サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

Blog Archives

プレスリリース:MUFG株主総会でアピール「気候変動に投融資しないで」(2025/6/27)

〜化石燃料支援継続とガバナンス問題を指摘、気候変動株主提案は否決〜

「MUFGさん、気候変動に投融資しないで」超小型電気自動車による移動広告でアピール ©︎ RAN / Masaya Noda

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日27日、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)株主総会に参加し、気候変動を加速させる化石燃料と森林破壊への支援停止を求め会場前でアピールしました。今年4月、RANを含む環境NGO3団体は、MUFGを含むメガバンク3行に気候変動対策の強化を求める株主提案を提出しました(注1)。総会で提案は否決されるも、人権デューデリジェンス(相当の注意による適正評価)で問題が改善しない事業には資金提供をしないことを、RANの質問によって改めて確認できました。また、気候変動など重大なリスクに対応するガバナンス体制が不十分で、問題ある化石燃料企業や森林破壊企業への資金提供が継続している点も指摘しました。

RANは、集まった環境NGOとともに、会場のグランドプリンスホテル新高輪前で「MUFGさん、気候変動に投融資しないで」などのバナーを掲げてスピーチを行い、株主に関連資料を配布してアピール行動を行いました。同時に、会場周辺で超小型電気自動車による移動広告を用い(写真、注2)、液化天然ガス(LNG)事業による環境破壊や先住民族の権利侵害などの悪影響を伝えました。広告には、昨年10月に来日した、米国テキサス州「リオ・グランデLNG」事業に反対する地域住民の写真を使用。住民は来日中にMUFG担当者と面会し、同事業への支援停止を求めていました。RAN は総会に先立ち、オンライン署名「MUFGにリオ・グランデLNGへの資金提供停止を伝えよう!」(英語)を展開し、現在は1万3,000筆を超える署名が集まっています(注3)

「MUFGさん、気候変動に投融資しないで、米国リオ・グランデLNG事業に投資しないで」環境NGOによるアピール©︎ RAN / Masaya Noda

今年4月、マーケット・フォース、気候ネットワーク、RAN(個人株主)の環境NGO3団体はメガバンク3行に気候変動対策と監査体制に関する情報開示を求める株主提案を提出しました。本日のMUFG総会では、第3号議案(監査委員会の財務リスク監査に係る情報開示)、第4号議案(顧客の気候変動移行計画の評価に関する情報開示)とも否決されました。一方、RANからの「先住民族の同意を得ずに進めている化石燃料事業(注4)への関与は人権問題であるが、どのような是正措置や救済措置を取ることが可能か」という質問に対し、MUFGの横幕勝範執行役常務 グループCROは「人権面で問題のある事業についてデューデリジェンスを実施しても改善しない場合には資金提供を行わない方針である」との回答がありました。

RAN日本シニアアドバイザーの川上豊幸は、第3号、4号議案について総会中に説明しました。総会での決議結果を受けて私たちの株主提案が否決されても、MUFGのガバナンス体制が弱く、監督機能が不十分であることには変わりありません。株主総会の場で、デューデリジェンスを実施しても改善しない場合には資金提供をしないと再確認したのは意味があります。しかし、すでに提供したファイナンスに関する人権侵害への是正措置や救済措置の対応についての明確な返答はありませんでした。私たちは気候変動対策や森林減少、人権面でリスクのある事業や企業への資金提供を事前に食い止めるとともに、すでに引き起こされた問題への対応も可能となるよう、MUFGとのエンゲージメントを継続していきます」と強調しました。

MUFG株主総会の会場前を走行する超小型電気自動車による移動広告 ©︎ RAN / Masaya Noda

RANなどが今月発表した「化石燃料ファイナンス報告書2025」(注5)によると、2021年から2024年のMUFGによる化石燃料産業への融資・引受額は世界4位で、2024年単年では6位でした 。国際エネルギー機関(IEA)の調査報告書では、2021年以降、全ての化石燃料拡大事業はパリ協定の1.5度目標に整合しないという分析結果が出ています。しかしその後も、MUFGは化石燃料の拡大計画を有する企業への資金提供で上位に名を連ねています。新規LNG事業への巨額の投融資など、パリ協定の1.5度目標に整合しないプロジェクトへの資金提供も継続しています。その一つが米国テキサス州の「リオ・グランデLNG事業」です。

川上は「私たちはリオ・グランデLNG事業について、MUFGが利用している苦情処理プラットフォームのJaCER(ビジネスと人権対話救済機構)に人権侵害事例として昨年9月に申し立てを行いました。しかしその後も状況に改善はみられず、事業者のネクスト・ディケイドは、計画地周辺に聖地があるカリゾ・コメクルド族と協議をしていません。先住民族には、事前に十分な情報が提供され、彼らの自由意志に基づいて開発事業に同意するかどうかを決める権利が国際的に認められています。融資先の事業者がこのプロセスを怠っていることは、MUFGが採択している『赤道原則』にも明らかに違反しています。このように、環境や社会面で問題ある事業や顧客企業への資金提供を事前に防ぐことができていなく、さらに、問題を指摘されても継続している現状は、方針違反に当たる業務執行上の問題を執行役員、監査役員が共に認識できていなく、本来のガバナンス機能を果たしていないと考えられます」と問題を提起しました。

