サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

‘人権侵害’カテゴリーの記事一覧

プレスリリース『森林と金融 2022年方針評価』発表〜メガバンクら金融機関の森林ESG方針は不十分〜(2022/10/19)

森林破壊・気候変動・人権侵害への資金流入を防げず

  • 森林破壊リスクのある産品企業に投融資する上位 200金融機関(銀行と投資機関)の森林関連方針を評価。総じて方針は弱く全体平均は10点満点で1.6ポイント、約6割の金融機関が1ポイント未満だった。
  • 上記産品企業300社への資金の流れも分析。その結果、パリ協定以降、世界の銀行は2,670億米ドルの融資・引受を行ない、投資機関は400億米ドルの債権や株式を保有していることがわかった(2022年9月時点)。
  • メガバンクの方針評価はMUFGが5.4ポイント、みずほは6.9ポイントと高評価を得るも、問題の多いインドネシアの紙パルプ大手2グループに多額の資金を提供している。

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部サンフランシスコ、以下、RAN)を含む8団体で構成する「森林と金融」連合は18日、「森林と金融」データベースを更新し、「2022年方針評価」を発表しました(注1)。新たに世界大手200金融機関(銀行と投資機関)の森林関連方針を評価・分析した結果、全体平均は10点満点のうち1.6ポイントと総じて低評価で、農林業その他土地利用(AFOLU)セクターに投融資を行う金融機関には十分な環境・社会・ガバナンス(ESG)方針がないことが浮き彫りになりました。

また、更新したデータを分析した結果、パーム油や紙パルプなど森林をリスクにさらす産品(以下、森林リスク産品)への多額の金融サービスを金融機関が行っていることも明らかになりました。 パリ協定締結以降の2016年から2022年9月、森林リスク産品企業300社に2,670億米ドルの融資・ 引受が行われ、新型コロナウイルスの世界的流行時には減少したものの2021年には2018年の水準に戻りました(図1)。農林業その他土地利用セクターは世界の温室効果ガス排出量の23%を占めているにもかかわらず(注2)、不十分な方針のもとで森林リスク産品への資金流入に歯止めがかかっていないことを問題視しました。

評価対象の金融機関には日本のメガバンク3行、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も含まれます。メガバンクが高評価を得た一方、GPIFは0.7ポイントと平均以下でした。

  1位 ノルウェー政府年金基金(7.5ポイント)
  2位 ラボバンク(7.4ポイント)
  3位 ABNアムロ(7.2ポイント)
  4位 みずほフィナンシャルグループ(6.9ポイント)
16位 三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)(5.4ポイント)
31位 三井住友フィナンシャルグループ(4.0ポイント)

*他の日本の金融機関は、41位 JAグループ(3.1)、42位 三井住友トラスト・グループ(3.1)、52位 大和証券グループ(2.2)、57位 野村グループ(2.1)、95位 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)(0.7)など(注3)。

【概要】

『森林と金融』は、東南アジア、ラテンアメリカ、中央・西アフリカにおける紙パルプやパーム油など森林リスク産品への資金流入を包括的に分析したオンラインデータベース。金融商品、銀行・投資機関、国・地域、企業グループ、年、部門別に検索が可能です。

今回の方針評価の対象となった金融機関は、紙パルプやパーム油など森林リスク産品企業に投融資する上位200銀行及び投資機関で、銀行には日本のメガバンク3行、投資機関には年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が含まれます。

  • ●対象事業地域:世界三大熱帯林地域である東南アジア、ラテンアメリカ(アマゾン)、中央・西アフリカ(コンゴ盆地)
  • ●対象産品:牛肉、パーム油、紙パルプ、天然ゴム、大豆、木材(森林リスク産品)
  • ●対象期間:融資・引受は2016年から2022年9月、債券・株式保有は2022年9月時点
  • ●評価方法:各金融機関の森林関連方針を環境・社会・ガバナンス(ESG)の3分野35項目の基準で評価。方法論の詳細(注4)

【主な分析結果】

  • ●方針評価
    全体の平均得点は10点満点中1.6ポイントと総じて低評価でした。全金融機関の59 %が1ポイント未満で、ESGリスクの管理と緩和ができていないことを表しています。また7ポイント以上の評価を得たのはわずか3金融機関で、改善の余地が大きく、気候変動や生物多様性の損失に対処しなければならない緊急性を反映しているとは言えません。
  • ●金融サービス
    対象金融機関の金融サービスの合計を調査・分析。その結果、森林リスク産品企業300社への融資・引受額はパリ協定締結以降の2016年から2022年9月で2,670億米ドル、株式・債券の保有額は2022年9月時点で400億米ドルであることがわかりました。
  • ●日本の金融機関の評価
    みずほとMUFGの方針評価がそれぞれ6.9ポイント、5.4 ポイントと高評価ながらも、インドネシアの紙パルプ大手企業2社のAPP社(シナルマス・グループ)とエイプリル社(ロイヤル・ゴールデン・イーグル・グループ)に多額の資金を提供しています。
    GPIFの評価は昨年に続き0.7ポイントと低く、PRI(責任投資原則)に署名している一方で、ブラジル牛肉大手企業への1,900万米ドルの投資が確認できました。

【ケーススタディ】

ブリーフィングペーパーでは森林破壊の要因となるセクターとして、インドネシアの紙パルプ産業とアマゾンの牛肉産業への金融の役割について事例紹介しています。両産業に金融サービスを提供する金融機関の方針について、環境・社会基準6項目(森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、火災禁止、強制労働・児童労働禁止、先住民族及び地域コミ ュニティの「自由意思による事前の十分な情報に基づく同意(FPIC)」の尊重)で評価したところ、方針は非常に弱く、火災の原因となる環境悪化の防止、先住民族や地域コミュニティの権利保護、強制労働及び児童労働による搾取禁止の措置はほとんど講じられていないことが判明しました。上記6項目は、森林保護の国際基準となっている「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE: No Deforestation, No Peat, No Exploitation)が方針に採用されているかが鍵となります。

RAN日本代表 川上豊幸のコメント

「メガバンクにとっての大きな課題は、3行ともに投融資先企業に対してNDPE方針遵守の公表、あるいはNDPEに準ずる方針作成を求めていますが、企業グループ全体での遵守を明確には求めていない点です。つまり、投融資先企業にNDPE方針の遵守状況の確認を十分に行う体制が整っていません。そして遵守確認は事業ごとに判断され、投融資先企業全体や企業グループ全体での遵守評価が行われてもいません。そもそも、MUFGはNDPE遵守の公表をパーム油の農園企業や他の大規模農園には求めていますが、紙パルプ部門を含む森林セクター方針に含まれていない点も問題です。

