サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

ブログ:生活を破壊し、土地を奪う〜インドネシア巨大企業シナルマス〜(2021/1/15)

イブ・ミナルティさん: バナナ、キャッサバ(イモの一種)、唐辛子を栽培し、家族を養うために販売している農家。「私たちは子供たちの将来のために土地を必要としています」(ジャンビ州)写真:RAN/WALHI Jambi/ Mushaful Imam

人権侵害の記録と抵抗する最前線のコミュニティ

インドネシア・コーディネーター フィトリ・アリアンティ
英語は2020年12月17日投稿)

2015年2月下旬の金曜午後、インドラ・ペラニさんという若い農民が友人のバイクの荷台に乗って、インドネシア・スマトラ島ジャンビ州の田園地帯を走っていた。ペラニさんと友人はお祝いの一日を楽しみにしながら、米の収穫祭に向かっていた。しかし、そこにたどり着くことはなかった。

二人は、隣同士の村で育った。その村々の人たちは先祖代々この地域に住み、働き、農業を営んできたが、時が経つにつれ、村々の土地や森林が紙パルプ会社に引き渡されるのを見てきた。これらの大規模なアグリビジネス企業は天然林を皆伐し、厳重に警備された紙パルプ用植林地を作り、住民の農園と伝統的な生計手段を破壊し、その過程で物々しい警戒態勢を敷いて地域を制圧した。 

その金曜日の午後、インドラ・ペラニさんと友人は、世界最大級の製紙会社アジア・パルプ・アンド・ペーパー社(APP)が所有するアカシアの植林地を横切る道路の検問所を通過しようとした。同社はシナルマス・グループと呼ばれる巨大コングロマリット(複合企業)の子会社である。自分の地域の土地を取り戻すために住民を組織化し、有能な農業組合員で環境活動家でもあった22歳のペラニさんは、検問所で警備員に見つかってしまった。警備員は、ペラニさんをつかんで友人のバイクから引き下ろし、友人は助けを求めて急いで逃げた。悲劇的なことに、助けは間に合わなかった。ペラニさんの遺体は、ひどく殴られ、刺され、手足を縛られた状態で沼地に捨てられていたのが翌日に発見された。    

インドラ・ペラニさんの残忍な殺害には国際的に批判の声が上がり、抗議活動は現在も続いている。しかし悲しいことに、これはプランテーション開発の最前線にいる地域コミュニティが直面している恐ろしい多くの不当な仕打ちの一例に過ぎない。このような人権侵害を行い、インドネシアで大規模な森林破壊を引き起こしている企業は世界的な消費財企業や銀行との取引によって支えられ、資金は流れ続けている。 

シナルマス・グループ~人権侵害のネットワーク〜

「APP/シナルマス、農民の不当告発の停止を!」と書かれた横断幕を掲げて抗議するルブク・マンダルサ村ペラヤン・テバットの農民(写真:RAN/ワルヒ・ジャンビ/Mushaful Imam)

シナルマス・グループ(SMG)は他の多数の企業とともにAPP社を傘下に持つ。現地および国際メディアや市民権団体などの多数の報告によれば、SMGは土地収奪、脅迫、不当告発、暴力など(注1)、人権侵害と環境破壊に関する最も悪質な事例が記録されている企業の一つである。SMGは国際的な人権規範に従うことを拒み、コミュニティが自分たちの土地での開発に同意するかしないかを自ら決めることのできる権利を保障せず、またコミュニティとの間で合意がなされた場合でも、度々その合意の履行を怠ってきた。SMGはコミュニティから提起された苦情に不適切な対処を続け、影響を与えた数百ものコミュニティへの救済策の提供を拒んでいる。 

それでもSMGは大手消費財企業にパーム油や紙パルプを供給し続け、国際的な銀行はSMGにますます融資を続けている。マース、モンデリーズ、プロクター&ギャンブル、ネスレ、ユニリーバ、コルゲート・パルモリーブ、ペプシコ、花王のようなグローバル消費財企業はSMGが供給するパーム油を使用して、店頭に並ぶスナック菓子や即席麺、生活用品を製造している。日本の日清食品も、SMGを購入先としている不二製油から調達しているため、関与している可能性がある。またネスレは紙のサプライヤーを開示せず、同様に開示していない多くの他企業とともに、SMGが所有するAPP社を通じて紙パルプを購入している。またSMGは銀行融資の最大の受取先でもあり、過去 5 年間(2015 年~20 年第 1 四半期)に受けた融資額は 200 億米ドルに達している。最大の貸し手には、インドネシアの銀行であるバンク・ラクヤット・インドネシア(BRI)とバンク・ネガラ・インドネシア(BNI)、日本のメガバンクであるみずほフィナンシャルグループと三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)がある。 

これらの消費財企業や銀行の多くが人権擁護をうたう方針と公約を掲げているが、SMGの広範な人権侵害を無視している。これらの消費財企業や銀行は、先住民族や地域住民の権利を尊重しないSMGを支援する一方で、最新のポジティブな「取り組み」を自慢したがる。これは止めなければならない。銀行や消費財企業は、SMGおよびそのサプライヤーが引き起こした社会・環境面での危害を是正したことを同社が証明するまでSMGとの新規取引を直ちに停止しなければならない。SMGは「森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、コミュニティと労働者の搾取ゼロ」(NDPE:No Deforestation, No Peat and No Exploitation)という公約を真に実行し、影響を受けるコミュニティの要求を満たしていることを証明しなければならない。 

環境NGOのエンバイロンメンタル・ペーパー・ネットワーク(EPN)の報告書「紛争パルプ材植林地」(2019年)によると、インドネシアのわずか5州で、少なくとも107の村やコミュニティとAPP関連会社やそのサプライヤーとの間に紛争が起きており、544村が紛争の可能性のある場所として特定され、その面積は250万ヘクタール以上にのぼる。以下はSMGが対処して来なかったコミュニティとの紛争の事例であるが、ごく一部に過ぎない。そして、ここに記す住民が語った話や経験は、SMGがいかに人権を侵害してきたかを示す重要な例である。 

コミュニティに対する暴力と脅迫
インドネシア・ジャンビ州のルブク・マンダルサ村

イブ・ミナルティさんは、バナナ、キャッサバ(イモの一種)、唐辛子を栽培し、家族を養うために販売している農家。「私たちは子供たちの将来のために土地を必要としています。ここでは経済的なストレスを受け、自由に行き来することができません。私たちは平和に暮らしたいのです。地域住民のニーズを理解し、ルブク・マンダルサ村の伝統的な土地を返すよう、WKS社に求めます」と語った。(写真:RAN/WALHI Jambi/ Mushaful Imam)

