サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

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ブログ:シナルマス〜インドネシア森林火災最大の責任者〜(2020/10/30)

みずほ、三菱UFJ、アスクル等とのつながり

「シナルマス・グループ」という企業の名前を聞いたことはあるだろうか? インドネシア最大の複合企業の一つで、創業者の故エカ・ウィジャヤ一家によって管理されている。

シナルマス・グループの最大のビジネスは紙パルプ事業(アジア・パルプ・アンド・ペーパー:APP)とパーム油事業(ゴールデン・アグリ・リソーシズ:GAR)で、両社はインドネシア最大の紙パルプ企業、パーム油生産企業である。APPとGARは5年以上前に持続可能性に関する方針を発表したが、同グループの事業にはESG(環境・社会・ガバナンス)に関するリスクが深く根付いている。

伐採され焼き払われて、植栽の準備が行われたシナルマス小会社の事業許可地
撮影:インドネシアNGO ジカラハリ、2020年7月3日

最新の分析で明らかになったのは、世界の大手消費財企業と銀行がシナルマス・グループと取引および多額の資金提供を継続し、インドネシアで毎年起こる森林火災と煙害(ヘイズ)を助長する役割を果たしていることだ。森林火災の原因を作り出している企業に資金提供し、森林が伐採された土地で生産された紙製品やパーム油などを購入することにより、銀行と消費財企業は火災に拍車をかけているのだ。

RANは、今年9月に英文ブリーフィングペーパー「シナルマス・グループ:インドネシア森林火災 最大の責任者」を発表し、グループへの資金提供と、グループからの調達におけるESGリスク事例、そしてグループおよびサプライヤーの事業許可地で意図的に森林が燃やされていることに対して懸念を表明した。

この度、和訳版発行にあたり、資料の要点と日本市場とのつながりを紹介する。

メガバンクを含む金融機関とのつながり

RANらが運営する「森林と金融」データベース(世界三大熱帯林地域に影響を及ぼす事業を行う企業への資金を明らかにするオンラインツール)を基にした分析によると、シナルマス・グループは、2015年から2020年第1四半期にかけて、200億米ドルの融資・引受を銀行から受けていた。143億ドルは紙パルプ事業、45億ドルはパーム油事業に提供され、インドネシアの森林破壊リスクのある産品に関わる企業への融資・引受額としては最大だった。

グループへの最大の資金提供者はインドネシアのバンク・ラヤット・インドネシア(BRI)バンクネガラインドネシア(BNI)である。両行は顧客企業に、炭素を多く含む泥炭地の開発や、農園開発における火の使用を禁止する方針を公表していない。

日本のメガバンクでは、みずほフィナンシャルグループ三菱UFJフィナンシャル・グループが森林セクターへの資金提供における環境・社会方針を2018年から採用しているが、下図の通り、近年でも同グループへの重要な資金提供者となっている。

表:シナルマス・グループの事業に資金を提供する上位10社(2015〜2020年4月)
単位:百万米ドル(「森林と金融」データベースより)

紙パルプ・パーム油:消費財企業、商社とのつながり

シナルマス・グループは、多くの世界大手消費財企業に紙製品を提供する主要サプライヤーである。日本市場とのかかわりも大きい。

紙パルプ

日本では、1997年に日本法人のエーピーピー・ジャパン株式会社を伊藤忠商事との合弁企業として設立。2016年4月に経済団体連合会(経団連)に入会し、2020年1月にAPP社の100%完全子会社に移行した。

APPがインドネシアで生産した紙は、伊藤忠や丸紅などの商社を介して日本に輸入され、アスクルやカウネット(コクヨ)、ジョインテックス(プラス)や量販店などでコピー用紙が販売されている。コピー用紙市場では約25%のシェアをもつ(2016年時点)。

2013年、APPはNGOのキャンペーンに押される形で、森林保護方針( FCP:Forest Conservation Policy)を採択した。方針で森林減少ゼロを約束し、火入れゼロ方針も打ち立て、土地紛争の解決も約束した。しかし、その約束はいまだ果たされず、泥炭地の未開発地域で未だに開発を拡大している。泥炭地は炭素を多く含むため燃えやすく、森林火災のリスクが非常に大きくなる。

