するマンスィアス氏(写真©︎SOTXEJN)

アジア諸国からもメガバンクの化石燃料事業への資金提供に批判の声

さらに、3メガバンクの株主総会と「ジャパン・エネルギー・サミット」が5月に東京で行われたことを受け、6月、フィリピン、インドネシア、バングラデッシュ、インドの各地では、多くの参加者が集まり抗議デモが行われました。フィリピン、マカティではAPMDDPMCJなどのNGOや市民団体が、「日本の3メガバンクとJERAは数十億ドルの資金提供と長期的なLNG契約を通じて、アジアにおける化石燃料の拡大を助長し、地域社会にリスクをもたらすヴィラン(悪者)であると抗議しました。

フィリピン、マカティでのNGOと市民団体による抗議活動(Photo©︎APMDD)

「MUFG、SMBC、みずほ、ガス事業拡大への資金提供をやめて」と書かれたプラカードを持つ女性(Photo©︎APMDD)

今年の夏は記録的な猛暑が各地で続いています。気候変動の影響を抑え、人々の暮らしを守るために、あなたにできることがあります。RANではオンライン署名「MUFGにリオ・グランデLNG施設への資金提供停止を伝えよう!」を展開中です。現在、1万3,000筆を超える署名が世界から集まっています。

あなたの力が必要です。ぜひ署名に参加して、日本からもMUFGにリオ・グランデの自然と歴史、人々の暮らしを守ってほしいという声を届けましょう!

< 記入方法 >

名字(First Name)、名前(Last Name)、メールアドレス(Email)、郵便番号(Zip or Postal Code)、電話番号(Mobile Phone Number)を記入し、Take Actionをクリック

 

RAN「責任ある金融」キャンペーナー 麻生里衣

スタッフ募集:コミュニケーション&デジタルスペシャリスト(日本担当)(2025/8/5)

RANについて

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)は、約40年にわたり調査活動、教育、パートナーシップ、非暴力直接行動、草の根運動、戦略的キャンペーン、コミュニケーションを通じ、企業の力や構造的不正義に挑むことで、森林を保全し、気候を保護し、人権擁護のキャンペーンを展開してきました。RANは、利益最優先の不公正なシステムの影響を直接受けている先住民族や最前線のコミュニティと協力して活動してきました。また、RANは世界中の協力団体と連携し、破壊的な事業を停止し、人権を尊重し、気候変動の原因となる活動を減らす企業方針を採用するよう企業に働きかけています。

レイシャル・ジャスティス(人種的正義)、ダイバーシティ(多様性)、公平性

RANは、公平および公正という価値観を活動に組み込むよう努めています。その一環として、レイシャル・ジャスティス(人種的正義)と文化的公正性の分析をプログラム活動と組織体制に取り入れています。また、相互信頼、協力、敬意を基本とし、全てのスタッフがサポートされ、大切にされ、自分の声が届くと感じられるような組織文化を育むよう努めています。RANは、人種、階級、ジェンダー、文化、宗教の多様性を重視し、スタッフや幹部、アクティビストが反抑圧(アンチ・オプレッション)の原則を理解し、受け入れるプログラムを組織内で実施しています。RANの歴史、文化、基本理念についての詳細は、RANのウェブサイトをご覧ください。
https://www.ran.org/mission-and-values/

募集ポジション

RANでは、日本チームのメディア&コミュニケーション、およびデジタル業務を行う「コミュニケーション&デジタルスペシャリスト」を募集しています。勤務開始は2025年秋を想定しています。この職務はRAN「森林」部門のコミュニケーションを担当し、RANのキャンペーン目標を明確に伝えるために、RAN本部のコミュニケーション部門やデジタル部門、および気候変動・エネルギー部門のメンバーと緊密に連携して業務を実施します。

求める候補者は、森林破壊を止めること、気候変動とたたかうこと、人権を保護することに深くコミットする人材です。RANの使命と価値を向上させるために優れた判断力を持ち、キャンペーン計画・展開の迅速な対応にも適応でき、メディア報道の機会やデジタル・コミュニケーションにおける機会をとらえることに意欲的なことが求められます。

理想的な候補者は、説得力があり、質が高く、詳細までこだわった業務を、しばしば厳しい日程でも遂行できる人です。高度なライティングスキルと、効果的なメッセージを的確に伝えるスキルも求められます。 関連するメディア・プロジェクトに携わった経験やメディアとのリレーションシップ、デジタルコミュニケーションの経験、プロジェクトを成功に導いた実績もあれば望ましいです。

職務内容:

コミュニケーション&デジタルスペシャリストは、RANの日本での活動のコミュニケーションとデジタル活動を主導する役割を担います。この職務は主に国内メディアの記者との関係を構築し、記事掲載の獲得、担当キャンペーンのスポークスパーソンを務めます。この職位は、日本語でのコミュニケーションおよびオンライン資料におけるメッセージング戦略の構築・実行、制作・編集プロセスの調整・実行も担当します。具体的な仕事内容は以下の通りです。

  • このポジションは、RAN日本チームと、RAN全体のコミュニケーションおよびデジタル戦略と連動して活動する。日本のコミュニケーション担当者として、コミュニケーション部門、デジタル部門、森林部門、気候・エネルギー部門と協力し、戦略的でメディア報道価値のあるキャンペーン活動を計画・実施する。RANやキャンペーンのメッセージやストーリーを広めるための長期的な戦略手段を策定する
  • 迅速なコミュニケーション対応を担当し、メッセージ作成、寄稿文(op-ed)の執筆、トーキングポイント(論点)、その他メディア資料を作成する
  • メディアトレーニング:メディア取材に対応できるようスタッフにトレーニングと指導を行う。記者会見などの活動の際、メディアとの連絡役を務める
  • キャンペーン活動促進において、委託業者(デザイナー、翻訳者、フォトグラファー、ビデオグラファーなど)や戦略的協力者・団体との関係を構築する
  • メディアリストの作成および更新
  • キャンペーン目標達成のために、企業や市場に関するメディアリサーチの実施
  • 英語で書かれた報告書や記事などの翻訳・編集、または翻訳者との共同作業
  • クリエイティブな印刷物やオンライン資料の制作を指揮し、管理する(インパクトのある広告や独創的なウェブ動画、シェアされるSNSコンテンツなど)。
  • RANの出版物やウェブサイト、SNS投稿文の執筆と編集・校正・発表/投稿
  • 内部の戦略会議に貢献し、森林、エネルギー、金融、気候変動問題に関する最新動向を把握する
  • 国内外のRANスタッフと協力し、包括的かつ協力的なチーム文化の醸成に貢献する


©︎Taishi-Takahashi / 350 Japan

応募資格:

