サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

共同プレスリリース:気候変動に関する株主提案決議結果は 企業と投資家のさらなる取り組みの必要性示す(2025/7/4)

Market Forces
FoE Japan
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)
気候ネットワーク

日本国内外の環境団体および個人は今年4月、日本のメガバンク3行(MUFG、SMBC、みずほ)と総合商社(三井物産、三菱商事、住友商事)、中部電力に対して気候変動とガバナンス(監査)に関する株主提案を提出しました。これらの企業は1.5℃目標達成のためネットゼロ目標を掲げているにもかかわらず、その事業内容は1.5℃目標と整合していません。化石燃料への投融資および燃料調達事業への各社による関与が続いている現状を踏まえると、当該企業が極めて重大な気候リスクを抱え続けていることは明らかであり、今後も断固とした気候変動リスクへの実質的な取り組みが必要です。

これまで明らかになっている今年の決議結果からは、多くの投資家が該当企業に対して気候リスクに対する十分な説明責任を求めているとは言えず、私たちは投資家による気候変動リスクへの認識状況に対しても懸念を強めています。金融機関には昨年同様の株主提案が提出されていますが、みずほでは、実質的な改善がみられない中、賛同率が昨年の半分程度になっています。

当該企業に提出された議案と議決結果(一部速報値)は以下の通りです。一部の提案には10%を超える支持が集まるなど、一定の賛同が示されました。しかし、支持率が10%未満に留まる議案もあり、資産運用会社の多くが気候リスクを重視しているかどうか、疑問が残る結果となりました。株主提案は(全て)否決されましたが、提案対象企業に対しては気候変動リスク対応の強化を、機関投資家に対してはスチュワードシップ責任を体現することを求める働きかけを継続して行っていきます。

株主提案の内容と議決権行使結果

賛同率低下の一方で、当該企業の適切なガバナンスと実効性のある取締役会を求めている機関投資家がいることも明らかです。実際、主要な議決権行使助言会社として知られるISSは今年、我々の株主提案を受けた企業のうち1社の7人の取締役候補に反対票を投じるよう勧告しました。さらには、企業による気候リスク管理の実施状況を強力に監視する必要性に賛同し、ガバナンス強化を求める投資家もいます。1兆5,020億米ドル規模の資産を運用する世界有数の投資家である英国最大の資産運用会社のリーガル・アンド・ジェネラル・インベストメント・マネジメント(LGIM)は三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャル・グループ、中部電力に対して我々が提出した株主提案を支持する意向を事前に表明していました。

気候変動によるリスクを適切に管理できなければ、長期的には企業価値にマイナスの影響が出る可能性があります。三菱商事、三井物産、住友商事の三大総合商社は2.6℃から3.6°Cの壊滅的な気温上昇と整合する事業計画を掲げているという試算(MSCIのデータ準拠)もあり、これはパリ協定で合意された世界の平均気温上昇を1.5℃に抑える目標にも矛盾しています。さらに日本の3メガバンクも、この様な1.5°C目標と整合しない化石燃料の新規・拡張事業の計画を持つ事業者への資金提供を続けています。『化石燃料ファイナンス報告書 2025』によると、2024年、みずほは化石燃料拡大事業者への資金提供額を前年比で16%増加させ、MUFGも3.6%増加させました。

今後も、我々は日本の大手企業による脱炭素への変化と行動を引き続き後押しします。現状、気候変動対応は不十分でですが、過去5年間の働きかけによって、地域社会の懸念を受けたエンゲージメント活動の結果、日本の大手銀行や商社がアジアにおける主要な化石燃料プロジェクトへの関与を取りやめるなど、リスク管理を強化している事例もみられます。例えば、我々は三井物産が2023年10月にバングラデシュ・コックスバザールでのCPGCBL LNG火力発電所プロジェクトから撤退したことを確認しており、これによりプロジェクトのライフサイクル全体で4,400万トンのCO₂排出が回避される見込みです。

よって、機関投資家へは一層の働きかけが必要だと考えています。Market Forcesが日本の主要な機関投資家を対象に行った調査によると、主要な機関投資家5社傘下の資産運用会社は、日本の化石燃料拡大企業8社の取締役選任議案に99%の確率で賛成している結果が明らかとなり、気候変動リスクを適切に管理するためのスチュワードシップが効果的に行われていないことを示唆しています。今年の議決権行使結果を確認しながら、機関投資家に対しては、気候変動対策やリスク管理が不十分である企業に対し、スチュワードシップ責任を果たし、パリ協定に整合した移行計画の策定と実施のための、さらなる効果的なエンゲージメントと自社の気候コミットメントに沿った適切な議決権行使を行うように求めていきたいと考えています。

【提案主コメント】

総合商社・中部電力

「株主提案への支持は限定的だったものの、提案先企業へのメッセージは明確です。日本の商社と中部電力は重大な気候関連リスクに直面しており、投資家はこれに対して断固たる行動を期待しています。私たちは依然として、信頼できる脱炭素化ビジネス戦略の欠如と、事業運営における人権への配慮の不十分さについて、強い懸念を抱いています。私たちは、これからも、企業が効果的なリスク管理と透明性の高いガバナンスメカニズムを備え、信頼できる脱炭素施策の実行と、人権侵害への誠実な行うよう求めていきます。今後も建設的な対話を通じて、これらの企業がグローバルに化石燃料からの移行を進めるよう、協力関係を強化していきます。」
 布川健太郎 | Market Forces

「中部電力は株主総会で石炭火力を「ベースロード電源」と称し、エネルギー安定供給の必要性を繰り返しました。電力の安定供給と脱炭素を両立するために、あらゆるエネルギーを追求すると述べています。しかし、それでは将来世代に大きなツケを残すことになります。排出量の割合が大きな電力会社だからこそ、実現可能なロードマップの策定と化石燃料から再生可能エネルギーへの移行を加速するための対策強化を求めます。」 
鈴木康子|気候ネットワーク

「三井物産は非常に大きな気候変動リスクに晒されていることから、気候変動対策のために残された時間の中で、効果的かつ実行可能なリスク対策を講じることが重要です。情報開示の充実はその第一歩です。特に、ネットゼロを掲げながらも化石燃料分野への依存度が高いという現在の戦略を踏まえると、今回の要請は妥当なものと考えています。引き続き、気候変動対策の強化に向けてエンゲージメントを継続していきたいと考えています。」 
深草亜悠美 | FoE Japan

メバガンク3行

「昨年、投資家から『顧客の移行計画の評価』に関する株主提案に対し、強い支持があったにもかかわらず、3メガバンクは過去1年間有意義な進展を見せませんでした。今年、同様の株主提案への支持が低下したことは、多くの投資家がスチュワードシップ責任を果たさず、投資先のメガバンクにおける気候変動リスク管理を十分に担保できていない状況を示しています。

脱炭素に向けて、科学的根拠に基づいた意義深い行動をとり続けるのか、企業と投資家双方の本気度が改めて問われています。行動をとらないことによる経済と人々への深刻な損害は到底容認できるものではありません。いかなる遅延の猶予はなく、石炭、石油、ガスから再生可能エネルギーへの移行を加速するための対策強化が求められます。」
渡辺 瑛莉 | Market Forces

「今回、新たに監査役についての責任を問う提案を行いました。みずほとMUFGは現地の先住民族が反対する米国テキサス州リオ・グランデLNG事業に資金提供を行っており、自らが採択する国際基準である『赤道原則』に違反しています。また、MUFGは大規模な熱帯林火災に対してインドネシア政府から損害賠償請求を受けているアブラヤシ農園企業を管理下に置く企業にも資金提供を行っています。これらはメガバンクにおけるガバナンスの問題を象徴する一部の例に過ぎません。自社グループにおけるガバナンスの問題について監査が認識していない現在の状態は、内部監査体制が機能していないことの表れです。3メガバンクにおけるリスク管理体制の課題は、2050年ネットゼロという目標を掲げているにもかかわらず、座礁資産リスクのある化石燃料事業を拡大する計画をもつ企業に投融資を続けていることにも表れています。さらに、この様な構造的なガバナンスの問題を見抜くことができていない機関投資家についても懸念があります。機関投資家には、長期的な視点に立った、真に責任ある投資を行うことを求めます」
川上豊幸|レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

