サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

東京オリンピックでの熱帯林破壊と人権侵害の停止を、NGOが要請

緊急リリース 2017年9月11日

連絡先:       川上豊幸 レインフォレスト・アクション・ネットワーク 日本代表  toyo@ran.org

オリンピック2020年東京大会での熱帯林破壊と人権侵害の停止を、NGOが要請

 

東京・リマ- 47の市民団体は、本日、ペルー・リマで開催される国際オリンピック委員会(IOC)理事会の開始にあたり、IOCと2020年東京大会当局に対して公開書簡を送付しました。書簡は、IOCの持続可能性に関する誓約の正当性と説明責任、そしてオリンピック競技大会の評判と信頼性に対する重大で増大しつつある懸念を繰り返し表明しています。さらに書簡は、大会関連の建設等において熱帯林を故意に利用し、人権侵害を潜在的に助長するオリンピックを批判しています。署名団体は、新国立競技場を含む東京オリンピック関連施設建設に使用されている木材の完全な透明性と、熱帯材使用の停止を求めています。

署名団体には、環境破壊や人権問題に関連するサプライチェーンのリスクを熟知している幅広い分野で活動するNGOが名前を連ねており、東京大会当局による透明性の欠如が続いていることを批判しています。

「東京大会当局は新国立競技場の建設に大量の熱帯材を使っているという事実を隠している。木材サプライチェーンの完全な透明性がなければ、持続可能なオリンピックを主催するという主張はまったく根拠がありません」とレインフォレスト・アクション・ネットワークのハナ・ハイネケンは述べています。

NGOは、IOCが持続可能性の明白なリスクに対処できていないことが、「オリンピックの全ての面に持続可能性を含める」という自らの誓約に対する明確な違反であると主張しています。特に、日本ではコンクリート型枠合板の大半が違法伐採、熱帯林破壊、土地権侵害などの問題が、はびこるマレーシアとインドネシアの熱帯林に由来しているにもかかわらず、型枠に使用されている木材を調達方針の環境、労働、人権の要件から免除できるという、2020年東京大会の調達方針の大きな抜け穴を指摘しています。

2016年12月6日、44のNGOはIOCに対して、違法で持続不可能な熱帯材が新国立競技場やその他の関連施設の建設に使用されるリスクが高いことを警告する書簡を送りました。これらのNGOは、建設着手時に追加の予防策とデュー・デリジェンス措置を採用しなかった場合、人権侵害、違法伐採、熱帯林破壊への加担となる可能性があると警告しました。この書簡は、マレーシアの高リスク木材が東京の建設事業で使用されているという証拠を提示し、2020年東京大会の「持続可能性に配慮した木材の調達基準」はリスクのある木材の使用を防ぐためには不十分であると警告しました。しかし書簡に記された1つの要求も満たされていません。

本日の書簡では、新国立競技場に、コンクリート型枠合板としてかなりの量の熱帯林が使用されていることに言及しています。悪名高いマレーシアの木材会社シンヤン社により供給された熱帯材合板が、同社の違法伐採、熱帯林破壊、人権侵害の歴史にもかかわらず、使用されているという証拠が示されています。東京大会当局は、シンヤン社の木材が認証されていると主張し、その使用を擁護していますが、書簡ではマレーシアのサラワクではシンヤン社の認証木材が人権侵害につながっているという証拠をもって、その持続可能性に異議を唱えています。さらに、書簡は新国立競技場でコンクリート型枠用として使用されている木材の大部分は実際には未認証製品であり、日本で使用されているほとんどのコンクリート型枠用合板を供給しているマレーシアまたはインドネシアの熱帯林に由来する可能性が高いと述べています。

マーケット・フォー・チェンジのCEO、ペッグ・パットは「シンヤン社の伐採事業が先住民族の伝統的土地や暮らしを破壊しているという先住民族の代表者自身の証言の前では、シンヤン社の認証は無意味である」と述べています。

2020年東京大会当局は、熱帯林減少の主な原因であるパーム油と紙パルプについて調達基準を策定中です。日本での熱帯林由来の紙の消費が大きいこと、またパーム油の消費が増えつつあることを踏まえ、NGOは東京大会当局に対し、環境面・社会面の強固な保全措置を採用することを要求し、そうでなければ熱帯林破壊、違法伐採、人権侵害を助長する行為により、さらなる批判に直面すると警告しています。

以上

なお、公開書簡については、以下をご覧ください。

(IOC向けの英語版の公開書簡へのリンクはこちら)

