サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

プレスリリース:『生物多様性崩壊をもたらす金融業務』日本語要約版発表 〜メガバンクら邦銀、森林リスク産品にパリ協定以降215億ドルを提供〜(2025/4/10)

三菱UFJと子会社、インドネシア森林火災企業に2億8千万ドル融資の事例も

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部サンフランシスコ、以下、RAN)は、本日、「森林と金融」連合による年次報告書である『生物多様性崩壊をもたらす金融業務:熱帯林破壊を助長する銀行と投資家の追跡』日本語要約版を発表しました(注1)本報告書は大手金融機関が熱帯林地域における森林破壊、生物多様性の損失、気候変動、人権侵害を助長している役割について包括的に分析するものです。日本に関する新たな分析の結果、メガバンクを含む邦銀大手がパリ協定締結以降の2016年から2024年6月、熱帯林破壊に関係する高リスク林業・農業企業に約215億ドルの資金を提供していることが明らかになりました。

要約版では東南アジアでの森林破壊リスクの高いメガバンクの顧客事例も記載しています。その一つは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のインドネシア子会社を通した、大規模な森林火災を繰り返し発生させているアブラヤシ農園企業グループへの融資の事例です。報告書と同時に詳細を発表し、銀行グループの与信方針の抜け穴やデューデリジェンス(相当の注意による顧客の適正評価)の弱さを指摘し、森林火災や違法活動を助長する高リスクな資金提供に警鐘を鳴らしました(注2)

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報告書詳細

本報告書「生物多様性崩壊をもたらす金融業務:熱帯林破壊を助長する銀行と投資家の追跡」は、世界の熱帯林破壊の大部分を引き起こしている「森林リスク産品」セクターの6品目(牛肉、パーム油、紙パルプ、天然ゴム、大豆、木材)に携わる300社の森林部門事業に対する商業資金の流れを、パリ協定採択後の2016年1月から2024年6月の期間において分析しています。報告書では、森林リスク産品セクターへの融資・引受と債券・株式保有において、どの銀行と投資家が最も大きな役割を果たしているかを明らかにしています。森林破壊を引き起こすリスクの高い銀行、つまり資金提供額上位30行のなかには、ブラジルやインドネシアなどの熱帯林諸国の大手銀行や、米国、欧州連合(EU)、日本、中国といった輸入および財政的に重要な区域の大手銀行が含まれます。日本の金融機関による2018年1月から2024年6月の資金提供額はみずほフィナンシャルグループが世界9位(約68億ドル)、MUFGが13位(約53億ドル)、SMBCグループが15位(約4億ドル)と続き、3行ともトップ20行に入りました(表)

表「森林リスク産品への融資・引受額 上位30銀行」(2018年1月-2024年6月、単位:百万米ドル)
*森林リスクセクター159社(東南アジア、ラテンアメリカ、中央・西アフリカ)への融資・引受額、傾向。日本のメガバンクはみずほ(9位)、MUFG(13位)、SMBC(15位)。

日本の金融機関はパーム油と紙パルプ部門に多くの資金を提供しています。融資・引受額は2020年に新型コロナ感染拡大で鈍化したものの、2018年と2019年、2021年には高まりを見せました(図:下)。中でも東南アジアで森林破壊を引き起こしているセクターへの資金提供でのメガバンクの存在は大きく、2018年から2024年6月の期間、MUFGはOECD加盟国の銀行の中で最も多額の融資・引受を行い、みずほは2位、SMBCは5位でした。要約版にはメガバンク各行の東南アジアにおける主要顧客15社も記載されています。中には森林破壊、泥炭地の劣化と火災、土地紛争などの問題を繰り返し指摘されてきたロイヤル・ゴールデン・イーグル(RGE)、シナルマスなどの複合企業グループが含まれます。

図:森林リスク産品セクターにおける邦銀の融資・引受動向 〜2016年〜2024年(6月まで)〜
出典:「森林と金融」融資・引受データ 単位:百万米ドル

事例:MUFG、インドネシア泥炭地で大規模「炭素爆弾」に融資

同時にRANは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のインドネシア子会社バンクダナモンを通じた、森林火災企業グループへの2億8100万ドルもの融資事例を発表しました。MUFGは2021年に国際基準である「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止(NDPE)」をパーム油の与信方針に採用しました。バンクダナモンも同様の方針を掲げているにも関わらずそれに違反し、泥炭地破壊に伴う大規模な火災を繰り返し発生させているアブラヤシ農園企業グループのトゥナス・バル・ランプン(TBLA)に融資を続けています。2024年10月、インドネシア政府はTBLA子会社に対して6,710億インドネシア・ルピア(4,150万米ドル)の生態系と経済への損害の賠償を求める民事訴訟を起こしました。こうした事例は、銀行グループ内での方針不遵守、顧客に対するデューデリジェンス(相当の注意による適正評価)や、監視体制および監査委員会のリスク管理における監督機能の弱さが森林破壊や火災、違法活動を可能にし、銀行による高リスクな資金提供の実態を示唆しています。

写真:泥炭地地域で新たに開発された大規模アブラヤシ農園 インドネシア・スマトラ島、2024年12月

RAN日本シニア・アドバイザーの川上豊幸は「メガバンク3行は、2021年に『森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止(NDPE)』を環境・社会方針に採用しました。しかし依然として資金提供を通じて、熱帯林の破壊や火災に油を注ぎ続けています。メガバンクのNDPE方針は適用範囲が非常に狭く、農園企業や伐採事業などに限定している点が問題です。現在の方針はパーム油、そして紙の原料となるパルプを調達する加工企業を対象外としていて、森林破壊を包括的に防止する歯止めになっていません。もう一つの問題は、それらの企業を傘下または管理下に置く親会社や企業グループ全体への適用もしていない点です。メガバンクはまず、NDPE方針の適用範囲を加工部門まで含めた上で、顧客の企業グループ全体を含めるように拡大していくことが必要です。そして資金提供の際に、NGOが指摘する問題のある企業の情報を真摯に受け止めて、十分なデューデリジェンスを行うことも重要です」と指摘しました。

結論

報告書は長期的な金融の安定を保つために、デューデリジェンスの向上、NDPE方針の強化と実行などが必要であると結論付けています。銀行には、NDPE方針の厳格な実施を顧客企業に求め、実施状況をモニタリングし、顧客企業の方針違反に対処できるような仕組みを導入するといった具体的な取り組みが不可欠です。

※「森林と金融」連合は、キャンペーン活動や草の根活動、調査活動を行う10団体の連合体です。レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)、TuK インドネシア、プロフンド(Profundo)、アマゾン・ウォッチ、レポーターブラジル、バンクトラック、サハバット・アラム・マレーシア(国際環境NGO FoE Malaysia)、FoE US、oEオランダ(Milieudefensie)、CEDカメルーンによって構成されています。

 

注1)報告書日本語要約版版:forestsandfinance.org/BoBC-24-JA-summary
日本語ウェブサイト:forestsandfinance.org/ja/banking-on-biodiversity-collapse-ja

『森林と金融』は、東南アジア、ラテンアメリカ、中央・西アフリカにおける紙パルプやパーム油など森林リスク産品への資金流入を包括的に分析したオンラインデータベース。金融商品、銀行・投資機関、国・地域、企業グループ、年、部門別に検索が可能。

●対象事業地域:世界三大熱帯林地域である東南アジア、ラテンアメリカ(アマゾン)、中央・西アフリカ(コンゴ盆地)
●対象産品:牛肉、パーム油、紙パルプ、天然ゴム、大豆、木材(森林リスク産品)
●対象期間:融資・引受は2016年1月から2024年6月、債券・株式保有は2024年7月時点

