サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

記事:ホワイトハウス、LNG輸出の新規許可を一時凍結 ウォール街も後に続くべき(2024/2/13)

ジンジャー・キャサディ(レインフォレスト・アクション・ネットワーク)
フアン・マンシアス(米テキサス州カリゾ・コメクルド族)

(本記事は、米誌「Newsweek」に寄稿した記事の翻訳版です)

米国メキシコ湾岸の石油・ガス開発反対運動のリーダーたちは勝利を収めた。米政権が、液化天然ガス(LNG)として知られるメタンガスの輸出施設の新規認可を一時凍結するよう指示したのだ。メキシコ湾岸では、私たちの世代で最大の石油・ガス開発が計画されている。この一時凍結は、開発中止を求める地元住民やリーダーたちの請願に応えたもので、化石燃料拡大の時代の終焉を告げる画期的な出来事となり得る。開発中止の呼びかけはホワイトハウスで終わらず、漁民、公衆衛生の専門家、科学者、アメリカ先住民族、そして一般市民が、銀行保険会社にも、これらの開発事業を中止するようプレッシャーをかけている。

環境保護活動に反対する主張でよくあるものは、「利益追求」と「保全活動」は相反するという考えだ。つまり「利益追求」は本質的に経済にとって、ひいては人間にとって有益なものだが、「保全活動」は大気や土地、植物、水、野生生物を保護するが、人間の利益のためではないという論理だ。しかし、この主張は米国メキシコ湾岸の実情から遠くかけ離れている。ここで暮らす先住民族の文化には、「大地の健康」は「人々の健康」と同義で、切っても切り離せないという考え方がある。

彼らの考えが正しいことは明白だ。同地域では、土壌や大気の有害物質によって人々が命を落としており、一帯は「がん回廊(Cancer Alley)」という悪名高いあだ名で呼ばれているのだから。メタンガス輸出施設付近の地域住民が健康被害を被っていることや、化石燃料に起因する気候災害に世界中の人々が直面していることを考えれば、これらの事業に反対する道徳的根拠には、反論の余地がない。地域の生活に決定権を持つ人々に良心があるならば、利益、人々、環境の間の分断がこれ以上続くことを止めるだろう。これは多数を犠牲にして、少数と利益を共有する銀行や保険会社にも言えることだ。

メタンガスに反対する経済的根拠も高まっている。メタンガスの輸出は米国の一般家庭のエネルギー価格を引き上げ、メタンガス施設が建設される地域の先住民族や黒人、褐色人種のコミュニティの生活を破壊している。さらに、メタンガスの輸出は石炭よりも気候に悪影響を及ぼすという事実が、新たな調査によって浮き彫りになっている。メタンガスの供給が過剰になることは予測されており、その価格を破壊するだろう。全ての化石燃料の拡張事業は、メタンガス拡張事業に見られる負の傾向と同じ問題に直面している。

バイデン政権によるメタンガス輸出凍結により、提案段階にある12件の計画が停止される見込みだ。自然保護団体シエラクラブによれば、これは石炭発電所223基分の温室効果ガス(GHG)排出に相当する。米国にはすでに8つの既存のメタンガス輸出基地(ターミナル)があり、さらに7つの事業が建設中だ。建設中の事業には、テキサス州リオ・グランデ・バレーの未開発の海岸線での新規基地建設(訳註1)や、ルイジアナ州とテキサス州に所在する既存事業の拡張などが含まれる。投資家は、停止中の事業のリスクが大幅に高まったことを否定できないだろう。全てのメタンガス輸出拡大事業、特に民族の抹消(訳註2)などといった現在起きている重大な人権侵害を永続させるような事業は、中止を求めるコミュニティからのプレッシャーというリスクに直面している。

化石燃料セクターは、化石燃料を拡大する全ての事業を止めるよう求める業界アナリストやコミュニティのリーダーからの訴えを、無謀にも無視し続けている。金融機関や投資家は、そのようなセクターで、座礁資産市場の変動による投資の破壊、資金提供を通じて問題に加担したことによる法的リスクの増大といったリスクを負いながらギャンブルすることをやめなければならない。

銀行や保険会社は何十年もの間、化石燃料事業への資金提供による気候や地域社会への影響を無視してきた。メキシコ湾岸の反対運動のリーダーたちは、ウォール街に対して、ホワイトハウスと同様に行動することを求めている。しかし、金融機関は、黒人や褐色人種、先住民族のコミュニティに汚染被害をもたらすメタンガス事業への支援を取りやめていない。

LNG輸出認可を一時停止するというホワイトハウスの発表により、金融業者と投資家の選択肢は明確になった。化石燃料の拡大への支援を中止するなど、全ての人の生命を守るために必要な方針を策定するか、それとも、政府の規制にますます反するようになっているギャンブルを利益目的で続けるか、のどちらかなのだ。メキシコ湾岸と世界中の人々の命を救うために、今こそリーダーシップが必要だ。ウォール街はホワイトハウスの後に続き、大胆に行動しなければならない。

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク事務局長
ジンジャー・キャサディ

テキサス州カリゾ・コメクルド族チェアマン
フアン・マンシアス

*本記事で述べられている見解は執筆者個人のものです。

 

訳註1)リオ・グランデLNG事業の概要や問題点については、日本のNGO「環境・持続社会」研究センター(JACSES)がまとめたファクトシート(2024年4月発行)を参照のこと。

https://jacses.org/wp_jp/wp-content/uploads/2019/10/f3f4587241d5a547e73247c7eea46d96.pdf

訳註2)テキサス州の先住民カリゾ・コメクルド族は、アメリカ先住民族であるにもかかわらず、連邦政府から公認の先住民族としての法的地位や土地権などが認められていない。彼らは長年、この「民族の抹消」という深刻な人権侵害とたたかい、また先祖代々に伝わる土地を環境破壊などから守る活動を行ってきた。現在、彼らの聖地にメタンガス輸出施設やパイプラインが建設されるのを阻止するために、世界的なキャンペーンを展開している。彼らの活動の結果、輸出施設の建設が中止・遅延されたり、投融資を検討していた銀行が事業から撤退するなどしている。

(和訳版発行日:2024年9月3日)

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