サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

‘パーム油’カテゴリーの記事一覧

ブログ:RGEグループ、パルプ材サプライチェーンにおける新たな森林破壊を認める(2025/12/19)

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

概要

● ロイヤル・ゴールデン・イーグル(RGE)グループは、自社サプライチェーンにおける森林破壊を2016年以降に停止することを誓約している。しかし、それから9年後の今も、RGEグループの紙パルプ部門のサプライチェーンは、熱帯林の皆伐を続ける事業管理地からの調達を継続している。木材チップの調達は、物議を呼んでいる PT. バリクパパン・チップ・レスタリ(PT. BCL)を通じて行われている。RGEグループは、自社方針の違反があったことを認めている。

● 森林管理協議会(FSC)が新たに公表したガイドラインによれば、PT. BCLはRGEグループの財務的支配下にあり、ゆえにRGEの企業グループの一員とみなされる。したがって、RGEグループは、FSCとの関係修復に向けた取り組みの基盤である「森林破壊禁止」誓約に引き続き違反している。

● インドネシア政府の記録および衛星画像分析から、中国にあるRGEグループ最大のパルプ工場に専属で供給する木材チップ工場であるPT. BCLが、2020年から2024年の間に5,565ヘクタールの天然林を皆伐した2つのパルプ材植林地から調達していたことが明らかになった。

● 日本のメガバンクである三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、RGEグループのパルプ部門への融資を続けている。2020年から2025年7月までに、エイプリル社に2億2,200万米ドルの融資を行っている。そのうち、2024年にはシンジゲートローンに9,500万米ドルもの拠出が行われた。

RGEグループと森林破壊のつながり

ロイヤル・ゴールデン・イーグル(RGE)グループは、ビスコース、紙、ティッシュ、包装材の世界的な大手供給企業である。同グループは、2016年の始めまでに自社サプライチェーンから森林破壊を停止するという誓約を広く宣伝しているにもかかわらず、インドネシアの熱帯林を皆伐している供給業者からの調達を続けている。

税関記録、衛星画像分析およびサプライチェーンのデータによると、インドネシアの木材チップ生産者であるPT. バリクパパン・チップ・レスタリ(PT. BCL)が、2020年から2024年にかけてボルネオ島の東カリマンタン州で5,500ヘクタール以上の天然林を皆伐した2つのパルプ材植林地から、大量の木材を調達してきたことを示している。この税関記録および木材供給に関するデータは、サプライチェーンの透明性向上のためのプラットフォーム「Trase」が、インドネシアのパルプ部門に関する最新アップデートのなかでまとめたものである。現地のNGOである「アウリガ・ヌサンタラ(Auriga Nusantara)」による現地調査は、2025年に至るまで継続している森林破壊を記録している。

RGEグループの供給業者であるPT. SAKの事業管理地RGEグループの供給業者であるPT. SAKの事業管理地で、熱帯林が転換されたばかりの区域を記録した最近のドローン写真。ドローンの位置:北緯0.0784825度、東経115.9216100度、皆伐が行われた区域:北緯0.083936度、東経115.937801度(© Auriga Nusantara, 2025)

RGEグループの供給業者であるPT. SAKの事業管理地2025年5月の衛星画像(Sentinel-2)に示された、最近皆伐された区域の記録(ヌサンタラ・アトラス上で閲覧)。ドローンの位置(黄色のピン)および撮影されたおおよその範囲(ピンク色)を表示

RGEグループの供給業者であるPT. SAKの事業管理地RGEグループの供給業者であるPT. SAKの事業管理地で、熱帯林が転換されたばかりの区域を記録した最近のドローン写真。ドローンの位置:北緯0.0784825度、東経115.9216100度、皆伐が行われた区域:北緯0.083936度、東経115.937801度(© Auriga Nusantara, 2025)

RGEグループの供給業者であるPT. SAKの事業管理地で、熱帯林が転換されたばかりの区域を記録した最近のドローン写真。ドローンの位置:北緯0.0784825度、東経115.9216100度、皆伐が行われた区域:北緯0.083936度、東経115.937801度 (© Auriga Nusantara, 2025)

問題となっている木材チップ工場——PT. BCL——は、数年にわたりRGEグループの独占供給者となっている。森林管理協議会(FSC)が2025年10月に採用した新しいガイドラインによれば、PT. BCLは、RGEグループの財務的支配下にあり、ゆえに企業グループの一員とみなされる。以上のことから、RGEグループは保護価値の高い(HCV)地域の破壊および森林の非森林用途への大規模転換を禁じるFSCの「組織とFSCの関係に関する指針」に違反していると見られる。RGEグループは、「救済(補償)プロセス」を通じて、傘下のパルプ企業グループであるエイプリル社(APRIL:アジア・パシフィック・リソース・インターナショナル)とFSCとの関係修復を図ってきた。しかし、RGEグループ傘下のパルプ企業トバ・パルプ・レスタリ(TPL)の労働者が先住民族コミュニティの人々に暴行を加えた事件の告発を受け、この救済プロセスは2025年9月に停止されている。

PT. BCLで植林地からの丸太が荷下ろしされる様子(2024年11月)

loyal-Golden-Eagle-Industrial-Zone-BalikpapanPT. BCLの木材チップ施設は、RGEグループ傘下のアピカル社のパーム油精油施設の隣に位置する(バリクパパン)

RGEグループはこの告発に対し、同社の「予備的分析は、2020年から2024年の間に、PT. センダワル・アディ・カリヤ(PT. Sendawar Adhi Karya: PT. SAK)およびPT. バカヤン・ジャヤ・アバディ(PT. Bajayan Jaya Abadi: PT. BJA)の事業管理地において土地被覆の変化が実際に発生していること、および、この土地被覆の変化は当社の森林破壊禁止方針および持続可能な調達方針に適合していなかった可能性が高いことを示しています」と回答している(RGEの回答全文はページ下部を参照)。

2023年7月、RGEグループ傘下のアジア・シンボル社も、PT. BCLは木材チップ供給者であり、RGEグループおよびアジア・シンボルの森林破壊禁止誓約に反して、2016年から2022年にかけて森林破壊を引き起こしていた供給業者から木材を調達していたと認めている。アジア・シンボルはこの声明の中で、PT. BCLには「強固なデューデリジェンス体制を整備し、調達した全ての木材について定期的な現地検証を実施することが求められていました」と述べた。しかし、このスキャンダル以降も、アジア・シンボルはPT. BCLから安定的に調達を続けている。2020年にはアジア・シンボルのPT. BCLからの木材チップ調達は、全体の約5分の1を占めていた。政府記録と衛星画像分析などを用いた今回の新たな調査結果は、PT. BCLが天然林を皆伐している企業からの調達を継続していたことを示している。2024年にPT. BCLが調達した木材総量の36%は、天然林の皆伐を行うPT. SAKとPT. BJAから調達されていた。この調達は、アジア・シンボルが表明している、PT. BCLの調達に関する強化されたデューデリジェンス・検証の実施期間中に行われたものである。RGEグループのバリューチェーンに森林破壊とつながりのある供給業者が存在し続けていることは、RGEグループが掲げる「森林破壊を一切容認しない」という主張が偽りであることを示している。

RGEグループは次のように回答した。「PT. BCLおよびその供給業者による当社方針の遵守に疑いが生じたのは、今回が初めてではありません。(略)当社調査による予備的な所見に基づき(略)アジア・シンボルは、PT. BCLからの全ての供給を直ちに停止する決定を下しました。アジア・シンボルおよびその他のRGE企業は、今後PT. BCLから調達を行いません」

PT. BJAの事業管理地における年次の森林破壊を示した地図(2020〜2024年)

PT. SAKの事業管理地における年次の森林破壊を示した地図(2020〜2024年)

サプライチェーン内の森林破壊

衛星画像分析および現地調査は、PT. SAKおよびPT. BJAの隣接する事業管理地内で、2020年以降、5,500ヘクタール以上の熱帯林(サッカー場7,000面以上に相当)がパルプ材用植林地のために皆伐されてきたことを示している(衛星リモートセンシング分析はRANが外部委託したもの)。

