サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

‘パーム油’カテゴリーの記事一覧

メディア掲載:グローバルネットでRAN川上豊幸が寄稿しました(2019/8/30更新)

グローバルネット「特集/世界は森林減少を止められるか?-持続可能な森林利用への道」にRAN日本代表 川上豊幸が「地上に残された貴重な森『ルーセル・エコシステム』が破壊の危機に」を寄稿しました(2019年5月15日、8月30日更新)

「ルーセル・エコシステム」は、インドネシア・スマトラ島北部に位置し、まとまった形で残されたアジア最大の熱帯林地帯の一つです。長野と新潟の2県の広さに匹敵する約260万haの広大な地域に、絶滅危惧種のスマトラゾウ、サイ、オランウータン、トラが大自然の中で共存する地球上で最後の場所です。(記事を読む)

関連:署名「五輪スポンサー日清食品さん、森林破壊フリーの東京五輪に! 〜問題あるパーム油を使わないで〜」

オンライン署名実施中

プレスリリース:東京五輪スポンサー日清食品に「森林破壊フリーの東京五輪に!」署名開始〜問題あるパーム油を使わないで〜 (2019/8/21)

〜「即席ラーメン記念日」を前に、日清食品にパーム油調達方針の強化を求めて〜

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日21日、日清食品ホールディングスにパーム油調達方針の強化を求めて、「日清食品さん、森林破壊フリーの東京五輪に! 〜問題あるパーム油を使わないで〜」署名の日本語版を開始しました(注1)

東京2020大会まで1年を切り、同社に東京五輪スポンサー企業として、パーム油調達の方針強化を実施するよう、日本の消費者と共に働きかけていきます。日清食品は8月25日を「即席ラーメン記念日」とし、1958年のこの日に「チキンラーメン」を初めて発売したことにちなんでいます。

本署名は、署名サイト「change.org」で展開され、宛先は日清食品ホールディングス安藤宏基取締役社長 CEOです。日清食品が「持続可能性」を追求する東京2020五輪・パラリンピックの「オフィシャルパートナー」(スポンサー)であることから、環境面・社会面におけるパーム油調達方針の強化が求められます。パーム油は同社の看板商品である『カップヌードル』の揚げ油として利用されていますが、アブラヤシ農園開発による熱帯林破壊や、生産国での人権侵害など多くの問題が指摘されています。方針の具体的な強化内容としては、森林破壊ゼロを基本に、インドネシアやマレーシアなどパーム油生産国の熱帯林及び泥炭地の保護、アブラヤシ農園での労働権保護、先住民族や地域コミュニティの土地権を含む人権尊重が挙げられます。英語版の署名(注2)は2018年1月18日より開始し、これまで米国を中心に16,800筆が集まっています。

【日清食品のパーム油調達方針と実施について】
日清食品グループでは、今年から持続可能なパーム油円卓会議(RSPO)の認証油の利用を開始しました。しかし「マスバランス」(MB)と呼ばれる方法による調達で、非認証パーム油が混入されています。そのため、パーム油産業が引き起こしている森林破壊や気候変動への影響、様々な人権侵害といった問題への対応は困難です。

日清食品ホールディングスのウェブサイトによると、現在のグループ全体のRSPO認証パーム油使用量の比率は20%程度にとどまっています。同社は、2025年までにその比率を25%にまで高めることを目標としていますが、それでは不十分です。利用する全てのパーム油について、森林破壊や人権侵害などの、問題がある農園や企業から調達されていないかどうかを確認する「NDPE方針(森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止)」を採択するなど、責任ある調達に早急に取り組む必要があります。すでにネスレ、ハーシーズ、ケロッグ、ユニリーバなどの欧米企業は、NDPE方針の実施に取り組んでいます。

