サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

プレスリリース:東京海上・MS&AD・SOMPOを含む世界の保険会社による米国湾岸LNG事業への保険引受が判明(2024/2/22)

「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
Insure Our Future
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

2024年2月22日ー米国の環境NGOであるレインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)及び消費者団体であるPublic Citizensが発表した報告書「Risk Exposure: The Insurers Secretly Backing The Methane Gas Boom in the US Gulf South(※1)」によると、日本の大手損害保険会社である東京海上、MS&AD、SOMPOを含む世界の保険会社35社が、米国のメキシコ湾岸地域の7つの液化天然ガス(LNG)ターミナル事業に対して保険引受を行っている実態が明らかになった。1月26日、米国のバイデン大統領は、LNGの新規輸出許可の一時停止を発表したが、具体的な停止対象事業については触れておらず、今後も米国においてLNG輸出事業が拡大する可能性がある。このような状況の中、本報告書は、パリ協定の1.5度目標を達成するために保険会社の責任の重大さを改めて浮き彫りにしている。

報告書では、米国連邦エネルギー規制委員会(FERC)、州当局、地方政府等に対する50件以上の情報公開法(FOIA)請求を通じて入手することが出来た保険証明書をもとに、メキシコ湾岸地域におけるLNGターミナル事業7件に保険引受を行った保険会社を明らかにしている。米国・欧州・アジア地域の保険会社の少なくとも35社が、7件のLNGターミナル事業の保険引受者であることが特定された。日本の保険会社については、リオグランデLNGの保険をSOMPOが、ガルフLNGの保険をSOMPO及び東京海上が、キャメロンLNGの保険を東京海上及びMS&ADが引き受けている実態が明らかになった(詳細は下記表を参照)。キャメロンLNGには、三井物産、三菱商事、日本郵船が出資している。

現在、米国には既設のLNGターミナル案件が8件、建設中の案件が7件、計画中の案件が17件存在し、特に新規の案件はメキシコ湾岸のルイジアナ州及びテキサス州一帯に集中している。現在稼働中及び建設中の案件を合わせると、石炭火力発電所345基に相当する年間12億8,700万トンもの温室効果ガスを排出すると言われており、日本は主な輸出先の一つとなっている。

図:北米における既設及び建設中のLNG輸出ターミナル

報告書では、保険証明書を入手した7件のLNG事業の多くが、先住民族、有色人種、低所得者の居住域に立地しており、現地コミュニティは、先住民族の権利に関する国連宣言で求められている「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」に基づいた開発の合意形成が欠如していたと指摘されており、メキシコ湾岸に蔓延る環境人種差別を温床化させていると指摘されている。また、ターミナル建設に伴い、有害な大気・水汚染が現地住民の健康被害を深刻化させていることや、LNGターミナル事業がハリケーンをはじめとする異常気象に脆弱な実態について言及されている。

東京海上、MS&AD、SOMPOの3社は、石炭事業及びオイルサンド採掘事業、北極圏における石油・ガス事業などの新規保険引受及び投融資停止を表明しているものの、一般的な石油・ガス事業については保険引受・投融資を停止する方針を設定していない。3社は1.5度目標との整合性を確保するために、これらの方針を早急に掲げるべきである。また、今回関与が判明した3件のLNGターミナル事業の保険契約更新を行わないよう強く要請する。

本件に関する問い合わせ先:
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)田辺有輝/喜多毬香
tanabe@jacses.org / kita@jacses.org

注:
※1:https://www.ran.org/publications/risk-exposure-the-insurers-secretly-backing-the-methane-gas-boom-in-the-us-gulf-south/

声明:RSPOに要求事項の強化を要請〜基準弱体化で信頼性を損なうリスク〜(2023/11/21)

RSPO基準はEUの新規制「森林破壊禁止法」(EUDR)に適合せず

(インドネシア・ジャカルタ)米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、20周年を記念してジャカルタで開催中の「持続可能なパーム油のための円卓会議」(RSPO)を受けて、以下の声明を発表しました。

RANはRSPOの開催に合わせて、新報告書「森林&人権方針ランキング2023」を発表しました(日本での発表は17日)。同報告書は、パーム油生産が熱帯林及び炭素を豊富に含む泥炭地、先住民族コミュニティや伝統的コミュニティの権利に与える悪影響に対して、影響力のあるRSPO会員企業が対処できていないことを示しています。同報告書は大手消費財企業(その供給業者も含め)の森林と人権関連の方針と取り組みを詳細に評価するものです。同時に消費者に向けて、RSPOの現在の基準やシステムは欧州連合(EU)の新規制「森林破壊防止法」(EUDR)の要件を満たすには不十分であると警鐘を鳴らしています。透明性が高く、追跡可能で責任あるパーム油のサプライチェーンの実現のためには、各種システムを強化しなければならないことも述べています。

RAN森林政策ディレクター、ジェマ・ティラック

「今、パーム油業界にとっては極めて重要な時です。パーム油業界は数十年にわたって森林破壊と人権侵害の汚名を返上しようと試みてきました。それにもかかわらず、インドネシアの「ラワ・シンキル野生生物保護区」では、炭素を豊富に含む泥炭湿地林で水路が造成されて水が抜かれ、森林破壊の増加が今も確認されています。同保護区はスマトラオランウータンの生息密度が世界で最も高く「世界のオランウータンの首都」と呼ばれています。​​RSPO会員企業によるモニタリングが行われているにもかかわらず、この保護区が破壊されているのです。

RANは、森林が破壊された土地で違法に生産されたパーム油を調達しているRSPO会員企業を摘発しました。森林を破壊して生産されたパーム油は、プロクター&ギャンブル(P&G)、モンデリーズ、コルゲート・パーモリーブ、ネスレといった大手消費財企業のグローバルサプライチェーンと製品に混入し続けています。

こういった森林破壊は、パーム油セクターで当たり前のようになっている、有効性が低いトレーサビリティ(追跡可能性)システムのために起きています。深刻な欠陥のある(非認証油も混合される)RSPOのマスバランス・サプライチェーン・システムへの依存は非常に大きな問題です。

