サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

‘人権侵害’カテゴリーの記事一覧

声明:メガバンクが支援する北米パイプライン「ライン3」、活動家らの封鎖で工事中断(2021/7/7)

エンブリッジ社パイプラインに反対する先住民族の抵抗に全米の支持が高まる、活動家らは重罪起訴

RAN事務局長ジンジャー・キャサディ(左)とスタッフ

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、以下RAN)は、2日(現地時間)、「ライン3」オイルサンド・パイプライン建設への抗議の高まりを受けて、以下の声明を発表しました(日本語訳)。

米国ミネソタ州パーク・ラピッズ発——先住民族アニシナアベ族の条約保護地域で建設が進む、エンブリッジ社「ライン3」パイプラインを停止する運動が全米で高まる中、多大な弊害をもたらす同化石燃料プロジェクトの建設を止めるために、各地から集まった活動家が逮捕されるリスクを冒して抗議しています。RAN事務局長ジンジャー・キャサディらは、7月1日、建設に抗議するために平和的な市民不服従運動に参加して重罪に問われています。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク事務局長ジンジャー・キャサディ

「ライン3パイプラインは、先住民族と、彼らの権利に対する暴力的行為です。ライン3は、アニシナアベ族や他の部族の人々が条約で保護されている先住民族の権利を侵害しています。この無謀なパイプラインは論理的ではなく、科学的にも理にかなっていません。手つかずの湿地を横切り、ミシシッピ川の源流を通り、地球上で最も汚れた化石燃料であるオイルサンドを1日あたり100万バレル近く運ぶ計画です」
(拘束前に発表した声明より)

抵抗運動への警察による強硬手段に加え、ミネソタ州ハバード郡は保釈金の10%を現金で支払えば釈放するという、従来からある選択肢を認めず、その代わりに5千米ドルの条件付き保釈金と1万米ドルの無条件保釈金の支払いを要求しています。

タラ・ホウスカ ギニウ・コレクティブ創立者
(ライン3パイプラインに反対する先住民運動リーダーの1人)

「最近、シアトル州では13人以上が猛暑で亡くなり、オレゴン州では60人が死亡しました。海岸は燃えています。ここミネソタでは川や湖が干ばつに見舞われています。エンブリッジ社が、むき出しになった川岸からライン3掘削に使用する泥水を吸い上げているからです。正気の沙汰ではありません。合衆国政府は『健全な気候政策』と言っていますが、ライン3は連邦政府の環境影響評価報告書のない状態で建設されています。ライン3建設は犯罪行為です。土地を守る人々はリスクを冒し、切りがなく続くように見える工事用機械に自らの体を鎖でつないで抗議しています。残されたいかなる水をもあきらめないリーダーシップが必要です。環境運動は言葉だけでなく、聖地のために立ち上がらなければいけません。ライン3の建設を止めましょう」

ライン3パイプライン事業は国際エネルギー機関(IEA)が2021年に発表した報告書にも真っ向から反しています。報告書は、さらなる気候変動の壊滅的影響を防ぐためには化石燃料プロジェクトの新規および拡大計画の全てを停止する必要があると明確に述べています。ライン3のような事業が稼働した場合、今後数十年にわたって化石燃料生産が固定されます。短期的にはパイプラインからの石油漏出や流出が予測され、先住民族のオジブワ族居留地の土地や、地域コミュニティが条約によって保護されてきた狩猟、漁業、ワイルドライス耕作の権利がある先祖代々の土地を不必要に壊滅させることになります。

RANスタッフ ローレル・サザリン
(平和的抗議運動に参加した罪で起訴中)

「いま、世界はミネソタ州で起きていることに注目する必要があります。これは喫緊の課題です。だからこそ私たちは、建設中止を求める地域リーダーたちを応援するために自らの体を工事機械に鎖でつなげて抗議しています。ライン3を支援している大手銀行は、スタンディング・ロック居留地のダコタ・アクセス・パイプラインに資金提供した銀行と同じです。銀行にとってライン3事業を支援することは、警察による強行かつ暴力行為を支援することを意味します。銀行は直接、暴行と権利侵害、そして何世代も続く気候災害に加担していることになります。銀行や保険会社は今すぐ、ライン3事業から撤退する必要があります」

*日本語版追記

カナダのパイプライン大手エンブリッジ社が建設する「ライン3」は、カナダのアルバータ州から米国のミネソタ州経由でウィスコンシン州を結ぶパイプライン。1日約76万バレルのオイルサンド原油の輸送を計画している。計画中の事業では、大気中への温室効果ガス排出量が年間1億9,300 万トンが増えると推定され、これは石炭火力発電所の年間排出量の50基分に相当する。

ライン3は猛烈な反対を受けながらもウィスコンシン州とカナダでは建設が完了し、ミネソタ州にパイプラインを延長すれば全ての建設が終了することから、現在、抗議運動が激化している。エンブリッジ社は2020年11月にミネソタ州汚染管理局から同パイプラインの最終認可を取得し、20年12月から同州の区間で建設が始まっている。

ライン3への支援には北米の銀行に加え、日本のメガバンクの3行全てが参加している。その中でも三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)はアジア最大の資金提供者であり、みずほフィナンシャルグループは10億ドルの融資の主幹事銀行として重要な役割を果たしている。

ライン3には同プロジェクトに特化したファイナンスがなく、エンブリッジ社は数十社の大手銀行から「一般的な事業目的」に使用できる数十億ドルの融資を受けている。このプロジェクトへの融資は銀行が最近打ち出したネットゼロ公約や人権を尊重するという方針に明らかに逆らっていると言える。ちなみに、ダコタ・アクセス・パイプラインには、MUFGとみずほが主幹事銀行として関わった。

写真:©︎Giniw Collective

参考:

RANブリーフィングペーパー『北米パイプライン「ライン3」と「キーストーンXL」の黒幕〜オイルサンド・パイプライン建設を支援する世界の銀行』、2020年12月16日発行

ブログ「バイデン政権、気候変動対策強化〜『キーストーンXL』パイプライン認可取り消しで高まるメガバンクの政治リスク〜」、2021年1月29日

動画:The Years Project「『ストップ! ライン3』石油パイプラインがもたらす弊害」

英語のプレスリリースはこちら:“Line 3 Construction Halted As Activists Lock Down, Charged with Felonies; National Support of Indigenous Fight Against Enbridge Pipeline Grows”

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

プレスリリース『森林と金融』メガバンク等の森林方針の評価を発表(2021/6/22)

〜世界のトップ50銀行・投資機関、不十分な方針と多額の投融資で森林破壊を加速〜
三菱UFJは高評価も方針適用が限定的、GPIFは低評価(7月9日更新)

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)他7団体は、6月8日に『森林と金融』データベース(注1)のウェブサイトをリニューアルし、世界最大手54金融機関(銀行と投資機関)の森林関連方針を新たに評価・分析した結果、総じて方針が不十分であると指摘しました。

本データベースを用いた分析の結果、対象金融機関による森林をリスクにさらす産品(以下、森林リスク産品)への多額の金融サービスが明らかになり、不十分な方針のもとで森林リスク産品への多額の投融資が行われ、森林破壊を加速させていると結論づけました。

対象となった金融機関には日本のメガバンク3行、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)なども含まれます。メガバンクの方針評価は平均(2.4ポイント)以上だった一方、GPIFの方針は0.6ポイントと低評価でした。

1位 ABNアムロ(7.1ポイント)
2位 ラボバンク(6.8ポイント)
3位 ノルウェー政府年金基金(6.5)
7位 三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)(5.4ポイント)
13位 みずほフィナンシャルグループ(3.9ポイント)
16位 三井住友フィナンシャルグループ(3.3ポイント)
24位 野村グループ(2.6ポイント)
30位 三井住友トラスト・グループ(1.9ポイント)
39位 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)(0.6ポイント)

