サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

共同プレスリリース:東証プライム7企業に対して気候変動対策に関する株主提案(2025/4/15)

~全7社が勧告的決議案を拒んだことを受け、定款変更議案を提出~

国際環境NGO マーケット・フォース
国際環境NGO FoE Japan
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

国内外の環境NGOとその代表者を含む個人株主は金融、総合商社、電力3業界の7企業に対し、気候変動対策の強化を求める株主提案を提出しました。提出先企業は三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下MUFG)、三井住友フィナンシャルグループ(以下SMFG)、みずほフィナンシャルグループ(以下みずほ)、三菱商事、三井物産、住友商事、日本最大の火力発電会社・JERAの経営に大きく関与する中部電力です。

我々は7社に対し定款変更に伴う制約を課すことを可能な限り避けつつ、気候変動リスクの緩和を通じた企業価値の向上に向けて、建設的かつオープンな対話を進めていくことを期待し、書簡の形式で法的拘束力のない勧告的決議案を提出しました。しかし全7社より勧告的決議を定時株主総会にて議案として取り扱うことはない旨の返答を受け取りました。このことから、以下の表のとおり当該企業に対して法的拘束力のある定款変更議案の形式で議案を提出しています。

2020年以降、日本の高排出企業や金融機関は、気候変動に関する株主提案に直面してきました。昨年金融機関の株主総会にて決議された議案(気候変動関連の事業リスク及び事業機会の効果的な管理のための取締役のコンピテンシーの開示を求める内容)をはじめ、25%以上の株主の賛同を集めた事例も数多くあります。今回提出した議案には、当該企業の取締役らを監視する監査委員会/取締役会の役割およびその実態についてより多くの情報開示を求めることで、企業のガバナンス向上を推進する狙いがあります。

他国を例に挙げると、英国のコーポレート・ガバナンスコードには「株主総会の議案に20%以上の反対票が投じられた場合は、その背景を理解すべく、企業がどのような行動をとるか総会の結果を発表する際に説明すべき」とあります。我々も一貫して当該企業に対し、方針の改定やさらなる開示を求めてきました。そうしたなか、広く株主が意見表明する重要な機会となる勧告的決議を定時株主総会で諮ることを企業側が拒否したことについては大変失望しています。岡山県岡山市や愛媛県今治市で発生した大規模な山林火災は工業化による人為的な気候変動の影響を受けて広がったとする内容の研究も発表されており、気候変動対策の緊急性は一層高まっています。当該企業の経営陣が勧告的決議案を拒絶し、定款変更議案を提出せざるを得ることになった経緯についても、我々の働きかけの意図や問題意識についてより多くの株主、ステークホルダーの皆様からご理解いただけることを期待しています。

提出先企業が抱える問題の要点は以下の通りです(業界ごと)

■ メガバンク

「メガバンクがNZBAから脱退したことで、銀行のネットゼロ公約への本気度が厳しく問われています。銀行は、高排出顧客が信頼性ある移行計画を策定する明確な期限を示す必要があります。さもなければ、銀行自身にとっての財務リスクへとつながるからです。昨年、同様の株主提案が強い支持を得たにもかかわらず、銀行は意味のある進展を示しませんでした。今後数ヶ月で進展が見られなければ、再び株主からの反発を招く可能性があります。加えて、気候リスクを含むリスク管理について、監査委員会による評価の開示を強化することは、ガバナンスの改善と企業価値の向上に不可欠です。」
(マーケット・フォース, 日本・エネルギーファイナンスキャンペーン担当, 渡辺瑛莉)

 

「メガバンクの監査委員会は機能してないと考えざるを得ません。なぜならば、メガバンクは信頼できるネットゼロへの移行計画のない企業や、重要な炭素吸収源である熱帯林や泥炭地の破壊及び人権侵害に加担する問題企業に資金提供を続けているからです。メガバンクの執行部門でリスク管理ができていないだけでなく、監査委員会の監督機能にも深刻な課題があるのではないかと大きな懸念を持っています。例えば、MUFGとみずほは大規模事業における社会・環境リスク管理の枠組みである『赤道原則』の遵守を誓約する一方で、現地の先住民族の反対を無視して建設予定の米メキシコ湾岸のリオ・グランデLNG施設に資金提供を行っています。メガバンクは早急にガバナンスの一層の強化と情報開示を行い、リスクを厳格に管理すべきです。」

(レインフォレスト・アクション・ネットワーク, 日本シニア・アドバイザー, 川上豊幸)

 

■ 総合商社

「各商社はネットゼロ目標を支持しているにも関わらず、今後も高炭素セクターへの投資を続ける計画を変えていません。激化する気候危機の影響による物理リスクや、移行リスクにどのように対応するのか開示し、また対応策を示すことは株主にとっても気候危機対策上も非常に有意義です。また、商社はモザンビークLNGやLNGカナダなど人権上の重大な懸念が指摘されている事業にも投資を行っており、ガバナンスとリスク管理を問う提案は今後のリスク緩和の上でも重要と考えます。」
(
国際環境NGO FoE Japan, 事務局長, 深草亜悠美)

「気候変動による財務リスクが高まる中、商社が晒されているリスクを適切に管理する為のガバナンスに関する情報開示は不十分です。定量的リスクと非財務リスクを適切に認識し、事業計画や投資判断にどう反映させるのか。そして、その一連の意思決定プロセスの妥当性をどのように担保しているのか——こうした点について、日本最大級の総合商社におけるガバナンス体制の透明性が強く問われています。」
(マーケット・フォース, 日本エネルギーキャンペーナー, 布川健太郎)

