サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

プレスリリース:新報告書『生物多様性崩壊をもたらす金融業務』発表〜メガバンクら銀行、森林リスク産品に3070億ドルの資金提供〜(2023/12/7)

森林破壊・生物多様性損失・気候カオス・権利侵害を加速

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部サンフランシスコ、以下、RAN)を含む8団体で構成する「森林と金融」連合は、第28回国連気候変動会議(COP28)で「金融」がテーマである4日、新報告書「生物多様性崩壊をもたらす金融業務:熱帯林破壊を助長する銀行と投資家の追跡」を発表しました。本報告書は、大手金融機関が熱帯林地域における森林破壊、生物多様性の損失、気候変動、人権侵害をいかに助長しているかについて包括的に考察するもので、分析の結果、銀行がパリ協定締結以降の2016年から2023年9月、熱帯林破壊に関係している高リスク林業・農業企業に3070億ドル以上の資金を提供していることを明らかにしました。この結果は、世界の大手銀行と投資家の掲げる森林関連ESG方針が、森林と生物多様性の広範かつ継続的な損失を防止できていないことを示しています(注1)

 

表「森林リスク産品への融資・引受額 上位20銀行」
(2016-2023年9月、単位:百万米ドル)

*森林リスクセクター約300社(東南アジア、ラテンアメリカ、中央・西アフリカ)への融資・引受額、傾向。
日本のメガバンクはみずほ(8位)、MUFG(12位)、SMBC(17位)。

本報告書「生物多様性崩壊をもたらす金融業務:熱帯林破壊を助長する銀行と投資家の追跡」は、世界の熱帯林破壊の大部分を引き起こしている「森林リスク産品」セクターの6品目(牛肉、パーム油、紙パルプ、ゴム、大豆、木材)に携わる約300社の森林部門事業に対する商業資金の流れを概説・分析しています。報告書では、森林リスク産品セクターへの融資・引受と債券・株式保有において、どの銀行と投資家が最も大きな役割を果たしているかを明らかにしています。森林破壊を引き起こすリスクの高い銀行、つまり資金提供額上位30行のなかには、ブラジルやインドネシアなどの熱帯林諸国の大手銀行や、米国、欧州連合(EU)、日本、中国といった輸入および財政的に重要な管轄区域の大手銀行が含まれます。

報告書では同時に、影響の大きいセクターへの投資に適用される方針の内容についても評価しています。100を超える銀行と投資家の投融資方針を、環境・社会・ガバナンス(ESG)関連基準の38項目に基づき採点しています。残念ながら平均評価は100点満点中わずか17点と低く、30点以上の評価を受けた銀行と投資家は20社のみで、50点を超えた銀行はわずか2行でした。森林リスク産品セクターに提供される資金の量と、甚大な森林破壊と権利侵害の防止措置である投融資方針との間に大きな隔たりがあることが明白になりました。

報告書で明らかになったのは、森林リスク産品への資金提供者のトップはブラジル銀行とブラデスコ銀行です。両行は主にブラジルの牛肉セクターと大豆セクターに融資していますが、森林伐採と権利侵害を防止するための最低限の方針しかありません。米ウォール街の巨大金融機関であるJPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ、シティグループは紙パルプやパーム油セクターに多額の資金を提供していますが、各行の森林ESG方針は弱く、森林や生物多様性、人権を保護できていません。バンク・オブ・アメリカは100点満点中22点、シティグループは37点、JPモルガンはわずか15点と評価され、3社とも極めて低い評価となりました。

日本の金融機関は紙パルプとパーム油に多くの資金を提供しています。メガバンクではみずほフィナンシャルグループが約74億ドルと最も多く、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG、約58億ドル)、SMBCグループ(約46億ドル)と続き、3行ともトップ20銀行に入りました(表を参照)。方針評価については、日本の金融機関の平均得点は21点で、インドネシアやマレーシアの金融機関よりも低い評価となりました。日本の金融機関の方針は総じて環境・社会面よりもガバナンスに関して強い傾向にあります。みずほが38点で最も高く、SMBCが36点、野村グループが27点、MUFGが24点、三井住友トラスト・グループ(22点)、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は2点、公立学校教職員共済組合は0点でした(注2)。

また今回の調査結果は、主要な管轄区域において金融機関に強固な規制が適用されることが緊急に必要であることも浮き彫りにしています。報告書は、各国政府と金融機関が、パリ協定第2条1(c)と「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」のターゲット14と15の下で、気候変動と生物多様性に関する公的目標を達成すべく資金の流れを調整する責任を負っていると強調しています。しかし調査データによると、パリ協定締結後の2016年から2023年9月までの間、年間の融資・引受総額と投資総額は多少変動しているものの、森林リスク産品の継続的な生産拡大を促進している資本には減少傾向が見られないことを示しています。

「森林と金融」コーディネーターのメレル・ヴァン・ダー・マークは、「多くの人は、環境犯罪に関与している企業に金融機関が融資することが、ほとんどではないにせよ、多くの地域で法的に問題がないことを知ればショックを受けるでしょう。今回の調査結果は、国連のPRI(責任投資原則)やPRB(責任銀行原則)のような持続可能性イニシアティブに加盟している金融機関や、ネットゼロ(注3)を誓約している金融機関が、これらの目標の達成を不可能にしてしまうような企業に融資を続けているという、明らかな偽善を示しています。金融機関に独自のESG基準を設定するよう任せるだけでは、資金の流れを持続可能なビジネス慣行へ転換させるには不十分です。最終的には各国政府が、社会と私たちみんなが依存している生態系を守るために必要な政策と罰則措置を講じる必要があります」と強調しました。

本報告書は資金の流れを記録し、森林セクター方針を分析することに加え、こうした資金がブラジルのアマゾンやインドネシアの森林とコミュニティに与えている負の影響を示す事例もいくつか紹介しています。今回の調査によって、森林破壊企業4社(JBS、カーギル、ロイヤル・ゴールデン・イーグル(RGE)、シナルマス・グループ)が、社会・環境面での負の影響に広く関係し、長期にわたり常習的に悪質行為を行ってきたにもかかわらず、何十億ドルもの資金を集め続けていることが明らかになっています。4社が関係する社会・環境被害は、何年にもわたって続いているものが多く、多くの記録が残っています。