総会に参加する株主たち ©︎ RAN / Masaya Noda

また、MUFGは東南アジアで森林破壊を起こしている産品セクターに、経済協力開発機構(OECD)加盟国の銀行で最も多額の融資・引受を行っています(注6)。紙パルプやパーム油などの産業は、炭素を吸収し貯留する熱帯林の破壊や土地紛争とも結びついています。RANは4月、MUFG子会社のバンクダナモンを通して、大規模な森林火災を繰り返し発生させているアブラヤシ農園企業を支配下に置く企業グループに融資を継続している事例も公開しました(注7)

RANは株主総会後も、MUFGを含めたメガバンクに、現地の情報提供、環境・社会方針やガバナンス体制についての提言、そして銀行の支援で負の影響を受けている地域の人々の声を伝えるなどのエンゲージメント(対話)を定期的に実施していきます。

参考:「MUFGの投資リスクをご存知ですか?」(RANのキャンペーン特設Webページ)https://fossilfreejapan.org/ja/campaigns/mufg/

 

注1)共同プレスリリース「東証プライム7企業に対して気候変動対策に関する株主提案〜全7社が勧告的決議案を拒んだことを受け、定款変更議案を提出〜」、2025年4月15日

注2)環境に配慮し、化石燃料車ではなく電気自動車(EV、電動ミニカー:第一種原動機付自転車)を使用。使用した広告宣伝車は、東京都屋外広告物条例の規制対象外であるが、委託企業は管轄警察署など関係各所に相談・報告しながら走行ルートの策定などを行った。午後には金融街の中心地である丸の内・大手町でも1時間程度走行した。

注3)オンライン署名「Tell MUFG to Defund Rio Grande LNG!」(英語)。6月24日時点での署名数は 13,225 筆。

注4)リオ・グランデLNGをはじめ、パプアLNG、スカボローガス、バロッサガス田など

注5)共同プレスリリース「化石燃料ファイナンス報告書 2025」発表 〜世界65銀行の化石燃料への資金提供額、2024年は8,694億ドルに急増〜」、2025年6月18日

注6)共同プレスリリース「『生物多様性崩壊をもたらす金融業務』日本語要約版発表 〜メガバンクら邦銀、森林リスク産品にパリ協定以降215億ドルを提供〜」、2025年4月10日

注7)RAN「MUFG、インドネシア泥炭地で大規模『炭素爆弾』に融資 〜子会社銀行、アブラヤシ農園企業グループに2億8100万ドルを提供〜」、2025年4月10日

 

団体紹介
レインフォレスト・アクションネットワーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境・森林保護で最前線に立つ人々とのパートナーシップと戦略的キャンペーンを通じて、環境保護と先住民族や地域住民の権利擁護活動をさまざまな角度から行っています。

 

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
日本チームマネジャー:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

共同声明:SOMPOが日本の損保で初めてFPICを含む先住民族の権利を尊重する方針を設定(2025/1/15)

「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
国際環境NGO FoE Japan
メコン・ウォッチ
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

1月10日、日本の大手損害保険会社の1つであるSOMPOホールディングス株式会社(以下、SOMPO)は、「事業におけるESG配慮」方針を更新し、「保険引受・投融資における注意を要する事業」の対象に先住民族の人権を侵害する恐れのある事業を新たに加え、FPIC(自由意思による、事前の、十分な情報に基づく合意)等の国際スタンダードを参照する旨を公表しました(※1)。保険引受・投融資においてFPICを尊重する方針を策定したのは、日本の損害保険会社として初であり、私たちはSOMPOのこの方針策定を歓迎するとともに、東京海上ホールディングス株式会社(以下、東京海上)、MS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社(以下、MS&AD)に対しても、FPICを含む先住民族の権利を尊重する方針を早急に策定するよう要請します。

FPICは先住民族に関する国際連合宣言で明記されている権利であり、先住民族の参加権及び、先住民族や先住民族の土地等に影響を及ぼす可能性のある事業に同意又は不同意する権利を保証しています。また、FPICによって先住民族は、事業の設計や実施、モニタリング、評価の段階で交渉することが可能になります(※2)

なお、SOMPOによる保険引受が判明した米国リオ・グランデLNG事業の事業者NextDecadeは、同事業について現地の先住民族であるカリゾ・コメクルド族との協議会を一度も開催したことがなく、 FPICが取得されていません(※3)。現地住民・環境NGO・現地自治体は、事業者が適切な環境影響調査を怠っていると主張して、これまで抗議活動や訴訟を起こしてきましたが、2024年8月に現地裁判所が事業の建設及び稼働の承認を破棄したことにより、住民側が勝訴しています(※4)。昨年10月には、カリゾ・コメクルド族や現地コミュニティの代表団が来日し、リオ・グランデLNG事業を支援するSOMPOや銀行と会合を行い、事業からの撤退を求めました(※5)

新規の化石燃料事業である同事業は、パリ協定1.5度目標と整合しないことから実施すべきではありませんが、加えてSOMPOはリオ・グランデLNG事業の事業者に対してFPICが取得されているかを確認するべきで、FPIC取得が確認できない場合は直ちに撤退するべきです。

また、東京海上及びMS&ADに対しては、FPICを含む先住民族の権利を尊重する方針を早急に策定するよう強く求めます。

本件に関する問い合わせ先:
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)田辺有輝/喜多毬香
tanabe@jacses.org / kita@jacses.org

