サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

「コミュニティの権利を守る〜森林は私たちの一部〜」

土地を守るために抵抗を続ける、インドネシア先住民族の小さなコミュニティ、「パルガマナン・ビンタン・マリア」などの闘いは、森林保護の「要」でもあります。

ケメニャンの木に登る村人。フランキンセンス(乳香)のような、貴重な樹液を持続的に採取している

 

インドネシアの熱帯林は、地球の気候変動と危機的な生物多様性の損失について重要な役割を担っています。森林破壊を防ぐ最前線にいる森の人々には、これまで以上の助けが必要となっています。

インドネシア・北スマトラ州のコミュニティの一つ、「パルガマナン・ビンタン・マリア」集落。その起源は、約125年前にさかのぼります。オランダの植民地時代、北スマトラのトバ湖周辺に移住してきたバタク族の3氏族(Marga)であるシタンガン族、シンボロン族、ルンバンガオル族は、地域の統治者から「権利は譲渡されない」約束で土地を与えられました。これによって、定住した土地で慣習的権利が確立され、その土地は先住民族コミュニティが所有し、独自の慣習システムのもとで管理・維持されてきました。

パルガマナン・ビンタン・マリア・コミュニティ先住民族の土地は17.63平方キロメートルに広がり、ほとんどが森林です。2つの川(Aek SihulihapとAek Simonggo)や固有の植物の育成状況など、自然の目印によって境界が明確になっています。森はそこを流れる川を良好に保つために重要な役割を果たし、下流のコミュニティに清潔で豊富な水をもたらしています。

Eva Junita Lumban Gaolさん(コミュニティのまとめ役)

「パルガマナン・ビンタン・マリアの慣習林はコミュニティにとって重要です。森は生活基盤であり、子供たちの教育や習慣などコミュニティの全てを支えています。5代前の先祖の言うところによると、ベンゾイン(安息香)の木は何年にもわたってコミュニティの生計を支える収入源となっています」

 

バタク・トバ先住民族は、何世代にもわたって森とともに暮らしてきました。森での果実や野菜の採集、狩猟、地域特有に生育するケメニャン(ベンゾイン、または安息香)の木からは甘い香りがする樹脂を伝統的に採取してきました。ベンゾインの樹脂は香水やお香、薬、料理の香り付けなどに広く使われているため、コミュニティは樹脂を売って他の必需品と交換しています。ベンゾインの森(バタク語でTombak Haminjon)は、トバ湖周辺の先住民族にとって精神的、社会経済的、環境保護的な機能があります。

コミュニティ慣習林に隣接する水田と畑の空中写真

パルガマナン・ビンタン・マリア集落は代々所有してきた土地がインドネシア政府から「慣習林(hutan adat)」(法的に認められた慣習林)として承認されるのを待っていることから、コミュニティの森林、生計、生活様式は今、脅威にさらされています。

パルガマナン・ビンタン・マリア集落は、紙パルプ生産企業のトバ・パルプ・レスタリ(TPL)と対立状態にある、バタク・トバ先住民族の23コミュニティ(少なく見積もっても)の一つです。

1980年代の初め、インドネシアの森林省はインドレーヨンという企業に、バタク族の慣習地を、事業管理地の一部として開発を許可し、分配しました。同社は後に、TPLへと社名を変更しました。TPL社は土地を開拓する際、コミュニティの森林や畑、そしてコミュニティに収益をもたらすベンゾインの森を破壊しました。人々によると、樹齢数百年にもなる直径3メートルの木々がその時に伐採されたと言います。また、天然の熱帯林を伐採してパルプ材植林地に転換したことから、大量の水を必要とするユーカリの植林木が地元の川を干上がらせるなど、コミュニティおよび現地の環境に様々な悪影響を与えています。

デリマ・シララヒ(市民団体 KSPPM プログラム・ディレクター)

「1980年代と90年代、1998年まで、特にトバ地域で、TPL社へのコミュニティの抵抗運動が多数起こりました。当時の社会運動は、ハビビ(大統領)の在任期間中にTPL社事業の一時停止に成功しましたが、その後、メガワティ(大統領)が同社を新しい枠組みで再開しました。TPL社の操業以来、同社による事業管理地での脅迫や犯罪が数多く発生しています。(別のコミュニティでは)24人が容疑者の疑いをかけられ、40人以上が逮捕されました。脅迫状の送付やコミュニティの畑での作業禁止、コミュニティが育てている作物の除去や引き抜きなど、人々を犯罪者扱いする不当行為が数多く行われました。」