PT. BCLがインドネシア環境林業省に報告したデータによれば、PT. SAKおよびPT. BJAは、2024年に両社の植林地の40万立方メートルを超える木材を、全てPT. BCLの木材チップ工場に送っている。出荷記録によれば、PT. BCLは同年、その木材チップの全量、すなわち80万トン超(7,000万米ドル以上相当)を、中国山東省日照市にあるRGEグループの巨大パルプ工場であるアジア・シンボルに輸出している。これらの出荷記録は、インドネシアのバリクパパンと中国の日照市との間で木材チップを輸送した船舶の動きの追跡データの分析結果によって確認された。

PT. BCLの最終受益者(実質的な所有者)は、オフショアのペーパーカンパニーによって隠されているが、これらのペーパーカンパニーは、RGEグループと複数の共通点を持つ。RGEグループはPT. BCLの所有・支配を否定しているものの、PT. BCLは、RGEグループのパルプ材サプライチェーンにおける垂直統合型の施設であると見られる。PT. BCLは、RGEグループに専属で供給し、RGEグループ傘下のクタイ(Kutai)にあるパーム油の製油所と同じコンビナートで操業し、出荷港を共有している。

マハカム川の森林景観

PT. SAKおよびPT. BJAの事業管理地は、西クタイ県にあり、ボルネオ島で三番目に大きい河川であるマハカム川の流域に位置する。インドネシア語で「マハカム・ウル」と呼ばれる上流域には、インドネシアに残された最大級の手付かずの熱帯林が広がっている。しかし、マハカム川流域に残存する熱帯林は、石炭採掘やアブラヤシ農園開発、森林伐採、そして今回の事例に見られるようなパルプ材用植林地開発などの産業によって、断片化の脅威に晒されている。

マハカム川で遊ぶ絶滅危惧種カワゴンドウ7頭の群れ(2024年11月© RAN)

マハカム川流域には、現地では「ペスット」と呼ばれるマハカム川固有のカワゴンドウの個体群(別名:イラワジイルカ、IUCNレッドリスト:深刻な危機(CR))や、めったに姿を見せないスマトラサイなど、多くの絶滅危惧種や、象徴的な種が生息している。スマトラサイは、かつて野生では絶滅したと考えられていたが、2025年にタバング(Tabang)郡区のPT. SAKの事業管理地近く、2016年にマハカム地域で確認されている。一頭のサイはその後保護されたが、この森林は野生復帰を成功させる上でも極めて重要な生息地であることに変わりはない。さらに、絶滅の危機にあるボルネオオランウータンやテングザル、オナガサイチョウなどの動物も生息している。

タバング郡区のPT. SAKの事業管理地近くで、2025年にカメラトラップにより撮影されたボルネオサイ(CR)(写真© Indonesia’s Resource Conservation Centre (BKSDA))

カワゴンドウマハカム川に生息する絶滅危惧種(CR)のカワゴンドウ。「ペスット」とも呼ばれる(© Yayasan RASI)

ボルネオオランウータン絶滅危惧種(CR)のボルネオオランウータン。生息地存続可能性評価によると、マハカム川周辺に生息する(写真:Creative Commons)

マハカム川流域に生息する絶滅危惧種(EN)のテングザル(写真© Yayasan RASI)


先住民族ダヤックのフドック祭(マハカム・ウル)

マハカム川上流の素晴らしい景観と生物多様性は、自然に依存した伝統的農業と現代的農業により生計を立てる先住民族コミュニティのダヤック族のスチュワードシップ(責任ある管理)によって守られている。これらのコミュニティの多くは、伝統的に使用してきた土地と森林をめぐる慣習的権利(慣習林:インドネシア語で「フータン・アダット」)を獲得して、森林伐採、アブラヤシ農園、鉱山の新規開発地を求める企業の進出から土地と権利を守るために闘っている。

MUFGは森林破壊への関与に対処していない

日本のメガバンクである三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、RGEグループのパルプ部門およびパーム油部門に対する重要な資金提供者である。MUFGは、RGEグループのインドネシア事業に対する第二位の資金提供者であり、同グループの数十億ドル規模のサステナビリティ・リンク・ローンにおいて主幹事およびサステナビリティ・アドバイザーを務めた。「森林と金融」のデータによれば、MUFGは2020年から2025年7月までの間に、RGEグループのパルプ企業であるエイプリル社に2億2,200万米ドルを提供した。その中には、2024年のシンジゲートローンへの9,500万米ドルの拠出が含まれる。

MUFGは、顧客の守秘義務を理由に、本調査結果についてのコメントを控えた。

2021年、MUFGはパーム油部門に「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止(NDPE)」方針を採用し、その後2023年に紙パルプ部門にも同方針の適用範囲を拡大した。しかしMUFGは、これらの方針をどのように実施し、デューデリジェンスやリスク管理プロセスに統合しているかについて、ほとんど情報を開示していない。また、森林破壊ゼロのポートフォリオを達成するための明確な基準日(カットオフ日)や達成の期限も開示していない。このMUFGの現状は、森林破壊への対処に関して2024年に大手機関投資家グループが示した期待を大きく下回っている。

RGEグループが、インドネシア各地で森林破壊を引き起こし続けている「貸借対照表に計上されない事業活動」、いわゆる「シャドーカンパニー(影の企業)」の複雑なネットワークを運営している証拠は増え続けている2020年2023年および2024年の報告書を参照)。これらのシャドーカンパニーの最終受益者は、秘密管轄区(secrecy jurisdictions)に所在するオフショア企業によって隠されている。しかし、複数の取締役の重複や資源の共有、そして従業員の証言も含めると、シャドーカンパニーの事業活動は実質的にRGEグループに支配されていることを示している。RGEグループは、これらの事業活動への関与を否定している

MUFGがパルプ部門の融資先による森林破壊に対処するためには、複数のマルチステークホルダー型イニシアチブが推奨する様に、自社方針やデューデリジェンスを特定の事業や子会社に限定せずに、顧客の企業グループ全体に適用するべきである。このようなアプローチは、気候変動に関する機関投資家グループ(IIGCC)、アカウンタビリティ・フレームワーク・イニシアチブ(AFi)、森林破壊フリー・デューデリジェンスのガイド、ならびに「森林と金融」による方針評価によって支持されている。

 

本調査のストーリーマップはこちら(英語ページ)

 

著者:レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)

米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。


https://japan.ran.org

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RGEグループからの回答原文(2025年12月11日)

Dear Rainforest Action Network,

This is in response to your letter dated 24 November, 2025 regarding wood supply received by Asia Symbol from its supplier PT. Balikpapan Chip Lestari (BCL), specifically the wood supply sourced by BCL from companies PT Sendawar Adhi Karya (SAK) and PT Bakayan Jaya Abadi (BJA). In your letter you stated that you had evidence that between 2020 and 2024 SAK and BJA had converted forest areas into plantations in their concessions in East Kalimantan.

We take all such allegations seriously. Asia Symbol investigated your claims and preliminary analysis of the concessions of the two suppliers to BCL indicates that land cover change did occur in the concessions of SAK and BJA between 2020 and 2024 and that this land cover change was likely non-compliant with our no-deforestation and sustainable sourcing policies and requirements.

As you have noted in your letter, this is not the first time that compliance by BCL and its suppliers with our policies has come into question. Asia Symbol had in 2023 requested BCL to suspend supply from its supplier PT. Industrial Forest Plantation (IFP) after claims that IFP had conducted non-compliant plantation establishment and BCL had implemented that suspension.

Based on the preliminary findings of our investigation regarding supply to BCL by SAK and BJA, and following the earlier issues with BCL and its then supplier IFP in 2023, Asia Symbol has taken the decision to immediately cease all supply from BCL. Asia Symbol and any other RGE companies will not source from BCL in the future.

Asia Symbol’s decision indicates the seriousness with which we take issues of non-compliance with our wood sourcing and sustainability policies and processes. In addition to immediately ceasing wood sourcing from BCL, Asia Symbol is continuing to review its wood supply due diligence and compliance systems to ensure they are rigorously applied to and by every supplier, and that their application is strengthened.

We ask that our response above is published in full in your upcoming report.