インドネシア・スマトラ島ジャンビ州にあるルブク・マンダルサ村は、6,000世帯以上が暮らす村である。コミュニティは主にジャンビ出身のマレー人と、何世代にもわたってこの地域に住んでいる先住民族のアナック・ダラム民族である。住民の大部分は、米や野菜の農家として働いて暮らしており、土地への依存度が非常に高い。コミュニティ所有地の多くは、近くのブキ・ティガプルー国立公園の一部として指定されているか、アジア・パルプ・アンド・ペーパー(APP)傘下の産業用植林事業会社のWKS(Wira Karya Sakti)に事業許可が与えられているため、そこでの土地利用が次第に制約を受けている。

WKS社と地域住民の紛争は、村内のぺラヤン・テバットという集落で2007年に始まった。WKS社は、この地域の事業許可地へのアクセス道路を建設した後、住民が農地として使っていた土地を含め、道路両側の土地をさら地にし始めた(注2)。地域住民とテボ農業組合および環境保護団体のワルヒ・ジャンビ(WALHI Jambi)が2013年に作った地図によると、同社に奪われた住民管理地の総面積は1,500ヘクタール、つまり2,800個以上のサッカー場に相当する広さだった(注3)。2007年12月28日に紛争は同社と住民の衝突に発展し、住民の農地をさら地にしていたWKS社の重機を壊した嫌疑が住民にかけられた(注4)。この衝突によって9人の農家が逮捕され、15カ月間の禁固刑に処された

地元の環境保護団体ワルヒ・ジャンビは、以下の例を挙げて、WKS社は数年以上もコミュニティを脅迫し、攻撃し続けてきたと主張する: 

●2013 年 3 月 6 日、農家のカリオノ・セティオさんは地区警察に逮捕された。WKS社はセティオさんが同社の「環境保全」地域内の土地の一角を、さら地にしたとして告発し、逮捕はその後に起きた。同社の「環境保全」地域は、地域住民の「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC)を得ることなく彼らが伝統的に所有してきた土地にもうけられた。カリオノさんは有罪判決を回避するために、農地での作業をやめることを余儀なくされた(注5)。

●2015年2月27日、インドラ・ペラニさんがWKS社の警備チームに暴行され、誘拐され、殺害された(注6)。

アーメド・スザントさんは、ルブク・マンダルサ村の農家。アーメドさんの作物は、2020年3月にWKS社がドローンで除草剤を作物に散布した際に被害を受けた。約2ヘクタールの土地が破壊され、唐辛子、スイカなどの作物が駄目になった。コミュニティが所有する97本のアブラヤシの木も使えなくなった。WKS社はコミュニティが主張する被害規模に異議を唱えている (写真:RAN / WALHI Jambi / Mushaful Imam)

●2020年3月4日、WKS社はドローンを使って有毒な除草剤を撒き、コミュニティが植えたばかりの野菜、唐辛子、ジェンコル(食品や薬として利用される種がなる木)、アブラヤシの木を破壊した。インドネシア政府が新型コロナウイルスの発生に対応するために大掛かりな社会的制限政策を実施し始めていたため、除草剤を監視なく容易に散布できた。住民の一人、ハリムさんは約2ヘクタールの村の菜園が破壊され、収穫ができなくなったと報告した。

●WKS社は現在も住民を脅迫し続けている。2020年3月、村の共有地と考えられ、紛争になっている土地をさら地にしたという理由でWKS社によって一人の住民が警察に通報された(注7)。2020年4月28日、住民のアグスさんが村の菜園の手入れをしていた時に兵士がわざと空中に二発、発砲した。

紛争が始まって以来、コミュニティは抵抗のために組織化が行われ、官公庁や会社の前でデモを行ったり、会社の現場での活動を妨害したり、会社との交渉を試みたりと、様々な方法で会社との問題の解決を試みてきた。

こうした最近の一連の事件について、APP/SMG は「問題は調停によって解決された」と述べ、ドローンによって破壊されたコミュニティの作物の実際の面積は、当初、住民が主張したより少なかったことをコミュニティの代表者が認めたと主張した。しかし地元の NGO は、そのような意味のある調停は行われておらず、ルブク・マンダルサ村とWKS社の間の長年の対立は依然として続いていると異議を唱えている

先住民族サカイ民族への不当告発
インドネシア・リアウ州

シナルマス・グループ(SMG)の人権侵害の記録は、ルブク・マンダルサ村に限ったことではない。地元の情報源によると、SMGはリアウ州ベンカリスの先住民サカイ民族のコミュニティとしての権利も侵害している。このコミュニティでは、地元農家が、コミュニティの所有する土地で樹木を切り倒したことで犯罪者だとされた。APP/シナルマス傘下企業のアララ・アバディ社(AA社)は、その土地を自社の事業許可地であると主張している。

この紛争は、AA社が327ヘクタールの土地をさら地にし、コミュニティの貴重な食糧源を破壊した2001年に始まった。そこは、サカイ・バティン・ベリンギンおよびペナソの先住民族がコミュニティとして伝統的に所有すると主張する土地だった。

ボンクさんと「森林と土地のための伝統コミュニティ連合」(Koalisi untuk Masyarakat Adat untuk Hutan dan Tanah). (写真:Jikalahari) 

サカイ・バティン・ベリンギン村の住民ボンク・ビン・ジェロダンさん(58歳)は、この紛争で不当に告発された住民の一人である。ボンクさんは、サカイ民族の伝統的な食品の一つであるメンガロ・マーシク(Menggalo Mersik)に加工できるウビ・メンガロ(Manihot glaziovii)と呼ばれる地元のサツマイモとキャッサバを栽培している農家だ。インドネシアの多くの先住民族と同様、サカイ民族は森林やその自然の産物に依存する移動式農業を営む人々だ。

不当告発は、ボンクさんがサツマイモを栽培するために新しい土地を耕作したときに始まった。ボンクさんは2019年11月に約20本のアカシアの木を伐採し、200平米の面積をさら地にした(注8)。さら地になった土地は、現在は前述のAA社の産業用植林事業許可地の一部として法的に指定されてはいるものの、先住民族であるサカイ民族の共有地の一部である。

ボンクさんの初公判は2020年2月に行われ、同年5月18日、判事は、AA社の事業許可地内のアカシアの木を伐採した罪で、ボンクさんに1年の禁固刑と2億ルピア(14,000米ドル以上)の罰金を宣告した。判事は、ボンクさんを2013年の「森林破壊の防止と根絶に関する法律」に違反した罪で有罪とした。この法律は組織的な森林破壊を法的に禁止することを目的としているが、コミュニティを犯罪者とするためによく使われる(注9)。

