サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

‘オリンピック’カテゴリーの記事一覧

プレスリリース:日清食品に新署名開始「2030年まで、問題あるパーム油を使い続けないで!」(2020/11/13)

「持続可能なパーム油100%」2030年目標の前倒しを求め〜熱帯林および生態系保護、人権尊重など、パーム油調達方針強化を〜

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日13日、日清食品ホールディングスにパーム油調達方針のさらなる強化を求めて、「日清食品さん、2030年まで問題のあるパーム油を使い続けないで!〜地球と未来のために今すぐ『チャレンジ』を〜」署名を開始しました(注1)。

日清食品は今年6月、2030年度までの「持続可能なパーム油調達比率100%」実現に向けてチャレンジするという目標を掲げました注2)。しかし2030年度の達成では熱帯林保護、生態系保護、人権尊重における対応は遅く、高まる消費者の期待に応えることができていません。本署名では、日清食品に目標年の前倒しと、自社サプライチェーン(供給網)から問題あるパーム油を排除するための実施計画策定および公表などを求めます。

【署名について】
本署名は署名サイト「change.org」で展開し、日清食品ホールディングス安藤宏基取締役社長 CEOとアメリカ日清 マイケル・プライス社長に以下3点を要望しています。

 1.「持続可能なパーム油100%」達成を2030年から大幅に前倒しし、自社サプライチェーン(供給網)から問題あるパーム油を確実に排除するために、拘束力があり、達成期限を定めた実施計画を直ちに策定し、発表すること

 2.パーム油供給業者の全リストを公開して、「持続可能なパーム油の調達へのコミットメント」を実施し、進捗を公表すること

 3.パーム油供給企業が方針を遵守しているかモニタリングし、独立検証できる新たな仕組みを構築して、上記コミットメントを実施し、進捗を公表すること

RAN 日本代表部 川上豊幸は「国連の持続可能な開発目標(SDGs)では、2020年までに森林減少を阻止することを掲げています。日清食品の目標はSDGsにも合致していません。日清食品が今後10年間も環境・社会面での配慮の確認が不十分なパーム油調達を続ければ、サプライチェーンで発生している気候危機や生物多様性の損失、人権や労働権、および土地権の深刻な侵害が今後も続き、対応を先送りすることになります。問題の喫緊性を考えると、2030年度までの『持続可能なパーム油調達比率100%』目標では遅すぎます」と批判しました。

【背景:日清食品のパーム油調達における動き】

日清食品は2020年8月にパーム油調達方針を改定し、「森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ」(NDPE:No Deforestation、No Peat、No Exploitation)の支持を表明しました注3)。改定方針には、責任あるパーム油生産に欠かせない国際基準である「NDPE」に沿った項目が含まれ、森林破壊や森林火災、そして炭素を豊富に含む泥炭地開発の禁止、また先住民族および地域住民の権利尊重と土地権侵害の禁止が明記されました。

方針強化の背景には、高まる消費者の懸念があります。2019年、RANはインドネシアで現地調査を行い、日清食品を含む大手消費財企業が、スマトラ島の貴重な熱帯低地林「ルーセル・エコシステム」で熱帯林および泥炭地破壊を引き起こしている企業からパーム油を調達している可能性を明らかにしました(注4)。

RANは同年8月、日清食品に対して、問題あるパーム油を調達しないよう方針強化を求めて「日清食品さん、森林破壊フリーの東京五輪に! 〜問題あるパーム油を使わないで〜」署名を実施し、今年10月には約3万人の署名を同社に提出しました注5)。また、RANの呼びかけに応えて日清食品ウェブサイトの問い合わせフォームに環境や生態系への懸念や意見を寄せた消費者もいました。

日清食品は「持続可能性」を追求する東京2020五輪・パラリンピックの「オフィシャルパートナー」(スポンサー)であることからも、環境面・社会面におけるパーム油調達方針の強化が求められます。パーム油は同社の看板商品である『カップヌードル』の揚げ油として利用されていますが、アブラヤシ農園開発による熱帯林破壊や、生産国での人権侵害など多くの問題が指摘されています。

2020年3月時点で、同社はグループ全体の「RSPO (持続可能なパーム油のための円卓会議)」認証パーム油調達比率を約20%と公表しています。しかし、日清食品が採用しているRSPOの「マスバランス」方式では認証農園で生産されたパーム油と、生産地の追跡ができない問題あるパーム油が混合され、森林破壊や人権侵害との関与への対処が困難です。

●RANは今年4月、「キープ・フォレスト・スタンティング」キャンペーン注6)を開始し、自社サプライチェーンでの森林破壊および人権侵害への対処において重要な役割を果たす必要があり、国際的に影響力のある消費財企業として10社を挙げました。日清食品はその1社ですが、キャンペーン開始時にNDPE基準を採用していなかった唯一の消費財企業でした。日清食品のNDPE基準採用は大きな一歩ですが、さらなる方針強化と目標達成のためには、目標の前倒しと実施計画の策定および公表が必須です。

注1)署名URL: http://chng.it/fPL9gLxkV6
英語版署名「NISSIN: CLEAN UP YOUR CUP NOODLES」

注2)日清食品ホールディングス「地球のために、未来のために。環境戦略『EARTH FOOD CHALLENGE 2030』始動!」(2020年6月9日)より抜粋

「森林破壊の防止、生物多様性の保全、および農園労働者の人権に配慮された持続可能なパーム油の調達を進めます。2020年3月現在、グループ全体における「RSPO (持続可能なパーム油のための円卓会議)」認証パーム油の調達比率は約20%です。2030年度には、RSPO認証パーム油の調達に加え、独自アセスメントにより持続可能であると判断できるパーム油のみを調達することを目指します」

