サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

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ブログ:グリーンウォッシュ警報〜米リオ・グランデLNG事業者のネクストディケイド、CCSを中止〜(2024/10/1)

川上豊幸(RAN日本シニアアドバイザー)
ルース・ブリーチ(RAN米国本部シニアキャンペーナー)

日本外国特派員協会(FCCJ)にて会見を行った筆者(中央:ルース・ブリーチ)と地域住民代表団、2024年10月、東京 ©︎ RAN / Masaya Noda

画期的な判決

2024年8月、米コロンビア特別区連邦巡回区控訴裁判所(No.23-1174)は、テキサス州南部沿岸リオ・グランデ・バレーで計画されている複数のメタンガス(液化天然ガス:LNG)輸出基地事業の認可が、適切な環境評価なしに発行されたとの判決を下した。米連邦エネルギー規制委員会(FERC)が発行したネクストディケイド社のリオ・グランデLNG、グレンファーン社のテキサスLNG、エンブリッジ社のリオ・ブラボー・パイプラインの認可は全て取り消され、これらの巨大事業に大きな遅延をもたらすこととなった。

訴訟手続きの一環として、リオ・グランデLNGは基地の設計に二酸化炭素回収・貯留(CCS)システムを追加することを2021年に提案していた。LNGのCCSとは、化石燃料の処理過程で排出される二酸化炭素(CO2)を回収し、地下に圧入して恒久的に貯蔵することを試みるものであるが、この技術は未だ実証されていない

8月の判決後、リオ・グランデLNGはCCS計画を取り下げた。これにより、ネクストディケイド社の「環境に優しい」という主張がいかにお粗末であるかが明らかになった。ネクストディケイド社はエネルギー移行計画を策定していなく、また中止したCCS計画以外には、ネットゼロ排出を達成するための計画を何も公表していない。日本のメガバンクの三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、ネクストディケイド社とリオ・グランデLNG事業の主要な資金提供者であり、同事業に23億8000万米ドルを提供している。

リオ・グランデLNGの主要資金提供者


(出典:シェラクラブ「US LNG Export Tracker」より)

 

リオ・グランデLNG施設が稼働すれば、石炭火力発電所43基分に相当するCO2を排出することになる。ネクストディケイド社は、事業の第1フェーズ向け184億ドルのプロジェクトファイナンスが「米国史上最大のグリーンフィールドのエネルギー事業向け融資である」と自慢している。ここでいう「グリーンフィールド」とは、手つかずの海岸沿いの土地に建設するという意味である。事業建設予定地は、米国メキシコ湾岸で未だ工業化されずに自然が残る最後の地域のひとつである。

進みの遅い汚れた事業

ネクストディケイド社は当初、2017年にリオ・グランデLNG輸出基地の最終投資決定(FID)を行い、2020年第4四半期に操業を開始する予定であった。しかし同社は、法的な課題や不十分な規制手続き、コミュニティからの圧力、不安定な石油・ガス市場などにより、度重なる遅延に直面してきた。

2023年7月、ネクストディケイド社は重要な節目を迎えた。リオ・グランデLNG基地の第1フェーズに関する最終投資決定を下したのである。この初期フェーズには3つの「トレイン」(液化プラント)が含まれる。これらのトレインは、年間2700万トンのガスを処理する見込みである。フランスの銀行ソシエテ・ジェネラルは、最終投資決定に至る前にリオ・グランデLNG事業から公に撤退した。 当初ネクストディケイド社のアドバイザーを務めていた日本の三井住友銀行も、現在は事業に関与していない。さらに複数の銀行がリオ・グランデLNGへの資金提供に関与しないことを2023年に非公開で確認している。

リオ・グランデLNG施設予定地、米国テキサス州、2023年12月6日  ©︎ Bekah Hinojosa / (SOTXEJN)

偽りの解決策

ネクストディケイド社は、環境に配慮したイメージを偽り、メタンガス輸出事業による膨大な排出量と現地での影響について積極的に「グリーンウォッシュ」を行なってきた。同社は2020年10月、計画中のリオ・グランデLNG施設でネットゼロ排出の達成を目指すと発表した。CCS技術を使用し、ガスの前処理と燃焼後のプロセスで排出されるCO2を回収し、地下に注入して恒久的に貯蔵することで、ネットゼロ排出目標を達成しようという計画であった。

しかし、炭素回収技術は、米国内のメタンガス輸出施設に未だ適用されたことがなく、他の化石燃料事業でも成功したことがない。リオ・グランデLNGはCCSに関して三菱重工と提携しているが、三菱重工は過去にも石炭火力発電所の炭素回収を試み、コストと技術的な問題が原因で失敗しているMUFGは三菱重工の重要なパートナーでもあり、両社はともに三菱グループの一員で、三菱グループはかつての財閥(戦前に多くの事業分野を支配していた企業グループ)である。CCS事業の中止が、MUFGとネクストディケイド社の関係に影響を与えるかは不明である。

MUFGにリオ・グランデLNGの地域への悪影響を訴え支援停止を要請した代表団、2024年10月©︎ RAN / Masaya Noda

エネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)が2022年9月に行った世界各地のCCS事業の分析によれば、CCS事業の大半は失敗しているか、約束どおりにCO2を回収できていないか、大幅なコスト超過に苦しんでいることが明らかになっている。CCS技術は、メタン輸出においては未だ実証されたことがない。

ネクストディケイド社は、リオ・グランデLNGのCCS事業が「提案されている炭素回収・貯留を通じて、CO2排出量を90%以上削減する」と主張し、「年間500万トン以上のCO2を恒久的に貯蔵すると述べている。ガス業界は通常、LNGのバリューチェーンの狭い部分のみに焦点を当て、ガスを燃やす発電所と石炭を燃やす発電所の排出量を比較する。しかし、メタンの採掘から輸送、発電所での燃焼に至るまでのプロセス全体を考慮したライフサイクル分析を用いると、LNG事業からのメタン排出量は、化石燃料産業が算出する排出量よりも大幅に増加する

リオ・グランデLNG輸出基地用のメタンガスは、テキサス州西部のパーミアン盆地とイーグルフォード・シェールから、フラッキング(水圧破砕)と水平掘削によって採取される予定である。フラッキングは、強力な温室効果ガスであるメタンを大気中に大量に放出し、米国で大気汚染や水質汚染、コミュニティの健康への悪影響をもたらしている。ネクストディケイド社は、基地で処理されるガスは「持続可能な生産者」から「責任ある形で調達された天然ガス」であると主張している。2023年にアースワークスとオイル・チェンジ・インターナショナルが発表した報告書は「認証ガス」の正当性について重要な疑問を提起し、「メタンガスの最大認証機関の一つであるProject Canary社が販売するモニターによる石油・ガス汚染の検出」に重大な欠陥があることを示した。認証ガスに関する主張と使用については、米国の上院議員グループが米連邦取引委員会に異議を申し立てている

