サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

‘気候変動’カテゴリーの記事一覧

共同プレスリリース:日本企業に気候変動対策を求める投資家の圧力、一段と強力に(2023/6/29)

国際環境NGO マーケット・フォース
国際環境NGO FoE Japan
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

2023年6月29日(木) : 気候変動関連の株主提案は年々増えており、2023年の株主総会シーズンは日本企業に対して提出されたネットゼロの達成に向けた行動と透明性の向上を求める株主提案の数が過去最多となりました。

先週から本日にかけて実施された三菱商事、日本最大の発電事業者であるJERAの株を共同所有する東京電力ホールディングスと中部電力、メガバンク3行(三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ)の株主総会で気候変動に関する株主提案が決議されました。

株主提案を行ったのは環境NGOの気候ネットワーク、マーケット・フォース、 またFoE Japan、レインフォレスト・アクション・ネットワークに所属する個人です。株主提案を通じて、対象企業に対して短期を含めた排出削減目標の設定やさらなる引き上げ、気候関連リスクの管理の改善を求めました。

上記の株主提案の議決結果は、気候変動に関するリスクへの対処に関して課題を抱える企業に対して、引き続き厳しい目が向けられていることを意味します。

三菱商事

「今年の三菱商事の株主総会では、約2兆円(140億米ドル)に相当する投資家の約20%が、我々が提出した株主提案の1つに賛成票を投じました。これは、投資家が三菱商事の気候変動に関する情報開示の進展にまだ満足しておらず、2050年までのネット・ゼロへの実行可能な道筋があると結論づけるには不十分であることを示しています」
福澤恵(マーケット・フォース エネルギー・ファイナンス担当)

「昨年の株主提案以降、三菱商事は情報開示内容を拡充するなど、一定の進展がみられた一方で、気候危機を食い止めるために十分な削減目標などを設定していません。さらに、昨今のエネルギー危機は、化石燃料への依存を深めることは気候変動を悪化させるだけでなく、エネルギー安全保障をも悪化させるということを示しました。提案は否決されましたが、引き続き三菱商事の方針強化を求め対話を継続していきます」
深草 亜悠美 (FoE Japan気候変動・エネルギー担当/事務局次長)

中部電力

「中部電力の2050年に向けたロードマップは、実現性・具体性に欠けています。低効率石炭火力のフェードアウト、高効率のアンモニア混焼化などで目標を達成すると主張していますが、具体的な削減策は示されていません。持株会社であるJERAが、国内外で新規の化石燃料事業に関与し、GXのもとで脱炭素策としてのアンモニア混焼を広げようとしていることも問題です。中部電力およびJERAが2050年ネットゼロ目標を達成するための責任を果たすことを引き続き求めていきます」
鈴木康子(気候ネットワーク プログラム・コーディネーター)

東京電力HD

「東京電力では、2050年CO2排出ゼロを掲げながら、そのロードマップは具体性に欠け、根拠となる情報開示がなされていません。特にグループ会社であるJERAは国内最大の排出事業者であり、昨年の武豊火力に続き、今年、来年は横須賀火力と、次々と対策のとられていない石炭火力発電を新規稼働させる予定で、排出量は増大する見通しですが、その説明責任を果たしていません。私たちの提案は否決されましたが、引き続き情報開示を求めていきます」
桃井貴子 (気候ネットワーク理事・東京事務所長)

MUFG、三井住友FG、みずほFG

「MUFG の株主総会では、木質バイオマス発電は石炭などの化石燃料への融資に比べて相対的に少ないため、重要性(マテリアリティ)が少ないという発言が担当者からありました。続けて『マテリアティが増せば対応を検討する』との発言もあり、これは一歩前進したといえます。メガバンク全体では、木質バイオマス発電問題について少しずつ理解が進んでいますが、排出量の算定と厳格な方針策定には至っていません。今後、石炭火力発電への木質燃料の混焼が増えれば、排出量は確実に増え、石炭火力発電の延命につながります。このままでは脱炭素への適切な移行ができません」
川上豊幸(レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表)

「みずほの株主のおよそ2割の賛同を得られたことは、同行の化石燃料セクターの投融資方針と削減目標が2050年ネットゼロの公約と整合していないことに対する投資家の強い懸念が表明されたと言えます。また、株主総会開催前の段階でMUFGとSMFGの提案にはそれぞれイタリア最大手のアセット・マネージャーであるANIMAをはじめ、運用資産額1870億ユーロ(MUFG)、2780億ユーロ(SMFG)相当を保有する機関投資家がすでに賛同を表明しています。特に脱炭素へのトランジション(移行)の名の下に、新規のガス開発やLNG設備への支援を継続することは、気候科学に真っ向から矛盾し、グリーンウォッシュであるだけでなく、投資家に容認できない多額の財務リスクをもたらします。リスク軽減のためには、適切な財務およびESGリスク評価を行うとともに、気候科学に整合しない政府政策に依存するのではなく、科学に基づき株主が求めている新規の石油・ガスへの投融資を制限する方針を早急に掲げる必要があります」
渡辺瑛莉 (マーケット・フォース, 日本エネルギー金融キャンペーナー)

「3メガとも、年々ポリシーを改定あるいは強化を進めてきているとは云え、総会で経営陣の説明や質疑応答を聞いていると、気候危機、および気候変動の主要因となっている化石燃料に資金提供することについての危機感にギャップがあると感じざるを得ません。日本政府の方針に従っているのでは、ネットゼロに向かう世界の動きから取り残されてしまいます。銀行に限らず、民間各社が日本の脱炭素対策を牽引するようになってくれることを切に願っています」
鈴木康子(気候ネットワーク プログラム・コーディネーター)