英語ウェブサイト:forestsandfinance.org/banking-on-biodiversity-collapse(2024年10月に発表)

注2)RANブログ「MUFG、インドネシアの泥炭地で大規模『炭素爆弾』に融資〜子会社銀行、アブラヤシ農園企業グループに2億8100万ドルを提供 複数の事業管理地で泥炭地破壊と度重なる火災を起こす〜」、2025年4月10日
※泥炭地での農園開発は膨大な量の二酸化炭素が放出され『炭素爆弾』とも呼ばれる。泥炭地から水が抜かれ、土地が乾燥することから火災のリスクも急増し、生態系と気候変動にとって大きな脅威となる。

ブログ:MUFG、インドネシア泥炭地で大規模「炭素爆弾」に融資 〜子会社銀行、アブラヤシ農園企業グループに2億8100万ドルを提供〜(2025/4/10)

複数の事業管理地で泥炭地破壊と度重なる火災を起こす

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

上空からの泥炭地火災の様子、インドネシア・南スマトラ、2019年 ©︎NOPRI ISMI / MONGABAY INDONESIA

概要

⚫️三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、インドネシアの銀行セクターにおいて重要な外国投資家である。2019年にはインドネシア最大の銀行の一つであるバンクダナモンを買収した。2021年、MUFGはパーム油関連の資金提供に関して「森林破壊禁止・泥炭地開発禁止・搾取禁止(NDPE)」方針を策定。

⚫️バンクダナモンは、MUFGグループの方針を明確に逸脱する資金提供を行い続けている。2020年、2021年および2022年に、アブラヤシ企業であるトゥナス・バル・ランプン(Tunas Baru Lampung、IDX:TBLA)に対し、総額2億8100万ドルのクレジットラインを発行した。TBLA社は、泥炭地の破壊や度重なる火災とヘイズ(煙害)など、著しく悪質な環境問題を引き起こしてきた経歴を持つ。MUFGのパーム油セクター方針は、国際的な基準である「NDPE」の考えを取り入れたものであるが、TBLA社は明らかにこの基準に合致していなかった。

⚫️MUFGによる資金提供を受けて、TBLA社は2020年から2023年にかけて、南スマトラ州の2つの隣接する事業管理地(アブラヤシ用地とサトウキビ用地)で7,800ヘクタール(78平方キロメートル)近くの泥炭地を転換し、膨大な温室効果ガス排出と火災リスクを生じさせた。

⚫️その後、2023年には、この2つの事業管理地で大規模な泥炭地火災が発生し、14,500ヘクタール(145平方キロメートル)の土地が被害を受けた。2024年には、インドネシア政府がTBLA社の子会社を提訴し、生態系への損害と経済的損失に対し、4150万ドルの賠償を求めた。

⚫️TBLA社は現在もバンクダナモン/MUFGの取引先であり、2026年までにMUFGに返済予定の貸付金が残っている。

⚫️バンクダナモンによる資金提供は、MUFGグループの社会・環境方針に沿っていなく、また、自ら掲げるNDPE要件にも違反しているため、重大なコンプライアンス上の問題である。

MUFG、インドネシアの泥炭地で「炭素爆弾」に融資

泥炭地開発と気候変動

泥炭地の生態系は、地球上で最も効果的に自然の炭素隔離を行う陸上景観である。アブラヤシ農園を泥炭湿地に開発する際は、水路を造成して排水する必要があるが、炭素を豊富に含む熱帯の泥炭湿地林は、一度水を抜かれて皆伐されると、長期にわたって膨大な量の二酸化炭素を大気中に放出する。また排水は、火災が発生しやすい環境を作り出す。このため泥炭地開発は「炭素爆弾」と呼ばれ、生態系と気候変動における重大なリスクとされる。

泥炭地での産業用大規模農園・植林地(プランテーション)の拡大によって引き起こされる火災は、インドネシアの温室効果ガス排出の最大の原因の1つであり続けている。また、火災に伴う煙害(ヘイズ)は公衆衛生上の危機を引き起こし、何十億ドルもの経済的損失と損害をもたらしている。

泥炭地破壊に伴う大規模火災を繰り返し発生させる農園企業グループ:TBLA

トゥナス・バル・ランプン(Tunas Baru Lampung、IDX: TBLA)は、南スマトラの泥炭地でアブラヤシとサトウキビのプランテーションを運営する上場企業である。同社は、広範な火災環境規制違反への関与を、インドネシア政府や市民団体から繰り返し指摘されている。2024年10月、インドネシア環境森林省(KLHK)は、TBLAの子会社である PT. Dinamika Graha Sarana(PT. DGS)社に対して民事訴訟を起こした。同省は、2023年9月から11月に発生した6,303ヘクタール(63平方キロメートル)以上に及ぶ火災による生態系と経済への損害に対し、6,710億インドネシア・ルピア(約4,200万米ドル、日本円で約57億円*)の損害賠償を求めている。しかし、2023年に広範囲にわたる火災が発生したのは、この子会社だけではない。隣接するTBLAの子会社PT. Samora Usaha Jaya(PT. SUJ)社の事業管理地でも、5,688ヘクタール(約56平方キロメートル)以上に火災が広がっている。RANは、TBLAに本件について書簡を送付してコメントを求めたが、回答は得られなかった。

*202549日現在の為替レート:Rp1.000 IDR = ¥0.008544 JPYで計算した場合、5,733,091,100円に相当

下のタイムラプス画像は、Nusantara Atlas/TreeMapで作成され、2023年8月30日から11月13日までに撮影された衛星画像を時系列で示している。プランテーションの境界線(黄色)を超えて広がる火災と延焼地域(暗褐色)が赤外カラーではっきりと捉えられている。

PT. DGS社の事業管理地における火災(画像をクリックしてタイムラプスを再生)

PT. SUJ社の事業管理地における火災(画像をクリックしてタイムラプスを再生)

この様な火災の発生は、乾燥すると非常に燃えやすい泥炭地がプランテーション開発のために排水されたことと関係している。RANの衛星解析の結果、2023年の火災に先立つ3年間(2020年~2022年)に、TBLAは南スマトラにある2つの子会社(PT. SUJおよびPT. DGS)の隣接する事業管理地で、約7,800ヘクタール(78平方キロメートル)の泥炭地を転換したと推定されている。

MUFG子会社バンクダナモンによる融資

この大規模な泥炭地転換が行われた期間(2020年~2022年)に、TBLAは日本のメガバンクであるMUFGから総額2億8,100万米ドルの融資枠を提供され、MUFGのパーム油セクターで第3位の融資先となった。MUFGは2021年、国際的なベストプラクティスであるNDPE方針の一環として、泥炭地の転換を禁止することを公に誓約するよう顧客に求めた。それにもかかわらず、TBLAへの融資はその後も行われていたことが確認された。

問題のTBLAへの融資は、MUFGのインドネシアの銀行子会社バンクダナモンを通じて実行された。MUFGは2019年に同行を買収し、それ以来、バンクダナモンのサステナビリティ報告書には、MUFGグループと同様にNDPE方針が反映されている。しかし、バンクダナモンによるTBLAへの融資は、NDPE方針が履行されていないことを示している。森林リスクのあるセクターへの融資によって人権問題が常習的に引き起こされているなか、このコンプライアンスの問題は、人権への影響に対処するための銀行の管理体制に関してより広範な懸念を生んでいる。MUFGグループの2024年人権報告書では、環境・社会ポリシーフレームワークと、より広範な人権方針が、同グループの全事業に適用されると記載されている。バンクダナモンが同グループのNDPE方針に従っていないことは、この子会社が同グループのより広範な人権方針も無視しているのではないかという深刻な疑問を生じさせている。

