サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

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NGO共同声明:MUFG、邦銀初の2050年カーボンニュートラル宣言発表を受けて(2021/5/18)

パリ協定と整合的な具体策は示さず、株主提案は継続へ

特定非営利活動法人 気候ネットワーク
マーケット・フォース
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)
国際環境NGO 350.org Japan

環境NGO4団体は本日18日、三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)が17日に「MUFG カーボンニュートラル宣言」(注1)を公表し、2050 年までに投融資ポートフォリオの温室効果ガス排出量をネットゼロにすることなどを発表したことを受け、以下の声明を発表しました。

写真:気候ネットワークと個人株主3名がMUFGに株主提案を提出、2021年3月、東京

今般のMUFGの発表は先月のポリシー改定に続き、3月に気候ネットワークおよび他環境NGO3団体に所属する個人株主3名(以下、共同提案者)が、MUFGに対してパリ協定の目標に沿った投融資を行うための計画を決定・開示することを求めた株主提案を提出した後に発表されました。

環境NGO4団体は、MUFGによるパリ協定の目標に向けた方針強化を一定の前進と受け止め、歓迎します。

しかし、本方針では株主提案が要求する具体的な指標や短・中期目標が示されず、なおパリ協定との整合性が取れていると判断することはできません。共同提案者はMUFGへの株主提案を継続することとし、引き続きMUFGへのさらなる行動強化を求めていく予定です。

以下は、各目標およびセクター別方針における主な課題点です。

短・中期の目標の設定は先送りに
MUFGは邦銀として初めて、2050年にファイナンスによる排出量をネットゼロにするカーボンニュートラル目標を公表し、同目標を掲げる国際的イニシアティブのNet-Zero Banking Alliance(NZBA、注2)への加盟を発表しました。2050年ネットゼロは気温上昇を1.5度に抑えるために必要な長期目標であり、日本政府が掲げた目標でもあります。気候危機を加速する化石燃料へ資金提供を行うアジアのトップ銀行(注3)であるMUFGがネットゼロにコミットしたことは歓迎されます。しかし、短・中期の目標を設定することなしに、「2030年の中間目標は2022年度に設定・公表する」と表明することに留まっています。気候変動の緊急性、並びに、1.5度目標達成のためには2030年までの排出量半減が必要という科学的コンセンサスを鑑みれば、MUFGが短・中期の目標を今回掲げなかったことにより、パリ協定の整合性を確認することができないままであることは懸念されます。また、目標の達成のためには、全ての投融資ポートフォリオのGHG排出量(Scope3)の計測・公表が必要ですが、MUFGはこの点をより明確にするべきです。

石炭火力発電からのフェーズアウト目標
MUFGは昨年度、2040年度に石炭火力発電向けプロジェクトファイナンス残高をゼロにする削減目標を掲げましたが、今後、「事業に占める石炭火力発電の比率が高いお客さま向けコーポレート与信の残高目標を開示する方針」を明らかにしました。プロジェクトファイナンスのみならず、コーポレートファイナンスに踏み込む削減目標の開示方針を明らかにしたことは前進ですが、1.5度目標達成のために、2030年にOECD諸国で、2040年に世界全体で石炭火力発電所の全廃が必要とされる中で、MUFGが石炭火力発電の全廃にコミットしなかったことは科学に反するだけでなく、COP26議長国によって表明された要請とも反します。

石油・ガスセクター、森林関連セクターは進展なし
先月のポリシーフレームワークの改定時と同様に、本発表でも炭素集約的な石油・ガスセクターの拡大および森林・泥炭地破壊を止める包括的なコミットメントが示されませんでした。パリ協定の目標に整合するには、これらのセクターの新規開発・拡張および自然生態系の劣化を加速する余地はありません。MUFGが、化石燃料への資金提供者として世界第6位の銀行であり、森林破壊を伴う産品への世界最大の資金提供者に数えられることに鑑みれば、最近のコミットメントをもってしても、投融資ポートフォリオからの過大な炭素集約度を管理することができているとは言えません。

株主からのコメント

気候ネットワークの国際ディレクターの平田仁子は、「2050年ネットゼロのゴールを明確にし国際的な連盟に参加したことは、大きな一歩です。しかし、そこに向けて、投融資を通じた石炭火力からの排出削減やコーポレートファイナンスの脱炭素化を短中期にいかに着実に実現するのかの具体的な指標と目標は定まっていません。パリ協定の整合性を図るためにはさらなる方針強化とその加速が必要です」と述べました。

国際環境NGO 350.org Japan代表である横山隆美は、「MUFGが2050年までに投融資ポートフォリオの温室効果ガス(GHG)排出量のネットゼロを宣言したことは邦銀初の試みであり、一定の前進です。しかし、1.5度目標との整合性に必要な短・中期目標を設定しなかったことは大きな懸念です。気候危機の解決に寄与するためには、新規の化石燃料への投融資を直ちに止め、石炭火力を筆頭に科学の要請に沿った化石燃料の包括的なフェーズアウト戦略を早急に構築すべきです」と指摘しました。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)日本代表である川上豊幸は、「MUFGの『ネットゼロ宣言』は、自社が多大な二酸化炭素の排出源であると認識しているという点で重要です。しかしネットゼロの約束は、化石燃料の拡大と森林破壊への資金提供をすぐに停止しなければ意味がなく、問題の多いカーボンオフセットへの依存も容認できません。また、MUFGの方針は炭素集約型産業への重要な資金提供銀行となっているインドネシアの子会社には適用されていない点も大きな懸念です」と強調しました。

