サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

‘人権侵害’カテゴリーの記事一覧

プレスリリース:米シティグループ、パーム油大手インドフードへの融資を停止 〜アブラヤシ農園での労働問題を巡って〜 (2019/6/18)

〜3メガは取引継続、みずほが最大の資金提供者〜

サンフランシスコ発ーー環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、米シティグループがインドネシアの食品・パーム油大手インドフード・サクセス・マクムール(以下インドフード)への資金提供を停止したことを受けて、17日(現地時間)、メガバンク3行がインドフードへの資金提供を継続していることを改めて批判しました。今年3月、インドフードは世界最大のパーム油認証制度「持続可能なパーム油のための円卓会議」(RSPO)から会員資格を停止され(注1)、同社に資金提供するメガバンクも含んだ金融機関の対応に注目が集まっていました。

インドフードの子会社であるパーム油生産企業2社(注2)は、インドフードが所有するアブラヤシ農園で確認された20件以上のRSPO基準違反と10件のインドネシア労働法違反に対処するため、是正措置計画の提出をRSPOに求められていました。しかし、子会社2社は勧告に従わなかったため、RSPO認証は3月に停止されました。今回のシティグループによる1億4000万ドルに及ぶリボルビングローン(注3)の停止は、インドフードにとって欧米の金融機関で2番目に大きな資金提供者を失うことを意味しています。

「インドフード及び子会社への与信限度額」(単位:百万米ドル)
出典:インドフード財務諸表、2019年3月31日

※銀行によっては、短期貸付金の一部はトラスト・レシートとしても使えることが指定されている。

RAN 責任ある金融シニア・キャンペーナー ハナ・ハイネケンは「シティグループが同社の方針を実行して、インドフードへの融資を停止したことを歓迎します。インドフードは国内法、認証機関の基準、国際的な事業規範を長い間にわたって軽視してきました。今回のシティグループの決定は、インドフードへの投融資を継続しているメガバンクや日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に対して『インドフードへの投融資は無責任である』ことを示す強烈な警告となるはずです」と強調しました。

インドフードは、時価総額で40億米ドルのインドネシア最大の食品企業です。インドネシアにおけるアブラヤシ農園を担保にした土地抵当権も二番目に大きく(注4)、同国の大財閥 サリム・グループの中核企業です。RSPOによる調査は、RAN、国際労働権フォーラム(ILRF)、インドネシアの労働権擁護団体OPPUKの3団体が2016年10月に行った苦情申し立て(注5)がきっかけとなって実施されました。3団体、ならびにRSPOとその監査機関による調査で、児童労働、無給労働、不安定雇用、性差別、有害物質使用下での労働状況が確認されました。

OPPUKの専務理事ヘルウィン・ナスシオン氏(Herwin Nasution)は「インドフードはRSPOの警告を無視し、組織的な労働搾取が行われ続けることを許してきました。実際、インドフードがRSPOを脱退して以降、独立系労働組合への脅しや攻撃の事例が増加しています」と指摘しました。

日本のメガバンクのみずほフィナンシャルグループ(みずほ)、三井住友フィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャル・グループは、インドネシアのマンディリ銀行、セントラルアジア銀行に次いで、インドフードへの大きな資金提供者です。中でも、みずほは同社へ約5億米ドルの資金提供が可能で、これはメガバンクで最大です。パーム油セクターについて、インドネシアの銀行は方針を持っていませんが、メガバンク3行は最近同セクターに特化した方針を採用し、違法行為への資金提供についても禁止することを明記しています(注6)。オランダのラボバンクとイギリスのスタンダードチャータード銀行はより厳密な方針のもと、顧客企業にRSPO会員になることも要求していますが、インドフードのパーム油事業への融資を最近引き揚げた以外は、両行ともインドフードとの取引を継続しています(注7)。インドフードの最大の機関投資家にはディメンショナル・ファンド・アドバイザーズ、ブラックロック、バンガード、GPIFが含まれ、「責任ある投資家」の主張とは異なります。

