サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

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イベント:PRI in Person 2023公式サイドイベント 「森林破壊リスク産品セクターへの投資の情報開示と持続可能性基準」(2023/9/27)

〜TNFDとNDPE方針、インドネシア版タクソノミーの評価〜

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、10/4(水)、国連責任投資原則「PRI in Person 2023」公式サイドイベントとして「森林破壊リスク産品セクターへの投資の情報開示と持続可能性基準」をGEF、プランテーションウォッチと共同で開催します。

イベント内容

パーム油や畜牛、チョコレート、紙パルプや木材など、熱帯林における森林破壊につながる原料を使う製品は「森林破壊リスク産品」や「森林リスク産品」と呼ばれます。これらの産品を利用することは、生産地である熱帯地域の森林減少や森林劣化を引き起こし、森林や生物多様性、地域コミュニティに大きな影響を与える可能性があります。これらの問題に対処するために「NDPE(森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止)方針」(※)の採用が、リスク産品を扱う事業者だけでなく、金融機関でも進められています。本イベントでは、NDPE方針の概要を解説するとともに、その実施状況の評価を報告します。

特に森林破壊が依然として止まらないインドネシアに焦点を当て、現地政府が推進するサステナブル・ファイナンスやインドネシア版タクソノミー改訂の評価、海外投資家への影響についての報告も行います。加えて、最近発表された自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の最終版の概要と分析結果を解説し、TNFDと他の森林リスク産品への金融セクターの関与のための国際的な基準やアカウンタビリティの仕組みとの乖離について報告します。
※NDPE:No Deforestation、No Peat、No Exploitationの略

概要

【日時】2023年10月4日(水)8:00~8:45(開場:7時45分)

【開催方法】ハイブリッド

・オンライン:Zoomウェビナー

・対面:ビジョンセンター品川 302号室(東京都港区高輪4‐10-8京急第7ビル3階

【スピーカー】通訳あり

トム・ピケン/RAN 森林と金融キャンペーン・ディレクター
グリタ・アニンダリニ/インドネシア環境法センター (ICEL)プログラム・ディレクター
ショーナ・ホークス/RAN 森林と金融アドバイザー
司会進行:飯沼佐代子/地球・人間環境フォーラム(GEF)

【参加費】無料(要事前登録)

当日の発表資料、NDPE方針説明資料をこちらに掲載しております。

登録方法

会場・オンライン共に事前の申し込みが必要です。https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_uJLffh7UTNWGbJZAdbybFw

お問合せ先

地球・人間環境フォーラム 飯沼 E-mail: event(a)gef.or.jp

【主催】レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)、地球・人間環境フォーラム(GEF)、プランテーション・ウオッチ

【協力】熱帯林行動ネットワーク(JATAN)、ウータン森と生活を考える会

※インドネシア環境法センター (ICEL)の登壇者がレイナルド・センビリン氏からグリタ・アニンダリニ氏に変更になりました(10月3日更新)。

団体紹介

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。
https://japan.ran.org

レインフォレスト・アクション・ネットワーク
コミュニケーション:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

ブログ:ボルネオとパプアで森林破壊の新たな動き〜背後にひしめく悪しきプレイヤーたち〜(2023/5/22)

インドネシア北カリマンタンに新巨大パルプ工場 60万ヘクタールの熱帯林が危機に

投稿者:RAN, EPN, Auriga, Greenpeace and Woods and Wayside

インドネシアで新たな森林破壊の脅威が浮上

地球の未来を賭けたギャンブルをしてはならない。リスクが高すぎて、私たちの手に負えないからである。インドネシアでは最近、森林保護に一定の進展が見られるようになったが、無謀な企業行動によって利益を得ようとする人々に対する警戒を怠ってはならない。

インドネシアでは、数十年にわたって大規模なアブラヤシ農園やパルプ材用植林地、伐採による森林破壊が容赦なく拡大され続けていたが、森林破壊を減らすための努力が実を結び始めた。この変化は、原生林地域における新規事業許可の一部停止、森林法のより良い実施、国際的なサプライチェーンから要求された一層高い基準により、もたらされている。

しかし、新しい調査報告書『パルピング・ボルネオ(Pulping Borneo)』(パルプ材に変わるボルネオの森)は、この傾向を脅かす不穏な出来事を暴露している。そのひとつは、インドネシア東部の小さな島、タラカン島に建設中の巨大パルプ工場である。この工場がフル稼働すれば、年間330万トンの木材が破砕されることが予測されている。これは年間でトラック10万台分以上の丸太に相当し、ボルネオとパプアの太古の熱帯林60万ヘクタールが危機に瀕することになる。

熱帯林や周辺に住む先住民族コミュニティ、熱帯林が今も支える驚異的な生物多様性、そして気候の安定やインドネシア自身の気候変動への公約に対する熱帯林の重要な貢献にもかかわらず、企業が減少しつつあるインドネシアの熱帯林から利益を得ようとし続けることに驚くことではない。

しかし注目すべきは、この破滅的なゲームに参加している悪しきプレイヤーたちである。それは、ロイヤル・ゴールデン・イーグル・グループ(RGEグループ)、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、そしてプロクター&ギャンブル(P&G)だ。

写真:Ulet Ifansasti/Greenpeace

「森林破壊のエース」 RGEグループ

トランプの1枚目、つまり最初のプレイヤーは、ケイマン諸島で登記された会社で、タラカン新工場の代表者、フェニックス・リソーシズ・インターナショナル(PT Phoenix Resources International)である。調査の結果、同社はインドネシアで最も裕福かつ最も物議を醸している大物実業家の一人、スカント・タノト氏の支配下にある可能性が高いことが明らかになった。タノト氏はRGEグループの実質的所有者である。

オフショアを通じて、所有権が複数の層から成る複雑な企業構造を構築する企業は珍しくない。この仕組みは、実際に事業を行っている国での税収を大抵の場合は犠牲にして減らし、大企業が税負担を軽減または回避する方法を提供する。それに加えて、企業グループは「シャドーカンパニー(影の会社)」を運営する能力も得られる。「シャドーカンパニー」とは、親会社である企業グループの慎重に管理された対外的イメージに反するような、物議を醸す活動を水面下で行う企業のことである。