注3)日清食品ホールディングス「持続可能な調達:持続可能なパーム油調達コミットメント」より抜粋:

日清食品グループは、NDPE (No Deforestation、No Peat、No Exploitation=森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ) を支持し、取引先等のステークホルダーの協力を得て、パーム原産地の環境と労働者の人権に配慮して生産されたことが確認できるパーム油を調達します。
 ・保全価値の高い (HCV: High Conservation Value) 地域および炭素貯蔵力の高い (HCS: High Carbon Stock) 森林の保護、森林破壊ゼロ
 ・深さに関わらない泥炭地の新たな開発禁止
 ・植栽や土地造成、その他開発のための火入れ禁止
 ・先住民族・地域住民の権利尊重・土地権侵害の禁止
 ・RSPO (持続可能なパーム油のための円卓会議) が定める「原則と基準」の遵守
 ・農園まで含めたトレーサビリティの確認

注4)RANプレスリリース「三菱UFJ、高リスクのパーム油企業へ資金提供 〜違法パーム油およびインドネシア泥炭林破壊とのつながりが明らかに〜」 (2019/10/18)

注5)RAN「日清食品さん、森林破壊フリーの東京五輪に! 〜 問題あるパーム油を使わないで〜」署名 (2019年8月21日から2020年10月5日実施)

注6)RANプレスリリース「2020新キャンペーン開始!「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」〜17社の消費財ブランド&銀行を対象〜 (2020/4/1)

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。 

本件に関するお問い合わせ先
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

ブログ:熱帯林破壊の五輪木材供給企業に汚職疑惑(20209/8)

〜インドネシアコリンド・グループ〜

日本代表 川上豊幸
(本ブログはサステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」に8月27日に寄稿したものです)

2020年夏、東京。新型コロナウイルスの感染拡大がなければオリンピックが華々しく開幕し、アスリートたちは世界中から声援を受けて金メダルを競い合っているはずでした。しかし五輪開幕は1年延期され、新国立競技場は静まりかえっています。

写真:人影もまばらな新国立競技場 2020年8月

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)ら環境NGOはこれまで、東京五輪施設での東南アジアの熱帯材使用を問題視してきました。NGOによる調査と、東京2020組織委員会の情報開示の結果、新国立競技場や有明アリーナなどほぼ全ての新施設建設で、熱帯林を伐採して生産されたインドネシアとマレーシア企業の合板が使用されていることが明らかになりました。これらの合板はコンクリートを成形するための型枠として使われ、何度か再利用されますが、基本的に使い捨てです。

そしていま新たな問題として、そのインドネシア産合板を五輪に供給したコリンド社が汚職に関与したという疑惑が浮上しています。コリンド・グループはインドネシア/韓国系複合企業で、木材、パーム油、紙パルプなどの事業を展開しています。同社についてはこれまで熱帯林での違法伐採に加え、樹木を全て伐採して生態系をも破壊する森林皆伐や、農園開発のための火入れが指摘されてきました。

コリンド・グループの汚職疑惑

今年6月25日、海外メディアのアルジャジーラは、コリンド社がインドネシアの熱帯林を木材伐採とアブラヤシ農園開発を目的に買い占めた際、「疑わしい取引に関わった」と報道しました。コリンドの複数の子会社は、西パプア全土で約4万ヘクタールの広大な熱帯林を伐採しました。西パプアにはアジア最大の熱帯林が残され、多くの先住民族コミュニティが暮らし、固有の生物多様性を誇ります。

パプア・アグロ・インベストメンツ(PAI)という、同社のシンガポールのペーパーカンパニーの2013年から2015年の財務諸表によると、「農園の権利取得に関する専門家」へ約2,200万ドルのコンサルタント料が支払われていました。 アルジャジーラが汚職防止専門家10人に2,200万ドルの支払いについて意見を求めたところ、インドネシアでは農園開発許可には当局への費用はかからないため、全員が贈収賄への警告を促しました。

また、コリンド・グループは国際的な認証制度を運営する森林管理協議会(FSC)の認証取得企業ですが、同協会が委託した2018年の調査では、同社が「非常に不備のある土地取得と補償プロセスを通じて(西パプア)族の人権を侵害している」ことが判明しました。 西パプア族が「コリンド社との取引で3億ドルを失い、同社は彼らを救済する取り組みには500万ドルも費やさなかった」ことが調査で明らかになったのです。

しかし、コリンド社は上記の不正行為についての申し立てを全て否定しています。

東京五輪 木材調達の失敗

東京五輪の会場建設現場でコリンド社製木材が最初に見つかったのは、2018年5月、有明アリーナ(バレーボール会場)でした。同社の木材は新国立競技場でも使われたことが後に確認され、合計で11万7800枚ものインドネシア製コンクリート型枠合板が新国立競技場だけで使われました。これは、国立競技場の屋根や庇(ひさし)などの建設で使われた国産木材の約3倍以上と推計されます(注)。両会場とも、熱帯林をパーム油生産などの農園に開発するために伐採した「転換材」を使用し、絶滅危惧種であるボルネオオランウータンの生息地から調達していたことが確認されています。

しかし東京2020大会主催者は、コリンド社から供給された木材の使用量をこれまで明らかにしていません。RANは同社の木材使用が東京五輪の木材調達基準に違反しているとして、五輪主催者(組織委員会、有明アリーナを管轄する東京都、新国立競技場を管轄する日本スポーツ振興センター)に通報しましたが、非常識な基準の解釈や、不当な運用手続の解釈のために、6件全てが通報案件としての手続きが開始されず、当該木材の原産地も一部しか開示されていません。