 加えて、メガバンクの森林セクター方針では、取得すべき森林認証として、FSC認証よりも脆弱なPEFC認証が認められています。そのため、FSC認証を取得することができない問題企業にも資金提供が可能となっていることから、早急な方針改善が必要です」

 

「森林と金融」連合は、森林リスク産品セクター特有の社会・環境面での負の影響を止めるために、銀行と投資機関に強固なESG基準とデュー・デリジェンス (相当の注意による 適正評価)の必要性を訴えています。

 

参考:インドネシア紙パルプ大手とブラジル牛肉大手への銀行別融資・引受額と方針得点

(「森林と金融 2022年方針評価」ブリーフィングペーパーより)

  • ●MUFGとみずほは、APP社(シナルマス・グループ)とエイプリル社(RGEグループ)の大きな債権者である。APPとエイプリルは自社パルプ工場の生産能力拡大を計画し、インドネシアの泥炭地と熱帯林への負荷の高まりが懸念されている(注5)。
  • ●みずほは紙パルプ部門で火災・人権基準を盛り込んだ融資・引受方針を設けているものの、2016年から2022年9月に12億ドルもの融資・引受を行なっている。これはインドネシア4行とHSBCに次いで6番目に多い金額であり、同行の方針の実施状況が疑問視される。

  • ●ブラジル牛肉部門はアマゾンでの森林破壊の要因となっている。GPIFが投資しているブラジル牛肉大手3社は、10年以上前に署名した森林破壊ゼロの約束を実行できず、いまだにサプライチェーンに森林破壊がないことを保証できていない。 

注1)「森林と金融」データベース(英語日本語
銀行方針評価まとめ(英語、「総合得点(Weighted Total)」で「降順/昇順」を選択)
「森林と金融 2022年方針評価」ブリーフィングペーパー(2022年10月発行)
「森林と金融」構成団体:レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)、プロフンド(Profundo)、TuKインドネシア、バンクトラック、アマゾンウォッチ、レポーターブラジル、サハバット・アラム・マレーシア(国際環境NGO FoE Malaysia)、FoE US

注2)IPCC 『土地関係特別報告書』(英語)
参考:環境省「IPCC 『土地関係特別報告書』の 概要」、2020年度

注3)GPIF以外の、60位以下の日本の金融機関
日本生命保険(62位、1.9ポイント)、オリックス・コーポレーション(71位、1.5)、群馬銀行(81位、1.0)、地方公務員共済組合連合会(132位、0.2)、公立学校共済組合(0ポイント)

注4)方針評価の方法論:200の大手銀行・投資機関の公開されている方針を環境・社会・ガバナンス(ESG)の3分野35項目の基準で採点・分析。各金融機関が基準項目に明確に取り組み、対象企業とサプライヤーに基準を適用していれば10点、サプライヤーに基準が適用されていないなど部分的遵守は8.5点とした。そして35項目の合計得点を0から10ポイントに標準化した。また産品別でも採点され、各金融機関の投融資額の合計に各産品事業が占める割合を算出し、加重平均の上、合計した数字を総合得点とした。

評価基準35項目の概要:

  • ●環境分野(10項目):森林破壊禁止、泥炭地開発禁止など
  • ●社会分野(10項目):先住民族や地域コミュニティの権利尊重(自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)原則の実施)など
  • ●ガバナンス分野(15項目):投融資の透明性、汚職規制、情報開示など

注5)参考:RANブログ「MUFGとみずほが「ネットゼロ」不履行、 インドネシア紙パルプ大手の事業拡大に資金提供」、2022年1月31日

 

団体紹介
レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
東京都渋谷区千駄ヶ谷1-13-11-4F
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

共同プレスリリース:市民団体、国連の支持するTNFD提案のリスクを指摘(2022/8/3)

〜自然に対する企業グリーンウォッシュの新境地になると懸念〜

 

13の市民団体は、8月3日、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の取り組みは自然に対する企業のグリーンウォッシュを助長しかねないと警鐘を鳴らしました。TNFDは市場主導の自主的なイニシアチブですが、国際社会の多様な関係者から支持されています。自然および生物多様性の危機とそれを進める数兆ドルもの投融資に社会的関心が高まる中、TNFDは、姉妹イニシアチブであるTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)と同様に、政府規制当局が描く青写真的な役割を果たすことになります。今年5月、28のNGOとネットワークはTNFDにNGO共同書簡を出し、TNFDが公表した情報開示フレームワーク草稿の初回版について大きな懸念を指摘しました。

共同書簡を出したNGO

 

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)アドバイザーであるショナ・ホークスは「私たちは、ビジネス界の利害関係者によって全面的にコントロールされたプロセスで実施されるものについては常々懐疑的でした。それにしても最新版であるTNFDフレームワーク草稿の第二版はあまりにもひどく、愕然としました」と述べました。

TNFDはグローバル企業の幹部34名が中心となって、2021年に発足しました。TNFD は、企業や金融機関が自然との関係と影響について(将来も含め)自己開示すべき情報をまとめたフレームワークの構築を進めています。これには、短期、中期、長期の変化に対する準備も含まれると考えられます。TNFDは、数兆ドルもの資金が自然危機を引き起こしている企業やプロジェクトを支えている事実について国際社会の認識が高まった時期に発足しました。TNFDは、フレームワークの草稿の初回版を今年3月に、そして第2版を6月に公表しました。第3版と第4版は11月と2023年2月、そして最終的な提言が同年9月に公表される予定です。

TNFDの現在のフレームワークで懸念される主な内容は、以下の通りです。

TNFDは、企業や金融機関に対し、自然や人に対して既に明らかになっている被害や悪影響を報告することを求めていませんTNFDが求めているのは、財務上の重要なリスクや機会(この場合は自然との関係から発生する可能性のあるリスクや機会)について報告することのみで、これ自体主観的なものです。倫理的な企業は、自然に対するすべての害はビジネスにとって悪いことと考えるかもしれませんが、環境破壊によって利益を得ている企業はそうではありません。もし、ある企業が環境破壊につながると知りながら、それが金銭的な弊害をもたらすと考えなければ、その環境破壊が報告されることはありません。これがグリーンウォッシュの重要な赤信号であり、ダブル・マテリアリティ報告(財務的マテリアリティと環境・社会マテリアリティ)を支持する欧州証券市場機構(ESMA)やグローバル・レポーティング・イニシアティブ取り組みと整合するようには見えません。また、TNFDは、第1版について、その影響と、そして人権に関する報告を組み込むべきだというフィードバックが寄せられたことも言及していますが、いずれも除外しています。