RANは、RSPOが中核的な認証基準の改訂プロセスを進めるなかで、基準をさらに弱めるのではないかと懸念しています。RSPOは基準を改訂する代わりに、すでに明らかになっている重大な抜け穴を防ぐことに取り組むべきです。RSPOは保証システムと苦情処理システムの問題に対処しなければなりません。

RSPOは、意義のある認証システムであり続けるために、責任あるパーム油生産の世界的基準である「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」( NDPE)の実践に整合する基準を維持し、実施する必要があります。RSPO基準は、土地権の侵害を可能にするために弱めてはなりません。また、森林被覆率の高い国の原生林景観や管轄認証プログラム内での森林破壊を可能にしたり、インドネシア全土の企業管理地外で小規模森林破壊を起こしている土地投資家、地元有力者が生産する問題あるパーム油をRSPO認証市場に参入を可能にするために、基準を弱めてはなりません。

市民団体は、RSPOで救済されていない多くの問題事例に関心が集まるよう呼びかけています。インドネシアの中部カリマンタン州スルヤン県Bangkal村で最近発生したコミュニティメンバーの殺害事件を受けて、自分たちの土地と生計を守るために行動を起こしている人権擁護者への暴力や脅迫、犯罪者としての不当告発に関して、RSPOは「ゼロトレランス」(不容認)アプローチを採用しなければなりません。

RSPOは、人権を尊重しない会員企業や、既存または新規のアブラヤシ農園開発によって影響を受ける先住民族コミュニティから「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC)を得ていることを証明できない会員企業に認証を与えてはなりません。

土地収奪に関与している企業のグリーンウォッシュと、苦情や土地紛争解決についてのRSPOの失敗は20年続いてきました。RSPO認証システムにおける公正性の欠如は容認できるものではありません」

 

※NDPE基準は、2013年にパーム油革新グループ(POIG)が策定した憲章から発展したものです。多くのRSPO会員企業やコンシューマー・グッス・フ ォーラム(CGF)の自主的な方針で採用されたことを受け、2018年に行われた前回の見直しの際にRSPO基準に統合されました。

 

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
コミュニケーション:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

プレスリリース:新報告書「森林&人権方針ランキング2023」発表〜ユニリーバがトップ、P&G最下位、日清食品は改善するも取り組み遅れ〜 (2023/11/17)

大手消費財企業、森林破壊と人権侵害防止を公約するも阻止できず〜グローバル消費財企業10社の森林及び人権方針を評価〜

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日17日、新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング2023」(注1)を発表しました。

                 

本報告書は、熱帯林地域で森林破壊と人権侵害のリスクが高い産品に関与している大手消費財企業10社を対象に(注2)、各社の方針と実施計画を森林と人権の二分野で評価・分析するものです。サプライチェーンでの森林破壊と人権侵害を阻止するための取り組みを詳細な基準で比較評価した結果、ユニリーバが「C」評価で最も高く、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)が最下位でした。日本からは花王が「D」、日清食品ホールディングスは5段階で最低ランクの「不可」でした。報告書は、10社全社がこの重要な問題への取り組みについて「A」評価を得るには程遠く、欧州連合の森林破壊防止法(EUDR)のような新規制の要件を満たす目処も立っていないと結論づけました。これは銀行や投資家を重大なリスクにさらすことになります。

本ランキングは、大手グローバル消費財企業10社を対象に、サプライチェーン(供給網)における森林破壊と権利侵害を阻止するための取り組みについて比較評価するものです。各社の企業方針について森林と人権分野の12項目を24点満点で評価しています。合計得点に合わせてA(21〜24点)、B(17〜20点)、C(12〜16点)、D(6〜11点)、不可(0〜5点)で評価しました。本報告書は、パーム油、紙パルプ、大豆、牛肉、カカオ、木材製品など、森林を破壊するリスクのある産品(森林リスク産品)のセクターにおける傾向と動向を分析し、2020年から毎年発表しています。10社のランキングの詳細は以下の通りです。

*Y=ありor全て(2点)、P=一部(1点)、N=なし(0点)

【森林&人権方針ランキング2023】概要

■調査期間:2023年8月~11月

■調査対象者:大手消費財企業(10社):日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース

■調査方法:各社の環境及び人権に関する方針を調査・分析(ウェブサイトなどで公開されている最新版)、各社へのヒアリング

■主な森林・人権方針の評価項目(全12項目、各2点)

*2点:方針あり/ 全体に採用、1点:一部に採用、0点:方針・計画なし

  • 「森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE)方針・適用範囲:パーム油や紙パルプなど森林リスク産品事業の生産・投融資に欠かせない国際基準(注3)。特に、個別産品だけではなく森林リスク産品全般への適用、供給業者の企業グループ全体への適用を重視。
  • 「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)原則」の実施:先住民族および地域コミュニティの権利尊重(注4)
  • 人権擁護者への暴力や脅迫への「ゼロトレランス」(不容認)方針の有無(注5)
  • サプライチェーンの透明性:EUDR要件(注6)である、原料生産地までのフルトレーサビリティ達成の取り組みも含む(2023年版から追加)
  • 森林フットプリントの開示(注7)、など

■全体の評価・傾向

  • 取り組みが最も遅れていると評価された「不可企業」は日清食品、フェレロ、モンデリーズ、P&Gでした。P&Gは森林リスク産品セクターの横断的方針を公表した際に森林保護の要件を弱体化し、実質的に後退しました。
  • 中位グループではネスレ、ペプシコ、花王、コルゲート・パーモリーブに若干の進歩が見られましたが、マースはほぼ停滞しました。
  • ネスレ、マース、フェレロは自社サプライチェーンが「100%森林破壊フリー」(森林破壊のない)であると宣言していますが、第三者による独立検証された証拠を開示していなく、注意が必要です。
  • 「サプライチェーンの透明性」項目で得点を獲得した企業はありませんでした。これは大手消費財企業とその供給業社がEUDRの要件である「森林破壊のない製品であること」を確認する目処が立っていないことを示唆しています。

