サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

プレスリリース:五輪調達基準違反を東京都に再通報(2021/11/25)

大会主催者は「持続可能性大会後報告書」で熱帯林破壊の事実を認めよ

〜衛星データ新分析、木材供給企業のサプライヤー9社によるインドネシアの貴重な熱帯林の破壊が明らかに〜

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、12日、東京2020大会主催者の一つである東京都に、東京五輪での木材使用に調達基準違反の疑いがあるとして、衛星データによる新分析を根拠に、インドネシアの熱帯林破壊について説明責任を求めて再通報しました(注1)。

通報の目的は、熱帯林破壊の明白な証拠を大会主催者に示し、12月に発表が予定されている大会組織委員会の「持続可能性大会後報告書」に(注2)に、熱帯林破壊の事実を記載するよう求めることです。また、調達の失敗を今後の教訓として公的機関や企業の調達方針に生かすことも提言しました。先日閉幕した国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)では、2030年までに森林消失を阻止するという声明に日本も署名しています。

図1:衛星データ(TAN社の例):事業許可地(水色)がオランウータン生息地(斜線)と重なり、五輪への木材供給期間の2016年(紫)と2017年(赤)に森林伐採が起きたことを示している。

 

図2:衛星データ(PSL社の例):事業許可地(水色)が泥炭地(斜線)と重なり、五輪への木材供給期間の2016年(紫)と2017年(赤)に森林伐採が起きたことを示している。

 

本通報は、住友林業、韓国/インドネシア系複合企業のコリンド・グループなどが、東京五輪「持続可能性に配慮した木材の調達基準」(2019年1月の改訂前、注3)に違反した疑いがあるとして、東京都に通報したものです。東京五輪の熱帯材使用については、2018年5月、コリンド社製の非認証型枠合板が東京都の新設した有明アリーナの建設現場で使用されたことがNGOの調査で判明し、住友林業が輸入した製品だったことが明らかになっています(注4)

RANは今回の通報に先立ち、東京都から協議過程で提供された住友林業のサプライヤーリストをもとに、インドネシアでコリンド社に原木を提供しているサプライヤーの事業管理地を衛星データで分析しました。その結果、住友林業が森林認証材ではない合板を供給したとされる2016年と2017年、原木サプライヤー9社の事業管理地における森林減少面積の合計は約7,000ヘクタールにのぼり(参考:山手線内側の面積は約6,300ヘクタール)、同9社のうち数社は絶滅寸前種であるボルネオ・オランウータンの生息地や、泥炭林を含む貴重な熱帯林を皆伐して破壊していたことが明らかになりました(図1と2を参照)。東京五輪の木材調達基準では生態系保全への配慮などが規定されていることから、基準違反の疑いがあります。なおコリンド社については、賄賂、人権侵害、熱帯林破壊など、これまで複数のESG(環境、社会、ガバナンス)問題が指摘されてきました。今年10月にはFSC(森林管理協議会)から関係断絶され、現在、FSC認証は停止されています(注5)

RAN日本代表の川上豊幸は「東京五輪に森林認証も得ていない熱帯木材が使用されたことは、五輪の調達が失敗したことを示す明白な事例です。絶滅寸前種のオランウータンの生息地を皆伐し、大量の温室効果ガスの排出を伴う泥炭地での皆伐から得られた木材は、持続可能性に配慮した木材とは全く言えません。大会主催者は調達の失敗を無かったことにせず、大会後報告書に記録し、今後の教訓として企業や公的機関の調達に生かすべきです。トレーサビリティの確保、そして森林保全や人権尊重についての厳格な独立検証とその情報開示について、調達方針に加えることが必要です」と指摘しました。

東京五輪の持続可能性と多様性をめぐっては、森喜朗前組織委員会会長の辞任や、弁当の大量廃棄など報告書に記録されるべき問題が多発しました。RANは、これらの諸問題と同様に、熱帯材の使用についても報告書に記載されるべきであると再度主張しました(注6)

本通報はまた同日、国際オリンピック委員会(IOC)にも電子メールで送付されました。12日にはIOC理事会が開催され、RANは通報が東京都に受理されるようIOCに協力を依頼しました。RANは類似の通報を2018年11月にも東京都と日本スポーツ振興センター(JSC)に行いました(注7)。JSCが管轄する新国立競技場でも、認証材でないインドネシア製の合板が調達されたことが組織委員会の情報開示で明らかになっています。しかし両機関は、森林の農地等への転換に由来する木材(転換材)について、調達禁止を明記した2019年1月改定前の基準は満たしているという理由で、その通報を却下しました。また、明確な違反の疑いがあるにもかかわらず、「不遵守が確定しなければ処理手続きを開始しない」とし、業務運用基準を逸脱して通報を却下した経緯があります。

