サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

プレスリリース:新報告書「サリム・レポート」発表 日本のメガバンク3行、近年最大級の熱帯林違法皆伐とのつながりが判明(2018/4/13)

〜インドネシア財閥サリム・グループの関連企業、パーム油生産のための熱帯林皆伐が明らかに〜

サンフランシスコ発ーー環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都新宿区、以下RAN)は、11日、「サリム・レポート:ボルネオ島泥炭林でのサリム財閥関連企業のパーム油に関する持続可能性評価報告書」(”Palm oil sustainability assessment of Salim-related companies in Borneo peat forests” 、注1)を発表し、インドネシアの最大財閥であるサリム・グループの関連企業が、ボルネオ島の熱帯林で続いている違法皆伐において、近年では最大級の事例に関係していたことを明らかにしました。インドネシア政府は泥炭地開発と森林減少を規制し、同グループもその遵守を約束していましたが、約1万ヘクタールの泥炭林がアブラヤシ農園のために違法に開発されていました。本報告書では、同グループ企業に日本のメガバンク3行が多額の資金提供をしていることにも言及し、サリム・グループに働きかけるなど、迅速に対応することを銀行に求めています。

同報告書は、この泥炭地破壊に責任のある2つのアブラヤシ農園企業が、インドネシアの大物実業家であるアンソニー・サリム氏がコントロールしている会社または関係会社であることを明らかにしています。サリム氏はインドネシア最大財閥のサリム・グループを率い、その幅広い企業ネットワークにはインドフード・スクセス・マクムル社(インドフード)と、その親会社のファーストパシフィック社があります。インドフードは世界最大のパーム油生産会社の一つで、インドネシア最大の食品会社であり、食品大手のペプシコとネスレの合弁事業パートナーでもあります。インドフードとファーストパシフィック社は両社とも、みずほフィナンシャルグループ(みずほ)と、三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)から多額の融資を受け、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)からの投資も受けています。インドフードは三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)からも融資を受けています。

進行する森林減少についてサリム・グループが初めて知らされたのは2016年2月でした。しかし、インドネシア政府から繰り返し泥炭地開発の停止を指示されていたにもかかわらず、介入をしませんでした。それどころか、同グループの子会社は、本報告書内で指摘しているように、当初、インドネシア政府の泥炭復興庁(BRG)が、ほとんどの開発対象地を「優先的に保護すべき泥炭地」と指定していたにもかかわらず、インドネシア政府の泥炭地開発の凍結対象地域を示す地図の区分を開発可能となるよう変更してもらうなどしていました。邦銀とインドネシアの銀行は、このような破壊活動を禁止する方針がないため、最もリスクにさらされている主要な貸し手として目立っています。日本のメガバンク3行はサリム・グループに最大で10億米ドル以上の融資を行っており、中でもみずほは最大の貸し手です。

RAN責任ある金融シニア・キャンペーナーのハナ・ハイネケンは「この報告書は、熱帯林が紛争パーム油のために破壊され続けているにもかかわらず、ビジネスのトップレベルでの怪しい取引や問題対処への怠慢について明確な証拠を示しています。一方、サリム・グループの顧客企業や資金提供者は、何も問題がないかのように同グループと取引を続けており、違法な森林破壊に加担しているのです。みずほ、MUFG、SMFGは、サリム・グループがインドネシアの法律や、森林破壊を伴わない持続可能な開発の規範を遵守するよう促すか、または同グループとの取引関係を解消する責任があります」と訴えました。

RANは昨年11月、インドネシアの労働権擁護団体OPPUK、国際労働権フォーラム(ILRF)とともに、インドフードのアブラヤシ農園で労働搾取が続いていることを発表したばかりです(注2)。調査で確認された労働者酷使の事例では、児童労働や強制労働の状況が起きている可能性が高いだけでなく、労働者が日常的に危険性の高い農薬の暴露を受け、給料は最低賃金以下で、違法に臨時雇用者に中心的な役割を果たす仕事をさせ、独立した労働組合の結成を阻止することが含まれます。このような違法な労働行為が起きていたことは最近、独立監査(注3)によって裏付けられました。

ハイネケンは、「サリム氏が継続的な違法労働搾取、そして今は違法な森林破壊に関係していたにもかかわらず、数十億米ドルもの企業融資、債券や株式からの資金が全てサリム・グループの企業に流れています。本報告書は、メガバンクを含む主要銀行が炭素集約度の高い泥炭地破壊促進の役割に加担していたという失敗を明らかにしています。その中には、サリム・グループの環境、社会およびガバナンスのリスクについて繰り返し警告を受けてきた銀行も含まれています。銀行は気候変動に対応する誓約を強化し、泥炭地破壊への資金提供を止める必要があります」と強調しました。