【日清食品のパーム油調達における取り組みの経過】
RANは、2013年に「スナック食品20キャンペーン」を開始し、日清食品に調達方針の策定及び問題点への対応を求める要請文を送付しました(注3)。日清食品はこれを受けて、パーム油調達方針を策定。同年、日清食品USAがRSPOに加盟しました。現在はRSPO認証油を全て利用していますが、非認証油が混入されているMBです。続いて日清食品ハンガリーも2016年にRSPOへ加盟し、現在は、非認証油の混入がない「セグリゲーション」(SG)のRSPO認証油を全て利用しています。

日清食品ホールディングスは2017年10月にRSPOへ加盟。日本では、2019年3月からRSPO認証油を利用開始していますがMBです。

注1)RAN「日清食品さん、森林破壊フリーの東京五輪に! 〜 問題あるパーム油を使わないで〜」署名
注2)RAN英語版署名「Olympic Sponsor Nissin Foods At Risk of Conflict Palm Oil」
注3)RAN「スナック食品20キャンペーン」は、20社の食品・菓子企業に、パーム油の調達方針の強化と、問題あるパーム油の排除を求めて、2013年に開始したキャンペーンです。日本からは日清食品と東洋水産が対象企業の20社に入り、調達方針制定と対応の遅れが指摘されました。英語のウェブサイトはこちら

レインフォレスト・アクション・ネットワーク
本件に関するお問い合わせ
広報 関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

声明:「ノーモア森林破壊、ノーモア人権侵害」〜東京五輪開幕まで1年〜 (2019/7/24)

〜IOCへ文書を送付、抜け穴のある調達基準と機能不全の通報制度を 「東京五輪のレガシー」としないために〜

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日24日、東京五輪開幕まで1年となることを受けて、「問題のある木材も利用可能とした調達基準と、それを許している通報制度を『東京五輪のレガシー』とすべきではない」とし、以下の声明を発表しました。

東京五輪開幕1年前セレモニーが開催された東京国際フォーラム前でアピール(2019年7月24日)

東京五輪開幕まで、あと1年と迫ってきました。 

 東京五輪会場の建設用の木材調達について、私たちNGOはインドネシアやマレーシアでの熱帯林破壊から人権侵害まで、様々な問題を指摘してきました。その結果、東京2020大会の「持続可能性に配慮した木材の調達基準」は今年1月に改訂されました。しかしその基準は、問題ある企業からの高リスクの木材をサプライヤー企業が利用し続けることが可能となっており、大きな抜け穴を残したままです。開幕まで1年となった今月においても、競技会場の建設現場で熱帯材が使い続けられていることが確認されています(注1)。

 加えて、木材調達基準の遵守状況を確認する「通報受付窓口」の体制も脆弱です。例えば、NGOの調査で、森林減少を引き起こす農地等への転換に由来する木材である「転換材」が建設事業に利用されていたことが明らかになりました。RANなどNGOは「転換材は持続可能でない」とし、昨年11月末に「調達方針の不遵守」として、東京2020組織委員会、および各施設を管轄する日本スポーツ振興センター(JSC)と東京都に複数回にわたって通報を行いました。しかし、いまだに説明責任は果たされていません。ある通報では、本来のプロセスを逸脱して、通報者である私たちNGOからの情報収集は行なわず、サプライヤー企業の情報にのみ基づいた不公平な判断を行なって、処理開始の案件としませんでした。別の件では、8ヵ月に渡り処理開始の判断がないままの状況にあり、通報の処理体制でも問題が顕在化しています(注2)

 問題のある木材も利用可能とした調達基準、そして、それを許している通報制度を「東京五輪のレガシー」とすべきではありません。持続可能性の観点からどのような問題や課題があったのかを明らかにした上、引き継ぐべきレガシーを考えるべきです。

 国連の持続可能な開発目標(SDGs)では、ターゲット15.2で2020年までに森林減少を阻止することが明確に示されています。そのためには、森林減少の大きな要因である農園開発や産業植林のための土地転換を食い止めることが必須です。

