サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

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声明:みずほ、邦銀で最も厳しいESG方針を発表〜気候変動と森林保護方針を強化〜(2020/4/15)

銀行業界における新たなスタンダードに

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日15日、みずほフィナンシャルグループ(みずほ)が「サステナビリティへ の取り組みに関する基本方針」を改定し(注1)、邦銀で最も厳しいESG(環境・社会・ガバナンス)方針の採用を発表したことを受けて以下の声明を発表し、歓迎しつつも問題点を指摘しました。今回の方針改定は、RANを含めたNGOが、みずほによる新規石炭火力発電所、オイルサンドのパイプライン開発、熱帯林破壊への無責任な資金提供を数年にわたって批判してきたことが背景にあります(注2)。また、6月のみずほの定時株主総会に向けて気候変動対策の進歩的な方針を求めた、環境NGO「 気候ネットワーク」による株主提案(注3)に続いて発表されました。

みずほ銀行の株主総会前でのNGOによるアクション、2017年6月

RAN「責任ある金融」シニアキャンペーナー ハナ・ハイネケンは「今回の新方針で、みずほは日本の銀行業界で新たな基準を設定しました。石炭に関する方針で例外が残るものの、森林破壊の要因となる産品に対して「森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ方針」(※)が適用され、石油・ガス、石炭採掘における社会的・環境的保護が強化されたことを歓迎します。他のメガバンク2行の三菱UFJフィナンシャル・グループとSMBCグループも、みずほの方針に匹敵する方針、あるいはさらに厳しい方針を策定するよう願っています」と強調しました。
※NDPE方針: No Deforestation, No Peat and No Exploitation

取締役会によるサステナビリティの監督および気候変動への対応に関するガバナンス体制の強化に加え、みずほの新方針の特筆すべき点は以下の通りです。

●パーム油および 木材・紙パルプセクターの顧客企業にベストプラクティスであるNDPE方針の策定や、地域住民等への「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC: Free, Prior and Informed Consent)の尊重を求める

●新規の石炭火力発電所建設への資金提供はしないが(すでに支援意思表明済みの案件は除く)、当該国のエネルギー安定供給に必要不可欠であり温室効果ガスの削減を実現するリプレースメント案件は例外とし、次世代技術の発展等の脱炭素社会への移行に向けた取り組みは支援は継続。石炭火力発電所向け与信残高削減目標として2030年度までに2019年度比50%に削減し、2050年度までに残高ゼロとする

●山頂除去方式で行う炭鉱採掘事業への投融資等は行わない

●石炭採掘、石油・ガスに関わる顧客企業は、気候変動に伴う移行リスクへの対応を確認し、環境・社会に及ぼす影響を評価する。石油・ガスに関わる顧客企業(パイプライン建設を含む)は、先住民族や地域コミュニティとのトラブルの有無等に十分に注意を払い取引判断を行う

● セクターを横断して、児童労働・強制労働を行っている事業、ラムサール条約指定湿地およびユネスコ指定世界遺産へ負の影響を与える事業、ワシントン条約に違反する事業には投融資等を行わない

●セクター横断的に投融資等に留意が必要な対象事業として、先住民族の地域社会に負の影響を与える事業、非自発的住民移転につながる土地収用を伴う事業を規定。投融資を検討する際には、リスク低減・回避に向け取引先の対応状況を確認し、慎重に取引判断を行う

みずほは、東南アジアで森林破壊の要因となっている産品に世界で3番目に多く資金提供しています(注4)東南アジアには、地球上で最後に残された広大な熱帯林の一つがあります。みずほの紙パルプおよびパーム油企業への資金提供は特に問題があり、最近では2019年にインドネシアで発生した森林火災にも直接的な関係があります(注5)。同年の森林火災では85万ヘクタールを超える土地と森林が破壊され、7億900万トンの温室効果ガスが排出されたと推計されています。また何年にもわたって、みずほは、泥炭地破壊や違法労働搾取に関与するパーム油大手インドフード社への最大の資金提供者の一つです。インドフードのような企業への投融資の継続の有無は、方針遵守における重要な「リトマス試験紙」になります。

