サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

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プレスリリース:日清食品に新署名開始「問題あるパーム油はストップ Do It Now!」(2023/3/29)

熱帯林破壊、人権侵害、違法農園開発などへの早急な対応の意思表明を求めて〜2030年グローバル目標の大幅な前倒しを〜

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、3月21日、日清食品ホールディングスに、森林破壊や人権侵害、違法農園開発への早急な対応を求めて、「日清食品さん、2030年では遅すぎます。問題のあるパーム油は今すぐストップ!地球と未来のために、Do It Now!」署名を開始しました(注1)。

日清食品は2020年6月、2030年度までの「持続可能なパーム油調達比率100%」実現に向けてチャレンジするという目標を掲げました(注2)。署名活動や株主総会などを通じた働きかけを通じて、2021年6月に「国内即席めんの目標を2025年度とする」と改善されましたが、それ以外の調達での目標年は2030年度のままです。対応は遅く、高まる消費者の期待を裏切るものです。2023年3月時点で、同社はグループ全体の「RSPO (持続可能なパーム油のための円卓会議)」認証パーム油使用割合(2021年実績)を約36%と公表しています。しかし、日清食品が採用しているRSPOの「マスバランス」方式では認証農園で生産されたパーム油と、生産地の追跡ができない問題あるパーム油が混合され、森林破壊や人権侵害への対処は困難です。2022年に開示されたパーム油を調達する搾油工場リストの情報には、RANの調査で発覚した違法開発地域からのパーム油森林破壊を引き起こす企業からのパーム油が納入されていた搾油工場が含まれており、問題のあるパーム油への対応システムが不十分であることが判明しました。

本署名では、日清食品に目標年の前倒しと、自社サプライチェーン(供給網)から問題あるパーム油を排除するための実施計画策定および公表などを求めます。

【署名について】

本署名は署名サイト「change.org」で展開し、日清食品ホールディングス安藤宏基取締役社長 CEOとアメリカ日清 マイケル・プライス社長に以下4点を要望しています。

1. グループ全体で自社サプライチェーン(供給網)から問題あるパーム油を確実に排除するために、2030年から大幅に前倒した達成期限を持った拘束力のある実施計画を直ちに策定し、発表してください。

2. パーム油のサプライヤーを全て情報開示すること。

3. パーム油のサプライヤーが方針を遵守しているかをモニタリングし、独立検証できる新たな仕組みを構築することによって、方針実施状況を示すこと。

4. パーム油を含む全ての森林リスク産品を対象とするグループ全体の調達方針において、森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止(NDPE)方針がサプライヤーへの要求事項となることを明記する。

RAN 日本代表 川上豊幸は「2030年度という目標年は、経営陣の危機感の無さや問題対処への意思が希薄であることを露呈しているようです。日清食品が今後7年間も環境・社会面での配慮の確認が不十分なパーム油調達を続ければ、サプライチェーンで発生している気候危機や生物多様性の損失、労働権および土地権の深刻な人権侵害が今後も続き、対応を先送りすることになります。『食』を通じて楽しみや喜びを提供し、世界の人々(=地球)に貢献するEarth Food Createrを目指すグローバルカンパニーの目標とは思えず、多くの消費者の期待を裏切ってしまうのではないでしょうか」と指摘しました。

【背景:日清食品のパーム油調達における動き】

  • 日清食品は2020年8月にパーム油調達方針を改定し、「森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ」(NDPE:No Deforestation,No Peat,No Exploitation)の支持を表明しました注3)。改定方針には、責任あるパーム油生産に欠かせない国際基準である「NDPE」に沿った項目が含まれ、森林破壊や森林火災、そして炭素を豊富に含む泥炭地開発の禁止、また先住民族および地域住民の権利尊重と土地権侵害の禁止が明記されました。
  • 方針強化の背景には、高まる消費者の懸念があります。2019年、RANはインドネシアで現地調査を行い、日清食品を含む大手消費財企業が、スマトラ島の貴重な熱帯低地林「ルーセル・エコシステム」で熱帯林および泥炭地破壊を引き起こしている企業からパーム油を調達している可能性を明らかにしました(注4)。2022年、RANは再度、現地調査を行い、ルーセル・エコシステムの保護地域を違法に農園開発した地域からのパーム油が納入された搾油工場(注5)や、森林破壊を引き起こしている企業から調達している搾油工場(注6)が、日清食品を含む大手消費財企業のミルリスト(調達先搾油工場リスト)に含まれていることを示しました。
  • RANは2020年4月、「キープ・フォレスト・スタンティング」キャンペーン注7)を開始し、自社サプライチェーンでの森林破壊および人権侵害への対処において、国際的に影響力のある消費財企業として10社を挙げました。日清食品はその1社ですが、キャンペーン開始時にNDPE基準を採用していなかった唯一の消費財企業でした。日清食品のNDPE方針を支持するとの表明は大きな一歩ですが、高い保護価値(HCV)地域や高炭素貯留林(HCS)の転換禁止などの森林破壊禁止規定、泥炭地開発禁止、先住民族のFPIC(自由意思による、事前の、十分な情報に基づ同意)の権利などの項目は、日清食品グループ全体の調達方針には明記されていません。企業グループとしての調達方針強化と、方針達成に向けた実施計画の策定および野心的な達成目標年の公表が必須です。

注1)署名URL: https://chng.it/BScfG5rB

 英語版署名「NISSIN’S TOP RAMEN COMES DEAD LAST」

注2)日清食品ホールディングス「地球のために、未来のために。環境戦略『EARTH FOOD CHALLENGE 2030』始動!」(2020年6月9日)より抜粋

「森林破壊の防止、生物多様性の保全、および農園労働者の人権に配慮された持続可能なパーム油の調達を進めます。2020年3月現在、グループ全体における「RSPO (持続可能なパーム油のための円卓会議)」認証パーム油の調達比率は約20%です。2030年度には、RSPO認証パーム油の調達に加え、独自アセスメントにより持続可能であると判断できるパーム油のみを調達することを目指します」

注3)日清食品ホールディングス「持続可能な調達:持続可能なパーム油調達コミットメント」より抜粋:

日清食品グループは、NDPE (No Deforestation,No Peat,No Exploitation=森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ) を支持し、取引先等のステークホルダーの協力を得て、パーム原産地の環境と労働者の人権に配慮して生産されたことが確認できるパーム油を調達します。
 ・保全価値の高い (HCV: High Conservation Value) 地域および炭素貯蔵力の高い (HCS: High Carbon Stock) 森林の保護、森林破壊ゼロ
 ・深さに関わらない泥炭地の新たな開発禁止
 ・植栽や土地造成、その他開発のための火入れ禁止
 ・先住民族・地域住民の権利尊重・土地権侵害の禁止
 ・RSPO (持続可能なパーム油のための円卓会議) が定める「原則と基準」の遵守
 ・農園まで含めたトレーサビリティの確認