国際環境NGOグリーンピースによる火災跡のデータ分析によると、APPの子会社、パートナー企業、サプライヤー企業による火災の総面積は25万ヘクタールを超えると推定されている(2015-2018年)。2020年6月28日、シナルマス・グループのパルプ材の子会社(アララ・アバディ社)の植林地で違法行為とつながりのある火災跡も見つかった(冒頭の写真を参照)。

パーム油

グループのパーム油部門のGARはグループの中核企業で、ユニリーバやネスレ、ペプシコといったグローバル食品大手企業にパーム油を供給している。一方で、自社農園での火災の事例も発覚している。2019年8月から9月、西カリマンタンとスマトラ島・ジャンビのアブラヤシ農園で火災が起こったことも衛星画像と分析で明らかになっている。

日本企業にもGARのパーム油は流れている。現地の搾油工場リストを公表している不二製油などの情報によると、GARのパーム油は日本企業に供給されていることは明らかだ。

2019年9月、RANの調査で、インドネシア政府が保護する泥炭地地域の「ラワ・シンキル野生生物保護区」(「ルーセル・エコシステム」内)で違法に生産されたパーム油をGARが調達していることがわかった。保護区内で違法栽培された実が、ある搾油工場に運び込まれ、その搾油工場からGARが調達していたのだ。同保護区内での違法栽培については今年3月に朝日新聞でも報道された

また、京都・舞鶴のパーム油発電事業にGARが事業主体として関わり、パーム油の調達が見込まれていた。しかしGARに代わって事業主体となった太陽光発電企業は同事業から撤退を決め、出資を得ることができず、事業は頓挫している

銀行と消費財企業ができること

シナルマス・グループは、森林火災と煙害だけでなく、土地の権利に関連する紛争、森林破壊ゼロに関しても公約を果たしていない状況が続いてる。様々な違反に対して、政府による効果的な制裁がない中、金融機関と消費財企業は同グループに対して働きかけ、影響力を及ぼす必要がある。

ブリーフィングペーパーでは、以下4点を銀行と消費財企業に提言している。

1)銀行と消費財企業は、シナルマス・グループへの新たな資金提供および取引を停止すること。また透明性を要求し、同グループの企業所有および管理の開示を要求すること

2)銀行と消費財企業は、シナルマス・グループを含むあらゆる顧客企業に、グループ全体で法令および方針の遵守を要求する明確な「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止(NDPE)方針」を採択と実施を要求すること

3)銀行は、シナルマス・グループ、そして同グループのパートナーおよびサプライヤーを含む顧客企業が事業許可地の泥炭地を保護し、復元するように要求すること。

4)銀行と消費財企業は、火災を一切許容しない立場を表明すること。顧客企業やサプライヤーが意図的に森林に火をつけたり、火災の防止を怠たったりした場合、新たな信用枠の提供や取引を停止し、取引関係や調達を段階的に廃止すること。

「シナルマス・グループ:インドネシア森林火災 最大の責任者」
和訳版を読む>>

メディア掲載:【動画】Brut JapanでRANハイネケンが取材を受けました

Brut Japan「メガバンクと気候変動の危険な関係」(2020年10月15日)〜RAN「責任ある金融」シニア・キャンペーナーのハナ・ハイネケンが、森林火災、気候変動とメガバンクの関係について取材を受けました。

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**関連するRANのプレスリリース**

「『森林と金融』グローバルのデータベース発表〜パリ協定後、森林破壊企業に1,500億ドルの資金が流入〜」(2020/9/2)

Photo by Erik McGregor

NGO共同声明:三菱UFJ、石炭火力向けプロジェクトファイナンス残高ゼロ目標 (2020/10/16)

依然パリ協定と整合せず、邦銀の遅れ目立つ

(English follows Japanese)

本日、三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)がサステナビリティレポートを公表し(注1)、「2019年度末時点で3,580百万米ドルの石炭火力発電向けプロジェクトファイナンスの貸出金残高を2030 年度に2019 年度比 50% 削減、2040年度を目途にゼロにする(但し、MUFG 環境・社会ポリシーフレームワークに基づき、脱炭素社会への移行に向けた取り組みに資する案件は除外)」との目標を掲げました。これは、本年4月および7月にそれぞれ同様の目標を掲げた、みずほフィナンシャルグループ(注2)、三井住友フィナンシャルグループに続いての発表であり、邦銀大手3行の足並みが揃った形となります。