報告書は結論として、金融規制当局と金融機関が社会と私たち人類が依存している生態系を守るために必要な公正な移行を促進するよう、国際的な公共政策の目標に沿って、資金の流れを調整する緊急措置を講じる必要があると述べています。そのために「森林と金融」連合は金融セクターに、以下の5つの基本原則を採用するよう求めています:1)生物多様性の損失の停止と回復、2)先住民族と地域コミュニティの権利尊重と優先、3)公正な移行の促進、4)生態系の完全性(インテグリティ)確保、5)セクターや課題、金融サービス全般にわたって、気候変動・生物多様性・権利尊重の様々な機関目標と整合させること。

「森林と金融」は、キャンペーン活動や草の根活動、調査活動を行う団体の連合体であり、レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)、TuK インドネシア、プロフンド(Profundo)、アマゾン・ウォッチ、レポーターブラジル、バンクトラック、サハバット・アラム・マレーシア(国際環境NGO FoE Malaysia)、FoE USによって構成されています。

 

注1)報告書全文「生物多様性崩壊をもたらす金融業務(Baking on Biodiversity Collapse)」(英語)https://forestsandfinance.org/banking-on-biodiversity-collapse/

要約版(日本語)

「森林と金融」金融調査方法論(日本語)

『森林と金融』は、東南アジア、ラテンアメリカ、中央・西アフリカにおける紙パルプやパーム油など森林リスク産品への資金流入を包括的に分析したオンラインデータベース。金融商品、銀行・投資機関、国・地域、企業グループ、年、部門別に検索が可能。

  • 対象事業地域:世界三大熱帯林地域である東南アジア、ラテンアメリカ(アマゾン)、中央・西アフリカ(コンゴ盆地)
  • 対象産品:牛肉、パーム油、紙パルプ、天然ゴム、大豆、木材(森林リスク産品)
  • 対象期間:融資・引受は2016年から2023年9月、債券・株式保有は2023年9月時点

注2)方針評価の方法論(日本語英語

熱帯林生物群系における森林リスク産品セクターに関係する大手金融機関100社以上を対象に、環境・社会・ガバナンス(ESG)関連基準38項目を自社の投融資方針に盛り込んでいるかについて評価した。この基準項目は、国際的な合意やベストプラクティス(最良の手法や事例)から導き出したもので、金融機関は取引先や投資先がこれらの基準を満たすよう確保することで、ESG問題への加担を回避することが可能になる。日本からはメガバンク3行、三井住友トラスト・グループ、野村グループ、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)、公立学校共済組合が含まれる。

評価基準38項目の概要: 

  • 環境分野(12項目)森林破壊禁止の誓約、天然林や自然生態系の転換禁止の誓約。泥炭地、湿地、高保護価値(HC)林、保全地域、高炭素貯留(HCS)地域に関する具体的な項目。管理、汚染、農薬、温室効果ガス排出に関する項目など。
  • 社会分野(11項目):土地権の尊重、「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC)に関する権利の尊重、先住民族や地域コミュニティの広範な経済的・文化的権利の尊重。人権デュー・ディリジェンス・プロセス、モニタリング・システム、苦情処理メカニズムの確立。強制労働、児童労働、生活賃金、労働基本権に関する項目など。
  • ガバナンス分野(15項目):融資先企業のガバナンスに関する項目(汚職、租税回避、土地権の合法性の証明、環境・社会影響評価、サプライチェーンの透明性とトレーサビリティ(追跡可能性)、事業管理地の地図など)。金融機関自身のガバナンスに関する項目(取締役会による監督と報酬体系、方針の実施、苦情処理メカニズム、投融資の透明性など)。

評価は森林リスク産品の6品目別、および投融資に関して行われた。これらの詳細な評価は、金融機関の投融資ポートフォリオにおける各産品の相対的な重要性に基づいて加重平均の上、総合評価としてまとめた。

注3)温室効果ガスの排出量を、吸収量や除去量と合わせて、全体で正味ゼロにすること。

 

団体紹介
レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
東京都渋谷区千駄ヶ谷1-13-11-2F
関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

※更新
『生物多様性崩壊をもたらす金融業務:熱帯林破壊を助長する銀行と投資家の追跡』日本語要約版を追加しました(2023年12月15日)

『「森林と金融」金融調査方法論』(日本語)および『「森林と金融」方針評価方法論』(日本語)を追加しました(2024年2月、3月)

プレスリリース:新報告書「森林&人権方針ランキング2023」発表〜ユニリーバがトップ、P&G最下位、日清食品は改善するも取り組み遅れ〜 (2023/11/17)

大手消費財企業、森林破壊と人権侵害防止を公約するも阻止できず〜グローバル消費財企業10社の森林及び人権方針を評価〜

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日17日、新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング2023」(注1)を発表しました。

                 

本報告書は、熱帯林地域で森林破壊と人権侵害のリスクが高い産品に関与している大手消費財企業10社を対象に(注2)、各社の方針と実施計画を森林と人権の二分野で評価・分析するものです。サプライチェーンでの森林破壊と人権侵害を阻止するための取り組みを詳細な基準で比較評価した結果、ユニリーバが「C」評価で最も高く、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)が最下位でした。日本からは花王が「D」、日清食品ホールディングスは5段階で最低ランクの「不可」でした。報告書は、10社全社がこの重要な問題への取り組みについて「A」評価を得るには程遠く、欧州連合の森林破壊防止法(EUDR)のような新規制の要件を満たす目処も立っていないと結論づけました。これは銀行や投資家を重大なリスクにさらすことになります。

本ランキングは、大手グローバル消費財企業10社を対象に、サプライチェーン(供給網)における森林破壊と権利侵害を阻止するための取り組みについて比較評価するものです。各社の企業方針について森林と人権分野の12項目を24点満点で評価しています。合計得点に合わせてA(21〜24点)、B(17〜20点)、C(12〜16点)、D(6〜11点)、不可(0〜5点)で評価しました。本報告書は、パーム油、紙パルプ、大豆、牛肉、カカオ、木材製品など、森林を破壊するリスクのある産品(森林リスク産品)のセクターにおける傾向と動向を分析し、2020年から毎年発表しています。10社のランキングの詳細は以下の通りです。