英語のプレスリリースについては、RAN本部のサイトをご覧ください。

また、関連する写真については、以下をご覧ください。

https://www.dropbox.com/sh/hfjjq01oaxa8wyg/AACxyIrcFxd0m90YKhhdmgBOa?dl=0

******************************以下、東京大会当局宛ての公開書簡の全文です*******************

2017年9月11日

日本スポーツ振興センター 理事長 大東 和美 様

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 会長 森 喜朗 様

東京都知事 小池 百合子 様

2020年東京大会当局への公開書簡

 

件名: 2020年東京オリンピックにより、オリンピックの持続可能性へのコミットメントが脅かされている件について

拝啓

私たち下記の署名団体は、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の持続可能性と説明責任について重大な懸念を抱いています。2020年東京大会が熱帯林を利用し、人権侵害に拍車をかけている可能性があることを示す証拠が増加しており、オリンピックの持続可能性と人間の尊厳への尊重についてのコミットメントが脅かされています。私たちは、国際オリンピック委員会(IOC)と2020年東京オリンピック当局に対して、使用されているすべての熱帯木材の産地と量を含め、2020年東京大会の木材サプライチェーンについて直ちに情報を開示し、これ以上、熱帯林をはじめとするリスクの高い供給源からの木材を使用するのを止めるよう要請します。

オリンピック・アジェンダ2020にも謳われているように透明性はオリンピックの信頼性の基本となるものです。森林関連製品(特に森林ガバナンスの脆弱な熱帯諸国から調達されるもの)に伴う高い環境・社会リスクを考えれば、全サプライチェーンの透明性と強化したデュー・デリジェンスは責任ある調達を確実に実施するために極めて重要です。

残念ながら2020年東京大会当局は大会関連施設での木材の使用に関して情報公開しておらず、違法で持続不可能な熱帯木材を使用するリスクを軽減する十分な対策を講じてきませんでした。木材調達に伴うリスクについては、2016年12月6日にNGO 44団体がIOCに送った書簡で明確に説明されていました[1]。書簡では東京の建設事業でマレーシアからの高リスク木材が使われている証拠を示し、2020年東京大会の木材調達コード[2]が高リスク木材の使用を防止するのに不十分であると論じました。しかし、書簡で提示された要求は一つも実現されていません。特に持続可能性に配慮した木材調達コードは、現在も根本的な欠陥があります:2020年東京大会当局は、調達コードでコンクリート型枠用合板が環境、労働および人権の基準の適用を免除されていることを盾に、新国立競技場の建設に大量の熱帯木材を使っています。型枠用合板は、日本国内外から一貫して批判の対象となってきた低い水準の合法性基準を満たすことしか義務付けられていません[3]。このような基準は国際的なベストプラクティスをはるかに下回っています。

今年の4月、マレーシアの木材会社シンヤン社の供給した熱帯材合板が新国立競技場の建設現場で発見されました[4]。シンヤン社は、マレーシア・サラワク州で手つかずの熱帯林の組織だった破壊、違法伐採および人権侵害に関わってきたことが指摘されています[5]。2020年東京大会当局は同社の供給する木材の使用を認めたばかりでなく[6]、この問題となっている供給業者から調達した木材を使用し続けています[7]。2020年東京大会当局は、その発見されたサンプルがPEFC認証材であると主張して、シンヤンの木材の使用を正当化しようとしました[8]。しかし、競技場でコンクリート型枠として使われている合板の大部分は非認証製品で、日本で使われている型枠合板の大半を供給しているマレーシアまたはインドネシアの熱帯林から調達されている原料を使っている可能性が高いのです[9]。また、熱帯林破壊と人権を侵害する伐採を行ってきたことで問題となっているシンヤン社から調達することは、オリンピックの価値観とコミットメントと矛盾しています。

さらに、合法性と伝統的・市民的権利や保護価値の高い地域を含め社会・環境面への責任ある配慮をPEFC認証が保証していないことを示す実質的証拠もあります。PEFCに相互承認されたマレーシアの認証制度であるマレーシア木材認証制度(MTCS)は、基準もシステムの強固さも、PEFCよりさらに脆弱であると評価されてきました[10]