  • RANのミッション、活動、戦略に強い関心があること(核となる戦略である非暴力直接行動の行使も含む)
  • 日本語と英語での優れたライティングスキルとコミュニケーションスキル
  • 森林、気候変動、投資・金融コミュニティ、社会変革ムーブメントに関する問題について知識があること
  • メディアやパブリック・リレーションにおける実務経験があること(ジャーナリズムの経歴だけではこの職務には適さない)
  • 口頭・書面での優れたコミュニケーションスキル。 オンラインメディア、講演会など、団体の会議、1対1の対話など様々なコミュニケーションに適応できること
  • 強いフレーミングスキルとメッセージを組み立てるスキル
  • ペースが速く、アクティビスト志向の現場で活躍できる能力があること
  • メディアの注目を集めることに成功した方法とキャンペーンを評価する判断能力があること
  • 確かな編集・校正能力と新聞・記事用語の使い方に精通していること
  • 仕事量が多い中でも優先順位決定を効果的に行い、多岐にわたるプロジェクトを調整できる能力があること
  • 主体性、柔軟性、創造性があること
  • 抑圧に反対する強い分析能力、負の影響を受ける先住民族やコミュニティと協働する能力があること
  • 国内外の出張が可能であること

©︎Masaya Noda / RAN

求められる経験

  • 関連分野でのメディア担当やジャーナリストとしての経験が3年以上ある
  • デジタル・コミュニケーションの経験や学ぶ意欲があると望ましい
  • メディアとの関係構築能力。特に環境、森林保護、気候変動、ビジネスや金融関連の記者やブロガーとのリレーションシップがあることが望ましい
  • チームで効果的な仕事をした実績があること
  • 強い組織管理能力、時間管理能力、プロジェクト管理能力がある
  • 異なる時間帯と複数の言語で活動する国際的なチームで働き、あらゆるレベルでスタッフと協働する能力がある(主な言語は英語)
  • 北米、インドネシア、ヨーロッパに拠点を置くグローバルチームや協力団体との会議のために、年に数回の国内外出張も含め、臨機応変な時間で勤務できること
  • 広告会社やデザイナーと協力し、クリエイティブなオフラインおよびオンラインコンテンツを制作する能力がある
  • メディアリスト管理(データベース管理を含め)に精通していること
  • ワードプレスやSNSの使い方に慣れていること

コミュニケーション&デジタルスペシャリストは、日本チーム、森林部門、コミュニケーション部門の一員です。この職位は日本チーム・マネジャーの管理のもと業務を行います。

給与

フルタイム。想定年収は$45,000~$55,000米ドル(経験や勤務地を考慮、米ドルまたは日本円で支給)

勤務地・勤務形態

リモートワーク。国内メディアと関わる職務であることから首都圏在住の方が望ましい(応相談)

世界中でスタッフが勤務していることから、同僚との連携にフレキシブルな時間での勤務が可能な方

福利厚生

土日・祝日休み、有給休暇(4週間、2年後は5週間)、冬季休暇
健康保険など
年金保険料(年金保険料の同額または最大で年収の3%までをRANが負担)
サバティカル休暇(勤続5年毎に12週間の休暇、給料全額支給)

機会均等とアクセス

RANは機会均等を掲げ、すべての人に平等な雇用とボランティアの機会を提供するよう取り組んでいます。採用面接や採用過程で宿泊などの手配が必要な場合は、HR@ran.org までご連絡ください。有色人種その他、歴史的に排除されてきたアイデンティティをお持ちの方からの応募を歓迎します。

応募方法

以下のリンクから、レジュメ(履歴書と職務経歴書)とカバーレターをお送りください。最適な検討ができるよう、応募書類のご提出は2025年10月13日までにお願いいたします。

https://rainforest-action-network.breezy.hr/p/236302b2c0d8-communications-digital-specialist-japan

免責事項:この日本語文は英文の翻訳で、採用や詳細は原文である英文に準じます。

参考資料

「RANについて」(日本語)
「RANのミッション」(日本語)

「RANのミッション、ビジョン、バリュー」(英語)

RAN「非暴力方針」(英語)

ブログ:MUFG、インドネシア泥炭地で大規模「炭素爆弾」に融資 〜子会社銀行、アブラヤシ農園企業グループに2億8100万ドルを提供〜(2025/4/10)

複数の事業管理地で泥炭地破壊と度重なる火災を起こす

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

上空からの泥炭地火災の様子、インドネシア・南スマトラ、2019年 ©︎NOPRI ISMI / MONGABAY INDONESIA

概要

⚫️三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、インドネシアの銀行セクターにおいて重要な外国投資家である。2019年にはインドネシア最大の銀行の一つであるバンクダナモンを買収した。2021年、MUFGはパーム油関連の資金提供に関して「森林破壊禁止・泥炭地開発禁止・搾取禁止(NDPE)」方針を策定。

⚫️バンクダナモンは、MUFGグループの方針を明確に逸脱する資金提供を行い続けている。2020年、2021年および2022年に、アブラヤシ企業であるトゥナス・バル・ランプン(Tunas Baru Lampung、IDX:TBLA)に対し、総額2億8100万ドルのクレジットラインを発行した。TBLA社は、泥炭地の破壊や度重なる火災とヘイズ(煙害)など、著しく悪質な環境問題を引き起こしてきた経歴を持つ。MUFGのパーム油セクター方針は、国際的な基準である「NDPE」の考えを取り入れたものであるが、TBLA社は明らかにこの基準に合致していなかった。

⚫️MUFGによる資金提供を受けて、TBLA社は2020年から2023年にかけて、南スマトラ州の2つの隣接する事業管理地(アブラヤシ用地とサトウキビ用地)で7,800ヘクタール(78平方キロメートル)近くの泥炭地を転換し、膨大な温室効果ガス排出と火災リスクを生じさせた。

⚫️その後、2023年には、この2つの事業管理地で大規模な泥炭地火災が発生し、14,500ヘクタール(145平方キロメートル)の土地が被害を受けた。2024年には、インドネシア政府がTBLA社の子会社を提訴し、生態系への損害と経済的損失に対し、4150万ドルの賠償を求めた。

⚫️TBLA社は現在もバンクダナモン/MUFGの取引先であり、2026年までにMUFGに返済予定の貸付金が残っている。

⚫️バンクダナモンによる資金提供は、MUFGグループの社会・環境方針に沿っていなく、また、自ら掲げるNDPE要件にも違反しているため、重大なコンプライアンス上の問題である。

MUFG、インドネシアの泥炭地で「炭素爆弾」に融資

泥炭地開発と気候変動

泥炭地の生態系は、地球上で最も効果的に自然の炭素隔離を行う陸上景観である。アブラヤシ農園を泥炭湿地に開発する際は、水路を造成して排水する必要があるが、炭素を豊富に含む熱帯の泥炭湿地林は、一度水を抜かれて皆伐されると、長期にわたって膨大な量の二酸化炭素を大気中に放出する。また排水は、火災が発生しやすい環境を作り出す。このため泥炭地開発は「炭素爆弾」と呼ばれ、生態系と気候変動における重大なリスクとされる。

泥炭地での産業用大規模農園・植林地(プランテーション)の拡大によって引き起こされる火災は、インドネシアの温室効果ガス排出の最大の原因の1つであり続けている。また、火災に伴う煙害(ヘイズ)は公衆衛生上の危機を引き起こし、何十億ドルもの経済的損失と損害をもたらしている。