バリューチェーン上流での採掘は、私たちの環境をあらゆる面で汚染し、最前線のコミュニティに甚大な被害をもたらすとともに、世界各地で発生している深刻な気候災害を悪化させている。現実には、ガス認証やメタンガス工場のCCS事業は、気候危機に対する偽りの解決策でしかない。例えば、キャメロン郡で提案されていたリオ・グランデLNGのCCS事業は、上流と下流の両方での排出を含めて算出された事業のライフサイクル排出量の約3%しか回収できない。

コミュニティのリーダーたちは日頃からネクストディケイド社の主張に異議を唱え、また同社がウェブサイトに掲載している単純な概要以上の詳細な計画を共有していないと批判している。ネクストディケイド社は、FERCの監視官にも計画を伝えることを怠っていた。

控訴裁判所は8月の判決において、FERCが事業の環境影響を評価する前に、ネクストディケイド社がCCSの計画を共有する必要があったというコミュニティリーダーたちの意見に同意した。これに対しネクストディケイド社は、「現時点ではFERCの審査を継続できるほど十分に開発されていない」として、CCSの申請を取り下げた 

ネクストディケイド社のウェブサイトより “NextDecade Withdraws Carbon Capture and Storage Application at FERC”, 2024年8月20日

https://investors.next-decade.com/news-releases/news-release-details/nextdecade-withdraws-carbon-capture-and-storage-application-ferc/

コミュニティリーダーたちが予想していたとおり、CCS提案はごまかしにすぎなかった。ネクストディケイド社がこの疑わしいCCS提案をあっさりと取り下げたことは、同社の野心的な気候目標に対する真摯さに疑問を投げかけるものである。

幸いにも、控訴裁判所はネクストディケイド社がCCS提案を撤回する可能性を予期し、たとえCCS事業が中止されたとしても、FERCが「リオ・グランデ基地を再承認する前に、少なくとも補足的な環境影響評価書(EIS)を通じて提案を代替案として分析しなければならない」という判決を下した。

ネクストディケイド社と三菱重工との間で結ばれたCCSに関するエンジニアリングサービス契約の行方は不明である。

リオ・グランデLNGのCCS事業は、リオ・グランデLNGと長期売買契約を結んでいるフランスの多国籍電力・ガス会社エンジーとの関係にとって重要であった。エンジー社は2020年にネクストディケイド社とのCCSなしの同様の契約を拒否していた。ネクストディケイドの子会社で、CCS事業の実施主体であるネクスト・カーボン・ソリューションズ社の今後についても不明である。

州道48号線沿いの自然、テキサス州ブラウンズビル、2017年  ©︎ Joseph Fry 

より公正なエネルギー移行への資金提供を

CCSはコストが高く、また再生可能エネルギーへの投資を奪うことになる。現在のCCS技術は、建設にも運用にも莫大なコストがかかり、政府からの多額の補助金なしには実現不可能である。現在提供されている非常に高水準の補助金をもってしても、ほとんどの事業は依然として採算が取れていない。CCS事業に投入されている税金の額が、化石燃料ベースの発電所の風力や太陽光による発電能力(の強化のため)の補助金として使用されれば、風力または太陽光による発電能力を即座に5倍以上にすることが可能である。

銀行が気候変動と人権に真摯に取り組むのであれば、このような不誠実なグリーンウォッシュを見抜き、より公正なエネルギー移行への資金提供に注力すべきである。

リオ・グランデ・バレーと米国メキシコ湾岸のコミュニティには、汚染度の高い化石燃料から解放された未来を手に入れる権利がある。

MUFGにリオ・グランデLNG支援停止をアピール、日本で活動する環境NGOと共に 2024年10月©︎ RAN / Masaya Noda

参考

RANプレスリリース「危険なLNG事業を支援する邦銀に要請、 米メキシコ湾岸の住民代表団が初来日」2024/10/8)

10月記者会見資料「LNG/メタンのリスクと日本の金融機関の役割」

FCCJ会見のアーカイブ映像

本ブログは、英語記事“GREENWASHING ALERT: NextDecade Cancels Carbon Capture” (2024年10月1日)の和訳版です(2024年12月17日投稿)。

 

ルース・ブリーチ(RAN気候変動&エネルギー担当 シニア・キャンペーナー)

米環境NGO「レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)」で、世界的なメタンガス拡大に焦点を当てた活動を担当。化石燃料の採掘阻止を目的に、金融と企業責任に関するキャンペーンの組織化、化石燃料インフラの影響 を受ける最前線のコミュニティへの支援、全米の草の根ネットワークを対象とした直接行動トレーニング、銀行や保険会社とのエンゲージメント(対話)などに取り組んでいる。学術誌や多数の報告書の共著者でもある。

川上 豊幸(RAN日本シニアアドバイザー)

経済学博士。専門は国際環境経済学。聖心女子大学現代教養学部国際交流学科教員。2005 年にRAN の日本代表として事務所を設立し、豪州タスマニアの原生林保護に取り組んだ。その後、インドネシアの熱帯林保護活動に取り組み、森林と森林に依存して生活する人々への悪影響是正に向けて、紙パルプやパーム油業界、金融業界への働きかけを行っている。2023年12月より現職。

プレスリリース:米メキシコ湾岸住民と市民団体、 リオ・グランデ・バレーLNG事業への 資金提供の段階的停止を金融機関に要請(2024/7/22)

「私たちは、当該事業がもたらす社会的・環境的影響に関して、支援する金融機関の責任を追及していきます」

(和訳版発行日:2024年8月23日、最後に更新情報あり)

(米ニューヨーク)7月22日、米国メキシコ湾岸の住民と、数百万人の会員・支援者を代表する主要な市民団体らは、テキサス州リオ・グランデ・バレーにおける液化メタンガス(通称「液化天然ガス(LNG)」)事業への支援中止を求める書簡を大手金融機関に送付しました。書簡は、リオ・グランデLNG事業、テキサスLNG事業、および同施設にガスを提供するリオ・ブラボー・パイプライン事業を支援している、または支援する可能性のある40社の銀行、保険会社、資産運用会社、金融機関に送られています(以下のリストを参照。7月22日以降に送付された金融機関もある)。

