サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

‘気候変動’カテゴリーの記事一覧

声明:米バイデン大統領就任、パリ協定復帰と「キーストーンXL」パイプライン建設認可取り消しについて(2021/1/22)

〜日本のメガバンクの高まる政治リスク〜

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、以下RAN)は、20日(現地時間)、ジョー・バイデン氏が米大統領就任直後にパリ協定に復帰し、「キーストーンXL」パイプライン建設認可を取り消したことについて、以下の声明を発表しました。

パリ協定復帰について

RAN 気候・エネルギープログラムディレクター パトリック・マカリー

「新政権が発足直後にパリ協定に復帰し、トランプ氏による気候政策の混乱を一掃し始めたことは確かに希望を与えてくれます。

しかし、世界の気候危機を起こした米国の大きな役割に対してバイデン政権が説明責任を果たすのであれば、米国の金融機関から世界の化石燃料産業への年間数千億ドルもの資金の流れを止める連邦政府の行動が必要です。米国の政策立案者は、ウォール街の銀行の気候フットプリントをこれ以上無視することはできません」

「キーストーンXL」パイプライン建設認可取り消しについて

RAN事務局長 ジンジャー・キャサディ

「今日、化石燃料産業に反対してきた人々の力によって勝ち取られた、遅れに遅れた勝利を祝います。『キーストーンXL』パイプライン建設の取り消しは、気候科学の論理と先住民の土地権利尊重の必要性を明確にしました。

気候危機対策をしっかりとるには、同様に破壊的な影響をもたらすエンブリッジ社の『ライン3』パイプラインの取り消しと、今後も経済を化石燃料に依存させる『ダコタ・アクセスパイプライン』(DAPL)と他の石油・ガス輸出事業の認可を取り消すことも必要です」

*日本語版追記

「キーストーンXL」パイプラインはTCエナジー社(旧トランス・カナダ社)が計画するオイルサンド・パイプラインで、カナダ・アルバー タ州のオイルサンド油田から米国ネブラスカ州を通り、メキシコ湾岸の製油所に向けて石油を輸送する。10年以上もの間、先住民族、牧場主や農家、環境保護活動家、若者など様々な人々が建設に抗議してきた。

日本の3メガバンクは、上記3つのパイプライン事業の建設に融資等している。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)とみずほフィナンシャルグループは、DAPLへのプロジェクトローンに主幹事銀行として関わった。キーストーンXL及びライン3には3メガバンク全てが参加し、その中でMUFGが最も大きな資金提供者である。今回のバイデン政権による認可取り消しによって、パイプラインを含む化石燃料事業への融資等に対する政治リスクが高まる。

参考:RANブリーフィングペーパー『北米パイプライン「ライン3」と「キーストーンXL」の黒幕〜オイルサンド・パイプライン建設を支援する世界の銀行』、2020年12月16日発行

英文:“RAN Response on Biden Rejoining Paris Agreement”

英文:“RAN Responds to President Biden’s Cancellation of the Keystone XL Pipeline”

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

発行物:北米パイプライン「ライン3」と「キーストーンXL」の黒幕〜メガバンクの関与

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、12月16日、ブリーフィングペーパー「北米パイプライン『ライン3』と『キーストーンXL』の黒幕:オイルサンド・パイプライン建設を支援する世界の銀行」(和訳版)を発表しました。

12月12日、「パリ協定」が採択されてから5年を迎えました。

新型コロナウイルスの感染拡大が厳しい局面を迎え、米国トランプ大統領の任期も残りわずかとなった今、エンブリッジ社の「ライン3」TCエナジー社の「キーストーンXL」という2つの大規模オイルサンド・パイプライン事業が北米で強引に進められようとしています。各パイプラインによって排出される温室効果ガスは、50基の石炭火力発電所に相当すると計算されています。

日本の3メガバンクは、オイルサンド部門の拡大に必要なパイプライン建設に多額の融資・引受を行っています。3メガバンクは今年初めて、オイルサンドに適用する方針を発表しました。キーストーンXLの建設資金をまかなう42億ドルのプロジェクトローンを確保するプロセスが進められる中、どのように方針を実施していくかが問われます。