 これは一定の前進ではあるものの、気候危機の緊急性を鑑みれば、不十分な目標設定としか言わざるを得ません。早急にさらなる厳格な目標設定と方針改訂が求められます。MUFGも署名している国連責任銀行原則(PRB)では、パリ協定と持続可能な開発目標(SDGs)にビジネス戦略を整合させることが謳われていますが、この度MUFGが掲げた目標は、時間軸の長さ、並びにスコープの狭さの両面で大きな問題があります。また、邦銀の石炭方針は、海外の金融機関と比べても依然低い評価に留まっています(注3)。

 最新の科学によれば、パリ協定の1.5度目標を達成するためには、先進国では2030年までに、途上国であっても2040年までに石炭火力発電所の運転を完全に停止する必要があります。償還期間を過ぎても何十年も石炭火力発電所が稼働し続けることを鑑みれば、与信残高ゼロはより早期に達成される必要があります。また、今回の目標では依然として、新規の融資契約の余地が残されています。新規の石炭火力発電所は、世界中で1基たりとも建設の余地のないことが科学的にも明らかとなっていますが、邦銀によるブンアン2(ベトナム)などの新規融資検討が懸念されています。同事業はパリ協定の目標と整合しないだけでなく、経済合理性の欠如、現地の環境汚染や住民への人権侵害など、様々な問題が指摘されています。新規石炭火力発電事業への融資を例外なく停止する方針を早急に掲げるべきです。

 また、スコープをプロジェクトファイナンスに限定し、コーポレートファイナンスを対象外としていることも問題です。石炭採掘を含む石炭火力のバリューチェーン全体を網羅したコーポレートファイナンス(注4)も対象に含めるべきであり、パリ協定に整合的な時間軸でのフェーズアウト戦略を掲げるべきです。海外では、顧客にパリ協定に整合的な時間軸での移行計画の提出を求めるエンゲージメントを行い、計画が不適格であればダイベストメントするという流れが加速しています。これは一例ですが、エンゲージメントを効果的に行うためにも、まず金融機関がパリ協定に整合的な戦略・目標のロードマップを示す必要があります。注5

 さらに、石炭火力だけでなく、炭素排出量の多い他の化石燃料関連事業や土地利用に関わる(注6)事業および企業に対する資金提供の停止や残高削減の方針も掲げるべきです。

注1) https://www.mufg.jp/dam/csr/report/2020/ja_all.pdf

注2) 4月公表の同グループの方針では、2050年までの目標設定だったが、6月に開催された年次株主総会で2040年を目処に達成できるという趣旨の発言がなされた。

注3) 欧州やアメリカ、シンガポールの銀行と比べても邦銀の石炭方針は低い評価となっている。https://coalpolicytool.org/ 
(参考:https://world.350.org/ja/press-release/200908/

注4) 石炭火力発電への依存度が高い企業・新規発電所および関連インフラ建設を計画中の企業向けの融資、株式や債券の引受・投資など。

注5) パリ協定と整合的な目標設定とロードマップを示そうとしている例として、仏BNPパリバの取り組みが挙げられる。https://350jp.org/tcfd/

注6) IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の2019年「土地関係特別報告書」(https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/kankyo/190809.html)では、農業、林業、その他土地利用による排出量が、人間活動による排出量の約23%を占めており、このうち、熱帯林減少による排出量が最も問題であるとされた。http://japan.ran.org/?p=1517

国際環境NGO 350.org Japan
気候ネットワーク
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
国際環境NGO FoE Japan
メコン・ウォッチ
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
国際環境NGOグリーンピース・ジャパン

<本件に関するお問い合わせ>
国際環境NGO 350.org Japan 渡辺瑛莉 japan@350.org

‘Inadequately aligned with Paris Agreement, Mitsubishi UFJ Financial Group lags far behind its international peers’

No Coal Japan coalition responds to banking giant’s new climate goals

Joint Press Statement
October 16, 2020

350.org
Kiko Network
Japan Center for a Sustainable Environment and Society (JACSES)
Friends of the Earth Japan
Mekong Watch
Rainforest Action Network
Greenpeace Japan

Japan — Today, Mitsubishi UFJ Financial Group (MUFG), the largest banking institution in Japan, released its Sustainability Report (Japanese version only), stating its goal of erasing US$3.58 billion loan balances for coal-fired power projects by 2040. This announcement follows those of its Japanese peers, Mizuho Financial Group and Sumitomo Mitsui Financial Group, which set the same goal in April (1) and July this year respectively.