「今回、新たに監査役についての責任を問う提案を行いました。SMBCとみずほで、監査委員会の財務リスク監査に係る情報開示を求める提案の方が、もう一方より賛成数がわずかながら高く、MUFGの投票数は2つの提案ともに他の2行よりも少ないものでした。それぞれの結果に違いはあれど、新たな動きを求めている機関投資家が一定数いることを示しています。日本のメガバンク3行は世界の化石燃料関連企業への資金提供を続けており、その金額は世界でも上位にランクしています。国民の預貯金を運用する銀行が化石燃料関連事業に資金を提供し続け、国民の将来の命の安全を脅かす、あるいは快適な環境で生活する権利を損なうことに加担していることに我々株主はもっと声をあげるべきではないでしょうか。そして機関投資家には、より長期的な視点に立ち、未来に向けて責任ある投資を行うことを求めます。」

鈴木康子|気候ネットワーク


お問合せ先

マーケット・フォース(Market Forces)
Antony Balmain E-mail: contact[@]marketforces.org.au

FoE Japan
深草亜悠美 E-mail: fukakusa[@]foejapan.org

気候ネットワーク 東京事務所:TEL:+81-3-3263-9210
鈴木康子 E-mail: suzuki[@]kikonet.org

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)
関本幸 E-mail: yuki.sekimoto[@]ran.org

共同プレスリリース「化石燃料ファイナンス報告書 2024」発表〜世界60銀行、パリ協定以降に6.9兆ドルを提供 米3行に続き三菱UFJが4位(2024/5/16)

2023年提供額はみずほ2位、三菱UFJ4位、SMBC8位

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
国際環境NGO 350.org

米環境NGO レインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本チーム:東京都渋谷区、以下RAN)をはじめとするNGOは、13日(米国東海岸時間)、最新の方法論を用いた新報告書『化石燃料ファイナンス報告書2024〜気候カオスをもたらす銀行業務〜』(第15版注1)を発表しました。

図1:パリ協定以降のワースト12銀行
(化石燃料全部門への融資・引受額、2016年〜2023年合計、単位:B=十億ドル)

 

本報告書は、世界の主要民間銀行60行による4,200社以上の化石燃料産業への融資・引受をまとめた包括的な調査報告です。分析の結果、パリ協定採択後の2016年から2023年の8年間に銀行から化石燃料産業に約6.9兆米ドルが提供され、約半分の約3.3兆ドルが化石燃料拡大のために投入されたことが明らかになりました。また、昨年の提供額は約7,050億ドルで、化石燃料拡大企業への提供額は約3,470億ドルでした。今回は新たな方法論を採用し、主幹事銀行の取引信用額だけでなく、取引に参加した各行の資金支援も明らかにしました。執筆に携わったNGOは、本報告書は気候危機の資金源を調査した最も正確かつ包括的な分析で、銀行のグリーンウォッシュ(見せかけの環境対応)を白日の下にさらしていると指摘しました。

日本の3メガバンクは、昨年の資金提供と、パリ協定後の資金提供の両方でワースト10に入りました。中でも三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)はパリ協定後の「化石燃料全部門」への資金提供で4位(約3,077億ドル)、みずほフィナンシャルグループ(みずほ)は2023年の「化石燃料全部門」と「化石燃料事業を拡大している企業」(以下、化石燃料拡大企業)への資金提供の両方で2位に順位を上げました。環境NGOらは4月、3メガバンクに気候変動対策の強化を求める株主提案を提出しています(注2)

図2:2023年のワースト12銀行
(化石燃料全部門への融資・引受額、2023年単年、単位:B=十億ドル

『化石燃料ファイナンス報告書2024』概要

世界の主要民間銀行60行が化石燃料部門に行った資金提供を示した包括的な報告書。化石燃料企業(石炭、石油、ガス部門)約4,200社への融資・引受、南米アマゾンや北極圏の環境悪化を引き起こす企業への資金提供について分析。対象期間は2016年〜2023年で、年別、累計額を分析。化石燃料産業全体、部門別、化石燃料拡大企業への資金提供ごとに集計・分析。*別表「化石燃料部門別の傾向」も参照のこと。

【パリ協定採択後:2016年〜2023年】

  • 世界の主要60行は合計で約6.9兆米ドルを化石燃料に資金提供し、ほぼ半分の約3.3兆ドルが化石燃料事業を拡大する企業に提供された。
  • 「化石燃料全部門」への資金提供額では、米銀と日本のメガバンクが上位を独占。1位にJPモルガン・チェース、続いてシティ、バンク・オブ・アメリカ、4位にMUFG5位はウェルズ・ファーゴ、6位にみずほ9位は三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)だった。
  • 「化石燃料拡大企業」の1位はシティで、約2,040億ドルを提供した。

【2023年】

  • 「化石燃料全部門」ではJPモルガン・チェースが1位で、化石燃料企業に約408億ドルの資金提供を行った。「化石燃料拡大企業」への資金提供でも1位だった。
  • 「化石燃料全部門」の2位はみずほで、資金提供額は約370億ドルだった。「化石燃料拡大企業」への資金提供でも2位(約188億ドル)で、両部門での増加が目立った。
  • 「化石燃料拡大企業」の3位はMUFG(約154億ドル)、4位はほぼ横並びでロイヤル・バンク・オブ・カナダ(RBC)バンク・オブ・アメリカ、スコシアバンク、シティだった。シティは、パリ協定後の「化石燃料拡大企業」への最多資金提供者だった。
  • 「メタンガス(LNG:液化天然ガス)」部門では、日本のメガバンクのみずほ(約109億ドル)、MUFG(約84億ドル)が1位、2を独占し、同部門に進出する企業に資金提供を行なっている。

日本の3メガバンクの動向

【化石燃料全部門】60行の合計資金提供額は前年比で9.5%減でしたが、みずほは約5%増加しました。一方、2022年まで3行の中で最多額を提供していたMUFGは前年比で12%減少しました。しかし各行とも2023年の世界順位は2位、4位、8位であることから、高水準にあることには変わりありません。

【部門別】全3行が、2023年の「化石燃料拡大企業」、「メタンガス(LNG))」、「北極圏の石油・ガス」、「超深海の石油・ガス」部門への資金提供額で、ワースト10に入りました。中でもLNG事業を拡大した130社への資金提供額では、みずほが1位(約109億ドル)、MUFGが2位(約84億ドル)で、3位のサンタンデール(スペイン)を引き離し、前年比でそれぞれ90%、88%増加しました。60行全体の提供額は約1,209億ドル、前年比で4%増加したことから、メガバンクを含めた上位行が牽引していることは明らかです。

方法論について

本報告書の正確さと対象範囲を継続的に向上する取り組みとして、今回はさらに多くの一次情報を取り入れ、調査方法論の大幅な改良を行いました。これらの情報源は、債券 、ローン、株式発行など、コーポレート・ファイナンス案件への銀行の参加を追跡調査しています。昨年版までは、主幹事銀行の取引信用額のみを対象にしていましたが、今回は各行の資金支援も明らかにされています。本報告書に掲載された全ての銀行には連絡を取り、帰属する取引について確認する機会が与えられました(注3)

