サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

共同プレスリリース:気候変動に関する株主提案決議結果は 企業と投資家のさらなる取り組みの必要性示す(2025/7/4)

Market Forces
FoE Japan
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)
気候ネットワーク

日本国内外の環境団体および個人は今年4月、日本のメガバンク3行(MUFG、SMBC、みずほ)と総合商社(三井物産、三菱商事、住友商事)、中部電力に対して気候変動とガバナンス(監査)に関する株主提案を提出しました。これらの企業は1.5℃目標達成のためネットゼロ目標を掲げているにもかかわらず、その事業内容は1.5℃目標と整合していません。化石燃料への投融資および燃料調達事業への各社による関与が続いている現状を踏まえると、当該企業が極めて重大な気候リスクを抱え続けていることは明らかであり、今後も断固とした気候変動リスクへの実質的な取り組みが必要です。

これまで明らかになっている今年の決議結果からは、多くの投資家が該当企業に対して気候リスクに対する十分な説明責任を求めているとは言えず、私たちは投資家による気候変動リスクへの認識状況に対しても懸念を強めています。金融機関には昨年同様の株主提案が提出されていますが、みずほでは、実質的な改善がみられない中、賛同率が昨年の半分程度になっています。

当該企業に提出された議案と議決結果(一部速報値)は以下の通りです。一部の提案には10%を超える支持が集まるなど、一定の賛同が示されました。しかし、支持率が10%未満に留まる議案もあり、資産運用会社の多くが気候リスクを重視しているかどうか、疑問が残る結果となりました。株主提案は(全て)否決されましたが、提案対象企業に対しては気候変動リスク対応の強化を、機関投資家に対してはスチュワードシップ責任を体現することを求める働きかけを継続して行っていきます。

株主提案の内容と議決権行使結果

賛同率低下の一方で、当該企業の適切なガバナンスと実効性のある取締役会を求めている機関投資家がいることも明らかです。実際、主要な議決権行使助言会社として知られるISSは今年、我々の株主提案を受けた企業のうち1社の7人の取締役候補に反対票を投じるよう勧告しました。さらには、企業による気候リスク管理の実施状況を強力に監視する必要性に賛同し、ガバナンス強化を求める投資家もいます。1兆5,020億米ドル規模の資産を運用する世界有数の投資家である英国最大の資産運用会社のリーガル・アンド・ジェネラル・インベストメント・マネジメント(LGIM)は三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャル・グループ、中部電力に対して我々が提出した株主提案を支持する意向を事前に表明していました。

気候変動によるリスクを適切に管理できなければ、長期的には企業価値にマイナスの影響が出る可能性があります。三菱商事、三井物産、住友商事の三大総合商社は2.6℃から3.6°Cの壊滅的な気温上昇と整合する事業計画を掲げているという試算(MSCIのデータ準拠)もあり、これはパリ協定で合意された世界の平均気温上昇を1.5℃に抑える目標にも矛盾しています。さらに日本の3メガバンクも、この様な1.5°C目標と整合しない化石燃料の新規・拡張事業の計画を持つ事業者への資金提供を続けています。『化石燃料ファイナンス報告書 2025』によると、2024年、みずほは化石燃料拡大事業者への資金提供額を前年比で16%増加させ、MUFGも3.6%増加させました。

今後も、我々は日本の大手企業による脱炭素への変化と行動を引き続き後押しします。現状、気候変動対応は不十分でですが、過去5年間の働きかけによって、地域社会の懸念を受けたエンゲージメント活動の結果、日本の大手銀行や商社がアジアにおける主要な化石燃料プロジェクトへの関与を取りやめるなど、リスク管理を強化している事例もみられます。例えば、我々は三井物産が2023年10月にバングラデシュ・コックスバザールでのCPGCBL LNG火力発電所プロジェクトから撤退したことを確認しており、これによりプロジェクトのライフサイクル全体で4,400万トンのCO₂排出が回避される見込みです。

よって、機関投資家へは一層の働きかけが必要だと考えています。Market Forcesが日本の主要な機関投資家を対象に行った調査によると、主要な機関投資家5社傘下の資産運用会社は、日本の化石燃料拡大企業8社の取締役選任議案に99%の確率で賛成している結果が明らかとなり、気候変動リスクを適切に管理するためのスチュワードシップが効果的に行われていないことを示唆しています。今年の議決権行使結果を確認しながら、機関投資家に対しては、気候変動対策やリスク管理が不十分である企業に対し、スチュワードシップ責任を果たし、パリ協定に整合した移行計画の策定と実施のための、さらなる効果的なエンゲージメントと自社の気候コミットメントに沿った適切な議決権行使を行うように求めていきたいと考えています。

