サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

‘プレスリリース’カテゴリーの記事一覧

NGO共同声明:東京五輪は「見せかけのサステナビリティ」(2020/3/30)

〜施設建設で東南アジアの熱帯林を破壊、調達の失敗から教訓を学び是正を〜
東京五輪および「持続可能性大会前報告書」公表延期を受けて

国内外のNGO8団体は、本日30日、東京五輪の延期を受けて、東京2020大会主催者に東京五輪の木材調達による環境および社会への悪影響を認めるよう求める共同声明を発表しました。東京2020組織委員会は持続可能性報告書を3回公表する予定でしたが、2021年までの大会延期によって、2回目の「持続可能性大会前報告書」も延期される見込みです。延期によって、組織委員会はこの報告書を見直し、調達の失敗と教訓を記録し、持続可能性の実現ための明確な道筋を示すことができます。

「本声明の賛同団体は、東京五輪も含め、世界中の人々が現在直面している新型コロナウィルスによる生命、健康、生計手段への深刻な影響による緊急事態を認識している。パンデミックおよびそれに付随する経済的影響への緊急対応が当面の優先事項とされるべきとの認識の下、今回の声明を発表している。しかしながら、地球が急激な気候変動と前例のない生物多様性の損失という二重の危機に直面していることには変わりない。私たちはこれらの危機について人々の意識が東京五輪によって高まり、地球に生きる私たちにとってより持続可能で公正な未来を実現できるよう願っている

東京2020大会主催者は『持続可能な大会』の実施を約束しているが、現状は『見せかけのサステナビリティ』である。五輪施設建設に森林減少を引き起こした大量の熱帯材合板が使用されたことは明確な調達基準違反でありながら、基準の不遵守が起きていないように都合よく非常識な解釈をしている。前回の報告書(注1、2019年3月26日)では、大会主催者はこの問題に向き合わず、持続可能性の約束を守っているかのように見せかけようとしてきた。さらに、指摘された問題から学ぶという姿勢が見られない。このままでは東京五輪は『見せかけのサステナビリティ』でよいという『悪しきレガシー』を後世に残してしまう恐れがある。

大会開催が延期されたため、東京2020大会主催者は大会前報告書を見直し、持続可能性の面での失敗を認めて教訓とし、森林保護に必要な前向きな行動を促進できるはずだ。東京五輪が熱帯林破壊に加担した事実を認めて問題と向き合い、そして問題が起きた経緯を検証し、繰り返さないための対応策を教訓にすることが求められる。できたところだけを評価し、できなかった点は無かったことにしてしまうような、無責任な対応は許されない。持続可能性の担保方法に問題があった点を課題として真摯に認め、その是正策を国と東京都をはじめとする自治体、そして業界が持続可能な調達のために将来参考にできるよう、報告書で提示することが『真のレガシー』である。

森林、特に熱帯林は、地球の気候と降雨パターンを調節する重要な役割を果たしている。また、炭素を吸収かつ貯留し、そこに暮らす人々の生活や水、食料などの基本的ニーズを満たし、生物多様性の保護に不可欠である。森林と野生生物の生息地保護は、新型コロナウィルスのような死に至る感染症の防護物として認識され始めている(注2)。そのため、国連の「持続可能な開発目標」(SDGs)「ターゲット15.2」は2020年までの森林破壊阻止、「ターゲット15.5」は生物多様性損失の阻止及び2020年までに絶滅危惧種保護と絶滅防止の対策を講じることを目標としている。東京五輪はSDGsの推進も約束したが(注3)、熱帯材の大量使用はサステナビリティの取り組みと大きく逆行する。この点は、大会前報告書および大会後報告書に明記し、持続可能性に配慮した調達のための今後の教訓とすべきである

賛同団体
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN、米国)
TuK インドネシア(インドネシア)
サラワク・キャンペーン委員会(SCC、日本)
ウータン・森と生活を考える会(日本)
ブルーノマンサー基金 (スイス)
熱帯林行動ネットワーク(JATAN、日本)
国際NGO EIA(環境調査エージェンシー)
国際環境NGO FoE Japan(日本)

  

【これまでの経緯】
NGOは、東京五輪が熱帯林破壊に加担してきた問題を指摘し続けてきた。東京2020組織委員会が公表した情報によると(注4)、夢の島公園アーチェリー会場以外の全ての施設で熱帯合板が利用された。大会施設の基礎工事でコンクリートを成形するために使われた型枠合板は、インドネシアとマレーシア産合計で22万5千枚以上(全体の68%)にも上る。そのうち、持続可能性の認証を取得していないインドネシア産合板が新国立競技場と有明アリーナで、それぞれ約12万枚、約1万枚も使われた。国立競技場で使われたインドネシア産型枠合板は全体の36%を占め、丸太換算で約6,731立方メートルと推計される。これは、国立競技場の屋根等の国産木材使用量2,000立方メートルを上回る(注5)。また、認証されたマレーシア産木材の持続可能性も極めて疑わしい(注6)。以下、持続可能性の公約を守っていない二つの例を提示する。

