サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

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共同プレスリリース:日本企業に気候変動対策を求める投資家の圧力、一段と強力に(2023/6/29)

国際環境NGO マーケット・フォース
国際環境NGO FoE Japan
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

2023年6月29日(木) : 気候変動関連の株主提案は年々増えており、2023年の株主総会シーズンは日本企業に対して提出されたネットゼロの達成に向けた行動と透明性の向上を求める株主提案の数が過去最多となりました。

先週から本日にかけて実施された三菱商事、日本最大の発電事業者であるJERAの株を共同所有する東京電力ホールディングスと中部電力、メガバンク3行(三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ)の株主総会で気候変動に関する株主提案が決議されました。

株主提案を行ったのは環境NGOの気候ネットワーク、マーケット・フォース、 またFoE Japan、レインフォレスト・アクション・ネットワークに所属する個人です。株主提案を通じて、対象企業に対して短期を含めた排出削減目標の設定やさらなる引き上げ、気候関連リスクの管理の改善を求めました。

上記の株主提案の議決結果は、気候変動に関するリスクへの対処に関して課題を抱える企業に対して、引き続き厳しい目が向けられていることを意味します。

三菱商事

「今年の三菱商事の株主総会では、約2兆円(140億米ドル)に相当する投資家の約20%が、我々が提出した株主提案の1つに賛成票を投じました。これは、投資家が三菱商事の気候変動に関する情報開示の進展にまだ満足しておらず、2050年までのネット・ゼロへの実行可能な道筋があると結論づけるには不十分であることを示しています」
福澤恵(マーケット・フォース エネルギー・ファイナンス担当)

「昨年の株主提案以降、三菱商事は情報開示内容を拡充するなど、一定の進展がみられた一方で、気候危機を食い止めるために十分な削減目標などを設定していません。さらに、昨今のエネルギー危機は、化石燃料への依存を深めることは気候変動を悪化させるだけでなく、エネルギー安全保障をも悪化させるということを示しました。提案は否決されましたが、引き続き三菱商事の方針強化を求め対話を継続していきます」
深草 亜悠美 (FoE Japan気候変動・エネルギー担当/事務局次長)

中部電力

「中部電力の2050年に向けたロードマップは、実現性・具体性に欠けています。低効率石炭火力のフェードアウト、高効率のアンモニア混焼化などで目標を達成すると主張していますが、具体的な削減策は示されていません。持株会社であるJERAが、国内外で新規の化石燃料事業に関与し、GXのもとで脱炭素策としてのアンモニア混焼を広げようとしていることも問題です。中部電力およびJERAが2050年ネットゼロ目標を達成するための責任を果たすことを引き続き求めていきます」
鈴木康子(気候ネットワーク プログラム・コーディネーター)

東京電力HD

「東京電力では、2050年CO2排出ゼロを掲げながら、そのロードマップは具体性に欠け、根拠となる情報開示がなされていません。特にグループ会社であるJERAは国内最大の排出事業者であり、昨年の武豊火力に続き、今年、来年は横須賀火力と、次々と対策のとられていない石炭火力発電を新規稼働させる予定で、排出量は増大する見通しですが、その説明責任を果たしていません。私たちの提案は否決されましたが、引き続き情報開示を求めていきます」
桃井貴子 (気候ネットワーク理事・東京事務所長)

MUFG、三井住友FG、みずほFG

「MUFG の株主総会では、木質バイオマス発電は石炭などの化石燃料への融資に比べて相対的に少ないため、重要性(マテリアリティ)が少ないという発言が担当者からありました。続けて『マテリアティが増せば対応を検討する』との発言もあり、これは一歩前進したといえます。メガバンク全体では、木質バイオマス発電問題について少しずつ理解が進んでいますが、排出量の算定と厳格な方針策定には至っていません。今後、石炭火力発電への木質燃料の混焼が増えれば、排出量は確実に増え、石炭火力発電の延命につながります。このままでは脱炭素への適切な移行ができません」
川上豊幸(レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表)

「みずほの株主のおよそ2割の賛同を得られたことは、同行の化石燃料セクターの投融資方針と削減目標が2050年ネットゼロの公約と整合していないことに対する投資家の強い懸念が表明されたと言えます。また、株主総会開催前の段階でMUFGとSMFGの提案にはそれぞれイタリア最大手のアセット・マネージャーであるANIMAをはじめ、運用資産額1870億ユーロ(MUFG)、2780億ユーロ(SMFG)相当を保有する機関投資家がすでに賛同を表明しています。特に脱炭素へのトランジション(移行)の名の下に、新規のガス開発やLNG設備への支援を継続することは、気候科学に真っ向から矛盾し、グリーンウォッシュであるだけでなく、投資家に容認できない多額の財務リスクをもたらします。リスク軽減のためには、適切な財務およびESGリスク評価を行うとともに、気候科学に整合しない政府政策に依存するのではなく、科学に基づき株主が求めている新規の石油・ガスへの投融資を制限する方針を早急に掲げる必要があります」
渡辺瑛莉 (マーケット・フォース, 日本エネルギー金融キャンペーナー)

「3メガとも、年々ポリシーを改定あるいは強化を進めてきているとは云え、総会で経営陣の説明や質疑応答を聞いていると、気候危機、および気候変動の主要因となっている化石燃料に資金提供することについての危機感にギャップがあると感じざるを得ません。日本政府の方針に従っているのでは、ネットゼロに向かう世界の動きから取り残されてしまいます。銀行に限らず、民間各社が日本の脱炭素対策を牽引するようになってくれることを切に願っています」
鈴木康子(気候ネットワーク プログラム・コーディネーター)

報道機関関係者の皆様へ

気候変動に関する株主提案、2023年も日本は最多更新見込み

2023年、多くの投資家がグローバル企業の気候変動対策の遅れに対して、深刻な懸念を表明しました。化石燃料事業への投融資を続ける金融機関や脱炭素対策に遅れが見られる企業に対して、炭素集約型ビジネスへの関与から低排出セクターへの包括的な移行を求める声は強まる一方です。特に、金融機関の取り組みに対しては厳しい視線が向けられており、今年米国のJPモルガン(35%)やウェルス・ファーゴ(31%)、ゴールドマン・サックス(30%)、バンク・オブ・アメリカ(29%)に対して提出された気候変動対策における移行計画を求める株主提案の賛成比率(かっこ内の数字)は軒並み高水準となりました。2023年、日本のメガバンク3行に対して同時に気候変動に関する株主提案を提出した背景には、国際的な投資家や株主が共有する気候危機への強い危機感と、日本の銀行も早急に1.5℃目標に整合する対策を講じるべきとの考えがあります。

日本では、欧州の機関投資家・年金基金計3社からトヨタ自動車に対して気候変動対策における渉外活動に関する年次報告書を作成することを求める株主提案が提出され、国際的な注目を集めました。加えて、電源開発にも2年連続で仏・アムンディ、英・HSBCアセットマネジメント、豪・ACCR(Australasian Centre for Corporate Responsibility)から気候変動に関する株主提案が提出されています。そのほかの企業に提出された議案も含め、2022年に続き今年も気候変動に関する株主提案は過去最多となる見込みです。

日本と気候変動に関する株主提案の効果

マーケット・フォースは2021年、住友商事に対してパリ協定の目標に沿った事業活動のための事業戦略を記載した計画の策定、及び開示を求める株主提案を提出しました。提案は20%の賛成票を獲得し、その後の石炭火力に関するポリシーの改善につながりました。さらに住友商事は2022年2月にバングラデシュのマタバリ2 石炭火力発電所から撤退することを発表しました。