アマゾンや北極圏の環境悪化を引き起こす企業への資金提供

本報告書は、気候変動に最も悪影響を与える化石燃料部門への多額の資金提供も明らかにしています。「オイルサンド(タールサンド)」への2023年の上位資金提供者はカナダのCIBC、RBC、スコシアバンクで、どの銀行もほぼ同額の約5億2,300万ドルを提供しています。一方、MUFGは約5億1,200万ドル「超深海の石油・ガス」掘削企業に、JPモルガン・チェースは約60億ドルを「フラッキング企業(シェールオイル・ガス)」に、中国中信銀行(CITIC)は「石炭採掘」に約76億ドルを提供しました。本報告書で対象とした60行は総資産額の上位行で、脆弱な生態系における有害な事業にためらうことなく資金を提供しています。イタリアのウニクレディトは「北極圏の石油・ガス」掘削企業に約2億6,500万ドル、バンク・オブ・アメリカは南米「アマゾン(生物群系)の石油・ガス」を採掘する企業に約1億6,200万ドルを提供しました。

執筆団体からのコメント

RANリサーチ&方針マネジャー エイプリル・メルロー(共同執筆者)

「ウォール街の銀行の最大の懸念は利益です。私たちの最大の懸念は気候変動と人権です。気候変動による混乱(カオス)から利益を得る銀行は新たなグリーンウォッシュを毎年作り出しますが、私たちには化石燃料に流れる金額を示す『領収書』があります。報告書の新方法論は、今まで公開されてこなかった銀行の化石燃料支援の詳細情報を明らかにし、銀行の責任を追及する新しい手段を活動家に与えます。そして、銀行の化石燃料への資金提供は十分な速さで減少していません。2023年、化石燃料事業を拡大している企業に約3,500億ドル近くが提供されましたが、これは危険で、気候変動に関する実際の公約とも矛盾しています。気候への影響が記録的となった2023年に、化石燃料の各部門で資金提供が増加したことに私は衝撃を受けました。さらに2023年には、メタンガス(LNG)輸出入ターミナルと関連インフラ施設を開発する企業への資金提供が大幅に増加しました。銀行は現地の人々の声を聞き、こうした事業から手を引くべきです」

RAN日本シニア・アドバイザー 川上豊幸

「より詳細なデータの入手により、累積の資金提供額でも、2023年単年でも、日本の3メガバンクは世界の銀行の中でも上位を占めていることが判明しました。特に、LNGセクターでは、2023年に資金提供をほぼ倍増させ、みずほが1位、MUFGは2位となり、突出しています。米国テキサス州のメキシコ湾で計画されているLNGターミナル事業を進めているネクスト・ディケイド社に、MUFGは約21.7億ドル以上(本報告書「LNG部門」提供額の26%)、みずほは約11.7億ドル以上(同10%)を2023年に提供しています。しかしこのプロジェクトの温室効果ガス排出量は非常に大きく、1.5度目標の達成を困難にしてしまいます。また、重要な地域に影響を与えるため現地の先住民族も反対しており、他の銀行が撤退する中、2行はプロジェクトを支援しています。

 ネットゼロを約束している銀行が、ネットゼロの実現を困難にするような事業計画を進める企業への資金提供を行っていることは、『移行計画を含めた融資先企業の評価体制』が不十分であるとともに、『取締役会としての管理・監督機能としての専門性』の不足を示す事例と考えます。我々NGOの株主提案では、上記2点についての情報開示を求めています」

賛同団体からのコメント

気候ネットワーク プログラム・コーディネーター 鈴木康子氏

「世界で異常気象が頻発し、被害規模が拡大しているのに、その原因とされる化石燃料の利用に対し、いまだに世界の銀行がこれだけの投融資を行っていることは信じがたいものがあります。日本の3メガバンクは、ネットゼロ目標を掲げ、サステナビリティに関する方針を改定するなど、気候変動への取組みを行っていると主張する一方で、化石燃料への資金提供の大きな銀行のトップ10に名を連ねています。国内では2023年に3メガの支援のもとで、神戸の住宅地近くに新しい石炭火力発電所が運転を開始しました。さらに近年は、従来の石炭・ガスだけでなく、石炭火力の延命につながると批判されている「誤った政策」、水素・アンモニアの利活用に向けた支援を国内外で推し進めようとしています。このままでは1.5℃目標の達成が危ぶまれます。早急に資金の流れを見直し、1.5℃目標の達成に向けて本当に効果的な策と公正な移行への資金の流れを本流とすべきです」(注4)

 

マーケット・フォース、日本エネルギーファイナンスキャンペーナー、渡辺瑛莉氏

「3メガバンクは近年、化石燃料産業への融資・引受額で世界ワースト銀行のランクを上げてきていますが、背景には、欧州や豪州、アジアの銀行と異なり、気候科学に則した石油・ガスセクターの新規開発・拡大へのファイナンスを制限する方針がないことが挙げられます。メガバンクが掲げる1.5度目標へのコミットと3行の投融資行動が著しく乖離しており、世界の中でも遅れが目立つ状況となっています。気温上昇と気候変動に起因した災害が増えるに従って、化石燃料セクターを支援する銀行の責任を問う声は今後益々強まることが予想される中、メガバンクは信頼性の高い移行計画を持たない化石燃料顧客を支援し続けることで、評判リスクや法規制リスク、財務リスク等に晒されます。従って、政府方針に追従するのではなく、メガバンクが自らリスク管理を強化することが求められます。我々環境NGOが提出している株主提案は、リスク管理の強化に資するものであり、多くの投資家の賛同を期待します」

 

国際環境NGO 350.org、ジャパン・キャンペーナー、伊与田昌慶氏

日本政府がエネルギー基本計画の見直しを開始する直前に発表されたこの報告書は、日本の3メガバンクが未だに気候変動に加担していることを示しました。日本の官民がグリーン・トランスフォーメーション(GX)の名の下で延命しようとしている化石燃料ビジネスも、三菱UFJ、みずほ、三井住友といったメガバンクに裏付けられています。すべての銀行は、気候正義を求める市民の声と環境NGOの株主提案に向き合い、化石燃料中毒から脱する必要があります。
 脱化石の鍵は再生可能エネルギーです。昨年のCOP28ドバイ会議で、日本を含むすべての国は、『2030年までの再エネ設備容量3倍』との目標に合意しました。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によれば、再エネ3倍目標を達成するには2030年までに年1兆5,500億米ドルの再エネ投資が必要です。メガバンクの資金力は、脱化石に資する再エネにこそ活かされなければなりません

化石燃料の金融データ、方針スコア、最前線の現場からのレポートを含む完全なデータセット(英語)はbankingonclimatechaos.orgからダウンロード可能。

 

注1)「化石燃料ファイナンス報告書2024」

全文(英語)www.bankingonclimatechaos.org

日本語抜粋版

本報告書はRAN、バンク・トラック、エネルギー・エコロジー・開発センター(CEED)、先住民族環境ネットワーク(IEN)、オイル・チェインジ・インターナショナル、リクレイム・ファイナンス、シエラ・クラブ、ウルゲバルトによって執筆されている。世界69カ国589以上の団体が賛同している。

注2)マーケット・フォース、気候ネットワーク、レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)、「東証プライム4企業に対して株主提案:メガバンク全3社含む日本企業の取締役のコンピテンシーに関する開示を要求」

https://shareholderaction.asia/ja/four-companies-tokyo-prime-market-3-megabanks-face-climate-vote-on-director-competency/

注3)方法論:昨年までは、取引データはBloomberg LP(取引信用額が主幹事銀行間で分割されている)より入手していたが、2024年版はBloomberg LPに加えてロンドン証券取引所グループ(LSEG、旧Refinitiv)の2つのデータベースを用いた。方法論の変更に伴い、本報告書に記載されている結果は、これまでの報告書のデータとは直接比較できない。なお融資・引受額は、対象となる化石燃料関連企業の当該部門の事業活動に基づいて割引して算出している。詳細は以下を参照のこと。