【提案主コメント】

総合商社・中部電力

「株主提案への支持は限定的だったものの、提案先企業へのメッセージは明確です。日本の商社と中部電力は重大な気候関連リスクに直面しており、投資家はこれに対して断固たる行動を期待しています。私たちは依然として、信頼できる脱炭素化ビジネス戦略の欠如と、事業運営における人権への配慮の不十分さについて、強い懸念を抱いています。私たちは、これからも、企業が効果的なリスク管理と透明性の高いガバナンスメカニズムを備え、信頼できる脱炭素施策の実行と、人権侵害への誠実な行うよう求めていきます。今後も建設的な対話を通じて、これらの企業がグローバルに化石燃料からの移行を進めるよう、協力関係を強化していきます。」
 布川健太郎 | Market Forces

「中部電力は株主総会で石炭火力を「ベースロード電源」と称し、エネルギー安定供給の必要性を繰り返しました。電力の安定供給と脱炭素を両立するために、あらゆるエネルギーを追求すると述べています。しかし、それでは将来世代に大きなツケを残すことになります。排出量の割合が大きな電力会社だからこそ、実現可能なロードマップの策定と化石燃料から再生可能エネルギーへの移行を加速するための対策強化を求めます。」 
鈴木康子|気候ネットワーク

「三井物産は非常に大きな気候変動リスクに晒されていることから、気候変動対策のために残された時間の中で、効果的かつ実行可能なリスク対策を講じることが重要です。情報開示の充実はその第一歩です。特に、ネットゼロを掲げながらも化石燃料分野への依存度が高いという現在の戦略を踏まえると、今回の要請は妥当なものと考えています。引き続き、気候変動対策の強化に向けてエンゲージメントを継続していきたいと考えています。」 
深草亜悠美 | FoE Japan

メバガンク3行

「昨年、投資家から『顧客の移行計画の評価』に関する株主提案に対し、強い支持があったにもかかわらず、3メガバンクは過去1年間有意義な進展を見せませんでした。今年、同様の株主提案への支持が低下したことは、多くの投資家がスチュワードシップ責任を果たさず、投資先のメガバンクにおける気候変動リスク管理を十分に担保できていない状況を示しています。

脱炭素に向けて、科学的根拠に基づいた意義深い行動をとり続けるのか、企業と投資家双方の本気度が改めて問われています。行動をとらないことによる経済と人々への深刻な損害は到底容認できるものではありません。いかなる遅延の猶予はなく、石炭、石油、ガスから再生可能エネルギーへの移行を加速するための対策強化が求められます。」
渡辺 瑛莉 | Market Forces

「今回、新たに監査役についての責任を問う提案を行いました。みずほとMUFGは現地の先住民族が反対する米国テキサス州リオ・グランデLNG事業に資金提供を行っており、自らが採択する国際基準である『赤道原則』に違反しています。また、MUFGは大規模な熱帯林火災に対してインドネシア政府から損害賠償請求を受けているアブラヤシ農園企業を管理下に置く企業にも資金提供を行っています。これらはメガバンクにおけるガバナンスの問題を象徴する一部の例に過ぎません。自社グループにおけるガバナンスの問題について監査が認識していない現在の状態は、内部監査体制が機能していないことの現れです。3メガバンクにおけるリスク管理体制の課題は、2050年ネットゼロという目標を掲げているにもかかわらず、座礁資産リスクのある化石燃料事業を拡大する計画をもつ企業に投融資を続けていることにも現れています。さらに、この様な構造的なガバナンスの問題を見抜くことができていない機関投資家についても懸念があります。機関投資家には、長期的な視点に立った、真に責任ある投資を行うことを求めます」
川上豊幸|レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

MUFG: 今回の2つの提案に対し、MUFGの投票数は賛否のいずれにおいても他の2行よりも少ないものでした。しかし、国民の預貯金を運用する銀行が化石燃料関連事業に資金を提供し続け、国民の将来の命の安全を脅かす、あるいは快適な環境で生活する権利を損なうことに加担していることに我々株主はもっと声をあげるべきではないでしょうか?そして機関投資家には、より長期的な視点に立ち、未来に向けて責任ある投資を行うことを求めます。

