サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

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発行物:ポジションペーパー「COP26:気候カオス回避のため、企業に求められる行動」(2021/10/29)

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、29日、ポジションペーパー「COP26 気候カオス回避のため、企業に求められる行動(和訳)」(英語版は9月28日発行)を発行しました。

「CODE RED: 人類への非常事態警報」NY国連本部前でのアクション、2021年10月27日 PHOTO: Erik McGregor

ーー202110月31、パリ協定の締結以降、最も重要な気候変動会議が英国スコットランドのグラスゴーで始まる。しかし、先住民族の人々や最貧国の代表者、世界中の有色人種コミュニティを代表する人々が会議に出席し、その声を確実に届けることができるかどうかは、いまだ疑問視されている。新型コロナウイルスのワクチン接種の機会のみならず、締約国会議(COP)への渡航と参加の仕組みにも不公平さがあるためだ。

COPの目的は、私たちみんなが直面している、世界で同時に起きている気候危機への解決策を構築することだ。しかし、化石燃料および森林破壊産業による極端な気候変動や人権侵害について、最も責任のないコミュニティが最も直接的に大きな影響を受け、ここでもまた、制度的な不正義によって深刻な悪影響を受けていることを記しておきたいーー

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)は、パリ協定の目標達成に向けて地球温暖化を1.5度に抑えるため、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のグラスゴーでの締約国会議(COP26)で実質的な成果を求める協力者たちの世界的なネットワークに参加する

今年の気候サミットは金融に焦点が置かれるーーそれは当然だ。金融が重要なのは、途上国が異常気象に対処し、クリーンエネルギーの未来へと移行するのを支援するためだけではない。銀行や保険会社もまた、化石燃料拡大および、産業が引き起こす森林破壊を助長する資金の流れを直ちに断ち切る必要があるからだ。

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は『第6次評価報告書』の中で、「人間の影響が大気、海洋および陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と宣言した。向こう数十年の間に二酸化炭素およびその他の温室効果ガスの排出が大幅に減少しない限り、21世紀中に、地球温暖化は1.5度および2度を超えるという。

つまり、手つかずの森林や泥炭地、自然生態系、先住民族の領域で、森林破壊のリスクがある産品(以下、森林リスク産品)の生産拡大を推し進める大手銀行や消費財企業は、森林と森の民の人権を守り、権利を擁護する方針を直ちに採用して実施しなければならないということだ。パーム油や紙パルプ、木材、大豆、牛肉生産は森林減少の最大の要因であり、気候危機に拍車をかけている。大手銀行や消費財企業は、そうした目的のために商業伐採や植林地・牧草地の天然林への拡大を推進している顧客企業あるいはサプライヤーとの関係を断ち切らなければならない。

そして私たちは、化石燃料に依存する経済から直ちに脱却する必要がある。保守的な国際エネルギー機関(IEA)でさえ、人間が暮らしやすい未来を守るためには、各国は化石燃料の全ての新規探査および生産を停止し、化石燃料への補助金を打ち切るべきであると明言している。それでも、ウォール街をはじめ世界中の銀行は、化石燃料セクターに数十億ドルを投じ続けている。

森林や、炭素を豊富に含む泥炭地に火が入れられブルドーザーで一掃される場合、または化石燃料が抽出され燃焼された場合、膨大な量の温室効果ガスが大気中に放出される。そして、炭素吸収源として機能するはずの森林や泥炭地は、破壊されるだけでなく、逆に二酸化炭素を放出して気温上昇をもたらす要因となる。非常識かつ無責任である。こうした脅威の存在に加担している企業や金融機関が責任を負うための気候変動のための合意が、地球には必要なのである。

気候危機の規模に応じた対応を取る

指針としての「リアルゼロ」

「2050年までにネットゼロ」はCOP26開催に至るまでの間、官民関係組織の常套句となってきた。しかし、2050年までにネットゼロでは「少なすぎ、遅すぎる」。2050年までに、すでに炭素排出量が壊滅的な影響を引き起こすレベルに達してしまう可能性がある。

FoE (Friends of the Earth)インターナショナルが、気候正義を求める複数団体の支援を受けて発行した報告書の中で述べているとおり、「リアルゼロ」とは「可能な限りゼロとなるよう排出量を削減し、生態学的アプローチを用いて残留排出量を除去する」ことを意味する。つまり、化石燃料が世界全体の排出量の主たる要因である以上、企業や政府が化石燃料の拡大を即時停止し、可能な限り早急に化石燃料全体を段階的に廃止する明確で実行可能な計画を示さない限り、そのネットゼロの約束を信用することはできないということだ。

森林減少や自然生態系の劣化は、世界全体の排出量の大きな要因となっている。炭素吸収源の役目を果たし、大気から最も多くの炭素を除去できる森林を保護することは、排出量を削減する最も安価で早い手段のひとつだ。したがって、世界の消費財企業――つまり、森林リスク産品の調達によって森林破壊につながる需要を推進している企業――に見られる多くのネットゼロの約束も、サプライチェーンで関わる森林やその他の自然生態系への商業伐採や単一作物のプランテーション、牧場の拡大を即時停止すると証明しない限り、信用することはできない。

あまりにも頻繁に「2050年までにネットゼロ」という言葉はPR戦術として使われ、政府や金融機関、企業は実質的かつ意味のある行動を遅らせている。気候変動対策の遅れは、気候変動による影響を否定するのと本質的には同じことである。

「リアルゼロ」の達成には、次の行動が必須となる。

●あらゆるセクターで最前線のコミュニティの権利を尊重し、暴力を終わらせる

IPCCは『土地関係特別報告書の中で、強力かつ組織化された地域コミュニティや先住民族コミュニティは森林減少と生態系崩壊に対する重要な防御であると確認している。こうしたコミュニティは、土地や文化、生活を守り、数世代にもわたってその営みを続けてきた。先住民族の人々が管理しているのは地球上の土地の約2割に過ぎないが、世界の生物多様性の8割を保護している。優先すべきは、人権を中心に据えて擁護し、先住民族の土地権を保証し、先住民族の権利を尊重する気候変動対策だ。それが正しい行動指針だからというだけでなく、最も有効なアプローチでもあるからだ。

多国籍企業や政府が人権を優先課題として擁護できないと、最前線のコミュニティや人権擁護者が受ける暴力、脅迫、不当な犯罪者扱いが増加する。この相関性はアグリビジネスセクターと化石燃料セクターで最も顕著だが、これは居住地で計画中あるいは進行中の開発事業による影響を受ける先住民族やコミュニティの土地保有権、土地利用権、またそれらの事業に対して「FPIC原則」(自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意を与える、または拒否する権利、FPIC=Free, Prior and Informed Consent)との関連がとりわけ深いからだ。土地紛争では、自分たちの領域やコミュニティのこれまでの暮らしを守ろうとする先住民族の人々や女性、活動家たちが、社会的抗議を不当告発されたり、嫌がらせを受けたり、投獄されたりすることが珍しくない。最近のグローバル・ウィットネスの報告書『Last Line of Defence(仮邦題:最後の砦)』によれば、2020年だけで200人もの環境保護活動家が殺害されている。

化石燃料拡大への財政支援を停止し、化石燃料の段階的廃止を開始する

IEAは最近の報告書『IEAロードマップ(Net Zero by 2050)』の中で、2021年以降、新規の石油、ガス、石炭を供給してはいけないとする、これまでの結論を強調している。この主張からも、2050年までのネットゼロを約束している全ての企業が、化石燃料拡大への支援を即時停止すべきであることは明らかだ。化石燃料拡大への支援を続ける銀行や保険会社による「2050年までにネットゼロ」の約束を信用すべきではない。