RGEグループは、長年にわたりインドネシアの熱帯林を皆伐し、先住民族や地域コミュニティの権利を侵害してきた破壊的な歴史を持つ。しかし2015年以降、RGEグループとその主要構成会社であるAPRIL(紙パルプ会社)、アジアン・アグリ(パーム油生産・精製会社)、アピカル(パーム油加工・販売会社)はいずれも「森林伐採ゼロ」の誓約を含む持続可能性へのコミットメントを強調して宣伝している。RGEグループは、自社の方針は「金銭的関与を問わず、RGEグループが所有、管理、あるいは投資する」すべての企業に対し「例外なく」適用され、「すべての繊維、木材、パルプの第三者供給業者」を含むと主張している。しかし、このコミットメントの信憑性には大いに疑問がある。

「キャッシュの王様」 MUFG 

RGEグループの継続的な拡大の要は、タラカン島の新工場のような資本集約的な事業の資金を銀行に依存していることである。「森林と金融」連合がまとめたデータによると、2016年以降、RGEグループの取引銀行のうち上位15行が、RGEグループの森林セクター事業に合計で50億米ドル以上の融資を行っている。なかでもRGEグループにとって極めて重要な取引銀行のひとつが、日本最大の銀行である三菱UFJフィナンシャル・グループ(東証:MUFG)である。

最近のMUFGの融資に関連して、RGEグループの社長は次のように述べている。 「持続可能性は当社のビジネスモデルの中核であり、サステナブルファイナンス(持続可能な社会を実現するための金融)はRGEにとって進むべき道です。私たちはパートナー銀行からの支援と関心を得ており、2022年に総額16億米ドルの持続可能性に関連した融資を確保しました」。 この声明は、むしろグリーンウォッシュ(訳註:上辺だけの環境配慮アピール)の協定に読める。

MUFGによるRGEグループ企業への多額の資金援助は、「保護価値の高い地域における森林破壊(deforestation)が行われていないこと」を顧客に求めるというMUFG自身の森林セクター方針と矛盾しているように見える。 『パルピング・ボルネオ』報告書は、2015年から2022年にかけて、オランウータンの生息地を含む3万7000ヘクタール以上の自然林を皆伐して得た木材を、RGEグループが関連する別の工場である バリクパパン・チップ・レスタリ(PT Balikpapan Chip Lestari)が加工していたことを明らかにしている。そして2021年には、RGEのパーム油が、スマトラ島の熱帯低地林である「ルーセル・エコシステム」内の原生林を皆伐して栽培されたアブラヤシから生産されたことが暴露されスキャンダルとなっている。他にも問題事例が後を経たないが、残念なことにMUFGからの資金提供は続いている。 

有害な活動につながりのある銀行は総じて、自社のサステナビリティ方針は、幅広い企業グループの中の特定の子会社にのみ適用されると言い訳をする。しかしこのようなあからさまな抜け穴は、森林保護へのコミットメントを事実上無意味なものにしてしまう。また、OECD多国籍企業ガイドラインのような国際基準や、汚職などの問題に関して国際機関が発行したその他の金融基準にも抵触している。

近年、ますます多くの銀行がRGEから手を引いていることは、多くを物語っている。MUFGが掲げる持続可能性へのコミットメントが信じるに値するものなのであれば、MUFGも毅然とした態度でRGEとの関係を断ち切らなければならない。しかし、資金の流れを止めることは解決策の一部に過ぎない。RGEグループや類似するグループの拡大に手を貸した銀行には、被害を受けた地域コミュニティや生態系を救済する責任があるはずである。

写真:北カリマンタン州のタラカン島にあるフェニックス・リソーシズ・インターナショナル社の建設現場、2022年12月 ©️Environmental Paper Network(3°22’57.55 “N-117°31’15.94 “E)

「化粧品の女王」 P&G

次のプレイヤーは消費財企業である。消費財企業は、搾取された土地や人々から調達された安価な原料の需要を牽引する主要な役割を果たしている。例えばプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は、RGEグループのパーム油部門から原料を調達し、最終的に衛生用品や化粧品などの様々なパーソナルケア製品に使用している。P&Gは「森林破壊ゼロ、泥炭地ゼロ、搾取ゼロ」(NDPE)方針を掲げているが、MUFGと同様に不十分で、すべての森林リスク産品に関して取引先企業が関連する企業グループ全体に方針を適用していない。

P&Gは利益を上げ続ける一方で、RGEのような企業グループとのビジネスの代償を、インドネシア全土で森林破壊に立ち向かう地域コミュニティに支払わせている。その事例の一つが、北スマトラ州のコミュニティ「パルガマナン・ビンタン・マリア」に対する、RGEグループの関連企業であるトバ・パルプ・レスタリ(TPL)による土地収奪である。

パルガマナン・ビンタン・マリア」集落は、TPL(紙パルプ生産企業)の操業による影響を受けている数十のバタク先住民族コミュニティの一つである。TPLが収奪した土地は同コミュニティの先祖代々の土地の40%と重なり、その3分の1はすでに同社工場に供給するために産業用パルプ材に転換されている。このプロセスは、コミュニティの十分完全な同意なしに行われた。干ばつの増加や洪水、森林に依存した生活の衰退など、悲惨な影響がすでに生じている。地域コミュニティは組織化して、P&Gのような世界的な消費財企業に対して、TPL社が彼らの慣習林を返還し、先住民族コミュニティを犯罪者扱いする不当行為や脅迫を止めるまで、RGEグループ全体との取引を停止するよう求めている。

破滅的なゲームに終止符を打つ

今、P&GやMUFGのような消費財企業や銀行が、方針の抜け穴を悪用するのを止めるべき時が来ている。国際企業や金融機関のサステナビリティ方針は、森林や泥炭地の破壊、あるいは地域コミュニティや労働者の搾取に関与する企業グループとの取引を禁止しなければならない。そしてその方針は、1)森林リスクがあるセクターにおける全ての産品を対象とし、2)取引先企業が関連する企業グループ全体に適用されなければならない。この二つの要件を持たない方針は全て、消費財企業や銀行が引き起こしている真の被害から意図的に目をそらすための巧妙なごまかしにすぎない。