【概要】

『森林と金融』は、東南アジア、ラテンアメリカ、中央・西アフリカにおける紙パルプやパーム油など森林リスク産品への資金流入を包括的に分析したオンラインデータベースです。金融商品、銀行・投資機関、国・地域、企業グループ、年、部門別に検索が可能です。今回の調査対象となった54金融機関は、森林リスク産品セクターの企業を投融資先とする銀行および投資機関で、銀行には日本のメガバンク3行、バンクオブアメリカ、中国工商銀行(ICBC)など、投資機関には年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)、ブラックロック、バンガードなどが含まれます。

今回の調査では、森林リスク産品セクターのサプライチェーンに直接関わり、その事業が東南アジア、ラテンアメリカ、中央・西アフリカ(コンゴ盆地含む)の天然熱帯林に影響を与える可能性がある企業200社以上に対して行われた金融サービス を分析しています。

●対象事業地域:世界三大熱帯林地域である東南アジア、ラテンアメリカ(アマゾン)、中央・西アフリカ(コンゴ盆地)
●対象産品:牛肉、パーム油、紙パルプ、天然ゴム、大豆、木材
●対象期間:融資・引受は2016年から2020年4月、債券・株式保有は2021年4月時点

【主な分析結果】

方針評価:各金融機関の森林関連方針を環境・社会・ガバナンス(ESG)の3分野35項目の基準で評価した結果、総じて低評価で、10ポイント満点で平均2.4 ポイントだった(注2)。上記6産品セクターへの投融資の大半は、顧客企業の基準の検証はおろか、ESGの基本的な書類確認も行われていないことが判明した。
金融サービス:対象金融機関の金融サービスの合計を調査・分析。その結果、森林リスク産品への融資・引受額はパリ協定締結以降の2016年から2020年4月で1,280億米ドル、株式・債券の保有額は2021年4月時点で280億米ドルであることがわかった。
●メガバンクの方針がこの数年で改善した一方(注3)、野村グループ、三井住友トラスト・グループ、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の方針は低いままである。

RAN 責任ある金融シニアキャンペーナー ハナ・ハイネケンは「邦銀の森林セクターに関する方針が毎年改善されていることは評価できます。特に、みずほとMUFGが国際基準であるNDPE基準を方針に盛り込んだことは重要です。しかし実際に、方針が投融資先企業の現地の事業で遵守されているかどうかを確認する必要があります。それがない限り、方針の効果は限定的です。
一方、MUFGは方針で高評価を得ながらも、インドネシアの子会社であるバンクダナモンにはMUFGの方針は適用されていません。バンクダナモンは問題あるパーム油大手企業に資金を提供しているため、大きな抜け穴となっています。方針が改善されながらも、森林や泥炭地の破壊、さらに人権侵害に関わりのある企業との取引が継続しています。今後、方針の実施状況をモニタリングしていく必要があります」と指摘しました(注4)

今回の調査では、森林リスク産品企業への投資額が372億米ドル(2020年4月時点)から453億米ドル(2021年4月)に増加し、新型コロナウイルスの世界的流行と同時期に、投資機関が森林破壊への投資を増やしていたことも明らかになりました。2020 年だけでも1,220万ヘクタールの熱帯林が失われました(注5)。

森林生態系の破壊は、新型コロナのような新たな人畜共通伝染病の出現との相関を指摘する研究もあり(注6)、森林破壊を止めることが将来のパンデミックを防ぐためにもきわめて重要です。

注1)「森林と金融」データベース(日本語は準備中)

「森林と金融」ブリーフィングペーパー(2021年6月22日更新)

銀行方針評価まとめ(英語:右上のオレンジのボタンからダウンロード可能)

「森林と金融」協力団体:レインフォレスト・アクション・ネットワーク、TuKインドネシア、プ ロフンド(Profundo)、レポーターブラジル、アマゾン・ウォッチ、バンクトラック、Sahabat Alam マレーシア、FoE US。各団体からのコメントは英語のプレスリリースをご覧ください。

注2)方針評価の方法論:54の大手銀行・投資機関の公開されている方針を環境・社会・ガバナンス(ESG)の3分野35項目の基準で採点・分析。各金融機関が基準項目に明確に取り組み、対象企業とサプライヤーに基準を適用していれば10点、サプライヤーに基準が適用されていないなど部分的遵守は8.5点とした。そして35項目の合計得点を0から10ポイントに標準化した。また産品別でも採点され、各金融機関の投融資額の合計に各産品事業が占める割合を算出し、荷重計算の上、合計した数字を総合得点とした。

評価基準35項目の概要:
●環境分野(10項目):森林破壊禁止、泥炭地開発禁止など
●社会分野(10項目):先住民族や地域コミュニティの権利尊重(自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)原則の実施)など
●ガバナンス分野(15項目):投融資の透明性、汚職規制、情報開示など

注3)NGO共同プレスリリース「日本のメガバンク3行の気候関連ポリシー比較を公表:総合評価ではみずほがトップ」、2021年6月21日

参考資料:NGO共同プレスリリース「三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)へ気候変動に関する株主提案を提出」、2021年3月29日 

注4)RAN、TuKインドネシア、ジカラハリ「三菱 UFJ、森林リスク産品セクターの ESG 方針で後れ:インドネシア子会社 バンクダナモンは方針適用から除外」、2021年4月

注5)Fiona Harvey, “Destruction of world’s forests increased sharply in 2020”, The Guardian, 21 March 2021

注6)Laura S. P. Bloomfield, Tyler L. McIntosh & Eric F. Lambin, “Habitat fragmentation, livelihood behaviors, and contact between people and nonhuman primates in Africa”, Landscape Ecology volume 35, pages 985–1000 (2020)

【7月9日追記】
6月22日時点では、6月8日にグローバルで発表した方針評価を掲載していました。その後、日本の金融機関の方針をレビューして方針評価を更新しました。更新内容は以下の通りです。

三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)(8位:5.1ポイント)→7位 5.4ポイント
みずほフィナンシャルグループ(14位:3.8ポイント)→13位 3.9ポイント
三井住友フィナンシャルグループ(19位:3.1ポイント)→16位 3.3ポイント
31位 三井住友トラスト・グループ(31位:1.8ポイント)→30位1.9ポイント

参考:「森林と金融」ウェビナー(2021年6月11日実施、日本語訳)

団体紹介
レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

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東京都渋谷区千駄ヶ谷1-13-11-4F
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プレスリリース:森林&人権方針ランキング2021発表〜日清食品、花王、三菱UFJは低評価 〜 (2021/4/27)

各社、取り組み遅れ〜森林破壊と人権侵害をもたらす消費財企業・銀行17社の実施方針を比較〜

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日27日、新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング2021」(注1)を発表しました。熱帯林破壊と人権侵害を助長している最も影響力のある消費財企業と銀行の17社を対象に(注2)、各社の方針と実施計画を森林と人権の二分野で評価した結果、自社サプライチェーンおよび投融資で森林破壊と人権侵害を止めるために適切な措置を講じている企業と銀行は一社もないと結論づけました。人権侵害には土地収奪や地域住民および先住民族への暴力なども含まれます。

本ランキングは、日本企業の日清食品ホールディングス、花王、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)を含むグローバル消費財企業と銀行の17社を対象に、森林と人権分野の10項目を20点満点で評価しています。得点に合わせてA(18〜20点)、B(15〜17点)、C(12〜14点)、D(5〜11点)、不可(0〜4点)で評価しました。最も高評価だったのはユニリーバですがCランクにとどまり、日本企業はいずれも最低ランクの「不可」でした。

主な森林・人権方針の評価項目(全10項目、各2点)

「森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE)採用:パーム油や紙パルプなど森林破壊を引き起こす産品事業の生産・投融資に欠かせない国際基準(注3)

「森林フットプリント」開示:サプライチェーンや投融資先の事業が影響を与える森林の総面積(注4)

「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)原則」の実施:先住民族および地域コミュニティの権利尊重(注5)

