緊急プレスリリース:パーム油大手インドフード、労働権侵害でRSPOの制裁措置 (2018/11/5)
〜日本のメガバンクが多額資金提供するインドネシアのパーム油企業、10件の法律違反と「重大かつ組織的な」違反で制裁〜 RAN、OPPUK、ILRF 3団体の苦情申し立てを経て
インドネシアのパーム油大手インドフード社が、世界最大のパーム油認証制度である「持続可能なパーム油のための円卓会議」(RSPO)から制裁措置を通告されたことを受けて(注1)、本日5日、環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都新宿区、以下RAN)、インドネシアの労働権擁護団体OPPUK、国際労働権フォーラム(ILRF)は、RSPOの決定を歓迎し、以下のコメントを発表しました。インドフードはインドネシア最大の食品会社で、世界最大の即席麺企業の一つです。また同社は、日本のメガバンクの三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)、みずほフィナンシャルグループ(みずほ)、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)から長期にわたって多額の融資を受けています。
【これまでの経緯】
●今回のRSPOによる調査は、RAN、OPPUK、ILRFの3団体が2016年10月に行った苦情申し立て(注2)がきっかけとなって実施された。苦情申し立てが行われる前から、インドフードが所有・運営する農園で深刻な労働権侵害が明らかになっていた。
●数年にわたる一連の独立調査により、インドフードはインドネシア最大のパーム油企業の一つであるにもかかわらず、RSPO基準や国内外の基準と法律に違反し、労働搾取の慣行に関与していることが明らかになった。労働搾取の慣行(注3)には、非常に高いノルマが課せられるために児童労働が行われたり、無給労働や不安定雇用、有害物質への曝露など危険性のある労働条件が含まれる。
【制裁の内容】
●今回のRSPOの監査により、インドフードの所有・運営する一部のアブラヤシ農園で、RSPOで求められる「原則と基準」での20件以上の違反と、インドネシア労働法について10件の違反が明らかになった。監査の範囲は、苦情の対象になった農園に限定。
●RSPOは、RSPO認証を取得しているインドフードのパーム油搾油工場1カ所と農園3カ所で調査を実施した。その結果「重大かつ組織的な性質の違反」があり、上記工場と農園のRSPO認証について即時停止が必要だとした。さらにRSPOは、同社子会社でRSPO認証を取得している他の全ての認証ユニット(農園、工場レベルなど)でも3カ月以内の全面的な監査を求め、監査の監視が必要であるとした。
OPPUKの専務理事 ヘルウィン・ナスシオン氏(Herwin Nasution)は「インドフードは最悪企業の一つで、『持続可能な』パーム油認証を受け続け、パーム油産業全体とRSPOの評判を落としてきました。労働者のための正義を実現する第一歩として、インドフードは、今や何度も確認された長年にわたる労働権侵害を是正しなければなりません。RSPOはインドフードに責任をとらせなければなりません」 と訴えました。
今回の制裁措置に先立ち、ネスレ、ムシムマス、カーギル、日本の製油会社の不二製油、ハーシー、ケロッグ、ゼネラル・ミルズ、ユニリーバ、マースなど多くのパーム油購入企業はインドフードとの取引をすでに停止しています。
一方、日本のメガバンクは、インドフードと子会社にとって主要な金融機関です。 同社は2018年9月30日の時点で、日本の3メガバンクから730億円以上の融資を受けています(注4)。3メガバンクは今年5月と6月に社会と環境に配慮した投融資方針を初めて発表し、全ての銀行が違法行為への融資を禁止しています。インドフードへの最大の貸し手であるみずほは、パーム油に特化した方針で「人権侵害や環境破壊への加担を避けるため、持続可能なパーム油の国際認証・現地認証や(略)先住民や地域社会とのトラブルの有無等に十分に注意を払い取引判断を行います」としています。またMUFGとSMBCは児童労働を行っている事業へのファイナンスを明確に禁止しています。同時にSMBCは、パーム油関連の顧客企業がRSPO、あるいはそれに準ずる認証機関の認証を取得しているかどうかを確認することを方針の中でも明記しています。メガバンクと比較して、シティグループの対応は早く、今年4月にはインドフードのパーム油事業への全融資をキャンセルしました。