マーケット・フォース(Market Forces)エネルギーキャンペーン担当である福澤恵は、「MUFGは『カーボンニュートラル宣言』によって気候変動へ真剣に取り組んでいることを投資家向けにアピールしたつもりかも知れませんが、十分なアピールになっていません。改定されたポリシーを持ってしても化石燃料や石炭火力発電事業者へ投融資を継続できます。MUFGは深刻さと緊急性を増す気候危機問題の表面を取り繕っているに過ぎず、解決にはほとんど貢献しません」と述べました。

注1)三菱 UFJ フィナンシャル・グループ「『MUFG カーボンニュートラル宣言』について」2021年5月17日
注2)国連環境計画金融イニシアチブ(UNEP FI)「Net-Zero Banking Alliance(NZBA)」
注3)RANプレスリリース「RAN他『化石燃料ファイナンス成績表2021』発表〜世界60銀行、パリ協定後も化石燃料に3.8兆ドルを資金提供〜」2021年3月24日

本件に関するお問い合わせ
気候ネットワーク 平田仁子 khirata@kikonet.org
マーケット・フォース 福澤恵 meg.fukuzawa@marketforces.org.au
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN) 関本幸 yuki.sekimoto@ran.org
国際環境NGO 350.org Japan 渡辺瑛莉 japan@350.org

英語の声明はこちらから:
“MUFG Commits to Carbon Neutrality by 2050 but Punts Detailed Plan on Paris Alignment – Shareholders Will Not Withdraw Climate Resolution”

NGO共同声明:みずほ、石炭採掘・化石燃料コーポレートファイナンスなどで進展するもパリ協定の目標達成の水準にはなお及ばず(2021/5/14)

昨日13日、みずほフィナンシャルグループ(以下、みずほ)が「サステナビリティアクションの強化について」を発表し(注1)、パリ協定の目標と整合するポートフォリオへの転換、化石燃料企業の移行リスクへの対応強化、新規炭鉱採掘への投融資禁止などの方針を明らかにしました。みずほのポリシー改定は、いくつかの点で他のメガバンクよりも前進しており、脱炭素化に向けた方針強化を歓迎します。一方で、現時点でそこに届かない点もあります。今改定をもってしてもパリ協定と整合的であると判断することは難しく、気候危機の緊急性を踏まえて、より具体的な目標や指標、ロードマップの早急な策定が求められます。

みずほ株主総会会場前での環境NGOアクション、2020年6月25日、東京

石炭採掘(一般炭)セクター方針の改定
今般、「新規の炭鉱採掘(一般炭)を資金使途とする投融資等は行わない」としたことは他の邦銀に先駆けた方針強化として歓迎します。一方で、「既存の炭鉱採掘(一般炭)を資金使途とする案件については、パリ協定と整合的な方針を表明している国のエネルギー安定供給に資する案件に限り、慎重に検討の上、対応する可能性あり」と例外を残したことは不十分です。

石炭火力セクター方針は抜け穴残す
石炭火力発電所の投融資等停止の例外として「当該国のエネルギー安定供給に必要不可欠、且つ、リプレースメント案件は慎重に検討」「革新的、クリーンで効率的な次世代技術の発展」等の規定を残したことは問題です。現在実用化されていないCCUSやアンモニア・水素混焼等は、2030年までの排出削減にほとんど寄与せず、石炭火力を延命させるものになりかねず、パリ協定1.5度目標に必要な中期目標と整合しません。OECD諸国では2030年までに、世界全体では2040年までに石炭火力発電所を全廃するための具体的なロードマップを描くべきです。

化石燃料企業の移行リスクをセクター方針に追加
「石炭火力発電、石油火力発電、ガス火力発電、石炭鉱業および石油・ガスを主たる事業とする企業は、脱炭素社会に向けた移行が適切になされない場合、移行リスクに晒される可能性があり」「〈みずほ〉は、気候変動に伴う移行リスクへの対応が進展するよう、取引先とエンゲージメントを行い、一定期間を経過しても、移行リスクへの対応に進捗がない取引先への投融資等は、慎重に取引判断を行います」と発表したことについては、今回初めて化石燃料に依存する企業に対するコーポレートファイナンスに踏み込んで対応しようとする姿勢がみられます。ただし、その具体性には欠けています。エンゲージメントの実効性を担保するためにも、パリ協定と整合的な目標・指標を含む具体的なロードマップを示す必要があります。

パリ協定の目標と整合するポートフォリオ
「環境方針」の改定として、「パリ協定における世界全体の平均気温上昇を抑制する目標達成に向けた資金の流れをつくり、 同目標に整合したファイナンスポートフォリオへと段階的に転換を図っていきます」と明確化したことは歓迎されます。一方で、1.5度目標に整合するには(注2)、石炭火力向け与信残高削減目標をコーポレートファイナンスへ適用拡大、より早期の実現、石油・ガスおよび森林関連セクターへ拡大することが求められます。今回、北極圏での石油・ガス採掘事業、オイルサンド、シェールオイル・ガス事業を明記しましたが、環境・社会リスク評価の実施に留まり、パリ協定の整合性に必要な具体的禁止事項が示されるべきです。
また、SMBCグループが投融資ポートフォリオのGHG排出量把握(Scope3)にコミットしたことは重要であり、みずほも続くべきです。