TCエナジー社の「キーストーンXL」パイプラインはオバマ政権時代に計画が中止されましたが、トランプ大統領が建設を再承認し、政権交代前に建設が押し進められようとしています。バイデン次期政権が気候変動対策強化を打ち出す中、「ライン3」パイプライン建設も先住民族の抵抗が強まり、注目されています。両パイプラインは「ダコタ・アクセス・パイプライン」と多くの類似点があり、先住民族主導の激しい反対運動に直面しています。

3メガバンクを含む大手グローバル銀行は、両パイプライン建設への資金提供について、今後数カ月の内に明確な選択を迫られることになります。

ブリーフィングペーパーを読む>>
「北米パイプライン『ライン3』と『キーストーンXL』の黒幕:オイルサンド・パイプライン建設を支援する世界の銀行」(PDF)

ブログ:インドネシアとブラジルの森林火災をあおる銀行〜新型コロナによる複合リスクの脅威〜(2020/11/6)

責任ある金融 シニア・キャンペーナー ハナ・ハイネケン
(本ブログはRIEF環境研究機構に9月19日に寄稿したものです。11月6日更新)

写真:ヘリコプターによる消火活動と伝統的な高床式住居に迫る火の手、インドネシア オガン・コメリング・イリル地区ペダマラン小地区 画像提供:Nopri Ismi/モンガベイ・インドネシア

今年もまた、壊滅的な森林火災の季節がやってきた。すでにインドネシア、ブラジル、中央アフリカ地域の熱帯林、ロシア・シベリアの北方林、北米西海岸の温帯雨林を含む森林などでは火災が猛威を振るっている。火災は森林生態系の荒廃や気候変動を加速させている。こうした中、幸いなことに、ますます多くの銀行や機関投資家が火災に関与している企業や国家政府に対して影響力を持ち、森林火災への対処を迫ることができると自覚している。しかし、こうした銀行や投資家の取り組みは十分なのだろうか?

ブラジルでは、火災は土地投機や森林地帯への農地拡大と大きく関係している。牧草地や大豆農園の造成のために、土地を更地にする目的で火が放たれる場合が多いのである。そして、こうした火災の多くは未登録の土地で土地収奪の一環として発生しているため、犯人の特定が難しい。しかし森林リスク産品のESG(環境、社会、ガバナンス)リスク分析を専門とする研究イニシアチブであるチェーン・リアクション・リサーチの調査によると、2019年のブラジルの火災は、全体の50%近くが食肉加工会社のJBS、ミネルバ、マルフリグの買い付け候補地域で発生していることが判明している。サンタンデールとHSBCは、この食肉加工会社3社の上位金融機関に含まれる。昨今、火災は激しさを増している

写真:ハミルトン・モウラン副大統領とサンタンデール・ブラジル銀行の取締役会のメンバーとの会談(2020年7月23日、ブラジリアにて)、画像提供:Romério Cunha/VPR (ブラジル共和国副大統領府)

2019年にブラジルのアマゾン全域で火災が急増したことを受けて、16兆ドルの資産を有する国際投資家グループ(PRI及びCERESに署名している230機関)が声明を発表し、ボルソナロ大統領政権に問題への対応を迫った。森林火災への対応として声明だけでは不十分だが、金融部門に自らの役割を自覚してESG課題に対応することが求められていることを示している。

インドネシアではアブラヤシ農園やパルプ材植林地の拡大が原因で発生した火災に対し、ブラジルの場合のような投資家の介入は残念ながらなかった。農園企業は植え付け前の残渣除去、施肥、除草、害虫駆除の費用を節約し、違法で安価な整地方法として火を利用している。この持続不可能な農園開発が炭素を豊富に含む泥炭地で行われ、その相乗効果で火は往々にして手に負えないほど燃え広がり、何週間も鎮火できないこともある。気候への影響面でも、火災で生じる温室効果ガスの排出量はインドネシアがアマゾンを大幅に上回った

森林火災と新型コロナ:致命的な組み合わせ

こうした火災に由来する有毒な煙害(ヘイズ)は国境を越えて広がり、公衆衛生と経済に深刻な影響をもたらしている。今年は新型コロナウイルス感染症による副次的な影響が深刻化しそうだ。(火災によって発生するような)微粒子大気汚染がわずかに増加しただけでも、新型コロナによる死亡率が大幅に増加することはすでに複数の研究で示唆されている。インドネシアと近隣諸国では、毎年生じる煙害がすでに公衆衛生に深刻な影響を与えている。2016年に行われ広く引用されている研究では、2015年の煙害でインドネシア、マレーシア、シンガポール全体で早期死亡者が10万人に上ったと推定されている。2019年の煙害では100万人以上が呼吸器感染症を患っている。