優先課題として、銀行および保険会社は、人権や環境破壊、炭素排出量の多さに関して悲惨な記録が残るオイルサンド部門への支援を停止すべきである。また石炭産業への支援を即刻停止し、経済協力開発機構(OECD)加盟国とEU諸国では遅くとも2030年まで、他の各国では2040年までに完全撤退する必要がある。

銀行はこれらの短期的な取り組みと並行して、化石燃料融資の完全で管理された公平な段階的停止と、影響を受ける全ての労働者とコミュニティの公正な移行(ジャスト・トランジション)を計画し、スタートさせなければならない。同様に保険会社は、化石燃料に関する保険全体の段階的廃止を計画しなければならない。これらを果たさない約束は全てグリーンウォッシュになる。

森林と泥炭地の保護を優先する

森林と泥炭地は、すでに進行している重大な気候変動に世界が適応していくうえで不可欠であり、今後もその事実は変わらない。健全な森林は河川流域を維持し、海面上昇への影響を軽減し、気温の上昇を抑えるのに必要な植生をもたらし、生物多様性を維持・向上させ、二酸化炭素を吸収するが、こうした便益はほんの一例に過ぎない。天然林と泥炭地の保護は、企業の見せかけの「植林」プロジェクトであってはならず、その土地に根差した気候緩和・適応計画の中で何よりもまず優先されるべきものである。劣化した森林の回復は、炭素の吸収・貯留に極めて重要な役割を果たすため、手つかずの森林を守る取り組みを続ける必要がある。土地利用の転換を阻止し、森林リスク産品サプライチェーンを「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE:No Deforestation, No Peat and No Exploitation)の取り組みと整合するよう改革することも、同じく現存する炭素貯蔵量の増加と保護につながる。逆に、森林の減少と劣化が続けば、気候変動や生物多様性の損失が加速するだけでなく、森林コミュニティは気候変動に対処する力を削がれ、不公平かつ深刻な影響をさらに被ることになる。

気候危機に対する世界規模の方針と介入     は、林業や産品生産、化石燃料の採掘を望む企業に先住民族コミュニティの土地を引き渡すのではなく、自らの土地に対してコミュニティが持つ法的権利を保証し、拡大することを目指さなければならない。最後に残された手つかずの森林景観や天然林および生態系で、林業や産業型の産品生産、そして化石燃料の採掘を拡大することは直ちに停止しなければならない。

産品生産による森林破壊を阻止する

政府と企業は、自らの森林リスク産品の調達や資金提供が、森林減少や森林劣化、権利侵害の原因とならないよう徹底しなければならない。パリ協定の履行に対する包括的方針には、企業によるNDPE方針採用に関する明確な要件を記載する必要がある。その一環として、政府は企業のサプライチェーンおよび金融セクターへの強い規制を採用すべきである。

世界の森林減少の40%は、パーム油や紙パルプ、牛肉、大豆、カカオ、木材製品などの産品生産に起因する。森林リスク産品によって利益を得ている消費財企業や銀行は、森林減少を食い止めるだけでなく、先住民族の土地権を保証して、森林伐採や産業型農業、牧場の拡大による影響を受ける先住民族と地域コミュニティの権利を尊重する厳格な方針を採用し、遵守しなければならない。

さらに、家畜の生産はメタン排出の極めて大きな要因となっている。気候変動の主たる要因に完全に対処するためには、世界の食料システムもまた、破壊的で集約的な農法からアグロエコロジー(農業生態学)的な農法へと転換し、野菜中心の食事を奨励する必要がある。

 

偽りの解決策を防止する

カーボンオフセットは、気候変動の解決策にはならない。

現実的なリスクとして、COP締約国が、偽りの解決策の定着や奨励を狙いとするルールブックを承認する可能性がある。例えばネットゼロ目標達成のためのカーボンオフセット容認や、再生可能エネルギーのポートフォリオに組み込まれた発電用森林バイオマスの大規模燃焼、さらにネガティブエミッション技術といったものが該当する。世界は企業や政府のグリーンウォッシュを認める余裕はない。

カーボンオフセットは、IPCCの定義によれば、「他の場所で発生した排出量を相殺するために削減、回避または隔離される二酸化炭素換算排出量の単位」とされる。オフセットは取引可能なクレジットとしてパッケージ化され、販売されている。金融機関や消費財企業、政府に気候変動対策を求める圧力が高まる中、これらの組織は事業活動での排出量削減とは別物のカーボンオフセットに頼っている。化石燃料セクターにおける最大の汚染者である多くの企業が、ネットゼロ目標の達成に向けて森林カーボンオフセットの利用を検討している。

COP26に向けて大規模汚染企業が示している提案の多くは、カーボンオフセットの仕組みが、森林減少に歯止めをかけて排出量を削減するための市場本位のメカニズムとなる可能性を示唆するものである。しかし、その仕組みは機能しておらず、今後も機能するはずがない。むしろ、あらゆるカーボンオフセットのメカニズムには深刻な問題があることがこれまで明らかになっており、排出量を削減できなかったり、人権侵害や酷使に拍車をかけたりしているケースも多い。エネルギーセクターのネットゼロ目標達成のために、土地・森林によるオフセットの利用を認めてはならない。排出量を相殺するのではなく、削減できる場所で削減することが重要である。

発電用に木材を燃焼した場合、燃焼時のエネルギー当たりの排出量は、石炭よりも多くの二酸化炭素が排出される。さらに、バイオマス産業が推進している炭素回収技術は規模の大きな検証は行われていないため、大規模集中型発電での利用は、気候変動の解決策として認めることはできない。石炭火力発電の廃止が依然として優先事項であり、木質バイオマスを代替燃料として使うことは解決策にならないことを強調しておきたい。

COPの優先課題の一つは、欠陥のある「市場本位の解決策」から、人と地球の双方に利益をもたらすために、多様な生物が暮らす生態系を真に保護・管理し、回復させる一連の「自然本位の解決策」へと転換することだ。今回のCOPでは、偽りの解決策を停止すること、そしてオフセット、森林伐採、単一作物プランテーションの拡大、ネガティブエミッション技術の提案を認めないことを、全世界の合意事項としなければならない。

RANは、オフセットではなく、独立した基金を創設することで資金を調達する非市場型アプローチについて、CLARA(Climate Land Ambition and Rights Alliance)の提案を支持している。このような基金は、委任信託のように、土地・森林による大量のカーボンオフセットを発生させずに、権利を保証し、森林保護のために必要な資金を提供できるだろう。カーボンオフセットは、化石燃料由来の排出量削減に必要な投資を遠ざけ、遅らせるだけである。

パリ協定第6条8項では「総合的及び全体的であり、並びに均衡のとれた非市場型アプローチ」の正当性を強く示しており、これこそCOP26会期中に合意されるべきものである。これらの解決策は第6条2項および第6条4項で目指している定義がやや曖昧なアプローチとは異なる。第6条8項の非市場型解決策もまた保護と回復の優先を基本とし、自分たちの土地の持続可能な管理に対する先住民族コミュニティの法的権利の保証と拡大を目指す必要がある。

提言:気候変動、生物多様性、人権の危機に拍車をかけている銀行、保険会社、消費財企業へ

COP26の開幕までに、全ての金融機関および消費財企業は以下を行う必要がある。

●人権および先住民族の主権を尊重すること

金融機関は、人権および土地権を侵害する事業や企業、また、人種差別の慣行に関与し、条約が保護する先住民族の権利、主権、FPIC原則(自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意を与える、または拒否する権利)を尊重しない事業や企業には、全ての金融サービスおよび投資を停止しなければならない。