暴力や脅迫への「ゼロトレランス」(不容認)方針の有無

NDPE方針遵守の証明・独立検証、など

日本企業は3社とも方針にNDPEを限定的ながら採用するも、森林フットプリント開示、FPIC原則の実施、ゼロトレランス方針の有無、NDPE方針遵守の証明では得点がなく、総合点は2〜4点という低評価となりました。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表の川上豊幸は「日清食品、花王、三菱UFJはいずれも低評価だったのは残念です。3社ともベストプラクティスである『森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止』(NDPE)を方針に採用したことは評価できます。しかし同時に、自社のサプライチェーンや投融資先で起きている人権侵害を止めるための方針策定が急務です。さらにNDPE方針の適用セクターの拡大や遵守のための独立検証、森林フットプリントに代表される情報開示といった、具体的な取り組みを進める必要があります」と訴えました。

日本企業各社の点数と評価概要、改善点

日清食品(2点):グループ全体の調達方針に「NDPEを支持する」と記載しているが、消費財企業10社で最も低評価だった。改善のためには、グループ調達方針に供給業者が遵守すべきNDPE項目を明記し、供給業者にNDPE採用を義務付ける必要がある。またパーム油の搾油工場リストといった供給業者の情報開示を通して、生産地の現状把握と問題対応のための体制強化を行う必要がある。持続可能なパーム油100%調達を2030年までに達成するという目標も大幅な前倒しが必要。

花王(3点):原材料調達ガイドラインで森林破壊ゼロを支持し、人権方針で人権尊重を支持している。供給業者や合弁企業側のグループ全体でのNDPE遵守を要請はしているが、NDPE方針採用の義務化が必要。2021年の活動方針に「人権擁護者への暴力や不当告発、脅迫などを容認しない」とあるが、企業方針となっていないので国際基準のゼロトレランス・イニシアティブ(注6)に沿った企業方針としての公表が必要。そしてインドネシアでの森林フットプリントを作成し公表する迅速な動きが求められる。

MUFG(4点)環境・社会方針を4月26日に改定し、投融資先に「NDPE遵守の公表」の要求を追加したがパーム油の農園企業に限定され、パーム油購入企業や、紙パルプや大豆など他の森林リスク産品セクターには適用されなかった。MUFGはパーム油セクターへの融資・引受額が東南アジア以外の地域に本社を置く銀行では最大で、紙パルプ産業にも多額の融資を提供している。今後、NDPE方針の適用拡大と、投融資先にNDPE方針遵守のための独立検証を求めていくことが課題になる。

17社の消費財企業・銀行の持つ影響力

評価対象となった企業や銀行の多くは、「森林破壊禁止」と先住民族の権利および人権尊重の達成のために、国連「持続可能な開発目標」(SDGs 15.2:2020年までに森林減少阻止)への賛同をはじめ様々なコミットメントを表明して自社方針を策定してきました。しかし、インドネシアの熱帯林と世界中の熱帯林はパーム油や紙パルプ、牛肉、大豆、カカオ、木材製品といった産品のために伐採されて火を入れられ、さら地にされています。

川上は「評価対象となった消費財企業と銀行は熱帯林破壊や土地収奪、人権擁護活動家の殺害といった問題に対して大きな影響力を持っています。なぜならば、インドネシアで大規模な森林破壊や人権侵害を行っている林業やアグリビジネス企業は、グローバル消費財企業との取引に支えられ、大手銀行からは多額の資金が流れているためです。今回の評価と分析からは、人権侵害や森林破壊を止めるための方針策定と、具体的な取り組みを十分に実践している企業がないことが明らかになりました」と指摘しました。

今回の評価では、以下の通り、方針の実施を改善するために必要な手順も示しています:

●第一段階として、自社のサプライチェーンや投融資から森林破壊と人権侵害を停止するための方針を採用すること

●自社事業が森林と先住民族・地域コミュニティの権利に与える影響の全容を公表すること

●暴力的行為を未然に防ぎ、先住民族・地域コミュニティの権利が十分に尊重されることを保証していること

●供給業者や投融資先企業の自社方針遵守を証明すること

森林、特に熱帯林は温室効果ガスを吸収して貯留し、地球全体の降雨量を維持しています。インドネシアの森林は地球で3番目に大きな熱帯林で、地球全体の気候と生物多様性の危機に対処する上で重要な役割をもちます。インドネシアの先住民族と地域コミュニティは森林減少を効果的に防いできた守り手であり、何世代にもわたって森林を上手に管理してきました。そして今、自分たちの同意なしに土地や森林を搾取しようとする様々な企業に抵抗しています。

さらなる森林破壊と人権侵害を防ぐために、森林破壊と人権侵害を行う大手アグリビジネス企業と林業企業に対して大きな影響力をもつ消費財企業と銀行は、実質的な行動を早急に取ることが要求されます。

注1)新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング2021〜森林破壊と人権侵害をもたらす企業と銀行の実施方針を評価〜」(日本語版)

方法論等の詳細は英語版を参照ください:「 Keep Forests Standing: Evaluating Brands and Banks Driving Deforestation and Human Rights Abuses」

注2)消費財企業(10社):日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース
銀行(7社):MUFG、JPモルガン・チェース、中国工商銀行(ICBC)、DBS、バンクネガラインドネシア(BNI)、CIMB、ABNアムロ

「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」は、RANが2020年4月から展開しているキャンペーンです。熱帯林破壊と人権侵害を助長している最も影響力のある上記の消費財企業・銀行17社に実際の行動を起こすよう要求しています。注3)〜注5)の参考資料としてもご参照ください。

注3)NDPEはNo Deforestation、No Peat、No Exploitationの略。森林減少や劣化に対しての保護(炭素貯留力の高い(High Carbon Stock:HSC)森林の保護、保護価値の高い(HCV: High Conservation Value)地域の保護)、泥炭地の保護(深さを問わず)、人権尊重、火入れの禁止といった要素を含む方針を公表している企業は「あり」の評価を得る。

注4)「森林フットプリント」とは、森林を犠牲にして生産される「森林リスク産品」の消費財企業の利用や、銀行による資金提供によって影響を与えた森林と泥炭地の総面積をいう(影響を与える可能性がある面積も含む)。消費財企業と銀行の森林フットプリントには、供給業者や投融資先企業が取引期間中に関与した森林および泥炭地の破壊地域、さらに供給業者や投融資先企業全ての森林リスク産品のグローバルサプライチェーンと原料調達地でリスクが残る地域も含まれる。森林および泥炭地が先住民族や地域コミュニティに管理されてきた土地にある場合は、その先住民族と地域コミュニティの権利への影響も含む。

注5)「FPIC」(エフピック)とは Free, Prior and Informed Consentの略。先住民族と地域コミュニティが所有・利用してきた慣習地に影響を与える開発に対して、事前に十分な情報を得た上で、自由意志によって同意する、または拒否する権利のことをいう。

注6)「ゼロトレランス・イニシアティブ」ウェブサイト

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

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プレスリリース:RAN他「化石燃料ファイナンス成績表2021」発表〜世界60銀行、パリ協定後も化石燃料に3.8兆ドルを資金提供〜(2021/3/24)

〜三菱UFJとみずほがトップ10入り〜NGO「パリ協定に不整合」と批判、コロナ不況下でも2020年提供額が2016年を上回る

米環境NGO レインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)他は、本日24日(米国太平洋時間 23日)、新報告書『化石燃料ファイナンス成績表2021〜気候カオスをもたらす銀行業務〜』(注1)を発表しました。

本報告書は世界の主要民間銀行による化石燃料への融資・引受をまとめたもので、分析の結果、邦銀4行を含む世界の60銀行は、パリ協定採択後の5年間で合計3.8兆ドル以上を化石燃料部門に資金提供したことが明らかになりました。また新型コロナウイルス感染拡大による不況下にも関わらず、2020年の融資・引受額はパリ協定採択翌年である2016年の金額を上回ったこともわかりました。RANらNGOは、日本のメガバンクを含め世界の主要銀行がパリ協定から5年経っても化石燃料への資金提供を継続していることに対して「パリ協定と整合性がない」と批判しました。