2015年以降、サカイ民族は、ボンクさんが管理する土地を含め、慣習的な土地の権利の承認をインドネシア環境林業省に求めてきたが、承認されていない(注10)。APPは声明で「環境林業省は今後の紛争解決を促進している」、「AA社は引き続きプロセスに従うことを約束している」と主張している。

インドネシアNGO LBHプカンバルのインフォグラフィック

ボンクさんは7カ月投獄された後、新型コロナウイルス感染症拡大の懸念から釈放された。この事例では土地紛争が未解決のままであり、ボンクさんの場合のような不当告発は、土地紛争が解決され、先住民族サカイ民族の土地権が認められるまで続く可能性が高いと地元の市民社会グループは警告している

アブラヤシ農園での労働者の権利侵害と人権侵害
インドネシア・中部カリマンタン州

SMGの人権侵害の記録は十分に文書化され、紙パルプ部門だけでなく、パーム油事業においても人権侵害が行われてきた。市民社会と労働組合はSMGの別の子会社であるゴールデン・アグリ・リソーシズ(GAR)についても同様に、人権侵害と労働者の虐待について記録してきた。

2018年の報告書で、サウィット・ウォッチとアジア・モニター・リソース・センターはアブラヤシ農園の労働者49人に、中部カリマンタン州にあるGARのアブラヤシ農園企業2社、タピアン・ナデンガン社(PT.Tapian Nadenggan)とミトラ・カリヤ・アグロインド社(PT.Mitra Karya Agroindo)で勤務中に経験した虐待について聞き取りを行った。

不当な労働システム、労働安全衛生問題、低賃金、劣悪な生活条件、性差別、「持続可能な」パーム油の代表的な認証機関とされる「持続可能なパーム油のための円卓会議」(RSPO)の監査チームが聞き取りをできないように労働者を隠していたことなどの違反行為が報告された。同じくGAR傘下にある南スマトラ州のサウィット・マス・セジャーテラ社(PT.Sawit Mas Sejahtera)が所有するアブラヤシ農園における無秩序な労働契約、未払い残業、不当な解雇、労働組合の弾圧など、労働者の権利侵害についても、労働組合や市民社会グループは繰り返し懸念を表明している。

また、フォレスト・ピープルズ・プログラム(FPP)とエルク・ヒルズ・リサーチは最近、上記2社の事業許可地での労働者の権利侵害の発覚を含め、中部カリマンタン州のGAR事業許可地8カ所でのライセンス規則違反の疑惑と汚職の兆候について、RSPO に苦情を提出した。FPPと地元 NGO は以前、西アフリカのリベリアにおける事例も含め、コミュニティの土地譲渡プロセスにおける「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC)の権利侵害を理由に、GARに対する苦情数件を申し立てていた。

イブ・ヌルハヤナさんは、2015年にWKS社の警備員によって残忍に殺害された故インドラ・ペラニさんの母親。WKSは彼女を支援するという約束を破り続け、彼女は今、自身と家族の生活のために苦闘を続けている。「一刻も早く土地が返還されるよう要請します。将来のために、私は自分自身と娘のニラプトリのために正義を求めます。我が家の大黒柱だった息子がこの世からいなくなってしまったために、このような状態になっていると感じています。私は正義を求めます。それだけを求めます」と語った。(写真: RAN/Walhi Jambi/ Mushaful Imam)

コミュニティの土地からのパーム油調達
インドネシア・スマトラ島アチェ州パンテ・チェルミン村

パンテ・チェルミン村の住民。自分たちの土地を守るために抵抗を続けている

RANは2020年9月、シナルマス・グループのパーム油部門であるGARがデュア・ペルカサ・レスタリ社(Dua Perkasa Lestari:DPL)から原料を供給された搾油工場からパーム油を調達している証拠を明らかにした。DPL社は、スマトラ島のアチェ州アチェ・バラット・ダヤ地区にあるパンテ・チェルミン村の慣習地で、アブラヤシ農園を経営している企業だ。

パンテ・チェルミン村とDPL社の紛争は2006年に始まった。アチェの分離主義運動(GAM)とインドネシア軍との間の紛争から避難していた住民は、村に戻ってきてDPL社が自分たちの土地で操業しているのを発見した。コミュニティには土地所有権に関する法的文書(土地の物理的所有権に関する証明書(SPORADIK)があったが、DPL社はアブラヤシ農園を造成するために、コミュニティが植えていた食用作物を切り払い続けた。年々、脅迫も激しさを増している。2014年に同社は機動部隊(ブリモブ)に住民の家や作物を破壊させ、住民を監視させ、住民に対する威嚇射撃をさせて、住民の頭に弾が当たりそうになったこともあった(注11)。

バンダ・アチェ法律支援研究所の法的分析により、DPL社のアブラヤシ農園許可証に不正が発覚した。地元住民が1992年から管理する農地に立地しているにもかかわらず、許可証の発行に地元住民が関与していなかったのだ。矛盾は、立地許可証、農園事業許可証、農園の場所に対する事業権(Hak Guna Usaha)の間にあった。また、農園は深さ3メートルを超える泥炭地で造成されていた。

GARはDPL社との関係が公になった後、DPL社からの調達を停止することを発表した。しかし、GARはパンテ・チェルミン村のための救済措置が確保されるようDPL社に働きかけることができていない。この数十年にわたる土地紛争は、GAR/シナルマス・グループの人権ポリシーの実施や、効果的な人権デューデリジェンスシステムの確立と、サプライチェーンにおける遵守違反の検出に関する能力の弱さを示している。

ムサリさん。WKS社が権利を主張している土地でサトウヤシを収穫している(写真;RAN/ワルヒ・ジャンビ/Mushaful Imam)

「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」の必要性

上記の事例はいずれも、SMGの人権侵害が一つのセクターや一握りの農園だけではなく、様々な商品、地域、そして第三者のサプライヤーを含むサプライチェーン全体で発生していることを明らかにしている。SMGの子会社であるAPPとGARといったアグリビジネス部門は、人権、地域住民の権利および「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC: Free, Prior and Informed Consent)プロセスの尊重などを含めて、自らの公約を果たすことができずにいる

グローバルな消費財企業と銀行はどうすべきか

影響を受けているコミュニティはシナルマス・グループに以下を要求している:

●ジャンビ州のルブク・マンダルサ村、リアウ州の先住民族サカイ民族およびアチェ州のパンテ・チェルミン村との紛争を含め、の操業に関連する全ての土地紛争をすぐに解決すること

●影響を受けたコミュニティや環境・人権活動家に対するあらゆる形態の脅迫および不当な告発を終わらせること

●企業の事業許可地内の土地を地域住民に返還することにより、先住民族の土地権を尊重し、その認知を支持すること

●シナルマス・グループの農園で働く労働者のために、公正かつ適切な労働条件と生活条件を確保すること

これらのコミュニティを支援して下さい

ボンクさんのような、先住民族の権利擁護者への不当告発の問題に光を当て続けるために、以下の署名に協力をお願いします。

「先住民族への不当告発を止めてください」#FreeBongku

注1)以下を参照:
https://www.business-humanrights.org/en/latest-news/indonesia-study-reveals-asia-pulp-papersinar-mas-involvement-in-hundreds-of-community-conflicts/;  または
https://www.thejakartapost.com/news/2015/09/26/singapore-moves-against-indonesian-firms-over-haze.html

注2)Konsorsium Pembaruan Agraria, Suara Pembaruan Agraria Edisi 9: Agenda Reforma Agraria Pemimpin Baru, 2014. Pages 72-74.