TNFDは、人権(女性、先住民族、地域コミュニティ、農民、そして自然を守るために、多くの場合大きな危険を冒して企業に立ち向かっている人々の権利を含む)を無視しています。TNFDは、国連開発計画から何十万ドルもの資金援助を受けているにもかかわらず、しばしば自然危機の背景にある人権侵害を無視しつつ自然危機を解決できるという考えを標準的なものとしています。

TNFDは、コミュニティ、NGO、メディアが調査した結果、自然や人に対する被害に企業が関係しているという申し立てがあっても、グリーバンスリスト(苦情処理対応の進捗一覧)の公表や、同様の情報開示措置を企業に求めていません。苦情や抗議は、企業の主張に実践が伴っているかどうかを確認するための最も重要な手段の一つです。

TNFDは、一連のガイドラインを拙速に作成する計画です。TNFDのガイドラインは、セクター、金融関係者、領域(海洋、淡水、陸上、大気)、およびその他に考えられる分野の推奨事項について概説するものです。TNFDが、その幅広い活動において、健全なマルチステークホルダー・プロセスによって設定される期待を反映せず、むしろハードルを大きく下げて自らに都合の良いアプローチを選択することはこれまでにも多々ありました。ガイドラインが貧弱であれば、環境・人権に関する既存の多くの国内・国際基準よりもハードルが低く設定される可能性が高くなります。そうなれば、TNFDは長年の前進と学んだ教訓を台無しにすることになります。ガイドライン作成のプロセスには、幅広いコンサルテーションと、提案されているよりも厳密なアセスメントが必要です。

各団体からのコメント

エディ・ストリスノ氏 TuK (トゥック)インドネシア事務局長
「TNFD案を見ると、それでうまくいくのかという疑問がまず湧いてきます。長年、企業や金融機関による被害事例を追跡調査してきた結果に基づくと、その答えは『ノー』です。環境破壊が報告すらされず、現地の人々の権利が尊重されなければ、旧態依然としたビジネスが続くことになるでしょう」

キャサリン・ルー氏 FoE US シニア・プログラム・マネージャー
「グローバル企業は、TNFDが将来の規制の青写真を描く可能性があることを知りながらTNFDのルールを作っています。しかし、こうしたグローバル企業や金融機関は、規制の緩い方が利益をあげることができるのです。これまでのところ、TNFDには、自然や人間が生き残って繁栄できるように金融システムを変えようという野心が恥ずべきほどど欠如しています。それどころか、生物多様性の危機を増大させる青写真になっています」

ハンナ・グリープ氏 バンクトラック  Banks & Natureキャンペーン・リード
「現在のTNFDは、企業や金融機関に大きなグリーンウォッシュの可能性を提供しています。気候変動や生物多様性の危機への対処で必要とされる、緊急かつ有意義な行動を遅らせる可能性があります」

クワミ・コポンドゾ氏 グローバル・フォレスト連合 採掘産業・観光・インフラキャンペーン・コーディネーター
「TNFDの提案は酷いどころではなく、自然破壊や人権侵害を助長し、そこから利益を得ている数兆ドルの投融資をどう転換するかという幅広い議論を乗っ取ることになっています。企業による虐待行為や自然破壊による被害者が求めている解決策とは遠くかけ離れています」

メリッサ・ブルースカイ氏 Center for International Environmental Law(国際環境法センター、CIEL)上級弁護士
「TNFDの議論には、土地、森林、水を守るためのたたかいへの報復がいかに暴力的で、残忍かつ破壊的で、また往々にして命にかかわるものであるかという視点が欠けています。自然保護や権利擁護の必要性についての発言を封じ込めるために、平均して毎週4人が殺害されています。多くの投資家や銀行は、こうした被害との関連について繰り返し警告を受けながら、被害防止策をほとんど講じてきませんでした。こうした残虐な行為に歯止めをかけるため、TNFDの報告には、過去、現在、そして将来に起こりうる自然や人権への被害を盛り込む必要があります」

モイラ・バース氏 アマゾン・ウォッチ 気候変動・財務担当ディレクター
「TNFDの提案するフレームワークでは、企業は利益に影響が出ない限り、自然破壊と人権侵害を支援し続けることができてしまいます。しかし、リスク分析でコミュニティや環境に対する長期的・短期的な被害の考慮を企業に求めないということは、深刻な環境破壊と人権侵害、そして生物多様性と気候危機悪化の土台作りをしていることに他なりません」

オスプレイ・オリエラ・レイク氏 Women’s Earth and Climate Action Network (WECAN)事務局長
「国連機関がマルチステークホルダー・イニシアチブではないTNFDを支持し、資金を提供していることに懸念をもっています。TNFDは企業によって作られた、『ビジネス・アズ・ユージュアル』(従来どおり)な、企業のためのものです。人権や先住民族の権利、ジェンダー分析、気候変動と生物多様性の危機の前線にいる人々の平等な立場については言及されていません。また、説明責任や、影響を受けるコミュニティや生態系への被害や苦情を申し立てるための苦情処理メカニズムついても論じられていません。大胆かつ変革的な真の解決策が緊急に必要とされています。今や私たちは破滅的な事態にあり、人と自然よりも利益を優先する取り組みをこれ以上続けることはできません」

 

賛同団体

アマゾン・ウォッチ(Amazon Watch)

バンクトラック(BankTrack)

国際環境法センター(Center for International Environmental Law)

フォレスト・ピープルズ・プログラム(Forest Peoples Programme:FPP)

「森林と金融」連合(Forests & Finance Coalition)

FoE US(Friends of the Earth US)

グローバル・フォレスト連合(Global Forest Coalition:GFC)

グローバル・ウィットネス(Global Witness)

ジュビリー・オーストラリア・リサーチセンター(Jubilee Australia Research Centre)

プロフンド(Profundo)

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

TuKインドネシア(TuK Indonesia)