注4)RANプレスリリース「三菱UFJ、高リスクのパーム油企業へ資金提供 〜違法パーム油およびインドネシア泥炭林破壊とのつながりが明らかに〜」 (2019/10/18)

注5) RANプレスリリース「新調査報告書『炭素爆弾スキャンダル』発表〜日清食品など大手消費財企業、インドネシア違法パーム油との関連性が継続〜」(2022/9/22)

注6) RAN, Notorious Rainforest Destroyer Caught Taking Palm Oil To Global Market (2022/12/08)

注7)RANプレスリリース「2020新キャンペーン開始!「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」〜17社の消費財ブランド&銀行を対象〜 (2020/4/1)

団体紹介

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。 

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
川上豊幸  Email:japan@ran.org

タグ: パーム油, 日清, 東京五輪, 気候変動

プレスリリース:新報告書『ボルネオ島 最後の森林を守る:地域コミュニティ抵抗の事例』発表 (2023/2/15)

インドネシア、森林減少率低下するも熱帯林の危機は継続

  • ●ボルネオ島の熱帯林の多くは企業の事業管理地に残り、伐採や農園開発のリスクにある。「ロング・イスン」先住民族コミュニティの慣習林は伐採業者の管理地に重なることから10年以上も対立が続いている。
  • ●ロング・イスン村で操業する伐採業社は 、複合企業グループ「ハリタ・グループ」のコントロール下にある。同グループはP&G、モンデリーズ、日清食品など消費財企業の調達先である。
  • ●RANは消費財企業に対して、自社調達方針の実施を求めると同時に、ハリタ・グループに「森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE)方針を全事業で遵守させるよう求めている。


写真:先住民族「ロング・イスン」コミュニティの人々 ©️Khairul Abdi / RAN

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部サンフランシスコ、以下、RAN)は14日、新報告書「ボルネオ島 最後の森林を守る:地域コミュニティの闘い」を発表し(注1)インドネシアの森林減少率が過去数年で減少しているにもかかわらず、同国に残る重要な熱帯林の多くは依然として危機的状況にあると警鐘を鳴らしました。熱帯林の多くは企業のコンセッション(事業管理地)にあり、伐採や植林地および農園への転換のリスクに常にさらされています。本報告書は、地域および先住民族コミュニティによる森林保護・管理、そして産業開発への人々の抵抗がボルネオ島最後の熱帯林を守る最善の方法の一つであると結論づけています。

本報告書は「ハート・オブ・ボルネオ」として知られる北カリマンタン州と東カリマンタン州の重要な地域に焦点を当てています。先住民族コミュニティ「ロング・イスン村」の人々が、10年以上にわたって彼らの土地での伐採事業に抵抗し、土地権の法的承認を求めてきた力強い闘いを説明しています。また人々がこれまで直面してきた激しい脅迫や不当逮捕についても記載しています。

地図:ロング・イスン村は東カリマンタン州マハカムウル県(マハカム川上流)に位置する

ロング・イスンの村民で「ロング・イスン森林管理組織」の代表であるテクワン・アジャ(通称テクワン)は「私は、森や土地、水、そして尊厳を含め『生命の源』を守ろうとしたことで109日間も逮捕されました。その後、私は今も容疑者に指定され、警察への出頭が求められています」と訴えました。テクワンは地元警察に罪状もなく投獄され、犯罪者にされました。ロング・イスンの人々は、 これはコミュニティと対立する伐採企業が警察の力を借りて、コミュニティに力ずくで伐採事業を承認させようと仕組んだ方策だと考えています。

大手消費財企業の多くは重要な森林保護方針である「森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE、注2)を採用する一方で、ロング・イスンの事例に関わりがあります。プロクター&ギャンブルとモンデリーズなどの消費財企業は、有力な複合企業グループのハリタ・グループと取引を続けています。日本企業では日清食品がハリタグループのコントロール下にある搾油工場からパーム油を調達していることを開示しています(注3)。また伊藤忠建材の取引先にはハリタグループの合板工場も含まれます(注4)

ハリタ・グループはインドネシアのパーム油および木材部門で最も影響力のある企業グループの一つです。ロング・イスンの森林開発の権利を有する伐採企業の2社は、同グループのコントロール下にあります。ハリタ・グループがロング・イスン村の慣習権を侵害し、コミュニティ慣習地からの撤退を拒否したことから、国際的な紙・木材認証制度の一つである森林管理協議会(FSC)に正式な苦情が申し立てられました。その後2017年にFSC認証の基準に対する違反が確認されたとして、FSCはロング・イスンの土地紛争に関連してハリタグループ企業1社の認証を取り消しました(注5)。2023年2月には、別のハリタグループの木材企業の認証が一時停止となり(FSC要求事項への重大な不適合のため)、FSCはハリタグループとの上記苦情に対応するために行っていた調停手続きの停止を発表しました(注6)


写真:バレンタインデーに合わせて行われたモンデリーズ本社前でのアピール行動、米国シカゴ、2023年2月14日 ©️Juliste G / RAN

RAN 森林キャンペーン・ディレクターのダニエル・カリロは「地球規模で、私たちは止めることのできない気候危機の瀬戸際にいます。これ以上の森林破壊はさらなる瀬戸際へと追い込むだけです。一方で、コミュニティの人々は私たちみんなのために貴重な熱帯林を守ろうとし、高まる脅迫と報復に直面しています。このような状況には今すぐ歯止めをかける必要があります。多国籍消費財企業には、今の状況を変える力があります」と強調しました。

RANはプロクター&ギャンブル、モンデリーズ、日清食品、そして本事例と関わりのある消費財企業に自社の調達方針を実行し、調達先であるハリタ・グループに、ロング・イスンの慣習林と重なる地域での木材事業案を含め、グループの全事業でのNDPE方針遵守を求めるよう要請しています 。

「ハート・オブ・ボルネオ」地域は、ボルネオ島の熱帯林の大部分が集中する北カリマンタン州と東カリマンタン州にあります。両州の森林の3分の2近くが今も企業の事業管理地内にあることから、この地域への脅威は高まっています。インドネシアの首都移転計画も間近に迫り、熱帯林への脅威をさらに大きくしています。