東京五輪で使われた木材自体が、汚職疑惑のある西パプア州での同社事業から調達されたという確証はありませんが、西パプアでの汚職疑惑と、東京五輪に木材を供給したコリンド子会社(バリクパパン・フォレストインダストリーズ、(BFI、インドネシア・カリマンタン州)の合板工場との間には明らかなつながりがあります。

RANらNGOがコリンド社の不透明な所有権構造について調査したところ、同グループ副会長のスン・ロバート氏が複雑な循環出資(系列企業が順繰りに株式を持つ韓国企業の独特な資本構造)を通じてBFIの98%以上を間接的に所有していることが明らかになったのです。 同氏はコリンド・グループのスン・ウンホ会長の息子で、上記の2,200万ドルのコンサルタント料を支払ったPAI社の取締役でもあります。

コリンド・グループのコーポレートガバナンスにおける問題は贈収賄だけではありません。 2013年に韓国の国税庁がスン・ウンホ会長個人の事業を調査したところ、「スン・ウンホ氏は、62社のペーパーカンパニーを英領ヴァージン諸島、香港、パナマ、セイシェル、シンガポールなどに保有し、それらの企業は循環出資を通じてコリンド社のインドネシアにおける資産を共同で所有していた」(前述のアルジャジーラらによる調査報道からの引用)ことが明らかになりました。 2018年、裁判所は、複雑かつ多層的な所有権構造と名義株主を用いたことが脱税目的のようにみえるという理由で、同氏に約9千万ドルの罰金を支払うよう命じました。裁判で明らかになったように、すべてのペーパーカンパニーがスン・ウンホ氏個人の利益のために管理されていました。この裁判はいまも継続しています。

五輪調達基準、腐敗行為も禁止を明記

東京五輪の「持続可能性に配慮したな調達コード」は、環境社会面や合法性の基準だけではなく、腐敗防止について「サプライヤー等は、調達物品等の製造・流通等において、贈収賄等の腐敗行為に関わってはならない」と述べています。従って、五輪主催者は、コリンド材を調達したことにより、この基準を違反したかを調査し、違反している場合は、コリンド社をサプライヤー対象から外すといった措置を講じるべきでしょう。

また、コリンド・グループと強いつながりをもつ企業は、同社との取引を見直すべきです。 例えば、同社と紙パルプの合弁会社をもつ王子製紙、2017年まで同社に資金を提供してきた三井住友フィナンシャルグループ、そして東京五輪 の施設建設にコリンド材を供給した住友林業が挙げられます。

さらに広い意味で考えると、日本企業はインドネシアの森林セクターにおける腐敗リスクの蔓延を認識し、取引先企業のESG(環境、社会、企業統治)課題における実績評価を企業グループ全体で行う必要があります。 東京五輪はこうしたESG課題への対応を怠ったことで、今後長きにわたって悪い評判がつきまとう「高いツケ」を払うことになるでしょう。

来年の五輪開幕までにすべきこと

東京五輪主催者は安価な合板の確保を優先した可能性があり、コリンド社の問題にしっかりと目を向けませんでした。また、利用した木材への調達基準の不遵守を指摘したRANの通報に対しても、基準や手続きの非常識な解釈や判断によって責任回避を行っていることは、五輪調達における深刻な問題点です。

五輪開催まで1年間の猶予があることを踏まえ、東京五輪主催者は木材調達におけるデューデリジェンスの不備を自覚し、問題企業と取引をしたことで日本および世界の国々に悪しき前例を作ってしまったことを認識し、木材に限らず他の調達も含めた再発防止策等を策定する必要があります。

注)NGO共同声明「東京五輪は「見せかけのサステナビリティ」(2020年3月30日)参照

※参考
アルジャジーラ・101イーストの動画「同意なき西パプアの熱帯林売却」(英語)
https://www.aljazeera.com/programmes/101east/2020/06/200625081849050.html

アルジャジーラのインタラクティブサイト「5ドルの森林」(英語)
https://interactive.aljazeera.com/aje/2020/five-dollar-forests/index.html

Geckoプロジェクト、 韓国の調査報道機関「ニュース打破(タパ)」、アルジャジーラ、モンガベイによるコリンド・グループについての調査報道(英語)
https://news.mongabay.com/2020/06/the-consultant-why-did-a-palm-oil-conglomerate-pay-22m-to-an-unnamed-expert-in-papua/

FSC「コリンドグループがFSC認証を維持するために必要な改善措置を定めました」、2019年11月7日
https://jp.fsc.org/jp-jp/news/id/621

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

プレスリリース:日清食品を東京五輪調達コード違反で通報〜ライセンス商品のパーム油について〜 (2020/7/1)

【7月8日追記】東京2020組織委員会より7月7日付けで、通報した日清食品製品は東京五輪ライセンス商品ではないため、通報受付の処理を開始しない旨の回答がありました。当団体の事前確認が不十分だったため、事実と異なる情報を発信したことをお詫びいたします。

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、6月24日、日清食品の東京五輪ライセンス商品におけるパーム油調達が東京五輪「持続可能性に配慮した調達コード」に違反する疑いがあるとして、東京2020組織委員会に通報を行いました。

破壊されたシンキル泥炭林、インドネシア・アチェ州

通報の対象(注1)は、日清食品ホールディングスが販売している「日清 東京2020オリンピック応援デザイン 黄金鶏油トリオ」3商品です(注2)。東京五輪「持続可能性に配慮した調達コード」(注3) と「持続可能性に配慮したパーム油を推進するための調達基準」(注4)(以下、調達コード)では、法令遵守、環境保全、先住民族等の権利尊重の基準を満たした形での生産を求めているため、RANが報告書を発表したインドネシアでの調査事例を元に、調達コードに違反するパーム油が同社の五輪ライセンス製品に含まれていた可能性を指摘しています。