■日本企業の評価

  • 総合点は日清食品が不可(5点)で、花王はD(8点)でした。
  • 両社とも「NDPE方針」を既に採用し、2点の評価を得ています。
  • 「NDPE適用の範囲」については、花王は森林リスク産品全般の供給業者とその企業グループ全体も適用対象としていることが確認できたため、評価を2点に上げました。一方、日清食品グループ調達方針の環境分野にNDPE支持を記載していますが、NDPE主要項目が明記されているのはパーム油事業のみで森林リスク産品全般ではありません。また、供給業者にNDPEの採用を義務化していなく、供給業者の企業グループ全体も適用範囲に含んでいないことから、昨年と同じく得点はありませんでした。
  • 「森林フットプリントの開示」については、日清食品花王も実施を表明したことで1点を得ていますが、まだ開示はされていません。
  • 「強固なモニタリングとデューデリジェンス」で、花王は森林破壊リスクの高い地域と供給業者事業のモニタリング方法を開示して評価を改善し、1点を獲得しました。
  • 「問題企業の責任追及」では、日清食品は6月に「苦情処理リスト」を公開し、違法パーム油生産農園との取引停止を公表して1点を得ました。花王は小規模農家生産者を対象とした苦情処理メカニズムはありますが、大規模農園・植林企業などを対象としたリストはなく得点はありませんでした。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表の川上豊幸は「花王は方針強化を続け、10社中、中位グループの『D』評価を得ました。花王が直接調達していない産品であっても、供給業者とそのグループ企業全体が調達している全ての森林リスク産品を適用範囲として、NDPE方針の採用を義務付けるという点で評価を得ました。また、リスクの高い地域での森林破壊のモニタリング手法を開示したことで、花王の対応状況を確認することができるようになりました」と述べました。

続けて「一方、日清食品は3年連続で『不可』評価でした。苦情処理リストを公開したのは一歩前進です。しかし、NDPE方針が森林リスク産品全般に適用されず、パーム油に限定されたままです。またNDPE方針の採用を供給業者に義務化していません。そして持続可能なパーム油のみを2030年までに調達すると約束していますが、EUの新規制である森林破壊防止法(EUDR)は2024年末から施行され、域内で販売される製品には森林破壊のないことを確認した文書が要求されます。日清食品の目標は国際的に見劣りします」と指摘しました。

「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」キャンペーンは2020年4月の開始以来、評価分析を毎年実施し、今年で4回目の発表となります。地域のコミュニティやNGOとともにキャンペーンを展開し、消費者とともに消費財企業と銀行に働きかけてきました。現在、評価対象企業10社をはじめとする消費財企業や金融機関、パーム油大手の大半がNDPE方針を採用しています(注8)。しかし、消費財企業がNDPE方針を採用する多くの場合、原材料に使用する全ての森林リスク産品には適用されず、調達先など取引先の企業グループ全体にも適用されていません。つまり、パーム油など個別の産品でNDPE方針を策定しても、他の産品生産や企業グループ他社で森林破壊や搾取を起こしていれば、森林破壊や人権侵害への関与を禁止したことにはならず、大きな抜け穴が残ります。

多くの消費財企業は、原材料を供給するコングロマリット(複合企業)の一部門が方針に違反していることを知りながら、同じ親会社の別の部門と取引をしています。今回の方針評価を参考に、各消費財企業が森林破壊や人権侵害を助長しない努力をどの程度進めているか、消費者や金融機関、投資家は知ることができます。RANはさらなる森林破壊と人権侵害を防ぐために、大手複合企業のアグリビジネス企業と林業企業に対して大きな影響力をもつ消費財企業に、実質的な行動を早急に取るよう要求を続けます。

 

別紙「森林&人権方針ランキング2023」説明資料

RAN「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング」は、世界の大手消費財企業が自社の事業活動から森林破壊や人権侵害を排除するために行っている取り組みについて評価するとともに、進捗状況の概要を報告しています。市民社会は大手多国籍消費財企業に働きかけ、自社のサプライチェーンを変革するという約束を取り付けてきました。しかし実際には、森林破壊と、最前線で土地を守る人々への暴力は世界的に増加傾向にあり、消費財企業は依然として森林破壊や権利侵害から利益を得ています。

こうした憂慮すべき傾向は、大手消費財企業が公に掲げる美辞麗句と、破壊的な影響との隔たりをいまだに埋められていないことを示しています。消費財企業の不十分な方策の結果、供給業者に実質的に従来通りのビジネスの継続を許し、それによって破壊的な影響が引き起こされています。従来通りのビジネス慣行は、世界で最後に残された原生林景観や、長きにわたって森林と生物多様性を守り、管理してきた先住民族の領域へと企業が進出する結果を生んでいます。

日本企業各社の点数と評価概要、改善点(24点満点、昨年版は20点満点)

  • 日清食品(不可:5点、昨年:20点満点で4点): P&G、モンデリーズ、フェレロと並び、今年も「不可」評価だった。9月にグループの調達方針を改定し、それまではグループ全体の調達方針の前文にNDPEを支持と記載していたが、「地球・環境」セクションにもNDPEを支持と明記した。また同「人権の尊重」セクションにはFPICの支持も明記した。しかしこの改定ではNDPEの「支持」にとどまり、全ての供給業者への要求事項としていなく、進歩の機会を逸した。一方、6月に「苦情処理リスト」を初めて開示し、RANの指摘に対処する形で、環境・社会面で問題視されてきたパーム油企業との取引停止などの対応状況を公表した。日本事業向けの農園までのパーム油供給業者リストの開示について改善したと言える。持続可能なパーム油100%調達を2030年までに達成するという目標は大幅な前倒しが必要。
  • 花王(D:8点、昨年:20点満点で6点):継続して調達方針を改定して「自然生態系の転換や劣化の禁止」を追加し、NDPE方針が全ての森林リスク産品に関して「企業グループ」全体に適用されることを明確にしている。「企業グループ(Corporate group)」の定義は、アカウンタビリティ・フレ ームワーク・イニシアチブ(AFi)が定めた、信頼できる「企業グループ」の定義に基づいている。重視される点は、森林リスク産品の全てのサプライチェーンにおいて、取引先の企業グループ全体に対してNDPE方針が適用され、実施されることを確保することである。花王はまた、供給業者の事業における森林破壊リスクを特定するために使用しているモニタリング手法の概要も開示した。花王は小規模農家の生産者を対象とした苦情処理メカニズム/リストを持っているが、大規模農園・植林企業、加工工場、直接供給業者を対象としたリストはない。