近年、国境を超える煙害で通常の生活ができなくなる可能性は実証されており、すでに今年は新型コロナの世界的流行の影響のもと、弱体化した経済と国家財政が大打撃を受ける可能性がある。2019年のインドネシアの火災による経済的損失・被害額は52億米ドルと推定されている。ちなみに2015年は160億ドルであった。

インドネシアで森林火災をあおる銀行

2015年の火災を受けて、ジョコウィ大統領は火災危機を「組織的環境犯罪」と形容し、責任のある企業に対して厳しい措置を講じることを約束した。2019年、環境林業省(KLHK)は、火災を根拠にパーム油、パルプ材、ゴムなどの企業90社の関連事業を凍結した。それに伴い、24社が民事または刑事制裁を受けていると報告されている(社名はまだ公表されていない)。凍結された企業のリストは一部が公開・流出しており、うち37社が企業グループの親会社であることが特定されている。

政府が火災を起こした企業に対する対抗措置を強化しているにもかかわらず、調査が行われても意味のある制裁が行われた例はほとんどない。また、制裁が課されても実際に裁判所が執行した例はさらに少なく、数億ドルの罰金が未納のままとなっている。

リスク管理規制や金融部門のデューデリジェンス(相当の注意による適正評価)が存在しないことから、銀行はこれまでこの問題をほとんど無視し、燃えやすい泥炭地を開発している企業や、事業許可地で火災が発生したことのある企業に巨額の融資枠を提供し続けている。RANなどによる共同プロジェクトの「森林と金融」データベースは、特定された37社の企業グループのうち19社への資金提供を明らかにし、2015年から2020年4月までの間に、少なくとも374億ドルの融資と引受が行われたことを示している。この数値は、パーム油、紙パルプ、および天然ゴム部門への融資・引受のみを対象とするよう調整している。森林火災に関連する企業グループには、インドネシア最大手のパーム油と紙パルプ企業が多く含まれている。

2019年の火災に関与した企業グループへの融資・引受:上位20銀行

2019年の火災に関与した企業グループへの融資・引受:上位20銀行 (2015年~2020年第1四半期)単位:十億米ドル

インドネシアの場合、森林火災が経済・国家財政に莫大な負担をもたらすにもかかわらず、火災に関連する企業の債権者上位5行のうち、バンク・ラヤット・インドネシア(BRI)、バンク・ネガラ・インドネシア(BNI)、マンディリ銀行の3行はいずれも国有銀行で、3行合わせて82億米ドルの融資と引受を行っている。3行のいずれも、火災予防や、引火性の高い泥炭地での開墾拡大を顧客企業に禁止する方針を公開していない。

また、マレーシアやシンガポールの銀行も、国や国家経済が国境を越える煙害の影響を大きく受けているにもかかわらず、火災に関連する企業グループの主要金融機関となっていることが明らかである。また、シンガポールには租税優遇目的で、インドネシアの多くの財閥系企業(ロイヤル・ゴールデン・イーグルやシナルマス・グループなど)が上場したり、本社を構えたりしている。

こうした銀行の多くは、国連責任銀行原則(PRB)に署名し、事業戦略をパリ協定や持続可能な開発目標(SDGs)と整合させることを約束している。火災に関与した企業グループへの銀行融資がPRBの目標と整合しないのは明らかである。みずほフィナンシャルグループ(みずほ)、CIMBグループ、中国工商銀行(ICBC)、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、ラボバンク、三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)、ABNアムロ銀行などはそうした銀行の例である。また、ラボバンク、SMBC、ABNアムロ銀行には、顧客企業が火を使って土地を更地にすることを禁止する明確な方針もある。

法令を上回る基準

しかし、インドネシア政府が凍結した農園企業のリストは一部であって、2019年に発生した火災および煙害に関する責任の全容を明らかにするものではない。衛星画像と火災発生地点のデータは、事業許可地で大規模な火災が発生したものの、農園の凍結が報告されていない企業が他にも多数あることを裏付けている。ジャーディン・マセソン・グループのアストラ・アグロ・レスタリ(IDX:AALI)とシナルマス・グループのゴールデン・アグリ・リソーシズ(SGX:E5H)がその例である。