大規模農園(大豆等)セクター、パームオイルセクター
パーム油および木材・紙パルプセクターの顧客企業に限定されていた「森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ」(NDPE)等の環境・人権方針の策定や、「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC、注3)の尊重が、大規模農園(大豆等)セクターにも拡大された点は歓迎します。一方パーム油セクターでは、顧客農園企業に全農園での「持続可能なパーム油のための円卓会議」(RSPO)認証取得を求めるものの、取得予定のない企業との取引も「同水準の対応」であれば可能とし、抜け穴になる可能性があります。方針は顧客の独立系サプライヤーやパーム油購入企業には適用されないため、人権侵害や環境破壊への加担を避けることは困難です。そしてNDPE方針の策定やFPICの尊重を求めるだけでなく、遵守状況の確認も求められます。さらに農園開発時の火入れの禁止を明記しなかったことは気候対策面から大きな失敗です。

<各団体からのコメント>
国際環境NGO 350.org Japanキャンペーナーの渡辺瑛莉は「今般のみずほの方針は、石炭採掘の新規投融資停止など、邦銀の中では最も先進的だと言えますが、世界の主要銀行と比べると低い水準に留まっています。パリ協定と整合的なポートフォリオへ転換、化石燃料企業と移行リスクエンゲージメント強化などは具体的な中期目標や指標の設定・公表、化石燃料セクターからのフェーズアウト方針などがなければ、実効性あるポリシーとは見なされません。今後のさらなる方針強化に期待します」と述べました。

気候ネットワークの国際ディレクターの平田仁子は、「昨年、私たちの株主提案は否決されましたが、提案していたパリ協定との整合性を図ることに向けて方針を強化し、コーポレートファイナンスにも踏み込んで対応しようとする姿勢は重要な進展だと考えます。しかしその具体的目標設定に至らなかったこと、石炭火力の延命の可能性を残していることなど、対応はまだ不十分であり、更なる強化が必要です」と指摘しました。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク「責任ある金融」シニアキャンペーナーのハナ・ハイネケンは、「投融資先企業との対話を通じてパリ協定と整合する事業を促す意図は評価できますが、気候危機を回避するためには化石燃料の拡大、森林破壊、泥炭地の破壊などを直ちにやめなければいけません。化石燃料及び森林破壊を起こす産品産業への資金提供者として世界トップ10に入るみずほは、現在のポートフォリオを大胆に変えることが必須です」と指摘しました。

注1)みずほフィナンシャルグループ「サステナビリティアクションの強化について」2021年5月13日

注2)詳細はRAN「パリ協定と整合性のある金融機関原則」を参照。

注3)Free, Prior and Informed Consentの略。先住民族と地域コミュニティが所有・利用してきた慣習地に影響を与える開発に対して、事前に十分な情報を得た上で、自由意志によって同意する、または拒否する権利のことをいう。

国際環境NGO 350.org Japan
気候ネットワーク
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
国際環境NGO FoE Japan
メコン・ウォッチ
レインフォレスト・アクションネットワーク(RAN)

<本件に関するお問い合わせ>
国際環境NGO 350.org Japan 担当:渡辺 japan@350.org
気候ネットワーク 担当:平田 khirata@kikoent.org
レインフォレスト・アクションネットワーク(RAN) 担当:関本 yuki.sekimoto@ran.org

NGO共同声明:三井住友フィナンシャル、石炭火力方針を改定もなお抜け穴〜パリ協定と整合せず〜(2021/5/12)

(English follows Japanese)

本日、三井住友フィナンシャルグループ(以下、SMBCグループ)が「気候変動問題への対策強化について」(注1)を発表し、石炭火力セクター方針の改定、グリーンファイナンス及びサステナビリティに資するファイナンス目標の改定などを明らかにしました。環境NGOは、脱炭素化に向けた一定の方針強化を歓迎するものの、パリ協定と整合的なビジネス戦略としてはなお課題が多いとの認識の下、下記の声明を発表しました。

三井住友フィナンシャルグループ株主総会会場前でのアピール行動、2018年6月25日

石炭火力セクター方針の改定
「石炭火力発電所の新設および拡張案件への支援は行いません」と明記し、従来の超々臨界圧(USC)技術などの例外規定を取り除きました。しかし、方針には明記されていないものの、NGOとのやり取りにおいて、「CCUSやアンモニア・バイオマス混焼等、トランジションに資するものについては支援を検討可としている」と明らかにしました。これらの技術はいまだ実用化されておらず、2030年に温室効果ガスを半減するという、パリ協定1.5度目標に必要な中期目標の達成には何ら寄与しません。アンモニアや水素の混焼については、1-2割程度の混焼が目指されているところであり、全く解決策にはなりません。1.5度目標達成のためには、OECD諸国では2030年までに、世界全体では2040年までに石炭火力発電所は稼動を停止する必要があり、単にCCUSや混焼の技術を備えていることを例外扱いするのではなく、1.5度目標と整合的かどうかを厳格に判断する基準が必要です。

投融資ポートフォリオ排出量(Scope3)の把握
SMBCグループが「2050年カーボンニュートラルに向けた長期行動計画および具体的な施策を定めていく」とし、「投融資ポートフォリオのGHG排出量把握(Scope3)と中長期目標の設定」を行うと発表したことは、他の邦銀に先駆けた取り組みとして歓迎します。電力・石油・ガスセクターのScope3の把握を始めるとのことですが、石炭採掘を含めた化石燃料セクター全般およびパーム油を含む森林関連セクターのバリューチェーン全体に今後スコープを拡大していくことを期待します。また、三井住友DSアセットマネジメントなどの運用会社を含めたグループ全体での取り組みが重要です。