サラワク州ロング・ジェイク村の先住民族は、土地に対する権利を守ろうとして長年、同社と闘ってきました[11]。村長のマトゥ・トゥガンさんは、最近、次のように発言しています:「[シンヤン社は]丸太を伐り出す前に目の前の全てのものを破壊します。今、ロング・ジェイク村の生活がとても困難となっているのは、そのためです」。長期にわたる住民の反対にもかかわらず、ロング・ジェイク村の周りの森林は少なくとも[12]

こうした展開に抗議して東京の新しいオリンピック関連施設の建設に熱帯木材を使用することをすぐに止めるよう求める14万以上の署名が5月10日に日本大使館に提出されました[13]。日本政府も2020年東京大会当局も、この陳情に応答していません。透明性もなく、異議申立制度も確立されてないということは、説明責任がほとんど果たされていないということです。

2020年東京大会当局は現在、熱帯林減少の重要な原因であるパーム油と紙・パルプなどの商品(「森林リスク商品」)に関する調達基準策定も検討しています。同様の間違いを回避するためには、強固な社会・環境セーフガードを導入することが不可欠です。

したがって、下記署名団体は、早急に以下の措置を求めます:

  • 熱帯木材および他のリスクの高い供給源からの木材の使用停止;
  • 新国立競技場を含む全ての2020年東京大会施設の建設に使われる熱帯木材の産地と数量について即時での情報開示および木材の合法性と持続可能性を保証する措置に関する詳細な報告;
  • 木材サプライチェーンに関する本格的なトレーサビリティと第三者検証の義務付け;
  • 木材調達コードの改訂:全ての保護価値の高いエリアと炭素蓄積量の多い森林を保護し、自由意思による事前の十分な情報に基づく同意(FPIC)の確認を含め、先住民族や地域社 会の土地、森林、天然資源に対する法的、慣習的な権利を尊重することを要求する、強化 された社会・環境基準とデュー・デリジェンスを義務付ける、コンクリート型枠用合板に 関する抜け穴を埋め、強固な合法性基準を採択することを含む;
  • 他の全ての森林リスク産品について、東京大会で使用されるいかなる原料や製品も熱帯林破壊や違法伐採もしくは人権侵害に関連しないことを保証する強固な調達方針の採用。

この手紙に対する回答を可能な限り早く、遅くとも10月2日の前にお送りくださるよう要請します。ご質問があれば、ハナ・ハイネケン(hheineken@ran.org)まで(英日どちらでも)、お問い合わせください。

敬具

署名団体

  1. Accelerated Rural Development Organisation (ARDO), Ghana – Pascal Benson Atiglah, Director
  2. ARA, Germany – Wolfgang Kuhlmann, Director
  3. Biodiversity Conservation Center, Russia – Alexey Zimenko, Director General
  4. Biofuelwatch, UK/US – Almuth Ernsting, Co-Director
  5. Bob Brown Foundation, Australia – Jenny Weber, Campaign Manager
  6. The Borneo Project, US – Jettie Word, Executive Director
  7. Bruno Manser Fund, Switzerland – Lukas Straumann, Executive Director
  8. Center for International Environmental Law, US – Carroll Muffett, President & CEO
  9. Center for Orang Asli Concerns (COAC), Malaysia – Colin Nicholas, Coordinator
  10. Chlorine Free Products Association, US – Archie Beaton, Executive Director
  11. Civic Response, Ghana
  12. Dogwood Alliance, US – Scot Quaranda, Communications Director
  13. Environment East Gippsland Inc , Australia – Jill Redwood, Coordinator
  14. Environmental Investigation Agency, US – Alexander von Bismarck, Executive Director
  15. FERN, Belgium/UK – Saskia Ozinga, Campaigns Coordinator
  16. The Finnish Nature League (Luonto-Liitto), Finland – Leo Stranius, Executive Director
  17. Forest Peoples Programme, UK – Patrick Anderson, Policy Advisor
  18. Forest Watch Ghana, Ghana – Samuel M. Mawutor, Coordinator
  19. Friends of the Earth Japan – Junichi Mishiba, Director
  20. Gaia Care, Ghana
  21. Gesellschaft für Ökologische Forschung, Germany – Sylvia Hamberger
  22. Global Justice Ecology Project, US – Anne Petermann, Executive Director
  23. Global Witness, UK – Patrick Alley, Director
  24. Greenpeace International – Matthew Daggett, Global Campaign Leader, Forests
  25. Human Rights Now, Japan – Kazuko Ito, Executive Director
  26. Japan Tropical Forest Action Network, Japan – Akira Harada, President
  27. Jikalahari (The Network for Riau’s Forest), Indonesia – Woro Supartinah, Coordinator
  28. Keruan, Malaysia – Komeok Joe , CEO
  29. Link-AR Borneo, Indonesia – Agus Sutomo, Director
  30. Markets For Change, Australia – Peg Putt, CEO
  31. Mighty Earth, US – Henry Waxman, Chairman and former US Congressman
  32. More Trees, Japan – Ryuichi Sakamoto, Representative
  33. Mother Nature Cambodia, Cambodia – Alejandro-Gonzalez Davidson, Chief Executive
  34. New York Climate Action Group, US – JK Canepa, Co-Founder
  35. PADI Indonesia – Ahmad Sja, Director
  36. Pro REGENWALD, Germany – Martin Glöckle
  37. PT AirWatchers, US – Gretchen Brewer, Director
  38. Rainforest Action Network, US – Lindsey Allen, Executive Director
  39. Rainforest Foundation UK – Simon Counsell, Executive Director
  40. Rainforest Rescue / Rettet den Regenwald, Germany – Mathias Rittgerott, Campaigner
  41. Salva la Selva, Spain – Guadalupe Rodríguez, International Campaigner
  42. Sarawak Campaign Committee, Jeapan – Tom Eskildsen, Steering Committee Member
  43. Sarawak Dayak Iban Association (SADIA), Malaysia – Nicholas Mujah, Secretary General
  44. SAVE Rivers, Malaysia – Peter Kallang, Chairman
  45. Talents Search International, Ghana
  46. The Wilderness Society, Australia – Lyndon Schneiders, National Campaigns Director
  47. TuK INDONESIA – Rahmawati Retno Winarni, Executive Director