Sincerely,

Lucita Jasmin
Group Sustainability Director

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免責事項: この記事は “Royal Golden Eagle acknowledges new deforestation in its pulpwood supply chain” の和訳版です。参照、引用、正確な理解のためには英語の原文をご覧ください。

ブリーフィングペーパー:MUFGによる森林リスク産品への資金提供について (2025/8/28)

日本最大手の銀行グループである、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、生物多様性や気候変動を緩和する上で重要な役割を担っている熱帯林を破壊して生産されるリスクが高い「森林破壊リスク産品」に資金提供を行う世界最大の銀行グループの一つです。2016年から2024年6月の間、MUFGが東南アジアの森林リスク産品に提供した資金は、OECD加盟国の銀行として最大であり、世界13位の規模であったことがわかりました。このように社会的・環境的に配慮の欠ける資金提供によって、気候変動の悪化、生物多様性の喪失、先住民族コミュニティへの人権侵害などの問題が助長されています。

現在のMUFGの方針は、森林保護の国際基準である「森林破壊禁止・泥炭地開発禁止・搾取禁止(NDPE)方針」の適用範囲が限定的であるために、このような方針を持っているにもかかわらず問題のある顧客への投融資を防ぐことができていません。

MUFGのインドネシア子会社であるバンクダナモンは、2020年から2023年の間、炭素を多く蓄える「泥炭地」を大規模に転換した農園企業を支配下に置くグループ会社、トゥナス・バル・ランプン(TBLA)に2億8,000万ドルを超える資金を提供しました。この間、この農園企業は7,800ヘクタールの広大な泥炭地を転換し、膨大な温室効果ガスの排出と、度重なる大規模火災を引き起こしました。2024年には、インドネシア政府が、生態系への損害と経済的損失に対して4,150万米ドルの賠償を求めて、この農園企業を提訴しています。

また、MUFGの顧客であるRGEグループは、長年にわたってインドネシアの熱帯林を皆伐し、先住民族や地域コミュニティの権利を侵害してきました。2024年に発表された調査では、スマトラ島で同グループの関連会社が森林破壊を伴う開発を続けていたことが明らかになりました。また、北カリマンタンに建設中の巨大パルプ工場は、同グループの管理下にある可能性が高く、この工場が本格的に稼働すれば、ボルネオとパプアの太古の熱帯林60万ヘクタール(サッカー場8,400個分に相当)が危機に瀕すると懸念されています(RAN)。

こちらの調査書では、MUFGの「森林破壊リスク産品」への資金提供の分析、現在の投融資方針の分析および改善点、問題のある投融資先の事例紹介などをまとめています。こちらからダウンロードできます。

日本語版

英語版

プレスリリース:『生物多様性崩壊をもたらす金融業務』日本語要約版発表 〜メガバンクら邦銀、森林リスク産品にパリ協定以降215億ドルを提供〜(2025/4/10)

三菱UFJと子会社、インドネシア森林火災企業に2億8千万ドル融資の事例も

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部サンフランシスコ、以下、RAN)は、本日、「森林と金融」連合による年次報告書である『生物多様性崩壊をもたらす金融業務:熱帯林破壊を助長する銀行と投資家の追跡』日本語要約版を発表しました(注1)本報告書は大手金融機関が熱帯林地域における森林破壊、生物多様性の損失、気候変動、人権侵害を助長している役割について包括的に分析するものです。日本に関する新たな分析の結果、メガバンクを含む邦銀大手がパリ協定締結以降の2016年から2024年6月、熱帯林破壊に関係する高リスク林業・農業企業に約215億ドルの資金を提供していることが明らかになりました。

要約版では東南アジアでの森林破壊リスクの高いメガバンクの顧客事例も記載しています。その一つは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のインドネシア子会社を通した、大規模な森林火災を繰り返し発生させているアブラヤシ農園企業グループへの融資の事例です。報告書と同時に詳細を発表し、銀行グループの与信方針の抜け穴やデューデリジェンス(相当の注意による顧客の適正評価)の弱さを指摘し、森林火災や違法活動を助長する高リスクな資金提供に警鐘を鳴らしました(注2)

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報告書詳細

本報告書「生物多様性崩壊をもたらす金融業務:熱帯林破壊を助長する銀行と投資家の追跡」は、世界の熱帯林破壊の大部分を引き起こしている「森林リスク産品」セクターの6品目(牛肉、パーム油、紙パルプ、天然ゴム、大豆、木材)に携わる300社の森林部門事業に対する商業資金の流れを、パリ協定採択後の2016年1月から2024年6月の期間において分析しています。報告書では、森林リスク産品セクターへの融資・引受と債券・株式保有において、どの銀行と投資家が最も大きな役割を果たしているかを明らかにしています。森林破壊を引き起こすリスクの高い銀行、つまり資金提供額上位30行のなかには、ブラジルやインドネシアなどの熱帯林諸国の大手銀行や、米国、欧州連合(EU)、日本、中国といった輸入および財政的に重要な区域の大手銀行が含まれます。日本の金融機関による2018年1月から2024年6月の資金提供額はみずほフィナンシャルグループが世界9位(約68億ドル)、MUFGが13位(約53億ドル)、SMBCグループが15位(約4億ドル)と続き、3行ともトップ20行に入りました(表)

表「森林リスク産品への融資・引受額 上位30銀行」(2018年1月-2024年6月、単位:百万米ドル)
*森林リスクセクター159社(東南アジア、ラテンアメリカ、中央・西アフリカ)への融資・引受額、傾向。日本のメガバンクはみずほ(9位)、MUFG(13位)、SMBC(15位)。

日本の金融機関はパーム油と紙パルプ部門に多くの資金を提供しています。融資・引受額は2020年に新型コロナ感染拡大で鈍化したものの、2018年と2019年、2021年には高まりを見せました(図:下)。中でも東南アジアで森林破壊を引き起こしているセクターへの資金提供でのメガバンクの存在は大きく、2018年から2024年6月の期間、MUFGはOECD加盟国の銀行の中で最も多額の融資・引受を行い、みずほは2位、SMBCは5位でした。要約版にはメガバンク各行の東南アジアにおける主要顧客15社も記載されています。中には森林破壊、泥炭地の劣化と火災、土地紛争などの問題を繰り返し指摘されてきたロイヤル・ゴールデン・イーグル(RGE)、シナルマスなどの複合企業グループが含まれます。

図:森林リスク産品セクターにおける邦銀の融資・引受動向 〜2016年〜2024年(6月まで)〜
出典:「森林と金融」融資・引受データ 単位:百万米ドル

事例:MUFG、インドネシア泥炭地で大規模「炭素爆弾」に融資

同時にRANは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のインドネシア子会社バンクダナモンを通じた、森林火災企業グループへの2億8100万ドルもの融資事例を発表しました。MUFGは2021年に国際基準である「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止(NDPE)」をパーム油の与信方針に採用しました。バンクダナモンも同様の方針を掲げているにも関わらずそれに違反し、泥炭地破壊に伴う大規模な火災を繰り返し発生させているアブラヤシ農園企業グループのトゥナス・バル・ランプン(TBLA)に融資を続けています。2024年10月、インドネシア政府はTBLA子会社に対して6,710億インドネシア・ルピア(4,150万米ドル)の生態系と経済への損害の賠償を求める民事訴訟を起こしました。こうした事例は、銀行グループ内での方針不遵守、顧客に対するデューデリジェンス(相当の注意による適正評価)や、監視体制および監査委員会のリスク管理における監督機能の弱さが森林破壊や火災、違法活動を可能にし、銀行による高リスクな資金提供の実態を示唆しています。

写真:泥炭地地域で新たに開発された大規模アブラヤシ農園 インドネシア・スマトラ島、2024年12月

RAN日本シニア・アドバイザーの川上豊幸は「メガバンク3行は、2021年に『森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止(NDPE)』を環境・社会方針に採用しました。しかし依然として資金提供を通じて、熱帯林の破壊や火災に油を注ぎ続けています。メガバンクのNDPE方針は適用範囲が非常に狭く、農園企業や伐採事業などに限定している点が問題です。現在の方針はパーム油、そして紙の原料となるパルプを調達する加工企業を対象外としていて、森林破壊を包括的に防止する歯止めになっていません。もう一つの問題は、それらの企業を傘下または管理下に置く親会社や企業グループ全体への適用もしていない点です。メガバンクはまず、NDPE方針の適用範囲を加工部門まで含めた上で、顧客の企業グループ全体を含めるように拡大していくことが必要です。そして資金提供の際に、NGOが指摘する問題のある企業の情報を真摯に受け止めて、十分なデューデリジェンスを行うことも重要です」と指摘しました。