報道機関関係者の皆様へ

気候変動に関する株主提案、2023年も日本は最多更新見込み

2023年、多くの投資家がグローバル企業の気候変動対策の遅れに対して、深刻な懸念を表明しました。化石燃料事業への投融資を続ける金融機関や脱炭素対策に遅れが見られる企業に対して、炭素集約型ビジネスへの関与から低排出セクターへの包括的な移行を求める声は強まる一方です。特に、金融機関の取り組みに対しては厳しい視線が向けられており、今年米国のJPモルガン(35%)やウェルス・ファーゴ(31%)、ゴールドマン・サックス(30%)、バンク・オブ・アメリカ(29%)に対して提出された気候変動対策における移行計画を求める株主提案の賛成比率(かっこ内の数字)は軒並み高水準となりました。2023年、日本のメガバンク3行に対して同時に気候変動に関する株主提案を提出した背景には、国際的な投資家や株主が共有する気候危機への強い危機感と、日本の銀行も早急に1.5℃目標に整合する対策を講じるべきとの考えがあります。

日本では、欧州の機関投資家・年金基金計3社からトヨタ自動車に対して気候変動対策における渉外活動に関する年次報告書を作成することを求める株主提案が提出され、国際的な注目を集めました。加えて、電源開発にも2年連続で仏・アムンディ、英・HSBCアセットマネジメント、豪・ACCR(Australasian Centre for Corporate Responsibility)から気候変動に関する株主提案が提出されています。そのほかの企業に提出された議案も含め、2022年に続き今年も気候変動に関する株主提案は過去最多となる見込みです。

日本と気候変動に関する株主提案の効果

マーケット・フォースは2021年、住友商事に対してパリ協定の目標に沿った事業活動のための事業戦略を記載した計画の策定、及び開示を求める株主提案を提出しました。提案は20%の賛成票を獲得し、その後の石炭火力に関するポリシーの改善につながりました。さらに住友商事は2022年2月にバングラデシュのマタバリ2 石炭火力発電所から撤退することを発表しました。

2020年、気候ネットワークがみずほFGに株主提案を行い、みずほFGは日本の銀行として初めて、2050年までの石炭火力フェーズアウト目標(後に2040年に変更)を設定しました。他の2メガバンクもこの動きに追随しています。

2021年、350.org Japan、RAN、気候ネットワーク、マーケット・フォースは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)に対し、株主提案を提出しました。決議後、MUFGは2050年までにポートフォリオ全体でネットゼロを目指すことを発表し、日本の銀行として初めてネットゼロバンキングアライアンスに加盟しました。その後、みずほFG、三井住友FGも追随しています。

2022年、350.org Japan、RAN、気候ネットワーク、マーケット・フォースは、三井住友FGに対して気候変動に関する株主提案を2件提出しました。株主提案の提出後、同社は石炭採掘部門の投融資方針を強化し、新規および既存プロジェクトの拡張と関連するインフラ開発への投融資を制限しました。2023年5月には、同社はEACOP(東アフリカ原油パイプライン)に関与していないことを発表しました。

気候変動対策を求める企業と株主の対話は、これまで上記のような形で株主提案に至りましたが、これらの議案は企業の取り組みの改善に重要な役割を果たしました。今年の株主提案の対象となった企業も、これまでに情報開示の改善を行っており、今年に統合報告書が公開されれば、さらに改善されることが予想されます。

 

Photo credit: 350 Japan

関連情報

株主提案に関するより詳しい情報(投資家向け説明資料など)は以下のページを御覧ください
Asia Shareholder Action

共同プレスリリース「国内外の環境NGOが東証プライム6企業に株主提案 〜メガバンク全3社含む日本企業の気候変動対策に問題提起〜」2023年4月11日

株主提案の内容に関するお問合せ先

□ マーケット・フォース(Market Forces) https://www.marketforces.org.au
担当者:Antony Balmain E-mail: contact[@]marketforces.org.au

□ 国際環境NGO FoE Japan https://www.foejapan.org/
担当者:深草亜悠美 E-mail: fukakusa[@]foejapan.org

□ 気候ネットワーク https://www.kikonet.org
東京事務所:TEL:+81-3-3263-9210
担当者:鈴木康子 E-mail: suzuki[@]kikonet.org

□ レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)japan.ran.org
担当者:関本幸 E-mail: yuki.sekimoto[@]ran.org

イベント(4/22):パーム油・熱帯林と私たちが食べている物の密接な関係

Earth Day みんなつながってる環境イベント大阪2023〜パーム油・熱帯林と私たちが食べている物の密接な関係〜アースデイの日にみんなで一緒に考えませんか?

世界有数の生物多様性の宝庫である熱帯林。
私たちの身近な消費生活が豊かな森を破壊することにつながっているかもしれません…

環境問題に関心がある、自分ができることを考えたい、仲間を集めてこんなことをやってみたい、パーム油・カップヌードルの現状をどうにかしたい…

ドキュメンタリー映画やワークショップを通して、身近な食べ物から、海外の環境問題について私たちにできることを一緒に考えましょう!

【日時】
2023年4月22日(土)9:00〜21:00
(オープンイベントです。映画の時間を除いて、ワークショップなども計画していますが、基本的にはインフォーマルな学びの空間、質問や意見などの交換の場所を提供します。):

映画上映①10:00〜 ②14:00〜 ③18:00〜
*映画の時間の合間にワークショップなどインフォーマルな学びの空間、質問や意見などの交換の場所を提供します。
*ヴィーガンのお菓子などエシカルな商品もご用意する予定です。

【上映作品】
「グリーン・ライ〜エコの嘘〜」(97分、2018年、ヴェルナー・ブーテ監督)https://www.cinemo.info/82m
スーパーで見かける「環境に優しい」商品。商品を買うと世界を救えるは本当?確かめるため監督自身が世界一周調査の旅へ出る。「環境に優しい」「サステナブル」耳触りの良い言葉の裏側に隠された残酷な真実に迫るドキュメンタリー。
解説:https://unitedpeople.jp/greenlie/exp

【場所】
ルマ・ボルネオ(https://nobuo5002.wixsite.com/ruma2
大阪府都島区都島本通3-8-10 2F

アクセス:大阪メトロ谷町線の都島駅から徒歩3分、またはJR桜宮駅から徒歩9分
*道案内:谷町線 都島駅 ①番出口をでます。オコメノカミサマというラーメン屋さんの方へ出てまっすぐ進み、炉ばた焼き屋さんの角を左折。

【対象】
環境に関心のある全ての人々。
「行動したいけどまだよくわからない」「環境問題に取り組む仲間が欲しい」というユースの方も大歓迎です!