**書簡(英語原文)はこちら**

書簡からの抜粋

「当該事業に資金援助を行うことは、貴社に財務リスクと評判リスクの両方をもたらし、地域の生態系、先住民族の権利、気候に取り返しのつかない害を及ぼします」

「私たちは、ネクスト•ディケイド社と同社によるリオ・グランデLNG輸出基地(ターミナル)との関係解消、エンブリッジ社とリオ・ブラボー・パイプラインとの関係解消、そして両事業およびリオ・グランデ・バレーや米国メキシコ湾岸一帯で計画されている他の事業にもさらなる金融支援を行わないことを強く求めます」

上記3件のメタンガス輸出施設はまだ建設されていなく、いずれの事業も土地の整地とコンクリート打設を開始または継続するための資金を募っています。テキサス州ポートイザベル近郊は、同州沿岸で手つかずの自然が残る最後の地域のひとつですが、ネクスト・ディケイド社はリオ・グランデLNG事業の建設に向けて地域の重要な湿地帯、干潟、先住民族の聖地をすでに破壊しているところです。

一帯は、何世代にもわたって沿岸の重要な野生生物やオセロット(ネコ科動物)などの絶滅危惧種の生息地で、テキサス州の先住民族カリゾ・コメクルド族にとっても先祖代々重要な土地です。地域には、ローワー・リオ・グランデ・バレ-野生生物保護区に隣接する重要な野生生物の回廊がありますが、これらのLNG事業は、回廊の真ん中で操業し有毒な汚染をまき散らす計画となっています。また、米宇宙企業「スペースX」社のロケット発射台(ボカチカ・ビーチ)とは約6マイルしか離れていなく、頻繁にロケット爆発が繰り返されています。一方、グレンファーン・エナジー・トランジション社が所有・管理するテキサスLNGは、ガルシア牧場に建設されようとしています。この一帯は、カリゾ・コメクルド族の先祖代々の埋葬地と村落遺跡がある場所で、ワールド・モニュメント財団に「危機に瀕した歴史地域」として指定され、米国立公園局にも「国家歴史登録財」として登録されています

2023年、世界の大手銀行は化石燃料に7,050億ドルの資金提供(融資・引受)を行いました(訳註1)。化石燃料事業を拡大している大手企業への融資・引受だけでも3,470億ドルにのぼります。化石燃料に世界最大の融資・引受を行なっている金融機関はJPモルガン・チェースです。シティバンクは化石燃料を拡大している大手企業に対して、パリ協定採択後の2016年から23年までの合計で最も多額の資金を提供しています。

2023年にリオ・グランデLNG事業を含むLNGセクターに対して最大の融資・引受を行なったのは、みずほフィナンシャルグループと三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)でした。金融機関は投資対象を選択することが可能で、資金を化石燃料事業ではなく、再生可能エネルギーなどの気候変動対策に充てることができました。フラッキング(水圧破砕法)によるシェールガスの採掘からパイプラインによる輸送、エネルギー集約的な液化に至るまで、LNG事業はあらゆる段階でメタンガスを大量に放出します。メタンガスは、大気に放出されてから20年間は二酸化炭素の80倍以上の温暖化効果を持つ、強力な温室効果ガスです。

書簡は「もし貴社がリオ・グランデ・バレーにおけるこれらの危険な事業を支援するならば、事業の遅延や法的な障害に直面し続けることによる大きな財務リスクと、責任ある持続可能な金融業務の実施を緊急に市民から要求されることで、深刻な評判損傷リスクに直面することになると警告します」とも述べています。

この書簡に署名した人々の多くは、最近米国ニューヨークで行われた抗議行動「Summer of Heat(猛暑の夏)」に参加し(訳註2)、大手金融機関が米国メキシコ湾岸沿いの化石燃料事業に資金を提供するのを止めるよう要求しています。

声明

テキサス州カリゾ・コメクルド族チェアマン
フアン・マンシアス

「リオ・グランデLNG、テキサスLNG、リオ・ブラボー・パイプラインなど、環境に害をもたらす汚れたエネルギー事業が、私たちカリゾ・コメクルド族の聖地に建設されようとしています。私たちは、これら事業の開発に関わる金融機関や企業に強く反対しています。カリゾ・コメクルド族はソシエテ・ジェネラルとBNPパリバと会合を持ち、その結果、両行はこれらのLNG事業から撤退しました。書簡を送付する銀行および投資運用企業のグローバル・インフラストラクチャー・パートナーズ(GIP)も同様に撤退しなければなりません。私たちは決して引き下がりません」

 

南テキサス環境正義ネットワーク
ベカ・イノホサ氏(テキサス州ブラウンズビル在住)

「私たちリオ・グランデ・バレー地域のコミュニティは、リオ・グランデLNG事業とテキサスLNG事業に明確に反対してきました。なぜなら、これらの事業は清潔な空気、野生生物の生息地、汚染されていない水路へのアクセスを必要とする、私たちの生活と気候を破壊するからです。これらのLNG事業を支援する銀行、投資機関、保険会社、あらゆる企業は、低所得層のラテン系コミュニティに汚染を押し付けているのであり、それは「環境レイシズム(人種差別)」そのものです。今回書簡を送った金融機関は、これらのLNG事業への支援を直ちに撤回しなければなりません」

 

ボーダー・ワーカーズ・ユナイテッド(Border Workers United)
ディレクター ルピタ・サンチェス氏(同州ブラウンズビル在住)

「リオ・グランデ・バレー地域とテキサス州にとって経済は重要ですが、同地域はより良い機会を与えられるべきです。私たちは、公正な収入、職場の安全、社会的保護が保障されたディーセント・ワーク(訳注3)の機会を得られるべきです。LNGは私たちの土地、空気、水を破壊します。LNGは私たちの環境と健康を脅かすものです」

 

シエラ・クラブ ローンスター支部
デイブ・コルテス支部長

「危険な爆発、お年寄りや子どもたちを病気にする大気汚染、地域のインフラを劣化させるトラックの交通量の多さ、水不足のなかでの大量の水使用、自然空間の冒涜。テキサス州メキシコ湾沿いの人々は、LNG施設によるこれらの影響を長年にわたって被ってきました。一方で、フリーポートからアマリロ、ブラウンズビル、オースティンに至るまで、全てのテキサス州民は気候変動の影響を感じています。記録的なハリケーン「ベリル」は、ヒューストンを襲った異常な暴風雨のわずか2カ月後にこの地域を打ちのめしました。LNG基地と、それが生み出す有毒なライフサイクル全体は、この苦しみの元凶です。これらの金融機関は、気候変動に対する迅速な行動を求めるテキサス州民やアメリカ市民の大合唱を故意に無視するのか、または21世紀のクリーン・エネルギー経済への投資を支援するのか。選択を迫られています」

