サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

声明:歓声なき東京五輪、破壊された熱帯林〜不十分な持続可能性と調達の失敗、問われる責任〜(2021/7/23)

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、以下RAN)は、本日23日、緊急事態宣言下で強行開催される東京五輪の開幕を受けて声明を発表し、東京2020大会主催者に、持続可能性の取り組みについても重要課題として真摯に取り組むよう求めました。

「東京五輪は7月23日に開幕を迎えた。しかし首都圏での新型コロナウイルス感染拡大はおさまらず、選手や関係者にも開催前から感染が確認されている。菅義偉首相は「安心で安全な大会」を行うと繰り返してきたが実現の保証はない。

また、森喜朗前組織委員会会長の性差別発言による辞任に加え、開会式では楽曲担当の小山田圭吾氏の学生時代の同級生への虐待による辞任、演出担当者の小林賢太郎氏が過去にホロコーストをやゆしたことで解任されるなど、『オリンピック憲章』に反する事例も直前に相次いでいる。

しかし、東京2020大会主催者の問題はこれに始まったことではない。

これまでRANは国内外のNGOとともに、東京2020組織委員会が作成した「持続可能性に配慮した調達コード」、とりわけ木材やパーム油の個別の調達基準の問題点について指摘してきた。例えば2018年以降、持続可能性の認証をもたないインドネシア産の転換材が有明アリーナと新国立競技場の建設に使用されたことがNGOの調査組織委員会の情報開示などで判明している。転換材とは森林を全面伐採する皆伐を伴うため、五輪の木材調達基準の項目に違反している。組織委員会は2019年1月に基準を改定して転換材の調達禁止を明記したが、改定前の基準でも「中長期的な計画にもとづき管理されている森林に由来する木材」という趣旨の記載があり転換材を禁止していたため、実質的な改定とはいえなかった。

そして、調達コードの不遵守に関する「通報受付窓口」についても改善が求められる。窓口への通報は煩雑で、組織委員会に一本化されず、上記事例を通報する際には東京都と日本スポーツ振興センター(JSC)といった各競技場の管轄先に通報する必要があった。三者共通の運用規定では、違反が疑わしい事例であれば対象案件としているが、RANらが絶滅危惧種のボルネオ・オランウータンの生息地からの転換材が両競技場で使われた可能性を通報したところ、東京都とJSCは不遵守が確定(伐採時にオランウータンが伐採地で確認されるなど)しなければ、通報の処理手続きを開始しない、という不当な解釈を行った。

東京2020大会主催者は『持続可能な大会』の実施を約束したが、開幕を迎えても持続可能性の取り組みに大きな進展は見られない。緊急事態宣言下での異例の開幕となり、ほとんどの会場は無観客で試合が開催される。メイン会場の新国立競技場からは熱気を帯びた歓声は聞こえない。静まり返る新国立競技場の土台建設で、犠牲になった熱帯林の責任は誰がどのように取るのか。

東京五輪開幕を受けて、RANは東京2020大会主催者に以下を求める:

  • ●厳格な新型コロナ対策に加え、持続可能性の取り組みについても重要課題として真摯に取り組むこと
  • ●不十分な調達基準と取り組みが原因で起きた熱帯林破壊、そして環境および社会への悪影響と調達基準の不遵守を認めること
  • ●パーム油、木材、紙分野での調達状況を情報開示するとともに、問題が指摘されている事例等を踏まえ、調達基準の不遵守リスクを評価し、高いリスク分野について、独立組織による検証や確認調査と、その報告を行うこと
  • ●調達の失敗と教訓を大会後の「持続可能性報告書」に記録し、公表すること

具体的には以下の点を指摘したい。

木材の調達について

  • ●合板以外の、会場や選手村などで使用された木材調達全体の情報を公開すること
  • ●事前調査でリスク評価を行い、環境、社会、ガバナンス面で問題のある企業をサプライチェーンから除外すること。例えば、韓国/インドネシア系複合企業コリンド社は、7月にFSC(森林管理協議会)から関係断絶が発表され、10月から認証を停止される。同社は、有明アリーナに非認証のインドネシア産合板を供給したことがNGOの調査で2018年に判明し、新国立競技場にも供給した可能性が高い。
  • ●木材調達の基準違反および失敗については以下を参照

「NGO共同声明:東京五輪は『見せかけのサステナビリティ』」(2020/3/30)
〜施設建設で東南アジアの熱帯林を破壊、調達の失敗から教訓を学び是正を〜
東京五輪および「持続可能性大会前報告書」公表延期を受けて

パーム油の調達について

  • ●会場や選手村、ライセンス商品などで使用されるパーム油全体の利用状況について情報を公開すること。現在の持続可能性の確認方法の問題点は以下の通りである。
    • ・持続可能性の担保方法としてISPO(インドネシア政府主導のパーム油認証)、MSPO(同マレーシア)、RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)の認証制度が認められているが、不十分な認証制度に依存している。
    • ・ISPO、MSPOの認証基準は、東京五輪の調達基準を満たしていない。
    • ・RSPOでは非認証油の混入が可能な「マスバランス方式」も活用可能なため、東京五輪の調達コードや調達基準を満たしていないパーム油が利用されるリスクを排除できていない。
    • ・RSPO認証では監査の不備により基準の確認が不十分な場合がある。
  • ●基準違反が疑われるような調達先からの利用がないか実態調査を行い、基準の遵守状況を確認すること。

通報制度について

  • ●通報窓口を一本化すること。そして調達状況の情報公開後に通報が行えるように、通報窓口の受付期限を延長すること。
  • ●通報の受付業務と事実確認、遵守判断は大会主催者や施設管轄機関ではなく、独立した機関が担当すること。その独立機関は、確認内容の必要に応じて専門性をもつものの意見に基づいて、公正で、適正な判断を行うこと
  • ●サプライヤーの情報のみに基づくのではなく、公平かつ客観的な判断をすること
  • ●通報は、実際に違反しているかどうかを検討するだけではなく、不遵守となるリスクの有無を評価して、不遵守を未然に回避するような予防的な措置をも検討するための確認作業が必要であること
  • ●通報プロセス自体が不適切な場合に、その不遵守についての苦情申し立てを通じた是正が行われる仕組みを導入すること

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org