朗報は、消費財企業や銀行が、顧客や供給業者の企業グループの全容を評価するために、特別に考案された詳細な方法論が存在することである(訳註:『Shining Light on the Shadows(影に光を当てる)』で説明)。この方法論は、アカウンタビリティ・フレームワーク・イニシアティブ(AFI)による「企業グループ」の定義ーー「当事者のいずれかが他方の行動や業績を監督するという関係によって企業が提携する法人の総体」ーーを用いている。 このアプローチは、消費財企業や銀行の方針範囲の基礎となるべきである。

森林破壊に関する課題と解決策は、熱帯林が広大であるのと同じくらい複雑であるが、ひとつ確かなことがある。「森林と森の民の人権を守る(キープ・フォレスト・スタンディンク)」ためには、消費財企業や銀行は「環境に配慮しているふり」をやめ、しっかりとした方針を打ち出し、真剣に取り組む必要がある。陰で森林を切り倒し、地域コミュニティを破壊する企業グループに現金を提供し、契約書を交わすことは「持続可能」とは言えない。 私たちはその行為を実態に即して呼ぶ必要がある。それは「単純明快な不正行為」であると。

*本記事は、英文 ”The Players Behind a New Wave of Deforestation in Borneo and Papua”(2023年5月22日)の和訳版です(2024年2月15日投稿)。

 

プレスリリース『森林と金融 2022年方針評価』発表〜メガバンクら金融機関の森林ESG方針は不十分〜(2022/10/19)

森林破壊・気候変動・人権侵害への資金流入を防げず

  • 森林破壊リスクのある産品企業に投融資する上位 200金融機関(銀行と投資機関)の森林関連方針を評価。総じて方針は弱く全体平均は10点満点で1.6ポイント、約6割の金融機関が1ポイント未満だった。
  • 上記産品企業300社への資金の流れも分析。その結果、パリ協定以降、世界の銀行は2,670億米ドルの融資・引受を行ない、投資機関は400億米ドルの債権や株式を保有していることがわかった(2022年9月時点)。
  • メガバンクの方針評価はMUFGが5.4ポイント、みずほは6.9ポイントと高評価を得るも、問題の多いインドネシアの紙パルプ大手2グループに多額の資金を提供している。

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部サンフランシスコ、以下、RAN)を含む8団体で構成する「森林と金融」連合は18日、「森林と金融」データベースを更新し、「2022年方針評価」を発表しました(注1)。新たに世界大手200金融機関(銀行と投資機関)の森林関連方針を評価・分析した結果、全体平均は10点満点のうち1.6ポイントと総じて低評価で、農林業その他土地利用(AFOLU)セクターに投融資を行う金融機関には十分な環境・社会・ガバナンス(ESG)方針がないことが浮き彫りになりました。

また、更新したデータを分析した結果、パーム油や紙パルプなど森林をリスクにさらす産品(以下、森林リスク産品)への多額の金融サービスを金融機関が行っていることも明らかになりました。 パリ協定締結以降の2016年から2022年9月、森林リスク産品企業300社に2,670億米ドルの融資・ 引受が行われ、新型コロナウイルスの世界的流行時には減少したものの2021年には2018年の水準に戻りました(図1)。農林業その他土地利用セクターは世界の温室効果ガス排出量の23%を占めているにもかかわらず(注2)、不十分な方針のもとで森林リスク産品への資金流入に歯止めがかかっていないことを問題視しました。

評価対象の金融機関には日本のメガバンク3行、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も含まれます。メガバンクが高評価を得た一方、GPIFは0.7ポイントと平均以下でした。

  1位 ノルウェー政府年金基金(7.5ポイント)
  2位 ラボバンク(7.4ポイント)
  3位 ABNアムロ(7.2ポイント)
  4位 みずほフィナンシャルグループ(6.9ポイント)
16位 三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)(5.4ポイント)
31位 三井住友フィナンシャルグループ(4.0ポイント)

*他の日本の金融機関は、41位 JAグループ(3.1)、42位 三井住友トラスト・グループ(3.1)、52位 大和証券グループ(2.2)、57位 野村グループ(2.1)、95位 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)(0.7)など(注3)。

【概要】

『森林と金融』は、東南アジア、ラテンアメリカ、中央・西アフリカにおける紙パルプやパーム油など森林リスク産品への資金流入を包括的に分析したオンラインデータベース。金融商品、銀行・投資機関、国・地域、企業グループ、年、部門別に検索が可能です。

今回の方針評価の対象となった金融機関は、紙パルプやパーム油など森林リスク産品企業に投融資する上位200銀行及び投資機関で、銀行には日本のメガバンク3行、投資機関には年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が含まれます。

  • ●対象事業地域:世界三大熱帯林地域である東南アジア、ラテンアメリカ(アマゾン)、中央・西アフリカ(コンゴ盆地)
  • ●対象産品:牛肉、パーム油、紙パルプ、天然ゴム、大豆、木材(森林リスク産品)
  • ●対象期間:融資・引受は2016年から2022年9月、債券・株式保有は2022年9月時点
  • ●評価方法:各金融機関の森林関連方針を環境・社会・ガバナンス(ESG)の3分野35項目の基準で評価。方法論の詳細(注4)

【主な分析結果】

  • ●方針評価
    全体の平均得点は10点満点中1.6ポイントと総じて低評価でした。全金融機関の59 %が1ポイント未満で、ESGリスクの管理と緩和ができていないことを表しています。また7ポイント以上の評価を得たのはわずか3金融機関で、改善の余地が大きく、気候変動や生物多様性の損失に対処しなければならない緊急性を反映しているとは言えません。
  • ●金融サービス
    対象金融機関の金融サービスの合計を調査・分析。その結果、森林リスク産品企業300社への融資・引受額はパリ協定締結以降の2016年から2022年9月で2,670億米ドル、株式・債券の保有額は2022年9月時点で400億米ドルであることがわかりました。
  • ●日本の金融機関の評価
    みずほとMUFGの方針評価がそれぞれ6.9ポイント、5.4 ポイントと高評価ながらも、インドネシアの紙パルプ大手企業2社のAPP社(シナルマス・グループ)とエイプリル社(ロイヤル・ゴールデン・イーグル・グループ)に多額の資金を提供しています。
    GPIFの評価は昨年に続き0.7ポイントと低く、PRI(責任投資原則)に署名している一方で、ブラジル牛肉大手企業への1,900万米ドルの投資が確認できました。

