サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

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共同プレスリリース:環境NGO、東証プライム4企業に対して株主提案〜メガバンク全3社含む日本企業の取締役のコンピテンシーに関する開示を要求〜(2024/4/15)

国際環境NGO マーケット・フォース
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

国内外の環境NGOとその代表者を含む個人株主は4月15日までに、金融、電力の2業界の4企業(三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ、日本最大の発電会社・JERAの経営に大きく関与する中部電力)に対し、気候変動対策の強化を求める株主提案を提出しました。

我々は関連企業との対話を続けてきましたが、より一層の気候変動対策への注力を期待し、今年は企業の取締役会に焦点を当てた提案を提出しています。提出先企業の取締役会が、気候関連事業リスク及び機会の適切な監督を行う上で必要な能力あるいは人材を備えているか、株主が評価する上で必要な情報開示を求める議案となっています。

株主提案

昨年の株主総会シーズンで日本企業は過去最多の気候変動に関する株主提案に直面しました。近年、このような株主提案は環境NGOに限らず、国外の機関投資家や地方自治体からも提案されています。多様なステークホルダーが高炭素排出企業による気候変動対策の遅れに対して、広範囲に及ぶ悪影響のみならず、企業価値の低下を招くとの危機意識を共有し、行動に移しています。我々が提出した議案も機関投資家に幅広く支持されました。

メガバンク3社については、気候変動への公約及び気候変動リスク管理戦略を踏まえ、これらの実効性を株主が判断できることが重要です。化石燃料セクターの顧客の移行計画とパリ協定1.5℃目標との整合性について、メガバンク各社がどのように評価を行うか、そして当該セクター顧客がパリ協定に沿った信頼性の高い移行計画を作成しなかった場合、新規資金の制限を含む、対応措置をどのようにとるのかの開示を求めています。

提出先企業が抱える問題の要点は以下の通りです(業界ごと)

■メガバンク

「メガバンクの気候変動対策は1.5度に気温上昇を抑えるために科学が明確に求めている行動水準からいまだに大きく乖離しており、このことは企業価値をリスクにさらします。特に、石油・ガスへのファイナンス方針においてアジアの銀行を含む競合他社から大きく遅れをとり、高リスクの事業に資金を提供し続けており、リスク管理能力が問われています。我々の2つの提案が可決されれば、メガバンクの取締役会に気候関連の事業リスクと機会を監督する能力が備わっているか、またメガバンクが重視する高排出企業への移行エンゲージメントの実効性について株主が評価できるようになるでしょう。ひいては、メガバンクの気候変動対策の強化に繋がり、企業価値の維持・向上にも資すると考えます。」

(マーケット・フォース, 日本・エネルギーファイナンスキャンペーン担当, 渡辺瑛莉)

 

「メガバンクは、融資先の移行計画への評価体制が緩い点が問題です。気候危機下で効果的な管理を行うための取締役など経営レベルでの専門性が不足しているように見えます。結果として、1.5℃目標の達成を困難にするような事業計画を持っている企業にも融資が継続されたり、また、銀行としての方針や管理体制が不十分なのではないかと私たちは懸念しています。例えば、LNGセクターでの事業拡大を進める企業への資金提供を継続し、MUFGとみずほは先住民族の人権を侵害している米国のリオ・グランデLNG事業でも重要な役割を果たしています。3行とも、木質バイオマス発電事業や農業など高炭素セクターでの生物由来CO2排出量の集計も行なっていません。メガバンクにはネットゼロにコミットし、脱炭素社会へのシステム移行をサポートする金融機関として、融資先企業や政府の移行計画の妥当性を見極め、対処する管理能力が問われています。」

(レインフォレスト・アクション・ネットワワーク, 日本シニア・アドバイザー, 川上豊幸)

 

■中部電力

今年は特に『第7次エネルギー基本計画』についての検討が行われる重要な年です。中部電力およびJERAは、引き続き、水素・アンモニア、CCSの導入促進および原発再稼働で脱炭素を図るとしていますが、それらによる実質的な排出削減効果と経済性、さらに安全性の保障を鑑みれば、まったく解決策にはなっていません。根本的な方針転換をするには、会社経営を担う人たちに科学的知見を踏まえた判断をしていただく必要があります。真の脱炭素、再エネが主力となる社会に向かっていくには柔軟な考え方と思い切った転換が必要です。」

(気候ネットワーク, プログラム・コーディネーター, 鈴木康子)

 

「採掘から使用を含めた供給網全体で化石燃料からの脱却なしに気温上昇を1.5度以下に抑制することは極めて困難です。中部電力とJERAの移行計画は、1.5度目標のタイムラインに沿っているとは言えず、両社は大きな移行リスクを抱えるとともに気候変動の悪化を招こうとしています。中部電力の取締役会は真正かつ実効性のある移行計画を後押しする監督責任があり、今後厳しい目で見られることになるでしょう。そもそも、取締役会の気候リスク監督能力を株主が評価するための情報が不足しているのが現状です。」

(マーケット・フォース, エネルギーファイナンスアナリスト, 鈴木幸子)

 

株主提案の提出先企業に求める情報開示は、コーポレートガバナンス・コードの求め、及び投資家団体(CA100+やTPI等)、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)等を通じ、投資家が求める情報開示に合致しています。