概要:方針と実施計画の分析

今回の調査結果では、消費財企業10社全てが、業界標準の枠組みであるNDPE方針に名目上は取り組んでいるものの、多くの場合、原材料に使用する全ての森林リスク産品には適用していないことも示しています(表)。また、全ての森林リスク産品サプライチェーンにおいて森林破壊、自然生態系の転換、人権侵害を撲滅する期限を設定している企業は一社もありませんでした。本報告書は、各社が自社サプライチェーンの浄化を何年も前から約束しているにもかかわらず、実際には供給業社に従来通りのやり方(ビジネス・アズ・ユージュアル)の継続を許し、その結果、世界で最後に残された原生林景観や先住民族の領域へ企業が進出していることを明らかにしています。

NDPE方針

本報告書では、消費財企業が原材料調達を通じて森林と人々に与えている影響全体に真に対処するためには以下の3点の両方が必要だと強調しています。

  • 産品横断的アプローチ:各種森林リスク産品全てに森林・人権方針を適用すること
  • 企業グループ横断的アプローチ:取引先企業が属する・関連する企業グループ全体が森林・人権方針を遵守することを取引の要件とすること
  • 方針の完全実施と遵守の独立検証を達成する野心的な期限付き目標を設定すること

多くの消費財企業は、コングロマリット(複合企業)の一部門が方針に違反していることを知りながらも、同じ親会社の別の部門と取引をしています。この「ずれ」は、大手グローバル消費財企業に製品原料を供給する複合企業が、シャドーカンパニー(陰の企業)や記録に残らない事業を多用して改革を行ったように見せかけながら、従来通りのビジネス手法で事業を行い、責任逃れに成功していることが主な原因です。

表「消費財企業各社の調達する森林リスク産品と、実際のNDPE方針適用範囲の比較」(報告書より)

EUDRについて

欧州連合(EU)で「森林破壊フリー製品に関する規則」(EUDR:通称「森林破壊防止法」)が可決され、その施行日は間近(2024年12月末)に迫っています。これは、森林リスク産品の世界における大きな進展であり、本ランキングで対象とした消費財企業全社に大きな影響を与えることになります。EUDRは森林破壊防止のためのデューディリジェンスを義務化するもので、EUに畜牛、カカオ、大豆、パーム油、コーヒー、ゴム、木材製品を輸入する全ての企業に対して、販売する製品に使用されている産品を厳密な生産地まで遡って追跡することを義務付けるものです。しかし今回の調査結果では、「サプライチェーンの透明性」項目(森林リスク産品のサプライチェー ンにおける直接・間接供給業者を公開し、調達する全原材料の完全なトレーサビリティ達成に向けた取り組みを進めること)で得点を獲得した企業はなく、大手グローバル消費財企業とその供給業社がこの新規制の要件を満たせないであろうことを示唆しています。

景観保護イニシアティブへの投資

希望を持てる動きとして、多くの企業が景観保全関連の取り組みへの投資を増やしていることが挙げられます。取り組みには数千の小規模農家が参加したり、森林の保護や回復に関わるものもあります。ユニリーバとペプシコはその分野の先行企業で、インドネシアのアチェ州と北スマトラ州の政府とともに「管轄アプローチ」を初期段階から開発しています。両州には、世界的に重要な熱帯低地林である「ルーセル・エコシステム」があります。しかし本報告書では、このような保護プログラムは有望ではあるものの、変化の規模は十分な速度で起きておらず、世界的に重要なインドネシアの熱帯林「ルーセル・エコシステム」で森林破壊が今も続いていると警告しています(注9)。

 

注1)新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング2023」

方法論

「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」は、RANが2020年4月から展開しているキャンペーンです。熱帯林破壊と人権侵害を助長している最も影響力のある上記の消費財企業・銀行に実際の行動を起こすよう要求しています:www.ran.org/kfs-scorecard-jp/

注2)消費財企業(10社):日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース

*10社全社が全容を報告している唯一の産品であるパーム油を例にとると、10社合計で約230万トンのパーム油と、約140万トンのパーム核油およびその派生物を購入している(2022年)。パーム油世界市場の約3%、パーム核油世界市場の約17%に相当する(報告書より)。

注3)NDPEはNo Deforestation、No Peat、No Exploitationの略。森林減少や劣化に対しての保護(炭素貯留力の高い<High Carbon Stock:HSC>森林の保護、保護価値の高い<HCV: High Conservation Value>地域の保護)、泥炭地の保護(深さを問わず)、人権尊重、火入れの禁止といった要素を含む方針を公表している企業は「あり」の評価を得る。

*参考:「『森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止』(NDPE)方針とは?」ブリーフィングペーパー

注4)「FPIC」(エフピック)とは Free, Prior and Informed Consentの略。先住民族と地域コミュニティが所有・利用してきた慣習地に影響を与える開発に対して、事前に十分な情報を得た上で、自由意志によって同意する、または拒否する権利のことをいう。

注5)「ゼロトレランス・イニシアティブ」ウェブサイト

注6)EUの「森林破壊フリー製品に関する規則」(EUDR:通称「森林破壊防止法」):EU域内で販売される製品は生産地までのトレーサビリティの確認と、森林破壊等との関連有無を確認する「デューデリジェンス」の公表が義務化される。森林破壊と人権侵害の有無のリスク評価や確認も含め、グローバル企業は同法への対応が迫られる。

注7)「森林フットプリント」とは、森林を犠牲にして生産される「森林リスク産品」の消費財企業の利用や、銀行による資金提供によって影響を与えた森林と泥炭地の総面積をいう(影響を与える可能性がある面積も含む)。消費財企業と銀行の森林フットプリントには、供給業者や投融資先企業が取引期間中に関与した森林および泥炭地の破壊地域、さらに供給業者や投融資先企業全ての森林リスク産品のグローバルサプライチェーンと原料調達地でリスクが残る地域も含まれる。森林および泥炭地が先住民族や地域コミュニティに管理されてきた土地にある場合は、その先住民族と地域コミュニティの権利への影響も含む。

