プレスリリース:米メキシコ湾岸住民と市民団体、 リオ・グランデ・バレーLNG事業への 資金提供の段階的停止を金融機関に要請(2024/7/22)
「私たちは、当該事業がもたらす社会的・環境的影響に関して、支援する金融機関の責任を追及していきます」
(和訳版発行日:2024年8月23日、最後に更新情報あり)
(米ニューヨーク)7月22日、米国メキシコ湾岸の住民と、数百万人の会員・支援者を代表する主要な市民団体らは、テキサス州リオ・グランデ・バレーにおける液化メタンガス(通称「液化天然ガス(LNG)」)事業への支援中止を求める書簡を大手金融機関に送付しました。書簡は、リオ・グランデLNG事業、テキサスLNG事業、および同施設にガスを提供するリオ・ブラボー・パイプライン事業を支援している、または支援する可能性のある40社の銀行、保険会社、資産運用会社、金融機関に送られています(以下のリストを参照。7月22日以降に送付された金融機関もある)。
**書簡(英語原文)はこちら**
書簡からの抜粋
「当該事業に資金援助を行うことは、貴社に財務リスクと評判リスクの両方をもたらし、地域の生態系、先住民族の権利、気候に取り返しのつかない害を及ぼします」
「私たちは、ネクスト•ディケイド社と同社によるリオ・グランデLNG輸出基地(ターミナル)との関係解消、エンブリッジ社とリオ・ブラボー・パイプラインとの関係解消、そして両事業およびリオ・グランデ・バレーや米国メキシコ湾岸一帯で計画されている他の事業にもさらなる金融支援を行わないことを強く求めます」
上記3件のメタンガス輸出施設はまだ建設されていなく、いずれの事業も土地の整地とコンクリート打設を開始または継続するための資金を募っています。テキサス州ポートイザベル近郊は、同州沿岸で手つかずの自然が残る最後の地域のひとつですが、ネクスト・ディケイド社はリオ・グランデLNG事業の建設に向けて地域の重要な湿地帯、干潟、先住民族の聖地をすでに破壊しているところです。
一帯は、何世代にもわたって沿岸の重要な野生生物やオセロット(ネコ科動物)などの絶滅危惧種の生息地で、テキサス州の先住民族カリゾ・コメクルド族にとっても先祖代々重要な土地です。地域には、ローワー・リオ・グランデ・バレ-野生生物保護区に隣接する重要な野生生物の回廊がありますが、これらのLNG事業は、回廊の真ん中で操業し有毒な汚染をまき散らす計画となっています。また、米宇宙企業「スペースX」社のロケット発射台(ボカチカ・ビーチ)とは約6マイルしか離れていなく、頻繁にロケット爆発が繰り返されています。一方、グレンファーン・エナジー・トランジション社が所有・管理するテキサスLNGは、ガルシア牧場に建設されようとしています。この一帯は、カリゾ・コメクルド族の先祖代々の埋葬地と村落遺跡がある場所で、ワールド・モニュメント財団に「危機に瀕した歴史地域」として指定され、米国立公園局にも「国家歴史登録財」として登録されています。
2023年、世界の大手銀行は化石燃料に7,050億ドルの資金提供(融資・引受)を行いました(訳註1)。化石燃料事業を拡大している大手企業への融資・引受だけでも3,470億ドルにのぼります。化石燃料に世界最大の融資・引受を行なっている金融機関はJPモルガン・チェースです。シティバンクは化石燃料を拡大している大手企業に対して、パリ協定採択後の2016年から23年までの合計で最も多額の資金を提供しています。
2023年にリオ・グランデLNG事業を含むLNGセクターに対して最大の融資・引受を行なったのは、みずほフィナンシャルグループと三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)でした。金融機関は投資対象を選択することが可能で、資金を化石燃料事業ではなく、再生可能エネルギーなどの気候変動対策に充てることができました。フラッキング(水圧破砕法)によるシェールガスの採掘からパイプラインによる輸送、エネルギー集約的な液化に至るまで、LNG事業はあらゆる段階でメタンガスを大量に放出します。メタンガスは、大気に放出されてから20年間は二酸化炭素の80倍以上の温暖化効果を持つ、強力な温室効果ガスです。