泥炭地破壊に伴う大規模火災を繰り返し発生させる農園企業グループ:TBLA

トゥナス・バル・ランプン(Tunas Baru Lampung、IDX: TBLA)は、南スマトラの泥炭地でアブラヤシとサトウキビのプランテーションを運営する上場企業である。同社は、広範な火災環境規制違反への関与を、インドネシア政府や市民団体から繰り返し指摘されている。2024年10月、インドネシア環境森林省(KLHK)は、TBLAの子会社である PT. Dinamika Graha Sarana(PT. DGS)社に対して民事訴訟を起こした。同省は、2023年9月から11月に発生した6,303ヘクタール(63平方キロメートル)以上に及ぶ火災による生態系と経済への損害に対し、6,710億インドネシア・ルピア(約4,200万米ドル、日本円で約57億円*)の損害賠償を求めている。しかし、2023年に広範囲にわたる火災が発生したのは、この子会社だけではない。隣接するTBLAの子会社PT. Samora Usaha Jaya(PT. SUJ)社の事業管理地でも、5,688ヘクタール(約56平方キロメートル)以上に火災が広がっている。RANは、TBLAに本件について書簡を送付してコメントを求めたが、回答は得られなかった。

*202549日現在の為替レート:Rp1.000 IDR = ¥0.008544 JPYで計算した場合、5,733,091,100円に相当

下のタイムラプス画像は、Nusantara Atlas/TreeMapで作成され、2023年8月30日から11月13日までに撮影された衛星画像を時系列で示している。プランテーションの境界線(黄色)を超えて広がる火災と延焼地域(暗褐色)が赤外カラーではっきりと捉えられている。

PT. DGS社の事業管理地における火災(画像をクリックしてタイムラプスを再生)

PT. SUJ社の事業管理地における火災(画像をクリックしてタイムラプスを再生)

この様な火災の発生は、乾燥すると非常に燃えやすい泥炭地がプランテーション開発のために排水されたことと関係している。RANの衛星解析の結果、2023年の火災に先立つ3年間(2020年~2022年)に、TBLAは南スマトラにある2つの子会社(PT. SUJおよびPT. DGS)の隣接する事業管理地で、約7,800ヘクタール(78平方キロメートル)の泥炭地を転換したと推定されている。

MUFG子会社バンクダナモンによる融資

この大規模な泥炭地転換が行われた期間(2020年~2022年)に、TBLAは日本のメガバンクであるMUFGから総額2億8,100万米ドルの融資枠を提供され、MUFGのパーム油セクターで第3位の融資先となった。MUFGは2021年、国際的なベストプラクティスであるNDPE方針の一環として、泥炭地の転換を禁止することを公に誓約するよう顧客に求めた。それにもかかわらず、TBLAへの融資はその後も行われていたことが確認された。

問題のTBLAへの融資は、MUFGのインドネシアの銀行子会社バンクダナモンを通じて実行された。MUFGは2019年に同行を買収し、それ以来、バンクダナモンのサステナビリティ報告書には、MUFGグループと同様にNDPE方針が反映されている。しかし、バンクダナモンによるTBLAへの融資は、NDPE方針が履行されていないことを示している。森林リスクのあるセクターへの融資によって人権問題が常習的に引き起こされているなか、このコンプライアンスの問題は、人権への影響に対処するための銀行の管理体制に関してより広範な懸念を生んでいる。MUFGグループの2024年人権報告書では、環境・社会ポリシーフレームワークと、より広範な人権方針が、同グループの全事業に適用されると記載されている。バンクダナモンが同グループのNDPE方針に従っていないことは、この子会社が同グループのより広範な人権方針も無視しているのではないかという深刻な疑問を生じさせている。

TBLAは、上述の大規模な泥炭地転換が行われる何年も前から火災や泥炭地転換に関与してきた歴史がある。衛星解析の結果、2015年から2019年にかけて、TBLAの2つの事業管理地で8,600ヘクタール(86平方キロメートル)の泥炭地が転換され、2015年には12,103ヘクタール(121平方キロメートル)、2019年には15,873ヘクタール(159平方キロメートル)が火災の被害を受けたと推定される。

継続的な火災リスクと温室効果ガス排出

これらの衛星観測を裏付けるため、地元NGOの現地調査チームは2024年12月にPT. SUJ社の事業管理地を訪問した。この調査では、MUFGが融資を行った2020年から2022年の間に、泥炭地がアブラヤシのプランテーションに転換された複数の地域が記録された。このなかには、繰り返し火災が発生している場所も含まれる。

動画1(緯度-3.34631°、経度105.37663°付近)には、排水された泥炭地で育つ若いアブラヤシが映っている。Sentinel-2による衛星画像(焼け跡を偽色で強調)は、この地域が2019年に深刻な火災被害を受けたことを示している。この地域はその後、2020年から2021年にかけてアブラヤシのプランテーションに転換された。

動画2(緯度-3.3118°、経度105.4185°付近)には、排水された泥炭地で育つ若いアブラヤシが映っている。この地域も2020年から2021年に転換されている。2019年に火災が発生し、その後、プランテーションに転換された。Sentinel-2による衛星画像(焼け跡を偽色で強調)は、この場所で2019年2023年に発生した火災の規模を示している。

パーム油精製業者の80%以上はNDPE誓約に基づき、供給業社による泥炭地から農園への新たな転換を禁止している。インドネシアでは泥炭地の転換そのものは必ずしも違法ではないが、政府規制により、泥炭地で事業を行う企業は、水位を高いレベルで維持することが義務付けられている。泥炭地が乾燥し、その水文学的機能および保全機能が失われるのを防ぐためである。

現地調査チームは、PT. SUJ社の事業管理地内3地域にわたり、17カ所の異なるサンプル地点で水位深度を測定した。その結果、雨季に測定したにもかかわらず、どのサンプル地点も政府が定めた深度要件(40cm)を満たしていないことが判明した。繰り返される火災、泥炭地の転換、不適切な水位管理ーーこれらは、TBLAの事業が南スマトラの泥炭地の機能を破壊し続け、膨大な温室効果ガスの排出や火災と煙害の継続的なリスクを引き起こしていることを示している。

タイムライン:MUFG、バンクダナモン、TBLAを巡る融資と火災

MUFGは2019年にバンクダナモンを買収し、その取引先も引き継いだ際、その取引先企業のコンプライアンス・リスク評価を実施すべきであった。TBLA社が公表している方針を確認するなど、基本的な環境デューデリジェンスを実施していれば、TBLA社がNDPEを誓約せず、火災や泥炭地の転換に関して著しく悪質な経歴を持つことが明らかになっただろう。以下は、TBLA社の悪質な経歴を示す事例である。

2015年

  • 6月:インドネシアの泥炭地にある事業管理地で大規模な火災が発生ーエルニーニョ期の数カ月にわたり燃え続け、160億米ドルの被害をもたらす。2015年、TBLA社の2つの事業管理地で大規模な火災が発生し、RANの推定では12,103ヘクタール(121平方キロメートル)が火災被害を受けた

2016年

  • 11月:TBLAが規制に違反インドネシア環境林業省による調査で、TBLAの子会社PT. DGSによる規制違反(2015年の火災で焼失した泥炭地をアブラヤシ農園に転換するために重機を使用して掘削したなど)が確認される。