注3)Mongabay Indonesia, Konflik lahan masyarakat Tebo  dengan PT. WKS terus berlarut, 8 Juni 2020, Jakarta-Indonesia.

注4)WALHI. 2018. Briefing Paper Wahana Lingkungan Hidup Indonesia: Selembar Kertas dan Jejak Kejahatan Korporasi. 12 Februari. Jakarta, Indonesia.

注5)Walhi Jambi, Assessment report (Unpublished), Januari 2016.

注6)Walhi Jambi, Investigation Findings, Reka Ulang Kasus Pembunuhan Indra Pelani, Tersangka Pembunuhan, March 2015.

注7)Walhi Jambi. Siaran Pers: Kronologis Kekejaman dan Intimidasi PT WKS Terhadap Masyarakat (KT Sekato Jaya) Desa Lumbuk Mandarsah, Tebo – Jambi. June 2020.

注8)Tempo Magazine. Kekeliruan Hakim yang Menghukum Bongku Karena Menebang Pohon. May 2020 Edition.

注9)LBH Pekanbaru. Pak Bongku Bukan Pelaku Perusakan Hutan, Berikan Keadilan Untuk Masyarakat Adat. April 2020.

注10)Mongabay. Mau Tanam Ubi di Lahan Sengketa dengan Perusahaan, Orang Sakai Terjerat Hukum Merusak Hutan. May 2020.

注11)YLBHI-LBH Banda Aceh. Legal Opinion (Pendapat Hukum): Sengketa Lahan Antara Masyarakat Desa Pante Cermin Kecamatan Babah Rot Kabupaten Aceh Barat Daya Dengan PT. Dua Perkasa Lestari. 2019.

ブログ:三菱UFJが抱える重大なESGリスク

RANはMUFGアメリカズのニューヨーク本社前でアピール行動を行い、森林火災への資金提供停止を訴えた。2020年9月1日、写真:Erik McGregor

菅首相が日本の「温室効果ガスを2050年までに実質ゼロ」にすると10月26日に発表しました。この数カ月、HSBC、モルガン・スタンレー、JPモルガン・チェース、バークレイズなど世界の銀行でも気候変動対策に関する公約を発表する動きが続いています。

一方、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は「持続可能な社会の実現に貢献する」と約束しているにも関わらず、実際は、森林破壊と気候変動を加速し、人々の生活を脅かしています。

このような問題に対応すべきESG(環境・社会・ガバナンス)与信方針について、今年4月にみずほフィナンシャル・グループと三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)が方針を改定し、その後5月にMUFGも改定しましたが、気候変動対策においては遅れを取ってしまいました。これではMUFGは「サステナビリティ・リーダー」にはなれません。

MUFGの投融資には、以下の3つの部門において様々なESGリスクを抱えています。

1. パーム油:熱帯林を破壊しているパーム油企業等に投融資

MUFGは、熱帯林や熱帯泥炭地の破壊を加速させているパーム油部門に、世界で最も融資している金融機関の一つです。熱帯林は二酸化炭素の吸収源として、そして大半の陸上生物多様性の生息地としても重要な役割を果たしています。また、泥炭地は「炭素の貯蔵庫」とも呼ばれ、気候へのインパクトは測り知れません。しかし熱帯林は、パーム油や紙パルプ等の生産のために急速に失われています。森を長年守ってきた地域住民の生活と権利も脅かされているのです。

MUFGは、熱帯林の重要性を認識しつつも、保護に必要な対策を十分に取らず、熱帯林や泥炭地の破壊に加担している企業に融資を続けています。世界クラスの生物多様性ホットスポットと知られるルーセル・エコシステムの熱帯林まで影響を受けています。これでは、2020年までに森林減少を阻止しようという国連「持続可能な目標」(SDGs)の目標15を実現することはできません。

インドネシア、スマトラ島・アチェ半島上空。Duta Rendra Mulyaによる森林破壊の光景

2.石炭:気候危機を悪化させている

MUFGは、石炭火力発電への投融資を段階的に廃止し、石炭火力向けプロジェクトファイナンスを2040年までに残高ゼロにすることを公約しました。しかし、MUFGは、国内外で批判の的になっているベトナム・ブンアン2石炭火力発電事業(1,200メガワット規模)に融資しようとしています。このプロジェクトは今後数十年にわたって二酸化炭素を大気中に排出することになります。ブンアン 2 は座礁資産になるリスクが高く、建設されるべきではない理由が複数指摘されています。

3.オイルサンド・パイプライン:世の中の流れに逆行

MUFGは、オイルサンド部門でアジア最大の資金提供者です。カナダのアルバータ州から米国ミネソタ州の先住民の土地を通って五大湖につづく、問題の多い「ライン3」パイプラインの事業者であるエンブリッジに多額の資金を提供しています。このパイプラインがもしも建設された場合、平均的な石炭火力発電所の約50倍(!)もの二酸化炭素を排出することが予測されます。MUFGは、バイデン大統領が中止を約束した「キーストーンXL」パイプラインにも資金を提供しています。両方のプロジェクトは、先住民の権利と生活を脅かすため、先住民族の人々は強く反対しています。

***

パリ協定が採択された2015年以降の4年間、MUFGは化石燃料部門に1,188億ドル(約12.7兆円)の融資・引受を提供し、その金額は世界6位、国内ではトップの金融機関でした。科学的知見によれば、パリ協定の目標を満たすためには「パリ協定と整合性のある金融機関原則」に沿って化石燃料の拡大と森林破壊を直ちに止める必要がありますが、MUFGはこのような約束を一切していません。

MUFGが真の「サステナビリティ・リーダー」になるには、社会的責任を果たしている他の大手金融機関のベストプラクティスを見習い、ESGに関する投融資方針とその実施を次のように強化する必要があります:

1.森林、特に熱帯林に影響を及ぼす林業・農業関連企業には、ベストプラクティスである「森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止(NDPE)」基準遵守を要求すること