【申込フォーム】
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdc3oFtQaLjSlRGEaUQt4ssiYd_Xw9Bgm6xvqU63g-m205EZw/viewform?fbclid=IwAR0Flo4L-FuVWiqmtFxPqAnLfP-7AeujTd_qYFM6nBsllefBbtJt0909urQ

【参加費】
基本的にありませんが、可能でしたら、500円のドネーション・カンパをいただけるとありがたいです。余裕のある方はそれ以上、余裕のない方はできる時で結構です。

また、カンパの代わりとして以下の行動も歓迎です!
・今日見たこと、経験したこと、聞いたことを友達、家族、知り合いなどに話す
・今日の感想をソーシャルメディアでシェアする
・RANの署名にサインをする
・署名したことを友達などに話す
・RANのサイト、YouTubeをみて勉強する
・RANのTwitterをフォローする
・RANやウータンのイベントに参加する
・ウータンのTwitterをフォローする
・ハッシュタグをつけてSNS投稿する #日清食品 #パームオイル #カップヌードル #森林破壊 #インドネシアの自然 #人権侵害 #野生動物 #安藤さん #doitnow #cupnoodles #nissin
・ウータンのサイト、YouTubeをみて勉強する
・ウータンの会員になる
・ウータンに寄付する
・RANやウータンの活動に参加する
・アメリカのRANのサイトで英語やインドネシア語を勉強する(日本語と英語、インドネシア語のレポートもたくさんあります)
・自分が学んだこと、気づきをみんなに言う、ソーシャルメディアでシェアする
・何かを買う時、それに何が入っているかチェックする。パーム油・植物油の入ったものならば、インドネシアなどの熱帯雨林、地元民、動物たちの犠牲によって成り立っている可能性があると理解する。

☆★署名に参加することもできます!★☆

日清食品さん、2030年では遅すぎます。 問題のあるパーム油は今すぐストップ! 地球と未来のために、DO IT NOW!

【主催】

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)
https://japan.ran.org/

ウータン・森と生活を考える会
https://hutangroup.org/

ウータン・森と生活を考える会は、「森を守りたい」と願う熱い心を持った人々が集まった市民団体です。オランウータン、テングザル、サイチョウ、昆虫、植物、菌類、微生物…多くの命がつながりあって、何万年もの時をかけて作られた生物多様性の宝庫であり、先住民にとっても、私たちにとっても、生きる糧を与えてくれるボルネオ島の自然豊かな熱帯林。一度絶滅すると二度と戻ることのない種が多くいる生態系の減少を食い止める活動、国内外のNGOや現地の村人とともに保全・再生する活動、原因となるパーム油などの大規模開発による熱帯林破壊を日本の消費者に伝える活動を、30年以上、市民の力で進めてきました。

プレスリリース:「化石燃料ファイナンス報告書2023」発表〜日本の3メガバンク、LNGと北極圏石油ガス、化石燃料全体と拡大への資金提供でワースト10入り(2023/4/13)

化石燃料への資金の流れを追跡し、気候破壊を引き起こす世界最悪の企業を支援する銀行による莫大な支援を詳述

米環境NGO レインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)をはじめとするNGOは、12日(米国東海岸時間)、新報告書『化石燃料ファイナンス報告書2023〜気候カオスをもたらす銀行業務〜』(第14版、注)を発表しました。本報告書は、化石燃料への銀行業務について最も包括的分析であり、化石燃料業界への資金提供状況を吟味することで、銀行による気候に関する公約の実態を明らかにしています。

『化石燃料ファイナンス報告書2023』概要

2019年以来初めて、カナダの銀行が米国の銀行 JPモルガンチェースを抜いて、化石燃料への年間での資金提供者の第1位となりました。カナダロイヤル銀行 (RBC) は、2022 年にタールサンド部門に48億ドル、シェールガス部門に74億ドルを含む 421億ドルを化石燃料プロジェクトに投じました。カナダの銀行が化石燃料の最後の手段となりつつあり、パリ協定発効以降、化石燃料企業に8,620億ドルを提供しています。RBC はコースタル・ガスリンク(Coastal GasLink)シェールガス向けパイプラインのような拡張事業に資金提供を続けています。このプロジェクトでは人権や先住民族の主権を侵害しており、先住民族リーダーの同意なしに進められています。

化石燃料への資金提供において、全体として米国の銀行が優位に立ち、2022年には化石燃料への融資全体の28%を占めていることを本報告書は示しています。シティウェルズ・ファーゴバンク・オブ・アメリカは、2016 年以来、依然として化石燃料への資金提供者の上位5行に入っています。一方、2022年の化石燃料企業全般への資金提供額で、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、みずほフィナンシャルグループ(みずほFG)、三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)のメガバンク3行は、ワースト10位に入りました。

欧州とウクライナの人々は、ロシアの残虐行為への資金提供をやめるために再生可能エネルギーへの移行を求めましたが、化石燃料会社は拡大を倍増させ、気候への取り組みを弱めました。液化天然ガス(LNG)を拡大している上位 30 社は危機を利用して、2021年に比べて2022年に銀行から50% 近く多くの資金を確保しました。ただし、ほとんどのエネルギー専門家が、ヨーロッパでのLNG 拡大計画は不要であり、新しいプロジェクトがこの化石燃料への供給過剰と長期的な依存に寄与してしまうことで合意しています。

報告書によると、これまでのところ、世界の銀行によるネットゼロの約束は何のメリットもありません。報告書で示した60銀行のうち49行がネットゼロのコミットメントを行いましたが、ほとんどの銀行が化石燃料拡大のための融資を除外する厳格な方針を伴っていません。実際の方針には化石燃料の顧客への融資を銀行が継続できるようにする多くの抜け穴が含まれています。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が 2023年3月の報告書で確認したように、今日生きている何百万人もの人々や、今後の数え切れない世代に渡る容認できない損害を回避する機会を人類に与えるには、化石燃料の拡大を止めなければならず、すべての部門で化石燃料の利用を急激に低下させなければなりません。IPCCは、気温を1.5度未満に保ち、安全で住みやすく、持続可能な未来を築くチャンスをもたらす窓が急速に閉ざされつつあると主張しています。