結論

報告書は長期的な金融の安定を保つために、デューデリジェンスの向上、NDPE方針の強化と実行などが必要であると結論付けています。銀行には、NDPE方針の厳格な実施を顧客企業に求め、実施状況をモニタリングし、顧客企業の方針違反に対処できるような仕組みを導入するといった具体的な取り組みが不可欠です。

※「森林と金融」連合は、キャンペーン活動や草の根活動、調査活動を行う10団体の連合体です。レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)、TuK インドネシア、プロフンド(Profundo)、アマゾン・ウォッチ、レポーターブラジル、バンクトラック、サハバット・アラム・マレーシア(国際環境NGO FoE Malaysia)、FoE US、oEオランダ(Milieudefensie)、CEDカメルーンによって構成されています。

 

注1)報告書日本語要約版版:forestsandfinance.org/BoBC-24-JA-summary
日本語ウェブサイト:forestsandfinance.org/ja/banking-on-biodiversity-collapse-ja

『森林と金融』は、東南アジア、ラテンアメリカ、中央・西アフリカにおける紙パルプやパーム油など森林リスク産品への資金流入を包括的に分析したオンラインデータベース。金融商品、銀行・投資機関、国・地域、企業グループ、年、部門別に検索が可能。

●対象事業地域:世界三大熱帯林地域である東南アジア、ラテンアメリカ(アマゾン)、中央・西アフリカ(コンゴ盆地)
●対象産品:牛肉、パーム油、紙パルプ、天然ゴム、大豆、木材(森林リスク産品)
●対象期間:融資・引受は2016年1月から2024年6月、債券・株式保有は2024年7月時点

英語ウェブサイト:forestsandfinance.org/banking-on-biodiversity-collapse(2024年10月に発表)

注2)RANブログ「MUFG、インドネシアの泥炭地で大規模『炭素爆弾』に融資〜子会社銀行、アブラヤシ農園企業グループに2億8100万ドルを提供 複数の事業管理地で泥炭地破壊と度重なる火災を起こす〜」、2025年4月10日
※泥炭地での農園開発は膨大な量の二酸化炭素が放出され『炭素爆弾』とも呼ばれる。泥炭地から水が抜かれ、土地が乾燥することから火災のリスクも急増し、生態系と気候変動にとって大きな脅威となる。

ブログ:MUFG、インドネシア泥炭地で大規模「炭素爆弾」に融資 〜子会社銀行、アブラヤシ農園企業グループに2億8100万ドルを提供〜(2025/4/10)

複数の事業管理地で泥炭地破壊と度重なる火災を起こす

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

上空からの泥炭地火災の様子、インドネシア・南スマトラ、2019年 ©︎NOPRI ISMI / MONGABAY INDONESIA

概要

⚫️三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、インドネシアの銀行セクターにおいて重要な外国投資家である。2019年にはインドネシア最大の銀行の一つであるバンクダナモンを買収した。2021年、MUFGはパーム油関連の資金提供に関して「森林破壊禁止・泥炭地開発禁止・搾取禁止(NDPE)」方針を策定。

⚫️バンクダナモンは、MUFGグループの方針を明確に逸脱する資金提供を行い続けている。2020年、2021年および2022年に、アブラヤシ企業であるトゥナス・バル・ランプン(Tunas Baru Lampung、IDX:TBLA)に対し、総額2億8100万ドルのクレジットラインを発行した。TBLA社は、泥炭地の破壊や度重なる火災とヘイズ(煙害)など、著しく悪質な環境問題を引き起こしてきた経歴を持つ。MUFGのパーム油セクター方針は、国際的な基準である「NDPE」の考えを取り入れたものであるが、TBLA社は明らかにこの基準に合致していなかった。

⚫️MUFGによる資金提供を受けて、TBLA社は2020年から2023年にかけて、南スマトラ州の2つの隣接する事業管理地(アブラヤシ用地とサトウキビ用地)で7,800ヘクタール(78平方キロメートル)近くの泥炭地を転換し、膨大な温室効果ガス排出と火災リスクを生じさせた。

⚫️その後、2023年には、この2つの事業管理地で大規模な泥炭地火災が発生し、14,500ヘクタール(145平方キロメートル)の土地が被害を受けた。2024年には、インドネシア政府がTBLA社の子会社を提訴し、生態系への損害と経済的損失に対し、4150万ドルの賠償を求めた。

⚫️TBLA社は現在もバンクダナモン/MUFGの取引先であり、2026年までにMUFGに返済予定の貸付金が残っている。

⚫️バンクダナモンによる資金提供は、MUFGグループの社会・環境方針に沿っていなく、また、自ら掲げるNDPE要件にも違反しているため、重大なコンプライアンス上の問題である。

MUFG、インドネシアの泥炭地で「炭素爆弾」に融資

泥炭地開発と気候変動

泥炭地の生態系は、地球上で最も効果的に自然の炭素隔離を行う陸上景観である。アブラヤシ農園を泥炭湿地に開発する際は、水路を造成して排水する必要があるが、炭素を豊富に含む熱帯の泥炭湿地林は、一度水を抜かれて皆伐されると、長期にわたって膨大な量の二酸化炭素を大気中に放出する。また排水は、火災が発生しやすい環境を作り出す。このため泥炭地開発は「炭素爆弾」と呼ばれ、生態系と気候変動における重大なリスクとされる。

泥炭地での産業用大規模農園・植林地(プランテーション)の拡大によって引き起こされる火災は、インドネシアの温室効果ガス排出の最大の原因の1つであり続けている。また、火災に伴う煙害(ヘイズ)は公衆衛生上の危機を引き起こし、何十億ドルもの経済的損失と損害をもたらしている。

泥炭地破壊に伴う大規模火災を繰り返し発生させる農園企業グループ:TBLA

トゥナス・バル・ランプン(Tunas Baru Lampung、IDX: TBLA)は、南スマトラの泥炭地でアブラヤシとサトウキビのプランテーションを運営する上場企業である。同社は、広範な火災環境規制違反への関与を、インドネシア政府や市民団体から繰り返し指摘されている。2024年10月、インドネシア環境森林省(KLHK)は、TBLAの子会社である PT. Dinamika Graha Sarana(PT. DGS)社に対して民事訴訟を起こした。同省は、2023年9月から11月に発生した6,303ヘクタール(63平方キロメートル)以上に及ぶ火災による生態系と経済への損害に対し、6,710億インドネシア・ルピア(約4,200万米ドル、日本円で約57億円*)の損害賠償を求めている。しかし、2023年に広範囲にわたる火災が発生したのは、この子会社だけではない。隣接するTBLAの子会社PT. Samora Usaha Jaya(PT. SUJ)社の事業管理地でも、5,688ヘクタール(約56平方キロメートル)以上に火災が広がっている。RANは、TBLAに本件について書簡を送付してコメントを求めたが、回答は得られなかった。

*202549日現在の為替レート:Rp1.000 IDR = ¥0.008544 JPYで計算した場合、5,733,091,100円に相当

下のタイムラプス画像は、Nusantara Atlas/TreeMapで作成され、2023年8月30日から11月13日までに撮影された衛星画像を時系列で示している。プランテーションの境界線(黄色)を超えて広がる火災と延焼地域(暗褐色)が赤外カラーではっきりと捉えられている。

PT. DGS社の事業管理地における火災(画像をクリックしてタイムラプスを再生)

PT. SUJ社の事業管理地における火災(画像をクリックしてタイムラプスを再生)

この様な火災の発生は、乾燥すると非常に燃えやすい泥炭地がプランテーション開発のために排水されたことと関係している。RANの衛星解析の結果、2023年の火災に先立つ3年間(2020年~2022年)に、TBLAは南スマトラにある2つの子会社(PT. SUJおよびPT. DGS)の隣接する事業管理地で、約7,800ヘクタール(78平方キロメートル)の泥炭地を転換したと推定されている。

MUFG子会社バンクダナモンによる融資

この大規模な泥炭地転換が行われた期間(2020年~2022年)に、TBLAは日本のメガバンクであるMUFGから総額2億8,100万米ドルの融資枠を提供され、MUFGのパーム油セクターで第3位の融資先となった。MUFGは2021年、国際的なベストプラクティスであるNDPE方針の一環として、泥炭地の転換を禁止することを公に誓約するよう顧客に求めた。それにもかかわらず、TBLAへの融資はその後も行われていたことが確認された。