女性による地球・気候行動ネットワーク(Women’s Earth and Climate Action Network :WECAN)

(英語プレスリリース Civil Society Groups Say UN-Backed TNFD Proposal Risks Opening A New Frontier For Corporate Greenwashing On Nature 。和訳版は2022年9月13日投稿)

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。
https://japan.ran.org

プレスリリース:新報告書「森林&人権方針ランキング2022」発表〜日清食品、三菱UFJは低評価 〜 (2022/6/15)

「森林破壊禁止」を約束するも、森林破壊と人権侵害を阻止できず
〜グローバル消費財企業・銀行17社の森林及び人権方針を評価〜

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日15日、新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング2022」(注1)を発表しました。

熱帯林地域で森林破壊のリスクが高い産品に関与している消費財企業と銀行の17社を対象に(注2)、各社の方針と実施計画を森林と人権の二分野で評価・分析した結果、自社サプライチェーンおよび投融資がもたらす森林破壊と土地収奪、地域住民及び先住民族への暴力について適切な措置を講じている企業と銀行は一社もなく、森林破壊と人権侵害を阻止できていないと結論づけました。ランキングではユニリーバが「C」評価で最も高く、日清食品ホールディングス三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は5段階評価で最低ランクの「不可」でした。

RAN「森林と人権方針ランキング2022」〜森林破壊と人権侵害をもたらす企業と銀行〜

本ランキングは、原材料調達と資金提供を通じて森林破壊のリスクが高いサプライチェーンに関与している消費財企業と銀行で、影響力の大きい消費財企業10社と銀行7社を対象に、各社の方針について森林と人権分野の10項目を20点満点で評価しています。通称「森林リスク産品」と呼ばれる熱帯林産品はパーム油、紙パルプ、牛肉、大豆、カカオ、木材製品などです。17社には日清食品、花王、MUFGの日本企業3社が含まれます。合計得点に合わせてA(18〜20点)、B(15〜17点)、C(12〜14点)、D(5〜11点)、不可(0〜4点)で評価しました。

最も取り組みが遅れている「不可」と評価された銀行と消費財企業は以下の8社です。 

●消費財企業: 日清食品(日本)、モンデリーズ、プロクター&ギャンブル(P&G)(ともに米国)

●銀行: BNI(インドネシア)、CIMB(マレーシア)、ICBC(中国)、JPモルガン・チェース(米国)、MUFG(日本)

【森林&人権方針ランキング2022】概要

■調査期間:2022年4月~6月
■調査対象者:大手消費財企業(10社):日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース)、大手銀行(7社):MUFG、JPモルガン・チェース、中国工商銀行(ICBC)、DBS、バンクネガラインドネシア(BNI)、CIMB、ABNアムロ
■調査方法:各社の環境及び人権に関する方針を調査・分析(ウェブサイトなどで公開されている最新版)

■主な森林・人権方針の評価項目(全10項目、各2点)
*2点:方針あり/ 全体に採用、1点:一部に採用、0点:方針・計画なし
●「森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE)採用状況:パーム油や紙パルプなど森林破壊を引き起こす産品事業の生産・投融資に欠かせない国際基準(注3)
●NDPE方針遵守の証明・独立検証
●「森林フットプリント」開示:サプライチェーンや投融資先の事業が影響を与える森林の総面積(注4)
●「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)原則」の実施:先住民族および地域コミュニティの権利尊重(注5)
●暴力や脅迫への「ゼロトレランス」(不容認)方針の有無、など

■全体の評価・傾向

●消費財企業
「合格点」といえる「C」と評価されたのはユニリーバのみでした。この一年、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、花王の各社方針では改善が見られましたが、依然として遅れを取っています。ユニリーバは森林リスク産品のサプライチェーン全体がもたらす影響に対処するために、信頼できる方針を採用している唯一の消費財企業で、森林フットプリント(インドネシア・スマトラ島北部に限定)も公表しています。しかし、グローバルサプライチェーン全体の森林フットプリントの開示を約束している企業は、キャンペーン対象外のネスレのみです。

●銀行
7行全てが「D」または「不可」でした。「不可」と評価されたMUFGJPモルガン・チェースはこの一年でNDPEを採用しましたが、両社とも適用範囲が限定的なことから方針に抜け穴が残っています。同じく「不可」だったマレーシアのCIMBは、NDPE方針の採用を発表したものの、適用範囲や実施時期について言及していないことからこの項目で得点を得られませんでした。RANは、消費財企業と銀行が森林破壊や人権侵害を撲滅すると主張しても、NDPE方針の遵守を保証するために信頼でき、かつ独立した検証メカニズムがなければ信用に値しないと警告しています。

■日本企業の評価

 ●総合点は日清食品MUFGが不可(ともに4点)で、花王はD(6点)でした。
 ●3社ともNDPE方針を採用するも、適用の範囲については評価が分かれました。花王は全分野の供給業者について企業グループ全体で適用対象としたことから1点の評価を得ました。しかし日清食品MUFGは取引先および融資先のグループ全体を対象とせず、パーム油事業のみに適用するなど限定的であることから得点はゼロ点でした。
 ●「森林フットプリントの開示」については、日清食品花王が実施を表明したのみで、開示そのものは遅れていることから得点は1点でした。
 ●昨年に続き「FPIC原則の実施」、「NDPE方針遵守の証明」については各社とも得点がありませんでした。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表の川上豊幸は「花王は方針を強化し、昨年の『不可』から『D』評価にランクを上げました。改善の要素として、取引先に企業グループ全体での『森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止』(NDPE)の方針採用を義務付けることとなった点があげられます。これは重要な進展です。一方、日清食品とMUFGは『不可』評価のままでした。大きな理由の一つとして、両社ともNDPEの適用範囲が限定的なことがあげられます。 例えばMUFGは、融資先の企業グループ全体にNDPE方針を適用していなく、かつ、パーム油の農園事業に限定しています。MUFGは、融資の使途が『農園事業ではない』として、持続可能なパーム油の認証機関であるRSPOから除名されたインドネシアのインドフード社への融資を継続しています。MUFGは企業グループとしての評価と方針遵守の確認、パルプ産業を含めた他セクターへのNDPE方針の拡大が課題です」と指摘しました。