化石燃料部門別の傾向

●拡大企業: 本報告書で取り上げた60行の銀行は2022年に、TCエナジー、トータル・エナジー、ヴェンチャー・グローバル、コノコ・フィリップス、サウジ・アラムコを含めて、化石燃料を拡大している上位100社に1500億ドルを投入した。

●液化天然ガス(LNG): 2022 年の液化天然ガス (LNG)への資金提供額で上位の銀行は、みずほFG、モルガンスタンレー、JPモルガンチェース、ING、シティ、SMBCグループ。LNG に対する全体的な資金提供は、2021年の152 億ドルから2022年の227億ドルへと50%近く増加。

●オイルサンド(タールサンド): 上位のオイルサンド企業は、2022 年に210億ドルの資金を受け取りました。これらの資金の89%を提供したカナダの大手銀行が主導。TDRBCモントリオール銀行が上位にある。

●北極圏の石油ガス: 中国の銀行であるICBC、中国農業銀行、中国建設銀行が北極圏の石油ガス事業への融資を主導し、2022年にこのセクターの上位企業に総額29億ドルを投じた。米国の銀行を含む26の銀行がいまだ北極圏の石油ガスに資金提供。JPモルガンチェースシティバンク・オブ・アメリカ

●アマゾンの石油ガス: スペインの銀行サンタンデールは、アマゾンの生態系から資源を取得する企業への資金提供をリードし、米国の銀行シティが僅差で続く。2022年の資金調達総額は7億6,900 万ドル

●シェールオイルガス: フラッキングを行う企業への融資は2022年に合計670億ドルに達しました。これは、2021年に報告された上位のフラッキング企業の資金提供額を8%上回る。フラッキングによる極端なメタン排出量を考えると、この増加は特に気がかり。RBCJPモルガンチェースは、2022年とパリ協定発効以降で、フラッキングでの石油とガスの最大の資金提供者である。

●海洋の石油ガス: 欧州の銀行のBNPパリバクレディ・アグリコル、日本の銀行のSMBCグループは、2022 年の海洋の石油ガスのワースト資金提供リストの上位。2022 年の資金調達額は合計340億ドル

●石炭採掘: 世界最大の 30 社の炭鉱会社に提供された130 億ドルの資金提供のうち、87%は中国にある銀行から提供されたもので、中信銀行、中国光大銀行、興業銀行が率いていた。

●石炭火力発電: 石炭火力発電の世界上位30社への融資のうち、97%は中国の銀行から提供されたものです。石炭火力発電能力の拡大を計画しているこれらの企業は、2022年にプロファイルされた銀行から295億ドルを受け取った。

日本の3メガバンクの動向

上述の2022年の化石燃料企業全般への資金提供額のみならず、分野別では、LNGと北極圏石油ガス分野、化石燃料事業拡大企業への2022年の資金提供額でも、MUFGみずほFGSMBCグループの全3行が、ワースト10位に入りました。特に、LNG上位30社への2022年の資金提供で、みずほFGがモルガン・スタンレーに代わり初めて1位となり、2016年から2022年の資金提供累計総額でも、LNG分野で3メガバンクがワースト10位入りしました。化石燃料企業全体への資金提供では、MUFGが6位、みずほFGが8位で、SMBCグループは16位となりました。

 

以下は、化石燃料企業への資金提供額の推移を示しています。2016年のパリ協定発効時よりも資金提供額は増加した状況で維持されており、大きな増加傾向は見られませんが、大きな減少も確認できていません。

賛同団体からのコメント

気候ネットワーク プログラム・コーディネーター 鈴木康子

「気候危機を回避するためには再エネの主力化と脱炭素化を加速させる必要があることが明らかであるにも関わらず、本年の報告書でも、日本の3メガバンクを含む世界の大手60行がいまだに化石燃料事業に多額の支援をしていることが明らかになっています。3メガバンクともネットゼロ目標を掲げ、プログレスレポートの開示などを行っていますが、その一方で化石燃料事業への支援を継続していては、本当の気候危機対策は進みません。特にMUFGはアジアの化石燃料事業への金融支援が最大であると指摘されている上、日本政府が国内外、特にアジア諸国に向けて広げようとしているグリーントランスフォーメーション(GX)促進に積極的な姿勢を示していることが懸念されます」

マーケット・フォース、日本エネルギーファイナンスキャンペーナー、渡辺瑛莉

「日本のメガバンク3行が、2050年までのネットゼロ排出を達成するという宣言に反し、依然として化石燃料を拡大する企業への融資・引受を継続していることは容認できません。メガバンク3行は2022年において化石燃料への資金提供で世界トップ10に名を連ねており、メガバンクの同セクターへのエクスポージャーに伴う財務リスクについて、投資家の間で懸念が高まっています。3行とも新たな油田やガス田、LNGプロジェクトへの資金提供を制限する方針はなく、これは、2050年ネットゼロ排出達成のため、今後新規の石油やガスの開発は必要ないとする国際エネルギー機関の結論と明らかに矛盾しています。地球温暖化を1.5度に抑えるために残されている時間は僅かであり、メガバンク3行は、化石燃料セクターへの資金提供を減らすための方針と目標を早急に強化することが必要です。銀行は気候危機を解決するため、さらにはより良い環境を築き上げるために資金提供を行うべきです」

国際環境NGO 350.org Japanチームリーダー代行、伊与田昌慶

「この最新レポートは、パリ協定への約束とは裏腹に大手金融機関が化石燃料に対する巨額の投融資を継続している事実の告発状です。三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループなどの大手金融機関が関与を続ける化石燃料産業は、未曾有の気候危機に人々が傷つき倒れる中、過去最高水準の利益をあげました。

G7広島サミットを控え、日本の官民が気候危機を深刻化させる「化石燃料中毒」から脱却するか否かが注目されています。昨年発表された350.org Japan調査によって、日本の主な金融機関は、パリ協定採択後、再エネ関連企業への融資引受額の19倍もの資金を化石燃料関連企業に提供してきたことも明らかになっています。最新のIPCC第6次評価報告書に学び、化石燃料やアンモニア・水素混焼、原子力、CCUS等といったまやかしではなく、最も有力な再生可能エネルギーにこそ、その資金を投じるべきです」