中長期目標は設定せず
一方で、欧米の銀行が投融資ポートフォリオの排出量ネットゼロに相次いでコミットしていることと比べて(注2)、同グループの今次改定が「今後の目標設定」に留まったことは懸念されます。昨年同グループが定めた「2040年度に石炭火力発電向けプロジェクトファイナンスの残高をゼロにする」という目標は、パリ協定に整合するために、石炭火力セクターのコーポレートファイナンスにも適用を拡大し、より早期に実現されなければなりません。また、石油・ガス、およびパーム油を含む森林関連セクターに関する改定が何ら行われなかったことは大きな懸念です。これらのセクターも含め、パリ協定と整合する具体的な指標と中長期目標の速やかな設定が求められます。

<各団体からのコメント>
国際環境NGO 350.org Japan代表の横山隆美
は「気候危機の緊急性に比べて、今般のSMBCグループの方針改定は遅々としていると言わざるを得ません。1.5度目標を守るためには、科学の要請に基づいて早期に脱石炭・脱化石燃料を実現する必要があります。現状を見て積み上げるのではなく、あるべき姿からバックキャスティングを行うための強力なリーダーシップが求められます」と述べました。

気候ネットワークの国際ディレクター平田仁子は「今回の方針強化は、パリ協定の下での行動強化の必要性を認識したものと受け止めたいが、SMBCグループのファイナンスがなおパリ協定に整合するものとは評価できません。特に石炭火力セクターにおいて、明示的に書かれていないものの、CCUSやアンモニア・水素混焼技術を容認していることにより、石炭火力の延命を支援することにつながることが大いに懸念されます」と述べています。

「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、プログラム・ディレクターの田辺有輝は、「石炭火力発電事業への支援停止について、SMBCグループはNGOとのやり取りにおいて、CCUSやアンモニア・バイオマス混焼等を例外としていることを明らかにしましたが、公開されている方針の文言から、このような例外規定があることを想定することは不可能です。このような例外規定があるのであれば、あらかじめ方針で明示するべきです」と述べています。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)、責任ある金融シニア・キャンペーナーのハナ・ハイネケンは、「SMBCグループは、ファイナンスによる温室効果ガス排出量の算定を約束したことで、他の邦銀から一歩先に踏み出しました。しかしSMBCの気候フットプリントの重要性を考えると、同グループが化石燃料全般、森林破壊および泥炭地破壊への資金提供停止を含め、1.5度目標のタイムラインに基づいて排出量ゼロを明確に誓約しない限り、真剣に受け止めることはできません」と指摘しました。

注1)https://www.smfg.co.jp/news/j110309_01.html

注2)https://www.unepfi.org/net-zero-banking/

<本件に関するお問い合わせ>
国際環境NGO 350.org Japan 担当:渡辺 japan@350.org
気候ネットワーク 担当:平田 khirata@kikoent.org
「環境・持続社会」研究センター(JACSES) 担当:田辺 tanabe@jacses.org
レインフォレスト・アクションネットワーク(RAN) 担当:関本 yuki.sekimoto@ran.org

*5月13日追記:5月12日配信内容に以下を追加しました。
●RANも13日に賛同団体として連名し、ハイネケンのコメントを追加しました。
●「森林セクター」としていましたが「パーム油を含む森林関連セクター」に変更しました。

Loopholes Remain in SMBC Group’s New Coal Policy
Japan’s Megabank Still Not Aligned with the Paris Agreement

Today, Sumitomo Mitsui Financial Group (hereinafter SMBC Group) published a statement entitled “Reinforcing Efforts against Climate Change,” (1) announcing revisions to its coal-fired power sector policy as well as updated targets for green and sustainability finance. Environmental NGOs welcomed the strengthening of policies toward decarbonization, but issued the following statement, recognizing that there are still many challenges to be addressed for the SMBC Group to set a business strategy consistent with the Paris Agreement.

Coal-fired Power Sector Policy
In the new policy, the Group stated that “Support for newly planned coal-fired power plants and the expansion of existing plants are not provided” and removed exceptions such as ultra-supercritical pressure (USC) technology from the previous policy. However, in an exchange with NGOs, the Group clarified that under the new policy, “support can be considered when (projects) will contribute to transition to decarbonization, such as CCUS and ammonia / biomass mixed combustion.” These technologies have not yet been put to practical use and will not contribute to the achievement of the medium-term goal required for the 1.5 degrees Celsius goal of the Paris Agreement, which is to halve greenhouse gases in 2030. Regarding the mixed combustion of ammonia and hydrogen, about 10-20% of the mixed combustion is aimed at, and it is not a solution at all. Coal-fired power plants need to be shut down by 2030 in OECD countries and by 2040 globally to reach the 1.5 degrees target. Instead of treating CCUS and mixed combustion technology as exceptions, the Group needs to set rigorous criteria to determine whether their clients’ businesses are consistent with the 1.5 degrees goal.

Measurement of Loan/Investment Portfolio GHG Emissions (Scope 3)
The SMBC Group announced that it will “establish a long-term action plan to contribute to a carbon neutral society by 2050 and detailed initiatives” and that it will “obtain a clear understanding of the GHG emissions generated by its loan/investment portfolio (Scope3) and set medium- to long-term targets regarding those emissions.” We welcome this as an initiative that is more progressive than other Japanese banks. The Group explains it will start with Scope 3 of power, oil and gas sectors. We urge the Group to expand the scope to the entire value chain of the fossil fuel sector including coal mining, and the forest sector including palm oil. In addition, it is important to include asset management companies such as Sumitomo Mitsui DS Asset Management and work on it as an entire group.

