サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

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プレスリリース:新報告書『生物多様性崩壊をもたらす金融業務』発表〜メガバンクら銀行、森林リスク産品に3070億ドルの資金提供〜(2023/12/7)

森林破壊・生物多様性損失・気候カオス・権利侵害を加速

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部サンフランシスコ、以下、RAN)を含む8団体で構成する「森林と金融」連合は、第28回国連気候変動会議(COP28)で「金融」がテーマである4日、新報告書「生物多様性崩壊をもたらす金融業務:熱帯林破壊を助長する銀行と投資家の追跡」を発表しました。本報告書は、大手金融機関が熱帯林地域における森林破壊、生物多様性の損失、気候変動、人権侵害をいかに助長しているかについて包括的に考察するもので、分析の結果、銀行がパリ協定締結以降の2016年から2023年9月、熱帯林破壊に関係している高リスク林業・農業企業に3070億ドル以上の資金を提供していることを明らかにしました。この結果は、世界の大手銀行と投資家の掲げる森林関連ESG方針が、森林と生物多様性の広範かつ継続的な損失を防止できていないことを示しています(注1)

 

表「森林リスク産品への融資・引受額 上位20銀行」
(2016-2023年9月、単位:百万米ドル)

*森林リスクセクター約300社(東南アジア、ラテンアメリカ、中央・西アフリカ)への融資・引受額、傾向。
日本のメガバンクはみずほ(8位)、MUFG(12位)、SMBC(17位)。

本報告書「生物多様性崩壊をもたらす金融業務:熱帯林破壊を助長する銀行と投資家の追跡」は、世界の熱帯林破壊の大部分を引き起こしている「森林リスク産品」セクターの6品目(牛肉、パーム油、紙パルプ、ゴム、大豆、木材)に携わる約300社の森林部門事業に対する商業資金の流れを概説・分析しています。報告書では、森林リスク産品セクターへの融資・引受と債券・株式保有において、どの銀行と投資家が最も大きな役割を果たしているかを明らかにしています。森林破壊を引き起こすリスクの高い銀行、つまり資金提供額上位30行のなかには、ブラジルやインドネシアなどの熱帯林諸国の大手銀行や、米国、欧州連合(EU)、日本、中国といった輸入および財政的に重要な管轄区域の大手銀行が含まれます。

報告書では同時に、影響の大きいセクターへの投資に適用される方針の内容についても評価しています。100を超える銀行と投資家の投融資方針を、環境・社会・ガバナンス(ESG)関連基準の38項目に基づき採点しています。残念ながら平均評価は100点満点中わずか17点と低く、30点以上の評価を受けた銀行と投資家は20社のみで、50点を超えた銀行はわずか2行でした。森林リスク産品セクターに提供される資金の量と、甚大な森林破壊と権利侵害の防止措置である投融資方針との間に大きな隔たりがあることが明白になりました。

報告書で明らかになったのは、森林リスク産品への資金提供者のトップはブラジル銀行とブラデスコ銀行です。両行は主にブラジルの牛肉セクターと大豆セクターに融資していますが、森林伐採と権利侵害を防止するための最低限の方針しかありません。米ウォール街の巨大金融機関であるJPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ、シティグループは紙パルプやパーム油セクターに多額の資金を提供していますが、各行の森林ESG方針は弱く、森林や生物多様性、人権を保護できていません。バンク・オブ・アメリカは100点満点中22点、シティグループは37点、JPモルガンはわずか15点と評価され、3社とも極めて低い評価となりました。

日本の金融機関は紙パルプとパーム油に多くの資金を提供しています。メガバンクではみずほフィナンシャルグループが約74億ドルと最も多く、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG、約58億ドル)、SMBCグループ(約46億ドル)と続き、3行ともトップ20銀行に入りました(表を参照)。方針評価については、日本の金融機関の平均得点は21点で、インドネシアやマレーシアの金融機関よりも低い評価となりました。日本の金融機関の方針は総じて環境・社会面よりもガバナンスに関して強い傾向にあります。みずほが38点で最も高く、SMBCが36点、野村グループが27点、MUFGが24点、三井住友トラスト・グループ(22点)、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は2点、公立学校教職員共済組合は0点でした(注2)。

また今回の調査結果は、主要な管轄区域において金融機関に強固な規制が適用されることが緊急に必要であることも浮き彫りにしています。報告書は、各国政府と金融機関が、パリ協定第2条1(c)と「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」のターゲット14と15の下で、気候変動と生物多様性に関する公的目標を達成すべく資金の流れを調整する責任を負っていると強調しています。しかし調査データによると、パリ協定締結後の2016年から2023年9月までの間、年間の融資・引受総額と投資総額は多少変動しているものの、森林リスク産品の継続的な生産拡大を促進している資本には減少傾向が見られないことを示しています。

「森林と金融」コーディネーターのメレル・ヴァン・ダー・マークは、「多くの人は、環境犯罪に関与している企業に金融機関が融資することが、ほとんどではないにせよ、多くの地域で法的に問題がないことを知ればショックを受けるでしょう。今回の調査結果は、国連のPRI(責任投資原則)やPRB(責任銀行原則)のような持続可能性イニシアティブに加盟している金融機関や、ネットゼロ(注3)を誓約している金融機関が、これらの目標の達成を不可能にしてしまうような企業に融資を続けているという、明らかな偽善を示しています。金融機関に独自のESG基準を設定するよう任せるだけでは、資金の流れを持続可能なビジネス慣行へ転換させるには不十分です。最終的には各国政府が、社会と私たちみんなが依存している生態系を守るために必要な政策と罰則措置を講じる必要があります」と強調しました。

本報告書は資金の流れを記録し、森林セクター方針を分析することに加え、こうした資金がブラジルのアマゾンやインドネシアの森林とコミュニティに与えている負の影響を示す事例もいくつか紹介しています。今回の調査によって、森林破壊企業4社(JBS、カーギル、ロイヤル・ゴールデン・イーグル(RGE)、シナルマス・グループ)が、社会・環境面での負の影響に広く関係し、長期にわたり常習的に悪質行為を行ってきたにもかかわらず、何十億ドルもの資金を集め続けていることが明らかになっています。4社が関係する社会・環境被害は、何年にもわたって続いているものが多く、多くの記録が残っています。

報告書は結論として、金融規制当局と金融機関が社会と私たち人類が依存している生態系を守るために必要な公正な移行を促進するよう、国際的な公共政策の目標に沿って、資金の流れを調整する緊急措置を講じる必要があると述べています。そのために「森林と金融」連合は金融セクターに、以下の5つの基本原則を採用するよう求めています:1)生物多様性の損失の停止と回復、2)先住民族と地域コミュニティの権利尊重と優先、3)公正な移行の促進、4)生態系の完全性(インテグリティ)確保、5)セクターや課題、金融サービス全般にわたって、気候変動・生物多様性・権利尊重の様々な機関目標と整合させること。

「森林と金融」は、キャンペーン活動や草の根活動、調査活動を行う団体の連合体であり、レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)、TuK インドネシア、プロフンド(Profundo)、アマゾン・ウォッチ、レポーターブラジル、バンクトラック、サハバット・アラム・マレーシア(国際環境NGO FoE Malaysia)、FoE USによって構成されています。

 

注1)報告書全文「生物多様性崩壊をもたらす金融業務(Baking on Biodiversity Collapse)」(英語)https://forestsandfinance.org/banking-on-biodiversity-collapse/

要約版(日本語)

「森林と金融」金融調査方法論(日本語)

『森林と金融』は、東南アジア、ラテンアメリカ、中央・西アフリカにおける紙パルプやパーム油など森林リスク産品への資金流入を包括的に分析したオンラインデータベース。金融商品、銀行・投資機関、国・地域、企業グループ、年、部門別に検索が可能。