2020年、気候ネットワークがみずほFGに株主提案を行い、みずほFGは日本の銀行として初めて、2050年までの石炭火力フェーズアウト目標(後に2040年に変更)を設定しました。他の2メガバンクもこの動きに追随しています。

2021年、350.org Japan、RAN、気候ネットワーク、マーケット・フォースは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)に対し、株主提案を提出しました。決議後、MUFGは2050年までにポートフォリオ全体でネットゼロを目指すことを発表し、日本の銀行として初めてネットゼロバンキングアライアンスに加盟しました。その後、みずほFG、三井住友FGも追随しています。

2022年、350.org Japan、RAN、気候ネットワーク、マーケット・フォースは、三井住友FGに対して気候変動に関する株主提案を2件提出しました。株主提案の提出後、同社は石炭採掘部門の投融資方針を強化し、新規および既存プロジェクトの拡張と関連するインフラ開発への投融資を制限しました。2023年5月には、同社はEACOP(東アフリカ原油パイプライン)に関与していないことを発表しました。

気候変動対策を求める企業と株主の対話は、これまで上記のような形で株主提案に至りましたが、これらの議案は企業の取り組みの改善に重要な役割を果たしました。今年の株主提案の対象となった企業も、これまでに情報開示の改善を行っており、今年に統合報告書が公開されれば、さらに改善されることが予想されます。

 

Photo credit: 350 Japan

関連情報

株主提案に関するより詳しい情報(投資家向け説明資料など)は以下のページを御覧ください
Asia Shareholder Action

共同プレスリリース「国内外の環境NGOが東証プライム6企業に株主提案 〜メガバンク全3社含む日本企業の気候変動対策に問題提起〜」2023年4月11日

株主提案の内容に関するお問合せ先

□ マーケット・フォース(Market Forces) https://www.marketforces.org.au
担当者:Antony Balmain E-mail: contact[@]marketforces.org.au

□ 国際環境NGO FoE Japan https://www.foejapan.org/
担当者:深草亜悠美 E-mail: fukakusa[@]foejapan.org

□ 気候ネットワーク https://www.kikonet.org
東京事務所:TEL:+81-3-3263-9210
担当者:鈴木康子 E-mail: suzuki[@]kikonet.org

□ レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)japan.ran.org
担当者:関本幸 E-mail: yuki.sekimoto[@]ran.org

共同プレスリリース:パリ協定に整合する気候変動対策の強化を求める株主提案の議決権行使結果(2022/11/8)

特定非営利活動法人 気候ネットワーク
国際環境NGO 350.org Japan
国際環境NGO FoE Japan
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

2022年4月、国内外の環境NGOとその代表者を含む複数の個人株主が、金融、商社、電力の3業界の4社(三井住友フィナンシャルグループ、三菱商事、JERAの株主である東京電力ホールディングスと中部電力)に対して気候変動対策の強化を求める株主提案を提出しました。これらの提案は、6月後半の各社の株主総会にて否決されましたが、表2に示すように一定数の賛同を得ることができました。提案は主に、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)勧告の内容に沿って、ネットゼロ達成のための具体的な計画の設定・開示を求めるものでした。

今回の調査からは、1) 定款変更という形式への課題が残る一方で、気候変動対策の強化を求める株主提案への支持が国内外の投資家の間で広がっていること、2) パリ協定と整合する経営戦略の策定・開示を求める提案への支持がより集まった一方で、企業のビジネスモデルの根幹に影響をおよぼし得る株主提案への支持も一定程度集まったこと、3) 大手議決権行使助言会社の判断に関わらず、企業との建設的対話(エンゲージメント)を通じて独自の判断を下す投資家が増えてきていること、が見てとれました。

ここに各提案に対する議決権行使の調査結果を報告致します。 

 

株主提案に対する議決結果

4社の提案に対する機関投資家の議決権行使状況を公開情報から調査した結果、2022年10月31日までに把握できたそれぞれの提案に対する賛否(企業・団体の数)は表1のとおりです。(提案詳細は表2を参照)

*分裂とは、企業またはグループ会社の中で議決権行使の賛否が分かれているケース。合計とは、各提案に対して議決権行使を行った投資家の中で、今回の調査で結果が確認できた企業・団体の数の集計。

気候変動に関連する株主提案は世界でも増加しています。こうした提案に対し、長期的な気候変動リスクに適応する戦略の策定および開示は企業価値の向上に資するとする賛成の意見がある一方、中長期的な企業価値に対する気候変動リスクは重要だが定款に入れ込むのは対象企業の業務執行に具体的な制約を加える懸念があるといった反対意見も見受けられました。

日本の会社法の下で株主からの提案を議題に載せるには、定款変更を求めるものに縛られている状況を踏まえると「定款への記載が妥当ではない」ことが判断理由とされてしまう点は課題です。一方で議決権行使結果を見ると、気候変動問題の重要性に対する理解は着実に広がっていることが見てとれます。

 

議案に対する賛成率

議案に対する賛成率からは、パリ協定と整合する経営戦略の策定・開示を求める提案(SMBCグループ議案4・三菱商事議案5)に対して、投資家からの賛成が得やすい傾向が見られます。とはいえ、企業の事業戦略(ビジネスモデル)の根本にも影響し得るネットゼロに向けた移行を求める株主提案にも10~20%程度の支持が得られていることは注目に値します。議決権の2/3以上の賛成を得られていない以上、法的拘束力はありませんが、企業としても無視できない数の機関投資家が気候変動対策の強化を求めていることを示唆しています。

大手助言会社や国内外の運用受託機関の判断

今年は、投資家の議決権判断に一定の影響力を有すると言われている、議決権行使助言会社大手のグラスルイス(Glass Lewis)とインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)の判断も大きく分かれました。

SMBCグループの議案4、三菱商事の議案5、6については、助言会社の意見が割れていたにも関わらず、株主から一定の賛同を得られたのは、2050年ネットゼロという明確な目標に向け、気候変動対策に関する方針に対して独自の判断を下す機関投資家が増えてきていることや、機関投資家が議決権行使前に企業とサステナビリティ(持続可能性)に関する建設的な対話(エンゲージメント)をする機会が増えていることが背景にあると思われます。

2020年にみずほフィナンシャルグループに株主提案を出した時点では、国内の機関投資家が助言会社以外の国外の機関投資家の動向に追随する動きは限定的でした。2020年に日本版スチュワードシップ・コードが改訂されて以降、日本の機関投資家にとっても「気候変動対策と経営戦略」のつながりについての認識が変化してきているように見受けられます。

定款変更に記載する内容として適切かという議論は残るものの、気候変動問題の重要性や、中長期的な計画が企業価値に影響をおよぼすとの認識への理解は広がってきています。その傾向は、国外の主な機関投資家の提案に対する議決権行使結果を見るとより明らかです。

国内投資家に比べると国外投資家は賛成票が多くなっています。一方で、エネルギー危機の中で脱炭素の機運が弱まりかねない状況下において、すべての提案に一括して「反対」した国外の大手資産運用会社があったことは懸念されます。

 

今後に向けて

国内外の機関投資家の多くは、2050年ネットゼロを目指す資産運用会社の国際的な枠組みである「ネット・ゼロ・アセット・マネージャーズ・イニシアティブ(NZAMI)」に署名しています。NZAMIのコミットメントを達成できるかどうかは投資先企業の行動に大きく依存するため、機関投資家は投資先企業に対し脱炭素化に向けた取り組みの強化・加速化を促していく必要があります。