No Medium-To Long-Term Goal Setting
On the other hand, compared to the recent international trend that European and US banks are committing to net zero emissions in their investment and loan portfolios (2), it is a concern that the Group’s has only committed to “future target setting” of such emissions. The goal set by the Group last year to reduce its credit balance of project finance related to coal-fired power generation to zero by 2040 needs to be realized earlier and be expanded to corporate finance in the coal-fired sector in order to be consistent with the Paris Agreement. There is also great concern that no revisions have been made to the oil and gas and forest sectors. Including these sectors, it is necessary to promptly set specific indicators and medium- to long-term goals that are consistent with the Paris Agreement.

Comments by NGOs
Eri Watanabe, Japan Finance Campaigner for 350.org said “Concerning the urgency of the climate crisis, the revision of the SMBC Group’s policy is much slower. In order to meet the 1.5 degrees target, it is necessary to realize the urgent phase-out of coal and fossil fuel sectors as climate science demands. Strong leadership is required to achieve the target by backcasting, rather than by building up on the current situation.”

Kimiko Hirata, International Director at Kiko Network stated “Understanding that the SMBC Group’s recent revision is due to the recognition of the need to strengthen actions under the Paris Agreement, we cannot evaluate that the Group’s finance is consistent with the Paris Agreement. Especially in the coal-fired power sector, although not explicitly stated, there is great concern that allowing CCUS and ammonia/hydrogen mixed combustion technologies will help extend the life of coal-fired power.”

Yuki Tanabe, Program Director of JACSES said “Regarding the suspension of support for coal-fired power generation projects, the SMBC Group has made it clear that CCUS and ammonia/biomass mixed combustion are exceptions in the conversation with NGOs. It is impossible to assume that there are such exceptions from the announced policy text. If there is such an exception, it should be clearly stated in the policy to avoid misleading understanding by stakeholders.”

Hana Heineken, Senior Responsible Finance Campaigner at RAN said, “SMBC Group has stepped ahead of the other Japanese banks by committing to measure its financed emissions. But given its significant climate footprint, there is no way we can take them seriously without a clear commitment to zero out emissions based on a 1.5 degree timeline, including by stopping the financing of fossil fuels, deforestation, and peat destruction.”

(1) https://www.smfg.co.jp/news_e/e110168_01.html

(2) https://www.smfg.co.jp/news_e/e110168_01.html

Contacts
Eri Watanabe (350.org Japan) Email: japan@350.org
Kimiko Hirata (Kiko Network) Email: khirata@kikoent.org
Yuki Tanabe (JACSES) Email: tanabe@jacses.org
Yuki Sekimoto (RAN) Email: yuki.sekimoto@ran.org

NGO共同声明:MUFGが石炭火力・森林セクター方針を改定、なおパリ協定と整合せず(2021/4/26)

特定非営利活動法人 気候ネットワーク
マーケット・フォース
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)
国際環境NGO 350.org Japan

本日、三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)が「MUFG 環境・社会ポリシーフレームワークの改定について 」(注1)における「特定セクターに係る項目」の石炭火力発電セクターおよび森林、パーム油セクターに関するファイナンス方針の改定を公表しました。

気候ネットワークの国際ディレクターの平田仁子は、「本改定は、いくつかの部門において対策強化が図られていますが、急を要する気候危機への対応として、なお不十分なものです。日本の金融機関を代表するMUFGには今後、パリ協定の1.5度目標達成に整合した、より野心的な石炭関連の方針を策定し、その他化石燃料や森林破壊を引き起こす産品に関する方針の強化を期待します」と述べました。

本改定でMUFGは、石炭火力発電所の新設に加え、既存発電設備の拡張にも原則としてファイナンスを実行しないと規定しましたが、「パリ協定目標達成に必要な、CCUS、混焼等の技術を備えた石炭火力発電所は個別に検討する場合があります」と例外を残しています。CCUSも混焼も2030年までの削減にはほとんど寄与しないと考えられており、石炭火力を延命することにすぎない技術です。これらの技術への支援はパリ協定と整合しません。

国際環境NGO 350.org Japan代表である横山隆美は、「MUFGのセクター方針のスコープは基本的にプロジェクトファイナンスに限定されており、コーポレートファイナンスは含まれていないことは大きな懸念事項です。「脱石炭リスト(Global Coal Exit List)」投融資調査 (注2、3)によると、MUFGの石炭産業 への融資は世界第3位です。石炭火力セクターのポリシーとしてはバリューチェーン全体を網羅したコーポレートファイナンスへと拡大し、パリ協定に整合的な時間軸でのフェーズアウト戦略を策定すべきですが、今回の改訂では踏み込めていません」と指摘しました。

