声明:東京五輪「持続可能性に配慮した木材の調達基準」改定〜SDGs目標、2020年まで「森林破壊ゼロ」達成には不十分〜(2018/11/27)
環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都新宿区、以下RAN)は、本日27日、東京2020組織委員会の作業部会で「持続可能性に配慮した木材の調達基準」改定案が26日に提案・了承されたことを受けて、森林の農地等への転換に由来する「転換材」の排除が明記されたことを歓迎するも、合法性以外の基準が適用されない再利用コンクリート型枠の継続利用といった「抜け穴」が残されているなど、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の目標達成には不十分であるとして、以下の声明を発表しました。
今回の「持続可能性に配慮した木材の調達基準」改定案に、森林の農地等への転換に由来する「転換材」の排除が明記されたことは評価できる。現在、森林減少の主な要因はパーム油などのための農地への転換のため、持続可能性を担保するには転換材の排除は不可欠である。
しかしながら、既存の基準にも「中長期的な計画又は方針に基づき管理経営されている森林に由来する」との記載がある。アブラヤシ農園などの開発のために天然林の大規模な皆伐を伴う森林の土地利用転換はそもそも中長期的な計画に基づいた森林管理とは程遠く、実質的に「転換材」は排除していると考えられる。よって、今回の改定は明示化とは言えるが、大幅な変更とは言えない。一方、持続不可能で権利を尊重していない木材の使用を許す「再利用」コンクリート型枠合板の「抜け穴」が引き続き残ることを提案している。東京2020組織委員会はSDGsへの貢献を約束しているが、このままでは2020年までに「森林破壊ゼロ」を掲げる「目標15: 陸の豊かさも守ろう」への貢献にも支障が出る。
今年5月、有明アリーナの建設現場で、インドネシア企業コリンド社製造の型枠用合板が使用されていることが見つかった。RANの調査では、日本向けに合板を輸出している同社工場の原料の約4割は、樹木を全て伐採する「皆伐」による転換材であることがわかっている。コリンド製型枠合板が見つかったのは有明アリーナのみであるが、新国立競技場のインドネシア産合板も転換材に由来していた可能性が高い。これらの木材は、既存の「持続可能性に配慮した木材調達基準」を満たしておらず、東京2020組織委員会をはじめ、有明アリーナを管轄する東京都、新国立競技場を管轄する日本スポーツ振興センター(JSC)が今後どのように対応するかが課題である。
また、改定案では、サプライヤーについて以下の記載も追加された。
「サプライヤーは、伐採地までのトレーサビリティ確保の観点も含め、可能な範囲で当該木材の原産地や製造事業者に関する指摘等の情報を収集し、その信頼性・客観性等に十分留意しつつ、上記 2 を満たさない木材を生産する事業者から調達するリスクの低減に活用することが推奨される」
調達基準を満たさない「木材」だけでなく、基準を満たさない「企業」からの木材調達をリスクとして捉えるリスク低減措置も言及された。そのような措置が言及されたことは進歩だ。しかしトレーサビリティ確認による合法性に関するリスク低減措置は、EU木材法(EUTR)や米国のレイシー法ではすでに義務化されているため、改訂では「推奨」ではなく「義務」とすべきだった。さらに、リスクに基づいたデューデリジェンス、伐採地の森林まで遡る完全なトレーサビリティ、および木材サプライチェーンの合法性及び持続可能性に関する第三者検証を要求すべきであった。
◆改定では修正されなかった問題点◆
●合法性の証明については、「環境物品等の調達の推進に関する基本方針」(グリーン購入法)と関連する「木材・木材製品の合法性、 持続可能性の証明のためのガイドライン」に沿って行うという規定が改定案に残っている。これらは証明書類のリスク評価やデューデリジェンスが欠けていると広く批判されており、国際的に認められている基準を大きく下回る。
●「先住民族や地域住民の権利に配慮」する基準に「 自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC)に関する検証が含まれなかったこと。紙やパーム油の調達基準にはFPICは含まれていた。
●認証材向けに3割まで利用可能となっている非認証材について五輪の木材調達基準への適合の評価について含まれなかったこと。
参考:RANプレスリリース「新報告書『守られなかった約束』発表 〜東京五輪木材供給企業コリンドの熱帯林破壊、 違法伐採、人権侵害が明るみに〜」(2018年11月12日)
レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)