2.パリ協定の1.5度目標に沿って、化石燃料への投融資を段階的に停止し、化石燃料を拡大させる投融資は直ちに止めること

3.人権、特に先住民族と地域コミュニティの権利を尊重し、人権侵害を起こすプロジェクトには投融資をしないこと

4.高リスク部門をはじめ、ESGリスクの管理・監督の実効性を向上すること

もっと知りたい方はこちらへ:

熱帯林破壊・森林火災への投融資について

化石燃料への投融資について

ブログ:インドネシアとブラジルの森林火災をあおる銀行〜新型コロナによる複合リスクの脅威〜(2020/11/6)

責任ある金融 シニア・キャンペーナー ハナ・ハイネケン
(本ブログはRIEF環境研究機構に9月19日に寄稿したものです。11月6日更新)

写真:ヘリコプターによる消火活動と伝統的な高床式住居に迫る火の手、インドネシア オガン・コメリング・イリル地区ペダマラン小地区 画像提供:Nopri Ismi/モンガベイ・インドネシア

今年もまた、壊滅的な森林火災の季節がやってきた。すでにインドネシア、ブラジル、中央アフリカ地域の熱帯林、ロシア・シベリアの北方林、北米西海岸の温帯雨林を含む森林などでは火災が猛威を振るっている。火災は森林生態系の荒廃や気候変動を加速させている。こうした中、幸いなことに、ますます多くの銀行や機関投資家が火災に関与している企業や国家政府に対して影響力を持ち、森林火災への対処を迫ることができると自覚している。しかし、こうした銀行や投資家の取り組みは十分なのだろうか?

ブラジルでは、火災は土地投機や森林地帯への農地拡大と大きく関係している。牧草地や大豆農園の造成のために、土地を更地にする目的で火が放たれる場合が多いのである。そして、こうした火災の多くは未登録の土地で土地収奪の一環として発生しているため、犯人の特定が難しい。しかし森林リスク産品のESG(環境、社会、ガバナンス)リスク分析を専門とする研究イニシアチブであるチェーン・リアクション・リサーチの調査によると、2019年のブラジルの火災は、全体の50%近くが食肉加工会社のJBS、ミネルバ、マルフリグの買い付け候補地域で発生していることが判明している。サンタンデールとHSBCは、この食肉加工会社3社の上位金融機関に含まれる。昨今、火災は激しさを増している

写真:ハミルトン・モウラン副大統領とサンタンデール・ブラジル銀行の取締役会のメンバーとの会談(2020年7月23日、ブラジリアにて)、画像提供:Romério Cunha/VPR (ブラジル共和国副大統領府)

2019年にブラジルのアマゾン全域で火災が急増したことを受けて、16兆ドルの資産を有する国際投資家グループ(PRI及びCERESに署名している230機関)が声明を発表し、ボルソナロ大統領政権に問題への対応を迫った。森林火災への対応として声明だけでは不十分だが、金融部門に自らの役割を自覚してESG課題に対応することが求められていることを示している。

インドネシアではアブラヤシ農園やパルプ材植林地の拡大が原因で発生した火災に対し、ブラジルの場合のような投資家の介入は残念ながらなかった。農園企業は植え付け前の残渣除去、施肥、除草、害虫駆除の費用を節約し、違法で安価な整地方法として火を利用している。この持続不可能な農園開発が炭素を豊富に含む泥炭地で行われ、その相乗効果で火は往々にして手に負えないほど燃え広がり、何週間も鎮火できないこともある。気候への影響面でも、火災で生じる温室効果ガスの排出量はインドネシアがアマゾンを大幅に上回った

森林火災と新型コロナ:致命的な組み合わせ

こうした火災に由来する有毒な煙害(ヘイズ)は国境を越えて広がり、公衆衛生と経済に深刻な影響をもたらしている。今年は新型コロナウイルス感染症による副次的な影響が深刻化しそうだ。(火災によって発生するような)微粒子大気汚染がわずかに増加しただけでも、新型コロナによる死亡率が大幅に増加することはすでに複数の研究で示唆されている。インドネシアと近隣諸国では、毎年生じる煙害がすでに公衆衛生に深刻な影響を与えている。2016年に行われ広く引用されている研究では、2015年の煙害でインドネシア、マレーシア、シンガポール全体で早期死亡者が10万人に上ったと推定されている。2019年の煙害では100万人以上が呼吸器感染症を患っている。

近年、国境を超える煙害で通常の生活ができなくなる可能性は実証されており、すでに今年は新型コロナの世界的流行の影響のもと、弱体化した経済と国家財政が大打撃を受ける可能性がある。2019年のインドネシアの火災による経済的損失・被害額は52億米ドルと推定されている。ちなみに2015年は160億ドルであった。

インドネシアで森林火災をあおる銀行

2015年の火災を受けて、ジョコウィ大統領は火災危機を「組織的環境犯罪」と形容し、責任のある企業に対して厳しい措置を講じることを約束した。2019年、環境林業省(KLHK)は、火災を根拠にパーム油、パルプ材、ゴムなどの企業90社の関連事業を凍結した。それに伴い、24社が民事または刑事制裁を受けていると報告されている(社名はまだ公表されていない)。凍結された企業のリストは一部が公開・流出しており、うち37社が企業グループの親会社であることが特定されている。

政府が火災を起こした企業に対する対抗措置を強化しているにもかかわらず、調査が行われても意味のある制裁が行われた例はほとんどない。また、制裁が課されても実際に裁判所が執行した例はさらに少なく、数億ドルの罰金が未納のままとなっている。

リスク管理規制や金融部門のデューデリジェンス(相当の注意による適正評価)が存在しないことから、銀行はこれまでこの問題をほとんど無視し、燃えやすい泥炭地を開発している企業や、事業許可地で火災が発生したことのある企業に巨額の融資枠を提供し続けている。RANなどによる共同プロジェクトの「森林と金融」データベースは、特定された37社の企業グループのうち19社への資金提供を明らかにし、2015年から2020年4月までの間に、少なくとも374億ドルの融資と引受が行われたことを示している。この数値は、パーム油、紙パルプ、および天然ゴム部門への融資・引受のみを対象とするよう調整している。森林火災に関連する企業グループには、インドネシア最大手のパーム油と紙パルプ企業が多く含まれている。

2019年の火災に関与した企業グループへの融資・引受:上位20銀行

2019年の火災に関与した企業グループへの融資・引受:上位20銀行 (2015年~2020年第1四半期)単位:十億米ドル

インドネシアの場合、森林火災が経済・国家財政に莫大な負担をもたらすにもかかわらず、火災に関連する企業の債権者上位5行のうち、バンク・ラヤット・インドネシア(BRI)、バンク・ネガラ・インドネシア(BNI)、マンディリ銀行の3行はいずれも国有銀行で、3行合わせて82億米ドルの融資と引受を行っている。3行のいずれも、火災予防や、引火性の高い泥炭地での開墾拡大を顧客企業に禁止する方針を公開していない。