持続可能でない「転換材」の使用について
第一に、持続可能でない「転換材」が大会施設の建設に使用された点にある。2018年5月、RANなどのNGOの調査によって、東京都が管轄する有明アリーナの建設現場でインドネシア産の型枠合板の使用が見つかった(注7)。この合板を製造した企業の工場では、2017年に製造された合板原料の約4割が炭鉱開発やアブラヤシ農園などの開発のために土地転換された熱帯林に由来していることが、インドネシア政府へ提出された書類によって確認された。その後、同インドネシア産合板を提供した住友林業は有明アリーナ及び新国立競技場の両方に転換材を提供したことを認め、東京都は有明アリーナに調達したインドネシア材のほとんどが転換材であったことを認めた。

このような「転換材」は森林を全面伐採する「皆伐」を伴うため、五輪の木材調達基準に定められた「中長期的な計画又は方針に基づき管理経営されている森林」由来とは言えない。また、科学者によると、すべての陸生種の約3分の2を熱帯林に生息しているといわれ、インドネシアは地球上の生物種の約1〜2割が生息する生物多様性の非常に豊かな国である(注8)。実際、五輪のために皆伐された熱帯林には原生林および絶滅危惧種のボルネオ・オランウータンの生息地の破壊も含まれることもNGOの調査でわかった。そのため、木材調達基準の「伐採に当たって、生態系の保全に配慮されていること」という項目にも反する(注9)。実際、五輪に皆伐された熱帯林には絶滅危惧種のボルネオ・オランウータンの生息地の破壊も含まれることもNGOの調査でわかった。

「通報受付窓口」の機能不全について
第二に、2件の苦情が上記の問題に基づいて大会主催者である東京都と日本スポーツ振興センターに通報されたが、苦情を受け入れず、責任逃れをするような姿勢も、持続可能性の約束を守っていない一例である。

2018年11月、RANは、ボルネオオランウータンと熱帯林を代弁して、新国立競技場を管轄する日本スポーツ振興センターと有明アリーナを管轄する東京都に、非認証のインドネシア産「転換材」の大量使用及びボルネオ・オランウータンの生息地を含む伐採地からの木材使用を理由に、調達基準の不遵守を通報した(注10)。しかし現在まで16カ月が経ってもこの通報については正式に苦情処理手続きを開始せず、東京都とスポーツ振興センターの対応には、これまでのやりとりで以下の4点の大きな疑問が判明している。

1.東京都の通報制度には、違反が疑わしい事例であれば対象案件とする規定があるが(注11)、不遵守が確定しなければ通報の処理手続きを開始しない、という独自解釈を行っている。

2.2019年1月の木材調達基準改定で「転換材」の調達禁止が追加されたが、東京都は改定前の「転換材」使用は、計画に基づいて農地などに転換され、適切に管理活用されるなら趣旨に反しないと容認されていると、重大な解釈変更を行っている。

3.東京都は、インドネシア政府によるオランウータン生息地評価では不十分で、オランウータンが伐採地にいることを証明できなければ不遵守とはならず、苦情として認めないとしている。

4. 日本スポーツ振興センターは、東京都が都への苦情を却下したという決定に基づき、同センターに通報された転換材の使用に関する苦情を却下した。
(*1〜3は、東京都との面談やメールでの返答、4は日本スポーツ振興センターからのメールでの返答による)

2019年3月に公表された持続可能性進捗報告書では「通報受付窓口」の運用が持続可能性を担保するメカニズムとして記載されたが、NGOの通報によって、このように通報制度が実際には機能していないことが明らかになった。

なお、上記を求めた署名には、世界中から約3万筆の賛同が集まっている。署名は二度にわたってオンラインで実施され、本日、組織委員会、日本スポーツ振興センター、東京都に提出された。同署名は、熱帯林破壊に関する通報を苦情処理の案件として受理すること、東京五輪の木材調達が熱帯林に与えた影響を調査すること、そして今後の調達方針の実施の改善について大会主催者に求めている(注12)。

注1)東京2020組織委員会「『持続可能性進捗状況報告書』の公表について」、2019年3月26日

注2)参考:英ガーディアン紙記事
Coronavirus: ‘Nature is sending us a message’, says UN environment chief」2020年3月25日

‘Tip of the iceberg’: is our destruction of nature responsible for Covid-19?」2020年3月18日

注3)国際連合広報センター「国際連合と東京2020組織委員会が東京2020大会を通したSDGsの推進協力に関する基本合意書に署名」、2018年11月14日

注4)東京2020組織委員会「『持続可能性に配慮した木材の調達基準』の実施状況に関するフォローアップについて」、2020年1月10日(2019年11月末時点。総数は33万1,700枚。その内、国産材は3万9,500枚、再利用は6万6,600枚でその多くは熱帯材である)

注5)注4)の公開情報によると、新国立競技場では117,800枚のインドネシア産コンクリート型枠合板が使われた。日本では、コンクリート型枠合板の典型的なサイズは、12X900X1800mm〜15x910x1820mmであり、合板の量を生産において利用する丸太の量に変換する場合に使用される係数は2.3となる(出所: UNECE/FAO)。これは約6,731立方メートルもの丸太材に相当する。

日本スポーツ振興センター「新しい国立競技場の竣工について」、2019年11月29日
※国立競技場で使われた国産材の少なくとも約9割が集成材であった。そのため、集成材における丸太換算率60%を適用すると(出所:林野庁)、約3,333立方メートルの丸太に相当する。