 RANは、東京五輪開催までの1年、今後も調達対象となるパーム油や紙パルプ製品についても二度と森林減少を引き起こさないよう、「ノーモア森林破壊、ノーモア人権侵害」の実現に向けて活動を進めていきます。

*7月18日(米国時間)、RANは、国際オリンピック委員会へ「東京2020大会の通報制度への深刻な懸念(Subject: Serious Concers regarding Tokyo 2020 Grievance Meganisms)」文書(英語)を電子メールで送付し、東京五輪の通報制度が国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」の原則(31. 非司法的苦情処理メカニズムのための実効性の要件)に反していることを指摘しました(コミュニケーション不足:透明性、予測可能性、説明責任。手順を逸脱したサプライヤーの情報に基づく不公平な判断:正当性、公平性)。

動画「守られなかった約束: 東京五輪がインドネシアの森林減少に加担」
撮影地:インドネシア 東カリマンタン州、撮影日:2019年3月
解説:オランウータン専門家 ハルディ・バクチャントロ氏(Centre for Orangutan Protection 代表)


注1)マレーシア サラワク州産の合板(タ・アン社製)が代々木競技場で確認(7月15日)
注2)「熱帯材合板: 東京五輪木材調達基準違反に関する通報」概要&一覧(7月26日改訂版)

レインフォレスト・アクション・ネットワーク
本件に関するお問い合わせ
広報 関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org


プレスリリース:三菱UFJの人権侵害・森林破壊・化石燃料への融資を批判(2019/6/27)

子会社のユニオン・バンクでアピール行動
〜東京での株主総会を前に サンフランシスコで〜

サンフランシスコ−−環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、26日(現地時間)、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)子会社のユニオン・バンクの本社周辺でアピール行動を行い、問題のあるパーム油を含む森林破壊や人権侵害、化石燃料への資金提供を停止するようMUFGに求めました。MUFGは日本最大の金融グループで、世界5位の資産総額を保有する銀行です。本アピール行動は、東京で開催される同グループの定時株主総会の数時間前に、サンフランシスコで行われました。

RANのスタッフやボランティアはアブラヤシ農園労働者に扮して、「MUFGユニオン・バンク、気候変動に融資しないで」「森林を守って!」「NO人権侵害」など日本語と英語で書かれたバナーやプラカードを掲げ、MUFGが資金提供するパーム油企業での労働者に対する人権侵害と、農園のある地域社会への悪影響をアピールしました。アピールはユニオン・バンクの入口や周辺で平和的に行われました。問題となっている企業は、インドネシアの食品・パーム油大手のインドフードで、MUFG は主要な資金提供銀行の一つです(注1)。シティグループなど欧米の大手銀行は、最近、インドフードの事業における人権侵害や違法行為を理由に同社への融資を引き揚げました(注2)。同時に、MUFGが化石燃料開発の拡大に資金提供していることも批判しました。MUFGは、ミネソタ州のライン 3石油パイプライン建設で先住民の権利を侵害している北米のタールサンド・パイプライン企業エンブリッジにも資金提供していることが指摘されました。

RAN責任ある金融シニアキャンペーナー ハナ・ハイネケンは「三菱UFJは、問題の多いパーム油企業や化石燃料企業への資金提供を通じて、気候危機の加速、生物種の絶滅、人権侵害に多額の融資をしています。昨年、MUFGは与信方針を採用して大きく前進しましたが、方針による実質的な効果はまだ見られません」と批判しました。