企業側は、TCFDレポートを作成して情報開示を進めたり、2050年に向けた長期目標を設定し、独自の気候変動対策計画を公開するなど、一定の取り組みは進めていますが、株主提案の対象となったいずれの企業も2050年の目標達成に向けた具体的な計画を示すには至らず、対策は不十分なままです。各社は、株主提案への議決権行使結果も踏まえ、脱炭素目標に向けて現実的かつ具体的な行動を盛り込んだ計画を示し、行動を加速させていくことが強く求められています。

 

集計結果

株主提案への議決権行使結果(PDF)

 

関連情報

【プレスリリース】国内外の環境NGOが国内4企業に株主提案(2022年4月13日)

【共同プレスリリース】三菱商事への株主提案は否決:三菱商事は情報開示と気候変動対策の強化を(2022年6月24日)

【共同プレスリリース】 株主総会にて東電・中電とも否決、ただし東電は約9.55%(速報値)獲得(2022年6月28日)

【共同プレスリリース】投資家たちが日本企業に迅速な気候変動対策を要求(2022年6月29日)

本件の連絡先

気候ネットワーク   https://www.kikonet.org
東京事務所:TEL:+81-3-3263-9210
担当:鈴木康子 E-mail: suzuki[@]kikonet.org

プレスリリース『森林と金融 2022年方針評価』発表〜メガバンクら金融機関の森林ESG方針は不十分〜(2022/10/19)

森林破壊・気候変動・人権侵害への資金流入を防げず

  • 森林破壊リスクのある産品企業に投融資する上位 200金融機関(銀行と投資機関)の森林関連方針を評価。総じて方針は弱く全体平均は10点満点で1.6ポイント、約6割の金融機関が1ポイント未満だった。
  • 上記産品企業300社への資金の流れも分析。その結果、パリ協定以降、世界の銀行は2,670億米ドルの融資・引受を行ない、投資機関は400億米ドルの債権や株式を保有していることがわかった(2022年9月時点)。
  • メガバンクの方針評価はMUFGが5.4ポイント、みずほは6.9ポイントと高評価を得るも、問題の多いインドネシアの紙パルプ大手2グループに多額の資金を提供している。

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部サンフランシスコ、以下、RAN)を含む8団体で構成する「森林と金融」連合は18日、「森林と金融」データベースを更新し、「2022年方針評価」を発表しました(注1)。新たに世界大手200金融機関(銀行と投資機関)の森林関連方針を評価・分析した結果、全体平均は10点満点のうち1.6ポイントと総じて低評価で、農林業その他土地利用(AFOLU)セクターに投融資を行う金融機関には十分な環境・社会・ガバナンス(ESG)方針がないことが浮き彫りになりました。

また、更新したデータを分析した結果、パーム油や紙パルプなど森林をリスクにさらす産品(以下、森林リスク産品)への多額の金融サービスを金融機関が行っていることも明らかになりました。 パリ協定締結以降の2016年から2022年9月、森林リスク産品企業300社に2,670億米ドルの融資・ 引受が行われ、新型コロナウイルスの世界的流行時には減少したものの2021年には2018年の水準に戻りました(図1)。農林業その他土地利用セクターは世界の温室効果ガス排出量の23%を占めているにもかかわらず(注2)、不十分な方針のもとで森林リスク産品への資金流入に歯止めがかかっていないことを問題視しました。

評価対象の金融機関には日本のメガバンク3行、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も含まれます。メガバンクが高評価を得た一方、GPIFは0.7ポイントと平均以下でした。

  1位 ノルウェー政府年金基金(7.5ポイント)
  2位 ラボバンク(7.4ポイント)
  3位 ABNアムロ(7.2ポイント)
  4位 みずほフィナンシャルグループ(6.9ポイント)
16位 三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)(5.4ポイント)
31位 三井住友フィナンシャルグループ(4.0ポイント)

*他の日本の金融機関は、41位 JAグループ(3.1)、42位 三井住友トラスト・グループ(3.1)、52位 大和証券グループ(2.2)、57位 野村グループ(2.1)、95位 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)(0.7)など(注3)。

【概要】

『森林と金融』は、東南アジア、ラテンアメリカ、中央・西アフリカにおける紙パルプやパーム油など森林リスク産品への資金流入を包括的に分析したオンラインデータベース。金融商品、銀行・投資機関、国・地域、企業グループ、年、部門別に検索が可能です。

今回の方針評価の対象となった金融機関は、紙パルプやパーム油など森林リスク産品企業に投融資する上位200銀行及び投資機関で、銀行には日本のメガバンク3行、投資機関には年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が含まれます。

  • ●対象事業地域:世界三大熱帯林地域である東南アジア、ラテンアメリカ(アマゾン)、中央・西アフリカ(コンゴ盆地)
  • ●対象産品:牛肉、パーム油、紙パルプ、天然ゴム、大豆、木材(森林リスク産品)
  • ●対象期間:融資・引受は2016年から2022年9月、債券・株式保有は2022年9月時点
  • ●評価方法:各金融機関の森林関連方針を環境・社会・ガバナンス(ESG)の3分野35項目の基準で評価。方法論の詳細(注4)

【主な分析結果】

  • ●方針評価
    全体の平均得点は10点満点中1.6ポイントと総じて低評価でした。全金融機関の59 %が1ポイント未満で、ESGリスクの管理と緩和ができていないことを表しています。また7ポイント以上の評価を得たのはわずか3金融機関で、改善の余地が大きく、気候変動や生物多様性の損失に対処しなければならない緊急性を反映しているとは言えません。
  • ●金融サービス
    対象金融機関の金融サービスの合計を調査・分析。その結果、森林リスク産品企業300社への融資・引受額はパリ協定締結以降の2016年から2022年9月で2,670億米ドル、株式・債券の保有額は2022年9月時点で400億米ドルであることがわかりました。
  • ●日本の金融機関の評価
    みずほとMUFGの方針評価がそれぞれ6.9ポイント、5.4 ポイントと高評価ながらも、インドネシアの紙パルプ大手企業2社のAPP社(シナルマス・グループ)とエイプリル社(ロイヤル・ゴールデン・イーグル・グループ)に多額の資金を提供しています。
    GPIFの評価は昨年に続き0.7ポイントと低く、PRI(責任投資原則)に署名している一方で、ブラジル牛肉大手企業への1,900万米ドルの投資が確認できました。

【ケーススタディ】

ブリーフィングペーパーでは森林破壊の要因となるセクターとして、インドネシアの紙パルプ産業とアマゾンの牛肉産業への金融の役割について事例紹介しています。両産業に金融サービスを提供する金融機関の方針について、環境・社会基準6項目(森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、火災禁止、強制労働・児童労働禁止、先住民族及び地域コミ ュニティの「自由意思による事前の十分な情報に基づく同意(FPIC)」の尊重)で評価したところ、方針は非常に弱く、火災の原因となる環境悪化の防止、先住民族や地域コミュニティの権利保護、強制労働及び児童労働による搾取禁止の措置はほとんど講じられていないことが判明しました。上記6項目は、森林保護の国際基準となっている「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE: No Deforestation, No Peat, No Exploitation)が方針に採用されているかが鍵となります。

RAN日本代表 川上豊幸のコメント

「メガバンクにとっての大きな課題は、3行ともに投融資先企業に対してNDPE方針遵守の公表、あるいはNDPEに準ずる方針作成を求めていますが、企業グループ全体での遵守を明確には求めていない点です。つまり、投融資先企業にNDPE方針の遵守状況の確認を十分に行う体制が整っていません。そして遵守確認は事業ごとに判断され、投融資先企業全体や企業グループ全体での遵守評価が行われてもいません。そもそも、MUFGはNDPE遵守の公表をパーム油の農園企業や他の大規模農園には求めていますが、紙パルプ部門を含む森林セクター方針に含まれていない点も問題です。