注:
※1:https://www.sompo-hd.com/csr/esg/product/
※2:https://www.ran.org/press-releases/axis-capital-becomes-first-north-american-insurer-to-adopt-policy-on-free-prior-and-informed-consent/
※3:https://jacses.org/2475/
※4:https://www.sierraclub.org/press-releases/2024/08/dc-circuit-rules-against-ferc-approval-lng-and-pipeline-projects-south-texas
※5:https://japan.ran.org/?p=2347

ブログ:米国リオ・グランデ・バレーの住民代表団が来日〜メガバンクらにLNG事業からの撤退を求めて 自然環境、歴史、人々の生活を破壊する5つのリスク〜(2024/12/10)

RAN「責任ある金融」キャンペーナー 麻生里衣

2024年10月6日から1週間、米国テキサス州リオ・グランデ・バレー地域のコミュニティ代表団が来日し、自然環境の破壊、先住民族の権利侵害、地域住民への健康被害、気候変動の加速など、問題の大きい液化天然ガス(LNG)事業からの撤退を日本の金融機関に求めました。多岐にわたる問題を引き起こすLNG事業。今年8月からRANで活動を始めた麻生里衣が、代表団に同行して見えてきたこの問題をまとめます。

州道48号線から見える自然、テキサス州ブラウンズビル、2017年(写真 ©︎ Joseph Fry)

地元コミュニティの反対運動

米国テキサス州南部のリオ・グランデ・バレーの河口周辺に広がるデルタ地域には、南メキシコ湾岸最後の人工物のない地平線が見られる景観が残っています。しかし現在、この地域ではリオ・グランデLNG輸出基地、テキサスLNG輸出基地、これらの基地に接続予定のリオ・ブラボー・パイプラインの3つのLNG事業が計画されています。第1フェーズの事業資金の調達が完了しているリオ・グランデLNGは、地元コミュニティの強い反対にも関わらず工事を開始し、現在も湿地帯をブルドーザーで掘り起こし、整地作業を進めています。

リオ・グランデLNGの建設現場(写真©︎ Bekah Hinojosa / (SOTXEJN)

これまでの活動の成果

地域住民はこれまで、これらのLNG事業を止めるために様々な活動を展開してきました。その成果が実り、フランスの銀行ソシエテ・ジェネラルラ・バンク・ポスタル、三井住友銀行、スイス登記の米保険会社チャブなどがリオ・グランデLNGから撤退、さらにフランスの銀行BNPパリバもテキサスLNGとの関係を絶ちました。

そして2024年8月6日、地域住民が裁判で勝訴を勝ち取り、活動の大きな追い風となりました! 米国コロンビア特別区控訴裁判所は、連邦エネルギー規制委員会(FERC)によるリオ・グランデ地域のLNG事業許可3件は、地域への環境的・社会的影響を十分に検証していないとして、許可を事実上取り消すという判決を下しました。FERCは今後、新たな補足的環境影響評価書の草案作成とパブリックコメント期間を設け、事業の影響を再評価した上で、新たな事業許可の発行を検討する必要があります。(さらに詳しくはRANのレポートを参照

今回来日したディナ・ヌニェス氏(南テキサス人権センター シニア・オーガナイザー)は、「団結した人々は、決して分断されることはない」と述べ、「私達地域コミュニティの強力な組織化と強い意志を持った人々のおかげで、良い裁判結果を勝ち取ることができました。私達は、たとえ巨大な企業であろうと打ち負かすことができると信じています。次は、日本の企業が良い決断を下すことを求めます」と訴えました。

MUFG本社前で呼びかけを行うヌニェス氏(右)と大学生のアクセル・ゴメス氏(左)(写真©︎ RAN / Masaya Noda)

日本の金融機関と気候変動

そして今回、リオ・グランデ住民代表団はこれらのLNG事業を支援する日本の金融機関に事業からの撤退を求めて日本を訪れました。中でも、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、リオ・グランデLNGに約21億米ドルを2023年に融資し、世界最大の資金提供者となっています。また、みずほフィナンシャル・グループ(みずほ)も約11億米ドルの融資を行っていることが明らかになっています(参考「化石燃料ファイナンス報告書」日本語抜粋版) 。

代表団に同行したRANのルース・ブリーチ(気候変動&エネルギー担当 シニア・キャンペーナー)は、「日本の銀行は米国メキシコ湾岸におけるLNG事業拡大において、非常に重要な役割を担っています。世界のどの銀行を見ても、みずほ銀行と三菱UFJ銀行以外に、南メキシコ湾岸のLNG事業全てに資金提供を行なっている銀行はありません」と述べています。

都内の日本外国特派員協会(FCCJ)での会見にて日本の金融機関の関与について説明するルース・ブリーチ(写真©︎ RAN / Masaya Noda)

日本のメガバンクは、化石燃料事業に対して世界最大規模の資金提供を行ない、気候変動対策の流れと逆行しています。2023年のみずほの提供額(融資・引受)は世界第2位(約370億米ドル)、MUFGは世界第4位(約332億米ドル)でした。

「化石燃料ファイナンス 2023年のワースト12銀行」(化石燃料全部門への融資・引受額、2023年単年、単位:BILLION =十億ドル)

また、RANが米国の情報自由法(FOIA)で開示請求をして得た情報をもとに作成した報告書『リスク・エクスポージャー』により、SOMPOホールディングスがリオ・グランデLNGに損害保険を提供していることもわかりました。損害保険会社は化石燃料事業に不可欠な保険を提供することにより、気候変動の悪化を助長していることが問題視されています(詳しくはこちらのサイトを参照)。SOMPOホールディングスは、先住民族の権利保護に関する方針や人権デューディリジェンス・プロセスを導入していなく、早急に方針の強化が求められます。