 

パルガマナン・ビンタン・マリア集落を含む、バタク・トバ先住民族の23コミュニティ等は「TPL社の作業停止を求める民衆運動同盟」(Aliansi Gerakan Rakyat Tutup TPL)」のもとで団結し、先祖代々で所有してきた土地の返還を求めています。民衆の運動は1999年にインドレーヨン社が操業を停止したことで成功を収めましたが、数年後TPL社は現地での開拓を再開しました。現在、民衆運動はインドネシア政府に、TPL社の(慣習地での)作業停止を要請しています。

ラジェス・シタンガン(パルガマナン・ビンタン・マリアの村長)

「私たちはTPL社に、我々の慣習地に入るのを止めてほしいと求めています。TPL社が所有する土地にとどまり、私たちの慣習地には入ってこないでほしいのです。私たちは先祖代々そうしてきたように、自分たちの慣習地を使い続けます。それがここの先住民族のコミュニティの暮らし方なんです。自分たちの森の手入れの仕方は、自分たちが一番よく知っています。だからTPL社には、何もしないでほしいです。私たちは自分たちの慣習地の管理者です。私はラジャ・フタ(Raja huta)といって、村長です。祖母がこの村を創設しました。私が死んでも、(土地は)何世代先も子どもたちのものです。土地を手渡すつもりはありません」

 

トバ・パルプ・レスタリ社:人権侵害で悪名高いパルプ企業

TPL社のパルプ工場、北スマトラ州ポルセア

トバ・パルプ・レスタリ(TPL)は、インドネシア・北スマトラ州トバ湖地域を拠点とする製紙・パルプ製造企業です。このパルプ大手は、インドネシアの「タイクーン」(大物実業家)でRGEグループの創業者および会長でもあるスカント・タノト氏を通じて、RGEグループと関係のある企業です。しかしTPL社はRGEのグループ企業であることを否定しています。

RGEグループは、RANのキャンペーン『キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう』で名前が挙がっている、アグリビジネス企業10社のひとつです。このキャンペーンでは、人権侵害と森林破壊に責任のある大手の企業と銀行を明らかにしています。

先住民族の土地での開発:「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」なし

コミュニティの申し立てによると、TPL社は2003年頃にコミュニティの慣習林で開発を始め、影響を受ける人々全員が計画について協議や事前の情報提供を受けたわけではないとの苦情があります。当時、TPL社の事業活動にはいつも警備員や地元警察官が同行していましたーーこれは反対意見を抑えこむための明らかな威嚇行為です。またコミュニティの人々は、TPL社の従業員からも「コミュニティの同意があってもなくても、森は伐採するぞ」と脅されていました。

現在、コミュニティの土地の40%以上がTPL社の事業管理地と重なっています。そして3分の1に近い土地がすでにパルプ材植林地に開発されています。残りの土地は、TPL社の都合のいい時にいつでも開発できてしまいます。コミュニティの中には、TPL社からの申し入れを受ける人もいますが、これをもって、この地域全てのコミュニティの土地でプランテーション拡大が同意されたと受け取るべきではありません。2021年10月時点で、先住民族の23コミュニティが、自分たちの土地におけるTPL社のプランテーション開発に反対の立場を明白にしています。

TPL社ユーカリ植林地(右)の航空写真。コミュニティ慣習林に隣接してユーカリが植林されている。北スマトラ州フンバン・ハスンドゥタン県セクトール・テレ

バタク先住民族運動同盟の署名に賛同してください

署名「トバ湖地域でのTPL社の操業を停止し、先住民族に土地を返還してください」

先住民族の土地返還を求める抵抗に賛同し、森林破壊と気候変動を止めるアクションに参加をお願いします。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)は、「民主的な組織づくりためのへメズ原則を支持し、土地権利を求める運動で先住民族の主導に従うことを誓います。気候変動に立ち向かい、森林破壊を止めるためには、先住民族コミュニティに土地を返還しなければなりません

 

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