 加えて、メガバンクの森林セクター方針では、取得すべき森林認証として、FSC認証よりも脆弱なPEFC認証が認められています。そのため、FSC認証を取得することができない問題企業にも資金提供が可能となっていることから、早急な方針改善が必要です」

 

「森林と金融」連合は、森林リスク産品セクター特有の社会・環境面での負の影響を止めるために、銀行と投資機関に強固なESG基準とデュー・デリジェンス (相当の注意による 適正評価)の必要性を訴えています。

 

参考:インドネシア紙パルプ大手とブラジル牛肉大手への銀行別融資・引受額と方針得点

(「森林と金融 2022年方針評価」ブリーフィングペーパーより)

  • ●MUFGとみずほは、APP社(シナルマス・グループ)とエイプリル社(RGEグループ)の大きな債権者である。APPとエイプリルは自社パルプ工場の生産能力拡大を計画し、インドネシアの泥炭地と熱帯林への負荷の高まりが懸念されている(注5)。
  • ●みずほは紙パルプ部門で火災・人権基準を盛り込んだ融資・引受方針を設けているものの、2016年から2022年9月に12億ドルもの融資・引受を行なっている。これはインドネシア4行とHSBCに次いで6番目に多い金額であり、同行の方針の実施状況が疑問視される。

  • ●ブラジル牛肉部門はアマゾンでの森林破壊の要因となっている。GPIFが投資しているブラジル牛肉大手3社は、10年以上前に署名した森林破壊ゼロの約束を実行できず、いまだにサプライチェーンに森林破壊がないことを保証できていない。 

注1)「森林と金融」データベース(英語日本語
銀行方針評価まとめ(英語、「総合得点(Weighted Total)」で「降順/昇順」を選択)
「森林と金融 2022年方針評価」ブリーフィングペーパー(2022年10月発行)
「森林と金融」構成団体:レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)、プロフンド(Profundo)、TuKインドネシア、バンクトラック、アマゾンウォッチ、レポーターブラジル、サハバット・アラム・マレーシア(国際環境NGO FoE Malaysia)、FoE US

注2)IPCC 『土地関係特別報告書』(英語)
参考:環境省「IPCC 『土地関係特別報告書』の 概要」、2020年度

注3)GPIF以外の、60位以下の日本の金融機関
日本生命保険(62位、1.9ポイント)、オリックス・コーポレーション(71位、1.5)、群馬銀行(81位、1.0)、地方公務員共済組合連合会(132位、0.2)、公立学校共済組合(0ポイント)

注4)方針評価の方法論:200の大手銀行・投資機関の公開されている方針を環境・社会・ガバナンス(ESG)の3分野35項目の基準で採点・分析。各金融機関が基準項目に明確に取り組み、対象企業とサプライヤーに基準を適用していれば10点、サプライヤーに基準が適用されていないなど部分的遵守は8.5点とした。そして35項目の合計得点を0から10ポイントに標準化した。また産品別でも採点され、各金融機関の投融資額の合計に各産品事業が占める割合を算出し、加重平均の上、合計した数字を総合得点とした。

評価基準35項目の概要:

  • ●環境分野(10項目):森林破壊禁止、泥炭地開発禁止など
  • ●社会分野(10項目):先住民族や地域コミュニティの権利尊重(自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)原則の実施)など
  • ●ガバナンス分野(15項目):投融資の透明性、汚職規制、情報開示など

注5)参考:RANブログ「MUFGとみずほが「ネットゼロ」不履行、 インドネシア紙パルプ大手の事業拡大に資金提供」、2022年1月31日

 

団体紹介
レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
東京都渋谷区千駄ヶ谷1-13-11-4F
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

プレスリリース:新調査報告書『炭素爆弾スキャンダル』発表 〜日清食品など大手消費財企業、インドネシア違法パーム油との関連性が継続〜 (2022/9/22)

スマトラ島「ルーセル・エコシステム」の野生生物保護区で追加調査

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は19日(現地時間)、ニューヨーク市で開催中の「気候週間」に合わせ、新報告書『炭素爆弾スキャンダル:パーム油で気候危機を起こす消費財企業』(注1)を発表しました。インドネシアでの現地調査などの結果をまとめ、大手消費財企業は森林保護方針があるにもかかわらず、保護区内の泥炭林を破壊して違法栽培されたパーム油との関連性が依然として続いていることを明らかにしました。

写真:違法アブラヤシ農園のために破壊された泥炭林、インドネシア アチェ州、2018年撮影

RANは今年5月、2019年に続いて(注2)インドネシアのスマトラ島で現地調査を行い、国の保護区である「ラワ・シンキル野生生物保護区」の泥炭地でパーム油が新たに違法生産されている実態を突き止めました。本報告書では2件の違法農園に焦点を当てて追跡調査を行い、大手消費財企業10社のサプライチェーン調査も実施しました。

その結果、日清食品、プロクター&ギャンブル(P&G)、ネスレ、ユニリーバなどの調達先が、同保護区内からの違法パーム油を購入していたことが判明しました。また、花王は違法パーム油の調達を継続している企業と取引を続けていることも分かりました。以上の結果から、問題のあるパーム油がグローバルサプライチェーンに依然として流入している現状が明らかになりました。同保護区は世界的に貴重な熱帯低地林「ルーセル ・エコシステム」の南部に位置します。

【調査概要】

■調査時期:2022年5月

■調査地域:インドネシア・スマトラ島の「ルーセル・エコシステム」内、国の保護区「ラワ・シンキル野生生物保護区」および周辺

■調査方法:現地調査、衛星画像分析(違法農園および森林・泥炭林減少の確認)、サプライチェーン追跡調査(アブラヤシ農園から搾油工場を追跡。製油企業・消費財企業の調達先リストを分析)

■調査対象消費財企業10社:日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース(注3)

■事例概要

事例1)南アチェ州の実業家 Mr. Mahmudin氏が管理する違法農園(写真)

●違法農園で収穫されたアブラヤシ果房が仲介業者を通して、同保護区近くにあるパーム油搾油工場2社、PT. Runding Putra Persada (PT. RPP)とPT. Global Sawit Semesta(PT. GSS)に購入された領収書を記録。

●消費財企業7社(コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、ネスレ、ペプシコ、P&G、ユニリーバ)の調達先搾油工場一覧に、上記2工場の記載が確認された。

●PT. GSSは、2019年の調査でも違法パーム油の購入が確認されている。しかし花王の合弁会社かつ調達先であるパーム油企業であるアピカル(ロイヤル・ゴールデン・イーグル・グループ)は、同工場との取引を継続している(注4)

事例2)アチェ州の女性実業家 Ibu Nasti氏が管理する違法農園(11ヘクタール、東京ドーム2.3個分。以下の地図を参照)

●収穫されたアブラヤシ果房が仲介業者を通して、同保護区近くにあるパーム油搾油工場のPT. Bangun Sempurna Lestari(PT. BSL)に購入された領収書を記録。

●消費財企業6社(日清食品、P&G、モンデリーズ、ネスレ、ペプシコ、ユニリーバの調達先搾油工場一覧(注5)に、PT. BSLの記載が確認された。

●PT. BSLで搾油されたパーム原油は、北スマトラ州ベラワン港に製油所を持つパーム油大手ムシムマス社に直接供給された。同社は米国、ヨーロッパ、日本、中国など世界中にパーム油を輸出している。