【ケーススタディ】

ブリーフィングペーパーでは森林破壊の要因となるセクターとして、インドネシアの紙パルプ産業とアマゾンの牛肉産業への金融の役割について事例紹介しています。両産業に金融サービスを提供する金融機関の方針について、環境・社会基準6項目(森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、火災禁止、強制労働・児童労働禁止、先住民族及び地域コミ ュニティの「自由意思による事前の十分な情報に基づく同意(FPIC)」の尊重)で評価したところ、方針は非常に弱く、火災の原因となる環境悪化の防止、先住民族や地域コミュニティの権利保護、強制労働及び児童労働による搾取禁止の措置はほとんど講じられていないことが判明しました。上記6項目は、森林保護の国際基準となっている「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE: No Deforestation, No Peat, No Exploitation)が方針に採用されているかが鍵となります。

RAN日本代表 川上豊幸のコメント

「メガバンクにとっての大きな課題は、3行ともに投融資先企業に対してNDPE方針遵守の公表、あるいはNDPEに準ずる方針作成を求めていますが、企業グループ全体での遵守を明確には求めていない点です。つまり、投融資先企業にNDPE方針の遵守状況の確認を十分に行う体制が整っていません。そして遵守確認は事業ごとに判断され、投融資先企業全体や企業グループ全体での遵守評価が行われてもいません。そもそも、MUFGはNDPE遵守の公表をパーム油の農園企業や他の大規模農園には求めていますが、紙パルプ部門を含む森林セクター方針に含まれていない点も問題です。

 加えて、メガバンクの森林セクター方針では、取得すべき森林認証として、FSC認証よりも脆弱なPEFC認証が認められています。そのため、FSC認証を取得することができない問題企業にも資金提供が可能となっていることから、早急な方針改善が必要です」

 

「森林と金融」連合は、森林リスク産品セクター特有の社会・環境面での負の影響を止めるために、銀行と投資機関に強固なESG基準とデュー・デリジェンス (相当の注意による 適正評価)の必要性を訴えています。

 

参考:インドネシア紙パルプ大手とブラジル牛肉大手への銀行別融資・引受額と方針得点

(「森林と金融 2022年方針評価」ブリーフィングペーパーより)

  • ●MUFGとみずほは、APP社(シナルマス・グループ)とエイプリル社(RGEグループ)の大きな債権者である。APPとエイプリルは自社パルプ工場の生産能力拡大を計画し、インドネシアの泥炭地と熱帯林への負荷の高まりが懸念されている(注5)。
  • ●みずほは紙パルプ部門で火災・人権基準を盛り込んだ融資・引受方針を設けているものの、2016年から2022年9月に12億ドルもの融資・引受を行なっている。これはインドネシア4行とHSBCに次いで6番目に多い金額であり、同行の方針の実施状況が疑問視される。

  • ●ブラジル牛肉部門はアマゾンでの森林破壊の要因となっている。GPIFが投資しているブラジル牛肉大手3社は、10年以上前に署名した森林破壊ゼロの約束を実行できず、いまだにサプライチェーンに森林破壊がないことを保証できていない。 

注1)「森林と金融」データベース(英語日本語
銀行方針評価まとめ(英語、「総合得点(Weighted Total)」で「降順/昇順」を選択)
「森林と金融 2022年方針評価」ブリーフィングペーパー(2022年10月発行)
「森林と金融」構成団体:レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)、プロフンド(Profundo)、TuKインドネシア、バンクトラック、アマゾンウォッチ、レポーターブラジル、サハバット・アラム・マレーシア(国際環境NGO FoE Malaysia)、FoE US

注2)IPCC 『土地関係特別報告書』(英語)
参考:環境省「IPCC 『土地関係特別報告書』の 概要」、2020年度

注3)GPIF以外の、60位以下の日本の金融機関
日本生命保険(62位、1.9ポイント)、オリックス・コーポレーション(71位、1.5)、群馬銀行(81位、1.0)、地方公務員共済組合連合会(132位、0.2)、公立学校共済組合(0ポイント)

注4)方針評価の方法論:200の大手銀行・投資機関の公開されている方針を環境・社会・ガバナンス(ESG)の3分野35項目の基準で採点・分析。各金融機関が基準項目に明確に取り組み、対象企業とサプライヤーに基準を適用していれば10点、サプライヤーに基準が適用されていないなど部分的遵守は8.5点とした。そして35項目の合計得点を0から10ポイントに標準化した。また産品別でも採点され、各金融機関の投融資額の合計に各産品事業が占める割合を算出し、加重平均の上、合計した数字を総合得点とした。

評価基準35項目の概要:

  • ●環境分野(10項目):森林破壊禁止、泥炭地開発禁止など
  • ●社会分野(10項目):先住民族や地域コミュニティの権利尊重(自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)原則の実施)など
  • ●ガバナンス分野(15項目):投融資の透明性、汚職規制、情報開示など

注5)参考:RANブログ「MUFGとみずほが「ネットゼロ」不履行、 インドネシア紙パルプ大手の事業拡大に資金提供」、2022年1月31日

 

団体紹介
レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
東京都渋谷区千駄ヶ谷1-13-11-4F
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

共同プレスリリース:市民団体、国連の支持するTNFD提案のリスクを指摘(2022/8/3)

〜自然に対する企業グリーンウォッシュの新境地になると懸念〜

 

13の市民団体は、8月3日、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の取り組みは自然に対する企業のグリーンウォッシュを助長しかねないと警鐘を鳴らしました。TNFDは市場主導の自主的なイニシアチブですが、国際社会の多様な関係者から支持されています。自然および生物多様性の危機とそれを進める数兆ドルもの投融資に社会的関心が高まる中、TNFDは、姉妹イニシアチブであるTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)と同様に、政府規制当局が描く青写真的な役割を果たすことになります。今年5月、28のNGOとネットワークはTNFDにNGO共同書簡を出し、TNFDが公表した情報開示フレームワーク草稿の初回版について大きな懸念を指摘しました。

共同書簡を出したNGO

 