アストラ・アグロ・レスタリのパーム油の4つの開発事業許可地で、2019年8~9月に火災が発生。そのうち3つの許可地ではそれ以前の2016年から2018年にも火災が発生していた。4カ所とも開発が進められているのは泥炭地である。執行措置に一貫性が見られず、このこと自体、銀行が法執行機関からの開示を上回る、強力なデューデリジェンスを実施する必要があることを如実に示すものである。

Persada Dinamika Lestari (AAL)社の事業許可地内に確認できる火災の焼け跡

アストラ・アグロ・レスタリ(AAL)の上位金融機関には日本のメガバンクであるSMBCとみずほが含まれている。また、ジャーディン・マセソン・ホールディングス(AALの親会社)元取締役のジェームス・サスーン卿はMUFGのグローバル・アドバイザリー・ボードの委員で、利益相反の可能性が伺えることは特筆すべきであろう。またMUFGもゴールデン・アグリ・リソーシズ(GAR)の主要金融機関である。

ジャーディン・マセソンとシナルマス・グループへの資金の流れ (2015年~2020 4月の融資・引受額、単位:百万米ドル)

出典:「森林と金融」データベース

銀行がすべきこと

有効な制裁措置がない上に、膨大な与信枠があるため、企業は業務改革に向き合わず、自社が起こす火災によって生じる数十億ドルの費用を負担していない。

銀行は、火災を止めるために効果的なインセンティブと抑止策を直ちに採用し、気候危機、生物多様性の危機、そして新型コロナウイルスによってもたらされた健康危機への対処で、自らの役割を果たさなければならない。その対策には、顧客企業に対して火を使った開墾を明確に禁止すること、そして森林伐採、泥炭地開発、地域社会や労働者の搾取に一切関与しないことを義務付ける、包括的な「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止方針」(NDPE:No Deforestation, No Peat and No Exploitation)の導入を盛り込まなければならない。

*参考資料「シナルマス・グループ:インドネシア森林火災 最大の責任者」(和訳版 2020年10月発行)

発行物:パリ協定と整合性のある金融機関原則(2020/10/30)

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、10月30日、国連「責任銀行原則」(PRB)発足から1年を受けて、「パリ協定と整合性のある金融機関原則」を発表しました。

2020年10月26日、日本政府は「温室効果ガスを2050年までに実質ゼロ」にすると発表しました。政府の新目標は世界から遅れを取りながらも、一歩前進したと言えます。しかし実現のためには具体的な対策強化が課題となると同時に、炭素吸収源としての森林の保護も極めて重要となります。

この数カ月、世界の銀行でも気候変動対策に関する公約を発表する動きが続いています。HSBCとモルガン・スタンレーは温室効果ガスの実質ゼロを約束し、JPモルガン・チェース、バークレイズをはじめとする銀行ではパリ協定に整合性のあるファイナンスを約束しています。日本のメガバンクの対応に注目が集まります。

日本のメガバンクを含むPRB署名銀行は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)やパリ協定に沿った資金提供の実施を約束しています。公約を果たすためには、化石燃料の拡大、森林破壊および泥炭地破壊を引き起こす事業への投融資を直ちに停止する必要があります。

「パリ協定と整合性のある金融機関原則」では、金融機関がポートフォリオを「1.5度目標」と整合させるためにとるべき行動を提言しています。本原則にはRANを含む60の市民団体が賛同しています。

「パリ協定と整合性のある金融機関原則」(PDF)

メディア掲載:【動画】Brut JapanでRANハイネケンが取材を受けました

Brut Japan「メガバンクと気候変動の危険な関係」(2020年10月15日)〜RAN「責任ある金融」シニア・キャンペーナーのハナ・ハイネケンが、森林火災、気候変動とメガバンクの関係について取材を受けました。

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**関連するRANのプレスリリース**

「『森林と金融』グローバルのデータベース発表〜パリ協定後、森林破壊企業に1,500億ドルの資金が流入〜」(2020/9/2)

Photo by Erik McGregor

NGO共同声明:三菱UFJ、石炭火力向けプロジェクトファイナンス残高ゼロ目標 (2020/10/16)