In response to the announcement, the No Coal Japan coalition, formed by several civil society groups, including 350.org, Kiko Network, JACSES, FoE Japan, Mekong Watch, Rainforest Action Network and Greenpeace Japan, said:

“While this is a step forward for MUFG, this goal is inadequate given the urgency of the climate crisis, and the impact of coal-fired power plants and other fossil fuels on health amidst the COVID-19 pandemic. There is an urgent need for stricter goal setting and fundamental policy revisions in Japan’s financial sector.

The standard of Japanese banks’ coal policies including MUFG remains low as compared to overseas financial institutions. MUFG is also one of the signatories of the UN Principles for Responsible Banking (PRB), which stipulates that the signatory banks should align their business strategies with the Paris Agreement and the Sustainable Development Goals (SDGs).

The goal set by MUFG is problematic in both a lengthy timeline and narrow scope. According to the best available science, coal-fired power plants need to be completely shut down by 2030 in developed countries and by 2040 in the rest of the world to limit the warming of the Earth to1.5 degrees, aligning with the Paris Agreement. Given that coal-fired power plants will continue to operate for decades beyond the redemption period, a zero-loan balance needs to be achieved much sooner.

In addition, the goal still leaves room for financing new coal fired power projects. It is scientifically clear that there is no room for the construction of any new coal-fired power plant in the world. However, there are concerns that Japanese banks are considering new loans such as the coal-fired power station Vung Ang 2 in Vietnam.

“Not only is the project inconsistent with the goal of the Paris Agreement, it lacks economic profitability, and will pollute the local environment and violate the basic human rights of the local communities. To align with Paris goals, MUFG should urgently put in place a policy to suspend financing for all the new coal-fired power projects without exception.

The scope of the goal set by MUFG is limited to project financing and not applied to corporate financing. Corporate financing (2), which covers the entire value chain of coal-fired power including coal mining, should be included along with a phase-out strategy with a timeline consistent with the Paris Agreement. Internationally, there is an accelerating trend where banks ask their customers to submit a transition plan on a timeline consistent with the Paris Agreement, and divest from clients with inadequate transition plans. To effectively facilitate this process, financial institutions must first set a roadmap of strategies and goals that are consistent with the Paris Agreement.

Furthermore, in addition to coal-fired power, policies to stop funding other high carbon emitting sectors such as other fossil fuel sectors and land-use-related sectors (3), and targets to phase-out from those sectors should be put forward.

Notes to editors:

(1) In April, Mizuho Financial Group announced its goal of erasing its outstanding credit balance for coal-fired power projects by 2050. However, during its Annual Shareholders’ Meeting in June 2020, the group commented that this goal could be achieved by 2040.

(2) Loans, underwritings, equity and bond investments for companies heavily reliant on coal mining/coal-fired power and companies who have expansion plans for new coal mining/coal-fired power plants and related infrastructures.

(3) According to the IPCC Special Report on Climate Change and Land (2019), emissions from agriculture, forestry and other forms of land use make up 23% of total emissions from human activities, with deforestation in tropical regions being singled out as the biggest carbon emitter from the land-use.

Contacts:
Asia Pacific: Nicole Han, +65 9828 1538, nicole.han@350.org
Global: Nathalia Clark, +55 61 991371229, nathalia@350.org

メディア掲載:日本経済新聞で「森林と金融」関連活動が紹介されました(2020/10/5)

日本経済新聞「ESG投資家が注視するメガバンクとアジア 」(2020年10月5日)〜RANのコメントが紹介されました〜

「国際会計基準(IFRS)をつくる国際会計基準審議会(IASB)の運営母体IFRS財団が、非財務情報の基準設定について協議文書を発表している。世界的に乱立ぎみの基準を整理、簡素化する狙いがあり、選択肢の1つとして財団の下に新組織『サステナビリティー基準審議会』(SSB)をつくる案を示した。12月末まで意見を募るという(略)。