消費財企業は、FPIC原則をはじめとする先住民族およびコミュニティの権利を擁護する方針や手順に実効性を持たせることで、人権や土地権が侵害されることのないよう積極的な役割を果たさなければならない。消費財企業は、FPIC原則の権利尊重を検証するために、人権モニタリング(監視)とデューデリジェンス(相当の注意による適正評価)システム、現地調査に基づく方法を構築しなければならない。これは、インドネシアやアマゾン、コンゴ盆地の熱帯林を含む、林業やプランテーション拡大のために新たな開発が進む地域において特に重要である。消費財企業は、国際的な人権規範に従って、先住民族の土地権およびFPIC原則を保証する法的枠組みを推奨すべきであり、そうした枠組みを揺るがすことがあってはならない。消費財企業はまた、土地権の擁護者に対する暴力、不当告発、脅迫、殺害を防止するために、そのような行為を決して容認しない「ゼロトレランス」手順を制定しなければならない。

●森林破壊に関わる支援を停止すること

金融機関は、サプライチェーン全体を見て森林破壊や自然地域の転換、泥炭地破壊に関わりのある顧客企業には、あらゆる金融サービスおよび投資を即時停止しなければならない。

消費財企業は、サプライチェーン全体を見て、森林破壊や自然地域の転換、泥炭地破壊に関与している企業からの全ての調達と、こうした企業への投資を即時停止しなければならない。

●化石燃料への支援を停止すること

金融機関は、化石燃料産業への全ての金融サービスおよび投資の段階的廃止を始めなければならない。これには、化石燃料の採掘や生産および輸送の拡大に関与している事業や企業への全支援の即時停止を含む。

参考情報として、60団体を超える世界の気候変動団体および人権団体が2020年9月に発表した『パリ協定と整合性のある金融機関原則』では、パリ協定との整合性を図ろうとする金融機関の行動を評価するための基準をいくつか提供している。

さらに、RANが2021年4月に発表した『キープ・フォレスト・スタンディング 森林&人権方針ランキング2021』では、影響力のあるグローバル銀行および消費財企業各社(※)が、森林リスク産品セクターで森林破壊と人権侵害を助長している現状に対処するために採用した方針と行動を評価している。

※消費財企業(10社):日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース
銀行(7社):MUFG、JPモルガン・チェース、中国工商銀行(ICBC)、DBS、バンクネガラインドネシア(BNI)、CIMB、ABNアムロ

 

引用資料、参考資料

IPCC第6次評価報告書、全文はこちら

国際自然保護連合(IUCN)の方針声明:手つかずの森林景観を含む原生林について(仮邦題)

生物多様性と気候変動に関するIPCC-CBD(生物多様性条約)共同報告書、要約はこちら

Chasing Carbon Unicorns: The deception of carbon markets and “net zero”(仮邦題:炭素のユニコーン(幻の生き物)を追う~炭素市場の欺瞞と「ネットゼロ」)

IEAロードマップ

Last Line of Defence(仮邦題:最後の砦)』

CLARA(Climate Land Ambition and Rights Alliance)、ウェブサイト入手可能な発行物

『The Final Warning Bel(仮邦題;最後の警報)』

英語版はこちら

“COP26 Glasgow: What’s Needed Now to Avert Climate Chaos”

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

プレスリリース:新報告書「森林フットプリント評価 2021」発表〜インドネシア・ボルネオ島の森林と地域コミュニティへの影響について、大手消費財企業10社の開示状況を評価〜(2021/10/22)

日清食品、花王、プロクター&ギャンブルら、森林と人権に及ぼす影響を十分に開示せず

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、21日(米国現地時間)、新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林フットプリント評価2021」(注1)を発表しました。

写真:アブラヤシ農園開発のために伐採された森林、インドネシア東カリマンタン州ベラウ、2018年4月

本報告書は、大手グローバル消費財企業10社を対象に、インドネシア・ボルネオ島の北カリマンタン州と東カリマンタン州における、各社サプライチェーンの「森林フットプリント」(※)を独自に評価したものです。分析の結果、対象企業10社はサプライヤー企業からの原料調達を通じて、同地域で70万ヘクタール(サッカー場175万個分)以上の熱帯林破壊に加担し、さらに825万ヘクタールの森林が危機にあることを明らかにしました。よって10社はいずれも、インドネシアに残る森林と地域コミュニティに及ぼす影響を十分に開示していないと結論づけました。

本報告書は、 英国グラスゴーで31日から始まる国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)を前に発表されました。森林と泥炭地は炭素吸収源として気候の安定のために機能することから、森林保護はこれまで以上に重要になっています。

※「森林フットプリント」とは、パーム油や紙パルプ、木材など森林を破壊する恐れのある産品が影響を及ぼす森林と泥炭地の総面積をいいます。別紙参照。

『森林フットプリント評価2021』概要

  • 対象地域:インドネシア・ボルネオ島の北カリマンタン州、東カリマンタン州。この地域に残る森林の約3分の2が危機的状況にあることから、両州に焦点をあてた。
  • 対象企業(多国籍消費財企業10社):日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース。
  • ●10社は、北カリマンタン州と東カリマンタン州のパーム油や紙パルプ、林業企業からの原料調達を通じて、同地域にある70万ヘクタール(サッカー場175万面分)以上の熱帯林の破壊に加担していることが明らかになった(図1)。
  • ●10社が「森林破壊禁止」の方針をサプライヤー企業に徹底しなかったために過去10年間で失われた森林と泥炭地について詳しく説明し、両州だけで825万ヘクタール以上の重要な熱帯林が危機にあることを示した(図2)。
図1:北カリマンタン州・東カリマンタン州での森林破壊(70万ヘクタール、2009年〜2019年)
凡例:赤(泥炭地)、茶(2009〜2011年)、薄茶(2012〜2014年)、水色(2015〜2017年)、緑(2018〜2019年)
図2:北カリマンタン州・東カリマンタン州で危機にある森林(825万ヘクタール)
凡例:ピンク(泥炭地)、危機にある森林〜青(事業管理地内の劣化していない森林)、水色(事業管理地内の劣化した森林)、赤(開発可能地域の劣化していない森林)、黄(開発可能地域の劣化した森林)、保護されている森林〜緑(劣化していない森林)、黄緑(劣化した森林)
  • 両州で200万ヘクタール以上の森林が、先住民族コミュニティが何世代にもわたって生活し、保護してきた集落や慣習地において残されていることが明らかになった。しかしコミュニティの土地が林業企業や農園企業に割り当てられたことから、多くのコミュニティの森林を保護し管理する権利は尊重されていない(図3)。
図3:北カリマンタン州・東カリマンタン州の慣習地と、住民参加型「社会林業」のために政府が割り当てた地域(出典:Ancestral Domain Registration Agency: BRWA(インドネシアの団体))
凡例:赤(泥炭地)、「社会林業」〜緑(村落林)、オレンジ(住民造林)、水色(コミュニティ林)、BRWAからの慣習地〜青(慣習地)

RAN森林政策ディレクター ジェマ・ティラックは「世界の主な科学者たちは、現在の気候危機を『人類へのコードレッド(非常事態発生を告げる警報)』と呼んでいます。プロクター&ギャンブルのような多国籍消費企業と、倫理的とはいえない取引先のサプライヤー企業は、企業方針の抜け穴や口約束の陰で、森林破壊の悪循環を続けています。地球で最後の手付かずの森林が伐採されている一方、何世代にもわたって森林を維持してきた地域コミュニティからは土地の権利が奪われ、人権が侵害されています」と訴えました。

RAN日本代表 川上豊幸は「今月末からCOP26が始まります。今まさに、森林と泥炭地の破壊を防ぎ、森に住む人々の土地の権利を守るための行動を起こすときです。日清食品や花王などの大手消費財企業は、森林破壊を引き起こす開発事業の拡大という脅威の最前線に立たされている人々の人権や土地権を守るために、今すぐ積極的な役割を果たさなければなりません」と強調しました。