MUFGはまた、熱帯林破壊を引き起こしている企業に資金提供を行っている世界有数の金融機関であり、パーム油および紙パルプセクターの顧客企業に関連するESG(環境・社会・ガバナンス)リスクへのエクスポージャーが高い銀行です。特にパーム油セクターへの融資・引受額は東南アジア以外の地域に本社を置く銀行では最大で、インドネシア6位のバンクダナモンを買収して東南アジアでの存在感を高めつつあります。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)日本代表である川上豊幸は、「今回の方針改定でパーム油セクターにおいて『森林破壊ゼロ、 泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ(NDPE: No Deforestation, No Peat and No Exploitation)を遵守する旨の公表を求める』ことが追加されたことは評価できます。しかしNDPE基準の適用はパーム油のプランテーション企業に限定され、パーム油購入企業には適用されず、そして紙パルプなど熱帯林や泥炭地の破壊を引き起こしているパーム油以外の産品に対しても適用されなかったことは非常に残念です。そしてNDPE方針を遵守するための独立検証を求めていないことも課題です。農園開発時の火入れの禁止を明記しなかったことは、気候対策面からは大きな失敗といえます」と指摘しました。

今回の改定ではまた、石油・ガスセクター方針に何らの変更がなく、パリ協定の目標に沿ってフェーズアウトする約束がされなかったのは大きな懸念です。マーケット・フォース(Market Forces)エネルギーキャンペーン担当である福澤恵は、「MUFGを始め日本の金融機関は化石燃料企業へのエクスポジャーが大きく、中でもMUFGは今年3月にRAN他が発表した調査(注4) では、過去5年間の化石燃料事業への融資・引受額で世界第6位を占め、アジアで第1位を占めました。本改定をもってしても、MUFGの化石燃料セクターポリシーは、諸外国の金融機関と比べても極めて不十分です。昨今、世界の投資家や金融機関による2050年ネットゼロ実現に向けて、投融資による排出をゼロにするコミットメントが相次ぐ中、MUFGは遅れをとっています。」と述べました。

気候ネットワークおよび環境NGOに所属する個人株主3名は今年3月 、MUFGに対してパリ協定の目標に沿った投融資を行うための計画を決定し、開示することを求めた株主提案を提出しました(注5)。本改定内容は提案内容とはいまだに乖離があり、パリ協定1.5℃目標に整合していると理解できるものではありません。今後、株主としてMUFGと引き続き協議を進めてまいります。

注1)三菱 UFJ フィナンシャル・グループ「『MUFG 環境・社会ポリシーフレームワーク』の改定について」、2021年4月26日

注2)共同プレスリリース「日本の金融機関が石炭産業への融資総額で世界第1位に」、2021年2月25日

注3)本調査の対象および調査方法はこちらをご参照。

注4)共同プレスリリース「『化石燃料ファイナンス成績表2021』発表〜世界60銀行、パリ協定後も化石燃料に3.8兆ドルを資金提供〜」、2021年3月24日

注5)プレスリリース「三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)へ気候変動に関する株主提案を提出」、2021年3月29日

英語のプレスリリース:“Japan’s largest bank MUFG tightens coal power and forest sector policies – but far from aligned with Paris Agreement”

本件に関するお問い合わせ

気候ネットワーク 平田仁子 khirata@kikonet.org

マーケット・フォース 福澤恵 meg.fukuzawa@marketforces.org.au

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN) 関本幸 yuki.sekimoto@ran.org

国際環境NGO 350.org Japan 横山隆美 japan@350.org

NGO共同プレスリリース:三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)へ気候変動に関する株主提案を提出(2021/3/29)

〜昨年のみずほFGに続く日本での株主アクション〜

2021年3月29日

特定非営利活動法人 気候ネットワーク
マーケット・フォース
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)
国際環境NGO 350.org Japan

本日、気候ネットワークおよび個人株主3名は、三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)の株主として、同社に対してパリ協定の目標に沿った投融資を行うための計画を決定し、開示することを求めた株主提案を提出しました(注1・注2) 。これにより、投資家がMUFGの投融資にかかる気候変動リスクを適切に評価し、投資判断できることを確保すること、またMUFGが気候変動リスクを削減し、企業価値を維持向上することを目的としています。
 
MUFGはこれまでに、環境方針やサステナビリティに関する方針を定め、石炭火力事業へのプロジェクト・ファイナンスをゼロにする方針等を掲げています。しかし、今なお国内外の化石燃料や森林破壊に関連する事業に多額の資金提供を続けており、石炭産業への過去2年の融資総額は世界3位、化石燃料部門への過去5年の融資・引受額は世界6位、パーム油産業への過去4年の融資・引受額は世界7位と、気候変動を加速する事業に世界最大規模の融資・引受を行っています。現行の方針では、1.5℃目標の達成に不可欠な2050年ネットゼロを実現できず、パリ協定の目標とは全く整合していません。MUFGが真にネットゼロを達成しようとするならば、例外なく化石燃料や森林破壊への投融資をやめなければなりません。

近年、海外の金融機関らによる石炭火力発電事業への支援中止や投融資からの撤退が進んでいます。最近では、英HSBCが、2040年までに石炭火力発電や発電用石炭開発への融資を段階的に廃止する方針を決定し、全セクターの中短期戦略を含む戦略の策定・公表とその進捗報告について5月の株主総会で提案すると報じられています。また、米シティグループは、石炭火力の拡大を計画する新規顧客への融資を2021年以降引き受けず、今後20年間でほぼすべての石炭火力企業への融資を段階的に廃止する計画を記した方針を、米国大手銀行として初めて発表しています。

気候ネットワークの国際ディレクターの平田仁子は、「MUFGのポリシーは幾分かの強化が図られていますが、現状ではパリ協定と全く整合していません。特にコーポレートファイナンスを含む全ての投融資をパリ協定に整合させるには、会社として、短期及び中期の目標を含む経営戦略を決定し、早々に実質的な行動を起こし、気候変動に伴う投資リスク・評判リスクを招かない対応が必要です。」と述べています。