 

注)日本語要約版

化石燃料の金融データ、方針スコア、最前線の現場からのストーリーを含む完全なデータセット(英語)は、bankingonclimatechaos.org からダウンロード可能。世界の主要民間銀行60行が化石燃料部門に行った資金提供を示した包括的な報告書。石炭、石油、ガス部門の約3,210社(親会社2,000社)に対する2016年〜2022年の7年間の融資・引受を分析の対象としている。

「化石燃料ファイナンス2023〜気候カオスをもたらす銀行業務〜」は、レインフォレスト・アクション・ネットワーク、バンク・トラック、先住民族環境ネットワーク(IEN)、オイル・チェインジ・インターナショナル、リクレイム・ファイナンス、シエラ・クラブ、ウルゲバルトによって執筆されている。世界70カ国以上の550を超える組織がこの報告書を支持し、気候破壊への資金提供を停止するよう銀行に呼びかけている。

 

団体紹介
レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
川上豊幸  Email: toyo[@]ran.org

※更新
『化石燃料ファイナンス報告書2023〜気候カオスをもたらす銀行業務〜』日本語要約版を追加しました(2023年9月28日)

 

共同プレスリリース:国内外の環境NGOが東証プライム6企業に株主提案 〜メガバンク全3社含む日本企業の気候変動対策に問題提起〜(2023/4/11)

国際環境NGO マーケット・フォース
国際環境NGO FoE Japan
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

4月11日、国内外の環境NGOとその代表者を含む個人株主は金融、商社、電力の3業界の6企業(三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ、三菱商事、日本最大の発電会社・JERAの経営に大きく関与する東京電力ホールディングスと中部電力)に対し、気候変動対策の強化を求める株主提案を提出したことを発表しました。

昨年の株主総会シーズンでは、日本企業も過去最多の気候変動に関する株主提案に直面しました。こうした株主提案は我々環境NGOに限らず、国外の機関投資家や地方自治体からも提案されています。多様なステークホルダーが高炭素排出企業による気候変動対策の遅れに対して危機意識を共有し、行動に移しています。我々が提出した議案も機関投資家に幅広く支持されました。

今年6企業に対して提出された株主提案はパリ協定目標と整合する中期および短期の温室効果ガス削減目標を含む事業計画、あるいは、2050年炭素排出実質ゼロ(ネットゼロ)への移行に向けた取り組みに関する情報開示を企業に求めるものです。

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が3月に公表した第6次統合報告書によれば、産業革命前からの気温上昇を1.5度以内に抑えるためには、温室効果ガスの排出量を2035年までに19年比で60%減らす必要があります。しかし気候変動対策の強化がなければ、2100年までに約3.2℃の上昇が見込まれており、現状の各国の削減努力は極めて不十分です。この報告書の公表に合わせ、国連のグテーレス事務総長は「気候時限爆弾が刻々と時を刻んでいる」と危機感を示し、先進国は2035年までに電力部門における温室効果ガス排出を実質ゼロにすることを求めています。

日本が議長国を務めるG7広島サミットを前に、日本が化石燃料(LNG等)投資の必要性を認めるよう求めたり、発電部門で化石燃料の利用継続を前提とした技術導入を推進していることについて、G7加盟国の反発を招いたとの報道もあります。米国や英国を含む加盟国の政府関係者は、札幌で開催される気候・エネルギー・環境大臣会合のコミュニケ草案に疑問を呈し、気候変動対策を加速させる取り組みにあまり重点が置かれていないと指摘しています。

民間企業の気候変動対策は日本政府のこうした方針に大きく影響を受けるとはいえ、国際社会において事業を展開し、信頼を得るためには業界あるいは企業独自の気候変動対策が求められています。とりわけ、今回株主提案の対象となった企業(メガバンク3社や三菱商事)や対象企業ら(東京電力HDと中部電力傘下のJERAを含む)は国内外で化石燃料事業への投融資および関与を継続しています。特に、LNG火力のパイプライン開発や発電所の新設、既存の石炭火力発電所の稼働を延命させるアンモニア・水素の混焼技術の推進は大きな問題です。

提出先企業が抱える問題の要点(業界ごと)

■メガバンク

「メガバンクの気候関連方針、目標、移行計画は、国際エネルギー機関(IEA)のネットゼロシナリオや、メガバンクも署名しているネット・ゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)のような世界的スタンダード設定を行うイニシアチブにも沿っておらず、2050年までに排出量をネットゼロにする道筋を示すものとして信頼性を欠いています。とりわけ新規の石油・ガス開発事業への支援を制限する方針を持つ海外の競合他社と比べても、大きく遅れを取っています。自らの公約を果たすためにも、ネットゼロ長期目標と整合性ある短期・中期目標および投融資方針の設定に向けた行動を急ぐべきです」
(マーケット・フォース, 日本・エネルギーファイナンスキャンペーン担当, 渡辺瑛莉)

「銀行は、日本政府のGX基本方針に準じ、エネルギーの安定供給を目的とした高効率火力へのアンモニア・水素混焼への投資を継続的に行おうとしていますが、国際社会はより直接的な削減に寄与する再生可能エネルギーに関連開発への投資に重きをおいています。日本のメガバンクも、持続可能な、真に「グリーン」なエネルギーシステムの構築を目指すべきです」
(気候ネットワーク, プログラム・コーディネーター, 鈴木康子)

「気候変動への対応には土地利用セクターも重要です。NZBAガイドラインで炭素集約分野とされる農業分野で排出量や集約度の削減目標の設定が求められていますが、日本のメガバンクでは行っていません。また木質バイオマス発電所のGHG排出係数は、燃焼時に石炭火力発電所より高いにもかかわらず、木質バイオマス燃料の燃焼からのCO2排出量を報告していないので、適切な情報開示が行われておらず、電力部門での気温上昇を1.5度以内に抑える移行実現を困難にしてしまいます」
(レインフォレスト・アクション・ネットワーク, 日本代表, 川上豊幸)