【通報の概要】

通報者:レインフォレスト・アクション・ネットワーク

被通報者:日清食品ホールディングス

通報先:東京2020組織委員会

内容:日清食品が調達しているパーム油における調達コード違反の可能性について、同社のサプライヤー企業(不二製油)のパーム油調達先(搾油工場や農園)で起きている環境・社会問題を指摘。

詳細:
不二製油の公開している搾油工場リスト(注5)および苦情処理リスト(注6)には、環境・社会面での諸問題が判明している搾油工場・農園企業が含まれています。東京五輪のパーム油調達コードでは、法令遵守、環境保全、先住民族等の権利尊重の基準を満たした形での生産を求めているため、調達コードに違反するパーム油が日清食品の東京五輪のライセンス製品に含まれていた可能性があります。

インドネシアの搾油工場・農園企業の主な事例:
スマトラ島北部にある「ルーセル・エコシステム」内のシンキル・ベンクン地帯では、以下の調査事例がRANの報告書で明らかになっています。保護区の近隣にある搾油工場では、農園企業の生産状況について十分な確認が行われていなく、下記のような問題を抱えるパーム油が調達されていました。

1) 「ラワ・シンキル野生生物保護区」内での違法農園開発(注7
2) 生態系を保全せず、また泥炭地や天然林を含む環境上重要な地域の適切な保全をせずに熱帯林破壊を行なっている農園企業からの調達(注8
3) 農園企業による地域住民の土地権侵害(注9)、など。

通報の背景・日清食品とのやりとり:
RANは昨年、日清食品との会合において、上記のような問題のある調達先がサプライヤーに含まれているかどうかを問い合わせたところ、「取引業者との契約があるので、問題のある搾油工場からの調達の有無については回答できない」という返答でした。しかしサプライヤーに含まれないのであれば、そのような契約に基づく制約はないと考えられます。「日清食品の調達先に含まれていない」との明確な返答ではなかったため疑念を持ち、今回の通報に至りました。

通報の目的:
現在の日清食品の調達方針(注10)と取り組みでは(注11)、東京五輪の調達コードに合致していないパーム油が利用されるリスクを排除できず、今後も問題のあるパーム油が利用される可能性があります(注12)。今回の通報によって、日清食品の不十分な調達方針とサプライチェーン管理を改善するとともに、五輪調達の持続可能性に配慮した基準の担保方法として不適切な認証システム(RSPO「持続可能なパーム油のための円卓会議」マスバランス)に依存している状況を示すことができます。さらに長期的な視点では、東京五輪のレガシーとして、パーム油調達実態の改善を促したいと考えています。

*報道関係の皆様:通報文書の閲覧をご希望の場合はご連絡ください。

注1)東京2020組織委員会「『持続可能性に配慮した調達コード』に係る 通報受付窓口 業務運用基準」
※対象案件は「本通報受付窓口は、東京 2020 組織委員会の調達する物品・サービス及びライセンス商品(以下「調達物品等」といいます。)に関する案件であって、調達コードの不遵守に関する通報(調達コードの不遵守又はその疑いを生じ得る事実をその内容とするもの) について取り扱うことができるものとします」と定義されています。(太字はRANで強調)

注2)日清食品ホールディングス「日清 東京2020オリンピック応援デザイン 黄金鶏油トリオ」(2月3日発売)」、2020年1月17日

注3)東京2020組織委員会「持続可能性に配慮した調達コード」

注4)東京2020組織委員会「持続可能性に配慮したパーム油を推進するための調達基準」

①生産された国または地域における農園の開発・管理に関する法令等に照らして手続きが適切になされていること。

②農園の開発・管理において、生態系が保全され、また、泥炭地や天然林を含む環境上重要な地域が適切に保全されていること。

③農園の開発・管理において、先住民族等の土地に関する権利が尊重され、事前の 情報提供に基づく、自由意思による合意形成が図られていること。

④農園の開発・管理や搾油工場の運営において、児童労働や強制労働がなく、農園 労働者の適切な労働環境が確保されていること。

注5)不二製油の搾油工場リスト(2020年5月19日、英語)

注6)不二製油の苦情処理リスト(2020年5月25日更新、英語)

参考:不二製油「責任あるパーム油調達に関する取組み状況について」2019年12月25日

注7)RANプレスリリース「三菱UFJ、高リスクのパーム油企業へ資金提供 〜違法パーム油およびインドネシア泥炭林破壊とのつながりが明らかに〜炭素を豊富に含む『ルーセル・エコシステム』のシンキル保護区で違法栽培」 (2019年10月18日)

注8)RAN, “Major Brands Again Caught Sourcing Deforestation-Linked Palm Oil” (2019年10月29日、英語)

注9)RAN, “Community Struggles for Land Rights and Livelihoods in Singkil-Bengkung region” (2019年11月25日)

他の事例とRAN報告(英語)へのリンクは以下の通り
●調達している搾油工場は不明だが、残された天然林の皆伐を継続している企業がパーム油原料のアブラヤシの実の出荷を開始した。日本にも供給される可能性がある。
https://www.ran.org/leuser-watch/chainsaws-enter-indonesias-orangutan-capital/

●絶滅危惧種(スマトラゾウ)の生息地の皆伐と違法な火入れや森林破壊を続けている農園企業の事例。
https://www.ran.org/leuser-watch/elephant-habitat-under-fresh-attack/ 

●泥炭地での絶滅危惧種(オランウータン)の生息地への違法な火入れを行ったことで罰金支払い判決がでている農園企業の事例。https://www.ran.org/leuser-watch/will-nestle-and-mars-intervene-to-protect-indonesias-peatlands/

