サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

プレスリリース:新報告書「FPIC実施原則の必要性」発表(2020/12/22)

インドネシアのアグリビジネス大手、先住民族の権利尊重に不備
〜パーム油、紙パルプ等企業グループ10社の方針と取り組みを評価・分析〜

サンフランシスコーー米環境NGO レインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、9日(現地時間)、新報告書『FPIC実施原則の必要性』(注1)を発表し、パーム油、紙パルプ、木材といった森林をリスクにさらす産品に従事するインドネシア大手企業グループ10社が農業開発の過程で先住民族と地域コミュニティの権利尊重を確保するための適切な方針と標準作業手順書をもっていないと批判しました。

【報告書の概要】

本報告書は、公開されている各社の方針と標準作業手順書(SOP)を、「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC)履行のためのガイドラインと比較して評価し、実施状況を分析したものです。FPICとは、先住民族と地域コミュニティが所有・利用してきた慣習地に影響を与える開発に対して、自由意志による、事前の、十分な情報を得た上で同意する、または同意しない権利のことをいいます(注2)。

評価対象となったのは以下の林業会社、アグリビジネス企業グループ10社です。インドネシアのパーム油、紙パルプ産業は下記10社を含め、少数の複合企業グループに支配されています(注3)。

 ●ベスト・インダストリー・グループ
 ●ゲンティン・グループ
 ●ジャーディン・マセソン・グループ
 ●コリンド・グループ
 ●ラジャワリ・コーポラ
 ●ロイヤル・ゴールデン・イーグル
 ●サリム・グループ
 ●シナルマス・グループ
 ●トリプトラ・グループ
 ●ウィルマー・インターナショ ナル

【評価・分析結果】

FPIC実施のためには、具体的な手続きや実施事項が明記された標準作業手順書が必要になります。今回の分析で明らかになったのは、影響を受けるコミュニティが所有・使用している土地で計画中の開発や既存の開発(アブラヤシ農園やパルプ材植林地開発、林業事業)に対して、FPICの権利が尊重されることを証明するために、公表された方針と標準作業手順書が適切であった企業グループは一社もないという点です。多くの企業グループはFPIC実施の約束をしていますが、実態が伴わず、以下のような不備が確認されました。

 ●企業グループとしてFPICに関する方針がない
 ●企業グループとしての方針はあるが、標準作業手順書がない、
 もしくは標準作業手順書が公開されていない
 ●標準作業手順書は公表されていても、不十分な内容である

レインフォレスト・アクション・ネットワーク森林政策ディレクター ジェマ・ティラックは「インドネシアが、森林破壊、先住民族コミュニティへの攻撃、気候変動といった相互に関係する世界的危機に寄与していることは見逃せません。今回の評価対象となった林業会社とアグリビジネス企業は、自社事業とサプライチェーンでFPICの権利を実施できなかったため、様々な形で危機を加速させています。多くの企業グループは、森林破壊と先住民族の権利侵害を自社のビジネス慣行から排除することを約束しています。しかし10社の企業グループ全てがその約束を果たせていなく、農園・植林地を拡大する場合に、先住民族や地域コミュニティの権利を尊重した上で土地取得する方法を開示することすらできていません」と指摘しました。

インドネシアの500万ヘクタールを超える土地は、上記の林業会社、アグリビジネス大手企業の管理下にあります。その中にはインドネシア政府から企業に割り当てられた地域内で、「未開発地(開発可能な)」と区分されたり、保全地域として開発対象から除外されて残っている森林や泥炭地が含まれます。こういった土地には先住民族や地域住民が暮らしている場所もあります。上記企業グループ10社の事業地を合計すると、膨大な「森林フットプリント」(事業が影響を及ぼす、またはその可能性のある森林や泥炭地)(注4)となり、インドネシアの先住民族や地域コミュニティに多大な影響を与えます。

また、本報告書では上記10社の企業グループと取引を行っている多国籍消費財企業と銀行に対して、企業グループがFPIC取得手続きにおける法律、規制、ガイドラインへの全面的な適合性を証明するために、自社の供給先企業や融資先企業に踏み込んだ実践を要請するように呼びかけています。消費財企業にはコルゲート・パーモリーブ、フェレロ、花王、マース、モンデリーズ、ネスレ、日清食品、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、銀行には三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)、バンクネガラインドネシア(BNI)、CIMB、中国工商銀行(ICBC)、DBS、ABNアムロ、JPモルガンチェースが含まれます。