依然パリ協定と整合せず、邦銀の遅れ目立つ

(English follows Japanese)

本日、三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)がサステナビリティレポートを公表し(注1)、「2019年度末時点で3,580百万米ドルの石炭火力発電向けプロジェクトファイナンスの貸出金残高を2030 年度に2019 年度比 50% 削減、2040年度を目途にゼロにする(但し、MUFG 環境・社会ポリシーフレームワークに基づき、脱炭素社会への移行に向けた取り組みに資する案件は除外)」との目標を掲げました。これは、本年4月および7月にそれぞれ同様の目標を掲げた、みずほフィナンシャルグループ(注2)、三井住友フィナンシャルグループに続いての発表であり、邦銀大手3行の足並みが揃った形となります。

 これは一定の前進ではあるものの、気候危機の緊急性を鑑みれば、不十分な目標設定としか言わざるを得ません。早急にさらなる厳格な目標設定と方針改訂が求められます。MUFGも署名している国連責任銀行原則(PRB)では、パリ協定と持続可能な開発目標(SDGs)にビジネス戦略を整合させることが謳われていますが、この度MUFGが掲げた目標は、時間軸の長さ、並びにスコープの狭さの両面で大きな問題があります。また、邦銀の石炭方針は、海外の金融機関と比べても依然低い評価に留まっています(注3)。

 最新の科学によれば、パリ協定の1.5度目標を達成するためには、先進国では2030年までに、途上国であっても2040年までに石炭火力発電所の運転を完全に停止する必要があります。償還期間を過ぎても何十年も石炭火力発電所が稼働し続けることを鑑みれば、与信残高ゼロはより早期に達成される必要があります。また、今回の目標では依然として、新規の融資契約の余地が残されています。新規の石炭火力発電所は、世界中で1基たりとも建設の余地のないことが科学的にも明らかとなっていますが、邦銀によるブンアン2(ベトナム)などの新規融資検討が懸念されています。同事業はパリ協定の目標と整合しないだけでなく、経済合理性の欠如、現地の環境汚染や住民への人権侵害など、様々な問題が指摘されています。新規石炭火力発電事業への融資を例外なく停止する方針を早急に掲げるべきです。

 また、スコープをプロジェクトファイナンスに限定し、コーポレートファイナンスを対象外としていることも問題です。石炭採掘を含む石炭火力のバリューチェーン全体を網羅したコーポレートファイナンス(注4)も対象に含めるべきであり、パリ協定に整合的な時間軸でのフェーズアウト戦略を掲げるべきです。海外では、顧客にパリ協定に整合的な時間軸での移行計画の提出を求めるエンゲージメントを行い、計画が不適格であればダイベストメントするという流れが加速しています。これは一例ですが、エンゲージメントを効果的に行うためにも、まず金融機関がパリ協定に整合的な戦略・目標のロードマップを示す必要があります。注5

 さらに、石炭火力だけでなく、炭素排出量の多い他の化石燃料関連事業や土地利用に関わる(注6)事業および企業に対する資金提供の停止や残高削減の方針も掲げるべきです。

注1) https://www.mufg.jp/dam/csr/report/2020/ja_all.pdf

注2) 4月公表の同グループの方針では、2050年までの目標設定だったが、6月に開催された年次株主総会で2040年を目処に達成できるという趣旨の発言がなされた。

注3) 欧州やアメリカ、シンガポールの銀行と比べても邦銀の石炭方針は低い評価となっている。https://coalpolicytool.org/ 
(参考:https://world.350.org/ja/press-release/200908/

注4) 石炭火力発電への依存度が高い企業・新規発電所および関連インフラ建設を計画中の企業向けの融資、株式や債券の引受・投資など。

注5) パリ協定と整合的な目標設定とロードマップを示そうとしている例として、仏BNPパリバの取り組みが挙げられる。https://350jp.org/tcfd/

注6) IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の2019年「土地関係特別報告書」(https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/kankyo/190809.html)では、農業、林業、その他土地利用による排出量が、人間活動による排出量の約23%を占めており、このうち、熱帯林減少による排出量が最も問題であるとされた。http://japan.ran.org/?p=1517

国際環境NGO 350.org Japan
気候ネットワーク
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
国際環境NGO FoE Japan
メコン・ウォッチ
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
国際環境NGOグリーンピース・ジャパン

