サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

NGO共同プレスリリース:新報告書『紛争パルプ材植林地』発表〜インドネシア製紙大手APP社と地域社会との対立、数百の紛争を特定〜 (2019/10/3)

〜インドネシア煙害深刻化、森林火災に責任ある企業として地域社会と森林保護の誓約を守るようNGOが要請

サンフランシスコ発ーーインドネシアのNGOとエンバイロンメンタル・ペーパー・ネットワーク(EPN)は、1日(現地時間)、新報告書『紛争パルプ材植林地:製紙企業アジア・パルプ・アンド・ペーパー(APP)のインドネシア各地での紛争概要』(注1)を発表し、紙パルプ世界大手の一社であるAPPが、スマトラ島とボルネオ島の地域コミュニティとの間に起きている数百にのぼる紛争に関係していることを明らかにしました。過去約20年分の資料や記録を集めて分析した調査結果は、同国の5つの州だけで少なくとも107の村・地域コミュニティと、APP関連企業や供給企業との対立が起きたことを説明しています。本報告書は、インドネシアで現在深刻化している煙害(ヘイズ)に責任を負うべき企業の一つとして同社が名指しされた直後に発表されました(注2)

【調査結果】

  • 顕在的紛争(公になった紛争。報告があり特定された紛争)
    APP社とインドネシアの供給企業は107件の「顕在的紛争」に責任がある。紛争が集中している5州と州別内訳件数: リアウ州(50件)、ジャンビ州(30件)、南スマトラ州(16件)、西カリマンタン州(10件)、東カリマンタン州(1件)。
  • 顕在的紛争の理由
    慣習地をめぐる対立、暴力と脅迫や強制的な立退き、事業許可地域と村との境界の重複など。他にも、生計のために認められた事業許可地内での作物自給、企業とコミュニティ間のパートナーシップからの利益配分の不公平、コミュニティ内またはコミュニティ間の対立、作業要員からの村人の排除なども含まれる。
  • 潜在的紛争(植林地の開発により影響を受ける可能性が高い村やコミュニティの事例)
    APP供給企業の森林事業によって影響を受けた村々を分析し、事業許可地内または隣接する544の村で「潜在的紛争」が特定された。面積は2,536,110ヘクタールにのぼる。最も多いのはリアウ州(195村)、次にジャンビ州(120村)、西カリマンタン州(89村)、南スマトラ州(70村)、東カリマンタン州(70村)。

APP社のパルプ材植林地の拡大は批判の的になっており、土地収奪地元住民の立ち退き、時には残虐な暴力など、地域コミュニティに大きな社会的影響を与えてきました。また同社は、過去に危機的な森林火災にも関与していました。特にシンガポールは2015年に、10万人の早期死亡(注3)の原因となった可能性のある2015年の煙害とAPP社が深く関与していると判明した後、同社製品の販売を一時停止しました。APP社はこれらの社会紛争の全てを解決すると誓約を発表しました(注4)が、本新報告書においては、ほとんど進展を確認することはできませんでした。

インドネシアの環境NGO、WALHI(ワルヒ)・ジャンビ事務局長のルディアンシャは「この数ヵ月、森林火災と土地火災による煙害がスマトラ島とカリマンタン島の様々な地域に広がり、大気汚染を深刻化させています。APP社の事業許可地での森林火災による煙害の再発と、事業を行っている地域でのコミュニティとの数百の紛争は同社が誓約した方針の実行に失敗している証拠です」と批判しました。

APP社自身は、木材供給企業と地域コミュニティとの間に数百もの紛争が存在することを認めており、紛争が起きている場所を地図に落とし込み(注5)、自社事業に関連する土地紛争の49%を解決したと主張しています。しかし村の名前や場所、関係する地域の大きさ、過程の詳細、結果など、特定の情報は公開されていません。

EPNの構成団体であるレインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)の森林シニアキャンペーナー ブリアナラ・モーガンは「APP社は森林と地域コミュニティの保護を約束しましたが、現地の実態は違っています。地域コミュニティとの紛争と、今も起きている煙害は、APP社が森林、地域コミュニティ、そして気候を守るまでの道のりがまだ長いことを表しています。APP社は、現地の実情と報告内容とをきちんと一致させる必要があります。また、必要な変化を成し遂げる過程で偽りがないことを証明するためにも透明性が必要です」と強調しました。

インドネシアNGOによる独立調査の結果は、APP社が社会紛争解決のために誓約を実行している状態には程遠いことを明らかにしました。 同社は社会紛争に関する詳細な情報、及び供給企業の事業許可地内での生物多様性価値と泥炭地評価に関する詳細な報告書の共有を拒否しており、「完全な透明性」(注6)への誓約を守れていないことは大きな問題です。

【調査方法】
本調査の分析のために収集された記録は1996年から2017年の期間で発生した社会紛争の記録である。紛争は集落、地域コミュニティ、先住民族コミュニティの単位別に分類している。記録の情報源は以下の通りである。
 ・一般からの苦情通報
 ・影響を受けた地域コミュニティの人々からの情報
 ・メディア:紙媒体の切り抜きとオンライン記事
収集された記録は、衛星分析と現場での無作為抽出によってさらに検証されている。収集された記録と情報はインドネシアの5つの州 、リアウ、ジャンビ、南スマトラ、西カリマンタン、東カリマンタンを対象としている。

注1)『紛争パルプ材植林地』日本語要約版報告書全文(英語)*英語の報告書全文には、顕在的紛争の一覧(村・コミュニティ名、紛争の種類、紛争の対象となっている面積)が記載されています。

注2)Foresthints.news, “Spreading peat fires in APP concession causing haze”, September 22, 2019

注3)The Guardian, “Haze from Indonesian fires may have killed more than 100,000 people – study”, September 16, 2019

注4)APP, “Forest Conservation Policy

注5)APP, “Progress Monitoring Tool: Overview of Forest Conservation Policy”

注6)APP Forest Conservation Policy: One Year Summary, February 2014

エンバイロンメンタル・ペーパー・ネットワーク(EPN)は、140以上の市民団体で構成される世界的なネットワークで、「グローバルペーパービジョン」に向けて協力して活動しています。このビジョンは、紙の生産と使用が地球上の生命にきれいで健康的、かつ公正で持続可能な未来に貢献するよう、紙パルプ産業及び周辺社会に変革をもたらすという共通の目的を表しています。RANは構成団体の一つです。

レインフォレスト・アクションネットワーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境・森林保護で最前線に立つ人々とのパートナーシップと戦略的キャンペーンを通じて、環境保護と先住民族や地域住民の権利擁護活動をさまざまな角度から行っています。http://japan.ran.org

WALHI は、インドネシアで最も大きく歴史ある環境政策アドボカシーNGOです。国内31州の内27州に独立した事務所と草の根の構成団体があります。WALHIは、天然資源へのアクセスに関する農業紛争、先住民族の権利、森林破壊など多くの問題に取り組んでいます。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク
本件に関するお問い合わせ
広報 関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org