ハリタグループは、上記の件に関する申し立てを否定しました。同グループの返答はこちらに掲載しています。
RAN.org/publications/long-isun/

 

注1)報告書「ボルネオ島 最後の森林を守る:地域コミュニティ抵抗の事例」
日本語版
英語版

ウェブサイト「ボルネオ島の消えゆく森を守る 〜先住民族「ロング・イスン」の闘い〜」

モンデリーズ社への署名(英語)

注2)パーム油や紙パルプなど森林破壊を引き起こす産品事業の生産・投融資に欠かせない国際基準。NDPEはNo Deforestation、No Peat、No Exploitationの略。

注3)日清食品「ミルリスト」(2021年版)2023年2月閲覧
https://www.nissin.com/jp/sustainability/environment/business/procurement/pdf/PalmOilMills_2021.pdf

注4)PT. Titra Mahakam Resources Tbk. “PT. Tirta Mahakam Resources Tbk. Financial Statements.” IDN Financials. September 2022.
https://idnfinancials.s3-ap-southeast-1.amazonaws.com/financial-statements/TIRT/2022/3Q_2022_TIRT_Tirta+Mahakam+Resources+Tbk.pdf

注5)参考:Forests People Programme. “FSC to investigate renewed complaints of human rights violations by Roda Mas Group”. Forests People Programme June 2020.
https://www.forestpeoples.org/en/timber-pulpwood-and-fsc/press-release/2020/fsc-investigate-renewed-complaints-human-rights

注6)FSCジャパン「FSCはHaritaグループとの調停の中止を決定しました」、2023年2月9日
https://jp.fsc.org/jp-ja/newsfeed/fsc-will-not-pursue-mediation-with-harita-group

 

参考

RAN「キープ・フォレスト・スタンディング〜森と森の民の人権を守ろう」キャンペーン関連

プレスリリース:新報告書「森林&人権方針ランキング2022」発表〜日清食品、三菱UFJは低評価 〜 (2022/6/15)
https://japan.ran.org/?p=2011

プレスリリース:新報告書「森林フットプリント評価 2021」発表〜インドネシア・ボルネオ島の森林と地域コミュニティへの影響について、大手消費財企業10社の開示状況を評価〜(2021/10/22)
https://japan.ran.org/?p=1919

 

※更新:「ボルネオ島 最後の森林を守る:地域コミュニティ抵抗の事例」日本語版を追加しました(2023年3月20日)。

 

団体紹介
レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。
https://japan.ran.org

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
コミュニケーション:関本  Email: yuki.sekimoto@ran.org

共同プレスリリース:パリ協定に整合する気候変動対策の強化を求める株主提案の議決権行使結果(2022/11/8)

特定非営利活動法人 気候ネットワーク
国際環境NGO 350.org Japan
国際環境NGO FoE Japan
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

2022年4月、国内外の環境NGOとその代表者を含む複数の個人株主が、金融、商社、電力の3業界の4社(三井住友フィナンシャルグループ、三菱商事、JERAの株主である東京電力ホールディングスと中部電力)に対して気候変動対策の強化を求める株主提案を提出しました。これらの提案は、6月後半の各社の株主総会にて否決されましたが、表2に示すように一定数の賛同を得ることができました。提案は主に、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)勧告の内容に沿って、ネットゼロ達成のための具体的な計画の設定・開示を求めるものでした。

今回の調査からは、1) 定款変更という形式への課題が残る一方で、気候変動対策の強化を求める株主提案への支持が国内外の投資家の間で広がっていること、2) パリ協定と整合する経営戦略の策定・開示を求める提案への支持がより集まった一方で、企業のビジネスモデルの根幹に影響をおよぼし得る株主提案への支持も一定程度集まったこと、3) 大手議決権行使助言会社の判断に関わらず、企業との建設的対話(エンゲージメント)を通じて独自の判断を下す投資家が増えてきていること、が見てとれました。

ここに各提案に対する議決権行使の調査結果を報告致します。 

 

株主提案に対する議決結果

4社の提案に対する機関投資家の議決権行使状況を公開情報から調査した結果、2022年10月31日までに把握できたそれぞれの提案に対する賛否(企業・団体の数)は表1のとおりです。(提案詳細は表2を参照)

*分裂とは、企業またはグループ会社の中で議決権行使の賛否が分かれているケース。合計とは、各提案に対して議決権行使を行った投資家の中で、今回の調査で結果が確認できた企業・団体の数の集計。

気候変動に関連する株主提案は世界でも増加しています。こうした提案に対し、長期的な気候変動リスクに適応する戦略の策定および開示は企業価値の向上に資するとする賛成の意見がある一方、中長期的な企業価値に対する気候変動リスクは重要だが定款に入れ込むのは対象企業の業務執行に具体的な制約を加える懸念があるといった反対意見も見受けられました。

日本の会社法の下で株主からの提案を議題に載せるには、定款変更を求めるものに縛られている状況を踏まえると「定款への記載が妥当ではない」ことが判断理由とされてしまう点は課題です。一方で議決権行使結果を見ると、気候変動問題の重要性に対する理解は着実に広がっていることが見てとれます。

 

議案に対する賛成率

議案に対する賛成率からは、パリ協定と整合する経営戦略の策定・開示を求める提案(SMBCグループ議案4・三菱商事議案5)に対して、投資家からの賛成が得やすい傾向が見られます。とはいえ、企業の事業戦略(ビジネスモデル)の根本にも影響し得るネットゼロに向けた移行を求める株主提案にも10~20%程度の支持が得られていることは注目に値します。議決権の2/3以上の賛成を得られていない以上、法的拘束力はありませんが、企業としても無視できない数の機関投資家が気候変動対策の強化を求めていることを示唆しています。

大手助言会社や国内外の運用受託機関の判断

今年は、投資家の議決権判断に一定の影響力を有すると言われている、議決権行使助言会社大手のグラスルイス(Glass Lewis)とインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)の判断も大きく分かれました。

SMBCグループの議案4、三菱商事の議案5、6については、助言会社の意見が割れていたにも関わらず、株主から一定の賛同を得られたのは、2050年ネットゼロという明確な目標に向け、気候変動対策に関する方針に対して独自の判断を下す機関投資家が増えてきていることや、機関投資家が議決権行使前に企業とサステナビリティ(持続可能性)に関する建設的な対話(エンゲージメント)をする機会が増えていることが背景にあると思われます。