パリ協定以降のワースト12銀行(化石燃料への融資・引受額、2016年〜2020年合計)

*他の邦銀順位は、18位 三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)、59位 三井住友信託銀行。銀行別・年別の資金提供額は「報告書概要」(和訳)を参照のこと。

『化石燃料ファイナンス成績表2021』概要

●世界の主要民間銀行60行が化石燃料部門に行った資金提供を示した包括的な報告書で、石炭、石油、ガス部門の世界2,300社に対する2016年〜2020年の5年間の融資・引受を分析の対象としている。第12版となる2021年版は対象銀行を35行から60行に拡大した。

世界の主要60銀行は、パリ協定採択後の5年間(2016年〜2020年)で合計3.8兆ドル以上を化石燃料部門に資金提供した。新型コロナウイルス感染拡大の影響で化石燃料の需要および生産は減少したが、2020年の化石燃料への資金提供額は約7,507億ドルで、パリ協定採択の翌年である2016年の約7,092億ドルを上回った。

●上記5年間の融資・引受額が最も多かった銀行はJPモルガン・チェース、2位がシティ、3位がウェルズ・ファーゴ、4位がバンク・オブ・アメリカ(ともに米国)、5位がロイヤル・バンク・オブ・カナダ(RBC)。地域別上位銀行は、ヨーロッパはバークレイズ、アジアは三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、中国は中国銀行

●邦銀では、MUFGが世界6位(約1,477億ドル)、みずほフィナンシャルグループ(みずほ)が8位(約1,235億ドル)で、上位10銀行にメガバンク2行が入った。MUFGは昨年と同じ順位だが、パリ協定採択以降の資金提供は増加傾向にある。三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)は18位で(約863億ドル)、昨年20位から順位を上げた。今回初めて対象となった三井住友トラスト・グループは59位(約6億ドル)。

●コロナ禍での不況のため、2020年の化石燃料事業への融資・引受額は約7,507億ドルで、前年の8,237億ドルと比べて約9%減少した。しかし化石燃料を拡大している上位100社への過去5年の資金提供額は約1.5兆ドルで、2020年の提供額3,685億ドルは前年の3,336億ドルに比べて10%増加した。資金提供先には「ライン3」石油パイプライン、アルゼンチン・パタゴニア地域の先住民族での土地でのフラッキング(水圧破砕法)によるシェールオイル・ガス開発など、物議を醸している事業を進める企業が含まれる。3メガバンク はライン3の建設会社であるエンブリッジ社に資金を提供している(注2)

レインフォレスト・アクション・ネットワーク「責任ある金融」シニアキャンペーナー ハナ・ハイネケンは「世界の主要銀行は今後どのような方向に向かうのか、厳しい選択を迫られています。パリ協定以降、メガバンクら邦銀は3,500億ドル以上の融資・引受を化石燃料へ提供しています。この資金の4割以上は化石燃料を最も拡大している100社に提供されました。今年11月に開催される気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)の前に、化石燃料への資金提供が増えることがあってはいけません。ウォール街の銀行とMUFGをはじめ世界の主要銀行は、地球の気温上昇を1.5度未満に抑えるために化石燃料の拡大への資金を直ちに止め、パリ協定の1.5度目標に沿って化石燃料ファイナンスを段階的に打ち切る必要があります」と指摘しました。

3メガバンクはアジア上位5銀行の1位、2位、5位

2020年も米国の銀行が二酸化炭素排出を牽引し、JPモルガン・チェースは依然として化石燃料への融資・引受で世界ワースト銀行です。チェースは最近、自社ファイナンスをパリ協定と整合させると約束しましたが、無制限といっていいほど化石燃料事業に資金提供を続けています。 チェースは2016年から2020年の期間、化石燃料に約3,167億ドルの融資・引受を行いましたが、この金額はワースト2位であるシティの金額を33%も上回っています。

今回の分析から得られたもう一つの特筆すべき結果は、BNPパリバが2020年のワースト4銀行にランクインしたことです。BNPパリバは、2020年に化石燃料に408億ドルを資金提供し、2019年と比較して41%の大幅増加となりました。つまり、昨年の化石燃料ファイナンス増加はBNPパリバの増額が理由であることを意味します。一方、BNPパリバは2017年に方針を制定し、シェールオイル・ガス、オイルサンド、液化天然ガスLNGなどへの融資制限を約束していました(注3)

本報告書はまた、気候変動に関する銀行方針におけるコミットメントについても分析しています。分析の結果、その約束は十分に守られず、パリ協定の目標と全般的に整合していないことも明らかになりました。最近の注目を集めている方針は、達成年が遠く目標も曖昧な「2050年ネットゼロ」や、非在来型化石燃料への資金提供の制限に重点を置いています。また、現行の銀行方針は総じてプロジェクトファイナンスへの制限についてが最も厳しくなっていますが、プロジェクトファイナンスの割合は本報告書で分析した化石燃料ファイナンス全体の5%にしかすぎないことも判明しました。

なお、本報告書の執筆団体は、全銀行の資金提供の意思決定に「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC、注4)の権利を含め、先住民族の権利尊重および人権尊重が広範にわたって必須要件でなければならないという点で一致しています。

執筆団体、賛同団体からのコメント

先住民族環境ネットワーク(IEN) 事務局長 ダラス・ゴールドトゥース
「世界の大手銀行は石油・ガス開発の拡大に融資していることから、大きな責任があることを理解しなければなりません。グリーンウォッシュ、排出量取引、実証されていない技術的解決策、そしてネットゼロのコミットメントは、人道上の罪、母なる地球への罪を免れることはできません。先住民族の土地は世界的に略奪され、固有の権利は侵害され、化石燃料の開発拡大に直面して生活の価値が大きく失われています。母なる地球の神聖さと領土を守るために、大手銀行は地球が破壊された費用を補償する責任があります」

気候ネットワーク 国際ディレクター 平田仁子
「今回の最新報告書で、やはりいまだに日本の金融機関が、多額の資金を化石燃料をはじめとする気候変動を加速させる事業や企業に資金提供し続けている事実が明らかになりました。パリ協定を支持し、事業を整合させるという責任銀行原則(PRB)への賛同はまだ形だけであって、実態が伴っていないことを浮き彫りにするものです。気候変動への対応は一刻の猶予も許されません。速やかな方針の抜本転換が必要です」

国際環境NGO 350.org日本支部キャンペーナー 渡辺瑛莉
「本調査により、日本のメガバンク3行が、いまだに世界の化石燃料部門に多額の資金提供を続け、パリ協定の目標と全く整合していないことが明らかとなりました。1.5度目標達成のためには、石炭のみならず、化石燃料部門全般で新規・拡大計画への資金提供を即時に停止し、コーポレートファイナンスも含めた包括的な1.5度目標に整合したフェーズアウトポリシーの制定が急務です。この点で世界の主要銀行と比べいまだに遅れをとっている邦銀は、早急な改善措置をとり、気候危機の加速ではなく、その解決に向けて責任を果たすべきです」

注1)「化石燃料ファイナンス成績表2021」日本語要約版報告書全文(英語)
・本報告書は、世界の主要民間銀行60行が化石燃料部門に行った資金提供を示した世界で最も包括的な報告書であり、石炭、石油、ガス部門に関わる世界2,300社に対する2016年〜2020年の間の融資・引受を対象としている。
・取引データは、ブルームバーグ・ファイナンスL.P(ブルームバーグ端末、取引額が主幹事銀行間で分割されている)、IJグローバル、『Global Coal Exit List(脱石炭リスト)』より入手。融資・引受額は、対象となる化石燃料関連企業の当該部門の事業活動に基づいて割引して算出している。
・本報告書はRAN、バンクトラック、先住民族環境ネットワーク(IEN)、オイル・チェンジ・インターナショナル、リクレイム・ファイナンス、シエラクラブが執筆し、世界50カ国300以上の団体が賛同している。