問題のTBLAへの融資は、MUFGのインドネシアの銀行子会社バンクダナモンを通じて実行された。MUFGは2019年に同行を買収し、それ以来、バンクダナモンのサステナビリティ報告書には、MUFGグループと同様にNDPE方針が反映されている。しかし、バンクダナモンによるTBLAへの融資は、NDPE方針が履行されていないことを示している。森林リスクのあるセクターへの融資によって人権問題が常習的に引き起こされているなか、このコンプライアンスの問題は、人権への影響に対処するための銀行の管理体制に関してより広範な懸念を生んでいる。MUFGグループの2024年人権報告書では、環境・社会ポリシーフレームワークと、より広範な人権方針が、同グループの全事業に適用されると記載されている。バンクダナモンが同グループのNDPE方針に従っていないことは、この子会社が同グループのより広範な人権方針も無視しているのではないかという深刻な疑問を生じさせている。

TBLAは、上述の大規模な泥炭地転換が行われる何年も前から火災や泥炭地転換に関与してきた歴史がある。衛星解析の結果、2015年から2019年にかけて、TBLAの2つの事業管理地で8,600ヘクタール(86平方キロメートル)の泥炭地が転換され、2015年には12,103ヘクタール(121平方キロメートル)、2019年には15,873ヘクタール(159平方キロメートル)が火災の被害を受けたと推定される。

継続的な火災リスクと温室効果ガス排出

これらの衛星観測を裏付けるため、地元NGOの現地調査チームは2024年12月にPT. SUJ社の事業管理地を訪問した。この調査では、MUFGが融資を行った2020年から2022年の間に、泥炭地がアブラヤシのプランテーションに転換された複数の地域が記録された。このなかには、繰り返し火災が発生している場所も含まれる。

動画1(緯度-3.34631°、経度105.37663°付近)には、排水された泥炭地で育つ若いアブラヤシが映っている。Sentinel-2による衛星画像(焼け跡を偽色で強調)は、この地域が2019年に深刻な火災被害を受けたことを示している。この地域はその後、2020年から2021年にかけてアブラヤシのプランテーションに転換された。

動画2(緯度-3.3118°、経度105.4185°付近)には、排水された泥炭地で育つ若いアブラヤシが映っている。この地域も2020年から2021年に転換されている。2019年に火災が発生し、その後、プランテーションに転換された。Sentinel-2による衛星画像(焼け跡を偽色で強調)は、この場所で2019年2023年に発生した火災の規模を示している。

パーム油精製業者の80%以上はNDPE誓約に基づき、供給業社による泥炭地から農園への新たな転換を禁止している。インドネシアでは泥炭地の転換そのものは必ずしも違法ではないが、政府規制により、泥炭地で事業を行う企業は、水位を高いレベルで維持することが義務付けられている。泥炭地が乾燥し、その水文学的機能および保全機能が失われるのを防ぐためである。

現地調査チームは、PT. SUJ社の事業管理地内3地域にわたり、17カ所の異なるサンプル地点で水位深度を測定した。その結果、雨季に測定したにもかかわらず、どのサンプル地点も政府が定めた深度要件(40cm)を満たしていないことが判明した。繰り返される火災、泥炭地の転換、不適切な水位管理ーーこれらは、TBLAの事業が南スマトラの泥炭地の機能を破壊し続け、膨大な温室効果ガスの排出や火災と煙害の継続的なリスクを引き起こしていることを示している。

タイムライン:MUFG、バンクダナモン、TBLAを巡る融資と火災

MUFGは2019年にバンクダナモンを買収し、その取引先も引き継いだ際、その取引先企業のコンプライアンス・リスク評価を実施すべきであった。TBLA社が公表している方針を確認するなど、基本的な環境デューデリジェンスを実施していれば、TBLA社がNDPEを誓約せず、火災や泥炭地の転換に関して著しく悪質な経歴を持つことが明らかになっただろう。以下は、TBLA社の悪質な経歴を示す事例である。

2015年

  • 6月:インドネシアの泥炭地にある事業管理地で大規模な火災が発生ーエルニーニョ期の数カ月にわたり燃え続け、160億米ドルの被害をもたらす。2015年、TBLA社の2つの事業管理地で大規模な火災が発生し、RANの推定では12,103ヘクタール(121平方キロメートル)が火災被害を受けた

2016年

  • 11月:TBLAが規制に違反インドネシア環境林業省による調査で、TBLAの子会社PT. DGSによる規制違反(2015年の火災で焼失した泥炭地をアブラヤシ農園に転換するために重機を使用して掘削したなど)が確認される。

写真 © MoEF Indonesia and ForestHintNews、2016年

2018年

2019年

  • 1月:TBLAによる泥炭地転換が続く1月から12月にかけて、TBLAは推定1,300ヘクタール(13平方キロメートル)の泥炭地をプランテーションに転換。
  • 5月:MUFGがバンクダナモンを買収MUFGはバンクダナモンTbkの株式94%を取得し、インドネシアでの子会社銀行とした。
  • 6月:インドネシアの泥炭地で再び火災が発生し、数か月にわたって燃え続ける全国で164万ヘクタール(16,400平方キロメートル)が焼失し、推定52億米ドルの経済損失と損害をもたらす

  • 6月:TBLAの事業管理地で火災が広がるTBLAの事業管理地(PT. SUJおよびPT. DGS)で数か月にわたり火災が発生し、推定15,873ヘクタール(159平方キロメートル)が焼失。

2019年、TBLAの事業管理地で発生した火災の広がりを示す衛星画像(画像をクリックしてタイムラプスを再生)

  • 10月:インドネシア政府がTBLAの事業管理地に対し措置を講じる環境林業省が火災を理由にTBLAの事業管理地の1つを封鎖。 

現地当局により封鎖されたPT. DGS社の事業管理地©️InspirasiNews.com

2020年

  • 1月:MUFGがTBLAに巨額の融資を提供年間を通じて、MUFGはバンクダナモンを通じ、TBLAに5,800万米ドルのリボルビング・クレジット枠を供与。
  • 10月:TBLAが「最も広範な火災被害をもたらしたパーム油企業グループ」として名指しされるーグリーンピース・インドネシアが2020年に発表した火災跡地データ分析では、2015年から2019年までの焼失面積がインドネシアのパーム企業でTBLA社が最も多いと報告される。
  • 12月:TBLAが持続可能なパーム油円卓会議(RSPO)から脱退TBLA社がRSPOのメンバーを辞任。
  • 12月:TBLAが泥炭地転換を継続2020年末までに、TBLA社は2019年に焼失した土地を含む2,500ヘクタール(25平方キロメートル)以上の泥炭地にプランテーションを拡大。

2019年11月の衛星画像 火災により泥炭地が焼失(Sentinel2より、TreeMap/Nusantara Atlasを使用)

2021年6月の衛星画像 焼失した泥炭地がプランテーションに転換されている(Sentinel2より、TreeMap/Nusantara Atlasを使用)

2021年

  • 1月:MUFGがTBLAにさらなる融資を実行年間を通じて、MUFGはバンクダナモンを通じてTBLAに総額1億500万ドルの追加のコーポレートローンを提供した。
  • 4月:MUFGが新たなパーム油セクター融資方針を採用MUFGは取引先に対し、NDPE基準を公に誓約することを求めている。バンクダナモンのサステナビリティ報告書には、これが同行の方針でもあると記載されている。

2021年、TuK-IndonesiaによるMUFGジャカルタ支店前での抗議活動 インドネシアにおける大規模火災と煙害について同グループの資金提供を批判

  • 12月:TBLAが新たな泥炭地の転換を継続ー2021年末までに、TBLAはさらに2,404ヘクタール(24平方キロメートル)の泥炭地をプランテーションに転換し、2019年に火災が発生した地域もその対象となった。

2022年

  • 1月:MUFGがTBLAへの融資を増額年間を通じて、MUFGはバンクダナモンを通じてTBLAに総額1億300万ドルの追加のコーポレートローンを提供した。
  • 12月:TBLAがさらに泥炭地を転換2022年末までに、TBLAはさらに1,600ヘクタール(16平方キロメートル)の泥炭地をプランテーションに転換した。

2023年

  • 6月:TBLAの事業管理地で大規模火災が発生TBLAの事業管理地(PT. SUJおよびPT. DGS)で火災が発生し、14,544ヘクタール(159平方キロメートル)が焼失。