書簡は「もし貴社がリオ・グランデ・バレーにおけるこれらの危険な事業を支援するならば、事業の遅延や法的な障害に直面し続けることによる大きな財務リスクと、責任ある持続可能な金融業務の実施を緊急に市民から要求されることで、深刻な評判損傷リスクに直面することになると警告します」とも述べています。
この書簡に署名した人々の多くは、最近米国ニューヨークで行われた抗議行動「Summer of Heat(猛暑の夏)」に参加し(訳註2)、大手金融機関が米国メキシコ湾岸沿いの化石燃料事業に資金を提供するのを止めるよう要求しています。
声明
テキサス州カリゾ・コメクルド族チェアマン
フアン・マンシアス
「リオ・グランデLNG、テキサスLNG、リオ・ブラボー・パイプラインなど、環境に害をもたらす汚れたエネルギー事業が、私たちカリゾ・コメクルド族の聖地に建設されようとしています。私たちは、これら事業の開発に関わる金融機関や企業に強く反対しています。カリゾ・コメクルド族はソシエテ・ジェネラルとBNPパリバと会合を持ち、その結果、両行はこれらのLNG事業から撤退しました。書簡を送付する銀行および投資運用企業のグローバル・インフラストラクチャー・パートナーズ(GIP)も同様に撤退しなければなりません。私たちは決して引き下がりません」
南テキサス環境正義ネットワーク
ベカ・イノホサ氏(テキサス州ブラウンズビル在住)
「私たちリオ・グランデ・バレー地域のコミュニティは、リオ・グランデLNG事業とテキサスLNG事業に明確に反対してきました。なぜなら、これらの事業は清潔な空気、野生生物の生息地、汚染されていない水路へのアクセスを必要とする、私たちの生活と気候を破壊するからです。これらのLNG事業を支援する銀行、投資機関、保険会社、あらゆる企業は、低所得層のラテン系コミュニティに汚染を押し付けているのであり、それは「環境レイシズム(人種差別)」そのものです。今回書簡を送った金融機関は、これらのLNG事業への支援を直ちに撤回しなければなりません」
ボーダー・ワーカーズ・ユナイテッド(Border Workers United)
ディレクター ルピタ・サンチェス氏(同州ブラウンズビル在住)
「リオ・グランデ・バレー地域とテキサス州にとって経済は重要ですが、同地域はより良い機会を与えられるべきです。私たちは、公正な収入、職場の安全、社会的保護が保障されたディーセント・ワーク(訳注3)の機会を得られるべきです。LNGは私たちの土地、空気、水を破壊します。LNGは私たちの環境と健康を脅かすものです」
シエラ・クラブ ローンスター支部
デイブ・コルテス支部長
「危険な爆発、お年寄りや子どもたちを病気にする大気汚染、地域のインフラを劣化させるトラックの交通量の多さ、水不足のなかでの大量の水使用、自然空間の冒涜。テキサス州メキシコ湾沿いの人々は、LNG施設によるこれらの影響を長年にわたって被ってきました。一方で、フリーポートからアマリロ、ブラウンズビル、オースティンに至るまで、全てのテキサス州民は気候変動の影響を感じています。記録的なハリケーン「ベリル」は、ヒューストンを襲った異常な暴風雨のわずか2カ月後にこの地域を打ちのめしました。LNG基地と、それが生み出す有毒なライフサイクル全体は、この苦しみの元凶です。これらの金融機関は、気候変動に対する迅速な行動を求めるテキサス州民やアメリカ市民の大合唱を故意に無視するのか、または21世紀のクリーン・エネルギー経済への投資を支援するのか。選択を迫られています」
書簡送付先 金融機関リスト(7月22日作成)
米国
- AIG
- オールステート
- バンク・オブ・アメリカ
- ブラックロック
- シティ
- クリフォード・キャピタル
- フィデリティ・ナショナル・ファイナンシャル
- グローバル・インフラストラクチャー・パートナーズ(GIP)
- JPモルガン・チェース
- モルガン・スタンレー
- シメトラ・ファイナンシャル
- トゥルーイスト・ファイナンシャル
- ワシントン州年金基金