今年4月、責任投資原則(PRI)に関わっている機関投資家56機関、合計運用資産総額7.9兆米ドルがRSPOへの支持を表明し、銀行を含むパーム油バリューチェーン全体の全ての企業に対して、公表する形で「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止方針」(NDPE: No Deforestation, No Peat and No Exploitation)の採用と実施を求めました(注8)。メガバンクの方針にはNDPE方針が記載されておらず、インドフードの方針もNDPE方針の基準には達していません。

過去2年間で、インドフード及びその親会社であるファーストパシフィックは、インドフードのパーム油事業の問題のために15社の取引先を失いました。その15社には日本の製油会社の不二製油、ネスレ、ムシムマス、カーギル、ハーシー、ケロッグ、ゼネラル・ミルズ、ユニリーバ、マース等(注9)が含まれます。しかし、合弁事業パートナーのペプシコやフランチャイズパートナーのヤム・ブランズを含む多くの企業は、いまだにインドフードと取引を継続しており、同社の人権侵害との関わりも維持されたままです。

RAN、ILRF、OPPUKはインドフードに対し、労働違反に対処することと、包括的な「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止(NDPE)方針」をサリムグループ全体と、全ての外部のサプライヤーにも採用することを求め続けます。

*インドフードと、アブラヤシ農園子会社のインドフード・アグリ・リソーシズは、シティグループによる資金停止について意見を述べる機会を提供されましたが、コメントはしませんでした。

*英文のプレスリリースはこちら「Citigroup Cancels Financing of Indonesian Food Giant Indofood Over Palm Oil Labor Abuses」

注1)RSPO, “RSPO Secretariat’s statement on complaints panel decision regarding PT Salim Ivomas Pratama TBK”, 2019年3月1日

注2)サリム・イボマス・プラタマ(SIMP)と、その子会社ロンドン・スマトラ(ロンサム)

注3)インドフード財務諸表(2019年3月31日版)

注4)TuKインドネシア、Tycoons in the Indonesian Palm Oil 2018、18〜19ページ

注5)3団体による苦情申し立ての進捗(現在は終了)

注6)各銀行の方針
三井住友フィナンシャルグループ
みずほフィナンシャルグループ
三菱UFJフィナンシャル・グループ

注7)FD(オランダ経済紙へット・フィナンシエル・ ダフブラット), “Rabobank verbreekt banden met omstreden palmolieproducent”、2019年6月15日

注8)PRI, “Fifty-six investors sign statement on sustainable palm oil”, 3 April 2019

注9)RAN、「インドフードと取引をやめた企業は?(Who has dropped Indofood?)」表、2019年2月

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メディア掲載:朝日新聞「私の視点」にRAN川上豊幸が寄稿しました(2019/3/30)

朝日新聞 「私の視点」にRAN日本代表 川上豊幸が「東京五輪とSDGs 適切な木材調達、進めて」を寄稿しました(2019年3月30日付け)

「2020年東京五輪・パラリンピック施設が、東南アジアの貴重な熱帯林の破壊に関係していることをご存じだろうか。「新国立競技場には国産材が使われるのでは」と思う人も多いだろう。しかし国産材が使われるのは屋根や柱などで、土台のコンクリートを成形する型枠用合板に東南アジアの熱帯材が使われている。日本は世界最大の熱帯材合板の輸入国で、熱帯林の破壊によって作られた型枠合板も輸入している。記事を読む

関連:NGO共同声明「2020東京五輪の木材調達基準改定は不十分〜組織委に改定基準の内容と決定までの経緯の説明を求める〜」(2019/1/30)

メディア掲載:毎日新聞でRAN東京五輪木材関連の調査が紹介されました(2019/3/22)

毎日新聞「五輪会場建設 転換材を禁止 7割が熱帯林由来 オランウータンも生息する熱帯林 効果は限定的」(2019年3月22日付)〜RAN「守られなかった約束」での調査などが紹介されました〜

 「東京五輪・パラリンピック組織委員会が木材を調達する際の基準が見直され、今月から運用が始まった。大きな変更点は、農園開発などのため皆伐された森林から産出される「転換材」の使用を禁じたことだ。五輪会場の建設現場では、こうした木材が使用され続けてきた実態がある。 
  環境NGOなどが問題視しているのは、会場建設で大量に使われるコンクリートを固める際に型枠として使用される合板だ。組織委の木材調達基準には「国産材を優先的に選択するよう努めなければならない」という項目がある。しかし、あくまで努力義務で、実際には熱帯材の合板が広く使われてきた。熱帯材の合板は強度が高くて質もよく、何度も繰り返し使えるためだ。記事を読む