[1] http://www.foejapan.org/forest/library/161206.html

[2] https://tokyo2020.jp/jp/games/sustainability/data/sus-wcode-timber-JP.pdf

[3] 例えば次を参照:籾井まり「違法木材の取引:日本における取組」(2014年11月)、www.chathamhouse.org/publication/trade-illegal-timber-response-japan

[4] http://japan.ran.org/?p=1032

[5] グローバル・ウィットネス「マレーシアの熱帯林破壊と日本:持続可能な2020年オリンピック東京大会へのリスク」(2015年12月)、www.globalwitness.org/en/reports/shinyang/

[6] www.bloomberg.com/news/articles/2017-04-20/rainforest-wood-breaches-tokyo-green-olympic-vow-activists-say

[7] www.thestar.com.my/news/nation/2017/08/10/tokyo-olympic-stadium-to-use-certified-msian-wood/#j8BZikQ0VyxAk2JR.99と私的な情報交換に基づく。

[8] www.jpnsport.go.jp/newstadium/Tabid/367/ItemID/220/Default.aspx

[9] 国産材など、より持続可能な代替製品が利用可能であるにもかかわらず、日本で使われているコンクリート型枠合板のほとんどすべてが熱帯木材から作られている。脚注5を参照。

[10] 例えば次を参照:WWF Forest Certification Assessment Tool (CAT)、http://wwf.panda.org/wwf_news/?246871/WWF-Forest-Certification-Assessment-Tool-CAT;および www.greenpeace.org/international/en/campaigns/forests/solutions/alternatives-to-forest-destruc/Weaker-Certification-Schemes/

[11] ロング・ジェイクのコミュニティは、シンヤン社のライセンス区画LPF 0018の中に位置する。コミュニティの住民への影響についてマレーシア人権委員会が調査を実施したことがある。このコミュニティの住民が先住慣習権の侵害でシンヤン社を提訴した裁判が係争中である。例えば、次を参照:SUHAKAM, Report on Penan in Ulu Belaga: Right To Land and Socio-Economic Development, 2007, www.suhakam.org.my/wp-content/uploads/2013/12/Report-On- Penan-In-Ulu-Belaga.pdf

[12] 次を参照:www.pefc.org/company-detail?id=287157、www.pefc.org/company-detail?id=282283、および 「Global Forestry Services, Chain of Custody Checklist & Assessment Report of Shin Yang Plywood (Bintulu) and Forescom Plywood」www.gfsinc.biz/wp-content/uploads/2015/05/Summary-Shin-Yang-Plywood-Bintulu-Nov- 2016.pdf,www.gfsinc.biz/wp-content/uploads/2015/05/Summary-Forescom-Plywood-Bintulu-Nov- 2016.pdf

[13] http://www.jatan.org/archives/4075

以上