注10)日清食品「持続可能な調達」

注11)日清食品「地球のために、未来のために。環境戦略「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」始動!」

注12)RANプレスリリース「日清食品株主総会で森林・人権保護方針強化を求めてアピール『問題あるパーム油を使わないで』〜持続可能パーム油100%、2030年では遅すぎる〜」 (2020/6/25)

団体紹介
レインフォレスト・アクションネットワーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境・森林保護で最前線に立つ人々とのパートナーシップと戦略的キャンペーンを通じて、環境保護と先住民族や地域住民の権利擁護活動をさまざまな角度から行っています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

プレスリリース:日清食品株主総会で森林・人権保護方針強化を求めてアピール「問題あるパーム油を使わないで」 (2020/6/25)

〜持続可能パーム油100%、2030年では遅すぎる〜

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日25日、日清食品ホールディングスの第72期定時株主総会に参加し、株主に向けて、パーム油調達の方針強化を同社に求めるよう会場前でアピールしました。また、同社新環境戦略で示されたパーム油調達目標「2030年度に持続可能パーム油100%達成」は遅すぎると指摘し、総会では「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止方針」(NDPE方針)を正式な調達方針として採用することを求めましたが、曖昧な回答しか得られませんでした。

RANと「ウータン・森と生活を考える会」のスタッフとボランティアは、オランウータンの着ぐるみとともに、会場のホテルニューオータニ大阪前で「日清食品さん、森林破壊フリーの東京五輪に 」と書かれたバナーを掲げ、同社が「持続可能性」を追求する東京2020大会のスポンサーでもあることから、環境面・社会面でのパーム油調達方針の強化を求めました。RANはこれまで同社に、消費財企業の国際基準となっているNDPE方針をパーム油調達方針に採用するなど、責任ある調達に早急に取り組む必要があると提案してきました。

日清食品が今月9日に公表した新環境戦略「Earth Food Challenge 2030」(注1)では「持続可能なパーム油の調達を進める」とありますが、以下の問題点が挙げられます。

●「2030年度には、RSPO認証パーム油の調達に加え、独自アセスメントにより持続可能であると判断できるパーム油のみを調達することを目指します」と約束しているが、今後10年にわたって日清食品の調達が森林減少、泥炭地劣化、人権侵害といった問題に直面し続ける懸念がある。

●持続可能なパーム油には、国際的なパーム油認証制度である「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」の認証油に加え、同社の独自アセスメント(評価)によって持続可能であると判断されたパーム油も含まれる。しかし評価方法次第では、低い基準や曖昧な基準で評価され、持続可能であると判断されてしまう恐れがある。さらに、同社のRSPO認証油の定義には、非認証油を混入する方式のパーム油も含まれる可能性がある。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表の川上豊幸は「日清食品が、今後10年間も環境・社会面での配慮の確認が不十分なパーム油調達を続けることになれば、サプライチェーンで発生している気候危機や生物多様性の損失、人権や労働権、および土地権の深刻な侵害が今後も続き、問題を先送りすることになります。日本だけでなく、同社が事業展開する世界中の消費者やESG(環境・社会・ガバナンス)課題に取り組む投資家にとっても受け入れられるものではありません。国連の持続可能な開発目標(SDGs)の目標15.2では、2020年までに森林減少を阻止することを掲げています。その目標にも合致していません」と批判しました。

RANは、株主として総会で発言し、「2030年度までに持続可能なパーム油のみを調達するという目標では、他のグローバル企業が2020年を森林減少阻止の目標年にしている点から大きく見劣りする」と指摘しました。また、日清食品が22日、NDPE方針への支持をウェブサイトで表明した件について(※)「NDPE方針を持続可能なパーム油の調達における独自アセスメントの内容として組み込むとともに、調達方針として採用すべきだ」と提案しました。

それに対して日清食品は「(持続可能なパーム油のみの調達達成を)2030年まで待ち続けているわけではなく、できるだけ早く進めていく」と述べ、「独自アセスメントは、外部のNPOと客観的な認証が確保できる形で進める」としました。また「(NDPE方針を)支持しているということは、パーム油原産地の環境と労働者の人権に配慮して生産されたことが確認できるパーム油のみを調達するよう、最善の努力を尽くすということだ」との曖昧な返答でした。

川上は、「日清食品は『最善の努力を尽くす』というのであれば、持続可能性の確認を進めるために、NDPE方針をパーム油調達方針として定め、独自アセスメントに明確に組み込むことが不可欠です。また、パーム油を調達する搾油工場リストの情報開示を通じて、アブラヤシ農園などで起きている問題について、現地NGOなど外部に情報提供を求めることで早急に問題を発見し、早期の解決に取り組む体制づくりが必要です。世界が日本のリーダーシップに期待している今、五輪スポンサーでもある日清食品が他社に見劣りするような『最善の努力』では、消費者や投資家からの納得は得ることは難しくなります」と批判しました。

【森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止方針(NDPE方針)について】

RANは日清食品に対して、今年の株主総会までに、NDPE方針に合致した調達方針の強化の公表を求めてきました。具体的な内容としては、森林破壊ゼロを基本に、インドネシアやマレーシアなどパーム油生産国の熱帯林及び泥炭地の保護、アブラヤシ農園での労働権保護、先住民族や地域コミュニティの土地権を含む人権尊重が挙げられます。また、企業全体で供給業者の事業活動がNDPE方針の要求事項に合致していることを迅速かつ独立して検証することを目的に、信頼できる体制の構築にも取り組むよう再三求めています。NDPE方針は、国連責任投資原則(PRI)に関わる機関投資家56機関が支持を表明しています(注2)。投資機関も方針採択と実施に関心を寄せているという点で、非常に重要な調達基準となっています。