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)が9月末に開いた説明会では、みずほに加えて、三菱UFJフィナンシャル・グループや三井住友フィナンシャルグループのASEAN域内での企業向け投融資について「結果として泥炭地・熱帯林の破壊につながっているのではないか」との問題提起がなされた。紹介されたインドネシアの大手財閥シナルマスへの融資などが象徴的な事例だ」>>続きを読む

**関連するRANのプレスリリース**
「『森林と金融』グローバルのデータベース発表〜パリ協定後、森林破壊企業に1,500億ドルの資金が流入〜」(2020/9/2)

MUFGアメリカズのニューヨーク本社前で森林火災への資金提供停止を訴えた、2020年9月1日、写真:Erik McGregor

プレスリリース:花王と三菱UFJ、インドネシア「ルーセル・エコシステム」森林破壊に加担 (2020/9/29)

取引先 RGEグループが森林破壊企業からパーム油調達

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、インドネシアで現地調査を実施し、スマトラ島の貴重な熱帯低地林「ルーセル・エコシステム」での森林破壊に、花王と三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が加担していることを明らかにしました注1)。「ルーセル・エコシステム」はアジア最大の熱帯林の一つで、絶滅危惧種のスマトラゾウ、サイ、オランウータン、トラが共存する、地球で最後の場所です。

ルーセル・エコシステムで造成作業をする掘削機、インドネシア ・アチェ州、2020年6月10日

本調査では、花王のパーム油サプライチェーンにある搾油工場が、「ルーセル・エコシステム」で森林破壊を起こしている生産者から調達していることが明らかになりました。同搾油工場は、花王が合弁事業をもつアピカルの子会社のパーム油精製工場にも供給しています。アピカルは複合企業ロイヤル・ゴールデン・イーグル(RGE)グループのパーム油子会社で、RGEグループはMUFGの顧客企業です。この生産者はこの地域で事業を行う企業で最も悪質な一社で、同社の皆伐率は過去半年で3倍になり、新型コロナウイルスの発生以来、同地域で急増する森林減少の証拠を示しています。

RGEグループ子会社のアピカルは、国内日用品・化粧品大手の花王と合弁会社を持っています注2)。花王は「森林破壊ゼロ」方針を日本で初めて採用し、国内の消費財メーカーでは先駆者的な存在と見なされています。花王はパーム油調達先の搾油工場リスト(2019年版)を公開しましたが(注3)、上記搾油工場の PT. SS が含まれ、同搾油工場から調達している可能性があります。花王がサプライチェーン全体で「森林破壊ゼロ」方針をしっかりと実施するためには、取引関係の見直しを含む迅速な対応が必要です。

また、不二製油と親会社の伊藤忠グループの搾油工場リストにもPT. SSが含まれていることから、日清食品を含む日本企業でも国内および海外での製造に問題あるパーム油が使われているリスクがあります。日清食品は、持続可能なパーム油調達で遅れを見せていましたが、今年8月に「森林破壊禁止・泥炭地開発禁止・搾取禁止方針」への支持を表明したばかりです(注4)。花王およびMUFGとともに日清食品は、RANが2020年から開始した「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」キャンペーンで注力している日本企業です(注5)。

RGEグループは、多国籍銀行から紙パルプ事業に2017年から2020年4月の期間で26億米ドル近くの融資を受け、そのうち18億ドルが同グループの紙パルプ企業であるエイプリル社に向けられました。MUFGはRGEグループへの最大の貸し手の一つです。MUFGは国連「責任銀行原則」(PRI)の署名銀行(注6)で、かつ、持続可能なパーム油への資金提供についての方針を制定しているにもかかわらず、同グループに7件の融資をしています。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表の川上豊幸は「日本の消費財企業や銀行の評判は、RGEグループとの提携や取引によって、深刻なリスクにさらされています。 花王、日清食品、三菱UFJは、RGEグループの『森林破壊禁止・泥炭地開発禁止・搾取禁止方針』の遵守が確実になるまで、グループ企業や関連会社、合弁会社からの原料調達の停止と、同様に資金提供を停止する必要があります」と訴えました。