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)アドバイザーであるショナ・ホークスは「私たちは、ビジネス界の利害関係者によって全面的にコントロールされたプロセスで実施されるものについては常々懐疑的でした。それにしても最新版であるTNFDフレームワーク草稿の第二版はあまりにもひどく、愕然としました」と述べました。

TNFDはグローバル企業の幹部34名が中心となって、2021年に発足しました。TNFD は、企業や金融機関が自然との関係と影響について(将来も含め)自己開示すべき情報をまとめたフレームワークの構築を進めています。これには、短期、中期、長期の変化に対する準備も含まれると考えられます。TNFDは、数兆ドルもの資金が自然危機を引き起こしている企業やプロジェクトを支えている事実について国際社会の認識が高まった時期に発足しました。TNFDは、フレームワークの草稿の初回版を今年3月に、そして第2版を6月に公表しました。第3版と第4版は11月と2023年2月、そして最終的な提言が同年9月に公表される予定です。

TNFDの現在のフレームワークで懸念される主な内容は、以下の通りです。

TNFDは、企業や金融機関に対し、自然や人に対して既に明らかになっている被害や悪影響を報告することを求めていませんTNFDが求めているのは、財務上の重要なリスクや機会(この場合は自然との関係から発生する可能性のあるリスクや機会)について報告することのみで、これ自体主観的なものです。倫理的な企業は、自然に対するすべての害はビジネスにとって悪いことと考えるかもしれませんが、環境破壊によって利益を得ている企業はそうではありません。もし、ある企業が環境破壊につながると知りながら、それが金銭的な弊害をもたらすと考えなければ、その環境破壊が報告されることはありません。これがグリーンウォッシュの重要な赤信号であり、ダブル・マテリアリティ報告(財務的マテリアリティと環境・社会マテリアリティ)を支持する欧州証券市場機構(ESMA)やグローバル・レポーティング・イニシアティブ取り組みと整合するようには見えません。また、TNFDは、第1版について、その影響と、そして人権に関する報告を組み込むべきだというフィードバックが寄せられたことも言及していますが、いずれも除外しています。

TNFDは、人権(女性、先住民族、地域コミュニティ、農民、そして自然を守るために、多くの場合大きな危険を冒して企業に立ち向かっている人々の権利を含む)を無視しています。TNFDは、国連開発計画から何十万ドルもの資金援助を受けているにもかかわらず、しばしば自然危機の背景にある人権侵害を無視しつつ自然危機を解決できるという考えを標準的なものとしています。

TNFDは、コミュニティ、NGO、メディアが調査した結果、自然や人に対する被害に企業が関係しているという申し立てがあっても、グリーバンスリスト(苦情処理対応の進捗一覧)の公表や、同様の情報開示措置を企業に求めていません。苦情や抗議は、企業の主張に実践が伴っているかどうかを確認するための最も重要な手段の一つです。

TNFDは、一連のガイドラインを拙速に作成する計画です。TNFDのガイドラインは、セクター、金融関係者、領域(海洋、淡水、陸上、大気)、およびその他に考えられる分野の推奨事項について概説するものです。TNFDが、その幅広い活動において、健全なマルチステークホルダー・プロセスによって設定される期待を反映せず、むしろハードルを大きく下げて自らに都合の良いアプローチを選択することはこれまでにも多々ありました。ガイドラインが貧弱であれば、環境・人権に関する既存の多くの国内・国際基準よりもハードルが低く設定される可能性が高くなります。そうなれば、TNFDは長年の前進と学んだ教訓を台無しにすることになります。ガイドライン作成のプロセスには、幅広いコンサルテーションと、提案されているよりも厳密なアセスメントが必要です。

各団体からのコメント

エディ・ストリスノ氏 TuK (トゥック)インドネシア事務局長
「TNFD案を見ると、それでうまくいくのかという疑問がまず湧いてきます。長年、企業や金融機関による被害事例を追跡調査してきた結果に基づくと、その答えは『ノー』です。環境破壊が報告すらされず、現地の人々の権利が尊重されなければ、旧態依然としたビジネスが続くことになるでしょう」

キャサリン・ルー氏 FoE US シニア・プログラム・マネージャー
「グローバル企業は、TNFDが将来の規制の青写真を描く可能性があることを知りながらTNFDのルールを作っています。しかし、こうしたグローバル企業や金融機関は、規制の緩い方が利益をあげることができるのです。これまでのところ、TNFDには、自然や人間が生き残って繁栄できるように金融システムを変えようという野心が恥ずべきほどど欠如しています。それどころか、生物多様性の危機を増大させる青写真になっています」

ハンナ・グリープ氏 バンクトラック  Banks & Natureキャンペーン・リード
「現在のTNFDは、企業や金融機関に大きなグリーンウォッシュの可能性を提供しています。気候変動や生物多様性の危機への対処で必要とされる、緊急かつ有意義な行動を遅らせる可能性があります」

クワミ・コポンドゾ氏 グローバル・フォレスト連合 採掘産業・観光・インフラキャンペーン・コーディネーター
「TNFDの提案は酷いどころではなく、自然破壊や人権侵害を助長し、そこから利益を得ている数兆ドルの投融資をどう転換するかという幅広い議論を乗っ取ることになっています。企業による虐待行為や自然破壊による被害者が求めている解決策とは遠くかけ離れています」

メリッサ・ブルースカイ氏 Center for International Environmental Law(国際環境法センター、CIEL)上級弁護士
「TNFDの議論には、土地、森林、水を守るためのたたかいへの報復がいかに暴力的で、残忍かつ破壊的で、また往々にして命にかかわるものであるかという視点が欠けています。自然保護や権利擁護の必要性についての発言を封じ込めるために、平均して毎週4人が殺害されています。多くの投資家や銀行は、こうした被害との関連について繰り返し警告を受けながら、被害防止策をほとんど講じてきませんでした。こうした残虐な行為に歯止めをかけるため、TNFDの報告には、過去、現在、そして将来に起こりうる自然や人権への被害を盛り込む必要があります」

モイラ・バース氏 アマゾン・ウォッチ 気候変動・財務担当ディレクター
「TNFDの提案するフレームワークでは、企業は利益に影響が出ない限り、自然破壊と人権侵害を支援し続けることができてしまいます。しかし、リスク分析でコミュニティや環境に対する長期的・短期的な被害の考慮を企業に求めないということは、深刻な環境破壊と人権侵害、そして生物多様性と気候危機悪化の土台作りをしていることに他なりません」

