サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

ブログ:熱帯林破壊の五輪木材供給企業に汚職疑惑(20209/8)

〜インドネシアコリンド・グループ〜

日本代表 川上豊幸
(本ブログはサステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」に8月27日に寄稿したものです)

2020年夏、東京。新型コロナウイルスの感染拡大がなければオリンピックが華々しく開幕し、アスリートたちは世界中から声援を受けて金メダルを競い合っているはずでした。しかし五輪開幕は1年延期され、新国立競技場は静まりかえっています。

写真:人影もまばらな新国立競技場 2020年8月

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)ら環境NGOはこれまで、東京五輪施設での東南アジアの熱帯材使用を問題視してきました。NGOによる調査と、東京2020組織委員会の情報開示の結果、新国立競技場や有明アリーナなどほぼ全ての新施設建設で、熱帯林を伐採して生産されたインドネシアとマレーシア企業の合板が使用されていることが明らかになりました。これらの合板はコンクリートを成形するための型枠として使われ、何度か再利用されますが、基本的に使い捨てです。

そしていま新たな問題として、そのインドネシア産合板を五輪に供給したコリンド社が汚職に関与したという疑惑が浮上しています。コリンド・グループはインドネシア/韓国系複合企業で、木材、パーム油、紙パルプなどの事業を展開しています。同社についてはこれまで熱帯林での違法伐採に加え、樹木を全て伐採して生態系をも破壊する森林皆伐や、農園開発のための火入れが指摘されてきました。

コリンド・グループの汚職疑惑

今年6月25日、海外メディアのアルジャジーラは、コリンド社がインドネシアの熱帯林を木材伐採とアブラヤシ農園開発を目的に買い占めた際、「疑わしい取引に関わった」と報道しました。コリンドの複数の子会社は、西パプア全土で約4万ヘクタールの広大な熱帯林を伐採しました。西パプアにはアジア最大の熱帯林が残され、多くの先住民族コミュニティが暮らし、固有の生物多様性を誇ります。

パプア・アグロ・インベストメンツ(PAI)という、同社のシンガポールのペーパーカンパニーの2013年から2015年の財務諸表によると、「農園の権利取得に関する専門家」へ約2,200万ドルのコンサルタント料が支払われていました。 アルジャジーラが汚職防止専門家10人に2,200万ドルの支払いについて意見を求めたところ、インドネシアでは農園開発許可には当局への費用はかからないため、全員が贈収賄への警告を促しました。

また、コリンド・グループは国際的な認証制度を運営する森林管理協議会(FSC)の認証取得企業ですが、同協会が委託した2018年の調査では、同社が「非常に不備のある土地取得と補償プロセスを通じて(西パプア)族の人権を侵害している」ことが判明しました。 西パプア族が「コリンド社との取引で3億ドルを失い、同社は彼らを救済する取り組みには500万ドルも費やさなかった」ことが調査で明らかになったのです。

しかし、コリンド社は上記の不正行為についての申し立てを全て否定しています。

東京五輪 木材調達の失敗

東京五輪の会場建設現場でコリンド社製木材が最初に見つかったのは、2018年5月、有明アリーナ(バレーボール会場)でした。同社の木材は新国立競技場でも使われたことが後に確認され、合計で11万7800枚ものインドネシア製コンクリート型枠合板が新国立競技場だけで使われました。これは、国立競技場の屋根や庇(ひさし)などの建設で使われた国産木材の約3倍以上と推計されます(注)。両会場とも、熱帯林をパーム油生産などの農園に開発するために伐採した「転換材」を使用し、絶滅危惧種であるボルネオオランウータンの生息地から調達していたことが確認されています。

しかし東京2020大会主催者は、コリンド社から供給された木材の使用量をこれまで明らかにしていません。RANは同社の木材使用が東京五輪の木材調達基準に違反しているとして、五輪主催者(組織委員会、有明アリーナを管轄する東京都、新国立競技場を管轄する日本スポーツ振興センター)に通報しましたが、非常識な基準の解釈や、不当な運用手続の解釈のために、6件全てが通報案件としての手続きが開始されず、当該木材の原産地も一部しか開示されていません。

東京五輪で使われた木材自体が、汚職疑惑のある西パプア州での同社事業から調達されたという確証はありませんが、西パプアでの汚職疑惑と、東京五輪に木材を供給したコリンド子会社(バリクパパン・フォレストインダストリーズ、(BFI、インドネシア・カリマンタン州)の合板工場との間には明らかなつながりがあります。