銀行と消費財企業の持続可能性に関する主張は、信頼できる独立した検証メカニズムを利用して、影響を受ける先住民族と地域コミュニティの権利が尊重されていることを実証できなければなりません。特に、先住民族と地域コミュニティ、そして彼らが所有・利用してきた慣習地に影響を与える計画中や既存の開発に対して、自由意思による、事前の、十分な情報を得た上での同意する、または同意しない権利が完全に尊重されていることが実証できなければなりません。

注1)報告書『FPIC実施原則の必要性:東南アジアの森林リスク産品サプライチェーンにおける主要10社の方針・標準作業手順書の評価・分析』(原題:“The Need for Free, Prior and Informed Consent: An Evaluation of the Policies and Standard Operating Procedures of Ten Major Corporate Groups involved in Forest-Risk Commodity Supply Chains in Southeast Asia”

各社の方針と標準作業手順書についての評価、分析結果、方法論、および別紙にFPICの権利と人権関連の国際基準について記載しています(英語)。
www.ran.org/FPICevaluation

注2)「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC: Free, Prior and Informed Consent)の定義は以下の通りである:
●「自由」であること:強制、脅迫、撹乱、不当な影響や圧力がないことを意味する。
●「事前」:人権基準上は、政府による事業許可の前を意味するが、少なくとも操業開始前に協議と同意を得るのための十分な時間を置くことを意味する。
●「十分な情報」:事業の内容、規模、進行速度、可逆性、範囲および予想される社会・経済・文化・環境面の影響について先住民族の理解し、アクセスできる形で情報を提供することを意味する。
●「同意」:先住民族の正当な代表者との誠実な協議の上での正式な書面による操業許可を得ることを意味する。FPICは、事業期間を通した継続的なプロセスで、合意内容の不履行や情報の齟齬など特定の条件の下では、撤回されることもある。

先住民族の土地に対する権利は、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」(UNDRIP)に定められている。UNDRIPは 2007年に採択され、先住民族の権利に関する最も包括的な国際的規範である。例えば、第25条および第26条では、先住民族が伝統的に所有もしくは占有してきた土地を所有し、使用し、開発し、管理する権利と有すること、そして伝統的に所有もしくは占有してきた土地との精神的つながりを維持し強化する権利と未来の世代のために保持する権利を有することを明確に強調している。UNDRIPでは、先住民族がFPIC(先住民族が自分たち、または自らの土地に影響を及ぼす可能性のある事業には同意する、もしくは同意しない権利)を有することが明確に述べられている。

参考:「先住民族の権利に関する国際連合宣言」、市民外交センターによる仮訳(2008 年 7 月 31 日、 改訂 2008年9月21日)

プランテーションウォッチ「先住民族の権利に関する国際連合宣言(UNDRIP)に関するビジネス参照ガイド」(『パーム油調達ガイド』より)

注3)インドネシアのパーム油産業と紙パルプ産業は少数の複合企業に支配されている。そのような企業はインドネシアのタイクーン(実業界での大物)や企業グループ、海外投資家の管理下に置かれている。本報告書の対象企業グループ10社については、RAN報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」で、下記の多国籍消費財企業(10社)、大手銀行(7社)とともに、熱帯林破壊と人権侵害に拍車をかけている企業として記載されている。

●消費財ブランド企業:日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース
●銀行:MUFG、JPモルガン・チェース、中国工商銀行(ICBC)、DBS、バンクネガラインドネシア(BNI)、CIMB、ABNアムロ

注4)参考:RAN声明「世界初、ネスレ『森林フットプリント』開示を歓迎〜インドネシア・パーム油サプライチェーンで影響を受ける森林面積を公表」、2020年12月11日

団体紹介
レインフォレスト・アクションネットワーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境・森林保護で最前線に立つ人々とのパートナーシップと戦略的キャンペーンを通じて、環境保護と先住民族や地域住民の権利擁護活動をさまざまな角度から行っています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

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