「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」キャンペーンは2020年4月の開始以来、評価分析を毎年実施し、今年で3回目の発表となります。RANはさらなる森林破壊と人権侵害を防ぐために、森林破壊と人権侵害を行う大手アグリビジネス企業と林業企業に対して大きな影響力をもつ消費財企業と銀行に実質的な行動を早急に取るよう要求を続けます。

 

「森林&人権方針ランキング2022」説明資料

【日本企業各社の点数と評価概要、改善点】

日清食品(不可:4点、昨年2点):グループ全体の調達方針に「NDPEを支持する」と記載しているが、消費財企業10社ではP&G、モンデリーズと並んで「不可」評価だった。改善のためには、グループ調達方針に供給業者が遵守すべきNDPE項目を明記し、供給業者にNDPE採用を義務付ける必要がある。今年5月、パーム油の搾油工場リストを公開したことは一歩前進といえるが、花王や欧米の大手消費財企業はすでに公開している。森林破壊のモニタリングやデューデリジェンスが開示された。また森林フットプリントの開示についても「順次導入」すると公表したが、実施時期の言及はなかった。こういった情報開示を通して、供給業者および生産地の現状把握と問題対応のための体制強化を進める必要がある。なお、持続可能なパーム油100%調達を2030年までに達成するという目標は大幅な前倒しが必要。

 

花王(D:6点、昨年3点):今年5月、「2022年の活動 花王の持続可能な調達への考え方」で、全ての森林リスクコモディティのサプライヤーとそのグループ企業に対して、NDPE方針採用の義務化を明記した。また、サプライチェーンにおける人権擁護者に対する暴力や不当告発、脅迫などを容認しないことを明記した。また、森林フットプリントの2023年実施に向けて準備を進めていることも公表した。今後はさらなる方針強化とともに、これら方針遵守のためにモニタリング、FPIC確認を含めた遵守の検証、問題事例への対処が求められる。

 

MUFG(不可:4点、昨年4点)今年4月の環境・社会方針の改定では、パーム油事業へのファイナンスをRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証取得企業に限定した。前年まではインドネシア政府とマレーシア政府の認証も認めていたことから、より厳格化された。投融資先への「NDPE遵守の公表」の要求は2021年4月の方針改定で追加されたがパーム油の農園企業に限定され、パーム油購入企業や、紙パルプや大豆など他の森林リスク産品セクターには適用されなかった。この点は、今年の方針改定で見直されることはなかった。MUFGはパーム油セクターへの融資・引受額が東南アジア以外の地域に本社を置く銀行では最大で、紙パルプ産業にも多額の融資を提供している。今後、NDPE方針の適用拡大と、投融資先にNDPE方針遵守のための独立検証を求めていくことが課題になる。

 

【17社の消費財企業・銀行の影響力について】

評価対象となった消費財企業と銀行の多くは「森林破壊禁止」と先住民族の権利及び人権尊重の達成のために、特に国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)をきっかけに、様々なコミットメントと方針を取り入れてきた。

しかし「森林と金融データ」によると、パリ協定採択以降、評価対象銀行は合計で、インドネシア、コンゴ盆地、アマゾンの三大熱帯林地域で操業する森林リスク産品企業に少なくとも225億米ドルを提供した。最も多額の資金提供をしたのはJPモルガン・チェースで69億米ドル、次いでMUFGが40億米ドルだった。同様に消費財企業各社は、地域コミュニティの慣習上の権利を侵害して森林破壊を起こしている生産者から調達を続けている供給業者との取引を停止していない

評価対象企業・銀行で、顧客や供給業者、投融資先企業に「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)原則」の実施証明を要求している企業はない。現時点では、先住民族と地域コミュニティが自らの慣習地での開発を拒否する権利が尊重されていることを確認するための手続きを公表している銀行と消費財企業はない。

【レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表の川上豊幸コメント】

「森林保護は気候と生物多様性の危機を回避する、最善かつ自然の解決策です。今、かけがえのない熱帯林を守るために抵抗している地域住民や先住民族が激しい報復に直面しています。一握りの消費財企業と銀行は熱帯林破壊、土地収奪、人権擁護者の殺害に大きな影響力があるにもかかわらず、それを止めるための取り組みは遅れています。企業の活動が森林や地域コミュニティに与える影響について責任を転嫁し続ける時間は、世界にはもう残されていません。やるべき課題はたくさん残されています」

注1)新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング2022」(日本語版)
方法論
さらなる詳細は英語版を参照ください。

注2)消費財企業(10社):日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース

銀行(7社):MUFG、JPモルガン・チェース、中国工商銀行(ICBC)、DBS、バンクネガラインドネシア(BNI)、CIMB、ABNアムロ

「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」は、RANが2020年4月から展開しているキャンペーンです。熱帯林破壊と人権侵害を助長している最も影響力のある上記の消費財企業・銀行17社に実際の行動を起こすよう要求しています。注3)〜注5)の参考資料としてもご参照ください。

注3)NDPEはNo Deforestation、No Peat、No Exploitationの略。森林減少や劣化に対しての保護(炭素貯留力の高い<High Carbon Stock:HSC>森林の保護、保護価値の高い<HCV: High Conservation Value>地域の保護)、泥炭地の保護(深さを問わず)、人権尊重、火入れの禁止といった要素を含む方針を公表している企業は「あり」の評価を得る。

注4)「森林フットプリント」とは、森林を犠牲にして生産される「森林リスク産品」の消費財企業の利用や、銀行による資金提供によって影響を与えた森林と泥炭地の総面積をいう(影響を与える可能性がある面積も含む)。消費財企業と銀行の森林フットプリントには、供給業者や投融資先企業が取引期間中に関与した森林および泥炭地の破壊地域、さらに供給業者や投融資先企業全ての森林リスク産品のグローバルサプライチェーンと原料調達地でリスクが残る地域も含まれる。森林および泥炭地が先住民族や地域コミュニティに管理されてきた土地にある場合は、その先住民族と地域コミュニティの権利への影響も含む。

参考:RANプレスリリース「新報告書『森林フットプリント評価 2021』発表〜インドネシア・ボルネオ島の森林と地域コミュニティへの影響について、大手消費財企業10社の開示状況を評価〜」2021年10月22日

注5)「FPIC」(エフピック)とは Free, Prior and Informed Consentの略。先住民族と地域コミュニティが所有・利用してきた慣習地に影響を与える開発に対して、事前に十分な情報を得た上で、自由意志によって同意する、または拒否する権利のことをいう。