マーケット・フォース(Market Forces)エネルギーキャンペーン担当である福澤恵は、「MUFGが化石燃料へのファイナンスから軸足を移しきれていないことは、世界的な競争相手行の方針や行動の転換が急速に進む中、株主にとって大きな不安材料です。2040年までに全世界の石炭火力発電所の稼働を停止させなければならない中、プロジェクト・ファイナンスに限定した残高ゼロ目標は不十分です。MUFGは投融資先企業が2040年までに脱石炭を達成するために、どのように支援するか計画を示すべきです。」と指摘しています。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)日本代表である川上豊幸は、「MUFGは、森林破壊や土地紛争といった問題を抱える『紛争パーム油』に最も多額の資金を提供している銀行の一つです。MUFGは膨大な量の炭素を貯留する熱帯林と泥炭地の破壊に資金提供という形で加担しています。しかし、気候変動への影響については一切開示していません。 MUFGは森林破壊の阻止を含む1.5℃目標に整合する方針を示す必要があります。」と強調しました。

また、350.org Japan代表である横山隆美は、「気候危機解決には、パンデミックへの対応と同様に、科学者の知見を取り入れることや、全てのセクターを取り込んだ迅速かつ大胆な対策が必要です。気温上昇を1.5度に抑えるのは時間との勝負であり、ネガティブ・エミッションなど今はない技術に頼ることは若い世代や将来世代に対する責任放棄と同じことです。経済に対し非常に大きな影響力を持つMUFGは、気候危機問題に対し国連責任銀行原則に基づき、責任を持って解決に取り組む必要があります。」と訴えています。 

気候ネットワークおよび共同提案者3名は、MUFGに対する本提案に、多数の投資家の方々からの賛同を求めていく予定です。

株主提案

三菱UFJフィナンシャル・グループへの株主提案(日本語PDF)
The Proposal for MUFG(英語PDF)
投資家向け説明資料:三菱UFJフィナンシャル・グループへの株主提案(日本語PDF)
Investor Briefing:Shareholder resolution filed with MUFG(英語PDF)

注1)本提案は、昨年の気候ネットワークによるみずほフィナンシャルグループに対する株主提案に続く、日本の金融機関に対する気候変動株主提案になります。

注2)豪NGOマーケット・フォース、米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク、国際環境NGO 350.orgは本提案を支持し、それぞれ、エネルギーキャンペーン担当の福澤恵、日本代表の川上豊幸、日本支部代表の横山隆美が個人株主として共同提案に参加します。

連絡先

気候ネットワーク www.kikonet.org
東京事務所:TEL:+81-3-3263-9210
担当者:平田仁子 E-mail: khirata[@]kikonet.org TEL: 090-8430-7453
担当者:鈴木康子 E-mail: suzuki[@]kikonet.org

マーケット・フォース(Market Forces) www.marketforces.org.au
担当者:福澤恵 E-mail: megu.fukuzawa[@]marketforces.org.au
担当者:鈴木幸子 E-mail: sachiko.suzuki[@]marketforces.org.au

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)japan.ran.org
担当者:関本幸 E-mail: yuki.sekimoto[@]ran.org

350.org Japan world.350.org/ja/
担当者:横山隆美 E-mail: taka.yokoyama[@]350.org TEL: 090-4668-6653
担当者:渡辺瑛莉 E-mail: eri.watanabe[@]350.org

ブログ:バイデン政権、気候変動対策強化〜「キーストーンXL」パイプライン認可取り消しで高まるメガバンクの政治リスク〜(2021/1/29)

責任ある金融 シニア・キャンペーナー ハナ・ハイネケン

写 真 : Kayana Szymczak; Bonnie Chan / RAN

1月20日、ジョー・バイデン氏が米大統領に就任した。就任直後にパリ協定に復帰し、「キーストーンXL」パイプライン建設認可の取り消し、そして北極圏国立野生生物保護区における石油・ガス鉱区のリース権発行を停止した。アメリカの気候危機対策強化の始まりだ。就任から1週間がたった27日には、気候変動を「国家安全保障と外交政策の中心」とする考えのもと、複数の大統領令に署名した。

実は、このような動きは日本のメガバンクに大きな影響を及ぼす。なぜならば、3メガは「キーストーンXL」パイプラインをはじめとするアメリカの化石燃料産業に膨大な資金を提供しているからだ。

メガバンクが支える化石燃料産業

レインフォレスト・アクション・ネットワーク他が行った調査によれば、3メガは世界の化石燃料産業、そしてアメリカでの石油・ガス開発や輸送等のインフラ建設を大きく支えている。

●2015年12月に採択されたパリ協定以降、3メガは化石燃料産業に計約2,814億ドルの融資・引受を2016年から2019年の間に提供した。そして、この資金の約3分の1は化石燃料事業を拡大している上位100社の企業に提供された。邦銀では三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の資金提供額が最も大きく、世界では6位だった。みずほフィナンシャルグループは9位、SMBCグループは20位だ。

●バイデン政権が就任初日にブレーキをかけたオイルサンドと北極圏の石油・ガス産業では、3メガはトップ30の事業社、そして関連するパイプライン企業に合計でそれぞれ約13億ドル、約18億ドルの融資・引受を同期間に提供した。邦銀ではMUFGが最大の資金提供者だった。