オスプレイ・オリエラ・レイク氏 Women’s Earth and Climate Action Network (WECAN)事務局長
「国連機関がマルチステークホルダー・イニシアチブではないTNFDを支持し、資金を提供していることに懸念をもっています。TNFDは企業によって作られた、『ビジネス・アズ・ユージュアル』(従来どおり)な、企業のためのものです。人権や先住民族の権利、ジェンダー分析、気候変動と生物多様性の危機の前線にいる人々の平等な立場については言及されていません。また、説明責任や、影響を受けるコミュニティや生態系への被害や苦情を申し立てるための苦情処理メカニズムついても論じられていません。大胆かつ変革的な真の解決策が緊急に必要とされています。今や私たちは破滅的な事態にあり、人と自然よりも利益を優先する取り組みをこれ以上続けることはできません」

 

賛同団体

アマゾン・ウォッチ(Amazon Watch)

バンクトラック(BankTrack)

国際環境法センター(Center for International Environmental Law)

フォレスト・ピープルズ・プログラム(Forest Peoples Programme:FPP)

「森林と金融」連合(Forests & Finance Coalition)

FoE US(Friends of the Earth US)

グローバル・フォレスト連合(Global Forest Coalition:GFC)

グローバル・ウィットネス(Global Witness)

ジュビリー・オーストラリア・リサーチセンター(Jubilee Australia Research Centre)

プロフンド(Profundo)

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

TuKインドネシア(TuK Indonesia)

女性による地球・気候行動ネットワーク(Women’s Earth and Climate Action Network :WECAN)

(英語プレスリリース Civil Society Groups Say UN-Backed TNFD Proposal Risks Opening A New Frontier For Corporate Greenwashing On Nature 。和訳版は2022年9月13日投稿)

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。
https://japan.ran.org

プレスリリース:森林&人権方針ランキング2021発表〜日清食品、花王、三菱UFJは低評価 〜 (2021/4/27)

各社、取り組み遅れ〜森林破壊と人権侵害をもたらす消費財企業・銀行17社の実施方針を比較〜

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日27日、新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング2021」(注1)を発表しました。熱帯林破壊と人権侵害を助長している最も影響力のある消費財企業と銀行の17社を対象に(注2)、各社の方針と実施計画を森林と人権の二分野で評価した結果、自社サプライチェーンおよび投融資で森林破壊と人権侵害を止めるために適切な措置を講じている企業と銀行は一社もないと結論づけました。人権侵害には土地収奪や地域住民および先住民族への暴力なども含まれます。

本ランキングは、日本企業の日清食品ホールディングス、花王、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)を含むグローバル消費財企業と銀行の17社を対象に、森林と人権分野の10項目を20点満点で評価しています。得点に合わせてA(18〜20点)、B(15〜17点)、C(12〜14点)、D(5〜11点)、不可(0〜4点)で評価しました。最も高評価だったのはユニリーバですがCランクにとどまり、日本企業はいずれも最低ランクの「不可」でした。

主な森林・人権方針の評価項目(全10項目、各2点)

「森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE)採用:パーム油や紙パルプなど森林破壊を引き起こす産品事業の生産・投融資に欠かせない国際基準(注3)

「森林フットプリント」開示:サプライチェーンや投融資先の事業が影響を与える森林の総面積(注4)

「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)原則」の実施:先住民族および地域コミュニティの権利尊重(注5)

暴力や脅迫への「ゼロトレランス」(不容認)方針の有無

NDPE方針遵守の証明・独立検証、など

日本企業は3社とも方針にNDPEを限定的ながら採用するも、森林フットプリント開示、FPIC原則の実施、ゼロトレランス方針の有無、NDPE方針遵守の証明では得点がなく、総合点は2〜4点という低評価となりました。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表の川上豊幸は「日清食品、花王、三菱UFJはいずれも低評価だったのは残念です。3社ともベストプラクティスである『森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止』(NDPE)を方針に採用したことは評価できます。しかし同時に、自社のサプライチェーンや投融資先で起きている人権侵害を止めるための方針策定が急務です。さらにNDPE方針の適用セクターの拡大や遵守のための独立検証、森林フットプリントに代表される情報開示といった、具体的な取り組みを進める必要があります」と訴えました。

日本企業各社の点数と評価概要、改善点

日清食品(2点):グループ全体の調達方針に「NDPEを支持する」と記載しているが、消費財企業10社で最も低評価だった。改善のためには、グループ調達方針に供給業者が遵守すべきNDPE項目を明記し、供給業者にNDPE採用を義務付ける必要がある。またパーム油の搾油工場リストといった供給業者の情報開示を通して、生産地の現状把握と問題対応のための体制強化を行う必要がある。持続可能なパーム油100%調達を2030年までに達成するという目標も大幅な前倒しが必要。

花王(3点):原材料調達ガイドラインで森林破壊ゼロを支持し、人権方針で人権尊重を支持している。供給業者や合弁企業側のグループ全体でのNDPE遵守を要請はしているが、NDPE方針採用の義務化が必要。2021年の活動方針に「人権擁護者への暴力や不当告発、脅迫などを容認しない」とあるが、企業方針となっていないので国際基準のゼロトレランス・イニシアティブ(注6)に沿った企業方針としての公表が必要。そしてインドネシアでの森林フットプリントを作成し公表する迅速な動きが求められる。

MUFG(4点)環境・社会方針を4月26日に改定し、投融資先に「NDPE遵守の公表」の要求を追加したがパーム油の農園企業に限定され、パーム油購入企業や、紙パルプや大豆など他の森林リスク産品セクターには適用されなかった。MUFGはパーム油セクターへの融資・引受額が東南アジア以外の地域に本社を置く銀行では最大で、紙パルプ産業にも多額の融資を提供している。今後、NDPE方針の適用拡大と、投融資先にNDPE方針遵守のための独立検証を求めていくことが課題になる。

17社の消費財企業・銀行の持つ影響力

評価対象となった企業や銀行の多くは、「森林破壊禁止」と先住民族の権利および人権尊重の達成のために、国連「持続可能な開発目標」(SDGs 15.2:2020年までに森林減少阻止)への賛同をはじめ様々なコミットメントを表明して自社方針を策定してきました。しかし、インドネシアの熱帯林と世界中の熱帯林はパーム油や紙パルプ、牛肉、大豆、カカオ、木材製品といった産品のために伐採されて火を入れられ、さら地にされています。