注2)参考資料:RANブリーフィングペーパー『北米パイプライン「ライン3」と「キーストーンXL」の黒幕〜オイルサンド・パイプライン建設を支援する世界の銀行』、2020年12月16日発行

注3)「BNPパリバ、エネルギー転換への支援加速に向けてさらなる方針を発表」(2017年10月11日)

注4)FPIC(Free, Prior and Informed Consent):先住民族が自分たち、または自らの土地に影響を及ぼす可能性のある事業には同意する、もしくは拒否する権利。

参考資料:「パリ協定と整合性のある金融機関原則」(2020年10月発行)

※更新:以下の内容を追加しました(2021年5月26日)。
「化石燃料ファイナンス成績表2021」日本語要約版
・動画「気候カオスをもたらす銀行業務」(英語)

団体紹介
レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報 関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

ブログ:生活を破壊し、土地を奪う〜インドネシア巨大企業シナルマス〜(2021/1/15)

イブ・ミナルティさん: バナナ、キャッサバ(イモの一種)、唐辛子を栽培し、家族を養うために販売している農家。「私たちは子供たちの将来のために土地を必要としています」(ジャンビ州)写真:RAN/WALHI Jambi/ Mushaful Imam

人権侵害の記録と抵抗する最前線のコミュニティ

インドネシア・コーディネーター フィトリ・アリアンティ
英語は2020年12月17日投稿)

2015年2月下旬の金曜午後、インドラ・ペラニさんという若い農民が友人のバイクの荷台に乗って、インドネシア・スマトラ島ジャンビ州の田園地帯を走っていた。ペラニさんと友人はお祝いの一日を楽しみにしながら、米の収穫祭に向かっていた。しかし、そこにたどり着くことはなかった。

二人は、隣同士の村で育った。その村々の人たちは先祖代々この地域に住み、働き、農業を営んできたが、時が経つにつれ、村々の土地や森林が紙パルプ会社に引き渡されるのを見てきた。これらの大規模なアグリビジネス企業は天然林を皆伐し、厳重に警備された紙パルプ用植林地を作り、住民の農園と伝統的な生計手段を破壊し、その過程で物々しい警戒態勢を敷いて地域を制圧した。 

その金曜日の午後、インドラ・ペラニさんと友人は、世界最大級の製紙会社アジア・パルプ・アンド・ペーパー社(APP)が所有するアカシアの植林地を横切る道路の検問所を通過しようとした。同社はシナルマス・グループと呼ばれる巨大コングロマリット(複合企業)の子会社である。自分の地域の土地を取り戻すために住民を組織化し、有能な農業組合員で環境活動家でもあった22歳のペラニさんは、検問所で警備員に見つかってしまった。警備員は、ペラニさんをつかんで友人のバイクから引き下ろし、友人は助けを求めて急いで逃げた。悲劇的なことに、助けは間に合わなかった。ペラニさんの遺体は、ひどく殴られ、刺され、手足を縛られた状態で沼地に捨てられていたのが翌日に発見された。    

インドラ・ペラニさんの残忍な殺害には国際的に批判の声が上がり、抗議活動は現在も続いている。しかし悲しいことに、これはプランテーション開発の最前線にいる地域コミュニティが直面している恐ろしい多くの不当な仕打ちの一例に過ぎない。このような人権侵害を行い、インドネシアで大規模な森林破壊を引き起こしている企業は世界的な消費財企業や銀行との取引によって支えられ、資金は流れ続けている。 

シナルマス・グループ~人権侵害のネットワーク〜

「APP/シナルマス、農民の不当告発の停止を!」と書かれた横断幕を掲げて抗議するルブク・マンダルサ村ペラヤン・テバットの農民(写真:RAN/ワルヒ・ジャンビ/Mushaful Imam)

シナルマス・グループ(SMG)は他の多数の企業とともにAPP社を傘下に持つ。現地および国際メディアや市民権団体などの多数の報告によれば、SMGは土地収奪、脅迫、不当告発、暴力など(注1)、人権侵害と環境破壊に関する最も悪質な事例が記録されている企業の一つである。SMGは国際的な人権規範に従うことを拒み、コミュニティが自分たちの土地での開発に同意するかしないかを自ら決めることのできる権利を保障せず、またコミュニティとの間で合意がなされた場合でも、度々その合意の履行を怠ってきた。SMGはコミュニティから提起された苦情に不適切な対処を続け、影響を与えた数百ものコミュニティへの救済策の提供を拒んでいる。 

それでもSMGは大手消費財企業にパーム油や紙パルプを供給し続け、国際的な銀行はSMGにますます融資を続けている。マース、モンデリーズ、プロクター&ギャンブル、ネスレ、ユニリーバ、コルゲート・パルモリーブ、ペプシコ、花王のようなグローバル消費財企業はSMGが供給するパーム油を使用して、店頭に並ぶスナック菓子や即席麺、生活用品を製造している。日本の日清食品も、SMGを購入先としている不二製油から調達しているため、関与している可能性がある。またネスレは紙のサプライヤーを開示せず、同様に開示していない多くの他企業とともに、SMGが所有するAPP社を通じて紙パルプを購入している。またSMGは銀行融資の最大の受取先でもあり、過去 5 年間(2015 年~20 年第 1 四半期)に受けた融資額は 200 億米ドルに達している。最大の貸し手には、インドネシアの銀行であるバンク・ラクヤット・インドネシア(BRI)とバンク・ネガラ・インドネシア(BNI)、日本のメガバンクであるみずほフィナンシャルグループと三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)がある。 

これらの消費財企業や銀行の多くが人権擁護をうたう方針と公約を掲げているが、SMGの広範な人権侵害を無視している。これらの消費財企業や銀行は、先住民族や地域住民の権利を尊重しないSMGを支援する一方で、最新のポジティブな「取り組み」を自慢したがる。これは止めなければならない。銀行や消費財企業は、SMGおよびそのサプライヤーが引き起こした社会・環境面での危害を是正したことを同社が証明するまでSMGとの新規取引を直ちに停止しなければならない。SMGは「森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、コミュニティと労働者の搾取ゼロ」(NDPE:No Deforestation, No Peat and No Exploitation)という公約を真に実行し、影響を受けるコミュニティの要求を満たしていることを証明しなければならない。 

環境NGOのエンバイロンメンタル・ペーパー・ネットワーク(EPN)の報告書「紛争パルプ材植林地」(2019年)によると、インドネシアのわずか5州で、少なくとも107の村やコミュニティとAPP関連会社やそのサプライヤーとの間に紛争が起きており、544村が紛争の可能性のある場所として特定され、その面積は250万ヘクタール以上にのぼる。以下はSMGが対処して来なかったコミュニティとの紛争の事例であるが、ごく一部に過ぎない。そして、ここに記す住民が語った話や経験は、SMGがいかに人権を侵害してきたかを示す重要な例である。 

コミュニティに対する暴力と脅迫
インドネシア・ジャンビ州のルブク・マンダルサ村

イブ・ミナルティさんは、バナナ、キャッサバ(イモの一種)、唐辛子を栽培し、家族を養うために販売している農家。「私たちは子供たちの将来のために土地を必要としています。ここでは経済的なストレスを受け、自由に行き来することができません。私たちは平和に暮らしたいのです。地域住民のニーズを理解し、ルブク・マンダルサ村の伝統的な土地を返すよう、WKS社に求めます」と語った。(写真:RAN/WALHI Jambi/ Mushaful Imam)

