サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

声明:RSPOに要求事項の強化を要請〜基準弱体化で信頼性を損なうリスク〜(2023/11/21)

RSPO基準はEUの新規制「森林破壊禁止法」(EUDR)に適合せず

(インドネシア・ジャカルタ)米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、20周年を記念してジャカルタで開催中の「持続可能なパーム油のための円卓会議」(RSPO)を受けて、以下の声明を発表しました。

RANはRSPOの開催に合わせて、新報告書「森林&人権方針ランキング2023」を発表しました(日本での発表は17日)。同報告書は、パーム油生産が熱帯林及び炭素を豊富に含む泥炭地、先住民族コミュニティや伝統的コミュニティの権利に与える悪影響に対して、影響力のあるRSPO会員企業が対処できていないことを示しています。同報告書は大手消費財企業(その供給業者も含め)の森林と人権関連の方針と取り組みを詳細に評価するものです。同時に消費者に向けて、RSPOの現在の基準やシステムは欧州連合(EU)の新規制「森林破壊防止法」(EUDR)の要件を満たすには不十分であると警鐘を鳴らしています。透明性が高く、追跡可能で責任あるパーム油のサプライチェーンの実現のためには、各種システムを強化しなければならないことも述べています。

RAN森林政策ディレクター、ジェマ・ティラック

「今、パーム油業界にとっては極めて重要な時です。パーム油業界は数十年にわたって森林破壊と人権侵害の汚名を返上しようと試みてきました。それにもかかわらず、インドネシアの「ラワ・シンキル野生生物保護区」では、炭素を豊富に含む泥炭湿地林で水路が造成されて水が抜かれ、森林破壊の増加が今も確認されています。同保護区はスマトラオランウータンの生息密度が世界で最も高く「世界のオランウータンの首都」と呼ばれています。​​RSPO会員企業によるモニタリングが行われているにもかかわらず、この保護区が破壊されているのです。

RANは、森林が破壊された土地で違法に生産されたパーム油を調達しているRSPO会員企業を摘発しました。森林を破壊して生産されたパーム油は、プロクター&ギャンブル(P&G)、モンデリーズ、コルゲート・パーモリーブ、ネスレといった大手消費財企業のグローバルサプライチェーンと製品に混入し続けています。

こういった森林破壊は、パーム油セクターで当たり前のようになっている、有効性が低いトレーサビリティ(追跡可能性)システムのために起きています。深刻な欠陥のある(非認証油も混合される)RSPOのマスバランス・サプライチェーン・システムへの依存は非常に大きな問題です。

RANは、RSPOが中核的な認証基準の改訂プロセスを進めるなかで、基準をさらに弱めるのではないかと懸念しています。RSPOは基準を改訂する代わりに、すでに明らかになっている重大な抜け穴を防ぐことに取り組むべきです。RSPOは保証システムと苦情処理システムの問題に対処しなければなりません。

RSPOは、意義のある認証システムであり続けるために、責任あるパーム油生産の世界的基準である「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」( NDPE)の実践に整合する基準を維持し、実施する必要があります。RSPO基準は、土地権の侵害を可能にするために弱めてはなりません。また、森林被覆率の高い国の原生林景観や管轄認証プログラム内での森林破壊を可能にしたり、インドネシア全土の企業管理地外で小規模森林破壊を起こしている土地投資家、地元有力者が生産する問題あるパーム油をRSPO認証市場に参入を可能にするために、基準を弱めてはなりません。

市民団体は、RSPOで救済されていない多くの問題事例に関心が集まるよう呼びかけています。インドネシアの中部カリマンタン州スルヤン県Bangkal村で最近発生したコミュニティメンバーの殺害事件を受けて、自分たちの土地と生計を守るために行動を起こしている人権擁護者への暴力や脅迫、犯罪者としての不当告発に関して、RSPOは「ゼロトレランス」(不容認)アプローチを採用しなければなりません。

RSPOは、人権を尊重しない会員企業や、既存または新規のアブラヤシ農園開発によって影響を受ける先住民族コミュニティから「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC)を得ていることを証明できない会員企業に認証を与えてはなりません。

土地収奪に関与している企業のグリーンウォッシュと、苦情や土地紛争解決についてのRSPOの失敗は20年続いてきました。RSPO認証システムにおける公正性の欠如は容認できるものではありません」

 

※NDPE基準は、2013年にパーム油革新グループ(POIG)が策定した憲章から発展したものです。多くのRSPO会員企業やコンシューマー・グッス・フ ォーラム(CGF)の自主的な方針で採用されたことを受け、2018年に行われた前回の見直しの際にRSPO基準に統合されました。

 

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
コミュニケーション:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

プレスリリース:新報告書「森林&人権方針ランキング2023」発表〜ユニリーバがトップ、P&G最下位、日清食品は改善するも取り組み遅れ〜 (2023/11/17)

大手消費財企業、森林破壊と人権侵害防止を公約するも阻止できず〜グローバル消費財企業10社の森林及び人権方針を評価〜

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日17日、新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング2023」(注1)を発表しました。

                 

本報告書は、熱帯林地域で森林破壊と人権侵害のリスクが高い産品に関与している大手消費財企業10社を対象に(注2)、各社の方針と実施計画を森林と人権の二分野で評価・分析するものです。サプライチェーンでの森林破壊と人権侵害を阻止するための取り組みを詳細な基準で比較評価した結果、ユニリーバが「C」評価で最も高く、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)が最下位でした。日本からは花王が「D」、日清食品ホールディングスは5段階で最低ランクの「不可」でした。報告書は、10社全社がこの重要な問題への取り組みについて「A」評価を得るには程遠く、欧州連合の森林破壊防止法(EUDR)のような新規制の要件を満たす目処も立っていないと結論づけました。これは銀行や投資家を重大なリスクにさらすことになります。

