プレスリリース:国際NGOが国連環境計画に苦情申し立て、TNFDにおける役割を巡り〜国連生物多様性条約会議(COP16)にて(2024/10/24)
*苦情全文はこちら。各団体コメントと苦情の要約は末尾をご覧ください。
企業主導のイニシアティブは、森林破壊企業をグリーンウォッシュしていると批判
(コロンビア・カリ)本日24日、レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)、第三世界ネットワーク(TWN)、「森林と金融」連合、先住民環境ネットワーク、WECAN、バンク・トラック、グローバル・フォレスト連合(GFC)、FoEインターナショナルなど世界各地のNGOと権利者は共同で、国連環境計画(UNEP)に対し、物議を醸している自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)への支援について苦情を申し立てました。この苦情は、NGOらがTNFDについて何年にもわたり警鐘を鳴らし続けてきた末に提起されたものです。これまでTNFDは「企業によるグリーンウォッシュの新たなフロンティア」や、自然危機に対する本物の解決策を弱体化していると評されてきました。
今回の苦情では、環境保護活動家、ジェンダー、情報へのアクセスに関して、UNEPは自身の方針に違反している事が指摘されています。UNEPはTNFDの共同設立者であり、現在もTNFDを推進し続けています。TNFDは、企業が生物多様性に関する自己報告を行うための自主的な取り組みです。TNFDの意思決定機関であるタスクフォースは企業のみで構成され、環境破壊や人権侵害と深いつながりのある企業も多く含まれています。一方で、政府関係者、科学者、企業による加害の被害者、環境保護活動家、先住民族はおろか、中小企業さえも含まれていません。
TNFDは基本的に、企業が生物多様性の損失によって受ける自社の利益への影響を報告することだけを推奨しています。極めて重大な点は、TNFDの中核的なアプローチでは、企業に対して、自社の事業活動が自然に与える影響の開示さえ求めていないことです。
生物多様性条約(CBD)のプロセスを長年注視してきた多くの人々は、COP16(第16回締約国会議)において、企業が不適切に強い影響力を持ち、交渉文を「掌握している」ことに懸念を表明しています。カリでは今週、TNFDは鉱山会社アングロ・アメリカン社など、自然破壊で世界で最も悪名高い企業とイベントを開催する予定です。10月25日には、TNFDの提言に基づき情報開示を行うと新たに表明した企業を発表するイベントを開催し、鉱山最大手の一つであるヴァーレ社を講演者として迎えます。化学工業・製薬会社バイエル社も、TNFDの別のイベントで登壇予定です。今回の苦情では、バイエル社とアングロ・アメリカン社それぞれに対してOECD(経済協力開発機構)を通じた苦情が提起されていること、またバイエル社が2019年以降に15億ドルの環境罰金を科されていることにも触れています。
この苦情が申し立てられた同時期に、FoEオランダ (Milieudefensie) は金融セクターの自主的イニシアティブの失敗に関する新しい報告書を発表しました。この報告書は、TNFDのような自主的な取り組みが誤った解決策である理由を検証しています。根本的に、自然関連の財務リスクの開示は資本の再配分につながらず、より民主的で効果的な金融規制を講じる妨げとなります。情報開示という偽りの約束を信じることは、2007年から2008年の金融危機以来信用を失った金融システムに対する過度に楽観的で時代遅れの理解を反映しています。
先週16日、「森林と金融」連合は、年次報告書「生物多様性崩壊をもたらす金融業務」を発表しました。同報告書によると、熱帯林を破壊するリスクがあるセクターで事業を展開する300社に、パリ協定締結以降、合計で3,950億米ドル以上が投じられ、そのうち770億米ドルが過去1年半(2023年1月から2024年6月の期間)に流入しています。各種の自主的なイニシアティブは、持続可能な慣行を促進していると主張していますが、それらのイニシアティブに参加している世界の大手銀行30行の半数以上が、森林破壊に関連するセクターに資金を提供していると同報告書は指摘しています。
各団体からのコメント
レインフォレスト・アクション・ネットワーク、「森林と金融連合」メンバー
ショーナ・ホークス(Shona Hawkes)
「私たちはTNFDについて何年にもわたって警鐘を鳴らし続け、その末に、今回苦情を申し立てました。多くの場合、国連のシステムは企業による加害とのたたかいや環境保護活動家の重要な味方です。なぜUNEPが、自らの中核的使命から大きく逸脱し、先住民族や女性、地域コミュニティを完全に無視して、強大な権力を持つ企業の意見を増幅するイニシアティブを共同設立したのか理解に苦しみます。CBD-COP16の開催期間中、TNFDは自らを生物多様性喪失の解決策であるかのように謳っていますが、実際は企業による企業のためのイニシアティブです。TNFDは危険な目くらましです。生物多様性への害や、人権侵害から利益を得る企業の権利に異議を唱える要素が一切ありません。企業の不正行為に対して意味のある法的・財務的な罰が科されない限り、現状はほとんど改善しないでしょう」
ゴールドマン環境賞受賞者
Tarcisio Feitosa da Silva氏
「TNFDは、環境保護活動家の要求を満たせない構造となっています。TNFDタスクフォースのメンバーである穀物商社ブンゲ社や紙パルプ大手スザノ社は、ブラジルの土地紛争に関わり続けていて、スザノ社の大規模ユーカリ植林地は生物多様性を失った広大な緑の砂漠を作り出しています。国連機関や国際社会は、生物多様性の危機に対する解決策を主導するために環境保護活動家を支援すべきです。TNFDは正義を求める声から目をそらす煙幕に過ぎず、影響を受けたコミュニティの要求を改善することはありません」
グローバル・フォレスト連合 気候変動キャンペーナー・アドバイザー
Souparna Lahiri氏