RGEグループは、インドネシアの「タイクーン」(大物実業家)であるスカント・タノトが設立した企業グループです。 子会社が管理するアブラヤシ農園とパルプ材植林地造成のために広大な地域を大々的に開発してきたことから、長年にわたって森林破壊との関わりが指摘されてきました。本調査で判明したアピカル社と「ルーセル・エコシステム」の森林破壊とのつながりは、同グループがグローバル・サプライチェーンで「森林破壊禁止・泥炭地開発禁止・搾取禁止」(NDPE)基準を遵守できなかった一例にすぎません。このような問題が繰り返し起きるのは、RGEグループが方針を遵守していないにも関わらず、顧客企業や合弁事業パートナーが取引を続け、金融機関が資金提供を続けている実態があります。同グループが方針を強化して生産および調達を実践するまで、上記企業は取引を停止することが必要です。

さらに、同グループ紙パルプ部門のエイプリル社が保有するパルプ材植林地だけでも、500以上の地域コミュニティに悪影響を及ぼしています。今も 100を超える地域コミュニティが同グループや調達企業と対立中、あるいは対立したことがあります。例えば、先住民族のバタク族が先祖代々の土地としてきた北スマトラのトバ湖地域では、20以上の地域コミュニティで3,000以上の家族が、トバ・パルプ・レスタリのパルプ事業で被害を受けています。上記のコミュニティの多くは土地を取り戻すための抗議を続け、森林と慣習的に利用している土地は2万5千ヘクタールにもおよびます。

【調査結果】
●RANの現地調査員は、RGEグループのパーム油精製所が、問題ある生産者からのパーム油を、PT. Syaukath Sejahtera(PT. SS)という搾油工場経由で購入していることを突き止めた。この問題ある生産者PT. Tualang Raya(PT. TR)は、ルーセル・エコシステムで事業を行う企業でも最も悪質な一社で、同社の皆伐率は過去半年で3倍になった。

●2020年6月、PT. TRの事業許可地に掘削機が見つかり、同社がルーセル・エコシステムで土地を造成していたことの証拠となった。調査員はまた、同社の事業許可地で栽培され収穫されたアブラヤシの実がPT. SSの運営する搾油工場に輸送されるのを目撃した。

●調査により、PT. TRからパーム油を調達しているPT. SSの搾油工場は、アピカルの子会社であるPT. Sari Dumai Sejati Tangki Timbun が操業する精製所のサプライヤーであるという証拠が示された。 アピカルは、RGEグループのパーム油企業の1社である。

注1)RAN報告書(英語)「Royal Golden Eagle Group Links Global Brands and Financiers to Deforestation In the Leuser Ecosystem」、2020年9月21日
https://www.ran.org/leuser-watch/group-links-global-brands-and-financiers-to-deforestation-in-the-leuser/

注2)アピカル「サステナビリティレポート 2018」(英語)

注3) 花王「2019年の進捗:「持続可能なパーム油」の調達ガイドラインの進捗 目標1」(2020年9月21日閲覧)

注4) RANプレスリリース「日清食品、パーム油調達で森林破壊・泥炭地開発・搾取ゼロを約束〜「正しい方向への一歩」と歓迎、ただし達成目標2030年度では遅すぎる〜」、2020年8月20日

注5) RANプレスリリース「2020新キャンペーン開始!『キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう』〜17社の消費財ブランド&銀行を対象〜」、2020年4月1日

注6)国連「責任銀行原則」(PRI)の署名銀行(英語)

【10月13日追記】

●訂正:「花王は2019年、パーム油調達先の搾油工場リストを公開」とありましたが、正しくは「パーム油調達先の搾油工場リスト(2019年版)を公開」でした。

●「注3」に閲覧日を追加しました。

本件に関するお問い合わせ先
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

ブログ:森林火災をあおる金融機関〜背後で動く資金〜(2020/9/15)

ニューヨークでアピール行動、三菱UFJとブラックロックに熱帯林破壊への資金提供停止を求め

責任ある金融 シニア・キャンペーナー ハナ・ハイネケン
(FoE米国 ガウラブ・マダン氏との共同執筆

伐採直後の森林に隣接する、森林火災の発生地点、ブラジルマットグロッソ州アウタ・フロレスタ 写真:Christian Braga / Greenpeace

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)と国際的な市民団体は、8月31日から9月4日、インドネシアアマゾンで起きている森林火災について「ストップ!森林火災アクション週間」の呼びかけを行った。火災によって先住民族の土地が破壊され、気候変動と生物絶滅の危機が加速しているからだ。