5つのLNG事業の問題点

リオ・グランデ・バレー地域におけるLNG3事業の大きな問題点として、1)気候変動の加速、2)地域住民への健康被害、3)希少種の生息地の破壊、4)小規模産業への悪影響、5)先住民族の権利侵害があげられます。

 

 1) 気候変動の加速

LNGは、温室効果ガス(GHG)の排出量が低い『移行燃料』であるという認識が一部で存在しますが、LNGのおよそ90%以上が二酸化炭素の80倍以上の温室効果をもたらすメタンで構成されています。採掘や輸送におけるメタンの漏洩により、LNGは石炭と同等またはそれ以上に気候変動を悪化させると考えられています。ライフサイクル全体での排出を考慮すれば、リオ・グランデLNGからの年間GHG排出量は石炭火力発電43基分、テキサスLNGからは石炭火力発電7基分合計50基分にも相当するGHGが排出されると考えられているのです。

採掘地におけるフラッキング(水圧破砕法)による水質・大気汚染、地域住民の健康被害などの影響も深刻です。また、リオ・グランデLNGの事業者であるネクストディケイド社は裁判結果を受けて、唯一の気候変動対策であった炭素回収・貯留(CCS)事業についても、現時点では十分に開発が進んでいないとして申請を取り下げました。以上のことから、LNGを「移行燃料」と考えることは非常に危険であり、LNG事業の拡大はパリ協定の1.5度目標と整合しません。

 

 2) 地域住民への健康被害と「環境レイシズム」

米国メキシコ湾岸は国内で最も多くのLNG事業が乱立し、地域住民に犠牲を強いる犠牲地帯」と呼ばれています。これらの事業は、何千トンもの発がん性の有害汚染物質を周辺に撒き散らすと予想され、周辺住民への深刻な健康被害が懸念されています。(詳しくはFoEジャパンのブログを参照)このように米国全体の電力をまかなうために、有色人種や低所得者層、先住民族など社会的に弱い立場の人々が多い米国メキシコ湾岸のコミュニティに対して、公害などの環境問題を押し付けている様子は環境レイシズム(人種差別)」と批判されています。

ベッカ・ヒノホサ氏南テキサス環境正義ネットワーク共同創立者)は、MUFGの本社前で、雨の中以下の様に訴えました。「MUFGはリオ・グランデLNGから撤退すべきです。なぜなら、明らかに私たちの地域社会は、この事業を望んでいないからです。私たちのコミュニティに押し付けられたもので、環境レイシズムです。そしてこの事業は、先住民族の神聖な土地や聖地を破壊し、既にブルドーザーでそういった土地を踏み潰しています。ですから、私たちはここにいます。MUFG、私たちが引き下がることはありません。これからもこの事業に反対していきます」。

MUFG本社前でスピーチを行うヒノホサ氏(写真©︎ RAN / Masaya Noda)

 3) 希少種の生息地の破壊

リオ・グランデ・デルタの湿地帯は、絶滅が危惧される猫科のオセロットノーザン・アプロマド・ファルコン、海にはケンプヒメウミガメやライスクジラなどの希少な生き物の最後のすみかとなっています。LNG施設が建設されれば、直接的な生息地の破壊と騒音や公害、汚染物質、タンカー船の往来などの影響により、複数の絶滅危惧種に恒久的かつ重大な」影響を与える可能性が指摘されています。

 

 4) 地域の小規模産業への悪影響

周辺地域の人々は豊かな自然の恩恵を受けて、主にエビ漁などの漁業やイルカウォッチなどのエコツアーで生計を立てています。これらのLNG施設は、地域経済にとって重要なこれらの小規模産業に悪影響を与える可能性があります。

 

 5) 先住民族の権利侵害

先住民族の権利侵害も深刻な問題です。リオ・グランデ・バレー地域の先住民族であるカリゾ・コメクルド族(彼らの言語ではエシュトク・グナ族と呼ぶ)は、数千年前から周辺で狩猟・採集・農業などを行い生活していました。リオ・グランデLNGの計画地の下には村の遺跡や貝塚などの歴史遺産、テキサスLNGの地下には『ガルシア牧地』と呼ばれる聖地が眠り、彼らはリオ・ブラボー・パイプラインの建設予定地の数エーカーを直接所有し、絶滅が危惧されるミツバチの養蜂を行っています。カリゾ・コメクルド族はこれらのLNG事業に強く反対していて、事業者は彼らと協議もしていません。

10月7日に行われた会見でカリゾ・コメクルド族チェアマンのフアン・マンスィアス氏は、先住民族の歴史と現状を説明し、テキサスにおける先住民族排除の歴史が現在のLNG事業の問題へとつながっていると語りました。「500年前、私達の民族はこの川沿いにやってきた人々によって侵略されました。かつて私達の民族は、このリオ・グランデ・デルタの美しい水の中で魚をとり生活していました。私達にとってリオ・グランデ川は最初の女性が生まれた場所であり、河口のデルタ地帯には確認されているだけでも32の集落があり、ガルシア牧地と呼ばれる聖地がありました。しかし現在、ガルシア牧地はワールド・モニュメント財団により『危機に瀕している歴史サイト』に認定されています。(LNG建設予定地のすぐ横を通る)運河の建設のために掘り起こされた土の中から、骨が見つかりました。それは私達一族のものです。私の中には彼らと同じ血が流れているのです。かつて声をあげることができなかった彼らの声を代弁することが、重要だと思います」

