サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

プレスリリース:日清食品に新署名開始「2030年まで、問題あるパーム油を使い続けないで!」(2020/11/13)

「持続可能なパーム油100%」2030年目標の前倒しを求め〜熱帯林および生態系保護、人権尊重など、パーム油調達方針強化を〜

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日13日、日清食品ホールディングスにパーム油調達方針のさらなる強化を求めて、「日清食品さん、2030年まで問題のあるパーム油を使い続けないで!〜地球と未来のために今すぐ『チャレンジ』を〜」署名を開始しました(注1)。

日清食品は今年6月、2030年度までの「持続可能なパーム油調達比率100%」実現に向けてチャレンジするという目標を掲げました注2)。しかし2030年度の達成では熱帯林保護、生態系保護、人権尊重における対応は遅く、高まる消費者の期待に応えることができていません。本署名では、日清食品に目標年の前倒しと、自社サプライチェーン(供給網)から問題あるパーム油を排除するための実施計画策定および公表などを求めます。

【署名について】
本署名は署名サイト「change.org」で展開し、日清食品ホールディングス安藤宏基取締役社長 CEOとアメリカ日清 マイケル・プライス社長に以下3点を要望しています。

 1.「持続可能なパーム油100%」達成を2030年から大幅に前倒しし、自社サプライチェーン(供給網)から問題あるパーム油を確実に排除するために、拘束力があり、達成期限を定めた実施計画を直ちに策定し、発表すること

 2.パーム油供給業者の全リストを公開して、「持続可能なパーム油の調達へのコミットメント」を実施し、進捗を公表すること

 3.パーム油供給企業が方針を遵守しているかモニタリングし、独立検証できる新たな仕組みを構築して、上記コミットメントを実施し、進捗を公表すること

RAN 日本代表部 川上豊幸は「国連の持続可能な開発目標(SDGs)では、2020年までに森林減少を阻止することを掲げています。日清食品の目標はSDGsにも合致していません。日清食品が今後10年間も環境・社会面での配慮の確認が不十分なパーム油調達を続ければ、サプライチェーンで発生している気候危機や生物多様性の損失、人権や労働権、および土地権の深刻な侵害が今後も続き、対応を先送りすることになります。問題の喫緊性を考えると、2030年度までの『持続可能なパーム油調達比率100%』目標では遅すぎます」と批判しました。

【背景:日清食品のパーム油調達における動き】

日清食品は2020年8月にパーム油調達方針を改定し、「森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ」(NDPE:No Deforestation、No Peat、No Exploitation)の支持を表明しました注3)。改定方針には、責任あるパーム油生産に欠かせない国際基準である「NDPE」に沿った項目が含まれ、森林破壊や森林火災、そして炭素を豊富に含む泥炭地開発の禁止、また先住民族および地域住民の権利尊重と土地権侵害の禁止が明記されました。

方針強化の背景には、高まる消費者の懸念があります。2019年、RANはインドネシアで現地調査を行い、日清食品を含む大手消費財企業が、スマトラ島の貴重な熱帯低地林「ルーセル・エコシステム」で熱帯林および泥炭地破壊を引き起こしている企業からパーム油を調達している可能性を明らかにしました(注4)。

RANは同年8月、日清食品に対して、問題あるパーム油を調達しないよう方針強化を求めて「日清食品さん、森林破壊フリーの東京五輪に! 〜問題あるパーム油を使わないで〜」署名を実施し、今年10月には約3万人の署名を同社に提出しました注5)。また、RANの呼びかけに応えて日清食品ウェブサイトの問い合わせフォームに環境や生態系への懸念や意見を寄せた消費者もいました。

日清食品は「持続可能性」を追求する東京2020五輪・パラリンピックの「オフィシャルパートナー」(スポンサー)であることからも、環境面・社会面におけるパーム油調達方針の強化が求められます。パーム油は同社の看板商品である『カップヌードル』の揚げ油として利用されていますが、アブラヤシ農園開発による熱帯林破壊や、生産国での人権侵害など多くの問題が指摘されています。