本ランキングは、大手グローバル消費財企業10社を対象に、サプライチェーン(供給網)における森林破壊と権利侵害を阻止するための取り組みについて比較評価するものです。各社の企業方針について森林と人権分野の12項目を24点満点で評価しています。合計得点に合わせてA(21〜24点)、B(17〜20点)、C(12〜16点)、D(6〜11点)、不可(0〜5点)で評価しました。本報告書は、パーム油、紙パルプ、大豆、牛肉、カカオ、木材製品など、森林を破壊するリスクのある産品(森林リスク産品)のセクターにおける傾向と動向を分析し、2020年から毎年発表しています。10社のランキングの詳細は以下の通りです。

*Y=ありor全て(2点)、P=一部(1点)、N=なし(0点)

【森林&人権方針ランキング2023】概要

■調査期間:2023年8月~11月

■調査対象者:大手消費財企業(10社):日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース

■調査方法:各社の環境及び人権に関する方針を調査・分析(ウェブサイトなどで公開されている最新版)、各社へのヒアリング

■主な森林・人権方針の評価項目(全12項目、各2点)

*2点:方針あり/ 全体に採用、1点:一部に採用、0点:方針・計画なし

  • 「森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE)方針・適用範囲:パーム油や紙パルプなど森林リスク産品事業の生産・投融資に欠かせない国際基準(注3)。特に、個別産品だけではなく森林リスク産品全般への適用、供給業者の企業グループ全体への適用を重視。
  • 「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)原則」の実施:先住民族および地域コミュニティの権利尊重(注4)
  • 人権擁護者への暴力や脅迫への「ゼロトレランス」(不容認)方針の有無(注5)
  • サプライチェーンの透明性:EUDR要件(注6)である、原料生産地までのフルトレーサビリティ達成の取り組みも含む(2023年版から追加)
  • 森林フットプリントの開示(注7)、など

■全体の評価・傾向

  • 取り組みが最も遅れていると評価された「不可企業」は日清食品、フェレロ、モンデリーズ、P&Gでした。P&Gは森林リスク産品セクターの横断的方針を公表した際に森林保護の要件を弱体化し、実質的に後退しました。
  • 中位グループではネスレ、ペプシコ、花王、コルゲート・パーモリーブに若干の進歩が見られましたが、マースはほぼ停滞しました。
  • ネスレ、マース、フェレロは自社サプライチェーンが「100%森林破壊フリー」(森林破壊のない)であると宣言していますが、第三者による独立検証された証拠を開示していなく、注意が必要です。
  • 「サプライチェーンの透明性」項目で得点を獲得した企業はありませんでした。これは大手消費財企業とその供給業社がEUDRの要件である「森林破壊のない製品であること」を確認する目処が立っていないことを示唆しています。

■日本企業の評価

  • 総合点は日清食品が不可(5点)で、花王はD(8点)でした。
  • 両社とも「NDPE方針」を既に採用し、2点の評価を得ています。
  • 「NDPE適用の範囲」については、花王は森林リスク産品全般の供給業者とその企業グループ全体も適用対象としていることが確認できたため、評価を2点に上げました。一方、日清食品グループ調達方針の環境分野にNDPE支持を記載していますが、NDPE主要項目が明記されているのはパーム油事業のみで森林リスク産品全般ではありません。また、供給業者にNDPEの採用を義務化していなく、供給業者の企業グループ全体も適用範囲に含んでいないことから、昨年と同じく得点はありませんでした。
  • 「森林フットプリントの開示」については、日清食品花王も実施を表明したことで1点を得ていますが、まだ開示はされていません。
  • 「強固なモニタリングとデューデリジェンス」で、花王は森林破壊リスクの高い地域と供給業者事業のモニタリング方法を開示して評価を改善し、1点を獲得しました。
  • 「問題企業の責任追及」では、日清食品は6月に「苦情処理リスト」を公開し、違法パーム油生産農園との取引停止を公表して1点を得ました。花王は小規模農家生産者を対象とした苦情処理メカニズムはありますが、大規模農園・植林企業などを対象としたリストはなく得点はありませんでした。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表の川上豊幸は「花王は方針強化を続け、10社中、中位グループの『D』評価を得ました。花王が直接調達していない産品であっても、供給業者とそのグループ企業全体が調達している全ての森林リスク産品を適用範囲として、NDPE方針の採用を義務付けるという点で評価を得ました。また、リスクの高い地域での森林破壊のモニタリング手法を開示したことで、花王の対応状況を確認することができるようになりました」と述べました。

続けて「一方、日清食品は3年連続で『不可』評価でした。苦情処理リストを公開したのは一歩前進です。しかし、NDPE方針が森林リスク産品全般に適用されず、パーム油に限定されたままです。またNDPE方針の採用を供給業者に義務化していません。そして持続可能なパーム油のみを2030年までに調達すると約束していますが、EUの新規制である森林破壊防止法(EUDR)は2024年末から施行され、域内で販売される製品には森林破壊のないことを確認した文書が要求されます。日清食品の目標は国際的に見劣りします」と指摘しました。