2020年にみずほフィナンシャルグループに株主提案を出した時点では、国内の機関投資家が助言会社以外の国外の機関投資家の動向に追随する動きは限定的でした。2020年に日本版スチュワードシップ・コードが改訂されて以降、日本の機関投資家にとっても「気候変動対策と経営戦略」のつながりについての認識が変化してきているように見受けられます。

定款変更に記載する内容として適切かという議論は残るものの、気候変動問題の重要性や、中長期的な計画が企業価値に影響をおよぼすとの認識への理解は広がってきています。その傾向は、国外の主な機関投資家の提案に対する議決権行使結果を見るとより明らかです。

国内投資家に比べると国外投資家は賛成票が多くなっています。一方で、エネルギー危機の中で脱炭素の機運が弱まりかねない状況下において、すべての提案に一括して「反対」した国外の大手資産運用会社があったことは懸念されます。

 

今後に向けて

国内外の機関投資家の多くは、2050年ネットゼロを目指す資産運用会社の国際的な枠組みである「ネット・ゼロ・アセット・マネージャーズ・イニシアティブ(NZAMI)」に署名しています。NZAMIのコミットメントを達成できるかどうかは投資先企業の行動に大きく依存するため、機関投資家は投資先企業に対し脱炭素化に向けた取り組みの強化・加速化を促していく必要があります。

企業側は、TCFDレポートを作成して情報開示を進めたり、2050年に向けた長期目標を設定し、独自の気候変動対策計画を公開するなど、一定の取り組みは進めていますが、株主提案の対象となったいずれの企業も2050年の目標達成に向けた具体的な計画を示すには至らず、対策は不十分なままです。各社は、株主提案への議決権行使結果も踏まえ、脱炭素目標に向けて現実的かつ具体的な行動を盛り込んだ計画を示し、行動を加速させていくことが強く求められています。

 

集計結果

株主提案への議決権行使結果(PDF)

 

関連情報

【プレスリリース】国内外の環境NGOが国内4企業に株主提案(2022年4月13日)

【共同プレスリリース】三菱商事への株主提案は否決:三菱商事は情報開示と気候変動対策の強化を(2022年6月24日)

【共同プレスリリース】 株主総会にて東電・中電とも否決、ただし東電は約9.55%(速報値)獲得(2022年6月28日)

【共同プレスリリース】投資家たちが日本企業に迅速な気候変動対策を要求(2022年6月29日)

本件の連絡先

気候ネットワーク   https://www.kikonet.org
東京事務所:TEL:+81-3-3263-9210
担当:鈴木康子 E-mail: suzuki[@]kikonet.org

プレスリリース『森林と金融 2022年方針評価』発表〜メガバンクら金融機関の森林ESG方針は不十分〜(2022/10/19)

森林破壊・気候変動・人権侵害への資金流入を防げず

  • 森林破壊リスクのある産品企業に投融資する上位 200金融機関(銀行と投資機関)の森林関連方針を評価。総じて方針は弱く全体平均は10点満点で1.6ポイント、約6割の金融機関が1ポイント未満だった。
  • 上記産品企業300社への資金の流れも分析。その結果、パリ協定以降、世界の銀行は2,670億米ドルの融資・引受を行ない、投資機関は400億米ドルの債権や株式を保有していることがわかった(2022年9月時点)。
  • メガバンクの方針評価はMUFGが5.4ポイント、みずほは6.9ポイントと高評価を得るも、問題の多いインドネシアの紙パルプ大手2グループに多額の資金を提供している。

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部サンフランシスコ、以下、RAN)を含む8団体で構成する「森林と金融」連合は18日、「森林と金融」データベースを更新し、「2022年方針評価」を発表しました(注1)。新たに世界大手200金融機関(銀行と投資機関)の森林関連方針を評価・分析した結果、全体平均は10点満点のうち1.6ポイントと総じて低評価で、農林業その他土地利用(AFOLU)セクターに投融資を行う金融機関には十分な環境・社会・ガバナンス(ESG)方針がないことが浮き彫りになりました。

また、更新したデータを分析した結果、パーム油や紙パルプなど森林をリスクにさらす産品(以下、森林リスク産品)への多額の金融サービスを金融機関が行っていることも明らかになりました。 パリ協定締結以降の2016年から2022年9月、森林リスク産品企業300社に2,670億米ドルの融資・ 引受が行われ、新型コロナウイルスの世界的流行時には減少したものの2021年には2018年の水準に戻りました(図1)。農林業その他土地利用セクターは世界の温室効果ガス排出量の23%を占めているにもかかわらず(注2)、不十分な方針のもとで森林リスク産品への資金流入に歯止めがかかっていないことを問題視しました。

評価対象の金融機関には日本のメガバンク3行、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も含まれます。メガバンクが高評価を得た一方、GPIFは0.7ポイントと平均以下でした。

  1位 ノルウェー政府年金基金(7.5ポイント)
  2位 ラボバンク(7.4ポイント)
  3位 ABNアムロ(7.2ポイント)
  4位 みずほフィナンシャルグループ(6.9ポイント)
16位 三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)(5.4ポイント)
31位 三井住友フィナンシャルグループ(4.0ポイント)

*他の日本の金融機関は、41位 JAグループ(3.1)、42位 三井住友トラスト・グループ(3.1)、52位 大和証券グループ(2.2)、57位 野村グループ(2.1)、95位 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)(0.7)など(注3)。

【概要】

『森林と金融』は、東南アジア、ラテンアメリカ、中央・西アフリカにおける紙パルプやパーム油など森林リスク産品への資金流入を包括的に分析したオンラインデータベース。金融商品、銀行・投資機関、国・地域、企業グループ、年、部門別に検索が可能です。

今回の方針評価の対象となった金融機関は、紙パルプやパーム油など森林リスク産品企業に投融資する上位200銀行及び投資機関で、銀行には日本のメガバンク3行、投資機関には年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が含まれます。

  • ●対象事業地域:世界三大熱帯林地域である東南アジア、ラテンアメリカ(アマゾン)、中央・西アフリカ(コンゴ盆地)
  • ●対象産品:牛肉、パーム油、紙パルプ、天然ゴム、大豆、木材(森林リスク産品)
  • ●対象期間:融資・引受は2016年から2022年9月、債券・株式保有は2022年9月時点
  • ●評価方法:各金融機関の森林関連方針を環境・社会・ガバナンス(ESG)の3分野35項目の基準で評価。方法論の詳細(注4)