注8)チェーン・リアクション・リサーチ、 “NDPE Policies Cover 83% of Palm Oil Refineries; Implementation at 78%.” (仮訳:NDPE方針、パーム油精製工場の83%をカバーするも実施率は78%)、2020年4月28日

注9)RANブログ「インドネシア違法パーム油『炭素爆弾スキャンダル』続報〜『ルーセル・エコシステム』の野生生物保護区で森林破壊の新証拠〜」、2023年11月7日(英語版9月18日発表)

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
コミュニケーション:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

イベント:PRI in Person 2023公式サイドイベント 「森林破壊リスク産品セクターへの投資の情報開示と持続可能性基準」(2023/9/27)

〜TNFDとNDPE方針、インドネシア版タクソノミーの評価〜

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、10/4(水)、国連責任投資原則「PRI in Person 2023」公式サイドイベントとして「森林破壊リスク産品セクターへの投資の情報開示と持続可能性基準」をGEF、プランテーションウォッチと共同で開催します。

イベント内容

パーム油や畜牛、チョコレート、紙パルプや木材など、熱帯林における森林破壊につながる原料を使う製品は「森林破壊リスク産品」や「森林リスク産品」と呼ばれます。これらの産品を利用することは、生産地である熱帯地域の森林減少や森林劣化を引き起こし、森林や生物多様性、地域コミュニティに大きな影響を与える可能性があります。これらの問題に対処するために「NDPE(森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止)方針」(※)の採用が、リスク産品を扱う事業者だけでなく、金融機関でも進められています。本イベントでは、NDPE方針の概要を解説するとともに、その実施状況の評価を報告します。

特に森林破壊が依然として止まらないインドネシアに焦点を当て、現地政府が推進するサステナブル・ファイナンスやインドネシア版タクソノミー改訂の評価、海外投資家への影響についての報告も行います。加えて、最近発表された自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の最終版の概要と分析結果を解説し、TNFDと他の森林リスク産品への金融セクターの関与のための国際的な基準やアカウンタビリティの仕組みとの乖離について報告します。
※NDPE:No Deforestation、No Peat、No Exploitationの略

概要

【日時】2023年10月4日(水)8:00~8:45(開場:7時45分)

【開催方法】ハイブリッド

・オンライン:Zoomウェビナー

・対面:ビジョンセンター品川 302号室(東京都港区高輪4‐10-8京急第7ビル3階

【スピーカー】通訳あり

トム・ピケン/RAN 森林と金融キャンペーン・ディレクター
グリタ・アニンダリニ/インドネシア環境法センター (ICEL)プログラム・ディレクター
ショーナ・ホークス/RAN 森林と金融アドバイザー
司会進行:飯沼佐代子/地球・人間環境フォーラム(GEF)

【参加費】無料(要事前登録)

当日の発表資料、NDPE方針説明資料をこちらに掲載しております。

登録方法

会場・オンライン共に事前の申し込みが必要です。https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_uJLffh7UTNWGbJZAdbybFw

お問合せ先

地球・人間環境フォーラム 飯沼 E-mail: event(a)gef.or.jp

【主催】レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)、地球・人間環境フォーラム(GEF)、プランテーション・ウオッチ

【協力】熱帯林行動ネットワーク(JATAN)、ウータン森と生活を考える会

※インドネシア環境法センター (ICEL)の登壇者がレイナルド・センビリン氏からグリタ・アニンダリニ氏に変更になりました(10月3日更新)。

団体紹介

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。
https://japan.ran.org

レインフォレスト・アクション・ネットワーク
コミュニケーション:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

ブログ:ボルネオとパプアで森林破壊の新たな動き〜背後にひしめく悪しきプレイヤーたち〜(2023/5/22)

インドネシア北カリマンタンに新巨大パルプ工場 60万ヘクタールの熱帯林が危機に

投稿者:RAN, EPN, Auriga, Greenpeace and Woods and Wayside

インドネシアで新たな森林破壊の脅威が浮上

地球の未来を賭けたギャンブルをしてはならない。リスクが高すぎて、私たちの手に負えないからである。インドネシアでは最近、森林保護に一定の進展が見られるようになったが、無謀な企業行動によって利益を得ようとする人々に対する警戒を怠ってはならない。

インドネシアでは、数十年にわたって大規模なアブラヤシ農園やパルプ材用植林地、伐採による森林破壊が容赦なく拡大され続けていたが、森林破壊を減らすための努力が実を結び始めた。この変化は、原生林地域における新規事業許可の一部停止、森林法のより良い実施、国際的なサプライチェーンから要求された一層高い基準により、もたらされている。

しかし、新しい調査報告書『パルピング・ボルネオ(Pulping Borneo)』(パルプ材に変わるボルネオの森)は、この傾向を脅かす不穏な出来事を暴露している。そのひとつは、インドネシア東部の小さな島、タラカン島に建設中の巨大パルプ工場である。この工場がフル稼働すれば、年間330万トンの木材が破砕されることが予測されている。これは年間でトラック10万台分以上の丸太に相当し、ボルネオとパプアの太古の熱帯林60万ヘクタールが危機に瀕することになる。

熱帯林や周辺に住む先住民族コミュニティ、熱帯林が今も支える驚異的な生物多様性、そして気候の安定やインドネシア自身の気候変動への公約に対する熱帯林の重要な貢献にもかかわらず、企業が減少しつつあるインドネシアの熱帯林から利益を得ようとし続けることに驚くことではない。

しかし注目すべきは、この破滅的なゲームに参加している悪しきプレイヤーたちである。それは、ロイヤル・ゴールデン・イーグル・グループ(RGEグループ)、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、そしてプロクター&ギャンブル(P&G)だ。

写真:Ulet Ifansasti/Greenpeace

「森林破壊のエース」 RGEグループ

トランプの1枚目、つまり最初のプレイヤーは、ケイマン諸島で登記された会社で、タラカン新工場の代表者、フェニックス・リソーシズ・インターナショナル(PT Phoenix Resources International)である。調査の結果、同社はインドネシアで最も裕福かつ最も物議を醸している大物実業家の一人、スカント・タノト氏の支配下にある可能性が高いことが明らかになった。タノト氏はRGEグループの実質的所有者である。