TBLAは、上述の大規模な泥炭地転換が行われる何年も前から火災や泥炭地転換に関与してきた歴史がある。衛星解析の結果、2015年から2019年にかけて、TBLAの2つの事業管理地で8,600ヘクタール(86平方キロメートル)の泥炭地が転換され、2015年には12,103ヘクタール(121平方キロメートル)、2019年には15,873ヘクタール(159平方キロメートル)が火災の被害を受けたと推定される。

継続的な火災リスクと温室効果ガス排出

これらの衛星観測を裏付けるため、地元NGOの現地調査チームは2024年12月にPT. SUJ社の事業管理地を訪問した。この調査では、MUFGが融資を行った2020年から2022年の間に、泥炭地がアブラヤシのプランテーションに転換された複数の地域が記録された。このなかには、繰り返し火災が発生している場所も含まれる。

動画1(緯度-3.34631°、経度105.37663°付近)には、排水された泥炭地で育つ若いアブラヤシが映っている。Sentinel-2による衛星画像(焼け跡を偽色で強調)は、この地域が2019年に深刻な火災被害を受けたことを示している。この地域はその後、2020年から2021年にかけてアブラヤシのプランテーションに転換された。

動画2(緯度-3.3118°、経度105.4185°付近)には、排水された泥炭地で育つ若いアブラヤシが映っている。この地域も2020年から2021年に転換されている。2019年に火災が発生し、その後、プランテーションに転換された。Sentinel-2による衛星画像(焼け跡を偽色で強調)は、この場所で2019年2023年に発生した火災の規模を示している。

パーム油精製業者の80%以上はNDPE誓約に基づき、供給業社による泥炭地から農園への新たな転換を禁止している。インドネシアでは泥炭地の転換そのものは必ずしも違法ではないが、政府規制により、泥炭地で事業を行う企業は、水位を高いレベルで維持することが義務付けられている。泥炭地が乾燥し、その水文学的機能および保全機能が失われるのを防ぐためである。

現地調査チームは、PT. SUJ社の事業管理地内3地域にわたり、17カ所の異なるサンプル地点で水位深度を測定した。その結果、雨季に測定したにもかかわらず、どのサンプル地点も政府が定めた深度要件(40cm)を満たしていないことが判明した。繰り返される火災、泥炭地の転換、不適切な水位管理ーーこれらは、TBLAの事業が南スマトラの泥炭地の機能を破壊し続け、膨大な温室効果ガスの排出や火災と煙害の継続的なリスクを引き起こしていることを示している。

タイムライン:MUFG、バンクダナモン、TBLAを巡る融資と火災

MUFGは2019年にバンクダナモンを買収し、その取引先も引き継いだ際、その取引先企業のコンプライアンス・リスク評価を実施すべきであった。TBLA社が公表している方針を確認するなど、基本的な環境デューデリジェンスを実施していれば、TBLA社がNDPEを誓約せず、火災や泥炭地の転換に関して著しく悪質な経歴を持つことが明らかになっただろう。以下は、TBLA社の悪質な経歴を示す事例である。

2015年

  • 6月:インドネシアの泥炭地にある事業管理地で大規模な火災が発生ーエルニーニョ期の数カ月にわたり燃え続け、160億米ドルの被害をもたらす。2015年、TBLA社の2つの事業管理地で大規模な火災が発生し、RANの推定では12,103ヘクタール(121平方キロメートル)が火災被害を受けた

2016年

  • 11月:TBLAが規制に違反インドネシア環境林業省による調査で、TBLAの子会社PT. DGSによる規制違反(2015年の火災で焼失した泥炭地をアブラヤシ農園に転換するために重機を使用して掘削したなど)が確認される。

写真 © MoEF Indonesia and ForestHintNews、2016年

2018年

2019年

  • 1月:TBLAによる泥炭地転換が続く1月から12月にかけて、TBLAは推定1,300ヘクタール(13平方キロメートル)の泥炭地をプランテーションに転換。
  • 5月:MUFGがバンクダナモンを買収MUFGはバンクダナモンTbkの株式94%を取得し、インドネシアでの子会社銀行とした。
  • 6月:インドネシアの泥炭地で再び火災が発生し、数か月にわたって燃え続ける全国で164万ヘクタール(16,400平方キロメートル)が焼失し、推定52億米ドルの経済損失と損害をもたらす

  • 6月:TBLAの事業管理地で火災が広がるTBLAの事業管理地(PT. SUJおよびPT. DGS)で数か月にわたり火災が発生し、推定15,873ヘクタール(159平方キロメートル)が焼失。

2019年、TBLAの事業管理地で発生した火災の広がりを示す衛星画像(画像をクリックしてタイムラプスを再生)

  • 10月:インドネシア政府がTBLAの事業管理地に対し措置を講じる環境林業省が火災を理由にTBLAの事業管理地の1つを封鎖。 

現地当局により封鎖されたPT. DGS社の事業管理地©️InspirasiNews.com

2020年

  • 1月:MUFGがTBLAに巨額の融資を提供年間を通じて、MUFGはバンクダナモンを通じ、TBLAに5,800万米ドルのリボルビング・クレジット枠を供与。
  • 10月:TBLAが「最も広範な火災被害をもたらしたパーム油企業グループ」として名指しされるーグリーンピース・インドネシアが2020年に発表した火災跡地データ分析では、2015年から2019年までの焼失面積がインドネシアのパーム企業でTBLA社が最も多いと報告される。
  • 12月:TBLAが持続可能なパーム油円卓会議(RSPO)から脱退TBLA社がRSPOのメンバーを辞任。
  • 12月:TBLAが泥炭地転換を継続2020年末までに、TBLA社は2019年に焼失した土地を含む2,500ヘクタール(25平方キロメートル)以上の泥炭地にプランテーションを拡大。

2019年11月の衛星画像 火災により泥炭地が焼失(Sentinel2より、TreeMap/Nusantara Atlasを使用)

2021年6月の衛星画像 焼失した泥炭地がプランテーションに転換されている(Sentinel2より、TreeMap/Nusantara Atlasを使用)

2021年

  • 1月:MUFGがTBLAにさらなる融資を実行年間を通じて、MUFGはバンクダナモンを通じてTBLAに総額1億500万ドルの追加のコーポレートローンを提供した。
  • 4月:MUFGが新たなパーム油セクター融資方針を採用MUFGは取引先に対し、NDPE基準を公に誓約することを求めている。バンクダナモンのサステナビリティ報告書には、これが同行の方針でもあると記載されている。

2021年、TuK-IndonesiaによるMUFGジャカルタ支店前での抗議活動 インドネシアにおける大規模火災と煙害について同グループの資金提供を批判

  • 12月:TBLAが新たな泥炭地の転換を継続ー2021年末までに、TBLAはさらに2,404ヘクタール(24平方キロメートル)の泥炭地をプランテーションに転換し、2019年に火災が発生した地域もその対象となった。

2022年

  • 1月:MUFGがTBLAへの融資を増額年間を通じて、MUFGはバンクダナモンを通じてTBLAに総額1億300万ドルの追加のコーポレートローンを提供した。
  • 12月:TBLAがさらに泥炭地を転換2022年末までに、TBLAはさらに1,600ヘクタール(16平方キロメートル)の泥炭地をプランテーションに転換した。

2023年

  • 6月:TBLAの事業管理地で大規模火災が発生TBLAの事業管理地(PT. SUJおよびPT. DGS)で火災が発生し、14,544ヘクタール(159平方キロメートル)が焼失。

2023年9月、TBLAの事業管理地で発生した火災の広がりを示す衛星画像(Sentinel2より、TreeMap/Nusantara Atlasを使用)

2024年

  • 10月:インドネシア政府がTBLA子会社を提訴環境森林省は、TBLAの子会社であるPT. DGSに対して4,150万米ドルの訴訟を起こし、2023年の火災に関連する生態系の損害および経済的損失に対する賠償を求めた。