■ 中部電力

「電力の安定供給を重視するとしながら、不確実性の高い技術に過度に依存することはリスクに他なりません。水素・アンモニア燃料の利用拡大は継続的な燃料の輸入を必要とするため、国の安全保障上の問題となるだけでなく、電力価格を押し上げることで国民の暮らしを圧迫することにつながります。2050年の目標を定めただけでは対策は進みません。具体的な計画の策定や実行、気候変動による影響の評価、さまざまなリスクへの対応が適切に行われているのかを株主が判断するには情報の開示が必要です。」
(気候ネットワーク, プログラム・コーディネーター, 鈴木康子)

「中部電力およびJERAの移行計画には依然として改善が見られず、JERAの化石燃料事業の拡大により移行リスクは深刻化しています。加えて、日本最大級の電力会社であるJERAは、山火事、洪水、台風など、気候変動の進行に伴う物理的リスクにも晒されています。中部電力とJERAによる気候変動への遅慢な対応は、ガバナンス上の課題を浮き彫りにしています。気候変動の悪化に伴う財務リスクの情報開示を拡充し、取締役の適切な監督を強化することが、今後、一層必要になります。」
(マーケット・フォース, 日本エネルギーキャンペーナー, 布川健太郎)

 

■株主提案に関する詳細(株主提案に関する特設サイト

Asia Shareholder Action: https://shareholderaction.asia/ja/


■ 株主提案の内容に関するお問合せ先

□ マーケット・フォース(Market Forces)担当者:Antony Balmain E-mail: contact[@]marketforces.org.au
□ FoE Japan  担当者:深草亜悠美 Email: info[@] foejapan.org
□ 気候ネットワーク   東京事務所:TEL:+81-3-3263-9210 担当者:鈴木康子 E-mail: suzuki[@]kikonet.org
□ レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)担当者:関本幸 E-mail: yuki.sekimoto[@]ran.org

共同声明:SOMPOが日本の損保で初めてFPICを含む先住民族の権利を尊重する方針を設定(2025/1/15)

「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
国際環境NGO FoE Japan
メコン・ウォッチ
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

1月10日、日本の大手損害保険会社の1つであるSOMPOホールディングス株式会社(以下、SOMPO)は、「事業におけるESG配慮」方針を更新し、「保険引受・投融資における注意を要する事業」の対象に先住民族の人権を侵害する恐れのある事業を新たに加え、FPIC(自由意思による、事前の、十分な情報に基づく合意)等の国際スタンダードを参照する旨を公表しました(※1)。保険引受・投融資においてFPICを尊重する方針を策定したのは、日本の損害保険会社として初であり、私たちはSOMPOのこの方針策定を歓迎するとともに、東京海上ホールディングス株式会社(以下、東京海上)、MS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社(以下、MS&AD)に対しても、FPICを含む先住民族の権利を尊重する方針を早急に策定するよう要請します。

FPICは先住民族に関する国際連合宣言で明記されている権利であり、先住民族の参加権及び、先住民族や先住民族の土地等に影響を及ぼす可能性のある事業に同意又は不同意する権利を保証しています。また、FPICによって先住民族は、事業の設計や実施、モニタリング、評価の段階で交渉することが可能になります(※2)

なお、SOMPOによる保険引受が判明した米国リオ・グランデLNG事業の事業者NextDecadeは、同事業について現地の先住民族であるカリゾ・コメクルド族との協議会を一度も開催したことがなく、 FPICが取得されていません(※3)。現地住民・環境NGO・現地自治体は、事業者が適切な環境影響調査を怠っていると主張して、これまで抗議活動や訴訟を起こしてきましたが、2024年8月に現地裁判所が事業の建設及び稼働の承認を破棄したことにより、住民側が勝訴しています(※4)。昨年10月には、カリゾ・コメクルド族や現地コミュニティの代表団が来日し、リオ・グランデLNG事業を支援するSOMPOや銀行と会合を行い、事業からの撤退を求めました(※5)

新規の化石燃料事業である同事業は、パリ協定1.5度目標と整合しないことから実施すべきではありませんが、加えてSOMPOはリオ・グランデLNG事業の事業者に対してFPICが取得されているかを確認するべきで、FPIC取得が確認できない場合は直ちに撤退するべきです。

また、東京海上及びMS&ADに対しては、FPICを含む先住民族の権利を尊重する方針を早急に策定するよう強く求めます。

本件に関する問い合わせ先:
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)田辺有輝/喜多毬香
tanabe@jacses.org / kita@jacses.org

注:
※1:https://www.sompo-hd.com/csr/esg/product/
※2:https://www.ran.org/press-releases/axis-capital-becomes-first-north-american-insurer-to-adopt-policy-on-free-prior-and-informed-consent/
※3:https://jacses.org/2475/
※4:https://www.sierraclub.org/press-releases/2024/08/dc-circuit-rules-against-ferc-approval-lng-and-pipeline-projects-south-texas
※5:https://japan.ran.org/?p=2347

プレスリリース:SOMPO・株主総会で米国リオ・グランデLNG事業の保険引受停止要請に回答せず(2024/6/24)

〜化石燃料方針の改善を行うも、今後の支援余地残す〜


SOMPO株主総会会場前でのアクションの様子

環境・持続社会」研究センター(JACSES)
Insure Our Future
国際環境NGO FoE Japan
メコン・ウォッチ
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)
Oil Change International
気候ネットワーク

6月24日、SOMPOホールディングス株式会社(以下、SOMPO)の年次株主総会が開催されました。日本の環境NGOスタッフも株主として参加し、SOMPOの保険引受者としての関与が明らかになっており、現地から抗議の声が上がっているリオ・グランデLNG事業への同社の更なる保険契約更新の可能性の可否を質問したところ、SOMPOの経営陣からは、個別案件に関する回答は差し控えるとの趣旨の回答がありました。私たち環境NGOは、同社に対してリオ・グランデLNG事業を含む化石燃料事業への保険引受停止を求めています。