2020年3月時点で、同社はグループ全体の「RSPO (持続可能なパーム油のための円卓会議)」認証パーム油調達比率を約20%と公表しています。しかし、日清食品が採用しているRSPOの「マスバランス」方式では認証農園で生産されたパーム油と、生産地の追跡ができない問題あるパーム油が混合され、森林破壊や人権侵害との関与への対処が困難です。

●RANは今年4月、「キープ・フォレスト・スタンティング」キャンペーン注6)を開始し、自社サプライチェーンでの森林破壊および人権侵害への対処において重要な役割を果たす必要があり、国際的に影響力のある消費財企業として10社を挙げました。日清食品はその1社ですが、キャンペーン開始時にNDPE基準を採用していなかった唯一の消費財企業でした。日清食品のNDPE基準採用は大きな一歩ですが、さらなる方針強化と目標達成のためには、目標の前倒しと実施計画の策定および公表が必須です。

注1)署名URL: http://chng.it/fPL9gLxkV6
英語版署名「NISSIN: CLEAN UP YOUR CUP NOODLES」

注2)日清食品ホールディングス「地球のために、未来のために。環境戦略『EARTH FOOD CHALLENGE 2030』始動!」(2020年6月9日)より抜粋

「森林破壊の防止、生物多様性の保全、および農園労働者の人権に配慮された持続可能なパーム油の調達を進めます。2020年3月現在、グループ全体における「RSPO (持続可能なパーム油のための円卓会議)」認証パーム油の調達比率は約20%です。2030年度には、RSPO認証パーム油の調達に加え、独自アセスメントにより持続可能であると判断できるパーム油のみを調達することを目指します」

注3)日清食品ホールディングス「持続可能な調達:持続可能なパーム油調達コミットメント」より抜粋:

日清食品グループは、NDPE (No Deforestation、No Peat、No Exploitation=森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ) を支持し、取引先等のステークホルダーの協力を得て、パーム原産地の環境と労働者の人権に配慮して生産されたことが確認できるパーム油を調達します。
 ・保全価値の高い (HCV: High Conservation Value) 地域および炭素貯蔵力の高い (HCS: High Carbon Stock) 森林の保護、森林破壊ゼロ
 ・深さに関わらない泥炭地の新たな開発禁止
 ・植栽や土地造成、その他開発のための火入れ禁止
 ・先住民族・地域住民の権利尊重・土地権侵害の禁止
 ・RSPO (持続可能なパーム油のための円卓会議) が定める「原則と基準」の遵守
 ・農園まで含めたトレーサビリティの確認

注4)RANプレスリリース「三菱UFJ、高リスクのパーム油企業へ資金提供 〜違法パーム油およびインドネシア泥炭林破壊とのつながりが明らかに〜」 (2019/10/18)

注5)RAN「日清食品さん、森林破壊フリーの東京五輪に! 〜 問題あるパーム油を使わないで〜」署名 (2019年8月21日から2020年10月5日実施)

注6)RANプレスリリース「2020新キャンペーン開始!「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」〜17社の消費財ブランド&銀行を対象〜 (2020/4/1)

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。 

本件に関するお問い合わせ先
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

プレスリリース:日清食品株主総会で森林・人権保護方針強化を求めてアピール「問題あるパーム油を使わないで」 (2020/6/25)

〜持続可能パーム油100%、2030年では遅すぎる〜

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日25日、日清食品ホールディングスの第72期定時株主総会に参加し、株主に向けて、パーム油調達の方針強化を同社に求めるよう会場前でアピールしました。また、同社新環境戦略で示されたパーム油調達目標「2030年度に持続可能パーム油100%達成」は遅すぎると指摘し、総会では「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止方針」(NDPE方針)を正式な調達方針として採用することを求めましたが、曖昧な回答しか得られませんでした。

RANと「ウータン・森と生活を考える会」のスタッフとボランティアは、オランウータンの着ぐるみとともに、会場のホテルニューオータニ大阪前で「日清食品さん、森林破壊フリーの東京五輪に 」と書かれたバナーを掲げ、同社が「持続可能性」を追求する東京2020大会のスポンサーでもあることから、環境面・社会面でのパーム油調達方針の強化を求めました。RANはこれまで同社に、消費財企業の国際基準となっているNDPE方針をパーム油調達方針に採用するなど、責任ある調達に早急に取り組む必要があると提案してきました。