RANらNGOがコリンド社の不透明な所有権構造について調査したところ、同グループ副会長のスン・ロバート氏が複雑な循環出資(系列企業が順繰りに株式を持つ韓国企業の独特な資本構造)を通じてBFIの98%以上を間接的に所有していることが明らかになったのです。 同氏はコリンド・グループのスン・ウンホ会長の息子で、上記の2,200万ドルのコンサルタント料を支払ったPAI社の取締役でもあります。

コリンド・グループのコーポレートガバナンスにおける問題は贈収賄だけではありません。 2013年に韓国の国税庁がスン・ウンホ会長個人の事業を調査したところ、「スン・ウンホ氏は、62社のペーパーカンパニーを英領ヴァージン諸島、香港、パナマ、セイシェル、シンガポールなどに保有し、それらの企業は循環出資を通じてコリンド社のインドネシアにおける資産を共同で所有していた」(前述のアルジャジーラらによる調査報道からの引用)ことが明らかになりました。 2018年、裁判所は、複雑かつ多層的な所有権構造と名義株主を用いたことが脱税目的のようにみえるという理由で、同氏に約9千万ドルの罰金を支払うよう命じました。裁判で明らかになったように、すべてのペーパーカンパニーがスン・ウンホ氏個人の利益のために管理されていました。この裁判はいまも継続しています。

五輪調達基準、腐敗行為も禁止を明記

東京五輪の「持続可能性に配慮したな調達コード」は、環境社会面や合法性の基準だけではなく、腐敗防止について「サプライヤー等は、調達物品等の製造・流通等において、贈収賄等の腐敗行為に関わってはならない」と述べています。従って、五輪主催者は、コリンド材を調達したことにより、この基準を違反したかを調査し、違反している場合は、コリンド社をサプライヤー対象から外すといった措置を講じるべきでしょう。

また、コリンド・グループと強いつながりをもつ企業は、同社との取引を見直すべきです。 例えば、同社と紙パルプの合弁会社をもつ王子製紙、2017年まで同社に資金を提供してきた三井住友フィナンシャルグループ、そして東京五輪 の施設建設にコリンド材を供給した住友林業が挙げられます。

さらに広い意味で考えると、日本企業はインドネシアの森林セクターにおける腐敗リスクの蔓延を認識し、取引先企業のESG(環境、社会、企業統治)課題における実績評価を企業グループ全体で行う必要があります。 東京五輪はこうしたESG課題への対応を怠ったことで、今後長きにわたって悪い評判がつきまとう「高いツケ」を払うことになるでしょう。

来年の五輪開幕までにすべきこと

東京五輪主催者は安価な合板の確保を優先した可能性があり、コリンド社の問題にしっかりと目を向けませんでした。また、利用した木材への調達基準の不遵守を指摘したRANの通報に対しても、基準や手続きの非常識な解釈や判断によって責任回避を行っていることは、五輪調達における深刻な問題点です。

五輪開催まで1年間の猶予があることを踏まえ、東京五輪主催者は木材調達におけるデューデリジェンスの不備を自覚し、問題企業と取引をしたことで日本および世界の国々に悪しき前例を作ってしまったことを認識し、木材に限らず他の調達も含めた再発防止策等を策定する必要があります。

注)NGO共同声明「東京五輪は「見せかけのサステナビリティ」(2020年3月30日)参照

※参考
アルジャジーラ・101イーストの動画「同意なき西パプアの熱帯林売却」(英語)
https://www.aljazeera.com/programmes/101east/2020/06/200625081849050.html

アルジャジーラのインタラクティブサイト「5ドルの森林」(英語)
https://interactive.aljazeera.com/aje/2020/five-dollar-forests/index.html

Geckoプロジェクト、 韓国の調査報道機関「ニュース打破(タパ)」、アルジャジーラ、モンガベイによるコリンド・グループについての調査報道(英語)
https://news.mongabay.com/2020/06/the-consultant-why-did-a-palm-oil-conglomerate-pay-22m-to-an-unnamed-expert-in-papua/

FSC「コリンドグループがFSC認証を維持するために必要な改善措置を定めました」、2019年11月7日
https://jp.fsc.org/jp-jp/news/id/621

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

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