また、株主提案を提出先となった企業は、座礁資産リスク(環境や市場、規制の変化で企業が将来的に減損処理する資産を抱えること)や訴訟リスク、ブランド価値の毀損など将来の企業価値に関する重大なリスクを抱えています。また、こうした企業が誤った戦略を取り続けると気候変動対策の妨げともなりかねません。

企業が我々の株主提案を真摯に受け止め、投資家の方々の後押しを受けて気候変動対策を強化するとともに情報開示を進めることが、企業価値の向上に繋がり、ひいては気候危機を防ぐ一助となるとして、ご理解を得られることを期待しています。

 

■ 株主提案に関する詳細 

メガバンク3社(こちらから)

中部電力 (こちらから)

 

■ 株主提案に関する特設サイト

各社への提案書および投資家向け説明資料は特設サイトからもダウンロードいただけます。

Asia Shareholder Action: https://shareholderaction.asia/ja/

 

■ 株主提案の内容に関するお問合せ先

□ マーケット・フォース(Market Forces)https://www.marketforces.org.au
日本語窓口(松木):TEL:+81-80-4395-8529
担当者:Antony Balmain E-mail: contact[@]marketforces.org.au
Tel: +81-80 4395 8529

□ 気候ネットワーク  
https://www.kikonet.org

東京事務所:TEL:+81-3-3263-9210
担当者:鈴木康子 E-mail: suzuki[@]kikonet.org

□ レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)
japan.ran.org

担当者:川上豊幸 E-mail: toyo[@]ran.org

記事:ホワイトハウス、LNG輸出の新規許可を一時凍結 ウォール街も後に続くべき(2024/2/13)

ジンジャー・キャサディ(レインフォレスト・アクション・ネットワーク)
フアン・マンシアス(米テキサス州カリゾ・コメクルド族)

(本記事は、米誌「Newsweek」に寄稿した記事の翻訳版です)

米国メキシコ湾岸の石油・ガス開発反対運動のリーダーたちは勝利を収めた。米政権が、液化天然ガス(LNG)として知られるメタンガスの輸出施設の新規認可を一時凍結するよう指示したのだ。メキシコ湾岸では、私たちの世代で最大の石油・ガス開発が計画されている。この一時凍結は、開発中止を求める地元住民やリーダーたちの請願に応えたもので、化石燃料拡大の時代の終焉を告げる画期的な出来事となり得る。開発中止の呼びかけはホワイトハウスで終わらず、漁民、公衆衛生の専門家、科学者、アメリカ先住民族、そして一般市民が、銀行保険会社にも、これらの開発事業を中止するようプレッシャーをかけている。

環境保護活動に反対する主張でよくあるものは、「利益追求」と「保全活動」は相反するという考えだ。つまり「利益追求」は本質的に経済にとって、ひいては人間にとって有益なものだが、「保全活動」は大気や土地、植物、水、野生生物を保護するが、人間の利益のためではないという論理だ。しかし、この主張は米国メキシコ湾岸の実情から遠くかけ離れている。ここで暮らす先住民族の文化には、「大地の健康」は「人々の健康」と同義で、切っても切り離せないという考え方がある。

彼らの考えが正しいことは明白だ。同地域では、土壌や大気の有害物質によって人々が命を落としており、一帯は「がん回廊(Cancer Alley)」という悪名高いあだ名で呼ばれているのだから。メタンガス輸出施設付近の地域住民が健康被害を被っていることや、化石燃料に起因する気候災害に世界中の人々が直面していることを考えれば、これらの事業に反対する道徳的根拠には、反論の余地がない。地域の生活に決定権を持つ人々に良心があるならば、利益、人々、環境の間の分断がこれ以上続くことを止めるだろう。これは多数を犠牲にして、少数と利益を共有する銀行や保険会社にも言えることだ。

メタンガスに反対する経済的根拠も高まっている。メタンガスの輸出は米国の一般家庭のエネルギー価格を引き上げ、メタンガス施設が建設される地域の先住民族や黒人、褐色人種のコミュニティの生活を破壊している。さらに、メタンガスの輸出は石炭よりも気候に悪影響を及ぼすという事実が、新たな調査によって浮き彫りになっている。メタンガスの供給が過剰になることは予測されており、その価格を破壊するだろう。全ての化石燃料の拡張事業は、メタンガス拡張事業に見られる負の傾向と同じ問題に直面している。

バイデン政権によるメタンガス輸出凍結により、提案段階にある12件の計画が停止される見込みだ。自然保護団体シエラクラブによれば、これは石炭発電所223基分の温室効果ガス(GHG)排出に相当する。米国にはすでに8つの既存のメタンガス輸出基地(ターミナル)があり、さらに7つの事業が建設中だ。建設中の事業には、テキサス州リオ・グランデ・バレーの未開発の海岸線での新規基地建設(訳註1)や、ルイジアナ州とテキサス州に所在する既存事業の拡張などが含まれる。投資家は、停止中の事業のリスクが大幅に高まったことを否定できないだろう。全てのメタンガス輸出拡大事業、特に民族の抹消(訳註2)などといった現在起きている重大な人権侵害を永続させるような事業は、中止を求めるコミュニティからのプレッシャーというリスクに直面している。