NGO共同声明「2020東京五輪の木材調達基準改定は不十分〜組織委に改定基準の内容と決定までの経緯の説明を求める〜」(2019/1/30)

プレスリリース: 3メガ融資先 インドネシア食品大手「インドフード」のパーム油部門 労働権侵害でRSPO認証停止 (2019/3/6)

〜NGO、大手グローバル銀行と投資家が違法行為・労働酷使に加担していると批判〜

パーム油認証制度の「持続可能なパーム油のための円卓会議」(RSPO)が、パーム油生産企業サリム・イボマス・プラタマ(SIMP)とその子会社ロンドン・スマトラ(ロンサム)の会員資格停止を3月1日に発表したことを受けて(注1)、本日6日、環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、「メガバンクが制定した方針を実行するための試金石となる」とコメントを発表しました。SIMPはRSPOで4番目に大きい会員企業で、インドネシア最大の食品会社及び世界最大の即席麺企業としても知られるインドフードのパーム油部門です。インドフードは、日本のメガバンクの三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)、みずほフィナンシャルグループ(みずほ)、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)から長期にわたって多額の融資を受けています。

今回の資格停止決定に先立ち、RSPOは昨年11月、ロンサムが所有するアブラヤシ農園で確認された20件以上のRSPOの基準違反と10件のインドネシア労働法違反に対処するための是正措置計画の提出を求めていました(注2)。しかし、ロンサム、SIMPそしてインドフードはその勧告に従うことなく、1月にRSPO認証制度から脱退することを一方的に告知(注3)していました。

RAN責任ある金融 シニア・キャンペーナー ハナ・ハイネケンは 「RSPOが基準を実行したことを歓迎します。インドフードとその子会社は、RSPO基準、国際的規準、インドネシアの法律を長期にわたって軽視してきました。今こそ、インドフードと取引を続けている全ての銀行や投資家、企業は、違法行為や労働搾取を助長しないよう、自社方針に従ってインドフードとの取引をただちに停止するべきです」と訴えました。

インドフードの事業は、大手グローバル銀行や投資家からの数十億ドルの資金調達によって支えられています。一方で、多くの銀行と投資家は違法行為への資金提供に関する明確な方針を持っています。インドフードへ多額の融資をしているSMBC、みずほ、MUFGも例外ではありません。他の2行と比べ、SMBCの方針は『人権侵害が行われている可能性の高い融資を禁止』し、『RSPO、或いはそれに準ずる認証機関の認証を受けている(略)パーム油農園開発を支援します』と明確に定めています。今回のインドフードのRSPO認証停止を受けて、融資を続けることは方針違反になりかねません。インドフードへの最大の投資家には、ブラックロックや日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も含まれます。

ハイネケンは「日本のメガバンクは、インドフードとその子会社にとって主要な金融機関です。 インドフードは2018年9月30日の時点で、3メガバンクから730億円以上の融資を受けています(注4)。3行は2018年5月と6月に社会と環境に配慮した投融資方針を初めて発表し、全ての銀行が違法行為への融資を禁止しています。3メガバンクのインドフードに対する今後の対応は、制定した方針を実行するための試金石となるでしょう」と強調しました(注5)。

【これまでの経緯】

●インドフード子会社のアブラヤシ農園での調査は、RAN、国際労働権フォーラム(ILRF)、インドネシアの労働権擁護団体OPPUKの3団体が2016年10月に行った苦情申し立て(注6)がきっかけとなって実施されました。3団体の調査で、同社が所有・運営する農園で非常に高いノルマが課せられるために児童労働が行われたり、無給労働や不安定雇用、有害物質への曝露など深刻な労働権侵害が明らかになっていました。このような労働者の酷使は、これまで独立監査によっても確認されています。