みずほはまた、化石燃料への資金提供額では世界9位の銀行で(注6)、パリ協定締結以降の4年間で1,034億ドルの融資・引受を行っています。2017年1月から2019年9月の期間、新規石炭火力発電所を開発する企業への最大の貸し手でもあります(注7)。また、TCエナジー社とエンブリッジ社に資金提供することで、物議を醸しているオイルサンドのパイプラインおよびフラッキング(水圧破砕法)によるシェールガスのパイプラインを支援しています。TCエナジー社は「キーストーンXL」と「コスタル・ガスリンク」を、エンブリッジ社は「ライン3」を建設しています。

ハイネケンは「みずほが発表した方針強化を歓迎します。しかし、気候危機対策に真剣に取り組むリーダーになりたいのであれば、改定方針にある2050年より早期の脱石炭を約束し、化石燃料の拡大と熱帯林破壊を促進するあらゆる投融資を停止する必要があります。また、ESGについて大々的に発表しながら、気候に悪影響を及ぼしたり、先住民族等の権利を侵害する企業に資金を提供し続ければ、それは偽善的です。新方針の適用後、みずほが問題ある企業に対しての無責任な投融資を止めるかどうかは今後の課題です。方針は実施されて初めて価値があります」と続けました。

新方針の効果的な実施は、急激な気候変動と前例のない生物多様性の損失という「二重の危機」への取り組みと、国連『責任銀行原則』(注8)に署名した銀行としての誓約を果たすには不可欠です。

参考
Say No, Mizuho〜気候変動におけるみずほの”真実”とは〜」ウェブサイト

銀行セクターにおけるベストプラクティスの事例:
RAN他「化石燃料ファイナンス成績表2020」(世界35銀行の化石燃料に関する方針を評価)
RAN他「森林と金融:銀行の分析結果」(世界30銀行の森林減少および人権に関する方針評価)

英語のプレスリリースはこちら:
“Japan’s 2nd Largest Bank – Mizuho – Announces Strictest ESG Policies To Date In Japan”

注1)みずほフィナンシャルグループ「サステナビリティへの取り組み強化について〜脱炭素社会実現に向けたアクション強化〜」、2020年4月15日

注2)NGO共同プレスリリース「みずほ銀行へ『無責任銀行ジャパン大賞2017』を株主総会前で贈呈」、2017年6月23日

注3)気候ネットワーク プレスリリース「みずほフィナンシャルグループの株主として 日本初の気候変動に関する株主提案を提出」、2020年3月16日

注4)RAN他「森林と金融」データベース

注5)RANプレスリリース「新報告書『森林火災・違法行為とメガバンク』発表〜3メガ、炭素吸収源の熱帯林破壊に加担し『気候危機』を加速〜 」、2020年1月29日

注6)NGO共同プレスリリース「RAN他『化石燃料ファイナンス成績表2020』発表:3メガバンク、パリ協定後も化石燃料に約2,814億ドルを資金提供〜みずほ、三菱UFJが世界トップ10入り〜」 、2020年3月18日

注7)際環境NGO 350.org Japan、気候ネットワーク プレスリリース「日本の金融機関・投資家が石炭投融資リストのトップを独占 – COP25で判明」、2019年12月6日

注8)NGO共同声明「グリーンウォッシュはもういらない、好結果がともなう原則を〜国連『責任銀行原則』発足をうけて〜」、 2019年9月23日

団体紹介
レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。http://japan.ran.org

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

プレスリリース:新報告書『森林火災・違法行為とメガバンク』発表〜3メガ、炭素吸収源の熱帯林破壊に加担し「気候危機」を加速〜 (2020/1/29)

〜インドネシア森林火災、熱帯林と泥炭地破壊、違法行為や人権侵害への資金提供を調査〜

米環境NGO レインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日29日、新報告書『森林火災・違法行為とメガバンク:東南アジア顧客企業3社の事例」(注1)を発表し、日本のメガバンクが2019年のインドネシア森林火災と煙害(ヘイズ)に関与した農業関連企業や、森林と泥炭地を違法皆伐した農園開発企業への資金提供を通じて「気候危機を加速させている」と批判しました。