■東京電力・中部電力

「東京電力、中部電力、及び両社の合弁企業で高炭素排出企業であるJERAは、新規の化石燃料事業に投資をしながらネットゼロ企業と名乗ることは許されません。これら企業は、資本配分を気温上昇を1.5度以下抑える道筋と整合させるなど、移行計画の信頼性を示す必要があります」
(マーケット・フォース, エネルギーファイナンスアナリスト, 鈴木幸子)

日本最大の発電事業者であるJERAは『JERAゼロエミッション2050』を掲げ、低炭素社会を目指すと表明しています。現在社会においてサステナブルなエネルギーへの切り替えは簡単ではないとの意見もありますが、タイムリミットが刻々と近づく中、欧米では同業会社が着々とゼロエミッションへの取り組みを進めています。既に「いかに実現させるか」が焦点であり、既存の火力発電設備にアンモニアや水素を混焼させることで排出削減を狙うという日本のやり方は、科学的にも経済的に疑問視されています。JERAおよび東電HD・中電がこうした戦略を続けるのであれば、その効果の真偽を判断するための情報を正確かつタイムリーに公開すべきでしょう」
(気候ネットワーク, プログラム・コーディネーター, 鈴木康子)

■三菱商事

三菱商事が現在示している気候変動に関する目標や情報開示は、同社が2050年までにネットゼロ目標を達成するための実行可能な道筋があると投資家が結論づけるには全く不十分です。例えば三菱商事のScope3排出量(3億8100万トン)は、英国、フランス各国の化石燃料の年間排出量を上回っています。だからこそ、Scope3排出量目標を設定することで同社がネットゼロ約束をどのように達成するのか、投資家が確認できるようにする必要があるのです」
(マーケット・フォース, アジア・エネルギーファイナンスキャンペーン担当,  福澤恵)

今回、株主提案を提出先となった企業は、座礁資産リスク(環境や市場、規制の変化で企業が将来的に減損処理する資産を抱えること)や訴訟リスク、ブランド価値の毀損など将来の企業価値に関する重大なリスクを抱えています。また、こうした企業が誤った戦略を取り続けると気候変動対策の妨げともなりかねません。

企業が我々の株主提案を真摯に受け止め、投資家の方々の後押しを受けて気候変動対策を強化するとともに情報開示を進めることが、企業価値の向上に繋がり、ひいては気候危機を防ぐ一助となるとして、ご理解を得られることを期待しています。

メガバンク3社への株主提案
団体としては、NGOマーケット・フォース(豪)、気候ネットワーク(日)、個人としては、川上豊幸(米NGO RAN日本代表)が共同提案に参加。

三菱商事への株主提案
法人としては、マーケット・フォース、個人としては、深草 亜悠美 (FoE Japan 気候変動・エネルギー担当) が共同提案に参加。

東京電力ホールディングスおよび中部電力への株主提案
マーケット・フォース、気候ネットワークが共同で提案。

提案文書

三菱UFJフィナンシャル・グループへの提案文書(PDF

みずほフィナンシャルグループへの提案文書(PDF

三井住友フィナンシャルグループへの提案文書(PDF

三菱商事への株主提案(PDF

東京電力ホールディングスと中部電力への株主提案(PDF

株主提案に関する投資家向け説明資料

3メガバンク 投資家向け説明資料(PDF

三菱商事 投資家向け説明資料(PDF

東京電力ホールディングスと中部電力 投資家むけ説明資料(PDF

※各社への提案書および投資家向け説明資料は特設サイトからもダウンロードいただけます。

株主提案に関する特設サイト

Asia Shareholder Action: https://shareholderaction.asia/ja/

連絡先

マーケット・フォース(Market Forces) https://www.marketforces.org.au
担当者:鈴木幸子 E-mail: sachiko.suzuki[@]marketforces.org.au
担当者:福澤恵 E-mail: megu.fukuzawa[@]marketforces.org.au

国際環境NGO FoE Japan https://www.foejapan.org/
担当者:深草亜悠美 E-mail: fukakusa[@]foejapan.org

気候ネットワーク https://www.kikonet.org
担当者:鈴木康子 E-mail: suzuki[@]kikonet.org

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)japan.ran.org
担当者:川上豊幸 E-mail: toyo[@]ran.org

プレスリリース:新報告書『ボルネオ島 最後の森林を守る:地域コミュニティ抵抗の事例』発表 (2023/2/15)

インドネシア、森林減少率低下するも熱帯林の危機は継続

  • ●ボルネオ島の熱帯林の多くは企業の事業管理地に残り、伐採や農園開発のリスクにある。「ロング・イスン」先住民族コミュニティの慣習林は伐採業者の管理地に重なることから10年以上も対立が続いている。
  • ●ロング・イスン村で操業する伐採業社は 、複合企業グループ「ハリタ・グループ」のコントロール下にある。同グループはP&G、モンデリーズ、日清食品など消費財企業の調達先である。
  • ●RANは消費財企業に対して、自社調達方針の実施を求めると同時に、ハリタ・グループに「森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE)方針を全事業で遵守させるよう求めている。


写真:先住民族「ロング・イスン」コミュニティの人々 ©️Khairul Abdi / RAN

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部サンフランシスコ、以下、RAN)は14日、新報告書「ボルネオ島 最後の森林を守る:地域コミュニティの闘い」を発表し(注1)インドネシアの森林減少率が過去数年で減少しているにもかかわらず、同国に残る重要な熱帯林の多くは依然として危機的状況にあると警鐘を鳴らしました。熱帯林の多くは企業のコンセッション(事業管理地)にあり、伐採や植林地および農園への転換のリスクに常にさらされています。本報告書は、地域および先住民族コミュニティによる森林保護・管理、そして産業開発への人々の抵抗がボルネオ島最後の熱帯林を守る最善の方法の一つであると結論づけています。

本報告書は「ハート・オブ・ボルネオ」として知られる北カリマンタン州と東カリマンタン州の重要な地域に焦点を当てています。先住民族コミュニティ「ロング・イスン村」の人々が、10年以上にわたって彼らの土地での伐採事業に抵抗し、土地権の法的承認を求めてきた力強い闘いを説明しています。また人々がこれまで直面してきた激しい脅迫や不当逮捕についても記載しています。