インドネシア・スマトラ島ジャンビ州にあるルブク・マンダルサ村は、6,000世帯以上が暮らす村である。コミュニティは主にジャンビ出身のマレー人と、何世代にもわたってこの地域に住んでいる先住民族のアナック・ダラム民族である。住民の大部分は、米や野菜の農家として働いて暮らしており、土地への依存度が非常に高い。コミュニティ所有地の多くは、近くのブキ・ティガプルー国立公園の一部として指定されているか、アジア・パルプ・アンド・ペーパー(APP)傘下の産業用植林事業会社のWKS(Wira Karya Sakti)に事業許可が与えられているため、そこでの土地利用が次第に制約を受けている。

WKS社と地域住民の紛争は、村内のぺラヤン・テバットという集落で2007年に始まった。WKS社は、この地域の事業許可地へのアクセス道路を建設した後、住民が農地として使っていた土地を含め、道路両側の土地をさら地にし始めた(注2)。地域住民とテボ農業組合および環境保護団体のワルヒ・ジャンビ(WALHI Jambi)が2013年に作った地図によると、同社に奪われた住民管理地の総面積は1,500ヘクタール、つまり2,800個以上のサッカー場に相当する広さだった(注3)。2007年12月28日に紛争は同社と住民の衝突に発展し、住民の農地をさら地にしていたWKS社の重機を壊した嫌疑が住民にかけられた(注4)。この衝突によって9人の農家が逮捕され、15カ月間の禁固刑に処された

地元の環境保護団体ワルヒ・ジャンビは、以下の例を挙げて、WKS社は数年以上もコミュニティを脅迫し、攻撃し続けてきたと主張する: 

●2013 年 3 月 6 日、農家のカリオノ・セティオさんは地区警察に逮捕された。WKS社はセティオさんが同社の「環境保全」地域内の土地の一角を、さら地にしたとして告発し、逮捕はその後に起きた。同社の「環境保全」地域は、地域住民の「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC)を得ることなく彼らが伝統的に所有してきた土地にもうけられた。カリオノさんは有罪判決を回避するために、農地での作業をやめることを余儀なくされた(注5)。

●2015年2月27日、インドラ・ペラニさんがWKS社の警備チームに暴行され、誘拐され、殺害された(注6)。

アーメド・スザントさんは、ルブク・マンダルサ村の農家。アーメドさんの作物は、2020年3月にWKS社がドローンで除草剤を作物に散布した際に被害を受けた。約2ヘクタールの土地が破壊され、唐辛子、スイカなどの作物が駄目になった。コミュニティが所有する97本のアブラヤシの木も使えなくなった。WKS社はコミュニティが主張する被害規模に異議を唱えている (写真:RAN / WALHI Jambi / Mushaful Imam)

●2020年3月4日、WKS社はドローンを使って有毒な除草剤を撒き、コミュニティが植えたばかりの野菜、唐辛子、ジェンコル(食品や薬として利用される種がなる木)、アブラヤシの木を破壊した。インドネシア政府が新型コロナウイルスの発生に対応するために大掛かりな社会的制限政策を実施し始めていたため、除草剤を監視なく容易に散布できた。住民の一人、ハリムさんは約2ヘクタールの村の菜園が破壊され、収穫ができなくなったと報告した。

●WKS社は現在も住民を脅迫し続けている。2020年3月、村の共有地と考えられ、紛争になっている土地をさら地にしたという理由でWKS社によって一人の住民が警察に通報された(注7)。2020年4月28日、住民のアグスさんが村の菜園の手入れをしていた時に兵士がわざと空中に二発、発砲した。

紛争が始まって以来、コミュニティは抵抗のために組織化が行われ、官公庁や会社の前でデモを行ったり、会社の現場での活動を妨害したり、会社との交渉を試みたりと、様々な方法で会社との問題の解決を試みてきた。

こうした最近の一連の事件について、APP/SMG は「問題は調停によって解決された」と述べ、ドローンによって破壊されたコミュニティの作物の実際の面積は、当初、住民が主張したより少なかったことをコミュニティの代表者が認めたと主張した。しかし地元の NGO は、そのような意味のある調停は行われておらず、ルブク・マンダルサ村とWKS社の間の長年の対立は依然として続いていると異議を唱えている

先住民族サカイ民族への不当告発
インドネシア・リアウ州

シナルマス・グループ(SMG)の人権侵害の記録は、ルブク・マンダルサ村に限ったことではない。地元の情報源によると、SMGはリアウ州ベンカリスの先住民サカイ民族のコミュニティとしての権利も侵害している。このコミュニティでは、地元農家が、コミュニティの所有する土地で樹木を切り倒したことで犯罪者だとされた。APP/シナルマス傘下企業のアララ・アバディ社(AA社)は、その土地を自社の事業許可地であると主張している。

この紛争は、AA社が327ヘクタールの土地をさら地にし、コミュニティの貴重な食糧源を破壊した2001年に始まった。そこは、サカイ・バティン・ベリンギンおよびペナソの先住民族がコミュニティとして伝統的に所有すると主張する土地だった。

ボンクさんと「森林と土地のための伝統コミュニティ連合」(Koalisi untuk Masyarakat Adat untuk Hutan dan Tanah). (写真:Jikalahari) 

サカイ・バティン・ベリンギン村の住民ボンク・ビン・ジェロダンさん(58歳)は、この紛争で不当に告発された住民の一人である。ボンクさんは、サカイ民族の伝統的な食品の一つであるメンガロ・マーシク(Menggalo Mersik)に加工できるウビ・メンガロ(Manihot glaziovii)と呼ばれる地元のサツマイモとキャッサバを栽培している農家だ。インドネシアの多くの先住民族と同様、サカイ民族は森林やその自然の産物に依存する移動式農業を営む人々だ。

不当告発は、ボンクさんがサツマイモを栽培するために新しい土地を耕作したときに始まった。ボンクさんは2019年11月に約20本のアカシアの木を伐採し、200平米の面積をさら地にした(注8)。さら地になった土地は、現在は前述のAA社の産業用植林事業許可地の一部として法的に指定されてはいるものの、先住民族であるサカイ民族の共有地の一部である。

ボンクさんの初公判は2020年2月に行われ、同年5月18日、判事は、AA社の事業許可地内のアカシアの木を伐採した罪で、ボンクさんに1年の禁固刑と2億ルピア(14,000米ドル以上)の罰金を宣告した。判事は、ボンクさんを2013年の「森林破壊の防止と根絶に関する法律」に違反した罪で有罪とした。この法律は組織的な森林破壊を法的に禁止することを目的としているが、コミュニティを犯罪者とするためによく使われる(注9)。

2015年以降、サカイ民族は、ボンクさんが管理する土地を含め、慣習的な土地の権利の承認をインドネシア環境林業省に求めてきたが、承認されていない(注10)。APPは声明で「環境林業省は今後の紛争解決を促進している」、「AA社は引き続きプロセスに従うことを約束している」と主張している。

インドネシアNGO LBHプカンバルのインフォグラフィック

ボンクさんは7カ月投獄された後、新型コロナウイルス感染症拡大の懸念から釈放された。この事例では土地紛争が未解決のままであり、ボンクさんの場合のような不当告発は、土地紛争が解決され、先住民族サカイ民族の土地権が認められるまで続く可能性が高いと地元の市民社会グループは警告している

アブラヤシ農園での労働者の権利侵害と人権侵害
インドネシア・中部カリマンタン州

SMGの人権侵害の記録は十分に文書化され、紙パルプ部門だけでなく、パーム油事業においても人権侵害が行われてきた。市民社会と労働組合はSMGの別の子会社であるゴールデン・アグリ・リソーシズ(GAR)についても同様に、人権侵害と労働者の虐待について記録してきた。

2018年の報告書で、サウィット・ウォッチとアジア・モニター・リソース・センターはアブラヤシ農園の労働者49人に、中部カリマンタン州にあるGARのアブラヤシ農園企業2社、タピアン・ナデンガン社(PT.Tapian Nadenggan)とミトラ・カリヤ・アグロインド社(PT.Mitra Karya Agroindo)で勤務中に経験した虐待について聞き取りを行った。