  • 対象事業地域:世界三大熱帯林地域である東南アジア、ラテンアメリカ(アマゾン)、中央・西アフリカ(コンゴ盆地)
  • 対象産品:牛肉、パーム油、紙パルプ、天然ゴム、大豆、木材(森林リスク産品)
  • 対象期間:融資・引受は2016年から2023年9月、債券・株式保有は2023年9月時点

注2)方針評価の方法論(日本語英語

熱帯林生物群系における森林リスク産品セクターに関係する大手金融機関100社以上を対象に、環境・社会・ガバナンス(ESG)関連基準38項目を自社の投融資方針に盛り込んでいるかについて評価した。この基準項目は、国際的な合意やベストプラクティス(最良の手法や事例)から導き出したもので、金融機関は取引先や投資先がこれらの基準を満たすよう確保することで、ESG問題への加担を回避することが可能になる。日本からはメガバンク3行、三井住友トラスト・グループ、野村グループ、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)、公立学校共済組合が含まれる。

評価基準38項目の概要: 

  • 環境分野(12項目)森林破壊禁止の誓約、天然林や自然生態系の転換禁止の誓約。泥炭地、湿地、高保護価値(HC)林、保全地域、高炭素貯留(HCS)地域に関する具体的な項目。管理、汚染、農薬、温室効果ガス排出に関する項目など。
  • 社会分野(11項目):土地権の尊重、「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC)に関する権利の尊重、先住民族や地域コミュニティの広範な経済的・文化的権利の尊重。人権デュー・ディリジェンス・プロセス、モニタリング・システム、苦情処理メカニズムの確立。強制労働、児童労働、生活賃金、労働基本権に関する項目など。
  • ガバナンス分野(15項目):融資先企業のガバナンスに関する項目(汚職、租税回避、土地権の合法性の証明、環境・社会影響評価、サプライチェーンの透明性とトレーサビリティ(追跡可能性)、事業管理地の地図など)。金融機関自身のガバナンスに関する項目(取締役会による監督と報酬体系、方針の実施、苦情処理メカニズム、投融資の透明性など)。

評価は森林リスク産品の6品目別、および投融資に関して行われた。これらの詳細な評価は、金融機関の投融資ポートフォリオにおける各産品の相対的な重要性に基づいて加重平均の上、総合評価としてまとめた。

注3)温室効果ガスの排出量を、吸収量や除去量と合わせて、全体で正味ゼロにすること。

 

団体紹介
レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
東京都渋谷区千駄ヶ谷1-13-11-2F
関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

※更新
『生物多様性崩壊をもたらす金融業務:熱帯林破壊を助長する銀行と投資家の追跡』日本語要約版を追加しました(2023年12月15日)

『「森林と金融」金融調査方法論』(日本語)および『「森林と金融」方針評価方法論』(日本語)を追加しました(2024年2月、3月)

プレスリリース:新報告書「森林&人権方針ランキング2023」発表〜ユニリーバがトップ、P&G最下位、日清食品は改善するも取り組み遅れ〜 (2023/11/17)

大手消費財企業、森林破壊と人権侵害防止を公約するも阻止できず〜グローバル消費財企業10社の森林及び人権方針を評価〜

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日17日、新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング2023」(注1)を発表しました。

                 

本報告書は、熱帯林地域で森林破壊と人権侵害のリスクが高い産品に関与している大手消費財企業10社を対象に(注2)、各社の方針と実施計画を森林と人権の二分野で評価・分析するものです。サプライチェーンでの森林破壊と人権侵害を阻止するための取り組みを詳細な基準で比較評価した結果、ユニリーバが「C」評価で最も高く、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)が最下位でした。日本からは花王が「D」、日清食品ホールディングスは5段階で最低ランクの「不可」でした。報告書は、10社全社がこの重要な問題への取り組みについて「A」評価を得るには程遠く、欧州連合の森林破壊防止法(EUDR)のような新規制の要件を満たす目処も立っていないと結論づけました。これは銀行や投資家を重大なリスクにさらすことになります。

本ランキングは、大手グローバル消費財企業10社を対象に、サプライチェーン(供給網)における森林破壊と権利侵害を阻止するための取り組みについて比較評価するものです。各社の企業方針について森林と人権分野の12項目を24点満点で評価しています。合計得点に合わせてA(21〜24点)、B(17〜20点)、C(12〜16点)、D(6〜11点)、不可(0〜5点)で評価しました。本報告書は、パーム油、紙パルプ、大豆、牛肉、カカオ、木材製品など、森林を破壊するリスクのある産品(森林リスク産品)のセクターにおける傾向と動向を分析し、2020年から毎年発表しています。10社のランキングの詳細は以下の通りです。

*Y=ありor全て(2点)、P=一部(1点)、N=なし(0点)

【森林&人権方針ランキング2023】概要

■調査期間:2023年8月~11月

■調査対象者:大手消費財企業(10社):日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース

■調査方法:各社の環境及び人権に関する方針を調査・分析(ウェブサイトなどで公開されている最新版)、各社へのヒアリング

■主な森林・人権方針の評価項目(全12項目、各2点)

*2点:方針あり/ 全体に採用、1点:一部に採用、0点:方針・計画なし

  • 「森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE)方針・適用範囲:パーム油や紙パルプなど森林リスク産品事業の生産・投融資に欠かせない国際基準(注3)。特に、個別産品だけではなく森林リスク産品全般への適用、供給業者の企業グループ全体への適用を重視。
  • 「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)原則」の実施:先住民族および地域コミュニティの権利尊重(注4)
  • 人権擁護者への暴力や脅迫への「ゼロトレランス」(不容認)方針の有無(注5)
  • サプライチェーンの透明性:EUDR要件(注6)である、原料生産地までのフルトレーサビリティ達成の取り組みも含む(2023年版から追加)
  • 森林フットプリントの開示(注7)、など

■全体の評価・傾向

  • 取り組みが最も遅れていると評価された「不可企業」は日清食品、フェレロ、モンデリーズ、P&Gでした。P&Gは森林リスク産品セクターの横断的方針を公表した際に森林保護の要件を弱体化し、実質的に後退しました。
  • 中位グループではネスレ、ペプシコ、花王、コルゲート・パーモリーブに若干の進歩が見られましたが、マースはほぼ停滞しました。
  • ネスレ、マース、フェレロは自社サプライチェーンが「100%森林破壊フリー」(森林破壊のない)であると宣言していますが、第三者による独立検証された証拠を開示していなく、注意が必要です。
  • 「サプライチェーンの透明性」項目で得点を獲得した企業はありませんでした。これは大手消費財企業とその供給業社がEUDRの要件である「森林破壊のない製品であること」を確認する目処が立っていないことを示唆しています。

■日本企業の評価

  • 総合点は日清食品が不可(5点)で、花王はD(8点)でした。
  • 両社とも「NDPE方針」を既に採用し、2点の評価を得ています。
  • 「NDPE適用の範囲」については、花王は森林リスク産品全般の供給業者とその企業グループ全体も適用対象としていることが確認できたため、評価を2点に上げました。一方、日清食品グループ調達方針の環境分野にNDPE支持を記載していますが、NDPE主要項目が明記されているのはパーム油事業のみで森林リスク産品全般ではありません。また、供給業者にNDPEの採用を義務化していなく、供給業者の企業グループ全体も適用範囲に含んでいないことから、昨年と同じく得点はありませんでした。
  • 「森林フットプリントの開示」については、日清食品花王も実施を表明したことで1点を得ていますが、まだ開示はされていません。
  • 「強固なモニタリングとデューデリジェンス」で、花王は森林破壊リスクの高い地域と供給業者事業のモニタリング方法を開示して評価を改善し、1点を獲得しました。
  • 「問題企業の責任追及」では、日清食品は6月に「苦情処理リスト」を公開し、違法パーム油生産農園との取引停止を公表して1点を得ました。花王は小規模農家生産者を対象とした苦情処理メカニズムはありますが、大規模農園・植林企業などを対象としたリストはなく得点はありませんでした。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表の川上豊幸は「花王は方針強化を続け、10社中、中位グループの『D』評価を得ました。花王が直接調達していない産品であっても、供給業者とそのグループ企業全体が調達している全ての森林リスク産品を適用範囲として、NDPE方針の採用を義務付けるという点で評価を得ました。また、リスクの高い地域での森林破壊のモニタリング手法を開示したことで、花王の対応状況を確認することができるようになりました」と述べました。