川上は「評価対象となった消費財企業と銀行は熱帯林破壊や土地収奪、人権擁護活動家の殺害といった問題に対して大きな影響力を持っています。なぜならば、インドネシアで大規模な森林破壊や人権侵害を行っている林業やアグリビジネス企業は、グローバル消費財企業との取引に支えられ、大手銀行からは多額の資金が流れているためです。今回の評価と分析からは、人権侵害や森林破壊を止めるための方針策定と、具体的な取り組みを十分に実践している企業がないことが明らかになりました」と指摘しました。

今回の評価では、以下の通り、方針の実施を改善するために必要な手順も示しています:

●第一段階として、自社のサプライチェーンや投融資から森林破壊と人権侵害を停止するための方針を採用すること

●自社事業が森林と先住民族・地域コミュニティの権利に与える影響の全容を公表すること

●暴力的行為を未然に防ぎ、先住民族・地域コミュニティの権利が十分に尊重されることを保証していること

●供給業者や投融資先企業の自社方針遵守を証明すること

森林、特に熱帯林は温室効果ガスを吸収して貯留し、地球全体の降雨量を維持しています。インドネシアの森林は地球で3番目に大きな熱帯林で、地球全体の気候と生物多様性の危機に対処する上で重要な役割をもちます。インドネシアの先住民族と地域コミュニティは森林減少を効果的に防いできた守り手であり、何世代にもわたって森林を上手に管理してきました。そして今、自分たちの同意なしに土地や森林を搾取しようとする様々な企業に抵抗しています。

さらなる森林破壊と人権侵害を防ぐために、森林破壊と人権侵害を行う大手アグリビジネス企業と林業企業に対して大きな影響力をもつ消費財企業と銀行は、実質的な行動を早急に取ることが要求されます。

注1)新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング2021〜森林破壊と人権侵害をもたらす企業と銀行の実施方針を評価〜」(日本語版)

方法論等の詳細は英語版を参照ください:「 Keep Forests Standing: Evaluating Brands and Banks Driving Deforestation and Human Rights Abuses」

注2)消費財企業(10社):日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース
銀行(7社):MUFG、JPモルガン・チェース、中国工商銀行(ICBC)、DBS、バンクネガラインドネシア(BNI)、CIMB、ABNアムロ

「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」は、RANが2020年4月から展開しているキャンペーンです。熱帯林破壊と人権侵害を助長している最も影響力のある上記の消費財企業・銀行17社に実際の行動を起こすよう要求しています。注3)〜注5)の参考資料としてもご参照ください。

注3)NDPEはNo Deforestation、No Peat、No Exploitationの略。森林減少や劣化に対しての保護(炭素貯留力の高い(High Carbon Stock:HSC)森林の保護、保護価値の高い(HCV: High Conservation Value)地域の保護)、泥炭地の保護(深さを問わず)、人権尊重、火入れの禁止といった要素を含む方針を公表している企業は「あり」の評価を得る。

注4)「森林フットプリント」とは、森林を犠牲にして生産される「森林リスク産品」の消費財企業の利用や、銀行による資金提供によって影響を与えた森林と泥炭地の総面積をいう(影響を与える可能性がある面積も含む)。消費財企業と銀行の森林フットプリントには、供給業者や投融資先企業が取引期間中に関与した森林および泥炭地の破壊地域、さらに供給業者や投融資先企業全ての森林リスク産品のグローバルサプライチェーンと原料調達地でリスクが残る地域も含まれる。森林および泥炭地が先住民族や地域コミュニティに管理されてきた土地にある場合は、その先住民族と地域コミュニティの権利への影響も含む。

注5)「FPIC」(エフピック)とは Free, Prior and Informed Consentの略。先住民族と地域コミュニティが所有・利用してきた慣習地に影響を与える開発に対して、事前に十分な情報を得た上で、自由意志によって同意する、または拒否する権利のことをいう。

注6)「ゼロトレランス・イニシアティブ」ウェブサイト

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

プレスリリース:新報告書「FPIC実施原則の必要性」発表(2020/12/22)

インドネシアのアグリビジネス大手、先住民族の権利尊重に不備
〜パーム油、紙パルプ等企業グループ10社の方針と取り組みを評価・分析〜

サンフランシスコーー米環境NGO レインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、9日(現地時間)、新報告書『FPIC実施原則の必要性』(注1)を発表し、パーム油、紙パルプ、木材といった森林をリスクにさらす産品に従事するインドネシア大手企業グループ10社が農業開発の過程で先住民族と地域コミュニティの権利尊重を確保するための適切な方針と標準作業手順書をもっていないと批判しました。

【報告書の概要】

本報告書は、公開されている各社の方針と標準作業手順書(SOP)を、「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC)履行のためのガイドラインと比較して評価し、実施状況を分析したものです。FPICとは、先住民族と地域コミュニティが所有・利用してきた慣習地に影響を与える開発に対して、自由意志による、事前の、十分な情報を得た上で同意する、または同意しない権利のことをいいます(注2)。

評価対象となったのは以下の林業会社、アグリビジネス企業グループ10社です。インドネシアのパーム油、紙パルプ産業は下記10社を含め、少数の複合企業グループに支配されています(注3)。

 ●ベスト・インダストリー・グループ
 ●ゲンティン・グループ
 ●ジャーディン・マセソン・グループ
 ●コリンド・グループ
 ●ラジャワリ・コーポラ
 ●ロイヤル・ゴールデン・イーグル
 ●サリム・グループ
 ●シナルマス・グループ
 ●トリプトラ・グループ
 ●ウィルマー・インターナショ ナル

【評価・分析結果】

FPIC実施のためには、具体的な手続きや実施事項が明記された標準作業手順書が必要になります。今回の分析で明らかになったのは、影響を受けるコミュニティが所有・使用している土地で計画中の開発や既存の開発(アブラヤシ農園やパルプ材植林地開発、林業事業)に対して、FPICの権利が尊重されることを証明するために、公表された方針と標準作業手順書が適切であった企業グループは一社もないという点です。多くの企業グループはFPIC実施の約束をしていますが、実態が伴わず、以下のような不備が確認されました。