記者会見で民族の歴史とLNG事業の懸念を語るマンスィアス氏(写真©︎ RAN / Masaya Noda)

 

西洋の入植者による先住民族の排除の歴史により、この地域では自分に先住民族の血が流れていることさえも知らされていない人も多く、カリゾ・コメクルド族の米国政府による認定に時間がかる現状があります。LNG事業者はこの状況を逆手に取り、カリゾ・コメクルド族の同意は不要として事業を進めています(より詳しくはこちらの英語記事を参照)。

問われる銀行の環境・人権への対応

国際連合が推奨する先住民族の権利保護のための「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」は、土地や資源開発を行う事業において、影響を受ける可能性のある先住民族に対し、事業に関する十分な情報開示を事前に行なった上で、賛成または反対の立場をとる事ができる様にすることを求める国際的な原則です。

FPICによると、先住民族の権利は国の認定に関わらず保証されるべきであり、MUFG、みずほ、SOMPOホールディングスは、グローバル企業としてこのような国際的な基準の遵守が求められます。事業に必要な資金を調達するための手法であるプロジェクトファイナンスの際に配慮すべき環境的・社会的影響の国際的な指針である赤道原則(エクエーター原則)においても、同様の基準が採用されています。MUFGおよびみずほは、赤道原則の遵守を誓約しているにも関わらず、リオ・グランデLNGのように先住民族の権利侵害が疑われる事業者への資金提供が以前から報告されていて、企業が事業活動において人権への影響を予測・評価・管理・改善するためのプロセスである人権デューデリジェンスの実効性が疑われます

RANでは引き続き、日本のメガバンクにリオ・グランデ・バレーの3つのLNG事業からの撤退と、人権方針の遵守と人権デューデリジェンスの確実な実行を求める活動を行っていきます。

会見にてリオ・グランデLNGの工事中止を求める代表団(写真©︎ RAN / Masaya Noda)

 

署名に参加して、三菱UFJ銀行にLNG事業からの撤退を求めよう!

→ この記事をSNSで拡散して、リオ・グランデの問題を広めよう!

日本外国特派員協会における記者会見の様子はこちら(英語動画)

 

RAN「責任ある金融」キャンペーナー 麻生里衣

プレスリリース:危険なLNG事業を支援する邦銀に要請、 米メキシコ湾岸の住民代表団が初来日(2024/10/8)

日本の金融機関に健康、文化、経済、野生生物を脅かす化石燃料事業への支援停止を訴え

(東京)10月7日から10日、米国テキサス州リオ・グランデ・バレーの活動家であり地域住民の代表が初来日しています。代表団は来日中、米国南部メキシコ湾岸地域のLNG(液化天然ガス / メタンガス)事業と関係がある日本のメガバンクおよび保険会社と東京で会合を持つ予定です。※写真を更新(10月10日)

東京・日本外国特派員協会での記者会見、2024年10月7日 ©︎ RAN / Masaya Noda

三菱UFJフィナンシャル・グループ宛の署名数を手に会談に向かう代表団、2024年10月9日
©︎ Yuki Sekimoto / RAN

代表団 3名

・フアン・マンスィアス(テキサス州カリゾ・コメクルド族チェアマン)
・ベッカ・ヒノホサ(南テキサス環境正義ネットワーク共同創立者)
・ディナ・ヌニェス(南テキサス人権センター シニア・オーガナイザー、Vecinos para el Bienestar de la Comunidad Costeraシニア・オーガナイザー)

代表団は、米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)とともに、日本の保険会社および三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)などメガバンクの代表者と面会し、先祖伝来の故郷の土地を破壊し、地域のエコツーリズムを衰退させ、絶滅危惧種を脅かす大規模なLNG(メタンガス)事業(※)への支援停止について話し合う予定です。(※)リオ・グランデLNG輸出施設、テキサスLNG輸出施設、リオ・ブラボー・パイプラインの3事業

代表団のコメント

フアン・マンスィアス
「企業はこの土地を占拠しようとしています。化石燃料で富を得るお金持ちのためにです。LNG事業は私たちの空気や水を汚染し、先祖代々の土地を冒涜します。企業はこの土地を破壊しようとしています。しかしそのためには、私たちの民族を滅ぼさなければなりません。私たちはそれを許しません。私たちはもう脅しには屈しません」

日本のメガバンクであるMUFG、みずほフィナンシャルグループ、SMBCグループは、リオ・グランデLNG輸出基地を含め、LNG拡大企業への資金提供で世界の上位にあります。世界主要60銀行への資金提供(融資・引受)を分析調査した「化石燃料ファイナンス報告書」(Banking on Climate Chaos )によると、メガバンク3行は2023年単年とパリ協定以降の提供額の両方で上位10社に入っています。メガバンクには、メタンガスの新規および拡大事業への支援を除外する方針はなく、問題の多い化石燃料からの脱却を顧客企業に促す方針もありません。これはオランダのING銀行が発表した、2026年までにLNG(メタンガス)への投資を段階的に停止するという新方針や、フランスのラ・バンク・ポスタルが発表した、2022年までにすべての化石燃料への投資を停止するという方針とは対照的です。上記報告書によると、アジアの銀行は、気候変動や人権に関する方針において欧州の銀行に遅れをとっています。