日清食品が今月9日に公表した新環境戦略「Earth Food Challenge 2030」(注1)では「持続可能なパーム油の調達を進める」とありますが、以下の問題点が挙げられます。

●「2030年度には、RSPO認証パーム油の調達に加え、独自アセスメントにより持続可能であると判断できるパーム油のみを調達することを目指します」と約束しているが、今後10年にわたって日清食品の調達が森林減少、泥炭地劣化、人権侵害といった問題に直面し続ける懸念がある。

●持続可能なパーム油には、国際的なパーム油認証制度である「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」の認証油に加え、同社の独自アセスメント(評価)によって持続可能であると判断されたパーム油も含まれる。しかし評価方法次第では、低い基準や曖昧な基準で評価され、持続可能であると判断されてしまう恐れがある。さらに、同社のRSPO認証油の定義には、非認証油を混入する方式のパーム油も含まれる可能性がある。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表の川上豊幸は「日清食品が、今後10年間も環境・社会面での配慮の確認が不十分なパーム油調達を続けることになれば、サプライチェーンで発生している気候危機や生物多様性の損失、人権や労働権、および土地権の深刻な侵害が今後も続き、問題を先送りすることになります。日本だけでなく、同社が事業展開する世界中の消費者やESG(環境・社会・ガバナンス)課題に取り組む投資家にとっても受け入れられるものではありません。国連の持続可能な開発目標(SDGs)の目標15.2では、2020年までに森林減少を阻止することを掲げています。その目標にも合致していません」と批判しました。

RANは、株主として総会で発言し、「2030年度までに持続可能なパーム油のみを調達するという目標では、他のグローバル企業が2020年を森林減少阻止の目標年にしている点から大きく見劣りする」と指摘しました。また、日清食品が22日、NDPE方針への支持をウェブサイトで表明した件について(※)「NDPE方針を持続可能なパーム油の調達における独自アセスメントの内容として組み込むとともに、調達方針として採用すべきだ」と提案しました。

それに対して日清食品は「(持続可能なパーム油のみの調達達成を)2030年まで待ち続けているわけではなく、できるだけ早く進めていく」と述べ、「独自アセスメントは、外部のNPOと客観的な認証が確保できる形で進める」としました。また「(NDPE方針を)支持しているということは、パーム油原産地の環境と労働者の人権に配慮して生産されたことが確認できるパーム油のみを調達するよう、最善の努力を尽くすということだ」との曖昧な返答でした。

川上は、「日清食品は『最善の努力を尽くす』というのであれば、持続可能性の確認を進めるために、NDPE方針をパーム油調達方針として定め、独自アセスメントに明確に組み込むことが不可欠です。また、パーム油を調達する搾油工場リストの情報開示を通じて、アブラヤシ農園などで起きている問題について、現地NGOなど外部に情報提供を求めることで早急に問題を発見し、早期の解決に取り組む体制づくりが必要です。世界が日本のリーダーシップに期待している今、五輪スポンサーでもある日清食品が他社に見劣りするような『最善の努力』では、消費者や投資家からの納得は得ることは難しくなります」と批判しました。

【森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止方針(NDPE方針)について】

RANは日清食品に対して、今年の株主総会までに、NDPE方針に合致した調達方針の強化の公表を求めてきました。具体的な内容としては、森林破壊ゼロを基本に、インドネシアやマレーシアなどパーム油生産国の熱帯林及び泥炭地の保護、アブラヤシ農園での労働権保護、先住民族や地域コミュニティの土地権を含む人権尊重が挙げられます。また、企業全体で供給業者の事業活動がNDPE方針の要求事項に合致していることを迅速かつ独立して検証することを目的に、信頼できる体制の構築にも取り組むよう再三求めています。NDPE方針は、国連責任投資原則(PRI)に関わる機関投資家56機関が支持を表明しています(注2)。投資機関も方針採択と実施に関心を寄せているという点で、非常に重要な調達基準となっています。

