【7月8日追記】東京2020組織委員会より7月7日付けで、通報した日清食品製品は東京五輪ライセンス商品ではないため、通報受付の処理を開始しない旨の回答がありました。当団体の事前確認が不十分だったため、事実と異なる情報を発信したことをお詫びいたします。
環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、6月24日、日清食品の東京五輪ライセンス商品におけるパーム油調達が東京五輪「持続可能性に配慮した調達コード」に違反する疑いがあるとして、東京2020組織委員会に通報を行いました。
破壊されたシンキル泥炭林、インドネシア・アチェ州
通報の対象(注1 )は、日清食品ホールディングスが販売している「日清 東京2020オリンピック応援デザイン 黄金鶏油トリオ」3商品です(注2 )。東京五輪「持続可能性に配慮した調達コード」(注3 ) と「持続可能性に配慮したパーム油を推進するための調達基準」(注4 )(以下、調達コード)では、法令遵守、環境保全、先住民族等の権利尊重の基準を満たした形での生産を求めているため、RANが報告書を発表したインドネシアでの調査事例を元に、調達コードに違反するパーム油が同社の五輪ライセンス製品に含まれていた可能性を指摘しています。
【通報の概要】
通報者: レインフォレスト・アクション・ネットワーク
被通報者: 日清食品ホールディングス
通報先: 東京2020組織委員会
内容: 日清食品が調達しているパーム油における調達コード違反の可能性について、同社のサプライヤー企業(不二製油)のパーム油調達先(搾油工場や農園)で起きている環境・社会問題を指摘。
詳細: 不二製油の公開している搾油工場リスト(注5 )および苦情処理リスト(注6 )には、環境・社会面での諸問題が判明している搾油工場・農園企業が含まれています。東京五輪のパーム油調達コードでは、法令遵守、環境保全、先住民族等の権利尊重の基準を満たした形での生産を求めているため、調達コードに違反するパーム油が日清食品の東京五輪のライセンス製品に含まれていた可能性があります。
インドネシアの搾油工場・農園企業の主な事例: スマトラ島北部にある「ルーセル・エコシステム」内のシンキル・ベンクン地帯では、以下の調査事例がRANの報告書で明らかになっています。保護区の近隣にある搾油工場では、農園企業の生産状況について十分な確認が行われていなく、下記のような問題を抱えるパーム油が調達されていました。
1) 「ラワ・シンキル野生生物保護区」内での違法農園開発(注7 ) 2) 生態系を保全せず、また泥炭地や天然林を含む環境上重要な地域の適切な保全をせずに熱帯林破壊を行なっている農園企業からの調達(注8 ) 3) 農園企業による地域住民の土地権侵害(注9 )、など。
通報の背景・日清食品とのやりとり: RANは昨年、日清食品との会合において、上記のような問題のある調達先がサプライヤーに含まれているかどうかを問い合わせたところ、「取引業者との契約があるので、問題のある搾油工場からの調達の有無については回答できない」という返答でした。しかしサプライヤーに含まれないのであれば、そのような契約に基づく制約はないと考えられます。「日清食品の調達先に含まれていない」との明確な返答ではなかったため疑念を持ち、今回の通報に至りました。
通報の目的: 現在の日清食品の調達方針(注10 )と取り組みでは(注11 )、東京五輪の調達コードに合致していないパーム油が利用されるリスクを排除できず、今後も問題のあるパーム油が利用される可能性があります(注12 )。今回の通報によって、日清食品の不十分な調達方針とサプライチェーン管理を改善するとともに、五輪調達の持続可能性に配慮した基準の担保方法として不適切な認証システム(RSPO「持続可能なパーム油のための円卓会議」マスバランス)に依存している状況を示すことができます。さらに長期的な視点では、東京五輪のレガシーとして、パーム油調達実態の改善を促したいと考えています。
*報道関係の皆様:通報文書の閲覧をご希望の場合はご連絡ください。
注1)東京2020組織委員会「『持続可能性に配慮した調達コード』に係る 通報受付窓口 業務運用基準」 ※対象案件は「本通報受付窓口は、東京 2020 組織委員会の調達する物品・サービス及びライセンス商品 (以下「調達物品等」といいます。)に関する案件であって、調達コードの不遵守に関する通報(調達コードの不遵守又はその疑いを生じ得る事実をその内容とするもの ) について取り扱うことができるものとします」と定義されています。(太字はRANで強調)
注2)日清食品ホールディングス「日清 東京2020オリンピック応援デザイン 黄金鶏油トリオ」(2月3日発売)」 、2020年1月17日
注3)東京2020組織委員会「持続可能性に配慮した調達コード」
注4)東京2020組織委員会「持続可能性に配慮したパーム油を推進するための調達基準」
①生産された国または地域における農園の開発・管理に関する法令等に照らして手続きが適切になされていること。
②農園の開発・管理において、生態系が保全され、また、泥炭地や天然林を含む環境上重要な地域が適切に保全されていること。
③農園の開発・管理において、先住民族等の土地に関する権利が尊重され、事前の 情報提供に基づく、自由意思による合意形成が図られていること。
④農園の開発・管理や搾油工場の運営において、児童労働や強制労働がなく、農園 労働者の適切な労働環境が確保されていること。
注5)不二製油の搾油工場リスト (2020年5月19日、英語)
注6)不二製油の苦情処理リスト (2020年5月25日更新、英語)
参考:不二製油「責任あるパーム油調達に関する取組み状況について」 2019年12月25日
注7)RANプレスリリース「三菱UFJ、高リスクのパーム油企業へ資金提供 〜違法パーム油およびインドネシア泥炭林破壊とのつながりが明らかに〜炭素を豊富に含む『ルーセル・エコシステム』のシンキル保護区で違法栽培」 (2019年10月18日)
注8)RAN, “Major Brands Again Caught Sourcing Deforestation-Linked Palm Oil” (2019年10月29日、英語)
注9)RAN, “Community Struggles for Land Rights and Livelihoods in Singkil-Bengkung region” (2019年11月25日)
他の事例とRAN報告(英語)へのリンクは以下の通り ●調達している搾油工場は不明だが、残された天然林の皆伐を継続している企業がパーム油原料のアブラヤシの実の出荷を開始した。日本にも供給される可能性がある。https://www.ran.org/leuser-watch/chainsaws-enter-indonesias-orangutan-capital/
●絶滅危惧種(スマトラゾウ)の生息地の皆伐と違法な火入れや森林破壊を続けている農園企業の事例。 https://www.ran.org/leuser-watch/elephant-habitat-under-fresh-attack/
●泥炭地での絶滅危惧種(オランウータン)の生息地への違法な火入れを行ったことで罰金支払い判決がでている農園企業の事例。https://www.ran.org/leuser-watch/will-nestle-and-mars-intervene-to-protect-indonesias-peatlands/
注10)日清食品「持続可能な調達」
注11)日清食品「地球のために、未来のために。環境戦略「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」始動!」
注12)RANプレスリリース「日清食品株主総会で森林・人権保護方針強化を求めてアピール『問題あるパーム油を使わないで』〜持続可能パーム油100%、2030年では遅すぎる〜」 (2020/6/25)
団体紹介 レインフォレスト・アクションネットワーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境・森林保護で最前線に立つ人々とのパートナーシップと戦略的キャンペーンを通じて、環境保護と先住民族や地域住民の権利擁護活動をさまざまな角度から行っています。
本件に関するお問い合わせ先 レインフォレスト・アクション・ネットワーク 広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org