さらに今年は、森林火災が、新型コロナウイルスによる公衆衛生と経済の「二重の危機」を悪化させる可能性がある。火災が、世界的流行の影響で動揺が広がる医療システムと経済にさらなる負担となっているのだ。新型コロナはすでに、先住民族や森林破壊の最前線にあるコミュニティに不均等な影響を及ぼしているが、火災によってその悲惨な状況が深刻化している。

熱帯林が自然発火することはなく、ブラジルとインドネシアで発生しているのは「自然火災」ではない。巨大アグリビジネス向けの土地開墾のために、意図的に火が放たれたのである。ブラジルでは牛肉と大豆、インドネシアではパーム油と紙パルプ事業がその原因である。違法にもかかわらず、企業が火入れをするのは、土地を切り拓く手段として最も安価だからだ。そして直接または間接的に森林火災につながりのあるこうした企業は、銀行や投資機関から莫大な額の投融資を受けている。その中には持続可能性への取り組みを主張している金融機関もある。

今回のアクション週間で、重要な4金融機関ーブラックロック、サンタンデール、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、バンクネガラインドネシア(BNI)ーの果たす役割に注目した理由はここにある。RANと協力団体が9月に更新した「森林と金融」データベースで検索すれば、どの銀行と投資機関が熱帯林の破壊と火災に拍車をかけ、どれだけの資金を提供しているのかを正確に突き止めることができる。分析の結果、上記の投資機関と銀行4社は、火入れを行なって森林を破壊するパーム油、紙パルプ、牛肉、大豆産業に大きく加担していることがわかった。

MUFG — 2016年以降、森林破壊リスク事業に32億ドルを提供

日本のメガバンクであるMUFGは世界5位の資産総額を保有する銀行で、実はパーム油部門では、東南アジア以外に本社を置く金融機関の中で最大の資金提供者でもある。MUFGは、シナルマス・グループのような、気候の安定化に極めて重要なインドネシアの熱帯林と泥炭地を破壊している世界最大のパーム油・紙パルプ企業複数社に資金を提供している。泥炭地破壊はインドネシアで起きている火災の最大の原因であり、アマゾンでの火災よりもはるかに多い二酸化炭素を放出した主因となっている。

残念ながら、MUFGが公表している与信方針に森林火災と煙害(ヘイズ)に関する記載はなく、インドネシアの子会社であるダナモン銀行に同行の方針の順守を義務付けてもいない。ただ私たち活動家にとって幸いなことに、米国におけるMUFGの存在感は大きい。MUFGは西海岸を拠点とするユニオンバンクを小会社に持ち、モルガン・スタンレーの筆頭株主でもある。なので、私たちの本拠地である米国で圧力をかけられるのは利点だ。

RANはボランティアとともにMUFGアメリカズのニューヨーク本社前でアピール行動を行い、森林火災への資金提供停止を訴えた。2020年9月1日
写真:Erik McGregor

ブラックロック — 2020年に森林破壊リスク事業に13億ドルを投資

世界最大の資産運用会社で、気候危機に責任を負うべき企業への最大の機関投資家でもあるブラックロックには、大きな問題がある。ブラックロックは今年1月、気候問題を投資戦略の中心に据えると約束したばかりだが、森林破壊、人権、そして先住民族および気候危機の最前線にある地域コミュニティの権利に対処する包括的で一貫性のある投資方針を持たず、森林破壊リスク企業への膨大な投資を続けている。さらに悪いことに、ブラックロックは2010年以降、森林破壊に対処する行動を求める株主提案の全てに、臆面もなく反対票を投じている以下、ブラックロックの森林破壊問題について簡単にまとめてみた。

●ブラックロックは、上場している世界最大の森林破壊リスク企業25社の三大株主の1社である
●ブラックロックは世界最大の食肉加工会社JBSの大口投資家であるが、同社がブラジルのアマゾンでの火災に関与しているという度重なる証拠や、さらに最近、同社のサプライチェーンにアマゾン熱帯林の保護地域で違法に放牧された畜牛が含まれているという証拠があるにもかかわらず、総額およそ1億4,000万米ドルを提供している
●ブラックロックは、2020年までに自社サプライチェーンで森林破壊に終止符を打つと約束しながら達成できなかった複数の消費財企業に、2,500億米ドルを投資している