写真 © MoEF Indonesia and ForestHintNews、2016年

2018年

2019年

  • 1月:TBLAによる泥炭地転換が続く1月から12月にかけて、TBLAは推定1,300ヘクタール(13平方キロメートル)の泥炭地をプランテーションに転換。
  • 5月:MUFGがバンクダナモンを買収MUFGはバンクダナモンTbkの株式94%を取得し、インドネシアでの子会社銀行とした。
  • 6月:インドネシアの泥炭地で再び火災が発生し、数か月にわたって燃え続ける全国で164万ヘクタール(16,400平方キロメートル)が焼失し、推定52億米ドルの経済損失と損害をもたらす

  • 6月:TBLAの事業管理地で火災が広がるTBLAの事業管理地(PT. SUJおよびPT. DGS)で数か月にわたり火災が発生し、推定15,873ヘクタール(159平方キロメートル)が焼失。

2019年、TBLAの事業管理地で発生した火災の広がりを示す衛星画像(画像をクリックしてタイムラプスを再生)

  • 10月:インドネシア政府がTBLAの事業管理地に対し措置を講じる環境林業省が火災を理由にTBLAの事業管理地の1つを封鎖。 

現地当局により封鎖されたPT. DGS社の事業管理地©️InspirasiNews.com

2020年

  • 1月:MUFGがTBLAに巨額の融資を提供年間を通じて、MUFGはバンクダナモンを通じ、TBLAに5,800万米ドルのリボルビング・クレジット枠を供与。
  • 10月:TBLAが「最も広範な火災被害をもたらしたパーム油企業グループ」として名指しされるーグリーンピース・インドネシアが2020年に発表した火災跡地データ分析では、2015年から2019年までの焼失面積がインドネシアのパーム企業でTBLA社が最も多いと報告される。
  • 12月:TBLAが持続可能なパーム油円卓会議(RSPO)から脱退TBLA社がRSPOのメンバーを辞任。
  • 12月:TBLAが泥炭地転換を継続2020年末までに、TBLA社は2019年に焼失した土地を含む2,500ヘクタール(25平方キロメートル)以上の泥炭地にプランテーションを拡大。

2019年11月の衛星画像 火災により泥炭地が焼失(Sentinel2より、TreeMap/Nusantara Atlasを使用)

2021年6月の衛星画像 焼失した泥炭地がプランテーションに転換されている(Sentinel2より、TreeMap/Nusantara Atlasを使用)

2021年

  • 1月:MUFGがTBLAにさらなる融資を実行年間を通じて、MUFGはバンクダナモンを通じてTBLAに総額1億500万ドルの追加のコーポレートローンを提供した。
  • 4月:MUFGが新たなパーム油セクター融資方針を採用MUFGは取引先に対し、NDPE基準を公に誓約することを求めている。バンクダナモンのサステナビリティ報告書には、これが同行の方針でもあると記載されている。

2021年、TuK-IndonesiaによるMUFGジャカルタ支店前での抗議活動 インドネシアにおける大規模火災と煙害について同グループの資金提供を批判

  • 12月:TBLAが新たな泥炭地の転換を継続ー2021年末までに、TBLAはさらに2,404ヘクタール(24平方キロメートル)の泥炭地をプランテーションに転換し、2019年に火災が発生した地域もその対象となった。

2022年

  • 1月:MUFGがTBLAへの融資を増額年間を通じて、MUFGはバンクダナモンを通じてTBLAに総額1億300万ドルの追加のコーポレートローンを提供した。
  • 12月:TBLAがさらに泥炭地を転換2022年末までに、TBLAはさらに1,600ヘクタール(16平方キロメートル)の泥炭地をプランテーションに転換した。

2023年

  • 6月:TBLAの事業管理地で大規模火災が発生TBLAの事業管理地(PT. SUJおよびPT. DGS)で火災が発生し、14,544ヘクタール(159平方キロメートル)が焼失。

2023年9月、TBLAの事業管理地で発生した火災の広がりを示す衛星画像(Sentinel2より、TreeMap/Nusantara Atlasを使用)

2024年

  • 10月:インドネシア政府がTBLA子会社を提訴環境森林省は、TBLAの子会社であるPT. DGSに対して4,150万米ドルの訴訟を起こし、2023年の火災に関連する生態系の損害および経済的損失に対する賠償を求めた。

2024年12月、PT.SUJ社の事業管理地にて新たな泥炭地地域がプランテーションに

2025年

  • 3月:TBLAは引き続きバンクダナモン/MUFGの顧客であり続けているTBLAは現在もMUFGの顧客企業であり、MUFGが提供したコーポレートローンから利益を享受し続けている。MUFGからの最後の融資(3,240万ドル)は2026年に満期を迎える予定である。

 

著者:レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)

米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。200510月より、日本代表部を設置しています。
https://japan.ran.org

「訂正・追加のお知らせ」インドネシア環境森林省がTBLAの子会社であるPT. DGSに対して起こした民事訴訟のインドネシア語記事へのリンクが記載されておりませんでしたので、追加いたしました(2025年4月22日)。

ブログ:米国リオ・グランデ・バレーの住民代表団が来日〜メガバンクらにLNG事業からの撤退を求めて 自然環境、歴史、人々の生活を破壊する5つのリスク〜(2024/12/10)

RAN「責任ある金融」キャンペーナー 麻生里衣

2024年10月6日から1週間、米国テキサス州リオ・グランデ・バレー地域のコミュニティ代表団が来日し、自然環境の破壊、先住民族の権利侵害、地域住民への健康被害、気候変動の加速など、問題の大きい液化天然ガス(LNG)事業からの撤退を日本の金融機関に求めました。多岐にわたる問題を引き起こすLNG事業。今年8月からRANで活動を始めた麻生里衣が、代表団に同行して見えてきたこの問題をまとめます。

州道48号線から見える自然、テキサス州ブラウンズビル、2017年(写真 ©︎ Joseph Fry)

地元コミュニティの反対運動

米国テキサス州南部のリオ・グランデ・バレーの河口周辺に広がるデルタ地域には、南メキシコ湾岸最後の人工物のない地平線が見られる景観が残っています。しかし現在、この地域ではリオ・グランデLNG輸出基地、テキサスLNG輸出基地、これらの基地に接続予定のリオ・ブラボー・パイプラインの3つのLNG事業が計画されています。第1フェーズの事業資金の調達が完了しているリオ・グランデLNGは、地元コミュニティの強い反対にも関わらず工事を開始し、現在も湿地帯をブルドーザーで掘り起こし、整地作業を進めています。

リオ・グランデLNGの建設現場(写真©︎ Bekah Hinojosa / (SOTXEJN)

これまでの活動の成果

地域住民はこれまで、これらのLNG事業を止めるために様々な活動を展開してきました。その成果が実り、フランスの銀行ソシエテ・ジェネラルラ・バンク・ポスタル、三井住友銀行、スイス登記の米保険会社チャブなどがリオ・グランデLNGから撤退、さらにフランスの銀行BNPパリバもテキサスLNGとの関係を絶ちました。