RANが今年4月に発表した報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」注3)でも、グローバルサプライチェーンにおける森林を犠牲にする産品の拡大による森林破壊と土地権侵害を止めるよう日清食品に提言しています。報告書の中で、取り上げている消費財企業10社のうち、NDPE方針を採択していないのは日清食品だけです。

【「五輪スポンサー日清食品さん、森林破壊フリーの東京五輪に! 」署名について】

本署名(注4)は、日清食品に、東京五輪スポンサー企業としてパーム油調達方針の強化を求めたもので、2019年8月21日の開始以来、約29,500人の賛同が集まっています。署名サイト「change.org」で展開し、宛先は日清食品ホールディングス安藤宏基取締役社長 CEOです。米国でも5月にメールキャンペーンを実施し、アメリカ日清宛に約17,000通のメールが送信されました。日米で合計5万人近い方々が同社のパーム油調達について懸念を持ち、アクションに参加したことは画期的です。

日清食品は、このような消費者の声を真摯に受け止めて、NDPE方針に基づく調達方針のさらなる改訂に早急に取り組むことが求められます。

※【6月26日追記】6月22日、日清食品「持続可能な調達:原材料ごとの実施状況 パーム油」に「森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ (NDPE) を支持しており、パーム原産地の環境と労働者の人権に配慮して生産されたことが確認できるパーム油のみを調達するよう、最善の努力を尽くしています」が加えられました。

注1)日清食品ホールディングス「地球のために、未来のために。環境戦略「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」始動!」

注2)2019年4月、責任投資原則(PRI)に関わっている機関投資家56機関、合計運用資産総額7.9兆米ドルがRSPOへの支持を表明し、銀行を含むパーム油バリューチェーン全体の全ての企業に対して、公表する形で「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止方針」の採用と実施を求めた。
PRI, “Fifty-six investors sign statement on sustainable palm oil”, 3 April 2019

注3)RANプレスリリース「2020新キャンペーン開始!『キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう』〜17社の消費財ブランド&銀行を対象〜」(2020/4/1) 

注4)RAN署名「五輪スポンサー日清食品さん、森林破壊フリーの東京五輪に! 〜問題あるパーム油を使わないで〜」

【訂正】「米国でも5月にメールキャンペーンを実施し、安藤CEO宛に約17,000通のメールが送信されました」とありましたが、「アメリカ日清宛に」の誤りでした。お詫び申し上げます(6月26日)。

声明:東京五輪 大会前報告書は「見せかけのサステナビリティ報告書」 (2020/4/30)

〜木材調達の失敗から教訓を学ばず、悪しきレガシー残す〜

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日30日、東京2020組織委員会が「持続可能性大会前報告書」(注)を公表したことを受けて、以下の声明を発表しました。

有明アリーナ建設現場、2018年5月 

「持続可能性大会前報告書」は「見せかけのサステナビリティ報告書」と言わざるを得ない。なぜならば、報告書には東南アジアの熱帯林破壊によって得られた木材が新国立競技場や有明アリーナなどの大会関連施設に調達された問題の記述がなく、東京2020大会主催者は調達の失敗を認めていないからだ。破壊された熱帯林には絶滅危惧種のオランウータンの生息地も含まれる。NGOは2016年から、熱帯材の調達に関する諸問題を指摘してきた。

さらに、NGOの指摘や社会的関心の高まりを受けて、組織委員会と東京都が2018年に実施したコンクリート型枠合板調達のモニタリング調査では、インドネシアでの熱帯林が破壊された現場は調査対象とせず、他の現場を調査しただけで「持続可能な森林管理に取り組んでいることが確認できました」と記述するなど、問題に向き合う姿勢も見られない。

大会自体の延期に伴い、組織委員会は木材調達の失敗と教訓を報告書に課題として記録し、大会の持続可能性実現ための明確な道筋を示すこともできたはずだ。しかし、それもしていない。

今、世界は新型コロナウイルスの感染拡大という大きな試練に直面している。失敗を認めず、教訓から学ばない姿勢では『悪しきレガシー』が残されるままだ。大会の開催予定まであと1年あまり。「ポストコロナ時代」の持続可能性への対応には大きな懸念が残る。

注)東京2020組織委員会「持続可能性大会前報告書」

参考:NGO共同声明「東京五輪は『見せかけのサステナビリティ』〜東京五輪および『持続可能性大会前報告書』公表延期を受けて」2020年3月30日

団体紹介
レインフォレスト・アクションネットワーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境・森林保護で最前線に立つ人々とのパートナーシップと戦略的キャンペーンを通じて、環境保護と先住民族や地域住民の権利擁護活動をさまざまな角度から行っています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

NGO共同声明:東京五輪は「見せかけのサステナビリティ」(2020/3/30)

〜施設建設で東南アジアの熱帯林を破壊、調達の失敗から教訓を学び是正を〜
東京五輪および「持続可能性大会前報告書」公表延期を受けて

国内外のNGO8団体は、本日30日、東京五輪の延期を受けて、東京2020大会主催者に東京五輪の木材調達による環境および社会への悪影響を認めるよう求める共同声明を発表しました。東京2020組織委員会は持続可能性報告書を3回公表する予定でしたが、2021年までの大会延期によって、2回目の「持続可能性大会前報告書」も延期される見込みです。延期によって、組織委員会はこの報告書を見直し、調達の失敗と教訓を記録し、持続可能性の実現ための明確な道筋を示すことができます。