化石燃料セクターは、化石燃料を拡大する全ての事業を止めるよう求める業界アナリストやコミュニティのリーダーからの訴えを、無謀にも無視し続けている。金融機関や投資家は、そのようなセクターで、座礁資産市場の変動による投資の破壊、資金提供を通じて問題に加担したことによる法的リスクの増大といったリスクを負いながらギャンブルすることをやめなければならない。

銀行や保険会社は何十年もの間、化石燃料事業への資金提供による気候や地域社会への影響を無視してきた。メキシコ湾岸の反対運動のリーダーたちは、ウォール街に対して、ホワイトハウスと同様に行動することを求めている。しかし、金融機関は、黒人や褐色人種、先住民族のコミュニティに汚染被害をもたらすメタンガス事業への支援を取りやめていない。

LNG輸出認可を一時停止するというホワイトハウスの発表により、金融業者と投資家の選択肢は明確になった。化石燃料の拡大への支援を中止するなど、全ての人の生命を守るために必要な方針を策定するか、それとも、政府の規制にますます反するようになっているギャンブルを利益目的で続けるか、のどちらかなのだ。メキシコ湾岸と世界中の人々の命を救うために、今こそリーダーシップが必要だ。ウォール街はホワイトハウスの後に続き、大胆に行動しなければならない。

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク事務局長
ジンジャー・キャサディ

テキサス州カリゾ・コメクルド族チェアマン
フアン・マンシアス

*本記事で述べられている見解は執筆者個人のものです。

 

訳註1)リオ・グランデLNG事業の概要や問題点については、日本のNGO「環境・持続社会」研究センター(JACSES)がまとめたファクトシート(2024年4月発行)を参照のこと。

https://jacses.org/wp_jp/wp-content/uploads/2019/10/f3f4587241d5a547e73247c7eea46d96.pdf

訳註2)テキサス州の先住民カリゾ・コメクルド族は、アメリカ先住民族であるにもかかわらず、連邦政府から公認の先住民族としての法的地位や土地権などが認められていない。彼らは長年、この「民族の抹消」という深刻な人権侵害とたたかい、また先祖代々に伝わる土地を環境破壊などから守る活動を行ってきた。現在、彼らの聖地にメタンガス輸出施設やパイプラインが建設されるのを阻止するために、世界的なキャンペーンを展開している。彼らの活動の結果、輸出施設の建設が中止・遅延されたり、投融資を検討していた銀行が事業から撤退するなどしている。

(和訳版発行日:2024年9月3日)

共同プレスリリース:日本企業に気候変動対策を求める投資家の圧力、一段と強力に(2023/6/29)

国際環境NGO マーケット・フォース
国際環境NGO FoE Japan
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

2023年6月29日(木) : 気候変動関連の株主提案は年々増えており、2023年の株主総会シーズンは日本企業に対して提出されたネットゼロの達成に向けた行動と透明性の向上を求める株主提案の数が過去最多となりました。

先週から本日にかけて実施された三菱商事、日本最大の発電事業者であるJERAの株を共同所有する東京電力ホールディングスと中部電力、メガバンク3行(三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ)の株主総会で気候変動に関する株主提案が決議されました。

株主提案を行ったのは環境NGOの気候ネットワーク、マーケット・フォース、 またFoE Japan、レインフォレスト・アクション・ネットワークに所属する個人です。株主提案を通じて、対象企業に対して短期を含めた排出削減目標の設定やさらなる引き上げ、気候関連リスクの管理の改善を求めました。

上記の株主提案の議決結果は、気候変動に関するリスクへの対処に関して課題を抱える企業に対して、引き続き厳しい目が向けられていることを意味します。

三菱商事

「今年の三菱商事の株主総会では、約2兆円(140億米ドル)に相当する投資家の約20%が、我々が提出した株主提案の1つに賛成票を投じました。これは、投資家が三菱商事の気候変動に関する情報開示の進展にまだ満足しておらず、2050年までのネット・ゼロへの実行可能な道筋があると結論づけるには不十分であることを示しています」
福澤恵(マーケット・フォース エネルギー・ファイナンス担当)

「昨年の株主提案以降、三菱商事は情報開示内容を拡充するなど、一定の進展がみられた一方で、気候危機を食い止めるために十分な削減目標などを設定していません。さらに、昨今のエネルギー危機は、化石燃料への依存を深めることは気候変動を悪化させるだけでなく、エネルギー安全保障をも悪化させるということを示しました。提案は否決されましたが、引き続き三菱商事の方針強化を求め対話を継続していきます」
深草 亜悠美 (FoE Japan気候変動・エネルギー担当/事務局次長)

中部電力

「中部電力の2050年に向けたロードマップは、実現性・具体性に欠けています。低効率石炭火力のフェードアウト、高効率のアンモニア混焼化などで目標を達成すると主張していますが、具体的な削減策は示されていません。持株会社であるJERAが、国内外で新規の化石燃料事業に関与し、GXのもとで脱炭素策としてのアンモニア混焼を広げようとしていることも問題です。中部電力およびJERAが2050年ネットゼロ目標を達成するための責任を果たすことを引き続き求めていきます」
鈴木康子(気候ネットワーク プログラム・コーディネーター)