「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」キャンペーンは2020年4月の開始以来、評価分析を毎年実施し、今年で4回目の発表となります。地域のコミュニティやNGOとともにキャンペーンを展開し、消費者とともに消費財企業と銀行に働きかけてきました。現在、評価対象企業10社をはじめとする消費財企業や金融機関、パーム油大手の大半がNDPE方針を採用しています(注8)。しかし、消費財企業がNDPE方針を採用する多くの場合、原材料に使用する全ての森林リスク産品には適用されず、調達先など取引先の企業グループ全体にも適用されていません。つまり、パーム油など個別の産品でNDPE方針を策定しても、他の産品生産や企業グループ他社で森林破壊や搾取を起こしていれば、森林破壊や人権侵害への関与を禁止したことにはならず、大きな抜け穴が残ります。

多くの消費財企業は、原材料を供給するコングロマリット(複合企業)の一部門が方針に違反していることを知りながら、同じ親会社の別の部門と取引をしています。今回の方針評価を参考に、各消費財企業が森林破壊や人権侵害を助長しない努力をどの程度進めているか、消費者や金融機関、投資家は知ることができます。RANはさらなる森林破壊と人権侵害を防ぐために、大手複合企業のアグリビジネス企業と林業企業に対して大きな影響力をもつ消費財企業に、実質的な行動を早急に取るよう要求を続けます。

 

別紙「森林&人権方針ランキング2023」説明資料

RAN「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング」は、世界の大手消費財企業が自社の事業活動から森林破壊や人権侵害を排除するために行っている取り組みについて評価するとともに、進捗状況の概要を報告しています。市民社会は大手多国籍消費財企業に働きかけ、自社のサプライチェーンを変革するという約束を取り付けてきました。しかし実際には、森林破壊と、最前線で土地を守る人々への暴力は世界的に増加傾向にあり、消費財企業は依然として森林破壊や権利侵害から利益を得ています。

こうした憂慮すべき傾向は、大手消費財企業が公に掲げる美辞麗句と、破壊的な影響との隔たりをいまだに埋められていないことを示しています。消費財企業の不十分な方策の結果、供給業者に実質的に従来通りのビジネスの継続を許し、それによって破壊的な影響が引き起こされています。従来通りのビジネス慣行は、世界で最後に残された原生林景観や、長きにわたって森林と生物多様性を守り、管理してきた先住民族の領域へと企業が進出する結果を生んでいます。

日本企業各社の点数と評価概要、改善点(24点満点、昨年版は20点満点)

  • 日清食品(不可:5点、昨年:20点満点で4点): P&G、モンデリーズ、フェレロと並び、今年も「不可」評価だった。9月にグループの調達方針を改定し、それまではグループ全体の調達方針の前文にNDPEを支持と記載していたが、「地球・環境」セクションにもNDPEを支持と明記した。また同「人権の尊重」セクションにはFPICの支持も明記した。しかしこの改定ではNDPEの「支持」にとどまり、全ての供給業者への要求事項としていなく、進歩の機会を逸した。一方、6月に「苦情処理リスト」を初めて開示し、RANの指摘に対処する形で、環境・社会面で問題視されてきたパーム油企業との取引停止などの対応状況を公表した。日本事業向けの農園までのパーム油供給業者リストの開示について改善したと言える。持続可能なパーム油100%調達を2030年までに達成するという目標は大幅な前倒しが必要。
  • 花王(D:8点、昨年:20点満点で6点):継続して調達方針を改定して「自然生態系の転換や劣化の禁止」を追加し、NDPE方針が全ての森林リスク産品に関して「企業グループ」全体に適用されることを明確にしている。「企業グループ(Corporate group)」の定義は、アカウンタビリティ・フレ ームワーク・イニシアチブ(AFi)が定めた、信頼できる「企業グループ」の定義に基づいている。重視される点は、森林リスク産品の全てのサプライチェーンにおいて、取引先の企業グループ全体に対してNDPE方針が適用され、実施されることを確保することである。花王はまた、供給業者の事業における森林破壊リスクを特定するために使用しているモニタリング手法の概要も開示した。花王は小規模農家の生産者を対象とした苦情処理メカニズム/リストを持っているが、大規模農園・植林企業、加工工場、直接供給業者を対象としたリストはない。

概要:方針と実施計画の分析

今回の調査結果では、消費財企業10社全てが、業界標準の枠組みであるNDPE方針に名目上は取り組んでいるものの、多くの場合、原材料に使用する全ての森林リスク産品には適用していないことも示しています(表)。また、全ての森林リスク産品サプライチェーンにおいて森林破壊、自然生態系の転換、人権侵害を撲滅する期限を設定している企業は一社もありませんでした。本報告書は、各社が自社サプライチェーンの浄化を何年も前から約束しているにもかかわらず、実際には供給業社に従来通りのやり方(ビジネス・アズ・ユージュアル)の継続を許し、その結果、世界で最後に残された原生林景観や先住民族の領域へ企業が進出していることを明らかにしています。

NDPE方針

本報告書では、消費財企業が原材料調達を通じて森林と人々に与えている影響全体に真に対処するためには以下の3点の両方が必要だと強調しています。

  • 産品横断的アプローチ:各種森林リスク産品全てに森林・人権方針を適用すること
  • 企業グループ横断的アプローチ:取引先企業が属する・関連する企業グループ全体が森林・人権方針を遵守することを取引の要件とすること
  • 方針の完全実施と遵守の独立検証を達成する野心的な期限付き目標を設定すること