今年5月、MUFGは森林、パーム油、炭鉱開発・石炭火力セクターにおける与信方針を採択・改定し、7月1日から適用を開始すると発表しました(注3)。しかしNGOからは、改定方針はパリ協定に沿った目標達成にも、2020年までに森林破壊を阻止を約束している国連「持続可能な開発目標」(SDGs)にも不十分であると批判されていました(注4注5)。MUFGの方針は海外の大手金融グループと異なり、森林リスク産品セクターの先進的な基準である「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止方針」(NDPE: No Deforestation, No Peat and No Exploitation)には言及しておらず、パリ協定に沿って化石燃料を段階的に廃止することも約束していません。 MUFG  は2018年時点で、東南アジアで熱帯林破壊を加速させている企業への融資・引き受け額が6番目に大きく、化石燃料全般への融資・引受額が世界で7番目に大きい銀行です。また、MUFGはメガバンクの中でパーム油セクターへの資金提供が最も多く、化石燃料、特に石炭火力発電事業への資金提供も最大です(注6注7)。NGOは、MUFGの石炭火力発電への融資を禁止する方針改訂を慎重に歓迎しましたが、明らかな抜け穴が残っていることを懸念しています。

※写真使用をご希望の場合はご連絡ください。動画はこちらから(英語)。


注1)RANプレスリリース「 3メガ融資先 インドネシア食品大手『インドフード』のパーム油部門 労働権侵害でRSPO認証停止〜NGO、大手グローバル銀行と投資家が違法行為・労働酷使に加担していると批判〜」 (2019/3/6)

注2)RANプレスリリース「米シティグループ、パーム油大手インドフードへの融資を停止 〜アブラヤシ農園での労働問題を巡って〜」 (2019/6/18)

注3)三菱 UFJ フィナンシャル・グループ、「『サステナブルファイナンス目」の設定と『MUFG 環境・社会ポリシーフレームワーク』の改定について」、2019年5月15日

注4)RAN声明「三菱UFJ、新方針で森林保護と気候変動対策を約束 しかし問題は山積み 」(2019/5/17)

注5 )NGO共同声明「三菱UFJが新規石炭火力発電への融資を行わないと約束、環境NGOは更なる方針強化を要請」 (2019/5/16)

注6)RAN他「化石燃料ファイナンス成績表2019」

注7)RAN他「森林と金融」データベースより

*英文のプレスリリースはこちら「Japan’s Largest Bank MUFG/Union Bank Protested Over Harmful Financing」

※動画のリンクを当初はTwitterにしていましたが、YouTubeに変更しました(2019年6月28日18時半)。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク
本件に関するお問い合わせ
広報 関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

プレスリリース:米シティグループ、パーム油大手インドフードへの融資を停止 〜アブラヤシ農園での労働問題を巡って〜 (2019/6/18)

〜3メガは取引継続、みずほが最大の資金提供者〜

サンフランシスコ発ーー環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、米シティグループがインドネシアの食品・パーム油大手インドフード・サクセス・マクムール(以下インドフード)への資金提供を停止したことを受けて、17日(現地時間)、メガバンク3行がインドフードへの資金提供を継続していることを改めて批判しました。今年3月、インドフードは世界最大のパーム油認証制度「持続可能なパーム油のための円卓会議」(RSPO)から会員資格を停止され(注1)、同社に資金提供するメガバンクも含んだ金融機関の対応に注目が集まっていました。

インドフードの子会社であるパーム油生産企業2社(注2)は、インドフードが所有するアブラヤシ農園で確認された20件以上のRSPO基準違反と10件のインドネシア労働法違反に対処するため、是正措置計画の提出をRSPOに求められていました。しかし、子会社2社は勧告に従わなかったため、RSPO認証は3月に停止されました。今回のシティグループによる1億4000万ドルに及ぶリボルビングローン(注3)の停止は、インドフードにとって欧米の金融機関で2番目に大きな資金提供者を失うことを意味しています。