RANが今年4月に発表した報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」注3)でも、グローバルサプライチェーンにおける森林を犠牲にする産品の拡大による森林破壊と土地権侵害を止めるよう日清食品に提言しています。報告書の中で、取り上げている消費財企業10社のうち、NDPE方針を採択していないのは日清食品だけです。

【「五輪スポンサー日清食品さん、森林破壊フリーの東京五輪に! 」署名について】

本署名(注4)は、日清食品に、東京五輪スポンサー企業としてパーム油調達方針の強化を求めたもので、2019年8月21日の開始以来、約29,500人の賛同が集まっています。署名サイト「change.org」で展開し、宛先は日清食品ホールディングス安藤宏基取締役社長 CEOです。米国でも5月にメールキャンペーンを実施し、アメリカ日清宛に約17,000通のメールが送信されました。日米で合計5万人近い方々が同社のパーム油調達について懸念を持ち、アクションに参加したことは画期的です。

日清食品は、このような消費者の声を真摯に受け止めて、NDPE方針に基づく調達方針のさらなる改訂に早急に取り組むことが求められます。

※【6月26日追記】6月22日、日清食品「持続可能な調達:原材料ごとの実施状況 パーム油」に「森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ (NDPE) を支持しており、パーム原産地の環境と労働者の人権に配慮して生産されたことが確認できるパーム油のみを調達するよう、最善の努力を尽くしています」が加えられました。

注1)日清食品ホールディングス「地球のために、未来のために。環境戦略「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」始動!」

注2)2019年4月、責任投資原則(PRI)に関わっている機関投資家56機関、合計運用資産総額7.9兆米ドルがRSPOへの支持を表明し、銀行を含むパーム油バリューチェーン全体の全ての企業に対して、公表する形で「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止方針」の採用と実施を求めた。
PRI, “Fifty-six investors sign statement on sustainable palm oil”, 3 April 2019

注3)RANプレスリリース「2020新キャンペーン開始!『キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう』〜17社の消費財ブランド&銀行を対象〜」(2020/4/1) 

注4)RAN署名「五輪スポンサー日清食品さん、森林破壊フリーの東京五輪に! 〜問題あるパーム油を使わないで〜」

【訂正】「米国でも5月にメールキャンペーンを実施し、安藤CEO宛に約17,000通のメールが送信されました」とありましたが、「アメリカ日清宛に」の誤りでした。お詫び申し上げます(6月26日)。

声明:東京五輪 大会前報告書は「見せかけのサステナビリティ報告書」 (2020/4/30)

〜木材調達の失敗から教訓を学ばず、悪しきレガシー残す〜

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日30日、東京2020組織委員会が「持続可能性大会前報告書」(注)を公表したことを受けて、以下の声明を発表しました。

有明アリーナ建設現場、2018年5月 

「持続可能性大会前報告書」は「見せかけのサステナビリティ報告書」と言わざるを得ない。なぜならば、報告書には東南アジアの熱帯林破壊によって得られた木材が新国立競技場や有明アリーナなどの大会関連施設に調達された問題の記述がなく、東京2020大会主催者は調達の失敗を認めていないからだ。破壊された熱帯林には絶滅危惧種のオランウータンの生息地も含まれる。NGOは2016年から、熱帯材の調達に関する諸問題を指摘してきた。

さらに、NGOの指摘や社会的関心の高まりを受けて、組織委員会と東京都が2018年に実施したコンクリート型枠合板調達のモニタリング調査では、インドネシアでの熱帯林が破壊された現場は調査対象とせず、他の現場を調査しただけで「持続可能な森林管理に取り組んでいることが確認できました」と記述するなど、問題に向き合う姿勢も見られない。

大会自体の延期に伴い、組織委員会は木材調達の失敗と教訓を報告書に課題として記録し、大会の持続可能性実現ための明確な道筋を示すこともできたはずだ。しかし、それもしていない。

今、世界は新型コロナウイルスの感染拡大という大きな試練に直面している。失敗を認めず、教訓から学ばない姿勢では『悪しきレガシー』が残されるままだ。大会の開催予定まであと1年あまり。「ポストコロナ時代」の持続可能性への対応には大きな懸念が残る。