多くの消費財企業は、コングロマリット(複合企業)の一部門が方針に違反していることを知りながらも、同じ親会社の別の部門と取引をしています。この「ずれ」は、大手グローバル消費財企業に製品原料を供給する複合企業が、シャドーカンパニー(陰の企業)や記録に残らない事業を多用して改革を行ったように見せかけながら、従来通りのビジネス手法で事業を行い、責任逃れに成功していることが主な原因です。

表「消費財企業各社の調達する森林リスク産品と、実際のNDPE方針適用範囲の比較」(報告書より)

EUDRについて

欧州連合(EU)で「森林破壊フリー製品に関する規則」(EUDR:通称「森林破壊防止法」)が可決され、その施行日は間近(2024年12月末)に迫っています。これは、森林リスク産品の世界における大きな進展であり、本ランキングで対象とした消費財企業全社に大きな影響を与えることになります。EUDRは森林破壊防止のためのデューディリジェンスを義務化するもので、EUに畜牛、カカオ、大豆、パーム油、コーヒー、ゴム、木材製品を輸入する全ての企業に対して、販売する製品に使用されている産品を厳密な生産地まで遡って追跡することを義務付けるものです。しかし今回の調査結果では、「サプライチェーンの透明性」項目(森林リスク産品のサプライチェー ンにおける直接・間接供給業者を公開し、調達する全原材料の完全なトレーサビリティ達成に向けた取り組みを進めること)で得点を獲得した企業はなく、大手グローバル消費財企業とその供給業社がこの新規制の要件を満たせないであろうことを示唆しています。

景観保護イニシアティブへの投資

希望を持てる動きとして、多くの企業が景観保全関連の取り組みへの投資を増やしていることが挙げられます。取り組みには数千の小規模農家が参加したり、森林の保護や回復に関わるものもあります。ユニリーバとペプシコはその分野の先行企業で、インドネシアのアチェ州と北スマトラ州の政府とともに「管轄アプローチ」を初期段階から開発しています。両州には、世界的に重要な熱帯低地林である「ルーセル・エコシステム」があります。しかし本報告書では、このような保護プログラムは有望ではあるものの、変化の規模は十分な速度で起きておらず、世界的に重要なインドネシアの熱帯林「ルーセル・エコシステム」で森林破壊が今も続いていると警告しています(注9)。

 

注1)新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング2023」

方法論

「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」は、RANが2020年4月から展開しているキャンペーンです。熱帯林破壊と人権侵害を助長している最も影響力のある上記の消費財企業・銀行に実際の行動を起こすよう要求しています:www.ran.org/kfs-scorecard-jp/

注2)消費財企業(10社):日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース

*10社全社が全容を報告している唯一の産品であるパーム油を例にとると、10社合計で約230万トンのパーム油と、約140万トンのパーム核油およびその派生物を購入している(2022年)。パーム油世界市場の約3%、パーム核油世界市場の約17%に相当する(報告書より)。

注3)NDPEはNo Deforestation、No Peat、No Exploitationの略。森林減少や劣化に対しての保護(炭素貯留力の高い<High Carbon Stock:HSC>森林の保護、保護価値の高い<HCV: High Conservation Value>地域の保護)、泥炭地の保護(深さを問わず)、人権尊重、火入れの禁止といった要素を含む方針を公表している企業は「あり」の評価を得る。

*参考:「『森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止』(NDPE)方針とは?」ブリーフィングペーパー

注4)「FPIC」(エフピック)とは Free, Prior and Informed Consentの略。先住民族と地域コミュニティが所有・利用してきた慣習地に影響を与える開発に対して、事前に十分な情報を得た上で、自由意志によって同意する、または拒否する権利のことをいう。

注5)「ゼロトレランス・イニシアティブ」ウェブサイト

注6)EUの「森林破壊フリー製品に関する規則」(EUDR:通称「森林破壊防止法」):EU域内で販売される製品は生産地までのトレーサビリティの確認と、森林破壊等との関連有無を確認する「デューデリジェンス」の公表が義務化される。森林破壊と人権侵害の有無のリスク評価や確認も含め、グローバル企業は同法への対応が迫られる。

注7)「森林フットプリント」とは、森林を犠牲にして生産される「森林リスク産品」の消費財企業の利用や、銀行による資金提供によって影響を与えた森林と泥炭地の総面積をいう(影響を与える可能性がある面積も含む)。消費財企業と銀行の森林フットプリントには、供給業者や投融資先企業が取引期間中に関与した森林および泥炭地の破壊地域、さらに供給業者や投融資先企業全ての森林リスク産品のグローバルサプライチェーンと原料調達地でリスクが残る地域も含まれる。森林および泥炭地が先住民族や地域コミュニティに管理されてきた土地にある場合は、その先住民族と地域コミュニティの権利への影響も含む。

注8)チェーン・リアクション・リサーチ、 “NDPE Policies Cover 83% of Palm Oil Refineries; Implementation at 78%.” (仮訳:NDPE方針、パーム油精製工場の83%をカバーするも実施率は78%)、2020年4月28日

注9)RANブログ「インドネシア違法パーム油『炭素爆弾スキャンダル』続報〜『ルーセル・エコシステム』の野生生物保護区で森林破壊の新証拠〜」、2023年11月7日(英語版9月18日発表)

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
コミュニケーション:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

プレスリリース:森林&人権方針ランキング2021発表〜日清食品、花王、三菱UFJは低評価 〜 (2021/4/27)