2023年9月、TBLAの事業管理地で発生した火災の広がりを示す衛星画像(Sentinel2より、TreeMap/Nusantara Atlasを使用)

2024年

  • 10月:インドネシア政府がTBLA子会社を提訴環境森林省は、TBLAの子会社であるPT. DGSに対して4,150万米ドルの訴訟を起こし、2023年の火災に関連する生態系の損害および経済的損失に対する賠償を求めた。

2024年12月、PT.SUJ社の事業管理地にて新たな泥炭地地域がプランテーションに

2025年

  • 3月:TBLAは引き続きバンクダナモン/MUFGの顧客であり続けているTBLAは現在もMUFGの顧客企業であり、MUFGが提供したコーポレートローンから利益を享受し続けている。MUFGからの最後の融資(3,240万ドル)は2026年に満期を迎える予定である。

 

著者:レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)

米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。200510月より、日本代表部を設置しています。
https://japan.ran.org

「訂正・追加のお知らせ」インドネシア環境森林省がTBLAの子会社であるPT. DGSに対して起こした民事訴訟のインドネシア語記事へのリンクが記載されておりませんでしたので、追加いたしました(2025年4月22日)。

プレスリリース:「森林&人権方針ランキング2024」発表 〜ユニリーバがトップ 日清食品やP&Gは取り組みが遅れ最下位〜(2024/12/6)

大手消費財企業、森林破壊と人権侵害を依然として助長〜グローバル企業10社の森林及び人権方針を評価〜

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日6日、「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング2024」を発表し(注1)、グローバル消費財企業はサプライチェーン(供給網)で調達するパーム油や大豆、包装紙といった森林破壊リスクが高い産品の生産を通して、森林破壊と人権侵害を依然として助長していると指摘しました。

本ランキングは、熱帯林地域で森林破壊と人権侵害のリスクが高い産品に関与している大手消費財企業10社を対象に(注2)、各社の方針と実施計画を森林と人権の二分野で評価・分析している年次報告です。サプライチェーンでの森林破壊と人権侵害を阻止するための取り組みを詳細な基準で比較評価したところ、どの企業も昨年と大きな変化はなく、合格点といえる「C」評価を得たのはユニリーバのみでした。最下位はプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)で、日本企業は花王が「D(3位)」、日清食品ホールディングスが5段階で最低ランクの「不可(同点7位)」でした。

評価方法は、各社の方針と取り組みについて森林と人権分野の12項目を24点満点で評価しています合計得点に合わせてA(21〜24点)、B(17〜20点)、C(12〜16点)、D(6〜11点)、不可(0〜5点)で評価しました。パーム油、紙パルプ、大豆、牛肉、カカオ、木材製品など、森林を破壊するリスクのある産品(森林リスク産品)のセクターにおける傾向や動向を分析しています。10社のランキングの詳細は以下の通りです。

*Y=ありor全て(2点)、P=一部(1点)、N=なし(0点)

【森林&人権方針ランキング2024】調査概要

▪️調査対象企業:日清食品、花王、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、マース、モンデリーズ、ネスレ、ペプシコ、プロクター・アンド・ギャンブル、ユニリーバ
▪️調査期間2024年10月〜11月
▪️調査方法:各社の環境及び人権に関する方針を調査・分析(ウェブサイトなどで公開されている最新版)、各社へのヒアリング
▪️主な森林・人権方針の評価項目(全12項目、各2点)

*2点:方針あり/ 全体に採用、1点:一部に採用、0点:方針・計画なし

  • 「森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE)方針・適用範囲:パーム油や紙パルプなど森林リスク産品事業の生産・投融資に欠かせない国際基準(注3)。特に、個別産品だけではなく森林リスク産品全般への適用、供給業者の企業グループ全体への適用を重視している
  • 「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)原則」の実施:先住民族および地域コミュニティの権利尊重(注4)
  • 人権擁護者への暴力や脅迫への「ゼロトレランス」(不容認)方針の有無(注5)
  • サプライチェーンの透明性:EUDR要件(注6)である、原料生産地までのフルトレーサビリティ達成の取り組みも含む(2023年版から追加)
  • 森林フットプリントの開示(注7)、など

全体の評価・傾向

「リーダー企業」(C評価)

  • ユニリーバは、昨年と同様の「C」評価を維持し、「リーダー企業」としての存在感を見せました。産品横断的な苦情対応進捗表を公表することで、リーダーシップを発揮しました。 

「中位企業」(D+、D、D -評価)

  • コルゲート・パーモリーブは、「中位企業」の中で高い実行力を見せました。特筆すべき点は苦情処理記録を公表し、人権擁護者への暴力や脅迫を一切容認しないことを約束してリーダー企業と肩を並べました。
  • 花王マースは、昨年は少し前進が見られましたが、今年は実行力を改善することができませんでした。上記3社は、森林破壊の流れを止めるために断固とした行動をとる必要があります。
  • ペプシコは「森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE)方針遵守の独立した検証を進めず、苦情対応追跡表も公表しなかったことから、今回のランキングでは後退しました。
  • ネスレも後退し、サプライチェーンにおいて森林破壊を起こしている悪質業者の責任を追及する項目では後戻りしました。

「不可企業」(F評価)

  • フェレロ、モンデリーズ、日清食品、プロクター・アンド・ギャンブルの4社は、森林破壊と人権侵害への対応で下位グループにランクされ、依然として実行力の評価は低いままとなりました。4社は森林破壊に歯止めをかけ、先住民族コミュニティを搾取から守るために必要な組織的な改革を起こすことができませんでした。

日本企業の評価

  • 総合点は日清食品が不可(5点)、花王はD(8点)で、昨年とスコア及び点数は同じでした。
  • 昨年同様、両社とも「NDPE方針」を既に採用し、2点の評価を得ています。
  • 「NDPE適用の範囲」については、花王は昨年、森林リスク産品全般の供給業者とその企業グループ全体も適用対象としていることが確認できたため、評価は満点の2点です。一方、日清食品は一昨年から得点はなく、グループ調達方針の環境分野にNDPE支持を記載していますが、NDPE主要項目が明記されているのはパーム油事業のみで森林リスク産品全般ではありません。また、供給業者にNDPEの採用を義務化していなく、供給業者の企業グループ全体も適用範囲に含んでいません。
  • 「森林フットプリントの開示」については、花王が今年5月にインドネシア・リアウ州の分析(英語)を公表しましたが、地域が限定的であることから1点にとどまりました。日清食品は実施を表明したことで1点を得ましたが、まだ開示がなく、明確な開示期日も不明です。
  • 「問題企業の責任追及」では、日清食品は昨年「苦情処理リスト」を公開し、違法パーム油生産農園との取引停止や対応状況を公表しました。今年6月にも情報を更新し1点を得ていますが、方針違反への対応手順が公表されていません。花王は小規模農家生産者を対象とした苦情処理メカニズムはありますが、大規模農園・植林企業などを対象としたリストは依然として開示がなく得点はありません。

RAN日本シニアアドバイザーの川上豊幸は「花王は、今年はNDPE方針の実施体制強化を示すことができませんでした。パーム油事業について2025年までに『使用するパーム油をRSPO認証油に100%切り替えをめざす』と表明していますが、その中身は非認証油が混入するマスバランス方式や、認証油のクレジットを取引するブック・アンド・クレーム(B&C)方式としています。また、サプライヤーなど取引先企業の独立監査を伴っていなく、実施体制の強化とは判断できませんでした」と評価しました。

続けて「日清食品は引き続き『不可』評価でした。NDPE方針遵守が森林リスク産品全般に適用されず、パーム油に限定されたままです。またNDPE方針の採用を供給業者に義務化していません。そして持続可能なパーム油のみを2030年までに調達するとの約束は前倒しされていませんし、サプライヤーへの独立監査も求めていなく、改善は見られませんでした」と指摘しました。

「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」キャンペーン

2020年4月の開始以来、評価分析を毎年実施し、今年で5回目の発表となります。グローバル企業に対し、世界最後の熱帯林への産品供給源の拡大を阻止し、企業の搾取から自分たちの土地を守るために闘う先住民族コミュニティの保護を確保するため、直ちに具体的な行動をとるよう求めています。

