サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

ブログ:APP 社は約束を果たすべき時だ(2017/5/24)

森林 シニアキャンペーナー ブリアナラ・モーガン

APP(アジア・パルプ・アンド・ペーパー)社は、インドネシアと中国の両国における最大手の紙パルプメー カーだ。同社は森林破壊や人権侵害をあからさまに行ってきた歴史があるが、2013 年の「森林破壊ゼロ、人権侵害ゼロ、泥炭地開発ゼロ」方針の採択、および天然熱帯林の伐採からの撤退は、インドネシアの森林破壊の防 止に向けた大きな前進だった。しかし現場レベルでは、特に最前線の地域や先住民族のコミュニティにとって十 分な変化は見られていない。

インドネシア、北スマトラ州ルブック・マンダルサ村で、慣習的に所有してきた土地を歩く農民たち。 同村では APP 社との社会的紛争が今も続いている。

APP 社は、森林を破壊し、地域コミュニティの同意なしに土地を利用するという点で、紙パルプ産業における 「最悪中の最悪企業」として長年知られてきた。同社はこれまで、インドネシア国内で管理する土地 260 万ヘク タールのうち 200 万ヘクタール以上(7,700 平方マイル以上)を皆伐している。森林の大部分は、大量の炭素を 貯蔵している泥炭地域にあり、また絶滅の危機に瀕するトラやゾウの生息地であったが、パルプ原料のため、あ るいはパルプ用産業植林地への転換のために皆伐された。皆伐された土地の 100 万ヘクタール以上は、現在ユー カリやアカシアといった単一樹種の植林地と化している。

このような環境破壊と温室効果ガス排出に加えて、 APP 社の負の遺産には社会紛争と地域コミュニティへの被害も含まれる。問題の多くは、APP 社が地域コミュ ニティが所有する土地を特定して伐採や植林開発から除外することを怠ったために生じており、その結果、同社 は数百もの地域コミュニティに対して威圧的な行為を行ったり(時には暴力的な) 紛争を起こしたりしている。

APP 社の木材運搬用重トラックは、紙パルプ用植林地で収穫した木材を運ぶために、定期的に地域コミュニティ の所有地を縦断している。道路を破壊し、もうもうたる砂塵で道路わきの家を覆っている。

主にレインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)、WWF、FoE、グリーンピースなどの NGO が インドネシアの市民社会ともに、この悪質な企業の問題を明らかにし、同社との取引中止を求める大キャンペー ンを行ったことにより、APP 社による深刻な環境・社会影響は国際社会の注目を浴びることとなった。同社が重要な森林生息地として知られる地域を皆伐したことが発覚後、森林管理協議会(FSC)は 2007 年、同社との関 係を解消した。世界市場もこれを考慮し、ディズニー、マテル、ハーパー・コリンズ、オフィスデポなど数多く の大企業が同社との契約を解除することとなった。解除された契約額は、合計 8 億ドル以上と推定される。

「私たちの土地が解放されるまで、私たちの権利を回復するまで、続けなければなりません。」 イブ・ヌルホトマサリさん(インドネシア、ジャンビ州ルブク・マンダルサ村)

APP 社は、大規模な契約解除への対応のなかで、自らが変わる必要性を認め、2013 年 2 月には自社の業務から森林破壊、人権侵害、および泥炭地での皆伐を止めるという誓約を採択した。これ以降、いくつかの面で進歩はあり、ほとんどの森林減少や、泥炭林への植林地拡大は停止されている。しかし、大きな懸念がある。APP 社 は最近、世界最大規模のパルプ・製紙工場となる OKI 工場を南スマトラ州に完成させたが、この工場のための長期的な原料や木質繊維の供給が足りないのだ。これは APP 社が泥炭地を排水して利用することに引き続き依 存し、パルプ材の生産基盤を拡大する必要があるという、深刻なリスクを意味する。また、それによって新たな 社会紛争やさらなる森林破壊という重大なリスクも発生してくる。

「APP 社が誓約を破っていることは明らかです。」 フランドディ・タルナ・ネガラさん(インドネシア、ジャンビ州ルブク・マンダルサ村)

さらに、APP 社による土地収奪、権利侵害、社会的被害という負の遺産は、依然として大きな問題として残っ ている。現在、数百もの地域コミュニティが、慣習的に所有する森林や農場を、同社が同意なしに使用したり皆伐したことに対して是正を求めているのだ。APP 社の植林地で係争中の社会紛争のなかでも、最も極端な例のひとつは“Beyond Paper Promises”ウェブサイト(英語:訳「紙の約束を越えて」)で紹介しているルブク・マンダルサ村のケースである。事 例として、以下に述べる。

スマトラのジャンビ州のルブック・マンダルサ村は、約 6,000 人のマラユ民族が形成する農業コミュニティで、 自給と現金収入を米や野菜、コーヒーの栽培に依存している。APP 社は 2006 年から同地域で業務を開始し、農 地をブルドーザーで潰し、伐採した木を細い川に投げ入れた。コミュニティは抗議のために立ち上がり、地方政 府に対して苦情申し立てと抗議活動を行った。抗議しても何も変わらず皆伐が続いたため、人々は直接行動を起 こし、掘削機械を破壊した。9人の村人が逮捕され、15ヶ月間刑務所に収容されたが、人々は諦めなかった。APP 社が1期目のユーカリを収穫した後、農民たちは空閑地となったその地に戻り、作物を植えて自分たちの土地を 取り戻した。

インドネシアのルブク・マンダルサ村では、農業はたんなる生計手段ではなく、抵抗手段でもある。

この紛争は 2015 年 2 月 8 日、悲劇的な頂点を迎えた。懸案の土地に出入りして農業を行っていたルブック・ マンダルサ村コミュニティの人々は収穫祭を予定しており、APP 社も収穫祭について事前に通知され、一帯への 出入りを監視していた検問所を人々が自由に通過することに合意した。その日の午後、地元出身の青年活動家インドラ・ペラーニさんは祭りに出席するために検問所を通過しようとしたが、検問所で警備員と言い争いになっ た。インドラ・ペラーニさんが祭りに到着することはなかった。翌日、手足が結ばれ、撲殺された彼の遺体が見 つかった。

殺害された農民活動家、インドラ・ペラーニさん(写真提供:ワルヒ・ジャンビ)

この殺人事件は国内外の報道で広く非難された。殺人事件以降、APP 社は現地の警備会社による業務を停止さ せ、地域コミュニティから概ね手を引いた。警備員は警察に自首し、現在は刑務所で服役している。しかし事件以降もこの地域の根本的な紛争はほとんど変化していない。現在 300 人以上の人々が耕作している土地は、地域 コミュニティが数世代にわたって使ってきたものであるが、法律上、今では APP 社の植林地の一部とされてい るのだ。農民は土地、農作物、建てた家屋を失う恐怖の中で暮らしている。

APP 社は、このような紛争が再び発生しないこと、既存の紛争が解決されること、コミュニティが受けた被害 に対処し、改善されることを確保しなければならない。

英語のブログはこちら(2017/5/24)

関連資料
プレスリリース:紙パルプ調達方針実施に積極的な企業ランキング発表『紙の約束を超えて』」(2018/6/14)