注)東京2020組織委員会「持続可能性大会前報告書」

参考:NGO共同声明「東京五輪は『見せかけのサステナビリティ』〜東京五輪および『持続可能性大会前報告書』公表延期を受けて」2020年3月30日

団体紹介
レインフォレスト・アクションネットワーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境・森林保護で最前線に立つ人々とのパートナーシップと戦略的キャンペーンを通じて、環境保護と先住民族や地域住民の権利擁護活動をさまざまな角度から行っています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

NGO共同声明:東京五輪「SDGs:2020年森林破壊ゼロ」達成に黄色信号(2019/12/20)

競技場建設による熱帯林破壊について大会当局に説明責任を要求
〜新国立競技場オープニングイベントを受けて〜

国内外のNGO 11団体は、本日20日、東京五輪・パラリンピックのメイン会場となる新国立競技場のオープニングイベント(注1)が21日に開催されることを受けて以下の共同声明を発表し、東京2020大会の施設建設によるインドネシアとマレーシアの熱帯林破壊が国連の「持続可能な開発目標」(SDGs)の「2020年までに森林破壊ゼロ」目標の達成を困難にしていると批判しました。

東京五輪開幕1年前セレモニーが開催された東京国際フォーラム前でアピール(2019年7月24日)

新国立競技場の建設で、東南アジアの熱帯林は多大な犠牲を強いられました。インドネシアとマレーシア産の熱帯材合板の大量使用によって、気候、生物多様性、先住民族と地域コミュニティの権利や生活が犠牲となり、貴重な熱帯林が劣化したり永久に失われることになりました。今日の祝賀ムードの中にあっても、新国立競技場の建設が不必要な損害を熱帯林に与えたことを忘れてはいけません。

東京2020大会当局はSDGsの推進を約束しましたが(注2)、熱帯材の甚大な搾取はSDGs達成を後退させ、特に「ターゲット15.2」(2020年までに森林破壊を阻止し、劣化した森林を回復する)は達成困難です。また「ターゲット15.5」(生物多様性損失の阻止と、2020年までに絶滅危惧種を保護と絶滅防止の対策を講じる)も達成できそうになく、東京2020大会の「SDGs」への貢献には『黄色信号』がともっています。

東京2020組織委員会が公開した情報によって、マレーシアとインドネシア産の熱帯材合板が新国立競技場等の土台のコンクリートを固める型枠として使用されたことが明らかになり、その量は丸太換算で最大6,902立方メートルに相当します(注3)。コンクリート型枠合板は、通常は数回使用された後に廃棄されます。このような使い方は自然資源の破壊的な消費であり持続可能でないとして、広く批判されています。熱帯林の重要性、つまり多くの陸上生物の生息地として、そして二酸化炭素吸収源としてだけでなく先住民族の人々が暮らす場所としての重要性を考えると、東京五輪の施設建設における熱帯材の使い捨ては、持続可能なオリンピックを開催するという日本の公約に違反していることは明らかです。

国立競技場の木材供給企業を詳しく調べると、インドネシア産型枠合板がコリンドという批判の多いインドネシアの企業が供給していることがわかりました。同社は、国立競技場で使われたインドネシア産型枠の全てを供給した可能性があります。コリンド社については、熱帯林伐採、土地収奪、違法行為、脱税問題が問われています(注4)。コリンド社の東京五輪関連の合板サプライチェーンを調べたところ、2017年に製造された合板の4割近くが炭鉱開発やパーム油等の農園開発のために土地転換された熱帯林に由来していることがわかりました。これには絶滅危惧種のボルネオ・オランウータンの生息地の破壊も含まれます(注5)。 また、同社は地域コミュニティの土地権を侵害し、保護価値の高い森林(HCV)地域を含む約3万ヘクタールの天然林を2013年以降にアブラヤシ農園拡大のために皆伐したこともわかっています。最近、森林管理協議会(FSC)はこれらの調査結果が事実であると正式に発表しました(注6)。国立競技場でのコリンド社の木材使用は、これらインドネシアの森林犯罪への東京五輪の関連性の明確な証拠です。