各社、取り組み遅れ〜森林破壊と人権侵害をもたらす消費財企業・銀行17社の実施方針を比較〜

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日27日、新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング2021」(注1)を発表しました。熱帯林破壊と人権侵害を助長している最も影響力のある消費財企業と銀行の17社を対象に(注2)、各社の方針と実施計画を森林と人権の二分野で評価した結果、自社サプライチェーンおよび投融資で森林破壊と人権侵害を止めるために適切な措置を講じている企業と銀行は一社もないと結論づけました。人権侵害には土地収奪や地域住民および先住民族への暴力なども含まれます。

本ランキングは、日本企業の日清食品ホールディングス、花王、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)を含むグローバル消費財企業と銀行の17社を対象に、森林と人権分野の10項目を20点満点で評価しています。得点に合わせてA(18〜20点)、B(15〜17点)、C(12〜14点)、D(5〜11点)、不可(0〜4点)で評価しました。最も高評価だったのはユニリーバですがCランクにとどまり、日本企業はいずれも最低ランクの「不可」でした。

主な森林・人権方針の評価項目(全10項目、各2点)

「森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE)採用:パーム油や紙パルプなど森林破壊を引き起こす産品事業の生産・投融資に欠かせない国際基準(注3)

「森林フットプリント」開示:サプライチェーンや投融資先の事業が影響を与える森林の総面積(注4)

「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)原則」の実施:先住民族および地域コミュニティの権利尊重(注5)

暴力や脅迫への「ゼロトレランス」(不容認)方針の有無

NDPE方針遵守の証明・独立検証、など

日本企業は3社とも方針にNDPEを限定的ながら採用するも、森林フットプリント開示、FPIC原則の実施、ゼロトレランス方針の有無、NDPE方針遵守の証明では得点がなく、総合点は2〜4点という低評価となりました。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表の川上豊幸は「日清食品、花王、三菱UFJはいずれも低評価だったのは残念です。3社ともベストプラクティスである『森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止』(NDPE)を方針に採用したことは評価できます。しかし同時に、自社のサプライチェーンや投融資先で起きている人権侵害を止めるための方針策定が急務です。さらにNDPE方針の適用セクターの拡大や遵守のための独立検証、森林フットプリントに代表される情報開示といった、具体的な取り組みを進める必要があります」と訴えました。

日本企業各社の点数と評価概要、改善点

日清食品(2点):グループ全体の調達方針に「NDPEを支持する」と記載しているが、消費財企業10社で最も低評価だった。改善のためには、グループ調達方針に供給業者が遵守すべきNDPE項目を明記し、供給業者にNDPE採用を義務付ける必要がある。またパーム油の搾油工場リストといった供給業者の情報開示を通して、生産地の現状把握と問題対応のための体制強化を行う必要がある。持続可能なパーム油100%調達を2030年までに達成するという目標も大幅な前倒しが必要。

花王(3点):原材料調達ガイドラインで森林破壊ゼロを支持し、人権方針で人権尊重を支持している。供給業者や合弁企業側のグループ全体でのNDPE遵守を要請はしているが、NDPE方針採用の義務化が必要。2021年の活動方針に「人権擁護者への暴力や不当告発、脅迫などを容認しない」とあるが、企業方針となっていないので国際基準のゼロトレランス・イニシアティブ(注6)に沿った企業方針としての公表が必要。そしてインドネシアでの森林フットプリントを作成し公表する迅速な動きが求められる。

MUFG(4点)環境・社会方針を4月26日に改定し、投融資先に「NDPE遵守の公表」の要求を追加したがパーム油の農園企業に限定され、パーム油購入企業や、紙パルプや大豆など他の森林リスク産品セクターには適用されなかった。MUFGはパーム油セクターへの融資・引受額が東南アジア以外の地域に本社を置く銀行では最大で、紙パルプ産業にも多額の融資を提供している。今後、NDPE方針の適用拡大と、投融資先にNDPE方針遵守のための独立検証を求めていくことが課題になる。

17社の消費財企業・銀行の持つ影響力

評価対象となった企業や銀行の多くは、「森林破壊禁止」と先住民族の権利および人権尊重の達成のために、国連「持続可能な開発目標」(SDGs 15.2:2020年までに森林減少阻止)への賛同をはじめ様々なコミットメントを表明して自社方針を策定してきました。しかし、インドネシアの熱帯林と世界中の熱帯林はパーム油や紙パルプ、牛肉、大豆、カカオ、木材製品といった産品のために伐採されて火を入れられ、さら地にされています。

川上は「評価対象となった消費財企業と銀行は熱帯林破壊や土地収奪、人権擁護活動家の殺害といった問題に対して大きな影響力を持っています。なぜならば、インドネシアで大規模な森林破壊や人権侵害を行っている林業やアグリビジネス企業は、グローバル消費財企業との取引に支えられ、大手銀行からは多額の資金が流れているためです。今回の評価と分析からは、人権侵害や森林破壊を止めるための方針策定と、具体的な取り組みを十分に実践している企業がないことが明らかになりました」と指摘しました。

今回の評価では、以下の通り、方針の実施を改善するために必要な手順も示しています:

