サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

プレスリリース:日清食品、パーム油調達で森林破壊・泥炭地開発・搾取ゼロを約束(2020/8/20)

〜RAN「正しい方向への一歩」と歓迎、ただし達成目標2030年度では遅すぎる〜

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日20日、日清食品ホールディングスが7日にパーム油調達方針(注1)で「森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ」(NDPE、注2)の支持を明確に表明したことを受けて、「正しい方向への一歩」を踏み出したと歓迎しました。一方で、2030年度までに持続可能なパーム油のみを調達するという目標設定では、熱帯林および生態系保護、人権尊重において対応が遅く、高まる消費者の期待に応えることができていないと指摘しました。

日清食品のパーム油方針強化は、8月7日、同社のウェブサイト「持続可能なパーム油調達コミットメント」で公表されました。方針には責任あるパーム油生産に欠かせない国際基準である「NDPE」に沿った項目が含まれ、森林破壊や森林火災、そして炭素を豊富に含む泥炭地開発の禁止、また先住民族および地域住民の権利尊重と土地権侵害の禁止が明記されています。

RANはこれまで、食品・菓子企業20社を対象にパーム油調達方針強化と問題あるパーム油の排除を求めて「スナック食品 20キャンペーン」を2013年に開始しました。他社がNDPE基準に沿った方針を策定するなか、日清食品は対応が遅れ、今回の方針強化でその遅れにようやく対処する形になりました。また今年4月、新たに「キープ・フォレスト・スタンティング」キャンペーン(注3)を開始し、森林を犠牲にして生産される「森林リスク産品」サプライチェーンでの森林破壊および人権侵害への対処において継続的な役割を果たす必要があり、かつ国際的に影響力のある消費財企業として10社を挙げました。日清食品はその1社ですが、キャンペーン開始時にNDPE基準を採用していなかった唯一の消費財企業でした。

RAN 日本代表部 川上豊幸は「日清食品は正しい方向に一歩進みました。アブラヤシ農園拡大の最前線にある地域コミュニティや森林保護にとって重要なのは、企業が策定した方針を即座に実行に移すことです。そうでないと、日清食品のパーム油調達が、世界的な生物多様性ホットスポットである『ルーセル・エコシステム』を含め、インドネシア各地に残る熱帯林の破壊を今後も引き起こす可能性があるからです」と警鐘を鳴らしました。また「喫緊の問題として、日清食品はパーム油を供給する全企業のリストを開示して、透明性を高めていくことが重要です。そして、絶滅危惧種のスマトラオランウータン、ゾウ、サイ、トラが生息できる最後に残された熱帯林であるルーセル・エコシステムの破壊について緊急に対処する取り組みを公表を含めて、新方針の実施状況を示さなければなりません」と指摘しました。

今回の方針改訂に先立ち、日清食品は新環境戦略 Earth Food Challenge 2030(注4)を6月に発表し、2030年度までに「持続可能なパーム油のための円卓会議」(RSPO)認証パーム油と、自社の独自アセスメントにより持続可能と判断できるパーム油のみを調達するという目標を掲げました。

川上は「インドネシア各地で新型コロナウイルスの影響が悪化している時にも、日清食品のようなグローバル企業のパーム油サプライチェーンで森林減少や森林火災、人権侵害が拡大し続けています。人々の健康、気候危機、生物多様性の危機の規模と緊急性、そして自らの土地を守ろうとする住民への暴力の増大を総合的に考えると、2030年までに調達方針を実施するという目標は遅すぎ、断じて受け入れることはできません」と強調しました。

RANは今後、日清食品に対して、拘束力ある期限付きの実施計画の作成と公表を要請していきます。実施計画には、2030年ではなく、すぐに、同社製品が問題のあるパーム油をサプライチェーンに含まないことを確実にするための対応策の詳細も含めることが必要です。また、日清食品が調達しているRSPOパーム油は、いわゆる「持続可能な」パーム油と称される「マスバランス方式」です。追跡不可能で問題あるパーム油が認証油に混合されているため、森林減少や人権侵害との関係に対処していません。まだRSPOの保証システムは信用できないため、日清食品の方針の実施体制は供給業者の方針遵守状況を監視し、独立検証を行う必要があります。