川上は「東京都との一連のやりとりでは、通報を抑制しようとする意図が感じられ、苦情処理メカニズムが機能不全に陥っていると言わざるを得ません。同じ基準で運用されている大会組織委員会の通報受付では『助言委員会』(注8)といった独立性に配慮する機能がありますが、東京都のシステムにはなく、中立性や公平性を欠いています。東京都に五輪の持続可能性のレガシーを残す意思があるかどうかは、今回の通報への対応で見極めることができます」と訴えました。

 

写真:有明アリーナの建設現場で2018年5月11日に撮影。コリンド・グループのバリクパパン・フォレスト・インダストリーズ社の 木材であることを示している(右)。詳しくは「守られなかった約束」報告書(8ページ)を参照のこと。

*メディア向け説明資料はこちら

注1)通報の詳細はお問い合わせください。
参考:東京都「東京2020大会持続可能性に配慮した調達コードに係る取組」(閲覧日:2021年11月25日)
https://www.2020games.metro.tokyo.lg.jp/taikaijyunbi/torikumi/tyoutatu/index.html

注2)東京2020組織委員会「持続可能性報告書」(閲覧日:2021年11月25日)
https://www.tokyo2020.jp/ja/games/sustainability/report/index.html

注3)RANを含めた国内外のNGOから指摘を受けた後、組織委員会は2019年1月に木材調達基準を改定し、森林の農地等への転換に由来する木材の調達を明示的に禁止した。具体的には、調達基準2②「中長期的な計画又は方針に基づき管理経営されている森林に由来すること」に、「森林の農地等への転換に由来するものでないこと」が追加された。

以下参考
【改訂前】東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会「持続可能性に配慮した調達コードについて」、2017年4月24日(閲覧日:2021年11月25日)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tokyo2020_suishin_honbu/shokubunka/setumeikai/code.pdf

【改定後】同「東京 2020 オリンピック・パラリンピック競技大会 持続可能性に配慮した調達コード(第3版)」(閲覧日:2021年11月25日)
https://www.tokyo2020.jp/image/upload/production/e2aw16fxfxmv8zwuo2rt.pdf

注4)RANプレスリリース「新報告『守られなかった約束』発表 〜東京五輪木材供給企業コリンドの熱帯林破壊、 違法伐採、人権侵害が明るみに〜」、2018年11月12日

注5)FSCジャパン「FSCがコリンドグループ(Korindo Group)との関係断絶を発表しました」(閲覧日:2021年11月25日)
https://jp.fsc.org/jp-ja/newsfeed/fsckakorintokurufukorindo-grouptonoguanxiduanjuewofabiaoshimashita

注6)RANは国内外のNGOとともに「持続可能性報告書」(大会準備、大会前、大会後の3回にわたって公表)に、東南アジアの熱帯林破壊によって得られた木材が大会施設に調達された問題について記載することを求めてきたが、「大会前報告書」(2020年4月公表)および「大会前報告書 追補版」(2021年7月公表)での記述はなく、批判してきた。

参考:RAN声明「東京五輪 大会前報告書は『見せかけのサステナビリティ報告書』〜木材調達の失敗から教訓を学ばず、悪しきレガシー残す〜」2020年4月30日

注7)RANプレスリリース「RANとボルネオオランウータン、東京都とJSCに通報〜新国立など五輪会場の木材、オランウータン生息地に深刻な危害〜」(2018/11/30)

注8)東京2020組織委員会「調達コードに係る通報受付窓口の設置について」(閲覧日:2021年11月25日)
https://www.tokyo2020.jp/ja/games/sustainability/sus-code/index.html?fbclid=IwAR0dGZbc0tG96lI0JQXb4pzrsrW6BrHcPJr42khleeo0tLacvxLCdiaOHf4#11

※参考資料:RANプレスリリース「新報告書『森林フットプリント評価 2021』発表〜インドネシア・ボルネオ島の森林と地域コミュニティへの影響について、大手消費財企業10社の開示状況を評価〜」2021年10月22日

RANは10月、インドネシア・ボルネオ島の北カリマンタン州と東カリマンタン州における「森林フットプリント」を発表した。森林フットプリントとは、パーム油や紙パルプ、木材など森林を破壊する恐れのある産品が影響を及ぼした、またはその可能性がある森林と泥炭地の総面積をいい、両州で825万ヘクタール以上におよぶ。大会主催者は、コリンド社が加工生産し、住友林業が提供した型枠合板の調達を通して、両州での森林減少に加担した可能性がある。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

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