<本件に関するお問い合わせ>
国際環境NGO 350.org Japan 渡辺瑛莉 japan@350.org

‘Inadequately aligned with Paris Agreement, Mitsubishi UFJ Financial Group lags far behind its international peers’

No Coal Japan coalition responds to banking giant’s new climate goals

Joint Press Statement
October 16, 2020

350.org
Kiko Network
Japan Center for a Sustainable Environment and Society (JACSES)
Friends of the Earth Japan
Mekong Watch
Rainforest Action Network
Greenpeace Japan

Japan — Today, Mitsubishi UFJ Financial Group (MUFG), the largest banking institution in Japan, released its Sustainability Report (Japanese version only), stating its goal of erasing US$3.58 billion loan balances for coal-fired power projects by 2040. This announcement follows those of its Japanese peers, Mizuho Financial Group and Sumitomo Mitsui Financial Group, which set the same goal in April (1) and July this year respectively.

In response to the announcement, the No Coal Japan coalition, formed by several civil society groups, including 350.org, Kiko Network, JACSES, FoE Japan, Mekong Watch, Rainforest Action Network and Greenpeace Japan, said:

“While this is a step forward for MUFG, this goal is inadequate given the urgency of the climate crisis, and the impact of coal-fired power plants and other fossil fuels on health amidst the COVID-19 pandemic. There is an urgent need for stricter goal setting and fundamental policy revisions in Japan’s financial sector.

The standard of Japanese banks’ coal policies including MUFG remains low as compared to overseas financial institutions. MUFG is also one of the signatories of the UN Principles for Responsible Banking (PRB), which stipulates that the signatory banks should align their business strategies with the Paris Agreement and the Sustainable Development Goals (SDGs).

The goal set by MUFG is problematic in both a lengthy timeline and narrow scope. According to the best available science, coal-fired power plants need to be completely shut down by 2030 in developed countries and by 2040 in the rest of the world to limit the warming of the Earth to1.5 degrees, aligning with the Paris Agreement. Given that coal-fired power plants will continue to operate for decades beyond the redemption period, a zero-loan balance needs to be achieved much sooner.

In addition, the goal still leaves room for financing new coal fired power projects. It is scientifically clear that there is no room for the construction of any new coal-fired power plant in the world. However, there are concerns that Japanese banks are considering new loans such as the coal-fired power station Vung Ang 2 in Vietnam.

“Not only is the project inconsistent with the goal of the Paris Agreement, it lacks economic profitability, and will pollute the local environment and violate the basic human rights of the local communities. To align with Paris goals, MUFG should urgently put in place a policy to suspend financing for all the new coal-fired power projects without exception.

The scope of the goal set by MUFG is limited to project financing and not applied to corporate financing. Corporate financing (2), which covers the entire value chain of coal-fired power including coal mining, should be included along with a phase-out strategy with a timeline consistent with the Paris Agreement. Internationally, there is an accelerating trend where banks ask their customers to submit a transition plan on a timeline consistent with the Paris Agreement, and divest from clients with inadequate transition plans. To effectively facilitate this process, financial institutions must first set a roadmap of strategies and goals that are consistent with the Paris Agreement.

Furthermore, in addition to coal-fired power, policies to stop funding other high carbon emitting sectors such as other fossil fuel sectors and land-use-related sectors (3), and targets to phase-out from those sectors should be put forward.

Notes to editors:

(1) In April, Mizuho Financial Group announced its goal of erasing its outstanding credit balance for coal-fired power projects by 2050. However, during its Annual Shareholders’ Meeting in June 2020, the group commented that this goal could be achieved by 2040.

(2) Loans, underwritings, equity and bond investments for companies heavily reliant on coal mining/coal-fired power and companies who have expansion plans for new coal mining/coal-fired power plants and related infrastructures.

(3) According to the IPCC Special Report on Climate Change and Land (2019), emissions from agriculture, forestry and other forms of land use make up 23% of total emissions from human activities, with deforestation in tropical regions being singled out as the biggest carbon emitter from the land-use.

Contacts:
Asia Pacific: Nicole Han, +65 9828 1538, nicole.han@350.org
Global: Nathalia Clark, +55 61 991371229, nathalia@350.org