そして2024年8月6日、地域住民が裁判で勝訴を勝ち取り、活動の大きな追い風となりました! 米国コロンビア特別区控訴裁判所は、連邦エネルギー規制委員会(FERC)によるリオ・グランデ地域のLNG事業許可3件は、地域への環境的・社会的影響を十分に検証していないとして、許可を事実上取り消すという判決を下しました。FERCは今後、新たな補足的環境影響評価書の草案作成とパブリックコメント期間を設け、事業の影響を再評価した上で、新たな事業許可の発行を検討する必要があります。(さらに詳しくはRANのレポートを参照

今回来日したディナ・ヌニェス氏(南テキサス人権センター シニア・オーガナイザー)は、「団結した人々は、決して分断されることはない」と述べ、「私達地域コミュニティの強力な組織化と強い意志を持った人々のおかげで、良い裁判結果を勝ち取ることができました。私達は、たとえ巨大な企業であろうと打ち負かすことができると信じています。次は、日本の企業が良い決断を下すことを求めます」と訴えました。

MUFG本社前で呼びかけを行うヌニェス氏(右)と大学生のアクセル・ゴメス氏(左)(写真©︎ RAN / Masaya Noda)

日本の金融機関と気候変動

そして今回、リオ・グランデ住民代表団はこれらのLNG事業を支援する日本の金融機関に事業からの撤退を求めて日本を訪れました。中でも、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、リオ・グランデLNGに約21億米ドルを2023年に融資し、世界最大の資金提供者となっています。また、みずほフィナンシャル・グループ(みずほ)も約11億米ドルの融資を行っていることが明らかになっています(参考「化石燃料ファイナンス報告書」日本語抜粋版) 。

代表団に同行したRANのルース・ブリーチ(気候変動&エネルギー担当 シニア・キャンペーナー)は、「日本の銀行は米国メキシコ湾岸におけるLNG事業拡大において、非常に重要な役割を担っています。世界のどの銀行を見ても、みずほ銀行と三菱UFJ銀行以外に、南メキシコ湾岸のLNG事業全てに資金提供を行なっている銀行はありません」と述べています。

都内の日本外国特派員協会(FCCJ)での会見にて日本の金融機関の関与について説明するルース・ブリーチ(写真©︎ RAN / Masaya Noda)

日本のメガバンクは、化石燃料事業に対して世界最大規模の資金提供を行ない、気候変動対策の流れと逆行しています。2023年のみずほの提供額(融資・引受)は世界第2位(約370億米ドル)、MUFGは世界第4位(約332億米ドル)でした。

「化石燃料ファイナンス 2023年のワースト12銀行」(化石燃料全部門への融資・引受額、2023年単年、単位:BILLION =十億ドル)

また、RANが米国の情報自由法(FOIA)で開示請求をして得た情報をもとに作成した報告書『リスク・エクスポージャー』により、SOMPOホールディングスがリオ・グランデLNGに損害保険を提供していることもわかりました。損害保険会社は化石燃料事業に不可欠な保険を提供することにより、気候変動の悪化を助長していることが問題視されています(詳しくはこちらのサイトを参照)。SOMPOホールディングスは、先住民族の権利保護に関する方針や人権デューディリジェンス・プロセスを導入していなく、早急に方針の強化が求められます。

5つのLNG事業の問題点

リオ・グランデ・バレー地域におけるLNG3事業の大きな問題点として、1)気候変動の加速、2)地域住民への健康被害、3)希少種の生息地の破壊、4)小規模産業への悪影響、5)先住民族の権利侵害があげられます。

 

 1) 気候変動の加速

LNGは、温室効果ガス(GHG)の排出量が低い『移行燃料』であるという認識が一部で存在しますが、LNGのおよそ90%以上が二酸化炭素の80倍以上の温室効果をもたらすメタンで構成されています。採掘や輸送におけるメタンの漏洩により、LNGは石炭と同等またはそれ以上に気候変動を悪化させると考えられています。ライフサイクル全体での排出を考慮すれば、リオ・グランデLNGからの年間GHG排出量は石炭火力発電43基分、テキサスLNGからは石炭火力発電7基分合計50基分にも相当するGHGが排出されると考えられているのです。

採掘地におけるフラッキング(水圧破砕法)による水質・大気汚染、地域住民の健康被害などの影響も深刻です。また、リオ・グランデLNGの事業者であるネクストディケイド社は裁判結果を受けて、唯一の気候変動対策であった炭素回収・貯留(CCS)事業についても、現時点では十分に開発が進んでいないとして申請を取り下げました。以上のことから、LNGを「移行燃料」と考えることは非常に危険であり、LNG事業の拡大はパリ協定の1.5度目標と整合しません。

 

 2) 地域住民への健康被害と「環境レイシズム」

米国メキシコ湾岸は国内で最も多くのLNG事業が乱立し、地域住民に犠牲を強いる犠牲地帯」と呼ばれています。これらの事業は、何千トンもの発がん性の有害汚染物質を周辺に撒き散らすと予想され、周辺住民への深刻な健康被害が懸念されています。(詳しくはFoEジャパンのブログを参照)このように米国全体の電力をまかなうために、有色人種や低所得者層、先住民族など社会的に弱い立場の人々が多い米国メキシコ湾岸のコミュニティに対して、公害などの環境問題を押し付けている様子は環境レイシズム(人種差別)」と批判されています。

ベッカ・ヒノホサ氏南テキサス環境正義ネットワーク共同創立者)は、MUFGの本社前で、雨の中以下の様に訴えました。「MUFGはリオ・グランデLNGから撤退すべきです。なぜなら、明らかに私たちの地域社会は、この事業を望んでいないからです。私たちのコミュニティに押し付けられたもので、環境レイシズムです。そしてこの事業は、先住民族の神聖な土地や聖地を破壊し、既にブルドーザーでそういった土地を踏み潰しています。ですから、私たちはここにいます。MUFG、私たちが引き下がることはありません。これからもこの事業に反対していきます」。

MUFG本社前でスピーチを行うヒノホサ氏(写真©︎ RAN / Masaya Noda)

 3) 希少種の生息地の破壊

リオ・グランデ・デルタの湿地帯は、絶滅が危惧される猫科のオセロットノーザン・アプロマド・ファルコン、海にはケンプヒメウミガメやライスクジラなどの希少な生き物の最後のすみかとなっています。LNG施設が建設されれば、直接的な生息地の破壊と騒音や公害、汚染物質、タンカー船の往来などの影響により、複数の絶滅危惧種に恒久的かつ重大な」影響を与える可能性が指摘されています。

 

 4) 地域の小規模産業への悪影響

周辺地域の人々は豊かな自然の恩恵を受けて、主にエビ漁などの漁業やイルカウォッチなどのエコツアーで生計を立てています。これらのLNG施設は、地域経済にとって重要なこれらの小規模産業に悪影響を与える可能性があります。

 

 5) 先住民族の権利侵害

先住民族の権利侵害も深刻な問題です。リオ・グランデ・バレー地域の先住民族であるカリゾ・コメクルド族(彼らの言語ではエシュトク・グナ族と呼ぶ)は、数千年前から周辺で狩猟・採集・農業などを行い生活していました。リオ・グランデLNGの計画地の下には村の遺跡や貝塚などの歴史遺産、テキサスLNGの地下には『ガルシア牧地』と呼ばれる聖地が眠り、彼らはリオ・ブラボー・パイプラインの建設予定地の数エーカーを直接所有し、絶滅が危惧されるミツバチの養蜂を行っています。カリゾ・コメクルド族はこれらのLNG事業に強く反対していて、事業者は彼らと協議もしていません。