火災が起きている泥炭地に放水するヘリコプター、インドネシア・南スマトラ、2019年
提供:NOPRI ISMI/ MONGABAY INDONESIA

本報告書は三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、みずほフィナンシャルグループ(みずほ)、三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)3メガバンクの銀行業務について調査し、分析からは以下が明らかになりました。

  • ●3メガバンクは、2019年の森林火災への関与が理由でインドネシア政府に農園事業を凍結された農業関連企業に、合計で10億米ドルを超える融資・引受を2017年から2019年8月に行っていた。
  • ●上記企業への資金提供額は、みずほが最も多く4億6,600万米ドル、MUFGが4億1,500万米ドル、SMBCが2億100万米ドルだった。
  • ●3メガバンクと財務的つながりが特に強いのはシナルマス・グループ(3行合計で3億6,500万米ドルの資金提供)、サリム・グループ(同じく6億400万米ドル)、ロイヤル・ゴールデン・イーグル・グループ(7,900万米ドル)といった、リスクの高い事業を展開している東南アジアの企業グループである。
2019年のインドネシア森林火災に関与した企業へのメガバンクからの資金の流れ
(2017年〜2019年8月の融資・引受額、単位:百万米ドル、出典:「森林と金融」データベース

RAN「責任ある金融」シニアキャンペーナー ハナ・ハイネケンは「3メガバンクは世界中の石炭火力発電所建設に資金提供すると同時に、地球で最も重要な炭素吸収源である熱帯林と泥炭地の破壊にも資金提供しています。つまり、二重に気候危機を加速させているのです」と批判しました。2019年のインドネシアの火災で7億900万トンの温室効果ガスが排出されたと推計され(注2)、同国は一連の火災だけで世界6位の二酸化炭素排出国となりました。

また本報告書はシナル・マス・グループ、サリム・グループ、ジャーディン・マセソン・グループの3社を事例とし、熱帯林と泥炭地破壊、違法行為、汚職、土地権と労働権侵害の証拠がありながらメガバンクが資金提供を続けている現状も解説しています。ハイネケンは「3メガバンクは国連『責任銀行原則』(注3)に署名することで、経営戦略を『持続可能な開発目標』とパリ協定と合致させることを約束しました。しかし3メガバンクの現行の銀行業務は内部コンプライアンスが機能していないことを表し、このようなリスクは投資家にはほとんど開示されていません。メガバンクは口先だけでなく行動で示すときです」と訴えました。

本来、森林と土地は強力な炭素吸収源ですが、森林破壊と森林劣化によって農業や林業などの土地利用部門はエネルギー部門に次いで2番目に大きな排出源になっています。特に熱帯林と泥炭地は重要な炭素吸収源であり、泥炭地は1ヘクタールあたり2,600炭素トン以上(注4)を貯留してくれます。しかし紙パルプやパーム油生産におけるインドネシアの泥炭地破壊関連の二酸化炭素の年間排出量は大きく、石炭火力発電所70基分(注5)に相当します。

注1)RAN『森林火災・違法行為とメガバンク:東南アジア顧客企業3社の事例〜SDGsとパリ協定に沿った資金提供を〜』

注2)Yoga Rusmana, “Forest Fire Emissions From Indonesia Worse Than Amazon, EU Says”, Bloomberg, 2019年11月27日 (英語)

注3)NGO共同声明「グリーンウォッシュはもういらない、好結果がともなう原則を〜国連「責任銀行原則」発足をうけて〜」2019年9月23日

注4)Frances Seymour and Jonah Busch, “BRIEFS: Why Forests? Why Now? A Preview of the Science, Economics, and Politics of Tropical Forests and Climate Change”, Center for Global Development, 2014年10月11日(英語)

注5)Nancy Harris Nancy Harris and Sarah Sargent, “Destruction of Tropical Peatland Is an Overlooked Source of Emissions”, 世界資源研究所、2016年4月21日

団体紹介
レインフォレスト・アクションネットワーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境・森林保護で最前線に立つ人々とのパートナーシップと戦略的キャンペーンを通じて、環境保護と先住民族や地域住民の権利擁護活動をさまざまな角度から行っています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