続けて「一方、日清食品は3年連続で『不可』評価でした。苦情処理リストを公開したのは一歩前進です。しかし、NDPE方針が森林リスク産品全般に適用されず、パーム油に限定されたままです。またNDPE方針の採用を供給業者に義務化していません。そして持続可能なパーム油のみを2030年までに調達すると約束していますが、EUの新規制である森林破壊防止法(EUDR)は2024年末から施行され、域内で販売される製品には森林破壊のないことを確認した文書が要求されます。日清食品の目標は国際的に見劣りします」と指摘しました。

「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」キャンペーンは2020年4月の開始以来、評価分析を毎年実施し、今年で4回目の発表となります。地域のコミュニティやNGOとともにキャンペーンを展開し、消費者とともに消費財企業と銀行に働きかけてきました。現在、評価対象企業10社をはじめとする消費財企業や金融機関、パーム油大手の大半がNDPE方針を採用しています(注8)。しかし、消費財企業がNDPE方針を採用する多くの場合、原材料に使用する全ての森林リスク産品には適用されず、調達先など取引先の企業グループ全体にも適用されていません。つまり、パーム油など個別の産品でNDPE方針を策定しても、他の産品生産や企業グループ他社で森林破壊や搾取を起こしていれば、森林破壊や人権侵害への関与を禁止したことにはならず、大きな抜け穴が残ります。

多くの消費財企業は、原材料を供給するコングロマリット(複合企業)の一部門が方針に違反していることを知りながら、同じ親会社の別の部門と取引をしています。今回の方針評価を参考に、各消費財企業が森林破壊や人権侵害を助長しない努力をどの程度進めているか、消費者や金融機関、投資家は知ることができます。RANはさらなる森林破壊と人権侵害を防ぐために、大手複合企業のアグリビジネス企業と林業企業に対して大きな影響力をもつ消費財企業に、実質的な行動を早急に取るよう要求を続けます。

 

別紙「森林&人権方針ランキング2023」説明資料

RAN「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング」は、世界の大手消費財企業が自社の事業活動から森林破壊や人権侵害を排除するために行っている取り組みについて評価するとともに、進捗状況の概要を報告しています。市民社会は大手多国籍消費財企業に働きかけ、自社のサプライチェーンを変革するという約束を取り付けてきました。しかし実際には、森林破壊と、最前線で土地を守る人々への暴力は世界的に増加傾向にあり、消費財企業は依然として森林破壊や権利侵害から利益を得ています。

こうした憂慮すべき傾向は、大手消費財企業が公に掲げる美辞麗句と、破壊的な影響との隔たりをいまだに埋められていないことを示しています。消費財企業の不十分な方策の結果、供給業者に実質的に従来通りのビジネスの継続を許し、それによって破壊的な影響が引き起こされています。従来通りのビジネス慣行は、世界で最後に残された原生林景観や、長きにわたって森林と生物多様性を守り、管理してきた先住民族の領域へと企業が進出する結果を生んでいます。

日本企業各社の点数と評価概要、改善点(24点満点、昨年版は20点満点)

  • 日清食品(不可:5点、昨年:20点満点で4点): P&G、モンデリーズ、フェレロと並び、今年も「不可」評価だった。9月にグループの調達方針を改定し、それまではグループ全体の調達方針の前文にNDPEを支持と記載していたが、「地球・環境」セクションにもNDPEを支持と明記した。また同「人権の尊重」セクションにはFPICの支持も明記した。しかしこの改定ではNDPEの「支持」にとどまり、全ての供給業者への要求事項としていなく、進歩の機会を逸した。一方、6月に「苦情処理リスト」を初めて開示し、RANの指摘に対処する形で、環境・社会面で問題視されてきたパーム油企業との取引停止などの対応状況を公表した。日本事業向けの農園までのパーム油供給業者リストの開示について改善したと言える。持続可能なパーム油100%調達を2030年までに達成するという目標は大幅な前倒しが必要。
  • 花王(D:8点、昨年:20点満点で6点):継続して調達方針を改定して「自然生態系の転換や劣化の禁止」を追加し、NDPE方針が全ての森林リスク産品に関して「企業グループ」全体に適用されることを明確にしている。「企業グループ(Corporate group)」の定義は、アカウンタビリティ・フレ ームワーク・イニシアチブ(AFi)が定めた、信頼できる「企業グループ」の定義に基づいている。重視される点は、森林リスク産品の全てのサプライチェーンにおいて、取引先の企業グループ全体に対してNDPE方針が適用され、実施されることを確保することである。花王はまた、供給業者の事業における森林破壊リスクを特定するために使用しているモニタリング手法の概要も開示した。花王は小規模農家の生産者を対象とした苦情処理メカニズム/リストを持っているが、大規模農園・植林企業、加工工場、直接供給業者を対象としたリストはない。

概要:方針と実施計画の分析

今回の調査結果では、消費財企業10社全てが、業界標準の枠組みであるNDPE方針に名目上は取り組んでいるものの、多くの場合、原材料に使用する全ての森林リスク産品には適用していないことも示しています(表)。また、全ての森林リスク産品サプライチェーンにおいて森林破壊、自然生態系の転換、人権侵害を撲滅する期限を設定している企業は一社もありませんでした。本報告書は、各社が自社サプライチェーンの浄化を何年も前から約束しているにもかかわらず、実際には供給業社に従来通りのやり方(ビジネス・アズ・ユージュアル)の継続を許し、その結果、世界で最後に残された原生林景観や先住民族の領域へ企業が進出していることを明らかにしています。

NDPE方針

本報告書では、消費財企業が原材料調達を通じて森林と人々に与えている影響全体に真に対処するためには以下の3点の両方が必要だと強調しています。

  • 産品横断的アプローチ:各種森林リスク産品全てに森林・人権方針を適用すること
  • 企業グループ横断的アプローチ:取引先企業が属する・関連する企業グループ全体が森林・人権方針を遵守することを取引の要件とすること
  • 方針の完全実施と遵守の独立検証を達成する野心的な期限付き目標を設定すること

多くの消費財企業は、コングロマリット(複合企業)の一部門が方針に違反していることを知りながらも、同じ親会社の別の部門と取引をしています。この「ずれ」は、大手グローバル消費財企業に製品原料を供給する複合企業が、シャドーカンパニー(陰の企業)や記録に残らない事業を多用して改革を行ったように見せかけながら、従来通りのビジネス手法で事業を行い、責任逃れに成功していることが主な原因です。

表「消費財企業各社の調達する森林リスク産品と、実際のNDPE方針適用範囲の比較」(報告書より)

EUDRについて

欧州連合(EU)で「森林破壊フリー製品に関する規則」(EUDR:通称「森林破壊防止法」)が可決され、その施行日は間近(2024年12月末)に迫っています。これは、森林リスク産品の世界における大きな進展であり、本ランキングで対象とした消費財企業全社に大きな影響を与えることになります。EUDRは森林破壊防止のためのデューディリジェンスを義務化するもので、EUに畜牛、カカオ、大豆、パーム油、コーヒー、ゴム、木材製品を輸入する全ての企業に対して、販売する製品に使用されている産品を厳密な生産地まで遡って追跡することを義務付けるものです。しかし今回の調査結果では、「サプライチェーンの透明性」項目(森林リスク産品のサプライチェー ンにおける直接・間接供給業者を公開し、調達する全原材料の完全なトレーサビリティ達成に向けた取り組みを進めること)で得点を獲得した企業はなく、大手グローバル消費財企業とその供給業社がこの新規制の要件を満たせないであろうことを示唆しています。