オフショアを通じて、所有権が複数の層から成る複雑な企業構造を構築する企業は珍しくない。この仕組みは、実際に事業を行っている国での税収を大抵の場合は犠牲にして減らし、大企業が税負担を軽減または回避する方法を提供する。それに加えて、企業グループは「シャドーカンパニー(影の会社)」を運営する能力も得られる。「シャドーカンパニー」とは、親会社である企業グループの慎重に管理された対外的イメージに反するような、物議を醸す活動を水面下で行う企業のことである。

RGEグループは、長年にわたりインドネシアの熱帯林を皆伐し、先住民族や地域コミュニティの権利を侵害してきた破壊的な歴史を持つ。しかし2015年以降、RGEグループとその主要構成会社であるAPRIL(紙パルプ会社)、アジアン・アグリ(パーム油生産・精製会社)、アピカル(パーム油加工・販売会社)はいずれも「森林伐採ゼロ」の誓約を含む持続可能性へのコミットメントを強調して宣伝している。RGEグループは、自社の方針は「金銭的関与を問わず、RGEグループが所有、管理、あるいは投資する」すべての企業に対し「例外なく」適用され、「すべての繊維、木材、パルプの第三者供給業者」を含むと主張している。しかし、このコミットメントの信憑性には大いに疑問がある。

「キャッシュの王様」 MUFG 

RGEグループの継続的な拡大の要は、タラカン島の新工場のような資本集約的な事業の資金を銀行に依存していることである。「森林と金融」連合がまとめたデータによると、2016年以降、RGEグループの取引銀行のうち上位15行が、RGEグループの森林セクター事業に合計で50億米ドル以上の融資を行っている。なかでもRGEグループにとって極めて重要な取引銀行のひとつが、日本最大の銀行である三菱UFJフィナンシャル・グループ(東証:MUFG)である。

最近のMUFGの融資に関連して、RGEグループの社長は次のように述べている。 「持続可能性は当社のビジネスモデルの中核であり、サステナブルファイナンス(持続可能な社会を実現するための金融)はRGEにとって進むべき道です。私たちはパートナー銀行からの支援と関心を得ており、2022年に総額16億米ドルの持続可能性に関連した融資を確保しました」。 この声明は、むしろグリーンウォッシュ(訳註:上辺だけの環境配慮アピール)の協定に読める。

MUFGによるRGEグループ企業への多額の資金援助は、「保護価値の高い地域における森林破壊(deforestation)が行われていないこと」を顧客に求めるというMUFG自身の森林セクター方針と矛盾しているように見える。 『パルピング・ボルネオ』報告書は、2015年から2022年にかけて、オランウータンの生息地を含む3万7000ヘクタール以上の自然林を皆伐して得た木材を、RGEグループが関連する別の工場である バリクパパン・チップ・レスタリ(PT Balikpapan Chip Lestari)が加工していたことを明らかにしている。そして2021年には、RGEのパーム油が、スマトラ島の熱帯低地林である「ルーセル・エコシステム」内の原生林を皆伐して栽培されたアブラヤシから生産されたことが暴露されスキャンダルとなっている。他にも問題事例が後を経たないが、残念なことにMUFGからの資金提供は続いている。 

有害な活動につながりのある銀行は総じて、自社のサステナビリティ方針は、幅広い企業グループの中の特定の子会社にのみ適用されると言い訳をする。しかしこのようなあからさまな抜け穴は、森林保護へのコミットメントを事実上無意味なものにしてしまう。また、OECD多国籍企業ガイドラインのような国際基準や、汚職などの問題に関して国際機関が発行したその他の金融基準にも抵触している。

近年、ますます多くの銀行がRGEから手を引いていることは、多くを物語っている。MUFGが掲げる持続可能性へのコミットメントが信じるに値するものなのであれば、MUFGも毅然とした態度でRGEとの関係を断ち切らなければならない。しかし、資金の流れを止めることは解決策の一部に過ぎない。RGEグループや類似するグループの拡大に手を貸した銀行には、被害を受けた地域コミュニティや生態系を救済する責任があるはずである。

写真:北カリマンタン州のタラカン島にあるフェニックス・リソーシズ・インターナショナル社の建設現場、2022年12月 ©️Environmental Paper Network(3°22’57.55 “N-117°31’15.94 “E)

「化粧品の女王」 P&G

次のプレイヤーは消費財企業である。消費財企業は、搾取された土地や人々から調達された安価な原料の需要を牽引する主要な役割を果たしている。例えばプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は、RGEグループのパーム油部門から原料を調達し、最終的に衛生用品や化粧品などの様々なパーソナルケア製品に使用している。P&Gは「森林破壊ゼロ、泥炭地ゼロ、搾取ゼロ」(NDPE)方針を掲げているが、MUFGと同様に不十分で、すべての森林リスク産品に関して取引先企業が関連する企業グループ全体に方針を適用していない。

P&Gは利益を上げ続ける一方で、RGEのような企業グループとのビジネスの代償を、インドネシア全土で森林破壊に立ち向かう地域コミュニティに支払わせている。その事例の一つが、北スマトラ州のコミュニティ「パルガマナン・ビンタン・マリア」に対する、RGEグループの関連企業であるトバ・パルプ・レスタリ(TPL)による土地収奪である。

パルガマナン・ビンタン・マリア」集落は、TPL(紙パルプ生産企業)の操業による影響を受けている数十のバタク先住民族コミュニティの一つである。TPLが収奪した土地は同コミュニティの先祖代々の土地の40%と重なり、その3分の1はすでに同社工場に供給するために産業用パルプ材に転換されている。このプロセスは、コミュニティの十分完全な同意なしに行われた。干ばつの増加や洪水、森林に依存した生活の衰退など、悲惨な影響がすでに生じている。地域コミュニティは組織化して、P&Gのような世界的な消費財企業に対して、TPL社が彼らの慣習林を返還し、先住民族コミュニティを犯罪者扱いする不当行為や脅迫を止めるまで、RGEグループ全体との取引を停止するよう求めている。