「本声明の賛同団体は、東京五輪も含め、世界中の人々が現在直面している新型コロナウィルスによる生命、健康、生計手段への深刻な影響による緊急事態を認識している。パンデミックおよびそれに付随する経済的影響への緊急対応が当面の優先事項とされるべきとの認識の下、今回の声明を発表している。しかしながら、地球が急激な気候変動と前例のない生物多様性の損失という二重の危機に直面していることには変わりない。私たちはこれらの危機について人々の意識が東京五輪によって高まり、地球に生きる私たちにとってより持続可能で公正な未来を実現できるよう願っている

東京2020大会主催者は『持続可能な大会』の実施を約束しているが、現状は『見せかけのサステナビリティ』である。五輪施設建設に森林減少を引き起こした大量の熱帯材合板が使用されたことは明確な調達基準違反でありながら、基準の不遵守が起きていないように都合よく非常識な解釈をしている。前回の報告書(注1、2019年3月26日)では、大会主催者はこの問題に向き合わず、持続可能性の約束を守っているかのように見せかけようとしてきた。さらに、指摘された問題から学ぶという姿勢が見られない。このままでは東京五輪は『見せかけのサステナビリティ』でよいという『悪しきレガシー』を後世に残してしまう恐れがある。

大会開催が延期されたため、東京2020大会主催者は大会前報告書を見直し、持続可能性の面での失敗を認めて教訓とし、森林保護に必要な前向きな行動を促進できるはずだ。東京五輪が熱帯林破壊に加担した事実を認めて問題と向き合い、そして問題が起きた経緯を検証し、繰り返さないための対応策を教訓にすることが求められる。できたところだけを評価し、できなかった点は無かったことにしてしまうような、無責任な対応は許されない。持続可能性の担保方法に問題があった点を課題として真摯に認め、その是正策を国と東京都をはじめとする自治体、そして業界が持続可能な調達のために将来参考にできるよう、報告書で提示することが『真のレガシー』である。

森林、特に熱帯林は、地球の気候と降雨パターンを調節する重要な役割を果たしている。また、炭素を吸収かつ貯留し、そこに暮らす人々の生活や水、食料などの基本的ニーズを満たし、生物多様性の保護に不可欠である。森林と野生生物の生息地保護は、新型コロナウィルスのような死に至る感染症の防護物として認識され始めている(注2)。そのため、国連の「持続可能な開発目標」(SDGs)「ターゲット15.2」は2020年までの森林破壊阻止、「ターゲット15.5」は生物多様性損失の阻止及び2020年までに絶滅危惧種保護と絶滅防止の対策を講じることを目標としている。東京五輪はSDGsの推進も約束したが(注3)、熱帯材の大量使用はサステナビリティの取り組みと大きく逆行する。この点は、大会前報告書および大会後報告書に明記し、持続可能性に配慮した調達のための今後の教訓とすべきである

賛同団体
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN、米国)
TuK インドネシア(インドネシア)
サラワク・キャンペーン委員会(SCC、日本)
ウータン・森と生活を考える会(日本)
ブルーノマンサー基金 (スイス)
熱帯林行動ネットワーク(JATAN、日本)
国際NGO EIA(環境調査エージェンシー)
国際環境NGO FoE Japan(日本)

  

【これまでの経緯】
NGOは、東京五輪が熱帯林破壊に加担してきた問題を指摘し続けてきた。東京2020組織委員会が公表した情報によると(注4)、夢の島公園アーチェリー会場以外の全ての施設で熱帯合板が利用された。大会施設の基礎工事でコンクリートを成形するために使われた型枠合板は、インドネシアとマレーシア産合計で22万5千枚以上(全体の68%)にも上る。そのうち、持続可能性の認証を取得していないインドネシア産合板が新国立競技場と有明アリーナで、それぞれ約12万枚、約1万枚も使われた。国立競技場で使われたインドネシア産型枠合板は全体の36%を占め、丸太換算で約6,731立方メートルと推計される。これは、国立競技場の屋根等の国産木材使用量2,000立方メートルを上回る(注5)。また、認証されたマレーシア産木材の持続可能性も極めて疑わしい(注6)。以下、持続可能性の公約を守っていない二つの例を提示する。

持続可能でない「転換材」の使用について
第一に、持続可能でない「転換材」が大会施設の建設に使用された点にある。2018年5月、RANなどのNGOの調査によって、東京都が管轄する有明アリーナの建設現場でインドネシア産の型枠合板の使用が見つかった(注7)。この合板を製造した企業の工場では、2017年に製造された合板原料の約4割が炭鉱開発やアブラヤシ農園などの開発のために土地転換された熱帯林に由来していることが、インドネシア政府へ提出された書類によって確認された。その後、同インドネシア産合板を提供した住友林業は有明アリーナ及び新国立競技場の両方に転換材を提供したことを認め、東京都は有明アリーナに調達したインドネシア材のほとんどが転換材であったことを認めた。

このような「転換材」は森林を全面伐採する「皆伐」を伴うため、五輪の木材調達基準に定められた「中長期的な計画又は方針に基づき管理経営されている森林」由来とは言えない。また、科学者によると、すべての陸生種の約3分の2を熱帯林に生息しているといわれ、インドネシアは地球上の生物種の約1〜2割が生息する生物多様性の非常に豊かな国である(注8)。実際、五輪のために皆伐された熱帯林には原生林および絶滅危惧種のボルネオ・オランウータンの生息地の破壊も含まれることもNGOの調査でわかった。そのため、木材調達基準の「伐採に当たって、生態系の保全に配慮されていること」という項目にも反する(注9)。実際、五輪に皆伐された熱帯林には絶滅危惧種のボルネオ・オランウータンの生息地の破壊も含まれることもNGOの調査でわかった。