【主な分析結果】

  • ●方針評価
    全体の平均得点は10点満点中1.6ポイントと総じて低評価でした。全金融機関の59 %が1ポイント未満で、ESGリスクの管理と緩和ができていないことを表しています。また7ポイント以上の評価を得たのはわずか3金融機関で、改善の余地が大きく、気候変動や生物多様性の損失に対処しなければならない緊急性を反映しているとは言えません。
  • ●金融サービス
    対象金融機関の金融サービスの合計を調査・分析。その結果、森林リスク産品企業300社への融資・引受額はパリ協定締結以降の2016年から2022年9月で2,670億米ドル、株式・債券の保有額は2022年9月時点で400億米ドルであることがわかりました。
  • ●日本の金融機関の評価
    みずほとMUFGの方針評価がそれぞれ6.9ポイント、5.4 ポイントと高評価ながらも、インドネシアの紙パルプ大手企業2社のAPP社(シナルマス・グループ)とエイプリル社(ロイヤル・ゴールデン・イーグル・グループ)に多額の資金を提供しています。
    GPIFの評価は昨年に続き0.7ポイントと低く、PRI(責任投資原則)に署名している一方で、ブラジル牛肉大手企業への1,900万米ドルの投資が確認できました。

【ケーススタディ】

ブリーフィングペーパーでは森林破壊の要因となるセクターとして、インドネシアの紙パルプ産業とアマゾンの牛肉産業への金融の役割について事例紹介しています。両産業に金融サービスを提供する金融機関の方針について、環境・社会基準6項目(森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、火災禁止、強制労働・児童労働禁止、先住民族及び地域コミ ュニティの「自由意思による事前の十分な情報に基づく同意(FPIC)」の尊重)で評価したところ、方針は非常に弱く、火災の原因となる環境悪化の防止、先住民族や地域コミュニティの権利保護、強制労働及び児童労働による搾取禁止の措置はほとんど講じられていないことが判明しました。上記6項目は、森林保護の国際基準となっている「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE: No Deforestation, No Peat, No Exploitation)が方針に採用されているかが鍵となります。

RAN日本代表 川上豊幸のコメント

「メガバンクにとっての大きな課題は、3行ともに投融資先企業に対してNDPE方針遵守の公表、あるいはNDPEに準ずる方針作成を求めていますが、企業グループ全体での遵守を明確には求めていない点です。つまり、投融資先企業にNDPE方針の遵守状況の確認を十分に行う体制が整っていません。そして遵守確認は事業ごとに判断され、投融資先企業全体や企業グループ全体での遵守評価が行われてもいません。そもそも、MUFGはNDPE遵守の公表をパーム油の農園企業や他の大規模農園には求めていますが、紙パルプ部門を含む森林セクター方針に含まれていない点も問題です。

 加えて、メガバンクの森林セクター方針では、取得すべき森林認証として、FSC認証よりも脆弱なPEFC認証が認められています。そのため、FSC認証を取得することができない問題企業にも資金提供が可能となっていることから、早急な方針改善が必要です」

 

「森林と金融」連合は、森林リスク産品セクター特有の社会・環境面での負の影響を止めるために、銀行と投資機関に強固なESG基準とデュー・デリジェンス (相当の注意による 適正評価)の必要性を訴えています。

 

参考:インドネシア紙パルプ大手とブラジル牛肉大手への銀行別融資・引受額と方針得点

(「森林と金融 2022年方針評価」ブリーフィングペーパーより)

  • ●MUFGとみずほは、APP社(シナルマス・グループ)とエイプリル社(RGEグループ)の大きな債権者である。APPとエイプリルは自社パルプ工場の生産能力拡大を計画し、インドネシアの泥炭地と熱帯林への負荷の高まりが懸念されている(注5)。
  • ●みずほは紙パルプ部門で火災・人権基準を盛り込んだ融資・引受方針を設けているものの、2016年から2022年9月に12億ドルもの融資・引受を行なっている。これはインドネシア4行とHSBCに次いで6番目に多い金額であり、同行の方針の実施状況が疑問視される。

  • ●ブラジル牛肉部門はアマゾンでの森林破壊の要因となっている。GPIFが投資しているブラジル牛肉大手3社は、10年以上前に署名した森林破壊ゼロの約束を実行できず、いまだにサプライチェーンに森林破壊がないことを保証できていない。 

注1)「森林と金融」データベース(英語日本語
銀行方針評価まとめ(英語、「総合得点(Weighted Total)」で「降順/昇順」を選択)
「森林と金融 2022年方針評価」ブリーフィングペーパー(2022年10月発行)
「森林と金融」構成団体:レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)、プロフンド(Profundo)、TuKインドネシア、バンクトラック、アマゾンウォッチ、レポーターブラジル、サハバット・アラム・マレーシア(国際環境NGO FoE Malaysia)、FoE US

注2)IPCC 『土地関係特別報告書』(英語)
参考:環境省「IPCC 『土地関係特別報告書』の 概要」、2020年度

注3)GPIF以外の、60位以下の日本の金融機関
日本生命保険(62位、1.9ポイント)、オリックス・コーポレーション(71位、1.5)、群馬銀行(81位、1.0)、地方公務員共済組合連合会(132位、0.2)、公立学校共済組合(0ポイント)

注4)方針評価の方法論:200の大手銀行・投資機関の公開されている方針を環境・社会・ガバナンス(ESG)の3分野35項目の基準で採点・分析。各金融機関が基準項目に明確に取り組み、対象企業とサプライヤーに基準を適用していれば10点、サプライヤーに基準が適用されていないなど部分的遵守は8.5点とした。そして35項目の合計得点を0から10ポイントに標準化した。また産品別でも採点され、各金融機関の投融資額の合計に各産品事業が占める割合を算出し、加重平均の上、合計した数字を総合得点とした。

評価基準35項目の概要:

  • ●環境分野(10項目):森林破壊禁止、泥炭地開発禁止など
  • ●社会分野(10項目):先住民族や地域コミュニティの権利尊重(自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)原則の実施)など
  • ●ガバナンス分野(15項目):投融資の透明性、汚職規制、情報開示など

注5)参考:RANブログ「MUFGとみずほが「ネットゼロ」不履行、 インドネシア紙パルプ大手の事業拡大に資金提供」、2022年1月31日

 

団体紹介
レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
東京都渋谷区千駄ヶ谷1-13-11-4F
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

プレスリリース:新調査報告書『炭素爆弾スキャンダル』発表 〜日清食品など大手消費財企業、インドネシア違法パーム油との関連性が継続〜 (2022/9/22)