東京電力HD

「東京電力では、2050年CO2排出ゼロを掲げながら、そのロードマップは具体性に欠け、根拠となる情報開示がなされていません。特にグループ会社であるJERAは国内最大の排出事業者であり、昨年の武豊火力に続き、今年、来年は横須賀火力と、次々と対策のとられていない石炭火力発電を新規稼働させる予定で、排出量は増大する見通しですが、その説明責任を果たしていません。私たちの提案は否決されましたが、引き続き情報開示を求めていきます」
桃井貴子 (気候ネットワーク理事・東京事務所長)

MUFG、三井住友FG、みずほFG

「MUFG の株主総会では、木質バイオマス発電は石炭などの化石燃料への融資に比べて相対的に少ないため、重要性(マテリアリティ)が少ないという発言が担当者からありました。続けて『マテリアティが増せば対応を検討する』との発言もあり、これは一歩前進したといえます。メガバンク全体では、木質バイオマス発電問題について少しずつ理解が進んでいますが、排出量の算定と厳格な方針策定には至っていません。今後、石炭火力発電への木質燃料の混焼が増えれば、排出量は確実に増え、石炭火力発電の延命につながります。このままでは脱炭素への適切な移行ができません」
川上豊幸(レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表)

「みずほの株主のおよそ2割の賛同を得られたことは、同行の化石燃料セクターの投融資方針と削減目標が2050年ネットゼロの公約と整合していないことに対する投資家の強い懸念が表明されたと言えます。また、株主総会開催前の段階でMUFGとSMFGの提案にはそれぞれイタリア最大手のアセット・マネージャーであるANIMAをはじめ、運用資産額1870億ユーロ(MUFG)、2780億ユーロ(SMFG)相当を保有する機関投資家がすでに賛同を表明しています。特に脱炭素へのトランジション(移行)の名の下に、新規のガス開発やLNG設備への支援を継続することは、気候科学に真っ向から矛盾し、グリーンウォッシュであるだけでなく、投資家に容認できない多額の財務リスクをもたらします。リスク軽減のためには、適切な財務およびESGリスク評価を行うとともに、気候科学に整合しない政府政策に依存するのではなく、科学に基づき株主が求めている新規の石油・ガスへの投融資を制限する方針を早急に掲げる必要があります」
渡辺瑛莉 (マーケット・フォース, 日本エネルギー金融キャンペーナー)

「3メガとも、年々ポリシーを改定あるいは強化を進めてきているとは云え、総会で経営陣の説明や質疑応答を聞いていると、気候危機、および気候変動の主要因となっている化石燃料に資金提供することについての危機感にギャップがあると感じざるを得ません。日本政府の方針に従っているのでは、ネットゼロに向かう世界の動きから取り残されてしまいます。銀行に限らず、民間各社が日本の脱炭素対策を牽引するようになってくれることを切に願っています」
鈴木康子(気候ネットワーク プログラム・コーディネーター)

報道機関関係者の皆様へ

気候変動に関する株主提案、2023年も日本は最多更新見込み

2023年、多くの投資家がグローバル企業の気候変動対策の遅れに対して、深刻な懸念を表明しました。化石燃料事業への投融資を続ける金融機関や脱炭素対策に遅れが見られる企業に対して、炭素集約型ビジネスへの関与から低排出セクターへの包括的な移行を求める声は強まる一方です。特に、金融機関の取り組みに対しては厳しい視線が向けられており、今年米国のJPモルガン(35%)やウェルス・ファーゴ(31%)、ゴールドマン・サックス(30%)、バンク・オブ・アメリカ(29%)に対して提出された気候変動対策における移行計画を求める株主提案の賛成比率(かっこ内の数字)は軒並み高水準となりました。2023年、日本のメガバンク3行に対して同時に気候変動に関する株主提案を提出した背景には、国際的な投資家や株主が共有する気候危機への強い危機感と、日本の銀行も早急に1.5℃目標に整合する対策を講じるべきとの考えがあります。

日本では、欧州の機関投資家・年金基金計3社からトヨタ自動車に対して気候変動対策における渉外活動に関する年次報告書を作成することを求める株主提案が提出され、国際的な注目を集めました。加えて、電源開発にも2年連続で仏・アムンディ、英・HSBCアセットマネジメント、豪・ACCR(Australasian Centre for Corporate Responsibility)から気候変動に関する株主提案が提出されています。そのほかの企業に提出された議案も含め、2022年に続き今年も気候変動に関する株主提案は過去最多となる見込みです。

日本と気候変動に関する株主提案の効果

マーケット・フォースは2021年、住友商事に対してパリ協定の目標に沿った事業活動のための事業戦略を記載した計画の策定、及び開示を求める株主提案を提出しました。提案は20%の賛成票を獲得し、その後の石炭火力に関するポリシーの改善につながりました。さらに住友商事は2022年2月にバングラデシュのマタバリ2 石炭火力発電所から撤退することを発表しました。

2020年、気候ネットワークがみずほFGに株主提案を行い、みずほFGは日本の銀行として初めて、2050年までの石炭火力フェーズアウト目標(後に2040年に変更)を設定しました。他の2メガバンクもこの動きに追随しています。