また、マレーシアやシンガポールの銀行も、国や国家経済が国境を越える煙害の影響を大きく受けているにもかかわらず、火災に関連する企業グループの主要金融機関となっていることが明らかである。また、シンガポールには租税優遇目的で、インドネシアの多くの財閥系企業(ロイヤル・ゴールデン・イーグルやシナルマス・グループなど)が上場したり、本社を構えたりしている。

こうした銀行の多くは、国連責任銀行原則(PRB)に署名し、事業戦略をパリ協定や持続可能な開発目標(SDGs)と整合させることを約束している。火災に関与した企業グループへの銀行融資がPRBの目標と整合しないのは明らかである。みずほフィナンシャルグループ(みずほ)、CIMBグループ、中国工商銀行(ICBC)、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、ラボバンク、三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)、ABNアムロ銀行などはそうした銀行の例である。また、ラボバンク、SMBC、ABNアムロ銀行には、顧客企業が火を使って土地を更地にすることを禁止する明確な方針もある。

法令を上回る基準

しかし、インドネシア政府が凍結した農園企業のリストは一部であって、2019年に発生した火災および煙害に関する責任の全容を明らかにするものではない。衛星画像と火災発生地点のデータは、事業許可地で大規模な火災が発生したものの、農園の凍結が報告されていない企業が他にも多数あることを裏付けている。ジャーディン・マセソン・グループのアストラ・アグロ・レスタリ(IDX:AALI)とシナルマス・グループのゴールデン・アグリ・リソーシズ(SGX:E5H)がその例である。

アストラ・アグロ・レスタリのパーム油の4つの開発事業許可地で、2019年8~9月に火災が発生。そのうち3つの許可地ではそれ以前の2016年から2018年にも火災が発生していた。4カ所とも開発が進められているのは泥炭地である。執行措置に一貫性が見られず、このこと自体、銀行が法執行機関からの開示を上回る、強力なデューデリジェンスを実施する必要があることを如実に示すものである。

Persada Dinamika Lestari (AAL)社の事業許可地内に確認できる火災の焼け跡

アストラ・アグロ・レスタリ(AAL)の上位金融機関には日本のメガバンクであるSMBCとみずほが含まれている。また、ジャーディン・マセソン・ホールディングス(AALの親会社)元取締役のジェームス・サスーン卿はMUFGのグローバル・アドバイザリー・ボードの委員で、利益相反の可能性が伺えることは特筆すべきであろう。またMUFGもゴールデン・アグリ・リソーシズ(GAR)の主要金融機関である。

ジャーディン・マセソンとシナルマス・グループへの資金の流れ (2015年~2020 4月の融資・引受額、単位:百万米ドル)

出典:「森林と金融」データベース

銀行がすべきこと

有効な制裁措置がない上に、膨大な与信枠があるため、企業は業務改革に向き合わず、自社が起こす火災によって生じる数十億ドルの費用を負担していない。

銀行は、火災を止めるために効果的なインセンティブと抑止策を直ちに採用し、気候危機、生物多様性の危機、そして新型コロナウイルスによってもたらされた健康危機への対処で、自らの役割を果たさなければならない。その対策には、顧客企業に対して火を使った開墾を明確に禁止すること、そして森林伐採、泥炭地開発、地域社会や労働者の搾取に一切関与しないことを義務付ける、包括的な「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止方針」(NDPE:No Deforestation, No Peat and No Exploitation)の導入を盛り込まなければならない。

*参考資料「シナルマス・グループ:インドネシア森林火災 最大の責任者」(和訳版 2020年10月発行)

ブログ:シナルマス〜インドネシア森林火災最大の責任者〜(2020/10/30)

みずほ、三菱UFJ、アスクル等とのつながり

「シナルマス・グループ」という企業の名前を聞いたことはあるだろうか? インドネシア最大の複合企業の一つで、創業者の故エカ・ウィジャヤ一家によって管理されている。

シナルマス・グループの最大のビジネスは紙パルプ事業(アジア・パルプ・アンド・ペーパー:APP)とパーム油事業(ゴールデン・アグリ・リソーシズ:GAR)で、両社はインドネシア最大の紙パルプ企業、パーム油生産企業である。APPとGARは5年以上前に持続可能性に関する方針を発表したが、同グループの事業にはESG(環境・社会・ガバナンス)に関するリスクが深く根付いている。

伐採され焼き払われて、植栽の準備が行われたシナルマス小会社の事業許可地
撮影:インドネシアNGO ジカラハリ、2020年7月3日

最新の分析で明らかになったのは、世界の大手消費財企業と銀行がシナルマス・グループと取引および多額の資金提供を継続し、インドネシアで毎年起こる森林火災と煙害(ヘイズ)を助長する役割を果たしていることだ。森林火災の原因を作り出している企業に資金提供し、森林が伐採された土地で生産された紙製品やパーム油などを購入することにより、銀行と消費財企業は火災に拍車をかけているのだ。

RANは、今年9月に英文ブリーフィングペーパー「シナルマス・グループ:インドネシア森林火災 最大の責任者」を発表し、グループへの資金提供と、グループからの調達におけるESGリスク事例、そしてグループおよびサプライヤーの事業許可地で意図的に森林が燃やされていることに対して懸念を表明した。

この度、和訳版発行にあたり、資料の要点と日本市場とのつながりを紹介する。

メガバンクを含む金融機関とのつながり

RANらが運営する「森林と金融」データベース(世界三大熱帯林地域に影響を及ぼす事業を行う企業への資金を明らかにするオンラインツール)を基にした分析によると、シナルマス・グループは、2015年から2020年第1四半期にかけて、200億米ドルの融資・引受を銀行から受けていた。143億ドルは紙パルプ事業、45億ドルはパーム油事業に提供され、インドネシアの森林破壊リスクのある産品に関わる企業への融資・引受額としては最大だった。

グループへの最大の資金提供者はインドネシアのバンク・ラヤット・インドネシア(BRI)バンクネガラインドネシア(BNI)である。両行は顧客企業に、炭素を多く含む泥炭地の開発や、農園開発における火の使用を禁止する方針を公表していない。

日本のメガバンクでは、みずほフィナンシャルグループ三菱UFJフィナンシャル・グループが森林セクターへの資金提供における環境・社会方針を2018年から採用しているが、下図の通り、近年でも同グループへの重要な資金提供者となっている。