- ウェルズ・ファーゴ
- ウィルミントン・トラスト
日本
- みずほ銀行
- 三菱UFJ銀行
- 三井住友銀行
- SOMPOホールディングス
カナダ
- モントリオール銀行
- CIBC
- カナダ・ナショナル銀行
- ロイヤル・バンク・オブ・カナダ(RBC)
- スコシアバンク
- トロント・ドミニオン(TD)
イギリスおよびヨーロッパ
- アリアンツ
- サンタンデール銀行
- バークレイズ
- クレディ・アグリコル
- ドイツ銀行
- HSBC
- インテーザ・サンパオロ
- ドイツ復興金融公庫(KfW IPEX-Bank)
- ソシエテ・ジェネラル
- スタンダードチャータード
サウジアラビア
- リヤド銀行
- アラブ石油投資会社(APICORP)
韓国
- KB国民銀行
- 韓国産業銀行
シンガポール
- ユナイテッド・オーバーシーズ銀行
アラブ首長国連邦
- アブダビ商業銀行
中国
- 中国銀行
バミューダ
- レゾリューションライフグループホールディングス
**プレスリリースの英語原文はこちら**
連絡先
シエラ・クラブ
Ada Recinos, Deputy Press Secretary
ada.recinos@sierraclub.org (米国太平洋時間)
更新情報
1)損害保険大手のチャブ(Chubb)は、保全方針(conservation policy)更新によって、2024年春にリオ・グランデLNG事業を保険対象から除外したことが、情報公開請求により入手した保険証書で確認された。
RANプレスリリース「チャブ社、リオ・グランデLNG保険を取下げ(Chubb Drops Rio Grande LNG Insurance)」、2024年8月
https://www.ran.org/press-releases/chubb-drops-rio-grande-lng-insurance/
2)2024年8月6日、米ワシントンD.C.巡回区控訴裁判所は、米連邦エネルギー規制委員会(FERC)によるリオ・グランデLNG事業、テキサスLNG事業およびリオ・ブラボー・パイプラインに対する承認を事実上取り消す判決を下した。裁判所は、FERC が国家環境政策法および天然ガス法の要件を遵守していなかったという申立人らの意見に同意した。FERCは今後、新規プロジェクト許可を決定する前に、環境影響に関する新たな補足草案と、新たなパブリックコメント期間を設けて、上記3件の事業すべての影響を再検討する必要があるとした。
原告として参加している米環境NGO「シエラ・クラブ」のプレスリリース:「D.C. Circuit Rules Against FERC Approval of LNG and Pipeline Projects in South Texas」、2024年8月6日
訳註
1)RAN、気候ネットワーク、国際環境NGO 350.org、「共同プレスリリース:化石燃料ファイナンス報告書 2024」発表:2024年5月16日
2)2024年6月から8月にかけて実施
https://www.summerofheat.org/weekbyweek
3)「ディーセント・ワーク」とは、「働きがいのある人間らしい仕事、より具体的には、自由、公平、安全と人間としての尊厳を条件とした、全ての人のための生産的な仕事」のこと(出典:ILO )。https://www.ilo.org/ja/regions-and-countries/asia-and-pacific-deprecated/ilo-ni-tsu-i-te/te-i-se-n-wa-ku)
レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。
japan.ran.org
本件に関する日本でのお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
日本チームマネジャー 関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org