注6)RAN他「2020 年東京五輪􏰀熱帯材使用に関する公式な情報開示に対する NGO 􏰀解説」、 2018年2月

注7)RAN他、報告書「守られなかった約束」、2018年11月

注8)国際熱帯木材機関「熱帯林の生物多様性保全のためのITTO/CBD共同イニシアティブ」
ODA見える化サイト「生物多様性保全センター整備計画」

注9)東京2020組織委員会「持続可能性に配慮した木材の調達基準」(2019年1月改定)
※改定で「森林の農地等への転換に由来するものでないこと」が明記されたが、改定前の基準でも「中長期的な計画又は方針に基づき管理経営されている森林に由来するもの」と「森林に由来する」との記載があり、森林ではなくなる「転換材」は基準を満たせなかった。特に非認証材については「当該木材が生産される森林について、森林経営計画等の認定を受けている、 あるいは、森林所有者等による独自の計画等に基づき管理経営されているこ とを確認する」と管理経営されている森林についての中長期的な計画の確認が求められている。

注10)参考:RANブログ「東京五輪の木材スキャンダル、持続可能性と説明責任に問題あり」2019年9月9日

注11) 東京都「『持続可能性に配慮した調達コード』に係る通報受付窓口 業務運用基準」

注12)RANは東京2020大会主催者宛て(東京2020組織委員会、日本スポーツ振興センター、東京都)に、2回の署名を実施した。
2019年11月の署名(英語)
2020年3月11日の署名(英語)

*英語版声明はこちら Joint NGO Statement on Tokyo 2020 Olympics’ “Fake Sustainability”: Organizers called on to learn from & fix procurement failures linked to rainforest destruction in light of the Olympics postponement

レインフォレスト・アクション・ネットワーク
本件に関するお問い合わせ
広報 関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

NGO共同プレスリリース:RAN他「化石燃料ファイナンス成績表2020」発表〜3メガバンク、パリ協定後も化石燃料に約2,814億ドルを資金提供〜(2020/3/18)

みずほ、三菱UFJが世界トップ10入り

東京ーー米環境NGO レインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)他は、本日18日(米国太平洋時間 17日)、新報告書『化石燃料ファイナンス成績表2020」(注1)を発表しました。本報告書は、世界の主要銀行による化石燃料への融資・引受をまとめたもので、日本のメガバンク3行を含む世界の主要民間銀行35行は、2015年12月のパリ協定採択後の4年間で合計約2.7兆ドル以上を化石燃料部門に提供し、その額は停滞するどころか増加していることが明らかになりました。化石燃料産業への資金提供は2015年以降毎年増加しており、気候危機の最悪の結果を回避するために、気温上昇を1.5度未満に抑えることとしたIPCC(国連気候変動政府間パネル)の勧告(注2)に真っ向から反しています。

「パリ協定以降のワースト 12銀行」(日本語要約版より)

邦銀の中で、化石燃料部門に最大の資金提供を行なったのは三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)で、2015年12月以降に約1,188億ドルを提供しました。続くみずほフィナンシャルグループ(みずほ)も約1,031億ドルと迫りました。三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)は約596億ドルでした。これらの資金の約3分の1は化石燃料を拡大している企業の上位100社に提供されました。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク「責任ある金融」シニアキャンペーナー ハナ・ハイネケンは「歴史的なパリ協定が締結されて以来、メガバンクのMUFG、みずほ、SMBCグループは、約2,814億ドルもの巨額の資金を化石燃料に無駄に費やしてきました。MUFGとみずほだけで約90億ドルもの資金を世界の主な石炭火力発電企業30社に提供しました。緊急かつ大胆な行動が取られなければ、メガバンクはさらなる抗議(注3)、気候変動リスクをテーマとした株主提案(注4)、そして国際的な批判(注5)を受けるでしょう。気候危機への懸念が増すにつれて、銀行は評判を落とし、顧客基盤の弱体化につながるでしょう」と指摘しました。

*3メガバンクはアジア上位5銀行の1位、2位、5位

上記の調査結果に加えて、本報告書は、各行の化石燃料に関する総合的な与信方針と、特定の化石燃料部門に関する方針と融資・引受状況を評価しました。3メガバンク全ての評価は最も低く、化石燃料拡大への資金提供停止の公約は殆どありません。みずほとSMBCグループは、持続可能性を謳っている東京オリンピックのゴールド・スポンサーでもあります。

国際環境NGO 350.orgの日本支部キャンペーナー渡辺瑛莉は「3メガバンクは昨秋、国連責任銀行原則(PRB)に署名し、SDGsとパリ協定にビジネスを整合させることを誓約したにも関わらず、各行の方針は気候危機への対応としては全く不十分であり、世界の主要銀行と比べても大きく遅れを取っています。石炭はすでに世界の大部分のマーケットで経済性を失っており(注6)、メガバンクは石炭とその他の化石燃料への資金提供を継続することによって評判リスクと座礁資産リスクにさらされるでしょう」と指摘しました。

執筆団体、協力団体からのコメント

先住民族環境ネットワーク(IEN)
「キープ・イット・イン・ザ・グラウンド」担当 ダラス・ゴールドトゥース

「アマゾンから北極圏のいたる所で、これら世界の銀行の社会的事業許可は、気候危機による混乱と先住民族の権利侵害といった問題にあふれています。世界の銀行は、母なる地球および先住民族の生活の破壊に対して責任を負わなければなりません。銀行が是正措置を講じるまで長い時間が経ちすぎています。銀行は今、化石燃料への投融資から撤退しなければなりません」