不当な労働システム、労働安全衛生問題、低賃金、劣悪な生活条件、性差別、「持続可能な」パーム油の代表的な認証機関とされる「持続可能なパーム油のための円卓会議」(RSPO)の監査チームが聞き取りをできないように労働者を隠していたことなどの違反行為が報告された。同じくGAR傘下にある南スマトラ州のサウィット・マス・セジャーテラ社(PT.Sawit Mas Sejahtera)が所有するアブラヤシ農園における無秩序な労働契約、未払い残業、不当な解雇、労働組合の弾圧など、労働者の権利侵害についても、労働組合や市民社会グループは繰り返し懸念を表明している。

また、フォレスト・ピープルズ・プログラム(FPP)とエルク・ヒルズ・リサーチは最近、上記2社の事業許可地での労働者の権利侵害の発覚を含め、中部カリマンタン州のGAR事業許可地8カ所でのライセンス規則違反の疑惑と汚職の兆候について、RSPO に苦情を提出した。FPPと地元 NGO は以前、西アフリカのリベリアにおける事例も含め、コミュニティの土地譲渡プロセスにおける「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC)の権利侵害を理由に、GARに対する苦情数件を申し立てていた。

イブ・ヌルハヤナさんは、2015年にWKS社の警備員によって残忍に殺害された故インドラ・ペラニさんの母親。WKSは彼女を支援するという約束を破り続け、彼女は今、自身と家族の生活のために苦闘を続けている。「一刻も早く土地が返還されるよう要請します。将来のために、私は自分自身と娘のニラプトリのために正義を求めます。我が家の大黒柱だった息子がこの世からいなくなってしまったために、このような状態になっていると感じています。私は正義を求めます。それだけを求めます」と語った。(写真: RAN/Walhi Jambi/ Mushaful Imam)

コミュニティの土地からのパーム油調達
インドネシア・スマトラ島アチェ州パンテ・チェルミン村

パンテ・チェルミン村の住民。自分たちの土地を守るために抵抗を続けている

RANは2020年9月、シナルマス・グループのパーム油部門であるGARがデュア・ペルカサ・レスタリ社(Dua Perkasa Lestari:DPL)から原料を供給された搾油工場からパーム油を調達している証拠を明らかにした。DPL社は、スマトラ島のアチェ州アチェ・バラット・ダヤ地区にあるパンテ・チェルミン村の慣習地で、アブラヤシ農園を経営している企業だ。

パンテ・チェルミン村とDPL社の紛争は2006年に始まった。アチェの分離主義運動(GAM)とインドネシア軍との間の紛争から避難していた住民は、村に戻ってきてDPL社が自分たちの土地で操業しているのを発見した。コミュニティには土地所有権に関する法的文書(土地の物理的所有権に関する証明書(SPORADIK)があったが、DPL社はアブラヤシ農園を造成するために、コミュニティが植えていた食用作物を切り払い続けた。年々、脅迫も激しさを増している。2014年に同社は機動部隊(ブリモブ)に住民の家や作物を破壊させ、住民を監視させ、住民に対する威嚇射撃をさせて、住民の頭に弾が当たりそうになったこともあった(注11)。

バンダ・アチェ法律支援研究所の法的分析により、DPL社のアブラヤシ農園許可証に不正が発覚した。地元住民が1992年から管理する農地に立地しているにもかかわらず、許可証の発行に地元住民が関与していなかったのだ。矛盾は、立地許可証、農園事業許可証、農園の場所に対する事業権(Hak Guna Usaha)の間にあった。また、農園は深さ3メートルを超える泥炭地で造成されていた。

GARはDPL社との関係が公になった後、DPL社からの調達を停止することを発表した。しかし、GARはパンテ・チェルミン村のための救済措置が確保されるようDPL社に働きかけることができていない。この数十年にわたる土地紛争は、GAR/シナルマス・グループの人権ポリシーの実施や、効果的な人権デューデリジェンスシステムの確立と、サプライチェーンにおける遵守違反の検出に関する能力の弱さを示している。

ムサリさん。WKS社が権利を主張している土地でサトウヤシを収穫している(写真;RAN/ワルヒ・ジャンビ/Mushaful Imam)

「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」の必要性

上記の事例はいずれも、SMGの人権侵害が一つのセクターや一握りの農園だけではなく、様々な商品、地域、そして第三者のサプライヤーを含むサプライチェーン全体で発生していることを明らかにしている。SMGの子会社であるAPPとGARといったアグリビジネス部門は、人権、地域住民の権利および「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC: Free, Prior and Informed Consent)プロセスの尊重などを含めて、自らの公約を果たすことができずにいる

グローバルな消費財企業と銀行はどうすべきか

影響を受けているコミュニティはシナルマス・グループに以下を要求している:

●ジャンビ州のルブク・マンダルサ村、リアウ州の先住民族サカイ民族およびアチェ州のパンテ・チェルミン村との紛争を含め、の操業に関連する全ての土地紛争をすぐに解決すること

●影響を受けたコミュニティや環境・人権活動家に対するあらゆる形態の脅迫および不当な告発を終わらせること

●企業の事業許可地内の土地を地域住民に返還することにより、先住民族の土地権を尊重し、その認知を支持すること

●シナルマス・グループの農園で働く労働者のために、公正かつ適切な労働条件と生活条件を確保すること

これらのコミュニティを支援して下さい

ボンクさんのような、先住民族の権利擁護者への不当告発の問題に光を当て続けるために、以下の署名に協力をお願いします。

「先住民族への不当告発を止めてください」#FreeBongku

注1)以下を参照:
https://www.business-humanrights.org/en/latest-news/indonesia-study-reveals-asia-pulp-papersinar-mas-involvement-in-hundreds-of-community-conflicts/;  または
https://www.thejakartapost.com/news/2015/09/26/singapore-moves-against-indonesian-firms-over-haze.html

注2)Konsorsium Pembaruan Agraria, Suara Pembaruan Agraria Edisi 9: Agenda Reforma Agraria Pemimpin Baru, 2014. Pages 72-74.

注3)Mongabay Indonesia, Konflik lahan masyarakat Tebo  dengan PT. WKS terus berlarut, 8 Juni 2020, Jakarta-Indonesia.

注4)WALHI. 2018. Briefing Paper Wahana Lingkungan Hidup Indonesia: Selembar Kertas dan Jejak Kejahatan Korporasi. 12 Februari. Jakarta, Indonesia.

注5)Walhi Jambi, Assessment report (Unpublished), Januari 2016.

注6)Walhi Jambi, Investigation Findings, Reka Ulang Kasus Pembunuhan Indra Pelani, Tersangka Pembunuhan, March 2015.

注7)Walhi Jambi. Siaran Pers: Kronologis Kekejaman dan Intimidasi PT WKS Terhadap Masyarakat (KT Sekato Jaya) Desa Lumbuk Mandarsah, Tebo – Jambi. June 2020.

注8)Tempo Magazine. Kekeliruan Hakim yang Menghukum Bongku Karena Menebang Pohon. May 2020 Edition.

注9)LBH Pekanbaru. Pak Bongku Bukan Pelaku Perusakan Hutan, Berikan Keadilan Untuk Masyarakat Adat. April 2020.

注10)Mongabay. Mau Tanam Ubi di Lahan Sengketa dengan Perusahaan, Orang Sakai Terjerat Hukum Merusak Hutan. May 2020.

注11)YLBHI-LBH Banda Aceh. Legal Opinion (Pendapat Hukum): Sengketa Lahan Antara Masyarakat Desa Pante Cermin Kecamatan Babah Rot Kabupaten Aceh Barat Daya Dengan PT. Dua Perkasa Lestari. 2019.