●ネスレ、ムシムマス、カーギル、日本の製油会社の不二製油、ハーシー、ケロッグ、ゼネラル・ミルズ、ユニリーバ、そしてマースなど、多くのパーム油購入企業は、インドフードとの取引をすでに停止しています。しかし、インドフードの合弁パートナーであるペプシコ、ウィルマー、ヤム・ブランズなど多くの企業は現在もインドフードと合弁関係を継続しており、労働酷使とのつながりが残ったままとなっています。

●インドフードは、インドネシアの大財閥サリムグループ の一社で、商品の開発から生産、販売までをグループ企業内で総合的に行う垂直統合型企業です。パーム油事業は、アブラヤシ農園企業のインドフード・アグリ・リソーシズ(インドアグリ)の下で運営され、SIMPはインドアグリの子会社です。労働権侵害が問題となった農園は、SIMPの子会社のロンドン・スマトラによって運営されています。サリム・グループは、近年で最大級の熱帯林違法皆伐との関与も指摘され(注7)、金融セクターには迅速な対応が求められています。

注1)RSPO, “RSPO Secretariat’s statement on complaints panel decision regarding PT Salim Ivomas Pratama TBK”, 2019年3月1日

注2)RAN、「緊急プレスリリース:パーム油大手インドフード、労働権侵害でRSPOの制裁措置 」、2018年11月5日

注3)インドフードからRSPO宛の手紙

注4)インドフードへ資金提供する金融機関については、同社の財務報告(2018年9月30日、英語)を参照のこと

注5)3メガバンクの方針について
・インドフードへの最大の貸し手であるみずほは、「責任ある投融資等の管理態勢強化について」(2018年6月)で、パーム油と木材に特化し、「人権侵害や環境破壊への加担を避けるため、持続可能なパーム油の国際認証・現地認証や(略)先住民や地域社会とのトラブルの有無等に十分に注意を払い取引判断を行います」としている。
・SMBCは「事業別融資方針の制定およびクレジットポリシーの改定について」(2018年6月)で、パーム油の農園開発向けの融資について「違法伐採や児童労働などの人権侵害が行われている可能性の高い融資を禁止します」と明記している。また、パーム油関連の顧客企業がRSPO、あるいはそれに準ずる認証機関の認証を取得しているかどうかを確認することも方針の中でも明記している。
・MUFGは「MUFG環境・社会ポリシーフレームワーク」(2018年5月)で、「ファイナンスを禁止する事業」として「違法または違法目的の事業」「公序良俗に反する事業」を筆頭にあげています。

注6)3団体による苦情申し立て文書(英語)
苦情申し立ての概要(英語、2016年10月12日付け)

注7)RAN、「プレスリリース:新報告書『サリム・レポート』発表 日本のメガバンク3行、近年最大級の熱帯林違法皆伐とのつながりが判明」、2018年4月13日

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

OPPUKは、インドネシア北スマトラのパーム油労働者の労働・生活状況に懸念を持つ学生運動と労働者によって2005年に設立されたインドネシアの労働団体です。OPPUKは労働者を組織し教育し、北スマトラとインドネシアの他地域でパーム油労働者の権利のための研究、政策提言、およびキャンペーンを実施しています。

国際労働権利フォーラム(ILRF)は、世界中の労働者のために公正かつ人道的な環境を達成するための人権擁護団体です。ILRFは子どもと強制労働、差別などの労働者の権利侵害を明らかにするために、労働組合とコミュニティベースの労働者の権利擁護団体と連携し、組織を作り団体交渉をしています。

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NGO共同声明:2020東京五輪の木材調達基準改定は不十分(2019/1/30)

〜組織委に改定基準の内容と決定までの経緯の説明を求める〜

国内外のNGOは本日30日、東京2020組織委員会が「持続可能性に配慮した木材の調達基準」改定を1月18日に発表(注1)したことを受けて、改定された基準では東京五輪のサプライチェーンで繰り返し確認されている熱帯林破壊や人権侵害に関係した木材利用を止めることができないとし、遺憾の意を表しました。このままでは、有意義なデューデリジェンス(相当の注意による適正評価)をすることなく、問題のある企業からのリスクの高い木材をサプライヤー企業が利用し続けることが可能となり、2020年東京五輪は「苦いレガシー」を日本に残してしまうことになります。