RANは2020年4月から「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」キャンペーンを展開し(注2)、上記10社に対して、自社のグローバルサプライチェーンにおける「森林フットプリント」の開示を求めてきました。「森林フットプリント」という言葉はこれまでも使われてきましたが、RANで用いる場合、消費財企業が商業的な森林伐採や農業の拡大によって、これまでに影響を与えたり、今後与える可能性がある森林と泥炭地の総面積を意味します。また、森林および泥炭地が、先住民族や地域コミュニティに管理されてきた土地にある場合、先住民族と地域コミュニティの権利への影響も含みます。森林フットプリントの開示にあたっては、企業は森林フットプリント全体を説明するために行なった一連の行動を記述し、これ以上の森林破壊と権利侵害を防ぐためにサプライヤー企業に介入する方策を立てるとともに、過去の被害の是正措置を取る必要があります。

これまでユニリーバ、ネスレ(注3)コルゲート・パルモリーブの3社が、インドネシア・スマトラ島北部に限定した森林フットプリントを公表しています。日本企業では、花王は森林フットプリント導入について協議している点を「2021年活動方針」(注4)で開示しています。一方、日清食品からは正式な返答を得られませんでした。

*報告書全文はこちら(英語)。概要および評価への各社回答も掲載されています。 www.ran.org/borneo_forest_footprint

注1)新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:ボルネオ森林フットプリント評価2021」

注2)「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」は、RANが2020年4月から展開しているキャンペーンです。熱帯林破壊と人権侵害を助長している最も影響力のある上記の消費財企業・銀行17社に実際の行動を起こすよう要求しています。

注3)参考:RAN声明「世界初、ネスレ『森林フットプリント』開示を歓迎〜インドネシア・パーム油サプライチェーンで影響を受ける森林面積を公表〜」(2020/12/11)

注4)花王「2021年の進捗」

※更新:以下の内容を追加しました(2022年1月11日)。
・「キープ・フォレスト・スタンディング:ボルネオ森林フットプリント評価2021」日本語要約版

別紙「森林フットプリントについて

「森林フットプリント」とは?

森林フットプリントとは、消費財企業の森林リスク産品(※)利用や銀行による森林リスク産品への資金提供によって、これまでに影響を与えたり、今後与える可能性がある森林と泥炭地の総面積をいう。消費財企業と銀行の森林フットプリントには、サプライヤー企業や投融資先企業が取引期間中に関与した森林および泥炭地の破壊地域、さらにサプライヤー企業や投融資先企業全ての森林リスク産品のグローバルサプライチェーンと原料調達地でリスクが残る地域も含まれる。上記の森林および泥炭地が、先住民族と地域コミュニティに管理されてきた土地にある場合は、その先住民族と地域コミュニティの権利への影響も含む。

※森林リスク産品:森林破壊の原因の多くはパーム油、紙パルプ、木材製品などの産品生産で、これらの産品は森林を破壊するリスクがあることから「森林リスク産品」と呼ばれている。

リスクにさらされている地域には、供給業者、投融資先企業、またはそれらに原料を供給する独立系企業の管理下にあるプランテーション(大規模農園や植林地)開発区域内の森林と泥炭地、そして上記企業のグローバルサプライチェーンの原料調達(工場、精製所、加工処理施設など の周辺地域)における伐採予定地や農業開発用に割り当てられた地域が含まれる。これらの全てが把握され、公開されている必要がある。

RANは、消費財企業および銀行が森林フットプリントを把握し開示するためには以下のようなステップを提案している。

1.情報開示
・自社サプライチェーンで森林リスク産品を調達している国、金融機関の場合は顧客企業の事業が森林リスク産品関連事業で活動している国を特定し、自社の年次報告書やサステナビリティレポートなどで情報開示する。
・優先すべき森林リスク産品の調達を行っている国・地域を選択する。当該地域で森林リスク産品を生産、加工、取引しているサプライヤー企業を特定し開示する。

2.森林・泥炭地減少へのリスクを調べる
・特定されたサプライヤー企業・企業グループからの調達や、当該企業への投融資によって、これまで影響を与えたり、今後与える可能性のある森林や泥炭地の総面積と位置を把握するために空間分析を行い、地図を作成する。
・作成した地図を自社の年次報告書、サステナビリティレポート、企業ウェブサイトなどで開示する。

3.地域域コミュニティの権利・土地紛争
・選択した調達国・地域でサプライヤー企業や投融資先企業の事業によって影響を受ける森林や泥炭地に居住する、先住民族や地域コミュニティの権利に及ぼす影響に関する情報を調査する。
・情報には先住民族や地域住民が伝統的に所有する森林や泥炭地に関する土地への権利、アクセス、利用および保全への影響を含む。
・これまで影響を与えたり、今後与える可能性のある森林や泥炭地の総面積と位置を把握するために空間分析を行い、地図を作成する。

4.2と3の統合
・森林減少のリスクに関して得た情報と、地域コミュニティへの影響と土地紛争に関するリスクをまとめた、国や地域ごとの「森林フットプリント地図」を完成し、開示する。

 

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

NGO共同声明:MUFG、邦銀初の2050年カーボンニュートラル宣言発表を受けて(2021/5/18)

パリ協定と整合的な具体策は示さず、株主提案は継続へ

特定非営利活動法人 気候ネットワーク
マーケット・フォース
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)
国際環境NGO 350.org Japan

環境NGO4団体は本日18日、三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)が17日に「MUFG カーボンニュートラル宣言」(注1)を公表し、2050 年までに投融資ポートフォリオの温室効果ガス排出量をネットゼロにすることなどを発表したことを受け、以下の声明を発表しました。

写真:気候ネットワークと個人株主3名がMUFGに株主提案を提出、2021年3月、東京

今般のMUFGの発表は先月のポリシー改定に続き、3月に気候ネットワークおよび他環境NGO3団体に所属する個人株主3名(以下、共同提案者)が、MUFGに対してパリ協定の目標に沿った投融資を行うための計画を決定・開示することを求めた株主提案を提出した後に発表されました。

環境NGO4団体は、MUFGによるパリ協定の目標に向けた方針強化を一定の前進と受け止め、歓迎します。

しかし、本方針では株主提案が要求する具体的な指標や短・中期目標が示されず、なおパリ協定との整合性が取れていると判断することはできません。共同提案者はMUFGへの株主提案を継続することとし、引き続きMUFGへのさらなる行動強化を求めていく予定です。

以下は、各目標およびセクター別方針における主な課題点です。

短・中期の目標の設定は先送りに
MUFGは邦銀として初めて、2050年にファイナンスによる排出量をネットゼロにするカーボンニュートラル目標を公表し、同目標を掲げる国際的イニシアティブのNet-Zero Banking Alliance(NZBA、注2)への加盟を発表しました。2050年ネットゼロは気温上昇を1.5度に抑えるために必要な長期目標であり、日本政府が掲げた目標でもあります。気候危機を加速する化石燃料へ資金提供を行うアジアのトップ銀行(注3)であるMUFGがネットゼロにコミットしたことは歓迎されます。しかし、短・中期の目標を設定することなしに、「2030年の中間目標は2022年度に設定・公表する」と表明することに留まっています。気候変動の緊急性、並びに、1.5度目標達成のためには2030年までの排出量半減が必要という科学的コンセンサスを鑑みれば、MUFGが短・中期の目標を今回掲げなかったことにより、パリ協定の整合性を確認することができないままであることは懸念されます。また、目標の達成のためには、全ての投融資ポートフォリオのGHG排出量(Scope3)の計測・公表が必要ですが、MUFGはこの点をより明確にするべきです。