リオ・グランデLNG事業は、NextDecade社が主導する米国テキサス州におけるLNG(液化天然ガス)輸出ターミナル事業であり、SOMPOは同事業の保険を引き受けていることが判明しています(※1)。リオ・グランデLNG事業は、大量のCO2排出による気候変動の悪化や、現地の大気汚染、野生生物保護区への影響、先住民族の文化遺産の破壊等のリスクから、住民から抗議の声が上がっており、現地住民・環境NGO・現地自治体から、事業者が適切な環境影響調査を怠っているとして、度々訴訟を起こされてきました(※2)。また、6月18日、国内外の環境NGO28団体は、SOMPOのCEO奥村幹夫氏に対し、リオ・グランデLNG事業への保険引受停止等を求める要請書を連名で送付しています(※3)。

SOMPOは、石炭事業(発電及び炭鉱開発)への保険引受や、石炭を主業とする企業への保険引受を制限する方針を日本で初めて発表した企業であり、気候変動対策について日本における先駆的な方針を発表してきました。しかし、世界の大手保険会社と比較すると、石油・ガスの制限対象がオイルサンド及び北極圏監視評価プログラム(AMAP)のみで限定的である等、その取り組みは大きく遅れています。一方で、アリアンツ、ミュンヘン再保険、ハノーバー再保険等、欧州の大手保険会社間では、広範囲に及ぶ石油・ガス事業への保険引受を停止する取り組みが広がり始めています。

6月21日にSOMPOは、これまで保険引受の停止対象としてきた石炭主業企業の対象を拡大し、同じく引受停止対象であったエネルギー採掘活動の範囲を北極野生生物国家保護区(ANWR)から北極圏監視評価プログラム(AMAP)に拡大しました(※4)。しかし、後者についてSOMPOは「ノルウェー域内は除く」との注を設けています。Greenpeace Nordicの報告書によると、過去にSOMPOは、ノルウェー海域で複数の石油・ガス事業を行っているボル・エナジ社の保険を引き受けたことが判明しており(※5)、石油・ガス事業が盛んに行われているノルウェー海でのエネルギー採掘事業の保険を今後も引き受ける余地を残しています。

2021年に国際エネルギー機関(IEA)が発表した報告書「Net Zero by 2050, A Roadmap for the Global Energy Sector」は、2050年までにネットゼロを達成するためには、新規の化石燃料採掘事業は行うべきではないと指摘しています(※6)。

南テキサス環境正義ネットワークのベカ・イノホサは、「私たちのコミュニティ及びテキサス州カリゾ・コメクルド族は、リオ・グランデLNGと、私たちの地域のあらゆるLNG施設に反対する立場を明示してきました。これらの化石燃料事業は、汚染されていない環境、漁業、エビ業で生計を立てている私たちの生活を破壊するでしょう。SOMPOがリオ・グランデLNGに関与し続けることは、私たち有色人種や先住民族の低所得者層に対して、企業のそのような意向と汚染を強要することになりかねないため、SOMPOはリオ・グランデLNGから直ちに撤退しなければなりません。」と述べています。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)の気候変動・エネルギー シニアキャンペーナーであるルース・ブリーチは「SOMPOが気候変動への影響とリスクを深刻に考慮しているのであれば、化石燃料事業への保険引受及び支援を停止するべきです。SOMPOは、米国テキサス州南部で計画中のLNG輸出ターミナルである、リオ・グランデLNG事業の主要保険会社です。本事業は、未開発の海岸地帯に建設され、先住民族の聖地や湿地帯、漁業コミュニティにとって有害であり、温室効果ガスの排出を増加させます。SOMPOはリオ・グランデLNG事業への支援を今すぐにでも止めることができるはずです。」と述べています。

「環境・持続社会」研究センター(JACSES)の持続可能な開発と援助プログラムディレクターである田辺有輝は、「SOMPOの石油・ガスに関する方針は、停止対象が、オイルサンド及び北極圏監視評価プログラム(AMAP)でのエネルギー採掘活動と極めて限定的であり、今後も大量の温室効果ガスを排出する化石燃料事業に対して保険引受を行う余地を残しており、パリ協定1.5度目標に整合していません。SOMPOに対しては、リオ・グランデLNG事業を含む新規化石燃料事業への保険引受停止を強く要請します。」と述べています。

注:
※1:https://jacses.org/2329/
※2:​​リオ・グランデLNG事業の概要や問題点については、以下のファクトシートをご参照ください。https://jacses.org/wp_jp/wp-content/uploads/2019/10/f3f4587241d5a547e73247c7eea46d96.pdf
※3:https://jacses.org/wp_jp/wp-content/uploads/2019/10/RGV_-Sompo-Letter-June-2024.pdf
※4:https://www.sompo-hd.com/csr/system/vision/
※5:https://www.greenpeace.org/static/planet4-norway-stateless/2023/05/29fbf8d4-ensuring-disaster-final-20220523-13-41.pdf
※6:International Energy Agency (IEA), (2021), 「Net Zero by 2050, A Roadmap for the Global Energy Sector」, p. 20,
https://iea.blob.core.windows.net/assets/0716bb9a-6138-4918-8023-cb24caa47794/NetZeroby2050-ARoadmapfortheGlobalEnergySector.pdf

英語のプレスリリースはこちら

本件に関する問い合わせ先:
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)田辺有輝/喜多毬香
tanabe@jacses.org / kita@jacses.org

※更新
英語プレスリリース “SOMPO: Stop Underwriting Rio Grande LNG” を追加しました(2024年6月24日)

共同プレスリリース「化石燃料ファイナンス報告書 2024」発表〜世界60銀行、パリ協定以降に6.9兆ドルを提供 米3行に続き三菱UFJが4位(2024/5/16)

2023年提供額はみずほ2位、三菱UFJ4位、SMBC8位

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
国際環境NGO 350.org

米環境NGO レインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本チーム:東京都渋谷区、以下RAN)をはじめとするNGOは、13日(米国東海岸時間)、最新の方法論を用いた新報告書『化石燃料ファイナンス報告書2024〜気候カオスをもたらす銀行業務〜』(第15版注1)を発表しました。