東京五輪は招致活動の段階から物議を醸してきた(注2)が、新施設建設のために持続不可能な熱帯材を大量に利用したことは、その典型的な事例の一つであり、持続可能な大会を開催するという東京五輪の公約に明らかに反しています。東京2020組織委員会が公表した記録によれば、2016年12月から2018年11月までの間に、マレーシアやインドネシアの熱帯林由来の17万枚以上のコンクリート型枠合板が、五輪の新会場建設に利用されました。これは最大で約9,823立方メートルもの丸太材に相当します(注3)。これらの木材の73%は、熱帯の天然林の皆伐も含め、インドネシアからきており、世界で最も生物多様性が豊かな森林生態系の一つに悪影響を及ぼしています(注4)

組織委員会は、NGOによる問題提起や、多くの署名、そして同委員会の持続可能性に関する専門家からの懸念に対応して、2018年7月に既存の木材調達基準の見直しを開始しました。1月18日に発表された改定基準では最低限の改善は行なわれたものの、残念ながら調達木材の持続可能性や合法性すらも確保できていません。

まず第一に、改定基準では森林の農地等への転換といった、他の用途のために皆伐された木材に由来する製品、いわゆる「転換材」を明確に排除しています。また、サプライヤー企業に対して供給する木材を伐採地の森林まで追跡し、基準に合致しない木材を生産する企業からの調達リスクを評価し、軽減することが推奨されています。こうした追加は改善に見えますが、既存の基準(注5)を普通に解釈すれば、すでに転換材の調達は除外されています。そしてサプライヤー企業のデューデリジェンスに関する規定は義務としていません。第二に、改定基準には以下のような問題が残っています: ア)持続可能性や権利に関する規定を満たしていない合板の利用を可能としている重大な「抜け穴」が維持されていること、イ)問題のある木材を避けるために不可欠な、有意義なデューデリジェンス(注6)を義務にしていないこと、ウ)サプライヤーに対して、木材伐採によって影響を受ける地域住民から「自由意思による事前の十分な情報に基づく同意(FPIC)」を得ることを要求していないこと、そして、エ)認証材のサプライチェーン内に持続不可能な木材が含まれる明確な証拠があったとしても、追加的なデューデリジェンスをすることなく認証材については全て持続可能であると想定している点です(注7)

さらに、木材調達基準の見直しのプロセスをみると、東京五輪自らが目指していたPDCAサイクル(注8)を実施せず、大きな欠陥があると言わざるを得ません。調達ワーキンググループ委員に対しても、マレーシアとインドネシアで実施している現地モニタリング調査の調査方法や結果についての情報提供は行われませんでした。結果として、モニタリング調査結果について検討もせず、五輪施設建設に実際に使われた木材製品のサプライチェーンに関する課題については限られた議論しかしないまま、見直しが進められました。さらに、基準見直しプロセスには、一般社会からも高い関心が寄せられたにもかかわらず、改定基準についてのパブリック・コメントも実施されませんでした。

私たちは、全ての東京五輪関連機関に以下を求めます。

1) これまで調達された全ての熱帯材について、どのように持続可能性や合法性が確保されたのかについて詳細な評価の情報開示を即座に行うこと、

2) 伐採地までの完全な追跡可能性を確立していない場合や、木材調達基準の合法性、持続可能性、権利に関する5つの基準とFPIC取得について第三者監査で確認されていない場合、大会施設の建設に熱帯地域や他の高リスク地域からの木材製品の利用を全て停止すること、

3) 特にリスクの高い木材について、東京五輪のサプライチェーン全体を通じての合法性と持続可能性の確保において、改定された調達基準がどのような効果があるのか詳細な説明を公表すること、そして木材伐採によって影響を受ける地域住民が利用可能な言語で全ての情報公開を実施すべきです。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)
熱帯林行動ネットワーク(JATAN)
ブルーノマンサー基金
ウータン・森と生活を考える会
国際NGO EIA(環境調査エージェンシー)
サラワク・ダヤック・イバン協会(SADIA)
Tukインドネシア(トゥック)
Walhi 北マルク支部(ワルヒ:インドネシア環境フォーラム)
サラワク・キャンペーン委員会(SCC)
国際環境NGO FoE Japan