●第一段階として、自社のサプライチェーンや投融資から森林破壊と人権侵害を停止するための方針を採用すること

●自社事業が森林と先住民族・地域コミュニティの権利に与える影響の全容を公表すること

●暴力的行為を未然に防ぎ、先住民族・地域コミュニティの権利が十分に尊重されることを保証していること

●供給業者や投融資先企業の自社方針遵守を証明すること

森林、特に熱帯林は温室効果ガスを吸収して貯留し、地球全体の降雨量を維持しています。インドネシアの森林は地球で3番目に大きな熱帯林で、地球全体の気候と生物多様性の危機に対処する上で重要な役割をもちます。インドネシアの先住民族と地域コミュニティは森林減少を効果的に防いできた守り手であり、何世代にもわたって森林を上手に管理してきました。そして今、自分たちの同意なしに土地や森林を搾取しようとする様々な企業に抵抗しています。

さらなる森林破壊と人権侵害を防ぐために、森林破壊と人権侵害を行う大手アグリビジネス企業と林業企業に対して大きな影響力をもつ消費財企業と銀行は、実質的な行動を早急に取ることが要求されます。

注1)新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング2021〜森林破壊と人権侵害をもたらす企業と銀行の実施方針を評価〜」(日本語版)

方法論等の詳細は英語版を参照ください:「 Keep Forests Standing: Evaluating Brands and Banks Driving Deforestation and Human Rights Abuses」

注2)消費財企業(10社):日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース
銀行(7社):MUFG、JPモルガン・チェース、中国工商銀行(ICBC)、DBS、バンクネガラインドネシア(BNI)、CIMB、ABNアムロ

「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」は、RANが2020年4月から展開しているキャンペーンです。熱帯林破壊と人権侵害を助長している最も影響力のある上記の消費財企業・銀行17社に実際の行動を起こすよう要求しています。注3)〜注5)の参考資料としてもご参照ください。

注3)NDPEはNo Deforestation、No Peat、No Exploitationの略。森林減少や劣化に対しての保護(炭素貯留力の高い(High Carbon Stock:HSC)森林の保護、保護価値の高い(HCV: High Conservation Value)地域の保護)、泥炭地の保護(深さを問わず)、人権尊重、火入れの禁止といった要素を含む方針を公表している企業は「あり」の評価を得る。

注4)「森林フットプリント」とは、森林を犠牲にして生産される「森林リスク産品」の消費財企業の利用や、銀行による資金提供によって影響を与えた森林と泥炭地の総面積をいう(影響を与える可能性がある面積も含む)。消費財企業と銀行の森林フットプリントには、供給業者や投融資先企業が取引期間中に関与した森林および泥炭地の破壊地域、さらに供給業者や投融資先企業全ての森林リスク産品のグローバルサプライチェーンと原料調達地でリスクが残る地域も含まれる。森林および泥炭地が先住民族や地域コミュニティに管理されてきた土地にある場合は、その先住民族と地域コミュニティの権利への影響も含む。

注5)「FPIC」(エフピック)とは Free, Prior and Informed Consentの略。先住民族と地域コミュニティが所有・利用してきた慣習地に影響を与える開発に対して、事前に十分な情報を得た上で、自由意志によって同意する、または拒否する権利のことをいう。

注6)「ゼロトレランス・イニシアティブ」ウェブサイト

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

プレスリリース:新報告書「FPIC実施原則の必要性」発表(2020/12/22)

インドネシアのアグリビジネス大手、先住民族の権利尊重に不備
〜パーム油、紙パルプ等企業グループ10社の方針と取り組みを評価・分析〜

サンフランシスコーー米環境NGO レインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、9日(現地時間)、新報告書『FPIC実施原則の必要性』(注1)を発表し、パーム油、紙パルプ、木材といった森林をリスクにさらす産品に従事するインドネシア大手企業グループ10社が農業開発の過程で先住民族と地域コミュニティの権利尊重を確保するための適切な方針と標準作業手順書をもっていないと批判しました。

【報告書の概要】

本報告書は、公開されている各社の方針と標準作業手順書(SOP)を、「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC)履行のためのガイドラインと比較して評価し、実施状況を分析したものです。FPICとは、先住民族と地域コミュニティが所有・利用してきた慣習地に影響を与える開発に対して、自由意志による、事前の、十分な情報を得た上で同意する、または同意しない権利のことをいいます(注2)。

評価対象となったのは以下の林業会社、アグリビジネス企業グループ10社です。インドネシアのパーム油、紙パルプ産業は下記10社を含め、少数の複合企業グループに支配されています(注3)。

 ●ベスト・インダストリー・グループ
 ●ゲンティン・グループ
 ●ジャーディン・マセソン・グループ
 ●コリンド・グループ
 ●ラジャワリ・コーポラ
 ●ロイヤル・ゴールデン・イーグル
 ●サリム・グループ
 ●シナルマス・グループ
 ●トリプトラ・グループ
 ●ウィルマー・インターナショ ナル

【評価・分析結果】

FPIC実施のためには、具体的な手続きや実施事項が明記された標準作業手順書が必要になります。今回の分析で明らかになったのは、影響を受けるコミュニティが所有・使用している土地で計画中の開発や既存の開発(アブラヤシ農園やパルプ材植林地開発、林業事業)に対して、FPICの権利が尊重されることを証明するために、公表された方針と標準作業手順書が適切であった企業グループは一社もないという点です。多くの企業グループはFPIC実施の約束をしていますが、実態が伴わず、以下のような不備が確認されました。

 ●企業グループとしてFPICに関する方針がない
 ●企業グループとしての方針はあるが、標準作業手順書がない、
 もしくは標準作業手順書が公開されていない
 ●標準作業手順書は公表されていても、不十分な内容である