2021年、350.org Japan、RAN、気候ネットワーク、マーケット・フォースは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)に対し、株主提案を提出しました。決議後、MUFGは2050年までにポートフォリオ全体でネットゼロを目指すことを発表し、日本の銀行として初めてネットゼロバンキングアライアンスに加盟しました。その後、みずほFG、三井住友FGも追随しています。

2022年、350.org Japan、RAN、気候ネットワーク、マーケット・フォースは、三井住友FGに対して気候変動に関する株主提案を2件提出しました。株主提案の提出後、同社は石炭採掘部門の投融資方針を強化し、新規および既存プロジェクトの拡張と関連するインフラ開発への投融資を制限しました。2023年5月には、同社はEACOP(東アフリカ原油パイプライン)に関与していないことを発表しました。

気候変動対策を求める企業と株主の対話は、これまで上記のような形で株主提案に至りましたが、これらの議案は企業の取り組みの改善に重要な役割を果たしました。今年の株主提案の対象となった企業も、これまでに情報開示の改善を行っており、今年に統合報告書が公開されれば、さらに改善されることが予想されます。

 

Photo credit: 350 Japan

関連情報

株主提案に関するより詳しい情報(投資家向け説明資料など)は以下のページを御覧ください
Asia Shareholder Action

共同プレスリリース「国内外の環境NGOが東証プライム6企業に株主提案 〜メガバンク全3社含む日本企業の気候変動対策に問題提起〜」2023年4月11日

株主提案の内容に関するお問合せ先

□ マーケット・フォース(Market Forces) https://www.marketforces.org.au
担当者:Antony Balmain E-mail: contact[@]marketforces.org.au

□ 国際環境NGO FoE Japan https://www.foejapan.org/
担当者:深草亜悠美 E-mail: fukakusa[@]foejapan.org

□ 気候ネットワーク https://www.kikonet.org
東京事務所:TEL:+81-3-3263-9210
担当者:鈴木康子 E-mail: suzuki[@]kikonet.org

□ レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)japan.ran.org
担当者:関本幸 E-mail: yuki.sekimoto[@]ran.org

共同プレスリリース:パリ協定に整合する気候変動対策の強化を求める株主提案の議決権行使結果(2022/11/8)

特定非営利活動法人 気候ネットワーク
国際環境NGO 350.org Japan
国際環境NGO FoE Japan
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

2022年4月、国内外の環境NGOとその代表者を含む複数の個人株主が、金融、商社、電力の3業界の4社(三井住友フィナンシャルグループ、三菱商事、JERAの株主である東京電力ホールディングスと中部電力)に対して気候変動対策の強化を求める株主提案を提出しました。これらの提案は、6月後半の各社の株主総会にて否決されましたが、表2に示すように一定数の賛同を得ることができました。提案は主に、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)勧告の内容に沿って、ネットゼロ達成のための具体的な計画の設定・開示を求めるものでした。

今回の調査からは、1) 定款変更という形式への課題が残る一方で、気候変動対策の強化を求める株主提案への支持が国内外の投資家の間で広がっていること、2) パリ協定と整合する経営戦略の策定・開示を求める提案への支持がより集まった一方で、企業のビジネスモデルの根幹に影響をおよぼし得る株主提案への支持も一定程度集まったこと、3) 大手議決権行使助言会社の判断に関わらず、企業との建設的対話(エンゲージメント)を通じて独自の判断を下す投資家が増えてきていること、が見てとれました。

ここに各提案に対する議決権行使の調査結果を報告致します。 

 

株主提案に対する議決結果

4社の提案に対する機関投資家の議決権行使状況を公開情報から調査した結果、2022年10月31日までに把握できたそれぞれの提案に対する賛否(企業・団体の数)は表1のとおりです。(提案詳細は表2を参照)

*分裂とは、企業またはグループ会社の中で議決権行使の賛否が分かれているケース。合計とは、各提案に対して議決権行使を行った投資家の中で、今回の調査で結果が確認できた企業・団体の数の集計。

気候変動に関連する株主提案は世界でも増加しています。こうした提案に対し、長期的な気候変動リスクに適応する戦略の策定および開示は企業価値の向上に資するとする賛成の意見がある一方、中長期的な企業価値に対する気候変動リスクは重要だが定款に入れ込むのは対象企業の業務執行に具体的な制約を加える懸念があるといった反対意見も見受けられました。

日本の会社法の下で株主からの提案を議題に載せるには、定款変更を求めるものに縛られている状況を踏まえると「定款への記載が妥当ではない」ことが判断理由とされてしまう点は課題です。一方で議決権行使結果を見ると、気候変動問題の重要性に対する理解は着実に広がっていることが見てとれます。

 

議案に対する賛成率

議案に対する賛成率からは、パリ協定と整合する経営戦略の策定・開示を求める提案(SMBCグループ議案4・三菱商事議案5)に対して、投資家からの賛成が得やすい傾向が見られます。とはいえ、企業の事業戦略(ビジネスモデル)の根本にも影響し得るネットゼロに向けた移行を求める株主提案にも10~20%程度の支持が得られていることは注目に値します。議決権の2/3以上の賛成を得られていない以上、法的拘束力はありませんが、企業としても無視できない数の機関投資家が気候変動対策の強化を求めていることを示唆しています。