メガバンクと比較して、パーム油に関する融資方針をもつシティグループの対応は素早く、サリム・グループの子会社であるアブラヤシ農園企業のインドフード・アグリ・リソーシズ社とその子会社への全融資をキャンセルし、関係を解消するとともに、本報告書で問題視されているパーム油企業へのエクスポージャーの有無を確認していることを先日通知してきました。

泥炭地は、火災のリスク(農園開発のために排水された後、乾燥して火がつきやすくなる)と気候調節の重要性から、インドネシアの法規制では特別に保護されています。一度火がつくと消化はほぼ不可能です。また、泥炭地は重要な炭素吸収源であり、炭素を地中に蓄えています。アブラヤシ農園開発のために排水された泥炭地では、1ヘクタール当たりで平均55トンの二酸化炭素が毎年排出され(注4)、6,000ガロン以上のガソリンを燃やすのとほぼ同じ量です。よって、今回開発された1万ヘクタールの泥炭地で排出される二酸化炭素の量は、毎年55万トンになります。ちなみに平均的な乗用車は毎年約5トンの二酸化炭素を排出しています(注5)。

また、本報告書ではサリム氏の企業統治に対して深刻な懸念を提起しています。サリム・グループのビジネス帝国は、グループが管理する上場企業と、隠れた関連企業(インドネシアでは「ビジネス・オン・ザ・サイド」と呼ばれる非上場企業)とに分けられます。上場企業は透明性と持続可能性への誓約をしていますが守ることはできず、隠れた関連企業は熱帯林と保護すべき泥炭地を破壊しています。サリム・グループは「インドフード帝国」という表向きの顔とは懸け離れ、破壊的な事業を続けています。パーム油購入企業は、熱帯林を保護して人権を尊重する責任ある生産者からのみ購入する責任があります。同時に、サリム・グループ企業に資金提供している銀行は気候変動に対応するための方針の採択を含め、デューデリジェンスを強化する責任が問われます。

注1)「サリム・レポート」(報告書全文、英語)

本報告書は、持続可能な生産と取引を調査するコンサルタント「AidEnvironment」がまとめた調査に基づき、レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)、レインフォレスト・ファンデーション・ノルウェー(RFN)、サムオブアス(SumOfUs)が作成しました。

注2)RANプレスリリース「労働搾取、貧困水準の賃金、有毒な健康被害を起こし続けるインドネシアのアブラヤシ農園への邦銀からの融資について、最新レポート発表」、2017年11月28日

注3)“ASI Final Assessment Report”

注4)World Resources Institute, “Destruction of Tropical Peatland Is an Overlooked Source of Emissions”, April 21, 2016

注5)U.S. Environmental Protection Agency (EPA), “Greenhouse Gas Emissions from a Typical Passenger Vehicle”, March 2018

 

 

「サリム・レポート」詳細

報告書全文はこちらから

本報告書は、インドネシアのボルネオ島シンタン地区で操業している2つのアブラヤシ農園企業の森林破壊行為を調査しています。

2つの農園企業とは、アンソニー・サリム氏が株式の過半数を保有しているドゥタ・レンドラ・ムルヤ社(PT Duta Rendra Mulya : DRM社)と、共同出資者を通じてサリム氏と関連のあるサウィット・カトゥリスティワ・レスタリ社(PT Sawit Khatulistiwa Lestari: SKL社)です。

ボルネオ島シンタン地区の最も重要な泥炭地の1万ヘクタールは「ケタンガウ(Ketungau)泥炭湿地」と呼ばれ、アブラヤシ農園開発のためにラグビー場約1万個分の泥炭湿地が開発されました。

フォーブス誌によると、アンソニー・サリム氏はインドネシア4番目の富豪で、氏の共同経営者は過去に厳しい調査を求められてきました。サリム氏は様々な上場企業(ファースト・パシフィック、インドフード・スクセス・マクムル、インドフード・アグリ・リソーシズ[インドアグリ]、サリム・イボマス・プラタマ、ロンドン・スマトラ)を所有していることで知られていますが、同時に、政府の規制や、開発を禁止している自社方針に反して熱帯林と泥炭地の破壊を続けている多くの非上場グループ企業を(何層にも株主が重なっている場合が多いが)コントロールしていることでも知られています。

サリム・グループのパーム油事業への重要な資金源は銀行融資です。2017年9月30日時点でインドフードとその子会社の帳簿上に20億米ドル以上の融資記録があり、ファースト・パシフィック社には6億8千万米ドルの融資残高があリます。こうした様々な融資は直接SKL社やDRM社が受けている訳ではありません。しかし、サリム・グループの企業構造や所有構造により企業間でのお金の流れが容易になっており、貸し手はDRM社やSKL社に未だつながっていることが示されています。2017年9月30日時点で、みずほは、ファースト・パシフィック社、インドフード、その子会社に約5億米ドル、SMFGは約4億米ドルの融資をしており、三菱UFJは3億米ドル以上の融資をインドフードとその子会社に約束しています。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)