景観保護イニシアティブへの投資

希望を持てる動きとして、多くの企業が景観保全関連の取り組みへの投資を増やしていることが挙げられます。取り組みには数千の小規模農家が参加したり、森林の保護や回復に関わるものもあります。ユニリーバとペプシコはその分野の先行企業で、インドネシアのアチェ州と北スマトラ州の政府とともに「管轄アプローチ」を初期段階から開発しています。両州には、世界的に重要な熱帯低地林である「ルーセル・エコシステム」があります。しかし本報告書では、このような保護プログラムは有望ではあるものの、変化の規模は十分な速度で起きておらず、世界的に重要なインドネシアの熱帯林「ルーセル・エコシステム」で森林破壊が今も続いていると警告しています(注9)。

 

注1)新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング2023」

方法論

「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」は、RANが2020年4月から展開しているキャンペーンです。熱帯林破壊と人権侵害を助長している最も影響力のある上記の消費財企業・銀行に実際の行動を起こすよう要求しています:www.ran.org/kfs-scorecard-jp/

注2)消費財企業(10社):日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース

*10社全社が全容を報告している唯一の産品であるパーム油を例にとると、10社合計で約230万トンのパーム油と、約140万トンのパーム核油およびその派生物を購入している(2022年)。パーム油世界市場の約3%、パーム核油世界市場の約17%に相当する(報告書より)。

注3)NDPEはNo Deforestation、No Peat、No Exploitationの略。森林減少や劣化に対しての保護(炭素貯留力の高い<High Carbon Stock:HSC>森林の保護、保護価値の高い<HCV: High Conservation Value>地域の保護)、泥炭地の保護(深さを問わず)、人権尊重、火入れの禁止といった要素を含む方針を公表している企業は「あり」の評価を得る。

*参考:「『森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止』(NDPE)方針とは?」ブリーフィングペーパー

注4)「FPIC」(エフピック)とは Free, Prior and Informed Consentの略。先住民族と地域コミュニティが所有・利用してきた慣習地に影響を与える開発に対して、事前に十分な情報を得た上で、自由意志によって同意する、または拒否する権利のことをいう。

注5)「ゼロトレランス・イニシアティブ」ウェブサイト

注6)EUの「森林破壊フリー製品に関する規則」(EUDR:通称「森林破壊防止法」):EU域内で販売される製品は生産地までのトレーサビリティの確認と、森林破壊等との関連有無を確認する「デューデリジェンス」の公表が義務化される。森林破壊と人権侵害の有無のリスク評価や確認も含め、グローバル企業は同法への対応が迫られる。

注7)「森林フットプリント」とは、森林を犠牲にして生産される「森林リスク産品」の消費財企業の利用や、銀行による資金提供によって影響を与えた森林と泥炭地の総面積をいう(影響を与える可能性がある面積も含む)。消費財企業と銀行の森林フットプリントには、供給業者や投融資先企業が取引期間中に関与した森林および泥炭地の破壊地域、さらに供給業者や投融資先企業全ての森林リスク産品のグローバルサプライチェーンと原料調達地でリスクが残る地域も含まれる。森林および泥炭地が先住民族や地域コミュニティに管理されてきた土地にある場合は、その先住民族と地域コミュニティの権利への影響も含む。

注8)チェーン・リアクション・リサーチ、 “NDPE Policies Cover 83% of Palm Oil Refineries; Implementation at 78%.” (仮訳:NDPE方針、パーム油精製工場の83%をカバーするも実施率は78%)、2020年4月28日

注9)RANブログ「インドネシア違法パーム油『炭素爆弾スキャンダル』続報〜『ルーセル・エコシステム』の野生生物保護区で森林破壊の新証拠〜」、2023年11月7日(英語版9月18日発表)

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
コミュニケーション:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

ブログ:インドネシア違法パーム油「炭素爆弾スキャンダル」続報〜「ルーセル・エコシステム」の野生生物保護区で森林破壊の新証拠〜(2023/11/7)

消費財企業、泥炭地破壊禁止を約束するもオランウータン生息地で徹底できず

*本記事は、英文”RAN Reveals Fresh Evidence of Illegal Rainforest Destruction for Palm Oil in Leuser Ecosystem”(2023年9月18日)の和訳に説明を一部追加したものです。

炭素爆弾」と呼ばれる泥炭林破壊

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)は2022年9月、米ニューヨークでの「気候週間」開催に合わせて調査報告書『炭素爆弾スキャンダル』を発表した。報告書では、大手グローバル消費財企業が、インドネシアの「ルーセル・エコシステム」内にある、国の保護区である「ラワ・シンキル野生生物保護区」で違法に生産されたパーム油を調達していることが明らかになった。

報告書発表から1年、RANの現地調査は再び、同保護区内で泥炭林の違法破壊が進行・拡大している新たな証拠を集めた。破壊されている地域は炭素が豊富な泥炭湿地で、世界的に重要な生物多様性のホットスポットである。一帯はオランウータンの生息密度が世界で最も高く、​​「世界のオランウータンの首都」と呼ばれている。

泥炭地の生態系は、地球上で最も効果的に自然の炭素隔離を行う陸上景観である。一方で、熱帯の泥炭湿地林は炭素を多く含み、一度水を抜かれて皆伐されると、長期にわたって膨大な量の二酸化炭素を大気中に放出する。泥炭湿地にアブラヤシ農園を開発する際は、水路を造成して排水する必要がある。泥炭地開発は「炭素爆弾」と呼ばれ、生態系と気候変動において重大なリスクである。

新たな「炭素爆弾スキャンダル」

新たな衛星画像と空中から撮影した映像によると、2022年の調査で9km長さだった水路は増え、2023年には少なくとも26kmおよぶ新しい水路が掘られている。この新規水路開発の増加は、保護区内の森林損失の増加を示す憂慮すべきデータと一致している。インドネシアの原生林のほとんどでは森林消失が減少傾向にあるが、ここでは逆のことが起きている。

水路を使って泥炭地から排水を行う破壊的行為の原因となっているのは、パーム油の生産である。このように生産されたパーム油は、消費財企業は、森林や泥炭地の破壊を禁止することを方針などで公に約束しているにもかかわらず、最終的には食品や日用品などのグローバル消費財企業各社のサプライチェーン(供給網)に供給されている。このような抜け穴は、保護区周辺にある搾油工場のネットワークが、トレーサビリティ(原材料の追跡可能性)やコンプライアンス(法令や方針遵守)のシステムを十分に整備していないことに起因している。

大手消費財企業は泥炭地での大規模アブラヤシ農園(プランテーション)の新規開発を2015年12月31日の「カットオフ日」   (*)以降、禁止している。それから8年近くが経つが、スマトラ島で最も重要な泥炭湿地地域での新規開発を止めることはできていない。同湿地林は、絶滅の危機に瀕しているスマトラオランウータンの生息密度が世界で最も高いことで知られている。*訳註:これ以降の違反は是正措置や回復措置を要する。

2023年もニューヨークで「気候週間」が開催された。期間中、世界最大手の消費財企業各社は「気候への影響に対処し、自社サプライチェーンにおける森林や泥炭地の破壊をなくす」と主張したが、それを単純に信用することはできない。巨大な炭素貯蔵庫であり、世界のオランウータンの「首都」でもある「ラワ・シンキル野生生物保護区」の原生林破壊が、同企業らのモニタリング下でも続いているのは極めて明白であるからだ

「ラワ・シンキル野生生物保護区」における違法排水路開発(上空からの映像)

 