RANの責任ある金融 シニア・キャンペーナーのハナ・ハイネケンは「メガバンクは合法性、人権尊重、環境保護を方針に定めています。今回のRSPOによる制裁を受けて、メガバンクにはインドフードへの資金提供を停止することが求められています。 インドフードと同社の子会社に投資しているブラックロックや年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)もあらゆる資金を引き上げる必要があります」と訴えました。
ILRFの副事務局長のエリック・ゴットワルド氏(Eric Gottwald)は「今回の制裁措置は、RSPOやパーム油購入企業、金融機関にとって、労働搾取を禁止するための方針と方針実施を強化するための判断基準となるべきです。RSPOがこの決定までに2年もかけた間、労働者は基本的人権の侵害に苦しみ続けてきました。多大なリスクを抱えながら違反を報告した労働者たちには、もっと迅速で効果的な苦情処理プロセスが約束されなければなりません」と指摘しました。
RAN、ILRF、OPPUKは、インドフードが労働法違反に対処するためには以下の必要事項を求めます:
1) 農園での主要作業にかかわる全ての労働者に終身雇用を即時に約束して昇格させること
2) 労働者に生活賃金を保障し、天引きされた給料や給付金、昇給、そして無給業務を過去にさかのぼって補償すること
3) 結社の自由を全面的に尊重し、組合加入について全ての労働者に報復がないことを保証すること
4) 所有・運営する農園の女性労働者に起きている悪質な差別の解消に取り組み、女性の権利を保証すること
5) 労働者や労働者団体、独立した労働組合と協議の上、適正かつ透明性のある生産目標設定を確保すること
RAN、ILRF、OPPUKの3団体はインドフードに対して、包括的かつ期限を定めた「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止方針」(NDPE: No Deforestation, No Peat and No Exploitation)を自社だけでなく、同社を傘下に持つインドネシア最大の財閥であるサリム・グループ全体、そして独立系の供給業社にも導入し、実践するよう引き続き求めていきます。
注1)RSPO通告文書 “Complaints Panel’s Decision on PT PP London Sumatra Indonesia Tbk” (2018年11月2日、英語)
注2)3団体による苦情申し立て文書(英語)、苦情申し立ての概要(英語)
注3)2016年調査の追加報告書:RAN「プレスリリース:労働搾取、貧困水準の賃金、有毒な健康被害を起こし続けるインドネシアのアブラヤシ農園への邦銀からの融資について、最新レポート発表〜RSPO認証パーム油農園での労働酷使は1年半前の最初の問題発覚後も継続〜」(2017年11月28日)
注4)インドフードへ資金提供する金融機関については、同社の財務報告(2018年9月30日、英語)を参照のこと。
参考
●インドフード社のESGリスクについての分析は「ブログ:3大メガバンクが直面するパーム油セクターのESGリスク: インドフード社の事例」(2018/6/6)を参照のこと。
●日本のメガバンクの投融資方針へのNGOの反応
・NGO共同声明「わずかな進歩だが、パリ協定目標達成には不十分、三井住友銀行が新融資方針を公開、石炭火力の制限示すも”例外”に言及」(2018/6/21)
・NGO共同声明「みずほFG新投融資方針策定、気候変動リスク管理に対する小さな前進、さらなる具体化が必要」(2018/6/14)
・NGO共同声明「小さな前進、しかし具体的な取り組み内容の向上が必要」三菱UFJの環境・社会ポリシーフレームワークの制定について環境NGOが評価を公表」(2018/5/25)
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。
OPPUKは、インドネシア北スマトラのパーム油労働者の労働・生活状況に懸念を持つ学生運動と労働者によって2005年に設立されたインドネシアの労働団体です。OPPUKは労働者を組織し教育し、北スマトラとインドネシアの他地域でパーム油労働者の権利のための研究、政策提言、およびキャンペーンを実施しています。
国際労働権利フォーラム(ILRF)は、世界中の労働者のために公正かつ人道的な環境を達成するための人権擁護団体です。ILRFは子どもと強制労働、差別などの労働者の権利侵害を明らかにするために、労働組合とコミュニティベースの労働者の権利擁護団体と連携し、組織を作り団体交渉をしています。
レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)