「報告書全文」(英語):方法論(48ページ)方法論付録(108ページ)

https://www.bankingonclimatechaos.org/wp-content/uploads/2024/05/BOCC_2024_vF1.pdf

「方法論変更について」(英語:Methodology Background for BOCC 2024)

https://docs.google.com/document/d/15Vit1UbOjWjl8dsw5J2HQptG9spmUYiRUFNrK9CxLG8/edit

注4)神戸石炭火力発電所:本報告書およびウェブサイト「フロントラインストーリー」(最前線からのレポート)で事例研究の一つとして掲載(英語)。

https://www.bankingonclimatechaos.org/frontline-stories/kobe-coal/

「神戸の石炭火力発電を考える会」ウェブサイト(日本語)

https://kobesekitan.jimdo.com/

 

団体紹介

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。

*情報更新:「化石燃料ファイナンス報告書2024日本語抜粋版」を公開しました(2024年10月)

別表:化石燃料部門別の傾向

(↑は2022年から2023年に該当部門へのファイナンスが増加、↓は減少したことを示している)

↑ メタンガス(LNG:液化天然ガス):2023年に液化メタンガス事業を拡大した企業130社への資金提供上位銀行は、みずほMUFG、サンタンデール(スペイン)、RBCJPモルガン・チェースだった。2023年のLNG全体のファイナンスは約1,209億ドルに増加した。

↑ 石炭採掘:2023年に石炭採掘企業211社に提供された約425億ドルの資金のうち81%は中国の銀行が提供し、中国中信銀行、中国招商銀行、上海浦東発展銀行、中国工商銀行(ICBC)中国光大銀行グループが率いた。この部門へのファイナンスは2022年に比べて若干増加している。 

↑ 原料炭:原料炭採掘事業で操業する48社は2023年に約25.4億ドルの資金提供のコミットメントを受けた。上位銀行はCITICChina Everbright Groupバンク・オブ・アメリカ、Ping An Insurance Groupなど。この部門へのファイナンスは2022年に比べて若干増加している。

↓ 石炭火力発電:「脱石炭リスト」(GCEL)に記載された石炭火力発電企業へのファイナンスのうち、65%は中国の銀行から提供された。2023年、これらの企業は本報告書で対象とした銀行から約804億ドルのファイナンスを受けた。この部門へのファイナンスは2022年に比べて若干減少している。 

↓ ガス火力発電銀行はガス火力発電を拡大する252社に、2023年に約1,080億ドルのファイナンスを約束した上位3行はみずほ、中国工商銀行、MUFGで、この部門へのファイナンスは2022年に比べて減少している。

↓ 化石燃料拡大企業:本報告書で取り上げた60行は2023年、エンブリッジ、ヴィトール、TCエナジーヴェンチャー・グローバルなどの化石燃料を拡大している企業873社に約3,470億ドルを提供した。2022年の金額は約3,850億ドルで、2023年は若干減少している。

↓ オイルサンド(タールサンド):2023年にオイルサンド企業上位36社が受けたファイナンスは約44億ドルで、前年から約40億ドル減少した。カナダの銀行がその49%を提供した。上位資金提供者はCIBC、RBC、スコシアバンク、トロントドミニオン、そして日本のみずほである。 

↓ シェールオイル・ガス2023年のフラッキングによる採掘を行う企業236社へのファイナンスの2023年の総額は約590億ドルだった。米銀のJPモルガン・チェース、ウェルズ・ファーゴ、バンク・オブ・アメリカ、ゴールドマン・サックス、シティモルガン・スタンレーこの部門の上位を占めた。 

↓ 超深海の石油・ガス:日本のみずほMUFGSMBCグループが、2023年の超深海での石油・ガス関連企業66社への資金提供で上位となった。総額は約37億ドルで、2022年より減少した。 

↓ 北極圏の石油・ガス:北極圏の石油・ガス関連企業45社への資金提供は約33億ドルから約24億ドルに減少。2023年の最多資金提供銀行は、ウニクレディト、シティ、インテーザ・サンパオロ(イタリア)、バークレイズ(イギリス)クレディ・アグリコル(フランス)である。 

↓ アマゾンの石油・ガス:バンク・オブ・アメリカが1位で、アマゾン生物群系で採掘を行っている企業24社に約1億6,200万ドルを提供し、2位のJPモルガン・チェースを約3,300万ドルも上回った。2023年の総額は約6億3,200万ドルで、前年の約8億200万ドルから減少した。 

※「化石燃料ファイナンス報告書2024」の部門別報告は、ウルゲバルト調査の「脱石油・ガスリスト(GOGEL)および「脱石炭リスト」(GCEL)と連携している(注)。どちらかのリストで、銀行からの資金提供が各部門で掲載された企業は全て計上された。どちらかのリストで化石燃料拡大企業として特定された企業は全て本報告書の化石燃料拡大部門のリーグテーブル(ランキング)に計上された。アマゾンの石油・ガス企業はStand.earth リサーチグループによって特定された。原料炭企業はバンクトラックとリクレイム・ファイナンスの協力によって特定された。

注)参考:Japan Beyond Coal「【ニュース】Urgewald脱石炭と脱石油・ガスのリスト掲載の日本企業」、2024年2月27日 https://beyond-coal.jp/news/urgewald_gcel-gogel-2023/

 

本件に関するお問い合わせ

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

日本チームマネジャー 関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

日本シニア・アドバイザー 川上 Email: 川上豊幸  Email:   toyo@ran.org

 

共同プレスリリース:環境NGO、東証プライム4企業に対して株主提案〜メガバンク全3社含む日本企業の取締役のコンピテンシーに関する開示を要求〜(2024/4/15)

国際環境NGO マーケット・フォース
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

国内外の環境NGOとその代表者を含む個人株主は4月15日までに、金融、電力の2業界の4企業(三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ、日本最大の発電会社・JERAの経営に大きく関与する中部電力)に対し、気候変動対策の強化を求める株主提案を提出しました。

我々は関連企業との対話を続けてきましたが、より一層の気候変動対策への注力を期待し、今年は企業の取締役会に焦点を当てた提案を提出しています。提出先企業の取締役会が、気候関連事業リスク及び機会の適切な監督を行う上で必要な能力あるいは人材を備えているか、株主が評価する上で必要な情報開示を求める議案となっています。

株主提案

昨年の株主総会シーズンで日本企業は過去最多の気候変動に関する株主提案に直面しました。近年、このような株主提案は環境NGOに限らず、国外の機関投資家や地方自治体からも提案されています。多様なステークホルダーが高炭素排出企業による気候変動対策の遅れに対して、広範囲に及ぶ悪影響のみならず、企業価値の低下を招くとの危機意識を共有し、行動に移しています。我々が提出した議案も機関投資家に幅広く支持されました。

メガバンク3社については、気候変動への公約及び気候変動リスク管理戦略を踏まえ、これらの実効性を株主が判断できることが重要です。化石燃料セクターの顧客の移行計画とパリ協定1.5℃目標との整合性について、メガバンク各社がどのように評価を行うか、そして当該セクター顧客がパリ協定に沿った信頼性の高い移行計画を作成しなかった場合、新規資金の制限を含む、対応措置をどのようにとるのかの開示を求めています。

提出先企業が抱える問題の要点は以下の通りです(業界ごと)

■メガバンク

「メガバンクの気候変動対策は1.5度に気温上昇を抑えるために科学が明確に求めている行動水準からいまだに大きく乖離しており、このことは企業価値をリスクにさらします。特に、石油・ガスへのファイナンス方針においてアジアの銀行を含む競合他社から大きく遅れをとり、高リスクの事業に資金を提供し続けており、リスク管理能力が問われています。我々の2つの提案が可決されれば、メガバンクの取締役会に気候関連の事業リスクと機会を監督する能力が備わっているか、またメガバンクが重視する高排出企業への移行エンゲージメントの実効性について株主が評価できるようになるでしょう。ひいては、メガバンクの気候変動対策の強化に繋がり、企業価値の維持・向上にも資すると考えます。」