石炭火力発電からのフェーズアウト目標
MUFGは昨年度、2040年度に石炭火力発電向けプロジェクトファイナンス残高をゼロにする削減目標を掲げましたが、今後、「事業に占める石炭火力発電の比率が高いお客さま向けコーポレート与信の残高目標を開示する方針」を明らかにしました。プロジェクトファイナンスのみならず、コーポレートファイナンスに踏み込む削減目標の開示方針を明らかにしたことは前進ですが、1.5度目標達成のために、2030年にOECD諸国で、2040年に世界全体で石炭火力発電所の全廃が必要とされる中で、MUFGが石炭火力発電の全廃にコミットしなかったことは科学に反するだけでなく、COP26議長国によって表明された要請とも反します。

石油・ガスセクター、森林関連セクターは進展なし
先月のポリシーフレームワークの改定時と同様に、本発表でも炭素集約的な石油・ガスセクターの拡大および森林・泥炭地破壊を止める包括的なコミットメントが示されませんでした。パリ協定の目標に整合するには、これらのセクターの新規開発・拡張および自然生態系の劣化を加速する余地はありません。MUFGが、化石燃料への資金提供者として世界第6位の銀行であり、森林破壊を伴う産品への世界最大の資金提供者に数えられることに鑑みれば、最近のコミットメントをもってしても、投融資ポートフォリオからの過大な炭素集約度を管理することができているとは言えません。

株主からのコメント

気候ネットワークの国際ディレクターの平田仁子は、「2050年ネットゼロのゴールを明確にし国際的な連盟に参加したことは、大きな一歩です。しかし、そこに向けて、投融資を通じた石炭火力からの排出削減やコーポレートファイナンスの脱炭素化を短中期にいかに着実に実現するのかの具体的な指標と目標は定まっていません。パリ協定の整合性を図るためにはさらなる方針強化とその加速が必要です」と述べました。

国際環境NGO 350.org Japan代表である横山隆美は、「MUFGが2050年までに投融資ポートフォリオの温室効果ガス(GHG)排出量のネットゼロを宣言したことは邦銀初の試みであり、一定の前進です。しかし、1.5度目標との整合性に必要な短・中期目標を設定しなかったことは大きな懸念です。気候危機の解決に寄与するためには、新規の化石燃料への投融資を直ちに止め、石炭火力を筆頭に科学の要請に沿った化石燃料の包括的なフェーズアウト戦略を早急に構築すべきです」と指摘しました。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)日本代表である川上豊幸は、「MUFGの『ネットゼロ宣言』は、自社が多大な二酸化炭素の排出源であると認識しているという点で重要です。しかしネットゼロの約束は、化石燃料の拡大と森林破壊への資金提供をすぐに停止しなければ意味がなく、問題の多いカーボンオフセットへの依存も容認できません。また、MUFGの方針は炭素集約型産業への重要な資金提供銀行となっているインドネシアの子会社には適用されていない点も大きな懸念です」と強調しました。

マーケット・フォース(Market Forces)エネルギーキャンペーン担当である福澤恵は、「MUFGは『カーボンニュートラル宣言』によって気候変動へ真剣に取り組んでいることを投資家向けにアピールしたつもりかも知れませんが、十分なアピールになっていません。改定されたポリシーを持ってしても化石燃料や石炭火力発電事業者へ投融資を継続できます。MUFGは深刻さと緊急性を増す気候危機問題の表面を取り繕っているに過ぎず、解決にはほとんど貢献しません」と述べました。

注1)三菱 UFJ フィナンシャル・グループ「『MUFG カーボンニュートラル宣言』について」2021年5月17日
注2)国連環境計画金融イニシアチブ(UNEP FI)「Net-Zero Banking Alliance(NZBA)」
注3)RANプレスリリース「RAN他『化石燃料ファイナンス成績表2021』発表〜世界60銀行、パリ協定後も化石燃料に3.8兆ドルを資金提供〜」2021年3月24日

本件に関するお問い合わせ
気候ネットワーク 平田仁子 khirata@kikonet.org
マーケット・フォース 福澤恵 meg.fukuzawa@marketforces.org.au
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN) 関本幸 yuki.sekimoto@ran.org
国際環境NGO 350.org Japan 渡辺瑛莉 japan@350.org

英語の声明はこちらから:
“MUFG Commits to Carbon Neutrality by 2050 but Punts Detailed Plan on Paris Alignment – Shareholders Will Not Withdraw Climate Resolution”

NGO共同声明:みずほ、石炭採掘・化石燃料コーポレートファイナンスなどで進展するもパリ協定の目標達成の水準にはなお及ばず(2021/5/14)

昨日13日、みずほフィナンシャルグループ(以下、みずほ)が「サステナビリティアクションの強化について」を発表し(注1)、パリ協定の目標と整合するポートフォリオへの転換、化石燃料企業の移行リスクへの対応強化、新規炭鉱採掘への投融資禁止などの方針を明らかにしました。みずほのポリシー改定は、いくつかの点で他のメガバンクよりも前進しており、脱炭素化に向けた方針強化を歓迎します。一方で、現時点でそこに届かない点もあります。今改定をもってしてもパリ協定と整合的であると判断することは難しく、気候危機の緊急性を踏まえて、より具体的な目標や指標、ロードマップの早急な策定が求められます。

みずほ株主総会会場前での環境NGOアクション、2020年6月25日、東京

石炭採掘(一般炭)セクター方針の改定
今般、「新規の炭鉱採掘(一般炭)を資金使途とする投融資等は行わない」としたことは他の邦銀に先駆けた方針強化として歓迎します。一方で、「既存の炭鉱採掘(一般炭)を資金使途とする案件については、パリ協定と整合的な方針を表明している国のエネルギー安定供給に資する案件に限り、慎重に検討の上、対応する可能性あり」と例外を残したことは不十分です。

石炭火力セクター方針は抜け穴残す
石炭火力発電所の投融資等停止の例外として「当該国のエネルギー安定供給に必要不可欠、且つ、リプレースメント案件は慎重に検討」「革新的、クリーンで効率的な次世代技術の発展」等の規定を残したことは問題です。現在実用化されていないCCUSやアンモニア・水素混焼等は、2030年までの排出削減にほとんど寄与せず、石炭火力を延命させるものになりかねず、パリ協定1.5度目標に必要な中期目標と整合しません。OECD諸国では2030年までに、世界全体では2040年までに石炭火力発電所を全廃するための具体的なロードマップを描くべきです。

化石燃料企業の移行リスクをセクター方針に追加
「石炭火力発電、石油火力発電、ガス火力発電、石炭鉱業および石油・ガスを主たる事業とする企業は、脱炭素社会に向けた移行が適切になされない場合、移行リスクに晒される可能性があり」「〈みずほ〉は、気候変動に伴う移行リスクへの対応が進展するよう、取引先とエンゲージメントを行い、一定期間を経過しても、移行リスクへの対応に進捗がない取引先への投融資等は、慎重に取引判断を行います」と発表したことについては、今回初めて化石燃料に依存する企業に対するコーポレートファイナンスに踏み込んで対応しようとする姿勢がみられます。ただし、その具体性には欠けています。エンゲージメントの実効性を担保するためにも、パリ協定と整合的な目標・指標を含む具体的なロードマップを示す必要があります。

パリ協定の目標と整合するポートフォリオ
「環境方針」の改定として、「パリ協定における世界全体の平均気温上昇を抑制する目標達成に向けた資金の流れをつくり、 同目標に整合したファイナンスポートフォリオへと段階的に転換を図っていきます」と明確化したことは歓迎されます。一方で、1.5度目標に整合するには(注2)、石炭火力向け与信残高削減目標をコーポレートファイナンスへ適用拡大、より早期の実現、石油・ガスおよび森林関連セクターへ拡大することが求められます。今回、北極圏での石油・ガス採掘事業、オイルサンド、シェールオイル・ガス事業を明記しましたが、環境・社会リスク評価の実施に留まり、パリ協定の整合性に必要な具体的禁止事項が示されるべきです。
また、SMBCグループが投融資ポートフォリオのGHG排出量把握(Scope3)にコミットしたことは重要であり、みずほも続くべきです。