スマトラ島「ルーセル・エコシステム」の野生生物保護区で追加調査

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は19日(現地時間)、ニューヨーク市で開催中の「気候週間」に合わせ、新報告書『炭素爆弾スキャンダル:パーム油で気候危機を起こす消費財企業』(注1)を発表しました。インドネシアでの現地調査などの結果をまとめ、大手消費財企業は森林保護方針があるにもかかわらず、保護区内の泥炭林を破壊して違法栽培されたパーム油との関連性が依然として続いていることを明らかにしました。

写真:違法アブラヤシ農園のために破壊された泥炭林、インドネシア アチェ州、2018年撮影

RANは今年5月、2019年に続いて(注2)インドネシアのスマトラ島で現地調査を行い、国の保護区である「ラワ・シンキル野生生物保護区」の泥炭地でパーム油が新たに違法生産されている実態を突き止めました。本報告書では2件の違法農園に焦点を当てて追跡調査を行い、大手消費財企業10社のサプライチェーン調査も実施しました。

その結果、日清食品、プロクター&ギャンブル(P&G)、ネスレ、ユニリーバなどの調達先が、同保護区内からの違法パーム油を購入していたことが判明しました。また、花王は違法パーム油の調達を継続している企業と取引を続けていることも分かりました。以上の結果から、問題のあるパーム油がグローバルサプライチェーンに依然として流入している現状が明らかになりました。同保護区は世界的に貴重な熱帯低地林「ルーセル ・エコシステム」の南部に位置します。

【調査概要】

■調査時期:2022年5月

■調査地域:インドネシア・スマトラ島の「ルーセル・エコシステム」内、国の保護区「ラワ・シンキル野生生物保護区」および周辺

■調査方法:現地調査、衛星画像分析(違法農園および森林・泥炭林減少の確認)、サプライチェーン追跡調査(アブラヤシ農園から搾油工場を追跡。製油企業・消費財企業の調達先リストを分析)

■調査対象消費財企業10社:日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース(注3)

■事例概要

事例1)南アチェ州の実業家 Mr. Mahmudin氏が管理する違法農園(写真)

●違法農園で収穫されたアブラヤシ果房が仲介業者を通して、同保護区近くにあるパーム油搾油工場2社、PT. Runding Putra Persada (PT. RPP)とPT. Global Sawit Semesta(PT. GSS)に購入された領収書を記録。

●消費財企業7社(コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、ネスレ、ペプシコ、P&G、ユニリーバ)の調達先搾油工場一覧に、上記2工場の記載が確認された。

●PT. GSSは、2019年の調査でも違法パーム油の購入が確認されている。しかし花王の合弁会社かつ調達先であるパーム油企業であるアピカル(ロイヤル・ゴールデン・イーグル・グループ)は、同工場との取引を継続している(注4)

事例2)アチェ州の女性実業家 Ibu Nasti氏が管理する違法農園(11ヘクタール、東京ドーム2.3個分。以下の地図を参照)

●収穫されたアブラヤシ果房が仲介業者を通して、同保護区近くにあるパーム油搾油工場のPT. Bangun Sempurna Lestari(PT. BSL)に購入された領収書を記録。

●消費財企業6社(日清食品、P&G、モンデリーズ、ネスレ、ペプシコ、ユニリーバの調達先搾油工場一覧(注5)に、PT. BSLの記載が確認された。

●PT. BSLで搾油されたパーム原油は、北スマトラ州ベラワン港に製油所を持つパーム油大手ムシムマス社に直接供給された。同社は米国、ヨーロッパ、日本、中国など世界中にパーム油を輸出している。

不二製油の搾油工場一覧には事例1と2で問題となっている搾油工場3社が記載されていることから、違法パーム油を調達しているといえる。

図:Ibu Nasti氏の農園地図。違法に森林が伐採・排水された農園(●)が保護区内(紫網掛け)に位置していることがわかる。収穫されたアブラヤシ果房は集積場所(水色●)に運ばれ、その後、搾油工場へ供給される

 

RAN日本代表の川上豊幸は「ルーセル・エコシステムは泥炭地を含む熱帯低地林で、いわば大きな炭素の貯蔵庫です。また、絶滅危惧種のスマトラオランウータンとスマトラゾウを絶滅から救う最後の砦でもあります。ラワ・シンキル野生生物保護区をパーム油のために破壊し、違法なアブラヤシ生産を見過ごすことは『炭素爆弾』に火をつけるようなものです」と警鐘を鳴らしました。事例2で、違法パーム油との関連が指摘された日清食品のウェブサイトには以下の点が明記されています(注6)

・「国内の油脂メーカーの調達先である一次精製工場やその先の搾油工場で、現地の法律に違反した行為が行われていないことを油脂メーカーとともに確認しています」

・「持続可能であると判断できるパーム油調達の比率を2030年度までにグループ全体で100%」にする

川上は「今回の調査で、日清食品が調達する搾油工場の一つに違法なパーム油が調達されていたことが判明しました。日清食品はこれを機に、農園までのトレーサビリティ確認、サプライヤーの厳格なリスク評価やモニタリング、『森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止(NDPE)方針』の遵守について、直ちに尽力する必要があります」と強調しました。RANは、気候変動と生物多様性保護は喫緊の課題であることから、同社に持続可能なパーム油調達100%の目標の前倒しを求め、オンライン署名「日清さん、2030年まで、問題あるパーム油を使い続けないで!」を2020年から実施しています(注7)

本報告書は、ニューヨーク市で開催中の「気候週間」と、22日開催のコンシューマーグッズフォーラム(CGF)会合に合わせて発表されました。『炭素爆弾スキャンダル』という題名は、炭素を多く含む泥炭林が伐採および排水されると長期にわたって膨大な量の二酸化炭素を排出することから「炭素爆弾」という呼び名があることに因んでいます。上記消費財企業はCGF会員企業であり、森林破壊禁止や、森林を回復軌道に乗せるための「フォレストポジティブ」を公約していますが、問題のあるパーム油との関係を断ち切れていません。RANは消費財企業に対して、問題企業との取引停止を強く求めています(注8)

 

「ルーセル・エコシステム」、「シンキル・ベンクン地帯」について

シンキル・ベンクン地帯は、ルーセル・エコシステムの南部に位置する、生物多様性の世界的なホットスポットです。地中深くに炭素を豊富に含む泥炭地であることから、貴重で効果的かつ自然の炭素吸収源として世界でも重要な場所です。一帯にはラワ・シンキル野生生物保護区、シンキル泥炭地、クルット泥炭地、そして近接する熱帯低地林が含まれます。この地帯は絶滅危惧種のスマトラゾウ、サイ、トラの重要な生息地であり、世界で最も優先して保全されるべき場所の一つです。一帯はオランウータンの生息密度が世界で最も高く「オランウータンの首都」とも呼ばれてきました。泥炭林は一度伐採され、排水されると、泥炭土壌は「炭素爆弾」となり、何年にもわたって膨大な量の二酸化炭素を排出します(注9)。そのため、本報告書で示されている泥炭地の破壊は、生態系、そして気候変動においても重大なリスクです。