(マーケット・フォース, 日本・エネルギーファイナンスキャンペーン担当, 渡辺瑛莉)

 

「メガバンクは、融資先の移行計画への評価体制が緩い点が問題です。気候危機下で効果的な管理を行うための取締役など経営レベルでの専門性が不足しているように見えます。結果として、1.5℃目標の達成を困難にするような事業計画を持っている企業にも融資が継続されたり、また、銀行としての方針や管理体制が不十分なのではないかと私たちは懸念しています。例えば、LNGセクターでの事業拡大を進める企業への資金提供を継続し、MUFGとみずほは先住民族の人権を侵害している米国のリオ・グランデLNG事業でも重要な役割を果たしています。3行とも、木質バイオマス発電事業や農業など高炭素セクターでの生物由来CO2排出量の集計も行なっていません。メガバンクにはネットゼロにコミットし、脱炭素社会へのシステム移行をサポートする金融機関として、融資先企業や政府の移行計画の妥当性を見極め、対処する管理能力が問われています。」

(レインフォレスト・アクション・ネットワワーク, 日本シニア・アドバイザー, 川上豊幸)

 

■中部電力

今年は特に『第7次エネルギー基本計画』についての検討が行われる重要な年です。中部電力およびJERAは、引き続き、水素・アンモニア、CCSの導入促進および原発再稼働で脱炭素を図るとしていますが、それらによる実質的な排出削減効果と経済性、さらに安全性の保障を鑑みれば、まったく解決策にはなっていません。根本的な方針転換をするには、会社経営を担う人たちに科学的知見を踏まえた判断をしていただく必要があります。真の脱炭素、再エネが主力となる社会に向かっていくには柔軟な考え方と思い切った転換が必要です。」

(気候ネットワーク, プログラム・コーディネーター, 鈴木康子)

 

「採掘から使用を含めた供給網全体で化石燃料からの脱却なしに気温上昇を1.5度以下に抑制することは極めて困難です。中部電力とJERAの移行計画は、1.5度目標のタイムラインに沿っているとは言えず、両社は大きな移行リスクを抱えるとともに気候変動の悪化を招こうとしています。中部電力の取締役会は真正かつ実効性のある移行計画を後押しする監督責任があり、今後厳しい目で見られることになるでしょう。そもそも、取締役会の気候リスク監督能力を株主が評価するための情報が不足しているのが現状です。」

(マーケット・フォース, エネルギーファイナンスアナリスト, 鈴木幸子)

 

株主提案の提出先企業に求める情報開示は、コーポレートガバナンス・コードの求め、及び投資家団体(CA100+やTPI等)、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)等を通じ、投資家が求める情報開示に合致しています。

また、株主提案を提出先となった企業は、座礁資産リスク(環境や市場、規制の変化で企業が将来的に減損処理する資産を抱えること)や訴訟リスク、ブランド価値の毀損など将来の企業価値に関する重大なリスクを抱えています。また、こうした企業が誤った戦略を取り続けると気候変動対策の妨げともなりかねません。

企業が我々の株主提案を真摯に受け止め、投資家の方々の後押しを受けて気候変動対策を強化するとともに情報開示を進めることが、企業価値の向上に繋がり、ひいては気候危機を防ぐ一助となるとして、ご理解を得られることを期待しています。

 

■ 株主提案に関する詳細 

メガバンク3社(こちらから)

中部電力 (こちらから)

 

■ 株主提案に関する特設サイト

各社への提案書および投資家向け説明資料は特設サイトからもダウンロードいただけます。

Asia Shareholder Action: https://shareholderaction.asia/ja/

 

■ 株主提案の内容に関するお問合せ先

□ マーケット・フォース(Market Forces)https://www.marketforces.org.au
日本語窓口(松木):TEL:+81-80-4395-8529
担当者:Antony Balmain E-mail: contact[@]marketforces.org.au
Tel: +81-80 4395 8529

□ 気候ネットワーク  
https://www.kikonet.org

東京事務所:TEL:+81-3-3263-9210
担当者:鈴木康子 E-mail: suzuki[@]kikonet.org

□ レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)
japan.ran.org

担当者:川上豊幸 E-mail: toyo[@]ran.org

プレスリリース:新報告書『生物多様性崩壊をもたらす金融業務』発表〜メガバンクら銀行、森林リスク産品に3070億ドルの資金提供〜(2023/12/7)

森林破壊・生物多様性損失・気候カオス・権利侵害を加速

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部サンフランシスコ、以下、RAN)を含む8団体で構成する「森林と金融」連合は、第28回国連気候変動会議(COP28)で「金融」がテーマである4日、新報告書「生物多様性崩壊をもたらす金融業務:熱帯林破壊を助長する銀行と投資家の追跡」を発表しました。本報告書は、大手金融機関が熱帯林地域における森林破壊、生物多様性の損失、気候変動、人権侵害をいかに助長しているかについて包括的に考察するもので、分析の結果、銀行がパリ協定締結以降の2016年から2023年9月、熱帯林破壊に関係している高リスク林業・農業企業に3070億ドル以上の資金を提供していることを明らかにしました。この結果は、世界の大手銀行と投資家の掲げる森林関連ESG方針が、森林と生物多様性の広範かつ継続的な損失を防止できていないことを示しています(注1)

 

表「森林リスク産品への融資・引受額 上位20銀行」
(2016-2023年9月、単位:百万米ドル)

*森林リスクセクター約300社(東南アジア、ラテンアメリカ、中央・西アフリカ)への融資・引受額、傾向。
日本のメガバンクはみずほ(8位)、MUFG(12位)、SMBC(17位)。

本報告書「生物多様性崩壊をもたらす金融業務:熱帯林破壊を助長する銀行と投資家の追跡」は、世界の熱帯林破壊の大部分を引き起こしている「森林リスク産品」セクターの6品目(牛肉、パーム油、紙パルプ、ゴム、大豆、木材)に携わる約300社の森林部門事業に対する商業資金の流れを概説・分析しています。報告書では、森林リスク産品セクターへの融資・引受と債券・株式保有において、どの銀行と投資家が最も大きな役割を果たしているかを明らかにしています。森林破壊を引き起こすリスクの高い銀行、つまり資金提供額上位30行のなかには、ブラジルやインドネシアなどの熱帯林諸国の大手銀行や、米国、欧州連合(EU)、日本、中国といった輸入および財政的に重要な管轄区域の大手銀行が含まれます。

報告書では同時に、影響の大きいセクターへの投資に適用される方針の内容についても評価しています。100を超える銀行と投資家の投融資方針を、環境・社会・ガバナンス(ESG)関連基準の38項目に基づき採点しています。残念ながら平均評価は100点満点中わずか17点と低く、30点以上の評価を受けた銀行と投資家は20社のみで、50点を超えた銀行はわずか2行でした。森林リスク産品セクターに提供される資金の量と、甚大な森林破壊と権利侵害の防止措置である投融資方針との間に大きな隔たりがあることが明白になりました。

報告書で明らかになったのは、森林リスク産品への資金提供者のトップはブラジル銀行とブラデスコ銀行です。両行は主にブラジルの牛肉セクターと大豆セクターに融資していますが、森林伐採と権利侵害を防止するための最低限の方針しかありません。米ウォール街の巨大金融機関であるJPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ、シティグループは紙パルプやパーム油セクターに多額の資金を提供していますが、各行の森林ESG方針は弱く、森林や生物多様性、人権を保護できていません。バンク・オブ・アメリカは100点満点中22点、シティグループは37点、JPモルガンはわずか15点と評価され、3社とも極めて低い評価となりました。