気候ネットワーク 国際ディレクター 平田仁子
「日本の銀行は、気候変動への取り組みに大きく遅れており、そのリスクに向き合っていません。だからこそ私たちはみずほフィナンシャルグループの株主として、パリ協定に沿った投融資を行う経営戦略を記した計画を開示するよう求めています。化石燃料を支援し続けることは、日本の銀行を一層深刻なリスクにさらすだけでなく、私たちの地球のリスクも拡大させます。そのリスクをいかに回避するのかを説明するのは銀行の重要な責任です」

グリーンピース・ジャパン エネルギー担当 ハンナ・ハッコ
「金融機関は世界経済に対して大きな力と責任があります。これまで日本のメガバンクは、化石燃料の使用を可能にすることにその力を使ってきました。しかしメガバンクはいま、その責任を取り、石炭から脱炭素化へと資金をシフトし始めるべきです。MUFG、みずほ、SMBCグループは、気候危機への資金提供者としてではなく、気候危機の解決策の貢献者として見られたいのであれば、エネルギーに関する新たな与信方針をすぐに採用する必要があります」

【化石燃料ファイナンス成績表2020】概要・調査結果

•「化石燃料ファイナンス成績表2020」は世界の主要民間銀行35行が化石燃料部門に行った資金提供を示した世界で最も包括的な報告書であり、RAN、バンクトラック、先住民族環境ネットワーク(IEN)、オイル・チェンジ・インターナショナル、リクレイム・ファイナンス、シエラクラブが執筆し、世界45カ国250以上の団体が賛同している。石炭、石油、ガス部門に関わる世界2,100社に対する2016年〜2019年の間の融資・引受を対象としている。

日本のメガバンクの順位は35行中、MUFGが第6位、みずほが第9位、SMBCグループが第20位となった。2018年〜2019年にかけて、みずほとSMBCグループが化石燃料部門への融資・引受額を大きく増やし、それぞれ10%増、27%増となった。一方、MUFGは5%減少した。世界第1位はJPモルガン・チェースで2016年〜2019年の間、約2,686億ドルを化石燃料部門に資金提供した。

化石燃料を拡大している企業にはMUFGが約399億ドル、みずほが約343億ドル、SMBCグループが約248億ドルをそれぞれ提供した。算出方法は、新規の石炭および石油開発、ガス採掘、関連インフラの拡大を積極的に計画している100社への融資・引受額を合算した。

•世界の主要民間銀行の中でも、3メガバンクは、オイルサンド、北極圏の石油・ガス、海洋の石油・ガス、シェールオイル・ガス、液化天然ガス(LNG輸出入ターミナル)、石炭採掘、石炭火力発電に関わる世界の主要な30〜40社に顕著に資金提供を行っている。3メガバンク全ては液化天然ガスおよび北極圏の石油・ガスへの主要な資金提供者であり、MUFGとみずほは石炭火力とシェールオイル・ガスへの顕著な資金提供者である。MUFGは、北米のオイルサンド・パイプライン企業エンブリッジが建設するライン 3石油パイプライン(米国ミネソタ州)に資金提供を行う銀行の中で主要な役割を担い、影響を受ける先住民族コミュニティの激しい抵抗に直面している。

• 融資・引受額は、対象となる化石燃料関連企業の当該部門の事業活動に基づいて割引して算出。

   

*執筆者による新型コロナウィルスに関する注記
本報告書の執筆団体は、世界中の人々が現在直面している新型コロナウィルスによる生命、健康、生計手段への深刻な影響による緊急事態を認識しています。パンデミックおよびそれに付随する経済的影響への緊急対応が当面の優先事項とされるべきとの認識の下、執筆していました。しかしながら、気候変動が絶滅の危機であることには変わりありません。私たちが再び気候危機に目を向けることができるようになった時、本報告書のデータや分析が気候危機の脅威に真剣に立ち向かうために役立つことを願っています。

   

注1)RAN、バンクトラック、シエラクラブ、オイル・チェンジ・インターナショナル、先住民族環境ネットワーク、リクレイム・ファイナンス、「化石燃料ファイナンス成績表2020」日本語要約版
報告書全文(英語)
※350.org Japan、気候ネットワーク、グリーンピース・ジャパンは、本報告書を支持する250以上の団体に含まれます。

注2)国際連合広報センター「IPCC特別報告書『1.5℃の地球温暖化』の政策決定者向け要約を 締約国が承認」(2018年10月8日付 IPCC プレスリリース・日本語訳)2018年10月16日

注3)「Fridays For Future Tokyo」は3月6日、みずほ銀行に新規の石炭火力への融資を辞めることを求めて本社前でアクションを起こした。
ブルームバーグ「Young Climate Activists Change Tactics as Virus Spreads」、2020年3月16日(英語)

注4)NHK「『石炭火力への融資はリスク』 気候変動対策で株主提案」、2020年3月16日

注5)RAN「プレスリリース:三菱UFJの人権侵害・森林破壊・化石燃料への融資を批判」、2019年6月27日

注6)VOX, “4 astonishing signs of coal’s declining economic viability: Coal is now a loser around the world”, 2020年3月14日(英語)

団体紹介
レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

350.org Japanは米国ニューヨークに拠点を置く国際環境NGO 350.orgの日本支部として2015年4月に設立されました。350.org Japanは気候変動防止に向けた化石燃料への投融資撤退「ダイベストメント」を広めるために、「レッツ、ダイベスト!」キャンペーンを展開しています。このキャンペーンを通じて、「パリ協定」で定められている気温上昇を1.5℃未満に抑える目標に整合した投融資方針を策定することを邦銀に市民とともに呼びかけています。350.orgは180を超える国と地域で活動を展開しています。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク
本件に関するお問い合わせ
広報 関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