縮小する保護区の境界線

最新の調査結果でRANは、既得権益を持つ地元の有力者たちが、保護区の境界線を縮小するようインドネシア政府を説得するために、保護区内の破壊を急ピッチで進めていることを示していると訴えている。我々は、保護区の境界線を変更して、最近皆伐された地域や既存の大規模違法アブラヤシ農園を保護区から再び外すよう、インドネシア環境林業大臣 を説得する企てが進行中であることを承知している。この企ては、前述の『炭素爆弾スキャンダル』報告書で違法パーム油を消費財企業に供給していることを暴露された  地元実業家のMahmudin氏 が、その後に行った約束(違法農園を保護区に戻し、回復させること)を反故にしたことからも明らかである。

以下の画像は、新規水路開発によって破壊が進んでいる「ラワ・シンキル野生生物保護区」内の森林地域で、RANの調査で上空から最近撮影されたものである。同保護区内の新規水路開発の大部分は、南アチェ県  Ie Meudama村の北側の地域に集中している。この村は、『炭素爆弾スキャンダル』報告書で、Mahmudin氏の農園で違法に生産・収穫されたアブラヤシ果房の集積場所として名前が挙げられている。

「ラワ・シンキル野生生物保護区」内にあるLe Meudama村の北側の地域では、新たな違法大規模アブラヤシ農園の開拓に向けて、かなりの森林が伐採されている。

コンシューマー・グッズ・フォーラムと日清食品などの消費財企業は行動を

コンシューマー・グッズ・フォーラム(CGF)、そしてモンデリーズ、ネスレ、コルゲート・パーモリーブ、ペプシコ、花王といった世界の有名消費財企業のほとんどが、「ラワ・シンキル野生生物保護区」の危機にいかに対処してきたか、詳しく説明する文書を発表していない。

RANCGFに対し、「ルーセル・エコシステム」で進行している「炭素爆弾危機」に対して行動を起こすよう求めている。皆さんにも署名への協力をお願いしたい(英語)

2022年「気候週間」期間中、RAN森林キャンペーン担当マギー・マーティンがCGFフォレストポジティブ連合 」メンバーに『炭素爆弾スキャンダル』報告書を提起

 

CGFには400社の消費財企業が加盟している。現在までのところ、『炭素爆弾スキャンダル』報告書が暴露した事実に対して、ユニリーバプロクター&ギャンブル(P&G)および日清食品の3社のみが公に回答を発表している。報告書に概説された問題が昨年から悪化していることを考えると、この消費財企業3社、そして同業他社やCGFがとった行動は十分だったとは言えない。

ユニリーバは、違法アブラヤシを調達しているとRANが暴露した搾油工場のうち、PT. Global Sawit Semesta と PT. Samudera Sawit Nabatiをサプライチェーンから除外し、この決定を「停止中・取引停止供給業者リスト」で公表した。しかし、ユニリーバの「苦情処理リスト」と「搾油工場リスト」によると、『炭素爆弾スキャンダル』報告書で指摘されている他の2つの工場(PT. Runding Putra PersadaとPT. Bangun Sempurna Lestari)は除外していなく、ユニリーバのアプローチは一貫していない。ユニリーバはまた、アチェ州における景観プログラムへの支援も挙げている。同プログラムは「ルーセル・エコシステム」北東部のアチェ・タミアン県 では好影響をもたらしたが、森林破壊と新規排水路開発が最も進んでいる南アチェ県では、こうしたプログラムは未だ確立されていない。

プロクター&ギャンブル(P&Gはこの危機に関して、保護区内の大規模違法アブラヤシ農園を回復するために供給業者と協力することを約束したが、過去数週間にRANは、この約束が果たされていないことを示す新たな証拠を得た。P&Gの供給業者が、問題の供給業者であるMahmudin氏による違法農園の返還は実際には行われないとの最新情報を発表したのである。P&Gは、直接供給業者(ロイヤル・ゴールデン・イーグル・グループ子会社のアピカル、ゴールデン・アグリ・リソーシズ、ムシムマス、ウィルマー)から違法なパーム油を調達するリスクを抱えたままである。

日清食品は、今年6月の株主総会の前に発表した新しい苦情処理(グリーバンス)リストのなかで、『炭素爆弾スキャンダル』報告書について回答した。これによると、日清食品は、報告書で特定されたコンプライアンス違反の供給業者のひとつであるIbu Nasti氏の農園からの調達を停止している。しかし、パーム油の搾油工場である PT. Bangun Sempurna Lestariに対しては取引停止を実施していない。同工場に関しては、「ラワ・シンキル野生生物保護区」内にあるIbu Nasti氏の違法農園から違法アブラヤシを調達していたことが発覚している。

EUDRへの対応 

欧州連合(EU)で新たに制定された「森林破壊防止法」(EUDR)の施行日が間近(2024年12月末)に迫るなか、大手消費財企業がこのような違法行為や熱帯原生林の破壊に関するひどく悪質な事例に効果的に対応できていないことについて、業界全体が懸念を抱き警戒するべきである。EUDRは、パーム油などの森林破壊を起こすリスクのある「森林リスク産品」を欧州に輸入する全ての企業に対し、供給元を生産場所まで詳細に追跡し、これらの供給業者が森林破壊や人権侵害を行っていないことを証明する「デューデリジェンス」を行うことを義務付けるものである。大手消費財企業が検証やトレーサビリティという基本的な行為を達成できないままでいることは、企業とその投資家をさらに大きな財務リスクにさらすことになる。いまだに存在する「抜け穴」をふさぎ、問題あるパーム油をしっかりと排除しない限り、そのようなリスクは続くだろう。

ラワ・シンキル野生生物保護区」内の泥炭地における新規水路開発の範囲を示す地図
黒点線:2022年に見つかった水路(9km)、赤点線:2023年に見つかった水路(26km)、ピンク:野生生物保護区の境界線、緑:原生林

ラワ・シンキル野生生物保護区」内の皆伐された土地は、泥炭地から水が排出された後に火が入れられる

違法な大規模アブラヤシ農園の造成に向けて、「ラワ・シンキル野生生物保護区」内の泥炭地から水を排水するために新しい水路が建設されている(南アチェ県)

『炭素爆弾スキャンダル』報告書の出版から1年後の2023年、「ラワ・シンキル野生生物保護区」内で泥炭林を破壊するブルドーザー

共同プレスリリース:日本企業に気候変動対策を求める投資家の圧力、一段と強力に(2023/6/29)

国際環境NGO マーケット・フォース
国際環境NGO FoE Japan
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

2023年6月29日(木) : 気候変動関連の株主提案は年々増えており、2023年の株主総会シーズンは日本企業に対して提出されたネットゼロの達成に向けた行動と透明性の向上を求める株主提案の数が過去最多となりました。

先週から本日にかけて実施された三菱商事、日本最大の発電事業者であるJERAの株を共同所有する東京電力ホールディングスと中部電力、メガバンク3行(三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ)の株主総会で気候変動に関する株主提案が決議されました。

株主提案を行ったのは環境NGOの気候ネットワーク、マーケット・フォース、 またFoE Japan、レインフォレスト・アクション・ネットワークに所属する個人です。株主提案を通じて、対象企業に対して短期を含めた排出削減目標の設定やさらなる引き上げ、気候関連リスクの管理の改善を求めました。

上記の株主提案の議決結果は、気候変動に関するリスクへの対処に関して課題を抱える企業に対して、引き続き厳しい目が向けられていることを意味します。

三菱商事

「今年の三菱商事の株主総会では、約2兆円(140億米ドル)に相当する投資家の約20%が、我々が提出した株主提案の1つに賛成票を投じました。これは、投資家が三菱商事の気候変動に関する情報開示の進展にまだ満足しておらず、2050年までのネット・ゼロへの実行可能な道筋があると結論づけるには不十分であることを示しています」
福澤恵(マーケット・フォース エネルギー・ファイナンス担当)

「昨年の株主提案以降、三菱商事は情報開示内容を拡充するなど、一定の進展がみられた一方で、気候危機を食い止めるために十分な削減目標などを設定していません。さらに、昨今のエネルギー危機は、化石燃料への依存を深めることは気候変動を悪化させるだけでなく、エネルギー安全保障をも悪化させるということを示しました。提案は否決されましたが、引き続き三菱商事の方針強化を求め対話を継続していきます」
深草 亜悠美 (FoE Japan気候変動・エネルギー担当/事務局次長)