図1:パリ協定以降のワースト12銀行
(化石燃料全部門への融資・引受額、2016年〜2023年合計、単位:B=十億ドル)

 

本報告書は、世界の主要民間銀行60行による4,200社以上の化石燃料産業への融資・引受をまとめた包括的な調査報告です。分析の結果、パリ協定採択後の2016年から2023年の8年間に銀行から化石燃料産業に約6.9兆米ドルが提供され、約半分の約3.3兆ドルが化石燃料拡大のために投入されたことが明らかになりました。また、昨年の提供額は約7,050億ドルで、化石燃料拡大企業への提供額は約3,470億ドルでした。今回は新たな方法論を採用し、主幹事銀行の取引信用額だけでなく、取引に参加した各行の資金支援も明らかにしました。執筆に携わったNGOは、本報告書は気候危機の資金源を調査した最も正確かつ包括的な分析で、銀行のグリーンウォッシュ(見せかけの環境対応)を白日の下にさらしていると指摘しました。

日本の3メガバンクは、昨年の資金提供と、パリ協定後の資金提供の両方でワースト10に入りました。中でも三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)はパリ協定後の「化石燃料全部門」への資金提供で4位(約3,077億ドル)、みずほフィナンシャルグループ(みずほ)は2023年の「化石燃料全部門」と「化石燃料事業を拡大している企業」(以下、化石燃料拡大企業)への資金提供の両方で2位に順位を上げました。環境NGOらは4月、3メガバンクに気候変動対策の強化を求める株主提案を提出しています(注2)

図2:2023年のワースト12銀行
(化石燃料全部門への融資・引受額、2023年単年、単位:B=十億ドル

『化石燃料ファイナンス報告書2024』概要

世界の主要民間銀行60行が化石燃料部門に行った資金提供を示した包括的な報告書。化石燃料企業(石炭、石油、ガス部門)約4,200社への融資・引受、南米アマゾンや北極圏の環境悪化を引き起こす企業への資金提供について分析。対象期間は2016年〜2023年で、年別、累計額を分析。化石燃料産業全体、部門別、化石燃料拡大企業への資金提供ごとに集計・分析。*別表「化石燃料部門別の傾向」も参照のこと。

【パリ協定採択後:2016年〜2023年】

  • 世界の主要60行は合計で約6.9兆米ドルを化石燃料に資金提供し、ほぼ半分の約3.3兆ドルが化石燃料事業を拡大する企業に提供された。
  • 「化石燃料全部門」への資金提供額では、米銀と日本のメガバンクが上位を独占。1位にJPモルガン・チェース、続いてシティ、バンク・オブ・アメリカ、4位にMUFG5位はウェルズ・ファーゴ、6位にみずほ9位は三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)だった。
  • 「化石燃料拡大企業」の1位はシティで、約2,040億ドルを提供した。

【2023年】

  • 「化石燃料全部門」ではJPモルガン・チェースが1位で、化石燃料企業に約408億ドルの資金提供を行った。「化石燃料拡大企業」への資金提供でも1位だった。
  • 「化石燃料全部門」の2位はみずほで、資金提供額は約370億ドルだった。「化石燃料拡大企業」への資金提供でも2位(約188億ドル)で、両部門での増加が目立った。
  • 「化石燃料拡大企業」の3位はMUFG(約154億ドル)、4位はほぼ横並びでロイヤル・バンク・オブ・カナダ(RBC)バンク・オブ・アメリカ、スコシアバンク、シティだった。シティは、パリ協定後の「化石燃料拡大企業」への最多資金提供者だった。
  • 「メタンガス(LNG:液化天然ガス)」部門では、日本のメガバンクのみずほ(約109億ドル)、MUFG(約84億ドル)が1位、2を独占し、同部門に進出する企業に資金提供を行なっている。

日本の3メガバンクの動向

【化石燃料全部門】60行の合計資金提供額は前年比で9.5%減でしたが、みずほは約5%増加しました。一方、2022年まで3行の中で最多額を提供していたMUFGは前年比で12%減少しました。しかし各行とも2023年の世界順位は2位、4位、8位であることから、高水準にあることには変わりありません。

【部門別】全3行が、2023年の「化石燃料拡大企業」、「メタンガス(LNG))」、「北極圏の石油・ガス」、「超深海の石油・ガス」部門への資金提供額で、ワースト10に入りました。中でもLNG事業を拡大した130社への資金提供額では、みずほが1位(約109億ドル)、MUFGが2位(約84億ドル)で、3位のサンタンデール(スペイン)を引き離し、前年比でそれぞれ90%、88%増加しました。60行全体の提供額は約1,209億ドル、前年比で4%増加したことから、メガバンクを含めた上位行が牽引していることは明らかです。

方法論について

本報告書の正確さと対象範囲を継続的に向上する取り組みとして、今回はさらに多くの一次情報を取り入れ、調査方法論の大幅な改良を行いました。これらの情報源は、債券 、ローン、株式発行など、コーポレート・ファイナンス案件への銀行の参加を追跡調査しています。昨年版までは、主幹事銀行の取引信用額のみを対象にしていましたが、今回は各行の資金支援も明らかにされています。本報告書に掲載された全ての銀行には連絡を取り、帰属する取引について確認する機会が与えられました(注3)

アマゾンや北極圏の環境悪化を引き起こす企業への資金提供

本報告書は、気候変動に最も悪影響を与える化石燃料部門への多額の資金提供も明らかにしています。「オイルサンド(タールサンド)」への2023年の上位資金提供者はカナダのCIBC、RBC、スコシアバンクで、どの銀行もほぼ同額の約5億2,300万ドルを提供しています。一方、MUFGは約5億1,200万ドル「超深海の石油・ガス」掘削企業に、JPモルガン・チェースは約60億ドルを「フラッキング企業(シェールオイル・ガス)」に、中国中信銀行(CITIC)は「石炭採掘」に約76億ドルを提供しました。本報告書で対象とした60行は総資産額の上位行で、脆弱な生態系における有害な事業にためらうことなく資金を提供しています。イタリアのウニクレディトは「北極圏の石油・ガス」掘削企業に約2億6,500万ドル、バンク・オブ・アメリカは南米「アマゾン(生物群系)の石油・ガス」を採掘する企業に約1億6,200万ドルを提供しました。