メディア掲載:オルタナにRAN川上豊幸が寄稿しました(2019/12/27)

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナonline」にRAN川上豊幸がインドネシア森林火災と、日本の紙消費・銀行業務」を寄稿しました(2019年12月27日)

「2019年、日本でも大きく報道されたアマゾンの森林火災。しかし大規模な森林火災はアマゾンだけでなく、インドネシアでも起きていました。2019年のインドネシアの森林火災で排出された二酸化炭素の量は、アマゾンの火災による排出量を20%以上超えていました。(続きを読む)

NGO共同プレスリリース「新報告書『紛争パルプ材植林地』発表〜インドネシア製紙大手APP社と地域社会との対立、数百の紛争を特定〜」 (2019/10/3)
〜インドネシア煙害深刻化、森林火災に責任ある企業として地域社会と森林保護の誓約を守るようNGOが要請〜

NGO共同声明:東京五輪「SDGs:2020年森林破壊ゼロ」達成に黄色信号(2019/12/20)

競技場建設による熱帯林破壊について大会当局に説明責任を要求
〜新国立競技場オープニングイベントを受けて〜

国内外のNGO 11団体は、本日20日、東京五輪・パラリンピックのメイン会場となる新国立競技場のオープニングイベント(注1)が21日に開催されることを受けて以下の共同声明を発表し、東京2020大会の施設建設によるインドネシアとマレーシアの熱帯林破壊が国連の「持続可能な開発目標」(SDGs)の「2020年までに森林破壊ゼロ」目標の達成を困難にしていると批判しました。

東京五輪開幕1年前セレモニーが開催された東京国際フォーラム前でアピール(2019年7月24日)

新国立競技場の建設で、東南アジアの熱帯林は多大な犠牲を強いられました。インドネシアとマレーシア産の熱帯材合板の大量使用によって、気候、生物多様性、先住民族と地域コミュニティの権利や生活が犠牲となり、貴重な熱帯林が劣化したり永久に失われることになりました。今日の祝賀ムードの中にあっても、新国立競技場の建設が不必要な損害を熱帯林に与えたことを忘れてはいけません。

東京2020大会当局はSDGsの推進を約束しましたが(注2)、熱帯材の甚大な搾取はSDGs達成を後退させ、特に「ターゲット15.2」(2020年までに森林破壊を阻止し、劣化した森林を回復する)は達成困難です。また「ターゲット15.5」(生物多様性損失の阻止と、2020年までに絶滅危惧種を保護と絶滅防止の対策を講じる)も達成できそうになく、東京2020大会の「SDGs」への貢献には『黄色信号』がともっています。

東京2020組織委員会が公開した情報によって、マレーシアとインドネシア産の熱帯材合板が新国立競技場等の土台のコンクリートを固める型枠として使用されたことが明らかになり、その量は丸太換算で最大6,902立方メートルに相当します(注3)。コンクリート型枠合板は、通常は数回使用された後に廃棄されます。このような使い方は自然資源の破壊的な消費であり持続可能でないとして、広く批判されています。熱帯林の重要性、つまり多くの陸上生物の生息地として、そして二酸化炭素吸収源としてだけでなく先住民族の人々が暮らす場所としての重要性を考えると、東京五輪の施設建設における熱帯材の使い捨ては、持続可能なオリンピックを開催するという日本の公約に違反していることは明らかです。

国立競技場の木材供給企業を詳しく調べると、インドネシア産型枠合板がコリンドという批判の多いインドネシアの企業が供給していることがわかりました。同社は、国立競技場で使われたインドネシア産型枠の全てを供給した可能性があります。コリンド社については、熱帯林伐採、土地収奪、違法行為、脱税問題が問われています(注4)。コリンド社の東京五輪関連の合板サプライチェーンを調べたところ、2017年に製造された合板の4割近くが炭鉱開発やパーム油等の農園開発のために土地転換された熱帯林に由来していることがわかりました。これには絶滅危惧種のボルネオ・オランウータンの生息地の破壊も含まれます(注5)。 また、同社は地域コミュニティの土地権を侵害し、保護価値の高い森林(HCV)地域を含む約3万ヘクタールの天然林を2013年以降にアブラヤシ農園拡大のために皆伐したこともわかっています。最近、森林管理協議会(FSC)はこれらの調査結果が事実であると正式に発表しました(注6)。国立競技場でのコリンド社の木材使用は、これらインドネシアの森林犯罪への東京五輪の関連性の明確な証拠です。