注6)「ゼロトレランス・イニシアティブ」ウェブサイト

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RANは、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

※更新
・調査概要として調査期間、調査対象者、調査方法を追記しました(2022年6月17日)

プレスリリース:新報告書「森林フットプリント評価 2021」発表〜インドネシア・ボルネオ島の森林と地域コミュニティへの影響について、大手消費財企業10社の開示状況を評価〜(2021/10/22)

日清食品、花王、プロクター&ギャンブルら、森林と人権に及ぼす影響を十分に開示せず

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、21日(米国現地時間)、新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林フットプリント評価2021」(注1)を発表しました。

写真:アブラヤシ農園開発のために伐採された森林、インドネシア東カリマンタン州ベラウ、2018年4月

本報告書は、大手グローバル消費財企業10社を対象に、インドネシア・ボルネオ島の北カリマンタン州と東カリマンタン州における、各社サプライチェーンの「森林フットプリント」(※)を独自に評価したものです。分析の結果、対象企業10社はサプライヤー企業からの原料調達を通じて、同地域で70万ヘクタール(サッカー場175万個分)以上の熱帯林破壊に加担し、さらに825万ヘクタールの森林が危機にあることを明らかにしました。よって10社はいずれも、インドネシアに残る森林と地域コミュニティに及ぼす影響を十分に開示していないと結論づけました。

本報告書は、 英国グラスゴーで31日から始まる国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)を前に発表されました。森林と泥炭地は炭素吸収源として気候の安定のために機能することから、森林保護はこれまで以上に重要になっています。

※「森林フットプリント」とは、パーム油や紙パルプ、木材など森林を破壊する恐れのある産品が影響を及ぼす森林と泥炭地の総面積をいいます。別紙参照。

『森林フットプリント評価2021』概要

  • 対象地域:インドネシア・ボルネオ島の北カリマンタン州、東カリマンタン州。この地域に残る森林の約3分の2が危機的状況にあることから、両州に焦点をあてた。
  • 対象企業(多国籍消費財企業10社):日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース。
  • ●10社は、北カリマンタン州と東カリマンタン州のパーム油や紙パルプ、林業企業からの原料調達を通じて、同地域にある70万ヘクタール(サッカー場175万面分)以上の熱帯林の破壊に加担していることが明らかになった(図1)。
  • ●10社が「森林破壊禁止」の方針をサプライヤー企業に徹底しなかったために過去10年間で失われた森林と泥炭地について詳しく説明し、両州だけで825万ヘクタール以上の重要な熱帯林が危機にあることを示した(図2)。
図1:北カリマンタン州・東カリマンタン州での森林破壊(70万ヘクタール、2009年〜2019年)
凡例:赤(泥炭地)、茶(2009〜2011年)、薄茶(2012〜2014年)、水色(2015〜2017年)、緑(2018〜2019年)
図2:北カリマンタン州・東カリマンタン州で危機にある森林(825万ヘクタール)
凡例:ピンク(泥炭地)、危機にある森林〜青(事業管理地内の劣化していない森林)、水色(事業管理地内の劣化した森林)、赤(開発可能地域の劣化していない森林)、黄(開発可能地域の劣化した森林)、保護されている森林〜緑(劣化していない森林)、黄緑(劣化した森林)
  • 両州で200万ヘクタール以上の森林が、先住民族コミュニティが何世代にもわたって生活し、保護してきた集落や慣習地において残されていることが明らかになった。しかしコミュニティの土地が林業企業や農園企業に割り当てられたことから、多くのコミュニティの森林を保護し管理する権利は尊重されていない(図3)。
図3:北カリマンタン州・東カリマンタン州の慣習地と、住民参加型「社会林業」のために政府が割り当てた地域(出典:Ancestral Domain Registration Agency: BRWA(インドネシアの団体))
凡例:赤(泥炭地)、「社会林業」〜緑(村落林)、オレンジ(住民造林)、水色(コミュニティ林)、BRWAからの慣習地〜青(慣習地)

RAN森林政策ディレクター ジェマ・ティラックは「世界の主な科学者たちは、現在の気候危機を『人類へのコードレッド(非常事態発生を告げる警報)』と呼んでいます。プロクター&ギャンブルのような多国籍消費企業と、倫理的とはいえない取引先のサプライヤー企業は、企業方針の抜け穴や口約束の陰で、森林破壊の悪循環を続けています。地球で最後の手付かずの森林が伐採されている一方、何世代にもわたって森林を維持してきた地域コミュニティからは土地の権利が奪われ、人権が侵害されています」と訴えました。

RAN日本代表 川上豊幸は「今月末からCOP26が始まります。今まさに、森林と泥炭地の破壊を防ぎ、森に住む人々の土地の権利を守るための行動を起こすときです。日清食品や花王などの大手消費財企業は、森林破壊を引き起こす開発事業の拡大という脅威の最前線に立たされている人々の人権や土地権を守るために、今すぐ積極的な役割を果たさなければなりません」と強調しました。

RANは2020年4月から「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」キャンペーンを展開し(注2)、上記10社に対して、自社のグローバルサプライチェーンにおける「森林フットプリント」の開示を求めてきました。「森林フットプリント」という言葉はこれまでも使われてきましたが、RANで用いる場合、消費財企業が商業的な森林伐採や農業の拡大によって、これまでに影響を与えたり、今後与える可能性がある森林と泥炭地の総面積を意味します。また、森林および泥炭地が、先住民族や地域コミュニティに管理されてきた土地にある場合、先住民族と地域コミュニティの権利への影響も含みます。森林フットプリントの開示にあたっては、企業は森林フットプリント全体を説明するために行なった一連の行動を記述し、これ以上の森林破壊と権利侵害を防ぐためにサプライヤー企業に介入する方策を立てるとともに、過去の被害の是正措置を取る必要があります。

これまでユニリーバ、ネスレ(注3)コルゲート・パルモリーブの3社が、インドネシア・スマトラ島北部に限定した森林フットプリントを公表しています。日本企業では、花王は森林フットプリント導入について協議している点を「2021年活動方針」(注4)で開示しています。一方、日清食品からは正式な返答を得られませんでした。

*報告書全文はこちら(英語)。概要および評価への各社回答も掲載されています。 www.ran.org/borneo_forest_footprint

注1)新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:ボルネオ森林フットプリント評価2021」

注2)「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」は、RANが2020年4月から展開しているキャンペーンです。熱帯林破壊と人権侵害を助長している最も影響力のある上記の消費財企業・銀行17社に実際の行動を起こすよう要求しています。

注3)参考:RAN声明「世界初、ネスレ『森林フットプリント』開示を歓迎〜インドネシア・パーム油サプライチェーンで影響を受ける森林面積を公表〜」(2020/12/11)

注4)花王「2021年の進捗」

※更新:以下の内容を追加しました(2022年1月11日)。
・「キープ・フォレスト・スタンディング:ボルネオ森林フットプリント評価2021」日本語要約版

別紙「森林フットプリントについて

「森林フットプリント」とは?