執筆団体からのコメント

RANリサーチ&方針マネジャー エイプリル・メルロー(共同執筆者)

「ウォール街の銀行の最大の懸念は利益です。私たちの最大の懸念は気候変動と人権です。気候変動による混乱(カオス)から利益を得る銀行は新たなグリーンウォッシュを毎年作り出しますが、私たちには化石燃料に流れる金額を示す『領収書』があります。報告書の新方法論は、今まで公開されてこなかった銀行の化石燃料支援の詳細情報を明らかにし、銀行の責任を追及する新しい手段を活動家に与えます。そして、銀行の化石燃料への資金提供は十分な速さで減少していません。2023年、化石燃料事業を拡大している企業に約3,500億ドル近くが提供されましたが、これは危険で、気候変動に関する実際の公約とも矛盾しています。気候への影響が記録的となった2023年に、化石燃料の各部門で資金提供が増加したことに私は衝撃を受けました。さらに2023年には、メタンガス(LNG)輸出入ターミナルと関連インフラ施設を開発する企業への資金提供が大幅に増加しました。銀行は現地の人々の声を聞き、こうした事業から手を引くべきです」

RAN日本シニア・アドバイザー 川上豊幸

「より詳細なデータの入手により、累積の資金提供額でも、2023年単年でも、日本の3メガバンクは世界の銀行の中でも上位を占めていることが判明しました。特に、LNGセクターでは、2023年に資金提供をほぼ倍増させ、みずほが1位、MUFGは2位となり、突出しています。米国テキサス州のメキシコ湾で計画されているLNGターミナル事業を進めているネクスト・ディケイド社に、MUFGは約21.7億ドル以上(本報告書「LNG部門」提供額の26%)、みずほは約11.7億ドル以上(同10%)を2023年に提供しています。しかしこのプロジェクトの温室効果ガス排出量は非常に大きく、1.5度目標の達成を困難にしてしまいます。また、重要な地域に影響を与えるため現地の先住民族も反対しており、他の銀行が撤退する中、2行はプロジェクトを支援しています。

 ネットゼロを約束している銀行が、ネットゼロの実現を困難にするような事業計画を進める企業への資金提供を行っていることは、『移行計画を含めた融資先企業の評価体制』が不十分であるとともに、『取締役会としての管理・監督機能としての専門性』の不足を示す事例と考えます。我々NGOの株主提案では、上記2点についての情報開示を求めています」

賛同団体からのコメント

気候ネットワーク プログラム・コーディネーター 鈴木康子氏

「世界で異常気象が頻発し、被害規模が拡大しているのに、その原因とされる化石燃料の利用に対し、いまだに世界の銀行がこれだけの投融資を行っていることは信じがたいものがあります。日本の3メガバンクは、ネットゼロ目標を掲げ、サステナビリティに関する方針を改定するなど、気候変動への取組みを行っていると主張する一方で、化石燃料への資金提供の大きな銀行のトップ10に名を連ねています。国内では2023年に3メガの支援のもとで、神戸の住宅地近くに新しい石炭火力発電所が運転を開始しました。さらに近年は、従来の石炭・ガスだけでなく、石炭火力の延命につながると批判されている「誤った政策」、水素・アンモニアの利活用に向けた支援を国内外で推し進めようとしています。このままでは1.5℃目標の達成が危ぶまれます。早急に資金の流れを見直し、1.5℃目標の達成に向けて本当に効果的な策と公正な移行への資金の流れを本流とすべきです」(注4)

 

マーケット・フォース、日本エネルギーファイナンスキャンペーナー、渡辺瑛莉氏

「3メガバンクは近年、化石燃料産業への融資・引受額で世界ワースト銀行のランクを上げてきていますが、背景には、欧州や豪州、アジアの銀行と異なり、気候科学に則した石油・ガスセクターの新規開発・拡大へのファイナンスを制限する方針がないことが挙げられます。メガバンクが掲げる1.5度目標へのコミットと3行の投融資行動が著しく乖離しており、世界の中でも遅れが目立つ状況となっています。気温上昇と気候変動に起因した災害が増えるに従って、化石燃料セクターを支援する銀行の責任を問う声は今後益々強まることが予想される中、メガバンクは信頼性の高い移行計画を持たない化石燃料顧客を支援し続けることで、評判リスクや法規制リスク、財務リスク等に晒されます。従って、政府方針に追従するのではなく、メガバンクが自らリスク管理を強化することが求められます。我々環境NGOが提出している株主提案は、リスク管理の強化に資するものであり、多くの投資家の賛同を期待します」

 

国際環境NGO 350.org、ジャパン・キャンペーナー、伊与田昌慶氏

日本政府がエネルギー基本計画の見直しを開始する直前に発表されたこの報告書は、日本の3メガバンクが未だに気候変動に加担していることを示しました。日本の官民がグリーン・トランスフォーメーション(GX)の名の下で延命しようとしている化石燃料ビジネスも、三菱UFJ、みずほ、三井住友といったメガバンクに裏付けられています。すべての銀行は、気候正義を求める市民の声と環境NGOの株主提案に向き合い、化石燃料中毒から脱する必要があります。
 脱化石の鍵は再生可能エネルギーです。昨年のCOP28ドバイ会議で、日本を含むすべての国は、『2030年までの再エネ設備容量3倍』との目標に合意しました。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によれば、再エネ3倍目標を達成するには2030年までに年1兆5,500億米ドルの再エネ投資が必要です。メガバンクの資金力は、脱化石に資する再エネにこそ活かされなければなりません