*Y=ありor全て(2点)、P=一部(1点)、N=なし(0点)

【森林&人権方針ランキング2023】概要

■調査期間:2023年8月~11月

■調査対象者:大手消費財企業(10社):日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース

■調査方法:各社の環境及び人権に関する方針を調査・分析(ウェブサイトなどで公開されている最新版)、各社へのヒアリング

■主な森林・人権方針の評価項目(全12項目、各2点)

*2点:方針あり/ 全体に採用、1点:一部に採用、0点:方針・計画なし

  • 「森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE)方針・適用範囲:パーム油や紙パルプなど森林リスク産品事業の生産・投融資に欠かせない国際基準(注3)。特に、個別産品だけではなく森林リスク産品全般への適用、供給業者の企業グループ全体への適用を重視。
  • 「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)原則」の実施:先住民族および地域コミュニティの権利尊重(注4)
  • 人権擁護者への暴力や脅迫への「ゼロトレランス」(不容認)方針の有無(注5)
  • サプライチェーンの透明性:EUDR要件(注6)である、原料生産地までのフルトレーサビリティ達成の取り組みも含む(2023年版から追加)
  • 森林フットプリントの開示(注7)、など

■全体の評価・傾向

  • 取り組みが最も遅れていると評価された「不可企業」は日清食品、フェレロ、モンデリーズ、P&Gでした。P&Gは森林リスク産品セクターの横断的方針を公表した際に森林保護の要件を弱体化し、実質的に後退しました。
  • 中位グループではネスレ、ペプシコ、花王、コルゲート・パーモリーブに若干の進歩が見られましたが、マースはほぼ停滞しました。
  • ネスレ、マース、フェレロは自社サプライチェーンが「100%森林破壊フリー」(森林破壊のない)であると宣言していますが、第三者による独立検証された証拠を開示していなく、注意が必要です。
  • 「サプライチェーンの透明性」項目で得点を獲得した企業はありませんでした。これは大手消費財企業とその供給業社がEUDRの要件である「森林破壊のない製品であること」を確認する目処が立っていないことを示唆しています。

■日本企業の評価

  • 総合点は日清食品が不可(5点)で、花王はD(8点)でした。
  • 両社とも「NDPE方針」を既に採用し、2点の評価を得ています。
  • 「NDPE適用の範囲」については、花王は森林リスク産品全般の供給業者とその企業グループ全体も適用対象としていることが確認できたため、評価を2点に上げました。一方、日清食品グループ調達方針の環境分野にNDPE支持を記載していますが、NDPE主要項目が明記されているのはパーム油事業のみで森林リスク産品全般ではありません。また、供給業者にNDPEの採用を義務化していなく、供給業者の企業グループ全体も適用範囲に含んでいないことから、昨年と同じく得点はありませんでした。
  • 「森林フットプリントの開示」については、日清食品花王も実施を表明したことで1点を得ていますが、まだ開示はされていません。
  • 「強固なモニタリングとデューデリジェンス」で、花王は森林破壊リスクの高い地域と供給業者事業のモニタリング方法を開示して評価を改善し、1点を獲得しました。
  • 「問題企業の責任追及」では、日清食品は6月に「苦情処理リスト」を公開し、違法パーム油生産農園との取引停止を公表して1点を得ました。花王は小規模農家生産者を対象とした苦情処理メカニズムはありますが、大規模農園・植林企業などを対象としたリストはなく得点はありませんでした。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表の川上豊幸は「花王は方針強化を続け、10社中、中位グループの『D』評価を得ました。花王が直接調達していない産品であっても、供給業者とそのグループ企業全体が調達している全ての森林リスク産品を適用範囲として、NDPE方針の採用を義務付けるという点で評価を得ました。また、リスクの高い地域での森林破壊のモニタリング手法を開示したことで、花王の対応状況を確認することができるようになりました」と述べました。

続けて「一方、日清食品は3年連続で『不可』評価でした。苦情処理リストを公開したのは一歩前進です。しかし、NDPE方針が森林リスク産品全般に適用されず、パーム油に限定されたままです。またNDPE方針の採用を供給業者に義務化していません。そして持続可能なパーム油のみを2030年までに調達すると約束していますが、EUの新規制である森林破壊防止法(EUDR)は2024年末から施行され、域内で販売される製品には森林破壊のないことを確認した文書が要求されます。日清食品の目標は国際的に見劣りします」と指摘しました。

「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」キャンペーンは2020年4月の開始以来、評価分析を毎年実施し、今年で4回目の発表となります。地域のコミュニティやNGOとともにキャンペーンを展開し、消費者とともに消費財企業と銀行に働きかけてきました。現在、評価対象企業10社をはじめとする消費財企業や金融機関、パーム油大手の大半がNDPE方針を採用しています(注8)。しかし、消費財企業がNDPE方針を採用する多くの場合、原材料に使用する全ての森林リスク産品には適用されず、調達先など取引先の企業グループ全体にも適用されていません。つまり、パーム油など個別の産品でNDPE方針を策定しても、他の産品生産や企業グループ他社で森林破壊や搾取を起こしていれば、森林破壊や人権侵害への関与を禁止したことにはならず、大きな抜け穴が残ります。

多くの消費財企業は、原材料を供給するコングロマリット(複合企業)の一部門が方針に違反していることを知りながら、同じ親会社の別の部門と取引をしています。今回の方針評価を参考に、各消費財企業が森林破壊や人権侵害を助長しない努力をどの程度進めているか、消費者や金融機関、投資家は知ることができます。RANはさらなる森林破壊と人権侵害を防ぐために、大手複合企業のアグリビジネス企業と林業企業に対して大きな影響力をもつ消費財企業に、実質的な行動を早急に取るよう要求を続けます。

 

別紙「森林&人権方針ランキング2023」説明資料

RAN「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング」は、世界の大手消費財企業が自社の事業活動から森林破壊や人権侵害を排除するために行っている取り組みについて評価するとともに、進捗状況の概要を報告しています。市民社会は大手多国籍消費財企業に働きかけ、自社のサプライチェーンを変革するという約束を取り付けてきました。しかし実際には、森林破壊と、最前線で土地を守る人々への暴力は世界的に増加傾向にあり、消費財企業は依然として森林破壊や権利侵害から利益を得ています。