国立競技場は、違法伐採、汚職、土地権侵害の長い歴史があるマレーシア・サラワク州産の木材も相当な量を使用していました。競技場で見つかった木材は、過去に熱帯林破壊と人権侵害に繰り返し関与した伐採企業のシンヤンが供給していました(注7)。シンヤンの木材を国立競技場の建設に供給した合板工場は労働組合に対する差別行為でも批判を受けています(注8)。また以前、世界の6%もの生物多様性の宝庫といわれる「ハート・オブ・ボルネオ」で伐採事業を行なっていました。

私たちNGOは大会当局に、国立競技場と熱帯林破壊及び人権侵害とのつながりについて説明責任を求めています。しかし国立競技場を管轄する日本スポーツ振興センター(JSC)はこれまで、調達による悪影響について一切責任を取ろうとしていません。2018年11月、RANらはJSCに2件の苦情を通報しました: 1)オランウータン生息地の破壊を含む転換材の使用、2)土地権侵害に関与しているコリンド社の木材使用に関して。苦情を通報してから1年以上が経ちますが、JSCの苦情処理メカニズム(通報窓口)はこの苦情をいまだに通報案件として正式に受け入れておらず、受け入れるかどうか検討していると伝えてきました(注9)。これは苦情処理メカニズムが機能していないことを表しています。

東京大会当局とスポンサー企業は、この国立競技場での残念なレガシーについて説明責任を果たす必要があり、オリンピックのために熱帯林が、これ以上犠牲にならないことを確実にしなければなりません。大会当局は最初のステップとして、大会自体の持続可能性に関する方針に対する違反と、その結果生じた負の影響を公式に認め、苦情処理メカニズムを通じて改善措置の実行に協力する必要があります。また、石炭採掘による森林伐採からの木材も含め、全ての転換材が持続可能ではないと判断されるよう、今年1月に改定した木材調達方針の明確化を行う必要があります。

賛同団体
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN、米国)
熱帯林行動ネットワーク(JATAN、日本)
国際環境NGO FoE Japan(日本)
地球・人間環境フォーラム(日本)
ウータン・森と生活を考える会(日本)
サラワク・キャンペーン委員会(SCC、日本)
ブルーノマンサー基金(スイス)
サラワク・ダヤック・イバン協会(SADIA、マレーシア)
Tukインドネシア(インドネシア)
マイティ・アース(米国)
ボブ・ブラウン財団(オーストラリア)
国際NGO EIA(環境調査エージェンシー、米国)

注1)「国立競技場オープニングイベント~HELLO, OUR STADIUM」
注2)国際連合広報センター「国際連合と東京2020組織委員会が東京2020大会を通したSDGsの推進協力に関する基本合意書に署名」、2018年11月14日
注3)東京2020組織委員会「『持続可能性に配慮した木材の調達基準』の実施状況に関するフォローアップについて」、2019年8月2日
公開情報によると、新国立競技場では139,800枚のコンクリート型枠合板が使われた。その内、120,800枚が熱帯材である(117,800枚がインドネシア産、3,000枚がマレーシア産)。
※日本では、コンクリート型枠合板の典型的なサイズは、12X900X1800mm〜15x910x1820mmであり、合板の量を生産において利用する丸太の量に変換する場合に使用される係数は2.3となる(出所: UNECE/FAO)。これは約6,902立方メートルもの丸太材に相当する。
注4)コリンド社は、オフショアのペーパーカンパニーを使って韓国で脱税を行なった疑惑で調査され、韓国国税庁(NTS)から8,500万米ドルの罰金を科せられた。スン・ウンホ会長は不服申し立てをしている。
出典: Seung Eun-Ho vs Kepala Kantor Pajak Seocho, Kasus No. 2016GuHap69079, Tanggal pengumuman keputusan: 24/08/18
注5)RAN他、報告書「守られなかった約束」、2018年11月
注6)FSCジャパン「コリンドグループに対する厳しい改善措置の義務付け」、2019年7月24日
注7)RAN他「2020年東京五輪の熱帯材使用に関する公式な情報開示に対するNGOの解説」、2018年2月16日
注8) 国際建設林業労働組合連盟(BWI)による東京2020組織委員会への苦情, “Complaint by Building and Wood Workers’ International (BWI) & Timber Industry Employees Union of Sarawak”(英語)
注9)参考:RANブログ「東京五輪の木材スキャンダル、持続可能性と説明責任に問題あり」2019年9月9日