※記載に一部誤りがございましたので訂正いたします(2021年3月8日)。
誤)超深海の石油・ガス
正)海洋の石油・ガス

NGO共同声明:食品大手ペプシコ、パーム油への取り組みで包括的転換を採用(2020/2/27)

〜NGO、森林破壊と人権侵害に対処する方針強化と行動を高く評価〜

サンフランシスコ(現地時間25日)ーー世界2位の食品・飲料大手ペプシコ社は、包括的なパーム油調達方針の採用を発表し(注)、森林破壊、泥炭地破壊、人権侵害および労働権侵害のないパーム油サプライチェーンを確実にするための幅広い取り組みを約束しました。ペプシコ社のパーム油問題における転換は6年にわたるNGOのパブリックキャンペーンの成果で、同業他社間においても先駆的なものであり、「責任あるパーム油」生産が達成される必要性をパーム油業界に示しています。

 

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク アグリビジネス・キャンペーンディレクター ロビン・アヴェルべック(Robin Averbeck)は「ペプシコ社が包括的なパーム油調達方針と指導的行動を採用したことを称賛します。これらの方針を実施すれば、パーム油のサプライチェーンと幅広いパーム油業界に変化を促します」 と述べました。アヴェルべックは、ペプシコ社と協力して方針を改訂しました。

この方針は、ペプシコ社が直接取引をするサプライヤーから生産元までのサプライチェーン(供給網)全体に適用され、世界で使用される全てのパーム油およびパーム核油が含まれます。主な二つの改訂は、同社の方針が企業グループ傘下の供給業者にも適用されるようになったことです。つまり、ペプシコ社に直接販売されるパーム油だけでなく、事業全体および独立系サプライチェーンの供給業者にも適用されることから、同社がグループ規模で共同事業者とビジネスを行うことが期待されています。共同事業者にはインドフード社とその親会社のサリム・グループが含まれます。インドフードはインドネシア最大の食品加工会社で、ペプシコ社はインドネシアでのスナック食品製造のために同社との合弁企業を所有しています。インドフードとサリム・グループは、インドネシア全土でパーム油権益を握って事業展開していますが、その事業では労働酷使、法律違反、泥炭地皆伐が確認されています。さらに人権規定の改善にも取り組み、インドネシアの重要な森林地帯「ルーセル ・エコシステム」で起きている森林破壊への対応策を取るなど、パーム油業界で積極的な役割を果たすことも約束しています。

ペプシコ社の方針と、パーム油サプライチェーンについて公約された対応策は、RAN、インドネシアの労働権団体OPPUK、国際労働権フォーラム(ILRF)によって策定されました。上記3団体が展開した「紛争パーム油キャンペーン」によって、パーム油産業にはびこる森林破壊と労働権侵害に対して必要な注意を喚起しました。

 

インドネシアの労働権擁護団体OPPUKの専務理事ヘルウィン・ナスシオン氏(Herwin Nasution)は「世界的な気候危機の現実が明らかになり、インドネシアのような島国は最初で最悪の影響を受けています。問題を抱える『紛争パーム油』が、森林破壊と壊滅的な気候危機をもたらしています。また紛争パーム油は、インドネシア中のプランテーションで働くパーム油労働者にも危害を加えています。被害を受けているパーム油労働者のために、私たちはペプシコ社の誓約を称賛すると同時に、現場で実際の行動に移されるよう見守る必要があります」と強調しました。

 

国際労働権フォーラム(ILRF)の事務局長ジュディ・ギアハート氏(Judy Gearhart)は「私たちは2020年という重要な年に直面しており、農園労働者と環境保護のために”紙に書かれた約束”を現場での行動に移す必要があります。強制労働、人権侵害、サプライチェーンでの森林破壊の根絶を約束したペプシコ社、および他の多国籍企業は、これ以上、時間を無駄にすることはできません」と訴えました。

 

RANはキャンペーンの過程で、オンラインとオフラインの平和的な抗議活動を通じて、スナックフード企業に対して行動を取るよう支援者たちに働きかけました。10万人を超える人々が署名に参加し、ペプシコ社に電話をかけたりメールを送ったり、地域や周囲の意識を高めようと行動を起こしました。RANと協力団体は消費財メーカーの世界大手数社とパーム油の調達方針について交渉し、パーム油は森林破壊、泥炭地開発、人権侵害なしに生産されるべきだという要求を設定し、パーム油産業に変革をもたらしています。

*英文のプレスリリース:
“PepsiCo Adopts Comprehensive Shift in Approach to Palm Oil” 、2020年2月25日(サンフランシスコ現地時間)

*RANの報道向け説明資料(英語)

注)ペプシコ社の持続可能なパーム油についての調達方針(英語)

ペプシコ社の独立検証機関、ルーセル ・エコシステム、苦情処理に関する誓約(英語)

ペプシコ社のインドネシアでの労働者権利に関する誓約とインドフード社に関する声明(英語)