国立競技場は、違法伐採、汚職、土地権侵害の長い歴史があるマレーシア・サラワク州産の木材も相当な量を使用していました。競技場で見つかった木材は、過去に熱帯林破壊と人権侵害に繰り返し関与した伐採企業のシンヤンが供給していました(注7)。シンヤンの木材を国立競技場の建設に供給した合板工場は労働組合に対する差別行為でも批判を受けています(注8)。また以前、世界の6%もの生物多様性の宝庫といわれる「ハート・オブ・ボルネオ」で伐採事業を行なっていました。

私たちNGOは大会当局に、国立競技場と熱帯林破壊及び人権侵害とのつながりについて説明責任を求めています。しかし国立競技場を管轄する日本スポーツ振興センター(JSC)はこれまで、調達による悪影響について一切責任を取ろうとしていません。2018年11月、RANらはJSCに2件の苦情を通報しました: 1)オランウータン生息地の破壊を含む転換材の使用、2)土地権侵害に関与しているコリンド社の木材使用に関して。苦情を通報してから1年以上が経ちますが、JSCの苦情処理メカニズム(通報窓口)はこの苦情をいまだに通報案件として正式に受け入れておらず、受け入れるかどうか検討していると伝えてきました(注9)。これは苦情処理メカニズムが機能していないことを表しています。

東京大会当局とスポンサー企業は、この国立競技場での残念なレガシーについて説明責任を果たす必要があり、オリンピックのために熱帯林が、これ以上犠牲にならないことを確実にしなければなりません。大会当局は最初のステップとして、大会自体の持続可能性に関する方針に対する違反と、その結果生じた負の影響を公式に認め、苦情処理メカニズムを通じて改善措置の実行に協力する必要があります。また、石炭採掘による森林伐採からの木材も含め、全ての転換材が持続可能ではないと判断されるよう、今年1月に改定した木材調達方針の明確化を行う必要があります。

賛同団体
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN、米国)
熱帯林行動ネットワーク(JATAN、日本)
国際環境NGO FoE Japan(日本)
地球・人間環境フォーラム(日本)
ウータン・森と生活を考える会(日本)
サラワク・キャンペーン委員会(SCC、日本)
ブルーノマンサー基金(スイス)
サラワク・ダヤック・イバン協会(SADIA、マレーシア)
Tukインドネシア(インドネシア)
マイティ・アース(米国)
ボブ・ブラウン財団(オーストラリア)
国際NGO EIA(環境調査エージェンシー、米国)

注1)「国立競技場オープニングイベント~HELLO, OUR STADIUM」
注2)国際連合広報センター「国際連合と東京2020組織委員会が東京2020大会を通したSDGsの推進協力に関する基本合意書に署名」、2018年11月14日
注3)東京2020組織委員会「『持続可能性に配慮した木材の調達基準』の実施状況に関するフォローアップについて」、2019年8月2日
公開情報によると、新国立競技場では139,800枚のコンクリート型枠合板が使われた。その内、120,800枚が熱帯材である(117,800枚がインドネシア産、3,000枚がマレーシア産)。
※日本では、コンクリート型枠合板の典型的なサイズは、12X900X1800mm〜15x910x1820mmであり、合板の量を生産において利用する丸太の量に変換する場合に使用される係数は2.3となる(出所: UNECE/FAO)。これは約6,902立方メートルもの丸太材に相当する。
注4)コリンド社は、オフショアのペーパーカンパニーを使って韓国で脱税を行なった疑惑で調査され、韓国国税庁(NTS)から8,500万米ドルの罰金を科せられた。スン・ウンホ会長は不服申し立てをしている。
出典: Seung Eun-Ho vs Kepala Kantor Pajak Seocho, Kasus No. 2016GuHap69079, Tanggal pengumuman keputusan: 24/08/18
注5)RAN他、報告書「守られなかった約束」、2018年11月
注6)FSCジャパン「コリンドグループに対する厳しい改善措置の義務付け」、2019年7月24日
注7)RAN他「2020年東京五輪の熱帯材使用に関する公式な情報開示に対するNGOの解説」、2018年2月16日
注8) 国際建設林業労働組合連盟(BWI)による東京2020組織委員会への苦情, “Complaint by Building and Wood Workers’ International (BWI) & Timber Industry Employees Union of Sarawak”(英語)
注9)参考:RANブログ「東京五輪の木材スキャンダル、持続可能性と説明責任に問題あり」2019年9月9日