「インドフード及び子会社への与信限度額」(単位:百万米ドル)
出典:インドフード財務諸表、2019年3月31日

※銀行によっては、短期貸付金の一部はトラスト・レシートとしても使えることが指定されている。

RAN 責任ある金融シニア・キャンペーナー ハナ・ハイネケンは「シティグループが同社の方針を実行して、インドフードへの融資を停止したことを歓迎します。インドフードは国内法、認証機関の基準、国際的な事業規範を長い間にわたって軽視してきました。今回のシティグループの決定は、インドフードへの投融資を継続しているメガバンクや日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に対して『インドフードへの投融資は無責任である』ことを示す強烈な警告となるはずです」と強調しました。

インドフードは、時価総額で40億米ドルのインドネシア最大の食品企業です。インドネシアにおけるアブラヤシ農園を担保にした土地抵当権も二番目に大きく(注4)、同国の大財閥 サリム・グループの中核企業です。RSPOによる調査は、RAN、国際労働権フォーラム(ILRF)、インドネシアの労働権擁護団体OPPUKの3団体が2016年10月に行った苦情申し立て(注5)がきっかけとなって実施されました。3団体、ならびにRSPOとその監査機関による調査で、児童労働、無給労働、不安定雇用、性差別、有害物質使用下での労働状況が確認されました。

OPPUKの専務理事ヘルウィン・ナスシオン氏(Herwin Nasution)は「インドフードはRSPOの警告を無視し、組織的な労働搾取が行われ続けることを許してきました。実際、インドフードがRSPOを脱退して以降、独立系労働組合への脅しや攻撃の事例が増加しています」と指摘しました。

日本のメガバンクのみずほフィナンシャルグループ(みずほ)、三井住友フィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャル・グループは、インドネシアのマンディリ銀行、セントラルアジア銀行に次いで、インドフードへの大きな資金提供者です。中でも、みずほは同社へ約5億米ドルの資金提供が可能で、これはメガバンクで最大です。パーム油セクターについて、インドネシアの銀行は方針を持っていませんが、メガバンク3行は最近同セクターに特化した方針を採用し、違法行為への資金提供についても禁止することを明記しています(注6)。オランダのラボバンクとイギリスのスタンダードチャータード銀行はより厳密な方針のもと、顧客企業にRSPO会員になることも要求していますが、インドフードのパーム油事業への融資を最近引き揚げた以外は、両行ともインドフードとの取引を継続しています(注7)。インドフードの最大の機関投資家にはディメンショナル・ファンド・アドバイザーズ、ブラックロック、バンガード、GPIFが含まれ、「責任ある投資家」の主張とは異なります。

今年4月、責任投資原則(PRI)に関わっている機関投資家56機関、合計運用資産総額7.9兆米ドルがRSPOへの支持を表明し、銀行を含むパーム油バリューチェーン全体の全ての企業に対して、公表する形で「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止方針」(NDPE: No Deforestation, No Peat and No Exploitation)の採用と実施を求めました(注8)。メガバンクの方針にはNDPE方針が記載されておらず、インドフードの方針もNDPE方針の基準には達していません。

過去2年間で、インドフード及びその親会社であるファーストパシフィックは、インドフードのパーム油事業の問題のために15社の取引先を失いました。その15社には日本の製油会社の不二製油、ネスレ、ムシムマス、カーギル、ハーシー、ケロッグ、ゼネラル・ミルズ、ユニリーバ、マース等(注9)が含まれます。しかし、合弁事業パートナーのペプシコやフランチャイズパートナーのヤム・ブランズを含む多くの企業は、いまだにインドフードと取引を継続しており、同社の人権侵害との関わりも維持されたままです。

RAN、ILRF、OPPUKはインドフードに対し、労働違反に対処することと、包括的な「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止(NDPE)方針」をサリムグループ全体と、全ての外部のサプライヤーにも採用することを求め続けます。

*インドフードと、アブラヤシ農園子会社のインドフード・アグリ・リソーシズは、シティグループによる資金停止について意見を述べる機会を提供されましたが、コメントはしませんでした。

*英文のプレスリリースはこちら「Citigroup Cancels Financing of Indonesian Food Giant Indofood Over Palm Oil Labor Abuses」