大手助言会社や国内外の運用受託機関の判断

今年は、投資家の議決権判断に一定の影響力を有すると言われている、議決権行使助言会社大手のグラスルイス(Glass Lewis)とインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)の判断も大きく分かれました。

SMBCグループの議案4、三菱商事の議案5、6については、助言会社の意見が割れていたにも関わらず、株主から一定の賛同を得られたのは、2050年ネットゼロという明確な目標に向け、気候変動対策に関する方針に対して独自の判断を下す機関投資家が増えてきていることや、機関投資家が議決権行使前に企業とサステナビリティ(持続可能性)に関する建設的な対話(エンゲージメント)をする機会が増えていることが背景にあると思われます。

2020年にみずほフィナンシャルグループに株主提案を出した時点では、国内の機関投資家が助言会社以外の国外の機関投資家の動向に追随する動きは限定的でした。2020年に日本版スチュワードシップ・コードが改訂されて以降、日本の機関投資家にとっても「気候変動対策と経営戦略」のつながりについての認識が変化してきているように見受けられます。

定款変更に記載する内容として適切かという議論は残るものの、気候変動問題の重要性や、中長期的な計画が企業価値に影響をおよぼすとの認識への理解は広がってきています。その傾向は、国外の主な機関投資家の提案に対する議決権行使結果を見るとより明らかです。

国内投資家に比べると国外投資家は賛成票が多くなっています。一方で、エネルギー危機の中で脱炭素の機運が弱まりかねない状況下において、すべての提案に一括して「反対」した国外の大手資産運用会社があったことは懸念されます。

 

今後に向けて

国内外の機関投資家の多くは、2050年ネットゼロを目指す資産運用会社の国際的な枠組みである「ネット・ゼロ・アセット・マネージャーズ・イニシアティブ(NZAMI)」に署名しています。NZAMIのコミットメントを達成できるかどうかは投資先企業の行動に大きく依存するため、機関投資家は投資先企業に対し脱炭素化に向けた取り組みの強化・加速化を促していく必要があります。

企業側は、TCFDレポートを作成して情報開示を進めたり、2050年に向けた長期目標を設定し、独自の気候変動対策計画を公開するなど、一定の取り組みは進めていますが、株主提案の対象となったいずれの企業も2050年の目標達成に向けた具体的な計画を示すには至らず、対策は不十分なままです。各社は、株主提案への議決権行使結果も踏まえ、脱炭素目標に向けて現実的かつ具体的な行動を盛り込んだ計画を示し、行動を加速させていくことが強く求められています。

 

集計結果

株主提案への議決権行使結果(PDF)

 

関連情報

【プレスリリース】国内外の環境NGOが国内4企業に株主提案(2022年4月13日)

【共同プレスリリース】三菱商事への株主提案は否決:三菱商事は情報開示と気候変動対策の強化を(2022年6月24日)

【共同プレスリリース】 株主総会にて東電・中電とも否決、ただし東電は約9.55%(速報値)獲得(2022年6月28日)

【共同プレスリリース】投資家たちが日本企業に迅速な気候変動対策を要求(2022年6月29日)

本件の連絡先

気候ネットワーク   https://www.kikonet.org
東京事務所:TEL:+81-3-3263-9210
担当:鈴木康子 E-mail: suzuki[@]kikonet.org

共同プレスリリース:国内外の環境NGOが国内4企業に株主提案 〜日本企業は過去最多の気候変動関連株主提案に直面〜

マーケット・フォース
国際環境NGO 350.org Japan
国際環境NGO FoE Japan
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

4月11日、国内外の環境NGOとその代表者を含む個人株主(注)が、金融、商社、電力の3業界の4企業(三井住友フィナンシャルグループ、三菱商事、JERAの株主である東京電力ホールディングスと中部電力)に対し、気候変動対策の強化を求める株主提案を提出いたしました。

4企業に対する今回の株主提案は、パリ協定目標と整合する中期および短期の温室効果ガス削減目標を含む事業計画の策定、あるいは、2050年炭素排出実質ゼロ(ネットゼロ)への移行に向けた資産の耐性の評価および開示などを企業に求めるものです。

近年、公的部門や民間部門によるネットゼロへのコミットメントが増加しています。海外の機関投資家は石炭火力発電事業、さらには化石燃料関連事業への支援中止や投融資からの撤退を進めており、昨年のCOP26でも脱炭素や森林破壊停止に向けた流れが明確に示されました。世界経済は、気候危機の脅威と状況に適応する必要に迫られており、日本はこの転換の最前線にいます。変化が急速に進む中、気候変動に対する戦略の策定、および実質的な対策を怠っている企業は、座礁資産の増加や訴訟、ブランド価値の毀損など将来に対する重大なリスクを抱えていると言えます。投資家は、こうした脅威を懸念し、企業が行動を起こすことを求めているのです。

気候変動への対策を求める株主行動が世界的に増加しています。我々の提案も、パリ協定の目標や2050年までのネットゼロ目標に反して、新たな化石燃料事業への開発を支援したり、融資を継続したりしている企業に行動を促すことを目的としています。