中部電力

「中部電力の2050年に向けたロードマップは、実現性・具体性に欠けています。低効率石炭火力のフェードアウト、高効率のアンモニア混焼化などで目標を達成すると主張していますが、具体的な削減策は示されていません。持株会社であるJERAが、国内外で新規の化石燃料事業に関与し、GXのもとで脱炭素策としてのアンモニア混焼を広げようとしていることも問題です。中部電力およびJERAが2050年ネットゼロ目標を達成するための責任を果たすことを引き続き求めていきます」
鈴木康子(気候ネットワーク プログラム・コーディネーター)

東京電力HD

「東京電力では、2050年CO2排出ゼロを掲げながら、そのロードマップは具体性に欠け、根拠となる情報開示がなされていません。特にグループ会社であるJERAは国内最大の排出事業者であり、昨年の武豊火力に続き、今年、来年は横須賀火力と、次々と対策のとられていない石炭火力発電を新規稼働させる予定で、排出量は増大する見通しですが、その説明責任を果たしていません。私たちの提案は否決されましたが、引き続き情報開示を求めていきます」
桃井貴子 (気候ネットワーク理事・東京事務所長)

MUFG、三井住友FG、みずほFG

「MUFG の株主総会では、木質バイオマス発電は石炭などの化石燃料への融資に比べて相対的に少ないため、重要性(マテリアリティ)が少ないという発言が担当者からありました。続けて『マテリアティが増せば対応を検討する』との発言もあり、これは一歩前進したといえます。メガバンク全体では、木質バイオマス発電問題について少しずつ理解が進んでいますが、排出量の算定と厳格な方針策定には至っていません。今後、石炭火力発電への木質燃料の混焼が増えれば、排出量は確実に増え、石炭火力発電の延命につながります。このままでは脱炭素への適切な移行ができません」
川上豊幸(レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表)

「みずほの株主のおよそ2割の賛同を得られたことは、同行の化石燃料セクターの投融資方針と削減目標が2050年ネットゼロの公約と整合していないことに対する投資家の強い懸念が表明されたと言えます。また、株主総会開催前の段階でMUFGとSMFGの提案にはそれぞれイタリア最大手のアセット・マネージャーであるANIMAをはじめ、運用資産額1870億ユーロ(MUFG)、2780億ユーロ(SMFG)相当を保有する機関投資家がすでに賛同を表明しています。特に脱炭素へのトランジション(移行)の名の下に、新規のガス開発やLNG設備への支援を継続することは、気候科学に真っ向から矛盾し、グリーンウォッシュであるだけでなく、投資家に容認できない多額の財務リスクをもたらします。リスク軽減のためには、適切な財務およびESGリスク評価を行うとともに、気候科学に整合しない政府政策に依存するのではなく、科学に基づき株主が求めている新規の石油・ガスへの投融資を制限する方針を早急に掲げる必要があります」
渡辺瑛莉 (マーケット・フォース, 日本エネルギー金融キャンペーナー)

「3メガとも、年々ポリシーを改定あるいは強化を進めてきているとは云え、総会で経営陣の説明や質疑応答を聞いていると、気候危機、および気候変動の主要因となっている化石燃料に資金提供することについての危機感にギャップがあると感じざるを得ません。日本政府の方針に従っているのでは、ネットゼロに向かう世界の動きから取り残されてしまいます。銀行に限らず、民間各社が日本の脱炭素対策を牽引するようになってくれることを切に願っています」
鈴木康子(気候ネットワーク プログラム・コーディネーター)

報道機関関係者の皆様へ

気候変動に関する株主提案、2023年も日本は最多更新見込み

2023年、多くの投資家がグローバル企業の気候変動対策の遅れに対して、深刻な懸念を表明しました。化石燃料事業への投融資を続ける金融機関や脱炭素対策に遅れが見られる企業に対して、炭素集約型ビジネスへの関与から低排出セクターへの包括的な移行を求める声は強まる一方です。特に、金融機関の取り組みに対しては厳しい視線が向けられており、今年米国のJPモルガン(35%)やウェルス・ファーゴ(31%)、ゴールドマン・サックス(30%)、バンク・オブ・アメリカ(29%)に対して提出された気候変動対策における移行計画を求める株主提案の賛成比率(かっこ内の数字)は軒並み高水準となりました。2023年、日本のメガバンク3行に対して同時に気候変動に関する株主提案を提出した背景には、国際的な投資家や株主が共有する気候危機への強い危機感と、日本の銀行も早急に1.5℃目標に整合する対策を講じるべきとの考えがあります。

日本では、欧州の機関投資家・年金基金計3社からトヨタ自動車に対して気候変動対策における渉外活動に関する年次報告書を作成することを求める株主提案が提出され、国際的な注目を集めました。加えて、電源開発にも2年連続で仏・アムンディ、英・HSBCアセットマネジメント、豪・ACCR(Australasian Centre for Corporate Responsibility)から気候変動に関する株主提案が提出されています。そのほかの企業に提出された議案も含め、2022年に続き今年も気候変動に関する株主提案は過去最多となる見込みです。

日本と気候変動に関する株主提案の効果

マーケット・フォースは2021年、住友商事に対してパリ協定の目標に沿った事業活動のための事業戦略を記載した計画の策定、及び開示を求める株主提案を提出しました。提案は20%の賛成票を獲得し、その後の石炭火力に関するポリシーの改善につながりました。さらに住友商事は2022年2月にバングラデシュのマタバリ2 石炭火力発電所から撤退することを発表しました。

2020年、気候ネットワークがみずほFGに株主提案を行い、みずほFGは日本の銀行として初めて、2050年までの石炭火力フェーズアウト目標(後に2040年に変更)を設定しました。他の2メガバンクもこの動きに追随しています。

2021年、350.org Japan、RAN、気候ネットワーク、マーケット・フォースは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)に対し、株主提案を提出しました。決議後、MUFGは2050年までにポートフォリオ全体でネットゼロを目指すことを発表し、日本の銀行として初めてネットゼロバンキングアライアンスに加盟しました。その後、みずほFG、三井住友FGも追随しています。

2022年、350.org Japan、RAN、気候ネットワーク、マーケット・フォースは、三井住友FGに対して気候変動に関する株主提案を2件提出しました。株主提案の提出後、同社は石炭採掘部門の投融資方針を強化し、新規および既存プロジェクトの拡張と関連するインフラ開発への投融資を制限しました。2023年5月には、同社はEACOP(東アフリカ原油パイプライン)に関与していないことを発表しました。

気候変動対策を求める企業と株主の対話は、これまで上記のような形で株主提案に至りましたが、これらの議案は企業の取り組みの改善に重要な役割を果たしました。今年の株主提案の対象となった企業も、これまでに情報開示の改善を行っており、今年に統合報告書が公開されれば、さらに改善されることが予想されます。

 

Photo credit: 350 Japan

関連情報

株主提案に関するより詳しい情報(投資家向け説明資料など)は以下のページを御覧ください
Asia Shareholder Action

共同プレスリリース「国内外の環境NGOが東証プライム6企業に株主提案 〜メガバンク全3社含む日本企業の気候変動対策に問題提起〜」2023年4月11日

株主提案の内容に関するお問合せ先

□ マーケット・フォース(Market Forces) https://www.marketforces.org.au
担当者:Antony Balmain E-mail: contact[@]marketforces.org.au

□ 国際環境NGO FoE Japan https://www.foejapan.org/
担当者:深草亜悠美 E-mail: fukakusa[@]foejapan.org

□ 気候ネットワーク https://www.kikonet.org
東京事務所:TEL:+81-3-3263-9210
担当者:鈴木康子 E-mail: suzuki[@]kikonet.org

□ レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)japan.ran.org
担当者:関本幸 E-mail: yuki.sekimoto[@]ran.org

イベント(4/22):パーム油・熱帯林と私たちが食べている物の密接な関係

Earth Day みんなつながってる環境イベント大阪2023〜パーム油・熱帯林と私たちが食べている物の密接な関係〜アースデイの日にみんなで一緒に考えませんか?