プレスリリース:新報告書「FPIC実施原則の必要性」発表(2020/12/22)

インドネシアのアグリビジネス大手、先住民族の権利尊重に不備
〜パーム油、紙パルプ等企業グループ10社の方針と取り組みを評価・分析〜

サンフランシスコーー米環境NGO レインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、9日(現地時間)、新報告書『FPIC実施原則の必要性』(注1)を発表し、パーム油、紙パルプ、木材といった森林をリスクにさらす産品に従事するインドネシア大手企業グループ10社が農業開発の過程で先住民族と地域コミュニティの権利尊重を確保するための適切な方針と標準作業手順書をもっていないと批判しました。

【報告書の概要】

本報告書は、公開されている各社の方針と標準作業手順書(SOP)を、「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC)履行のためのガイドラインと比較して評価し、実施状況を分析したものです。FPICとは、先住民族と地域コミュニティが所有・利用してきた慣習地に影響を与える開発に対して、自由意志による、事前の、十分な情報を得た上で同意する、または同意しない権利のことをいいます(注2)。

評価対象となったのは以下の林業会社、アグリビジネス企業グループ10社です。インドネシアのパーム油、紙パルプ産業は下記10社を含め、少数の複合企業グループに支配されています(注3)。

 ●ベスト・インダストリー・グループ
 ●ゲンティン・グループ
 ●ジャーディン・マセソン・グループ
 ●コリンド・グループ
 ●ラジャワリ・コーポラ
 ●ロイヤル・ゴールデン・イーグル
 ●サリム・グループ
 ●シナルマス・グループ
 ●トリプトラ・グループ
 ●ウィルマー・インターナショ ナル

【評価・分析結果】

FPIC実施のためには、具体的な手続きや実施事項が明記された標準作業手順書が必要になります。今回の分析で明らかになったのは、影響を受けるコミュニティが所有・使用している土地で計画中の開発や既存の開発(アブラヤシ農園やパルプ材植林地開発、林業事業)に対して、FPICの権利が尊重されることを証明するために、公表された方針と標準作業手順書が適切であった企業グループは一社もないという点です。多くの企業グループはFPIC実施の約束をしていますが、実態が伴わず、以下のような不備が確認されました。

 ●企業グループとしてFPICに関する方針がない
 ●企業グループとしての方針はあるが、標準作業手順書がない、
 もしくは標準作業手順書が公開されていない
 ●標準作業手順書は公表されていても、不十分な内容である

レインフォレスト・アクション・ネットワーク森林政策ディレクター ジェマ・ティラックは「インドネシアが、森林破壊、先住民族コミュニティへの攻撃、気候変動といった相互に関係する世界的危機に寄与していることは見逃せません。今回の評価対象となった林業会社とアグリビジネス企業は、自社事業とサプライチェーンでFPICの権利を実施できなかったため、様々な形で危機を加速させています。多くの企業グループは、森林破壊と先住民族の権利侵害を自社のビジネス慣行から排除することを約束しています。しかし10社の企業グループ全てがその約束を果たせていなく、農園・植林地を拡大する場合に、先住民族や地域コミュニティの権利を尊重した上で土地取得する方法を開示することすらできていません」と指摘しました。

インドネシアの500万ヘクタールを超える土地は、上記の林業会社、アグリビジネス大手企業の管理下にあります。その中にはインドネシア政府から企業に割り当てられた地域内で、「未開発地(開発可能な)」と区分されたり、保全地域として開発対象から除外されて残っている森林や泥炭地が含まれます。こういった土地には先住民族や地域住民が暮らしている場所もあります。上記企業グループ10社の事業地を合計すると、膨大な「森林フットプリント」(事業が影響を及ぼす、またはその可能性のある森林や泥炭地)(注4)となり、インドネシアの先住民族や地域コミュニティに多大な影響を与えます。

また、本報告書では上記10社の企業グループと取引を行っている多国籍消費財企業と銀行に対して、企業グループがFPIC取得手続きにおける法律、規制、ガイドラインへの全面的な適合性を証明するために、自社の供給先企業や融資先企業に踏み込んだ実践を要請するように呼びかけています。消費財企業にはコルゲート・パーモリーブ、フェレロ、花王、マース、モンデリーズ、ネスレ、日清食品、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、銀行には三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)、バンクネガラインドネシア(BNI)、CIMB、中国工商銀行(ICBC)、DBS、ABNアムロ、JPモルガンチェースが含まれます。

銀行と消費財企業の持続可能性に関する主張は、信頼できる独立した検証メカニズムを利用して、影響を受ける先住民族と地域コミュニティの権利が尊重されていることを実証できなければなりません。特に、先住民族と地域コミュニティ、そして彼らが所有・利用してきた慣習地に影響を与える計画中や既存の開発に対して、自由意思による、事前の、十分な情報を得た上での同意する、または同意しない権利が完全に尊重されていることが実証できなければなりません。

注1)報告書『FPIC実施原則の必要性:東南アジアの森林リスク産品サプライチェーンにおける主要10社の方針・標準作業手順書の評価・分析』(原題:“The Need for Free, Prior and Informed Consent: An Evaluation of the Policies and Standard Operating Procedures of Ten Major Corporate Groups involved in Forest-Risk Commodity Supply Chains in Southeast Asia”

各社の方針と標準作業手順書についての評価、分析結果、方法論、および別紙にFPICの権利と人権関連の国際基準について記載しています(英語)。
www.ran.org/FPICevaluation

注2)「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC: Free, Prior and Informed Consent)の定義は以下の通りである:
●「自由」であること:強制、脅迫、撹乱、不当な影響や圧力がないことを意味する。
●「事前」:人権基準上は、政府による事業許可の前を意味するが、少なくとも操業開始前に協議と同意を得るのための十分な時間を置くことを意味する。
●「十分な情報」:事業の内容、規模、進行速度、可逆性、範囲および予想される社会・経済・文化・環境面の影響について先住民族の理解し、アクセスできる形で情報を提供することを意味する。
●「同意」:先住民族の正当な代表者との誠実な協議の上での正式な書面による操業許可を得ることを意味する。FPICは、事業期間を通した継続的なプロセスで、合意内容の不履行や情報の齟齬など特定の条件の下では、撤回されることもある。

先住民族の土地に対する権利は、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」(UNDRIP)に定められている。UNDRIPは 2007年に採択され、先住民族の権利に関する最も包括的な国際的規範である。例えば、第25条および第26条では、先住民族が伝統的に所有もしくは占有してきた土地を所有し、使用し、開発し、管理する権利と有すること、そして伝統的に所有もしくは占有してきた土地との精神的つながりを維持し強化する権利と未来の世代のために保持する権利を有することを明確に強調している。UNDRIPでは、先住民族がFPIC(先住民族が自分たち、または自らの土地に影響を及ぼす可能性のある事業には同意する、もしくは同意しない権利)を有することが明確に述べられている。

参考:「先住民族の権利に関する国際連合宣言」、市民外交センターによる仮訳(2008 年 7 月 31 日、 改訂 2008年9月21日)

プランテーションウォッチ「先住民族の権利に関する国際連合宣言(UNDRIP)に関するビジネス参照ガイド」(『パーム油調達ガイド』より)

注3)インドネシアのパーム油産業と紙パルプ産業は少数の複合企業に支配されている。そのような企業はインドネシアのタイクーン(実業界での大物)や企業グループ、海外投資家の管理下に置かれている。本報告書の対象企業グループ10社については、RAN報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」で、下記の多国籍消費財企業(10社)、大手銀行(7社)とともに、熱帯林破壊と人権侵害に拍車をかけている企業として記載されている。

●消費財ブランド企業:日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース
●銀行:MUFG、JPモルガン・チェース、中国工商銀行(ICBC)、DBS、バンクネガラインドネシア(BNI)、CIMB、ABNアムロ

注4)参考:RAN声明「世界初、ネスレ『森林フットプリント』開示を歓迎〜インドネシア・パーム油サプライチェーンで影響を受ける森林面積を公表」、2020年12月11日

団体紹介
レインフォレスト・アクションネットワーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境・森林保護で最前線に立つ人々とのパートナーシップと戦略的キャンペーンを通じて、環境保護と先住民族や地域住民の権利擁護活動をさまざまな角度から行っています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org