 ●企業グループとしてFPICに関する方針がない
 ●企業グループとしての方針はあるが、標準作業手順書がない、
 もしくは標準作業手順書が公開されていない
 ●標準作業手順書は公表されていても、不十分な内容である

レインフォレスト・アクション・ネットワーク森林政策ディレクター ジェマ・ティラックは「インドネシアが、森林破壊、先住民族コミュニティへの攻撃、気候変動といった相互に関係する世界的危機に寄与していることは見逃せません。今回の評価対象となった林業会社とアグリビジネス企業は、自社事業とサプライチェーンでFPICの権利を実施できなかったため、様々な形で危機を加速させています。多くの企業グループは、森林破壊と先住民族の権利侵害を自社のビジネス慣行から排除することを約束しています。しかし10社の企業グループ全てがその約束を果たせていなく、農園・植林地を拡大する場合に、先住民族や地域コミュニティの権利を尊重した上で土地取得する方法を開示することすらできていません」と指摘しました。

インドネシアの500万ヘクタールを超える土地は、上記の林業会社、アグリビジネス大手企業の管理下にあります。その中にはインドネシア政府から企業に割り当てられた地域内で、「未開発地(開発可能な)」と区分されたり、保全地域として開発対象から除外されて残っている森林や泥炭地が含まれます。こういった土地には先住民族や地域住民が暮らしている場所もあります。上記企業グループ10社の事業地を合計すると、膨大な「森林フットプリント」(事業が影響を及ぼす、またはその可能性のある森林や泥炭地)(注4)となり、インドネシアの先住民族や地域コミュニティに多大な影響を与えます。

また、本報告書では上記10社の企業グループと取引を行っている多国籍消費財企業と銀行に対して、企業グループがFPIC取得手続きにおける法律、規制、ガイドラインへの全面的な適合性を証明するために、自社の供給先企業や融資先企業に踏み込んだ実践を要請するように呼びかけています。消費財企業にはコルゲート・パーモリーブ、フェレロ、花王、マース、モンデリーズ、ネスレ、日清食品、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、銀行には三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)、バンクネガラインドネシア(BNI)、CIMB、中国工商銀行(ICBC)、DBS、ABNアムロ、JPモルガンチェースが含まれます。

銀行と消費財企業の持続可能性に関する主張は、信頼できる独立した検証メカニズムを利用して、影響を受ける先住民族と地域コミュニティの権利が尊重されていることを実証できなければなりません。特に、先住民族と地域コミュニティ、そして彼らが所有・利用してきた慣習地に影響を与える計画中や既存の開発に対して、自由意思による、事前の、十分な情報を得た上での同意する、または同意しない権利が完全に尊重されていることが実証できなければなりません。

注1)報告書『FPIC実施原則の必要性:東南アジアの森林リスク産品サプライチェーンにおける主要10社の方針・標準作業手順書の評価・分析』(原題:“The Need for Free, Prior and Informed Consent: An Evaluation of the Policies and Standard Operating Procedures of Ten Major Corporate Groups involved in Forest-Risk Commodity Supply Chains in Southeast Asia”

各社の方針と標準作業手順書についての評価、分析結果、方法論、および別紙にFPICの権利と人権関連の国際基準について記載しています(英語)。
www.ran.org/FPICevaluation

注2)「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC: Free, Prior and Informed Consent)の定義は以下の通りである:
●「自由」であること:強制、脅迫、撹乱、不当な影響や圧力がないことを意味する。
●「事前」:人権基準上は、政府による事業許可の前を意味するが、少なくとも操業開始前に協議と同意を得るのための十分な時間を置くことを意味する。
●「十分な情報」:事業の内容、規模、進行速度、可逆性、範囲および予想される社会・経済・文化・環境面の影響について先住民族の理解し、アクセスできる形で情報を提供することを意味する。
●「同意」:先住民族の正当な代表者との誠実な協議の上での正式な書面による操業許可を得ることを意味する。FPICは、事業期間を通した継続的なプロセスで、合意内容の不履行や情報の齟齬など特定の条件の下では、撤回されることもある。

先住民族の土地に対する権利は、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」(UNDRIP)に定められている。UNDRIPは 2007年に採択され、先住民族の権利に関する最も包括的な国際的規範である。例えば、第25条および第26条では、先住民族が伝統的に所有もしくは占有してきた土地を所有し、使用し、開発し、管理する権利と有すること、そして伝統的に所有もしくは占有してきた土地との精神的つながりを維持し強化する権利と未来の世代のために保持する権利を有することを明確に強調している。UNDRIPでは、先住民族がFPIC(先住民族が自分たち、または自らの土地に影響を及ぼす可能性のある事業には同意する、もしくは同意しない権利)を有することが明確に述べられている。

参考:「先住民族の権利に関する国際連合宣言」、市民外交センターによる仮訳(2008 年 7 月 31 日、 改訂 2008年9月21日)

プランテーションウォッチ「先住民族の権利に関する国際連合宣言(UNDRIP)に関するビジネス参照ガイド」(『パーム油調達ガイド』より)

注3)インドネシアのパーム油産業と紙パルプ産業は少数の複合企業に支配されている。そのような企業はインドネシアのタイクーン(実業界での大物)や企業グループ、海外投資家の管理下に置かれている。本報告書の対象企業グループ10社については、RAN報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」で、下記の多国籍消費財企業(10社)、大手銀行(7社)とともに、熱帯林破壊と人権侵害に拍車をかけている企業として記載されている。

●消費財ブランド企業:日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース
●銀行:MUFG、JPモルガン・チェース、中国工商銀行(ICBC)、DBS、バンクネガラインドネシア(BNI)、CIMB、ABNアムロ

注4)参考:RAN声明「世界初、ネスレ『森林フットプリント』開示を歓迎〜インドネシア・パーム油サプライチェーンで影響を受ける森林面積を公表」、2020年12月11日

団体紹介
レインフォレスト・アクションネットワーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境・森林保護で最前線に立つ人々とのパートナーシップと戦略的キャンペーンを通じて、環境保護と先住民族や地域住民の権利擁護活動をさまざまな角度から行っています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org