2024年12月、PT.SUJ社の事業管理地にて新たな泥炭地地域がプランテーションに

2025年

  • 3月:TBLAは引き続きバンクダナモン/MUFGの顧客であり続けているTBLAは現在もMUFGの顧客企業であり、MUFGが提供したコーポレートローンから利益を享受し続けている。MUFGからの最後の融資(3,240万ドル)は2026年に満期を迎える予定である。

 

著者:レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)

米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。200510月より、日本代表部を設置しています。
https://japan.ran.org

 

発行物:ポジションペーパー「COP26:気候カオス回避のため、企業に求められる行動」(2022/03/31)

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、ポジションペーパー「COP26 気候カオス回避のため、企業に求められる行動」の和訳版を発行しました(英語版は2021年10月発行)。

「CODE RED: 人類への非常事態警報」NY国連本部前でのアクション、2021年10月27日
PHOTO: Erik McGregor

ブログ:東南アジア森林火災と気候変動の高まる脅威が、公衆衛生を悪化させる理由(2022/3/22)

「森林と金融」アナリスト アレックス・ヘラン

(本記事は香港の英字紙「サウスチャイナ・モーニングポスト」に3月7日に寄稿したものです)

●インドネシア紙パルプ大手企業が生産能力の拡大を計画している。一方で高温で乾燥した天候が続き、煙害(ヘイズ)を引き起こす森林火災発生のリスクが高まると考えられている。

●これにより、新型コロナウイルスなど呼吸器系疾患の健康被害が大幅に悪化することが予想される。

東南アジアにおける新型コロナウイルスの感染拡大で、数少ない幸運だったといえる点は、初期の感染拡大が深刻な火災およびヘイズ発生と同時期に起きなかったことだ。そしてラニーニャ現象と呼ばれ、雨が多く気温の低い気候パターンが過去数年にわたって火災の発生を抑えてきたこともある。

しかし、この状況は変わりつつあるようだ。2022年、気象学者はエルニーニョ現象と呼ばれる、高温かつ乾燥した火災が発生しやすい気候が再び訪れると予測している。この気候パターンは気候変動の影響で頻度と深刻さが増している。

もしも新型コロナウイルスが、2015年や2019年のようなエルニーニョ現象による最悪の火災が起きた年に流行していたら(インドネシアやシンガポール、マレーシアの所々で数千万人が煙害の被害を受けた)、死者数ははるかに多かったことだろう。

森林火災の結果生じるヘイズのような大気汚染にさらされると、新型コロナウイルスによる健康への影響は大幅に悪化する。

新型コロナウイルスが世界中に拡大していることは明らかで、そのためには大気汚染、特に微小な粒子状物質への対策を取ることで、新型コロナや他の呼吸器系疾患への感受性を低下させることが公衆衛生上の優先事項となる。インドネシアのスマトラ島で計画されている2カ所の巨大紙パルプ工場の拡大が、インドネシアと近隣諸国に対して警鐘を鳴らすべき理由がここにある。

インドネシアで最大の火災面積は、APP社(アジア・パルプ・アンド・ペーパー)とエイプリル社(APRIL:アジア・パシフィック・リソース・インターナショナル)が管理する広大なパルプ材植林地で発生している。地理空間衛星の分析によると、2015年から2019年に両社の植林地では毎年のように火災が起き、総延焼面積は約25万ヘクタールだったことが明らかになっている。この面積はシンガポール国土の3.5倍以上に相当する。

火災は大気の質に深刻な影響を与えている。エイプリル社とAPP社がパルプ事業の拠点とするリアウ州と南スマトラ州(訳註:ともにスマトラ島)では、同地域の住民の寿命が、世界保健機関の大気汚染の安全ガイドラインを満たす地域の住民に比べて最大で6年も短いと予測されている。

さらに、両社の植林地はマラッカ海峡のインドネシア側に位置しているため、火災による風がシンガポールやマレーシア半島に有害な煙霧(ヘイズ)をもたらしている。

火災が発生してヘイズが広がるたびに、メディアや政治家はすぐに「焼畑農業」を行っている小規模農家を批判する。しかし、もっと重要なのは「太古の熱帯林の国であるインドネシアを、誰が火薬庫に変えてしまったか?」という問いである。

その答えは、インドネシアの泥炭地の悲運にある。泥炭地は数百万年かけて堆積した炭素を多く含む湿地帯で、農地の開墾のために排水路が掘られ、土壌が乾燥すると、非常に燃えやすくなる(若い石炭のようなもの)。泥炭地火災は実は地中で起こり、いつの間にか広がって消火が困難となる。また、大気汚染の原因ともなる粒子状物質を大量に放出する。

APP社とエイプリル社に木材を供給する企業は、88万7千ヘクタールの泥炭地を開墾して排水し、植林を行ってきた。これらの泥炭地は紙やティッシュペーパー、ビスコースレーヨンなどの生産に必要な木質繊維を供給する一方で、この地域が直面する重大な火災の危険性をも作り出している。

この環境危機は、経済にも大きな打撃を与えている。2015年の火災による損失と損害は、インドネシアで160億米ドル、シンガポールで14億米ドルにのぼると推定されている。

両社がもたらした負の影響は明らかである。エイプリル社はこれまで12件の民事制裁を受け、一部の地域では3年間の事業停止処分を受けている。2020年には、泥炭地火災によって別の制裁を受けたことも発表した。シンガポール政府は、2015年に同国で煙害を引き起こした疑いのあるAPP社のパルプ材供給企業4社を「越境ヘイズ汚染法」に基づいて調査していることを正式に発表した。

このように惨憺たる健康・環境状況にもかかわらず、APP社とエイプリル社は、それぞれ150%と55%の生産能力拡大を計画している。これは燃焼しやすい泥炭地での開墾増大を意味し、火災リスクを高めることになる。さらに悪いことに、気候変動によってエルニーニョ現象の頻度と深刻さも増している。

出資金は莫大だ。両社工場の生産能力拡大が進む場合、火災やヘイズがさらに悪化する可能性が高い。しかし、工場の拡大は避けられない結末ではない。つまり何十億ドルもの資金調達を必要とするからだ。銀行は災害の前兆を見て取り、両社への資金提供を拒否するべきなのだ。

 

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イブ・ミナルティさん: バナナ、キャッサバ(イモの一種)、唐辛子を栽培し、家族を養うために販売している農家。「私たちは子供たちの将来のために土地を必要としています」(ジャンビ州)写真:RAN/WALHI Jambi/ Mushaful Imam

人権侵害の記録と抵抗する最前線のコミュニティ

インドネシア・コーディネーター フィトリ・アリアンティ
英語は2020年12月17日投稿)

2015年2月下旬の金曜午後、インドラ・ペラニさんという若い農民が友人のバイクの荷台に乗って、インドネシア・スマトラ島ジャンビ州の田園地帯を走っていた。ペラニさんと友人はお祝いの一日を楽しみにしながら、米の収穫祭に向かっていた。しかし、そこにたどり着くことはなかった。

二人は、隣同士の村で育った。その村々の人たちは先祖代々この地域に住み、働き、農業を営んできたが、時が経つにつれ、村々の土地や森林が紙パルプ会社に引き渡されるのを見てきた。これらの大規模なアグリビジネス企業は天然林を皆伐し、厳重に警備された紙パルプ用植林地を作り、住民の農園と伝統的な生計手段を破壊し、その過程で物々しい警戒態勢を敷いて地域を制圧した。 