こうした憂慮すべき傾向は、大手消費財企業が公に掲げる美辞麗句と、破壊的な影響との隔たりをいまだに埋められていないことを示しています。消費財企業の不十分な方策の結果、供給業者に実質的に従来通りのビジネスの継続を許し、それによって破壊的な影響が引き起こされています。従来通りのビジネス慣行は、世界で最後に残された原生林景観や、長きにわたって森林と生物多様性を守り、管理してきた先住民族の領域へと企業が進出する結果を生んでいます。

日本企業各社の点数と評価概要、改善点(24点満点、昨年版は20点満点)

  • 日清食品(不可:5点、昨年:20点満点で4点): P&G、モンデリーズ、フェレロと並び、今年も「不可」評価だった。9月にグループの調達方針を改定し、それまではグループ全体の調達方針の前文にNDPEを支持と記載していたが、「地球・環境」セクションにもNDPEを支持と明記した。また同「人権の尊重」セクションにはFPICの支持も明記した。しかしこの改定ではNDPEの「支持」にとどまり、全ての供給業者への要求事項としていなく、進歩の機会を逸した。一方、6月に「苦情処理リスト」を初めて開示し、RANの指摘に対処する形で、環境・社会面で問題視されてきたパーム油企業との取引停止などの対応状況を公表した。日本事業向けの農園までのパーム油供給業者リストの開示について改善したと言える。持続可能なパーム油100%調達を2030年までに達成するという目標は大幅な前倒しが必要。
  • 花王(D:8点、昨年:20点満点で6点):継続して調達方針を改定して「自然生態系の転換や劣化の禁止」を追加し、NDPE方針が全ての森林リスク産品に関して「企業グループ」全体に適用されることを明確にしている。「企業グループ(Corporate group)」の定義は、アカウンタビリティ・フレ ームワーク・イニシアチブ(AFi)が定めた、信頼できる「企業グループ」の定義に基づいている。重視される点は、森林リスク産品の全てのサプライチェーンにおいて、取引先の企業グループ全体に対してNDPE方針が適用され、実施されることを確保することである。花王はまた、供給業者の事業における森林破壊リスクを特定するために使用しているモニタリング手法の概要も開示した。花王は小規模農家の生産者を対象とした苦情処理メカニズム/リストを持っているが、大規模農園・植林企業、加工工場、直接供給業者を対象としたリストはない。

概要:方針と実施計画の分析

今回の調査結果では、消費財企業10社全てが、業界標準の枠組みであるNDPE方針に名目上は取り組んでいるものの、多くの場合、原材料に使用する全ての森林リスク産品には適用していないことも示しています(表)。また、全ての森林リスク産品サプライチェーンにおいて森林破壊、自然生態系の転換、人権侵害を撲滅する期限を設定している企業は一社もありませんでした。本報告書は、各社が自社サプライチェーンの浄化を何年も前から約束しているにもかかわらず、実際には供給業社に従来通りのやり方(ビジネス・アズ・ユージュアル)の継続を許し、その結果、世界で最後に残された原生林景観や先住民族の領域へ企業が進出していることを明らかにしています。

NDPE方針

本報告書では、消費財企業が原材料調達を通じて森林と人々に与えている影響全体に真に対処するためには以下の3点の両方が必要だと強調しています。

  • 産品横断的アプローチ:各種森林リスク産品全てに森林・人権方針を適用すること
  • 企業グループ横断的アプローチ:取引先企業が属する・関連する企業グループ全体が森林・人権方針を遵守することを取引の要件とすること
  • 方針の完全実施と遵守の独立検証を達成する野心的な期限付き目標を設定すること

多くの消費財企業は、コングロマリット(複合企業)の一部門が方針に違反していることを知りながらも、同じ親会社の別の部門と取引をしています。この「ずれ」は、大手グローバル消費財企業に製品原料を供給する複合企業が、シャドーカンパニー(陰の企業)や記録に残らない事業を多用して改革を行ったように見せかけながら、従来通りのビジネス手法で事業を行い、責任逃れに成功していることが主な原因です。

表「消費財企業各社の調達する森林リスク産品と、実際のNDPE方針適用範囲の比較」(報告書より)

EUDRについて

欧州連合(EU)で「森林破壊フリー製品に関する規則」(EUDR:通称「森林破壊防止法」)が可決され、その施行日は間近(2024年12月末)に迫っています。これは、森林リスク産品の世界における大きな進展であり、本ランキングで対象とした消費財企業全社に大きな影響を与えることになります。EUDRは森林破壊防止のためのデューディリジェンスを義務化するもので、EUに畜牛、カカオ、大豆、パーム油、コーヒー、ゴム、木材製品を輸入する全ての企業に対して、販売する製品に使用されている産品を厳密な生産地まで遡って追跡することを義務付けるものです。しかし今回の調査結果では、「サプライチェーンの透明性」項目(森林リスク産品のサプライチェー ンにおける直接・間接供給業者を公開し、調達する全原材料の完全なトレーサビリティ達成に向けた取り組みを進めること)で得点を獲得した企業はなく、大手グローバル消費財企業とその供給業社がこの新規制の要件を満たせないであろうことを示唆しています。

景観保護イニシアティブへの投資

希望を持てる動きとして、多くの企業が景観保全関連の取り組みへの投資を増やしていることが挙げられます。取り組みには数千の小規模農家が参加したり、森林の保護や回復に関わるものもあります。ユニリーバとペプシコはその分野の先行企業で、インドネシアのアチェ州と北スマトラ州の政府とともに「管轄アプローチ」を初期段階から開発しています。両州には、世界的に重要な熱帯低地林である「ルーセル・エコシステム」があります。しかし本報告書では、このような保護プログラムは有望ではあるものの、変化の規模は十分な速度で起きておらず、世界的に重要なインドネシアの熱帯林「ルーセル・エコシステム」で森林破壊が今も続いていると警告しています(注9)。

 

注1)新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング2023」

方法論

「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」は、RANが2020年4月から展開しているキャンペーンです。熱帯林破壊と人権侵害を助長している最も影響力のある上記の消費財企業・銀行に実際の行動を起こすよう要求しています:www.ran.org/kfs-scorecard-jp/