2024年版のランキングは、気候変動と生物多様性危機の緊急性が高まる中、多くの消費財企業が意味のある変化を実施できていないことを浮き彫りにしています。そして今回のランキングは森林と人権にとって重要な時期に発行されました。まず、2024年末に施行が予定されていた欧州連合の森林破壊防止法(EUDR)が1年延期され、消費財関連の森林減少を規制する取り組みがさらに先送りされました。人権面では、国際NGO「グローバル・ウィットネス」が毎年発表する報告で、世界各地で起こる土地や環境を守る人々の殺害増加の原因として、アグリビジネスセクターが上位に挙げられています。 

RANフォレスト・キャンペーン・ディレクターのダニエル・カリーヨは「森林保護活動家は増大する脅威に直面しています。2023年だけで196人が殺害されました。企業がサプライチェーンで責任を果たしていないことは、先住民族のリーダーや活動家への暴力の増大に直接つながっています。世界の大手消費財企業は、森林保護と人権尊重のために真の行動に踏み出す時です。気候危機が加速するなか、企業はその方針と行動を緊急事態に合わせなければなりません。森林は減少の一途をたどり、最前線のコミュニティは包囲されています。消費者、投資家、市民社会は今、ただの約束ではない、それ以上の行動を求めています」と強調しました。

調査対象の大手消費財企業10社は、いずれも世界で続く森林破壊や人権侵害に関与しています(注8)。RANは、消費財企業が森林伐採や土地の権利侵害を助長し、環境保護活動家や人権擁護者が直面する脅威を増大させているとして、これからも責任を問うていきます。 

脚注

注1)「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」は、RANが2020年4月から展開しているキャンペーンです。熱帯林破壊と人権侵害を助長している最も影響力のある消費財企業・銀行に実際の行動を起こすよう要求しています:www.ran.org/kfs-scorecard-jp/

ランキング評価方法論

注2)消費財企業10社:日清食品、花王、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、マース、モンデリーズ、ネスレ、ペプシコ、プロクター・アンド・ギャンブル、ユニリーバ
*10社全社が全容を報告している唯一の産品であるパーム油を例にとると、10社合計で約230万トンのパーム油と、約140万トンのパーム核油およびその派生物を購入している(2022年)。パーム油世界市場の約3%、パーム核油世界市場の約17%に相当する(2023年版報告書より)。

注3)NDPEはNo Deforestation、No Peat、No Exploitationの略。森林減少や劣化に対しての保護(炭素貯留力の高い<High Carbon Stock:HSC>森林の保護、保護価値の高い<HCV: High Conservation Value>地域の保護)、泥炭地の保護(深さを問わず)、人権尊重、火入れの禁止といった要素を含む方針を公表している企業は「あり」の評価を得る。

*参考:「『森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止』(NDPE)方針とは?」ブリーフィングペーパー

注4)「FPIC」(エフピック)とは Free, Prior and Informed Consentの略。先住民族と地域コミュニティが所有・利用してきた慣習地に影響を与える開発に対して、事前に十分な情報を得た上で、自由意志によって同意する、または拒否する権利のことをいう。

注5)「ゼロトレランス・イニシアティブ」ウェブサイトを参照のこと

注6)EUの「森林破壊フリー製品に関する規則」(EUDR:通称「森林破壊防止法」):EU域内で販売される製品は生産地までのトレーサビリティの確認と、森林破壊等との関連有無を確認する「デューデリジェンス」の公表が義務化される。森林破壊と人権侵害の有無のリスク評価や確認も含め、グローバル企業は同法への対応が迫られる。

注7)「森林フットプリント」とは、森林を犠牲にして生産される「森林リスク産品」の消費財企業の利用や、銀行による資金提供によって影響を与えた森林と泥炭地の総面積をいう(影響を与える可能性がある面積も含む)。消費財企業と銀行の森林フットプリントには、供給業者や投融資先企業が取引期間中に関与した森林および泥炭地の破壊地域、さらに供給業者や投融資先企業全ての森林リスク産品のグローバルサプライチェーンと原料調達地でリスクが残る地域も含まれる。森林および泥炭地が先住民族や地域コミュニティに管理されてきた土地にある場合は、その先住民族と地域コミュニティの権利への影響も含む。

注8)以下を参照のこと

RANプレスリリース「RAN新調査報告書『包囲下のオランウータンの首都』発表〜違法パーム油、日清食品などのサプライチェーンに混入の可能性が継続〜」(2024/11/22)

RANプレスリリース「新報告書『RGEグループの実態:無秩序に広がる破壊の帝国を暴く』発表〜止まらない環境破壊と違反行為、消費財企業と銀行に同グループとの取引停止を求め〜」(2024/3/18)

 

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
日本チームマネジャー 関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

プレスリリース:RAN新調査報告書『包囲下のオランウータンの首都』発表〜違法パーム油、日清食品などのサプライチェーンに混入の可能性が継続〜(2024/11/22)

インドネシア保護区での違法森林伐採、最新鋭の衛星画像調査で明らかに

  • インドネシアの野生生物保護区で、森林破壊の新証拠が最新鋭の衛星画像で明らかに。保護区内に652ヘクタール(東京ドーム約140個分)もの違法アブラヤシ農園を確認。
  • 消費財企業は違法パーム油が供給網に混入するリスクに、銀行は違法パーム油を調達する可能性のある顧客に資金提供するリスクにさらされている。
  • 調査結果は、企業の森林破壊禁止公約の実効性、EU新規制を遵守する準備が十分かどうか疑問を投げかけている。
  • 違法パーム油の問題が続くも、11月13日に行われた「持続可能なパーム油のための円卓会議」(RSPO)年次総会では基準が弱体化された。


写真:違法アブラヤシ農園の一つ。ラワ・シンキル野生生物保護区内の泥炭林を伐採・排水して造成された。2024年9月、インドネシア・アチェ州

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は11月11日、タイ・バンコクで13日まで開催された「持続可能なパーム油のための円卓会議」(RSPO)に合わせ、新報告書『包囲下のオランウータンの首都』を発表しました(注1)

本報告書は、インドネシア・スマトラ島の「ラワ・シンキル野生生物保護区」で、大規模な違法伐採が今も起きていることを明らかにしました。RANは7月、最新鋭の衛星画像「プレアデス・ネオ」による調査を実施し、国の指定する保護区がパーム油生産のために破壊されている実態を確認しました。RANは同保護区で2019年22年にも調査を行い、パーム油の原料となるアブラヤシの農園造成による森林破壊を発見して公表しています。この地域は生物多様性豊かなホットスポットで、「世界のオランウータンの首都」とも呼ばれる「ルーセル・エコシステム」の南部に位置します。

調査は今年7月、同保護区の泥炭林地域におけるアブラヤシ農園拡大の範囲を把握するため、エアバス社の「プレアデス・ネオ」衛星による飛行撮影を実施しました。この衛星画像は30cmという高い解像度をもち、これほどの高解像度画像が公開されたことは同地域では初めてです。画像分析の結果、同保護区には652ヘクタール(東京ドーム約140個分)に及ぶ違法アブラヤシ農園が存在し、そのうち453ヘクタール(同97個分)がアブラヤシ果実の生産が可能な土地であることを特定しました。

現地調査、消費財企業と製油企業のサプライチェーン分析を加えた一連の調査結果は、消費財企業と銀行の森林破壊禁止方針の実効性や、消費財企業とパーム油企業が2025年末に施行となる欧州連合(EU)の新規制「森林破壊禁止法(EUDR)」を遵守する準備が十分かどうか緊急の疑問を投げかけています。

図1:2016年と2024年の衛星画像比較:黄色が野生生物保護区の境界線(報告書より)

 

【調査概要】

■調査時期:2024年7月(衛星調査)、2024年9月〜10月(現地調査、サプライチェーン分析)

■調査地域:インドネシア・スマトラ島の「ルーセル・エコシステム」内、国の保護区「ラワ・シンキル野生生物保護区」上空および周辺

■対象消費財企業8社:日清食品、花王、プロクター&ギャンブル、ネスレ、モンデリーズ、コルゲート・パーモリーブ、ペプシコ、ユニリーバ(注2)

■対象銀行11社:三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、ING、UBS、HSBC、ラボバンク、CIMB、メイバンク、BNPパリバ、UOB、DBS、OCBC(注3)