「通報受付窓口」の機能不全について
第二に、2件の苦情が上記の問題に基づいて大会主催者である東京都と日本スポーツ振興センターに通報されたが、苦情を受け入れず、責任逃れをするような姿勢も、持続可能性の約束を守っていない一例である。

2018年11月、RANは、ボルネオオランウータンと熱帯林を代弁して、新国立競技場を管轄する日本スポーツ振興センターと有明アリーナを管轄する東京都に、非認証のインドネシア産「転換材」の大量使用及びボルネオ・オランウータンの生息地を含む伐採地からの木材使用を理由に、調達基準の不遵守を通報した(注10)。しかし現在まで16カ月が経ってもこの通報については正式に苦情処理手続きを開始せず、東京都とスポーツ振興センターの対応には、これまでのやりとりで以下の4点の大きな疑問が判明している。

1.東京都の通報制度には、違反が疑わしい事例であれば対象案件とする規定があるが(注11)、不遵守が確定しなければ通報の処理手続きを開始しない、という独自解釈を行っている。

2.2019年1月の木材調達基準改定で「転換材」の調達禁止が追加されたが、東京都は改定前の「転換材」使用は、計画に基づいて農地などに転換され、適切に管理活用されるなら趣旨に反しないと容認されていると、重大な解釈変更を行っている。

3.東京都は、インドネシア政府によるオランウータン生息地評価では不十分で、オランウータンが伐採地にいることを証明できなければ不遵守とはならず、苦情として認めないとしている。

4. 日本スポーツ振興センターは、東京都が都への苦情を却下したという決定に基づき、同センターに通報された転換材の使用に関する苦情を却下した。
(*1〜3は、東京都との面談やメールでの返答、4は日本スポーツ振興センターからのメールでの返答による)

2019年3月に公表された持続可能性進捗報告書では「通報受付窓口」の運用が持続可能性を担保するメカニズムとして記載されたが、NGOの通報によって、このように通報制度が実際には機能していないことが明らかになった。

なお、上記を求めた署名には、世界中から約3万筆の賛同が集まっている。署名は二度にわたってオンラインで実施され、本日、組織委員会、日本スポーツ振興センター、東京都に提出された。同署名は、熱帯林破壊に関する通報を苦情処理の案件として受理すること、東京五輪の木材調達が熱帯林に与えた影響を調査すること、そして今後の調達方針の実施の改善について大会主催者に求めている(注12)。

注1)東京2020組織委員会「『持続可能性進捗状況報告書』の公表について」、2019年3月26日

注2)参考:英ガーディアン紙記事
Coronavirus: ‘Nature is sending us a message’, says UN environment chief」2020年3月25日

‘Tip of the iceberg’: is our destruction of nature responsible for Covid-19?」2020年3月18日

注3)国際連合広報センター「国際連合と東京2020組織委員会が東京2020大会を通したSDGsの推進協力に関する基本合意書に署名」、2018年11月14日

注4)東京2020組織委員会「『持続可能性に配慮した木材の調達基準』の実施状況に関するフォローアップについて」、2020年1月10日(2019年11月末時点。総数は33万1,700枚。その内、国産材は3万9,500枚、再利用は6万6,600枚でその多くは熱帯材である)

注5)注4)の公開情報によると、新国立競技場では117,800枚のインドネシア産コンクリート型枠合板が使われた。日本では、コンクリート型枠合板の典型的なサイズは、12X900X1800mm〜15x910x1820mmであり、合板の量を生産において利用する丸太の量に変換する場合に使用される係数は2.3となる(出所: UNECE/FAO)。これは約6,731立方メートルもの丸太材に相当する。

日本スポーツ振興センター「新しい国立競技場の竣工について」、2019年11月29日
※国立競技場で使われた国産材の少なくとも約9割が集成材であった。そのため、集成材における丸太換算率60%を適用すると(出所:林野庁)、約3,333立方メートルの丸太に相当する。

注6)RAN他「2020 年東京五輪􏰀熱帯材使用に関する公式な情報開示に対する NGO 􏰀解説」、 2018年2月

注7)RAN他、報告書「守られなかった約束」、2018年11月

注8)国際熱帯木材機関「熱帯林の生物多様性保全のためのITTO/CBD共同イニシアティブ」
ODA見える化サイト「生物多様性保全センター整備計画」

注9)東京2020組織委員会「持続可能性に配慮した木材の調達基準」(2019年1月改定)
※改定で「森林の農地等への転換に由来するものでないこと」が明記されたが、改定前の基準でも「中長期的な計画又は方針に基づき管理経営されている森林に由来するもの」と「森林に由来する」との記載があり、森林ではなくなる「転換材」は基準を満たせなかった。特に非認証材については「当該木材が生産される森林について、森林経営計画等の認定を受けている、 あるいは、森林所有者等による独自の計画等に基づき管理経営されているこ とを確認する」と管理経営されている森林についての中長期的な計画の確認が求められている。

注10)参考:RANブログ「東京五輪の木材スキャンダル、持続可能性と説明責任に問題あり」2019年9月9日

注11) 東京都「『持続可能性に配慮した調達コード』に係る通報受付窓口 業務運用基準」

注12)RANは東京2020大会主催者宛て(東京2020組織委員会、日本スポーツ振興センター、東京都)に、2回の署名を実施した。
2019年11月の署名(英語)
2020年3月11日の署名(英語)

*英語版声明はこちら Joint NGO Statement on Tokyo 2020 Olympics’ “Fake Sustainability”: Organizers called on to learn from & fix procurement failures linked to rainforest destruction in light of the Olympics postponement

レインフォレスト・アクション・ネットワーク
本件に関するお問い合わせ
広報 関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org