注2)消費財企業(10社):日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース

*10社全社が全容を報告している唯一の産品であるパーム油を例にとると、10社合計で約230万トンのパーム油と、約140万トンのパーム核油およびその派生物を購入している(2022年)。パーム油世界市場の約3%、パーム核油世界市場の約17%に相当する(報告書より)。

注3)NDPEはNo Deforestation、No Peat、No Exploitationの略。森林減少や劣化に対しての保護(炭素貯留力の高い<High Carbon Stock:HSC>森林の保護、保護価値の高い<HCV: High Conservation Value>地域の保護)、泥炭地の保護(深さを問わず)、人権尊重、火入れの禁止といった要素を含む方針を公表している企業は「あり」の評価を得る。

*参考:「『森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止』(NDPE)方針とは?」ブリーフィングペーパー

注4)「FPIC」(エフピック)とは Free, Prior and Informed Consentの略。先住民族と地域コミュニティが所有・利用してきた慣習地に影響を与える開発に対して、事前に十分な情報を得た上で、自由意志によって同意する、または拒否する権利のことをいう。

注5)「ゼロトレランス・イニシアティブ」ウェブサイト

注6)EUの「森林破壊フリー製品に関する規則」(EUDR:通称「森林破壊防止法」):EU域内で販売される製品は生産地までのトレーサビリティの確認と、森林破壊等との関連有無を確認する「デューデリジェンス」の公表が義務化される。森林破壊と人権侵害の有無のリスク評価や確認も含め、グローバル企業は同法への対応が迫られる。

注7)「森林フットプリント」とは、森林を犠牲にして生産される「森林リスク産品」の消費財企業の利用や、銀行による資金提供によって影響を与えた森林と泥炭地の総面積をいう(影響を与える可能性がある面積も含む)。消費財企業と銀行の森林フットプリントには、供給業者や投融資先企業が取引期間中に関与した森林および泥炭地の破壊地域、さらに供給業者や投融資先企業全ての森林リスク産品のグローバルサプライチェーンと原料調達地でリスクが残る地域も含まれる。森林および泥炭地が先住民族や地域コミュニティに管理されてきた土地にある場合は、その先住民族と地域コミュニティの権利への影響も含む。

注8)チェーン・リアクション・リサーチ、 “NDPE Policies Cover 83% of Palm Oil Refineries; Implementation at 78%.” (仮訳:NDPE方針、パーム油精製工場の83%をカバーするも実施率は78%)、2020年4月28日

注9)RANブログ「インドネシア違法パーム油『炭素爆弾スキャンダル』続報〜『ルーセル・エコシステム』の野生生物保護区で森林破壊の新証拠〜」、2023年11月7日(英語版9月18日発表)

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
コミュニケーション:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

RAN PRI in Person 2023 Materials 関連資料

PRI in Person 2023 Official Side Event 公式サイドイベント

Presentation Slides /プレゼン資料

 

 

No Deforestation, No Peat, No Exploitation (NDPE)

TNFD (Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)

(NGO共同プレスリリース「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)フレームワークの最終提言公開、グリーンウォッシュの懸念が継続」 、未訳)

About Forests & Finance Campaign

 

 

Rainforest Action Network
425 Bush Street, Suite 300 | San Francisco, CA 94108 | RAN.org

RAN日本代表部
東京都渋谷区千駄ヶ谷3-13-11-204 | Japan.ran.org

イベント:PRI in Person 2023公式サイドイベント 「森林破壊リスク産品セクターへの投資の情報開示と持続可能性基準」(2023/9/27)

〜TNFDとNDPE方針、インドネシア版タクソノミーの評価〜

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、10/4(水)、国連責任投資原則「PRI in Person 2023」公式サイドイベントとして「森林破壊リスク産品セクターへの投資の情報開示と持続可能性基準」をGEF、プランテーションウォッチと共同で開催します。

イベント内容

パーム油や畜牛、チョコレート、紙パルプや木材など、熱帯林における森林破壊につながる原料を使う製品は「森林破壊リスク産品」や「森林リスク産品」と呼ばれます。これらの産品を利用することは、生産地である熱帯地域の森林減少や森林劣化を引き起こし、森林や生物多様性、地域コミュニティに大きな影響を与える可能性があります。これらの問題に対処するために「NDPE(森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止)方針」(※)の採用が、リスク産品を扱う事業者だけでなく、金融機関でも進められています。本イベントでは、NDPE方針の概要を解説するとともに、その実施状況の評価を報告します。

特に森林破壊が依然として止まらないインドネシアに焦点を当て、現地政府が推進するサステナブル・ファイナンスやインドネシア版タクソノミー改訂の評価、海外投資家への影響についての報告も行います。加えて、最近発表された自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の最終版の概要と分析結果を解説し、TNFDと他の森林リスク産品への金融セクターの関与のための国際的な基準やアカウンタビリティの仕組みとの乖離について報告します。
※NDPE:No Deforestation、No Peat、No Exploitationの略

概要

【日時】2023年10月4日(水)8:00~8:45(開場:7時45分)

【開催方法】ハイブリッド

・オンライン:Zoomウェビナー

・対面:ビジョンセンター品川 302号室(東京都港区高輪4‐10-8京急第7ビル3階

【スピーカー】通訳あり

トム・ピケン/RAN 森林と金融キャンペーン・ディレクター
グリタ・アニンダリニ/インドネシア環境法センター (ICEL)プログラム・ディレクター
ショーナ・ホークス/RAN 森林と金融アドバイザー
司会進行:飯沼佐代子/地球・人間環境フォーラム(GEF)

【参加費】無料(要事前登録)

当日の発表資料、NDPE方針説明資料をこちらに掲載しております。

登録方法

会場・オンライン共に事前の申し込みが必要です。https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_uJLffh7UTNWGbJZAdbybFw

お問合せ先

地球・人間環境フォーラム 飯沼 E-mail: event(a)gef.or.jp

【主催】レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)、地球・人間環境フォーラム(GEF)、プランテーション・ウオッチ