森林フットプリントとは、消費財企業の森林リスク産品(※)利用や銀行による森林リスク産品への資金提供によって、これまでに影響を与えたり、今後与える可能性がある森林と泥炭地の総面積をいう。消費財企業と銀行の森林フットプリントには、サプライヤー企業や投融資先企業が取引期間中に関与した森林および泥炭地の破壊地域、さらにサプライヤー企業や投融資先企業全ての森林リスク産品のグローバルサプライチェーンと原料調達地でリスクが残る地域も含まれる。上記の森林および泥炭地が、先住民族と地域コミュニティに管理されてきた土地にある場合は、その先住民族と地域コミュニティの権利への影響も含む。

※森林リスク産品:森林破壊の原因の多くはパーム油、紙パルプ、木材製品などの産品生産で、これらの産品は森林を破壊するリスクがあることから「森林リスク産品」と呼ばれている。

リスクにさらされている地域には、供給業者、投融資先企業、またはそれらに原料を供給する独立系企業の管理下にあるプランテーション(大規模農園や植林地)開発区域内の森林と泥炭地、そして上記企業のグローバルサプライチェーンの原料調達(工場、精製所、加工処理施設など の周辺地域)における伐採予定地や農業開発用に割り当てられた地域が含まれる。これらの全てが把握され、公開されている必要がある。

RANは、消費財企業および銀行が森林フットプリントを把握し開示するためには以下のようなステップを提案している。

1.情報開示
・自社サプライチェーンで森林リスク産品を調達している国、金融機関の場合は顧客企業の事業が森林リスク産品関連事業で活動している国を特定し、自社の年次報告書やサステナビリティレポートなどで情報開示する。
・優先すべき森林リスク産品の調達を行っている国・地域を選択する。当該地域で森林リスク産品を生産、加工、取引しているサプライヤー企業を特定し開示する。

2.森林・泥炭地減少へのリスクを調べる
・特定されたサプライヤー企業・企業グループからの調達や、当該企業への投融資によって、これまで影響を与えたり、今後与える可能性のある森林や泥炭地の総面積と位置を把握するために空間分析を行い、地図を作成する。
・作成した地図を自社の年次報告書、サステナビリティレポート、企業ウェブサイトなどで開示する。

3.地域域コミュニティの権利・土地紛争
・選択した調達国・地域でサプライヤー企業や投融資先企業の事業によって影響を受ける森林や泥炭地に居住する、先住民族や地域コミュニティの権利に及ぼす影響に関する情報を調査する。
・情報には先住民族や地域住民が伝統的に所有する森林や泥炭地に関する土地への権利、アクセス、利用および保全への影響を含む。
・これまで影響を与えたり、今後与える可能性のある森林や泥炭地の総面積と位置を把握するために空間分析を行い、地図を作成する。

4.2と3の統合
・森林減少のリスクに関して得た情報と、地域コミュニティへの影響と土地紛争に関するリスクをまとめた、国や地域ごとの「森林フットプリント地図」を完成し、開示する。

 

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

ブログ:新動画「日清食品と熱帯林『ルーセル・エコシステム』との関係は?」即席ラーメン記念日に公開(2021/9/8)

RAN日本代表 川上豊幸

9月に入って、あたたかい食べ物が美味しくなってきましたね。

RANは「即席ラーメン記念日」だった8月25日、新動画「日清食品と熱帯林『ルーセル・エコシステム』との関係は?」を公開しました。もうご覧いただけましたか?

動画の中で紹介している「ルーセル・エコシステム」は、インドネシア・スマトラ島に残る低地熱帯林です。森の奥深くは「オランウータンの都」として知られ、緑豊かな熱帯林にはスマトラ固有のゾウ、トラ、サイも生息しています。そして地域住民にとっては必要不可欠な水の供給源です。

しかし、この貴重な熱帯林と動物たちの生息地が危機にひんしています。

日本の大手食品会社が批判され、その1社が即席ラーメンを発明した日清食品です。

その理由は? 日清食品が日本、米州、欧州、アジアなど世界中で生産している商品が、ルーセル・エコシステムや、インドネシアの保護区である「ラワ・シンキル野生生物保護区」の熱帯林を犠牲にして生産された可能性があるからです。

日清食品は東京2020オリンピック・パラリンピック大会のスポンサーでもあることから、ルーセル・エコシステムの森林破壊に果たすべき責任は大きいとして、消費者やNGOから対応を求められてきました。

写真:伐採され排水作業が進むシンキル泥炭林、ルーセル・エコシステム 2016年8月14日、インドネシア、アチェ州 (2°44’38.59″N, 97°39’51.39”E)©︎Paul Hilton / RAN

「森林破壊フリーの東京五輪に!」3万人が賛同

ルーセル・エコシステムの熱帯林を犠牲にして生産されたパーム油は、日清食品にパーム油を供給しているサプライヤー企業と関連があります。

RANは消費者とともに、日清食品に、問題あるパーム油の調達を通して森林破壊と人権侵害に加担してきた責任を認識して対策を取るよう、2015年から求めてきました。

今年6月に大阪で行われた日清食品の株主総会では、経営陣に対してパーム油調達方針の強化を求める声が株主から上がりました。また五輪開催前には、日清食品が東京五輪のスポンサーであることから、東京2020大会を「森林破壊のない東京五輪」にするよう日清食品に求める署名をRANは展開し、約3万人の賛同署名が集まりました。

写真:「持続可能なパーム油100%達成目標が2030年では遅すぎる」、日清食品株主総会会場前でアピール行動をするRANと「ウータン・森と生活を考える会」メンバー、2021年6月25日、大阪