化石燃料の金融データ、方針スコア、最前線の現場からのレポートを含む完全なデータセット(英語)はbankingonclimatechaos.orgからダウンロード可能。

 

注1)「化石燃料ファイナンス報告書2024」

全文(英語)www.bankingonclimatechaos.org

日本語抜粋版

本報告書はRAN、バンク・トラック、エネルギー・エコロジー・開発センター(CEED)、先住民族環境ネットワーク(IEN)、オイル・チェインジ・インターナショナル、リクレイム・ファイナンス、シエラ・クラブ、ウルゲバルトによって執筆されている。世界69カ国589以上の団体が賛同している。

注2)マーケット・フォース、気候ネットワーク、レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)、「東証プライム4企業に対して株主提案:メガバンク全3社含む日本企業の取締役のコンピテンシーに関する開示を要求」

https://shareholderaction.asia/ja/four-companies-tokyo-prime-market-3-megabanks-face-climate-vote-on-director-competency/

注3)方法論:昨年までは、取引データはBloomberg LP(取引信用額が主幹事銀行間で分割されている)より入手していたが、2024年版はBloomberg LPに加えてロンドン証券取引所グループ(LSEG、旧Refinitiv)の2つのデータベースを用いた。方法論の変更に伴い、本報告書に記載されている結果は、これまでの報告書のデータとは直接比較できない。なお融資・引受額は、対象となる化石燃料関連企業の当該部門の事業活動に基づいて割引して算出している。詳細は以下を参照のこと。

「報告書全文」(英語):方法論(48ページ)方法論付録(108ページ)

https://www.bankingonclimatechaos.org/wp-content/uploads/2024/05/BOCC_2024_vF1.pdf

「方法論変更について」(英語:Methodology Background for BOCC 2024)

https://docs.google.com/document/d/15Vit1UbOjWjl8dsw5J2HQptG9spmUYiRUFNrK9CxLG8/edit

注4)神戸石炭火力発電所:本報告書およびウェブサイト「フロントラインストーリー」(最前線からのレポート)で事例研究の一つとして掲載(英語)。

https://www.bankingonclimatechaos.org/frontline-stories/kobe-coal/

「神戸の石炭火力発電を考える会」ウェブサイト(日本語)

https://kobesekitan.jimdo.com/

 

団体紹介

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。

*情報更新:「化石燃料ファイナンス報告書2024日本語抜粋版」を公開しました(2024年10月)

別表:化石燃料部門別の傾向

(↑は2022年から2023年に該当部門へのファイナンスが増加、↓は減少したことを示している)

↑ メタンガス(LNG:液化天然ガス):2023年に液化メタンガス事業を拡大した企業130社への資金提供上位銀行は、みずほMUFG、サンタンデール(スペイン)、RBCJPモルガン・チェースだった。2023年のLNG全体のファイナンスは約1,209億ドルに増加した。

↑ 石炭採掘:2023年に石炭採掘企業211社に提供された約425億ドルの資金のうち81%は中国の銀行が提供し、中国中信銀行、中国招商銀行、上海浦東発展銀行、中国工商銀行(ICBC)中国光大銀行グループが率いた。この部門へのファイナンスは2022年に比べて若干増加している。 

↑ 原料炭:原料炭採掘事業で操業する48社は2023年に約25.4億ドルの資金提供のコミットメントを受けた。上位銀行はCITICChina Everbright Groupバンク・オブ・アメリカ、Ping An Insurance Groupなど。この部門へのファイナンスは2022年に比べて若干増加している。

↓ 石炭火力発電:「脱石炭リスト」(GCEL)に記載された石炭火力発電企業へのファイナンスのうち、65%は中国の銀行から提供された。2023年、これらの企業は本報告書で対象とした銀行から約804億ドルのファイナンスを受けた。この部門へのファイナンスは2022年に比べて若干減少している。 

↓ ガス火力発電銀行はガス火力発電を拡大する252社に、2023年に約1,080億ドルのファイナンスを約束した上位3行はみずほ、中国工商銀行、MUFGで、この部門へのファイナンスは2022年に比べて減少している。

↓ 化石燃料拡大企業:本報告書で取り上げた60行は2023年、エンブリッジ、ヴィトール、TCエナジーヴェンチャー・グローバルなどの化石燃料を拡大している企業873社に約3,470億ドルを提供した。2022年の金額は約3,850億ドルで、2023年は若干減少している。

↓ オイルサンド(タールサンド):2023年にオイルサンド企業上位36社が受けたファイナンスは約44億ドルで、前年から約40億ドル減少した。カナダの銀行がその49%を提供した。上位資金提供者はCIBC、RBC、スコシアバンク、トロントドミニオン、そして日本のみずほである。 

↓ シェールオイル・ガス2023年のフラッキングによる採掘を行う企業236社へのファイナンスの2023年の総額は約590億ドルだった。米銀のJPモルガン・チェース、ウェルズ・ファーゴ、バンク・オブ・アメリカ、ゴールドマン・サックス、シティモルガン・スタンレーこの部門の上位を占めた。 

↓ 超深海の石油・ガス:日本のみずほMUFGSMBCグループが、2023年の超深海での石油・ガス関連企業66社への資金提供で上位となった。総額は約37億ドルで、2022年より減少した。 

↓ 北極圏の石油・ガス:北極圏の石油・ガス関連企業45社への資金提供は約33億ドルから約24億ドルに減少。2023年の最多資金提供銀行は、ウニクレディト、シティ、インテーザ・サンパオロ(イタリア)、バークレイズ(イギリス)クレディ・アグリコル(フランス)である。 

↓ アマゾンの石油・ガス:バンク・オブ・アメリカが1位で、アマゾン生物群系で採掘を行っている企業24社に約1億6,200万ドルを提供し、2位のJPモルガン・チェースを約3,300万ドルも上回った。2023年の総額は約6億3,200万ドルで、前年の約8億200万ドルから減少した。 