ベッカ・ヒノホサ
「これらのメタンガス事業は、地元の低所得者層や野生生物に多大な汚染による危険をもたらします。それは否定できません。私たちのコミュニティはすでに、これらの事業に対する訴訟に勝訴しています。しかし、リオ・グランデLNG輸出施設は法の抜け穴を理由に、いまだにコンクリートを流し、神聖な野生生物の生息地を更地にしています。日本企業は、これらのLNG事業への支援をやめるべきです。そうすれば、事業を完全に停止させることができます」

人々が住み続けることのできる気候を実現するために、金融機関は化石燃料への資金提供を段階的に減らしていかなければなりません。しかし、前述の「化石燃料ファイナンス報告書」によると、銀行は2023年に化石燃料産業に7,058億米ドルの資金提供(融資・引受)を行ない、誤った方向に進んでいます。そのうち、1,209億ドルがLNG(メタンガス)拡張事業に使われています。リオ・グランデ地域のLNG(メタンガス)施設のステークホルダー(利害関係者)からなる代表団は、東京を訪れ、大手金融機関がこれらの化石燃料事業への支援を停止するよう要求する予定です。

ディナ・ヌニェス

「強力な組織化と、地域社会の意思の強い人々のおかげで、ワシントンD.C.(米国コロンビア特別区控訴裁判所)が3つの事業への承認を取り消すという良い判決が下されました。私たちは、リオ・グランデLNGのような巨大事業を打ち負かすことができるとわかっています。そして今、私たちは日本企業が正しい決断を下すよう求めます。そして、このような有害な採取事業への資金提供や支援を廃止するよう求めます」

LNG(メタンガス)に関する日本の金融が及ぶ範囲は、メキシコ湾岸地域を超えて広がっています。日本は、LNG輸出施設への国際的な公的金融の世界最大の資金提供国です。2012年から2022年までに建設されたLNG(メタンガス)輸出施設と、建設中または2026年までに完成予定の輸出施設に提供された世界の公的金融の約50%を占めています。日本はメタンガスへの公的資金提供でも世界トップクラスであり、毎年平均で約43億ドルを提供しています。

英語版はこちら “Japanese Banks Backing Dangerous LNG/Methane Projects: Gulf Coast Community Leaders visit Tokyo to demand that Japan’s financial institutions stop supporting dirty fossil fuel projects that threaten their health, culture, economy and wildlife” 

東京・丸の内の記者会見場にて意気込みを見せる代表団、2024年10月8日 ©︎ RAN / Masaya Noda

団体紹介

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。

本件に関するお問い合わせ
日本チームマネジャー 関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

“Gulf Coast Residents Demand Japan Stop Supporting LNG Facilities” materials / 米メキシコ湾岸地域住民来日会見関連資料

【October 7th, 2024】
Press Conference: Gulf Coast Residents Demand Japan Stop Supporting LNG Facilities

Juan Mancias, Tribal Chair, Carrizo/Comecrudo Tribe of Texas
Rebekah Hinojosa, Co-Founder, South Texas Environmental Justice Network
Ruth Breech, Senior Campaigner for Climate & Energy, Rainforest Action Network

FCCJ website, Archived Video

Press Release

Presentation Slides

Speaker Biographies

2024 Update: Rio Grande Valley at Risk from Methane Gas Export Terminals

 

【2024年10月8日】
会見「米メキシコ湾岸住民、日本の金融機関にLNG施設への支援停止を要請」

フアン・マンスィアス氏(テキサス州カリゾ・コメクルド族チェアマン)
ベッカ・ヒノホサ氏(南テキサス環境正義ネットワーク共同創立者)
ディナ・ヌニェス氏(南テキサス人権センター シニア・オーガナイザー)
ルース・ブリーチ(RAN気候変動&エネルギー担当 シニア・キャンペーナー)
川上豊幸(RAN日本シニア・アドバイザー)

プレスリリース

プレゼン資料

参考資料「化石燃料ファイナンス報告書204 抜粋版」

登壇者経歴

金融機関・投資家向け説明資料「リオ・グランデ・バレー:液化天然ガス(LNG)輸出基地がもたらすリスク 2024年最新版」

 

Rainforest Action Network
425 Bush Street, Suite 300 | San Francisco, CA 94108 | RAN.org

RAN日本代表部
東京都渋谷区千駄ヶ谷3-13-11-204 | Japan.ran.org

 

 

ブログ:グリーンウォッシュ警報〜米リオ・グランデLNG事業者のネクストディケイド、CCSを中止〜(2024/10/1)

川上豊幸(RAN日本シニアアドバイザー)
ルース・ブリーチ(RAN米国本部シニアキャンペーナー)

日本外国特派員協会(FCCJ)にて会見を行った筆者(中央:ルース・ブリーチ)と地域住民代表団、2024年10月、東京 ©︎ RAN / Masaya Noda

画期的な判決

2024年8月、米コロンビア特別区連邦巡回区控訴裁判所(No.23-1174)は、テキサス州南部沿岸リオ・グランデ・バレーで計画されている複数のメタンガス(液化天然ガス:LNG)輸出基地事業の認可が、適切な環境評価なしに発行されたとの判決を下した。米連邦エネルギー規制委員会(FERC)が発行したネクストディケイド社のリオ・グランデLNG、グレンファーン社のテキサスLNG、エンブリッジ社のリオ・ブラボー・パイプラインの認可は全て取り消され、これらの巨大事業に大きな遅延をもたらすこととなった。