不二製油の搾油工場一覧には事例1と2で問題となっている搾油工場3社が記載されていることから、違法パーム油を調達しているといえる。

図:Ibu Nasti氏の農園地図。違法に森林が伐採・排水された農園(●)が保護区内(紫網掛け)に位置していることがわかる。収穫されたアブラヤシ果房は集積場所(水色●)に運ばれ、その後、搾油工場へ供給される

 

RAN日本代表の川上豊幸は「ルーセル・エコシステムは泥炭地を含む熱帯低地林で、いわば大きな炭素の貯蔵庫です。また、絶滅危惧種のスマトラオランウータンとスマトラゾウを絶滅から救う最後の砦でもあります。ラワ・シンキル野生生物保護区をパーム油のために破壊し、違法なアブラヤシ生産を見過ごすことは『炭素爆弾』に火をつけるようなものです」と警鐘を鳴らしました。事例2で、違法パーム油との関連が指摘された日清食品のウェブサイトには以下の点が明記されています(注6)

・「国内の油脂メーカーの調達先である一次精製工場やその先の搾油工場で、現地の法律に違反した行為が行われていないことを油脂メーカーとともに確認しています」

・「持続可能であると判断できるパーム油調達の比率を2030年度までにグループ全体で100%」にする

川上は「今回の調査で、日清食品が調達する搾油工場の一つに違法なパーム油が調達されていたことが判明しました。日清食品はこれを機に、農園までのトレーサビリティ確認、サプライヤーの厳格なリスク評価やモニタリング、『森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止(NDPE)方針』の遵守について、直ちに尽力する必要があります」と強調しました。RANは、気候変動と生物多様性保護は喫緊の課題であることから、同社に持続可能なパーム油調達100%の目標の前倒しを求め、オンライン署名「日清さん、2030年まで、問題あるパーム油を使い続けないで!」を2020年から実施しています(注7)

本報告書は、ニューヨーク市で開催中の「気候週間」と、22日開催のコンシューマーグッズフォーラム(CGF)会合に合わせて発表されました。『炭素爆弾スキャンダル』という題名は、炭素を多く含む泥炭林が伐採および排水されると長期にわたって膨大な量の二酸化炭素を排出することから「炭素爆弾」という呼び名があることに因んでいます。上記消費財企業はCGF会員企業であり、森林破壊禁止や、森林を回復軌道に乗せるための「フォレストポジティブ」を公約していますが、問題のあるパーム油との関係を断ち切れていません。RANは消費財企業に対して、問題企業との取引停止を強く求めています(注8)

 

「ルーセル・エコシステム」、「シンキル・ベンクン地帯」について

シンキル・ベンクン地帯は、ルーセル・エコシステムの南部に位置する、生物多様性の世界的なホットスポットです。地中深くに炭素を豊富に含む泥炭地であることから、貴重で効果的かつ自然の炭素吸収源として世界でも重要な場所です。一帯にはラワ・シンキル野生生物保護区、シンキル泥炭地、クルット泥炭地、そして近接する熱帯低地林が含まれます。この地帯は絶滅危惧種のスマトラゾウ、サイ、トラの重要な生息地であり、世界で最も優先して保全されるべき場所の一つです。一帯はオランウータンの生息密度が世界で最も高く「オランウータンの首都」とも呼ばれてきました。泥炭林は一度伐採され、排水されると、泥炭土壌は「炭素爆弾」となり、何年にもわたって膨大な量の二酸化炭素を排出します(注9)。そのため、本報告書で示されている泥炭地の破壊は、生態系、そして気候変動においても重大なリスクです。

参考「ルーセル・エコシステムをまもる

*詳細は報告書(英語)をご参照ください。また、高解像度写真、ドローン映像、現地調査およびサプライチェーン調査による証拠をご要望の際はご連絡ください。

 

注1)RAN報告書(英語)『炭素爆弾スキャンダル:パーム油で気候危機を引き起こす消費財企業』(Carbon Bomb Scandals: Big Brands Driving Clomate Disaster for Palm Oil)
https://www.ran.org/wp-content/uploads/2022/09/Rainforest-Action-Network-Leuser-Report-FINAL-WEB.pdf

注2)RANプレスリリース「三菱UFJ、高リスクのパーム油企業へ資金提供 〜違法パーム油およびインドネシア泥炭林破壊とのつながりが明らかに〜」、 2019年10月18日
https://japan.ran.org/?p=1522

注3)消費財企業10社は、RANが2020年4月から展開する「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」キャンペーンの対象企業である。熱帯林破壊と人権侵害を助長している最も影響力のある消費財企業・銀行17社に行動を起こすよう要求している。
https://japan.ran.org/?p=2011

注4)花王の搾油工場一覧(ミルリスト、2022年9月22日最終閲覧)、各社の一覧は報告書で確認のこと。

2021年版(報告書で使用)
https://www.kao.com/content/dam/sites/kao/www-kao-com/jp/ja/corporate/sustainability/pdf/progress-2020-001.pdf

2022年上半期
https://www.kao.com/content/dam/sites/kao/www-kao-com/jp/ja/corporate/sustainability/pdf/progress-2022-001.pdf

注5)日清食品の搾油工場一覧(2022年9月22日最終閲覧)、同上。
https://www.nissin.com/jp/sustainability/environment/business/procurement/pdf/PalmOilMills_2021.pdf

注6)日清食品「持続可能な調達」
https://www.nissin.com/jp/sustainability/environment/business/procurement/

注7)RANプレスリリース:日清食品に新署名開始「2030年まで、問題あるパーム油を使い続けないで!」(2020/11/13)
https://japan.ran.org/?p=1730

注8)RANは、今回の報告書で違法パーム油との関連性が確認された消費財企業10社に対し、透明性があり検証可能な森林および泥炭地のモニタリングシステム、パーム油サプライチェーンにおけるトレーサビリティ管理システム、そして「森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE:No Deforestation, No Peatland and No Exploitation)遵守システムが確立されるまでは問題ある供給業者からの調達を即時停止することを求めている。

注9)熱帯泥炭林が地面に貯蔵している炭素は 1ヘクタール当たり約2600 炭素トン(t-C)である。2015年のインドネシアでの大規模泥炭地火災は、米国経済全体の合計よりも多くの二酸化炭素を大気中に放出したが、その火災の理由は主にアブラヤシ農園の開発とパルプ材植林地である。シンキル・ベンクン地帯のシンキルとクルットの泥炭地で火災が発生した場合、同地域の二酸化炭素の排出量だけで、インドネシアの年間総排出量の最大で7%に相当すると推定されている。そうした場合、パリ協定の約束を果たす同国の実行力を損なう可能性がある。

※出典:RAN「The Last of the Leuser Lowlands」(2019年)、「森林と金融調査レポート:投資家には責任がある」(2017年)
http://www.ran.org/wp-content/uploads/2019/09/Leuser_Watch_Singkil-Bengkung_2019.pdf

http://japan.ran.org/wp-content/uploads/2017/06/RAN_Every_Investor_Has_A_Responsibility_June_2017_JP.pdf

 

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

共同プレスリリース:投資家たちが日本企業に迅速な気候変動対策を要求(2022/6/29)

マーケット・フォース
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
国際環境NGO 350.org Japan
国際環境NGO FoE Japan
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

写真:SMBCに気候変動株主提案を提出した団体と個人株主

2022年6月29日(水)、 日本企業に対しネットゼロの達成に向けた行動と透明性の向上を求める株主提案を支持した株主の数が過去最多となりました。

本日から先週にかけて、220億ドル(3兆円)の資産を保有する株主が、三菱商事、三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)、そして日本最大の火力発電事業を保有するJERAを共同所有する東京電力ホールディングスと中部電力の4社に対し、気候リスクの管理を改善するよう訴えました。