※「化石燃料ファイナンス報告書2024」の部門別報告は、ウルゲバルト調査の「脱石油・ガスリスト(GOGEL)および「脱石炭リスト」(GCEL)と連携している(注)。どちらかのリストで、銀行からの資金提供が各部門で掲載された企業は全て計上された。どちらかのリストで化石燃料拡大企業として特定された企業は全て本報告書の化石燃料拡大部門のリーグテーブル(ランキング)に計上された。アマゾンの石油・ガス企業はStand.earth リサーチグループによって特定された。原料炭企業はバンクトラックとリクレイム・ファイナンスの協力によって特定された。

注)参考:Japan Beyond Coal「【ニュース】Urgewald脱石炭と脱石油・ガスのリスト掲載の日本企業」、2024年2月27日 https://beyond-coal.jp/news/urgewald_gcel-gogel-2023/

 

本件に関するお問い合わせ

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

日本チームマネジャー 関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

日本シニア・アドバイザー 川上 Email: 川上豊幸  Email:   toyo@ran.org

 

共同プレスリリース:環境NGO、東証プライム4企業に対して株主提案〜メガバンク全3社含む日本企業の取締役のコンピテンシーに関する開示を要求〜(2024/4/15)

国際環境NGO マーケット・フォース
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

国内外の環境NGOとその代表者を含む個人株主は4月15日までに、金融、電力の2業界の4企業(三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ、日本最大の発電会社・JERAの経営に大きく関与する中部電力)に対し、気候変動対策の強化を求める株主提案を提出しました。

我々は関連企業との対話を続けてきましたが、より一層の気候変動対策への注力を期待し、今年は企業の取締役会に焦点を当てた提案を提出しています。提出先企業の取締役会が、気候関連事業リスク及び機会の適切な監督を行う上で必要な能力あるいは人材を備えているか、株主が評価する上で必要な情報開示を求める議案となっています。

株主提案

昨年の株主総会シーズンで日本企業は過去最多の気候変動に関する株主提案に直面しました。近年、このような株主提案は環境NGOに限らず、国外の機関投資家や地方自治体からも提案されています。多様なステークホルダーが高炭素排出企業による気候変動対策の遅れに対して、広範囲に及ぶ悪影響のみならず、企業価値の低下を招くとの危機意識を共有し、行動に移しています。我々が提出した議案も機関投資家に幅広く支持されました。

メガバンク3社については、気候変動への公約及び気候変動リスク管理戦略を踏まえ、これらの実効性を株主が判断できることが重要です。化石燃料セクターの顧客の移行計画とパリ協定1.5℃目標との整合性について、メガバンク各社がどのように評価を行うか、そして当該セクター顧客がパリ協定に沿った信頼性の高い移行計画を作成しなかった場合、新規資金の制限を含む、対応措置をどのようにとるのかの開示を求めています。

提出先企業が抱える問題の要点は以下の通りです(業界ごと)

■メガバンク

「メガバンクの気候変動対策は1.5度に気温上昇を抑えるために科学が明確に求めている行動水準からいまだに大きく乖離しており、このことは企業価値をリスクにさらします。特に、石油・ガスへのファイナンス方針においてアジアの銀行を含む競合他社から大きく遅れをとり、高リスクの事業に資金を提供し続けており、リスク管理能力が問われています。我々の2つの提案が可決されれば、メガバンクの取締役会に気候関連の事業リスクと機会を監督する能力が備わっているか、またメガバンクが重視する高排出企業への移行エンゲージメントの実効性について株主が評価できるようになるでしょう。ひいては、メガバンクの気候変動対策の強化に繋がり、企業価値の維持・向上にも資すると考えます。」

(マーケット・フォース, 日本・エネルギーファイナンスキャンペーン担当, 渡辺瑛莉)

 

「メガバンクは、融資先の移行計画への評価体制が緩い点が問題です。気候危機下で効果的な管理を行うための取締役など経営レベルでの専門性が不足しているように見えます。結果として、1.5℃目標の達成を困難にするような事業計画を持っている企業にも融資が継続されたり、また、銀行としての方針や管理体制が不十分なのではないかと私たちは懸念しています。例えば、LNGセクターでの事業拡大を進める企業への資金提供を継続し、MUFGとみずほは先住民族の人権を侵害している米国のリオ・グランデLNG事業でも重要な役割を果たしています。3行とも、木質バイオマス発電事業や農業など高炭素セクターでの生物由来CO2排出量の集計も行なっていません。メガバンクにはネットゼロにコミットし、脱炭素社会へのシステム移行をサポートする金融機関として、融資先企業や政府の移行計画の妥当性を見極め、対処する管理能力が問われています。」

(レインフォレスト・アクション・ネットワワーク, 日本シニア・アドバイザー, 川上豊幸)

 

■中部電力

今年は特に『第7次エネルギー基本計画』についての検討が行われる重要な年です。中部電力およびJERAは、引き続き、水素・アンモニア、CCSの導入促進および原発再稼働で脱炭素を図るとしていますが、それらによる実質的な排出削減効果と経済性、さらに安全性の保障を鑑みれば、まったく解決策にはなっていません。根本的な方針転換をするには、会社経営を担う人たちに科学的知見を踏まえた判断をしていただく必要があります。真の脱炭素、再エネが主力となる社会に向かっていくには柔軟な考え方と思い切った転換が必要です。」

(気候ネットワーク, プログラム・コーディネーター, 鈴木康子)

 

「採掘から使用を含めた供給網全体で化石燃料からの脱却なしに気温上昇を1.5度以下に抑制することは極めて困難です。中部電力とJERAの移行計画は、1.5度目標のタイムラインに沿っているとは言えず、両社は大きな移行リスクを抱えるとともに気候変動の悪化を招こうとしています。中部電力の取締役会は真正かつ実効性のある移行計画を後押しする監督責任があり、今後厳しい目で見られることになるでしょう。そもそも、取締役会の気候リスク監督能力を株主が評価するための情報が不足しているのが現状です。」