 

書簡送付先 金融機関リスト(7月22日作成)

米国 

  • AIG
  • オールステート
  • バンク・オブ・アメリカ
  • ブラックロック
  • シティ 
  • クリフォード・キャピタル  
  • フィデリティ・ナショナル・ファイナンシャル
  • グローバル・インフラストラクチャー・パートナーズ(GIP)
  • JPモルガン・チェース 
  • モルガン・スタンレー 
  • シメトラ・ファイナンシャル
  • トゥルーイスト・ファイナンシャル
  • ワシントン州年金基金
  • ウェルズ・ファーゴ
  • ウィルミントン・トラスト

日本 

  • みずほ銀行
  • 三菱UFJ銀行
  • 三井住友銀行
  • SOMPOホールディングス

カナダ 

  • モントリオール銀行
  • CIBC
  • カナダ・ナショナル銀行
  • ロイヤル・バンク・オブ・カナダ(RBC)
  • スコシアバンク
  • トロント・ドミニオン(TD) 

イギリスおよびヨーロッパ 

  • アリアンツ
  • サンタンデール銀行
  • バークレイズ 
  • クレディ・アグリコル 
  • ドイツ銀行
  • HSBC
  • インテーザ・サンパオロ
  • ドイツ復興金融公庫(KfW IPEX-Bank)
  • ソシエテ・ジェネラル
  • スタンダードチャータード

サウジアラビア 

  • リヤド銀行
  • アラブ石油投資会社(APICORP)

韓国

  • KB国民銀行 
  • 韓国産業銀行 

シンガポール

  • ユナイテッド・オーバーシーズ銀行

アラブ首長国連邦  

  • アブダビ商業銀行 

中国

  • 中国銀行 

 

バミューダ

  • レゾリューションライフグループホールディングス 

 

**プレスリリースの英語原文はこちら**

“Gulf Coast Residents and Major Organizations Call on Financial Institutions to Phase Out Financing of LNG Projects in the Rio Grande Valley”

連絡先

シエラ・クラブ
Ada Recinos, Deputy Press Secretary
ada.recinos@sierraclub.org (米国太平洋時間)

更新情報

1)損害保険大手のチャブ(Chubb)は、保全方針(conservation policy)更新によって、2024年春にリオ・グランデLNG事業を保険対象から除外したことが、情報公開請求により入手した保険証書で確認された。

RANプレスリリース「チャブ社、リオ・グランデLNG保険を取下げ(Chubb Drops Rio Grande LNG Insurance)」、2024年8月

https://www.ran.org/press-releases/chubb-drops-rio-grande-lng-insurance/

2)2024年8月6日、米ワシントンD.C.巡回区控訴裁判所は、米連邦エネルギー規制委員会(FERC)によるリオ・グランデLNG事業、テキサスLNG事業およびリオ・ブラボー・パイプラインに対する承認を事実上取り消す判決を下した。裁判所は、FERC が国家環境政策法および天然ガス法の要件を遵守していなかったという申立人らの意見に同意した。FERCは今後、新規プロジェクト許可を決定する前に、環境影響に関する新たな補足草案と、新たなパブリックコメント期間を設けて、上記3件の事業すべての影響を再検討する必要があるとした。

原告として参加している米環境NGO「シエラ・クラブ」のプレスリリース:「D.C. Circuit Rules Against FERC Approval of LNG and Pipeline Projects in South Texas」、2024年8月6日

https://www.sierraclub.org/press-releases/2024/08/dc-circuit-rules-against-ferc-approval-lng-and-pipeline-projects-south-texas

訳註

1)RAN、気候ネットワーク、国際環境NGO 350.org、「共同プレスリリース:化石燃料ファイナンス報告書 2024」発表:2024年5月16日

https://japan.ran.org/?p=2300

2)2024年6月から8月にかけて実施

https://www.summerofheat.org/weekbyweek

3)「ディーセント・ワーク」とは、「働きがいのある人間らしい仕事、より具体的には、自由、公平、安全と人間としての尊厳を条件とした、全ての人のための生産的な仕事」のこと(出典:ILO )。https://www.ilo.org/ja/regions-and-countries/asia-and-pacific-deprecated/ilo-ni-tsu-i-te/te-i-se-n-wa-ku

 

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。
japan.ran.org

本件に関する日本でのお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
日本チームマネジャー 関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org



共同プレスリリース:世界の投資家、日本企業の気候変動対策及び取締役会の監督能力の実効性に重大な懸念を表明(2024/7/8)

国際環境NGO マーケット・フォース
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

環境NGOとその代表者を含む個人株主は今年4月に金融・電力の2業界4企業(三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ、日本最大の発電会社・JERAの経営に大きく関与する中部電力)に対して株主提案を提出しました。

当該企業4社に対する株主提案は、企業の取締役会が気候関連事業リスク及び機会の適切な管理・監督を行う上で必要な能力あるいは人材を備えているか、株主が評価する上で必要な情報開示を求めるものです。

メガバンク3社には、上記の提案に加えて、気候変動への公約及び気候変動リスク管理戦略を踏まえ、化石燃料セクターの顧客の移行計画とパリ協定1.5℃目標との整合性について、各行がどのように評価を行うか、そして当該セクター顧客がパリ協定に沿った信頼性の高い移行計画を作成しなかった場合、新規資金の制限を含む、対応措置をどのようにとるのかの開示を求める提案を提出しました。

すべての議案は6月末に実施された当該企業4社の株主総会で以下の通り決議されました。

株主提案の内容と議決権行使結果

※各社臨時報告書:三菱UFJFG三井住友FGみずほFG中部電力

3メガバンクに対する取締役のコンピテンシーを求める提案については、議決権行使助言会社のISSが賛同を表明しています。各社は反論を提示しましたが、この提案の内容が世界的な機関投資家の要望に即したものであることは明らかです。
上記の株主提案の議決結果は、気候変動に関するリスクへの対処に関して課題を抱える企業に対して、引き続き厳しい目が向けられていることを意味します。

中部電力

「中部電力は、化石燃料事業を拡大し続けるJERAの株式を50%保有し、その脱炭素戦略にも大きく依存しています。しかしながら、中部電力の取締役会が、気候関連リスクと機会を管理するために必要な専門知識を十分に備えているか不明のため、自社および株主は重大な財務リスクに晒されています。
投資家が期待する情報開示と、中部電力の取締役会が備えていると主張し、開示している専門知識やスキルマトリックスの内容や情報量には大きな乖離があり、その不満が今回の4分の1に迫る賛成率に反映されていると言えます」
鈴木幸子(マーケット・フォース, エネルギーファイナンスアナリスト)