株主提案の提案元には気候ネットワーク、マーケット・フォースが団体として、350.org Japan、 FoE Japan、レインフォレスト・アクション・ネットワークに所属する個人が含まれています。

これらの株主提案の議決結果は、気候変動によるリスクの高まりとビジネス慣行を一致させることに課題を抱える企業に対して、これまで以上に厳しい目が向けられていることを意味します。このような深刻な脅威に対抗するための行動を求める機関投資家や株主の強い機運が高まっているのです。

 

三菱商事

「三菱商事は、エネルギー移行を支援すると主張しておきながら、環境負荷もリスクも高いLNGセクターへの大きな投資を続けています。つまり、エネルギー移行と相反する事業に、株主の資産をつぎ込んでいるのです。我々の三菱商事に対し情報開示の拡充を求めた第5号、第6号議案に対してそれぞれ1.2兆円、9600億円に相当する株を保有する投資家から賛同を得ました。この賛同は、同社が新たなLNG計画を進める前に、その計画が2050年ネットゼロ達成のコミットメントに整合したものであるかを証明する必要があるという投資家の明確な支持表明です。」

福澤恵(マーケット・フォース エネルギー・ファイナンス担当)

 

「三菱商事は2050年のネットゼロ目標を掲げていますが、その内容は不明瞭で不十分なものでした。気候変動目標と現状の企業経営のギャップ、対策のあるべき姿について、対話を通じ互いの理解を深めることがある程度できたと感じていますが、必要とされる行動とスピード感がまだまだ足りていません。気候危機は社会全体に影響を及ぼしており、企業自体もその影響を受けます。引き続き、対話やさまざまな手法を通じ、企業に対し行動変容を求めていきたいと思います。」

深草 亜悠美 (FoE Japan気候変動・エネルギー担当)

中部電力

「中部電力とも対話を続けてきましたが、まだまだ気候変動の危機感や世界の脱炭素に向けた流れについての理解に溝があるという印象であり、同社は株主総会でも電力の安定供給を重視し、および国の政策に従うとの会社の方針が主張していました。とはいえ、今回の中部電力と東京電力への株主提案に一定数の賛同が得られたということ、さらに電源開発(J-POWER)に対する国外の機関投資家からの脱炭素戦略の強化を求める株主提案(3つの議案)に各々約26%、約18%、約19%の賛成率を獲得していることからも、両社および2社が株式を保有するJERAの事業経営に影響を及ぼすと期待しています。」

鈴木康子(気候ネットワーク プログラム・コーディネーター) 

「石炭とLNGを拡大するJERAの計画は、中部電力の株主に容認できないリスクをもたらします。世界が気候目標に沿って動くにつれ、中部電力グループの化石燃料関連資産が座礁するリスクが高まります。 JERAへの投資を通してもたらされる気候関連の財務リスクがどの程度なのかより良く理解するため、中部電力の2割もの投資家が、中部電力に明確な開示を要求することに賛同したのは当然とも言えます。」

鈴木幸子(マーケット・フォース 気候とエネルギー調査担当)  

 

東京電力HD

「東電・中電が50%ずつ株式を保有しているJERAは、日本最大の火力発電事業者であり、世界の脱石炭の潮流に逆行して、今なお対策のとられていない巨大な石炭火力発電所を神奈川県横須賀市や愛知県武豊町に建設しています。また、ゼロエミッションを目指すとしながらも、その内容は実用化の目途もたたない水素・アンモニア混焼やCCUS技術に投資を振り向け、 保有する火力発電設備を将来温存する意向です 。このことは、将来の火力発電所の座礁資産化を招く可能性が高く、株主に甚大な不利益をもたらすリスクそのものです。とりわけ東京電力は、原子力損害賠償・廃炉等支援機構が54.74%の株を保有し、事実上国有化された企業です。今回、我々の提案は9.55%の賛成を得ましたが、原子力損害賠償・廃炉等支援機構の持つ54.74%を差し引けば、単純計算で21.1%の賛成があったことを意味し、気候リスクの財務情報開示の重要性が高く認識されていると考えられます。東電・中電および国は、JERAへの投資に対する気候関連の財務リスクを開示することが日本最大のエネルギー企業としての責務であることを認識すべきです。

桃井貴子 (気候ネットワーク理事・東京事務所長)

「今日の結果は、2050年実質排出量ゼロへの道筋で、新規の石炭・ガス火力発電所、新規ガス田と関連インフラを積極的に開発しているJERAのような会社を抱える東京電力に対する株主からの非難の表れです。東京電力に対し情報開示の拡充を求めた私たちの株主提案に、848億円に相当する株を保有する投資家から賛同を得ました。 政府が東京電力の株式の過半数を保有してることを考慮すれば、いかに多くの機関投資家が我々の提案に賛同したかを示しています。」

鈴木幸子(マーケット・フォース  気候・エネルギー調査担当)

 

三井住友フィナンシャルグループ

「議案4は、同趣旨の去年の三菱UFJの23%よりも高い賛同率を得られました。ウクライナ戦争とエネルギー危機による化石燃料価格の高騰が続く状況にあり、また、大手議決権行使助言会社2社が評価した計6つの助言項目のうち、議案4の1つを除き、すべての助言は反対を推奨していたにも関わらずです。このことは、投資家が現状のSMBCグループの脱炭素への取り組みが不十分であり、取り組みを加速すべきだとの強いメッセージを取締役会に突きつけたと言えるでしょう。議案5については全く新しいタイプの提案であり、欧米の金融機関に今シーズンに出された類似の提案と同レベルの賛同率となりました。SMBCグループは投資家の要請に応え、短期・中期目標を含む事業計画を策定し、東アフリカ原油パイプライン(EACOP)をはじめとした化石燃料計画への資金提供からフェーズアウトしていくことで、気候関連リスクの管理を強化するべきです。」

渡辺瑛莉(350 org. Japan シニア・キャンペーナー)

 

「三井住友銀行フィナンシャルグループ(SMBCグループ)の株主の27%が、同社が気候変動リスクを管理できていないことを懸念しています。つまり、27%は資産額で1.5兆円にものぼり、SMBCの事業計画が化石燃料産業からシフトしていることを示す具体的な行動なしに、2050年のネットゼロ目標やパリ協定を支持するというSMBCの主張が空虚であることを懸念しているのです。 これは、SMBCとその取締役会のみならず、他の日本のメガバンクに対して、強い警鐘を鳴らすものです。」

鈴木幸子(マーケット・フォース  気候・エネルギー調査担当)

 

「太田純CEOは株主総会で、森林セクターを重要視していること、そして排出の多いセクターから随時算定していくと発言しました。しかし、SMBCの電力セクターにおける2030年の温室効果ガス削減目標には、木質バイオマス発電や石炭混焼による森林セクターからの排出は含まれていません。このままでは燃料燃焼時の排出がどこにもカウントされないままになり、脱炭素への誤った移行ファイナンスが行われてしまいます。SMBCは電力セクターの排出量算定を見直すと同時に、森林およびパーム油などの農業セクターの排出量を早急に算定し、短期・中期の排出削減目標を策定すべきです。」

川上豊幸(レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表)