参考「ルーセル・エコシステムをまもる

*詳細は報告書(英語)をご参照ください。また、高解像度写真、ドローン映像、現地調査およびサプライチェーン調査による証拠をご要望の際はご連絡ください。

 

注1)RAN報告書(英語)『炭素爆弾スキャンダル:パーム油で気候危機を引き起こす消費財企業』(Carbon Bomb Scandals: Big Brands Driving Clomate Disaster for Palm Oil)
https://www.ran.org/wp-content/uploads/2022/09/Rainforest-Action-Network-Leuser-Report-FINAL-WEB.pdf

注2)RANプレスリリース「三菱UFJ、高リスクのパーム油企業へ資金提供 〜違法パーム油およびインドネシア泥炭林破壊とのつながりが明らかに〜」、 2019年10月18日
https://japan.ran.org/?p=1522

注3)消費財企業10社は、RANが2020年4月から展開する「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」キャンペーンの対象企業である。熱帯林破壊と人権侵害を助長している最も影響力のある消費財企業・銀行17社に行動を起こすよう要求している。
https://japan.ran.org/?p=2011

注4)花王の搾油工場一覧(ミルリスト、2022年9月22日最終閲覧)、各社の一覧は報告書で確認のこと。

2021年版(報告書で使用)
https://www.kao.com/content/dam/sites/kao/www-kao-com/jp/ja/corporate/sustainability/pdf/progress-2020-001.pdf

2022年上半期
https://www.kao.com/content/dam/sites/kao/www-kao-com/jp/ja/corporate/sustainability/pdf/progress-2022-001.pdf

注5)日清食品の搾油工場一覧(2022年9月22日最終閲覧)、同上。
https://www.nissin.com/jp/sustainability/environment/business/procurement/pdf/PalmOilMills_2021.pdf

注6)日清食品「持続可能な調達」
https://www.nissin.com/jp/sustainability/environment/business/procurement/

注7)RANプレスリリース:日清食品に新署名開始「2030年まで、問題あるパーム油を使い続けないで!」(2020/11/13)
https://japan.ran.org/?p=1730

注8)RANは、今回の報告書で違法パーム油との関連性が確認された消費財企業10社に対し、透明性があり検証可能な森林および泥炭地のモニタリングシステム、パーム油サプライチェーンにおけるトレーサビリティ管理システム、そして「森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE:No Deforestation, No Peatland and No Exploitation)遵守システムが確立されるまでは問題ある供給業者からの調達を即時停止することを求めている。

注9)熱帯泥炭林が地面に貯蔵している炭素は 1ヘクタール当たり約2600 炭素トン(t-C)である。2015年のインドネシアでの大規模泥炭地火災は、米国経済全体の合計よりも多くの二酸化炭素を大気中に放出したが、その火災の理由は主にアブラヤシ農園の開発とパルプ材植林地である。シンキル・ベンクン地帯のシンキルとクルットの泥炭地で火災が発生した場合、同地域の二酸化炭素の排出量だけで、インドネシアの年間総排出量の最大で7%に相当すると推定されている。そうした場合、パリ協定の約束を果たす同国の実行力を損なう可能性がある。

※出典:RAN「The Last of the Leuser Lowlands」(2019年)、「森林と金融調査レポート:投資家には責任がある」(2017年)
http://www.ran.org/wp-content/uploads/2019/09/Leuser_Watch_Singkil-Bengkung_2019.pdf

http://japan.ran.org/wp-content/uploads/2017/06/RAN_Every_Investor_Has_A_Responsibility_June_2017_JP.pdf

 

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

共同プレスリリース:市民団体、国連の支持するTNFD提案のリスクを指摘(2022/8/3)

〜自然に対する企業グリーンウォッシュの新境地になると懸念〜

 

13の市民団体は、8月3日、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の取り組みは自然に対する企業のグリーンウォッシュを助長しかねないと警鐘を鳴らしました。TNFDは市場主導の自主的なイニシアチブですが、国際社会の多様な関係者から支持されています。自然および生物多様性の危機とそれを進める数兆ドルもの投融資に社会的関心が高まる中、TNFDは、姉妹イニシアチブであるTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)と同様に、政府規制当局が描く青写真的な役割を果たすことになります。今年5月、28のNGOとネットワークはTNFDにNGO共同書簡を出し、TNFDが公表した情報開示フレームワーク草稿の初回版について大きな懸念を指摘しました。

共同書簡を出したNGO

 

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)アドバイザーであるショナ・ホークスは「私たちは、ビジネス界の利害関係者によって全面的にコントロールされたプロセスで実施されるものについては常々懐疑的でした。それにしても最新版であるTNFDフレームワーク草稿の第二版はあまりにもひどく、愕然としました」と述べました。

TNFDはグローバル企業の幹部34名が中心となって、2021年に発足しました。TNFD は、企業や金融機関が自然との関係と影響について(将来も含め)自己開示すべき情報をまとめたフレームワークの構築を進めています。これには、短期、中期、長期の変化に対する準備も含まれると考えられます。TNFDは、数兆ドルもの資金が自然危機を引き起こしている企業やプロジェクトを支えている事実について国際社会の認識が高まった時期に発足しました。TNFDは、フレームワークの草稿の初回版を今年3月に、そして第2版を6月に公表しました。第3版と第4版は11月と2023年2月、そして最終的な提言が同年9月に公表される予定です。

TNFDの現在のフレームワークで懸念される主な内容は、以下の通りです。

TNFDは、企業や金融機関に対し、自然や人に対して既に明らかになっている被害や悪影響を報告することを求めていませんTNFDが求めているのは、財務上の重要なリスクや機会(この場合は自然との関係から発生する可能性のあるリスクや機会)について報告することのみで、これ自体主観的なものです。倫理的な企業は、自然に対するすべての害はビジネスにとって悪いことと考えるかもしれませんが、環境破壊によって利益を得ている企業はそうではありません。もし、ある企業が環境破壊につながると知りながら、それが金銭的な弊害をもたらすと考えなければ、その環境破壊が報告されることはありません。これがグリーンウォッシュの重要な赤信号であり、ダブル・マテリアリティ報告(財務的マテリアリティと環境・社会マテリアリティ)を支持する欧州証券市場機構(ESMA)やグローバル・レポーティング・イニシアティブ取り組みと整合するようには見えません。また、TNFDは、第1版について、その影響と、そして人権に関する報告を組み込むべきだというフィードバックが寄せられたことも言及していますが、いずれも除外しています。