【協力】熱帯林行動ネットワーク(JATAN)、ウータン森と生活を考える会

※インドネシア環境法センター (ICEL)の登壇者がレイナルド・センビリン氏からグリタ・アニンダリニ氏に変更になりました(10月3日更新)。

団体紹介

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。
https://japan.ran.org

レインフォレスト・アクション・ネットワーク
コミュニケーション:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

プレスリリース:新報告書「森林フットプリント評価 2021」発表〜インドネシア・ボルネオ島の森林と地域コミュニティへの影響について、大手消費財企業10社の開示状況を評価〜(2021/10/22)

日清食品、花王、プロクター&ギャンブルら、森林と人権に及ぼす影響を十分に開示せず

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、21日(米国現地時間)、新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林フットプリント評価2021」(注1)を発表しました。

写真:アブラヤシ農園開発のために伐採された森林、インドネシア東カリマンタン州ベラウ、2018年4月

本報告書は、大手グローバル消費財企業10社を対象に、インドネシア・ボルネオ島の北カリマンタン州と東カリマンタン州における、各社サプライチェーンの「森林フットプリント」(※)を独自に評価したものです。分析の結果、対象企業10社はサプライヤー企業からの原料調達を通じて、同地域で70万ヘクタール(サッカー場175万個分)以上の熱帯林破壊に加担し、さらに825万ヘクタールの森林が危機にあることを明らかにしました。よって10社はいずれも、インドネシアに残る森林と地域コミュニティに及ぼす影響を十分に開示していないと結論づけました。

本報告書は、 英国グラスゴーで31日から始まる国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)を前に発表されました。森林と泥炭地は炭素吸収源として気候の安定のために機能することから、森林保護はこれまで以上に重要になっています。

※「森林フットプリント」とは、パーム油や紙パルプ、木材など森林を破壊する恐れのある産品が影響を及ぼす森林と泥炭地の総面積をいいます。別紙参照。

『森林フットプリント評価2021』概要

  • 対象地域:インドネシア・ボルネオ島の北カリマンタン州、東カリマンタン州。この地域に残る森林の約3分の2が危機的状況にあることから、両州に焦点をあてた。
  • 対象企業(多国籍消費財企業10社):日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース。
  • ●10社は、北カリマンタン州と東カリマンタン州のパーム油や紙パルプ、林業企業からの原料調達を通じて、同地域にある70万ヘクタール(サッカー場175万面分)以上の熱帯林の破壊に加担していることが明らかになった(図1)。
  • ●10社が「森林破壊禁止」の方針をサプライヤー企業に徹底しなかったために過去10年間で失われた森林と泥炭地について詳しく説明し、両州だけで825万ヘクタール以上の重要な熱帯林が危機にあることを示した(図2)。
図1:北カリマンタン州・東カリマンタン州での森林破壊(70万ヘクタール、2009年〜2019年)
凡例:赤(泥炭地)、茶(2009〜2011年)、薄茶(2012〜2014年)、水色(2015〜2017年)、緑(2018〜2019年)
図2:北カリマンタン州・東カリマンタン州で危機にある森林(825万ヘクタール)
凡例:ピンク(泥炭地)、危機にある森林〜青(事業管理地内の劣化していない森林)、水色(事業管理地内の劣化した森林)、赤(開発可能地域の劣化していない森林)、黄(開発可能地域の劣化した森林)、保護されている森林〜緑(劣化していない森林)、黄緑(劣化した森林)
  • 両州で200万ヘクタール以上の森林が、先住民族コミュニティが何世代にもわたって生活し、保護してきた集落や慣習地において残されていることが明らかになった。しかしコミュニティの土地が林業企業や農園企業に割り当てられたことから、多くのコミュニティの森林を保護し管理する権利は尊重されていない(図3)。
図3:北カリマンタン州・東カリマンタン州の慣習地と、住民参加型「社会林業」のために政府が割り当てた地域(出典:Ancestral Domain Registration Agency: BRWA(インドネシアの団体))
凡例:赤(泥炭地)、「社会林業」〜緑(村落林)、オレンジ(住民造林)、水色(コミュニティ林)、BRWAからの慣習地〜青(慣習地)

RAN森林政策ディレクター ジェマ・ティラックは「世界の主な科学者たちは、現在の気候危機を『人類へのコードレッド(非常事態発生を告げる警報)』と呼んでいます。プロクター&ギャンブルのような多国籍消費企業と、倫理的とはいえない取引先のサプライヤー企業は、企業方針の抜け穴や口約束の陰で、森林破壊の悪循環を続けています。地球で最後の手付かずの森林が伐採されている一方、何世代にもわたって森林を維持してきた地域コミュニティからは土地の権利が奪われ、人権が侵害されています」と訴えました。

RAN日本代表 川上豊幸は「今月末からCOP26が始まります。今まさに、森林と泥炭地の破壊を防ぎ、森に住む人々の土地の権利を守るための行動を起こすときです。日清食品や花王などの大手消費財企業は、森林破壊を引き起こす開発事業の拡大という脅威の最前線に立たされている人々の人権や土地権を守るために、今すぐ積極的な役割を果たさなければなりません」と強調しました。

RANは2020年4月から「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」キャンペーンを展開し(注2)、上記10社に対して、自社のグローバルサプライチェーンにおける「森林フットプリント」の開示を求めてきました。「森林フットプリント」という言葉はこれまでも使われてきましたが、RANで用いる場合、消費財企業が商業的な森林伐採や農業の拡大によって、これまでに影響を与えたり、今後与える可能性がある森林と泥炭地の総面積を意味します。また、森林および泥炭地が、先住民族や地域コミュニティに管理されてきた土地にある場合、先住民族と地域コミュニティの権利への影響も含みます。森林フットプリントの開示にあたっては、企業は森林フットプリント全体を説明するために行なった一連の行動を記述し、これ以上の森林破壊と権利侵害を防ぐためにサプライヤー企業に介入する方策を立てるとともに、過去の被害の是正措置を取る必要があります。

これまでユニリーバ、ネスレ(注3)コルゲート・パルモリーブの3社が、インドネシア・スマトラ島北部に限定した森林フットプリントを公表しています。日本企業では、花王は森林フットプリント導入について協議している点を「2021年活動方針」(注4)で開示しています。一方、日清食品からは正式な返答を得られませんでした。

*報告書全文はこちら(英語)。概要および評価への各社回答も掲載されています。 www.ran.org/borneo_forest_footprint

注1)新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:ボルネオ森林フットプリント評価2021」

注2)「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」は、RANが2020年4月から展開しているキャンペーンです。熱帯林破壊と人権侵害を助長している最も影響力のある上記の消費財企業・銀行17社に実際の行動を起こすよう要求しています。

注3)参考:RAN声明「世界初、ネスレ『森林フットプリント』開示を歓迎〜インドネシア・パーム油サプライチェーンで影響を受ける森林面積を公表〜」(2020/12/11)

注4)花王「2021年の進捗」

※更新:以下の内容を追加しました(2022年1月11日)。
・「キープ・フォレスト・スタンディング:ボルネオ森林フットプリント評価2021」日本語要約版

別紙「森林フットプリントについて

「森林フットプリント」とは?