各社株主総会の決議結果


SMBC株主総会後の記者会見


SMBC株主総会会場前でのアピール行動


SMBC株主総会会場前でのアピール行動に参加した若者たち


SMBC株主総会会場前でのアピール行動

写真:©️Taishi Takahashi / 350 Japan

編集者・記者のみなさま向けに

2022年、気候変動関連の株主提案が過去最多を記録

環境NGOグループ(マーケット・フォース、気候ネットワーク、350.org Japanの団体と個人)は、今年、日本企業4社に対して、合計6件の株主提案を行っています。6件自体はこれまでで最多ですが、今期は機関投資家を含む他の団体による気候変動関連議案の提出もありました。 

 

株主提案の効果

マーケット・フォースは2021年、住友商事に株主提案を提出しました。その結果、20%の賛成票を獲得し、石炭火力に関するポリシーの改善につなげ、2022年2月にバングラデシュのマタバリ2 石炭火力発電所から撤退することを発表しました。

同年、350.org Japan、RAN、気候ネットワーク、マーケット・フォースは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)に対し、株主提案を提出しました。決議後、MUFGは2050年までにポートフォリオ全体でネットゼロを目指すことを発表し、日本の銀行として初めてネットゼロバンキングアライアンスに参加しました。その後、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループも追随しています。

2020年、気候ネットワークがみずほFGに株主提案を行い、みずほは日本初の銀行として2050年までの石炭火力フェーズアウト目標(後に2040年に変更)を設定。他の2メガバンクもこの動きに追随しています。

株主提案の対象となった企業も、これまでに情報開示の改善を行っており、今年に統合報告書が公開されれば、さらに改善されることが予想されます。

 

参考資料

三菱商事 株主提案原文 (JP/EN)

三菱商事 投資家向け説明資料 (EN)

三菱商事 投資家向け説明資料 (JP)

三菱商事 投資家向け説明資料, アップデート (EN) 2022年5月

三菱商事 投資家向け説明資料, アップデート (JP) 2022年5月

中部電力 株主提案原文 (JP/EN)

東京電力 株主提案原文 (JP/EN)

東京電力HD/中部電力 投資家向け説明資料(EN)

東京電力HD/中部電力 投資家向け説明資料(JP)

東京電力HD/中部電力 投資家向け説明資料 アップデート (EN) 2022年5月

東京電力HD/中部電力 投資家向け説明資料 アップデート (JP) 2022年5月

三井住友フィナンシャルグループ 株主提案原文 (JP/EN)

三井住友フィナンシャルグループ 投資家向け説明資料 (EN)

三井住友フィナンシャルグループ 投資家向け説明資料 (JP)

三井住友フィナンシャルグループ  投資家向け説明資料, アップデート (EN) 2022年5月

三井住友フィナンシャルグループ  投資家向け説明資料, アップデート (JP) 2022年5月

団体紹介
レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報 関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

プレスリリース:新報告書「森林&人権方針ランキング2022」発表〜日清食品、三菱UFJは低評価 〜 (2022/6/15)

「森林破壊禁止」を約束するも、森林破壊と人権侵害を阻止できず
〜グローバル消費財企業・銀行17社の森林及び人権方針を評価〜

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日15日、新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング2022」(注1)を発表しました。

熱帯林地域で森林破壊のリスクが高い産品に関与している消費財企業と銀行の17社を対象に(注2)、各社の方針と実施計画を森林と人権の二分野で評価・分析した結果、自社サプライチェーンおよび投融資がもたらす森林破壊と土地収奪、地域住民及び先住民族への暴力について適切な措置を講じている企業と銀行は一社もなく、森林破壊と人権侵害を阻止できていないと結論づけました。ランキングではユニリーバが「C」評価で最も高く、日清食品ホールディングス三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は5段階評価で最低ランクの「不可」でした。

RAN「森林と人権方針ランキング2022」〜森林破壊と人権侵害をもたらす企業と銀行〜

本ランキングは、原材料調達と資金提供を通じて森林破壊のリスクが高いサプライチェーンに関与している消費財企業と銀行で、影響力の大きい消費財企業10社と銀行7社を対象に、各社の方針について森林と人権分野の10項目を20点満点で評価しています。通称「森林リスク産品」と呼ばれる熱帯林産品はパーム油、紙パルプ、牛肉、大豆、カカオ、木材製品などです。17社には日清食品、花王、MUFGの日本企業3社が含まれます。合計得点に合わせてA(18〜20点)、B(15〜17点)、C(12〜14点)、D(5〜11点)、不可(0〜4点)で評価しました。

最も取り組みが遅れている「不可」と評価された銀行と消費財企業は以下の8社です。 

●消費財企業: 日清食品(日本)、モンデリーズ、プロクター&ギャンブル(P&G)(ともに米国)

●銀行: BNI(インドネシア)、CIMB(マレーシア)、ICBC(中国)、JPモルガン・チェース(米国)、MUFG(日本)

【森林&人権方針ランキング2022】概要

■調査期間:2022年4月~6月
■調査対象者:大手消費財企業(10社):日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース)、大手銀行(7社):MUFG、JPモルガン・チェース、中国工商銀行(ICBC)、DBS、バンクネガラインドネシア(BNI)、CIMB、ABNアムロ
■調査方法:各社の環境及び人権に関する方針を調査・分析(ウェブサイトなどで公開されている最新版)

■主な森林・人権方針の評価項目(全10項目、各2点)
*2点:方針あり/ 全体に採用、1点:一部に採用、0点:方針・計画なし
●「森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE)採用状況:パーム油や紙パルプなど森林破壊を引き起こす産品事業の生産・投融資に欠かせない国際基準(注3)
●NDPE方針遵守の証明・独立検証
●「森林フットプリント」開示:サプライチェーンや投融資先の事業が影響を与える森林の総面積(注4)
●「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)原則」の実施:先住民族および地域コミュニティの権利尊重(注5)
●暴力や脅迫への「ゼロトレランス」(不容認)方針の有無、など

■全体の評価・傾向

●消費財企業
「合格点」といえる「C」と評価されたのはユニリーバのみでした。この一年、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、花王の各社方針では改善が見られましたが、依然として遅れを取っています。ユニリーバは森林リスク産品のサプライチェーン全体がもたらす影響に対処するために、信頼できる方針を採用している唯一の消費財企業で、森林フットプリント(インドネシア・スマトラ島北部に限定)も公表しています。しかし、グローバルサプライチェーン全体の森林フットプリントの開示を約束している企業は、キャンペーン対象外のネスレのみです。

●銀行
7行全てが「D」または「不可」でした。「不可」と評価されたMUFGJPモルガン・チェースはこの一年でNDPEを採用しましたが、両社とも適用範囲が限定的なことから方針に抜け穴が残っています。同じく「不可」だったマレーシアのCIMBは、NDPE方針の採用を発表したものの、適用範囲や実施時期について言及していないことからこの項目で得点を得られませんでした。RANは、消費財企業と銀行が森林破壊や人権侵害を撲滅すると主張しても、NDPE方針の遵守を保証するために信頼でき、かつ独立した検証メカニズムがなければ信用に値しないと警告しています。

