NGO共同声明:東京五輪「SDGs:2020年森林破壊ゼロ」達成に黄色信号(2019/12/20)
競技場建設による熱帯林破壊について大会当局に説明責任を要求
〜新国立競技場オープニングイベントを受けて〜
国内外のNGO 11団体は、本日20日、東京五輪・パラリンピックのメイン会場となる新国立競技場のオープニングイベント(注1)が21日に開催されることを受けて以下の共同声明を発表し、東京2020大会の施設建設によるインドネシアとマレーシアの熱帯林破壊が国連の「持続可能な開発目標」(SDGs)の「2020年までに森林破壊ゼロ」目標の達成を困難にしていると批判しました。
新国立競技場の建設で、東南アジアの熱帯林は多大な犠牲を強いられました。インドネシアとマレーシア産の熱帯材合板の大量使用によって、気候、生物多様性、先住民族と地域コミュニティの権利や生活が犠牲となり、貴重な熱帯林が劣化したり永久に失われることになりました。今日の祝賀ムードの中にあっても、新国立競技場の建設が不必要な損害を熱帯林に与えたことを忘れてはいけません。
東京2020大会当局はSDGsの推進を約束しましたが(注2)、熱帯材の甚大な搾取はSDGs達成を後退させ、特に「ターゲット15.2」(2020年までに森林破壊を阻止し、劣化した森林を回復する)は達成困難です。また「ターゲット15.5」(生物多様性損失の阻止と、2020年までに絶滅危惧種を保護と絶滅防止の対策を講じる)も達成できそうになく、東京2020大会の「SDGs」への貢献には『黄色信号』がともっています。
東京2020組織委員会が公開した情報によって、マレーシアとインドネシア産の熱帯材合板が新国立競技場等の土台のコンクリートを固める型枠として使用されたことが明らかになり、その量は丸太換算で最大6,902立方メートルに相当します(注3)。コンクリート型枠合板は、通常は数回使用された後に廃棄されます。このような使い方は自然資源の破壊的な消費であり持続可能でないとして、広く批判されています。熱帯林の重要性、つまり多くの陸上生物の生息地として、そして二酸化炭素吸収源としてだけでなく先住民族の人々が暮らす場所としての重要性を考えると、東京五輪の施設建設における熱帯材の使い捨ては、持続可能なオリンピックを開催するという日本の公約に違反していることは明らかです。
国立競技場の木材供給企業を詳しく調べると、インドネシア産型枠合板がコリンドという批判の多いインドネシアの企業が供給していることがわかりました。同社は、国立競技場で使われたインドネシア産型枠の全てを供給した可能性があります。コリンド社については、熱帯林伐採、土地収奪、違法行為、脱税問題が問われています(注4)。コリンド社の東京五輪関連の合板サプライチェーンを調べたところ、2017年に製造された合板の4割近くが炭鉱開発やパーム油等の農園開発のために土地転換された熱帯林に由来していることがわかりました。これには絶滅危惧種のボルネオ・オランウータンの生息地の破壊も含まれます(注5)。 また、同社は地域コミュニティの土地権を侵害し、保護価値の高い森林(HCV)地域を含む約3万ヘクタールの天然林を2013年以降にアブラヤシ農園拡大のために皆伐したこともわかっています。最近、森林管理協議会(FSC)はこれらの調査結果が事実であると正式に発表しました(注6)。国立競技場でのコリンド社の木材使用は、これらインドネシアの森林犯罪への東京五輪の関連性の明確な証拠です。
国立競技場は、違法伐採、汚職、土地権侵害の長い歴史があるマレーシア・サラワク州産の木材も相当な量を使用していました。競技場で見つかった木材は、過去に熱帯林破壊と人権侵害に繰り返し関与した伐採企業のシンヤンが供給していました(注7)。シンヤンの木材を国立競技場の建設に供給した合板工場は労働組合に対する差別行為でも批判を受けています(注8)。また以前、世界の6%もの生物多様性の宝庫といわれる「ハート・オブ・ボルネオ」で伐採事業を行なっていました。
私たちNGOは大会当局に、国立競技場と熱帯林破壊及び人権侵害とのつながりについて説明責任を求めています。しかし国立競技場を管轄する日本スポーツ振興センター(JSC)はこれまで、調達による悪影響について一切責任を取ろうとしていません。2018年11月、RANらはJSCに2件の苦情を通報しました: 1)オランウータン生息地の破壊を含む転換材の使用、2)土地権侵害に関与しているコリンド社の木材使用に関して。苦情を通報してから1年以上が経ちますが、JSCの苦情処理メカニズム(通報窓口)はこの苦情をいまだに通報案件として正式に受け入れておらず、受け入れるかどうか検討していると伝えてきました(注9)。これは苦情処理メカニズムが機能していないことを表しています。