「自然のコモディティ化は、生物多様性の損失を引き起こす根本的な原因です。だからこそ、私たちはこの危機に対する非市場的な解決策を求めてたたかっています。UNEPはTNFDを共同設立し、支援を続けることで、グローバル企業に自然のコモディティ化をさらに進める力を与え、先住民族や女性、地域コミュニティが提唱する本物の解決策を弱体化させています」
鉱業における国民主権運動(Movement for Popular Sovereignty in Mining)運営事務局 Izabely Miranda氏
「巨大鉱山企業ヴァーレは人々の生活を破壊し、汚染された荒廃地を作り出し、何百人もの死者を出してきました。コミュニティは何年も正義を求めてたたかっています。TNFDの報告書は、こうしたコミュニティにとって何の助けにもなりません。良識のある人は明らかにヴァーレ社に関わるべきではなく、TNFDの報告書は見せかけの体面を立てています」
オランダFoE(Milieudefensie)森林プログラム・コーディネーター
Danielle van Oijen氏
「TNFDは、森林破壊を引き起こしている世界の大手企業らによって作られました。TNFDの不透明な協議プロセスは、草の根組織や権利保持者、市民社会にとって参加困難なものです。そのため、TNFDが『昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)』の目標に合致せず、重大なギャップがあることは驚くにはあたりません」
バンク・トラック 「銀行と自然」キャンペーンリーダー
Ola Janus氏
「簡単なグーグル検索をするだけで、ラボバンク、UBS、スザノ、ヴァーレ、ブンゲのような企業が関係する環境破壊や人権侵害について、各社のTNFD報告書よりも多くの情報を得ることができます。市民社会や事業による影響を受けているコミュニティは、自分たちの手で企業の加害を明らかにすることを強いられています。この困難で費用のかかるプロセスは、皮肉にもいわゆる『情報開示の枠組み』の役割やその存在意義に疑問を投げかけています」
FoE U.S. 国際森林プログラム・ディレクター
Jeff Conant氏
「TNFDは企業に対して、『自然の損失』が自社の利益に与える影響を開示するよう求めていますが、その一方で、企業の活動が生態系や権利保有者に与える壊滅的な影響について開示せずに済むよう企業を守っています。だからこそ、ブラックロック、BNPパリバ、バンク・オブ・アメリカのような巨大金融企業がTNFDを支持しているのは明白です。TNFDは、これらの企業を説明責任から守り、地球に残された最後の重要な宝を略奪し続けることを可能にし、クリーンで環境に配慮した責任ある企業に見せかけます。これはペテンで詐欺に他なりません」
UNEPに対する苦情の概要
- TNFDタスクフォースに参加している企業グループ40社の少なくとも45%が、現在係争中の訴訟、継続中の苦情、投資家による排除措置、持続的な環境違反、その他の論争など、深刻な環境・人権問題を抱えています。このような企業を思想的指導者として宣伝することは、これらの企業の責任を追及する環境擁護者や市民団体の活動を弱体化させます。
- 企業のみで構成されたタスクフォースの設立は、意思決定や基本的なデュープロセスにおいて環境擁護者を中心に据えるという原則を損なうものです。
- TNFD開示枠組み起草時にTNFDに寄せられたフィードバックの最大98%が秘密裏に行われました。また、TNFDは環境保護活動家がアクセスできる形式で情報を提供することを怠り、また、草の根の女性組織との対話(エンゲージメント)プロセスを持たず、TNFD開示枠組み草案のジェンダー分析も行いませんでした。
- 苦情では、TNFDが「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」と整合しているとのTNFDの主張に反して、明確に整合していない点を浮き彫りにしています。
- TNFDは証拠(エビデンス)に基づくものではありません。TNFDには、企業の行動を変えるために何が効果的であり、何が効果的でないのかを評価するプロセスが存在しませんでした。
- 一部の企業ロビー団体などが、GBFの交渉や国内法においてTNFDを推進しています。TNFDが、企業が決定する企業のためのイニシアティブである以上、この状況では企業が自らに対する規制方針を作成する裏口手段として利用されることになってしまいます。それにもかかわらずTNFDは、TNFDの提言が規制の土台として不適切であると表明することを拒んでいます。
- TNFDは、先住民族、女性、地域コミュニティ、環境擁護者、その他の市民団体などが掲げる実際の優先事項から目を逸らしてきました。これには、責任と救済、すなわち、企業が行った加害に対して意味のある法的・財務的責任を負い、コミュニティが救済や是正措置にアクセスできるよう、より強力な法律と執行を求める声も含まれます。
参考
TNFDに関するUNEPへの苦情
https://forestsandfinance.org/wp-content/uploads/2024/10/24Oct2024_Complaint-to-UNEP-on-TNFD-1.pdf
自主的イニシアティブに関する背景文書
https://en.milieudefensie.nl/news/voluntary-market-mechanisms/view
2024年版報告書「生物多様性崩壊をもたらす金融業務」
https://forestsandfinance.org/banking-on-biodiversity-collapse/
本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)
シニア・コミュニケーション・ストラテジスト
Laurel Sutherlin: laurel@ran.org
(英語プレスリリース”From COP16: Global NGOs File Formal Complaint to UNEP over its role in the TNFD”、和訳版は2024年11月2日投稿)
レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。
https://japan.ran.org