TNFDは、人権(女性、先住民族、地域コミュニティ、農民、そして自然を守るために、多くの場合大きな危険を冒して企業に立ち向かっている人々の権利を含む)を無視しています。TNFDは、国連開発計画から何十万ドルもの資金援助を受けているにもかかわらず、しばしば自然危機の背景にある人権侵害を無視しつつ自然危機を解決できるという考えを標準的なものとしています。

TNFDは、コミュニティ、NGO、メディアが調査した結果、自然や人に対する被害に企業が関係しているという申し立てがあっても、グリーバンスリスト(苦情処理対応の進捗一覧)の公表や、同様の情報開示措置を企業に求めていません。苦情や抗議は、企業の主張に実践が伴っているかどうかを確認するための最も重要な手段の一つです。

TNFDは、一連のガイドラインを拙速に作成する計画です。TNFDのガイドラインは、セクター、金融関係者、領域(海洋、淡水、陸上、大気)、およびその他に考えられる分野の推奨事項について概説するものです。TNFDが、その幅広い活動において、健全なマルチステークホルダー・プロセスによって設定される期待を反映せず、むしろハードルを大きく下げて自らに都合の良いアプローチを選択することはこれまでにも多々ありました。ガイドラインが貧弱であれば、環境・人権に関する既存の多くの国内・国際基準よりもハードルが低く設定される可能性が高くなります。そうなれば、TNFDは長年の前進と学んだ教訓を台無しにすることになります。ガイドライン作成のプロセスには、幅広いコンサルテーションと、提案されているよりも厳密なアセスメントが必要です。

各団体からのコメント

エディ・ストリスノ氏 TuK (トゥック)インドネシア事務局長
「TNFD案を見ると、それでうまくいくのかという疑問がまず湧いてきます。長年、企業や金融機関による被害事例を追跡調査してきた結果に基づくと、その答えは『ノー』です。環境破壊が報告すらされず、現地の人々の権利が尊重されなければ、旧態依然としたビジネスが続くことになるでしょう」

キャサリン・ルー氏 FoE US シニア・プログラム・マネージャー
「グローバル企業は、TNFDが将来の規制の青写真を描く可能性があることを知りながらTNFDのルールを作っています。しかし、こうしたグローバル企業や金融機関は、規制の緩い方が利益をあげることができるのです。これまでのところ、TNFDには、自然や人間が生き残って繁栄できるように金融システムを変えようという野心が恥ずべきほどど欠如しています。それどころか、生物多様性の危機を増大させる青写真になっています」

ハンナ・グリープ氏 バンクトラック  Banks & Natureキャンペーン・リード
「現在のTNFDは、企業や金融機関に大きなグリーンウォッシュの可能性を提供しています。気候変動や生物多様性の危機への対処で必要とされる、緊急かつ有意義な行動を遅らせる可能性があります」

クワミ・コポンドゾ氏 グローバル・フォレスト連合 採掘産業・観光・インフラキャンペーン・コーディネーター
「TNFDの提案は酷いどころではなく、自然破壊や人権侵害を助長し、そこから利益を得ている数兆ドルの投融資をどう転換するかという幅広い議論を乗っ取ることになっています。企業による虐待行為や自然破壊による被害者が求めている解決策とは遠くかけ離れています」

メリッサ・ブルースカイ氏 Center for International Environmental Law(国際環境法センター、CIEL)上級弁護士
「TNFDの議論には、土地、森林、水を守るためのたたかいへの報復がいかに暴力的で、残忍かつ破壊的で、また往々にして命にかかわるものであるかという視点が欠けています。自然保護や権利擁護の必要性についての発言を封じ込めるために、平均して毎週4人が殺害されています。多くの投資家や銀行は、こうした被害との関連について繰り返し警告を受けながら、被害防止策をほとんど講じてきませんでした。こうした残虐な行為に歯止めをかけるため、TNFDの報告には、過去、現在、そして将来に起こりうる自然や人権への被害を盛り込む必要があります」

モイラ・バース氏 アマゾン・ウォッチ 気候変動・財務担当ディレクター
「TNFDの提案するフレームワークでは、企業は利益に影響が出ない限り、自然破壊と人権侵害を支援し続けることができてしまいます。しかし、リスク分析でコミュニティや環境に対する長期的・短期的な被害の考慮を企業に求めないということは、深刻な環境破壊と人権侵害、そして生物多様性と気候危機悪化の土台作りをしていることに他なりません」

オスプレイ・オリエラ・レイク氏 Women’s Earth and Climate Action Network (WECAN)事務局長
「国連機関がマルチステークホルダー・イニシアチブではないTNFDを支持し、資金を提供していることに懸念をもっています。TNFDは企業によって作られた、『ビジネス・アズ・ユージュアル』(従来どおり)な、企業のためのものです。人権や先住民族の権利、ジェンダー分析、気候変動と生物多様性の危機の前線にいる人々の平等な立場については言及されていません。また、説明責任や、影響を受けるコミュニティや生態系への被害や苦情を申し立てるための苦情処理メカニズムついても論じられていません。大胆かつ変革的な真の解決策が緊急に必要とされています。今や私たちは破滅的な事態にあり、人と自然よりも利益を優先する取り組みをこれ以上続けることはできません」

 

賛同団体

アマゾン・ウォッチ(Amazon Watch)

バンクトラック(BankTrack)

国際環境法センター(Center for International Environmental Law)

フォレスト・ピープルズ・プログラム(Forest Peoples Programme:FPP)

「森林と金融」連合(Forests & Finance Coalition)

FoE US(Friends of the Earth US)

グローバル・フォレスト連合(Global Forest Coalition:GFC)

グローバル・ウィットネス(Global Witness)

ジュビリー・オーストラリア・リサーチセンター(Jubilee Australia Research Centre)

プロフンド(Profundo)

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

TuKインドネシア(TuK Indonesia)

女性による地球・気候行動ネットワーク(Women’s Earth and Climate Action Network :WECAN)

(英語プレスリリース Civil Society Groups Say UN-Backed TNFD Proposal Risks Opening A New Frontier For Corporate Greenwashing On Nature 。和訳版は2022年9月13日投稿)

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。
https://japan.ran.org