■調査方法:1)「プレアデス・ネオ」衛星画像分析(違法農園および森林・泥炭林減少の確認)、2)現地調査(アブラヤシ農園から搾油工場を追跡)、3)サプライチェーン分析(製油企業・消費財企業の調達先リストを分析)、4)資金提供調査(製油企業への銀行の資金提供額を調査、注4)、5)The TreeMap社との衛星画像分析(2016年6月に撮影された画像を用い、期間別の森林消失を分析)

【主な調査結果】

  • 広範囲に及ぶ違法アブラヤシ生産:ラワ・シンキル野生生物保護区には652ヘクタール(東京ドーム約140個分)の違法農園があり、そのうち果実の収穫可能な土地は453ヘクタール(同97個分)だった。これは違法生産されたパーム油がすでに世界の主要消費財企業や供給業者のサプライチェーンに混入している可能性を示唆している。
  • 影響を受ける消費財企業と銀行:プロクター&ギャンブル(P&G)、ネスレ、モンデリーズ、ペプシコ、日清食品などの大手消費財企業は、違法パーム油の調達が発覚したロイヤル・ゴールデン・イーグル・グループ(子会社のアピカル)、ムシムマス・グループ、Permata Hijau Groupといった製油企業からパーム油を購入することでリスクにさらされている。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、ラボバンク、HSBCなどの銀行は、上記パーム油企業に資金提供をすることでリスクにさらされている。これらのパーム油企業は、RANの過去10年にわたる調査で、上記保護区で違法に生産されたパーム油を供給している搾油工場から油を調達していることが繰り返し明らかにされている。
  • 森林減少率の増加:国の法律で保護されている地域にもかかわらず、同保護区での森林伐採は2021年から2023年にかけて4倍に増加している。2016年以降の総伐採量の74%が、欧州連合(EU)の新規制「森林破壊禁止法(EUDR)」の森林破壊禁止の基準日(注5)である2020年12月31日以降に伐採されていることから、法的保護や規制要件が組織的に無視されていることを示している。
  • 新たな抜け穴:今回の調査では、裕福な土地投機家が小規模農家を装うことで、違法森林伐採への責任を回避する「パーム油ロンダリング」という新たな抜け穴が立証されている。

図2:ルーセル・エコシステム周辺の搾油工場からパーム油を調達している製油企業5社への融資・引受銀行と資金の流れ。上記11行はNDPE方針をもっている。2020年1月から2024年6月、単位:百万米ドル 出典:「森林と金融」データベース

 

パーム油産業はすでに「森林破壊ゼロ、泥炭地ゼロ、搾取ゼロ(NDPE)」方針を誓約し、EUDRは2025年12月31日の施行が提案されています。しかし今回の調査結果からは、こういった規制が採用された後も、違法伐採が著しく増加していることが浮き彫りになりました。RANはThe TreeMap 社とも衛星画像調査を行い、同保護区内で2016年以降に2,577ヘクタール(東京ドーム約551個分)もの森林が失われたことを確認しました。残念なことに、世界のパーム油産業が森林破壊禁止の基準日として設定した2015年12月から2020年12月の間に662ヘクタール、その後、EUDRの基準日である2020年12月以後には1,915ヘクタールの森林が皆伐されました(注6)。

本報告書は、違法な大規模アブラヤシ農園の破壊的な影響を明確に示しています。RANはこの違法農園がこの地域の森林破壊の主な原因であると特定しました。特に懸念されるのは、この環境危機をもたらしているのは小規模農家ではなく、土地投機家であるという点です。

RAN森林政策ディレクター、ジェマ・ティラックは「世界で最も重要な生態系のひとつが破壊され続けていることは、消費財企業や銀行、消費者への警鐘です。今回の調査で得られた証拠は、違法に皆伐された土地で生産されたパーム油がグローバルサプライチェーンに混入し、スマトラオランウータンのような象徴種が深刻な危機にさらされていることを明確に示しています。私たちが日常的に購入する製品、例えば化粧品のOLAY、ミロ、オレオ、ポテトチップスのLay’s、即席麺のカップヌードルなどのサプライチェーンには違法パーム油が混入するリスクがあり、その証拠も揃っています」と強調しました。

The TreeMap社のデビッド・ガヴォー(David Gaveau)博士は「今回初めて、時を得た衛星画像によってラワ・シンキル野生生物保護区におけるパーム油危機の全容が明らかになりました。最新鋭の衛星画像は、アブラヤシの木々や苗木の一本一本まで細かく捉えることができます。この高度なツールが公開されたことで、以前は無料の衛星データで見逃されていた違反行為も記録できるようになりました」と語りました。

 

13日、RSPOはバンコクで開催された年次総会において、認証基準改訂版(「RSPO原則と基準2024」)の承認を決議しました。RSPOは森林破壊禁止の基準日(2018年11月)を削除し、森林破壊禁止を実施するために使われる信頼できる従来の定義を、独自に作成した欠陥のある定義に置き換えて、基準を弱体化させました。ティラックは「違法に生産されたパーム油は、RSPOの『マスバランス』方式を通して世界の市場に流通しています。この方式では、認証農園で生産されたパーム油に非認証油が混合される問題があります。RSPOは、消費者や市場からの信頼を維持したいのであれば、その基準を強化する必要があります。今回の基準改訂は、執行力の欠如、腐敗した監査プロセス、欠陥のある苦情処理メカニズムによってもたらされた欠陥だらけの認証制度をさらに弱体化するものです」と批判しました(注7)。

 

RANは、消費財企業、パーム油企業、金融機関が直ちに協力し、保護区のあるシンキル・ベンクン・トゥルモン地域の保護に向けて持続可能な解決策に投資するよう強く求めています。熱帯低地林と泥炭地の保護を優先しつつ、同時に地域住民の権利と生業を尊重するコミュニティ主導の農業を育成するという、将来の見通しを共有することが必要です。

RANは、本報告書で言及された全ての消費財企業と銀行に連絡を取り、その回答は報告書に含まれています。さらに詳細な情報や分析、衛星画像については、RANの監視専用プラットフォーム「Forest Frontlines」および「Nusantara Atlas」をご覧ください。

 

注1)RAN報告書(英語)『包囲下のオランウータンの首都』(‘Orangutan Capital’ Under Siege)

注2)対象とした消費財企業8社の調達先搾油工場一覧には、違法パーム油購入が明らかになった搾油工場企業 (PT. Global Sawit Semesta:PT. GSS)が記載されていた。各社リストのリンクは報告書を参照のこと。

注3)

a) ラワ・シンキル野生生物保護区とルーセル・エコシステム周辺の搾油工場からパーム油を調達している5社、
b) 違法パーム油を調達している搾油工場企業からパーム油を調達している製油企業を特定し、該当企業に資金提供をしている、または過去にしていた銀行を対象とした。

上記製油企業5社はロイヤル・ゴールデン・イーグル(RGE)グループ(アピカル・グループ)、ムシムマス・グループ、Permata Hijau Group、ウィルマー・インターナショナル、シナルマス・グループ(ゴールデン・アグリ・リソーシズ:GAR)である。そのうち、RGE、ムシムマス、Permata Hijau Groupは上記  b)に該当する。

注4)製油企業と銀行

RGE、ムシムマス、Permata Hijau Group:MUFG、欧州の銀行ING、UBS、HSBC、ラボバンクなどから資金提供を受けている。

ウィルマー、GAR(最新搾油工場一覧にPT. GSSは含まれていないが、過去に調達していたことがある):MUFG、マレーシアの銀行CIMBとメイバンク、フランスの銀行BNPパリバ、シンガポールの銀行UOB、DBS、OCBCから資金提供を受けている。出典:「森林と金融」データベース

注5)「基準日」:カット・オフ日ともいう。基準日以降に森林伐採・転換が行われた場合、その地域や生産単位が、森林伐採や転換を行わないという約束、方針、目標、その他の義務に違反していると見なされる。アカウンタビリティ・フレームワーク・イニシアティブ(AFi)の定義を参照のこと。

注6)EUDR施行後は、2020年12月31日以降に森林伐採・劣化の起きた場所で生産された商品が、EUへの輸出不可となる。

注7)RAN声明:RSPO認証基準改訂について(英語)

 

団体紹介

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。


本件に関するお問い合わせ

レインフォレスト・アクション・ネットワーク
日本チームマネジャー 関本
Email: yuki.sekimoto@ran.org