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

OPPUKは、インドネシア北スマトラのパーム油労働者の労働・生活状況に懸念を持つ学生運動と労働者によって2005年に設立されたインドネシアの労働団体です。OPPUKは労働者を組織し教育し、北スマトラとインドネシアの他地域でパーム油労働者の権利のための研究、政策提言、およびキャンペーンを実施しています。

国際労働権利フォーラム(ILRF)は、世界中の労働者のために公正かつ人道的な環境を達成するための人権擁護団体です。ILRFは子どもと強制労働、差別などの労働者の権利侵害を明らかにするために、労働組合とコミュニティベースの労働者の権利擁護団体と連携し、組織を作り団体交渉をしています。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク
本件に関するお問い合わせ
広報 関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

声明:JPモルガン・チェース、北極圏の石油・ガス開発と石炭に関する新方針を発表(2020/2/26)

〜 北極圏の石油・ガス開発事業への資金提供停止および新規石炭火力発電所への資金提供を制限〜

東京ーー米金融大手JPモルガン・チェースが24日、北極圏での石油・ガス新規開発事業と世界各地でのCCS無し新規石炭火力発電所へのプロジェクトファイナンスもしくはプロジェクト紐付きコーポレートローンの停止を発表したことを受けて、環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、RAN)は以下の声明を発表しました。今回の方針改善は、JPモルガン・チェースが化石燃料事業への世界最大の資金提供者として責任が問われ、抗議が高まる中で発表されました。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク
責任ある金融シニア・キャンペーナー ハナ・ハイネケン

「JPモルガン・チェースの方針改善は、世界トップの化石燃料への資金提供銀行として気候危機への責任を果たすには十分とは言えません。しかし日本の3メガバンクの方針よりもはるかに優れています。

三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループはJPモルガンとは対照的に、世界各地の石炭火力発電所および北極圏の石油・ガス開発事業への資金提供の禁止を一切約束していません。むしろ、重大なESG課題がある両セクターでの融資・引受額は世界上位となっています。

3メガバンクはJPモルガン・チェースの方針改善を受けて、世界各地の石炭火力発電所への資金提供の全面禁止をはじめ、気候危機に対応する方針を強化すべきです」

*JPモルガン・チェース方針改善の解説はこちら(英語):
RAN、シエラクラブ、“Media Briefer: Detailed analysis of JPMorgan Chase’s Environmental and Social Policy Framework Update”, 2020年2月

*英文プレスリリースはこちら:
“JPMorgan Chase Coal and Arctic Policy a Step Forward But Fails to Match its Climate Responsibility as the World’s #1 Fossil Bank”(2月24日、サンフランシスコ現地時間)

参考:RANら「化石燃料ファイナンス成績表2019」(2019年4月)

団体紹介
レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。http://japan.ran.org

プレスリリース:新報告書『森林火災・違法行為とメガバンク』発表〜3メガ、炭素吸収源の熱帯林破壊に加担し「気候危機」を加速〜 (2020/1/29)

〜インドネシア森林火災、熱帯林と泥炭地破壊、違法行為や人権侵害への資金提供を調査〜

米環境NGO レインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日29日、新報告書『森林火災・違法行為とメガバンク:東南アジア顧客企業3社の事例」(注1)を発表し、日本のメガバンクが2019年のインドネシア森林火災と煙害(ヘイズ)に関与した農業関連企業や、森林と泥炭地を違法皆伐した農園開発企業への資金提供を通じて「気候危機を加速させている」と批判しました。

火災が起きている泥炭地に放水するヘリコプター、インドネシア・南スマトラ、2019年
提供:NOPRI ISMI/ MONGABAY INDONESIA

本報告書は三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、みずほフィナンシャルグループ(みずほ)、三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)3メガバンクの銀行業務について調査し、分析からは以下が明らかになりました。

  • ●3メガバンクは、2019年の森林火災への関与が理由でインドネシア政府に農園事業を凍結された農業関連企業に、合計で10億米ドルを超える融資・引受を2017年から2019年8月に行っていた。
  • ●上記企業への資金提供額は、みずほが最も多く4億6,600万米ドル、MUFGが4億1,500万米ドル、SMBCが2億100万米ドルだった。
  • ●3メガバンクと財務的つながりが特に強いのはシナルマス・グループ(3行合計で3億6,500万米ドルの資金提供)、サリム・グループ(同じく6億400万米ドル)、ロイヤル・ゴールデン・イーグル・グループ(7,900万米ドル)といった、リスクの高い事業を展開している東南アジアの企業グループである。
2019年のインドネシア森林火災に関与した企業へのメガバンクからの資金の流れ
(2017年〜2019年8月の融資・引受額、単位:百万米ドル、出典:「森林と金融」データベース

RAN「責任ある金融」シニアキャンペーナー ハナ・ハイネケンは「3メガバンクは世界中の石炭火力発電所建設に資金提供すると同時に、地球で最も重要な炭素吸収源である熱帯林と泥炭地の破壊にも資金提供しています。つまり、二重に気候危機を加速させているのです」と批判しました。2019年のインドネシアの火災で7億900万トンの温室効果ガスが排出されたと推計され(注2)、同国は一連の火災だけで世界6位の二酸化炭素排出国となりました。