SMBC:今回、新たに監査役についての責任を問う提案を行いました。SMBCとみずほで、監査委員会の財務リスク監査に係る情報開示を求める提案の方が、もう一方より賛成数がわずかでも高かったのは興味深い結果です。国際的なフレームワークのもと、ある程度の情報開示が進んできた中、新たな動きが求められているものと見て、我々は試行錯誤しながら銀行とのエンゲージメントを進めていきたいと考えています。

みずほ:化石燃料ファイナンスレポートによると、2024年、みずほフィナンシャルグループは世界4位(約403億ドル)、日本のメガバンク3行の中ではトップの金額を化石燃料関連企業に投じていました。この事実は、当行の「気温上昇を1.5℃に抑制するための努力を追及」との主張には整合しません。ネットゼロアクションの一環として「気候リスクの管理を継続的に強化し」ていると我々の提案に反対の意を示すのであれば、納得できる行動を示していただきたいと思います。」
鈴木康子|気候ネットワーク


お問合せ先

マーケット・フォース(Market Forces)
Antony Balmain E-mail: contact[@]marketforces.org.au

FoE Japan
深草亜悠美 E-mail: fukakusa[@]foejapan.org

気候ネットワーク 東京事務所:TEL:+81-3-3263-9210
鈴木康子 E-mail: suzuki[@]kikonet.org

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)
関本幸 E-mail: yuki.sekimoto[@]ran.org

共同プレスリリース:東証プライム7企業に対して気候変動対策に関する株主提案(2025/4/15)

~全7社が勧告的決議案を拒んだことを受け、定款変更議案を提出~

国際環境NGO マーケット・フォース
国際環境NGO FoE Japan
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

国内外の環境NGOとその代表者を含む個人株主は金融、総合商社、電力3業界の7企業に対し、気候変動対策の強化を求める株主提案を提出しました。提出先企業は三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下MUFG)、三井住友フィナンシャルグループ(以下SMFG)、みずほフィナンシャルグループ(以下みずほ)、三菱商事、三井物産、住友商事、日本最大の火力発電会社・JERAの経営に大きく関与する中部電力です。

我々は7社に対し定款変更に伴う制約を課すことを可能な限り避けつつ、気候変動リスクの緩和を通じた企業価値の向上に向けて、建設的かつオープンな対話を進めていくことを期待し、書簡の形式で法的拘束力のない勧告的決議案を提出しました。しかし全7社より勧告的決議を定時株主総会にて議案として取り扱うことはない旨の返答を受け取りました。このことから、以下の表のとおり当該企業に対して法的拘束力のある定款変更議案の形式で議案を提出しています。

2020年以降、日本の高排出企業や金融機関は、気候変動に関する株主提案に直面してきました。昨年金融機関の株主総会にて決議された議案(気候変動関連の事業リスク及び事業機会の効果的な管理のための取締役のコンピテンシーの開示を求める内容)をはじめ、25%以上の株主の賛同を集めた事例も数多くあります。今回提出した議案には、当該企業の取締役らを監視する監査委員会/取締役会の役割およびその実態についてより多くの情報開示を求めることで、企業のガバナンス向上を推進する狙いがあります。

他国を例に挙げると、英国のコーポレート・ガバナンスコードには「株主総会の議案に20%以上の反対票が投じられた場合は、その背景を理解すべく、企業がどのような行動をとるか総会の結果を発表する際に説明すべき」とあります。我々も一貫して当該企業に対し、方針の改定やさらなる開示を求めてきました。そうしたなか、広く株主が意見表明する重要な機会となる勧告的決議を定時株主総会で諮ることを企業側が拒否したことについては大変失望しています。岡山県岡山市や愛媛県今治市で発生した大規模な山林火災は工業化による人為的な気候変動の影響を受けて広がったとする内容の研究も発表されており、気候変動対策の緊急性は一層高まっています。当該企業の経営陣が勧告的決議案を拒絶し、定款変更議案を提出せざるを得ることになった経緯についても、我々の働きかけの意図や問題意識についてより多くの株主、ステークホルダーの皆様からご理解いただけることを期待しています。

提出先企業が抱える問題の要点は以下の通りです(業界ごと)