日本の金融機関は紙パルプとパーム油に多くの資金を提供しています。メガバンクではみずほフィナンシャルグループが約74億ドルと最も多く、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG、約58億ドル)、SMBCグループ(約46億ドル)と続き、3行ともトップ20銀行に入りました(表を参照)。方針評価については、日本の金融機関の平均得点は21点で、インドネシアやマレーシアの金融機関よりも低い評価となりました。日本の金融機関の方針は総じて環境・社会面よりもガバナンスに関して強い傾向にあります。みずほが38点で最も高く、SMBCが36点、野村グループが27点、MUFGが24点、三井住友トラスト・グループ(22点)、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は2点、公立学校教職員共済組合は0点でした(注2)。

また今回の調査結果は、主要な管轄区域において金融機関に強固な規制が適用されることが緊急に必要であることも浮き彫りにしています。報告書は、各国政府と金融機関が、パリ協定第2条1(c)と「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」のターゲット14と15の下で、気候変動と生物多様性に関する公的目標を達成すべく資金の流れを調整する責任を負っていると強調しています。しかし調査データによると、パリ協定締結後の2016年から2023年9月までの間、年間の融資・引受総額と投資総額は多少変動しているものの、森林リスク産品の継続的な生産拡大を促進している資本には減少傾向が見られないことを示しています。

「森林と金融」コーディネーターのメレル・ヴァン・ダー・マークは、「多くの人は、環境犯罪に関与している企業に金融機関が融資することが、ほとんどではないにせよ、多くの地域で法的に問題がないことを知ればショックを受けるでしょう。今回の調査結果は、国連のPRI(責任投資原則)やPRB(責任銀行原則)のような持続可能性イニシアティブに加盟している金融機関や、ネットゼロ(注3)を誓約している金融機関が、これらの目標の達成を不可能にしてしまうような企業に融資を続けているという、明らかな偽善を示しています。金融機関に独自のESG基準を設定するよう任せるだけでは、資金の流れを持続可能なビジネス慣行へ転換させるには不十分です。最終的には各国政府が、社会と私たちみんなが依存している生態系を守るために必要な政策と罰則措置を講じる必要があります」と強調しました。

本報告書は資金の流れを記録し、森林セクター方針を分析することに加え、こうした資金がブラジルのアマゾンやインドネシアの森林とコミュニティに与えている負の影響を示す事例もいくつか紹介しています。今回の調査によって、森林破壊企業4社(JBS、カーギル、ロイヤル・ゴールデン・イーグル(RGE)、シナルマス・グループ)が、社会・環境面での負の影響に広く関係し、長期にわたり常習的に悪質行為を行ってきたにもかかわらず、何十億ドルもの資金を集め続けていることが明らかになっています。4社が関係する社会・環境被害は、何年にもわたって続いているものが多く、多くの記録が残っています。

報告書は結論として、金融規制当局と金融機関が社会と私たち人類が依存している生態系を守るために必要な公正な移行を促進するよう、国際的な公共政策の目標に沿って、資金の流れを調整する緊急措置を講じる必要があると述べています。そのために「森林と金融」連合は金融セクターに、以下の5つの基本原則を採用するよう求めています:1)生物多様性の損失の停止と回復、2)先住民族と地域コミュニティの権利尊重と優先、3)公正な移行の促進、4)生態系の完全性(インテグリティ)確保、5)セクターや課題、金融サービス全般にわたって、気候変動・生物多様性・権利尊重の様々な機関目標と整合させること。

「森林と金融」は、キャンペーン活動や草の根活動、調査活動を行う団体の連合体であり、レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)、TuK インドネシア、プロフンド(Profundo)、アマゾン・ウォッチ、レポーターブラジル、バンクトラック、サハバット・アラム・マレーシア(国際環境NGO FoE Malaysia)、FoE USによって構成されています。

 

注1)報告書全文「生物多様性崩壊をもたらす金融業務(Baking on Biodiversity Collapse)」(英語)https://forestsandfinance.org/banking-on-biodiversity-collapse/

要約版(日本語)

「森林と金融」金融調査方法論(日本語)

『森林と金融』は、東南アジア、ラテンアメリカ、中央・西アフリカにおける紙パルプやパーム油など森林リスク産品への資金流入を包括的に分析したオンラインデータベース。金融商品、銀行・投資機関、国・地域、企業グループ、年、部門別に検索が可能。

  • 対象事業地域:世界三大熱帯林地域である東南アジア、ラテンアメリカ(アマゾン)、中央・西アフリカ(コンゴ盆地)
  • 対象産品:牛肉、パーム油、紙パルプ、天然ゴム、大豆、木材(森林リスク産品)
  • 対象期間:融資・引受は2016年から2023年9月、債券・株式保有は2023年9月時点

注2)方針評価の方法論(日本語英語

熱帯林生物群系における森林リスク産品セクターに関係する大手金融機関100社以上を対象に、環境・社会・ガバナンス(ESG)関連基準38項目を自社の投融資方針に盛り込んでいるかについて評価した。この基準項目は、国際的な合意やベストプラクティス(最良の手法や事例)から導き出したもので、金融機関は取引先や投資先がこれらの基準を満たすよう確保することで、ESG問題への加担を回避することが可能になる。日本からはメガバンク3行、三井住友トラスト・グループ、野村グループ、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)、公立学校共済組合が含まれる。

評価基準38項目の概要: 

  • 環境分野(12項目)森林破壊禁止の誓約、天然林や自然生態系の転換禁止の誓約。泥炭地、湿地、高保護価値(HC)林、保全地域、高炭素貯留(HCS)地域に関する具体的な項目。管理、汚染、農薬、温室効果ガス排出に関する項目など。
  • 社会分野(11項目):土地権の尊重、「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC)に関する権利の尊重、先住民族や地域コミュニティの広範な経済的・文化的権利の尊重。人権デュー・ディリジェンス・プロセス、モニタリング・システム、苦情処理メカニズムの確立。強制労働、児童労働、生活賃金、労働基本権に関する項目など。
  • ガバナンス分野(15項目):融資先企業のガバナンスに関する項目(汚職、租税回避、土地権の合法性の証明、環境・社会影響評価、サプライチェーンの透明性とトレーサビリティ(追跡可能性)、事業管理地の地図など)。金融機関自身のガバナンスに関する項目(取締役会による監督と報酬体系、方針の実施、苦情処理メカニズム、投融資の透明性など)。

評価は森林リスク産品の6品目別、および投融資に関して行われた。これらの詳細な評価は、金融機関の投融資ポートフォリオにおける各産品の相対的な重要性に基づいて加重平均の上、総合評価としてまとめた。

注3)温室効果ガスの排出量を、吸収量や除去量と合わせて、全体で正味ゼロにすること。

 

団体紹介
レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
東京都渋谷区千駄ヶ谷1-13-11-2F
関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

※更新
『生物多様性崩壊をもたらす金融業務:熱帯林破壊を助長する銀行と投資家の追跡』日本語要約版を追加しました(2023年12月15日)

『「森林と金融」金融調査方法論』(日本語)および『「森林と金融」方針評価方法論』(日本語)を追加しました(2024年2月、3月)

共同プレスリリース:日本企業に気候変動対策を求める投資家の圧力、一段と強力に(2023/6/29)

国際環境NGO マーケット・フォース
国際環境NGO FoE Japan
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

2023年6月29日(木) : 気候変動関連の株主提案は年々増えており、2023年の株主総会シーズンは日本企業に対して提出されたネットゼロの達成に向けた行動と透明性の向上を求める株主提案の数が過去最多となりました。

先週から本日にかけて実施された三菱商事、日本最大の発電事業者であるJERAの株を共同所有する東京電力ホールディングスと中部電力、メガバンク3行(三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ)の株主総会で気候変動に関する株主提案が決議されました。