破滅的なゲームに終止符を打つ

今、P&GやMUFGのような消費財企業や銀行が、方針の抜け穴を悪用するのを止めるべき時が来ている。国際企業や金融機関のサステナビリティ方針は、森林や泥炭地の破壊、あるいは地域コミュニティや労働者の搾取に関与する企業グループとの取引を禁止しなければならない。そしてその方針は、1)森林リスクがあるセクターにおける全ての産品を対象とし、2)取引先企業が関連する企業グループ全体に適用されなければならない。この二つの要件を持たない方針は全て、消費財企業や銀行が引き起こしている真の被害から意図的に目をそらすための巧妙なごまかしにすぎない。

朗報は、消費財企業や銀行が、顧客や供給業者の企業グループの全容を評価するために、特別に考案された詳細な方法論が存在することである(訳註:『Shining Light on the Shadows(影に光を当てる)』で説明)。この方法論は、アカウンタビリティ・フレームワーク・イニシアティブ(AFI)による「企業グループ」の定義ーー「当事者のいずれかが他方の行動や業績を監督するという関係によって企業が提携する法人の総体」ーーを用いている。 このアプローチは、消費財企業や銀行の方針範囲の基礎となるべきである。

森林破壊に関する課題と解決策は、熱帯林が広大であるのと同じくらい複雑であるが、ひとつ確かなことがある。「森林と森の民の人権を守る(キープ・フォレスト・スタンディンク)」ためには、消費財企業や銀行は「環境に配慮しているふり」をやめ、しっかりとした方針を打ち出し、真剣に取り組む必要がある。陰で森林を切り倒し、地域コミュニティを破壊する企業グループに現金を提供し、契約書を交わすことは「持続可能」とは言えない。 私たちはその行為を実態に即して呼ぶ必要がある。それは「単純明快な不正行為」であると。

*本記事は、英文 ”The Players Behind a New Wave of Deforestation in Borneo and Papua”(2023年5月22日)の和訳版です(2024年2月15日投稿)。

 

プレスリリース『森林と金融 2022年方針評価』発表〜メガバンクら金融機関の森林ESG方針は不十分〜(2022/10/19)

森林破壊・気候変動・人権侵害への資金流入を防げず

  • 森林破壊リスクのある産品企業に投融資する上位 200金融機関(銀行と投資機関)の森林関連方針を評価。総じて方針は弱く全体平均は10点満点で1.6ポイント、約6割の金融機関が1ポイント未満だった。
  • 上記産品企業300社への資金の流れも分析。その結果、パリ協定以降、世界の銀行は2,670億米ドルの融資・引受を行ない、投資機関は400億米ドルの債権や株式を保有していることがわかった(2022年9月時点)。
  • メガバンクの方針評価はMUFGが5.4ポイント、みずほは6.9ポイントと高評価を得るも、問題の多いインドネシアの紙パルプ大手2グループに多額の資金を提供している。

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部サンフランシスコ、以下、RAN)を含む8団体で構成する「森林と金融」連合は18日、「森林と金融」データベースを更新し、「2022年方針評価」を発表しました(注1)。新たに世界大手200金融機関(銀行と投資機関)の森林関連方針を評価・分析した結果、全体平均は10点満点のうち1.6ポイントと総じて低評価で、農林業その他土地利用(AFOLU)セクターに投融資を行う金融機関には十分な環境・社会・ガバナンス(ESG)方針がないことが浮き彫りになりました。

また、更新したデータを分析した結果、パーム油や紙パルプなど森林をリスクにさらす産品(以下、森林リスク産品)への多額の金融サービスを金融機関が行っていることも明らかになりました。 パリ協定締結以降の2016年から2022年9月、森林リスク産品企業300社に2,670億米ドルの融資・ 引受が行われ、新型コロナウイルスの世界的流行時には減少したものの2021年には2018年の水準に戻りました(図1)。農林業その他土地利用セクターは世界の温室効果ガス排出量の23%を占めているにもかかわらず(注2)、不十分な方針のもとで森林リスク産品への資金流入に歯止めがかかっていないことを問題視しました。

評価対象の金融機関には日本のメガバンク3行、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も含まれます。メガバンクが高評価を得た一方、GPIFは0.7ポイントと平均以下でした。

  1位 ノルウェー政府年金基金(7.5ポイント)
  2位 ラボバンク(7.4ポイント)
  3位 ABNアムロ(7.2ポイント)
  4位 みずほフィナンシャルグループ(6.9ポイント)
16位 三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)(5.4ポイント)
31位 三井住友フィナンシャルグループ(4.0ポイント)

*他の日本の金融機関は、41位 JAグループ(3.1)、42位 三井住友トラスト・グループ(3.1)、52位 大和証券グループ(2.2)、57位 野村グループ(2.1)、95位 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)(0.7)など(注3)。

【概要】

『森林と金融』は、東南アジア、ラテンアメリカ、中央・西アフリカにおける紙パルプやパーム油など森林リスク産品への資金流入を包括的に分析したオンラインデータベース。金融商品、銀行・投資機関、国・地域、企業グループ、年、部門別に検索が可能です。

今回の方針評価の対象となった金融機関は、紙パルプやパーム油など森林リスク産品企業に投融資する上位200銀行及び投資機関で、銀行には日本のメガバンク3行、投資機関には年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が含まれます。

  • ●対象事業地域:世界三大熱帯林地域である東南アジア、ラテンアメリカ(アマゾン)、中央・西アフリカ(コンゴ盆地)
  • ●対象産品:牛肉、パーム油、紙パルプ、天然ゴム、大豆、木材(森林リスク産品)
  • ●対象期間:融資・引受は2016年から2022年9月、債券・株式保有は2022年9月時点
  • ●評価方法:各金融機関の森林関連方針を環境・社会・ガバナンス(ESG)の3分野35項目の基準で評価。方法論の詳細(注4)