注1)RSPO, “RSPO Secretariat’s statement on complaints panel decision regarding PT Salim Ivomas Pratama TBK”, 2019年3月1日

注2)サリム・イボマス・プラタマ(SIMP)と、その子会社ロンドン・スマトラ(ロンサム)

注3)インドフード財務諸表(2019年3月31日版)

注4)TuKインドネシア、Tycoons in the Indonesian Palm Oil 2018、18〜19ページ

注5)3団体による苦情申し立ての進捗(現在は終了)

注6)各銀行の方針
三井住友フィナンシャルグループ
みずほフィナンシャルグループ
三菱UFJフィナンシャル・グループ

注7)FD(オランダ経済紙へット・フィナンシエル・ ダフブラット), “Rabobank verbreekt banden met omstreden palmolieproducent”、2019年6月15日

注8)PRI, “Fifty-six investors sign statement on sustainable palm oil”, 3 April 2019

注9)RAN、「インドフードと取引をやめた企業は?(Who has dropped Indofood?)」表、2019年2月

レインフォレスト・アクション・ネットワーク
本件に関するお問い合わせ
広報 関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

地上に残された貴重な森「ルーセル・エコシステム」が破壊の危機に(2019/5/15)

日本代表 川上 豊幸
(本記事は地球・人間環境フォーラム『グローバルネット』(2019年5月号)に寄稿したものです)

「ルーセル・エコシステム」は、インドネシア・スマトラ島北部に位置し、まとまった形で残されたアジア最大の熱帯林地帯の一つです。長野と新潟の2県の広さに匹敵する約260万haの広大な地域に、絶滅危惧種のスマトラゾウ、サイ、オランウータン、トラが大自然の中で共存する地球上で最後の場所です。この豊かな生物多様性ホットスポットは、良質な水の安定供給、漁業に最適な環境、洪水や干ばつの防止、農業に適した気候に加え、小規模分散型の水力発電の可能性、観光にもってこいの自然美、生物多様性の提供など、地域社会の経済や地球の気候や環境にとって重要な利益をもたらしています。山岳地帯は世界遺産に指定されていますが、森林地帯はパーム油や紙の原料を得るためのプランテーション開発の危機にさらされており、保全を求める声が世界から集まっています。

生物多様性の重要性とルーセルの二つの森

科学者や自然保護活動家たちは多くの理由から、ルーセル・エコシステムを「保護価値の高い(HCV)」地域に分類しています。この地域には山地林と低地林の2種類の森林があります。山地林には絶滅の危機に瀕する希少種のスマトラサイが生息し、野生では100個体以下しか残っていません。またスマトラサイが餌とする多様な植物が生育し、種の生存にも不可欠です。シカ、クマ、トラ、ウンピョウなどの大型動物も生息しています。低地林も重要で、ルーセル・エコシステムで最も高い生物多様性が存在しています。世界で最大かつ最も背が高い花の2種、ラフレシアとスマトラオオコンニャクが見られ、また地域で最も樹高のある木々が育ち、スマトラオランウータン、トラ、ゾウ、サイなどの絶滅危惧種やマレーグマに貴重な生息地を提供しています。さらに、ウンピョウ、サイチョウ、また、多くの種類の霊長類や、サル、シカ、昆虫、両生類、爬虫類、鳥類の個体群を支えています。

絶滅が危惧されているスマトラオランウータン (©Paul Hilton/RAN)