また本報告書はシナル・マス・グループ、サリム・グループ、ジャーディン・マセソン・グループの3社を事例とし、熱帯林と泥炭地破壊、違法行為、汚職、土地権と労働権侵害の証拠がありながらメガバンクが資金提供を続けている現状も解説しています。ハイネケンは「3メガバンクは国連『責任銀行原則』(注3)に署名することで、経営戦略を『持続可能な開発目標』とパリ協定と合致させることを約束しました。しかし3メガバンクの現行の銀行業務は内部コンプライアンスが機能していないことを表し、このようなリスクは投資家にはほとんど開示されていません。メガバンクは口先だけでなく行動で示すときです」と訴えました。

本来、森林と土地は強力な炭素吸収源ですが、森林破壊と森林劣化によって農業や林業などの土地利用部門はエネルギー部門に次いで2番目に大きな排出源になっています。特に熱帯林と泥炭地は重要な炭素吸収源であり、泥炭地は1ヘクタールあたり2,600炭素トン以上(注4)を貯留してくれます。しかし紙パルプやパーム油生産におけるインドネシアの泥炭地破壊関連の二酸化炭素の年間排出量は大きく、石炭火力発電所70基分(注5)に相当します。

注1)RAN『森林火災・違法行為とメガバンク:東南アジア顧客企業3社の事例〜SDGsとパリ協定に沿った資金提供を〜』

注2)Yoga Rusmana, “Forest Fire Emissions From Indonesia Worse Than Amazon, EU Says”, Bloomberg, 2019年11月27日 (英語)

注3)NGO共同声明「グリーンウォッシュはもういらない、好結果がともなう原則を〜国連「責任銀行原則」発足をうけて〜」2019年9月23日

注4)Frances Seymour and Jonah Busch, “BRIEFS: Why Forests? Why Now? A Preview of the Science, Economics, and Politics of Tropical Forests and Climate Change”, Center for Global Development, 2014年10月11日(英語)

注5)Nancy Harris Nancy Harris and Sarah Sargent, “Destruction of Tropical Peatland Is an Overlooked Source of Emissions”, 世界資源研究所、2016年4月21日

団体紹介
レインフォレスト・アクションネットワーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境・森林保護で最前線に立つ人々とのパートナーシップと戦略的キャンペーンを通じて、環境保護と先住民族や地域住民の権利擁護活動をさまざまな角度から行っています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

NGO共同声明:東京五輪「SDGs:2020年森林破壊ゼロ」達成に黄色信号(2019/12/20)

競技場建設による熱帯林破壊について大会当局に説明責任を要求
〜新国立競技場オープニングイベントを受けて〜

国内外のNGO 11団体は、本日20日、東京五輪・パラリンピックのメイン会場となる新国立競技場のオープニングイベント(注1)が21日に開催されることを受けて以下の共同声明を発表し、東京2020大会の施設建設によるインドネシアとマレーシアの熱帯林破壊が国連の「持続可能な開発目標」(SDGs)の「2020年までに森林破壊ゼロ」目標の達成を困難にしていると批判しました。

東京五輪開幕1年前セレモニーが開催された東京国際フォーラム前でアピール(2019年7月24日)

新国立競技場の建設で、東南アジアの熱帯林は多大な犠牲を強いられました。インドネシアとマレーシア産の熱帯材合板の大量使用によって、気候、生物多様性、先住民族と地域コミュニティの権利や生活が犠牲となり、貴重な熱帯林が劣化したり永久に失われることになりました。今日の祝賀ムードの中にあっても、新国立競技場の建設が不必要な損害を熱帯林に与えたことを忘れてはいけません。

東京2020大会当局はSDGsの推進を約束しましたが(注2)、熱帯材の甚大な搾取はSDGs達成を後退させ、特に「ターゲット15.2」(2020年までに森林破壊を阻止し、劣化した森林を回復する)は達成困難です。また「ターゲット15.5」(生物多様性損失の阻止と、2020年までに絶滅危惧種を保護と絶滅防止の対策を講じる)も達成できそうになく、東京2020大会の「SDGs」への貢献には『黄色信号』がともっています。

東京2020組織委員会が公開した情報によって、マレーシアとインドネシア産の熱帯材合板が新国立競技場等の土台のコンクリートを固める型枠として使用されたことが明らかになり、その量は丸太換算で最大6,902立方メートルに相当します(注3)。コンクリート型枠合板は、通常は数回使用された後に廃棄されます。このような使い方は自然資源の破壊的な消費であり持続可能でないとして、広く批判されています。熱帯林の重要性、つまり多くの陸上生物の生息地として、そして二酸化炭素吸収源としてだけでなく先住民族の人々が暮らす場所としての重要性を考えると、東京五輪の施設建設における熱帯材の使い捨ては、持続可能なオリンピックを開催するという日本の公約に違反していることは明らかです。

国立競技場の木材供給企業を詳しく調べると、インドネシア産型枠合板がコリンドという批判の多いインドネシアの企業が供給していることがわかりました。同社は、国立競技場で使われたインドネシア産型枠の全てを供給した可能性があります。コリンド社については、熱帯林伐採、土地収奪、違法行為、脱税問題が問われています(注4)。コリンド社の東京五輪関連の合板サプライチェーンを調べたところ、2017年に製造された合板の4割近くが炭鉱開発やパーム油等の農園開発のために土地転換された熱帯林に由来していることがわかりました。これには絶滅危惧種のボルネオ・オランウータンの生息地の破壊も含まれます(注5)。 また、同社は地域コミュニティの土地権を侵害し、保護価値の高い森林(HCV)地域を含む約3万ヘクタールの天然林を2013年以降にアブラヤシ農園拡大のために皆伐したこともわかっています。最近、森林管理協議会(FSC)はこれらの調査結果が事実であると正式に発表しました(注6)。国立競技場でのコリンド社の木材使用は、これらインドネシアの森林犯罪への東京五輪の関連性の明確な証拠です。