訴訟手続きの一環として、リオ・グランデLNGは基地の設計に二酸化炭素回収・貯留(CCS)システムを追加することを2021年に提案していた。LNGのCCSとは、化石燃料の処理過程で排出される二酸化炭素(CO2)を回収し、地下に圧入して恒久的に貯蔵することを試みるものであるが、この技術は未だ実証されていない

8月の判決後、リオ・グランデLNGはCCS計画を取り下げた。これにより、ネクストディケイド社の「環境に優しい」という主張がいかにお粗末であるかが明らかになった。ネクストディケイド社はエネルギー移行計画を策定していなく、また中止したCCS計画以外には、ネットゼロ排出を達成するための計画を何も公表していない。日本のメガバンクの三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、ネクストディケイド社とリオ・グランデLNG事業の主要な資金提供者であり、同事業に23億8000万米ドルを提供している。

リオ・グランデLNGの主要資金提供者


(出典:シェラクラブ「US LNG Export Tracker」より)

 

リオ・グランデLNG施設が稼働すれば、石炭火力発電所43基分に相当するCO2を排出することになる。ネクストディケイド社は、事業の第1フェーズ向け184億ドルのプロジェクトファイナンスが「米国史上最大のグリーンフィールドのエネルギー事業向け融資である」と自慢している。ここでいう「グリーンフィールド」とは、手つかずの海岸沿いの土地に建設するという意味である。事業建設予定地は、米国メキシコ湾岸で未だ工業化されずに自然が残る最後の地域のひとつである。

進みの遅い汚れた事業

ネクストディケイド社は当初、2017年にリオ・グランデLNG輸出基地の最終投資決定(FID)を行い、2020年第4四半期に操業を開始する予定であった。しかし同社は、法的な課題や不十分な規制手続き、コミュニティからの圧力、不安定な石油・ガス市場などにより、度重なる遅延に直面してきた。

2023年7月、ネクストディケイド社は重要な節目を迎えた。リオ・グランデLNG基地の第1フェーズに関する最終投資決定を下したのである。この初期フェーズには3つの「トレイン」(液化プラント)が含まれる。これらのトレインは、年間2700万トンのガスを処理する見込みである。フランスの銀行ソシエテ・ジェネラルは、最終投資決定に至る前にリオ・グランデLNG事業から公に撤退した。 当初ネクストディケイド社のアドバイザーを務めていた日本の三井住友銀行も、現在は事業に関与していない。さらに複数の銀行がリオ・グランデLNGへの資金提供に関与しないことを2023年に非公開で確認している。

リオ・グランデLNG施設予定地、米国テキサス州、2023年12月6日  ©︎ Bekah Hinojosa / (SOTXEJN)

偽りの解決策

ネクストディケイド社は、環境に配慮したイメージを偽り、メタンガス輸出事業による膨大な排出量と現地での影響について積極的に「グリーンウォッシュ」を行なってきた。同社は2020年10月、計画中のリオ・グランデLNG施設でネットゼロ排出の達成を目指すと発表した。CCS技術を使用し、ガスの前処理と燃焼後のプロセスで排出されるCO2を回収し、地下に注入して恒久的に貯蔵することで、ネットゼロ排出目標を達成しようという計画であった。

しかし、炭素回収技術は、米国内のメタンガス輸出施設に未だ適用されたことがなく、他の化石燃料事業でも成功したことがない。リオ・グランデLNGはCCSに関して三菱重工と提携しているが、三菱重工は過去にも石炭火力発電所の炭素回収を試み、コストと技術的な問題が原因で失敗しているMUFGは三菱重工の重要なパートナーでもあり、両社はともに三菱グループの一員で、三菱グループはかつての財閥(戦前に多くの事業分野を支配していた企業グループ)である。CCS事業の中止が、MUFGとネクストディケイド社の関係に影響を与えるかは不明である。

MUFGにリオ・グランデLNGの地域への悪影響を訴え支援停止を要請した代表団、2024年10月©︎ RAN / Masaya Noda

エネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)が2022年9月に行った世界各地のCCS事業の分析によれば、CCS事業の大半は失敗しているか、約束どおりにCO2を回収できていないか、大幅なコスト超過に苦しんでいることが明らかになっている。CCS技術は、メタン輸出においては未だ実証されたことがない。

ネクストディケイド社は、リオ・グランデLNGのCCS事業が「提案されている炭素回収・貯留を通じて、CO2排出量を90%以上削減する」と主張し、「年間500万トン以上のCO2を恒久的に貯蔵すると述べている。ガス業界は通常、LNGのバリューチェーンの狭い部分のみに焦点を当て、ガスを燃やす発電所と石炭を燃やす発電所の排出量を比較する。しかし、メタンの採掘から輸送、発電所での燃焼に至るまでのプロセス全体を考慮したライフサイクル分析を用いると、LNG事業からのメタン排出量は、化石燃料産業が算出する排出量よりも大幅に増加する

リオ・グランデLNG輸出基地用のメタンガスは、テキサス州西部のパーミアン盆地とイーグルフォード・シェールから、フラッキング(水圧破砕)と水平掘削によって採取される予定である。フラッキングは、強力な温室効果ガスであるメタンを大気中に大量に放出し、米国で大気汚染や水質汚染、コミュニティの健康への悪影響をもたらしている。ネクストディケイド社は、基地で処理されるガスは「持続可能な生産者」から「責任ある形で調達された天然ガス」であると主張している。2023年にアースワークスとオイル・チェンジ・インターナショナルが発表した報告書は「認証ガス」の正当性について重要な疑問を提起し、「メタンガスの最大認証機関の一つであるProject Canary社が販売するモニターによる石油・ガス汚染の検出」に重大な欠陥があることを示した。認証ガスに関する主張と使用については、米国の上院議員グループが米連邦取引委員会に異議を申し立てている