今回、株主提案の対象とした企業(東京電力と中部電力、三菱商事、三井住友フィナンシャルグループ)はそれぞれ環境関連方針を表明している一方で、国内外で化石燃料事業への関与を継続しています。JERA、東電設計(TEPSCO:東京電力ホールディングスのグループ会社)、三菱商事、三井住友フィナンシャルグループの4社が関与している10件のガス事業(計1,780万kW)の運転期間中のライフサイクル排出量は、12億トン(CO2換算)と試算されています。この数字は、日本の2030年までの温室効果ガス排出削減目標のほぼ2倍に相当する量であり、パリ協定と整合しないことは明らかです。

国連や国際的な研究機関は、パリ協定の1.5℃目標を達成するためには、2020年から2030年の間に、世界の石油生産量は年4%、ガスは年3%減少させなければならないと明らかにしています。また、国際エネルギー機関(IEA)の「Net Zero by 2050(2050年ネットゼロ報告書)」は、新たな化石燃料事業への投資はネットゼロシナリオに整合しないと明言し、低炭素ソリューションに投資していくことを重視しています。

こうした科学的な分析に基づき、機関投資家が企業の気候危機対策を重視する傾向が高まっています。投資家グループ「Climate Action 100+」は、2021年に提出された49件という記録的な数の気候変動に関連する株主提案が「歴史的成功」を収めたと評価しています。この中には、エクソンモービルの取締役会で3人の気候変動への関心が高い取締役が新たに選出された特筆すべき決議も含まれています。

世界中でネットゼロへの関心は高まっており、機関投資家は、既に金融機関や企業のゼロ・エミッションに向けた行動に注目し、目標達成に向けた行動を促しています。図らずもウクライナ情勢がエネルギー供給における地政学リスクを顕在化させている中、輸入に大きく依存する化石燃料からの早期撤退が一層必要となっています。

企業が我々の提案を真摯に受け止め、気候変動対策をさらに強化し、脱炭素社会に向け、企業価値の向上を図ることを期待しています。

4社に対する提案はこちら

三井住友フィナンシャルグループへの株主提案(PDF)
三菱商事への株主提案(PDF)
東京電力ホールディングスへの株主提案(PDF)
中部電力への株主提案(PDF)

注) 各株主提案の提出団体および個人株主は以下の通り。なお、個人株主の所属団体は各株主提案を支持している。

三井住友フィナンシャルグループへの株主提案
団体としては、NGOマーケット・フォース(豪)、気候ネットワーク(日)、個人としては、横山隆美(350.org Japan代表)及び渡辺瑛莉(同シニア・キャンペーナー)、川上豊幸(米NGO RAN日本代表)が共同提案に参加。

三菱商事への株主提案
法人としては、マーケット・フォース、気候ネットワーク、個人としては、深草 亜悠美 (FoE Japan 気候変動・エネルギー担当) が共同提案に参加。

東京電力ホールディングスおよび中部電力への株主提案
マーケット・フォース、気候ネットワークが共同で提案。

 

連絡先

マーケット・フォース(Market Forces) https://www.marketforces.org.au
担当者:鈴木幸子 E-mail: sachiko.suzuki[@]marketforces.org.au
担当者:福澤恵 E-mail: megu.fukuzawa[@]marketforces.org.au

国際環境NGO 350.org Japan https://world.350.org/ja/
担当者:伊与田昌慶 E-mail: japan[@]350.org

国際環境NGO FoE Japan https://www.foejapan.org/
担当者:深草亜悠美 E-mail: fukakusa[@]foejapan.org

気候ネットワーク https://www.kikonet.org
東京事務所:TEL:+81-3-3263-9210
担当者:鈴木康子 E-mail: suzuki[@]kikonet.org

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)japan.ran.org
担当者:関本幸 E-mail: yuki.sekimoto[@]ran.org

共同プレスリリース:MUFGが気候関連ポリシー改定と電力・石油ガスセクターの2030年脱炭素目標を公表 (2022/4/1)

〜1.5℃にいまだ整合せず〜

国際環境NGO 350.org Japan
気候ネットワーク
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
国際環境NGO FoE Japan
メコン・ウォッチ
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

本日、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、①「MUFG 環境・社会ポリシーフレームワーク」の改定について、並びに②MUFG Progress Reportを公表しました。

環境NGO6団体は、MUFGの気候変動関連ポリシーおよび脱炭素に向けたセクター別2030年の定量目標の設定について、一定の前進を歓迎するものの、以下のような問題点があると考えます。

 

1.石炭火力発電所向けコーポレートファイナンス残高目標の設定

従来の「2040年までに石炭火力発電所向けプロジェクトファイナンスの残高目標をゼロにする」から、電力セクターの顧客向けコーポレートファイナンスに範囲を拡大したことは前進です。一方で、プロジェクト紐付け以外のコーポレートファイナンスは継続できると解釈できます。新規および既存発電所の拡張計画を持つ企業へのあらゆるファイナンスを制限する方針を持つ海外の銀行の方針と比べてもいまだ不十分です[1]