■ メガバンク

「メガバンクがNZBAから脱退したことで、銀行のネットゼロ公約への本気度が厳しく問われています。銀行は、高排出顧客が信頼性ある移行計画を策定する明確な期限を示す必要があります。さもなければ、銀行自身にとっての財務リスクへとつながるからです。昨年、同様の株主提案が強い支持を得たにもかかわらず、銀行は意味のある進展を示しませんでした。今後数ヶ月で進展が見られなければ、再び株主からの反発を招く可能性があります。加えて、気候リスクを含むリスク管理について、監査委員会による評価の開示を強化することは、ガバナンスの改善と企業価値の向上に不可欠です。」
(マーケット・フォース, 日本・エネルギーファイナンスキャンペーン担当, 渡辺瑛莉)

 

「メガバンクの監査委員会は機能してないと考えざるを得ません。なぜならば、メガバンクは信頼できるネットゼロへの移行計画のない企業や、重要な炭素吸収源である熱帯林や泥炭地の破壊及び人権侵害に加担する問題企業に資金提供を続けているからです。メガバンクの執行部門でリスク管理ができていないだけでなく、監査委員会の監督機能にも深刻な課題があるのではないかと大きな懸念を持っています。例えば、MUFGとみずほは大規模事業における社会・環境リスク管理の枠組みである『赤道原則』の遵守を誓約する一方で、現地の先住民族の反対を無視して建設予定の米メキシコ湾岸のリオ・グランデLNG施設に資金提供を行っています。メガバンクは早急にガバナンスの一層の強化と情報開示を行い、リスクを厳格に管理すべきです。」

(レインフォレスト・アクション・ネットワーク, 日本シニア・アドバイザー, 川上豊幸)

 

■ 総合商社

「各商社はネットゼロ目標を支持しているにも関わらず、今後も高炭素セクターへの投資を続ける計画を変えていません。激化する気候危機の影響による物理リスクや、移行リスクにどのように対応するのか開示し、また対応策を示すことは株主にとっても気候危機対策上も非常に有意義です。また、商社はモザンビークLNGやLNGカナダなど人権上の重大な懸念が指摘されている事業にも投資を行っており、ガバナンスとリスク管理を問う提案は今後のリスク緩和の上でも重要と考えます。」
(
国際環境NGO FoE Japan, 事務局長, 深草亜悠美)

「気候変動による財務リスクが高まる中、商社が晒されているリスクを適切に管理する為のガバナンスに関する情報開示は不十分です。定量的リスクと非財務リスクを適切に認識し、事業計画や投資判断にどう反映させるのか。そして、その一連の意思決定プロセスの妥当性をどのように担保しているのか——こうした点について、日本最大級の総合商社におけるガバナンス体制の透明性が強く問われています。」
(マーケット・フォース, 日本エネルギーキャンペーナー, 布川健太郎)

■ 中部電力

「電力の安定供給を重視するとしながら、不確実性の高い技術に過度に依存することはリスクに他なりません。水素・アンモニア燃料の利用拡大は継続的な燃料の輸入を必要とするため、国の安全保障上の問題となるだけでなく、電力価格を押し上げることで国民の暮らしを圧迫することにつながります。2050年の目標を定めただけでは対策は進みません。具体的な計画の策定や実行、気候変動による影響の評価、さまざまなリスクへの対応が適切に行われているのかを株主が判断するには情報の開示が必要です。」
(気候ネットワーク, プログラム・コーディネーター, 鈴木康子)

「中部電力およびJERAの移行計画には依然として改善が見られず、JERAの化石燃料事業の拡大により移行リスクは深刻化しています。加えて、日本最大級の電力会社であるJERAは、山火事、洪水、台風など、気候変動の進行に伴う物理的リスクにも晒されています。中部電力とJERAによる気候変動への遅慢な対応は、ガバナンス上の課題を浮き彫りにしています。気候変動の悪化に伴う財務リスクの情報開示を拡充し、取締役の適切な監督を強化することが、今後、一層必要になります。」
(マーケット・フォース, 日本エネルギーキャンペーナー, 布川健太郎)

 

■株主提案に関する詳細(株主提案に関する特設サイト

Asia Shareholder Action: https://shareholderaction.asia/ja/


■ 株主提案の内容に関するお問合せ先

□ マーケット・フォース(Market Forces)担当者:Antony Balmain E-mail: contact[@]marketforces.org.au
□ FoE Japan  担当者:深草亜悠美 Email: info[@] foejapan.org
□ 気候ネットワーク   東京事務所:TEL:+81-3-3263-9210 担当者:鈴木康子 E-mail: suzuki[@]kikonet.org
□ レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)担当者:関本幸 E-mail: yuki.sekimoto[@]ran.org