●3メガは、アメリカのシェールガス産業の上位40社に計384億ドルの融資・引受を同期間に提供した。ここでも邦銀ではMUFGが最大の資金提供者である。シェールガス産業は気候危機を悪化させているメタン排出の要因の一つで、パイプラインなどの設備から漏れ出すメタンが問題視されている。

写 真 : Jiri Rezac / G R E E N P E A C E

「キーストーンXL」パイプライン建設の取り消し、高まる政治リスクとESGリスク

赤:「キーストーンXL」パイプライン(TCエナジー社:停止)、オレンジ:「ライン3」パイプライン(エンブリッジ 社)、青:トランス・マウンテン(当初はキンダー・モルガンが計画、2019年にカナダ連邦政府へ売却)、黒:アルバータ油田、フロンティア採掘事業(テック・リソーシズ:停止)
出典www.ran.org/funding_tar_sands/

「キーストーンXL」パイプライン(赤線)はTCエナジー社(旧トランス・カナダ社)が計画する、カナダ・アルバータ州のオイルサンド油田から米国ネブラスカ州を通り、メキシコ湾岸の製油所を結ぶ長さ1,179マイルのパイプラインだ。

日量83万バレルの石油を輸送し、年間二酸化炭素排出量は新規石炭火力発電所50基分に相当する影響を及ぼすといわれている。先住民族の権利や水環境、気候に深刻な影響を及ぼす事業で、10年以上もの間、先住民族、牧場主や農家、環境保護活動家、若者など様々な人々が建設に抗議してきた。ESG(環境、社会、企業統治)リスク、特に気候リスク、先住民族の権利侵害リスク、原油流出事故リスク、評判リスクなどが高いことが指摘されてきた。

また、この事業は政権の気候変動対策によって対応が変わり、事業の先行きが不透明になることから政治リスクも高い。2015年11月、 オバマ大統領は気候変動問題を理由にこの事業を却下したが、2017年にトランプ前大統領の元で復活。今回の取り消しの主な理由も気候変動問題だった。

MUFGをはじめ日本の3メガバンクは、このパイプライン事業の建設企業であるTCエナジー社を融資と引受で支えてきた。MUFGの同社への石燃料関連融資・引受額は6億2500万ドル(2016年〜2020年9月末)で、世界9位、邦銀では最多である。MUFGは2020年12月時点で3件の融資に参加し、社債発行1件の引受銀行であった。

今回の認可取り消しによってTCエナジー社は建設を中止したため、メガバンクの資金は座礁資産になったのではないだろうか?

写 真 : Joe P. Dick/ Shooting Stars Inc.

次の課題:「ライン3」パイプライン

気候変動及び先住民族権利問題の観点でキーストーンXLと同じく深刻であることから、「ライン3」オイルサンド・パイプライン(オレンジの線)の取り消しが次の重要課題である。

写 真 : March on Enbridge

エンブリッジ社が建設している「ライン3」パイプラインは、既存のパイプラインを直径の大きいパイプに交換し、カナダのアルバータ州からミネソタ州経由でウィスコンシン州まで、日量76万バレルのオイルサンド原油輸送を計画している。

既存のライン3を安全に廃止することなく現場に放置し、昨年12月からミネソタ州での建設が始まったが、原油流出事故のリスクや先住民族の権利侵害リスク、法的リスクや評判リスクが非常に高い。特に先住民族の反対は激しく、ホワイトアース族とレッドレイク族居留地の部族が主導して3部族が訴訟を起こした。建設現場で逮捕されるなど、今も激しい抵抗が続いている。

また、建設労働者の大半を男性が占めるため、「男のキャンプ(man camps)」と呼ばれる労働者向け仮設住宅が建てられ、先住民族の女性への暴力や人身売買にもつながっていることが問題視されている。加えて、労働者による新型コロナウイルスの感染拡大リスクも指摘されている。

「ライン3」パイプライン事業にも3メガは関与し、このプロジェクトでもMUFGの資金提供額は邦銀で最も多い。エンブリッジ社へのMUFGの化石燃料関連融資・引受額(2016年~2020年9月30日)は26.8億ドル。そのうち、2021年に満期を迎える総額18億ドルの融資1件の主幹事銀行、融資他5件の参加銀行、そして社債発行1件の主幹事会社の役割を担っている。

動画:The Years Project「『ストップ! ライン3』石油パイプラインがもたらす弊害」

メガバンクに求められること

3メガは、北米パイプライン事業で上記のような重大リスクを抱えていることは一切開示していない。また残念ながら、日本ではほとんど知られていない。

3メガは気候変動対策に真剣に取り組むのであれば、このような問題に目を向け、エンブリッジ社とTCエナジー社との関係を断ち切り、先住民族の権利を尊重していない事業や企業、そしてオイルサンド生産拡大事業とそれを進める企業への資金提供を直ちに停止することが必要だ。

化石燃料全体への支援の段階的廃止に向けた第一歩として、インフラ事業も含めオイルサンド部門全体との取引の段階的廃止を約束することが求められる。

写 真 : Kayana Szymczak; Bonnie Chan / RAN

【更新】動画:The Years Project, “Why Enbridge’s Line 3 Pipeline Project Is Bad for Everyone” を日本語字幕版に差し替えました(2021年4月13日)

参考:RANブリーフィングペーパー『北米パイプライン「ライン3」と「キーストーンXL」の黒幕〜オイルサンド・パイプライン建設を支援する世界の銀行』、2020年12月16日発行