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ブログ:シナルマス〜インドネシア森林火災 最大の責任者〜(2020/10/30)

みずほ、三菱UFJ、アスクル等とのつながり

「シナルマス・グループ」という企業の名前を聞いたことはあるだろうか? インドネシア最大の複合企業の一つで、創業者の故エカ・ウィジャヤ一家によって管理されている。

シナルマス・グループの最大のビジネスは紙パルプ事業(アジア・パルプ・アンド・ペーパー:APP)とパーム油事業(ゴールデン・アグリ・リソーシズ:GAR)で、両社はインドネシア最大の紙パルプ企業、パーム油生産企業である。APPとGARは5年以上前に持続可能性に関する方針を発表したが、同グループの事業にはESG(環境・社会・ガバナンス)に関するリスクが深く根付いている。

伐採され焼き払われて、植栽の準備が行われたシナルマス小会社の事業許可地
撮影:インドネシアNGO ジカラハリ、2020年7月3日

最新の分析で明らかになったのは、世界の大手消費財企業と銀行がシナルマス・グループと取引および多額の資金提供を継続し、インドネシアで毎年起こる森林火災と煙害(ヘイズ)を助長する役割を果たしていることだ。森林火災の原因を作り出している企業に資金提供し、森林が伐採された土地で生産された紙製品やパーム油などを購入することにより、銀行と消費財企業は火災に拍車をかけているのだ。

RANは、今年9月に英文ブリーフィングペーパー「シナルマス・グループ:インドネシア森林火災 最大の責任者」を発表し、グループへの資金提供と、グループからの調達におけるESGリスク事例、そしてグループおよびサプライヤーの事業許可地で意図的に森林が燃やされていることに対して懸念を表明した。

この度、和訳版発行にあたり、資料の要点と日本市場とのつながりを紹介する。

メガバンクを含む金融機関とのつながり

RANらが運営する「森林と金融」データベース(世界三大熱帯林地域に影響を及ぼす事業を行う企業への資金を明らかにするオンラインツール)を基にした分析によると、シナルマス・グループは、2015年から2020年第1四半期にかけて、200億米ドルの融資・引受を銀行から受けていた。143億ドルは紙パルプ事業、45億ドルはパーム油事業に提供され、インドネシアの森林破壊リスクのある産品に関わる企業への融資・引受額としては最大だった。

グループへの最大の資金提供者はインドネシアのバンク・ラヤット・インドネシア(BRI)バンクネガラインドネシア(BNI)である。両行は顧客企業に、炭素を多く含む泥炭地の開発や、農園開発における火の使用を禁止する方針を公表していない。

日本のメガバンクでは、みずほフィナンシャルグループ三菱UFJフィナンシャル・グループが森林セクターへの資金提供における環境・社会方針を2018年から採用しているが、下図の通り、近年でも同グループへの重要な資金提供者となっている。

表:シナルマス・グループの事業に資金を提供する上位10社(2015〜2020年4月)
単位:百万米ドル(「森林と金融」データベースより)

紙パルプ・パーム油:消費財企業、商社とのつながり

シナルマス・グループは、多くの世界大手消費財企業に紙製品を提供する主要サプライヤーである。日本市場とのかかわりも大きい。

紙パルプ

日本では、1997年に日本法人のエーピーピー・ジャパン株式会社を伊藤忠商事との合弁企業として設立。2016年4月に経済団体連合会(経団連)に入会し、2020年1月にAPP社の100%完全子会社に移行した。

APPがインドネシアで生産した紙は、伊藤忠や丸紅などの商社を介して日本に輸入され、アスクルやカウネット(コクヨ)、ジョインテックス(プラス)や量販店などでコピー用紙が販売されている。コピー用紙市場では約25%のシェアをもつ(2016年時点)。

2013年、APPはNGOのキャンペーンに押される形で、森林保護方針( FCP:Forest Conservation Policy)を採択した。方針で森林減少ゼロを約束し、火入れゼロ方針も打ち立て、土地紛争の解決も約束した。しかし、その約束はいまだ果たされず、泥炭地の未開発地域で未だに開発を拡大している。泥炭地は炭素を多く含むため燃えやすく、森林火災のリスクが非常に大きくなる。

国際環境NGOグリーンピースによる火災跡のデータ分析によると、APPの子会社、パートナー企業、サプライヤー企業による火災の総面積は25万ヘクタールを超えると推定されている(2015-2018年)。2020年6月28日、シナルマス・グループのパルプ材の子会社(アララ・アバディ社)の植林地で違法行為とつながりのある火災跡も見つかった(冒頭の写真を参照)。

パーム油

グループのパーム油部門のGARはグループの中核企業で、ユニリーバやネスレ、ペプシコといったグローバル食品大手企業にパーム油を供給している。一方で、自社農園での火災の事例も発覚している。2019年8月から9月、西カリマンタンとスマトラ島・ジャンビのアブラヤシ農園で火災が起こったことも衛星画像と分析で明らかになっている。

日本企業にもGARのパーム油は流れている。現地の搾油工場リストを公表している不二製油などの情報によると、GARのパーム油は日本企業に供給されていることは明らかだ。

2019年9月、RANの調査で、インドネシア政府が保護する泥炭地地域の「ラワ・シンキル野生生物保護区」(「ルーセル・エコシステム」内)で違法に生産されたパーム油をGARが調達していることがわかった。保護区内で違法栽培された実が、ある搾油工場に運び込まれ、その搾油工場からGARが調達していたのだ。同保護区内での違法栽培については今年3月に朝日新聞でも報道された

また、京都・舞鶴のパーム油発電事業にGARが事業主体として関わり、パーム油の調達が見込まれていた。しかしGARに代わって事業主体となった太陽光発電企業は同事業から撤退を決め、出資を得ることができず、事業は頓挫している

銀行と消費財企業ができること

シナルマス・グループは、森林火災と煙害だけでなく、土地の権利に関連する紛争、森林破壊ゼロに関しても公約を果たしていない状況が続いてる。様々な違反に対して、政府による効果的な制裁がない中、金融機関と消費財企業は同グループに対して働きかけ、影響力を及ぼす必要がある。

ブリーフィングペーパーでは、以下4点を銀行と消費財企業に提言している。

1)銀行と消費財企業は、シナルマス・グループへの新たな資金提供および取引を停止すること。また透明性を要求し、同グループの企業所有および管理の開示を要求すること

2)銀行と消費財企業は、シナルマス・グループを含むあらゆる顧客企業に、グループ全体で法令および方針の遵守を要求する明確な「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止(NDPE)方針」を採択と実施を要求すること

3)銀行は、シナルマス・グループ、そして同グループのパートナーおよびサプライヤーを含む顧客企業が事業許可地の泥炭地を保護し、復元するように要求すること。

4)銀行と消費財企業は、火災を一切許容しない立場を表明すること。顧客企業やサプライヤーが意図的に森林に火をつけたり、火災の防止を怠たったりした場合、新たな信用枠の提供や取引を停止し、取引関係や調達を段階的に廃止すること。

「シナルマス・グループ:インドネシア森林火災 最大の責任者」
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