【主な分析結果】

  • ●方針評価
    全体の平均得点は10点満点中1.6ポイントと総じて低評価でした。全金融機関の59 %が1ポイント未満で、ESGリスクの管理と緩和ができていないことを表しています。また7ポイント以上の評価を得たのはわずか3金融機関で、改善の余地が大きく、気候変動や生物多様性の損失に対処しなければならない緊急性を反映しているとは言えません。
  • ●金融サービス
    対象金融機関の金融サービスの合計を調査・分析。その結果、森林リスク産品企業300社への融資・引受額はパリ協定締結以降の2016年から2022年9月で2,670億米ドル、株式・債券の保有額は2022年9月時点で400億米ドルであることがわかりました。
  • ●日本の金融機関の評価
    みずほとMUFGの方針評価がそれぞれ6.9ポイント、5.4 ポイントと高評価ながらも、インドネシアの紙パルプ大手企業2社のAPP社(シナルマス・グループ)とエイプリル社(ロイヤル・ゴールデン・イーグル・グループ)に多額の資金を提供しています。
    GPIFの評価は昨年に続き0.7ポイントと低く、PRI(責任投資原則)に署名している一方で、ブラジル牛肉大手企業への1,900万米ドルの投資が確認できました。

【ケーススタディ】

ブリーフィングペーパーでは森林破壊の要因となるセクターとして、インドネシアの紙パルプ産業とアマゾンの牛肉産業への金融の役割について事例紹介しています。両産業に金融サービスを提供する金融機関の方針について、環境・社会基準6項目(森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、火災禁止、強制労働・児童労働禁止、先住民族及び地域コミ ュニティの「自由意思による事前の十分な情報に基づく同意(FPIC)」の尊重)で評価したところ、方針は非常に弱く、火災の原因となる環境悪化の防止、先住民族や地域コミュニティの権利保護、強制労働及び児童労働による搾取禁止の措置はほとんど講じられていないことが判明しました。上記6項目は、森林保護の国際基準となっている「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE: No Deforestation, No Peat, No Exploitation)が方針に採用されているかが鍵となります。

RAN日本代表 川上豊幸のコメント

「メガバンクにとっての大きな課題は、3行ともに投融資先企業に対してNDPE方針遵守の公表、あるいはNDPEに準ずる方針作成を求めていますが、企業グループ全体での遵守を明確には求めていない点です。つまり、投融資先企業にNDPE方針の遵守状況の確認を十分に行う体制が整っていません。そして遵守確認は事業ごとに判断され、投融資先企業全体や企業グループ全体での遵守評価が行われてもいません。そもそも、MUFGはNDPE遵守の公表をパーム油の農園企業や他の大規模農園には求めていますが、紙パルプ部門を含む森林セクター方針に含まれていない点も問題です。

 加えて、メガバンクの森林セクター方針では、取得すべき森林認証として、FSC認証よりも脆弱なPEFC認証が認められています。そのため、FSC認証を取得することができない問題企業にも資金提供が可能となっていることから、早急な方針改善が必要です」

 

「森林と金融」連合は、森林リスク産品セクター特有の社会・環境面での負の影響を止めるために、銀行と投資機関に強固なESG基準とデュー・デリジェンス (相当の注意による 適正評価)の必要性を訴えています。

 

参考:インドネシア紙パルプ大手とブラジル牛肉大手への銀行別融資・引受額と方針得点

(「森林と金融 2022年方針評価」ブリーフィングペーパーより)

  • ●MUFGとみずほは、APP社(シナルマス・グループ)とエイプリル社(RGEグループ)の大きな債権者である。APPとエイプリルは自社パルプ工場の生産能力拡大を計画し、インドネシアの泥炭地と熱帯林への負荷の高まりが懸念されている(注5)。
  • ●みずほは紙パルプ部門で火災・人権基準を盛り込んだ融資・引受方針を設けているものの、2016年から2022年9月に12億ドルもの融資・引受を行なっている。これはインドネシア4行とHSBCに次いで6番目に多い金額であり、同行の方針の実施状況が疑問視される。

  • ●ブラジル牛肉部門はアマゾンでの森林破壊の要因となっている。GPIFが投資しているブラジル牛肉大手3社は、10年以上前に署名した森林破壊ゼロの約束を実行できず、いまだにサプライチェーンに森林破壊がないことを保証できていない。 

注1)「森林と金融」データベース(英語日本語
銀行方針評価まとめ(英語、「総合得点(Weighted Total)」で「降順/昇順」を選択)
「森林と金融 2022年方針評価」ブリーフィングペーパー(2022年10月発行)
「森林と金融」構成団体:レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)、プロフンド(Profundo)、TuKインドネシア、バンクトラック、アマゾンウォッチ、レポーターブラジル、サハバット・アラム・マレーシア(国際環境NGO FoE Malaysia)、FoE US

注2)IPCC 『土地関係特別報告書』(英語)
参考:環境省「IPCC 『土地関係特別報告書』の 概要」、2020年度

注3)GPIF以外の、60位以下の日本の金融機関
日本生命保険(62位、1.9ポイント)、オリックス・コーポレーション(71位、1.5)、群馬銀行(81位、1.0)、地方公務員共済組合連合会(132位、0.2)、公立学校共済組合(0ポイント)

注4)方針評価の方法論:200の大手銀行・投資機関の公開されている方針を環境・社会・ガバナンス(ESG)の3分野35項目の基準で採点・分析。各金融機関が基準項目に明確に取り組み、対象企業とサプライヤーに基準を適用していれば10点、サプライヤーに基準が適用されていないなど部分的遵守は8.5点とした。そして35項目の合計得点を0から10ポイントに標準化した。また産品別でも採点され、各金融機関の投融資額の合計に各産品事業が占める割合を算出し、加重平均の上、合計した数字を総合得点とした。

評価基準35項目の概要:

  • ●環境分野(10項目):森林破壊禁止、泥炭地開発禁止など
  • ●社会分野(10項目):先住民族や地域コミュニティの権利尊重(自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)原則の実施)など
  • ●ガバナンス分野(15項目):投融資の透明性、汚職規制、情報開示など

注5)参考:RANブログ「MUFGとみずほが「ネットゼロ」不履行、 インドネシア紙パルプ大手の事業拡大に資金提供」、2022年1月31日

 

団体紹介
レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
東京都渋谷区千駄ヶ谷1-13-11-4F
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org