10月7日に行われた会見でカリゾ・コメクルド族チェアマンのフアン・マンスィアス氏は、先住民族の歴史と現状を説明し、テキサスにおける先住民族排除の歴史が現在のLNG事業の問題へとつながっていると語りました。「500年前、私達の民族はこの川沿いにやってきた人々によって侵略されました。かつて私達の民族は、このリオ・グランデ・デルタの美しい水の中で魚をとり生活していました。私達にとってリオ・グランデ川は最初の女性が生まれた場所であり、河口のデルタ地帯には確認されているだけでも32の集落があり、ガルシア牧地と呼ばれる聖地がありました。しかし現在、ガルシア牧地はワールド・モニュメント財団により『危機に瀕している歴史サイト』に認定されています。(LNG建設予定地のすぐ横を通る)運河の建設のために掘り起こされた土の中から、骨が見つかりました。それは私達一族のものです。私の中には彼らと同じ血が流れているのです。かつて声をあげることができなかった彼らの声を代弁することが、重要だと思います」

記者会見で民族の歴史とLNG事業の懸念を語るマンスィアス氏(写真©︎ RAN / Masaya Noda)

 

西洋の入植者による先住民族の排除の歴史により、この地域では自分に先住民族の血が流れていることさえも知らされていない人も多く、カリゾ・コメクルド族の米国政府による認定に時間がかる現状があります。LNG事業者はこの状況を逆手に取り、カリゾ・コメクルド族の同意は不要として事業を進めています(より詳しくはこちらの英語記事を参照)。

問われる銀行の環境・人権への対応

国際連合が推奨する先住民族の権利保護のための「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」は、土地や資源開発を行う事業において、影響を受ける可能性のある先住民族に対し、事業に関する十分な情報開示を事前に行なった上で、賛成または反対の立場をとる事ができる様にすることを求める国際的な原則です。

FPICによると、先住民族の権利は国の認定に関わらず保証されるべきであり、MUFG、みずほ、SOMPOホールディングスは、グローバル企業としてこのような国際的な基準の遵守が求められます。事業に必要な資金を調達するための手法であるプロジェクトファイナンスの際に配慮すべき環境的・社会的影響の国際的な指針である赤道原則(エクエーター原則)においても、同様の基準が採用されています。MUFGおよびみずほは、赤道原則の遵守を誓約しているにも関わらず、リオ・グランデLNGのように先住民族の権利侵害が疑われる事業者への資金提供が以前から報告されていて、企業が事業活動において人権への影響を予測・評価・管理・改善するためのプロセスである人権デューデリジェンスの実効性が疑われます

RANでは引き続き、日本のメガバンクにリオ・グランデ・バレーの3つのLNG事業からの撤退と、人権方針の遵守と人権デューデリジェンスの確実な実行を求める活動を行っていきます。

会見にてリオ・グランデLNGの工事中止を求める代表団(写真©︎ RAN / Masaya Noda)

 

署名に参加して、三菱UFJ銀行にLNG事業からの撤退を求めよう!

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日本外国特派員協会における記者会見の様子はこちら(英語動画)

 

RAN「責任ある金融」キャンペーナー 麻生里衣

ブログ:グリーンウォッシュ警報〜米リオ・グランデLNG事業者のネクストディケイド、CCSを中止〜(2024/10/1)

川上豊幸(RAN日本シニアアドバイザー)
ルース・ブリーチ(RAN米国本部シニアキャンペーナー)

日本外国特派員協会(FCCJ)にて会見を行った筆者(中央:ルース・ブリーチ)と地域住民代表団、2024年10月、東京 ©︎ RAN / Masaya Noda

画期的な判決

2024年8月、米コロンビア特別区連邦巡回区控訴裁判所(No.23-1174)は、テキサス州南部沿岸リオ・グランデ・バレーで計画されている複数のメタンガス(液化天然ガス:LNG)輸出基地事業の認可が、適切な環境評価なしに発行されたとの判決を下した。米連邦エネルギー規制委員会(FERC)が発行したネクストディケイド社のリオ・グランデLNG、グレンファーン社のテキサスLNG、エンブリッジ社のリオ・ブラボー・パイプラインの認可は全て取り消され、これらの巨大事業に大きな遅延をもたらすこととなった。

訴訟手続きの一環として、リオ・グランデLNGは基地の設計に二酸化炭素回収・貯留(CCS)システムを追加することを2021年に提案していた。LNGのCCSとは、化石燃料の処理過程で排出される二酸化炭素(CO2)を回収し、地下に圧入して恒久的に貯蔵することを試みるものであるが、この技術は未だ実証されていない

8月の判決後、リオ・グランデLNGはCCS計画を取り下げた。これにより、ネクストディケイド社の「環境に優しい」という主張がいかにお粗末であるかが明らかになった。ネクストディケイド社はエネルギー移行計画を策定していなく、また中止したCCS計画以外には、ネットゼロ排出を達成するための計画を何も公表していない。日本のメガバンクの三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、ネクストディケイド社とリオ・グランデLNG事業の主要な資金提供者であり、同事業に23億8000万米ドルを提供している。

リオ・グランデLNGの主要資金提供者


(出典:シェラクラブ「US LNG Export Tracker」より)

 

リオ・グランデLNG施設が稼働すれば、石炭火力発電所43基分に相当するCO2を排出することになる。ネクストディケイド社は、事業の第1フェーズ向け184億ドルのプロジェクトファイナンスが「米国史上最大のグリーンフィールドのエネルギー事業向け融資である」と自慢している。ここでいう「グリーンフィールド」とは、手つかずの海岸沿いの土地に建設するという意味である。事業建設予定地は、米国メキシコ湾岸で未だ工業化されずに自然が残る最後の地域のひとつである。

進みの遅い汚れた事業

ネクストディケイド社は当初、2017年にリオ・グランデLNG輸出基地の最終投資決定(FID)を行い、2020年第4四半期に操業を開始する予定であった。しかし同社は、法的な課題や不十分な規制手続き、コミュニティからの圧力、不安定な石油・ガス市場などにより、度重なる遅延に直面してきた。

2023年7月、ネクストディケイド社は重要な節目を迎えた。リオ・グランデLNG基地の第1フェーズに関する最終投資決定を下したのである。この初期フェーズには3つの「トレイン」(液化プラント)が含まれる。これらのトレインは、年間2700万トンのガスを処理する見込みである。フランスの銀行ソシエテ・ジェネラルは、最終投資決定に至る前にリオ・グランデLNG事業から公に撤退した。 当初ネクストディケイド社のアドバイザーを務めていた日本の三井住友銀行も、現在は事業に関与していない。さらに複数の銀行がリオ・グランデLNGへの資金提供に関与しないことを2023年に非公開で確認している。

リオ・グランデLNG施設予定地、米国テキサス州、2023年12月6日  ©︎ Bekah Hinojosa / (SOTXEJN)