森林フットプリントとは、消費財企業の森林リスク産品(※)利用や銀行による森林リスク産品への資金提供によって、これまでに影響を与えたり、今後与える可能性がある森林と泥炭地の総面積をいう。消費財企業と銀行の森林フットプリントには、サプライヤー企業や投融資先企業が取引期間中に関与した森林および泥炭地の破壊地域、さらにサプライヤー企業や投融資先企業全ての森林リスク産品のグローバルサプライチェーンと原料調達地でリスクが残る地域も含まれる。上記の森林および泥炭地が、先住民族と地域コミュニティに管理されてきた土地にある場合は、その先住民族と地域コミュニティの権利への影響も含む。

※森林リスク産品:森林破壊の原因の多くはパーム油、紙パルプ、木材製品などの産品生産で、これらの産品は森林を破壊するリスクがあることから「森林リスク産品」と呼ばれている。

リスクにさらされている地域には、供給業者、投融資先企業、またはそれらに原料を供給する独立系企業の管理下にあるプランテーション(大規模農園や植林地)開発区域内の森林と泥炭地、そして上記企業のグローバルサプライチェーンの原料調達(工場、精製所、加工処理施設など の周辺地域)における伐採予定地や農業開発用に割り当てられた地域が含まれる。これらの全てが把握され、公開されている必要がある。

RANは、消費財企業および銀行が森林フットプリントを把握し開示するためには以下のようなステップを提案している。

1.情報開示
・自社サプライチェーンで森林リスク産品を調達している国、金融機関の場合は顧客企業の事業が森林リスク産品関連事業で活動している国を特定し、自社の年次報告書やサステナビリティレポートなどで情報開示する。
・優先すべき森林リスク産品の調達を行っている国・地域を選択する。当該地域で森林リスク産品を生産、加工、取引しているサプライヤー企業を特定し開示する。

2.森林・泥炭地減少へのリスクを調べる
・特定されたサプライヤー企業・企業グループからの調達や、当該企業への投融資によって、これまで影響を与えたり、今後与える可能性のある森林や泥炭地の総面積と位置を把握するために空間分析を行い、地図を作成する。
・作成した地図を自社の年次報告書、サステナビリティレポート、企業ウェブサイトなどで開示する。

3.地域域コミュニティの権利・土地紛争
・選択した調達国・地域でサプライヤー企業や投融資先企業の事業によって影響を受ける森林や泥炭地に居住する、先住民族や地域コミュニティの権利に及ぼす影響に関する情報を調査する。
・情報には先住民族や地域住民が伝統的に所有する森林や泥炭地に関する土地への権利、アクセス、利用および保全への影響を含む。
・これまで影響を与えたり、今後与える可能性のある森林や泥炭地の総面積と位置を把握するために空間分析を行い、地図を作成する。

4.2と3の統合
・森林減少のリスクに関して得た情報と、地域コミュニティへの影響と土地紛争に関するリスクをまとめた、国や地域ごとの「森林フットプリント地図」を完成し、開示する。

 

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

プレスリリース:森林&人権方針ランキング2021発表〜日清食品、花王、三菱UFJは低評価 〜 (2021/4/27)

各社、取り組み遅れ〜森林破壊と人権侵害をもたらす消費財企業・銀行17社の実施方針を比較〜

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日27日、新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング2021」(注1)を発表しました。熱帯林破壊と人権侵害を助長している最も影響力のある消費財企業と銀行の17社を対象に(注2)、各社の方針と実施計画を森林と人権の二分野で評価した結果、自社サプライチェーンおよび投融資で森林破壊と人権侵害を止めるために適切な措置を講じている企業と銀行は一社もないと結論づけました。人権侵害には土地収奪や地域住民および先住民族への暴力なども含まれます。

本ランキングは、日本企業の日清食品ホールディングス、花王、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)を含むグローバル消費財企業と銀行の17社を対象に、森林と人権分野の10項目を20点満点で評価しています。得点に合わせてA(18〜20点)、B(15〜17点)、C(12〜14点)、D(5〜11点)、不可(0〜4点)で評価しました。最も高評価だったのはユニリーバですがCランクにとどまり、日本企業はいずれも最低ランクの「不可」でした。

主な森林・人権方針の評価項目(全10項目、各2点)

「森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE)採用:パーム油や紙パルプなど森林破壊を引き起こす産品事業の生産・投融資に欠かせない国際基準(注3)

「森林フットプリント」開示:サプライチェーンや投融資先の事業が影響を与える森林の総面積(注4)

「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)原則」の実施:先住民族および地域コミュニティの権利尊重(注5)

暴力や脅迫への「ゼロトレランス」(不容認)方針の有無

NDPE方針遵守の証明・独立検証、など

日本企業は3社とも方針にNDPEを限定的ながら採用するも、森林フットプリント開示、FPIC原則の実施、ゼロトレランス方針の有無、NDPE方針遵守の証明では得点がなく、総合点は2〜4点という低評価となりました。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表の川上豊幸は「日清食品、花王、三菱UFJはいずれも低評価だったのは残念です。3社ともベストプラクティスである『森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止』(NDPE)を方針に採用したことは評価できます。しかし同時に、自社のサプライチェーンや投融資先で起きている人権侵害を止めるための方針策定が急務です。さらにNDPE方針の適用セクターの拡大や遵守のための独立検証、森林フットプリントに代表される情報開示といった、具体的な取り組みを進める必要があります」と訴えました。