地球規模の気候変動に効果のある「炭素貯蔵吸収スポンジ」

ルーセル・エコシステムには、何十億tもの高濃度炭素を蓄えた三つの主な泥炭地、トリパ、シンキル、クルエットがあります。その泥炭の深さは12m以上に達し、面積は香川県ほどの約18.4万ha以上に達します。これらの泥炭地では木が自然に枯れて、湿った地面に倒れ、通年浸水しているため、木々の落ち葉や枝、倒れた幹はゆっくりと炭素豊かな泥炭へと変化します。こうして何世紀にもわたって、水の下の深い泥炭堆積物の中に炭素が貯蔵され、隔離された炭素は放出されず、地球温暖化の緩和に役立っています。一方で、泥炭地が農地転換され、排水されると、大規模な酸化で炭素が一気に大気へ放出され、温暖化を進める二酸化炭素(CO2)が大気に蓄積されてしまうのです。

アブラヤシ農園の開発による森林破壊とパーム油

過去30年間、大規模アブラヤシ農園企業と紙パルプ企業が、農園や植林地を拡大するため、数百万haもの泥炭地で森林を伐採し排水してきました。乾燥した泥炭は可燃性が高く、度重なる火災で膨大な量のCO2が放出されます。インドネシアの泥炭火災のCO2の排出量1年分は、西欧全体の化石燃料排出量と同等と推定され、同国は中国と米国に次いで世界第三位のCO2排出国です。

現在、この泥炭地を含む低地林とそこに依存する動植物は、アブラヤシ農園拡大が原因で最大のリスクに直面しています。専門家は、ルーセル・エコシステムの低地林や泥炭地が破壊されると、スマトラオランウータンが野生下で絶滅する最初の類人猿となる可能性があると警告しています。そんな負の遺産は残すべきではありません。

この人為的災害は世界的なパーム油需要の急増によるものです。パーム油は世界で最も広く使用されている植物油で、主にインドネシアやマレーシアで栽培され、世界中に輸出されています。今やアブラヤシ農園はルーセル・エコシステムを含むインドネシアの熱帯林の中心部へと深く侵入し、同時に土地収奪、地域住民との紛争、人権侵害、汚職、労働搾取も引き起こしています。

アブラヤシ農園開発のために伐採されるルーセル・エコシステムの低地林(©Paul Hilton/RAN)

ルーセル・エコシステムを救うために私たちにできること

このような問題を解決するには、消費者や企業による「責任あるパーム油」の需要拡大と、問題のある「紛争パーム油」の排除が必要です。パーム油生産者、加工業者、貿易業者、資金提供者、消費財メーカーに原材料から問題を抱えているパーム油を除外するよう大きな声を届け、購買力を使って働き掛ければ、企業はビジネスのやり方を変えざるを得なくなります。

また、俳優のレオナルド・ディカプリオら有名人も取り組む世界的キャンペーン「ルーセルを愛そう」に参加し、この問題を日本でも広く知らせ、企業に問題への対処を促すこともできます。

米国の環境NGOのRANは、1985年の設立以来、環境・森林保護と先住民族や地域住民の権利擁護活動を行ってきましたが、2013年からはスナック食品企業20社に対して責任あるパーム油調達を求めています。多くの企業が改善へと動く中、日清食品と東洋水産は最も対応が遅れています。主な即席麺製品には大量のパーム油が使用されていますが、2社はパーム油調達方針の策定はしたものの不十分で、森林破壊に直接関係したり、オランウータンの死亡や住民立ち退きへの関与リスクが高いパーム油を排除する対応が不足しています。とくに日清食品は持続可能な大会を目指す東京五輪のスポンサーであり、RANでは同社に改善を求める国際署名を行っています。

また金融機関に紛争パーム油やルーセル・エコシステムの破壊に資金を提供しないよう求めることもできます。過去5年、アジアの一部の銀行は森林破壊のリスクがある事業の最大の資金提供者であり、日本の3メガバンクが融資するパーム油企業でも、労働権侵害、土地紛争、違法なアブラヤシ農園、森林減少などのリスクに直面しています。

一人ひとりが企業や政府が自然保護への誓約を守り、企業や銀行が自社の行動に責任を持つよう働き掛けることで、問題解決に向けた動きがうねりを作って変化につながると考えています。