「中部電力の電源構成は石炭22%、LNG42%(2022年度実績)と化石燃料による発電が大半を占めています。同社は、2050年に事業全体のCO2排出をネットゼロにする目標を掲げていますが、総会での説明および質疑応答では、グリーン・トランスフォーメーションやデジタル・トランスフォーメーションを促進することで社会システムの再構築につなげるといった抽象的な考えが示されるのみで、ネットゼロに向けた具体的な策は示されませんでした。一方で、脱炭素には原発が不可欠として早期の稼働再開を目指すとの主張が繰り返され、このままで本当に脱炭素が達成できるのかとの不安は拡大するばかりです。我々の提案に対する23.3%という賛成には、より具体的かつ実質的な気候変動対策を進められる人材と気候コンピテンシーが必要であるとの投資家の期待が込められているのではないでしょうか」
鈴木康子(気候ネットワーク プログラム・コーディネーター)

MUFG、三井住友FG、みずほFG

「昨年の提案に比べて賛成率が大きく伸びた3メガバンクへの6つの提案は、世界の投資家から、各行の取締役・経営陣に対する気候関連のリスク管理を強化するよう求める強いシグナルと言えます。日本のメガバンクが、気候科学に反してLNGなどの化石燃料拡大への支援を増額し、実効性ある抑制方針をいまだに示さないことは、世界の中で大きく遅れを取っており、投資家の財務リスクを適切に管理できていないと見なされているからです。「地域固有の様々な経路」と言い訳をしているうちに、世界は再エネやエネルギー効率への投資を益々拡大し、高くて汚い化石燃料からの脱却を進めており、日本企業の競争力にも悪影響を及ぼしかねません。さらに日本は「移行ファイナンス」の名の下に、アジアの化石燃料使用を固定化(ロックイン)するなど、脱炭素化を妨げてしまっています。今こそ、各行の1.5度(ネットゼロ)への公約に立ち返り、経済や社会基盤の安定と直結する気候対策に本気で取り組むべきです」
渡辺瑛莉 (マーケット・フォース, 日本エネルギー金融キャンペーナー)

「各行が気候変動対策への取組みを強化している点は評価していますが、日本の電力セクターが1.5℃目標に整合するには、まだ不十分であると考えています。世界では既に化石燃料の使用を如何に削減するかを論じている中、日本ではいまだに100基を超える石炭火力発電所が稼働している上に、CO2対策がとられていない(Unabated)に関して独自解釈を展開し、官民一体となって水素・アンモニア混焼を推し進めようとしています。金融機関は気候変動対策を進める上で重要な役割を担っています。自らのコミットメントを果たし、顧客の脱炭素戦略を支援していくためには、科学的根拠に基づいて顧客の脱炭素化計画が信頼できるものかを判断し、適格な評価を行う必要があります。そのためには気候コンピテンシーが不可欠です。25%を超える賛成票は、世界の投資家も取締役に気候コンピテンシーを求めていることが示されたと言えるでしょう。今後、会社がどのように気候関連のリスク管理を強化していくのかに注意していきたいと思います」
鈴木康子(気候ネットワーク プログラム・コーディネーター)

「メガバンクには、今回の株主提案で投資家から有意な数の賛同があったことを真摯に受け止め、顧客企業の移行計画が1.5度目標に沿っているかどうかを評価する体制と、気候危機に対応できる取締役の管理体制の強化が求められます。メガバンク3社はネットゼロを約束していますが、化石燃料企業への資金提供を継続し、特にLNGセクターでは世界の銀行でも1、2を争う金額をみずほとMUFG は2023年に提供し、信頼できる移行計画を持たない北米の企業にも巨額の資金提供を行っています。これは融資先企業の移行計画への対応状況の評価体制が不十分で、かつ、取締役会としての管理・監督機能も働いていないことを示していると言えます。
 メガバンクは米国メキシコ湾岸のリオ・グランデLNG施設とパイプライン開発企業にも資金提供していますが、この事業は温室効果ガス排出量の多さに加え、周辺環境の悪化による低所得住民への負の影響や、先住民族の権利侵害が指摘され、人権面でも深刻な問題を抱えています。各社とも投融資における人権デューデリジェンスの実施を約束し、総会の質疑応答でも人権尊重を強調する場面はありましたが、このような事例を見ると実施が十分であるとはいえません。気候変動でも人権でも、策定した方針の実施体制の強化が必要です」
川上豊幸(レインフォレスト・アクション・ネットワーク 日本シニア・アドバイザー)

報道機関関係者の皆様へ:

気候変動に関する株主提案・対話の効果、着実に

2020年にみずほFGに気候変動に関する株主提案が提出されて以来、多くの投資家が日本の主要企業の気候変動対策の遅れに対して、深刻に懸念し、対話を実施してきました。今年は総合商社や銀行、電力、自動車のほか、製鉄や製薬業界の企業にも気候変動対策の遅れを問う株主提案が提出されています。
いっぽうで、定款変更を求める株主提案が可決されるために株主の2/3以上の賛同が必要であることから、報道関係者の皆様より、急速な脱炭素を推し進める我々の活動の具体的成果についてご質問を頂くことも度々あります。そこで、我々が企業との対話を通じ、企業のマテリアルリスクを取り除き、脱炭素に大きく寄与することとなった数ある事例のうち代表的なものを以下にてご紹介いたします。ぜひご参考にしてください。

総合商社による石炭火力発電事業の撤退
マーケット・フォースは2021年、住友商事に対してパリ協定の目標に沿った事業活動のための事業戦略を記載した計画の策定、及び開示を求める株主提案を提出しました。提案は20%の賛成票を獲得し、その後の石炭火力に関するポリシーの改善につながりました。さらに住友商事は2022年2月にバングラデシュのマタバリ2 石炭火力発電所から撤退することを発表しました。この結果、同社は年間1億8700万トンのCO2排出を回避することに成功したと考えられます。

金融機関による指針変更や化石燃料事業への融資ストップ
2020年、気候ネットワークがみずほFGに株主提案を行い、みずほFGは日本の銀行として初めて、2050年までの石炭火力フェーズアウト目標(後に2040年に変更)を設定しました。他の2メガバンクもこの動きに追随しています。

