NGO共同声明:2020東京五輪の木材調達基準改定は不十分(2019/1/30)
〜組織委に改定基準の内容と決定までの経緯の説明を求める〜
国内外のNGOは本日30日、東京2020組織委員会が「持続可能性に配慮した木材の調達基準」改定を1月18日に発表(注1)したことを受けて、改定された基準では東京五輪のサプライチェーンで繰り返し確認されている熱帯林破壊や人権侵害に関係した木材利用を止めることができないとし、遺憾の意を表しました。このままでは、有意義なデューデリジェンス(相当の注意による適正評価)をすることなく、問題のある企業からのリスクの高い木材をサプライヤー企業が利用し続けることが可能となり、2020年東京五輪は「苦いレガシー」を日本に残してしまうことになります。
東京五輪は招致活動の段階から物議を醸してきた(注2)が、新施設建設のために持続不可能な熱帯材を大量に利用したことは、その典型的な事例の一つであり、持続可能な大会を開催するという東京五輪の公約に明らかに反しています。東京2020組織委員会が公表した記録によれば、2016年12月から2018年11月までの間に、マレーシアやインドネシアの熱帯林由来の17万枚以上のコンクリート型枠合板が、五輪の新会場建設に利用されました。これは最大で約9,823立方メートルもの丸太材に相当します(注3)。これらの木材の73%は、熱帯の天然林の皆伐も含め、インドネシアからきており、世界で最も生物多様性が豊かな森林生態系の一つに悪影響を及ぼしています(注4)。
組織委員会は、NGOによる問題提起や、多くの署名、そして同委員会の持続可能性に関する専門家からの懸念に対応して、2018年7月に既存の木材調達基準の見直しを開始しました。1月18日に発表された改定基準では最低限の改善は行なわれたものの、残念ながら調達木材の持続可能性や合法性すらも確保できていません。
まず第一に、改定基準では森林の農地等への転換といった、他の用途のために皆伐された木材に由来する製品、いわゆる「転換材」を明確に排除しています。また、サプライヤー企業に対して供給する木材を伐採地の森林まで追跡し、基準に合致しない木材を生産する企業からの調達リスクを評価し、軽減することが推奨されています。こうした追加は改善に見えますが、既存の基準(注5)を普通に解釈すれば、すでに転換材の調達は除外されています。そしてサプライヤー企業のデューデリジェンスに関する規定は義務としていません。第二に、改定基準には以下のような問題が残っています: ア)持続可能性や権利に関する規定を満たしていない合板の利用を可能としている重大な「抜け穴」が維持されていること、イ)問題のある木材を避けるために不可欠な、有意義なデューデリジェンス(注6)を義務にしていないこと、ウ)サプライヤーに対して、木材伐採によって影響を受ける地域住民から「自由意思による事前の十分な情報に基づく同意(FPIC)」を得ることを要求していないこと、そして、エ)認証材のサプライチェーン内に持続不可能な木材が含まれる明確な証拠があったとしても、追加的なデューデリジェンスをすることなく認証材については全て持続可能であると想定している点です(注7)。
さらに、木材調達基準の見直しのプロセスをみると、東京五輪自らが目指していたPDCAサイクル(注8)を実施せず、大きな欠陥があると言わざるを得ません。調達ワーキンググループ委員に対しても、マレーシアとインドネシアで実施している現地モニタリング調査の調査方法や結果についての情報提供は行われませんでした。結果として、モニタリング調査結果について検討もせず、五輪施設建設に実際に使われた木材製品のサプライチェーンに関する課題については限られた議論しかしないまま、見直しが進められました。さらに、基準見直しプロセスには、一般社会からも高い関心が寄せられたにもかかわらず、改定基準についてのパブリック・コメントも実施されませんでした。
私たちは、全ての東京五輪関連機関に以下を求めます。
1) これまで調達された全ての熱帯材について、どのように持続可能性や合法性が確保されたのかについて詳細な評価の情報開示を即座に行うこと、
2) 伐採地までの完全な追跡可能性を確立していない場合や、木材調達基準の合法性、持続可能性、権利に関する5つの基準とFPIC取得について第三者監査で確認されていない場合、大会施設の建設に熱帯地域や他の高リスク地域からの木材製品の利用を全て停止すること、
3) 特にリスクの高い木材について、東京五輪のサプライチェーン全体を通じての合法性と持続可能性の確保において、改定された調達基準がどのような効果があるのか詳細な説明を公表すること、そして木材伐採によって影響を受ける地域住民が利用可能な言語で全ての情報公開を実施すべきです。
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)
熱帯林行動ネットワーク(JATAN)
ブルーノマンサー基金
ウータン・森と生活を考える会
国際NGO EIA(環境調査エージェンシー)
サラワク・ダヤック・イバン協会(SADIA)
Tukインドネシア(トゥック)
Walhi 北マルク支部(ワルヒ:インドネシア環境フォーラム)
サラワク・キャンペーン委員会(SCC)
国際環境NGO FoE Japan
注1)東京2020組織委員会、「持続可能性に配慮した調達コードの改定について:木材調達基準」、 2019年1月18日
注2) AFP、「JOC竹田会長、東京五輪招致めぐる贈賄容疑 仏が捜査」、2019年1月11日
注3) 東京五輪向けのコンクリート型枠合板の調達状況(東京2020組織委員会、「『持続可能性に配慮した木材の調達基準』の実施状況に関するフォローアップについて」、2019年1月28日)
※日本では、コンクリート型枠合板の典型的なサイズは、12X900X1800mm〜15x910x1820mmであり、合板の量を生産において利用する丸太の量に変換する場合に使用される係数は2.3となる(出所: UNECE/FAO)。これは約7,686〜9,823立方メートルもの丸太材に相当する。
注4)RAN、「プレスリリース:RANとボルネオオランウータン、東京都とJSCに通報〜新国立など五輪会場の木材、オランウータン生息地に深刻な危害〜」、2018年11月30日
※東京五輪大会施設の建設現場で使用されたインドネシア産木材の大部分が、韓国系インドネシアの伐採・パーム油大手コリンドによって供給されたことが知られている。同社は違法伐採、人権侵害、そして石炭鉱山及びアブラヤシ農園開発のための皆伐に関与しており、RANなどが苦情を申し立てている。
注5)「持続可能性に配慮した木材の調達基準」(改定前)、2及び3
注6)参照 「合法木材調達のための デューデリジェンス」
注7)NGO共同緊急プレスリリース「東京五輪競技会場の建設に高リスクの熱帯材大量使用、国内外NGOから「遺憾」の声」、2018年2月16日
注8)『東京 2020 オリンピック・パラリンピック競技大会 持続可能性に配慮した調達コード(第3版)』、14ページ
※追記:国際環境NGO FoE Japanが1月31日に賛同しました。
※追記:本プレスリリースにて掲載内容に一部誤りがございました。訂正してお詫びします(3月6日)。
【誤】約9,823本もの丸太材 【正】最大で約9,823立方メートルもの丸太材
また、注3)に以下の太字部分を追加しました。
※日本では、コンクリート型枠合板の典型的なサイズは、12X900X1800mm〜15x910x1820mmであり、合板の量を生産において利用する丸太の量に変換する場合に使用される係数は2.3となる(出所: UNECE/FAO)。これは約7,686〜9,823立方メートルもの丸太材に相当する。
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
本件に関するお問い合わせ
広報 関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org