RANとアマゾン・ウォッチ、FoEなどの協力団体は、ブラックロックに森林破壊と森林火災への資金提供を止めるよう訴えた。2020年9月1日 写真:Brooke Anderson

サンタンデール — 2016年以降、森林破壊リスク事業に50億ドルを提供

米国各地に支店を持ち、スペインに本社を置くサンタンデールは、ブラジルの企業に多額の資金を提供している。森林破壊の禁止をいろいろと宣言しているが、実際は、特にアマゾンの熱帯林破壊のリスクにさらされている。

サンタンデールは、2012年から「銀行環境イニシアティブ(Banking Environment Initiative)」のメンバーで、ソフト・コモディティ・コンパクト(SCC)に署名している。同コンパクトへの署名を通じて、サンタンデールは「ザ・コンシューマー・グッズ・フォーラム」の会員企業と協力して、2020年までに大豆、パーム油、牛肉、紙パルプおよび木材のサプライチェーンにおける「森林破壊実質ゼロ」を達成することを約束した。また同社は、自社の顧客企業と投資先が「熱帯林破壊のリスクが高い市場においてパーム油や木材製品、大豆を大量に生産または加工する業務を行っている場合も、それらの業務が2020年までに森林破壊実質ゼロを達成するという目標に沿うものであることを確認できる」ようにするとも約束している。お気づきのとおり、この中には牛肉に関する資金提供が含まれていない。

上記のようなグリーンウォッシュはさておき、サンタンデールがブラジルの牛肉セクターに対する最大の資金提供者の1社であることは事実である。このセクターがアマゾンの森林破壊や火入れによる森林開墾に関係していることは明らかだが、融資先にはマルフリグやJBSといった物議を醸している企業も含まれる。

サンタンデールの森林破壊リスク事業への融資・引受額(単位:100万米ドル)(2016年1月〜2020年4月)出典:https://forestsandfinance.org/?lang=ja

バンクネガラインドネシア(BNI) — 2016年以降、森林破壊リスク事業に24億ドルを提供

BNIはインドネシア最大手銀行の一つで、持続可能性に関して同国をリードするイメージを打ち出している。しかし、インドネシア各地で火災が発生する要因となっている泥炭地での火の使用や農園および植林地の開発を禁止する方針は公表していない。BNIの顧客として名を連ねる企業には、2019年に農園および植林地のある地域で起きた火災を理由に、インドネシア政府に農園の操業を凍結された数社が含まれる。BNIの顧客で最も有名な企業が前述のシナルマス・グループだ。世界有数の紙パルプおよびパーム油企業で、火災が影響した森林と泥炭地の面積はインドネシアの企業グループで最大である。BNIは2016年以降、同グループの紙パルプとパーム油の両部門に総額12億米ドル以上の資金を提供してきた。環境NGOのグリーンピースによれば、同グループの紙パルプ部門であるAPP(アジア・パルプ・アンド・ペーパー)とその子会社、事業パートナー、およびサプライヤーは、2015年から2018年の間にインドネシアにおいて総面積25万ヘクタール以上を焼き払った。また、同社はインドネシア各地での土地紛争の渦中にありながら、パルプ材植林地向けにさらに多くの土地の開墾を続けている。これは、気候にも甚大な影響を及ぼす。植林地の多くは、層の厚い泥炭(何千年にもわたり有機物が堆積した結果、大量の炭素を貯留する土壌)を排水し、劣化させて開発しているからだ。

今後、RANは上記の銀行と機関投資家への働きかけを強め、その見境のない資金提供によって私たちと地球の未来がどれほど脅かされているかを明るみに出していく。このオンライン署名「STOP! 企業があおる森林火災」(英語)に賛同して、上記4社を含む企業への働きかけを継続できるよう、協力をお願いしたい。

■署名の参加方法(英語)

以下の内容を記入して「Take Action」(賛同する)ボタンをクリックしてください。アルファベットと数字での記入をお願いします。

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英語のブログはこちら “The Money Behind the Big Business of Burning” (2020年9月3日)