東京大会当局とスポンサー企業は、この国立競技場での残念なレガシーについて説明責任を果たす必要があり、オリンピックのために熱帯林が、これ以上犠牲にならないことを確実にしなければなりません。大会当局は最初のステップとして、大会自体の持続可能性に関する方針に対する違反と、その結果生じた負の影響を公式に認め、苦情処理メカニズムを通じて改善措置の実行に協力する必要があります。また、石炭採掘による森林伐採からの木材も含め、全ての転換材が持続可能ではないと判断されるよう、今年1月に改定した木材調達方針の明確化を行う必要があります。
賛同団体
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN、米国)
熱帯林行動ネットワーク(JATAN、日本)
国際環境NGO FoE Japan(日本)
地球・人間環境フォーラム(日本)
ウータン・森と生活を考える会(日本)
サラワク・キャンペーン委員会(SCC、日本)
ブルーノマンサー基金(スイス)
サラワク・ダヤック・イバン協会(SADIA、マレーシア)
Tukインドネシア(インドネシア)
マイティ・アース(米国)
ボブ・ブラウン財団(オーストラリア)
国際NGO EIA(環境調査エージェンシー、米国)
注1)「国立競技場オープニングイベント~HELLO, OUR STADIUM」
注2)国際連合広報センター「国際連合と東京2020組織委員会が東京2020大会を通したSDGsの推進協力に関する基本合意書に署名」、2018年11月14日
注3)東京2020組織委員会「『持続可能性に配慮した木材の調達基準』の実施状況に関するフォローアップについて」、2019年8月2日
公開情報によると、新国立競技場では139,800枚のコンクリート型枠合板が使われた。その内、120,800枚が熱帯材である(117,800枚がインドネシア産、3,000枚がマレーシア産)。
※日本では、コンクリート型枠合板の典型的なサイズは、12X900X1800mm〜15x910x1820mmであり、合板の量を生産において利用する丸太の量に変換する場合に使用される係数は2.3となる(出所: UNECE/FAO)。これは約6,902立方メートルもの丸太材に相当する。
注4)コリンド社は、オフショアのペーパーカンパニーを使って韓国で脱税を行なった疑惑で調査され、韓国国税庁(NTS)から8,500万米ドルの罰金を科せられた。スン・ウンホ会長は不服申し立てをしている。
出典: Seung Eun-Ho vs Kepala Kantor Pajak Seocho, Kasus No. 2016GuHap69079, Tanggal pengumuman keputusan: 24/08/18
注5)RAN他、報告書「守られなかった約束」、2018年11月
注6)FSCジャパン「コリンドグループに対する厳しい改善措置の義務付け」、2019年7月24日
注7)RAN他「2020年東京五輪の熱帯材使用に関する公式な情報開示に対するNGOの解説」、2018年2月16日
注8) 国際建設林業労働組合連盟(BWI)による東京2020組織委員会への苦情, “Complaint by Building and Wood Workers’ International (BWI) & Timber Industry Employees Union of Sarawak”(英語)
注9)参考:RANブログ「東京五輪の木材スキャンダル、持続可能性と説明責任に問題あり」2019年9月9日
本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org
※追記(2019年12月21日)
・2018年10月時点で、コリンドはインドネシアで唯一の型枠用塗装合板メーカーであり(出典:日刊木材新聞、2018年10月16日付)、型枠用塗装合板は新国立競技場の建設現場で広く使われていたことがNGOの調査で確認されていた。また毎日新聞の記事では(2018年11月27日付)、コリンド社の合板を有明アリーナ(五輪のパレーボール競技会場)建設に供給した住友林業が、インドネシア産の転換材を国立競技場建設に提供したことを認めている。
・国際NGO EIA(環境調査エージェンシー、米国)を賛同団体に追加。11団体は声明発表時の数字、現在は合計12団体(12月21日時点)。