レインフォレスト・アクション・ネットワーク森林政策ディレクター ジェマ・ティラックは「インドネシアが、森林破壊、先住民族コミュニティへの攻撃、気候変動といった相互に関係する世界的危機に寄与していることは見逃せません。今回の評価対象となった林業会社とアグリビジネス企業は、自社事業とサプライチェーンでFPICの権利を実施できなかったため、様々な形で危機を加速させています。多くの企業グループは、森林破壊と先住民族の権利侵害を自社のビジネス慣行から排除することを約束しています。しかし10社の企業グループ全てがその約束を果たせていなく、農園・植林地を拡大する場合に、先住民族や地域コミュニティの権利を尊重した上で土地取得する方法を開示することすらできていません」と指摘しました。

インドネシアの500万ヘクタールを超える土地は、上記の林業会社、アグリビジネス大手企業の管理下にあります。その中にはインドネシア政府から企業に割り当てられた地域内で、「未開発地(開発可能な)」と区分されたり、保全地域として開発対象から除外されて残っている森林や泥炭地が含まれます。こういった土地には先住民族や地域住民が暮らしている場所もあります。上記企業グループ10社の事業地を合計すると、膨大な「森林フットプリント」(事業が影響を及ぼす、またはその可能性のある森林や泥炭地)(注4)となり、インドネシアの先住民族や地域コミュニティに多大な影響を与えます。

また、本報告書では上記10社の企業グループと取引を行っている多国籍消費財企業と銀行に対して、企業グループがFPIC取得手続きにおける法律、規制、ガイドラインへの全面的な適合性を証明するために、自社の供給先企業や融資先企業に踏み込んだ実践を要請するように呼びかけています。消費財企業にはコルゲート・パーモリーブ、フェレロ、花王、マース、モンデリーズ、ネスレ、日清食品、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、銀行には三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)、バンクネガラインドネシア(BNI)、CIMB、中国工商銀行(ICBC)、DBS、ABNアムロ、JPモルガンチェースが含まれます。

銀行と消費財企業の持続可能性に関する主張は、信頼できる独立した検証メカニズムを利用して、影響を受ける先住民族と地域コミュニティの権利が尊重されていることを実証できなければなりません。特に、先住民族と地域コミュニティ、そして彼らが所有・利用してきた慣習地に影響を与える計画中や既存の開発に対して、自由意思による、事前の、十分な情報を得た上での同意する、または同意しない権利が完全に尊重されていることが実証できなければなりません。

注1)報告書『FPIC実施原則の必要性:東南アジアの森林リスク産品サプライチェーンにおける主要10社の方針・標準作業手順書の評価・分析』(原題:“The Need for Free, Prior and Informed Consent: An Evaluation of the Policies and Standard Operating Procedures of Ten Major Corporate Groups involved in Forest-Risk Commodity Supply Chains in Southeast Asia”

各社の方針と標準作業手順書についての評価、分析結果、方法論、および別紙にFPICの権利と人権関連の国際基準について記載しています(英語)。
www.ran.org/FPICevaluation

注2)「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC: Free, Prior and Informed Consent)の定義は以下の通りである:
●「自由」であること:強制、脅迫、撹乱、不当な影響や圧力がないことを意味する。
●「事前」:人権基準上は、政府による事業許可の前を意味するが、少なくとも操業開始前に協議と同意を得るのための十分な時間を置くことを意味する。
●「十分な情報」:事業の内容、規模、進行速度、可逆性、範囲および予想される社会・経済・文化・環境面の影響について先住民族の理解し、アクセスできる形で情報を提供することを意味する。
●「同意」:先住民族の正当な代表者との誠実な協議の上での正式な書面による操業許可を得ることを意味する。FPICは、事業期間を通した継続的なプロセスで、合意内容の不履行や情報の齟齬など特定の条件の下では、撤回されることもある。

先住民族の土地に対する権利は、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」(UNDRIP)に定められている。UNDRIPは 2007年に採択され、先住民族の権利に関する最も包括的な国際的規範である。例えば、第25条および第26条では、先住民族が伝統的に所有もしくは占有してきた土地を所有し、使用し、開発し、管理する権利と有すること、そして伝統的に所有もしくは占有してきた土地との精神的つながりを維持し強化する権利と未来の世代のために保持する権利を有することを明確に強調している。UNDRIPでは、先住民族がFPIC(先住民族が自分たち、または自らの土地に影響を及ぼす可能性のある事業には同意する、もしくは同意しない権利)を有することが明確に述べられている。

参考:「先住民族の権利に関する国際連合宣言」、市民外交センターによる仮訳(2008 年 7 月 31 日、 改訂 2008年9月21日)

プランテーションウォッチ「先住民族の権利に関する国際連合宣言(UNDRIP)に関するビジネス参照ガイド」(『パーム油調達ガイド』より)

注3)インドネシアのパーム油産業と紙パルプ産業は少数の複合企業に支配されている。そのような企業はインドネシアのタイクーン(実業界での大物)や企業グループ、海外投資家の管理下に置かれている。本報告書の対象企業グループ10社については、RAN報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」で、下記の多国籍消費財企業(10社)、大手銀行(7社)とともに、熱帯林破壊と人権侵害に拍車をかけている企業として記載されている。

●消費財ブランド企業:日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース
●銀行:MUFG、JPモルガン・チェース、中国工商銀行(ICBC)、DBS、バンクネガラインドネシア(BNI)、CIMB、ABNアムロ