株主提案を行ったのは環境NGOの気候ネットワーク、マーケット・フォース、 またFoE Japan、レインフォレスト・アクション・ネットワークに所属する個人です。株主提案を通じて、対象企業に対して短期を含めた排出削減目標の設定やさらなる引き上げ、気候関連リスクの管理の改善を求めました。

上記の株主提案の議決結果は、気候変動に関するリスクへの対処に関して課題を抱える企業に対して、引き続き厳しい目が向けられていることを意味します。

三菱商事

「今年の三菱商事の株主総会では、約2兆円(140億米ドル)に相当する投資家の約20%が、我々が提出した株主提案の1つに賛成票を投じました。これは、投資家が三菱商事の気候変動に関する情報開示の進展にまだ満足しておらず、2050年までのネット・ゼロへの実行可能な道筋があると結論づけるには不十分であることを示しています」
福澤恵(マーケット・フォース エネルギー・ファイナンス担当)

「昨年の株主提案以降、三菱商事は情報開示内容を拡充するなど、一定の進展がみられた一方で、気候危機を食い止めるために十分な削減目標などを設定していません。さらに、昨今のエネルギー危機は、化石燃料への依存を深めることは気候変動を悪化させるだけでなく、エネルギー安全保障をも悪化させるということを示しました。提案は否決されましたが、引き続き三菱商事の方針強化を求め対話を継続していきます」
深草 亜悠美 (FoE Japan気候変動・エネルギー担当/事務局次長)

中部電力

「中部電力の2050年に向けたロードマップは、実現性・具体性に欠けています。低効率石炭火力のフェードアウト、高効率のアンモニア混焼化などで目標を達成すると主張していますが、具体的な削減策は示されていません。持株会社であるJERAが、国内外で新規の化石燃料事業に関与し、GXのもとで脱炭素策としてのアンモニア混焼を広げようとしていることも問題です。中部電力およびJERAが2050年ネットゼロ目標を達成するための責任を果たすことを引き続き求めていきます」
鈴木康子(気候ネットワーク プログラム・コーディネーター)

東京電力HD

「東京電力では、2050年CO2排出ゼロを掲げながら、そのロードマップは具体性に欠け、根拠となる情報開示がなされていません。特にグループ会社であるJERAは国内最大の排出事業者であり、昨年の武豊火力に続き、今年、来年は横須賀火力と、次々と対策のとられていない石炭火力発電を新規稼働させる予定で、排出量は増大する見通しですが、その説明責任を果たしていません。私たちの提案は否決されましたが、引き続き情報開示を求めていきます」
桃井貴子 (気候ネットワーク理事・東京事務所長)

MUFG、三井住友FG、みずほFG

「MUFG の株主総会では、木質バイオマス発電は石炭などの化石燃料への融資に比べて相対的に少ないため、重要性(マテリアリティ)が少ないという発言が担当者からありました。続けて『マテリアティが増せば対応を検討する』との発言もあり、これは一歩前進したといえます。メガバンク全体では、木質バイオマス発電問題について少しずつ理解が進んでいますが、排出量の算定と厳格な方針策定には至っていません。今後、石炭火力発電への木質燃料の混焼が増えれば、排出量は確実に増え、石炭火力発電の延命につながります。このままでは脱炭素への適切な移行ができません」
川上豊幸(レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表)

「みずほの株主のおよそ2割の賛同を得られたことは、同行の化石燃料セクターの投融資方針と削減目標が2050年ネットゼロの公約と整合していないことに対する投資家の強い懸念が表明されたと言えます。また、株主総会開催前の段階でMUFGとSMFGの提案にはそれぞれイタリア最大手のアセット・マネージャーであるANIMAをはじめ、運用資産額1870億ユーロ(MUFG)、2780億ユーロ(SMFG)相当を保有する機関投資家がすでに賛同を表明しています。特に脱炭素へのトランジション(移行)の名の下に、新規のガス開発やLNG設備への支援を継続することは、気候科学に真っ向から矛盾し、グリーンウォッシュであるだけでなく、投資家に容認できない多額の財務リスクをもたらします。リスク軽減のためには、適切な財務およびESGリスク評価を行うとともに、気候科学に整合しない政府政策に依存するのではなく、科学に基づき株主が求めている新規の石油・ガスへの投融資を制限する方針を早急に掲げる必要があります」
渡辺瑛莉 (マーケット・フォース, 日本エネルギー金融キャンペーナー)

「3メガとも、年々ポリシーを改定あるいは強化を進めてきているとは云え、総会で経営陣の説明や質疑応答を聞いていると、気候危機、および気候変動の主要因となっている化石燃料に資金提供することについての危機感にギャップがあると感じざるを得ません。日本政府の方針に従っているのでは、ネットゼロに向かう世界の動きから取り残されてしまいます。銀行に限らず、民間各社が日本の脱炭素対策を牽引するようになってくれることを切に願っています」
鈴木康子(気候ネットワーク プログラム・コーディネーター)

報道機関関係者の皆様へ

気候変動に関する株主提案、2023年も日本は最多更新見込み

2023年、多くの投資家がグローバル企業の気候変動対策の遅れに対して、深刻な懸念を表明しました。化石燃料事業への投融資を続ける金融機関や脱炭素対策に遅れが見られる企業に対して、炭素集約型ビジネスへの関与から低排出セクターへの包括的な移行を求める声は強まる一方です。特に、金融機関の取り組みに対しては厳しい視線が向けられており、今年米国のJPモルガン(35%)やウェルス・ファーゴ(31%)、ゴールドマン・サックス(30%)、バンク・オブ・アメリカ(29%)に対して提出された気候変動対策における移行計画を求める株主提案の賛成比率(かっこ内の数字)は軒並み高水準となりました。2023年、日本のメガバンク3行に対して同時に気候変動に関する株主提案を提出した背景には、国際的な投資家や株主が共有する気候危機への強い危機感と、日本の銀行も早急に1.5℃目標に整合する対策を講じるべきとの考えがあります。

日本では、欧州の機関投資家・年金基金計3社からトヨタ自動車に対して気候変動対策における渉外活動に関する年次報告書を作成することを求める株主提案が提出され、国際的な注目を集めました。加えて、電源開発にも2年連続で仏・アムンディ、英・HSBCアセットマネジメント、豪・ACCR(Australasian Centre for Corporate Responsibility)から気候変動に関する株主提案が提出されています。そのほかの企業に提出された議案も含め、2022年に続き今年も気候変動に関する株主提案は過去最多となる見込みです。

日本と気候変動に関する株主提案の効果

マーケット・フォースは2021年、住友商事に対してパリ協定の目標に沿った事業活動のための事業戦略を記載した計画の策定、及び開示を求める株主提案を提出しました。提案は20%の賛成票を獲得し、その後の石炭火力に関するポリシーの改善につながりました。さらに住友商事は2022年2月にバングラデシュのマタバリ2 石炭火力発電所から撤退することを発表しました。

2020年、気候ネットワークがみずほFGに株主提案を行い、みずほFGは日本の銀行として初めて、2050年までの石炭火力フェーズアウト目標(後に2040年に変更)を設定しました。他の2メガバンクもこの動きに追随しています。

2021年、350.org Japan、RAN、気候ネットワーク、マーケット・フォースは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)に対し、株主提案を提出しました。決議後、MUFGは2050年までにポートフォリオ全体でネットゼロを目指すことを発表し、日本の銀行として初めてネットゼロバンキングアライアンスに加盟しました。その後、みずほFG、三井住友FGも追随しています。