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

※追記(2019年12月21日)
・2018年10月時点で、コリンドはインドネシアで唯一の型枠用塗装合板メーカーであり(出典:日刊木材新聞、2018年10月16日付)、型枠用塗装合板は新国立競技場の建設現場で広く使われていたことがNGOの調査で確認されていた。また毎日新聞の記事では(2018年11月27日付)、コリンド社の合板を有明アリーナ(五輪のパレーボール競技会場)建設に供給した住友林業が、インドネシア産の転換材を国立競技場建設に提供したことを認めている。

・国際NGO EIA(環境調査エージェンシー、米国)を賛同団体に追加。11団体は声明発表時の数字、現在は合計12団体(12月21日時点)。

メディア掲載:東洋経済でRAN東京五輪木材関連の調査が紹介されました(2019/10/19)

東洋経済「五輪の施設建設に疑惑、『調達基準』が抱える課題:住友林業が納入した合板に、環境・人権への配慮の欠落が指摘されている」(2019年10月19日)〜RAN報告書「守られなかった約束」での調査が紹介されました〜

「東京五輪・パラリンピックの開催まで1年を切り、都内ではさまざまな大規模施設の建設が急ピッチで進行中だ。そうした中、施設建設に関わる調達をめぐって、厳しい指摘が挙がっている。東京五輪は「持続可能性への配慮」を重要な取り組みの1つと位置づけ、環境や人権、労働問題などを考慮した大会運営を掲げてきた。そのため東京五輪組織委員会は「持続可能性に配慮した調達コード」(調達基準)を定め、物品やサービスの調達を行っている。だが、環境問題や人権問題に取り組むNGO(非政府組織)、レインフォレスト・アクション・ネットワークの川上豊幸日本代表は「環境や人権の問題をはらんだ木材が五輪施設の建設に使われている」と指摘する。 続きを読む 」

※関連声明:「ノーモア森林破壊、ノーモア人権侵害: 東京五輪開幕まで1年、IOCへ文書を送付、抜け穴のある調達基準と機能不全の通報制度を 『東京五輪のレガシー』としないために」(2019/7/24)

東京五輪開幕1年前セレモニーが開催された東京国際フォーラム前でアピール(2019年7月24日)

ブログ:東京五輪の木材スキャンダル、持続可能性と説明責任に問題あり(2019/9/9)

責任ある金融シニア・キャンペーナー ハナ・ハイネケン

2020年の東京五輪開幕まで1年を切りました。東京2020大会の主催者が「持続可能なオリンピックを開催する」という約束をしっかり守っているかどうか、今こそ現状を把握しなければなりません。

答えを一言でいうと、主催者は約束を守っていません。そして、自分たちの過ちを隠そうとしています。

NGOによる継続的なキャンペーンの成果で、東京2020組織委員会は競技会場の建設で使われた熱帯材合板の数量の情報を開示しました。その結果、21万枚以上もの膨大な量の熱帯林由来の合板が建設に使用されたことがわかり(2019年5月末時点)、私たちNGOは衝撃を受けました。そして、その半数以上が「新国立競技場」の建設で使われていたことも判明しました。実際「夢の島公園アーチェリー会場」を除いて、東京2020大会のために新たに建設されるほとんどの競技会場ではマレーシアまたはインドネシア産の熱帯材合板を使用しています。

2018年秋、レインフォレスト・アクション・ネットワークは、協力団体の TuKインドネシアとWALHIと行った共同調査で、東京五輪の主なコンクリート型枠サプライヤーであるコリンド社が、世界で最も豊かな生物多様性を誇る熱帯生態系で森林伐採を行ない、地域コミュニティの土地を違法に強奪していたことを明らかにしました。私たちは、コリンド社が住友林業を通じて供給した木材について、東京の五輪施設建設現場から、パーム油生産のために伐採されたインドネシアの原生林までのサプライチェーンを追跡しました。また、絶滅が危惧されるボルネオ島のオランウータンの生息地からも、コリンド社が木材を調達していたことも突き止めました。これは最悪の持続可能でない調達でした。現地を取材した映像をご覧ください。