注1)東京2020組織委員会、「持続可能性に配慮した調達コードの改定について:木材調達基準」、 2019年1月18日

注2) AFP、「JOC竹田会長、東京五輪招致めぐる贈賄容疑 仏が捜査」、2019年1月11日

注3) 東京五輪向けのコンクリート型枠合板の調達状況(東京2020組織委員会、「『持続可能性に配慮した木材の調達基準』の実施状況に関するフォローアップについて」、2019年1月28日)
※日本では、コンクリート型枠合板の典型的なサイズは、12X900X1800mm〜15x910x1820mmであり、合板の量を生産において利用する丸太の量に変換する場合に使用される係数は2.3となる(出所: UNECE/FAO)。これは約7,686〜9,823立方メートルもの丸太材に相当する。

注4)RAN、「プレスリリース:RANとボルネオオランウータン、東京都とJSCに通報〜新国立など五輪会場の木材、オランウータン生息地に深刻な危害〜」、2018年11月30日
※東京五輪大会施設の建設現場で使用されたインドネシア産木材の大部分が、韓国系インドネシアの伐採・パーム油大手コリンドによって供給されたことが知られている。同社は違法伐採、人権侵害、そして石炭鉱山及びアブラヤシ農園開発のための皆伐に関与しており、RANなどが苦情を申し立てている。

注5)「持続可能性に配慮した木材の調達基準」(改定前)、2及び3

注6)参照 「合法木材調達のための デューデリジェンス」

注7)NGO共同緊急プレスリリース「東京五輪競技会場の建設に高リスクの熱帯材大量使用、国内外NGOから「遺憾」の声」、2018年2月16日

注8)『東京 2020 オリンピック・パラリンピック競技大会 持続可能性に配慮した調達コード(第3版)』、14ページ

※追記:国際環境NGO FoE Japanが1月31日に賛同しました。

※追記:本プレスリリースにて掲載内容に一部誤りがございました。訂正してお詫びします(3月6日)。
【誤】約9,823本もの丸太材 【正】最大で約9,823立方メートルもの丸太材
また、注3)に以下の太字部分を追加しました。
※日本では、コンクリート型枠合板の典型的なサイズは、12X900X1800mm〜15x910x1820mmであり、合板の量を生産において利用する丸太の量に変換する場合に使用される係数は2.3となる(出所: UNECE/FAO)。これは約7,686〜9,823立方メートルもの丸太材に相当する。

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プレスリリース:3メガ融資先のパーム油大手インドフード子会社、RSPO認証脱退を通知 (2019/1/28)

〜RSPOはインドフードの会員資格停止を警告〜
NGO、インドフードとの取引関係の停止をペプシコ、ウィルマー、銀行に訴え

サンフランシスコ発 ー インドネシアのパーム油大手インドフードの子会社が、世界最大のパーム油認証制度である「持続可能なパーム油のための円卓会議」(RSPO)から脱退する計画を発表したことを受けて(注1)、25日(現地時間)、環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)、インドネシアの労働権擁護団体OPPUKはコメントを発表しました。インドフードはインドネシア最大の食品会社で、世界最大の即席麺企業の一つです。また同社は、日本のメガバンクの三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)、みずほフィナンシャルグループ(みずほ)、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)から長期にわたって多額の融資を受けています。

インドフードの農園で肥料袋を補充する女性労働者 ©︎RAN

インドフードは昨年11月、所有・運営するアブラヤシ農園におけるRSPO「原則と基準」での20件以上の違反とインドネシア労働法での10件の違反に対し、RSPOから是正措置計画の提出を求められていました(注2)。しかし期限を過ぎても提出がありませんでした。

OPPUKの専務理事ヘルウィン・ナスシオン氏(Herwin Nasution)は「今こそインドフードの実情を批判すべき時です。同社は、高い基準では知られていないパーム油業界でも、特に悪質な労働習慣を持つ会社です。インドフードが『持続可能』とは程遠い企業であることは、私たちにとっては何年も前から周知の事実でした。今こそRSPOは自らの認定基準と会員規則を適用する時です。インドフードのRSPO認証からの脱退通知は、同社が組織的な労働搾取への対処を拒否していることを示す新たな証拠です」と批判しました。