地図:ロング・イスン村は東カリマンタン州マハカムウル県(マハカム川上流)に位置する

ロング・イスンの村民で「ロング・イスン森林管理組織」の代表であるテクワン・アジャ(通称テクワン)は「私は、森や土地、水、そして尊厳を含め『生命の源』を守ろうとしたことで109日間も逮捕されました。その後、私は今も容疑者に指定され、警察への出頭が求められています」と訴えました。テクワンは地元警察に罪状もなく投獄され、犯罪者にされました。ロング・イスンの人々は、 これはコミュニティと対立する伐採企業が警察の力を借りて、コミュニティに力ずくで伐採事業を承認させようと仕組んだ方策だと考えています。

大手消費財企業の多くは重要な森林保護方針である「森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE、注2)を採用する一方で、ロング・イスンの事例に関わりがあります。プロクター&ギャンブルとモンデリーズなどの消費財企業は、有力な複合企業グループのハリタ・グループと取引を続けています。日本企業では日清食品がハリタグループのコントロール下にある搾油工場からパーム油を調達していることを開示しています(注3)。また伊藤忠建材の取引先にはハリタグループの合板工場も含まれます(注4)

ハリタ・グループはインドネシアのパーム油および木材部門で最も影響力のある企業グループの一つです。ロング・イスンの森林開発の権利を有する伐採企業の2社は、同グループのコントロール下にあります。ハリタ・グループがロング・イスン村の慣習権を侵害し、コミュニティ慣習地からの撤退を拒否したことから、国際的な紙・木材認証制度の一つである森林管理協議会(FSC)に正式な苦情が申し立てられました。その後2017年にFSC認証の基準に対する違反が確認されたとして、FSCはロング・イスンの土地紛争に関連してハリタグループ企業1社の認証を取り消しました(注5)。2023年2月には、別のハリタグループの木材企業の認証が一時停止となり(FSC要求事項への重大な不適合のため)、FSCはハリタグループとの上記苦情に対応するために行っていた調停手続きの停止を発表しました(注6)


写真:バレンタインデーに合わせて行われたモンデリーズ本社前でのアピール行動、米国シカゴ、2023年2月14日 ©️Juliste G / RAN

RAN 森林キャンペーン・ディレクターのダニエル・カリロは「地球規模で、私たちは止めることのできない気候危機の瀬戸際にいます。これ以上の森林破壊はさらなる瀬戸際へと追い込むだけです。一方で、コミュニティの人々は私たちみんなのために貴重な熱帯林を守ろうとし、高まる脅迫と報復に直面しています。このような状況には今すぐ歯止めをかける必要があります。多国籍消費財企業には、今の状況を変える力があります」と強調しました。

RANはプロクター&ギャンブル、モンデリーズ、日清食品、そして本事例と関わりのある消費財企業に自社の調達方針を実行し、調達先であるハリタ・グループに、ロング・イスンの慣習林と重なる地域での木材事業案を含め、グループの全事業でのNDPE方針遵守を求めるよう要請しています 。

「ハート・オブ・ボルネオ」地域は、ボルネオ島の熱帯林の大部分が集中する北カリマンタン州と東カリマンタン州にあります。両州の森林の3分の2近くが今も企業の事業管理地内にあることから、この地域への脅威は高まっています。インドネシアの首都移転計画も間近に迫り、熱帯林への脅威をさらに大きくしています。

ハリタグループは、上記の件に関する申し立てを否定しました。同グループの返答はこちらに掲載しています。
RAN.org/publications/long-isun/

 

注1)報告書「ボルネオ島 最後の森林を守る:地域コミュニティ抵抗の事例」
日本語版
英語版

ウェブサイト「ボルネオ島の消えゆく森を守る 〜先住民族「ロング・イスン」の闘い〜」

モンデリーズ社への署名(英語)

注2)パーム油や紙パルプなど森林破壊を引き起こす産品事業の生産・投融資に欠かせない国際基準。NDPEはNo Deforestation、No Peat、No Exploitationの略。

注3)日清食品「ミルリスト」(2021年版)2023年2月閲覧
https://www.nissin.com/jp/sustainability/environment/business/procurement/pdf/PalmOilMills_2021.pdf

注4)PT. Titra Mahakam Resources Tbk. “PT. Tirta Mahakam Resources Tbk. Financial Statements.” IDN Financials. September 2022.
https://idnfinancials.s3-ap-southeast-1.amazonaws.com/financial-statements/TIRT/2022/3Q_2022_TIRT_Tirta+Mahakam+Resources+Tbk.pdf

注5)参考:Forests People Programme. “FSC to investigate renewed complaints of human rights violations by Roda Mas Group”. Forests People Programme June 2020.
https://www.forestpeoples.org/en/timber-pulpwood-and-fsc/press-release/2020/fsc-investigate-renewed-complaints-human-rights

注6)FSCジャパン「FSCはHaritaグループとの調停の中止を決定しました」、2023年2月9日
https://jp.fsc.org/jp-ja/newsfeed/fsc-will-not-pursue-mediation-with-harita-group

 

参考

RAN「キープ・フォレスト・スタンディング〜森と森の民の人権を守ろう」キャンペーン関連

プレスリリース:新報告書「森林&人権方針ランキング2022」発表〜日清食品、三菱UFJは低評価 〜 (2022/6/15)
https://japan.ran.org/?p=2011

プレスリリース:新報告書「森林フットプリント評価 2021」発表〜インドネシア・ボルネオ島の森林と地域コミュニティへの影響について、大手消費財企業10社の開示状況を評価〜(2021/10/22)
https://japan.ran.org/?p=1919

 

※更新:「ボルネオ島 最後の森林を守る:地域コミュニティ抵抗の事例」日本語版を追加しました(2023年3月20日)。

 

団体紹介
レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。
https://japan.ran.org

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
コミュニケーション:関本  Email: yuki.sekimoto@ran.org

共同プレスリリース:パリ協定に整合する気候変動対策の強化を求める株主提案の議決権行使結果(2022/11/8)

特定非営利活動法人 気候ネットワーク
国際環境NGO 350.org Japan
国際環境NGO FoE Japan
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