大規模農園(大豆等)セクター、パームオイルセクター
パーム油および木材・紙パルプセクターの顧客企業に限定されていた「森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ」(NDPE)等の環境・人権方針の策定や、「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC、注3)の尊重が、大規模農園(大豆等)セクターにも拡大された点は歓迎します。一方パーム油セクターでは、顧客農園企業に全農園での「持続可能なパーム油のための円卓会議」(RSPO)認証取得を求めるものの、取得予定のない企業との取引も「同水準の対応」であれば可能とし、抜け穴になる可能性があります。方針は顧客の独立系サプライヤーやパーム油購入企業には適用されないため、人権侵害や環境破壊への加担を避けることは困難です。そしてNDPE方針の策定やFPICの尊重を求めるだけでなく、遵守状況の確認も求められます。さらに農園開発時の火入れの禁止を明記しなかったことは気候対策面から大きな失敗です。

<各団体からのコメント>
国際環境NGO 350.org Japanキャンペーナーの渡辺瑛莉は「今般のみずほの方針は、石炭採掘の新規投融資停止など、邦銀の中では最も先進的だと言えますが、世界の主要銀行と比べると低い水準に留まっています。パリ協定と整合的なポートフォリオへ転換、化石燃料企業と移行リスクエンゲージメント強化などは具体的な中期目標や指標の設定・公表、化石燃料セクターからのフェーズアウト方針などがなければ、実効性あるポリシーとは見なされません。今後のさらなる方針強化に期待します」と述べました。

気候ネットワークの国際ディレクターの平田仁子は、「昨年、私たちの株主提案は否決されましたが、提案していたパリ協定との整合性を図ることに向けて方針を強化し、コーポレートファイナンスにも踏み込んで対応しようとする姿勢は重要な進展だと考えます。しかしその具体的目標設定に至らなかったこと、石炭火力の延命の可能性を残していることなど、対応はまだ不十分であり、更なる強化が必要です」と指摘しました。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク「責任ある金融」シニアキャンペーナーのハナ・ハイネケンは、「投融資先企業との対話を通じてパリ協定と整合する事業を促す意図は評価できますが、気候危機を回避するためには化石燃料の拡大、森林破壊、泥炭地の破壊などを直ちにやめなければいけません。化石燃料及び森林破壊を起こす産品産業への資金提供者として世界トップ10に入るみずほは、現在のポートフォリオを大胆に変えることが必須です」と指摘しました。

注1)みずほフィナンシャルグループ「サステナビリティアクションの強化について」2021年5月13日

注2)詳細はRAN「パリ協定と整合性のある金融機関原則」を参照。

注3)Free, Prior and Informed Consentの略。先住民族と地域コミュニティが所有・利用してきた慣習地に影響を与える開発に対して、事前に十分な情報を得た上で、自由意志によって同意する、または拒否する権利のことをいう。

国際環境NGO 350.org Japan
気候ネットワーク
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
国際環境NGO FoE Japan
メコン・ウォッチ
レインフォレスト・アクションネットワーク(RAN)

<本件に関するお問い合わせ>
国際環境NGO 350.org Japan 担当:渡辺 japan@350.org
気候ネットワーク 担当:平田 khirata@kikoent.org
レインフォレスト・アクションネットワーク(RAN) 担当:関本 yuki.sekimoto@ran.org

NGO共同声明:三井住友フィナンシャル、石炭火力方針を改定もなお抜け穴〜パリ協定と整合せず〜(2021/5/12)

(English follows Japanese)

本日、三井住友フィナンシャルグループ(以下、SMBCグループ)が「気候変動問題への対策強化について」(注1)を発表し、石炭火力セクター方針の改定、グリーンファイナンス及びサステナビリティに資するファイナンス目標の改定などを明らかにしました。環境NGOは、脱炭素化に向けた一定の方針強化を歓迎するものの、パリ協定と整合的なビジネス戦略としてはなお課題が多いとの認識の下、下記の声明を発表しました。

三井住友フィナンシャルグループ株主総会会場前でのアピール行動、2018年6月25日

石炭火力セクター方針の改定
「石炭火力発電所の新設および拡張案件への支援は行いません」と明記し、従来の超々臨界圧(USC)技術などの例外規定を取り除きました。しかし、方針には明記されていないものの、NGOとのやり取りにおいて、「CCUSやアンモニア・バイオマス混焼等、トランジションに資するものについては支援を検討可としている」と明らかにしました。これらの技術はいまだ実用化されておらず、2030年に温室効果ガスを半減するという、パリ協定1.5度目標に必要な中期目標の達成には何ら寄与しません。アンモニアや水素の混焼については、1-2割程度の混焼が目指されているところであり、全く解決策にはなりません。1.5度目標達成のためには、OECD諸国では2030年までに、世界全体では2040年までに石炭火力発電所は稼動を停止する必要があり、単にCCUSや混焼の技術を備えていることを例外扱いするのではなく、1.5度目標と整合的かどうかを厳格に判断する基準が必要です。

投融資ポートフォリオ排出量(Scope3)の把握
SMBCグループが「2050年カーボンニュートラルに向けた長期行動計画および具体的な施策を定めていく」とし、「投融資ポートフォリオのGHG排出量把握(Scope3)と中長期目標の設定」を行うと発表したことは、他の邦銀に先駆けた取り組みとして歓迎します。電力・石油・ガスセクターのScope3の把握を始めるとのことですが、石炭採掘を含めた化石燃料セクター全般およびパーム油を含む森林関連セクターのバリューチェーン全体に今後スコープを拡大していくことを期待します。また、三井住友DSアセットマネジメントなどの運用会社を含めたグループ全体での取り組みが重要です。

中長期目標は設定せず
一方で、欧米の銀行が投融資ポートフォリオの排出量ネットゼロに相次いでコミットしていることと比べて(注2)、同グループの今次改定が「今後の目標設定」に留まったことは懸念されます。昨年同グループが定めた「2040年度に石炭火力発電向けプロジェクトファイナンスの残高をゼロにする」という目標は、パリ協定に整合するために、石炭火力セクターのコーポレートファイナンスにも適用を拡大し、より早期に実現されなければなりません。また、石油・ガス、およびパーム油を含む森林関連セクターに関する改定が何ら行われなかったことは大きな懸念です。これらのセクターも含め、パリ協定と整合する具体的な指標と中長期目標の速やかな設定が求められます。

<各団体からのコメント>
国際環境NGO 350.org Japan代表の横山隆美
は「気候危機の緊急性に比べて、今般のSMBCグループの方針改定は遅々としていると言わざるを得ません。1.5度目標を守るためには、科学の要請に基づいて早期に脱石炭・脱化石燃料を実現する必要があります。現状を見て積み上げるのではなく、あるべき姿からバックキャスティングを行うための強力なリーダーシップが求められます」と述べました。

気候ネットワークの国際ディレクター平田仁子は「今回の方針強化は、パリ協定の下での行動強化の必要性を認識したものと受け止めたいが、SMBCグループのファイナンスがなおパリ協定に整合するものとは評価できません。特に石炭火力セクターにおいて、明示的に書かれていないものの、CCUSやアンモニア・水素混焼技術を容認していることにより、石炭火力の延命を支援することにつながることが大いに懸念されます」と述べています。