2021年、350.org Japan、RAN(個人株主)、気候ネットワーク、マーケット・フォースはMUFGに対し、株主提案を提出しました。決議後、MUFGは2050年までにポートフォリオ全体でネットゼロを目指すことを発表し、日本の銀行として初めてネットゼロバンキングアライアンスに加盟しました。その後、みずほFG、三井住友FGも追随しています。

2022年、350.org Japan、RAN(個人株主)、気候ネットワーク、マーケット・フォースは、三井住友FGに対して気候変動に関する株主提案を2件提出しました。株主提案の提出後、同社は石炭採掘部門の投融資方針を強化し、新規および既存プロジェクトの拡張と関連するインフラ開発への投融資を制限しました。その後、他2行も同様の方針を掲げました。

2023年には、金融、商社、電力の3業界の6企業に対して提案を提出し、気候変動対策の更なる強化を求めました。三井住友FGが環境破壊と人権侵害の懸念がある東アフリカ原油パイプライン事業 (EACOP)に、関与しないと表明しています。環境団体の声に加え、株主提案でも抗議を表明したことで、同社は融資への関与を否定しました。その後、MUFGも同様の表明を行いました。

これまでの気候変動対策を求める企業との対話は、上記のような形で株主提案の提出に至りましたが、企業の取り組みの段階的な改善に重要な役割を果たしてまいりました。今年の株主提案の対象となった企業も、これまでに情報開示の改善を行っており、今年に統合報告書が公開されれば、さらに改善されることが期待されます。

「Asia Shareholder Action」株主提案および投資家向け説明資料はこちらのサイトからご覧いただけます。

お問い合わせ先

マーケット・フォース (https://www.marketforces.org.au )
担当者: Antony Balmain +61-423-253-477
Email:antony.balmain@marketforces.org.au

気候ネットワーク(https://www.kikonet.org )
東京事務所:TEL:+81-3-3263-9210
担当者:鈴木康子 E-mail: suzuki[@]kikonet.org

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)
japan.ran.org
担当者:関本幸
E-mail: yuki.sekimoto[@]ran.org

プレスリリース:SOMPO・株主総会で米国リオ・グランデLNG事業の保険引受停止要請に回答せず(2024/6/24)

〜化石燃料方針の改善を行うも、今後の支援余地残す〜


SOMPO株主総会会場前でのアクションの様子

環境・持続社会」研究センター(JACSES)
Insure Our Future
国際環境NGO FoE Japan
メコン・ウォッチ
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)
Oil Change International
気候ネットワーク

6月24日、SOMPOホールディングス株式会社(以下、SOMPO)の年次株主総会が開催されました。日本の環境NGOスタッフも株主として参加し、SOMPOの保険引受者としての関与が明らかになっており、現地から抗議の声が上がっているリオ・グランデLNG事業への同社の更なる保険契約更新の可能性の可否を質問したところ、SOMPOの経営陣からは、個別案件に関する回答は差し控えるとの趣旨の回答がありました。私たち環境NGOは、同社に対してリオ・グランデLNG事業を含む化石燃料事業への保険引受停止を求めています。

リオ・グランデLNG事業は、NextDecade社が主導する米国テキサス州におけるLNG(液化天然ガス)輸出ターミナル事業であり、SOMPOは同事業の保険を引き受けていることが判明しています(※1)。リオ・グランデLNG事業は、大量のCO2排出による気候変動の悪化や、現地の大気汚染、野生生物保護区への影響、先住民族の文化遺産の破壊等のリスクから、住民から抗議の声が上がっており、現地住民・環境NGO・現地自治体から、事業者が適切な環境影響調査を怠っているとして、度々訴訟を起こされてきました(※2)。また、6月18日、国内外の環境NGO28団体は、SOMPOのCEO奥村幹夫氏に対し、リオ・グランデLNG事業への保険引受停止等を求める要請書を連名で送付しています(※3)。

SOMPOは、石炭事業(発電及び炭鉱開発)への保険引受や、石炭を主業とする企業への保険引受を制限する方針を日本で初めて発表した企業であり、気候変動対策について日本における先駆的な方針を発表してきました。しかし、世界の大手保険会社と比較すると、石油・ガスの制限対象がオイルサンド及び北極圏監視評価プログラム(AMAP)のみで限定的である等、その取り組みは大きく遅れています。一方で、アリアンツ、ミュンヘン再保険、ハノーバー再保険等、欧州の大手保険会社間では、広範囲に及ぶ石油・ガス事業への保険引受を停止する取り組みが広がり始めています。

6月21日にSOMPOは、これまで保険引受の停止対象としてきた石炭主業企業の対象を拡大し、同じく引受停止対象であったエネルギー採掘活動の範囲を北極野生生物国家保護区(ANWR)から北極圏監視評価プログラム(AMAP)に拡大しました(※4)。しかし、後者についてSOMPOは「ノルウェー域内は除く」との注を設けています。Greenpeace Nordicの報告書によると、過去にSOMPOは、ノルウェー海域で複数の石油・ガス事業を行っているボル・エナジ社の保険を引き受けたことが判明しており(※5)、石油・ガス事業が盛んに行われているノルウェー海でのエネルギー採掘事業の保険を今後も引き受ける余地を残しています。

2021年に国際エネルギー機関(IEA)が発表した報告書「Net Zero by 2050, A Roadmap for the Global Energy Sector」は、2050年までにネットゼロを達成するためには、新規の化石燃料採掘事業は行うべきではないと指摘しています(※6)。

南テキサス環境正義ネットワークのベカ・イノホサは、「私たちのコミュニティ及びテキサス州カリゾ・コメクルド族は、リオ・グランデLNGと、私たちの地域のあらゆるLNG施設に反対する立場を明示してきました。これらの化石燃料事業は、汚染されていない環境、漁業、エビ業で生計を立てている私たちの生活を破壊するでしょう。SOMPOがリオ・グランデLNGに関与し続けることは、私たち有色人種や先住民族の低所得者層に対して、企業のそのような意向と汚染を強要することになりかねないため、SOMPOはリオ・グランデLNGから直ちに撤退しなければなりません。」と述べています。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)の気候変動・エネルギー シニアキャンペーナーであるルース・ブリーチは「SOMPOが気候変動への影響とリスクを深刻に考慮しているのであれば、化石燃料事業への保険引受及び支援を停止するべきです。SOMPOは、米国テキサス州南部で計画中のLNG輸出ターミナルである、リオ・グランデLNG事業の主要保険会社です。本事業は、未開発の海岸地帯に建設され、先住民族の聖地や湿地帯、漁業コミュニティにとって有害であり、温室効果ガスの排出を増加させます。SOMPOはリオ・グランデLNG事業への支援を今すぐにでも止めることができるはずです。」と述べています。