世界有数の生物多様性の宝庫である熱帯林。
私たちの身近な消費生活が豊かな森を破壊することにつながっているかもしれません…

環境問題に関心がある、自分ができることを考えたい、仲間を集めてこんなことをやってみたい、パーム油・カップヌードルの現状をどうにかしたい…

ドキュメンタリー映画やワークショップを通して、身近な食べ物から、海外の環境問題について私たちにできることを一緒に考えましょう!

【日時】
2023年4月22日(土)9:00〜21:00
(オープンイベントです。映画の時間を除いて、ワークショップなども計画していますが、基本的にはインフォーマルな学びの空間、質問や意見などの交換の場所を提供します。):

映画上映①10:00〜 ②14:00〜 ③18:00〜
*映画の時間の合間にワークショップなどインフォーマルな学びの空間、質問や意見などの交換の場所を提供します。
*ヴィーガンのお菓子などエシカルな商品もご用意する予定です。

【上映作品】
「グリーン・ライ〜エコの嘘〜」(97分、2018年、ヴェルナー・ブーテ監督)https://www.cinemo.info/82m
スーパーで見かける「環境に優しい」商品。商品を買うと世界を救えるは本当?確かめるため監督自身が世界一周調査の旅へ出る。「環境に優しい」「サステナブル」耳触りの良い言葉の裏側に隠された残酷な真実に迫るドキュメンタリー。
解説:https://unitedpeople.jp/greenlie/exp

【場所】
ルマ・ボルネオ(https://nobuo5002.wixsite.com/ruma2
大阪府都島区都島本通3-8-10 2F

アクセス:大阪メトロ谷町線の都島駅から徒歩3分、またはJR桜宮駅から徒歩9分
*道案内:谷町線 都島駅 ①番出口をでます。オコメノカミサマというラーメン屋さんの方へ出てまっすぐ進み、炉ばた焼き屋さんの角を左折。

【対象】
環境に関心のある全ての人々。
「行動したいけどまだよくわからない」「環境問題に取り組む仲間が欲しい」というユースの方も大歓迎です!

【申込フォーム】
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdc3oFtQaLjSlRGEaUQt4ssiYd_Xw9Bgm6xvqU63g-m205EZw/viewform?fbclid=IwAR0Flo4L-FuVWiqmtFxPqAnLfP-7AeujTd_qYFM6nBsllefBbtJt0909urQ

【参加費】
基本的にありませんが、可能でしたら、500円のドネーション・カンパをいただけるとありがたいです。余裕のある方はそれ以上、余裕のない方はできる時で結構です。

また、カンパの代わりとして以下の行動も歓迎です!
・今日見たこと、経験したこと、聞いたことを友達、家族、知り合いなどに話す
・今日の感想をソーシャルメディアでシェアする
・RANの署名にサインをする
・署名したことを友達などに話す
・RANのサイト、YouTubeをみて勉強する
・RANのTwitterをフォローする
・RANやウータンのイベントに参加する
・ウータンのTwitterをフォローする
・ハッシュタグをつけてSNS投稿する #日清食品 #パームオイル #カップヌードル #森林破壊 #インドネシアの自然 #人権侵害 #野生動物 #安藤さん #doitnow #cupnoodles #nissin
・ウータンのサイト、YouTubeをみて勉強する
・ウータンの会員になる
・ウータンに寄付する
・RANやウータンの活動に参加する
・アメリカのRANのサイトで英語やインドネシア語を勉強する(日本語と英語、インドネシア語のレポートもたくさんあります)
・自分が学んだこと、気づきをみんなに言う、ソーシャルメディアでシェアする
・何かを買う時、それに何が入っているかチェックする。パーム油・植物油の入ったものならば、インドネシアなどの熱帯雨林、地元民、動物たちの犠牲によって成り立っている可能性があると理解する。

☆★署名に参加することもできます!★☆

日清食品さん、2030年では遅すぎます。 問題のあるパーム油は今すぐストップ! 地球と未来のために、DO IT NOW!

【主催】

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)
https://japan.ran.org/

ウータン・森と生活を考える会
https://hutangroup.org/

ウータン・森と生活を考える会は、「森を守りたい」と願う熱い心を持った人々が集まった市民団体です。オランウータン、テングザル、サイチョウ、昆虫、植物、菌類、微生物…多くの命がつながりあって、何万年もの時をかけて作られた生物多様性の宝庫であり、先住民にとっても、私たちにとっても、生きる糧を与えてくれるボルネオ島の自然豊かな熱帯林。一度絶滅すると二度と戻ることのない種が多くいる生態系の減少を食い止める活動、国内外のNGOや現地の村人とともに保全・再生する活動、原因となるパーム油などの大規模開発による熱帯林破壊を日本の消費者に伝える活動を、30年以上、市民の力で進めてきました。

プレスリリース:「化石燃料ファイナンス報告書2023」発表〜日本の3メガバンク、LNGと北極圏石油ガス、化石燃料全体と拡大への資金提供でワースト10入り(2023/4/13)

化石燃料への資金の流れを追跡し、気候破壊を引き起こす世界最悪の企業を支援する銀行による莫大な支援を詳述

米環境NGO レインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)をはじめとするNGOは、12日(米国東海岸時間)、新報告書『化石燃料ファイナンス報告書2023〜気候カオスをもたらす銀行業務〜』(第14版、注)を発表しました。本報告書は、化石燃料への銀行業務について最も包括的分析であり、化石燃料業界への資金提供状況を吟味することで、銀行による気候に関する公約の実態を明らかにしています。

『化石燃料ファイナンス報告書2023』概要

2019年以来初めて、カナダの銀行が米国の銀行 JPモルガンチェースを抜いて、化石燃料への年間での資金提供者の第1位となりました。カナダロイヤル銀行 (RBC) は、2022 年にタールサンド部門に48億ドル、シェールガス部門に74億ドルを含む 421億ドルを化石燃料プロジェクトに投じました。カナダの銀行が化石燃料の最後の手段となりつつあり、パリ協定発効以降、化石燃料企業に8,620億ドルを提供しています。RBC はコースタル・ガスリンク(Coastal GasLink)シェールガス向けパイプラインのような拡張事業に資金提供を続けています。このプロジェクトでは人権や先住民族の主権を侵害しており、先住民族リーダーの同意なしに進められています。

化石燃料への資金提供において、全体として米国の銀行が優位に立ち、2022年には化石燃料への融資全体の28%を占めていることを本報告書は示しています。シティウェルズ・ファーゴバンク・オブ・アメリカは、2016 年以来、依然として化石燃料への資金提供者の上位5行に入っています。一方、2022年の化石燃料企業全般への資金提供額で、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、みずほフィナンシャルグループ(みずほFG)、三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)のメガバンク3行は、ワースト10位に入りました。

欧州とウクライナの人々は、ロシアの残虐行為への資金提供をやめるために再生可能エネルギーへの移行を求めましたが、化石燃料会社は拡大を倍増させ、気候への取り組みを弱めました。液化天然ガス(LNG)を拡大している上位 30 社は危機を利用して、2021年に比べて2022年に銀行から50% 近く多くの資金を確保しました。ただし、ほとんどのエネルギー専門家が、ヨーロッパでのLNG 拡大計画は不要であり、新しいプロジェクトがこの化石燃料への供給過剰と長期的な依存に寄与してしまうことで合意しています。