その金曜日の午後、インドラ・ペラニさんと友人は、世界最大級の製紙会社アジア・パルプ・アンド・ペーパー社(APP)が所有するアカシアの植林地を横切る道路の検問所を通過しようとした。同社はシナルマス・グループと呼ばれる巨大コングロマリット(複合企業)の子会社である。自分の地域の土地を取り戻すために住民を組織化し、有能な農業組合員で環境活動家でもあった22歳のペラニさんは、検問所で警備員に見つかってしまった。警備員は、ペラニさんをつかんで友人のバイクから引き下ろし、友人は助けを求めて急いで逃げた。悲劇的なことに、助けは間に合わなかった。ペラニさんの遺体は、ひどく殴られ、刺され、手足を縛られた状態で沼地に捨てられていたのが翌日に発見された。    

インドラ・ペラニさんの残忍な殺害には国際的に批判の声が上がり、抗議活動は現在も続いている。しかし悲しいことに、これはプランテーション開発の最前線にいる地域コミュニティが直面している恐ろしい多くの不当な仕打ちの一例に過ぎない。このような人権侵害を行い、インドネシアで大規模な森林破壊を引き起こしている企業は世界的な消費財企業や銀行との取引によって支えられ、資金は流れ続けている。 

シナルマス・グループ~人権侵害のネットワーク〜

「APP/シナルマス、農民の不当告発の停止を!」と書かれた横断幕を掲げて抗議するルブク・マンダルサ村ペラヤン・テバットの農民(写真:RAN/ワルヒ・ジャンビ/Mushaful Imam)

シナルマス・グループ(SMG)は他の多数の企業とともにAPP社を傘下に持つ。現地および国際メディアや市民権団体などの多数の報告によれば、SMGは土地収奪、脅迫、不当告発、暴力など(注1)、人権侵害と環境破壊に関する最も悪質な事例が記録されている企業の一つである。SMGは国際的な人権規範に従うことを拒み、コミュニティが自分たちの土地での開発に同意するかしないかを自ら決めることのできる権利を保障せず、またコミュニティとの間で合意がなされた場合でも、度々その合意の履行を怠ってきた。SMGはコミュニティから提起された苦情に不適切な対処を続け、影響を与えた数百ものコミュニティへの救済策の提供を拒んでいる。 

それでもSMGは大手消費財企業にパーム油や紙パルプを供給し続け、国際的な銀行はSMGにますます融資を続けている。マース、モンデリーズ、プロクター&ギャンブル、ネスレ、ユニリーバ、コルゲート・パルモリーブ、ペプシコ、花王のようなグローバル消費財企業はSMGが供給するパーム油を使用して、店頭に並ぶスナック菓子や即席麺、生活用品を製造している。日本の日清食品も、SMGを購入先としている不二製油から調達しているため、関与している可能性がある。またネスレは紙のサプライヤーを開示せず、同様に開示していない多くの他企業とともに、SMGが所有するAPP社を通じて紙パルプを購入している。またSMGは銀行融資の最大の受取先でもあり、過去 5 年間(2015 年~20 年第 1 四半期)に受けた融資額は 200 億米ドルに達している。最大の貸し手には、インドネシアの銀行であるバンク・ラクヤット・インドネシア(BRI)とバンク・ネガラ・インドネシア(BNI)、日本のメガバンクであるみずほフィナンシャルグループと三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)がある。 

これらの消費財企業や銀行の多くが人権擁護をうたう方針と公約を掲げているが、SMGの広範な人権侵害を無視している。これらの消費財企業や銀行は、先住民族や地域住民の権利を尊重しないSMGを支援する一方で、最新のポジティブな「取り組み」を自慢したがる。これは止めなければならない。銀行や消費財企業は、SMGおよびそのサプライヤーが引き起こした社会・環境面での危害を是正したことを同社が証明するまでSMGとの新規取引を直ちに停止しなければならない。SMGは「森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、コミュニティと労働者の搾取ゼロ」(NDPE:No Deforestation, No Peat and No Exploitation)という公約を真に実行し、影響を受けるコミュニティの要求を満たしていることを証明しなければならない。 

環境NGOのエンバイロンメンタル・ペーパー・ネットワーク(EPN)の報告書「紛争パルプ材植林地」(2019年)によると、インドネシアのわずか5州で、少なくとも107の村やコミュニティとAPP関連会社やそのサプライヤーとの間に紛争が起きており、544村が紛争の可能性のある場所として特定され、その面積は250万ヘクタール以上にのぼる。以下はSMGが対処して来なかったコミュニティとの紛争の事例であるが、ごく一部に過ぎない。そして、ここに記す住民が語った話や経験は、SMGがいかに人権を侵害してきたかを示す重要な例である。 

コミュニティに対する暴力と脅迫
インドネシア・ジャンビ州のルブク・マンダルサ村

イブ・ミナルティさんは、バナナ、キャッサバ(イモの一種)、唐辛子を栽培し、家族を養うために販売している農家。「私たちは子供たちの将来のために土地を必要としています。ここでは経済的なストレスを受け、自由に行き来することができません。私たちは平和に暮らしたいのです。地域住民のニーズを理解し、ルブク・マンダルサ村の伝統的な土地を返すよう、WKS社に求めます」と語った。(写真:RAN/WALHI Jambi/ Mushaful Imam)

インドネシア・スマトラ島ジャンビ州にあるルブク・マンダルサ村は、6,000世帯以上が暮らす村である。コミュニティは主にジャンビ出身のマレー人と、何世代にもわたってこの地域に住んでいる先住民族のアナック・ダラム民族である。住民の大部分は、米や野菜の農家として働いて暮らしており、土地への依存度が非常に高い。コミュニティ所有地の多くは、近くのブキ・ティガプルー国立公園の一部として指定されているか、アジア・パルプ・アンド・ペーパー(APP)傘下の産業用植林事業会社のWKS(Wira Karya Sakti)に事業許可が与えられているため、そこでの土地利用が次第に制約を受けている。

WKS社と地域住民の紛争は、村内のぺラヤン・テバットという集落で2007年に始まった。WKS社は、この地域の事業許可地へのアクセス道路を建設した後、住民が農地として使っていた土地を含め、道路両側の土地をさら地にし始めた(注2)。地域住民とテボ農業組合および環境保護団体のワルヒ・ジャンビ(WALHI Jambi)が2013年に作った地図によると、同社に奪われた住民管理地の総面積は1,500ヘクタール、つまり2,800個以上のサッカー場に相当する広さだった(注3)。2007年12月28日に紛争は同社と住民の衝突に発展し、住民の農地をさら地にしていたWKS社の重機を壊した嫌疑が住民にかけられた(注4)。この衝突によって9人の農家が逮捕され、15カ月間の禁固刑に処された

地元の環境保護団体ワルヒ・ジャンビは、以下の例を挙げて、WKS社は数年以上もコミュニティを脅迫し、攻撃し続けてきたと主張する: 

●2013 年 3 月 6 日、農家のカリオノ・セティオさんは地区警察に逮捕された。WKS社はセティオさんが同社の「環境保全」地域内の土地の一角を、さら地にしたとして告発し、逮捕はその後に起きた。同社の「環境保全」地域は、地域住民の「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC)を得ることなく彼らが伝統的に所有してきた土地にもうけられた。カリオノさんは有罪判決を回避するために、農地での作業をやめることを余儀なくされた(注5)。

●2015年2月27日、インドラ・ペラニさんがWKS社の警備チームに暴行され、誘拐され、殺害された(注6)。

アーメド・スザントさんは、ルブク・マンダルサ村の農家。アーメドさんの作物は、2020年3月にWKS社がドローンで除草剤を作物に散布した際に被害を受けた。約2ヘクタールの土地が破壊され、唐辛子、スイカなどの作物が駄目になった。コミュニティが所有する97本のアブラヤシの木も使えなくなった。WKS社はコミュニティが主張する被害規模に異議を唱えている (写真:RAN / WALHI Jambi / Mushaful Imam)