「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、プログラム・ディレクターの田辺有輝は、「石炭火力発電事業への支援停止について、SMBCグループはNGOとのやり取りにおいて、CCUSやアンモニア・バイオマス混焼等を例外としていることを明らかにしましたが、公開されている方針の文言から、このような例外規定があることを想定することは不可能です。このような例外規定があるのであれば、あらかじめ方針で明示するべきです」と述べています。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)、責任ある金融シニア・キャンペーナーのハナ・ハイネケンは、「SMBCグループは、ファイナンスによる温室効果ガス排出量の算定を約束したことで、他の邦銀から一歩先に踏み出しました。しかしSMBCの気候フットプリントの重要性を考えると、同グループが化石燃料全般、森林破壊および泥炭地破壊への資金提供停止を含め、1.5度目標のタイムラインに基づいて排出量ゼロを明確に誓約しない限り、真剣に受け止めることはできません」と指摘しました。

注1)https://www.smfg.co.jp/news/j110309_01.html

注2)https://www.unepfi.org/net-zero-banking/

<本件に関するお問い合わせ>
国際環境NGO 350.org Japan 担当:渡辺 japan@350.org
気候ネットワーク 担当:平田 khirata@kikoent.org
「環境・持続社会」研究センター(JACSES) 担当:田辺 tanabe@jacses.org
レインフォレスト・アクションネットワーク(RAN) 担当:関本 yuki.sekimoto@ran.org

*5月13日追記:5月12日配信内容に以下を追加しました。
●RANも13日に賛同団体として連名し、ハイネケンのコメントを追加しました。
●「森林セクター」としていましたが「パーム油を含む森林関連セクター」に変更しました。

Loopholes Remain in SMBC Group’s New Coal Policy
Japan’s Megabank Still Not Aligned with the Paris Agreement

Today, Sumitomo Mitsui Financial Group (hereinafter SMBC Group) published a statement entitled “Reinforcing Efforts against Climate Change,” (1) announcing revisions to its coal-fired power sector policy as well as updated targets for green and sustainability finance. Environmental NGOs welcomed the strengthening of policies toward decarbonization, but issued the following statement, recognizing that there are still many challenges to be addressed for the SMBC Group to set a business strategy consistent with the Paris Agreement.

Coal-fired Power Sector Policy
In the new policy, the Group stated that “Support for newly planned coal-fired power plants and the expansion of existing plants are not provided” and removed exceptions such as ultra-supercritical pressure (USC) technology from the previous policy. However, in an exchange with NGOs, the Group clarified that under the new policy, “support can be considered when (projects) will contribute to transition to decarbonization, such as CCUS and ammonia / biomass mixed combustion.” These technologies have not yet been put to practical use and will not contribute to the achievement of the medium-term goal required for the 1.5 degrees Celsius goal of the Paris Agreement, which is to halve greenhouse gases in 2030. Regarding the mixed combustion of ammonia and hydrogen, about 10-20% of the mixed combustion is aimed at, and it is not a solution at all. Coal-fired power plants need to be shut down by 2030 in OECD countries and by 2040 globally to reach the 1.5 degrees target. Instead of treating CCUS and mixed combustion technology as exceptions, the Group needs to set rigorous criteria to determine whether their clients’ businesses are consistent with the 1.5 degrees goal.

Measurement of Loan/Investment Portfolio GHG Emissions (Scope 3)
The SMBC Group announced that it will “establish a long-term action plan to contribute to a carbon neutral society by 2050 and detailed initiatives” and that it will “obtain a clear understanding of the GHG emissions generated by its loan/investment portfolio (Scope3) and set medium- to long-term targets regarding those emissions.” We welcome this as an initiative that is more progressive than other Japanese banks. The Group explains it will start with Scope 3 of power, oil and gas sectors. We urge the Group to expand the scope to the entire value chain of the fossil fuel sector including coal mining, and the forest sector including palm oil. In addition, it is important to include asset management companies such as Sumitomo Mitsui DS Asset Management and work on it as an entire group.

No Medium-To Long-Term Goal Setting
On the other hand, compared to the recent international trend that European and US banks are committing to net zero emissions in their investment and loan portfolios (2), it is a concern that the Group’s has only committed to “future target setting” of such emissions. The goal set by the Group last year to reduce its credit balance of project finance related to coal-fired power generation to zero by 2040 needs to be realized earlier and be expanded to corporate finance in the coal-fired sector in order to be consistent with the Paris Agreement. There is also great concern that no revisions have been made to the oil and gas and forest sectors. Including these sectors, it is necessary to promptly set specific indicators and medium- to long-term goals that are consistent with the Paris Agreement.

Comments by NGOs
Eri Watanabe, Japan Finance Campaigner for 350.org said “Concerning the urgency of the climate crisis, the revision of the SMBC Group’s policy is much slower. In order to meet the 1.5 degrees target, it is necessary to realize the urgent phase-out of coal and fossil fuel sectors as climate science demands. Strong leadership is required to achieve the target by backcasting, rather than by building up on the current situation.”

Kimiko Hirata, International Director at Kiko Network stated “Understanding that the SMBC Group’s recent revision is due to the recognition of the need to strengthen actions under the Paris Agreement, we cannot evaluate that the Group’s finance is consistent with the Paris Agreement. Especially in the coal-fired power sector, although not explicitly stated, there is great concern that allowing CCUS and ammonia/hydrogen mixed combustion technologies will help extend the life of coal-fired power.”

Yuki Tanabe, Program Director of JACSES said “Regarding the suspension of support for coal-fired power generation projects, the SMBC Group has made it clear that CCUS and ammonia/biomass mixed combustion are exceptions in the conversation with NGOs. It is impossible to assume that there are such exceptions from the announced policy text. If there is such an exception, it should be clearly stated in the policy to avoid misleading understanding by stakeholders.”

Hana Heineken, Senior Responsible Finance Campaigner at RAN said, “SMBC Group has stepped ahead of the other Japanese banks by committing to measure its financed emissions. But given its significant climate footprint, there is no way we can take them seriously without a clear commitment to zero out emissions based on a 1.5 degree timeline, including by stopping the financing of fossil fuels, deforestation, and peat destruction.”

(1) https://www.smfg.co.jp/news_e/e110168_01.html

(2) https://www.smfg.co.jp/news_e/e110168_01.html

Contacts
Eri Watanabe (350.org Japan) Email: japan@350.org
Kimiko Hirata (Kiko Network) Email: khirata@kikoent.org
Yuki Tanabe (JACSES) Email: tanabe@jacses.org
Yuki Sekimoto (RAN) Email: yuki.sekimoto@ran.org

声明:世界初、ネスレ「森林フットプリント」開示を歓迎(2020/12/11)

インドネシア・パーム油サプライチェーンで影響を受ける森林面積を公表

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日11日、世界最大の食品飲料企業ネスレがインドネシア・アチェ州のパーム油サプライチェーンにおける「森林フットプリント」を7日(米国時間)に開示した(注1)ことを受けて、「重要な前例となる」と歓迎しました。ネスレは特定地域におけるパーム油サプライチェーンの森林フットプリントを開示した最初の企業となり、高まる世論の声に応える形で公表されました。

ネスレが森林フットプリントを開示したアチェ州に広がる「ルーセル・エコシステム」

「森林フットプリント」とは、消費財企業による森林をリスクにさらす産品利用や、銀行による同産品への資金提供によって影響を受ける、または今後受ける可能性がある森林と泥炭地の総面積をいいます(別紙参照)。

今回のネスレの森林フットプリント分析は、自社サプライチェーン内で、皆伐の危機にさらされているアチェ州の森林および泥炭地の場所と面積を特定しています。その中にはアジア最大の熱帯林の一つである「ルーセル・エコシステム」注2)内の同社事業地も含まれています。また、パーム油の搾油工場はアブラヤシ農園の近くに併設される必要があることから、搾油工場から50キロメートル圏内でアブラヤシ栽培に適した森林地帯も特定しています。さらに先住民族や地域住民の権利が影響を受けてきたり、受ける可能性のある地域の特定も含んでいます。