表:シナルマス・グループの事業に資金を提供する上位10社(2015〜2020年4月)
単位:百万米ドル(「森林と金融」データベースより)

紙パルプ・パーム油:消費財企業、商社とのつながり

シナルマス・グループは、多くの世界大手消費財企業に紙製品を提供する主要サプライヤーである。日本市場とのかかわりも大きい。

紙パルプ

日本では、1997年に日本法人のエーピーピー・ジャパン株式会社を伊藤忠商事との合弁企業として設立。2016年4月に経済団体連合会(経団連)に入会し、2020年1月にAPP社の100%完全子会社に移行した。

APPがインドネシアで生産した紙は、伊藤忠や丸紅などの商社を介して日本に輸入され、アスクルやカウネット(コクヨ)、ジョインテックス(プラス)や量販店などでコピー用紙が販売されている。コピー用紙市場では約25%のシェアをもつ(2016年時点)。

2013年、APPはNGOのキャンペーンに押される形で、森林保護方針( FCP:Forest Conservation Policy)を採択した。方針で森林減少ゼロを約束し、火入れゼロ方針も打ち立て、土地紛争の解決も約束した。しかし、その約束はいまだ果たされず、泥炭地の未開発地域で未だに開発を拡大している。泥炭地は炭素を多く含むため燃えやすく、森林火災のリスクが非常に大きくなる。

国際環境NGOグリーンピースによる火災跡のデータ分析によると、APPの子会社、パートナー企業、サプライヤー企業による火災の総面積は25万ヘクタールを超えると推定されている(2015-2018年)。2020年6月28日、シナルマス・グループのパルプ材の子会社(アララ・アバディ社)の植林地で違法行為とつながりのある火災跡も見つかった(冒頭の写真を参照)。

パーム油

グループのパーム油部門のGARはグループの中核企業で、ユニリーバやネスレ、ペプシコといったグローバル食品大手企業にパーム油を供給している。一方で、自社農園での火災の事例も発覚している。2019年8月から9月、西カリマンタンとスマトラ島・ジャンビのアブラヤシ農園で火災が起こったことも衛星画像と分析で明らかになっている。

日本企業にもGARのパーム油は流れている。現地の搾油工場リストを公表している不二製油などの情報によると、GARのパーム油は日本企業に供給されていることは明らかだ。

2019年9月、RANの調査で、インドネシア政府が保護する泥炭地地域の「ラワ・シンキル野生生物保護区」(「ルーセル・エコシステム」内)で違法に生産されたパーム油をGARが調達していることがわかった。保護区内で違法栽培された実が、ある搾油工場に運び込まれ、その搾油工場からGARが調達していたのだ。同保護区内での違法栽培については今年3月に朝日新聞でも報道された

また、京都・舞鶴のパーム油発電事業にGARが事業主体として関わり、パーム油の調達が見込まれていた。しかしGARに代わって事業主体となった太陽光発電企業は同事業から撤退を決め、出資を得ることができず、事業は頓挫している

銀行と消費財企業ができること

シナルマス・グループは、森林火災と煙害だけでなく、土地の権利に関連する紛争、森林破壊ゼロに関しても公約を果たしていない状況が続いてる。様々な違反に対して、政府による効果的な制裁がない中、金融機関と消費財企業は同グループに対して働きかけ、影響力を及ぼす必要がある。

ブリーフィングペーパーでは、以下4点を銀行と消費財企業に提言している。

1)銀行と消費財企業は、シナルマス・グループへの新たな資金提供および取引を停止すること。また透明性を要求し、同グループの企業所有および管理の開示を要求すること

2)銀行と消費財企業は、シナルマス・グループを含むあらゆる顧客企業に、グループ全体で法令および方針の遵守を要求する明確な「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止(NDPE)方針」を採択と実施を要求すること

3)銀行は、シナルマス・グループ、そして同グループのパートナーおよびサプライヤーを含む顧客企業が事業許可地の泥炭地を保護し、復元するように要求すること。

4)銀行と消費財企業は、火災を一切許容しない立場を表明すること。顧客企業やサプライヤーが意図的に森林に火をつけたり、火災の防止を怠たったりした場合、新たな信用枠の提供や取引を停止し、取引関係や調達を段階的に廃止すること。

「シナルマス・グループ:インドネシア森林火災 最大の責任者」
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メディア掲載:【動画】Brut JapanでRANハイネケンが取材を受けました

Brut Japan「メガバンクと気候変動の危険な関係」(2020年10月15日)〜RAN「責任ある金融」シニア・キャンペーナーのハナ・ハイネケンが、森林火災、気候変動とメガバンクの関係について取材を受けました。

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**関連するRANのプレスリリース**

「『森林と金融』グローバルのデータベース発表〜パリ協定後、森林破壊企業に1,500億ドルの資金が流入〜」(2020/9/2)

Photo by Erik McGregor

NGO共同声明:三菱UFJ、石炭火力向けプロジェクトファイナンス残高ゼロ目標 (2020/10/16)

依然パリ協定と整合せず、邦銀の遅れ目立つ

(English follows Japanese)

本日、三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)がサステナビリティレポートを公表し(注1)、「2019年度末時点で3,580百万米ドルの石炭火力発電向けプロジェクトファイナンスの貸出金残高を2030 年度に2019 年度比 50% 削減、2040年度を目途にゼロにする(但し、MUFG 環境・社会ポリシーフレームワークに基づき、脱炭素社会への移行に向けた取り組みに資する案件は除外)」との目標を掲げました。これは、本年4月および7月にそれぞれ同様の目標を掲げた、みずほフィナンシャルグループ(注2)、三井住友フィナンシャルグループに続いての発表であり、邦銀大手3行の足並みが揃った形となります。

 これは一定の前進ではあるものの、気候危機の緊急性を鑑みれば、不十分な目標設定としか言わざるを得ません。早急にさらなる厳格な目標設定と方針改訂が求められます。MUFGも署名している国連責任銀行原則(PRB)では、パリ協定と持続可能な開発目標(SDGs)にビジネス戦略を整合させることが謳われていますが、この度MUFGが掲げた目標は、時間軸の長さ、並びにスコープの狭さの両面で大きな問題があります。また、邦銀の石炭方針は、海外の金融機関と比べても依然低い評価に留まっています(注3)。

 最新の科学によれば、パリ協定の1.5度目標を達成するためには、先進国では2030年までに、途上国であっても2040年までに石炭火力発電所の運転を完全に停止する必要があります。償還期間を過ぎても何十年も石炭火力発電所が稼働し続けることを鑑みれば、与信残高ゼロはより早期に達成される必要があります。また、今回の目標では依然として、新規の融資契約の余地が残されています。新規の石炭火力発電所は、世界中で1基たりとも建設の余地のないことが科学的にも明らかとなっていますが、邦銀によるブンアン2(ベトナム)などの新規融資検討が懸念されています。同事業はパリ協定の目標と整合しないだけでなく、経済合理性の欠如、現地の環境汚染や住民への人権侵害など、様々な問題が指摘されています。新規石炭火力発電事業への融資を例外なく停止する方針を早急に掲げるべきです。