「環境・持続社会」研究センター(JACSES)の持続可能な開発と援助プログラムディレクターである田辺有輝は、「SOMPOの石油・ガスに関する方針は、停止対象が、オイルサンド及び北極圏監視評価プログラム(AMAP)でのエネルギー採掘活動と極めて限定的であり、今後も大量の温室効果ガスを排出する化石燃料事業に対して保険引受を行う余地を残しており、パリ協定1.5度目標に整合していません。SOMPOに対しては、リオ・グランデLNG事業を含む新規化石燃料事業への保険引受停止を強く要請します。」と述べています。

注:
※1:https://jacses.org/2329/
※2:​​リオ・グランデLNG事業の概要や問題点については、以下のファクトシートをご参照ください。https://jacses.org/wp_jp/wp-content/uploads/2019/10/f3f4587241d5a547e73247c7eea46d96.pdf
※3:https://jacses.org/wp_jp/wp-content/uploads/2019/10/RGV_-Sompo-Letter-June-2024.pdf
※4:https://www.sompo-hd.com/csr/system/vision/
※5:https://www.greenpeace.org/static/planet4-norway-stateless/2023/05/29fbf8d4-ensuring-disaster-final-20220523-13-41.pdf
※6:International Energy Agency (IEA), (2021), 「Net Zero by 2050, A Roadmap for the Global Energy Sector」, p. 20,
https://iea.blob.core.windows.net/assets/0716bb9a-6138-4918-8023-cb24caa47794/NetZeroby2050-ARoadmapfortheGlobalEnergySector.pdf

英語のプレスリリースはこちら

本件に関する問い合わせ先:
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)田辺有輝/喜多毬香
tanabe@jacses.org / kita@jacses.org

※更新
英語プレスリリース “SOMPO: Stop Underwriting Rio Grande LNG” を追加しました(2024年6月24日)

プレスリリース:新報告書「RGEグループの実態:無秩序に広がる破壊の帝国を暴く」発表〜止まらない環境破壊と違反行為、消費財企業と銀行に同グループとの取引停止を求め〜(2024/3/18)

インドネシアの大物実業家(タイクーン)で億万長者のスカント・タノト氏、RGEグループ支配下のシャドーカンパニーのネットワークを使って、森林破壊と先住民族の土地権をめぐるコミュニティとの紛争に対する責任を回避

TPL社ユーカリ植林地(右)の航空写真。先住民族コミュニティ慣習林に隣接してユーカリが植林されている。北スマトラ州フンバン・ハスンドゥタン県セクトール・テレ、2021年6月

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部サンフランシスコ、以下、RAN)は18日、調査報告書「RGEグループの実態:無秩序に広がる破壊の帝国を暴く(注)を発表し、ロイヤル・ゴールデン・イーグル・グループ(RGE)グループが自社のサステナビリティ方針に違反して、現在も環境破壊を続けていることを明らかにしました。RGEグループは、インドネシアで巨額の脱税、森林破壊と人権侵害を起こしてきた数十億ドル規模の複合企業(コングロマリット)です。本報告書は、RGEグループが破壊的な行為を行っているにもかかわらず、大手消費財企業や銀行がRGEグループとの取引関係を停止していないことを浮き彫りにしています。

RGEグループは、インドネシアのタイクーン(大物実業家)であるスカント・タノト氏が所有・支配するインドネシア最大の紙パルプメーカーの一つで、パーム油産業でも大きな影響力を持つ企業の一社です。本報告書は、RGEグループの汚職、環境破壊、人権侵害、ペーパーカンパニーやオフショア会社所有構造の利用といった広範な悪事の記録に基づき、同グループを無責任な企業行動の典型例としています。

RAN森林シニアキャンペーナーで、本報告書の主執筆者であるフィトリ・アリアンティは「森林破壊を止めると約束したにもかかわらず、大手消費財企業や銀行は、RGEグループの破壊的行為に目をつぶり、取引を続けています。RGEグループの行動は、先住民族コミュニティ、熱帯林、生物多様性、気候に壊滅的な影響を及ぼしています」と批判しました。

本報告書は、RGEグループが、シャドーカンパニー(訳註1)のトバ・パルプ・レスタリ(TPL)社を通じて、同グループが宣言した2015年の森林破壊停止「基準日」(カットオフ日:訳註2)以降も森林伐採を続けていることを明らかにしました。RANが委託した衛星画像分析によると、TPL社の事業管理地では、カットオフ日以降も大規模な自然林の皆伐が行われていたことが判明しました。これは、TPL社とRGEグループ、また同社らの顧客であるプロクター&ギャンブル(P&G)やネスレなどが発表している誓約に違反するものです。

北スマトラを拠点とする土地権擁護団体KSPPM(Kelompok Studi Penguatan Prakarsa Masyarakat)のディレクター、デリマ・シララヒ氏(訳註3)は「地域コミュニティは、北スマトラ州でのTPL社による環境への影響と先住民族の権利侵害に対して、何十年にもわたって抗議してきました。今回の新たな自然林皆伐の証拠は、TPL社が人々の権利と環境を引き続き軽視していることを示しています」と指摘しました。

デリマ・シララヒ氏(市民団体 KSPPM プログラム・ディレクター)

報告書はまた、RGEグループが責任を逃れながら森林破壊を進めることを可能にしている、シャドーカンパニーと不透明な企業所有構造の複雑なネットワークの例を提起しています。本報告書に記載された証拠は、持続可能性と透明性に関するRGEグループの主張に疑問を投げかけ、「森林破壊に関係していない」というRGEグループの主張を信用すべきではないと消費財企業や銀行に警告するものです。

10年以上前、RGEグループの紙パルプ部門であるエイプリル(APRIL:アジア・パシフィック・リソース・インターナショナル)社は、インドネシアの熱帯林や先住民族コミュニティに及ぼしていた負の影響をRANの世界的なキャンペーンによって暴露され、その後、ディズニーなど大手出版社のサプライチェーンから除外されました。APRIL社は森林管理協議会(FSC)から関係を断絶され、APRIL社およびRGEグループのいくつかの企業は、今日に至るまで、同グループ製品の主要購買企業の「不買対象先」とされたままです。RGEグループ主要傘下企業は、2015年にサステナビリティ方針を発表し、2015年7月以降は森林破壊をもう行わないこと、また、多くの土地紛争の改善を約束しました。それ以来、APRIL社はFSCとの関係断絶を解消するための取り組みを始めました。FSCはAPRIL社に対し、同社が引き起こした被害を是正すること、および、2020年12月以降は同社の企業グループ全体(同社の支配下にある全ての企業と定義)が森林破壊を行っていないと証明することを求めています。