日本企業各社の点数と評価概要、改善点

日清食品(2点):グループ全体の調達方針に「NDPEを支持する」と記載しているが、消費財企業10社で最も低評価だった。改善のためには、グループ調達方針に供給業者が遵守すべきNDPE項目を明記し、供給業者にNDPE採用を義務付ける必要がある。またパーム油の搾油工場リストといった供給業者の情報開示を通して、生産地の現状把握と問題対応のための体制強化を行う必要がある。持続可能なパーム油100%調達を2030年までに達成するという目標も大幅な前倒しが必要。

花王(3点):原材料調達ガイドラインで森林破壊ゼロを支持し、人権方針で人権尊重を支持している。供給業者や合弁企業側のグループ全体でのNDPE遵守を要請はしているが、NDPE方針採用の義務化が必要。2021年の活動方針に「人権擁護者への暴力や不当告発、脅迫などを容認しない」とあるが、企業方針となっていないので国際基準のゼロトレランス・イニシアティブ(注6)に沿った企業方針としての公表が必要。そしてインドネシアでの森林フットプリントを作成し公表する迅速な動きが求められる。

MUFG(4点)環境・社会方針を4月26日に改定し、投融資先に「NDPE遵守の公表」の要求を追加したがパーム油の農園企業に限定され、パーム油購入企業や、紙パルプや大豆など他の森林リスク産品セクターには適用されなかった。MUFGはパーム油セクターへの融資・引受額が東南アジア以外の地域に本社を置く銀行では最大で、紙パルプ産業にも多額の融資を提供している。今後、NDPE方針の適用拡大と、投融資先にNDPE方針遵守のための独立検証を求めていくことが課題になる。

17社の消費財企業・銀行の持つ影響力

評価対象となった企業や銀行の多くは、「森林破壊禁止」と先住民族の権利および人権尊重の達成のために、国連「持続可能な開発目標」(SDGs 15.2:2020年までに森林減少阻止)への賛同をはじめ様々なコミットメントを表明して自社方針を策定してきました。しかし、インドネシアの熱帯林と世界中の熱帯林はパーム油や紙パルプ、牛肉、大豆、カカオ、木材製品といった産品のために伐採されて火を入れられ、さら地にされています。

川上は「評価対象となった消費財企業と銀行は熱帯林破壊や土地収奪、人権擁護活動家の殺害といった問題に対して大きな影響力を持っています。なぜならば、インドネシアで大規模な森林破壊や人権侵害を行っている林業やアグリビジネス企業は、グローバル消費財企業との取引に支えられ、大手銀行からは多額の資金が流れているためです。今回の評価と分析からは、人権侵害や森林破壊を止めるための方針策定と、具体的な取り組みを十分に実践している企業がないことが明らかになりました」と指摘しました。

今回の評価では、以下の通り、方針の実施を改善するために必要な手順も示しています:

●第一段階として、自社のサプライチェーンや投融資から森林破壊と人権侵害を停止するための方針を採用すること

●自社事業が森林と先住民族・地域コミュニティの権利に与える影響の全容を公表すること

●暴力的行為を未然に防ぎ、先住民族・地域コミュニティの権利が十分に尊重されることを保証していること

●供給業者や投融資先企業の自社方針遵守を証明すること

森林、特に熱帯林は温室効果ガスを吸収して貯留し、地球全体の降雨量を維持しています。インドネシアの森林は地球で3番目に大きな熱帯林で、地球全体の気候と生物多様性の危機に対処する上で重要な役割をもちます。インドネシアの先住民族と地域コミュニティは森林減少を効果的に防いできた守り手であり、何世代にもわたって森林を上手に管理してきました。そして今、自分たちの同意なしに土地や森林を搾取しようとする様々な企業に抵抗しています。

さらなる森林破壊と人権侵害を防ぐために、森林破壊と人権侵害を行う大手アグリビジネス企業と林業企業に対して大きな影響力をもつ消費財企業と銀行は、実質的な行動を早急に取ることが要求されます。

注1)新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング2021〜森林破壊と人権侵害をもたらす企業と銀行の実施方針を評価〜」(日本語版)

方法論等の詳細は英語版を参照ください:「 Keep Forests Standing: Evaluating Brands and Banks Driving Deforestation and Human Rights Abuses」

注2)消費財企業(10社):日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース
銀行(7社):MUFG、JPモルガン・チェース、中国工商銀行(ICBC)、DBS、バンクネガラインドネシア(BNI)、CIMB、ABNアムロ

「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」は、RANが2020年4月から展開しているキャンペーンです。熱帯林破壊と人権侵害を助長している最も影響力のある上記の消費財企業・銀行17社に実際の行動を起こすよう要求しています。注3)〜注5)の参考資料としてもご参照ください。

注3)NDPEはNo Deforestation、No Peat、No Exploitationの略。森林減少や劣化に対しての保護(炭素貯留力の高い(High Carbon Stock:HSC)森林の保護、保護価値の高い(HCV: High Conservation Value)地域の保護)、泥炭地の保護(深さを問わず)、人権尊重、火入れの禁止といった要素を含む方針を公表している企業は「あり」の評価を得る。

注4)「森林フットプリント」とは、森林を犠牲にして生産される「森林リスク産品」の消費財企業の利用や、銀行による資金提供によって影響を与えた森林と泥炭地の総面積をいう(影響を与える可能性がある面積も含む)。消費財企業と銀行の森林フットプリントには、供給業者や投融資先企業が取引期間中に関与した森林および泥炭地の破壊地域、さらに供給業者や投融資先企業全ての森林リスク産品のグローバルサプライチェーンと原料調達地でリスクが残る地域も含まれる。森林および泥炭地が先住民族や地域コミュニティに管理されてきた土地にある場合は、その先住民族と地域コミュニティの権利への影響も含む。

注5)「FPIC」(エフピック)とは Free, Prior and Informed Consentの略。先住民族と地域コミュニティが所有・利用してきた慣習地に影響を与える開発に対して、事前に十分な情報を得た上で、自由意志によって同意する、または拒否する権利のことをいう。

注6)「ゼロトレランス・イニシアティブ」ウェブサイト

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org