●2020年3月4日、WKS社はドローンを使って有毒な除草剤を撒き、コミュニティが植えたばかりの野菜、唐辛子、ジェンコル(食品や薬として利用される種がなる木)、アブラヤシの木を破壊した。インドネシア政府が新型コロナウイルスの発生に対応するために大掛かりな社会的制限政策を実施し始めていたため、除草剤を監視なく容易に散布できた。住民の一人、ハリムさんは約2ヘクタールの村の菜園が破壊され、収穫ができなくなったと報告した。

●WKS社は現在も住民を脅迫し続けている。2020年3月、村の共有地と考えられ、紛争になっている土地をさら地にしたという理由でWKS社によって一人の住民が警察に通報された(注7)。2020年4月28日、住民のアグスさんが村の菜園の手入れをしていた時に兵士がわざと空中に二発、発砲した。

紛争が始まって以来、コミュニティは抵抗のために組織化が行われ、官公庁や会社の前でデモを行ったり、会社の現場での活動を妨害したり、会社との交渉を試みたりと、様々な方法で会社との問題の解決を試みてきた。

こうした最近の一連の事件について、APP/SMG は「問題は調停によって解決された」と述べ、ドローンによって破壊されたコミュニティの作物の実際の面積は、当初、住民が主張したより少なかったことをコミュニティの代表者が認めたと主張した。しかし地元の NGO は、そのような意味のある調停は行われておらず、ルブク・マンダルサ村とWKS社の間の長年の対立は依然として続いていると異議を唱えている

先住民族サカイ民族への不当告発
インドネシア・リアウ州

シナルマス・グループ(SMG)の人権侵害の記録は、ルブク・マンダルサ村に限ったことではない。地元の情報源によると、SMGはリアウ州ベンカリスの先住民サカイ民族のコミュニティとしての権利も侵害している。このコミュニティでは、地元農家が、コミュニティの所有する土地で樹木を切り倒したことで犯罪者だとされた。APP/シナルマス傘下企業のアララ・アバディ社(AA社)は、その土地を自社の事業許可地であると主張している。

この紛争は、AA社が327ヘクタールの土地をさら地にし、コミュニティの貴重な食糧源を破壊した2001年に始まった。そこは、サカイ・バティン・ベリンギンおよびペナソの先住民族がコミュニティとして伝統的に所有すると主張する土地だった。

ボンクさんと「森林と土地のための伝統コミュニティ連合」(Koalisi untuk Masyarakat Adat untuk Hutan dan Tanah). (写真:Jikalahari) 

サカイ・バティン・ベリンギン村の住民ボンク・ビン・ジェロダンさん(58歳)は、この紛争で不当に告発された住民の一人である。ボンクさんは、サカイ民族の伝統的な食品の一つであるメンガロ・マーシク(Menggalo Mersik)に加工できるウビ・メンガロ(Manihot glaziovii)と呼ばれる地元のサツマイモとキャッサバを栽培している農家だ。インドネシアの多くの先住民族と同様、サカイ民族は森林やその自然の産物に依存する移動式農業を営む人々だ。

不当告発は、ボンクさんがサツマイモを栽培するために新しい土地を耕作したときに始まった。ボンクさんは2019年11月に約20本のアカシアの木を伐採し、200平米の面積をさら地にした(注8)。さら地になった土地は、現在は前述のAA社の産業用植林事業許可地の一部として法的に指定されてはいるものの、先住民族であるサカイ民族の共有地の一部である。

ボンクさんの初公判は2020年2月に行われ、同年5月18日、判事は、AA社の事業許可地内のアカシアの木を伐採した罪で、ボンクさんに1年の禁固刑と2億ルピア(14,000米ドル以上)の罰金を宣告した。判事は、ボンクさんを2013年の「森林破壊の防止と根絶に関する法律」に違反した罪で有罪とした。この法律は組織的な森林破壊を法的に禁止することを目的としているが、コミュニティを犯罪者とするためによく使われる(注9)。

2015年以降、サカイ民族は、ボンクさんが管理する土地を含め、慣習的な土地の権利の承認をインドネシア環境林業省に求めてきたが、承認されていない(注10)。APPは声明で「環境林業省は今後の紛争解決を促進している」、「AA社は引き続きプロセスに従うことを約束している」と主張している。

インドネシアNGO LBHプカンバルのインフォグラフィック

ボンクさんは7カ月投獄された後、新型コロナウイルス感染症拡大の懸念から釈放された。この事例では土地紛争が未解決のままであり、ボンクさんの場合のような不当告発は、土地紛争が解決され、先住民族サカイ民族の土地権が認められるまで続く可能性が高いと地元の市民社会グループは警告している

アブラヤシ農園での労働者の権利侵害と人権侵害
インドネシア・中部カリマンタン州

SMGの人権侵害の記録は十分に文書化され、紙パルプ部門だけでなく、パーム油事業においても人権侵害が行われてきた。市民社会と労働組合はSMGの別の子会社であるゴールデン・アグリ・リソーシズ(GAR)についても同様に、人権侵害と労働者の虐待について記録してきた。

2018年の報告書で、サウィット・ウォッチとアジア・モニター・リソース・センターはアブラヤシ農園の労働者49人に、中部カリマンタン州にあるGARのアブラヤシ農園企業2社、タピアン・ナデンガン社(PT.Tapian Nadenggan)とミトラ・カリヤ・アグロインド社(PT.Mitra Karya Agroindo)で勤務中に経験した虐待について聞き取りを行った。

不当な労働システム、労働安全衛生問題、低賃金、劣悪な生活条件、性差別、「持続可能な」パーム油の代表的な認証機関とされる「持続可能なパーム油のための円卓会議」(RSPO)の監査チームが聞き取りをできないように労働者を隠していたことなどの違反行為が報告された。同じくGAR傘下にある南スマトラ州のサウィット・マス・セジャーテラ社(PT.Sawit Mas Sejahtera)が所有するアブラヤシ農園における無秩序な労働契約、未払い残業、不当な解雇、労働組合の弾圧など、労働者の権利侵害についても、労働組合や市民社会グループは繰り返し懸念を表明している。

また、フォレスト・ピープルズ・プログラム(FPP)とエルク・ヒルズ・リサーチは最近、上記2社の事業許可地での労働者の権利侵害の発覚を含め、中部カリマンタン州のGAR事業許可地8カ所でのライセンス規則違反の疑惑と汚職の兆候について、RSPO に苦情を提出した。FPPと地元 NGO は以前、西アフリカのリベリアにおける事例も含め、コミュニティの土地譲渡プロセスにおける「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC)の権利侵害を理由に、GARに対する苦情数件を申し立てていた。

イブ・ヌルハヤナさんは、2015年にWKS社の警備員によって残忍に殺害された故インドラ・ペラニさんの母親。WKSは彼女を支援するという約束を破り続け、彼女は今、自身と家族の生活のために苦闘を続けている。「一刻も早く土地が返還されるよう要請します。将来のために、私は自分自身と娘のニラプトリのために正義を求めます。我が家の大黒柱だった息子がこの世からいなくなってしまったために、このような状態になっていると感じています。私は正義を求めます。それだけを求めます」と語った。(写真: RAN/Walhi Jambi/ Mushaful Imam)

コミュニティの土地からのパーム油調達
インドネシア・スマトラ島アチェ州パンテ・チェルミン村

パンテ・チェルミン村の住民。自分たちの土地を守るために抵抗を続けている

RANは2020年9月、シナルマス・グループのパーム油部門であるGARがデュア・ペルカサ・レスタリ社(Dua Perkasa Lestari:DPL)から原料を供給された搾油工場からパーム油を調達している証拠を明らかにした。DPL社は、スマトラ島のアチェ州アチェ・バラット・ダヤ地区にあるパンテ・チェルミン村の慣習地で、アブラヤシ農園を経営している企業だ。