方針強化に加え、日清食品は消費者の懸念に対応しました。同社がルーセル・エコシステムの熱帯林と泥炭地破壊を引き起こしている企業からパーム油を調達している疑いがあり、RANが実施した日清食品への署名には日本で約3万人が賛同しました(注5)、英語で実施した署名でもアメリカなど世界中で賛同が集まりました(注6)。また、RANの呼びかけに応えて日清食品ウェブサイトの問い合わせフォームに懸念や意見を寄せた日本の消費者もいました。こういった消費者からの声を受けて、日清食品は8月7日、ウェブサイトに文書(注7)を発表し、ルーセル・エコシステムを犠牲にして生産されたパーム油を同社に供給しているとRANが指摘してきた搾油工場・農園企業への対応状況の一覧(社名は非公開)を公開しました。この文書によって、問題あるパーム油をルーセル・エコシステムから調達していた企業が同社の搾油工場リストにあったという事実が確認され、今後も問題あるパーム油が調達される懸念は残ることになりました。

日清はNDPE基準支持を公表したことで、「ザ・コンシューマー・グッズ・フォーラム(TCGF)」の他の多国籍消費財企業にも追いつき、ようやく方針実施のスタートラインに立ちました。しかし、2020年までにパーム油、紙パルプ、大豆、牛肉生産のための森林破壊を終わらせるという自ら課した約束の期限は、日清食品だけでなく、TCGFの他の企業も守れそうにありません。森林を保護し、森林破壊の最前線にいる地域コミュニティの権利を尊重するには、より迅速な行動が必要です。日清食品は、日本および森林リスク産品グローバルサプライチェーン全体で行動を起こすために中心的役割を担っています。

RANは国内外の消費者とともに、日清食品に森林保護と、森林リスク産品の世界的消費によって影響を受けた地域コミュニティおよび労働者の人権を尊重するために迅速に対応するよう引き続き求めていきます。

「ルーセル・エコシステム」は、インドネシア・スマトラ島北部に位置し、まとまった形で残されたアジア最大の熱帯林地帯の一つです。約260万haの広大な地域に、絶滅危惧種のスマトラゾウ、サイ、オランウータン、トラが大自然の中で共存する地球上で最後の場所です。

注1) 日清食品ホールディングス「持続可能な調達:持続可能なパーム油調達コミットメント」より抜粋:

日清食品グループは、NDPE (No Deforestation、No Peat、No Exploitation=森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ) を支持し、取引先等のステークホルダーの協力を得て、パーム原産地の環境と労働者の人権に配慮して生産されたことが確認できるパーム油を調達します。
 ・保全価値の高い (HCV: High Conservation Value) 地域および炭素貯蔵力の高い (HCS: High Carbon Stock) 森林の保護、森林破壊ゼロ
 ・深さに関わらない泥炭地の新たな開発禁止
 ・植栽や土地造成、その他開発のための火入れ禁止
 ・先住民族・地域住民の権利尊重・土地権侵害の禁止
 ・RSPO (持続可能なパーム油のための円卓会議) が定める「原則と基準」の遵守
 ・農園まで含めたトレーサビリティの確認

注2)NDPEはNo Deforestation、No Peat、No Exploitationの略

注3)RANプレスリリース「2020新キャンペーン開始!『キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう』〜17社の消費財ブランド&銀行を対象〜」、2020年4月1日
消費財企業10社:日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース

注4)日清食品ホールディングス「地球のために、未来のために。環境戦略『EARTH FOOD CHALLENGE 2030』始動!」、2020年6月9日

注5)RAN署名「五輪スポンサー日清食品さん、森林破壊フリーの東京五輪に! 〜問題あるパーム油を使わないで〜」、2019年8月21日開始

注6)RAN英語版署名「Olympic Sponsor Nissin Foods At Risk of Conflict Palm Oil」

注7)日清食品ホールディングス「2020年7月 当社商品の原材料(パーム油)調達に関する指摘について」2020年8月

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org