さらに、「脱炭素社会への移行に向けた取り組みに資する案件は除外」としていることから、CCUS(炭素回収・有効利用・貯留)やアンモニア・水素混焼等の技術を用いた石炭火力発電所案件が対象外となっていることも問題です。こうした技術は不確実性が大きく、2030年までの排出削減にほとんど寄与せず、既存発電所の延命に繋がる恐れがあります[2]

また、世界の気温上昇を1.5℃以下に抑えるためには、石炭火力発電所の稼働を先進国で2030年、世界全体で2040年にはゼロにする必要があります。地域別のアプローチをとっている海外の銀行と比べ、MUFGの方針はいまだ不十分であり、1.5℃目標に整合するとは言えません。

2.「電力」および「石油・ガス」部門の2030年中間目標の設定

2050年投融資ポートフォリオのネットゼロに向けた ①「電力」および②「石油・ガス」セクターにおいて、2030年中間目標を設定したことは、他の邦銀に先駆けての公表であり、一定の前進として歓迎します。一方で、「電力は排出原単位を349gCO2e/kWhから156-192gCO2e/kWhに削減」としていますが、排出原単位を目標とすることは、化石エネルギー電力を増やすことができるという意味において不十分であり、絶対量での削減目標の設定が必要です。また、「石油・ガスは絶対排出量を83MtCO2eから15%-28%削減する目標 」とし、IEAの2℃シナリオまた1.5℃シナリオに整合的だとしていますが、IEAのシナリオはオフセット技術に大きく依拠していることから、COP26で改めて確認されたように、少なくとも世界全体で2030年までの排出量半減が求められます[3]。また、対象範囲を「上流生産事業」に限定しており、石油・ガスパイプラインやLNGターミナル、石油・ガス火力発電所といった化石燃料インフラへの支援は対象外だと解釈できます。こうした中流・下流部門も対象にすべきです。

3.鉱業(石炭)セクターポリシーの改定

従来の「山頂除去採掘方式のみ、石炭採掘事業向けファイナンスを禁止」から、「発電事業向けの新規の一般炭採掘事業へのファイナンスを禁止」としたことは前進ですが、既存案件の拡張事業や、石炭採掘企業向けのコーポレートファイナンスなどは依然として可能であることなどの抜け穴を残しており、1.5℃目標と整合しません。例えば、石炭採掘セクターにおいて拡張計画をもつ、オーストラリアのホワイトヘイヴン・コールやインドネシアのアダロ・エネルギーなどの石炭採掘専業企業に資金提供を継続することが可能です。

なお、みずほフィナンシャルグループはすでに昨年春、今般のMUFGの改訂方針と同様の方針を掲げています。

4.石油・ガス(シェールオイル・ガス、パイプライン)セクターの追加

「ファイナンスに際して特に留意する事業」に、石油・ガスセクターのうち、従来の「オイルサンド」、「北極開発」に加えて、今回新たに「シェールオイル・ガス」、「パイプライン」を追加しましたが、いずれも環境・社会リスクの影響評価に留まり、ファイナンスを禁止するに至っていないことから、そうした方針を持つ海外の金融機関と比べても大きく遅れをとっていると言えます[4]

<共同リリース団体よりコメント>

国際環境NGO 350.org Japan、シニア・キャンペーナー、渡辺瑛莉

「方針発表の前日、MUFGはパリ協定採択以降の化石燃料部門への資金提供で、世界第6位、アジア第1位のワースト銀行であることが国際NGOの調査で明らかになりました[5]。MUFGが今般の発表でいくつかの前進を見せたものの、期限の遅さや抜け穴を多く残していることで、1.5℃に気温上昇を抑えるための気候科学に沿っているとは見なされません。また、今般、邦銀として初めて電力セクターおよび石油・ガスセクターのネットゼロに向けた2030年排出削減目標を公表しましたが、それらも1.5℃目標を守るには不十分であり、さらなる目標の上積みが必要です。気候危機に人類が対応するためには、新規化石燃料インフラや既存設備の拡張事業の開発余地は残されておらず、銀行もそのような事業やそれらを推進する企業へのファイナンスを行わない方針を早急に掲げるべきです。」

「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、プログラム・ディレクター、田辺有輝

「この方針を発表する前日の3月31日に、三菱UFJ銀行は子会社のBank of Ayudhya(現地呼称クルンシィ)を通じて、タイで計画されているヒンコンガス火力発電事業への融資契約を締結したと報道されています。昨日の融資決定は、本日の方針・目標強化の発表に泥を塗ることになった上、発表した石油・ガスセクターに関する方針がパリ協定の目標達成に不十分であることに、改めてスポットライトを当てることになりました。新規石油・ガス事業への融資を早急に停止することが必要です。」

<本件に関するお問い合わせ>

Email: japan@350.org (担当:渡辺)


[4] 世界の66の金融機関・機関投資家が、オイルサンド、北極圏、シェールオイル・ガス、超深海など、技術的にも費用的にも実用化が比較的難しく環境負荷もより大きい非在来型の化石燃料セクターへの支援を制限する方針を有する。既存の技術で採掘が容易で経済的にも利用しやすい在来型の化石燃料も含めて支援を制限するセクター方針を持つ金融機関は14社。https://world.350.org/ja/press-release/20220322/