偽りの解決策

ネクストディケイド社は、環境に配慮したイメージを偽り、メタンガス輸出事業による膨大な排出量と現地での影響について積極的に「グリーンウォッシュ」を行なってきた。同社は2020年10月、計画中のリオ・グランデLNG施設でネットゼロ排出の達成を目指すと発表した。CCS技術を使用し、ガスの前処理と燃焼後のプロセスで排出されるCO2を回収し、地下に注入して恒久的に貯蔵することで、ネットゼロ排出目標を達成しようという計画であった。

しかし、炭素回収技術は、米国内のメタンガス輸出施設に未だ適用されたことがなく、他の化石燃料事業でも成功したことがない。リオ・グランデLNGはCCSに関して三菱重工と提携しているが、三菱重工は過去にも石炭火力発電所の炭素回収を試み、コストと技術的な問題が原因で失敗しているMUFGは三菱重工の重要なパートナーでもあり、両社はともに三菱グループの一員で、三菱グループはかつての財閥(戦前に多くの事業分野を支配していた企業グループ)である。CCS事業の中止が、MUFGとネクストディケイド社の関係に影響を与えるかは不明である。

MUFGにリオ・グランデLNGの地域への悪影響を訴え支援停止を要請した代表団、2024年10月©︎ RAN / Masaya Noda

エネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)が2022年9月に行った世界各地のCCS事業の分析によれば、CCS事業の大半は失敗しているか、約束どおりにCO2を回収できていないか、大幅なコスト超過に苦しんでいることが明らかになっている。CCS技術は、メタン輸出においては未だ実証されたことがない。

ネクストディケイド社は、リオ・グランデLNGのCCS事業が「提案されている炭素回収・貯留を通じて、CO2排出量を90%以上削減する」と主張し、「年間500万トン以上のCO2を恒久的に貯蔵すると述べている。ガス業界は通常、LNGのバリューチェーンの狭い部分のみに焦点を当て、ガスを燃やす発電所と石炭を燃やす発電所の排出量を比較する。しかし、メタンの採掘から輸送、発電所での燃焼に至るまでのプロセス全体を考慮したライフサイクル分析を用いると、LNG事業からのメタン排出量は、化石燃料産業が算出する排出量よりも大幅に増加する

リオ・グランデLNG輸出基地用のメタンガスは、テキサス州西部のパーミアン盆地とイーグルフォード・シェールから、フラッキング(水圧破砕)と水平掘削によって採取される予定である。フラッキングは、強力な温室効果ガスであるメタンを大気中に大量に放出し、米国で大気汚染や水質汚染、コミュニティの健康への悪影響をもたらしている。ネクストディケイド社は、基地で処理されるガスは「持続可能な生産者」から「責任ある形で調達された天然ガス」であると主張している。2023年にアースワークスとオイル・チェンジ・インターナショナルが発表した報告書は「認証ガス」の正当性について重要な疑問を提起し、「メタンガスの最大認証機関の一つであるProject Canary社が販売するモニターによる石油・ガス汚染の検出」に重大な欠陥があることを示した。認証ガスに関する主張と使用については、米国の上院議員グループが米連邦取引委員会に異議を申し立てている

バリューチェーン上流での採掘は、私たちの環境をあらゆる面で汚染し、最前線のコミュニティに甚大な被害をもたらすとともに、世界各地で発生している深刻な気候災害を悪化させている。現実には、ガス認証やメタンガス工場のCCS事業は、気候危機に対する偽りの解決策でしかない。例えば、キャメロン郡で提案されていたリオ・グランデLNGのCCS事業は、上流と下流の両方での排出を含めて算出された事業のライフサイクル排出量の約3%しか回収できない。

コミュニティのリーダーたちは日頃からネクストディケイド社の主張に異議を唱え、また同社がウェブサイトに掲載している単純な概要以上の詳細な計画を共有していないと批判している。ネクストディケイド社は、FERCの監視官にも計画を伝えることを怠っていた。

控訴裁判所は8月の判決において、FERCが事業の環境影響を評価する前に、ネクストディケイド社がCCSの計画を共有する必要があったというコミュニティリーダーたちの意見に同意した。これに対しネクストディケイド社は、「現時点ではFERCの審査を継続できるほど十分に開発されていない」として、CCSの申請を取り下げた 

ネクストディケイド社のウェブサイトより “NextDecade Withdraws Carbon Capture and Storage Application at FERC”, 2024年8月20日

https://investors.next-decade.com/news-releases/news-release-details/nextdecade-withdraws-carbon-capture-and-storage-application-ferc/

コミュニティリーダーたちが予想していたとおり、CCS提案はごまかしにすぎなかった。ネクストディケイド社がこの疑わしいCCS提案をあっさりと取り下げたことは、同社の野心的な気候目標に対する真摯さに疑問を投げかけるものである。

幸いにも、控訴裁判所はネクストディケイド社がCCS提案を撤回する可能性を予期し、たとえCCS事業が中止されたとしても、FERCが「リオ・グランデ基地を再承認する前に、少なくとも補足的な環境影響評価書(EIS)を通じて提案を代替案として分析しなければならない」という判決を下した。

ネクストディケイド社と三菱重工との間で結ばれたCCSに関するエンジニアリングサービス契約の行方は不明である。

リオ・グランデLNGのCCS事業は、リオ・グランデLNGと長期売買契約を結んでいるフランスの多国籍電力・ガス会社エンジーとの関係にとって重要であった。エンジー社は2020年にネクストディケイド社とのCCSなしの同様の契約を拒否していた。ネクストディケイドの子会社で、CCS事業の実施主体であるネクスト・カーボン・ソリューションズ社の今後についても不明である。

州道48号線沿いの自然、テキサス州ブラウンズビル、2017年  ©︎ Joseph Fry 

より公正なエネルギー移行への資金提供を

CCSはコストが高く、また再生可能エネルギーへの投資を奪うことになる。現在のCCS技術は、建設にも運用にも莫大なコストがかかり、政府からの多額の補助金なしには実現不可能である。現在提供されている非常に高水準の補助金をもってしても、ほとんどの事業は依然として採算が取れていない。CCS事業に投入されている税金の額が、化石燃料ベースの発電所の風力や太陽光による発電能力(の強化のため)の補助金として使用されれば、風力または太陽光による発電能力を即座に5倍以上にすることが可能である。

銀行が気候変動と人権に真摯に取り組むのであれば、このような不誠実なグリーンウォッシュを見抜き、より公正なエネルギー移行への資金提供に注力すべきである。

リオ・グランデ・バレーと米国メキシコ湾岸のコミュニティには、汚染度の高い化石燃料から解放された未来を手に入れる権利がある。

MUFGにリオ・グランデLNG支援停止をアピール、日本で活動する環境NGOと共に 2024年10月©︎ RAN / Masaya Noda

参考

RANプレスリリース「危険なLNG事業を支援する邦銀に要請、 米メキシコ湾岸の住民代表団が初来日」2024/10/8)

10月記者会見資料「LNG/メタンのリスクと日本の金融機関の役割」

FCCJ会見のアーカイブ映像

本ブログは、英語記事“GREENWASHING ALERT: NextDecade Cancels Carbon Capture” (2024年10月1日)の和訳版です(2024年12月17日投稿)。

 