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

※追記(2019年12月21日)
・2018年10月時点で、コリンドはインドネシアで唯一の型枠用塗装合板メーカーであり(出典:日刊木材新聞、2018年10月16日付)、型枠用塗装合板は新国立競技場の建設現場で広く使われていたことがNGOの調査で確認されていた。また毎日新聞の記事では(2018年11月27日付)、コリンド社の合板を有明アリーナ(五輪のパレーボール競技会場)建設に供給した住友林業が、インドネシア産の転換材を国立競技場建設に提供したことを認めている。

・国際NGO EIA(環境調査エージェンシー、米国)を賛同団体に追加。11団体は声明発表時の数字、現在は合計12団体(12月21日時点)。

メディア掲載:HBOにRAN関本幸が寄稿しました(2019/10/22)

ハーバー・ビジネス・オンライン(HBO)にRAN 関本幸が「東京五輪施設建設の『目に見えない部分』に、21万畳分の熱帯材が使われている!?」を寄稿しました(2019年10月22日)

「東京五輪開催まで1年を切った。それとともに、大会中の猛暑対策など、さまざまな問題が現実味を帯びてきている。そのような中、東京五輪で使われた木材と、東南アジアの森林破壊とのつながりが問題視され続けている。「新国立競技場には国産材がたくさん使われているのでは?」と思う人も多いだろう。しかし、47都道府県から提供される国産材は屋根やひさしで使われるだけで、土台のコンクリートを成形する型枠用合板(コンクリートパネル=コンパネ)には、東南アジアからの熱帯材が使われた。 続きを読む )

※関連声明:「ノーモア森林破壊、ノーモア人権侵害: 東京五輪開幕まで1年、IOCへ文書を送付、抜け穴のある調達基準と機能不全の通報制度を 『東京五輪のレガシー』としないために」(2019/7/24)

東京五輪開幕1年前セレモニーが開催された東京国際フォーラム前でアピール(2019年7月24日)

メディア掲載:東洋経済でRAN東京五輪木材関連の調査が紹介されました(2019/10/19)

東洋経済「五輪の施設建設に疑惑、『調達基準』が抱える課題:住友林業が納入した合板に、環境・人権への配慮の欠落が指摘されている」(2019年10月19日)〜RAN報告書「守られなかった約束」での調査が紹介されました〜

「東京五輪・パラリンピックの開催まで1年を切り、都内ではさまざまな大規模施設の建設が急ピッチで進行中だ。そうした中、施設建設に関わる調達をめぐって、厳しい指摘が挙がっている。東京五輪は「持続可能性への配慮」を重要な取り組みの1つと位置づけ、環境や人権、労働問題などを考慮した大会運営を掲げてきた。そのため東京五輪組織委員会は「持続可能性に配慮した調達コード」(調達基準)を定め、物品やサービスの調達を行っている。だが、環境問題や人権問題に取り組むNGO(非政府組織)、レインフォレスト・アクション・ネットワークの川上豊幸日本代表は「環境や人権の問題をはらんだ木材が五輪施設の建設に使われている」と指摘する。 続きを読む 」

※関連声明:「ノーモア森林破壊、ノーモア人権侵害: 東京五輪開幕まで1年、IOCへ文書を送付、抜け穴のある調達基準と機能不全の通報制度を 『東京五輪のレガシー』としないために」(2019/7/24)

東京五輪開幕1年前セレモニーが開催された東京国際フォーラム前でアピール(2019年7月24日)