バリューチェーン上流での採掘は、私たちの環境をあらゆる面で汚染し、最前線のコミュニティに甚大な被害をもたらすとともに、世界各地で発生している深刻な気候災害を悪化させている。現実には、ガス認証やメタンガス工場のCCS事業は、気候危機に対する偽りの解決策でしかない。例えば、キャメロン郡で提案されていたリオ・グランデLNGのCCS事業は、上流と下流の両方での排出を含めて算出された事業のライフサイクル排出量の約3%しか回収できない。

コミュニティのリーダーたちは日頃からネクストディケイド社の主張に異議を唱え、また同社がウェブサイトに掲載している単純な概要以上の詳細な計画を共有していないと批判している。ネクストディケイド社は、FERCの監視官にも計画を伝えることを怠っていた。

控訴裁判所は8月の判決において、FERCが事業の環境影響を評価する前に、ネクストディケイド社がCCSの計画を共有する必要があったというコミュニティリーダーたちの意見に同意した。これに対しネクストディケイド社は、「現時点ではFERCの審査を継続できるほど十分に開発されていない」として、CCSの申請を取り下げた 

ネクストディケイド社のウェブサイトより “NextDecade Withdraws Carbon Capture and Storage Application at FERC”, 2024年8月20日

https://investors.next-decade.com/news-releases/news-release-details/nextdecade-withdraws-carbon-capture-and-storage-application-ferc/

コミュニティリーダーたちが予想していたとおり、CCS提案はごまかしにすぎなかった。ネクストディケイド社がこの疑わしいCCS提案をあっさりと取り下げたことは、同社の野心的な気候目標に対する真摯さに疑問を投げかけるものである。

幸いにも、控訴裁判所はネクストディケイド社がCCS提案を撤回する可能性を予期し、たとえCCS事業が中止されたとしても、FERCが「リオ・グランデ基地を再承認する前に、少なくとも補足的な環境影響評価書(EIS)を通じて提案を代替案として分析しなければならない」という判決を下した。

ネクストディケイド社と三菱重工との間で結ばれたCCSに関するエンジニアリングサービス契約の行方は不明である。

リオ・グランデLNGのCCS事業は、リオ・グランデLNGと長期売買契約を結んでいるフランスの多国籍電力・ガス会社エンジーとの関係にとって重要であった。エンジー社は2020年にネクストディケイド社とのCCSなしの同様の契約を拒否していた。ネクストディケイドの子会社で、CCS事業の実施主体であるネクスト・カーボン・ソリューションズ社の今後についても不明である。

州道48号線沿いの自然、テキサス州ブラウンズビル、2017年  ©︎ Joseph Fry 

より公正なエネルギー移行への資金提供を

CCSはコストが高く、また再生可能エネルギーへの投資を奪うことになる。現在のCCS技術は、建設にも運用にも莫大なコストがかかり、政府からの多額の補助金なしには実現不可能である。現在提供されている非常に高水準の補助金をもってしても、ほとんどの事業は依然として採算が取れていない。CCS事業に投入されている税金の額が、化石燃料ベースの発電所の風力や太陽光による発電能力(の強化のため)の補助金として使用されれば、風力または太陽光による発電能力を即座に5倍以上にすることが可能である。

銀行が気候変動と人権に真摯に取り組むのであれば、このような不誠実なグリーンウォッシュを見抜き、より公正なエネルギー移行への資金提供に注力すべきである。

リオ・グランデ・バレーと米国メキシコ湾岸のコミュニティには、汚染度の高い化石燃料から解放された未来を手に入れる権利がある。

MUFGにリオ・グランデLNG支援停止をアピール、日本で活動する環境NGOと共に 2024年10月©︎ RAN / Masaya Noda

参考

RANプレスリリース「危険なLNG事業を支援する邦銀に要請、 米メキシコ湾岸の住民代表団が初来日」2024/10/8)

10月記者会見資料「LNG/メタンのリスクと日本の金融機関の役割」

FCCJ会見のアーカイブ映像

本ブログは、英語記事“GREENWASHING ALERT: NextDecade Cancels Carbon Capture” (2024年10月1日)の和訳版です(2024年12月17日投稿)。

 

ルース・ブリーチ(RAN気候変動&エネルギー担当 シニア・キャンペーナー)

米環境NGO「レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)」で、世界的なメタンガス拡大に焦点を当てた活動を担当。化石燃料の採掘阻止を目的に、金融と企業責任に関するキャンペーンの組織化、化石燃料インフラの影響 を受ける最前線のコミュニティへの支援、全米の草の根ネットワークを対象とした直接行動トレーニング、銀行や保険会社とのエンゲージメント(対話)などに取り組んでいる。学術誌や多数の報告書の共著者でもある。

川上 豊幸(RAN日本シニアアドバイザー)

経済学博士。専門は国際環境経済学。聖心女子大学現代教養学部国際交流学科教員。2005 年にRAN の日本代表として事務所を設立し、豪州タスマニアの原生林保護に取り組んだ。その後、インドネシアの熱帯林保護活動に取り組み、森林と森林に依存して生活する人々への悪影響是正に向けて、紙パルプやパーム油業界、金融業界への働きかけを行っている。2023年12月より現職。