森林や人権の方針でも課題

日清食品はまた、森林や人権に関する方針でも課題があります。

日清食品は、RANがグローバルで展開する「キープ・フォレスト・スタンディング」キャンペーンの対象企業です。RANが今年4月に発表した「森林&人権方針ランキング2021」では、対象企業17社のうち最低ランクの評価を受けた1社でした。

低評価の理由は、公表されている方針が不十分であること、そしてパーム油、紙パルプなど森林を破壊するリスクのある産品のサプライチェーンで、人権侵害と森林破壊を防ぐために必要な方針の実施も検証システムも不十分なためでした。

日清食品はまた、パーム油の搾油工場リストといった供給業者の情報開示もしていないため、他社に遅れをとっています。

日清食品が動いた

このような批判や要求が高まる中、日清食品は即席麺大手企業として、2030年度までに「持続可能に生産された」パーム油の調達を100%にすると約束しました。

今年6月の株主総会では一歩踏み込んで、日本で販売される即席麺製品の目標を2025年にすると発表しましたが、グループ全体の目標は据え置きです。

熱帯林の破壊が続く今、どちらの目標年も遅すぎます。

写真:ルーセル・エコシステムにあるクルット泥炭地、インドネシア・スマトラ島 Suaq Balimbing ©︎RAN / Paul Hilton

「ルーセル・エコシステム」を守ろう

この動画を撮影した写真家のポール・ヒルトン氏が、メッセージを寄せてくれました。

「ルーセル・エコシステムの広大な熱帯低地林は危険にさらされている。日清食品は、スマトラ島のオランウータン、ゾウ、サイ、トラの重要な生息地にパーム油生産が拡大しないよう、行動を取ることができる」

ぜひ動画を見て、森の中の音を聞き、「ルーセル・エコシステム」の自然の素晴らしさを体感してください。

そしてこの動画をシェアし、これ以上、インスタントラーメンによって森林が破壊されないよう、オンライン署名に賛同をお願いします!

以下のキャンペーンに賛同をお願いします

日清さん、2030年まで

問題あるパーム油を使い続けないで!

#日清2030年では遅すぎる

http://chng.it/fPL9gLxkV6

声明:三井住友FG、2050年排出量ネットゼロを約束 (2021/9/3)

「森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ」もパーム油など農園開発に要求
〜「TCFDレポート2021」発表に伴い方針強化、待たれる人権尊重〜

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日3日、三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)が「SMBCグループ TCFDレポート 2021」を8月31日に公表(注1)したことを受けて以下の声明を発表し、パリ協定の目標に向けての方針強化であると歓迎しつつも、中期目標の設定を先送りしていると批判しました。

RAN日本代表 川上豊幸

まず、SMBCが2050 年までに投融資ポートフォリオで温室効果ガス(GHG)排出量をネットゼロにすると約束したことは、パリ協定の目標達成に向けた方針強化と受け止めて歓迎します。「2050年ネットゼロ」は気温上昇を1.5度に抑えるために必要な長期目標で、日本政府も同様の目標を掲げています。気候危機を加速させている化石燃料への資金提供額がアジア5位のSMBCが、アジア首位の三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)(注2)に次いでコミットしたことは重要です。

しかし、投融資ポートフォリオのGHG排出量把握と中長期削減目標の開示は行われず、中期目標の開示は2023年に先送りされたことから、パリ協定への整合性を確認することができません。そして2030年までの限られた数年を目標策定に費やすことになり、緊急性に欠けます。また、投融資ポートフォリオGHG排出量の算定には、石油・ガス、電力セクターに加え、GHG排出に大きな影響を与えている石炭採掘を含めた化石燃料セクター全般、およびパーム油を含む森林関連セクターを早期に追加することが求められます。

第二に、今回のレポートでは、森林破壊の要因となるパーム油などの農園開発事業に対し、「森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ方針」(※NDPE方針)を遵守する旨の公表を求めました。しかし、取引先には遵守の公表を求めるだけではなく、グループ全体およびサプライチェーンを含めた遵守状況をモニタリングし、不遵守状況への対応等を通じて、方針の実施と強化を進めることが必要です。また同基準は農園開発事業に限定され、各産品の購入企業には適用されていないことも課題です。MUFGも今年4月にパーム油セクターにNDPEを適用しましたが、同様の問題があります(注3)
※No Deforestation, No Peat and No Exploitationの略

一方、森林伐採事業セクターでは違法労働への支援を行わないことを明記したものの、労働者の権利尊重や地域住民や先住民族の土地権尊重といった人権尊重が明記されていません。特に「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC:Free, Prior and Informed Consent)(注4)の要件は追加されませんでした。NDPEと同様、FPIC 基準は国連「持続可能な開発目標」(SDGs)の達成や「国連ビジネスと人権に関する指導原則」(UNGP)への遵守に不可欠です。

SMBCは前述の通り、パリ協定締結以降の化石燃料への資金提供額がアジア5位、世界18位であることが明らかになっています。また、3メガバンクは東南アジアの森林減少に加担している企業への最大の資金提供者に含まれます(注5)。 SMBCの融資先には、問題案件となっているベトナムおよびインドネシアの新規石炭火力発電所建設、インドネシアで人権侵害を伴うパーム油の農園(注6)、米国で先住民族らによる抵抗が続くオイルサンド・パイプライン(注7)等が含まれています。

 

注1 ) 三井住友フィナンシャルグループ、「SMBCグループ TCFDレポート 2021」の発行について」、2021年8月31日

「SMBCグループ TCFDレポート 2021」

注2)RAN他プレスリリース「『化石燃料ファイナンス成績表2021』発表〜世界60銀行、パリ協定後も化石燃料に3.8兆ドルを資金提供〜」、2021年3月24日

注3)NGO共同声明「MUFGが石炭火力・森林セクター方針を改定、なおパリ協定と整合せず」、2021年4月26日

注4)FPIC(エフピック)とは、先住民族と地域コミュニティが所有・利用してきた慣習地に影響を与える開発に対して、自由意志による、事前の、十分な情報を得た上で同意する、または同意しない権利のことをいう。

注5)RAN他「森林と金融データベース」より
参照:​​RAN他プレスリリース「『森林と金融』メガバンク等の森林方針の評価を発表」、2021年6月22日

注6)RAN、インドフードまたは同社グループ企業への投融資に関する銀行・投資家向けレター、2020年11月13日

注7)RAN声明「メガバンクが支援する北米パイプライン『ライン3』、活動家らの封鎖で工事中断」、2021年7月7日

 

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org