*動画「守られなかった約束: 東京五輪がインドネシアの森林減少に加担」
撮影地:インドネシア 東カリマンタン州、撮影日:2019年3月
解説:オランウータン専門家 ハルディ・バクチャントロ氏
(Centre for Orangutan Protection 代表)

そこで私たちNGO3団体は、3つの五輪主催者(東京2020組織委員会、東京都、日本スポーツ振興センター(JSC))それぞれに2件の苦情を通報し、是正を求めました。さらに「ともだち」のオランウータンの「ストロベリー」といっしょに、サンフランシスコの日本国総領事館で要請文を手渡しました(動画)。そしてRAN会員らの協力を得て、東京五輪主催者が、森林減少、人権侵害、生息地喪失に拍車をかけていることを批判し、持続可能性についての約束を守るよう求める声を上げました。

東京2020組織委員会の名誉のために伝えておくと、一定の進展はあったものの、熱帯林を保護し、五輪の影響を受けている地域コミュニティの権利を尊重するには決して十分とは言えません。

2019年1月、東京2020組織員会は「持続可能性に配慮した木材の調達基準」を改訂し、パーム油生産などのために大規模農園に転換された森林で伐採された木材の調達を明確に排除しました。国際オリンピック委員会(IOC)は「持続可能な調達に関する指針」(Olympic Games Guide on Sustainable Sourcing)を2019年4月に発表し、「森林減少ゼロ誓約に関する進捗状況をモニタリングし、保護価値の高い森林環境の保護を促進する調達方針」の採用を求めました。こうした対策は適切なように見えますが、結局は実施と執行状況次第です。残念なことに今年の7月、高リスクのマレーシア・サラワク州産熱帯材合板が、五輪施設の建設でいまだに使われていることがわかりました。東京2020組織員会ら主催者は、自分たちの調達方法の失敗を全く認めていないようです(参考:「持続可能性進捗状況報告書」)。

同様に懸念されるのは、東京五輪主催者がすでに起こした被害について、いまだに責任を問われていないという事実です。この記事を書いている時点で、私たちNGOが提出した6件の苦情のうち3件は却下され、そのうちの1件は非常に疑問の残る理由で却下されました。それは、コリンド社の木材使用に関して、有明アリーナを管轄する東京都に通報した苦情です。通報してから音沙汰がないまま数カ月が経った後に、木材供給会社から受け取った情報と矛盾するという理由で却下されました。しかもそれはNGOの苦情が通報された「後」に会社から提供された情報で、私たちには開示できないと言われました。この苦情が対象案件として正式には受理されないままとなっていたにも関わらずです。これは「苦情処理メカニズム」のあるべき姿ではありません。少なくとも、世界で通用する国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に説明されている原則に沿っていません。皮肉なことに、日本政府も東京2020組織委員会いずれもこの指導原則を支持しており、彼らの言葉と行動が一致していないことは明らかです。

では、私たちは何をしてきたのでしょうか? まず第一段階として、国際オリンピック委員会(IOC)に上記の問題を提起しました。定期的に開催されるIOCと東京2020主催者の間の調整委​​員会合の数日前に、私たちは東京五輪の苦情処理メカニズムが実際に機能しているか、また「ビジネスと人権に関する指導原則」と一致しているかどうかを、徹底的に調査するよう求める書簡 を送りました。

一方で、私たちNGOは、木材以外で熱帯林と人権をおびやかすような東京五輪の調達事例、特に紙・パルプおよびパーム油の調達にも注意を払っています。ご存知の通り、日本は、炭素集約度の高いインドネシアの熱帯泥炭地で生産されたパルプを原料とする紙製品の大量消費国です。また、ますます多くの日本企業が自社製品にパーム油を使用するようになっています。そのため、今すぐ行動しなければ、東京五輪によってさらなる被害が熱帯林に及ぶことが非常に現実的になっています。

東京五輪に関する話題はまだ続きます。

動画「東京五輪開幕まで1年 熱帯林の破壊をやめて!」アピール行動
(2019年7月、東京国際フォーラム前にて)

英語のブログはこちら(2019/8/7)

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)