●森林(89,667ヘクタール)
●泥炭地(8,000ヘクタール)
●搾油工場から50km圏内のアブラヤシ栽培に適した森林地帯(145万ヘクタール)

RAN森林政策ディレクター ジェマ・ティラック コメント

「ネスレがアチェ州の森林フットプリントを開示したことは重要な前例となります。森林保護はこれまで以上に喫緊の課題であり、気候危機による最悪の影響を止めるためには10年も残されていません。

これまで多くの企業が『森林破壊ゼロ』を約束し、2020年までに実現するはずでした。しかし現時点では森林をリスクにさらす産品の使用や、そのような産品事業への資金提供で受ける森林や地域コミュニティの影響について、正確で透明性ある説明をしている企業はありません。そのような中、ネスレが重要な森林地域の一つである『ルーセル・エコシステム』への影響を理解するための第一歩を踏み出したことは重要です。

今回の開示で重要な点は、ネスレが、地域コミュニティによって慣習的に利用されてきた森林を特定することの重要性と、自社パーム油サプライチェーンで地域住民が直面するリスクについて理解することの重要性を認識した点です。ネスレはまた、森林や泥炭地を劣化や破壊から守る上で、地域コミュニティが重要な役割を果たしていることも認識しています」

RAN日本代表  川上豊幸 コメント

「日清食品や花王といった日本企業もネスレの後に続く必要があります。両社のパーム油サプライチェーンには熱帯林や人権を犠牲にした生産に関与している問題企業が含まれていると考えられます。

消費財企業が森林フットプリント開示を進めるための最初の一歩として、まずはパーム油サプライチェーンにおける搾油工場リストなどの情報を開示する必要があります。しかし日清食品は搾油工場リストを公表していません。一方、花王は搾油工場リストを開示していますが、その情報開示は透明性を確保した形で適正かつ定期的に行わなければ、調達実態や対応状況の確認が困難になります。両社ともグローバル企業を目指すからには、サプライヤー企業を公表し、森林フットプリントを公開する必要があります」

—————-

ネスレが森林フットプリントを開示したアチェ州に広がる「ルーセル・エコシステム」は、スマトラ・オランウータン、ゾウ、サイ、トラが野生下で共に生息する貴重な熱帯林です。同生態系は 400万人以上の地域住民に水と生計を提供し、炭素吸収源としても世界的に重要な生態系です。残された熱帯林の「管理人」として、先住民族と地域コミュニティの人々の土地権を確実にすることがこれまで以上に重要になっています。

ネスレは自社のアプローチを「森林破壊ゼロ戦略」から「フォレスト・ポジティブ」戦略への進化と呼んでいますが、今後、ネスレには以下のような取り組みが期待されます。

●調達先のパーム油企業による森林および泥炭地保護の促進に関わって計画を策定・実行し、地域コミュニティや現地政府と協力して住民の権利が法的に認められるように保証すること
●慣習林地域を特定する地図を作成し、地域コミュニティの土地使用権、土地権問題、未解決の紛争(コミュニティの土地でのアブラヤシ農園開発に反対する権利を尊重せず、そのために起こる対立)に理解を深めるために早急な措置を講じること
●今回の試験的取り組みを進め、世界の森林フットプリント分析・評価に拡大すること

RANは「キープ・フォレスト・スタンディング〜森林と森の民の人権を守ろう〜」キャンペーン対象企業(注3)を含め 、熱帯林破壊と人権侵害を助長する上で最も影響力のある企業に森林フットプリントを把握し、開示するよう呼びかけます。

注1) ネスレのウェブサイト “Towards a forest positive future”(英語)
アチェ州の森林フットプリント分析(英語)

注2)「ルーセル・エコシステム」は、インドネシア・スマトラ島のアチェ州と北スマトラ州に位置する260万ヘクタールの熱帯低地林である。世界クラスの生物多様性のホットスポットで、科学的に記録されている最も古く、生命豊かな生態系の一つである。

参考:RAN「インドネシア『ルーセル・エコシステム』をまもる」

注3)『キープ・フォレスト・スタンディング』キャンペーン対象企業
【消費財企業(10社)】日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース
【銀行(7社)】MUFG、JPモルガン・チェース、中国工商銀行(ICBC)、DBS、バンクネガラインドネシア(BNI)、CIMB、ABNアムロ

関連プレスリリース「2020新キャンペーン開始!『キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう』〜17社の消費財ブランド&銀行を対象〜 」(2020/4/1) 

別紙「森林フットプリントについて

「森林フットプリント」とは?

森林フットプリントとは、消費財企業の森林リスク産品(※)利用や銀行による森林リスク産品への資金提供によって、これまでに影響を与えたり、今後与える可能性がある森林と泥炭地の総面積をいう。消費財企業と銀行の森林フットプリントには、サプライヤー企業や投融資先企業が取引期間中に関与した森林および泥炭地の破壊地域、さらにサプライヤー企業や投融資先企業全ての森林リスク産品のグローバルサプライチェーンと原料調達地でリスクが残る地域も含まれる。上記の森林および泥炭地が、先住民族と地域コミュニティに管理されてきた土地にある場合は、その先住民族と地域コミュニティの権利への影響も含む。

リスクにさらされている地域には、供給業者、投融資先企業、またはそれらに原料を供給する独立系企業の管理下にあるプランテーション(大規模農園や植林地)開発区域内の森林と泥炭地、そして上記企業のグローバルサプライチェーンの原料調達(工場、精製所、加工処理施設など の周辺地域)における伐採予定地や農業開発用に割り当てられた地域が含まれる。これらの全てが把握され、公開されている必要がある。

RANは、消費財企業および銀行が森林フットプリントを把握し開示するためには以下のようなステップを提案している。

1.情報開示
・自社サプライチェーンで森林リスク産品を調達している国、金融機関の場合は顧客企業の事業が森林リスク産品関連事業で活動している国を特定し、自社の年次報告書やサステナビリティレポートなどで情報開示する。
・優先すべき森林リスク産品の調達を行っている国・地域を選択する。当該地域で森林リスク産品を生産、加工、取引しているサプライヤー企業を特定し開示する。

2.森林・泥炭地減少へのリスクを調べる
・特定されたサプライヤー企業・企業グループからの調達や、当該企業への投融資によって、これまで影響を与えたり、今後与える可能性のある森林や泥炭地の総面積と位置を把握するために空間分析を行い、地図を作成する。
・作成した地図を自社の年次報告書、サステナビリティレポート、企業ウェブサイトなどで開示する。

3.地域域コミュニティの権利・土地紛争
・選択した調達国・地域でサプライヤー企業や投融資先企業の事業によって影響を受ける森林や泥炭地に居住する、先住民族や地域コミュニティの権利に及ぼす影響に関する情報を調査する。
・情報には先住民族や地域住民が伝統的に所有する森林や泥炭地に関する土地への権利、アクセス、利用および保全への影響を含む。
・これまで影響を与えたり、今後与える可能性のある森林や泥炭地の総面積と位置を把握するために空間分析を行い、地図を作成する。

4.2と3の統合
・森林減少のリスクに関して得た情報と、地域コミュニティへの影響と土地紛争に関するリスクをまとめた、国や地域ごとの「森林フットプリント地図」を完成し、開示する。

※森林リスク産品:森林破壊の原因の多くはパーム油、紙パルプ、木材製品などの産品生産で、これらの産品は森林を破壊するリスクがあることから「森林リスク産品」と呼ばれている。
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レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。 

本件に関するお問い合わせ先
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org