報告書によると、これまでのところ、世界の銀行によるネットゼロの約束は何のメリットもありません。報告書で示した60銀行のうち49行がネットゼロのコミットメントを行いましたが、ほとんどの銀行が化石燃料拡大のための融資を除外する厳格な方針を伴っていません。実際の方針には化石燃料の顧客への融資を銀行が継続できるようにする多くの抜け穴が含まれています。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が 2023年3月の報告書で確認したように、今日生きている何百万人もの人々や、今後の数え切れない世代に渡る容認できない損害を回避する機会を人類に与えるには、化石燃料の拡大を止めなければならず、すべての部門で化石燃料の利用を急激に低下させなければなりません。IPCCは、気温を1.5度未満に保ち、安全で住みやすく、持続可能な未来を築くチャンスをもたらす窓が急速に閉ざされつつあると主張しています。

化石燃料部門別の傾向

●拡大企業: 本報告書で取り上げた60行の銀行は2022年に、TCエナジー、トータル・エナジー、ヴェンチャー・グローバル、コノコ・フィリップス、サウジ・アラムコを含めて、化石燃料を拡大している上位100社に1500億ドルを投入した。

●液化天然ガス(LNG): 2022 年の液化天然ガス (LNG)への資金提供額で上位の銀行は、みずほFG、モルガンスタンレー、JPモルガンチェース、ING、シティ、SMBCグループ。LNG に対する全体的な資金提供は、2021年の152 億ドルから2022年の227億ドルへと50%近く増加。

●オイルサンド(タールサンド): 上位のオイルサンド企業は、2022 年に210億ドルの資金を受け取りました。これらの資金の89%を提供したカナダの大手銀行が主導。TDRBCモントリオール銀行が上位にある。

●北極圏の石油ガス: 中国の銀行であるICBC、中国農業銀行、中国建設銀行が北極圏の石油ガス事業への融資を主導し、2022年にこのセクターの上位企業に総額29億ドルを投じた。米国の銀行を含む26の銀行がいまだ北極圏の石油ガスに資金提供。JPモルガンチェースシティバンク・オブ・アメリカ

●アマゾンの石油ガス: スペインの銀行サンタンデールは、アマゾンの生態系から資源を取得する企業への資金提供をリードし、米国の銀行シティが僅差で続く。2022年の資金調達総額は7億6,900 万ドル

●シェールオイルガス: フラッキングを行う企業への融資は2022年に合計670億ドルに達しました。これは、2021年に報告された上位のフラッキング企業の資金提供額を8%上回る。フラッキングによる極端なメタン排出量を考えると、この増加は特に気がかり。RBCJPモルガンチェースは、2022年とパリ協定発効以降で、フラッキングでの石油とガスの最大の資金提供者である。

●海洋の石油ガス: 欧州の銀行のBNPパリバクレディ・アグリコル、日本の銀行のSMBCグループは、2022 年の海洋の石油ガスのワースト資金提供リストの上位。2022 年の資金調達額は合計340億ドル

●石炭採掘: 世界最大の 30 社の炭鉱会社に提供された130 億ドルの資金提供のうち、87%は中国にある銀行から提供されたもので、中信銀行、中国光大銀行、興業銀行が率いていた。

●石炭火力発電: 石炭火力発電の世界上位30社への融資のうち、97%は中国の銀行から提供されたものです。石炭火力発電能力の拡大を計画しているこれらの企業は、2022年にプロファイルされた銀行から295億ドルを受け取った。

日本の3メガバンクの動向

上述の2022年の化石燃料企業全般への資金提供額のみならず、分野別では、LNGと北極圏石油ガス分野、化石燃料事業拡大企業への2022年の資金提供額でも、MUFGみずほFGSMBCグループの全3行が、ワースト10位に入りました。特に、LNG上位30社への2022年の資金提供で、みずほFGがモルガン・スタンレーに代わり初めて1位となり、2016年から2022年の資金提供累計総額でも、LNG分野で3メガバンクがワースト10位入りしました。化石燃料企業全体への資金提供では、MUFGが6位、みずほFGが8位で、SMBCグループは16位となりました。

 

以下は、化石燃料企業への資金提供額の推移を示しています。2016年のパリ協定発効時よりも資金提供額は増加した状況で維持されており、大きな増加傾向は見られませんが、大きな減少も確認できていません。

賛同団体からのコメント

気候ネットワーク プログラム・コーディネーター 鈴木康子

「気候危機を回避するためには再エネの主力化と脱炭素化を加速させる必要があることが明らかであるにも関わらず、本年の報告書でも、日本の3メガバンクを含む世界の大手60行がいまだに化石燃料事業に多額の支援をしていることが明らかになっています。3メガバンクともネットゼロ目標を掲げ、プログレスレポートの開示などを行っていますが、その一方で化石燃料事業への支援を継続していては、本当の気候危機対策は進みません。特にMUFGはアジアの化石燃料事業への金融支援が最大であると指摘されている上、日本政府が国内外、特にアジア諸国に向けて広げようとしているグリーントランスフォーメーション(GX)促進に積極的な姿勢を示していることが懸念されます」

マーケット・フォース、日本エネルギーファイナンスキャンペーナー、渡辺瑛莉

「日本のメガバンク3行が、2050年までのネットゼロ排出を達成するという宣言に反し、依然として化石燃料を拡大する企業への融資・引受を継続していることは容認できません。メガバンク3行は2022年において化石燃料への資金提供で世界トップ10に名を連ねており、メガバンクの同セクターへのエクスポージャーに伴う財務リスクについて、投資家の間で懸念が高まっています。3行とも新たな油田やガス田、LNGプロジェクトへの資金提供を制限する方針はなく、これは、2050年ネットゼロ排出達成のため、今後新規の石油やガスの開発は必要ないとする国際エネルギー機関の結論と明らかに矛盾しています。地球温暖化を1.5度に抑えるために残されている時間は僅かであり、メガバンク3行は、化石燃料セクターへの資金提供を減らすための方針と目標を早急に強化することが必要です。銀行は気候危機を解決するため、さらにはより良い環境を築き上げるために資金提供を行うべきです」

国際環境NGO 350.org Japanチームリーダー代行、伊与田昌慶

「この最新レポートは、パリ協定への約束とは裏腹に大手金融機関が化石燃料に対する巨額の投融資を継続している事実の告発状です。三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループなどの大手金融機関が関与を続ける化石燃料産業は、未曾有の気候危機に人々が傷つき倒れる中、過去最高水準の利益をあげました。

G7広島サミットを控え、日本の官民が気候危機を深刻化させる「化石燃料中毒」から脱却するか否かが注目されています。昨年発表された350.org Japan調査によって、日本の主な金融機関は、パリ協定採択後、再エネ関連企業への融資引受額の19倍もの資金を化石燃料関連企業に提供してきたことも明らかになっています。最新のIPCC第6次評価報告書に学び、化石燃料やアンモニア・水素混焼、原子力、CCUS等といったまやかしではなく、最も有力な再生可能エネルギーにこそ、その資金を投じるべきです」

 

注)日本語要約版

化石燃料の金融データ、方針スコア、最前線の現場からのストーリーを含む完全なデータセット(英語)は、bankingonclimatechaos.org からダウンロード可能。世界の主要民間銀行60行が化石燃料部門に行った資金提供を示した包括的な報告書。石炭、石油、ガス部門の約3,210社(親会社2,000社)に対する2016年〜2022年の7年間の融資・引受を分析の対象としている。

「化石燃料ファイナンス2023〜気候カオスをもたらす銀行業務〜」は、レインフォレスト・アクション・ネットワーク、バンク・トラック、先住民族環境ネットワーク(IEN)、オイル・チェインジ・インターナショナル、リクレイム・ファイナンス、シエラ・クラブ、ウルゲバルトによって執筆されている。世界70カ国以上の550を超える組織がこの報告書を支持し、気候破壊への資金提供を停止するよう銀行に呼びかけている。

 

団体紹介
レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
川上豊幸  Email: toyo[@]ran.org

※更新
『化石燃料ファイナンス報告書2023〜気候カオスをもたらす銀行業務〜』日本語要約版を追加しました(2023年9月28日)