今回の調査で、2020年12月以降に森林破壊が行われたことが記録されたため、FSCがAPRIL社とTPL社との関係断絶を解消することはないでしょう。また、2020年12月以降に森林破壊をもたらした産品の輸入防止を目的とした欧州連合(EU)の新規制「森林破壊防止法」(EUDR)に基づき、TPL社の製品はEU市場への輸入を禁止されるでしょう。

RANは、P&G、モンデリーズ、コルゲート・パーモリーブ、ユニリーバ、花王、ペプシコ、ネスレ、日清食品、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)などの消費財企業や銀行に対し、RGEグループとの関係を直ちに停止することを公に発表するよう求めています。RANは、上記企業やFSCに対し、RANの調査結果を徹底的に調べ確認し、環境破壊や人権侵害に加担しないよう強く求めます。

RANのアリアンティは「RGEグループのような企業が、持続不可能な慣行から利益を得ながら、地球を破壊し続けることは許されません。今こそ消費財企業と銀行は、森林破壊リスクがある産品が拡大する最前線にいる、環境と森林に依存するコミュニティのために立ち上がる時です」と強く訴えました。

米シンシナティのP&G本社前で行われた抗議活動。活動家は同社にRGEとの取引停止を要求した

 

注)報告書「​​RGEグループの実態:無秩序に広がる破壊の帝国を暴く」(英語 ”Exposing Royal Golden Eagle Group’s Sprawling Empire of Destruction”)
https://www.ran.org/forest-frontlines/exposing-royal-golden-eagle-groups-sprawling-empire-of-destruction/

訳註1)シャドーカンパニー(影の会社)とは、表面上別会社にみせかけているが、実態として所有関係のある会社のこと。親会社である企業グループの慎重に管理された対外的イメージに反するような、物議を醸す活動を水面下で行う。

訳註2)カットオフ日以降に森林伐採・転換が行われた場合、その地域や生産単位が、森林伐採や転換を行わないという約束、方針、目標、その他の義務に違反していると見なされる。(アカウンタビリティ・フレームワーク・イニシアティブ(AFi)の定義参照
https://accountability-framework.org/use-the-accountability-framework/definitions/

訳註3)デリマ・シララヒ氏(KSPPM プログラム・ディレクター)は、環境分野のノーベル賞とも呼ばれる「ゴールドマン環境賞」を2023年に受賞した。https://www.goldmanprize.org/recipient/delima-silalahi/

*本プレスリリースは、英文“New Report Exposes Royal Golden Eagle Group’s Environmental Violations and Calls for Brands and Banks to Drop Ties”(2024年3月18日)の和訳版です(2024年3月22日投稿)。

プレスリリース:東京海上・MS&AD・SOMPOを含む世界の保険会社による米国湾岸LNG事業への保険引受が判明(2024/2/22)

※更新「リスク・エスポージャー」和訳版を発行しました(2024年9月)。

「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
Insure Our Future
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

2024年2月22日ー米国の環境NGOであるレインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)及び消費者団体であるPublic Citizensが発表した報告書「Risk Exposure: The Insurers Secretly Backing The Methane Gas Boom in the US Gulf South(※1)」によると、日本の大手損害保険会社である東京海上、MS&AD、SOMPOを含む世界の保険会社35社が、米国のメキシコ湾岸地域の7つの液化天然ガス(LNG)ターミナル事業に対して保険引受を行っている実態が明らかになった。1月26日、米国のバイデン大統領は、LNGの新規輸出許可の一時停止を発表したが、具体的な停止対象事業については触れておらず、今後も米国においてLNG輸出事業が拡大する可能性がある。このような状況の中、本報告書は、パリ協定の1.5度目標を達成するために保険会社の責任の重大さを改めて浮き彫りにしている。

報告書では、米国連邦エネルギー規制委員会(FERC)、州当局、地方政府等に対する50件以上の情報公開法(FOIA)請求を通じて入手することが出来た保険証明書をもとに、メキシコ湾岸地域におけるLNGターミナル事業7件に保険引受を行った保険会社を明らかにしている。米国・欧州・アジア地域の保険会社の少なくとも35社が、7件のLNGターミナル事業の保険引受者であることが特定された。日本の保険会社については、リオグランデLNGの保険をSOMPOが、ガルフLNGの保険をSOMPO及び東京海上が、キャメロンLNGの保険を東京海上及びMS&ADが引き受けている実態が明らかになった(詳細は下記表を参照)。キャメロンLNGには、三井物産、三菱商事、日本郵船が出資している。

現在、米国には既設のLNGターミナル案件が8件、建設中の案件が7件、計画中の案件が17件存在し、特に新規の案件はメキシコ湾岸のルイジアナ州及びテキサス州一帯に集中している。現在稼働中及び建設中の案件を合わせると、石炭火力発電所345基に相当する年間12億8,700万トンもの温室効果ガスを排出すると言われており、日本は主な輸出先の一つとなっている。

図:北米における既設及び建設中のLNG輸出ターミナル

報告書では、保険証明書を入手した7件のLNG事業の多くが、先住民族、有色人種、低所得者の居住域に立地しており、現地コミュニティは、先住民族の権利に関する国連宣言で求められている「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」に基づいた開発の合意形成が欠如していたと指摘されており、メキシコ湾岸に蔓延る環境人種差別を温床化させていると指摘されている。また、ターミナル建設に伴い、有害な大気・水汚染が現地住民の健康被害を深刻化させていることや、LNGターミナル事業がハリケーンをはじめとする異常気象に脆弱な実態について言及されている。

東京海上、MS&AD、SOMPOの3社は、石炭事業及びオイルサンド採掘事業、北極圏における石油・ガス事業などの新規保険引受及び投融資停止を表明しているものの、一般的な石油・ガス事業については保険引受・投融資を停止する方針を設定していない。3社は1.5度目標との整合性を確保するために、これらの方針を早急に掲げるべきである。また、今回関与が判明した3件のLNGターミナル事業の保険契約更新を行わないよう強く要請する。

本件に関する問い合わせ先:
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)田辺有輝/喜多毬香
tanabe@jacses.org / kita@jacses.org

注:
※1:英語版
https://www.ran.org/publications/risk-exposure-the-insurers-secretly-backing-the-methane-gas-boom-in-the-us-gulf-south/

【更新情報】

和訳版「リスク・エスポージャー:米国メキシコ湾岸LNG事業の保険引受会社、情報公開で判明」を発行しました(2024年9月)