(マーケット・フォース, エネルギーファイナンスアナリスト, 鈴木幸子)

 

株主提案の提出先企業に求める情報開示は、コーポレートガバナンス・コードの求め、及び投資家団体(CA100+やTPI等)、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)等を通じ、投資家が求める情報開示に合致しています。

また、株主提案を提出先となった企業は、座礁資産リスク(環境や市場、規制の変化で企業が将来的に減損処理する資産を抱えること)や訴訟リスク、ブランド価値の毀損など将来の企業価値に関する重大なリスクを抱えています。また、こうした企業が誤った戦略を取り続けると気候変動対策の妨げともなりかねません。

企業が我々の株主提案を真摯に受け止め、投資家の方々の後押しを受けて気候変動対策を強化するとともに情報開示を進めることが、企業価値の向上に繋がり、ひいては気候危機を防ぐ一助となるとして、ご理解を得られることを期待しています。

 

■ 株主提案に関する詳細 

メガバンク3社(こちらから)

中部電力 (こちらから)

 

■ 株主提案に関する特設サイト

各社への提案書および投資家向け説明資料は特設サイトからもダウンロードいただけます。

Asia Shareholder Action: https://shareholderaction.asia/ja/

 

■ 株主提案の内容に関するお問合せ先

□ マーケット・フォース(Market Forces)https://www.marketforces.org.au
日本語窓口(松木):TEL:+81-80-4395-8529
担当者:Antony Balmain E-mail: contact[@]marketforces.org.au
Tel: +81-80 4395 8529

□ 気候ネットワーク  
https://www.kikonet.org

東京事務所:TEL:+81-3-3263-9210
担当者:鈴木康子 E-mail: suzuki[@]kikonet.org

□ レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)
japan.ran.org

担当者:川上豊幸 E-mail: toyo[@]ran.org

プレスリリース:東京海上・MS&AD・SOMPOを含む世界の保険会社による米国湾岸LNG事業への保険引受が判明(2024/2/22)

※更新「リスク・エスポージャー」和訳版を発行しました(2024年9月)。

「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
Insure Our Future
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

2024年2月22日ー米国の環境NGOであるレインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)及び消費者団体であるPublic Citizensが発表した報告書「Risk Exposure: The Insurers Secretly Backing The Methane Gas Boom in the US Gulf South(※1)」によると、日本の大手損害保険会社である東京海上、MS&AD、SOMPOを含む世界の保険会社35社が、米国のメキシコ湾岸地域の7つの液化天然ガス(LNG)ターミナル事業に対して保険引受を行っている実態が明らかになった。1月26日、米国のバイデン大統領は、LNGの新規輸出許可の一時停止を発表したが、具体的な停止対象事業については触れておらず、今後も米国においてLNG輸出事業が拡大する可能性がある。このような状況の中、本報告書は、パリ協定の1.5度目標を達成するために保険会社の責任の重大さを改めて浮き彫りにしている。

報告書では、米国連邦エネルギー規制委員会(FERC)、州当局、地方政府等に対する50件以上の情報公開法(FOIA)請求を通じて入手することが出来た保険証明書をもとに、メキシコ湾岸地域におけるLNGターミナル事業7件に保険引受を行った保険会社を明らかにしている。米国・欧州・アジア地域の保険会社の少なくとも35社が、7件のLNGターミナル事業の保険引受者であることが特定された。日本の保険会社については、リオグランデLNGの保険をSOMPOが、ガルフLNGの保険をSOMPO及び東京海上が、キャメロンLNGの保険を東京海上及びMS&ADが引き受けている実態が明らかになった(詳細は下記表を参照)。キャメロンLNGには、三井物産、三菱商事、日本郵船が出資している。

現在、米国には既設のLNGターミナル案件が8件、建設中の案件が7件、計画中の案件が17件存在し、特に新規の案件はメキシコ湾岸のルイジアナ州及びテキサス州一帯に集中している。現在稼働中及び建設中の案件を合わせると、石炭火力発電所345基に相当する年間12億8,700万トンもの温室効果ガスを排出すると言われており、日本は主な輸出先の一つとなっている。

図:北米における既設及び建設中のLNG輸出ターミナル

報告書では、保険証明書を入手した7件のLNG事業の多くが、先住民族、有色人種、低所得者の居住域に立地しており、現地コミュニティは、先住民族の権利に関する国連宣言で求められている「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」に基づいた開発の合意形成が欠如していたと指摘されており、メキシコ湾岸に蔓延る環境人種差別を温床化させていると指摘されている。また、ターミナル建設に伴い、有害な大気・水汚染が現地住民の健康被害を深刻化させていることや、LNGターミナル事業がハリケーンをはじめとする異常気象に脆弱な実態について言及されている。

東京海上、MS&AD、SOMPOの3社は、石炭事業及びオイルサンド採掘事業、北極圏における石油・ガス事業などの新規保険引受及び投融資停止を表明しているものの、一般的な石油・ガス事業については保険引受・投融資を停止する方針を設定していない。3社は1.5度目標との整合性を確保するために、これらの方針を早急に掲げるべきである。また、今回関与が判明した3件のLNGターミナル事業の保険契約更新を行わないよう強く要請する。

本件に関する問い合わせ先:
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)田辺有輝/喜多毬香
tanabe@jacses.org / kita@jacses.org

注:
※1:英語版
https://www.ran.org/publications/risk-exposure-the-insurers-secretly-backing-the-methane-gas-boom-in-the-us-gulf-south/

【更新情報】

和訳版「リスク・エスポージャー:米国メキシコ湾岸LNG事業の保険引受会社、情報公開で判明」を発行しました(2024年9月)