パンテ・チェルミン村とDPL社の紛争は2006年に始まった。アチェの分離主義運動(GAM)とインドネシア軍との間の紛争から避難していた住民は、村に戻ってきてDPL社が自分たちの土地で操業しているのを発見した。コミュニティには土地所有権に関する法的文書(土地の物理的所有権に関する証明書(SPORADIK)があったが、DPL社はアブラヤシ農園を造成するために、コミュニティが植えていた食用作物を切り払い続けた。年々、脅迫も激しさを増している。2014年に同社は機動部隊(ブリモブ)に住民の家や作物を破壊させ、住民を監視させ、住民に対する威嚇射撃をさせて、住民の頭に弾が当たりそうになったこともあった(注11)。

バンダ・アチェ法律支援研究所の法的分析により、DPL社のアブラヤシ農園許可証に不正が発覚した。地元住民が1992年から管理する農地に立地しているにもかかわらず、許可証の発行に地元住民が関与していなかったのだ。矛盾は、立地許可証、農園事業許可証、農園の場所に対する事業権(Hak Guna Usaha)の間にあった。また、農園は深さ3メートルを超える泥炭地で造成されていた。

GARはDPL社との関係が公になった後、DPL社からの調達を停止することを発表した。しかし、GARはパンテ・チェルミン村のための救済措置が確保されるようDPL社に働きかけることができていない。この数十年にわたる土地紛争は、GAR/シナルマス・グループの人権ポリシーの実施や、効果的な人権デューデリジェンスシステムの確立と、サプライチェーンにおける遵守違反の検出に関する能力の弱さを示している。

ムサリさん。WKS社が権利を主張している土地でサトウヤシを収穫している(写真;RAN/ワルヒ・ジャンビ/Mushaful Imam)

「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」の必要性

上記の事例はいずれも、SMGの人権侵害が一つのセクターや一握りの農園だけではなく、様々な商品、地域、そして第三者のサプライヤーを含むサプライチェーン全体で発生していることを明らかにしている。SMGの子会社であるAPPとGARといったアグリビジネス部門は、人権、地域住民の権利および「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC: Free, Prior and Informed Consent)プロセスの尊重などを含めて、自らの公約を果たすことができずにいる

グローバルな消費財企業と銀行はどうすべきか

影響を受けているコミュニティはシナルマス・グループに以下を要求している:

●ジャンビ州のルブク・マンダルサ村、リアウ州の先住民族サカイ民族およびアチェ州のパンテ・チェルミン村との紛争を含め、の操業に関連する全ての土地紛争をすぐに解決すること

●影響を受けたコミュニティや環境・人権活動家に対するあらゆる形態の脅迫および不当な告発を終わらせること

●企業の事業許可地内の土地を地域住民に返還することにより、先住民族の土地権を尊重し、その認知を支持すること

●シナルマス・グループの農園で働く労働者のために、公正かつ適切な労働条件と生活条件を確保すること

これらのコミュニティを支援して下さい

ボンクさんのような、先住民族の権利擁護者への不当告発の問題に光を当て続けるために、以下の署名に協力をお願いします。

「先住民族への不当告発を止めてください」#FreeBongku

注1)以下を参照:
https://www.business-humanrights.org/en/latest-news/indonesia-study-reveals-asia-pulp-papersinar-mas-involvement-in-hundreds-of-community-conflicts/;  または
https://www.thejakartapost.com/news/2015/09/26/singapore-moves-against-indonesian-firms-over-haze.html

注2)Konsorsium Pembaruan Agraria, Suara Pembaruan Agraria Edisi 9: Agenda Reforma Agraria Pemimpin Baru, 2014. Pages 72-74.

注3)Mongabay Indonesia, Konflik lahan masyarakat Tebo  dengan PT. WKS terus berlarut, 8 Juni 2020, Jakarta-Indonesia.

注4)WALHI. 2018. Briefing Paper Wahana Lingkungan Hidup Indonesia: Selembar Kertas dan Jejak Kejahatan Korporasi. 12 Februari. Jakarta, Indonesia.

注5)Walhi Jambi, Assessment report (Unpublished), Januari 2016.

注6)Walhi Jambi, Investigation Findings, Reka Ulang Kasus Pembunuhan Indra Pelani, Tersangka Pembunuhan, March 2015.

注7)Walhi Jambi. Siaran Pers: Kronologis Kekejaman dan Intimidasi PT WKS Terhadap Masyarakat (KT Sekato Jaya) Desa Lumbuk Mandarsah, Tebo – Jambi. June 2020.

注8)Tempo Magazine. Kekeliruan Hakim yang Menghukum Bongku Karena Menebang Pohon. May 2020 Edition.

注9)LBH Pekanbaru. Pak Bongku Bukan Pelaku Perusakan Hutan, Berikan Keadilan Untuk Masyarakat Adat. April 2020.

注10)Mongabay. Mau Tanam Ubi di Lahan Sengketa dengan Perusahaan, Orang Sakai Terjerat Hukum Merusak Hutan. May 2020.

注11)YLBHI-LBH Banda Aceh. Legal Opinion (Pendapat Hukum): Sengketa Lahan Antara Masyarakat Desa Pante Cermin Kecamatan Babah Rot Kabupaten Aceh Barat Daya Dengan PT. Dua Perkasa Lestari. 2019.

ブログ:インドネシアとブラジルの森林火災をあおる銀行〜新型コロナによる複合リスクの脅威〜(2020/11/6)

責任ある金融 シニア・キャンペーナー ハナ・ハイネケン
(本ブログはRIEF環境研究機構に9月19日に寄稿したものです。11月6日更新)

写真:ヘリコプターによる消火活動と伝統的な高床式住居に迫る火の手、インドネシア オガン・コメリング・イリル地区ペダマラン小地区 画像提供:Nopri Ismi/モンガベイ・インドネシア

今年もまた、壊滅的な森林火災の季節がやってきた。すでにインドネシア、ブラジル、中央アフリカ地域の熱帯林、ロシア・シベリアの北方林、北米西海岸の温帯雨林を含む森林などでは火災が猛威を振るっている。火災は森林生態系の荒廃や気候変動を加速させている。こうした中、幸いなことに、ますます多くの銀行や機関投資家が火災に関与している企業や国家政府に対して影響力を持ち、森林火災への対処を迫ることができると自覚している。しかし、こうした銀行や投資家の取り組みは十分なのだろうか?

ブラジルでは、火災は土地投機や森林地帯への農地拡大と大きく関係している。牧草地や大豆農園の造成のために、土地を更地にする目的で火が放たれる場合が多いのである。そして、こうした火災の多くは未登録の土地で土地収奪の一環として発生しているため、犯人の特定が難しい。しかし森林リスク産品のESG(環境、社会、ガバナンス)リスク分析を専門とする研究イニシアチブであるチェーン・リアクション・リサーチの調査によると、2019年のブラジルの火災は、全体の50%近くが食肉加工会社のJBS、ミネルバ、マルフリグの買い付け候補地域で発生していることが判明している。サンタンデールとHSBCは、この食肉加工会社3社の上位金融機関に含まれる。昨今、火災は激しさを増している

写真:ハミルトン・モウラン副大統領とサンタンデール・ブラジル銀行の取締役会のメンバーとの会談(2020年7月23日、ブラジリアにて)、画像提供:Romério Cunha/VPR (ブラジル共和国副大統領府)