RSPOによるインドフードのアブラヤシ農園の調査は、RAN、OPPUK、国際労働権フォーラム(ILRF)の3団体が2016年10月に行った苦情申し立て(注3)がきっかけとなって実施されました。RSPOがインドフードの会員資格を停止すると考えられますが、まだ実施には至っていません。RSPOはインドフード子会社の脱退計画の通知を受けて同社に手紙を送り(注4)、1月24日の17時まで(ジャカルタ現地時間)に説明の返答を求めていました。インドフードはインドネシア最大のパーム油企業の一社ですが、RSPOが認証停止を実行した場合、RSPO会員資格を失う最大の企業になります。NGOはインドフードの動きを、労働者の権利を尊重する責任から免れるための企てであると批判していますーー RSPOも、会員企業が認証を脱退することで責任を逃れようとする動きを警告しています(注5)

RAN日本代表の川上豊幸は「インドフードといまも取引を続けている企業にとって、取引停止を考える最終段階に来ていることは間違いありません。ペプシコとウィルマーは、インドフードの子会社であるインドアグリからのパーム油調達を停止しています。両企業はインドアグリとの合弁事業の提携も解消すべきです。そして、日本の3メガバンクはインドフードへの融資を停止すべきです。そうでなければ、違法で非倫理的な行為を平気で行なっている企業との取引を、それと知りながら故意に続けていることになります」と訴えました。

昨年11月のRSPOによるインドフードへの制裁措置に先立ち、ネスレ、ムシムマス、カーギル、日本の製油会社の不二製油、ハーシー、ケロッグ、ゼネラル・ミルズ、ユニリーバ、そしてマースなど多くのパーム油購入企業は、インドフードとの取引をすでに停止しています。しかし、インドフードの合弁パートナーであるペプシコ、ウィルマー、ヤム・ブランズなど多くの企業は現在もインドフードと取引関係を継続しており、労働搾取とのつながりが残ったままとなっています。インドフードへの投資家や貸し手には、ブラックロック、ラボバンク、日本のメガバンクのSMBC、みずほ、MUFGが含まれます。

インドフードは、持続可能性への取り組みをインドネシア政府が導入する「持続可能なパーム油のインドネシア国内規定(ISPO)」に集中させると、RSPOへの告知文で述べています。しかしインドネシアの市民団体は、ISPO認証は持続可能なパーム油の実践を確かなものにするには不十分であると批判してきました。

RAN、ILRF、OPPUKの3団体はインドフードに対して、今も続く労働法違反への対処を引き続き求めていきます。また同社に対して、包括的な「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止方針」(NDPE: No Deforestation, No Peat and No Exploitation)を導入し、自社だけでなく、同社を傘下に持つインドネシア最大の財閥であるサリム・グループ全体、そして独立系の供給業者にも適用するよう求めていきます。

注1)インドフードからRSPO宛の手紙

注2)RANプレスリリース「パーム油大手インドフード、労働権侵害でRSPOの制裁措置」、2018年11月5日

注3)3団体による苦情申し立て文書(英語)、苦情申し立ての概要(英語、2016年10月12日付け)

注4)RSPO, “RSPO CEO’s Response to Letter from PT PP London Sumatra Indonesia Tbk (subsidiary of Salim Ivomas Pratama Tbk)”、 2019年1月24日

注5)RSPO、第15回年次総会 決議「GA15-6d」、2018年11月15日

参考
●インドフード社のESGリスクについての分析はRANブログ「3大メガバンクが直面するパーム油セクターのESGリスク:インドフード社の事例」(2018年6月6日)参照のこと

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。
http://japan.ran.org

OPPUKは、インドネシア北スマトラのパーム油労働者の労働・生活状況に懸念を持つ学生運動と労働者によって2005年に設立されたインドネシアの労働団体です。OPPUKは労働者を組織し教育し、北スマトラとインドネシアの他地域でパーム油労働者の権利のための研究、政策提言、およびキャンペーンを実施しています。

国際労働権利フォーラム(ILRF)は、世界中の労働者のために公正かつ人道的な環境を達成するための人権擁護団体です。ILRFは子どもと強制労働、差別などの労働者の権利侵害を明らかにするために、労働組合とコミュニティベースの労働者の権利擁護団体と連携し、組織を作り団体交渉をしています。

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