2022年4月、国内外の環境NGOとその代表者を含む複数の個人株主が、金融、商社、電力の3業界の4社(三井住友フィナンシャルグループ、三菱商事、JERAの株主である東京電力ホールディングスと中部電力)に対して気候変動対策の強化を求める株主提案を提出しました。これらの提案は、6月後半の各社の株主総会にて否決されましたが、表2に示すように一定数の賛同を得ることができました。提案は主に、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)勧告の内容に沿って、ネットゼロ達成のための具体的な計画の設定・開示を求めるものでした。

今回の調査からは、1) 定款変更という形式への課題が残る一方で、気候変動対策の強化を求める株主提案への支持が国内外の投資家の間で広がっていること、2) パリ協定と整合する経営戦略の策定・開示を求める提案への支持がより集まった一方で、企業のビジネスモデルの根幹に影響をおよぼし得る株主提案への支持も一定程度集まったこと、3) 大手議決権行使助言会社の判断に関わらず、企業との建設的対話(エンゲージメント)を通じて独自の判断を下す投資家が増えてきていること、が見てとれました。

ここに各提案に対する議決権行使の調査結果を報告致します。 

 

株主提案に対する議決結果

4社の提案に対する機関投資家の議決権行使状況を公開情報から調査した結果、2022年10月31日までに把握できたそれぞれの提案に対する賛否(企業・団体の数)は表1のとおりです。(提案詳細は表2を参照)

*分裂とは、企業またはグループ会社の中で議決権行使の賛否が分かれているケース。合計とは、各提案に対して議決権行使を行った投資家の中で、今回の調査で結果が確認できた企業・団体の数の集計。

気候変動に関連する株主提案は世界でも増加しています。こうした提案に対し、長期的な気候変動リスクに適応する戦略の策定および開示は企業価値の向上に資するとする賛成の意見がある一方、中長期的な企業価値に対する気候変動リスクは重要だが定款に入れ込むのは対象企業の業務執行に具体的な制約を加える懸念があるといった反対意見も見受けられました。

日本の会社法の下で株主からの提案を議題に載せるには、定款変更を求めるものに縛られている状況を踏まえると「定款への記載が妥当ではない」ことが判断理由とされてしまう点は課題です。一方で議決権行使結果を見ると、気候変動問題の重要性に対する理解は着実に広がっていることが見てとれます。

 

議案に対する賛成率

議案に対する賛成率からは、パリ協定と整合する経営戦略の策定・開示を求める提案(SMBCグループ議案4・三菱商事議案5)に対して、投資家からの賛成が得やすい傾向が見られます。とはいえ、企業の事業戦略(ビジネスモデル)の根本にも影響し得るネットゼロに向けた移行を求める株主提案にも10~20%程度の支持が得られていることは注目に値します。議決権の2/3以上の賛成を得られていない以上、法的拘束力はありませんが、企業としても無視できない数の機関投資家が気候変動対策の強化を求めていることを示唆しています。

大手助言会社や国内外の運用受託機関の判断

今年は、投資家の議決権判断に一定の影響力を有すると言われている、議決権行使助言会社大手のグラスルイス(Glass Lewis)とインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)の判断も大きく分かれました。

SMBCグループの議案4、三菱商事の議案5、6については、助言会社の意見が割れていたにも関わらず、株主から一定の賛同を得られたのは、2050年ネットゼロという明確な目標に向け、気候変動対策に関する方針に対して独自の判断を下す機関投資家が増えてきていることや、機関投資家が議決権行使前に企業とサステナビリティ(持続可能性)に関する建設的な対話(エンゲージメント)をする機会が増えていることが背景にあると思われます。

2020年にみずほフィナンシャルグループに株主提案を出した時点では、国内の機関投資家が助言会社以外の国外の機関投資家の動向に追随する動きは限定的でした。2020年に日本版スチュワードシップ・コードが改訂されて以降、日本の機関投資家にとっても「気候変動対策と経営戦略」のつながりについての認識が変化してきているように見受けられます。

定款変更に記載する内容として適切かという議論は残るものの、気候変動問題の重要性や、中長期的な計画が企業価値に影響をおよぼすとの認識への理解は広がってきています。その傾向は、国外の主な機関投資家の提案に対する議決権行使結果を見るとより明らかです。

国内投資家に比べると国外投資家は賛成票が多くなっています。一方で、エネルギー危機の中で脱炭素の機運が弱まりかねない状況下において、すべての提案に一括して「反対」した国外の大手資産運用会社があったことは懸念されます。

 

今後に向けて

国内外の機関投資家の多くは、2050年ネットゼロを目指す資産運用会社の国際的な枠組みである「ネット・ゼロ・アセット・マネージャーズ・イニシアティブ(NZAMI)」に署名しています。NZAMIのコミットメントを達成できるかどうかは投資先企業の行動に大きく依存するため、機関投資家は投資先企業に対し脱炭素化に向けた取り組みの強化・加速化を促していく必要があります。

企業側は、TCFDレポートを作成して情報開示を進めたり、2050年に向けた長期目標を設定し、独自の気候変動対策計画を公開するなど、一定の取り組みは進めていますが、株主提案の対象となったいずれの企業も2050年の目標達成に向けた具体的な計画を示すには至らず、対策は不十分なままです。各社は、株主提案への議決権行使結果も踏まえ、脱炭素目標に向けて現実的かつ具体的な行動を盛り込んだ計画を示し、行動を加速させていくことが強く求められています。

 

集計結果

株主提案への議決権行使結果(PDF)

 

関連情報

【プレスリリース】国内外の環境NGOが国内4企業に株主提案(2022年4月13日)

【共同プレスリリース】三菱商事への株主提案は否決:三菱商事は情報開示と気候変動対策の強化を(2022年6月24日)

【共同プレスリリース】 株主総会にて東電・中電とも否決、ただし東電は約9.55%(速報値)獲得(2022年6月28日)

【共同プレスリリース】投資家たちが日本企業に迅速な気候変動対策を要求(2022年6月29日)

本件の連絡先

気候ネットワーク   https://www.kikonet.org
東京事務所:TEL:+81-3-3263-9210
担当:鈴木康子 E-mail: suzuki[@]kikonet.org