2019年にブラジルのアマゾン全域で火災が急増したことを受けて、16兆ドルの資産を有する国際投資家グループ(PRI及びCERESに署名している230機関)が声明を発表し、ボルソナロ大統領政権に問題への対応を迫った。森林火災への対応として声明だけでは不十分だが、金融部門に自らの役割を自覚してESG課題に対応することが求められていることを示している。

インドネシアではアブラヤシ農園やパルプ材植林地の拡大が原因で発生した火災に対し、ブラジルの場合のような投資家の介入は残念ながらなかった。農園企業は植え付け前の残渣除去、施肥、除草、害虫駆除の費用を節約し、違法で安価な整地方法として火を利用している。この持続不可能な農園開発が炭素を豊富に含む泥炭地で行われ、その相乗効果で火は往々にして手に負えないほど燃え広がり、何週間も鎮火できないこともある。気候への影響面でも、火災で生じる温室効果ガスの排出量はインドネシアがアマゾンを大幅に上回った

森林火災と新型コロナ:致命的な組み合わせ

こうした火災に由来する有毒な煙害(ヘイズ)は国境を越えて広がり、公衆衛生と経済に深刻な影響をもたらしている。今年は新型コロナウイルス感染症による副次的な影響が深刻化しそうだ。(火災によって発生するような)微粒子大気汚染がわずかに増加しただけでも、新型コロナによる死亡率が大幅に増加することはすでに複数の研究で示唆されている。インドネシアと近隣諸国では、毎年生じる煙害がすでに公衆衛生に深刻な影響を与えている。2016年に行われ広く引用されている研究では、2015年の煙害でインドネシア、マレーシア、シンガポール全体で早期死亡者が10万人に上ったと推定されている。2019年の煙害では100万人以上が呼吸器感染症を患っている。

近年、国境を超える煙害で通常の生活ができなくなる可能性は実証されており、すでに今年は新型コロナの世界的流行の影響のもと、弱体化した経済と国家財政が大打撃を受ける可能性がある。2019年のインドネシアの火災による経済的損失・被害額は52億米ドルと推定されている。ちなみに2015年は160億ドルであった。

インドネシアで森林火災をあおる銀行

2015年の火災を受けて、ジョコウィ大統領は火災危機を「組織的環境犯罪」と形容し、責任のある企業に対して厳しい措置を講じることを約束した。2019年、環境林業省(KLHK)は、火災を根拠にパーム油、パルプ材、ゴムなどの企業90社の関連事業を凍結した。それに伴い、24社が民事または刑事制裁を受けていると報告されている(社名はまだ公表されていない)。凍結された企業のリストは一部が公開・流出しており、うち37社が企業グループの親会社であることが特定されている。

政府が火災を起こした企業に対する対抗措置を強化しているにもかかわらず、調査が行われても意味のある制裁が行われた例はほとんどない。また、制裁が課されても実際に裁判所が執行した例はさらに少なく、数億ドルの罰金が未納のままとなっている。

リスク管理規制や金融部門のデューデリジェンス(相当の注意による適正評価)が存在しないことから、銀行はこれまでこの問題をほとんど無視し、燃えやすい泥炭地を開発している企業や、事業許可地で火災が発生したことのある企業に巨額の融資枠を提供し続けている。RANなどによる共同プロジェクトの「森林と金融」データベースは、特定された37社の企業グループのうち19社への資金提供を明らかにし、2015年から2020年4月までの間に、少なくとも374億ドルの融資と引受が行われたことを示している。この数値は、パーム油、紙パルプ、および天然ゴム部門への融資・引受のみを対象とするよう調整している。森林火災に関連する企業グループには、インドネシア最大手のパーム油と紙パルプ企業が多く含まれている。

2019年の火災に関与した企業グループへの融資・引受:上位20銀行

2019年の火災に関与した企業グループへの融資・引受:上位20銀行 (2015年~2020年第1四半期)単位:十億米ドル

インドネシアの場合、森林火災が経済・国家財政に莫大な負担をもたらすにもかかわらず、火災に関連する企業の債権者上位5行のうち、バンク・ラヤット・インドネシア(BRI)、バンク・ネガラ・インドネシア(BNI)、マンディリ銀行の3行はいずれも国有銀行で、3行合わせて82億米ドルの融資と引受を行っている。3行のいずれも、火災予防や、引火性の高い泥炭地での開墾拡大を顧客企業に禁止する方針を公開していない。

また、マレーシアやシンガポールの銀行も、国や国家経済が国境を越える煙害の影響を大きく受けているにもかかわらず、火災に関連する企業グループの主要金融機関となっていることが明らかである。また、シンガポールには租税優遇目的で、インドネシアの多くの財閥系企業(ロイヤル・ゴールデン・イーグルやシナルマス・グループなど)が上場したり、本社を構えたりしている。

こうした銀行の多くは、国連責任銀行原則(PRB)に署名し、事業戦略をパリ協定や持続可能な開発目標(SDGs)と整合させることを約束している。火災に関与した企業グループへの銀行融資がPRBの目標と整合しないのは明らかである。みずほフィナンシャルグループ(みずほ)、CIMBグループ、中国工商銀行(ICBC)、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、ラボバンク、三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)、ABNアムロ銀行などはそうした銀行の例である。また、ラボバンク、SMBC、ABNアムロ銀行には、顧客企業が火を使って土地を更地にすることを禁止する明確な方針もある。

法令を上回る基準

しかし、インドネシア政府が凍結した農園企業のリストは一部であって、2019年に発生した火災および煙害に関する責任の全容を明らかにするものではない。衛星画像と火災発生地点のデータは、事業許可地で大規模な火災が発生したものの、農園の凍結が報告されていない企業が他にも多数あることを裏付けている。ジャーディン・マセソン・グループのアストラ・アグロ・レスタリ(IDX:AALI)とシナルマス・グループのゴールデン・アグリ・リソーシズ(SGX:E5H)がその例である。

アストラ・アグロ・レスタリのパーム油の4つの開発事業許可地で、2019年8~9月に火災が発生。そのうち3つの許可地ではそれ以前の2016年から2018年にも火災が発生していた。4カ所とも開発が進められているのは泥炭地である。執行措置に一貫性が見られず、このこと自体、銀行が法執行機関からの開示を上回る、強力なデューデリジェンスを実施する必要があることを如実に示すものである。

Persada Dinamika Lestari (AAL)社の事業許可地内に確認できる火災の焼け跡

アストラ・アグロ・レスタリ(AAL)の上位金融機関には日本のメガバンクであるSMBCとみずほが含まれている。また、ジャーディン・マセソン・ホールディングス(AALの親会社)元取締役のジェームス・サスーン卿はMUFGのグローバル・アドバイザリー・ボードの委員で、利益相反の可能性が伺えることは特筆すべきであろう。またMUFGもゴールデン・アグリ・リソーシズ(GAR)の主要金融機関である。

ジャーディン・マセソンとシナルマス・グループへの資金の流れ (2015年~2020 4月の融資・引受額、単位:百万米ドル)

出典:「森林と金融」データベース

銀行がすべきこと

有効な制裁措置がない上に、膨大な与信枠があるため、企業は業務改革に向き合わず、自社が起こす火災によって生じる数十億ドルの費用を負担していない。

銀行は、火災を止めるために効果的なインセンティブと抑止策を直ちに採用し、気候危機、生物多様性の危機、そして新型コロナウイルスによってもたらされた健康危機への対処で、自らの役割を果たさなければならない。その対策には、顧客企業に対して火を使った開墾を明確に禁止すること、そして森林伐採、泥炭地開発、地域社会や労働者の搾取に一切関与しないことを義務付ける、包括的な「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止方針」(NDPE:No Deforestation, No Peat and No Exploitation)の導入を盛り込まなければならない。

*参考資料「シナルマス・グループ:インドネシア森林火災 最大の責任者」(和訳版 2020年10月発行)