 また、スコープをプロジェクトファイナンスに限定し、コーポレートファイナンスを対象外としていることも問題です。石炭採掘を含む石炭火力のバリューチェーン全体を網羅したコーポレートファイナンス(注4)も対象に含めるべきであり、パリ協定に整合的な時間軸でのフェーズアウト戦略を掲げるべきです。海外では、顧客にパリ協定に整合的な時間軸での移行計画の提出を求めるエンゲージメントを行い、計画が不適格であればダイベストメントするという流れが加速しています。これは一例ですが、エンゲージメントを効果的に行うためにも、まず金融機関がパリ協定に整合的な戦略・目標のロードマップを示す必要があります。注5

 さらに、石炭火力だけでなく、炭素排出量の多い他の化石燃料関連事業や土地利用に関わる(注6)事業および企業に対する資金提供の停止や残高削減の方針も掲げるべきです。

注1) https://www.mufg.jp/dam/csr/report/2020/ja_all.pdf

注2) 4月公表の同グループの方針では、2050年までの目標設定だったが、6月に開催された年次株主総会で2040年を目処に達成できるという趣旨の発言がなされた。

注3) 欧州やアメリカ、シンガポールの銀行と比べても邦銀の石炭方針は低い評価となっている。https://coalpolicytool.org/ 
(参考:https://world.350.org/ja/press-release/200908/

注4) 石炭火力発電への依存度が高い企業・新規発電所および関連インフラ建設を計画中の企業向けの融資、株式や債券の引受・投資など。

注5) パリ協定と整合的な目標設定とロードマップを示そうとしている例として、仏BNPパリバの取り組みが挙げられる。https://350jp.org/tcfd/

注6) IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の2019年「土地関係特別報告書」(https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/kankyo/190809.html)では、農業、林業、その他土地利用による排出量が、人間活動による排出量の約23%を占めており、このうち、熱帯林減少による排出量が最も問題であるとされた。http://japan.ran.org/?p=1517

国際環境NGO 350.org Japan
気候ネットワーク
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
国際環境NGO FoE Japan
メコン・ウォッチ
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
国際環境NGOグリーンピース・ジャパン

<本件に関するお問い合わせ>
国際環境NGO 350.org Japan 渡辺瑛莉 japan@350.org

‘Inadequately aligned with Paris Agreement, Mitsubishi UFJ Financial Group lags far behind its international peers’

No Coal Japan coalition responds to banking giant’s new climate goals

Joint Press Statement
October 16, 2020

350.org
Kiko Network
Japan Center for a Sustainable Environment and Society (JACSES)
Friends of the Earth Japan
Mekong Watch
Rainforest Action Network
Greenpeace Japan

Japan — Today, Mitsubishi UFJ Financial Group (MUFG), the largest banking institution in Japan, released its Sustainability Report (Japanese version only), stating its goal of erasing US$3.58 billion loan balances for coal-fired power projects by 2040. This announcement follows those of its Japanese peers, Mizuho Financial Group and Sumitomo Mitsui Financial Group, which set the same goal in April (1) and July this year respectively.

In response to the announcement, the No Coal Japan coalition, formed by several civil society groups, including 350.org, Kiko Network, JACSES, FoE Japan, Mekong Watch, Rainforest Action Network and Greenpeace Japan, said:

“While this is a step forward for MUFG, this goal is inadequate given the urgency of the climate crisis, and the impact of coal-fired power plants and other fossil fuels on health amidst the COVID-19 pandemic. There is an urgent need for stricter goal setting and fundamental policy revisions in Japan’s financial sector.

The standard of Japanese banks’ coal policies including MUFG remains low as compared to overseas financial institutions. MUFG is also one of the signatories of the UN Principles for Responsible Banking (PRB), which stipulates that the signatory banks should align their business strategies with the Paris Agreement and the Sustainable Development Goals (SDGs).

The goal set by MUFG is problematic in both a lengthy timeline and narrow scope. According to the best available science, coal-fired power plants need to be completely shut down by 2030 in developed countries and by 2040 in the rest of the world to limit the warming of the Earth to1.5 degrees, aligning with the Paris Agreement. Given that coal-fired power plants will continue to operate for decades beyond the redemption period, a zero-loan balance needs to be achieved much sooner.

In addition, the goal still leaves room for financing new coal fired power projects. It is scientifically clear that there is no room for the construction of any new coal-fired power plant in the world. However, there are concerns that Japanese banks are considering new loans such as the coal-fired power station Vung Ang 2 in Vietnam.

“Not only is the project inconsistent with the goal of the Paris Agreement, it lacks economic profitability, and will pollute the local environment and violate the basic human rights of the local communities. To align with Paris goals, MUFG should urgently put in place a policy to suspend financing for all the new coal-fired power projects without exception.

The scope of the goal set by MUFG is limited to project financing and not applied to corporate financing. Corporate financing (2), which covers the entire value chain of coal-fired power including coal mining, should be included along with a phase-out strategy with a timeline consistent with the Paris Agreement. Internationally, there is an accelerating trend where banks ask their customers to submit a transition plan on a timeline consistent with the Paris Agreement, and divest from clients with inadequate transition plans. To effectively facilitate this process, financial institutions must first set a roadmap of strategies and goals that are consistent with the Paris Agreement.

Furthermore, in addition to coal-fired power, policies to stop funding other high carbon emitting sectors such as other fossil fuel sectors and land-use-related sectors (3), and targets to phase-out from those sectors should be put forward.

Notes to editors:

(1) In April, Mizuho Financial Group announced its goal of erasing its outstanding credit balance for coal-fired power projects by 2050. However, during its Annual Shareholders’ Meeting in June 2020, the group commented that this goal could be achieved by 2040.

(2) Loans, underwritings, equity and bond investments for companies heavily reliant on coal mining/coal-fired power and companies who have expansion plans for new coal mining/coal-fired power plants and related infrastructures.

(3) According to the IPCC Special Report on Climate Change and Land (2019), emissions from agriculture, forestry and other forms of land use make up 23% of total emissions from human activities, with deforestation in tropical regions being singled out as the biggest carbon emitter from the land-use.

Contacts:
Asia Pacific: Nicole Han, +65 9828 1538, nicole.han@350.org
Global: Nathalia Clark, +55 61 991371229, nathalia@350.org