■日本企業の評価

 ●総合点は日清食品MUFGが不可(ともに4点)で、花王はD(6点)でした。
 ●3社ともNDPE方針を採用するも、適用の範囲については評価が分かれました。花王は全分野の供給業者について企業グループ全体で適用対象としたことから1点の評価を得ました。しかし日清食品MUFGは取引先および融資先のグループ全体を対象とせず、パーム油事業のみに適用するなど限定的であることから得点はゼロ点でした。
 ●「森林フットプリントの開示」については、日清食品花王が実施を表明したのみで、開示そのものは遅れていることから得点は1点でした。
 ●昨年に続き「FPIC原則の実施」、「NDPE方針遵守の証明」については各社とも得点がありませんでした。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表の川上豊幸は「花王は方針を強化し、昨年の『不可』から『D』評価にランクを上げました。改善の要素として、取引先に企業グループ全体での『森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止』(NDPE)の方針採用を義務付けることとなった点があげられます。これは重要な進展です。一方、日清食品とMUFGは『不可』評価のままでした。大きな理由の一つとして、両社ともNDPEの適用範囲が限定的なことがあげられます。 例えばMUFGは、融資先の企業グループ全体にNDPE方針を適用していなく、かつ、パーム油の農園事業に限定しています。MUFGは、融資の使途が『農園事業ではない』として、持続可能なパーム油の認証機関であるRSPOから除名されたインドネシアのインドフード社への融資を継続しています。MUFGは企業グループとしての評価と方針遵守の確認、パルプ産業を含めた他セクターへのNDPE方針の拡大が課題です」と指摘しました。

「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」キャンペーンは2020年4月の開始以来、評価分析を毎年実施し、今年で3回目の発表となります。RANはさらなる森林破壊と人権侵害を防ぐために、森林破壊と人権侵害を行う大手アグリビジネス企業と林業企業に対して大きな影響力をもつ消費財企業と銀行に実質的な行動を早急に取るよう要求を続けます。

 

「森林&人権方針ランキング2022」説明資料

【日本企業各社の点数と評価概要、改善点】

日清食品(不可:4点、昨年2点):グループ全体の調達方針に「NDPEを支持する」と記載しているが、消費財企業10社ではP&G、モンデリーズと並んで「不可」評価だった。改善のためには、グループ調達方針に供給業者が遵守すべきNDPE項目を明記し、供給業者にNDPE採用を義務付ける必要がある。今年5月、パーム油の搾油工場リストを公開したことは一歩前進といえるが、花王や欧米の大手消費財企業はすでに公開している。森林破壊のモニタリングやデューデリジェンスが開示された。また森林フットプリントの開示についても「順次導入」すると公表したが、実施時期の言及はなかった。こういった情報開示を通して、供給業者および生産地の現状把握と問題対応のための体制強化を進める必要がある。なお、持続可能なパーム油100%調達を2030年までに達成するという目標は大幅な前倒しが必要。

 

花王(D:6点、昨年3点):今年5月、「2022年の活動 花王の持続可能な調達への考え方」で、全ての森林リスクコモディティのサプライヤーとそのグループ企業に対して、NDPE方針採用の義務化を明記した。また、サプライチェーンにおける人権擁護者に対する暴力や不当告発、脅迫などを容認しないことを明記した。また、森林フットプリントの2023年実施に向けて準備を進めていることも公表した。今後はさらなる方針強化とともに、これら方針遵守のためにモニタリング、FPIC確認を含めた遵守の検証、問題事例への対処が求められる。

 

MUFG(不可:4点、昨年4点)今年4月の環境・社会方針の改定では、パーム油事業へのファイナンスをRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証取得企業に限定した。前年まではインドネシア政府とマレーシア政府の認証も認めていたことから、より厳格化された。投融資先への「NDPE遵守の公表」の要求は2021年4月の方針改定で追加されたがパーム油の農園企業に限定され、パーム油購入企業や、紙パルプや大豆など他の森林リスク産品セクターには適用されなかった。この点は、今年の方針改定で見直されることはなかった。MUFGはパーム油セクターへの融資・引受額が東南アジア以外の地域に本社を置く銀行では最大で、紙パルプ産業にも多額の融資を提供している。今後、NDPE方針の適用拡大と、投融資先にNDPE方針遵守のための独立検証を求めていくことが課題になる。

 

【17社の消費財企業・銀行の影響力について】

評価対象となった消費財企業と銀行の多くは「森林破壊禁止」と先住民族の権利及び人権尊重の達成のために、特に国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)をきっかけに、様々なコミットメントと方針を取り入れてきた。

しかし「森林と金融データ」によると、パリ協定採択以降、評価対象銀行は合計で、インドネシア、コンゴ盆地、アマゾンの三大熱帯林地域で操業する森林リスク産品企業に少なくとも225億米ドルを提供した。最も多額の資金提供をしたのはJPモルガン・チェースで69億米ドル、次いでMUFGが40億米ドルだった。同様に消費財企業各社は、地域コミュニティの慣習上の権利を侵害して森林破壊を起こしている生産者から調達を続けている供給業者との取引を停止していない

評価対象企業・銀行で、顧客や供給業者、投融資先企業に「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)原則」の実施証明を要求している企業はない。現時点では、先住民族と地域コミュニティが自らの慣習地での開発を拒否する権利が尊重されていることを確認するための手続きを公表している銀行と消費財企業はない。

【レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表の川上豊幸コメント】

「森林保護は気候と生物多様性の危機を回避する、最善かつ自然の解決策です。今、かけがえのない熱帯林を守るために抵抗している地域住民や先住民族が激しい報復に直面しています。一握りの消費財企業と銀行は熱帯林破壊、土地収奪、人権擁護者の殺害に大きな影響力があるにもかかわらず、それを止めるための取り組みは遅れています。企業の活動が森林や地域コミュニティに与える影響について責任を転嫁し続ける時間は、世界にはもう残されていません。やるべき課題はたくさん残されています」

注1)新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング2022」(日本語版)
方法論
さらなる詳細は英語版を参照ください。

注2)消費財企業(10社):日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース

銀行(7社):MUFG、JPモルガン・チェース、中国工商銀行(ICBC)、DBS、バンクネガラインドネシア(BNI)、CIMB、ABNアムロ

「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」は、RANが2020年4月から展開しているキャンペーンです。熱帯林破壊と人権侵害を助長している最も影響力のある上記の消費財企業・銀行17社に実際の行動を起こすよう要求しています。注3)〜注5)の参考資料としてもご参照ください。

注3)NDPEはNo Deforestation、No Peat、No Exploitationの略。森林減少や劣化に対しての保護(炭素貯留力の高い<High Carbon Stock:HSC>森林の保護、保護価値の高い<HCV: High Conservation Value>地域の保護)、泥炭地の保護(深さを問わず)、人権尊重、火入れの禁止といった要素を含む方針を公表している企業は「あり」の評価を得る。

注4)「森林フットプリント」とは、森林を犠牲にして生産される「森林リスク産品」の消費財企業の利用や、銀行による資金提供によって影響を与えた森林と泥炭地の総面積をいう(影響を与える可能性がある面積も含む)。消費財企業と銀行の森林フットプリントには、供給業者や投融資先企業が取引期間中に関与した森林および泥炭地の破壊地域、さらに供給業者や投融資先企業全ての森林リスク産品のグローバルサプライチェーンと原料調達地でリスクが残る地域も含まれる。森林および泥炭地が先住民族や地域コミュニティに管理されてきた土地にある場合は、その先住民族と地域コミュニティの権利への影響も含む。

参考:RANプレスリリース「新報告書『森林フットプリント評価 2021』発表〜インドネシア・ボルネオ島の森林と地域コミュニティへの影響について、大手消費財企業10社の開示状況を評価〜」2021年10月22日

注5)「FPIC」(エフピック)とは Free, Prior and Informed Consentの略。先住民族と地域コミュニティが所有・利用してきた慣習地に影響を与える開発に対して、事前に十分な情報を得た上で、自由意志によって同意する、または拒否する権利のことをいう。

注6)「ゼロトレランス・イニシアティブ」ウェブサイト

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RANは、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

※更新
・調査概要として調査期間、調査対象者、調査方法を追記しました(2022年6月17日)