2022年、350.org Japan、RAN、気候ネットワーク、マーケット・フォースは、三井住友FGに対して気候変動に関する株主提案を2件提出しました。株主提案の提出後、同社は石炭採掘部門の投融資方針を強化し、新規および既存プロジェクトの拡張と関連するインフラ開発への投融資を制限しました。2023年5月には、同社はEACOP(東アフリカ原油パイプライン)に関与していないことを発表しました。

気候変動対策を求める企業と株主の対話は、これまで上記のような形で株主提案に至りましたが、これらの議案は企業の取り組みの改善に重要な役割を果たしました。今年の株主提案の対象となった企業も、これまでに情報開示の改善を行っており、今年に統合報告書が公開されれば、さらに改善されることが予想されます。

 

Photo credit: 350 Japan

関連情報

株主提案に関するより詳しい情報(投資家向け説明資料など)は以下のページを御覧ください
Asia Shareholder Action

共同プレスリリース「国内外の環境NGOが東証プライム6企業に株主提案 〜メガバンク全3社含む日本企業の気候変動対策に問題提起〜」2023年4月11日

株主提案の内容に関するお問合せ先

□ マーケット・フォース(Market Forces) https://www.marketforces.org.au
担当者:Antony Balmain E-mail: contact[@]marketforces.org.au

□ 国際環境NGO FoE Japan https://www.foejapan.org/
担当者:深草亜悠美 E-mail: fukakusa[@]foejapan.org

□ 気候ネットワーク https://www.kikonet.org
東京事務所:TEL:+81-3-3263-9210
担当者:鈴木康子 E-mail: suzuki[@]kikonet.org

□ レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)japan.ran.org
担当者:関本幸 E-mail: yuki.sekimoto[@]ran.org

共同プレスリリース:パリ協定に整合する気候変動対策の強化を求める株主提案の議決権行使結果(2022/11/8)

特定非営利活動法人 気候ネットワーク
国際環境NGO 350.org Japan
国際環境NGO FoE Japan
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

2022年4月、国内外の環境NGOとその代表者を含む複数の個人株主が、金融、商社、電力の3業界の4社(三井住友フィナンシャルグループ、三菱商事、JERAの株主である東京電力ホールディングスと中部電力)に対して気候変動対策の強化を求める株主提案を提出しました。これらの提案は、6月後半の各社の株主総会にて否決されましたが、表2に示すように一定数の賛同を得ることができました。提案は主に、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)勧告の内容に沿って、ネットゼロ達成のための具体的な計画の設定・開示を求めるものでした。

今回の調査からは、1) 定款変更という形式への課題が残る一方で、気候変動対策の強化を求める株主提案への支持が国内外の投資家の間で広がっていること、2) パリ協定と整合する経営戦略の策定・開示を求める提案への支持がより集まった一方で、企業のビジネスモデルの根幹に影響をおよぼし得る株主提案への支持も一定程度集まったこと、3) 大手議決権行使助言会社の判断に関わらず、企業との建設的対話(エンゲージメント)を通じて独自の判断を下す投資家が増えてきていること、が見てとれました。

ここに各提案に対する議決権行使の調査結果を報告致します。 

 

株主提案に対する議決結果

4社の提案に対する機関投資家の議決権行使状況を公開情報から調査した結果、2022年10月31日までに把握できたそれぞれの提案に対する賛否(企業・団体の数)は表1のとおりです。(提案詳細は表2を参照)

*分裂とは、企業またはグループ会社の中で議決権行使の賛否が分かれているケース。合計とは、各提案に対して議決権行使を行った投資家の中で、今回の調査で結果が確認できた企業・団体の数の集計。

気候変動に関連する株主提案は世界でも増加しています。こうした提案に対し、長期的な気候変動リスクに適応する戦略の策定および開示は企業価値の向上に資するとする賛成の意見がある一方、中長期的な企業価値に対する気候変動リスクは重要だが定款に入れ込むのは対象企業の業務執行に具体的な制約を加える懸念があるといった反対意見も見受けられました。

日本の会社法の下で株主からの提案を議題に載せるには、定款変更を求めるものに縛られている状況を踏まえると「定款への記載が妥当ではない」ことが判断理由とされてしまう点は課題です。一方で議決権行使結果を見ると、気候変動問題の重要性に対する理解は着実に広がっていることが見てとれます。

 

議案に対する賛成率

議案に対する賛成率からは、パリ協定と整合する経営戦略の策定・開示を求める提案(SMBCグループ議案4・三菱商事議案5)に対して、投資家からの賛成が得やすい傾向が見られます。とはいえ、企業の事業戦略(ビジネスモデル)の根本にも影響し得るネットゼロに向けた移行を求める株主提案にも10~20%程度の支持が得られていることは注目に値します。議決権の2/3以上の賛成を得られていない以上、法的拘束力はありませんが、企業としても無視できない数の機関投資家が気候変動対策の強化を求めていることを示唆しています。

大手助言会社や国内外の運用受託機関の判断

今年は、投資家の議決権判断に一定の影響力を有すると言われている、議決権行使助言会社大手のグラスルイス(Glass Lewis)とインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)の判断も大きく分かれました。

SMBCグループの議案4、三菱商事の議案5、6については、助言会社の意見が割れていたにも関わらず、株主から一定の賛同を得られたのは、2050年ネットゼロという明確な目標に向け、気候変動対策に関する方針に対して独自の判断を下す機関投資家が増えてきていることや、機関投資家が議決権行使前に企業とサステナビリティ(持続可能性)に関する建設的な対話(エンゲージメント)をする機会が増えていることが背景にあると思われます。

2020年にみずほフィナンシャルグループに株主提案を出した時点では、国内の機関投資家が助言会社以外の国外の機関投資家の動向に追随する動きは限定的でした。2020年に日本版スチュワードシップ・コードが改訂されて以降、日本の機関投資家にとっても「気候変動対策と経営戦略」のつながりについての認識が変化してきているように見受けられます。

定款変更に記載する内容として適切かという議論は残るものの、気候変動問題の重要性や、中長期的な計画が企業価値に影響をおよぼすとの認識への理解は広がってきています。その傾向は、国外の主な機関投資家の提案に対する議決権行使結果を見るとより明らかです。

国内投資家に比べると国外投資家は賛成票が多くなっています。一方で、エネルギー危機の中で脱炭素の機運が弱まりかねない状況下において、すべての提案に一括して「反対」した国外の大手資産運用会社があったことは懸念されます。

 

今後に向けて

国内外の機関投資家の多くは、2050年ネットゼロを目指す資産運用会社の国際的な枠組みである「ネット・ゼロ・アセット・マネージャーズ・イニシアティブ(NZAMI)」に署名しています。NZAMIのコミットメントを達成できるかどうかは投資先企業の行動に大きく依存するため、機関投資家は投資先企業に対し脱炭素化に向けた取り組みの強化・加速化を促していく必要があります。

企業側は、TCFDレポートを作成して情報開示を進めたり、2050年に向けた長期目標を設定し、独自の気候変動対策計画を公開するなど、一定の取り組みは進めていますが、株主提案の対象となったいずれの企業も2050年の目標達成に向けた具体的な計画を示すには至らず、対策は不十分なままです。各社は、株主提案への議決権行使結果も踏まえ、脱炭素目標に向けて現実的かつ具体的な行動を盛り込んだ計画を示し、行動を加速させていくことが強く求められています。

 

集計結果

株主提案への議決権行使結果(PDF)

 

関連情報

【プレスリリース】国内外の環境NGOが国内4企業に株主提案(2022年4月13日)

【共同プレスリリース】三菱商事への株主提案は否決:三菱商事は情報開示と気候変動対策の強化を(2022年6月24日)

【共同プレスリリース】 株主総会にて東電・中電とも否決、ただし東電は約9.55%(速報値)獲得(2022年6月28日)

【共同プレスリリース】投資家たちが日本企業に迅速な気候変動対策を要求(2022年6月29日)

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