注4)参考:RAN声明「世界初、ネスレ『森林フットプリント』開示を歓迎〜インドネシア・パーム油サプライチェーンで影響を受ける森林面積を公表」、2020年12月11日

団体紹介
レインフォレスト・アクションネットワーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境・森林保護で最前線に立つ人々とのパートナーシップと戦略的キャンペーンを通じて、環境保護と先住民族や地域住民の権利擁護活動をさまざまな角度から行っています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

プレスリリース:三菱UFJ、他大手銀行・消費財企業、インドネシア「紛争パーム油」生産に加担(2020/8/28)

地域住民から略奪された土地で生産

インドネシアーー環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、インドネシアNGO2団体、LBHバンダアチェとWalhi(ワルヒ)アチェと現地調査を行い、大手パーム油企業ゴールデン・アグリ・リソーシズ(GAR)が地域住民の土地権を侵害して生産された「紛争パーム油」を大手消費財企業に供給していることを明らかにしました(注1)。GARの供給先にはネスレ、マース、モンデリーズ、ペプシコ、ユニリーバなどが含まれます。また、GARは三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の顧客企業であり、MUFGはESG(環境、社会、ガバナンス )方針で違法事業への融資禁止などを約束していることから、自社方針違反についての対処が求められます。

土地を守るために村に残った、パンテ・チェルミンの人々

今回の調査によって判明したのは、GARと別の1社(Permata Hijauグループ)を通じ、問題となっているパーム油企業 PT. Dua Perkasa Lestari (DPL、注2)の紛争パーム油が供給されたという点です。DPL社はパンテ・チェルミン村(アチェ 州西南アチェ県)のコミュニティとの間に数十年にわたる未解決の紛争があり、以下の紛争が調査で明らかになりました。

 ●DPL社は、最初の事業地で適切な事業許可を取得していなかった
 ●コミュニティが慣習的に利用してきた土地の収奪が記録されていた
 ●DPL社はコミュニティから「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC)を得ず、住民たちの農作物に壊滅的な被害を与えた
 ●DPL社はコミュニティの人々を脅迫して立ち退かせるために、インドネシア総務省の方針に違反して、軍隊を組織的に使用した、など。

LBHバンダアチェ ディレクターのSyahrul氏は「DPL社の事業許可が2008年に発行されて以来、地域コミュニティは自分たちの土地から強制的に立ち退かされる脅威にさらされてきました。 住民のほとんどは経済的制約など様々な理由でそこで生活を続けることができませんでしたが、まだ多くの人が自分たちの土地のためにたたかうことを誓っています。 LBHは、この事件を西南アチェ県政府、アチェ州政府、アチェ州議会、インドネシア大統領府にも報告しましたが、紛争は解決されず、誰もコミュニティの土地権の申し立てを検証していません。新型コロナウイルス の感染が拡大する中、地域コミュニティの土地権を保護し、食料と生活を維持することはこれまで以上に喫緊の課題となっています」と訴えました。

MUFGは、2018年から2020年4月の間、DPL社から紛争パーム油を購入したGARとその子会社に対して合計3億ドルの融資を行っています(注3)。一方で融資などに関するESG方針を2018年に策定し、翌年にはパーム油部門への資金提供についての方針を追加しました。ESG方針の中で「違法または違法目的の事業」への融資の禁止、持続可能なパーム油事業の支援、そして「非自発的住民移転に繋がる土地収用を伴う事業」の場合は顧客企業の環境・社会配慮が十分であるか確認することを約束しています(注4)。

RAN 責任ある金融シニアキャンペーナー ハナ・ハイネケンは「三菱UFJフィナンシャル・グループは、GARのような、自社およびサプライチェーンで繰り返し人権侵害を起こしている企業には融資すべきではありません。 GARへの融資は三菱UFJのESG方針に違反しています」と指摘しました。

消費財企業や銀行は、サプライチェーンにおける供給業者や融資先企業に対し、パンテ・チェルミン村の住民への土地返還が合意されるまで、DPL社との取引停止を求める責任があります。 ハイネケンは「三菱UFJフィナンシャル・グループは、GARが責任あるパーム油のみの調達を確実にするために、資金提供の必要条件として監視強化や、サプライチェーンのコンプライアンス管理体制強化を徹底させるべきです」と強調しました。

GARはインドネシアの大手財閥、シナルマス・グループのパーム油子会社で、創業家のウィジャヤ・ファミリーが支配しています。 シナルマスのパーム油部門は、2016年から2020年4月まで、インドネシアの銀行のバンクネガラインドネシア(BNI)、バンク・ラクヤット・インドネシア(BRI)、オランダの銀行のABNアムロ、MUFGなどから35億米ドルを超える融資と引受を受けました。これはDPL社による人権侵害と森林破壊の証拠がGARに提起されたのと同じ時期です。

DPL社の事業管理地は世界的に重要な熱帯低地林「ルーセル・エコシステム」内に位置し、同熱帯林には高濃度の炭素を蓄えた泥炭地があります。同社はその一つのトリパ泥炭地に事業地を保有し、パンテ・チェルミン村はトリパ泥炭地域にあります。

注1)詳細はこちら:“Major Brands and Banks Complicit in the Production of Conflict Palm Oil on Stolen Community Lands in Indonesia”(英語)

注2)アチェ州議員 Said Syamsul Bahri 氏が所有

注3)RAN「森林と金融」データベース

注4)「MUFG環境・社会ポリシーフレームワーク」

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org