ルース・ブリーチ(RAN気候変動&エネルギー担当 シニア・キャンペーナー)

米環境NGO「レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)」で、世界的なメタンガス拡大に焦点を当てた活動を担当。化石燃料の採掘阻止を目的に、金融と企業責任に関するキャンペーンの組織化、化石燃料インフラの影響 を受ける最前線のコミュニティへの支援、全米の草の根ネットワークを対象とした直接行動トレーニング、銀行や保険会社とのエンゲージメント(対話)などに取り組んでいる。学術誌や多数の報告書の共著者でもある。

川上 豊幸(RAN日本シニアアドバイザー)

経済学博士。専門は国際環境経済学。聖心女子大学現代教養学部国際交流学科教員。2005 年にRAN の日本代表として事務所を設立し、豪州タスマニアの原生林保護に取り組んだ。その後、インドネシアの熱帯林保護活動に取り組み、森林と森林に依存して生活する人々への悪影響是正に向けて、紙パルプやパーム油業界、金融業界への働きかけを行っている。2023年12月より現職。

記事:ホワイトハウス、LNG輸出の新規許可を一時凍結 ウォール街も後に続くべき(2024/2/13)

ジンジャー・キャサディ(レインフォレスト・アクション・ネットワーク)
フアン・マンシアス(米テキサス州カリゾ・コメクルド族)

(本記事は、米誌「Newsweek」に寄稿した記事の翻訳版です)

米国メキシコ湾岸の石油・ガス開発反対運動のリーダーたちは勝利を収めた。米政権が、液化天然ガス(LNG)として知られるメタンガスの輸出施設の新規認可を一時凍結するよう指示したのだ。メキシコ湾岸では、私たちの世代で最大の石油・ガス開発が計画されている。この一時凍結は、開発中止を求める地元住民やリーダーたちの請願に応えたもので、化石燃料拡大の時代の終焉を告げる画期的な出来事となり得る。開発中止の呼びかけはホワイトハウスで終わらず、漁民、公衆衛生の専門家、科学者、アメリカ先住民族、そして一般市民が、銀行保険会社にも、これらの開発事業を中止するようプレッシャーをかけている。

環境保護活動に反対する主張でよくあるものは、「利益追求」と「保全活動」は相反するという考えだ。つまり「利益追求」は本質的に経済にとって、ひいては人間にとって有益なものだが、「保全活動」は大気や土地、植物、水、野生生物を保護するが、人間の利益のためではないという論理だ。しかし、この主張は米国メキシコ湾岸の実情から遠くかけ離れている。ここで暮らす先住民族の文化には、「大地の健康」は「人々の健康」と同義で、切っても切り離せないという考え方がある。

彼らの考えが正しいことは明白だ。同地域では、土壌や大気の有害物質によって人々が命を落としており、一帯は「がん回廊(Cancer Alley)」という悪名高いあだ名で呼ばれているのだから。メタンガス輸出施設付近の地域住民が健康被害を被っていることや、化石燃料に起因する気候災害に世界中の人々が直面していることを考えれば、これらの事業に反対する道徳的根拠には、反論の余地がない。地域の生活に決定権を持つ人々に良心があるならば、利益、人々、環境の間の分断がこれ以上続くことを止めるだろう。これは多数を犠牲にして、少数と利益を共有する銀行や保険会社にも言えることだ。

メタンガスに反対する経済的根拠も高まっている。メタンガスの輸出は米国の一般家庭のエネルギー価格を引き上げ、メタンガス施設が建設される地域の先住民族や黒人、褐色人種のコミュニティの生活を破壊している。さらに、メタンガスの輸出は石炭よりも気候に悪影響を及ぼすという事実が、新たな調査によって浮き彫りになっている。メタンガスの供給が過剰になることは予測されており、その価格を破壊するだろう。全ての化石燃料の拡張事業は、メタンガス拡張事業に見られる負の傾向と同じ問題に直面している。

バイデン政権によるメタンガス輸出凍結により、提案段階にある12件の計画が停止される見込みだ。自然保護団体シエラクラブによれば、これは石炭発電所223基分の温室効果ガス(GHG)排出に相当する。米国にはすでに8つの既存のメタンガス輸出基地(ターミナル)があり、さらに7つの事業が建設中だ。建設中の事業には、テキサス州リオ・グランデ・バレーの未開発の海岸線での新規基地建設(訳註1)や、ルイジアナ州とテキサス州に所在する既存事業の拡張などが含まれる。投資家は、停止中の事業のリスクが大幅に高まったことを否定できないだろう。全てのメタンガス輸出拡大事業、特に民族の抹消(訳註2)などといった現在起きている重大な人権侵害を永続させるような事業は、中止を求めるコミュニティからのプレッシャーというリスクに直面している。

化石燃料セクターは、化石燃料を拡大する全ての事業を止めるよう求める業界アナリストやコミュニティのリーダーからの訴えを、無謀にも無視し続けている。金融機関や投資家は、そのようなセクターで、座礁資産市場の変動による投資の破壊、資金提供を通じて問題に加担したことによる法的リスクの増大といったリスクを負いながらギャンブルすることをやめなければならない。

銀行や保険会社は何十年もの間、化石燃料事業への資金提供による気候や地域社会への影響を無視してきた。メキシコ湾岸の反対運動のリーダーたちは、ウォール街に対して、ホワイトハウスと同様に行動することを求めている。しかし、金融機関は、黒人や褐色人種、先住民族のコミュニティに汚染被害をもたらすメタンガス事業への支援を取りやめていない。

LNG輸出認可を一時停止するというホワイトハウスの発表により、金融業者と投資家の選択肢は明確になった。化石燃料の拡大への支援を中止するなど、全ての人の生命を守るために必要な方針を策定するか、それとも、政府の規制にますます反するようになっているギャンブルを利益目的で続けるか、のどちらかなのだ。メキシコ湾岸と世界中の人々の命を救うために、今こそリーダーシップが必要だ。ウォール街はホワイトハウスの後に続き、大胆に行動しなければならない。

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク事務局長
ジンジャー・キャサディ

テキサス州カリゾ・コメクルド族チェアマン
フアン・マンシアス

*本記事で述べられている見解は執筆者個人のものです。

 

訳註1)リオ・グランデLNG事業の概要や問題点については、日本のNGO「環境・持続社会」研究センター(JACSES)がまとめたファクトシート(2024年4月発行)を参照のこと。

https://jacses.org/wp_jp/wp-content/uploads/2019/10/f3f4587241d5a547e73247c7eea46d96.pdf

訳註2)テキサス州の先住民カリゾ・コメクルド族は、アメリカ先住民族であるにもかかわらず、連邦政府から公認の先住民族としての法的地位や土地権などが認められていない。彼らは長年、この「民族の抹消」という深刻な人権侵害とたたかい、また先祖代々に伝わる土地を環境破壊などから守る活動を行ってきた。現在、彼らの聖地にメタンガス輸出施設やパイプラインが建設されるのを阻止するために、世界的なキャンペーンを展開している。彼らの活動の結果、輸出施設の建設が中止・遅延されたり、投融資を検討していた銀行が事業から撤退するなどしている。

(和訳版発行日:2024年9月3日)