国立競技場は、違法伐採、汚職、土地権侵害の長い歴史があるマレーシア・サラワク州産の木材も相当な量を使用していました。競技場で見つかった木材は、過去に熱帯林破壊と人権侵害に繰り返し関与した伐採企業のシンヤンが供給していました(注7)。シンヤンの木材を国立競技場の建設に供給した合板工場は労働組合に対する差別行為でも批判を受けています(注8)。また以前、世界の6%もの生物多様性の宝庫といわれる「ハート・オブ・ボルネオ」で伐採事業を行なっていました。

私たちNGOは大会当局に、国立競技場と熱帯林破壊及び人権侵害とのつながりについて説明責任を求めています。しかし国立競技場を管轄する日本スポーツ振興センター(JSC)はこれまで、調達による悪影響について一切責任を取ろうとしていません。2018年11月、RANらはJSCに2件の苦情を通報しました: 1)オランウータン生息地の破壊を含む転換材の使用、2)土地権侵害に関与しているコリンド社の木材使用に関して。苦情を通報してから1年以上が経ちますが、JSCの苦情処理メカニズム(通報窓口)はこの苦情をいまだに通報案件として正式に受け入れておらず、受け入れるかどうか検討していると伝えてきました(注9)。これは苦情処理メカニズムが機能していないことを表しています。

東京大会当局とスポンサー企業は、この国立競技場での残念なレガシーについて説明責任を果たす必要があり、オリンピックのために熱帯林が、これ以上犠牲にならないことを確実にしなければなりません。大会当局は最初のステップとして、大会自体の持続可能性に関する方針に対する違反と、その結果生じた負の影響を公式に認め、苦情処理メカニズムを通じて改善措置の実行に協力する必要があります。また、石炭採掘による森林伐採からの木材も含め、全ての転換材が持続可能ではないと判断されるよう、今年1月に改定した木材調達方針の明確化を行う必要があります。

賛同団体
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN、米国)
熱帯林行動ネットワーク(JATAN、日本)
国際環境NGO FoE Japan(日本)
地球・人間環境フォーラム(日本)
ウータン・森と生活を考える会(日本)
サラワク・キャンペーン委員会(SCC、日本)
ブルーノマンサー基金(スイス)
サラワク・ダヤック・イバン協会(SADIA、マレーシア)
Tukインドネシア(インドネシア)
マイティ・アース(米国)
ボブ・ブラウン財団(オーストラリア)
国際NGO EIA(環境調査エージェンシー、米国)

注1)「国立競技場オープニングイベント~HELLO, OUR STADIUM」
注2)国際連合広報センター「国際連合と東京2020組織委員会が東京2020大会を通したSDGsの推進協力に関する基本合意書に署名」、2018年11月14日
注3)東京2020組織委員会「『持続可能性に配慮した木材の調達基準』の実施状況に関するフォローアップについて」、2019年8月2日
公開情報によると、新国立競技場では139,800枚のコンクリート型枠合板が使われた。その内、120,800枚が熱帯材である(117,800枚がインドネシア産、3,000枚がマレーシア産)。
※日本では、コンクリート型枠合板の典型的なサイズは、12X900X1800mm〜15x910x1820mmであり、合板の量を生産において利用する丸太の量に変換する場合に使用される係数は2.3となる(出所: UNECE/FAO)。これは約6,902立方メートルもの丸太材に相当する。
注4)コリンド社は、オフショアのペーパーカンパニーを使って韓国で脱税を行なった疑惑で調査され、韓国国税庁(NTS)から8,500万米ドルの罰金を科せられた。スン・ウンホ会長は不服申し立てをしている。
出典: Seung Eun-Ho vs Kepala Kantor Pajak Seocho, Kasus No. 2016GuHap69079, Tanggal pengumuman keputusan: 24/08/18
注5)RAN他、報告書「守られなかった約束」、2018年11月
注6)FSCジャパン「コリンドグループに対する厳しい改善措置の義務付け」、2019年7月24日
注7)RAN他「2020年東京五輪の熱帯材使用に関する公式な情報開示に対するNGOの解説」、2018年2月16日
注8) 国際建設林業労働組合連盟(BWI)による東京2020組織委員会への苦情, “Complaint by Building and Wood Workers’ International (BWI) & Timber Industry Employees Union of Sarawak”(英語)
注9)参考:RANブログ「東京五輪の木材スキャンダル、持続可能性と説明責任に問題あり」2019年9月9日

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

※追記(2019年12月21日)
・2018年10月時点で、コリンドはインドネシアで唯一の型枠用塗装合板メーカーであり(出典:日刊木材新聞、2018年10月16日付)、型枠用塗装合板は新国立競技場の建設現場で広く使われていたことがNGOの調査で確認されていた。また毎日新聞の記事では(2018年11月27日付)、コリンド社の合板を有明アリーナ(五輪のパレーボール競技会場)建設に供給した住友林業が、インドネシア産の転換材を国立競技場建設に提供したことを認めている。

・国際NGO EIA(環境調査エージェンシー、米国)を賛同団体に追加。11団体は声明発表時の数字、現在は合計12団体(12月21日時点)。